説明

バルブ駆動ユニット

【課題】小型でかつ安価な構成で、複数のバルブ部材を各々駆動でき、かつ、停電時に開位置にあったバルブ部材を自動的に閉位置に戻すことのできるバルブ駆動ユニットを提供すること。
【解決手段】バルブ駆動ユニット1は、共通のステッピングモータ2で2つのカム11、12を駆動して、洗浄水供給装置のバルブ部材101、102を押し込むものである。停電時には、ステッピングモータ2からカム11、12への共通の駆動伝達機構4での機構的な連結をクラッチ機構3で切断するので、ステッピングモータ2のディテントトルクがカム11、12に作用せず、カム11、12に印加されている付勢力でカム11、12が変位し、洗浄水の供給を停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、便器内に洗浄水を供給する洗浄水供給装置のバルブ部材を駆動するためのバルブ駆動ユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
便器内を洗浄する洗浄水を供給する洗浄水供給装置では、洗浄水タンクや水道などの水源から便器に到る流路にはバルブ部材が配置されており、バルブ駆動ユニットによって、バルブ部材を閉位置と開位置とに切り換える。このようなバルブ駆動ユニットのうち、バルブ部材を電動で駆動するタイプのものでは、洗浄スイッチを押すと、モータによってバルブ部材が閉位置から開位置に変位した後、再び、閉位置に変位する。従って、バルブ部材が閉位置から開位置に変位している状態で停電になると、便器内で水が流れ放しになるので、手動により、バルブ部材を開位置から閉位置に変位させる必要がある。
【0003】
しかしながら、モータとしてステッピングモータや直流同期モータを用いた場合、モータのディテントトルクがバルブ部材に採用しているので、手動でバルブ部材を動かすには大きな力が必要となる。そこで、停電時には、モータとバルブ部材との機構的な連結を切断してディテントトルクがバルブ部材に加わらないようにしたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、モータからバルブ部材までの間にクラッチ機構を配置し、停電時にはクラッチ機構によって、モータとバルブ部材との機構的な連結を切断してディテントトルクがバルブ部材に加わらないようにするとともに、バルブ部材を閉位置に移動させる際にバネに力を蓄積し、停電時には、このバネの付勢力によってバルブ部材を閉位置に変位させることが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2000−54466号公報
【特許文献2】特開2004−347086号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、便器内を洗浄する際、便器の内面に沿って水を流すとともに、便器内に噴流を供給するタイプのものがあり、このような洗浄水供給装置では、2つのバルブ部材が用いられる。従って、この種の洗浄水供給装置に用いられるバルブ駆動位置には、モータおよび駆動力伝達機構が各々2系統、必要になるとともに、各々に対して、停電時にバルブ部材を小さな力で変位させるためのクラッチ機構やバネが必要となり、大型でコストも嵩んでしまうという問題点がある。
【0006】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、小型でかつ安価な構成で、複数のバルブ部材を各々駆動でき、かつ、停電時に開位置にあったバルブ部材を自動的に閉位置に戻すことのできるバルブ駆動ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明では、便器に洗浄水を供給する洗浄水供給装置のバルブ部材を開閉駆動するためのバルブ駆動ユニットにおいて、前記洗浄水供給装置に構成された複数のバルブ部材を各々、開位置と閉位置との間で変位させる複数のカムと、該複数のカムを駆動するカム駆動装置とを有し、当該カム駆動装置は、共通の駆動源としてのモータと、該モータの出力を前記複数のカムの各々に伝達する共通の駆動力伝達機構と、前記モータへの電源供給が停止されたときに前記モータと前記複数のカムとの機構的な連結を解除するクラッチ機構とを備え、前記複数のカムはいずれも、前記バルブ部材を開位置に変位させている状態で前記クラッチ機構により前記モータとの連結が解除された際、当該カムに作用している付勢力により前記バルブ部材を閉位置とする方向に変位することを特徴とする。本発明において、「カムに作用している付勢力」とは、洗浄水供給装置の側においてバルブ部材の側からカムを付勢する付勢力、およびバルブ駆動ユニットの側でカム部材を付勢する力の一方、および双方のいずれであってもよい。
【0008】
本発明では、モータを作動させると、その出力は、駆動力伝達機構を介して複数のカムの各々に伝達される結果、バルブ部材は閉位置と開位置との間で変位し、所定のパターンで洗浄水が便器内に供給される。ここで、モータおよび駆動力伝達機構はいずれも、複数のカムに対して共通であるため、モータおよび駆動力伝達機構は1組でよい。また、モータへの電源供給が停止されたときにモータと前記複数のカムとの機構的な連結を解除するクラッチ機構が構成されているため、バルブ部材を開位置に変位させている状態で停電になったときでも、モータのディテントトルクがバルブ部材に印加されない。このため、停電時に、バルブ部材を開位置に変位させているカムがあっても、このカムは、それに印加されている付勢力で自動的に変位し、バルブ部材が閉位置に戻る。ここで、本発明では、モータおよび駆動力伝達機構が複数のカムに対して共通であるため、クラッチ機構が1つでよい。それ故、小型でかつ安価な構成で、複数のバルブ部材を各々駆動でき、かつ、停電時に開位置にあったバルブ部材を自動的に閉位置に戻すことができる。
【0009】
本発明において、前記複数のカムは共通のカムシャフトに固定され、前記カム駆動装置は、当該カムシャフトを介して前記複数のカムを駆動することが好ましい。このように構成すると、装置の構成を簡素化することができる。
【0010】
本発明において、前記複数のカムは、前記バルブ部材を閉位置と開位置との間で変位させる部分が互いに完全にずれているカム構造、あるいは前記バルブ部材を閉位置とする部分が互いに重なっているカム構造のいずれかを備えていることが好ましい。このように構成すると、複数のカムのうち、バルブ部材を開位置に変位させていたカムがバルブ部材を閉位置に変位させる方向に変位する際、他のカムがバルブ部材を閉位置から開位置に変位させるような動作が発生しないので、カム同士の間で干渉が発生しない。それ故、バルブ部材を開位置に変位させていたカムが、バルブ部材を閉位置に変位させる方向に変位する際、カムに余計な力が加わらないので、バルブ部材を確実に閉位置に変位させることができる。
【0011】
本発明において、前記クラッチ機構はソレノイドを備え、前記モータへの電源供給が停止した際、当該ソレノイドへの電源供給が停止して前記モータと前記複数のカムとの機構的な連結が解除されることが好ましい。このように構成すると、クラッチ機構の動作をモータへの電源供給の停止と容易に連動させることができる。
【0012】
本発明において、前記複数のカムを手動により変位させる手動操作部を備えていることが好ましい。このように構成すると、洗浄水の供給および停止を手動でも行うことができ、便利である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のバルブ駆動ユニットでは、モータおよび駆動力伝達機構はいずれも、複数のカムに対して共通であるため、モータおよび駆動力伝達機構は1組でよい。また、モータへの電源供給が停止されたときにモータとカムとの機構的な連結を解除するクラッチ機構が構成されているため、バルブ部材を開位置に変位させている状態で停電になったときでも、モータのディテントトルクがバルブ部材に印加されない。このため、停電時に、バルブ部材を開位置に変位させているカムがあっても、このカムは、それに印加されている付勢力で自動的に変位し、バルブ部材が閉位置に戻る。ここで、モータおよび駆動力伝達機構が複数のカムに対して共通であるため、クラッチ機構が1つでよい。それ故、小型でかつ安価な構成で、複数のバルブ部材を各々駆動でき、かつ、停電時に開位置にあったバルブ部材を自動的に閉位置に戻すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、図面を参照して、本発明を適用したバルブ駆動ユニットを説明する。
【0015】
(全体構成)
図1(a)、(b)、(c)は各々、本発明を適用したバルブ駆動ユニットの縦断面図、横断面図、および内部の左側面図である。
【0016】
図1に示すバルブ駆動ユニット1は、便器内に洗浄水を供給して便器内の洗浄を行うための洗浄水供給装置(不図示)に取り付けて使用するものである。洗浄水供給装置は、洗浄水を便器内に供給する2つの流路(不図示)と、これらの流路を各々、開閉する2つのバルブ部材101、102を有しており、バルブ駆動ユニット1は、これらのバルブ部材101、102を、流路を開放する開位置と流路を閉鎖する閉位置との間で駆動する。ここで、バルブ部材101、102は、図1(a)の上方に位置しているときに流路を閉鎖し、下方に変位したときに流路を開放するものとして表わしてある。なお、洗浄水供給装置において、バルブ部材101、102は各々、矢印X、Yで示すように、流路を閉鎖する上方向に付勢されており、バルブ駆動ユニット1は、矢印X、Yで示す付勢力に抗してバルブ部位101、102を駆動する。すなわち、バルブ部材101、102が流路を閉鎖する下方向に駆動された際、洗浄水供給装置に配置されたバネ(図示せず)が変形して力を蓄え、付勢力を発揮する。
【0017】
本形態において、バルブ駆動ユニット1は、その左側部分を構成する本体ケース6と、本体ケース6の右側面にボルトで固定されたフレーム71と、このフレーム71を覆うカムケース72とを備えており、バルブ駆動ユニット1の筺体は、全体としてL字形状になっている。フレーム71には、バルブ部材101、102の上端部分がカムケース72の内側に位置することを許容する開口72、74が形成されている。ここで、本体ケース6は、左ケース62と右ケース61とから構成されている。
【0018】
本形態において、バルブ駆動ユニット1は、バルブ部材101、102を各々駆動するためのカム11、12と、これらのカム11、12を駆動するためのカム駆動装置10とを有している。カム11、12は、共通のカムシャフト5に同軸状に固定されており、カム駆動装置10は、カムシャフト5を介してカム11、12を駆動する。
【0019】
カム駆動装置10は、カムシャフト5を介して第1および第2のカム11、12を回転駆動させるためのステッピングモータ2(共通の駆動源)と、ステッピングモータ2の駆動力をカム11、12まで伝達する共通の駆動力伝達機構4と、この駆動力伝達機構4を切断または連結するクラッチ機構3とを備えている。
【0020】
ステッピングモータ2からカムシャフト5までの駆動力伝達機構4およびクラッチ機構3は本体ケース6の内部に配置され、カム11、12はカムケース72内に配置されている。フレーム71において、底板部分から直角に折り曲げられた起立部分76は、カムシャフト5の一部を構成する有底円筒軸51を回転自在に支持している。
【0021】
(駆動源および駆動力伝達機構の構成)
図2(a)、(b)は、図1に示すバルブ駆動ユニットに設けたクラッチ機構がモータとカムとを機構的に連結している状態を示す説明図、およびクラッチ機構がモータとカムとを機構的な連結を解除した状態を示す説明図である。
【0022】
図1および図2(a)に示すように、本体ケース6の内側には、右ケース61で突出する周壁の内側にステッピングモータ2が固定されている。ステッピングモータ2は、2つのステータ組をモータ軸線方向に重ねて配置された円筒形のステータ23と、ステータ23を囲むカップ状のモータケース24と、このモータケース24の底板部分に基端側が固定された支軸21と、この支軸21に回転可能に支持されたロータ22とを備えている。なお、ステッピングモータ2に対して出力側には中板30が配置されており、この中板30に対して支軸21の先端部が固定されている。
【0023】
ロータ22は、支軸21に対する軸受部分となる円筒部22cと、この円筒部22cに対して外周側で対向する円周壁部分22bと、円筒部22cと円周壁部分22bとの連結部分22aとを有しており、円周壁部分22bの外周面に永久磁石220が固定されている。
【0024】
駆動力伝達機構4は、ステッピングモータ2の支軸21に回転可能に支持されたピニオン40と、ピニオン40の回転を減速して伝達する第1、第2の歯車41、42と、カムシャフト5と同軸に配置されてカムシャフト5を回転させる第3の歯車43を備えている。すなわち、第1の歯車41は、大径歯車部分がピニオン40と噛み合い、小径歯車部分が第2の歯車42の大径歯車部分と噛み合っている。第2の歯車42は、大径歯車部分が第3の歯車43と噛み合っている。ここで、第2の歯車42は、右ケース61と左ケースとによって両軸端が保持された支軸46に回転可能に支持されている。
【0025】
なお、右ケース61において、フレーム71との接合部分には主軸貫通孔63が形成されており、この主軸貫通孔63を有底円筒軸51の中空部分51aが貫通している。また、主軸貫通孔63の周縁部分からは、円筒軸47が左側に向かって突出し、この円筒軸47に第3の歯車43が回転可能に支持されている。第3の歯車43は、小径円筒部分43aと大径円筒部分43bを備えており、小径円筒部分43aが円筒軸47に支持されている。大径円筒部分43bの外周には、第2の歯車42と噛み合う歯が形成され、内周側には後述する有底円筒形の回転範囲規制部材55が挿入されている。
【0026】
(クラッチ機構の構成)
本形態では、以下に説明するように、中板30の左側の面にソレノイド33とL字形状のクラッチレバー32とが搭載されており、ソレノイド33およびクラッチレバー32により、駆動力伝達機構4においてロータ22とピニオン40とを機構的に連結した状態、および連結を解除した状態に切り換えるクラッチ機構3が構成されている。このようなクラッチ機構3を構成するために、まず、ピニオン40は、支軸21に沿って軸線方向に移動可能に構成され、支軸ピニオン40においてロータ22と対向する部分には大径の円盤状板部分40aが形成されている、円盤状板部分40aは、ロータ22の円周壁部分22bと円筒部22cとの間に嵌合可能な大きさである。円周壁部分22bにおいて、ロータ22と対向する面には、ロータ22の連結部分22aに形成された凹凸と噛み合う凹凸が形成されており、これらの凹凸が噛み合うことにより、ピニオン40とロータ22との間での回転伝達が可能である。
【0027】
また、ロータ22では、ピニオン40に向けて突出する円筒部分22dを備えており、この円筒部分22dには、コイルばね25が配置されている。コイルばね25は、両端部が各々、ロータ2およびピニオン40に当接し、ピニオン40をロータ2から離間する方向に付勢している。但し、ピニオン40は、ソレノイド33およびクラッチレバー32によってロータ22に向けて押圧されており、ソレノイドに電源供給が行われている間、ピニオン40とロータ22とは機構的に連結されている。なお、支軸21の先端側には、リング状のピニオン押し込み部材39が軸線方向に移動可能に装着され、クラッチレバー32は、ピニオン押し込み部材39を介してピニオン40を押圧している。
【0028】
クラッチレバー32はL字形状に折り曲げられた板状の金属製の部材である。クラッチレバー32において、縦方向に延びる先端部分32aの先端は、U字状に切り欠かれており、その間を支軸21が貫通し、かつ、ピニオン押し込み部材39と当接している。また、クラッチレバー32において、基端部分32bはソレノイド33の下側で鉄芯の露出部分と対向する位置まで延びており、基端部分32bのうち、折れ曲がり部分に近い部分は、中板30に形成されたスリット30aに挿入され、スリット30aと当接する下面部分53cを支点として回動可能になっている。
【0029】
このように構成したクラッチ機構3では、ステッピングモータ2と同様に電源供給が行われている。このため、ステッピングモータ2に電源供給されている通常状態では、図2(a)に示すように、クラッチレバー32の基端部分32bがソレノイド33の鉄芯に吸着されているので、先端部分32aは、ピニオン押し込み部材39を介してピニオン40をロータ22に向けて押し込み、駆動力伝達機構4では、ピニオン40とロータ22とを機構的に連結した状態にある。
【0030】
これに対して、停電時、ステッピングモータ2への電源供給が停止されると、ソレノイド33への電源供給も停止される。その結果、図2(b)に示すように、ソレノイド33はクラッチレバー32の基端部分32bの吸着を解除するため、ピニオン40は、コイルばね25に付勢されてロータ22から離間する。従って、駆動力伝達機構4では、ピニオン40とロータ22との機構的な連結が解除される。
【0031】
(カムシャフトの構成)
再び図1において、カムシャフト5は、カム11、12が取り付けられている有底円筒軸51と、有底円筒軸51の中空部分51aの左側開口から挿入される主軸52とを備えている。中空部分51aの内周面には内側に突出する係合部51bが形成されている。第3の歯車43の大径円筒部分43bの内側に回転範囲規制部材55を挿入した状態で、第3の歯車43の貫通孔に主軸52を貫通させる。さらに、右ケース61に形成された主軸貫通孔63を介して中空部分51aまで挿入する。主軸52の挿入部分の外周面形状は係合部43c、51bと係合する形状になっているので、主軸52を挿入した状態では、主軸52、有底円筒軸51、第3の歯車43は一体に回転する。
【0032】
回転範囲規制部材55は有底円筒形をしており、左ケース62の内側から右側に向かって突出する突起と係合して、それ自身が回転しないように係止されている。回転範囲規制部材55において、底板部分の中心には主軸52が貫通する開口55aが形成されている。開口55aの周囲は一定の角度範囲に亘って切り欠かれた回転規制用切り欠き部分55bになっている。また、周壁からは、回転規制用切り欠き部分55bの切り欠き範囲ではない位置に、内側に突出する回転規制用突起(不図示)が形成されている。一方、主軸52の軸線方向の中央部分は大径部分を備えており、そこから階段状の係止突起52aが半径方向に突出している。この係止突起52aは、主軸52が有底円筒軸51の中空部分51aの奥まで挿入されている通常位置にあるときは、回転規制用切り欠き部分55bの縁に突出量の少ない第1の段部が当接して、カムシャフト5の回転範囲を規定するようになっている。また、主軸52を左方向に引っ張って、有底円筒軸51の中空部分51aから少し引き出した手動操作位置にすると、突出量の大きい第2の段部が回転規制用突起に当接して、カムシャフト5の回転範囲を通常位置にあるときよりも広い角度範囲で回転可能になるように規定する。
【0033】
主軸52の左側の端部部分は左ケースに形成された貫通孔によって回転自在および軸線方向自在に支持されている。主軸52の大径部分の左側端面と、左ケース62との間にはコイルばね65が配置されており、このコイルばね65が、主軸52を有底円筒軸51方向に付勢している。よって、主軸52は通常は、右側の端部部分が有底円筒軸51の中空部分51aの奥に挿入されている位置にある。コイルばね65の付勢力に抗して主軸52を左側方向に引っ張れば、有底円筒軸51の中空部分51aから少し引き出した手動操作位置にして、通常位置では回転不可能な逆方向へ回転させることができる。このような操作をしやすいように、主軸52の左側の端部分であって左ケース62の外側に突出している部分には、手動レバー(手動操作部)が取り付けられている。
【0034】
(カムの構成および動作)
次に図1、図3および図4を参照しながら、第1および第2のカム11、12について説明する。図3は、本例のバルブ駆動ユニットにおいてカムケース72を外した状態でのカムの正面図および右側面図であり、この状態で、カムは原点位置にある。図4は、本形態で用いた2つのカムのチャート図であり、2つのカムの展開図に相当する。図4において、縦軸は、カムの基準面からの突出度合いを示しており、突出度合いが大きい領域がバルブ部材に当接すると、バルブ部材が下方に押し込まれ、流路を開状態とする。
【0035】
図1および図3において、フレーム71の下板部分には2つのバルブ部材101、102を受け入れる2つの受け入れ開口73、74が形成されており、フレーム71から第1のカム11の左側に向かっては突出板部分75が切り起こされている。また、第1のカム11の左端面部分には突起11cが形成されており、この突起11cと突出板部分75とが干渉することにより、カム11、12の回転可能範囲を規定している。なお、第1および第2のバルブ部材101、102は、矢印X、Yに示す付勢力によって、上端が常にカム11、12の外周面(カム面)に当接した状態にある。
【0036】
本形態では、カム11、12の外周面(カム面)は、バルブ部材101、102を流路に対する閉位置とするための小径の基準領域11a、12aと、バルブ部材101、102を開位置に向けて押し込むための作動領域11b、12bとが周方向に連続して形成された構造になっている。かかるカム面の詳細な構成を、図4を参照して、本形態のバルブ駆動装置1の動作と合わせて説明する。
【0037】
(通常動作)
まず、ステッピングモータ2およびソレノイド33への電源供給が行われている通常状態において、洗浄スイッチが操作されると、カムシャフト5はステッピングモータ2によって原点位置からCW方向に180度回転させられる。なお、190度回転した時点で突起11cと突出板部分75とが干渉して、それ以上回転することがないようになっている。
【0038】
このような動作を行う際、まず、カム11、12が原点位置にある時は、各カム11、12の基準領域11a、12aが第1および第2のバルブ部材101、102に当接しているので、その押し込み量はいずれも0である。従って、バルブ部材101、102は、流路を閉とする位置にある。この状態からカム11、12が回転し始めると、各カムの作動領域11b、12bと第1および第2のバルブ部材101、102とが摺動し、角度Aまでは、いずれのカム11、12も対応するバルブ部材101、102を押し込まない。
【0039】
次に、カム11、12の回転角度が角度Aを過ぎると、第1のカム11では作動領域11bが第1のバルブ部材101を押し込み始める。よって、第1のバルブ部材101に対応する流路から便器内に洗浄水が流れ始める。そして、カム11、12の回転角度が角度Bに至ると、第1のカム11が第1のバルブ部材101を押し込む量は最大になる。それ以降は減り始め、角度Cになると第1のカム11による第1のバルブ部材101の押し込み量は0になる。
【0040】
そして、角度Cからは、第2のカム12では、作動領域12bが第2のバルブ部材102の押し込みを開始する。角度C以降180度まで、第2のカム12が第2のバルブ部材102の押し込み量を増加させている。この間、第1のカム11は第1のバルブ部材101の押し込みを行わない。
【0041】
カム11、12の回転角度が180度に達すると、今度はステッピングモータ2によってカム11、12はCCW方向に回転する。従って、第1および第2のカム11、12はこれまでとは逆の動きをしながら、原点位置に戻る。よって、第1および第2のバルブ部材101、102も逆の動きをしながら元の状態に戻り、流路からの洗浄水の供給を停止する。
【0042】
(停電時における動作)
第1および第2のカム11、12が第1および第2のバルブ部材101、102を押し込んでいる状態で、停電した場合の動作を説明する。
【0043】
停電すると、まず、クラッチ機構3がステッピングモータ2からカム11、12への駆動力伝達機構4を切断するので、ステッピングモータ2のディテントトルクがカムシャフト5およびカム11、12に作用しない。それ故、以下に説明するように、カム11、12のうちのいずれかがバルブ部材101、102を開位置に変位させているときに停電になっても、カム11、12は、バルブ部材101、102に印加されている付勢力によって、自動的に変位し、流路を閉鎖した状態となる。
【0044】
まず、カム11、12の位置が角度Aから角度Bにある間に停電した場合には、第1のカム11は、第1のバルブ部材101を押し込んで流路を開状態にしているが、第1のバルブ部材101を介してカム11に印加されている付勢力によって、第1のカム11はCCW方向への回転が可能である。従って、カム11、12は、角度Aの状態まで戻るので、第1のバルブ部材101の押し込み量は0になり、流路は閉鎖されて洗浄水が停止する。ここで、第2のカム12も第1のカム11と共に回転するが、その間、第2のバルブ部材102は押し込み量が0のままで変化することはない。
【0045】
次に、角度Bから角度Cまでの間に停電した場合には、第1のカム11が第1のバルブ部材101を押し込んで対応する流路から洗浄水を流している。停電によりカムにディテントトルクが働かない状態になるので、第1のバルブ部材101が元の最上位置に復帰しようとする付勢力によって、第1のカム11をCW方向に回転させ角度Cの状態にする。従って、第1のバルブ部材101の押し込み量は0になり、流路は閉鎖されて洗浄水が停止する。ここで、第2のカム12が第1のカム11と共に回転しても、その間の第2のバルブ部材102の押し込み量は0のままであり、角度Cの状態においても押し込み量は0である。
【0046】
また、角度Cから角度190度までの間に停電した場合には、第2のカム12が第2のバルブ部材102を押し込んで対応する流路から洗浄水を流している。停電によりカムにディテントトルクが働かない状態になるので、第2のバルブ部材102が元の最上位置に復帰しようとする付勢力によって、第2のカム12をCCW方向に回転させ角度Cの状態にする。従って、第2のバルブ部材102の押し込み量は0になり、流路は閉鎖されて洗浄水が停止する。ここで、第1のカム11が第2のカム12と共に回転しても、その間に第1のバルブ部材101の押し込み量は0のままであり、角度Cの状態においても押し込み量は0である。
【0047】
このように、停電時において、第1および第2のバルブ部材101、102の付勢力によって第1および第2のカム11、12が回転する際に、他方のカムが対応するバルブ部材を押し込まないように作動領域11b、12bの形状が規定されている。この結果、バルブ部材の復帰動作に抗する力が発生することがない。従って、第1および第2のカム11、12は、第1および第2のバルブ部材101、102が最上位置に復帰しようとする力のみで、全てのカムがバルブ部材101、102を押し込んでいない位置(角度A、C)まで回転するので、全ての流路が閉鎖されて洗浄水は停止する。
【0048】
なお、図4において、CCW方向の−90度までのカムチャートは排水時に手動レバーを操作して、洗浄水供給装置内にある洗浄水を排水する操作を行う際のものである。すなわち、主軸52をコイルばね65の付勢力に抗して左側に引き出すと、主軸52の係止突起52aと回転範囲規制部材55の回転規制用切り欠き部分55bとの干渉が解除されて、回動可能な範囲が回転規制用突起により規制されている範囲に広がる。よって、手動によりカムシャフト5をCCW方向へ90度回転させることができる。そこで、CCW方向へ90度回転させると、第1および第2のカム11、12が同時に第1および第2のバルブ部材101、102を押し込んで洗浄水を流すことができる。なお、通常の洗浄スイッチによる動作では、このようなカムの駆動はなされない。
【0049】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態のバルブ駆動ユニット1では、ステッピングモータ2および駆動力伝達機構4はいずれも、2つカム11、12に対して共通であるため、ステッピングモータ2および駆動力伝達機構4は1組でよい。また、ステッピングモータ2への電源供給が停止されたときにステッピングモータ2とカム11、12との機構的な連結を解除するクラッチ機構3が構成されているため、バルブ部材101、102を開位置に変位させている状態で停電になったときでも、ステッピングモータ2のディテントトルクがバルブ部材101、102やカム11、12に印加されない。このため、停電時に、バルブ部材101、102を開位置に変位させているカムがあっても、このカムは、それに印加されている付勢力で自動的に変位し、バルブ部材101、102が閉位置に戻る。ここで、ステッピングモータ2および駆動力伝達機構4が2つのカム11、12に対して共通であるため、クラッチ機構3が1つでよい。それ故、小型でかつ安価な構成で、2つバルブ部材101、102を各々駆動でき、かつ、停電時に開位置にあったバルブ部材101、102を自動的に閉位置に戻すことができる。
【0050】
また、本形態において、2つカム11、12は、バルブ部材101、102を閉位置と開位置との間で変位させる部分が互いに完全にずれているカム構造になっているため、第1のカム11が第1のバルブ部材101を押し込んだ状態からバルブ部材101の押し込みを解除した状態(角度A、C)まで回転する間に、第2のカム12が第2のバルブ部材102の押し込み位置を変化させない。また、第2のカム12が第2のバルブ部材102を押し込んだ状態からバルブ部材102の押し込みを解除した状態(角度C)まで回転する間に、第1のカム11が第1のバルブ部材101の押し込み位置を変化させない。従って、2つのカム11、12のうち、バルブ部材101、102を開位置に変位させていたカムがバルブ部材を閉位置に変位させる方向に変位する際、他のカムがバルブ部材を閉位置から開位置に変位させるような動作が発生しないので、カム11、12同士の間で干渉が発生しない。それ故、バルブ部材を開位置に変位させていたカムが、バルブ部材を閉位置に変位させる方向に変位する際、カムに余計な力が加わらないので、バルブ部材を確実に閉位置に変位させることができる。
【0051】
さらに、クラッチ機構3はソレノイド33を備え、ステッピングモータ2への電源供給が停止した際、ソレノイド33への電源供給が停止してステッピングモータ2と2つのカム11、12との機構的な連結が解除される。従って、クラッチ機構3の動作をステッピンングモータ2への電源供給の停止と容易に連動させることができる。
【0052】
(その他の実施の形態)
上記形態において、2つカム11、12については、バルブ部材101、102を閉位置と開位置との間で変位させる部分が互いに完全にずれているカム構造を採用したが、例えば、図5に実線L1あるいは点線L2で示すように、2つのカム11、12において、バルブ部材101、102を閉位置とする部分が互いに重なっているカム構造を採用してもよい。このように構成した場合も、2つのカム11、12のうち、バルブ部材を開位置に変位させていたカムがバルブ部材を閉位置に変位させる方向に変位する際、他のカムがバルブ部材を閉位置から開位置に変位させるような動作が発生しないので、カム同士の間で干渉が発生しない。それ故、バルブ部材を開位置に変位させていたカムが、バルブ部材を閉位置に変位させる方向に変位する際、カムに余計な力が加わらないので、バルブ部材を確実に閉位置に変位させることができる。
【0053】
また、クラッチ機構3として、ソレノイド33を用いてクラッチレバー32を動作させていたが、その替わりに誘導リングを用いてもよい。
【0054】
さらに、停電時にカム11、12を変位させる付勢力として、バルブ部材101、102に印加されている付勢力のみを用いた例を説明したが、バルブ駆動ユニット1の側でカム部材11、12に付勢力を作用させ、この付勢力で、停電時にカム11、12を変位させてもよい。この場合、バルブ部材101、102に印加されている付勢力は、カム11、12とバルブ部材101、102とを当接させ、かつ、バルブ部材101、102のみを変位させる大きさでよい。さらに、バルブ駆動ユニット1の側でカム部材11、12に印加する付勢力と、バルブ部材101、102に印加されている付勢力の双方を利用して、停電時にカム11、12およびバルブ部材101、102を変位させる構成を採用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】(a)、(b)、(c)は、本発明を適用したバルブ駆動ユニットの縦断面図、横断面図、および内部の左側面図である。
【図2】(a)、(b)は、図1に示すバルブ駆動ユニットに設けたクラッチ機構がモータとカムとを機構的に連結している状態を示す説明図、およびクラッチ機構がモータとカムとを機構的な連結を解除した状態を示す説明図である。
【図3】(a)、(b)は、図1に示すバルブ駆動ユニットに設けた2つのカムの正面図および右側面図である。
【図4】図3に示すカムのカムチャート図である。
【図5】図3に示すカムの別のカムチャート図である。
【符号の説明】
【0056】
1 バルブ駆動ユニット
2 ステッピングモータ
3 クラッチ機構
4 駆動力伝達機構
5 カムシャフト
6 本体ケース
7 カムケース
11、12 カム
21 支軸
22 ロータ
23 ステータ
25 コイルばね
40 ピニオン
30 中板
32 クラッチレバー
33 ソレノイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
便器に洗浄水を供給する洗浄水供給装置のバルブ部材を開閉駆動するためのバルブ駆動ユニットにおいて、
前記洗浄水供給装置に構成された複数のバルブ部材を各々、開位置と閉位置との間で変位させる複数のカムと、該複数のカムを駆動するカム駆動装置とを有し、
当該カム駆動装置は、共通の駆動源としてのモータと、該モータの出力を前記複数のカムの各々に伝達する共通の駆動力伝達機構と、前記モータへの電源供給が停止されたときに前記モータと前記複数のカムとの機構的な連結を解除するクラッチ機構とを備え、
前記複数のカムはいずれも、前記バルブ部材を開位置に変位させている状態で前記クラッチ機構により前記モータとの連結が解除された際、当該カムに作用している付勢力により前記バルブ部材を閉位置とする方向に変位することを特徴とするバルブ駆動ユニット。
【請求項2】
請求項1において、
前記複数のカムは共通のカムシャフトに固定され、
前記カム駆動装置は、当該カムシャフトを介して前記複数のカムを駆動することを特徴とするバルブ駆動ユニット。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記複数のカムは、前記バルブ部材を閉位置と開位置との間で変位させる部分が互いに完全にずれているカム構造、あるいは前記バルブ部材を閉位置とする部分が互いに重なっているカム構造のいずれかを備えていることを特徴とするバルブ駆動ユニット。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、
前記クラッチ機構はソレノイドを備え、
前記モータへの電源供給が停止した際、当該ソレノイドへの電源供給が停止して前記モータと前記複数のカムとの機構的な連結が解除されることを特徴とするバルブ駆動ユニット。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、
前記複数のカムを手動により変位させる手動操作部を備えていることを特徴とするバルブ駆動ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−315151(P2007−315151A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−149001(P2006−149001)
【出願日】平成18年5月29日(2006.5.29)
【出願人】(000002233)日本電産サンキョー株式会社 (1,337)
【Fターム(参考)】