説明

パイロット制御装置

【課題】 パイロット制御装置に関し、簡素な構成で、簡素な構成かつ低コストで、高度な制御性及び応答性を実現できるようにする。
【解決手段】 作業装置のオペレータに操作されて、その操作量に応じた電気信号を出力する操作装置1と、入力された電気信号の大きさに応じた油圧の第1パイロット圧油を出力する第1電油変換弁2と、電気信号の入力時に所定圧の第2パイロット圧油を出力する第2電油変換弁3と、第1パイロット圧油と第2パイロット圧油とのうちいずれか高圧の一方を選択し、制御弁6のパイロット圧油として出力する高圧選択弁5と、制御弁6のパイロット圧を検出するパイロット圧検出手段4と、パイロット圧と電気信号とに応じて、第2電油変換弁3へ出力される電気信号を伝達又は遮断するコントローラ7とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の油圧駆動式の作業装置を搭載した作業機械において、作業装置を駆動するアクチュエータへの作動油流量を調整する制御弁のパイロット圧を制御するのに用いて好適な制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベル等の油圧駆動系作業装置を搭載した作業機械には、作動油によって作業装置(例えばブーム装置やスティック装置,バケット装置等)を駆動するための油圧回路が構成されている。この油圧回路上には、エンジンの動力で作動する油圧ポンプや、油圧ポンプから供給される作動油によって各作業装置を駆動する油圧アクチュエータ、油圧ポンプと各油圧アクチュエータとを連結する油圧回路上に介装された制御弁、制御弁を開閉制御する操作装置等が設けられるようになっている。
【0003】
一般に操作装置は、作業機械のキャブ室内に操作レバーとともに設けられるようになっており、操作レバーの操作量に応じて制御弁の開度を制御することによって、各油圧アクチュエータへ供給される作動油流量をコントロールし、各作業装置に所望の動作をさせることができるようになっている。
このような油圧駆動式の作業機械の操作装置には、例えば特許文献1に記載されたものがある。この特許文献1に記載の技術では、操作入力に比例した圧力、すなわち、パイロット圧をパイロットラインに発生させる操作レバーが用いられている。そして、パイロットラインに発生した圧力を制御弁(パイロット駆動式制御弁)のスプール両端の受圧部へ導入することによって、制御弁を開閉制御できるようになっている。
【0004】
ところで、特許文献1に記載されたような操作装置を用いた場合、操作レバーが備えられるキャブ室内と油圧回路上に介装される制御弁との間を、パイロット圧を伝達するパイロットラインで連結しなければならないため、車両上に多くのパイロットラインを這わすことになり、組立工数の低減及びコスト削減が難しい。
そこで近年、操作レバーと制御弁とをパイロットラインで連結するのではなく、図9に示すブロック構成図のように、操作レバーと制御弁とを電気回路で接続して、制御弁を電気的に制御する制御装置が開発されている。
【0005】
例えば、図9に示すように、操作量に応じた大きさの電気信号を出力する電気操作レバー1と、電気操作レバー1から出力された電気信号を制御弁6へのパイロット油圧信号へ変換する電油変換弁2とを備えた制御装置を作業機械の油圧回路に適用することにより、キャブ室内と制御弁6との間を連結するパイロットラインを廃して油圧ラインの簡素化を図ることができるようになっている。
【特許文献1】特開平9−273180号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図9に示されたような、入力された電気信号を制御弁6のパイロット油圧信号に変換して制御を行う方式の制御装置(以下、単に電子−油圧パイロット式の制御装置ともいう)では、制御弁6のパイロット油圧信号を出力する電油変換弁2に高度な制御性が求められるため、減圧弁方式の変換弁が用いられるようになっている。しかし、減圧弁方式の変換弁では、電気信号をパイロット油圧信号へ変換する際に生じる僅かな応答遅れによって、電気操作レバー1の操作に対する制御弁6の反応に僅かな遅れが生じる。
【0007】
つまり、電子−油圧パイロット式の制御装置では、電気信号の伝達及び変換にかかる時間分の僅かなロスによって、特許文献1に記載されたような操作レバーと制御弁とが直接パイロットラインで連結されたものよりも、応答性を向上させることが難しく、オペレータの操作感にもたついた印象を与えかねない。したがって、電子−油圧パイロット式の制御装置を用いて従来のものと略同一の応答性を確保しようとすると、応答性能の優秀な高価な変換弁を用いる必要が生じてコスト高を招いてしまう。
【0008】
一方、図9に示されたような制御装置において、電油変換弁2を用いず、電気信号によって直接制御弁6を制御する方法も考えられる。しかしこの場合、制御弁6のスプールを駆動しうる大きな動力を電気的に発生させる必要が生じるため、スプールを駆動する装置が別個に必要となり、却ってコスト高となってしまう。
本発明は、このような課題に鑑み案出されたもので、簡素な構成かつ低コストで、高度な制御性及び応答性を実現できるようにした、パイロット制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目標を達成するため、本発明のパイロット制御装置(請求項1)は、油圧駆動式の作業装置を搭載した作業機械において、パイロット圧を制御されて該作業装置を駆動するアクチュエータへの作動油流量を調整する制御弁の制御装置であって、該作業装置のオペレータに操作されて、その操作量に応じた電気信号を出力する操作装置と、該操作装置から入力された該電気信号の大きさに応じた油圧の第1パイロット圧油を出力する第1電油変換弁と、該電気信号の入力時に所定圧の第2パイロット圧油を出力する第2電油変換弁と、該第1パイロット圧油と該第2パイロット圧油とのうちいずれか高圧の一方を選択し、該制御弁のパイロット圧油として出力する高圧選択弁と、該高圧選択弁を介して該制御弁へ出力された該パイロット圧油の該パイロット圧を検出するパイロット圧検出手段と、該パイロット圧検出手段で検出された該パイロット圧と該操作装置から入力された該電気信号とに応じて、該操作装置から該第2電油変換弁へ出力される該電気信号を伝達又は遮断するコントローラとを備えたことを特徴としている。
【0010】
例えば、該コントローラは、該操作装置から入力された該電気信号に基づいて算出される目標パイロット圧と該パイロット圧検出手段で検出された該パイロット圧との差が所定圧以上である場合に該電気信号を該第2電油変換弁へ伝達し、該所定圧未満である場合に該電気信号の該第2電油変換弁への伝達を遮断する(請求項2)。
また、例えば、該目標パイロット圧は、該操作装置から入力された該電気信号が大きいほど、高く設定される(請求項3)。
【0011】
さらに、例えば、該目標パイロット圧は、該オペレータによる該操作装置の操作速度が大きいほど、高く設定される(請求項4)。
さらに、例えば、該コントローラは、該操作装置から該第2電油変換弁へ該電気信号を伝達する回路上に介装されて、該電気信号の伝達及び遮断を切り換える切り換え手段を有する(請求項5)。
【発明の効果】
【0012】
本発明のパイロット制御装置(請求項1)によれば、簡素な構成及び低コストで、電気信号の入力に応じた良好な応答性と電気信号の大きさに応じた良好な制御性と両立させた制御弁のパイロット制御を実現できる。
また、本発明のパイロット制御装置(請求項2)によれば、パイロット圧の立ち上がりが遅れた場合に、所定圧の第2パイロット圧油を高圧選択弁へ出力することができ、応答性よく制御弁のパイロット制御を行うことができる。
【0013】
また、本発明のパイロット制御装置(請求項3)によれば、オペレータによる操作装置の操作量が大きいほど、電気信号を第2電油変換弁へ伝達させやすくすることができ、応答性を向上させることができる。
また、本発明のパイロット制御装置(請求項4)によれば、オペレータによる操作装置の操作速度が大きいほど、電気信号を第2電油変換弁へ伝達させやすくすることができ、オペレータの応答性への要求の度合いに応じて応答性を向上させることができる。
【0014】
また、本発明のパイロット制御装置(請求項5)によれば、コントローラの構成をシンプルにすることができ、第2電油変換弁へ出力される電気信号の伝達又は遮断を容易に制御することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面により、本発明の実施の形態について説明する。
図1〜図8は本発明の一実施形態にかかるパイロット制御装置を示すものであり、図1は本装置が適用された油圧回路の全体構成を模式的に示すブロック構成図、図2は本装置の作用・効果を説明するためのグラフであり、(a)は電気操作レバー操作時におけるのレバー操作量の時間変化を示すグラフ、(b)は電気操作レバーから出力される電流値の時間変化を示すグラフ、(c),(d)は電油変換弁から出力されるパイロット圧の時間変化を示すグラフ、(e)は制御弁のスプールストロークの時間変化を示すグラフ、図3は本装置の電気操作レバーから出力される電流値とレバー操作量との関係を示すグラフ、図4は、本装置の電気操作レバーから出力される電流値とそれに基づいて設定される目標パイロット圧との関係を示すグラフ、図5は本制御装置における制御内容を説明するためのフローチャート、図6は本発明のパイロット制御装置が適用された作業機械の全体構成を示す模式的斜視図である。また、図7は本発明の変形例としてのパイロット制御装置における電流値と目標パイロット圧との関係を示すグラフであり、図8は本発明の変形例としてのパイロット制御装置が適用された油圧回路の全体構成を示すブロック構成図である。
【0016】
[構成]
図6に、本発明の一実施形態としてのパイロット制御装置(電子−油圧パイロット式の制御装置)が適用された作業機械を示す。この作業機械11は、無限軌道の走行装置(クローラ)を設けられた下部走行体12と、下部走行体12の上部に旋回可能に載架された上部旋回13とを備えて構成されている。
【0017】
上部旋回体13には、その骨組みをなすスイングフレーム上に、作業機械11の駆動源となるエンジン10や油圧ポンプ9,掘削や揚重等の各種作業を行うための作業装置14及びオペレータが搭乗するキャブ13等が備えられている。また、作業装置14は、ブーム装置やスティック装置,バケット装置等の独立作動部位から構成されており、各作動部位に対して各々を駆動するための油圧式アクチュエータ(油圧シリンダ、以下単にアクチュエータともいう)8が設けられている。
【0018】
図1に本パイロット制御装置が適用された油圧回路の全体構成を模式的に示す。
まず、作業装置14を作動させるための本油圧回路には、エンジン10の動力によって駆動する油圧ポンプ9が備えられており、油圧ポンプ9から吐出された作動油が制御弁6を介して各アクチュエータ8へ供給されるようになっている。なお、ここでは、複数のアクチュエータ8のうちのひとつを代表して示している。
【0019】
制御弁6は、ステム(流量制御スプール)の位置を切り替えて作動油の流通方向及び流量を可変制御できるスプール弁として構成されている。また、制御弁6のステム位置の切り替え及びその弁開度は、パイロットライン5aから導入されるパイロット圧に応じて設定されるようになっている。例えば、パイロット圧が大きくなると、ステムの移動量が大きくなって制御弁6の開度が開放方向へ制御されて、油圧ポンプ9からアクチュエータ8への作動油流量が増加するようになっている。また、パイロット圧が小さくなると、ステムの移動量が小さくなって制御弁8の開度が閉鎖(絞り)方向へ制御されて、油圧ポンプ9からアクチュエータ8への作動油流量が減少するようになっている。
【0020】
制御弁6のパイロットライン5a側には、電気操作レバー(操作装置)1,電油変換弁(第1電油変換弁)2,電油変換オンオフ弁(第2電油変換弁)3,油圧センサ(パイロット圧検出手段)4,高圧選択弁5及びコントローラ7が備えられている。
電気操作レバー1は、作業機械11のオペレータに操作されて、その操作量に応じた電気信号をアクチュエータ8の作動量の指標として出力するようになっている。
【0021】
なお、ここでは、電気操作レバー1の操作量に応じた電気信号として、図3に示すような対応関係で電流値(電流の大きさ)Aが出力されるようになっている。すなわち、電気操作レバー1が何も操作されていない状態では出力される電流値が0であり、電気操作レバー1の操作量が大きくなるほど大きな電流値の電流が出力され、電気操作レバー1がフル操作されたときに電流値A1の電流が出力されるようになっている。出力された電流値Aは、コントローラ7へ入力されるようになっている。
【0022】
このコントローラ7は、電気操作レバー1から出力された電流値Aの電気信号を電油変換弁2及び電油変換オンオフ弁3へ出力するようになっている。
まず、電油変換弁2に対しては、入力された全ての電気信号をそのまま伝達するようになっている。一方、電油変換オンオフ弁3に対しては、後述する油圧センサ4で検出されたパイロット圧と電気操作レバー1から入力された電気信号とに応じて、その電気信号の伝達又は遮断を選択的に制御するようになっている。つまりコントローラ7は、電油変換オンオフ弁3へ電気信号が出力されるか否かを切り換えるように機能するようになっている。
【0023】
電油変換弁2は、コントローラ7から入力された電気信号の電流値Aの大きさに応じた圧力のパイロット圧油(第1パイロット圧油)を出力するようになっている。この電油変換弁2には、一般的に制御性の良い減圧弁が用いられている。なお、ここで出力されたパイロット圧油は、後述する高圧選択弁5へ導入されるようになっている。
また、電油変換オンオフ弁3は、コントローラ7から出力された電気信号の電流値Aの大きさに関わらず、電気信号が入力されたときに所定圧A2のパイロット圧油(第2パイロット圧油)を出力するようになっている。この電油変換オンオフ弁3には、一般的に応答性の良いオンオフ弁が用いられており、電油変換オンオフ弁3から出力されるパイロット圧油の圧力値は、電油変換弁2から出力される圧力と比較して、速やかに上昇又は下降するようになっている。なお、ここで出力される圧油の所定圧A2は、電油変換弁2において出力される最大のパイロット圧A1の20〜30%程度の大きさに設定されるようになっている。また、出力されたパイロット圧油は、後述する高圧選択弁5へ導入されるようになっている。
【0024】
高圧選択弁5は、電油変換弁2と電油変換オンオフ弁3との双方から出力されるパイロット圧油のうちいずれか高圧の一方を選択して、制御弁8のパイロット圧油としてパイロットライン5a側へ出力するようになっている。ここでパイロットライン5aへ出力されたパイロット圧油の圧力値(すなわち、パイロット圧)が、制御弁6のステム制御にかかるパイロット圧として働くようになっている。
【0025】
パイロットライン5a上に介装された油圧センサ4は、パイロットライン5aにおけるパイロット圧油の検出値Pd(すなわち、制御弁6へ導入されている実際のパイロット圧であり、以下、検出圧ともいう)を検出し、その検出圧Pdをコントローラ7へフィードバックとして出力するようになっている。
【0026】
[フローチャート]
次に、フィードバックとしてコントローラ7へ入力された検出圧Pdに基づくコントローラ7の制御内容について、図5に示すフローチャートを用いて説明する。この制御フローは、コントローラ7内において、所定の制御サイクルで繰り返し実行されるものである。
【0027】
まずステップA10では、電気操作レバー1からの電流値Aが検出されたか否か、つまり、コントローラ7へ電気信号としての電流値Aが入力されたか否かが判定される。電流値Aが入力されていない場合にはこのフローを終了し、電流値Aが入力されている場合にはステップA20へ進む。
次に、ステップA20では、入力された電流値Aの大きさを読み取るとともに、油圧センサ4から入力される検出圧Pdを読み取り、続くステップA30において、ステップA20で読み取った電流値Aに基づいて、目標パイロット圧Ptを設定する。
【0028】
ここでは、図4に示されるような対応関係から目標パイロット圧Ptが設定されるようになっている。この目標パイロット圧Ptとは、電気操作レバー1から出力される電気信号の伝達及び変換にかかる時間分のロスがないものと仮定した場合に、オペレータによる電気操作レバー1の操作量、すなわち操作要求に対してアクチュエータ8を適切に駆動するために要する制御弁6のパイロット圧の目標値のことである。
【0029】
図4に示すように、電流値Aが0のとき(すなわち、電気操作レバー1が何も操作されていない状態)には目標パイロット圧Ptは0に設定され、電流値Aが大きくなるほど目標パイロット圧Ptも大きく設定されるようになっている。例えば、電流値AがAaのときには、目標パイロット圧PtがPt1に設定される。
続くステップA40では、目標パイロット圧Ptと油圧センサ4から入力された検出圧Pdとの差ΔPが、以下の式1に従って算出される。
【0030】
ΔP=Pt−Pd ・・・(式1)
例えば電流値AがAaのときには、図4に示すように、ΔPは目標パイロット圧Pt(=Pt1)から検出圧Pdを減算した量であるΔP1となる。
続くステップA50において、ステップA40で算出された差ΔPが、所定圧Pp以上であるか否かが判定されるようになっている。そして、ΔP≧PpであるときにはステップA60へ進んで、電気操作レバー1から入力された電流値Aを電油変換オンオフ弁3へ伝達し、ΔP<PpであるときにはステップA70へ進んで、その電気信号の伝達を遮断するようになっている。
【0031】
つまり、コントローラ7は、パイロットライン5a上における実際のパイロット圧(検出圧)Pdが目標となるパイロット圧Ptと比較して所定圧以上小さい場合にのみ、電油変換オンオフ弁3へ電流値Aを伝達させて、電油変換オンオフ弁3を作動させるようになっている。
【0032】
[作用・効果]
本発明の一実施形態にかかるパイロット制御装置は上述のように構成されているので、以下のように作用する。
まず、図2(a)に示すように、オペレータにより電気操作レバー1が時刻t0から操作され始めたとき、電気操作レバー1から出力される電気信号としての電流値Aは、図2(b)に示すように、時刻t0までの間は0であり、時刻t0から増大し始める。この電流値Aはコントローラ7へ出力される。
また、パイロットライン5a上に介装された油圧センサ4では、パイロットライン5aにおけるパイロット圧油の圧力値Pdが検出され、その検出値Pdはコントローラ7へフィードバックとして出力される。
【0033】
ここで、コントローラ7において、電油変換弁2に対しては、入力された電気信号としての電流値Aがそのまま出力されて伝達される。つまり、電油変換弁2では、図2(c)に実線で示すように、コントローラ7から伝達された電流値Aの大きさに応じた油圧P1のパイロット圧油が出力される。ここで、電油変換弁2には減圧弁が用いられているため、僅かな応答遅れ時間d1の経過後の時刻t1から、電流値Aの変化に追従するようにパイロット圧P1が変動することになる。
【0034】
一方、コントローラ7では、入力された電流値Aから、図4に示される対応関係に基づき、目標パイロット圧Pt〔図2(c),(d)において破線で示す〕が設定され、この目標パイロット圧Ptと油圧センサ4から入力された検出圧Pdとの差ΔPが算出される。
ここで、算出された差ΔPが所定圧Pp未満であるとき、すなわち、図2(c)における時刻t0〜t2の状態では、コントローラ7によって、電油変換オンオフ弁3への電流値Aの伝達が遮断されることになる。一方、差ΔPが所定圧Pp以上であるとき、すなわち、図2(c)における時刻t2以降の状態では、コントローラ7によって、電油変換オンオフ弁3へ電流値Aが伝達されることになる。
【0035】
したがって、図2(d)に示すように、電油変換オンオフ弁3では、電流値Aが入力される時刻t2以降からパイロット圧油が出力される。ここで、電油変換オンオフ弁3にはオンオフ弁が用いられているため、入力された電流値Aの大きさに関わらず、時刻t2からすぐにパイロット圧P2が上昇して所定圧A2に達し、電流値Aが変動したとしても一定の所定圧A2が保たれることになる。
【0036】
なお、図2(d)に示すように、時刻t4には算出されたΔPが再び所定圧Pp未満となり、コントローラ7によって、電油変換オンオフ弁3への電流値Aの伝達が遮断されるため、電油変換オンオフ弁3からのパイロット圧油の出力は時刻t4で停止する。
これらにより、図2(c),(d)に実線で示されたようなパイロット圧が、高圧選択弁5へ導入されることになる。そして、高圧選択弁5では、双方の電油変換弁2,3から出力されたパイロット圧油のうち、いずれか高圧の一方が選択されて、制御弁8のパイロット圧油としてパイロットライン5a側へ出力される。
【0037】
つまり、電油変換弁2から出力されるパイロット圧P1を図2(d)に重ねて一点鎖線で示すと、時刻t2から時刻t3(すなわち、一点鎖線で示されたパイロット圧P1と実線で示されたパイロット圧P2との交点に対応する時刻)までの間は、パイロット圧P2のパイロット圧油がパイロットライン5aへ出力され、時刻t3以降はパイロット圧P1のパイロット圧油がパイロットライン5aへ出力されることになる。
【0038】
したがって、制御弁6のスプールストロークは、図2(e)に示すように、時刻t2からすぐに立ち上がることになる。つまり、図2(c)に示すように、レバー操作開始時の応答遅れd1を大幅に短縮して制御弁6を制御することができる。また、時刻t3以降には電油変換弁2から出力されるパイロット圧P1によって制御弁6のスプールストロークが制御されて、良好な制御性を保つことができる。
このように、本発明のパイロット制御装置によれば、簡素な構成かつ低コストで、電気信号の入力に応じた良好な応答性と電気信号の大きさに応じた良好な制御性とを実現することができる。
【0039】
また、電気操作レバー1の操作に基づいて設定される目標パイロット圧Ptに対して、パイロットライン5a上における実際のパイロット圧Pdをフィードバックした制御を行っているため、高い応答性が要求される操作開始時に応答遅れなく制御弁6を制御することができ、また、実際のパイロット圧が略目標パイロット圧に等しい状態では減圧弁を用いた従来の制御性のよい制御を行うことができる。
【0040】
[その他]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
上述の実施形態では、電油変換オンオフ弁3へ入力される電流値Aの断接制御をコントローラ7自身が行うように構成されているが、電気信号の断接制御を行う切り換えスイッチを備えた構成にしてもよい。例えば、上述の実施形態と同一の構成要素については同一の符号を付した本発明の変形例としてのブロック構成図を図8に示す。
【0041】
図8に示されたパイロット制御装置では、電気操作レバー1から出力された電気信号としての電流値Aを電油変換オンオフ弁3へ伝達する回路上に、電気信号の伝達及び遮断を切り換える切り換えスイッチ(切り換え手段)7aが介装されており、切り換えスイッチ7aの回路断接制御(すなわち、上記の切り換え制御)がコントローラ7′によって行われるようになっている。
【0042】
このように構成することで、上述の実施形態におけるコントローラ7の構成をより簡素にすることができ、第2電油変換弁へ出力される電気信号の伝達又は遮断を容易に制御することが可能となる。
また、上述の実施形態では、電油変換オンオフ弁3から出力される圧油の所定圧A2が、電油変換弁2において出力される最大のパイロット圧A1の20〜30%程度の大きさに設定されるようになっているが、この所定圧の設定値は任意に変更してもよい。
【0043】
また、上述の実施形態では、実際のパイロット圧(検出圧)Pdが目標となるパイロット圧Ptと比較して所定圧Pp以上小さい場合に電油変換オンオフ弁3へ電流値Aを伝達させるように構成されているが、電油変換オンオフ弁3への電気信号の断接制御に関して、油圧センサ4で検出された検出圧Pdをフィードバックとして利用する構成であればこれに限定されるものではない。
【0044】
例えば、目標パイロット圧Ptと検出圧Pdとの差ΔPの変化の度合いに応じて、電油変換オンオフ弁3への電流値Aの断接タイミングを変更したり、電油変換オンオフ弁3から出力される圧油の所定圧A2の設定値を変更する等、制御内容を変更することも考えられる。これらの構成によって、さらにパイロット制御装置の応答性,制御性を向上させることができるようになる。
【0045】
なお、上述の実施形態において、図4に示された電流値Aと目標パイロット圧Ptとの対応関係についても、これに限定されるものではなく、目標パイロット圧Ptの設定方法は種々考えられるものである。
例えば、オペレータによる電気操作レバー1の操作速度が大きいほど、すなわち、電流値Aの増大方向への変化速度が大きいほど、目標パイロット圧Ptが高く設定されるように構成してもよい。つまりこの場合、電流値Aと目標パイロット圧Ptとが上述のような固定的な対応関係のみで定義されるのではなく、例えば図7に示すように、電気操作レバー1の操作速度Vと予め設定された所定速度V1,V2との大小関係に応じて、対応関係が変化するように設定してもよい。このように目標パイロット圧Ptを設定することによって、オペレータの応答性への要求の度合いに応じて応答性を向上させることができるようになる。
【0046】
なお、作業装置の作業モードやエンジン回転数に応じて目標パイロット圧Ptの設定値を補正するように構成することも無論考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施形態としてのパイロット制御装置が適用された油圧回路の全体構成を模式的に示すブロック構成図である。
【図2】本発明の一実施形態としてのパイロット制御装置の作用・効果を説明するためのグラフであり、(a)は電気操作レバー操作時におけるのレバー操作量の時間変化を示すグラフ、(b)は電気操作レバーから出力される電流値の時間変化を示すグラフ、(c),(d)は電油変換弁から出力されるパイロット圧の時間変化を示すグラフ、(e)は制御弁のスプールストロークの時間変化を示すグラフである。
【図3】本発明の一実施形態としてのパイロット制御装置の電気操作レバーから出力される電流値とレバー操作量との関係を示すグラフである。
【図4】本発明の一実施形態としてのパイロット制御装置において電流値と目標パイロット圧との関係を示すグラフである。
【図5】本発明の一実施形態としてのパイロット制御装置における制御内容を説明するためのフローチャートである。
【図6】本発明の一実施形態としてのパイロット制御装置のパイロット制御装置が適用された作業機械の全体構成を示す模式的斜視図である。
【図7】本発明の変形例としてのパイロット制御装置における電流値と目標パイロット圧との関係を示すグラフである。
【図8】本発明の変形例としてのパイロット制御装置が適用された油圧回路の全体構成を模式的に示すブロック構成図である。
【図9】従来例としてのパイロット制御装置を説明するためのブロック構成図である。
【符号の説明】
【0048】
1 電気操作レバー(操作装置)
2 電油変換弁(第1電油変換弁)
3 電油変換オンオフ弁(第2電油変換弁)
4 油圧センサ(パイロット圧検出手段)
5 高圧選択弁
5a パイロットライン
6 制御弁
7 コントローラ
7a 切り換えスイッチ(切り換え手段)
8 アクチュエータ
9 油圧ポンプ
10 エンジン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧駆動式の作業装置を搭載した作業機械において、パイロット圧を制御されて該作業装置を駆動するアクチュエータへの作動油流量を調整する制御弁の制御装置であって、
該作業装置のオペレータに操作されて、その操作量に応じた電気信号を出力する操作装置と、
該操作装置から入力された該電気信号の大きさに応じた油圧の第1パイロット圧油を出力する第1電油変換弁と、
該電気信号の入力時に所定圧の第2パイロット圧油を出力する第2電油変換弁と、
該第1パイロット圧油と該第2パイロット圧油とのうちいずれか高圧の一方を選択し、該制御弁のパイロット圧油として出力する高圧選択弁と、
該高圧選択弁を介して該制御弁へ出力された該パイロット圧油の該パイロット圧を検出するパイロット圧検出手段と、
該パイロット圧検出手段で検出された該パイロット圧と該操作装置から入力された該電気信号とに応じて、該操作装置から該第2電油変換弁へ出力される該電気信号を伝達又は遮断するコントローラと
を備えたことを特徴とする、パイロット制御装置。
【請求項2】
該コントローラは、該操作装置から入力された該電気信号に基づいて設定される目標パイロット圧と該パイロット圧検出手段で検出された該パイロット圧との差が所定圧以上である場合に該電気信号を該第2電油変換弁へ伝達し、該所定圧未満である場合に該電気信号の該第2電油変換弁への伝達を遮断する
ことを特徴とする、請求項1記載のパイロット制御装置。
【請求項3】
該目標パイロット圧は、該操作装置から入力された該電気信号が大きいほど、高く設定される
ことを特徴とする、請求項2記載のパイロット制御装置。
【請求項4】
該目標パイロット圧は、該オペレータによる該操作装置の操作速度が大きいほど、高く設定される
ことを特徴とする、請求項3記載のパイロット制御装置。
【請求項5】
該コントローラは、該操作装置から該第2電油変換弁へ該電気信号を伝達する回路上に介装されて、該電気信号の伝達及び遮断を切り換える切り換え手段を有する
ことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のパイロット制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−220194(P2006−220194A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−32876(P2005−32876)
【出願日】平成17年2月9日(2005.2.9)
【出願人】(000190297)新キャタピラー三菱株式会社 (1,189)
【Fターム(参考)】