バルブシート形成方法及びシリンダーヘッド
【課題】バルブシートに亀裂若しくは未溶着部が生じないバルブシート形成方法を提供する。
【解決手段】バルブシート部2にレーザを照射し母材を溶かして溶融層21を形成した後、その溶融層21上に金属粉末4を供給しながらシリンダーヘッド1及びレーザを相対的に回転させつつレーザを照射し肉盛りしてクラッド層16を形成するバルブシート形成方法において、溶融層21の加工開始部に加工終了部をオーバーラップさせて重ねた溶融層ラップ部22と前記クラッド層16の加工開始部と加工終了部をオーバーラップさせて重ねたクラッド層ラップ部23を、同一気筒内の各吸排気用バルブシート同士が近接する対向部分以外の位置となるように形成する。
【解決手段】バルブシート部2にレーザを照射し母材を溶かして溶融層21を形成した後、その溶融層21上に金属粉末4を供給しながらシリンダーヘッド1及びレーザを相対的に回転させつつレーザを照射し肉盛りしてクラッド層16を形成するバルブシート形成方法において、溶融層21の加工開始部に加工終了部をオーバーラップさせて重ねた溶融層ラップ部22と前記クラッド層16の加工開始部と加工終了部をオーバーラップさせて重ねたクラッド層ラップ部23を、同一気筒内の各吸排気用バルブシート同士が近接する対向部分以外の位置となるように形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルブシート形成方法及びシリンダーヘッドに関し、バルブシートに亀裂若しくは未溶着部を発生させないための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車エンジンでは、バルブシートとして従来のシートリングを打ち込む方式に変えてバルブシート合金をシリンダーヘッドへ直接肉盛りする方式が採用され初めている。
【0003】
このように、バルブシート合金をシリンダーヘッドに直接肉盛りすれば、シートリングの打ち込み方式に比べて熱伝導性を大幅に向上させることができ、冷却性能を高めることができる。
【0004】
かかる肉盛り方式は、粉末供給装置のノズルから金属粉末をバルブシートを形成する部位(バルブシート部)に供給しながらレーザ発振器よりレーザを照射し、バルブシート部とレーザを相対的に回転させることで、リング状の肉盛り層(バルブシート)を形成するものである。
【0005】
この肉盛り方式では、レーザクラッド加工を行う前工程として鋳造によって製造した金属母材に対し、バルブシートを形成する部位に切削工具にて凹形状の溝加工を行い、該溝部にレーザを照射して母材を溶かすことで溶融層を形成後、当該溶融層上に金属粉末を供給しながらレーザを照射してクラッド層(バルブシート)を形成することが行われている(例えば、特許文献1など参照)。
【特許文献1】特開2002−239711号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記したレーザクラッド加工では、溶融層とクラッド層は、加工開始部に加工終了部を重ねるようにして形成される。そのため、溶融層とクラッド層には、加工開始部に加工終了部がオーバーラップして重なった溶融層ラップ部とクラッド層ラップ部が形成される。
【0007】
前記溶融層ラップ部は、その他の部位に比べて厚みが薄く窪んだ凹みとなる。この溶融層ラップ部から肉盛りを開始した場合、凹みに金属粉末が多くなり、レーザにより溶けきれなかった金属粉末が未溶着となって残ることがある。
【0008】
また、溶融層ラップ部とクラッド層ラップ部が、同一気筒内の各吸排気用バルブシート同士が近接する対向部分にあると、熱応力の過多により隣接するバルブシートに亀裂が生じる。
【0009】
そこで、本発明は、バルブシートに亀裂若しくは未溶着部が生じないバルブシート形成方法及びシリンダーヘッドを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、シリンダーヘッドのバルブシートを形成する部位にレーザを照射し母材を溶かして溶融層を形成した後、その溶融層上に金属粉末を供給しながらシリンダーヘッド及びレーザを相対的に回転させつつレーザを照射し肉盛りしてクラッド層を形成するバルブシート形成方法において、前記溶融層の加工開始部に加工終了部をオーバーラップさせて重ねた溶融層ラップ部と前記クラッド層の加工開始部に加工終了部をオーバーラップさせて重ねたクラッド層ラップ部を、同一気筒内の各吸排気用バルブシート同士が近接する対向部分以外の位置となるように形成することを特徴とする。
【0011】
また本発明は、バルブシートを形成する部位にレーザを照射し母材を溶かして溶融層を形成した後、その溶融層上に金属粉末を供給しながら母材及びレーザを相対的に回転させつつレーザを照射し肉盛りしてクラッド層を形成した吸排気用バルブシートを有したシリンダーヘッドにおいて、前記溶融層の加工開始部に加工終了部をオーバーラップさせて重ねた溶融層ラップ部と前記クラッド層の加工開始部に加工終了部をオーバーラップさせて重ねたクラッド層ラップ部を共に、同一気筒内の各吸排気用バルブシート同士が近接する対向部分以外の位置に設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のバルブシート形成方法によれば、熱応力の過多によってバルブシートに亀裂が生ずるのを回避することができ、信頼性の高いバルブシートを形成することができる。
【0013】
本発明のシリンダーヘッドによれば、熱応力の過多によってバルブシートに亀裂が生じることが無いので、信頼性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
「レーザクラッド装置の構成」
先ず、レーザクラッド装置の構成について説明する。図1はレーザクラッド装置を示す斜視図、図2は粉末供給装置のノズル先端から金属粉末を被加工部に供給している状態を示す図である。
【0016】
レーザクラッド装置は、図1に示すように、例えば自動車用エンジンなどのシリンダーヘッド1の被加工部であるバルブシート部2にレーザhvを照射するレーザ照射装置3と、バルブシート部2に金属粉末4を供給する粉末供給装置5とを備えている。
【0017】
レーザ照射装置3は、レーザ発振器6と、このレーザ発振器6により発振されるレーザの強さなどを制御するレーザ発振器制御部7と、NC制御装置8と、レーザを集光してバルブシート部2に照射させる集光ヘッド9とからなる。レーザ発振器6で発振されたレーザhvは、レーザ発振器制御部7で制御されて集光ヘッド9に供給され、この集光ヘッド9で絞られてバルブシート部2に照射される。
【0018】
粉末供給装置5は、バルブシート部2に金属粉末4を供給するノズル10(図1では図示を省略し図2に示す)と、金属粉末4を収容して置くホッパー11と、金属粉末4の量を計測する荷重計12と、ホッパー11からノズル10へと金属粉末4を送り込むフィーダ13と、これらを制御する粉末制御部14とからなる。ノズル10の先端からは、ホッパー11に収容された金属粉末4がフィーダ13により送られることで、前記バルブシート部2へと吹き付けられる。なお、金属粉末4としては、例えば銅合金などが使用される。
【0019】
このレーザクラッド装置では、前記レーザ発振器6とレーザ発振器制御部7とNC制御装置8と粉末供給制御部14とがそれぞれコンピュータ15によって制御されている。そして、このように構成されたレーザクラッド装置によりバルブシート部2に金属粉末4を供給しながらレーザを照射して肉盛りを行うことでクラッド層(バルブシート)16を形成するが、その際に、図2に示すように、シリンダーヘッド1を矢印Aで示すように回転させながらレーザクラッド加工を行う。
【0020】
「バルブシート形成方法」
次に、バルブシート形成方法について説明する。図3から図8は、バルブシート加工工程を示す図である。
【0021】
先ず、図3(A)で示すシリンダーヘッド(母材)1を鋳造によって形成する(鋳造工程)。シリンダーヘッド1を形成するには、鋳造用金型を用意し、その鋳造用金型に溶融したアルミニウム合金を流し込む。鋳造されたシリンダーヘッド1には、図3(B)に示すように、後工程で肉盛りを行う部位であるバルブシート部(被加工部)2が形成される。
【0022】
次に、バルブシート部2に凹形状の溝を形成する(溝加工工程)。溝加工工程では、図3(C)に示すように、切削工具17を回転させながらバルブシート部2に押し当て、このバルブシート部2を切削してその表面に凹形状の溝を形成する。
【0023】
次に、図4(A)に示すように、前記溝加工工程で形成した溝部18にレーザhvを照射し母材を溶かして溶融層を形成する(溶融層形成工程)。溶融層を形成するには、加工開始部の上に加工終了部をオーバーラップさせるようにして溶融層ラップ部を形成する。溶融層形成工程では、レーザhvの波長を0.8〜0.9μm、出力を2.2kW、加工速度を1.2m/分とした。
【0024】
次いで、図4(B)に示すように、前記溶融層上に金属粉末4を供給しながらシリンダーヘッド1及びレーザhvを相対的に回転させつつレーザhvを照射し肉盛りしてクラッド層を形成する(レーザクラッド加工工程)。クラッド層を形成するには、加工開始部の上に加工終了部をオーバーラップさせるようにして行う。レーザクラッド加工工程では、レーザhvの波長を0.8〜0.9μm、出力を1.7kW、加工速度を1.2m/分とした。
【0025】
そして最後に、図4(C)に示すように、仕上げ用切削工具19を回転させながらクラッド層16に押し当てて、当該クラッド層16の表面を研磨する(研磨加工工程)。
【0026】
前記溶融層形成工程では、溶融層21を形成するには、母材を図5(A)の矢印Aで示す方向に回転させながらレーザhvを照射してバルブシート部2を溶融させるが、そのとき加工開始部21Aの上に加工終了部21Bをオーバーラップさせて重ねるようにしている。加工開始部21Aの上に加工終了部21Bをオーバーラップさせて重ねたことにより形成される溶融層ラップ部22は、図5(B)に示すように、その他の部位に対して厚みが薄い凹みとなる。
【0027】
前記溶融層形成工程で形成された溶融層ラップ部22からレーザクラッド加工を開始した場合、図6に示すように、凹みとなった溶融層ラップ部22に金属粉末4が供給されると、その溶融層ラップ部22に金属粉末4が溜まり易くなる。そして、この溶融層ラップ部22では、金属粉末4の粉末量が多いことからレーザhvにより溶け切れなかった金属粉末4が未溶着となり、溶融層ラップ部22上にクラッド層16の未溶着部位16Aが形成されてしまう。
【0028】
また、図7に示すように、同一気筒内で近接するバルブシート(クラッド層16)の溶融層ラップ部22とクラッド層ラップ部23とが近接した位置にあると、熱応力の過多によりクラッド層16に亀裂24が入ることがある。図7には、一方の排気用バルブシートには溶融層ラップ部22の位置を表示し、他方の排気用バルブシートにはクラッド層ラップ部23の位置を表示してある。
【0029】
このような不具合を回避するために、本実施の形態では、図8に示すように、溶融層ラップ部22とクラッド層ラップ部23を、同一気筒内の各吸排気用バルブシート同士が近接する対向部分以外の位置となるように形成する。図8では、溶融層ラップ部22を破線で示し、クラッド層ラップ部23を実線で示してある。なお、図8中小さいバルブシート(クラッド層)は排気用バルブシートで、それよりも大きいバルブシートは吸気用バルブシートを表している。
【0030】
図8の例では、合計4つのバルブシートが互いに対向する部位を除く外側の部位に、それぞれ溶融層ラップ部22とクラッド層ラップ部23を形成している。このような配置とすれば、熱応力の過多によりバルブシート(クラッド層16)に亀裂23が生じることを防止できる。つまり、4つの吸排気用バルブが密接する部位から離れることにより、熱応力が集中して掛からなくなり、亀裂23の発生が抑制される。
【0031】
また、本実施の形態では、図8に示すように、同一気筒内の吸排気用バルブシートのうち隣り合うバルブシートの中心を結ぶ中心線Sに対して90度以上のなす角度θとされた位置に、前記溶融層ラップ部22を形成する。
【0032】
前記角度θを90度以上とすれば、熱応力の過多による影響を受け難くなり、クラッド層16に亀裂23が発生するのを防止することができる。なお、前記した例は、吸気用バルブシートとこれに近接する排気用バルブシートとの関係で表したが、吸気用バルブシート同士との関係または排気用バルブシート同士との関係でも同じであり、前記した角度θを90度以上とする。
【0033】
また、本実施の形態では、クラッド層16の加工開始部を、溶融層ラップ部22以外の部位から肉盛りを開始して形成するようにする。そうすることで、クラッド加工開始時の金属粉末4が多くなることにより、未溶着が発生することなくクラッド層16を形成することができる。図8では、このように形成したことで、クラッド層ラップ部23が溶融層ラップ部22に重なることなく離れた位置に設けらる。
【0034】
以上のように構成されたシリンダーヘッド1は、溶融層ラップ部22とクラッド層ラップ部23が共に、同一気筒内の各吸排気用バルブシート同士が近接する対向部分以外の位置とされると共に、溶融層ラップ部22とクラッド層ラップ部24の位置がずれて配置されることになる。
【0035】
そして、このシリンダーヘッド1は、前記溶融層ラップ部22とクラッド層ラップ部23を前記した位置に配置することで、亀裂及び未溶着部の無い信頼性に優れたクラッド層(バルブシート)20を備えることになる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1はレーザクラッド装置を示す斜視図である。
【図2】図2は粉末供給装置のノズル先端から金属粉末を被加工部に供給している状態を示す図である。
【図3】図3はバルブシート加工工程のうち鋳造工程と溝加工工程を示す工程図である。
【図4】図4はバルブシート加工工程のうち溶融層形成工程、レーザクラッド加工工程及び研磨加工工程を示す工程図である。
【図5】図5は溶融層ラップ部の形成位置とその表面状態を示す図である。
【図6】図6は溶融層ラップ部上にクラッド層を形成する工程を順次示した図である。
【図7】図7は熱応力の過多によりクラッド層に亀裂が発生したときの図である。
【図8】図8は本発明のバルブシートに形成される溶融層ラップ部とクラッド層ラップ部の配置位置を示す図である。
【符号の説明】
【0037】
1…シリンダーヘッド
2…バルブシート部(被加工部)
3…レーザ照射装置
4…金属粉末
5…粉末供給装置
6…レーザ発振器
9…集光ヘッド
10…ノズル
16…クラッド層
21…溶融層
22…溶融層ラップ部
23…クラッド層ラップ部
24…亀裂
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルブシート形成方法及びシリンダーヘッドに関し、バルブシートに亀裂若しくは未溶着部を発生させないための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車エンジンでは、バルブシートとして従来のシートリングを打ち込む方式に変えてバルブシート合金をシリンダーヘッドへ直接肉盛りする方式が採用され初めている。
【0003】
このように、バルブシート合金をシリンダーヘッドに直接肉盛りすれば、シートリングの打ち込み方式に比べて熱伝導性を大幅に向上させることができ、冷却性能を高めることができる。
【0004】
かかる肉盛り方式は、粉末供給装置のノズルから金属粉末をバルブシートを形成する部位(バルブシート部)に供給しながらレーザ発振器よりレーザを照射し、バルブシート部とレーザを相対的に回転させることで、リング状の肉盛り層(バルブシート)を形成するものである。
【0005】
この肉盛り方式では、レーザクラッド加工を行う前工程として鋳造によって製造した金属母材に対し、バルブシートを形成する部位に切削工具にて凹形状の溝加工を行い、該溝部にレーザを照射して母材を溶かすことで溶融層を形成後、当該溶融層上に金属粉末を供給しながらレーザを照射してクラッド層(バルブシート)を形成することが行われている(例えば、特許文献1など参照)。
【特許文献1】特開2002−239711号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記したレーザクラッド加工では、溶融層とクラッド層は、加工開始部に加工終了部を重ねるようにして形成される。そのため、溶融層とクラッド層には、加工開始部に加工終了部がオーバーラップして重なった溶融層ラップ部とクラッド層ラップ部が形成される。
【0007】
前記溶融層ラップ部は、その他の部位に比べて厚みが薄く窪んだ凹みとなる。この溶融層ラップ部から肉盛りを開始した場合、凹みに金属粉末が多くなり、レーザにより溶けきれなかった金属粉末が未溶着となって残ることがある。
【0008】
また、溶融層ラップ部とクラッド層ラップ部が、同一気筒内の各吸排気用バルブシート同士が近接する対向部分にあると、熱応力の過多により隣接するバルブシートに亀裂が生じる。
【0009】
そこで、本発明は、バルブシートに亀裂若しくは未溶着部が生じないバルブシート形成方法及びシリンダーヘッドを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、シリンダーヘッドのバルブシートを形成する部位にレーザを照射し母材を溶かして溶融層を形成した後、その溶融層上に金属粉末を供給しながらシリンダーヘッド及びレーザを相対的に回転させつつレーザを照射し肉盛りしてクラッド層を形成するバルブシート形成方法において、前記溶融層の加工開始部に加工終了部をオーバーラップさせて重ねた溶融層ラップ部と前記クラッド層の加工開始部に加工終了部をオーバーラップさせて重ねたクラッド層ラップ部を、同一気筒内の各吸排気用バルブシート同士が近接する対向部分以外の位置となるように形成することを特徴とする。
【0011】
また本発明は、バルブシートを形成する部位にレーザを照射し母材を溶かして溶融層を形成した後、その溶融層上に金属粉末を供給しながら母材及びレーザを相対的に回転させつつレーザを照射し肉盛りしてクラッド層を形成した吸排気用バルブシートを有したシリンダーヘッドにおいて、前記溶融層の加工開始部に加工終了部をオーバーラップさせて重ねた溶融層ラップ部と前記クラッド層の加工開始部に加工終了部をオーバーラップさせて重ねたクラッド層ラップ部を共に、同一気筒内の各吸排気用バルブシート同士が近接する対向部分以外の位置に設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のバルブシート形成方法によれば、熱応力の過多によってバルブシートに亀裂が生ずるのを回避することができ、信頼性の高いバルブシートを形成することができる。
【0013】
本発明のシリンダーヘッドによれば、熱応力の過多によってバルブシートに亀裂が生じることが無いので、信頼性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
「レーザクラッド装置の構成」
先ず、レーザクラッド装置の構成について説明する。図1はレーザクラッド装置を示す斜視図、図2は粉末供給装置のノズル先端から金属粉末を被加工部に供給している状態を示す図である。
【0016】
レーザクラッド装置は、図1に示すように、例えば自動車用エンジンなどのシリンダーヘッド1の被加工部であるバルブシート部2にレーザhvを照射するレーザ照射装置3と、バルブシート部2に金属粉末4を供給する粉末供給装置5とを備えている。
【0017】
レーザ照射装置3は、レーザ発振器6と、このレーザ発振器6により発振されるレーザの強さなどを制御するレーザ発振器制御部7と、NC制御装置8と、レーザを集光してバルブシート部2に照射させる集光ヘッド9とからなる。レーザ発振器6で発振されたレーザhvは、レーザ発振器制御部7で制御されて集光ヘッド9に供給され、この集光ヘッド9で絞られてバルブシート部2に照射される。
【0018】
粉末供給装置5は、バルブシート部2に金属粉末4を供給するノズル10(図1では図示を省略し図2に示す)と、金属粉末4を収容して置くホッパー11と、金属粉末4の量を計測する荷重計12と、ホッパー11からノズル10へと金属粉末4を送り込むフィーダ13と、これらを制御する粉末制御部14とからなる。ノズル10の先端からは、ホッパー11に収容された金属粉末4がフィーダ13により送られることで、前記バルブシート部2へと吹き付けられる。なお、金属粉末4としては、例えば銅合金などが使用される。
【0019】
このレーザクラッド装置では、前記レーザ発振器6とレーザ発振器制御部7とNC制御装置8と粉末供給制御部14とがそれぞれコンピュータ15によって制御されている。そして、このように構成されたレーザクラッド装置によりバルブシート部2に金属粉末4を供給しながらレーザを照射して肉盛りを行うことでクラッド層(バルブシート)16を形成するが、その際に、図2に示すように、シリンダーヘッド1を矢印Aで示すように回転させながらレーザクラッド加工を行う。
【0020】
「バルブシート形成方法」
次に、バルブシート形成方法について説明する。図3から図8は、バルブシート加工工程を示す図である。
【0021】
先ず、図3(A)で示すシリンダーヘッド(母材)1を鋳造によって形成する(鋳造工程)。シリンダーヘッド1を形成するには、鋳造用金型を用意し、その鋳造用金型に溶融したアルミニウム合金を流し込む。鋳造されたシリンダーヘッド1には、図3(B)に示すように、後工程で肉盛りを行う部位であるバルブシート部(被加工部)2が形成される。
【0022】
次に、バルブシート部2に凹形状の溝を形成する(溝加工工程)。溝加工工程では、図3(C)に示すように、切削工具17を回転させながらバルブシート部2に押し当て、このバルブシート部2を切削してその表面に凹形状の溝を形成する。
【0023】
次に、図4(A)に示すように、前記溝加工工程で形成した溝部18にレーザhvを照射し母材を溶かして溶融層を形成する(溶融層形成工程)。溶融層を形成するには、加工開始部の上に加工終了部をオーバーラップさせるようにして溶融層ラップ部を形成する。溶融層形成工程では、レーザhvの波長を0.8〜0.9μm、出力を2.2kW、加工速度を1.2m/分とした。
【0024】
次いで、図4(B)に示すように、前記溶融層上に金属粉末4を供給しながらシリンダーヘッド1及びレーザhvを相対的に回転させつつレーザhvを照射し肉盛りしてクラッド層を形成する(レーザクラッド加工工程)。クラッド層を形成するには、加工開始部の上に加工終了部をオーバーラップさせるようにして行う。レーザクラッド加工工程では、レーザhvの波長を0.8〜0.9μm、出力を1.7kW、加工速度を1.2m/分とした。
【0025】
そして最後に、図4(C)に示すように、仕上げ用切削工具19を回転させながらクラッド層16に押し当てて、当該クラッド層16の表面を研磨する(研磨加工工程)。
【0026】
前記溶融層形成工程では、溶融層21を形成するには、母材を図5(A)の矢印Aで示す方向に回転させながらレーザhvを照射してバルブシート部2を溶融させるが、そのとき加工開始部21Aの上に加工終了部21Bをオーバーラップさせて重ねるようにしている。加工開始部21Aの上に加工終了部21Bをオーバーラップさせて重ねたことにより形成される溶融層ラップ部22は、図5(B)に示すように、その他の部位に対して厚みが薄い凹みとなる。
【0027】
前記溶融層形成工程で形成された溶融層ラップ部22からレーザクラッド加工を開始した場合、図6に示すように、凹みとなった溶融層ラップ部22に金属粉末4が供給されると、その溶融層ラップ部22に金属粉末4が溜まり易くなる。そして、この溶融層ラップ部22では、金属粉末4の粉末量が多いことからレーザhvにより溶け切れなかった金属粉末4が未溶着となり、溶融層ラップ部22上にクラッド層16の未溶着部位16Aが形成されてしまう。
【0028】
また、図7に示すように、同一気筒内で近接するバルブシート(クラッド層16)の溶融層ラップ部22とクラッド層ラップ部23とが近接した位置にあると、熱応力の過多によりクラッド層16に亀裂24が入ることがある。図7には、一方の排気用バルブシートには溶融層ラップ部22の位置を表示し、他方の排気用バルブシートにはクラッド層ラップ部23の位置を表示してある。
【0029】
このような不具合を回避するために、本実施の形態では、図8に示すように、溶融層ラップ部22とクラッド層ラップ部23を、同一気筒内の各吸排気用バルブシート同士が近接する対向部分以外の位置となるように形成する。図8では、溶融層ラップ部22を破線で示し、クラッド層ラップ部23を実線で示してある。なお、図8中小さいバルブシート(クラッド層)は排気用バルブシートで、それよりも大きいバルブシートは吸気用バルブシートを表している。
【0030】
図8の例では、合計4つのバルブシートが互いに対向する部位を除く外側の部位に、それぞれ溶融層ラップ部22とクラッド層ラップ部23を形成している。このような配置とすれば、熱応力の過多によりバルブシート(クラッド層16)に亀裂23が生じることを防止できる。つまり、4つの吸排気用バルブが密接する部位から離れることにより、熱応力が集中して掛からなくなり、亀裂23の発生が抑制される。
【0031】
また、本実施の形態では、図8に示すように、同一気筒内の吸排気用バルブシートのうち隣り合うバルブシートの中心を結ぶ中心線Sに対して90度以上のなす角度θとされた位置に、前記溶融層ラップ部22を形成する。
【0032】
前記角度θを90度以上とすれば、熱応力の過多による影響を受け難くなり、クラッド層16に亀裂23が発生するのを防止することができる。なお、前記した例は、吸気用バルブシートとこれに近接する排気用バルブシートとの関係で表したが、吸気用バルブシート同士との関係または排気用バルブシート同士との関係でも同じであり、前記した角度θを90度以上とする。
【0033】
また、本実施の形態では、クラッド層16の加工開始部を、溶融層ラップ部22以外の部位から肉盛りを開始して形成するようにする。そうすることで、クラッド加工開始時の金属粉末4が多くなることにより、未溶着が発生することなくクラッド層16を形成することができる。図8では、このように形成したことで、クラッド層ラップ部23が溶融層ラップ部22に重なることなく離れた位置に設けらる。
【0034】
以上のように構成されたシリンダーヘッド1は、溶融層ラップ部22とクラッド層ラップ部23が共に、同一気筒内の各吸排気用バルブシート同士が近接する対向部分以外の位置とされると共に、溶融層ラップ部22とクラッド層ラップ部24の位置がずれて配置されることになる。
【0035】
そして、このシリンダーヘッド1は、前記溶融層ラップ部22とクラッド層ラップ部23を前記した位置に配置することで、亀裂及び未溶着部の無い信頼性に優れたクラッド層(バルブシート)20を備えることになる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1はレーザクラッド装置を示す斜視図である。
【図2】図2は粉末供給装置のノズル先端から金属粉末を被加工部に供給している状態を示す図である。
【図3】図3はバルブシート加工工程のうち鋳造工程と溝加工工程を示す工程図である。
【図4】図4はバルブシート加工工程のうち溶融層形成工程、レーザクラッド加工工程及び研磨加工工程を示す工程図である。
【図5】図5は溶融層ラップ部の形成位置とその表面状態を示す図である。
【図6】図6は溶融層ラップ部上にクラッド層を形成する工程を順次示した図である。
【図7】図7は熱応力の過多によりクラッド層に亀裂が発生したときの図である。
【図8】図8は本発明のバルブシートに形成される溶融層ラップ部とクラッド層ラップ部の配置位置を示す図である。
【符号の説明】
【0037】
1…シリンダーヘッド
2…バルブシート部(被加工部)
3…レーザ照射装置
4…金属粉末
5…粉末供給装置
6…レーザ発振器
9…集光ヘッド
10…ノズル
16…クラッド層
21…溶融層
22…溶融層ラップ部
23…クラッド層ラップ部
24…亀裂
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダーヘッドのバルブシートを形成する部位にレーザを照射し母材を溶かして溶融層を形成した後、その溶融層上に金属粉末を供給しながらシリンダーヘッド及びレーザを相対的に回転させつつレーザを照射し肉盛りしてクラッド層を形成するバルブシート形成方法において、
前記溶融層の加工開始部に加工終了部をオーバーラップさせて重ねた溶融層ラップ部と前記クラッド層の加工開始部に加工終了部をオーバーラップさせて重ねたクラッド層ラップ部を、同一気筒内の各吸排気用バルブシート同士が近接する対向部分以外の位置となるように形成する
ことを特徴とするバルブシート形成方法。
【請求項2】
請求項1に記載のバルブシート形成方法であって、
同一気筒内の吸排気用バルブシートのうち隣り合うバルブシートの中心を結ぶ中心線に対して90度以上のなす角度とされた位置に、前記溶融層ラップ部を形成する
ことを特徴とするバルブシート形成方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のバルブシート形成方法であって、
前記クラッド層の加工開始部を、前記溶融層ラップ部以外の部位から肉盛りを開始して形成する
ことを特徴とするバルブシート形成方法。
【請求項4】
バルブシートを形成する部位にレーザを照射し母材を溶かして溶融層を形成した後、その溶融層上に金属粉末を供給しながら母材及びレーザを相対的に回転させつつレーザを照射し肉盛りしてクラッド層を形成した吸排気用バルブシートを有したシリンダーヘッドにおいて、
前記溶融層の加工開始部に加工終了部をオーバーラップさせて重ねた溶融層ラップ部と前記クラッド層の加工開始部に加工終了部をオーバーラップさせて重ねたクラッド層ラップ部を共に、同一気筒内の各吸排気用バルブシート同士が近接する対向部分以外の位置に設けた
ことを特徴とするシリンダーヘッド。
【請求項5】
請求項4に記載のシリンダーヘッドであって、
前記溶融層ラップ部と前記クラッド層ラップ部の位置をずらして設けた
ことを特徴とするシリンダーヘッド。
【請求項1】
シリンダーヘッドのバルブシートを形成する部位にレーザを照射し母材を溶かして溶融層を形成した後、その溶融層上に金属粉末を供給しながらシリンダーヘッド及びレーザを相対的に回転させつつレーザを照射し肉盛りしてクラッド層を形成するバルブシート形成方法において、
前記溶融層の加工開始部に加工終了部をオーバーラップさせて重ねた溶融層ラップ部と前記クラッド層の加工開始部に加工終了部をオーバーラップさせて重ねたクラッド層ラップ部を、同一気筒内の各吸排気用バルブシート同士が近接する対向部分以外の位置となるように形成する
ことを特徴とするバルブシート形成方法。
【請求項2】
請求項1に記載のバルブシート形成方法であって、
同一気筒内の吸排気用バルブシートのうち隣り合うバルブシートの中心を結ぶ中心線に対して90度以上のなす角度とされた位置に、前記溶融層ラップ部を形成する
ことを特徴とするバルブシート形成方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のバルブシート形成方法であって、
前記クラッド層の加工開始部を、前記溶融層ラップ部以外の部位から肉盛りを開始して形成する
ことを特徴とするバルブシート形成方法。
【請求項4】
バルブシートを形成する部位にレーザを照射し母材を溶かして溶融層を形成した後、その溶融層上に金属粉末を供給しながら母材及びレーザを相対的に回転させつつレーザを照射し肉盛りしてクラッド層を形成した吸排気用バルブシートを有したシリンダーヘッドにおいて、
前記溶融層の加工開始部に加工終了部をオーバーラップさせて重ねた溶融層ラップ部と前記クラッド層の加工開始部に加工終了部をオーバーラップさせて重ねたクラッド層ラップ部を共に、同一気筒内の各吸排気用バルブシート同士が近接する対向部分以外の位置に設けた
ことを特徴とするシリンダーヘッド。
【請求項5】
請求項4に記載のシリンダーヘッドであって、
前記溶融層ラップ部と前記クラッド層ラップ部の位置をずらして設けた
ことを特徴とするシリンダーヘッド。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2009−47026(P2009−47026A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−212182(P2007−212182)
【出願日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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