説明

パターン形成体の製造方法及びパターン形成体の再生方法

【課題】レーザー光を使用することなく、CTP等のディジタル化にも対応してパターン形成体を製造することが可能なパターン形成体の製造方法、及び製造されたパターン形成体を再生してパターン形成体用原版を得るパターン形成体の再生方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るパターン形成体の製造方法は、光触媒層と該光触媒層上に形成された光触媒の作用により特性の変化する特性変化層とを有するパターン形成体用原版を用いてパターン形成体を製造する方法であり、特性変化層上に、活性光を遮光する遮光パターンを形成する工程と、活性光を透過する透明基材上に光触媒層が形成された光触媒層形成基材を、この光触媒層と遮光パターンが形成された特性変化層とが接触するように配置する工程と、光触媒層形成基材を介して、パターン形成体用原版に活性光を照射する工程と、活性光の照射後、光触媒層形成基材を取り外す工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パターン形成体用原版からパターン形成体を製造するパターン形成体の製造方法、及び製造されたパターン形成体を再生してパターン形成体用原版を得るパターン形成体の再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、基板上に画像、文字、回路等の各種パターンを形成するパターン形成体として、種々のものが知られている。例えば、オフセット印刷に使用される平版印刷版として一般的なPS版は、陽極酸化アルミニウムを親水性の非画線部とし、その表面に感光性樹脂を硬化させて得た撥水性の画線部を形成したものであり、パターン形成体の一例である。オフセット印刷は、このような平版印刷版の撥水性の画線部にインクを付着させ、付着したインクをブランケットを介して被印刷体に転写することにより行われる。
【0003】
近年、このようなパターン形成体の製造に、光触媒活性を利用した技術が提案されている。例えば特許文献1には、少なくとも光触媒含有層を有する光触媒含有層側基板と、少なくとも上記光触媒含有層中の光触媒の作用により特性の変化する特性変化層を有するパターン形成体用基板とを、光触媒含有層及び特性変化層が接触するように配置した後、露光することにより、露光した部分の特性変化層の特性を変化させ、続いて光触媒含有層側基板を取り外すことにより、特性変化層上に特性の変化したパターンを有するパターン形成体を得る方法が開示されている。この特許文献1記載の方法によれば、特性変化層を、光触媒の作用により濡れ性が変化する濡れ性変化層、又は光触媒の作用により分解除去される分解除去層とすることにより、各種印刷版や印刷原版、レジストパターン等を得ることができる。
【特許文献1】特開2000−249821号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この特許文献1記載の方法では、フォトマスクを介して、又はレーザー光を用いた光描画照射によって露光を行っている。しかしながら、前者の場合、真空密着が必要になる上、所望のパターンに応じてフォトマスクを製造する必要があり、コスト上昇の要因となっていた。また、画像等のディジタルデータをそのまま利用することができないため、CTP(Computer to Plate)等のディジタル化に対応することができないという問題があった。一方、後者の場合には、露光装置そのものが高価であるため、ランニングコストが高くなるという問題があった。
【0005】
本発明は、以上の課題に鑑みてなされたものであり、レーザー光を使用することなく、CTP等のディジタル化にも対応してパターン形成体を製造することが可能なパターン形成体の製造方法、及び製造されたパターン形成体を再生してパターン形成体用原版を得るパターン形成体の再生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その結果、光触媒層上に形成された光触媒の作用により特性の変化する特性変化層の上に直接、活性光を遮光する遮光パターンを形成し、この遮光パターンをマスクとして露光を行うことで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0007】
本発明の第一の態様は、光触媒層と該光触媒層上に形成された光触媒の作用により特性の変化する特性変化層とを有するパターン形成体用原版を用いてパターン形成体を製造する方法であって、前記特性変化層上に、活性光を遮光する遮光パターンを形成する工程と、活性光を透過する透明基材上に光触媒層が形成された光触媒層形成基材を、前記光触媒層と前記遮光パターンが形成された前記特性変化層とが接触するように配置する工程と、前記光触媒層形成基材を介して、前記パターン形成体用原版に活性光を照射する工程と、活性光の照射後、前記光触媒層形成基材を取り外す工程と、を含むことを特徴とするパターン形成体の製造方法である。
【0008】
本発明の第二の態様は、光触媒の作用により分解除去される分解除去層を有するパターン形成体を再生する方法であって、活性光を透過する透明基材上に光触媒層が形成された光触媒層形成基材を、前記光触媒層と前記分解除去層とが接触するように配置する工程と、前記光触媒層形成基材を介して、前記パターン形成体に活性光を照射する工程と、活性光の照射後、前記光触媒層形成基材を取り外す工程と、を含むことを特徴とするパターン形成体の再生方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、レーザー光を使用することなく、CTP等のディジタル化にも対応してパターン形成体を製造することができる。また、製造されたパターン形成体を再生し、再びパターン形成体用原版を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
≪パターン形成体の製造方法≫
本発明に係るパターン形成体の製造方法は、光触媒層と該光触媒層上に形成された光触媒の作用により特性の変化する特性変化層とを有するパターン形成体用原版を用いてパターン形成体を製造する方法であり、特性変化層上に、活性光を遮光する遮光パターンを形成する工程と、活性光を透過する透明基材上に光触媒層が形成された光触媒層形成基材を、この光触媒層と遮光パターンが形成された特性変化層とが接触するように配置する工程と、光触媒層形成基材を介して、パターン形成体用原版に活性光を照射する工程と、活性光の照射後、光触媒層形成基材を取り外す工程と、を含むことを特徴とするものである。
【0011】
以下では先ず、パターン形成体を製造する際に用いられるパターン形成体用原版及び光触媒層形成基材について説明し、次に、パターン形成体用原版の特性変化層上に遮光パターンを形成する際に用いられる遮光インクについて説明し、最後に、パターン形成体の製造方法について説明する。
【0012】
<パターン形成体用原版>
パターン形成体用原版は、基本的に、基材と、光触媒層と、該光触媒層上に形成された光触媒の作用により特性の変化する特性変化層とを有するものである。後述する光触媒層形成基材の光触媒層が特性変化層に接触するように配置され露光されると、この特性変化層の特性が変化する。このとき、パターン形成体用原版にも光触媒層が設けられているため、露光時には特性変化層が光触媒層によって挟まれることになる。このため、特性変化層の特性が効率的に変化する。
【0013】
[基材]
基材は、光触媒層等の支持体となるとともに、パターン形成体用原版に物理的・機械的強度を付与するための部材である。
基材の材料としては、特に限定されるものではなく、パターン形成体に必要とされる物理的・機械的強度を有する従来公知の材料を用いることができる。具体的には、アルミニウム、ステンレス、ニッケル、銅等からなる金属板;二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸酢酸セルロース等のセルロース誘導体や、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリアセタール等からなるプラスチックフィルムを用いることができる。これらの中でも、アルミニウム板を用いることが特に好ましい。
【0014】
この基材には、光触媒層との密着性を高めるために、必要に応じて機械的処理及び/又は化学的処理を施すことが好ましい。例えば、基材としてアルミニウム板を用いる場合には、アルカリ水溶液による脱脂処理の後、機械的又は電気化学的な手法により粗面化し、粗面化した表面を、硫酸、塩酸、シュウ酸、クロム酸、或いはこれらの混酸等を用いて陽極酸化処理することが好ましい。
【0015】
基材の厚さは、特に限定されるものではなく、パターン形成体の使用態様に応じて適宜選択することができる。例えば、パターン形成体として平版印刷版を製造する場合には、版胴に巻き付けて使用する必要性から50〜600μmであることが好ましい。
【0016】
[中間層]
中間層は、基材と光触媒層との密着性を高めるための層であり、必要に応じて基材と光触媒層との間に設けられる。
中間層を形成する材料としては、シリカ(SiO)、シリコーン樹脂、シリコーンゴム等のシリコン系化合物が挙げられる。このうちシリコーン樹脂としては、シリコーンアルキド、シリコーンウレタン、シリコーンエポキシ、シリコーンアクリル、シリコーンポリエステル等が挙げられる。
【0017】
[光触媒層]
光触媒層は、少なくとも光触媒粒子を含有しており、パターン形成体用原版に光触媒活性を付与するための層である。
光触媒粒子としては、特に限定されるものではないが、酸化チタン粒子(TiO)、酸化ジルコニウム粒子(ZrO)、酸化亜鉛粒子(ZnO)、酸化スズ粒子(SnO)、チタン酸ストロンチウム粒子(SrTiO)、酸化タングステン粒子(WO)、酸化ビスマス粒子(Bi)、酸化鉄粒子(Fe)等が挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。この中でも、バンドギャップエネルギが高く、化学的に安定で毒性もなく、入手も容易であることから、酸化チタン粒子が好適に用いられる。酸化チタン粒子を用いる場合、アナターゼ型、ブルッカイト型、及びルチル型のいずれを用いてもよいが、光触媒活性の高いアナターゼ型の酸化チタン粒子を用いることが好ましい。
また、光触媒粒子は、触媒反応における反応物質との接触面積を増大させるという観点から、小径の粒子を用いることが好ましい。具体的な粒径としては、1μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましく、0.1μm以下であることがさらに好ましい。
【0018】
光触媒層における光触媒粒子の含有量は、10〜100質量%であることが好ましい。10質量%以上であることにより、触媒反応を十分に進行させることができ、特性変化層の特性を効率的に変化させることができる。
【0019】
光触媒層は、光触媒粒子以外の他の成分を含有してもよい。他の成分としては、具体的には、シリカ、シリカゾル、オルガノシラン、シリコーン樹脂等のシリカ系化合物;酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム等の金属酸化物;フッ素樹脂等が挙げられる。
【0020】
基材上に光触媒層を形成する際には、光触媒層の構成材料を、水、或いはイソプロピルアルコール等の有機溶剤等に分散させた光触媒層形成用組成物を用いることが好ましい。光触媒層形成用組成物の固形分濃度としては、特に限定されるものではないが、0.1〜20質量%であることが好ましい。固形分濃度が0.1質量%以上であることにより、十分な膜厚の光触媒層を形成することができる。また、固形分濃度が20質量%以下であることにより、光触媒層形成用組成物の塗布性が低下することがない。上記固形分濃度は0.5〜2.0質量%であることがより好ましい。
【0021】
光触媒層の膜厚は、特に限定されるものではないが、0.1〜10μmであることが好ましい。光触媒層の膜厚が0.1μm以上であることにより、光触媒層における触媒反応を進行させるための特性を高めることができ、10μm以下であることにより、クラック等が生じることがない。上記膜厚は1〜5μmであることがより好ましい。
【0022】
[特性変化層]
特性変化層は、光触媒の作用により特性が変化する層である。この特性変化層は、光触媒の作用により特性が変化するものであればいかなる層であってもよいが、光触媒の作用により分解除去される層とすることが好ましい。このように特性変化層を光触媒の作用により分解除去される分解除去層とすることにより凹凸を有するパターンを形成することが可能となるため、パターン形成体を各種印刷原版として使用することができる。また、スクリーン上にこの分解除去層を形成し、遮光パターンを介して露光して光が照射された部分の分解除去層を分解除去することにより、スクリーン印刷の原版を製造することができる。
【0023】
また、この分解除去層を用いた場合には、分解除去されて露出する表面と分解除去層との特性の相違によりパターンを形成することも可能である。例えば、分解除去されて露出する表面が親水性である場合、分解除去層を撥水性層とすることにより、親水・撥水パターンを形成することができるため、製造されたパターン形成体を平版印刷版として使用することができる。
【0024】
この撥水性層としては、撥水性を有する膜成分により構成される薄膜であれば特に限定されるものではなく、吸着膜、堆積膜、自己組織化単分子膜など、パターン形成体の使用態様に応じて適宜選択することができる。但し、後述するパターン形成体の製造方法において、光触媒層と酸素分子との接触可能性を担保する点、撥水性層の撥水性を向上させる点、及び遮光インクにより微細なパターン形成を可能する点から、撥水性層としては、疎水性基を有する化合物により形成される自己組織化単分子膜を採用することが好ましい。
【0025】
疎水性基を有する化合物により形成される自己組織化単分子膜を撥水性層とする場合において、疎水性基を有する化合物と光触媒層の光触媒粒子との結合様式は特に限定されるものではなく、共有結合、配位結合、水素結合、ファンデルワールス結合等が挙げられる。ただし、経時的に安定な自己組織化単分子膜を形成するという観点からは、上記結合様式は共有結合であることが好ましい。
【0026】
疎水性基を有する化合物としては、疎水性基と、光触媒層の光触媒粒子への結合部位とを有する化合物であれば、特に限定されるものではない。ただし、後述するパターン形成体の製造方法において、光触媒層に含有される光触媒の作用により容易に分解除去される化合物であるという点、及び光触媒層の光触媒粒子との結合性の観点から、下記一般式(1)及び(2)で表される化合物の少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0027】
【化1】

[上記一般式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子の一部又は全部がフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜20の炭化水素基を示し、Xは加水分解性基を示し、nは1〜3の整数を示す。]
【0028】
ここで、上記一般式(1)におけるXの具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基等のアルコキシ基;ビニロキシ基、2−プロペノキシ基等のアルケノキシ基;フェノキシ基、アセトキシ基等のアシロキシ基;ブタノキシム基等のオキシム基;アミノ基等が挙げられる。これらの中でも、炭素数1〜5のアルコキシ基が好ましく、特に加水分解、縮合時の制御のし易さから、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、及びブトキシ基が好ましい。
【0029】
また、上記一般式(1)で表される化合物において、隣接して存在する当該化合物のケイ素原子がシロキサン結合を形成することにより、撥水性層の安定性をより向上させることができるという観点から、nは1又は2であることが好ましく、1であることがより好ましい。
【0030】
上記一般式(1)又は(2)で表される化合物の具体例としては、オクタデシルトリメトキシシラン及びオクタデシルホスホン酸が挙げられる。この中でも、オクタデシルホスホン酸を用いることが好ましい。
【0031】
また、この特性変化層は、ゾルゲル反応等によりアルコキシシラン等を加水分解、縮重合したオルガノポリシロキサン、或いは撥水性や撥油性に優れた反応性シリコーンを架橋したオルガノポリシロキサンを用いることにより、露光によって表面の濡れ性が変化する層としてもよい。このように特性変化層を濡れ性が変化する濡れ性変化層とすることにより、露光により例えば水に対する濡れ性の変化した親水・撥水パターンを形成することが可能となる。したがって、このようなパターン形成体は、そのまま平版印刷版として使用することができる。また、インクに対する濡れ性の変化したパターン形成体にインクを付着、硬化させることにより、カラーフィルターの画素部を形成することもでき、マイクロレンズ組成物を付着、硬化させることにより、マイクロレンズを製造することもできる。
【0032】
また、この特性変化層は、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン等のポリマー材料を用いることにより、露光によって極性基が導入されたり表面が粗い状態となったりして、種々の物質との接着性が向上する層としてもよい。このように特性変化層を接着性が変化する接着性変化層とすることにより、露光により接着性の良好なパターンを形成することが可能となる。したがって、このようなパターン形成体に金属成分を蒸着して金属薄膜を形成した後、接着性の違いを利用して金属薄膜を粘着剤や薬剤等により剥離することにより、金属薄膜のパターンを形成することが可能になり、プリント基板や電子回路素子に応用することができる。
【0033】
また、この特性変化層は、例えばスピロピラン等のフォトクロミック材料、或いは光触媒の作用により分解される有機色素等を用いることにより、露光によって着色する層としてもよい。
【0034】
特性変化層の膜厚は、光触媒による特性変化の速度等の関係から、0.001〜1μmであることが好ましく、0.001〜0.1μmであることがより好ましい。特に、特性変化層が上述の撥水性層である場合には、自己組織化単分子膜が有する膜厚以上であって、0.01μm以下であることが好ましく、0.003μm以下であることがより好ましい。
【0035】
[パターン形成体用原版の製造方法]
パターン形成体用原版を製造するには、先ず、基材上に直接、又は中間層を形成した後に、上述した光触媒層形成用組成物を塗布し、乾燥させることにより、光触媒層を形成する。次に、この光触媒層上に特性変化層を形成する。特性変化層を形成するには、例えば、上述した特性変化層の成分を含む特性変化層形成用組成物を調製し、この組成物をスピンコート、スプレーコート、ディップコート等の公知の塗布方法で塗布すればよい。また、上記一般式(1)及び(2)で表される化合物の少なくとも1種を用いて自己組織化単分子膜を形成する場合には、浸漬法や蒸着法等を用いることができる。
【0036】
<光触媒層形成基材>
光触媒層形成基材は、活性光を透過する透明基材上に光触媒層が形成されたものである。この光触媒層をパターン形成体用原版の特性変化層に接触するように配置して露光すると、特性変化層の特性が変化する。
【0037】
[透明基材]
透明基材は、光触媒層の支持体となるとともに、光触媒層形成基材に物理的・機械的強度を付与するための部材である。
透明基材の材料としては、特に限定されるものではなく、光触媒層形成基材に必要とされる物理的・機械的強度を有し、UV光等の活性光を透過する従来公知の材料を用いることができる。具体的には、石英ガラス、パイレックス(登録商標)等のガラス、合成石英板等の可撓性のない透明なリジット材、或いは透明樹脂フィルム、光学用樹脂板等の可撓性を有する透明なフレキシブル材を用いることができる。
【0038】
[光触媒層]
光触媒層は、少なくとも光触媒粒子を含有しており、光触媒層形成基材に光触媒活性を付与するための層である。この光触媒層は、パターン形成体用原版で上述した光触媒層形成用組成物を用いて形成することができる。
【0039】
<遮光インク>
遮光インクは、パターン形成体用原版の特性変化層上に活性光を遮光する遮光パターンを形成する際に用いられるものである。
この遮光インクとしては、光触媒層形成基材及びパターン形成体用原版の光触媒層の光触媒活性を発揮させることが可能な所定の波長域の光に対して高い吸収能を有するものであれば、特に限定されるものではない。好適な具体例としては、300〜450nmの波長域の光に対して高い吸収能を有する水溶性染料を含有するインクが挙げられる。
【0040】
300〜450nmの波長域の光に対して高い吸収能を有する水溶性染料としては、水中での吸収スペクトルにおいて300〜450nmの波長域に高い吸収があり、かつ水に対する溶解度が5質量%以上、好ましくは7質量%以上であるものを適宜選択すればよい。このような染料の具体例としては、水溶性の銅フタロシアニン染料、黄色染料、褐色染料等が挙げられる。これらの水溶性染料は2種以上併用してもよい。
【0041】
水溶性の銅フタロシアニン染料としては、例えば、C.I.ダイレクトブルー86,87,199、C.I.アシッドブルー249等が挙げられ、好ましくはC.I.ダイレクトブルー86,199である。
また、水溶性の黄色染料としては、例えば、C.I.アシッドイエロー17,19,23,25,39,40,42,44,49,50,61,64,76,79,110,127,135,143,151,159,169,174,190,195,196,197,199,218,219,220,227、C.I.ダイレクトイエロー1,8,11,12,24,26,27,33,39,44,50,58,85,86,87,88,89,98,110,132,142,144等が挙げられ、好ましくはC.I.ダイレクトイエロー132,142である。
また、水溶性の褐色染料としては、例えば、C.I.ダイレクトブラウン1,2,6,25,27,33,37,39,59,60,62,95,99,100,104,106,112,113,115,167,169,175,195,210等が挙げられ、好ましくはC.I.ダイレクトブラウン195である。
【0042】
水溶性の銅フタロシアニン染料は、通常550〜650nm及び300〜400nmの波長域に吸収極大を有し、水溶性の黄色染料及び褐色染料は、通常350〜450nmの波長域に吸収極大を有する。光触媒として酸化チタンを用いる場合、光触媒層形成基材を介してパターン形成体用原版に照射される光の波長は、通常387nm以下であるため、照射された光を効率よく吸収し、遮光するためには、水溶性の銅フタロシアニン染料を使用するか、或いは水溶性の銅フタロシアニン染料と水溶性の黄色染料及び/又は褐色染料とを併用することが好ましい。
【0043】
なお、水溶性染料は、Cl、SO2−等の陰イオンの含有量が少ないものを用いるのが好ましい。その含有量の目安は、Cl及びSO2−の総含量として、フタロシアニン色素中で5質量%以下、好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下であり、遮光インク中で1質量%以下である。Cl及びSO2−の少ない水溶性染料を製造するには、例えば、逆浸透膜による通常の方法、或いは水溶性染料の乾燥品又はウェットケーキをアルコール及び水の混合溶媒中で撹拌し、濾過、乾燥する等の方法で脱塩処理すればよい。用いるアルコールは、炭素数1〜4の低級アルコール、好ましくは炭素数1〜3のアルコール、さらに好ましくはメタノール、エタノール、又は2−プロパノールである。また、アルコールでの脱塩処理の際に、使用するアルコールの沸点近くまで加熱後、冷却して脱塩する方法も採用し得る。Cl及びSO2−の含有量は、例えばイオンクロマトグラフ法にて測定される。
【0044】
また、水溶性染料は、亜鉛、鉄等の重金属(イオン)、カルシウム、シリカ等の金属(陽イオン)等の含有量が少ないものを用いるのが好ましい(色素構造の骨格に含有される金属、例えばフタロシアニン骨格における銅を除く)。その含有量の目安は、例えば、染料の精製乾燥品中で、亜鉛、鉄等の重金属(イオン)、カルシウム、シリカ等の金属(陽イオン)について各々500ppm以下である。重金属(イオン)及び金属(陽イオン)の含有量は、例えばイオンクロマトグラフ法、原子吸光法、又はICP(Inductively Coupled Plasma)発光分析法にて測定される。
【0045】
遮光インクは、水を媒体として調製される。水溶性染料は、この遮光インク中に5〜20質量%、好ましくは5〜15質量%含有される。
この遮光インクは、必要に応じて、水溶性有機溶剤を、本発明の効果を害しない範囲内で含有してもよい。この水溶性有機溶剤は、染料溶解剤、乾燥防止剤(湿潤剤)、粘度調整剤、浸透促進剤、表面張力調整剤、消泡剤等として使用される。
また、遮光インクは、防腐防黴剤、pH調整剤、キレート試薬、防錆剤、紫外線吸収剤、粘度調整剤、染料溶解剤、表面張力調整剤、消泡剤、分散剤等の公知の添加剤を含有してもよい。
水溶性有機溶剤の含有量は、遮光インク全体に対して0〜60質量%が好ましく、10〜50質量%がより好ましい。その他の添加剤の含有量は、遮光インク全体に対して0〜25質量%が好ましく、0〜20質量%がより好ましい。上記以外の残部は水である。
【0046】
上記水溶性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、第二ブタノール、第三ブタノール等の炭素数1〜4のアルカノール;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のカルボン酸アミド;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジン−2−オン、1,3−ジメチルヘキサヒドロピリミド−2−オン等の複素環式ケトン;アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−2−ヒドロキシペンタン−4−オン等のケトン又はケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル;エチレングリコール、1,2−又は1,3−プロピレングリコール、1,2−又は1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、チオジグリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の炭素数2〜6のアルキレン単位を有するモノマー、オリゴマー、若しくはポリアルキレングリコール又はチオグリコール;グリセリン、ヘキサン−1,2,6−トリオール等のポリオール(トリオール);エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールの炭素数1〜4のアルキルエーテル;γーブチロラクトン、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0047】
これらの中でも、炭素数3〜8のモノ又は多価アルコール、及び炭素数1〜3のアルキル置換を有してもよい2−ピロリドン等が好ましい。多価アルコールとしては、ヒドロキシ基を2〜3個有するものが好ましい。具体的には、イソプロパノール、グリセリン、モノ、ジ、又はトリエチレングリコール、モノ、ジ、又はトリプロピレングリコール、質量平均分子量200〜1000のポリエチレングリコール、質量平均分子量200〜700のポリプロピレングリコール、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、ブタノール等であり、より好ましくはイソプロパノール、グリセリン、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、質量平均分子量200〜600のポリエチレングリコール、質量平均分子量200〜400のポリプロピレングリコール、2−ピロリドンである。これらの水溶性有機溶剤は2種以上併用してもよい。
【0048】
上記防腐防黴剤としては、例えば、有機硫黄系、有機窒素硫黄系、有機ハロゲン系、ハロアリルスルホン系、ヨードプロパギル系、N−ハロアルキルチオ系、ニトチリル系、ピリジン系、8−オキシキノリン系、ベンズチアゾール系、イソチアゾリン系、ジチオール系、ピリジンオシキド系、ニトロプロパン系、有機スズ系、フェノール系、第4アンモニウム塩系、トリアジン系、チアジアジン系、アニリド系、アダマンタン系、ジチオカーバメイト系、ブロム化インダノン系、ベンジルブロムアセテート系、無機塩系等の化合物が挙げられる。有機ハロゲン系化合物としては、例えばペンタクロロフェノールナトリウムが挙げられ、ピリジンオシキド系化合物としては、例えば2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウムが挙げられ、無機塩系化合物としては、例えば無水酢酸ソーダが挙げられ、イソチアゾリン系化合物としては、例えば1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンマグネシウムクロライド、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド等が挙げられる。その他の防腐防黴剤として、ソルビン酸ソーダ安息香酸ナトリウム等(例えば、アベシア社製プロクセルGXL(S)、プロクセルXL−2(S)等)が挙げられる。
【0049】
上記pH調整剤は、遮光インクの保存安定性を向上させる目的で、遮光インクのpHを6.0〜11.0の範囲に制御できるものであれば任意の物質を使用することができる。例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等のアルカノールアミン;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化アンモニウム;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩等が挙げられる。
【0050】
上記キレート試薬としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラミル二酢酸ナトリウム等が挙げられる。
【0051】
上記防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグリコール酸アンモニウム、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト、トリルトリアゾール等が挙げられる。
【0052】
上記紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、桂皮酸系化合物、トリアジン系化合物、スチルベン系化合物、又はベンズオキサゾール系化合物に代表される紫外線を吸収して蛍光を発する化合物、いわゆる蛍光増白剤も用いることができる。
【0053】
上記粘度調整剤としては、水溶性有機溶剤のほかに、水溶性高分子化合物が挙げられ、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体、ポリアミン、ポリイミン等が挙げられる。
【0054】
上記染料溶解剤としては、例えば、尿素、ε−カプロラクタム、エチレンカーボネート等が挙げられる。
【0055】
上記表面張力調整剤としては、界面活性剤が挙げられ、例えば、アニオン界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤等が挙げられる。アニオン界面活性剤としては、アルキルスリホカルボン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、N−アシルアミノ酸及びその塩、N−アシルメチルタウリン塩、アルキル硫酸塩ポリオキシアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩、ロジン酸石鹸、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール型燐酸エステル、アルキル型燐酸エステル、アルキルアリルスルホン塩酸、ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキルシルスルホ琥珀酸塩、ジオクチルスルホ琥珀酸塩等が挙げられる。カチオン界面活性剤としては、2−ビニルピリジン誘導体、ポリ4−ビニルピリジン誘導体等が挙げられる。両性界面活性剤としては、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシン、イミダゾリン誘導体等が挙げられる。ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアリルキルアルキルエーテル等のエーテル系、ポリオキシエチレンオレイン酸、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール等のアセチレングリコール系(例えば、日信化学社製サーフィノール104,82,465、オルフィンSTG等)、等が挙げられる。これらの添加剤は、単独又は混合して用いられる。なお、遮光インクの表面張力は、通常25〜70mN/m、より好ましくは25〜50mN/mである。また、遮光インクの粘度は、30mPa・s以下が好ましい。さらに20mPa・s以下に調整することがより好ましい。
【0056】
上記消泡剤としては、フッ素系、シリコーン系化合物が必要に応じて用いられる。
【0057】
遮光インクを調製するにあたり、各成分を溶解させる順序に特に制限はない。使用する水は、イオン交換水、蒸留水等の不純物が少ないものが好ましい。さらに、必要に応じてメンブランフィルター等を用いて精密濾過を行い、夾雑物を除いてもよい。インクジェットプリンター用のインクとして使用する場合には、精密濾過を行うことが好ましい。精密濾過を行うフィルターの孔径は、通常0.1〜1μm、好ましくは0.2〜0.8μmである。
【0058】
<パターン形成体の製造方法>
パターン形成体を製造するには、先ず、パターン形成体用原版の特性変化層上に、上記遮光インクにより遮光パターンを形成する。遮光パターンを形成する方法は、特に限定されるものではなく、遮光インクを吐出して特性変化層に付着させることにより、遮光パターンが形成されればよい。遮光インクを吐出する方法としては、例えばインクジェット吐出機を用いたインクジェット方式が挙げられる。インクジェット吐出機としては、電圧を加えると変形するピエゾ素子(圧電素子)を利用したピエゾ方式の吐出機や、加熱により発生する気泡を利用したサーマル方式の吐出機のいずれもが使用可能である。なお、遮光インクにより遮光パターンを形成した後は、遮光インクを乾燥させることが好ましい。
【0059】
次に、光触媒層形成基材の光触媒層と遮光パターンが形成された特性変化層とが接触するように、パターン形成体用原版上に光触媒層形成基材を配置する。ここで「接触」とは、実質的に光触媒の作用が特性変化層に及ぶように配置された状態を示し、物理的に接触している状態のみならず、空気等を介して光触媒の作用が特性変化層に及ぶように配置された状態をも含む。このような接触状態は、少なくとも露光の間だけ維持されればよい。
【0060】
続いて、光触媒層形成基材を介して、パターン形成体用原版に活性光を照射する。活性光の波長域は、光触媒層形成基材及びパターン形成体用原版の光触媒層に含有される光触媒粒子のバンドギャップエネルギよりも高いエネルギを有する必要がある。例えば光触媒粒子として酸化チタン粒子を用いた場合、活性光の波長域は387nm以下であることが好ましい。活性光の照射量及び照射時間は、光触媒層形成基材に用いる透明基材の種類や特性変化層の膜厚にも依存するが、1〜10mW/cmの照射量、60秒間〜60分間の照射時間であることが好ましい。
【0061】
このように活性光を照射することにより、遮光パターンが形成されていない部分においては、光触媒層形成基材の光触媒層が有する光触媒活性により当該部分の特性変化層の特性が変化する。また、パターン形成体用原版にも光触媒層が設けられているため、活性光がパターン形成体用原版の光触媒層にも到達し、当該部分の特性変化層の特性が効率的に変化する。具体的に、特性変化層が上述した分解除去層である場合には、当該部分の特性変化層が迅速に分解除去される。一方、遮光パターンが形成されている部分においては、遮光パターンによって光触媒層形成基材の光触媒層による作用が妨げられることに加え、遮光パターンによって活性光が遮られ、活性光がパターン形成体用原版の光触媒層に到達しないため、特性変化層の特性は変化しない。
【0062】
続いて、光触媒層形成基材を取り外し、遮光パターンを水系溶媒により洗浄除去することにより、パターン形成体が得られる。なお、パターン形成体が平版印刷版であり、得られた平版印刷版をオフセット印刷に使用する場合には、湿し水によって遮光インクが除去されるため、必ずしも遮光パターンを除去しておく必要はない。
【0063】
本発明に係るパターン形成体の製造方法によれば、上述のように、遮光インクにより遮光パターンを形成しているため、例えばインクジェット方式で遮光パターンを形成することができ、CTP等のディジタル化に対応することができる。また、遮光インクにより遮光パターンを形成しているため、通常のマスクを使用する場合と異なり、露光に際して真空密着が必要ない。
【0064】
≪パターン形成体の再生方法≫
本発明に係るパターン形成体の再生方法は、光触媒の作用により分解除去される分解除去層を有するパターン形成体を再生する方法であり、活性光を透過する透明基材上に光触媒層が形成された光触媒層形成基材を、この光触媒層と上記分解除去層とが接触するように配置する工程と、光触媒層形成基材を介して、パターン形成体に活性光を照射する工程と、活性光の照射後、光触媒層形成基材を取り外す工程と、を含むことを特徴とするものである。パターン形成体の分解除去層は、上述した分解除去層と同様の特性を有するものであり、光触媒層形成基材は上述した光触媒層形成基材と同様のものである。
なお、パターン形成体は、上述のように光触媒層を有するものであっても有さないものであってもよい。
【0065】
パターン形成体を再生するには、先ず、光触媒層形成基材の光触媒層とパターン形成体の分解除去層とが接触するように、パターン形成体上に光触媒層形成基材を配置する。ここで「接触」とは、実質的に光触媒の作用が分解除去層に及ぶように配置された状態を示し、物理的に接触している状態のみならず、空気等を介して光触媒の作用が分解除去層に及ぶように配置された状態をも含む。このような接触状態は、少なくとも露光の間だけ維持されればよい。
【0066】
次に、光触媒層形成基材を介して、パターン形成体に活性光を照射する。活性光の波長域、照射量、及び照射時間は、パターン形成体を製造する際に採用した波長域、照射量、及び照射時間と同等のものとすることが好ましい。このようにして、パターン形成体に対して活性光を全面照射することにより、光触媒層の作用により、パターン形成体の分解除去層が全て分解除去される。なお、パターン形成体にも光触媒層が形成されている場合には、活性光を照射することにより、活性光がパターン形成体の光触媒層にも到達するため、当該部分の分解除去層が迅速に分解除去される。
【0067】
続いて、分解除去層が分解除去されることにより露出した基材(又は光触媒層)の上に、分解除去層を形成する。分解除去層を形成する手法は、パターン形成体用原版を製造する際に採用した手法をそのまま採用することができる。これにより、パターン形成体が再生され、再びパターン形成体用原版が得られる。
【実施例】
【0068】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0069】
<実施例1>
ナイロンブラシを用いて表面研磨した厚さ0.3mmのアルミニウム板を、10質量%水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬して表面をエッチングして水洗した。その後、アルミニウム板を陽極酸化し、表面が酸化アルミニウムで被覆されたアルミニウム板を得た。このようにして得られたアルミニウム板に、酸化チタンゾル「TDK−701」(商品名、テイカ社製)をイソプロピルアルコールで希釈して得た光触媒層形成用組成物を塗布し、膜厚0.2μmの光触媒層を形成した。さらに、光触媒層が形成されたアルミニウム基板と、オクタデシルトリメトキシシランとをステンレス容器に入れた。容器内の空気を窒素で置換した後、容器を密閉し、200℃で5分間加熱処理することにより、分解除去層を形成し、平版印刷原版(パターン形成体用原版)を製造した。
【0070】
また、厚さ5mmの石英ガラス上にP−25(日本アエロジル製)およびビストレーター510(日本曹達製)を塗布し、500℃で処理して膜厚5μmの光触媒層を形成することにより、光触媒層形成基材を製造した。
【0071】
さらに、C.I.ダイレクトブルー86(東京化成工業社製)3質量部、UVINUL3050(BASF社製)2質量部、トリエタノールアミン5質量部、ジエチレングリコール15質量部、及び水を混合し、メンブランフィルターで濾過して、遮光インクを調製した。
【0072】
上記のようにして製造された平版印刷原版の分解除去層上に、調製した遮光インクをインクジェット吐出機を用いて吐出して遮光パターンを形成し、さらに乾燥処理を行った。そして、光触媒層形成基材の光触媒層と遮光パターンが形成された分解除去層とが接触するように、平版印刷原版上に光触媒層形成基材を配置した。その後、光触媒層形成基材を介して平版印刷原版にUV−Aを10mW/cmで50分間照射して露光処理を行い、光触媒層形成基材を取り外すことにより、遮光パターンが形成されていない部分の分解除去層が分解除去された平版印刷版(パターン形成体)を製造した。
【0073】
このようにして製造された平版印刷版を用いて、オフセット印刷装置にて印刷したところ、湿し水によって遮光パターンが除去され、印刷を数回繰り返すことにより、非常に解像度の高い印刷画像を得ることができた。写真(網点)画像、及び印刷評価用デザイン(文字、独立点、独立線、白抜き線等)画像を印刷したところ、明瞭な写真画像が印刷できた。また、文字についても2ポイントの文字が明瞭に印刷でき、独立線、白抜き線についても50μmの細線が明瞭に印刷できた。
【0074】
<比較例1>
ナイロンブラシを用いて表面研磨した厚さ0.3mmのアルミニウム板を、10質量%水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬して表面をエッチングして水洗した。その後、アルミニウム板を陽極酸化し、表面が酸化アルミニウムで被覆されたアルミニウム板を得た。このアルミニウム基板とオクタデシルトリメトキシシランとをステンレス容器に入れ、容器内の空気を窒素で置換した後、容器を密閉し、200℃で5分間加熱処理することにより、分解除去層を形成し、平版印刷原版(パターン形成体用原版)を製造した。
【0075】
上記のようにして製造された平版印刷原版の分解除去層上に、実施例1と同様に調製した遮光インクをインクジェット吐出機を用いて吐出して遮光パターンを形成し、さらに乾燥処理を行った。そして、光触媒層形成基材の光触媒層と遮光パターンが形成された分解除去層とが接触するように、平版印刷原版上に光触媒層形成基材を配置した。その後、光触媒層形成基材を介して、実施例1と同様に平版印刷原版にUV−Aを10mW/cmで50分間照射し露光処理を行い、光触媒層形成基材を取り外したところ、分解除去層の分解除去が不十分であった。照射時間を増やすと、60分間の照射時間で遮光パターンが形成されていない部分の分解除去層が分解除去され、平版印刷版を製造することができた。
【0076】
このようにして製造された平版印刷版を用いて、オフセット印刷装置にて印刷したところ、湿し水によって遮光パターンが除去され、印刷を数回繰り返すことにより、非常に解像度の高い印刷画像を得ることができた。写真(網点)画像、及び印刷評価用デザイン(文字、独立点、独立線、白抜き線等)画像を印刷したところ、明瞭な写真画像が印刷できた。また、文字についても2ポイントの文字が明瞭に印刷でき、独立線、白抜き線についても50μmの細線が明瞭に印刷できた。
【0077】
<比較例2>
実施例1と同様に製造された平版印刷原版の分解除去層上に、実施例1と同様に調製した遮光インクをインクジェット吐出機を用いて吐出して遮光パターンを形成し、さらに乾燥処理を行った。その後、平版印刷原版にUV−Aを10mW/cmで50分間照射して露光処理を行ったところ、分解除去層の分解除去が不十分であった。照射時間を増やすと、90分間の照射時間で遮光パターンが形成されていない部分の分解除去層が分解除去され、平版印刷版を製造することができた。
【0078】
以上の結果を下記表1に示す。この表1から、パターン形成体用原版に光触媒層を形成し、光触媒層形成基材を分解除去層に接触するように配置させて露光処理した実施例1では、パターン形成体用原版に光触媒層を形成していない比較例1や光触媒層形成基材を用いていない比較例2よりも、分解除去層が効率的に分解されていることが分かる。
【0079】
【表1】

【0080】
<実施例2>
実施例1で製造し、オフセット印刷に使用した後の平版印刷版に付着した印刷用インクを、プレートクリーナー(商品名「TC−2」、東京インキ社製)を用いて除去した。さらに、実施例1と同じ光触媒層形成基材の光触媒層と平版印刷版の分解除去層とが接触するように、平版印刷版上に光触媒層形成基材を配置した。その後、光触媒層形成基材を介して平版印刷原版にUV−Aを10mW/cmで60分間照射して露光処理を行うことにより、分解除去層を完全に分解除去した。その後、光触媒層形成基材を取り外し、露出した光触媒層の上に実施例1と同様にして分解除去層を再度形成することにより、平版印刷原版を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒層と該光触媒層上に形成された光触媒の作用により特性の変化する特性変化層とを有するパターン形成体用原版を用いてパターン形成体を製造する方法であって、
前記特性変化層上に、活性光を遮光する遮光パターンを形成する工程と、
活性光を透過する透明基材上に光触媒層が形成された光触媒層形成基材を、前記光触媒層と前記遮光パターンが形成された前記特性変化層とが接触するように配置する工程と、
前記光触媒層形成基材を介して、前記パターン形成体用原版に活性光を照射する工程と、
活性光の照射後、前記光触媒層形成基材を取り外す工程と、を含むことを特徴とするパターン形成体の製造方法。
【請求項2】
前記遮光パターンを、前記特性変化層上に活性光を遮光する遮光インクを直接塗布することにより形成することを特徴とする請求項1記載のパターン形成体の製造方法。
【請求項3】
前記特性変化層が、光触媒の作用により分解除去される分解除去層であることを特徴とする請求項1又は2記載のパターン形成体の製造方法。
【請求項4】
前記分解除去層が撥水性層であることを特徴とする請求項3記載のパターン形成体の製造方法。
【請求項5】
前記撥水性層が単分子膜であることを特徴とする請求項4記載のパターン形成体の製造方法。
【請求項6】
前記パターン形成体が平版印刷版であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載のパターン形成体の製造方法。
【請求項7】
光触媒の作用により分解除去される分解除去層を有するパターン形成体を再生する方法であって、
活性光を透過する透明基材上に光触媒層が形成された光触媒層形成基材を、前記光触媒層と前記分解除去層とが接触するように配置する工程と、
前記光触媒層形成基材を介して、前記パターン形成体に活性光を照射する工程と、
活性光の照射後、前記光触媒層形成基材を取り外す工程と、を含むことを特徴とするパターン形成体の再生方法。
【請求項8】
前記パターン形成体は、光触媒層と該光触媒層上に形成された前記分解除去層とを有することを特徴とする請求項7記載のパターン形成体の再生方法。

【公開番号】特開2009−241263(P2009−241263A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−87271(P2008−87271)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000220239)東京応化工業株式会社 (1,407)
【出願人】(591243103)財団法人神奈川科学技術アカデミー (271)
【Fターム(参考)】