説明

パソコン機能を有する数値制御装置

【課題】パソコンのオペレーティングシステムが起動しない場合でも、数値制御装置の画面を表示する。
【解決手段】パソコン100に接続された記憶装置は、領域1に汎用OSと表示アプリを、領域2に保守用OSと数値制御装置の画面を表示する表示アプリを格納する。(1)数値制御装置200は、パソコン100を起動する信号をパソコン100に送る。(2)パソコン100は、保守用OSを起動し、従来通りに汎用OSを起動する。(3)汎用OSが起動した場合、数値制御装置200に起動完了を通知し、表示アプリを実行する。(4)パソコン100からの起動完了の通知が無い場合、数値制御装置200は、パソコン100をリセットし再起動する。(5)数値制御装置200は、保守用OSで画面を表示するための起動信号をパソコン100に送信する。(6)パソコン100は再起動後、保守用OSを起動し、保守用表示アプリを実行してCNC画面を表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は数値制御装置に関し、特に、パソコン機能を有する数値制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械などを制御する数値制御装置では、工具の位置や加工プログラムなどを表示する数値制御装置の画面(以下、「CNC画面」という。)の他に、例えば工作機械の稼働状況や加工品の情報などを表示する画面などのユーザが作成した画面(以下、「カスタム画面」という。)も表示する目的で、パソコン機能を備えた数値制御装置の表示器が使用されている。
【0003】
特許文献1には、パソコン機能を備えた数値制御装置の表示器において、CNC画面やカスタム画面を表示する技術が開示されている。特許文献1に開示される技術では、図5に示されるように、まず始めに、記憶装置110に記憶されているOSを起動し、続いて画面表示用の表示アプリを起動する必要がある。表示アプリはOSの管理下で動作しているため、万一、OSが起動しなくなると、OSを格納している記憶装置110の交換やOSの再インストールを行うまでは、カスタム画面だけでなくCNC画面を表示することもできなくなる。
【0004】
OSが起動しなくなった場合に、CNC画面を表示する技術として、OSを複数用意しておき、起動するOSを切り替える方法(特許文献2参照)がある。しかし、特許文献2に開示される技術では、オペレータが起動するOSを手動で選択する必要があるなど、煩雑な作業を行う必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−171516号公報
【特許文献2】特開昭61−273634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、パソコン機能を備えた数値制御装置の表示器において、パソコンのオペレーティングシステムが起動しなくなった場合でも、数値制御装置の画面を表示することが可能なパソコン機能を有する数値制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の請求項1に係る発明は、パソコン機能を提供するパーソナルコンピュータ部と、該パーソナルコンピュータ部に接続された表示器と、数値制御部を有する数値制御装置において、少なくとも2つの領域を有し、一方の領域に汎用オペレーティングシステムと該汎用オペレーティングシステム上で動作する数値制御装置の画面を表示する表示アプリケーションソフトウェアとを格納し、他方の領域に数値制御装置の画面を表示するために必要な数値制御装置との通信を行う機能および表示器に画面を表示する機能を備えた保守用オペレーティングシステムと該保守用オペレーティングシステム上で数値制御装置の画面を表示する保守用表示アプリケーションソフトウェアとを格納した記憶装置と、前記数値制御部に設けられ、前記汎用オペレーティングシステムまたは前記保守用オペレーティングシステムの何れかで起動するかを指定する信号を前記パーソナルコンピュータ部に送信する手段と、前記パーソナルコンピュータ部に設けられ、起動時に、保守用オペレーティングシステムを起動する手段と、前記パーソナルコンピュータ部に設けられ、前記信号が汎用のオペレーティングシステムを起動する信号の場合には汎用のオペレーティングシステムおよび前記表示アプリケーションソフトウェアを起動すると共に、起動完了を数値制御部に通知し、前記信号が保守用オペレーティングシステムを起動する信号の場合には保守用表示アプリケーションソフトウェアを起動する手段と、前記数値制御部に設けられ、前記起動完了の通知が届かなかった場合、汎用のオペレーティングシステムが立ち上がらなかったと判断する手段と、前記数値制御部に設けられ、前記汎用のオペレーティングシステムが起動しなかった場合、パーソナルコンピュータ部に再起動を指令すると共に保守用オペレーティングシステムを起動するための信号を送信する手段と、を備えたことを特徴とするパソコン機能を有する数値制御装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、パソコン機能を備えた数値制御装置の表示器において、パソコンのオペレーティングシステムが起動しなくなった場合でも、数値制御装置の画面を表示することが可能なパソコン機能を有する数値制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る実施形態を説明する図である。
【図2】本発明に係る表示方法を説明する図である。
【図3】本発明に係る表示器に表示させる処理のアルゴリズムを示すフローチャートである。
【図4】図3に示すフローチャートで、汎用OSが正常に起動できない事象が発生した場合を説明する図である。
【図5】従来技術である数値制御装置の画面イメージをパソコンの表示器に表示する方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。なお、従来技術の説明と同一または類似の構成については同一の符号を用いて説明する。
【0011】
図1は、本発明に係る実施形態を説明する図である。パソコンを組み込んだ数値制御装置は、数値制御装置200とパソコン機能を提供するパーソナルコンピュータ(以下、「パソコン」という。)100と、を通信線によって接続した構成により形成することができる。数値制御装置200は、従来公知の工作機械を制御する制御装置であって、数値制御部および制御部を備えた構成である。
【0012】
パソコン100は、演算処理を行うプロセッサであるCPU10と、外部入力機器26を制御する入力機器コントローラ12、領域1に汎用OS,領域2に保守用OSを記憶する記憶装置110を制御する記憶装置コントローラ14、RAMやROMなどのメモリ16、電源スイッチ28からのオン・オフ信号によりパソコン100の電源をオン・オフ制御する電源コントローラ18、表示器30を制御する表示コントローラ20、および、数値制御装置200とのデータの授受を制御する数値制御装置との通信コントローラ22がバス24を介して接続される。電源スイッチ28は数値制御装置200からの電源オン・オフの信号に従って、電源コントローラ18にパソコン100の電源オン・オフの指令を出力する。なお、汎用OSは汎用オペレーティングシステム、保守用OSは保守用オペレーティングシステムをそれぞれ意味する。
【0013】
メモリ16は、数値制御装置200からのデータを格納したり、制御用プログラムを記憶しておく記憶手段である。外部入力機器26としてキーボードなどがあり、入力機器コントローラ12により外部入力機器26からの入力データがパソコン100に取り込まれる。記憶装置コントローラ14は記憶装置110とのデータの入出力を制御する。
【0014】
記憶装置110の領域1に記憶されている汎用OSは、通常の表示を行う表示アプリケーションソフト(以下、「表示アプリ」という。)を起動させ、領域2に記憶されている保守用OSはCNC画面の表示に必要な機能を有するOSであり、そのOS上で数値制御装置の画面を表示する保守用表示アプリケーションソフト(以下、「保守用表示アプリ」という。)を起動させる。
【0015】
数値制御装置200は、パソコン100に対して通常モードあるいは保守モードを表す起動モード信号を送信する。パソコン100は、数値制御装置200に対して起動完了信号を送信する。数値制御装置200は、汎用OSが起動せずパソコン100からの起動完了信号を予め設定した時間内に受信しない場合には、パソコン100に対して再起動指令を行う。
【0016】
図2は、本発明に係る表示方法を説明する図である。パソコン100に接続された記憶装置110は、領域1と領域2の2つの記憶領域を用意し、領域1には汎用OSと表示アプリを、領域2にはCNC画面の表示に必要な機能を有するOS(保守用OS)と、そのOS上で数値制御装置の画面を表示する表示アプリ(保守用表示アプリ)を格納する。
(1)数値制御装置200は、汎用OSの管理下で画面を表示する「通常モード」でパソコン100を起動するための信号をパソコン100に送る。
(2)パソコン100は、まず領域2にある保守用OSを起動し、数値制御装置200から送られてくる通常モードの起動モード信号により、領域1にある汎用OSを従来通りに起動する。
(3)汎用OSが起動した場合、汎用OSは数値制御装置200に起動が完了したことを通知し、その後、CNC画面やカスタム画面の表示アプリを実行する。
(4)パソコン100からの起動完了の通知が無かった場合、数値制御装置200は、汎用OSが起動できなかったと判断し、パソコン100をリセットし再起動する。
(5)その後、数値制御部が、保守用OSで画面を表示する「保守モード」で起動するための信号をパソコン100に送信する。
(6)パソコン100は再起動後、保守用OSを起動し、保守用表示アプリを実行してCNC画面を表示する。
【0017】
これにより、領域1が破損するなどして汎用OSが起動しなくなった場合でも、数値制御装置200が保守モードに自動的に切り替えることにより、記憶装置110の交換やOSの再インストール無しに、領域2の保守用OSによってCNC画面を表示することが可能になり、緊急時の保守性が向上する。
【0018】
次に、図3を用いて、図2の表示方法を実行するアルゴリズムを説明する。図3は、本発明に係る表示器に表示させる処理のアルゴリズムを示すフローチャートである。以下、各ステップに従って説明する。なお、SC○○は数値制御装置200で行われる処理、SP○○はパソコン100で行われる処理を表す。
まず、数値制御装置200で実行される処理を説明する。
●[ステップSC10]起動モードを通常モードに設定する処理を実行する。
●[ステップSC12]ステップSC10またはステップSC22で設定された起動モードを表す起動モード信号をパソコン100に送信する。
●[ステップSC14]ステップSC10で設定された起動モードが保守モードの場合には、モード設定のための処理を終了し、通常モードの場合にはステップSC16へ移行する。
●[ステップSC16]パソコン100から送信される起動完了信号が予め設定された時間内に受信されるか否か判断するために、タイマをスタートする。
●[ステップSC18]パソコン100からの起動完了信号を受信したか否かを判断し、受信した場合にはモード設定のための処理を終了し、受信しない場合にはステップSC20へ移行する。
●[ステップSC20]タイマによって計時される経過時間があらかじめ設定された時間経過したか否か判断し、経過した場合にはステップSC22へ移行し、経過していない場合にはステップSC18へ戻り、起動信号を受信したか否かの判断を継続する。
●[ステップSC22]起動モードを保守モードに設定し、ステップSC24へ移行する。ステップSC16〜ステップSC20の処理で、パソコン100から起動完了信号を受信しなかった場合に行われる処理であり、ステップSC10で設定された通常モードを保守モードに変更して設定することを意味する。
●[ステップSC24]パソコンの再起動を指令する。より具体的には、パソコンの電源を一度オフする指令を行い、再度電源をオンする指令を行うことにより、パソコンの再起動を指令し、ステップSC12へ移行し、処理を継続する。
【0019】
次に、パソコン100で実行される処理を説明する。
●[ステップSP11]保守用OSを起動する。
●[ステップSP13]数値制御装置から送信される起動モード信号が、保守モードであるのか、通常モードであるのかを判断し、保守モードの場合にはステップSP15へ移行し、通常モードの場合にはステップSP17へ移行する。
●[ステップSP15]保守用表示アプリを起動し、処理を終了する。
●[ステップSP17]汎用OSの起動を行う。
●[ステップSP19]汎用OSが正常に起動を完了すると、起動完了信号を数値制御装置に出力する。
●[ステップSP21]表示アプリを起動し、処理を終了する。
なお、ステップSP11では、保守用OSだけでなくブートソフト(BIOS)で処理を行ってもよい。ブートソフトは、コンピュータを起動する際、OSを記憶装置から起動するプログラムのことである。
【0020】
次に、数値制御装置200で通常モードが設定され、パソコン100で汎用OSの起動が正常に終了しなかった場合を説明する。図4は、図3に示すフローチャートで、汎用OSが正常に起動できない事象が発生した場合を説明する図である。
【0021】
数値制御装置200から、ステップSC10で通常モードに設定され、ステップSC12で通常モードの起動信号がパソコン100に対して送信される。パソコン100は数値制御装置200からの通常モードを表す起動モード信号を受信すると、ステップSP13で通常モードと判断し、ステップSP17で汎用OSを起動する。
【0022】
ここで、汎用OSが、記憶装置110の故障など何らかの原因で正常に起動しなかった場合、ステップSP19で示される起動完了信号を数値制御装置200に対して送信できない。そのため、数値制御装置200は、ステップSC16〜ステップSC20の処理で、パソコン100からあらかじめ設定された時間内に起動完了信号を受信できない。この場合、数値制御装置200は、ステップSC22において起動モードを保守モードに設定する処理を行う。
【0023】
これによってステップSC24でパソコン100の再起動が指令され、ステップSP23でパソコンの再起動がなされ、ステップSP11で保守用OSが再度起動される。そして、数値制御装置からステップSC22で設定された保守モードを表す起動モード信号がステップSC12でパソコン100に送信されることから、ステップSP13では、保守モードの起動モードと判断され、ステップSP15で保守用表示アプリが起動され、処理を終了する。
【0024】
図4を用いて説明したように、本発明の実施形態では、パソコン100で汎用OSが正常に起動しない場合に、保守用OSが自動的に選択され、保守用表示アプリが自動的に起動することになる。
【符号の説明】
【0025】
10 CPU
12 入力機器コントローラ
14 記憶装置コントローラ
16 メモリ
18 電源コントローラ
20 表示コントローラ
22 数値制御装置との通信コントローラ
24 バス
26 外部入力機器
28 電源スイッチ
30 表示器
100 パーソナルコンピュータ
110 記憶装置
200 数値制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パソコン機能を提供するパーソナルコンピュータ部と、該パーソナルコンピュータ部に接続された表示器と、数値制御部を有する数値制御装置において、
少なくとも2つの領域を有し、一方の領域に汎用オペレーティングシステムと該汎用オペレーティングシステム上で動作する数値制御装置の画面を表示する表示アプリケーションソフトウェアとを格納し、他方の領域に数値制御装置の画面を表示するために必要な数値制御装置との通信を行う機能および表示器に画面を表示する機能を備えた保守用オペレーティングシステムと該保守用オペレーティングシステム上で数値制御装置の画面を表示する保守用表示アプリケーションソフトウェアとを格納した記憶装置と、
前記数値制御部に設けられ、前記汎用オペレーティングシステムまたは前記保守用オペレーティングシステムの何れかで起動するかを指定する信号を前記パーソナルコンピュータ部に送信する手段と、
前記パーソナルコンピュータ部に設けられ、起動時に、保守用オペレーティングシステムを起動する手段と、
前記パーソナルコンピュータ部に設けられ、前記信号が汎用のオペレーティングシステムを起動する信号の場合には汎用のオペレーティングシステムおよび前記表示アプリケーションソフトウェアを起動すると共に、起動完了を数値制御部に通知し、前記信号が保守用オペレーティングシステムを起動する信号の場合には保守用表示アプリケーションソフトウェアを起動する手段と、
前記数値制御部に設けられ、前記起動完了の通知が届かなかった場合、汎用のオペレーティングシステムが立ち上がらなかったと判断する手段と、
前記数値制御部に設けられ、前記汎用のオペレーティングシステムが起動しなかった場合、パーソナルコンピュータ部に再起動を指令すると共に保守用オペレーティングシステムを起動するための信号を送信する手段と、
を備えたことを特徴とするパソコン機能を有する数値制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−18454(P2012−18454A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153832(P2010−153832)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】