説明

バンドパスフィルタ

本発明は、それぞれ1つの通過領域を有している複数の部分フィルタを含み、異なる部分フィルタの通過領域が相互に異なった中心周波数を有している、バンドパスフィルタに関している。この場合最も低い中心周波数を備えた部分フィルタは、その左方の信号エッジがその右方の信号エッジよりも急峻である通過領域を有しており、さらに、最も高い中心周波数を備えた部分フィルタは、その右方の信号エッジがその左方の信号エッジよりも急峻である通過領域を有していることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特に音響表面波により動作するバンドパスフィルタに関する。
【0002】
背景技術
独国特許出願公開第3838923号明細書からはFAN変換器として構成された入出力変換器を備えた広帯域フィルタが公知である。このFAN変換器を備えた別のフィルタは欧州特許第0850510号明細書並びに米国特許第5289073号明細書から公知である。
【0003】
ここで解決すべき課題は、信号エッジの急峻特性が高い広帯域フィルタを提供することである。
【0004】
変換器の音響特性は、(局所的縦方向において)重み付け関数(励起関数ないし反射関数)によって特徴付けることが可能である。重み付け関数は縦方向のコーディネート特性に依存し、変換器における励起強度ないし反射強度の分散を表す。変換器の重み付け関数は予め定められた電気的フィルタ特性に基づいて定められ得る。算出された重み付け関数からは電極フィンガーの所要の接続シーケンスと構成が推論できる。
【0005】
フィルタの電気的な特性は通常は伝達関数(伝達される信号の位相と絶対値の振幅特性)によって定められる。伝達関数の重要な特徴は、通過領域縁部におけるエッジの急峻性である。
【0006】
ここではその部分フィルタがそれぞれ1つの通過領域を有しているバンドパスフィルタが取り上げられている。異なる部分フィルタの通過領域は相互に異なる中心周波数を有している。最も低い中心周波数を有する部分フィルタの通過領域は低周波な(左方の)信号エッジを有しており、これはその高周波な(右方の)信号エッジよりも急峻である。最も高い中心周波数を有する部分フィルタは、その高周波な信号エッジがその低周波な信号エッジよりも急峻である通過領域を有する。
【0007】
これらの部分フィルタは電気的に相互に接続されている。
【0008】
発明を実施するための最良の形態
このフィルタは有利には音響表面波で動作するフィルタであり、それは少なくとも1つの音響トラックを有している。有利な変化実施例によれば、1つの音響トラック内で1つの入力変換器と1つの出力変換器が配設される。これらの変換器はそれぞれ櫛形のインターデジタル電極を含んでいる。これらの変換器は有利には電極フィンガーが接続されているそれぞれ2つの電流配電線を有している。異なる電位に接続された電極フィンガーはインターデジタルに配置されている。これらの構造部は1つの圧電基板上に配設され、(高周波な)電気信号から音響波への電気音響的な変換と音響波から延期信号への変換に用いられている。入力変換器内では電気的な入力信号によって表面波が励起される。この表面波は出力変換器においては電気的な出力信号に変換される。
【0009】
変換器の音響トラックは縦方向に配向されている。有利な実施形態においてはこの縦方向が表面波の伝播方向に一致している。
【0010】
これらの音響トラックは横方向において部分トラックに分割されていてもよい。各部分トラックはそれらの順序に応じて考察されたオーダー数 1≦i≦Nを得る。これらの部分トラックのうちの少なくとも2つは、相互に異なる位相重みを有している。この2つの部分トラックはここでは第1及び第2の部分トラックと称する。
【0011】
有利には各部分フィルタには1つの固有の音響的部分トラックが割当てられる。2つの変換器はこの変化実施例においてはそれぞれ部分トラックの一方に配設されている部分変換器に分割されている。それにより1つの部分トラック内では入力変換器の部分変換器とこれに対応する出力変換器の部分変換器が設けられている。
【0012】
これらの音響トラックないしそのつどの変換器は縦方向において総数Nの順次連続したセルに分割されていてもよい。各セルはそれらの順序に応じて考察されたオーダー数 1≦j≦Nを得る。これらのセルは通常は、フィルタないし部分トラックの中心周波数における波長に等しいか若しくはこの波長の整数倍の波長に等しい長さを有している。これらのセル長さは表面波伝播の説明においては表面あによって伝播される伝播区間とも称する。
【0013】
これらのセルは特にSPUDT(単相単方向トランスデューサ;Single Phase Unidirectional Transducer)セルのクラスから選択されてもよい。SPUDTセルは、1つの優先方向へ配向された音響波の放射毎に用いられる。この配向された放射は励起された反射された音響波の1つの方向への構造的な重畳によってないしは励起され反射された音響波の反対方向への非構造的重畳によって実現される。
【0014】
1つのセルタイプはセルの電極フィンガーの接続シーケンスによって定められる。さらに1つのセルタイプは狭幅な電極フィンガーと広幅な電極フィンガーの順序によって定められる。有利には1つの変換器において複数のセルタイプが設けられている。
【0015】
1つの部分トラックは1つのセルタイプの複数のセルを含み得る。それらは相互に並列的に若しくはそれぞれ少なくとも1つのさらなるセルタイプのセル間に配設可能である。
【0016】
1つのセルの通過の際に音響波は波長に基づいて規格化されたセル長さに比例する位相回転をうける。有利な変化実施例によれば、複数の部分トラックがそれぞれ位相による重み付け、すなわちそれぞれ異なる長さのセルを有している。部分トラックにおける位相重みとはここでは中心周波数に相応する波長を有する音響波が、部分トラックの様々なセルの通過の際に相互に異なった位相回転を受ける場合であることを理解されたい。
【0017】
この位相重みによれば、励起や反射の重み付けも行われる。なぜなら励起や反射の中心の位置が異なる長さのセルのもとで強い周期のパターンからずれているからである。
【0018】
従来の変換器の電極フィンガーは周期的なパターンに配設されている。有利な変化十しれによれば、変換器はFAN変換器として構成されている。FAN変換器は大抵は扇形に広がる電極フィンガーを有している。FAN変換器では横方向において部分トラック毎に電極フィンガーの周期性が変わり、それに伴って部分トラックの中心周波数も変化する。それ故に固有の波長/中心周波数が各部分コイルに相応する。横方向においては電極フィンガーは先細(テーパー状)となり、フィンガー周期とそれに結び付く波長は低減する。
【0019】
個々の部分トラックの伝達関数の重畳は、広帯域なフィルタ特性につながる。フィルタの広帯域特性は部分トラックの中心周波数の最大差分に依存している。フィルタ特徴のエッジ急峻性は特に最低中心周波数と最高中心周波数を有する部分トラックの伝達関数のエッジ急峻性によって定まる。FAN変換器における部分トラックの選択及び/又はエッジ急峻性は、音響的部分トラック内部の個々のセルの適切な位相重み付けと、音響トラックの様々な部分トラックの異なる重み付け関数によって高めることが可能である。
【0020】
FAN変換器を備えた公知のフィルタでは通常は通過領域の比較的高いエッジ急峻度がFAN変換器の延在によって得られている。ここで表されている位相重み付けによって、高いエッジ急峻度のバンドパスフィルタが既に比較的僅かな変換器長さによって得られている。
【0021】
位相重み付けによれば、所定の周波数のもとで相互に重畳する部分信号が異なる部分トラックによってトリガされ得る。それによりフィルタの選択も特に不所望な極大値の臨界的領域において所期のように改善され得る。このことは特に近接する遮断領域に該当する。
【0022】
位相重み付けは、比較的少ない挿入損でFANフィルタを実現したいときにも用いることができる。少ない挿入損は基板材料に高い結合係数を求める。しかしながらそのような材料は大抵は高い温度係数を有している。位相重み付けは、温度ドリフトの高まりにもかかわらずこの点における特異性が維持されかつ結合係数の拡大によって挿入損が低減できる限りは、構造部の長さを不変のままでエッジ急峻度を高めることを可能にする。
【0023】
有利な変化実施例によれば、2つの同種のセルが相互に対向的に縦方向においてスケーリングされ得る。その場合は一方のセルの幾何学構成が他方の構成へ圧縮ないしは伸張によって移行し得る。さらなる変化実施例によれば、2つの同種のセルが実質的に同等に構造化されたフィンガーグループを有する(但しこれらはグループの最後のフィンガーとこれに対向する次のセルのフィンガーとの間の間隔が相互に異なる)。
【0024】
"通常"のセルはある長さを有している。そのため部分トラックの中心周波数に相応する波長を有する音響波がこのセルを通過する際にはφ=2πnの位相回転を受ける。この音響波がセルの通過の際に比較的僅かな位相回転φ′=2πn−Δφ>φを受けた場合(0<Δφ<π/2)、このセルは圧縮されたセルとして表される。この音響波がセルの通過の際に比較的大きな位相回転φ′=2πn+Δφ>φを受けた場合(0<Δφ<π/2)、このセルは伸張したセルとして表される。
【0025】
部分トラックにおいて縦方向xに沿ってセル毎に達成される位相回転φの分布φ(x)は有利には、2つの異なる部分トラックの場合には相違する。部分トラックの分布φ(x)は有利には非対称である。
【0026】
入出力変換器を備えたフィルタにおいては有利には2つの変換器が前記したように位相重み付けを施される。
【0027】
この変換器は矩形状の輪郭を有するFAN変換器として構成されてもよい。その場合には全ての部分トラックの縦方向の絶対長さが実質的に一定であるが、比較的高い中心周波数を有する部分トラックの波長内で測定される長さは、比較的低い中心周波数を有する部分トラックの波長内で測定される長さよりも大である。
【0028】
この変換器は縦方向において部分変換器に分割されてもよい。1つの変換器における縦方向において隣接する、すなわち1つの同じ音響トラック内に配置される複数の部分変換器は互いに直列に接続されてもよい。そのような接続構成は業界用語ではV形スプリットとして公知である。この場合はWO 97/10646号パンフレットの全容が参照される。
【0029】
ある変換器は音響トラック内部において複数の相互に直列に接続された部分変換器を含み得る。
【0030】
この変換器は相互に直列に接続された異なる長さの部分変換器に分割されていてもよい。変換器における励起はそのような変換器の位相重み付けによって設定が可能である。
さらにバンドパスフィルタは2トラック形の反射器フィルタに接続されたFAN変換器を含み得る。FAN変換器は特にZパス形フィルタに接続させてもよい。
【0031】
別の変化実施例によれば、FAN変換器は、n個(n≧3)の変換器を備えたマルチ変換器フィルタに接続される。この場合入出力変換器は交互に配置される。その場合入力変換器は相互に並列に接続されて入力ポートに接続される。出力変換器も相互に並列に接続されて出力ポートに接続される。
【0032】
FAN変換器のフィンガーエッジは通常は互いに並置されない。FAN変換器の焦点は変換器の延在を表すと考察される線の交点で表される。
【0033】
バンドパスフィルタは1つのトラック内に配置される複数のFAN変換器も含み得る。これらの変換器は1つの同じ焦点を有する。バンドパスフィルタは代替的に1つのトラック内に配置される複数のFAN変換器からなる変換器装置を含み得る。その場合各変換器はその唯一の焦点を有し、他の変換器の焦点とは異なっている。
【0034】
バンドパスフィルタは、前述してきたような複数の変換器とさらに少なくとも1つのさらなる変換器を含み得る。
【0035】
このバンドパスフィルタは、前述してきたFAN変換器の他に少なくとも1つのさらなる変換器を含み得るが、それは並列なフィンガーエッジを有しているFAN変換器ではない。
【0036】
バンドパスフィルタは、前述してきた少なくとも1つの第1の変換器の他に第2の変換器を含み得る。この場合第1及び第2の変換器は音響トラック内に配置されており、さらにこの音響トラック内で第1の変換器と第2の変換器の間には金属化構造部(シールドバー)が設けられている。そのような金属化構造部は例えば電磁的なクロストークの遮蔽や音響トラックが分割されている個々の部分トラック内の種々異なる信号伝播の適合化のために用いられる。
【0037】
以下の明細書では当該フィルタを実施例と所属の図面に基づいて詳細に説明する。これらの図面は概略的に示されているだけで必ずしも縮尺通りではなく、様々な実施例を表している。また同じ構成要素若しくは同じ機能の構成要素には同じ符号が付されている。具体的には、
図1は、種々異なる位相重み付けのなされた部分トラックを有するFAN変換器の概略的な平面図であり、
図2は、公知フィルタの伝達機能(関数)と対比させた図1によるFAN変換器を有するフィルタの伝達機能(関数)を表した図であり、
図3は、従来形変換器を備えたフィルタの伝達機能と振幅特性曲線並びに部分トラックの振幅特性曲線を表した図、
図4は、図1による変換器を備えたフィルタの伝達関数と振幅特性曲線並びに部分トラックの振幅特性曲線を表した図、
図5は、1つの変換器における複数のセルのスケーリングを表した図、
図6は、同一のフィンガーグループを備えた異なる長さを有するセルのシーケンス、
図7は、FAN変換器として構成されている、各々1つの入力変換器と出力変換器を備えたフィルタを表した図、
図8は、1つの変換器における任意に選択された2つの部分トラックにおける複数のセルのスケーリングを表した図である。
【0038】
実施例
図1には広帯域フィルタに使用される変換器W1が部分的に概略的に示されており、この変換器は横方向に10個の部分トラックT1〜T10に分割された音響トラックを有している。この音響トラック内では音響表面波が励起される。
【0039】
セルの励起は、−1〜1の規格化された値Eをとる。セルの反射は、−1〜1の規格化された値Rをとる。変換器は励起関数E(x)と反射関数R(x)によって特徴付けられる。この場合の符号xは有利には波長伝播方向に一致する縦方向である。
【0040】
変換器W1は縦方向においてN個のセルに分割されており、そのうちの5つのセルC1〜C5が示されている。セルC1、C2,及びC4は、E=1,R=1の第1のセルタイプに属し、セルC3及びC5はE=1,R=0の第2のセルタイプに属する。
【0041】
部分トラックT1〜T10は、複数のセルからなる同じシーケンスを有している。これらの部分トラックT1〜T10は種々異なる中心周波数を有し、この場合部分トラックT1が最も高い中心周波数を有し、部分トラックT10は最も低い中心周波数を有している。中心周波数は、部分トラックのオーダー数の高まりと共に低減する。
【0042】
各部分トラックは位相重み付けされており、すなわち順次連続する複数のセルが当該部分トラックの領域において異なるスケーリング係数を有するフィルの中心周波数に対向的にスケーリングされる。j=1〜Nの部分トラックの重み付け関数F(Cj)は、セルC1〜CNに依存したスケーリング計数Fの1つの関数を表している。
【0043】
変換器W1の部分トラックT1〜T10は、様々な重み付け関数F(Ti、Cj)で重み付けされており、この場合はi=1〜Mは、M個の部分トラックを有する部分トラックのオーダー数である。図1ではM=10である。
【0044】
以下に記載するテーブルでは、10個の部分トラックに分割された図1による変換器の5つのセルに対する重み付け関数F(Ti、Cj)が示されている。
【0045】
テーブル:部分トラックT1〜T10におけるセルC1〜C5の長さに対するスケーリング係数F(Ti,Cj)、これらの値はフィルタの中心周波数F=594MHzに相応する基準セルの長さに関連する
【表1】

【0046】
スケーリング係数F(Ti,Cj)>1は、その中心周波数がフィルタの中心周波数に一致する基準セルに対するオーダー数iの部分トラックの領域において、オーダー数jのそのつどのセルの伸張に相応している。スケーリング係数F(Ti,Cj)<1は基準セルに比べて圧縮されたセルに相応する。
【0047】
部分トラック内のセルは、異なるスケーリング係数でスケーリングされる。すなわちこれらのセルは相互に異なるセル長さを有している。例えば第1の部分トラックT1においては第1のセルC1が最も強く伸張し、第2のセルC2では最も強く圧縮されている。第6の部分トラックT6内では、第1のセルC1が最も強く伸張し、第3のセルC3は最も強く圧縮された。第10の部分トラックT10内では、第4ののセルC4が最も強く伸張され、第5のセルC5は最も強く圧縮された。
【0048】
図2には図1による位相重み付けされた変換器を有するフィルタの伝達関数1(散乱パラメータ|S21|)が同じ中心周波数を有するフィルタ(この変換器はいずれにせよ位相重み付けされていない)の伝達関数2(散乱パラメータ|S21|)と比較されて示されている。第1のフィルタの通過領域は、同じ帯域幅のもとではより高いエッジ急峻度を有している。位相重み付けによって新たに可能となった自由度は選択の改善のためにも利用できる。
【0049】
従来の変換器を備えたフィルタと位相重み付けされた変換器を備えたフィルタは部分トラックの位相重み付けまでは、変換器長さ、アパーチャ、電極フィンガーの層厚さ、SPUDTセルのシーケンス、中心周波数などと同じパラメータを有する。
【0050】
図3には、従来の変換器を備えたフィルタの個々の部分トラックのアドミタンス特性曲線41,42,43(伝達導電値"Uebertragungsleitwert"|Y21|)、並びに伝達関数2(|S21|)及び当該フィルタのアドミタンス特性曲線20(|Y21|)が示されている。図3及び図4における左方のスケールはアドミタンス特性曲線(|Y21|)の振幅の値を表し、右方のスケールは電気的な適応化の際の|S21|の振幅の値を表している。
【0051】
アドミタンス特性曲線41,42,43は、それぞれ実質的に同じ急峻度の左方エッジと右方エッジを有し、そのつどの通過領域の中心周波数に関してはほぼ対称である。
【0052】
図4には、図1に部分的に概略的に示されている実施形態による変換器を備えたフィルタの個々の部分トラックT1〜T10のアドミタンス特性曲線31,32,33,310(伝達導電値Y21)並びにその伝達関数1(|S21|)及びアドミタンス特性曲線10(|Y21|)が示されている。特性曲線31は、部分トラックT10に相応し、特性曲線32と33は、部分トラックT9ないしT8に相応している。特性曲線310は、部分トラックT1に相応する。
【0053】
最も低い中心周波数ないしは最も高い中心周波数を有する部分トラックのアドミタンス特性曲線31,310は、そのつどの部分トラックの中心周波数に比べて非対称である。最も低い中心周波数を備えた部分トラックのアドミタンス特性曲線31は特に急峻な左方エッジを有し、これはフィルタの左方エッジの急峻度を定めている。最も高い中心周波数を有する部分トラックのアドミタンス特性曲線310は、特に急峻な右方エッジを有する。これはフィルタの右方エッジの急峻度を定めている。それぞれ急峻なエッジの急峻度は、部分トラックの相応の位相重み付けによってそれぞれ別のエッジのコストまで達成される。
【0054】
それに対してそれらの中心周波数がフィルタの中心周波数から離れていない部分コイルは、その伝達関数(アドミタンス特性曲線)が実質的に対称となるように構成されている。
【0055】
図5及び図6には、長手方向でセルZ1,Z2,Z1′、Z3′,Z2′,Z1″に分割されている音響トラックを備えた変換器のそれぞれ概略的な部分図が示されている。これらの図面に示されている音響トラックの説明はそれぞれFAN変換器の部分トラックに当てはまる。
【0056】
セルZ1及びセルZ2は異なって構成されているが、しかしながら同じ周波数(音響トラックの中心周波数)に適合化されている。セルZ1′,Z2′,Z3′,は、位相重み付けされたセルである。
【0057】
この場合図5による実施例においては幾何学的な趣旨において第1のセルタイプのセルZ1及びZ1′が類似しており、互いに相応のスケーリングによって縦方向に移行され得る。セルZ1の絶対長さL1は、(ここでは当該セルの第1のフィンガー102の左方のエッジからそれに続くセルZ2の第1フィンガー102の左方エッジまで測定されている)この場合スケーリングされているセルZ1′の長さL1′とは異なっている。これにより音響波はこれらの2つのセルの通過の際に異なる伝播区間を進行し、そのため異なる位相回転も受ける。このようにして音響波には次のセル(Z2ないしZ3)の開始の際の初期フェーズを有利に設定できる。
【0058】
第1のセルタイプに属するZ1″もセルZ1に対してはスケーリングされない。
【0059】
セルZ2及びZ2″は第2のセルタイプのセルであり、第1のセルタイプのセルのように相互に対抗的にスケーリングされ、その際には異なるセルタイプ毎にスケーリングレベルが同じように若しくは異なるように選択可能である。
【0060】
セルZ1及びZ1′は、反射的にも励起的にも作用する。セルZ2及びZ2′は励起的にも反射的にも作用しない。
【0061】
図6による変化実施例においては、音響トラックの中心周波数に適合化されたセルZ1,Z1″,Z2,及び位相重み付けされたセルZ1′,Z2′,Z3′がそれぞれ唯一の電極フィンガーグループFG1,FG2ないしFG3を有している。これらのグループはそれぞれのセルの全ての電極フィンガーを含む。
【0062】
第1のセルタイプのセルZ1及びZ1′は、当該変化実施例においてはそれぞれ同じように構成された電極フィンガーグループFG1を有している。
【0063】
但しセルZ1とZ1′は異なる長さである。同じセルタイプの機能セルにおける異なるセル長さは次のことによって達成される。すなわち、相応する機能セルZ1のフィンガーグループFG1の最後のフィンガー110と次のセルZ2の第1のフィンガー111との間の間隔Lが、変調される機能セルZ1′のフィンガーグループFG1の最後のフィンガー110′とセルZ3の最初のフィンガー111′との間の間隔L′とは異なることによって達成される。
【0064】
それと同じように、第2のセルタイプのセルZ2とZ2′もそれぞれ同じように構成された電極フィンガーグループFG2を有している。セルZ2′はセルZ2に対して前述したように変調される。
【0065】
図7には、入出力変換器W1,W2を備えたフィルタが概略的に平面図で示されており、これらの変換器は例えば図1による変換器のようにFAN変換器として構成されている。入力変換器W1において生成された音響波は、当該変換器の相応に選択されたSPUDTセル配置構成によって有利には出力変換器W2の方向に放射される。
【0066】
これまでの公知のFAN変換器においては、(中心周波数と各部分トラックの波長に関連する)励起中心と反射中心の分散が部分トラック毎に同じであった。部分トラックのフィンガーシーケンスは、縦方向における圧縮若しくは伸張のような類似性の変換によって同じFAN変換器の別の部分トラックのフィンガーシーケンスへ移行されてもよい。部分トラック内で順次連続する複数のセルは、公知のFAN変換器において各セルの通過の際の音響波の同じ位相回転に結びつく長さを有している。
【0067】
前述してきた部分トラックの位相重み付けによってFAN変換器においては励起中心と反射中心の分散が部分トラック毎に異なって設定される。セルシーケンスは部分トラック毎に相互に同じではあるが、しかしながら1つの部分トラック内で順次連続するセルは相互に異なる長さを有する。その上さらにこれらの部分トラックは有利には相互に異なる位相重み付けを有しており、この場合は特に最も低い中心周波数を有する部分トラックと最も高い中心周波数を有する部分トラックがその他の部分トラックとは異なって重み付けされている。
【0068】
変換器W1とW2は、相互に異なる長さないしは相互に異なる数のセルを音響トラック内で有する。相応する部分トラックの位相重み付けは、有利には2つの変換器において異なっている。変換器幾何学構成の最適化の際には各部分トラックにおける各セルの長さは同じ部分トラック内の別のセルに依存することなく最適化される。
【0069】
ここで説明しているフィルタは帯域幅やエッジの急峻性並びに選択において高い要求を満足するものである。
【0070】
このフィルタは図に示されている実施例に限定されるものではない。図1に示されているセルタイプの他にもさらなるセルタイプが考察可能である。有利にはこれらはSPUDTセルとして分類されるセルタイプである。
【0071】
FAN変換器のフィンガーエッジは通常は横方向からずれて延在する。つまり波長の伝播方向に垂直な方向には延在しない。
【0072】
音響トラックは基本的には任意の数の部分トラックに分割されていてもよい。有利には1つの部分トラック内においてフィンガーエッジが実質的に横方向に延在することが受け入れられるように分割される。
【0073】
部分トラックのフィンガーエッジは、有利な変化実施例においては波長の伝播方向に対して垂直方向に延在し得る。その場合には電極フィンガーが部分トラック間で移行しているところに段部を有している。
【0074】
また別の変化実施例においては、最も低い中心周波数と最も高い中心周波数を有する部分トラックが変換器において終端に配置される。しかしながらこの変換器は別の変化実施例においては次のように湾曲した電極フィンガーを有する。すなわち最も高い中心周波数を有する部分トラックが変換器において中心に配置されるように湾曲した電極フィンガーを有する。
【0075】
またFAN変換器において前述してきた位相重み付けの他に、部分トラック毎に狭幅なフィンガーと広幅なフィンガーの連続が変更されてもよい。
【0076】
図8には位相重み付けの説明のために、任意に選択された2つの部分トラックTi及びT(i+x)を有する変換器が部分的に概略的に示されている。この場合Tiは第1の部分トラックでT(i+x)は第2の部分トラックである。インデックスi及び(i+x)は部分トラックのオーダー数に関連する。
【0077】
cj及びc(j+1)は、オーダー数jと(j+1)を有するセルである。部分トラックT(i+x)内に配置されたセルCjとそれに対応する部分コイルTi内に配置されるセルcjが同じオーダー数に属する有利には同じセルタイプに属する。このことはオーダー数(j+1)を有する相互に対応するセルC(j+1)に対しても当てはまる。この場合セルcj及びc(j+1)は別の有利な変化実施例においては様々なセルタイプに属し、さらに別の変化実施例においては同じセルタイプに属するものであってもよい。
【0078】
部分トラックT(i+x)内に配置されたセルcjは長さL1を有し、それに対応する部分トラックTi内に配置された同じオーダー数のセルCjは長さL1′を有する。部分トラックT(i+x)内に配置されたセルc(j+1)は長さL2を有しており、部分トラックTi内に配置された同じオーダー数の相応するセルc(j+1)は長さL2′を有している。セル長さの比a1=L1/L1′は、セル長さの比a2=L2/L2′とは異なっている。この例ではa1>1とa2<1が当てはまる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】種々異なる位相重み付けのなされた部分トラックを有するFAN変換器の概略的な平面図
【図2】公知フィルタの伝達機能(関数)と対比させた図1によるFAN変換器を有するフィルタの伝達機能(関数)を表した図であり
【図3】従来形変換器を備えたフィルタの伝達機能と振幅特性曲線並びに部分トラックの振幅特性曲線を表した図
【図4】図1による変換器を備えたフィルタの伝達関数と振幅特性曲線並びに部分トラックの振幅特性曲線を表した図
【図5】1つの変換器における複数のセルのスケーリングを表した図
【図6】同一のフィンガーグループを備えた異なる長さを有するセルのシーケンス
【図7】FAN変換器として構成されている、各々1つの入力変換器と出力変換器を備えたフィルタを表した図
【図8】1つの変換器における任意に選択された2つの部分トラックにおける複数のセルのスケーリングを表した図
【符号の説明】
【0080】
1 位相重み付けされた変換器を備えたフィルタの伝達関数|S21
10 位相重み付けされた変換器を備えたフィルタの伝達関数|Y21
2 従来の変換器を備えたフィルタの伝達関数|S21
20 従来の変換器を備えたフィルタの伝達関数|Y21
31, 32, 33, 310 位相重み付けされた変換器を備えたフィルタの部分トラックの伝達誘導値|Y21
41, 42, 43 従来の変換器を備えたフィルタの部分トラックの伝達誘導値|Y21
101 セルZ1の第1のフィンガー
102 セルZ2の第1のフィンガー
102′ セルZ3′の第1のフィンガー
110 セルZ1終端のフィンガー
110′ セルZ1′終端のフィンガー
Cl〜C5 セル
FG1 第1のセルタイプZ1,Z1′のセルのフィンガーグループ
FG2 第2のセルタイプZ2,Z2′のセルのフィンガーグループ
FG3 セルZ3′のフィンガーグループ
L セルZ1終端のフィンガーとそれに続くセルZ2の第1のフィンガーとの間の伝播区間
L′ セルZ1′終端のフィンガーとそれに続くセルZ3′の第1のフィンガーとの間の伝播区間
L1, L1′ セル長さ
T1〜T10 部分トラック
W1 入力変換器
W2 出力変換器
Z1, Z1″ 第1のセルタイプのセル
Z1′ 位相重み付けされた第1のセルタイプのセル
Z2 第2のセルタイプのセル
Z2′ 位相重み付けされた第2のセルタイプのセル
Z3′ 位相重み付けされたセル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ1つの通過領域を有する複数の部分フィルタを含み、異なる部分フィルタの通過領域が相互に異なった中心周波数を有しているバンドパスフィルタにおいて、
最も低い中心周波数を備えた部分フィルタは、その低周波な信号エッジがその高周波な信号エッジよりも急峻である通過領域を有しており、さらに、
最も高い中心周波数を備えた部分フィルタは、その高周波な信号エッジがその低周波な信号エッジよりも急峻である通過領域を有していることを特徴とするバンドパスフィルタ。
【請求項2】
前記フィルタは音響表面波によって動作している、請求項1記載のバンドパスフィルタ。
【請求項3】
前記フィルタは、横方向で複数の部分トラック(T1〜T10)に分割されている音響トラックを備えた変換器を有しており、この場合各部分トラック(T1〜T10)が1つの部分フィルタを形成している、請求項2記載のバンドパスフィルタ。
【請求項4】
前記変換器は電極フィンガーを有し、該電極フィンガーの長手方向エッジは少なくとも部分的に当該変換器の長手方向に対して傾斜した方向に延在している、請求項2または3記載のバンドパスフィルタ。
【請求項5】
前記変換器は電極フィンガーを有し、該電極フィンガーの長手方向エッジは段部を有し、さらに前記電極フィンガーの長手方向エッジの区分がそれぞれ音響波伝播方向に対して垂直に配置されている、請求項2または3記載のバンドパスフィルタ。
【請求項6】
前記変換器は次のように湾曲した電極フィンガーを有している、すなわち最も高い中心周波数を備えた部分トラックが変換器の中で中心に配置されるように湾曲した電極フィンガーを有している、請求項2または3記載のバンドパスフィルタ。
【請求項7】
各部分トラック(T1〜T10)は縦方向において順次連続したN個の音響的セルに分割されている、請求項3から6いずれか1項記載のバンドパスフィルタ。
【請求項8】
前記部分トラック(T1〜T10)は異なるセルタイプのセルを有しており、該セルタイプは隠せるの電極フィンガーの接続シーケンスによって定められている、請求項7記載のバンドパスフィルタ。
【請求項9】
前記各セルが、当該セルの始端から次に続くセルの始端まで測定される伝播区間を有しており、この場合各セルはその順序に応じて、オーダー数1≦j≦Nが割当てられ、少なくとも1つのオーダー数毎1≦j≦N−1に対しては以下の関係がなりたっている、すなわち、
第1及び第2の部分トラック(T1〜T10)内に設けられたオーダー数jのセル(112,122)の伝播区間の割合はa1であり、第1及び第2の部分トラック(T1〜T10)内に設けられたオーダー数j+1のセル(112,122)の伝播区間の割合はa2であり、さらにa2≠a1の関係がなりたっている、請求項7または8記載のバンドパスフィルタ。
【請求項10】
a1>1及びa2<1の関係、若しくはa1<1及びa2>1の関係がなりたつ、請求項9記載のバンドパスフィルタ。
【請求項11】
第2の部分トラックの第1のセルが縦方向において第1の部分トラックの第1のセルに対し計数F1でスケーリングされており、この場合第2の部分トラックの第2のセルは、縦方向において第1の部分トラックの第2のセルに対して計数F2≠F1でスケーリングされている、請求項9記載のバンドパスフィルタ。
【請求項12】
F1>1及びF2<1の関係、若しくはF1<1及びF2>1の関係がなりたつ、請求項11記載のバンドパスフィルタ。
【請求項13】
異なる部分トラック(T1〜T10)内に配置された同じオーダー数 1≦j≦Nを有するセルは同じセルタイプに属している、請求項9から12いずれか1項記載のバンドパスフィルタ。
【請求項14】
1つのセル(Z1,Z1′,Z2,Z2′,C1〜C5)の全ての電極フィンガーが共に1つの電極フィンガーグループ(FG1,FG2)を形成しており、この場合第1及び第2の部分トラック(T1〜T10)内に配置されたオーダー数jのセル(Z1,Z1′,C1〜C5)は、各部分トラックの中心周波数のもとでの波長に合わせて規格化され実質的に同じように構成された電極フィンガーグループ(FG1)を有しており、前記セル(Z1,Z1′,C1〜C5)に対しては以下の関係が成り立っている、すなわち、
各部分トラックの中心周波数のもとでの波長に合わせて規格化されている、セル(Z1)終端の電極フィンガー(110)とそれに続くセルの前記電極フィンガーに対向した電極フィンガー(102)との間の間隔(L)と、第2の部分トラック内における対応する間隔(L′)が異なるように選択されている、請求項9または10記載のバンドパスフィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2008−532392(P2008−532392A)
【公表日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−557343(P2007−557343)
【出願日】平成18年1月4日(2006.1.4)
【国際出願番号】PCT/EP2006/000037
【国際公開番号】WO2006/092184
【国際公開日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【出願人】(300002160)エプコス アクチエンゲゼルシャフト (318)
【氏名又は名称原語表記】EPCOS  AG
【住所又は居所原語表記】St.−Martin−Strasse 53, D−81669 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】