説明

パターン位相差フィルム用液晶組成物、パターン位相差フィルム及び立体表示装置

【課題】表面の凹凸が小さいパターン位相差フィルムを製造できるパターン位相差フィルム用液晶組成物を提供する。
【解決手段】パターン位相差フィルム用液晶組成物に、(A)重合性液晶モノマー70重量部以上99重量部以下と、(B)重合性非液晶モノマー1重量部以上30重量部以下と、(C)光重合開始剤0.1重量部以上10重量部以下と、(D)フッ素を含む界面活性剤0.01重量部以上1重量部以下とを含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パターン位相差フィルム用の液晶組成物、並びに、それを用いたパターン位相差フィルム及び立体表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、液晶表示装置等の表示装置には、様々な光学フィルムが設けられる。この光学フィルムの一つとして、液晶組成物を硬化させた層を備えるフィルムが従来から知られている(特許文献1〜3参照)。このようなフィルムは、通常、液晶組成物を適切な基材の表面に塗布し、必要に応じて配向処理等を行った後で、液晶組成物を硬化させることにより、製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4553769号公報
【特許文献2】特開2008−107823号公報
【特許文献3】特開2008−242001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年開発が進む立体表示装置における表示方式のうち、代表的な方式の一つに、パッシブ方式と呼ばれる方式がある。パッシブ形式の立体表示装置では、通常、同一画面内に右目用の画像と左目用の画像とを同時に表示させ、これらの画像を専用のメガネを用いて左右の目それぞれに振り分けるようにしている。そのため、パッシブ形式の立体表示装置には、左右の目それぞれに対応した画像を、それぞれ異なる位置に異なる偏光状態で表示させるため、異なる面内位相差(面内レターデーション)を有する2種類以上の領域を面内の異なる位置に有する位相差フィルム(すなわち、「パターン位相差フィルム」)が設けられることがある。
【0005】
前記のパターン位相差フィルムは、液晶組成物から製造されることがある。液晶組成物から製造されるパターン位相差フィルムは、液晶組成物の硬化物からなる層を備え、この層が、異なる位相差を有する2種類以上の領域を有するようになっている。
【0006】
ところが、液晶組成物から製造されるパターン位相差フィルムでは、液晶組成物の硬化物からなる層の厚みが不均一となり、その表面に凹凸が形成されることがあった。前記の厚みの不均一は、各領域の厚みが異なることによって生じたものであり、特に、ゼロに近い面内位相差を有する領域の厚みは、他の領域の厚みに比べて顕著に厚くなることが多かった。
【0007】
液晶組成物の硬化物からなる層の表面に凹凸があると、パターン位相差フィルムを他の光学フィルムと貼り合わせる際に、パターン位相差フィルムと光学フィルムとの界面に気泡が紛れ込み易くなるおそれがある。また、立体表示装置のなかには、立体画像(3D画像)の表示と平面画像(2D画像)の表示とを切り替えられるものがあるが、前記のような凹凸があると、平面画像の写像性(即ち、画像の鮮明さ)が低下するおそれがあった。
【0008】
本発明は上記の課題に鑑みて創案されたもので、表面の凹凸が小さいパターン位相差フィルムを製造できるパターン位相差フィルム用液晶組成物、表面の凹凸が小さいパターン位相差フィルム、並びに、それを備えた立体表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は前記の課題を解決するべく鋭意検討した結果、重合性液晶モノマーと、重合性非液晶モノマーと、光重合開始剤と、フッ素を含む界面活性剤とを所定の比率で組み合わせて含む液晶組成物は、当該液晶組成物の硬化物からなる層において異なる位相差を有する2種類以上の領域を設けても、それらの領域間の厚みの差が大きくならないため、パターン位相差フィルムの表面の凹凸を小さくできることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の〔1〕〜〔8〕を要旨とする。
【0010】
〔1〕 (A)重合性液晶モノマーと(B)重合性非液晶モノマーとの合計量を100重量部として、
(A)重合性液晶モノマー70重量部以上99重量部以下と、
(B)重合性非液晶モノマー1重量部以上30重量部以下と、
(C)光重合開始剤0.1重量部以上10重量部以下と、
(D)フッ素を含む界面活性剤0.01重量部以上1重量部以下とを含有する、パターン位相差フィルム用液晶組成物。
〔2〕 前記(B)成分として、多官能の重合性非液晶モノマーを含み、
前記パターン位相差フィルム用液晶組成物のネマチック−アイソトロピック転移温度が40℃以上100℃以下である、〔1〕記載のパターン位相差フィルム用液晶組成物。
〔3〕 上記(A)成分の波長546nmにおける屈折率異方性(Δn)が、0.01〜0.20である、〔1〕又は〔2〕記載のパターン位相差フィルム用液晶組成物。
〔4〕 上記(A)成分として、式(1)で表される化合物を含む、〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載のパターン位相差フィルム用液晶組成物。
【化1】

ここで、上記式(1)において、
、R及びRはそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を示し、
及びRはそれぞれ独立して炭素数2〜12のアルキレン基を示す。
〔5〕 上記(D)成分がノニオン型の界面活性剤である、〔1〕〜〔4〕のいずれか一項に記載のパターン位相差フィルム用液晶組成物。
〔6〕 〔1〕〜〔5〕のいずれか一項に記載のパターン位相差フィルム用液晶組成物の硬化物からなる層を備え、
前記層が、異なる位相差を有する2種類以上の領域を有する、パターン位相差フィルム。
〔7〕 前記層の最大厚みが1μm〜10μmである、〔6〕記載のパターン位相差フィルム。
〔8〕 〔6〕又は〔7〕記載のパターン位相差フィルムを備える、立体表示装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、表面の凹凸が小さいパターン位相差フィルムを製造できるパターン位相差フィルム用液晶組成物、表面の凹凸が小さいパターン位相差フィルム、並びに、それを備えた立体表示装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、一例としての液晶硬化物層をその厚み方向に対して平行に切った断面を模式的に示す断面図である。
【図2】図2は、液晶硬化物層が有しうるパターンの一例を概略的に示す上面図である。
【図3】図3は、本発明の立体表示装置として用いうる液晶表示装置の例を概略的に示す分解上面図である。
【図4】図4は、泡噛み評価における試験の様子を模式的に示す図である。
【図5】図5は、比較例1で撮影した顕微鏡写真を示す図である。
【図6】図6は、写像性評価において用いた写像性評価装置の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下に挙げる実施形態及び例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施してもよい。また、以下の説明において、「(メタ)アクリル」とは「アクリル」及び「メタクリル」のことを意味し、「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート」及び「メタクリレート」のことを意味する。さらに、「位相差」とは、別に断らない限り、面内位相差(面内レターデーション)のことを意味する。
【0014】
[1.液晶組成物]
本発明のパターン位相差フィルム用液晶組成物(以下、適宜「本発明の液晶組成物」ということがある。)は、(A)重合性液晶モノマーと、(B)重合性非液晶モノマーと、(C)光重合開始剤と、(D)フッ素を含む界面活性剤とを含有する。
【0015】
〔1−1.(A)重合性液晶モノマー〕
(A)重合性液晶モノマーとは、重合性基を有する液晶化合物をいう。また、重合性基とは、適切な条件において重合反応を生じて当該重合性基を含む化合物を重合させる基である。重合性基としては、例えば、カルボキシル基、(メタ)アクリル基、エポキシ基、チオエポキシ基、メルカプト基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、オキセタン基、チエタニル基、アジリジニル基、ピロール基、ビニル基、アリル基、フマレート基、シンナモイル基、オキサゾリン基、ヒドロキシル基、アルコキシシリル基、及びアミノ基などが挙げられる。なお、1分子中に含まれる重合性基は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。また、1分子あたりの重合性基の数は、通常1個以上であり、好ましくは2個以上がよい。
【0016】
(A)重合性液晶モノマーが重合すると、本発明の液晶組成物も硬化する。通常、こうして得られる本発明の液晶組成物の硬化物において、重合前の(A)重合性液晶モノマーの配向状態は維持される。したがって、(A)重合性液晶モノマーの配向状態を制御することにより、本発明の液晶組成物の硬化物の屈折率異方性(Δn)を調整でき、ひいては本発明の液晶組成物の硬化物からなる層(以下、適宜「液晶硬化物層」という。)の面内位相差を調整できる。
【0017】
(A)重合性液晶モノマーとしては、例えば、特開平11−130729号公報、特開平8−104870号公報、特開2005−309255号公報、特開2005−263789号公報、特表2001−519317号公報、特表2002−533742号公報、特開2002−308832号公報、特開2002−265421号公報、特開昭62−070406号公報、特開平11−100575号公報、特開2008−291218号公報、特開2008−242349号公報、国際公開第2009/133290号、特願2008−170835号等などに記載されたものなどが挙げられる。
【0018】
中でも、下記式(1)で表される(A)重合性液晶モノマーが好ましい。
【0019】
【化2】

【0020】
上記式(1)において、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基を示す。また、上記式(1)において、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数2〜12のアルキレン基を示す。中でも、このアルキレン基の炭素数は、4以上6以下であることが好ましい。また、このアルキレン基は、その炭素鎖に分岐を有していてもよいが、炭素鎖に分岐を有さない直鎖状のアルキレン基であることが好ましい。式(1)で表される(A)重合性液晶モノマーの例を製品名で挙げると、BASF社製「LC242」等が挙げられる。
【0021】
(A)重合性液晶モノマーは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0022】
(A)重合性液晶モノマーは、ある温度では液晶状態のネマチック相となりうるが、温度が高くなると液晶性を失ってアイソトロピック相(等方相)となる。この際、ネマチック相からアイソトロピック相へと変化する境界温度をネマチック−アイソトロピック転移温度(以下、適宜「NI点」ということがある。)と呼ぶ。パターン位相差フィルムを製造する際には前記のNI点は低いことが好ましい。このため、(A)重合性液晶モノマーだけで測定した場合の当該(A)重合性液晶モノマーのNI点は、250℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましく、150℃以下が特に好ましい。なお、下限は通常40℃以上である。
【0023】
(A)重合性液晶モノマーの屈折率異方性(Δn)は、波長546nmにおいて、通常0.01以上、好ましくは0.05以上である。また、屈折率異方性(Δn)が0.30以上の(A)重合性液晶モノマーを用いると、紫外線吸収スペクトルの長波長側の吸収端が可視帯域に及ぶ場合がありえるが、そのスペクトルの吸収端が可視帯域に及んでも所望の光学的性能に悪影響を及ぼさない限り、使用可能である。このような高い屈折率異方性(Δn)を有する(A)重合性液晶モノマーを用いることにより、所望の光学的機能を得るために要する液晶硬化物層の厚みを薄くできるので、配向均一性を向上させたり、経済コストを改善したりできる。ただし、液晶硬化物層の厚みが過度に薄くなって厚み精度が低下することを防止する観点からは、(A)重合性液晶モノマーの屈折率異方性(Δn)は0.20以下が好ましく、0.17以下がより好ましい。
【0024】
本発明の液晶組成物が(A)重合性液晶モノマーを1種類だけ含む場合には、当該(A)重合性液晶モノマーの屈折率異方性(Δn)を、そのまま本発明の液晶組成物における(A)重合性液晶モノマーの屈折率異方性(Δn)とする。また、本発明の液晶組成物が(A)重合性液晶モノマーを2種類以上含む場合には、各(A)重合性液晶モノマーそれぞれの屈折率異方性(Δn)の値と各(A)重合性液晶モノマーの含有比率とから求めた加重平均の値を、本発明の液晶組成物における(A)重合性液晶モノマーの屈折率異方性(Δn)とする。屈折率異方性(Δn)の値は、セナルモン法により測定しうる。
【0025】
本発明の液晶組成物において、(A)重合性液晶モノマーと(B)重合性非液晶モノマーとの合計量を100重量部とした場合、(A)重合性液晶モノマーの量は、通常70重量部以上、好ましくは75重量部以上、より好ましくは80重量部以上であり、通常99重量部以下、好ましくは95重量部以下、より好ましくは90重量部以下である。(A)重合性液晶モノマーの量を前記範囲の下限値以上とすることにより屈折率異方性Δnを高くでき、上限値以下とすることにより良好な成膜性を得ることができる。
【0026】
〔1−2.(B)重合性非液晶モノマー〕
(B)重合性非液晶モノマーとは、重合性基を有し、本発明の液晶組成物に光が照射された場合に重合反応を生じうる化合物であって、液晶性を発現しない化合物をいう。(B)重合性非液晶モノマーを用いることにより、液晶硬化物層の機械的強度を高めることができる。
【0027】
本発明の液晶組成物は、(B)重合性非液晶モノマーとして、多官能の(B)重合性非液晶モノマーを含むことが好ましい。ここで多官能の(B)重合性非液晶モノマーとは、1分子当たりで重合性基を2個以上含む(B)重合性非液晶モノマーのことを指し、中でも1分子当たりで重合性基を3個以上含むものが好ましい。このような多官能の(B)重合性非液晶モノマーを用いることにより、本発明の液晶組成物のNI点を低下させることができる。
【0028】
例えば静電引力、分子間力等の影響によって、当該(B)重合性非液晶モノマーの重合性基は(A)重合性液晶モノマーの重合性基と引き合ったり反発しあったりする傾向がある。これにより、多官能の(B)重合性非液晶モノマーは、(A)重合性液晶モノマーの配列の規則性を乱す作用を発揮する。そのため、(A)重合性液晶モノマーの液晶性が失われ易くなって、前記のように本発明の液晶組成物のNI点は低下しているものと推察される。
【0029】
(B)重合性非液晶モノマーにおける多官能の(B)重合性非液晶モノマーの具体的な割合は、目的とする液晶組成物のNI点に応じて設定してもよいが、好ましくは20重量%以上、より好ましくは30重量%以上であり、通常100重量%以下である。
【0030】
(B)重合性非液晶モノマーの例を挙げると、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、2−(2−ビニロキシエトキシ)エチルアクリレート、2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピルメタクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、9,9−ビス[4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、4−(ω-プロペノイルオキシ)エチルオキシ-4’−シアノビフェニル等の(メタ)アクリレート化合物などが挙げられる。中でも、本発明の液晶組成物のNI点を効率的に低下させる観点からは(メタ)アクリレート化合物が好ましい。
【0031】
(B)重合性非液晶モノマーの分子量は、通常100以上、好ましくは200以上、より好ましくは300以上であり、通常2000以下、好ましくは1500以下、より好ましくは1000以下である。(B)重合性非液晶モノマーの分子量が前記範囲の下限値以上となることにより、加熱プロセス時の(B)重合性非液晶モノマーの揮発を抑制でき、上限値以下となることにより良好な成膜性を得ることができる。
【0032】
本発明の液晶組成物において、(A)重合性液晶モノマーと(B)重合性非液晶モノマーとの合計量を100重量部とした場合、(B)重合性非液晶モノマーの量は、通常1重量部以上、好ましくは5重量部以上、より好ましくは10重量部以上であり、通常30重量部以下、好ましくは25重量部以下、より好ましくは20重量部以下である。また、(B)重合性非液晶モノマーは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。2種類以上の場合は、その合計量が前記の(B)重合性非液晶モノマーの量の範囲に収まることが好ましい。(B)重合性非液晶モノマーの量を前記範囲の下限値以上とすることによりNI点を効率よく下げることができ、上限値以下とすることにより液晶の相状態を安定化させることができる。
【0033】
〔1−3.(C)光重合開始剤〕
(C)光重合開始剤は、光を照射されることによりラジカルを生じうる化合物であることが好ましい。(C)光重合開始剤を含むことにより、本発明の液晶組成物の硬化を速やかに行うことが可能となる。また、(C)光重合開始剤は、通常、本発明の液晶組成物のNI点を低下させる効果も奏する。本発明の液晶組成物を硬化させる際に用いる光は通常は紫外線(UV)であるので、(C)光重合開始剤としても、紫外線の照射によりラジカルを生じうるものを用いることが好ましい。
【0034】
(C)光重合開始剤の例を挙げると、アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン、1,2−ベンジル−2−メチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)ブタノン、1,2−ヒドロオキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン等のアセトフェノン又はその誘導体;ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4−トリメチルシリルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルスルフィド等のベンゾフェノン又はその誘導体;ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾイン又はその誘導体;メチルフェニルグリオキシレート、ベンゾインジメチルケタール、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジクロルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジクロルベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジクロルベンゾイル)−4−エトキシフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジクロルベンゾイル)−4−ビフェニリルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジクロルベンゾイル)−4−プロピルフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジクロルベンゾイル)−2−ナフチルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジクロルベンゾイル)−1−ナフチルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジクロルベンゾイル)−4−クロルフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジクロルベンゾイル)−2,4−ジメトキシフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジクロルベンゾイル)−デシルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジクロルベンゾイル)−4−オクチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジクロルベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジクロルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジクロル−3,4,5−トリメトキシベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジクロル−3,4,5−トリメトキシベンゾイル)−4−エトキシフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2−メチル−1−ナフトイル)−2,5−ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2−メチル−1−ナフトイル)−2,5−フェニルホスフィンオキサイド、ビス(2−メチル−1−ナフトイル)−4−ビフェニリルホスフィンオキサイド、ビス(2−メチル−1−ナフトイル)−4−エトキシビフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2−メチル−1−ナフトイル)−2−ナフチルホスフィンオキサイド、ビス(2−メチル−1−ナフトイル)−4−プロピルフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2−メトキル−1−ナフトイル)−2,5−ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2−メトキル−1−ナフトイル)−4−メトキシフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2−メトキル−1−ナフトイル)−4−ビフェニリルホスフィンオキサイド、ビス(2−クロル−1−ナフトイル)−2,5−ジメチルフェニリルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,6−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド等を挙げることができる。なお、(C)光重合開始剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0035】
本発明の液晶組成物において、(A)重合性液晶モノマーと(B)重合性非液晶モノマーとの合計量を100重量部とした場合、(C)光重合開始剤の量は、通常0.1重量部以上、好ましくは0.5重量部以上、より好ましくは1重量部以上であり、通常10重量部以下、好ましくは7重量部以下、より好ましくは5重量部以下である。(C)光重合開始剤の量を前記範囲の下限値以上とすることにより重合度を高くして液晶硬化物層の硬度を高くしたり、本発明の液晶組成物のNI点を効果的に下げたりでき、上限値以下とすることにより液晶相を安定にして配向均一性を向上させることができる。
【0036】
〔1−4.(D)フッ素を含む界面活性剤〕
本発明の液晶組成物が(D)フッ素を含む界面活性剤を含むことにより、本発明の液晶組成物を用いて製造した液晶硬化物層において、当該液晶硬化物層が異なる位相差を有する2種類以上の領域を有していても、その液晶硬化物層の表面の凹凸を小さくすることができる。
【0037】
図1は、一例としての液晶硬化物層をその厚み方向に対して平行に切った断面を模式的に示す断面図である。図1に示すように、液晶硬化物層10は、異なる位相差を有する2種類以上の領域20及び30を、面内の異なる位置に有する。ここでは、領域20及び領域30はそれぞれ液晶硬化物層10の面内の一方向に対して平行に延在する帯状の領域となっていて、それぞれ複数の領域20及び領域30が交互に並ぶことによって全体としてストライプ状のパターンを形成しているものとする。また、液晶硬化物層10を厚み方向に透過する波長λの光に対して、一方の領域20が相対的に大きな面内位相差(例えば、λ/2)を有し、他方の領域30が相対的に小さな面内位相差(例えば、0)を有するとする。
【0038】
通常、このような液晶硬化物層10は平坦面を有する基材を用いて製造されるので、一方の表面11は平坦な面となる。ところが、一般に領域20よりも領域30の方が厚くなるので、液晶硬化物層10の他方の表面12では領域30の方が領域20よりも突出することになり、表面12に凹凸が生じる。従来は、この表面12における領域30の高さ(すなわち、領域20を基準とした領域30の厚み方向の寸法の差)Hが大きかったため、凹凸が大きくなっていた。このような凹凸が生じる原因は必ずしも定かではないが、領域20と領域30との物理的な密度差が一因となっているものと推察される。
【0039】
ところが、本発明の液晶組成物が(D)フッ素を含む界面活性剤を含むことにより、領域30の高さHを小さくできるので、液晶硬化物層10の表面12の凹凸を小さくできる。したがって、本発明の液晶組成物を用いることにより、表面の凹凸が小さいパターン位相差フィルムを製造することが可能となる。
【0040】
(D)フッ素を含む界面活性剤を用いることにより、前記のように液晶硬化物層10の表面12の凹凸を小さくできる理由は定かではないが、本発明者の検討によれば、以下の理由によるものと推察される。
すなわち、(D)フッ素を含む界面活性剤が未硬化状態のアイソトロピック液体の表面に効率よく配列することにより、凹凸を小さくできているものと推察される。
【0041】
(D)フッ素を含む界面活性剤は、カチオン型、アニオン型、カチオン型などのいずれのタイプであってもよい。なかでも、ノニオン型の界面活性剤であると、液晶硬化物層の表面の凹凸を効果的に小さくできるので、好ましい。
【0042】
(D)フッ素を含む界面活性剤の例を挙げると、OMNOVA社PolyFoxのPF−151N、PF−636、PF−6320、PF−656、PF−6520、PF−3320、PF−651、PF−652;ネオス社フタージェントのFTX−204D、FTX−208G、FTX−209F、FTX−212P、FTX−215M、FTX−222F、FTX−602A;DIC社メガファックのF−477、F−553、F−554、F−555、F−556、TF−1367;住友スリーエム社ノベックのFC−430、FC−4430、FC−4432;AGCセイミケミカル社サーフロンのKH−40などが挙げられる。
なお、(D)フッ素を含む界面活性剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0043】
本発明の液晶組成物において、(A)重合性液晶モノマーと(B)重合性非液晶モノマーとの合計量を100重量部とした場合、(D)フッ素を含む界面活性剤の量は、通常0.01重量部以上、好ましくは0.05重量部以上、より好ましくは0.10重量部以上であり、通常1重量部以下、好ましくは0.50重量部以下、より好ましくは0.30重量部以下である。(D)フッ素を含む界面活性剤の量を前記範囲の下限値以上とすることにより本発明の液晶組成物のNI点を低下させることができ、上限値以下とすることにより液晶相を安定にして配向均一性を向上させることができる。
【0044】
〔1−5.その他の成分〕
本発明の液晶組成物は、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述したもの以外にもその他の成分を含んでいてもよい。また、これらの成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0045】
例えば、本発明の液晶組成物は、溶媒を含んでいてもよい。溶媒を含むことにより、本発明の液晶組成物の塗布性を向上させることができる。
溶媒のうち好適な例を挙げると、ケトン類、アルキルハライド類、アミド類、スルホキシド類、ヘテロ環化合物、炭化水素類、エステル類、およびエーテル類等が挙げられる。これらの中でも、ケトン類、環状エーテル類が、液晶化合物を溶解させやすいために好ましい。ケトン類としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の非環状ケトン類;シクロプロパノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等の環状ケトン類などが挙げられる。また、環状エーテル溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン等が挙げられる。これらの中でも、ケトン類が好ましい。なお、溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよく、液晶組成物としての相溶性、粘性及び表面張力の観点などから最適化されることが好ましい。
【0046】
本発明の液晶組成物において、(A)重合性液晶モノマーと(B)重合性非液晶モノマーとの合計量を100重量部とした場合、溶媒の量は、通常50重量部以上、好ましくは100重量部以上、特に好ましくは150重量部以上であり、通常400重量部以下、好ましくは300重量部以下、特に好ましくは200重量部以下である。
【0047】
さらに、本発明の液晶組成物は、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤などを含んでいてもよい。
【0048】
〔1−6.物性〕
本発明の液晶組成物のNI点は、100℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましく、80℃以下が特に好ましい。本発明の液晶組成物のNI点を低くすることにより、パターン位相差フィルムを製造する際に、基材への熱ダメージを小さくしたり、熱によって意図しない反応が進行したり、熱によりパターン位相差フィルムに寸法変化が生じたり、熱によりパターンの直進性が変化したり、製造コストが上昇したりすることを抑制できる。特に、液晶組成物のNI点を100℃以下にすることは従来は困難と認識されていたため、本発明のように100℃以下のNI点を実現できたことは、工業的に意義がある。ただし、NI点が低すぎると液晶硬化物層において位相差の異なる複数の領域を形成する際の温度制御が複雑になる可能性があるので、本発明の液晶組成物のNI点は、40℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、60℃以上が特に好ましい。
【0049】
本発明の液晶組成物のNI点を低くするためには、(A)成分〜(D)成分を上述した特定の配合比で組み合わせ、更に、(B)重合性非液晶モノマーが多官能の重合性非液晶モノマーを含むようにする。この際、(A)重合性液晶モノマーとしてNI点の低いものを用いたり、多官能の(B)重合性非液晶モノマーの量を多くしたり、(C)光重合開始剤の量を調整したりすることにより、本発明の液晶組成物のNI点を効果的に下げることができる。
【0050】
[2.パターン位相差フィルム]
本発明の液晶組成物を用いることにより、本発明のパターン位相差フィルムを製造できる。本発明のパターン位相差フィルムは、本発明の液晶組成物の硬化物からなる層(即ち、液晶硬化物層)を備え、前記の液晶硬化物層が、異なる位相差を有する2種類以上の領域を有するものである。通常、液晶硬化物層が有する2種類以上の領域は所定のパターンを形成するようになっている。前記の2種類以上の領域は、具体的には、等方な領域及び異方性を有する領域としてもよい。
【0051】
異方性を有する領域は、より具体的には、1/2波長板として機能しうる領域としてもよい。1/2波長板として機能しうる領域は、測定波長546nmで測定した面内位相差の値が、225nm以上が好ましく、245nm以上がより好ましく、また、285nm以下が好ましく、265nm以下がより好ましい。
【0052】
等方な領域は、測定波長546nmで測定した面内位相差がほぼゼロであることが好ましい。具体的には、測定波長546nmで測定した面内位相差の値が、1nm以上が好ましく、3nm以上がより好ましく、また、10nm以下が好ましく、5nm以下がより好ましい。
【0053】
面内位相差Reは、式I:Re=(nx−ny)×d(式中、nxは厚み方向に垂直な方向(面内方向)であって最大の屈折率を与える方向の屈折率を表し、nyは厚み方向に垂直な方向(面内方向)であってnxの方向に直交する方向の屈折率を表し、dは膜厚を表す。)で表される値である。面内位相差は、市販の位相差測定装置(例えば、王子計測機器社製、「KOBRA−21ADH」、2次元複屈折評価システム「フォトニックラティス社製;WPA−micro」)あるいはセナルモン法を用いて測定できる。
【0054】
液晶硬化物層において2種類以上の領域により構成されるパターンの具体的形状は、立体表示装置において本発明のパターン位相差フィルムと組み合わせる液晶パネルの画素の配置に応じて選択しうる。例えば、立体表示装置がパッシブ型の立体表示装置である場合、液晶パネルは通常2組の画素群(即ち、右目で観察されるための画素群及び左目で観察されるための画素群)を有する。この場合、パターン位相差フィルムが有するパターンは、これらの画素群のうちの一方に対応する領域が等方な領域であり、他方に対応する領域が異方性を有する領域であるパターンとしてもよい。より具体的には、複数の領域が長手方向に沿って帯状に延在したパターンを、好ましく挙げることができる。
【0055】
図2は、液晶硬化物層が有しうるパターンの一例を概略的に示す上面図である。図2の例において、パターン位相差フィルム100の液晶硬化物層110は、複数の異方性を有する領域111(異方性領域;斜線を付した部分として示される)と、複数の等方な領域112(等方性領域)とを交互に有し、したがってこれらからなるストライプ状のパターンを有している。異方性領域111及び等方性領域112は、いずれもその長手方向(座標軸Xで示す方向)に沿って延在する、帯状の形状を有している。異方性領域111の幅W111及び等方性領域112の幅W112は、用いる液晶パネル中の画素の寸法や横縦の解像度に適合させて適宜設定し、例えば20インチ、解像度(横1600×縦1200ピクセル)では200μm〜260μmであり、例えば27インチ、解像度(横1920×縦1200ピクセル)では280μm〜340μmである。
【0056】
さらに、本発明のパターン位相差フィルムにおいては、液晶硬化物層は、本発明の液晶組成物を硬化させることによって得られたものである。そのため、液晶硬化物層110の表面の凹凸を小さくすることができ、ひいては表面の凹凸が小さいパターン位相差フィルムを実現することが可能となっている(図1参照)。
【0057】
本発明のパターン位相差フィルムを製造する場合、例えば、本発明の液晶組成物を基材に塗布して未硬化状態の液晶組成物層を得て、その液晶組成物層の一部をある配向状態で硬化させ、他の一部を等方相の配向状態(すなわち、配向していない状態)で硬化させて液晶硬化物層を得ることにより、本発明のパターン位相差フィルムを製造してもよい。このような製造方法は、基材として長尺の基材フィルムを用いて行うことが可能であり、そのためパターン位相差フィルムを長尺のフィルムとして製造できるので、生産効率の点で優れている。ここで「長尺」のフィルムとは、フィルムの幅に対して、少なくとも5倍以上の長さを有するものをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するものをいう。
【0058】
具体例を挙げると、
i.基材フィルムの一方の表面に、エネルギー線を遮光する遮光部と前記エネルギー線を透光する透光部とを有するマスク層を作製する工程と、
ii.前記基材フィルムの前記マスク層とは反対側の表面に、未硬化状態の液晶組成物層を設ける工程と、
iii.前記基材フィルムの前記マスク層側から、前記遮光部で遮光されるが前記透光部を透光する波長のエネルギー線を照射して、前記液晶組成物層の一部の領域を硬化させる第一の硬化工程と、
iv.前記液晶組成物層の未硬化状態の領域における配向状態を変化させる工程と、
v.前記基材フィルムの前記マスク層とは反対側からエネルギー線を照射して前記液晶組成物層の未硬化状態の領域を硬化させる第二の硬化工程と
を有する製造方法により製造してもよい。
【0059】
これらのようにして製造されたパターン位相差フィルムは、通常は基材フィルム及びマスク層を剥がした後で使用される。ただし、適宜、基材フィルム及びマスク層は、剥がさずに使用してもよい。
【0060】
上記のパターン位相差フィルムの製造方法において、基材フィルムの材料としては、未硬化状態の液晶組成物層を硬化させる工程において液晶組成物を硬化させられる程度に紫外線等のエネルギー線を透過させられる材料を用いうる。通常は、1mm厚で全光線透過率(JIS K7361−1997に準拠して、濁度計(日本電色工業社製、NDH−300A)を用いて測定)が80%以上である材料が好適である。
【0061】
基材フィルムの材料の例を挙げると、鎖状オレフィンポリマー、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、酢酸セルロース系ポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリメタクリレートなどが挙げられる。これらの中でも、鎖状オレフィンポリマー及びシクロオレフィンポリマーが好ましく、透明性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性などの観点から、シクロオレフィンポリマーが特に好ましい。なお、これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。また、基材フィルムの材料には、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意の配合剤を含ませてもよい。好適な材料の具体例を挙げると、日本ゼオン社製「ゼオノア1420」を挙げることができる。
【0062】
基材フィルムの厚みは、製造時のハンドリング性、材料のコスト、薄型化及び軽量化の観点から、好ましくは30μm以上、より好ましくは60μm以上であり、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下である。
【0063】
基材フィルムは、延伸されていない未延伸フィルムであってもよく、延伸された延伸フィルムであってもよい。また、等方なフィルムであっても、異方性を有するフィルムであってもよい。
【0064】
基材フィルムは、一層のみからなる単層構造のフィルムであってもよく、二層以上の層からなる複層構造のフィルムであってもよい。通常は、生産性及びコストの観点から、単層構造のフィルムを用いる。
【0065】
基材フィルムは、その片面又は両面に表面処理が施されたものであってもよい。表面処理を施すことにより、基材フィルムの表面に直接形成される他の層との密着性を向上させることができる。表面処理としては、例えば、エネルギー線照射処理や薬品処理などが挙げられる。
【0066】
マスク層の材料としては、エネルギー線、特に紫外線を遮光することができ、且つパターンの形成が容易なマスク用組成物を適宜選択して用いてもよい。
【0067】
通常、マスク用組成物としては、樹脂を用いる。前記の樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、セルロースエステル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ウレタンアクリレート硬化樹脂、エポキシアクリレート硬化樹脂およびポリエステルアクリレート硬化樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種類の樹脂が好ましい。これらの樹脂を含むことにより、紫外線を遮光する材料を高温環境下においても保持し、安定した遮光部を作製することができる。前記の樹脂は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0068】
マスク用組成物に含まれる樹脂のガラス転移温度は、通常80℃以上、好ましくは100℃以上であり、通常400℃以下、好ましくは350℃以下である。ガラス転移温度を80℃以上にすることによりマスク層の耐熱性を高めることができ、例えば液晶組成物層の加熱時にマスク層が変形することを防止できる。また、ガラス転移温度を400℃以下にすることにより、樹脂の溶解性を高めてマスク用組成物の印刷を簡単にできる。印刷前の状態とマスク層を形成した後の状態とで樹脂のガラス転移温度が変化する場合には、マスク層を形成した後の状態においてガラス転移温度が前記の範囲に収まることが好ましい。
【0069】
マスク用組成物は、紫外線吸収剤を含むことが好ましい。これによりマスク層の遮光部が紫外線吸収剤を含むことになり、遮光部において紫外線を安定して遮光することができるようになる。紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤およびトリアジン系紫外線吸収剤からなる群より選ばれる少なくとも1種類の紫外線吸収剤を用いることが好ましい。紫外線吸収剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。紫外線吸収剤の使用量は、マスク層中のモノマー、オリゴマー及びポリマー100重量部に対して、通常5重量部以上、好ましくは8重量部以上、より好ましくは10重量部以上であり、通常20重量部以下、好ましくは18重量部以下、より好ましくは15重量部以下である。
【0070】
マスク用組成物は、さらに、着色剤、金属粒子、溶媒、光重合開始剤、架橋剤、その他の成分を含んでいてもよい。
【0071】
基材フィルム及びマスク用組成物を用意した後で、基材フィルムの一方の表面にマスク層を形成する。マスク用組成物を用いてマスク層を形成する方法としては、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、ロータリースクリーン印刷法、グラビアオフセット印刷法、インクジェット印刷法、又はこれらの組み合わせである印刷法を好ましく挙げることができる。透光部と遮光部は、例えば、マスク層の厚さが薄い層と厚い層とを形成することにより設けてもよい。
【0072】
また、基材フィルムの前記マスク層とは反対側の表面には、未硬化状態の液晶組成物層を設ける。未硬化状態の液晶組成物層を設ける場合、通常は、塗布法を用いる。液晶組成物の塗布方法としては、例えば、リバースグラビアコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、ダイコーティング法、バーコーティング法等の方法が挙げられる。液晶組成物を基材フィルムの表面に塗布することにより、塗膜として未硬化状態の液晶組成物層が形成される。
【0073】
液晶組成物は、基材フィルムの表面に直接に塗布してもよいが、基材フィルムの表面に例えば配向膜等を介して間接的に塗布してもよい。配向膜を用いれば、液晶組成物層において液晶化合物を容易に配向させることができる。
【0074】
配向膜は、例えば、セルロース、シランカップリング剤、ポリイミド、ポリアミド、ポリビニルアルコール、エポキシアクリレート、シラノールオリゴマー、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、ポリオキサゾール、環化ポリイソプレンなどを用いて形成してもよい。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0075】
配向膜の厚みは、所望する液晶組成物層の配向均一性が得られる厚みであればよく、好ましくは0.001μm以上、より好ましくは0.01μm以上であり、好ましくは5μm以下、より好ましくは2μm以下である。さらに、例えば、特開平6−289374号公報、特表2002−507782号公報、特許4022985号公報、特許4267080号公報、特許4647782号公報、米国特許5389698号明細書などに示されるような光配向膜と偏光UVを用いる方法によって、液晶化合物を配向させるようにしてもよい。
【0076】
また、上述した配向膜以外の手段によって、液晶化合物を配向させるようにしてもよい。例えば、配向膜を使用せずに基材フィルムの表面を直接ラビングするような配向処理を施してもよい。通常、基材フィルムの搬送方向とラビング方向は平行になる。
前記の配向膜の形成、基材フィルムの表面のラビング等の処理工程は、マスク層形成工程の工程前、工程中及び工程後のいずれの時点で行ってもよいが、未硬化状態の液晶組成物層を設ける工程の前に行うことが好ましい。
【0077】
未硬化状態の液晶組成物層を設ける工程を行った後で、第一の硬化工程に先立ち、必要に応じて、液晶組成物層の液晶化合物を配向させる配向工程を行ってもよい。配向工程における具体的な操作としては、例えば、オーブン内で未硬化状態の液晶組成物層を所定の温度に加熱する操作を挙げることができる。
【0078】
配向工程において液晶組成物層を加熱する温度は、通常40℃以上、好ましくは50℃以上であり、通常200℃以下、好ましくは140℃以下である。また、加熱処理における処理時間は、通常1秒以上、好ましくは5秒以上であり、通常3分以下、好ましくは120秒以下である。これにより、液晶組成物層中の液晶化合物が配向しうる。また、液晶組成物に溶媒が含まれていた場合、前記の加熱によって通常は溶媒が乾燥するので、液晶組成物層から溶媒が除去される。したがって、配向工程を行うと、通常は液晶組成物層を乾燥させる乾燥工程も同時に進行する。通常、液晶組成物層の配向軸はラビング方向と平行となり、配向軸が遅相軸となる。
【0079】
必要に応じて配向工程を行った後で、液晶組成物層の一部の領域を硬化させる第一の硬化工程を行う。この際、硬化させられる領域では液晶組成物において重合反応が進行し、重合性液晶モノマーが異方性の配向状態を維持したまま固定化される。
第一の硬化工程は、通常、紫外線の照射により行う。紫外線の照射時間、照射量、及びその他の条件は、液晶組成物の組成及び液晶組成物層の厚みなどに応じて適切に設定しうる。照射時間は通常0.01秒から3分の範囲であり、照射量は通常0.01mJ/cmから50mJ/cmの範囲である。また、紫外線の照射は、例えば窒素及びアルゴン等の不活性ガス中において行ってもよく、空気中で行ってもよい。
【0080】
第一の硬化工程の後で、液晶組成物層の未硬化状態の領域における配向状態を変化させる工程を行う。この工程において、配向状態を変化させる方法としては、例えば、ヒーターにより、液晶組成物層を、液晶組成物のNI点以上に加熱してもよい。これにより、液晶化合物分子の配向はランダムになるので、液晶組成物層の未硬化状態の領域は等方相となる。この際、本発明の液晶組成物はNI点を低くすることが可能であるので、従来よりも低い温度まで加熱すれば液晶組成物層の未硬化状態の領域を等方相にできる。したがって、基材フィルムへの熱ダメージを小さくできる。また、液晶組成物層において熱によって意図しない反応が進行したり、熱により寸法変化が生じたり、熱によりパターンの直進性が変化したり、製造コストが上昇したりすることを抑制できる。
【0081】
液晶組成物層の未硬化状態の領域における配向状態を変化させた後で、第二の硬化工程を行う。この際、硬化させられる領域では液晶組成物において重合反応が進行し、重合性液晶モノマーは等方性の配向状態を維持したまま固定化される。
第二の硬化工程は、紫外線の照射により行ってもよい。紫外線の照射時間、照射量などは、液晶組成物の組成及び液晶組成物層の厚みなどに応じて適切に設定しうるが、照射量は通常50mJ/cmから10,000mJ/cmの範囲である。また、紫外線の照射は、例えば窒素及びアルゴン等の不活性ガス中において行ってもよく、空気中で行ってもよい。照射に際して、必要に応じてヒーターによる加熱を継続して、未硬化状態の液晶組成物層の等方相を維持した状態で照射を行ってもよい。
【0082】
さらに、パターン位相差フィルムの製造方法の別の具体例を挙げると、パターン位相差フィルムは、
i.基材フィルムの一方の表面に、未硬化状態の液晶組成物層を設ける工程と、
ii.液晶組成物層に、ストライプパターンの透光部および遮光部をガラス上に設けたガラスマスクを介して、エネルギー線を照射して、前記液晶組成物層の一部の領域を硬化させる第一の硬化工程と、
iii.前記液晶組成物層の未硬化状態の領域における配向状態を変化させる工程と、
iv.液晶組成物層にエネルギー線を照射して前記液晶組成物層の未硬化状態の領域を硬化させる第二の硬化工程と
を有する製造方法により製造してよい。この製造方法においては、先に説明した製造方法と同様の操作は、先に説明した製造方法と同様の条件で行ってもよい。
【0083】
また、第一の硬化工程としては、特開平4−299332号公報に示した方法を使用してもよい。また、ガラスマスクは、例えば、ガラス表面にクロムスパッタを施し、さらにフォトレジストを塗布し、ストライプ状に露光してフォトレジストを感光させて、洗浄し、クロムをエッチングしたものを用いてもよい。あるいは、例えば感光性乳剤を塗布したPETフィルムをストライプ状にレーザー描画し、洗浄し、該PETフィルムをガラス上に接着層を介して貼り合わせたものを用いてもよい。
【0084】
さらに、上述した製造方法では、パターン位相差フィルムが得られる限り、各工程の順番は任意である。例えば、先に例示した製造方法において、基材フィルムに未硬化状態の液晶組成物層を設ける工程を行ってから、基材フィルムにマスク層を作製する工程を行うようにしてもよい。
また、必要に応じて、上述した工程以外の工程を行うようにしてもよい。
【0085】
上述した製造方法によれば、いずれも、基材フィルムの表面に液晶硬化物層が形成されるので、本発明のパターン位相差フィルムが得られる。得られる液晶硬化物層においては、異なる位相差を有する各領域が、遮光部及び透光部により形成されるマスク層又はガラスマスクのマスクパターンを精度よく写し取ったパターンを形成する。さらに、当該方法により得られたパターン位相差フィルムにおいては、異なる位相差を有する領域同士の間には、物質的な連続性がある。したがって、上述した製造方法は、領域間の空隙による反射及び散乱等を生じない点で光学的に有利であり、また、領域間の空隙を起点とした破損等を生じない点で機械的強度の点でも有利である。
【0086】
パターン位相差フィルムの液晶硬化物層の厚みは、液晶組成物における液晶化合物の屈折率異方性(Δn)の値に応じて、液晶硬化物層の領域それぞれで所望の面内位相差Reが得られるように適切な厚みに設定しうる。通常は、液晶硬化物層の最大厚みTは、1μm以上10μm以下の範囲である(図1参照)。
【0087】
[3.立体表示装置]
本発明の立体表示装置は、本発明のパターン位相差フィルムを備える。以下、その立体表示装置の具体的な例について図面を示して説明する。
【0088】
図3は、本発明の立体表示装置として用いうる液晶表示装置の例を概略的に示す分解上面図である。図3は、観察者が、立体表示装置の表示面に対して垂直な方向から、右目及び左目により映像を視認する態様を上側から観察した例を示している。立体表示装置は、図中左側に縦置きされ(即ち、表示面が鉛直方向に平行となるよう置かれ)、従って図中右側から観察する観察者の観察方向は、水平方向となる。図3に示すように、立体表示装置200は、液晶パネル210と、1/4波長板である位相差フィルム220と、パターン位相差フィルム230とを、この順に備える。使用の態様において、液晶パネル210、位相差フィルム220及びパターン位相差フィルム230は、通常は貼付された状態とされるが、図3では図示のためこれらを分解して示している。
【0089】
液晶パネル210は、光源側から順に、直線偏光板である光源側偏光板211と、液晶セル212と、直線偏光板である視認側偏光板213とを備える。これらにより、液晶パネル210を透過した光は、直線偏光となって出射する。視認側偏光板213の透過軸は、矢印A213で示す通り鉛直方向に平行であり、したがって視認側偏光板213から出射する光の偏光方向も矢印A213で示される鉛直方向となる。
【0090】
液晶パネル210には、厚み方向から見てそれぞれ異なる位置に、右目用画像を表示する画素領域と左目用画像を表示する画素領域とが設定されている。これらの画素領域はいずれも水平方向に延在する帯状の領域となっている。また、右目用画像を表示する画素領域及び左目用画像を表示する画素領域は幅が一定の領域となっていて、それらの配置は、右目用画像を表示する画素領域と左目用画像を表示する画素領域とが鉛直方向において交互となるように並んだストライプ状の配置となっている。
【0091】
位相差フィルム220は、透過光に対して略1/4波長板として機能しうるフィルムであって、面内に一様な面内位相差を有する。具体的には、位相差フィルム220の位相差が、透過光の波長範囲の中心値において、中心値の1/4の値から、通常±65nm、好ましくは±30nm、より好ましくは±10nmの範囲である場合に、透過光に対して略1/4波長として機能しうるといえる。通常、画像表示に用いられる光は可視光であるので、可視光の波長範囲の中心値である波長550nmに対して前記の要件を満たせば、略1/4波長板として機能しうることになる。
位相差フィルム220の遅相軸は、矢印A220で示す通り、視認側偏光板213の偏光透過軸に対して45°の角度をなす方向である。視認側偏光板213から出射した直線偏光は、この位相差フィルム220を透過することにより、矢印A240で示す回転方向を有する円偏光に変換される。
【0092】
パターン位相差フィルム230は、画面の長手方向に対して平行且つ均一に設けられた帯状の異方性領域231と帯状の等方性領域232とを有する。異方性領域231及び等方性領域232は、鉛直方向において交互に並んだストライプ状の配置となっている。また、厚み方向から見ると、異方性領域231は液晶パネル210の左目用画像を表示する画素領域に重なり、等方性領域232は液晶パネルの右目用画像を表示する画素領域に重なるようになっている。
【0093】
異方性領域231の面内位相差は透過光の略1/2波長である。異方性領域231の遅相軸は、矢印A231で示す通り、視認側偏光板213の偏光透過軸に対して直交する方向(即ち水平方向)である。これにより、位相差フィルム220から出射した円偏光のうち、異方性領域231を透過した光は、矢印A251で示される、反転した回転方向を有する円偏光に変換される。他方、等方性領域232の面内位相差は略ゼロであり、したがって、位相差フィルム220から出射した円偏光のうち等方性領域232を透過した光は、矢印A252で示す通り、透過前と同じ回転方向を有する円偏光として出射する。
【0094】
この例において、観察者は、偏光メガネ300を通して立体表示装置200の表示面を観察する。偏光メガネ300は、1/2波長板310、1/4波長板320及び直線偏光板330をこの順に備える。1/2波長板310の遅相軸は、矢印A310で示す通り、パターン位相差フィルム230の異方性領域231の遅相軸に対して直交する(即ち、鉛直方向に平行である。)。1/4波長板320の遅相軸は、矢印A320で示す通り、立体表示装置の位相差フィルム220の遅相軸に対して直交する。直線偏光板330の偏光透過軸は、矢印A330で示す通り、立体表示装置200の視認側偏光板213の偏光透過軸と直交する方向(即ち水平方向)である。また、1/2波長板310は、偏光メガネ300の、右目に対応する部分に設けられているが、左目に対応する部分には設けられない。
【0095】
偏光メガネ300の波長板の配置をこのようにすることで、右目に到達する光Rと左目に到達する光Lが通過してきた波長板の構成は、立体表示装置200と偏光メガネ300との間を境にして対称となる。これにより、各々の波長板で発生する波長分散を解消して、右目に到達する光Rと左目に到達する光Lの波長分散は同じになり、右目と左目で見る映像の色味に差異が生じることはない。
【0096】
異方性領域231から出射した光Lが、偏光メガネ300の左目に対応する部分に入射すると、その光Lは、1/4波長板320に入射する。1/4波長板320を透過した光は、水平方向に偏光軸を有する直線偏光に変換され、したがって直線偏光板330を透過することができる。したがって、異方性領域231を透過した光Lは、使用者の左目で視認される。
【0097】
一方、異方性領域231から出射した光Lが、偏光メガネ300の右目に対応する部分に入射すると、その光Lは、1/2波長板310を透過し、反転した回転方向(即ち、矢印A340と反対方向)を有する円偏光に変換され、1/4波長板320に入射する。1/4波長板320を透過した光は、鉛直方向に偏光軸を有する直線偏光に変換され、したがって直線偏光板330を透過することができない。したがって、異方性領域231を透過した光Lは、使用者の右目で視認されない。
【0098】
また、等方性領域232から出射した光Rが、偏光メガネ300の右目に対応する部分に入射すると、その光Rは、1/2波長板310を透過し、矢印A340で示すように、反転した回転方向を有する円偏光に変換され、1/4波長板320に入射する。1/4波長板320を透過した光は、水平方向に偏光軸を有する直線偏光に変換され、したがって直線偏光板330を透過することができる。したがって、等方性領域232を透過した光Rは、使用者の右目で視認される。
【0099】
一方、等方性領域232から出射した光Rが、偏光メガネ300の左目に対応する部分に入射すると、その光Rは、1/4波長板320に入射する。1/4波長板320を透過した光は、鉛直方向に偏光軸を有する直線偏光に変換され、したがって直線偏光板330を透過することができない。したがって、等方性領域232を透過した光Rは、使用者の左目で視認されない。
【0100】
このように、使用者は、異方性領域231を透過した光を左目で視て、また、等方性領域232を透過した光を右目で視ることになる。したがって、液晶パネル210の異方性領域231に対応する領域で左目用の画像を表示し、液晶パネル210の等方性領域232に対応する領域で右目用の画像を表示することにより、使用者は、立体画像を視認できる。
【0101】
また、立体表示装置200のパターン位相差フィルム230は、本発明の液晶組成物から製造されたものであるので、表面の凹凸を小さくできる。したがって、パターン位相差フィルム230を他のフィルムと貼り合わせる際の気泡の発生を防止したり、平面画像を表示する際の写像性を向上させたりすることが可能である。
【0102】
なお、上記の立体表示装置200は、更に変更して実施してもよい。
例えば、位相差フィルム220とパターン位相差フィルム230との順番を入れ替えて、位相差フィルム220をパターン位相差フィルム230よりも視認側に設けてもよい。
また、例えば、立体表示装置200に、反射防止フィルム、ギラツキ防止フィルム、アンチグレアフィルム、ハードコートフィルム、輝度向上フィルム、接着層、粘着層、ハードコート層、反射防止膜、保護層などを設けてもよい。
また、偏光メガネ300の右目に対応する部分と左目に対応する部分の構成を入れ替えて、且つ、液晶パネル210の異方性領域231に対応する領域の画像と液晶パネル210の等方性領域232に対応する領域の画像とを入れ替えて実施してもよい。
さらに、立体画像を適切に表示できる限り、各光学要素の遅相軸、透過軸等の光軸の方向は変更して実施してもよい。
【0103】
[4.位相差フィルム]
上述した例のように、パターン位相差フィルムは、位相差フィルムと組み合わせて用いることがある。このような位相差フィルムは、例えば、樹脂により形成された延伸フィルムを用いてもよい。
【0104】
通常、樹脂はポリマー(重合体)を含む。位相差フィルムの材料となる樹脂が含むポリマーの例を挙げると、鎖状オレフィンポリマー、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、酢酸セルロース系ポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリメタクリレートなどが挙げられる。これらの中でも、鎖状オレフィンポリマー及びシクロオレフィンポリマーが好ましく、透明性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性などの観点から、シクロオレフィンポリマーが特に好ましい。
【0105】
なお、樹脂は、1種類のポリマーを単独で含むものを用いてもよく、2種類以上のポリマーを任意の比率で組み合わせて含むものを用いてもよい。また、樹脂には、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意の配合剤を含ませてもよい。
【0106】
さらに、位相差フィルムとしては、単層構造のフィルムを用いてもよく、複層構造のフィルムを用いてもよい。
【0107】
好適な位相差フィルムの例を挙げると、市販の長尺の斜め延伸フィルム、横延伸フィルム、例えば、日本ゼオン社製、製品名「斜め延伸ゼオノアフィルム」、「横延伸ゼオノアフィルム」を挙げることができる。
【実施例】
【0108】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施してもよい。また、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り重量基準である。また、以下の説明において位相差Reの測定波長は、別に断らない限り550nmである。さらに、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。
【0109】
[評価方法]
〔NI点の測定〕
偏光顕微鏡を備えた融点測定装置のホットプレートに試料を置き、1℃/分の速度で加熱した。試料の一部がネマチック状態からアイソトロピック液体に変化したときの温度を測定し、これを液晶組成物のNI点とした。
【0110】
〔液晶組成物の塗布乾燥後の外観の評価〕
パターン位相差フィルムの製造の際、液晶組成物を基材フィルムに塗布し、乾燥させた時の液晶組成物層の様子を目視観察した。
【0111】
〔λ/2第一領域のΔnの測定〕
パターン位相差フィルムのλ/2領域を形成する液晶組成物の屈折率異方性(Δn)を2次元複屈折評価システム「フォトニックラティス社製;WPA−micro」により測定した。
【0112】
〔Iso領域の高さの測定〕
触針式表面形状測定器(アルバック社製 Dektak150)により、パターン位相差フィルムのIso領域の高さを測定した。ここで、Iso領域の高さとは、当該Iso領域の周囲にあるλ/2領域を基準としたIso領域の厚み方向の寸法を意味する。
【0113】
[実施例1]
〔液晶組成物の製造〕
(A)重合性液晶モノマーであるLC242(BASF社製;NI点=125℃;波長546nmでのΔn=0.15)80部と、(B)重合性非液晶モノマーである下記化合物1を16部及びATMPT(トリメチロールプロパントリアクリレート;新中村化学工業社製)4部と、(C)光重合開始剤であるIrgacure379(BASF社製)3部と、(D)フッ素を含む界面活性剤であるフタージェント209F(ネオス社製)の1%メチルエチルケトン溶液を10部と、溶媒であるメチルエチルケトン190.2部とを混合し、液晶組成物を製造した。
得られた液晶組成物について上述した要領でNI点を測定した。結果を表1に示す。
【0114】
【化3】

【0115】
【化4】

【0116】
〔パターン位相差フィルムの製造〕
基材フィルムとして、長尺のノルボルネン樹脂フィルム(日本ゼオン社製 ゼオノアフィルムZF14−100)を用意した。この基材フィルムをフィルム搬送装置の繰り出し部に取り付け、当該基材フィルムを搬送しながら搬送方向と平行な長尺方向にラビング処理を施し、ラビング処理を施した面に前記にて用意した液晶組成物をダイコーターを使用して塗布した。これにより、基材フィルムの片面に、塗膜として未硬化状態の液晶組成物層を形成した。
【0117】
前記の液晶組成物層に対して40℃で2分間配向処理を施して、液晶組成物層中の(A)重合性液晶モノマーを配向させた。その後、液晶組成物層に対して、基材フィルムの液晶組成物層が形成されたのとは反対側からガラスマスクを介して0.1mJ/cm〜45mJ/cmの微弱な紫外線を照射した。前記のガラスマスクとしては、基材フィルムの長尺方向に延在する透光部及び遮光部が互いに平行に並んでストライプ状に形成されたものを用いた。ガラスマスクの透光部の幅は269μm、遮光部の幅は284μmとした。ガラスマスクの遮光部に相当する位置では露光されなかったために液晶組成物層は未硬化状態のままであるが、ガラスマスクの透光部に相当する位置では露光されたために液晶組成物層が硬化した。これにより、液晶組成物層の露光部分において、1/2波長板として機能しうる面内位相差Reを有する領域(λ/2領域)を形成した。
【0118】
次に、液晶組成物層を90℃で10秒間加温処理して、液晶組成物層の未硬化状態の部分(ガラスマスクの遮光部に相当した部分)の液晶相を等方相に転移させた。この状態を維持しながら、基材フィルムの液晶組成物層側から窒素雰囲気下で液晶組成物層に対して2000mJ/cmの紫外線を照射して、液晶組成物層の未硬化部分を硬化させた。これにより、面内位相差Reが小さい領域(Iso領域)が形成された。
【0119】
このようにして、1/2波長板として機能しうる面内位相差Reを有するλ/2領域と、面内位相差Reが小さいIso領域とを、同一面内に有する液晶硬化物層を得た。この液晶硬化物層を備えるパターン位相差フィルムは、(基材フィルム)−(液晶硬化物層)の層構成を有する長尺のフィルムである。λ/2領域及びIso領域は互いに平行な帯状の領域として形成され、それぞれの帯の幅は276.6μmであった。また、液晶硬化物層の乾燥膜厚は、最大で10μmであった。
得られたパターン位相差フィルムについて、上述した要領で評価を行った。結果を表1に示す。
【0120】
[実施例2]
(A)重合性液晶モノマーであるLC242の量を76部にしたこと、並びに、(B)重合性非液晶モノマーである化合物1の量を15部にし、トリメチロールプロパントリアクリレートの量を9部にしたこと以外は実施例1と同様にして液晶組成物及びパターン位相差フィルムを製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0121】
[実施例3]
(A)重合性液晶モノマーであるLC242の量を76部にしたこと、(B)重合性非液晶モノマーである化合物1の量を15部にし、トリメチロールプロパントリアクリレートの量を9部にしたこと、並びに、(D)フッ素を含む界面活性剤としてメガファックF477(DIC社製)の1%メチルエチルケトン溶液を10部用いたこと以外は実施例1と同様にして液晶組成物及びパターン位相差フィルムを製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0122】
[実施例4]
(A)重合性液晶モノマーとしてLC1057(BASF社製;NI点=207℃;波長546nmでのΔn=0.21)80部を用いたこと、及び、(B)重合性非液晶モノマーとしてABPE4(エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート;新中村化学工業社製)20部を用いたこと以外は実施例1と同様にして液晶組成物及びパターン位相差フィルムを製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0123】
[比較例1]
(A)重合性液晶モノマーであるLC242の量を76部にしたこと、(B)重合性非液晶モノマーである化合物1の量を15部にし、トリメチロールプロパントリアクリレートの量を9部にしたこと、並びに、(D)フッ素を含む界面活性剤であるフタージェント209Fの1%メチルエチルケトン溶液の量を110部に変更したこと以外は実施例1と同様にして液晶組成物及びパターン位相差フィルムを製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0124】
[比較例2]
(A)重合性液晶モノマーであるLC242の量を76部にしたこと、(B)重合性非液晶モノマーである化合物1の量を15部にし、トリメチロールプロパントリアクリレートの量を9部にしたこと、並びに、(D)フッ素を含む界面活性剤の代わりにシリコン系の界面活性剤であるBYK−3510(ビックケミージャパン社製)の1%メチルエチルケトン溶液を10部用いたこと以外は実施例1と同様にして液晶組成物及びパターン位相差フィルムを製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0125】
【表1】

【0126】
[評価]
実施例1〜4から、重合性液晶モノマー、重合性非液晶モノマー、界面活性剤及び光重合開始剤を特定の比率で含む液晶組成物において、界面活性剤としてフッ素を含むものを用いることにより、Iso領域の高さを小さくできることがわかる。したがって、本発明の液晶組成物を用いることにより、表面の凹凸が小さいパターン位相差フィルムを実現できることが確認された。
この際、重合性非液晶モノマーとして多官能のもの(実施例では、ATMPT)を用いたものは、NI点を低くできることも確認された。
【0127】
[泡噛み評価]
前記の実施例1〜4及び比較例1〜2で作製したパターン位相差フィルムと位相差フィルム(日本ゼオン社製、製品名「斜め延伸ゼオノアフィルム」)を用意した。この位相差フィルムは、長手方向に対する配向角45°、測定波長550nmでの面内位相差Re140nm、面内における面内位相差Reのばらつき±10nm以下であった。
【0128】
アクリル粘着剤(綜研化学社製、製品名「SKダイン2094」)に硬化剤(綜研化学社製、製品名「E−AX」)を、アクリル粘着剤中のポリマー100重量部に対して硬化剤が5重量部の割合となるように添加したものを用意した。以下、これを適宜「PSA」と略称する。
【0129】
図4は、泡噛み評価における試験の様子を模式的に示す図である。図4に示すように、パターン位相差フィルム410を平滑なガラス板420上に配置した。位相差フィルム430の一方の面431にPSAを塗布し、PSAを塗布した面431が、パターン位相差フィルム410に合うように、約1kgのローラー440を押し当てながら貼り合せた。
【0130】
この貼り合せサンプルを光学顕微鏡にて観察し、泡噛みの状態を調べた。空気泡が観察されなかったものを「良」、観察されたものを「不良」として評価し、その結果を表2に示した。空気泡は主として、異方性領域に見られた。また、比較例1の顕微鏡写真を図5に示した。図5において、色が濃い部分が1/2領域であり、色が薄い部分がIso領域である。
【0131】
[写像性評価]
パターン位相差フィルムの遅相軸と位相差フィルムの遅相軸とが45°の角度をなすように、上記PSAで貼り合せ、試験片を作製した。
【0132】
図6は、写像性評価において用いた写像性評価装置の構成を模式的に示す図である。図6に示すように、光源510と、光源スリット520と、レンズ530と、レンズ540と、光学くし550と、受光器560とをこの順で備える写像性評価装置(スガ試験機製 ICM-1T)を用意した。この写像性評価装置のレンズ530とレンズ540との間に上記試験片570を取り付け、像のゆがみを、下記式により求められる像鮮明度C(n)として定量評価した。像鮮明度C(n)値が大きいほど、像が鮮明であることを表わす。測定は、光源スリット520に対して、パターン位相差フィルムのパターン方向を45°に配置し、光学くし550の幅を0.25mmで評価した。結果を表2に示す。
【0133】
C(n)=(M−m)/(M+m)×100(%)
C(n):光学くしの幅n(mm)のときの像鮮明度(%)
M:光学くしの幅n(mm)のときの最高光量
m:光学くしの幅n(mm)のときの最低光量
【0134】
【表2】

【符号の説明】
【0135】
10 液晶硬化物層
11,12 液晶硬化物層の表面
20,30 液晶硬化物層の領域
100 パターン位相差フィルム
110 液晶硬化物層
111 異方性を有する領域(異方性領域)
112 等方な領域(等方性領域)
200 立体表示装置
210 液晶パネル
211 光源側偏光板
212 液晶セル
213 視認側偏光板
220 位相差フィルム
230 パターン位相差フィルム
231 異方性領域
232 等方性領域
300 偏光メガネ
310 1/2波長板
320 1/4波長板
330 直線偏光板
410 パターン位相差フィルム
420 ガラス板
430 位相差フィルム
431 位相差フィルムのPSAを塗布した面
440 ローラー
510 光源
520 光源スリット
530、540 レンズ
550 光学くし
560 受光器
570 試験片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)重合性液晶モノマーと(B)重合性非液晶モノマーとの合計量を100重量部として、
(A)重合性液晶モノマー70重量部以上99重量部以下と、
(B)重合性非液晶モノマー1重量部以上30重量部以下と、
(C)光重合開始剤0.1重量部以上10重量部以下と、
(D)フッ素を含む界面活性剤0.01重量部以上1重量部以下とを含有する、パターン位相差フィルム用液晶組成物。
【請求項2】
前記(B)成分として、多官能の重合性非液晶モノマーを含み、
前記パターン位相差フィルム用液晶組成物のネマチック−アイソトロピック転移温度が40℃以上100℃以下である、請求項1記載のパターン位相差フィルム用液晶組成物。
【請求項3】
上記(A)成分の波長546nmにおける屈折率異方性(Δn)が、0.01〜0.20である、請求項1又は2記載のパターン位相差フィルム用液晶組成物。
【請求項4】
上記(A)成分として、式(1)で表される化合物を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載のパターン位相差フィルム用液晶組成物。
【化1】

ここで、上記式(1)において、
、R及びRはそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を示し、
及びRはそれぞれ独立して炭素数2〜12のアルキレン基を示す。
【請求項5】
上記(D)成分がノニオン型の界面活性剤である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のパターン位相差フィルム用液晶組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のパターン位相差フィルム用液晶組成物の硬化物からなる層を備え、
前記層が、異なる位相差を有する2種類以上の領域を有する、パターン位相差フィルム。
【請求項7】
前記層の最大厚みが1μm〜10μmである、請求項6記載のパターン位相差フィルム。
【請求項8】
請求項6又は7記載のパターン位相差フィルムを備える、立体表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−256007(P2012−256007A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130435(P2011−130435)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】