説明

パック化粧料

【課題】高い吸水性及び保湿機能を有し、コラーゲンが素早く溶解して皮膚に施与されるパック化粧料を提供する。
【解決手段】パック化粧料は、水に不溶で吸水性を有する基材繊維と、等イオン点がpH5.0以下である可溶化コラーゲン繊維とを含有する繊維シートで構成し、基材繊維と可溶化コラーゲン繊維とを用いて、織布、不織布、植毛布等の繊維シートを作成する。繊維シートは、水に不溶のバインダー樹脂を含んでもよく、粒子又は繊維の形態で配合して基材繊維同士を点接着する。可溶化コラーゲン水溶液(A)を有機溶媒(S1)中に糸状に吐出して紡糸される可溶化コラーゲン繊維(F)を延伸し、親水性有機溶媒(S2)中に浸漬すると、素早く溶解する可溶化コラーゲン繊維が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コラーゲンを用いて構成され、皮膚への施与及び除去が容易であり、パックの施与時間を随時変更して取り残しなくきれいに除去できるパック化粧料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パック化粧料は、パック基剤に種々の有効成分を配合した化粧料であり、皮膚に塗布して所定時間保持することにより有効成分が皮膚に供給される。従来のパック化粧料は、使用後に洗い落とす洗浄タイプと、膜を形成して剥す剥離タイプとに大別される。洗浄タイプのパック化粧料の場合、パック基剤は、クリーム状、粘稠質液状、泡状等であり、皮膚に塗布して放置した後、水又はぬるま湯で洗い落とすか濡れたタオルで拭き取る。剥離タイプの場合、パック基剤は、ゼリー状、ペースト状又は粘稠質液状等であり、皮膚に塗布した後、乾燥や基剤の反応によって皮膜が形成されるので、膜状になったパック化粧料を手で剥すことができる。使用後の手間等の点から、洗浄タイプよりも剥離タイプの方が一般利用者に好まれる傾向がある。
【0003】
剥離タイプのパック化粧料においては、使用感や皮膜形成に関する下記のような事項が問題となる。
【0004】
1)皮膜の強度が弱いと剥し残りが生じ、剥し残りを防止するために皮膜の強度を上げると皮膚に違和感を与え、剥す際に皮膚を傷めることがある。
【0005】
2)使用前の保管中に皮膜形成が進まないように配慮した容器を必用とする。
【0006】
これらを改善するものとして様々な改良が試みられ、例えば、下記特許文献1、2のようなパック化粧料が提案されている。特許文献1では、パック化粧料の経時安定性を改善するものとして、アルギン酸水溶性塩類を含有するゲル状パーツと、金属塩及び反応遅延剤を含有する粉末パーツとによって構成されるパック化粧料を提案しており、特許文献2では、柔らかさ及び温感によって好適な使用感を与えるものとして、水反応性金属酸化物、炭酸塩及びデンプン・アクリル酸グラフト重合体を含む第1剤と、酸水溶液を含む第2剤とによって構成されるパック化粧料を提案している。
【0007】
これに対し、近年、新たなタイプとして、不織布等の基体に化粧料成分を含ませたフェイシャルマスク型のパック化粧料が提供されており、このタイプのパック化粧料では、剥し残りの心配がなく、必要に応じて随時パック化粧料を剥すことができる。例えば、下記特許文献3では、不織布に乾燥状態の化粧品成分を含有させた化粧料が提案され、下記特許文献4では、わた体の表面に乾燥した水溶性保湿成分を付着させた化粧用具が提案されている。
【特許文献1】特開平6−179614号公報
【特許文献2】特開2003−89615号公報
【特許文献3】特開2004−51521号公報
【特許文献4】特開2002−255726号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
フェイシャルマスク型のパック化粧料において、熱安定性の低いコラーゲンの変質を防止するために、コラーゲンは乾燥状態で基体に導入される。しかし、不織布や綿等を基体として、これにコラーゲン水溶液を含浸又は塗布して乾燥した場合、乾燥したコラーゲンは、基体を構成する繊維を厚膜状に被覆するため、基体繊維の吸水を妨害してマスク全体としての保水量が著しく減少する。従って、マスクに水を加えても、皮膚に貼付した状態では保水量不足によって短時間で乾燥し、満足な保湿機能を発揮しない。しかも、水と接触するコラーゲン厚膜の表面積が不足して、コラーゲンの溶解速度は極めて遅くなる。基体繊維の吸水量不足によってコラーゲンの溶解量も減少するので、皮膚に十分な量のコラーゲンを施与できない。又、多量のコラーゲンを基体に載せると、基体繊維に付着した状態で固化した可溶化コラーゲンによって基体繊維の柔軟性が損なわれるため、肌触りが非常に悪く、マスクは硬く取り扱い難いものになる。
【0009】
本発明は、上述の点を解決し、基材繊維の吸水性が阻害されず、コラーゲンが素早く溶解して皮膚に適切に施与され、保湿機能を十分に発揮するパック化粧料を提供することを課題とする。
【0010】
又、本発明は、肌触りがよく、取り扱いが容易なパック化粧料の提供を可能とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、可溶化コラーゲン繊維を用いて肌触りのよいシートを作成することができ、これを応用してパック化粧料として使用することにより、高い保湿機能を有し、肌触りがよく、肌へ施与する際の取り扱いが容易なパック化粧料を提供することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明の一態様によれば、パック化粧料は、水に不溶で吸水性を有する基材繊維と、等イオン点がpH5.0以下である可溶化コラーゲン繊維とを含有する繊維シートを有することを要旨とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、可溶化コラーゲン繊維を用いて柔軟性のある肌触りのよいシートが作成でき、これを用いて、取り扱いが容易で、高い吸水能によって十分な保湿機能を有し、適量のコラーゲンを皮膚に施与可能なパック化粧料を提供することができる。又、市販の化粧水等を利用してコラーゲンを素早く溶解することができ、使用者各人の要望に合った最適の状態でコラーゲンを効率的に肌に供給可能であり、製品仕様を細分化することなく様々な使用者に幅広く提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
コラーゲンは、動物の生皮、腱、骨等を形成する主要タンパク質であり、3本のポリペプチド鎖がヘリックス状になった物質で、通常、水、希酸、希アルカリ、有機溶媒などに対して不溶性であるが、可溶化処理によって粘稠質の可溶化コラーゲン水溶液が得られる。可溶化処理は、タンパク質分解酵素を用いた方法(例えば特公昭44−1175号公報参照。以下、酵素処理法と称する)と、苛性アルカリ及び硫酸ナトリウムが共存する水溶液中に少量のアミン類又はその類似物を添加したもので処理する方法(例えば特公昭46−15033号公報参照。以下、アルカリ処理法と称する)に大別でき、不溶性コラーゲンのポリペプチド鎖末端のテロペプチドにおける分子間または分子内架橋あるいはテロペプチド自体が切断される等によりペプチド鎖間の束縛が解消されて可溶化されると考えられている。
【0015】
近年、コラーゲンが有する保湿性を利用して、皮膚の保湿性を高めるための成分としてコラーゲンを配合したメークアップ用品やスキンケア用品等が提供されている。このような用途において使用されるコラーゲンは、可溶化コラーゲンであり、可溶化コラーゲン水溶液は、水を除去すれば固形の乾燥物となる。水溶液状態での可溶化コラーゲンの変性開始温度は非常に低く、牛、豚由来の場合で30℃前後、フグ、タイ等の場合で20℃前後であるので、室温でも変性し得るが、乾燥状態では100℃前後であり、通常の取り扱いにおいて変性する恐れがない。また、乾燥状態のコラーゲンは水溶液と異なり腐敗の恐れがない。
【0016】
不織布や綿等のような吸水能、保水能を有する多孔質体を基体として、これに可溶化コラーゲン水溶液を含浸又は塗布して乾燥した場合、固化したコラーゲンによって表面を覆われた基体繊維は、吸水を阻害され、保水量が著しく減少するので、皮膚への保湿機能が低下すると共に、コラーゲンの溶解量及び溶解速度も小さい。しかも、固化した可溶化コラーゲンによって基体の繊維が被覆されて柔軟性が損なわれ、肌触りが極度に低下する。
【0017】
これに比べて、基体を構成する原料繊維の一部として可溶化コラーゲン繊維を用いて繊維シートを作成し、これをパック化粧料として使用すると、繊維どうしの絡合によりコラーゲンの脱落は防止されるので、コラーゲンを基体繊維に固着する必要がなく、基体繊維の吸水阻害や柔軟性の低下は回避される。繊維どうしであるので、コラーゲンの使用量も任意且つ容易に調節できる。又、可溶化コラーゲン繊維は柔軟性を有し、これを用いて作成した繊維シートは触感が良好である。
【0018】
以下に、本発明のパック化粧料を構成する可溶化コラーゲン繊維を用いた繊維シートについて説明する。
【0019】
繊維シートは、水に不溶で吸水性を有する基材繊維と、可溶化コラーゲン繊維とを含有する。基材繊維は、一般的な織布や不織布の製造に使用される繊維であり、吸水性を有するものが用いられる。可溶化コラーゲン繊維は、可溶化処理によって水に溶解可能になったコラーゲンの繊維であり、公知方法に従って可溶化コラーゲン水溶液を塩水や有機溶媒中に吐出して凝固・紡糸することによって調製できる。例えば、特開平6−228505号公報に開示される可溶化コラーゲン乾燥物の製造方法を参照して得ることができる。以下に、繊維シートの製造に使用する繊維及び繊維シートの形態について説明する。
【0020】
基材繊維は、吸水性を備える繊維であれば、親水性繊維でも疎水性繊維でも良いが、繊維シート全体の保水能を考慮すると、親水性繊維の方が好ましい。親水性繊維には、植物繊維、動物繊維、再生繊維及び半合成繊維などがあり、具体的には、綿花繊維、麻繊維、和紙繊維などの植物繊維;絹繊維、羊毛に代表される獣毛繊維などの動物繊維;レーヨン、キュプラなどの再生繊維;アセテート、セルロース、再生タンパクなどの半合成繊維などが挙げられる。また、可溶化コラーゲン繊維に公知方法(例えば、特開昭50−141190号公報等)に従って架橋・不溶化処理を施した不溶性コラーゲン繊維も好適に使用できる。疎水性繊維の場合は、繊維表面を多孔質化して毛細管現象に起因する吸水性を付与したり、化学処理により親水性を付与する必要がある。コラーゲンを含有するパック化粧料においては、基材繊維の吸水性が重要であり、基材繊維単独で、10分間程度のパック時間を通して500%以上の含水率〔100×(吸水後質量−吸水前質量)/吸水前質量〕の保水を安定に維持できると好ましい。
【0021】
可溶化コラーゲン繊維は、弱酸性から中性付近の一般的な化粧品のpHにおいて水に溶解するように、等イオン点がpH5.0以下であるものが用いられる。可溶化コラーゲン繊維の等イオン点よりpHが大きい可溶化コラーゲン水溶液を用いて紡糸すると、得られる可溶化コラーゲン繊維が弱酸性から中性付近の水に対する溶解速度が速く、特に、繊度が約10dtx以下であると、30秒以内で水に溶解する。又、繊度が約10dtx以下の可溶化コラーゲン繊維は、スライバーやウェブの状態で摩擦抵抗が小さくて非常に手触りがよく、柔軟性も高いので、加工にも適している。紡糸後の可溶化コラーゲン繊維を引っ張り荷重のない状態で乾燥すると、収縮により適度に捲縮され、特に不織布の製造において好適である。
【0022】
繊維シートは、織布でも不織布であってもよく、また植毛繊維を植設した植毛織布又は植毛不織布であってもよく、一般的な織布や不織布を構成する繊維の一部を可溶化コラーゲン繊維に置換したものと見なすことができる。フェイシャルマスクのようなパック化粧料としては、シートの単位面積当たりの可溶化コラーゲン繊維が0.2〜30g/m程度となるのが好ましく、更に、曲面へのフィット性等の点では、シートの目付が20〜100g/m程度、厚さが0.2〜5mm程度であると好ましい。織布の場合、基材繊維の短繊維と可溶化コラーゲン短繊維とを混紡した混紡糸や、これらの長繊維を撚り合わせた交撚糸も使用可能であり、上記のような割合で可溶化コラーゲン繊維を含有する混紡糸や交撚糸を用いると、繊維シートの形態には制限がなくなる。
【0023】
繊維シートが不織布である場合、基材繊維と可溶化コラーゲン繊維とを混合した繊維混合物を一般的な不織布の製造方法に従って成形加工することにより繊維シートが得られる。不織布を作成する繊維には、一般的には短繊維が好適に使用され、繊維長が2.5〜10cm程度であると加工における作業性等の点で好ましいが、繊維に捲縮がある場合は10mm程度以上の長さがあればよい。基材繊維の繊度は、およそ10dtx以下のものを使用すると好適であり、不織布の柔軟性等の点からは、0.5〜5dtx程度の繊維が好ましいが、この点は繊維の材質にも依存する。不織布を製造するための可溶化コラーゲン短繊維は、本願出願人による先の出願(特願2004−121513)に従って好適に製造することができ、平均繊度が20dtx(dtx:繊維10000m当りのグラム数)から100dtx程度の短繊維が得られる。この場合、平均繊維長は紡糸中の溶媒流動等の調節によって適宜変更でき、2.5〜10cm程度に調節するとよい。10dtx以下の細い短繊維を用いる場合は、後述する可溶化コラーゲン繊維の製造方法に従って長繊維を製造した後に切断すればよい。乾燥時に自然捲縮した場合は、10mm程度以上の長さに切断すればよい。繊維シートの可溶化コラーゲン繊維が水に溶解した後に繊維シートの形状が維持されるように、可溶化コラーゲン繊維の量は、基材繊維と可溶化コラーゲン繊維との合計の30質量%以下、好ましくは3〜15質量%程度とするのが望ましい。このような割合の基材繊維及び可溶化コラーゲン繊維を、例えば、カーディング機等を用いて解繊・混合して均一なスライバーを得て、ニードルパンチ等を用いて繊維を締結し密にすることによって不織布状の繊維シートが形成される。あるいは、特願2004−121513で得られるような可溶化コラーゲン短繊維の分散液に基材繊維の短繊維を加えて均一に分散した後に、湿式抄紙法に従って溶媒を除去して不織布を得ても良い。繊維が平行に並んだ複数の層を積層した構造の不織布に成形しても良い。不織布の厚さは、使用形態における必要性に応じて単位面積当たりの可溶化コラーゲン繊維量や繊維シートの柔軟性等を考慮して決定することができる。一般的な不織布の製造において、繊維同士を接着するバインダーが用いられる場合があるが、本発明においては、バインダーを用いる場合は、基材繊維の吸水を妨げないように使用量を考慮することが望ましい。
【0024】
繊維シートが織布である場合(本願における織布は、縦糸及び横糸を用いた狭義の織布だけでなく、編物をも含むものとする)、織布は、基材繊維と可溶化コラーゲン繊維とを含有する混紡糸又は交撚糸を用いて形成したり、あるいは、基材繊維を含有する糸と前記可溶化コラーゲン繊維を含有する糸とを用いた交織織物又は編物とすることができる。何れにおいても、可溶化コラーゲン繊維が溶解した後のシートの形状を基材繊維によって維持できるので、繊維シートに占める可溶化コラーゲン繊維の割合を自由に設定できるが、パック化粧料としての可溶化コラーゲン繊維の適量である、単位面積当たり0.2〜30g/m程度となるのが好ましい。
【0025】
繊維シートが植毛布、つまり植毛織布又は植毛不織布である場合、基本的な植毛布は、シート形状を構成する基布と、基布に植設される植毛繊維とから構成されるが、可溶化コラーゲン繊維が溶解した後のシート形状を維持するために、基布は基材繊維を用いて形成するが、可溶化コラーゲン繊維を含んでいても良い。植毛繊維は、基材繊維及び可溶化コラーゲン繊維の何れであっても良いが、パック化粧料としては、コラーゲンの溶解性及び皮膚への施与の点から植毛繊維が可溶化コラーゲン繊維であると好ましい。植毛繊維の基布への植毛は、ニードルパンチ等を用いて行うことができる。基布が織布の場合、可溶化コラーゲン繊維が溶解した後のシートの形状を基材繊維によって維持されるので、繊維シートに占める可溶化コラーゲン繊維の割合を自由に設定できるが、基布が不織布である場合は、前述と同様に基布の形態を維持するために、基布の可溶化コラーゲン繊維の割合を30質量%以下とするのが好ましい。基材繊維からなる織布又は不織布を基布とし、可溶化コラーゲン繊維を植毛繊維として植設すると、製造及び設計変更が容易である。好ましい形態として、例えば、ガーゼ様の木綿製基布に可溶化コラーゲン繊維を植設したもの等が挙げられる。パック化粧料としては、繊維シート単位面積当たりの可溶化コラーゲン繊維が0.2〜30g/m程度となるのが好ましい。尚、基材繊維に可溶化コラーゲン短繊維を絡合させてモヘア状に起毛した糸を紡績し、これを用いて織布を作製すると、植毛織布と同様の繊維シートが得られる。
【0026】
基材繊維を用いずに、可溶化コラーゲン繊維単独の不織布又は植毛布として繊維シートを構成することもできるが、この場合、単位面積当たりの可溶化コラーゲン繊維の量が高くなるので、パック化粧料としては非効率的である。この点に関し、細い可溶化コラーゲン長繊維を用いてレース状に編んで繊維シートとすると、単位面積当たりのコラーゲン量を適切に減少でき、パック化粧料として用いた時、使用後に残査が残らない。
【0027】
繊度が10dtx以下の細いコラーゲン繊維が得られる可溶化コラーゲン繊維の製造方法について、以下に記載する。
【0028】
不溶性コラーゲンは、牛、豚、鳥等の動物の皮膚やその他のコラーゲンを含む組織を利用して、従来の方法によって好適に調製することができ、原料を特に限定する必要はない。魚皮や魚鱗等の水性生物原料から不溶性コラーゲンを得てもよい。コラーゲンを得る原料によって、コラーゲンの変性温度には差が見られるが、乾燥状態では、何れの原料由来の可溶化コラーゲンであっても通常の取り扱いにおいて問題はない。需要においては、BSE対策に関連して豚由来又は水生生物由来のコラーゲンを原料とすることが好ましいとされる。
【0029】
牛皮、豚皮等のコラーゲン原料は、必要に応じて、石灰漬け等による脱毛、水洗、チョッパー等を用いた細切などの処理を施して適切な寸法の原料片に調製して、不溶性コラーゲンの可溶化処理に供する。
【0030】
不溶性コラーゲンの可溶化処理は、タンパク質分解酵素を用いた方法(例えば特公昭44−1175号公報参照。以下、酵素処理法と称する)と、苛性アルカリ及び硫酸ナトリウムが共存する水溶液中に少量のアミン類又はその類似物を添加したもので処理する方法(例えば特公昭46−15033号公報参照。以下、アルカリ処理法と称する)に大別することができる。本発明においては、何れの可溶化処理方法を用いても良いが、得られる可溶化コラーゲンの等イオン点(水に対する溶解性が最も小さくなるpH域)が可溶化処理方法によって異なり、アルカリ処理法で得られる可溶化コラーゲンの等イオン点は、アスパラギン残基及びグルタミン残基が脱アミノ反応によって各々アスパラギン酸残基及びグルタミン酸残基に変化することにより、概して、約4.8〜5.0となり、酵素処理法によるものでは概してpH7前後となる。化粧料は、弱酸性から中性であることが好ましく、このpH領域においてコラーゲンが速やかに溶解することが必要であるので、酵素処理法によって可溶化する場合は、得られるコラーゲンの等イオン点を中性付近からpH5以下へ移行させる必要がある。一般的な酵素処理法による可溶化コラーゲン製品では、サクシニル化を施して等イオン点を下げて中性での溶解性を高めているので、このような方法によって得られる可溶化コラーゲンは好適に利用することができる。可溶化コラーゲンの等イオン点が低い方が弱酸性から中性の水性溶媒に対する溶解性が高くなるので、化粧料として使用するコラーゲン繊維の溶解速度を速めるためには、可溶化コラーゲンの等イオン点がpH4.8程度以下となることが好ましい。
【0031】
可溶化処理を施したコラーゲンは、可溶化やサクシニル化に使用したアルカリの中和、脱塩処理(例えば、遠心分離、透析、水洗等)を経て、粘稠質の水溶液の状態で得られる。これから水を除去すれば、可溶化コラーゲン乾燥物が得られる。コラーゲン水溶液から水を除去する方法として、液体窒素等を用いる凍結乾燥法、噴霧乾燥法、及び、有機溶媒中で凝固させる方法がある。凍結乾燥法では製造コストがかかり、噴霧乾燥法では安価に好適な可溶化コラーゲン粉末が得られるが、製造効率が低い。有機溶媒中で可溶化コラーゲン水溶液を凝固させる方法は、水溶液中のコラーゲンが有機溶媒に接触すると凝固することを利用するもので、凝固したコラーゲンから溶媒を容易且つ効率よくに除去でき、製造コストが安価である。本願出願人は、先の出願(特願2004−121513)において、特開平6−228505号公報の可溶化コラーゲン乾燥物の製造方法を参照して、ノズル等を用いて可溶化コラーゲン水溶液を糸状に吐出し凝固させてコラーゲン繊維を調製することを提案しているが、この方法では、より細いコラーゲン繊維を形成する上で限界があり、10dtx以下の繊維の製造は難しく、また、繊度が10dtx付近の細いコラーゲン繊維を製造する場合、繊維を乾燥させる時に繊維どうしが付着・融合して塊状になる。繊度が10dtx以下の細いコラーゲン繊維は、紡糸される可溶化コラーゲン繊維を凝固中に延伸することによって得られ、紡糸したコラーゲン繊維を乾燥する前に親水性有機溶媒に浸漬することによって、乾燥中のコラーゲン繊維の付着を防止できる。
【0032】
可溶化コラーゲンの凝固は、親水性有機溶媒及び疎水性有機溶媒の何れでも可能であるが、凝固するコラーゲンが内包する水を効率よく外部へ放散させる点で親水性有機溶媒が好適であり、凝固した繊維を効率よく乾燥するには、揮発性の溶媒が可溶化コラーゲンを凝固させる有機溶媒として好ましい。例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類やアセトンなどが挙げられ、このような溶媒を複数種組み合わせた混合溶媒であってもよい。実用上、少量の水を含んだ有機溶媒も使用可能であり、その場合、含水率は約15質量%以下、好ましくは10質量%以下であり、含水率が高いとコラーゲンが適切に凝固しない。
【0033】
ノズル等を用いて可溶化コラーゲン水溶液を有機溶媒中に糸状に吐出して、コラーゲンを繊維状に凝固(つまり紡糸)する。紡糸手段として、ノズルやシャワーヘッド等のような流体を糸状に吐出できる吐出孔を有するものを必要に応じて選択して使用できる。概して、コラーゲン濃度が2〜10質量%、好ましくは3〜7質量%の可溶化コラーゲン水溶液を、20〜500g/分、好ましくは30〜150g/分の吐出速度で、孔径が0.02〜1mm程度、好ましくは0.05〜0.3mm程度の孔から有機溶媒中に吐出し、平均繊度が10〜100dtx程度(繊度計を用いて20℃、65%RHで測定される値)の可溶化コラーゲン繊維が形成される。自由な状態での紡出では、凝固中の収縮によって吐出時よりも繊度が高くなるので、10dtx以下の細い繊維の調製を可能とするためには、紡糸されるコラーゲン繊維を吐出速度以上の速度で巻き取って、紡糸中のコラーゲン繊維にかかる引っ張り力で繊維を延伸する。但し、巻き取り速度が速すぎると繊維が切断されるので、吐出速度に対する巻き取り速度の比は1.5以下となるように調節して延伸する。可溶化コラーゲン繊維の太さは、吐出する可溶化コラーゲン水溶液の濃度を低くしたり、吐出するノズルの孔径を小さくすることによっても細くすることができるが、可溶化コラーゲン水溶液の濃度が低過ぎると、紡糸される繊維が切れ易くなったり粉末状の凝固物が生じ易くなる。又、ノズル孔径が小さ過ぎると、通液抵抗が大きくなってノズルに過大な吐出圧力がかかる。これらを勘案して、平均繊度が10dtx以下のコラーゲン繊維を紡糸する好適な条件としては、コラーゲン水溶液の濃度は3〜7質量%、好ましくは3.5〜5質量%、ノズル孔径は0.02〜0.18mm、好ましくは0.05〜0.11mm程度であり、吐出速度に対する巻き取り速度の比は1以上1.5以下、好ましくは1.0〜1.2とすることができる。実施の点からは、吐出速度を2〜7m/分程度、巻き取り速度を2〜10m/分程度の範囲で設定すると実用的である。
【0034】
巻き取った可溶化コラーゲン繊維は、無菌空気を用いた空気乾燥や減圧留去によって乾燥することにより、化粧料用として使用できる可溶化コラーゲン繊維が得られるが、細い繊維の場合、繊維どうしが接触した状態で乾燥すると互いに付着・結合する。これは、乾燥中に有機溶媒が先に留去することによってコラーゲン繊維中の残留水分が凝固コラーゲンを再溶解することが原因であり、繊維が細いほど顕著である。これを防止するために、乾燥前の可溶化コラーゲン繊維を親水性有機溶媒に浸漬する。これにより、コラーゲン繊維中の水分は有機溶媒中に放散して有機溶媒と置換されるので、含水量が低下して有機溶媒量が増加し、乾燥中の繊維の付着は減少する。但し、浸漬する親水性有機溶媒の含水率が低いことが必要であり、具体的には、含水率が5質量%以下の有機溶媒を使用する。使用する有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類やアセトンなどの親水性有機溶媒が挙げられ、このような溶媒を複数種組み合わせた混合溶媒であってもよい。コラーゲン繊維の乾燥時に水のみが残留するのを避けるためには、水と沸点が近い溶媒、あるいは、水と共沸する溶媒を用いることが有効であり、この点で好ましいものとしてはエタノールやイソプロパノール等が挙げられる。親水性有機溶媒を穏やかに流動させたり、浸漬した可溶化コラーゲン繊維を揺動して水分の放散を促進してもよい。
【0035】
紡糸した可溶化コラーゲン繊維を親水性有機溶媒に浸漬すると、親水性有機溶媒の含水率は上昇するので、浸漬処理を繰り返して含水率が過大になった有機溶媒は交換する必要がある。これに関して、有機溶媒に浸漬する直前の可溶化コラーゲン繊維を軽く圧搾又は遠心脱水して繊維に含まれる液体量を減少させると、浸漬する有機溶媒の交換頻度を減らす上で有効である。
【0036】
有機溶媒に浸漬した後に乾燥して得られる可溶化コラーゲン繊維は、標準状態(20±2℃、湿度65±2%RH)でも水分を10〜20質量%程度含有するが、変性温度は高く、牛、豚由来のコラーゲンでは100℃前後となる。
【0037】
可溶化コラーゲン繊維のpHが化粧料を調合する水性液のpHに近いほど水性液へ溶け易くなる。従って、紡糸に用いる可溶化コラーゲン水溶液のpHは、化粧料用水性液のpHに近いことが好ましく、一般的な化粧料が弱酸性〜中性であることを考慮すると、可溶化コラーゲン水溶液のpHをpH5.5〜10.0の範囲、特にpH6.5〜8.0の範囲に調整すると、紡糸したコラーゲン繊維は市販の化粧水や美容液に素早く溶解し、繊度が10dtx以下の可溶化コラーゲン繊維では、30秒以内で水に溶解できる。従って、使用者が任意に使用している化粧料にコラーゲンを簡単に配合することができる。紡糸用コラーゲン水溶液のpHの調整に使用するアルカリがNaOHのみであると、可溶化コラーゲン水溶液の粘度が高くなり易く、コラーゲン水溶液を入れたタンクからノズルへの送液や、前述のような小径の孔からコラーゲン水溶液を吐出する際のノズルの通液が困難になる。このような粘度上昇は、pH調整において硫酸ナトリウム等の無機塩や乳酸ナトリウム等の有機酸塩を添加することによってが抑制される。有機酸塩には有機溶媒に溶解性のあるものと難溶又は不溶性のものとがあり、難溶又は不溶性の塩を使用すると、可溶化コラーゲン水溶液を有機溶媒中に吐出した際に析出し、繊維内部に残存したり、コラーゲン繊維の乾燥時に粉末状に付着するが、この点は有機溶媒に溶解性のある塩を使用することによって解消される。具体的には、紡糸用の有機溶媒としてアルコールを用い、乳酸ナトリウム等のアルコールに溶解する塩をpH調整時に使用すれば、塩を溶媒と共にコラーゲン繊維から除去できる。又、乾燥前のコラーゲン繊維を親水性有機溶媒に浸漬する際にもアルコールを用いることによりpH調整用の有機酸塩を除去できる。紡糸及び浸漬時の有機溶媒は、原料コラーゲンに由来する有機性不純物を除去する機能も有するので有用である。
【0038】
pH5.5以上の可溶化コラーゲン水溶液から紡糸した可溶化コラーゲン繊維は、脱イオン水にコラーゲン繊維を0.5質量%(無水量換算)の割合で溶解した時のpHが5.5以上となり、可溶化コラーゲンの等イオン点より低いpHのコラーゲン水溶液から紡糸した場合と異なる(pH4.0〜4.5程度になる)ので、中性付近の水への溶解速度だけでなく、溶解した時のpHによっても容易に区別できる。
【0039】
上述において、吐出孔の形状及びコラーゲン繊維の断面は円形として説明しているが、繊維の表面積を増加させることによって水性溶媒への溶解性が改善されるので、繊維の断面形状を規定する吐出孔の形状は円形に限らず、楕円、多角形や星形等のような複雑な断面形状を有する可溶化コラーゲン繊維が形成されるように吐出孔を変形したり、コラーゲン繊維表面に凹凸、切欠き、溝等を設けることも可能である。但し、延伸において切断され易くなることを考慮する必要がある。
【0040】
一般に、繊維の捲縮は、引っ張り荷重や撚りをかけたり、繊維の折り畳みや歯車の間を通過させる等の機械的な曲げを加えることによって可能である。可溶化コラーゲン繊維の場合は、紡糸した可溶化コラーゲン繊維を負荷をかけずに乾燥すると自然収縮によって好適に捲縮する。
【0041】
前述の紡糸において、多数の吐出孔を有するシャワーヘッド様のノズルを用いて有機溶媒中に吐出しながら吐出速度以上の巻き取り速度で巻き取ることにより、10dtx以下に延伸された多数の可溶化コラーゲン繊維の束が形成される。これを親水性有機溶媒に浸漬して繊維の含水量を低下させた後に、繊維束に引っ張り荷重をかけることなく乾燥することによって、捲縮した可溶化コラーゲン繊維の束が得られる。この繊維束を10mm程度以上の長さに切断しながら解繊すると、可溶化コラーゲン綿が得られ、不織布の原料繊維又は紡績原料繊維として使用できる。引っ張り荷重をかけて乾燥すると直繊維の束が得られ、この場合、繊維長が約2.5cm以上となるように切断しながら繊維束を解繊すると綿状に絡合し、不織布原料繊維として好適に使用できる。
【0042】
図1は、上述のような可溶化コラーゲン繊維を製造する製造装置の一例を示す。この製造装置1は、有機溶媒S1としてイソプロパノールを収容する第1溶媒槽3と、可溶化コラーゲン水溶液Aを収容するピストンタンク5と、可溶化コラーゲン水溶液を有機溶媒S1中に吐出するための複数の吐出孔を有するノズル7と、ピストンタンク5からノズル7ヘ可溶化コラーゲン水溶液Aを供給するためのギアポンプ9と、紡糸された可溶化コラーゲン繊維を所定の巻き取り速度で巻き取る巻き取りロール11と、親水性有機溶媒S2としてイソプロパノールを収容する第2溶媒槽13とを有する。ピストンタンク5とノズル7とは、ギアポンプ9を介してプラスチック製導管によって接続される。この実施例では、第1溶媒槽3は、所定の長さを有する細長い形状を有し、ノズル7は、吐出孔を水平方向に向けて第1溶媒槽3内の一端側に設置され、ノズル7から吐出されるコラーゲン水溶液が有機溶媒S1中を第1溶媒槽3の長さ方向に沿って他端側へ水平に移動してコラーゲンの凝固に要する時間コラーゲンが溶媒に接触可能なように構成される。
【0043】
図1の製造装置1において、ピストンタンク5のピストンを圧搾空気によって押圧しギアポンプ9を作動させると、可溶化コラーゲン水溶液Aはピストンタンク5からノズル7へ供給され、ノズル7の複数の吐出孔から第1溶媒槽3内の有機溶媒S1中に吐出される。有機溶媒S1との接触によって、吐出される可溶化コラーゲンの外周から内部へ向かって凝固が進行して繊維化し、水平方向に伸長することによって、ノズル7から複数のコラーゲン繊維が束状に紡糸される。伸長する可溶化コラーゲン繊維Fの束は、第1溶媒槽3の他端側のプーリーを介して、巻き取りロール11によって有機溶媒S1から引き上げられて巻き取られる。この際、巻き取りロール11の巻き取り速度がノズル7の吐出速度より速くなるように設定することによって、紡糸される可溶化コラーゲン繊維Fは凝固中に延伸されて平均繊度が10dtx以下の細い繊維となる。延伸された可溶化コラーゲン繊維Fの束は、巻き取りロール11から第2溶媒槽13に投入されて親水性有機溶媒S2に浸漬され、可溶化コラーゲン繊維F中に残存する水分の大半が溶媒中に浸出し、繊維内部の凝固も完了する。
【0044】
含水量が減少した可溶化コラーゲン繊維Fは、第2溶媒槽13から取り出して、無菌空気を用いた空気乾燥や減圧留去によって乾燥すれば、繊維どうしが付着することなく、可溶化コラーゲン繊維束が得られる。可溶化コラーゲン繊維Fの束に引っ張り荷重をかけずに乾燥すると、捲縮した可溶化コラーゲン繊維が得られ、乾燥後に適度に解繊することによって可溶化コラーゲン綿が得られる。荷重をかけて捲縮させない場合においても、繊維の長さが2.5cm以上の繊維束を解繊することにより可溶化コラーゲン綿が得られる。
【0045】
上述の方法により得られる可溶化コラーゲン綿と基材繊維とを用いて繊維シートが作製される。繊維シートは、化粧料用の水性液に接触すれば、可溶化コラーゲン繊維が素早く溶解してコラーゲン化粧料を含んだ繊維シートとなり、パック化粧料として使用される。フェイシャルマスクの場合は、繊維シートを顔型に合わせて適宜裁断して提供すればよい。本発明のパック化粧料は、繊維シートに可溶化コラーゲン繊維を用いているので、基材繊維の吸水性を阻害する様な表面を被覆するものがないので高い保水能を有し、供給される水性液が基材繊維に急速に吸収・保持されて可溶化コラーゲン繊維を溶解すると共に、皮膚へ水分を適切に供給する。多量の水分が基材繊維に保持されるので、体温によって皮膚上の繊維シートから水分が気化しても十分に保湿性が維持される。
【0046】
上述のように作製した繊維シートは、繊維の配合割合や目付、裁断方法等によっては、可溶化コラーゲン繊維が溶解した際に繊維同士の絡合が弱まって、使用後のシートを肌から剥がす時に基材繊維が残存したり、繊維シートを顔形に裁断する際に裁断部分の繊維が毛羽立つ場合が生じ得る。これらを改善するには、水に不溶の低融点樹脂を主成分とする樹脂バインダーを繊維シートに導入する方法がある。具体的には、使用する基材繊維の一部を水に不溶の樹脂バインダーに置換して樹脂バインダーを含んだ繊維シートを作製し、これを加熱して樹脂バインダーを溶融することによって、樹脂バインダーが基材繊維に熱融着して接合が強化される。繊維又は粒状の樹脂バインダーを用いることによって、点接着による結合を効果的に形成して樹脂による被覆を抑制できるので、基材繊維及び可溶化コラーゲン繊維は実質的に樹脂バインダーで遮蔽されることなく、基材繊維の一部のみへの部分的接着によって結合される。繊維状の樹脂バインダー(以下、熱融着繊維と称する)は、融着による結合だけでなく、基材繊維との絡合によっても繊維の脱落を防止できるので有利である。熱融着繊維の太さが基材繊維に近いと、基材繊維との絡合効果の点で有利であり、基材繊維の径の0.2〜3倍程度であると好ましい。特に、基材繊維の径の1.5倍程度以下であると、融着繊維の溶融が進行しても、被覆により基材繊維の給水性が損なわれることを防止するのに有効である。熱融着繊維を用いた繊維シートの作製は、可溶化コラーゲン繊維と熱融着繊維との混合シートを基材繊維からなるシートに重ねて熱プレスにより貼着一体化する方法、基材繊維と熱融着繊維との混合シートを可溶化コラーゲン繊維シートに熱融着する方法、あるいは、基材繊維シートと可溶化コラーゲン繊維シートとの間に熱融着繊維を挟み込んで熱融着する方法などによっても可能であり、これらの場合は、得られる繊維シートに表裏が生じる。粒子状の樹脂バインダーは、そのまま基材繊維及び可溶化コラーゲン繊維と混合してシート化したり、基材繊維シートと可溶化コラーゲン繊維シートとの間に挟持したり、樹脂バインダー分散液又はエマルジョンを基材繊維(綿又はシート)に噴霧して乾燥した後に可溶化コラーゲン繊維と混合・シート化するなどの手法によって繊維シートに導入できる。粒子状の樹脂バインダーを繊維に混合してシート化する場合、シートの目付に応じて、繊維間距離より大きい寸法の粒子を用いて熱プレス前の繊維シートからの脱落を防止可能とする等の配慮が望ましい。
【0047】
樹脂バインダーを構成する低融点樹脂としては、コラーゲンが変質しない程度の加熱によって融着が可能な溶融特性の熱可塑性樹脂を用い、好適な樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ乳酸(PLA)、PP/PE、PET/PE、PET/PP、アクリルポリマー、スチレン−ブタジエン共重合体、ビニルアルコール−アクリル共重合体、ビニルアルコール−エチレン共重合体、ポリ酢酸ビニル、アクリルニトリルポリマー等が挙げられるが、これらに限らず、150℃以下で溶融する各種低融点樹脂の中から適宜選択して使用できる。
【0048】
樹脂バインダーを含有する繊維シートの場合、可溶化コラーゲン繊維は、繊維シートの40質量%程度まで配合可能であり、繊維シート中の可溶化コラーゲン繊維の割合は、5〜40質量%程度、好ましくは10〜30質量%程度に設定する。基材繊維は、繊維シートの保水性を確保するために、繊維シートの10〜85質量%程度、好ましくは30〜70質量%程度とする。繊維の毛羽立ちや脱離を防止するための樹脂バインダーの割合は、繊維シートの10〜80質量%程度、好ましくは20〜50質量%程度とし、過剰の樹脂バインダーは繊維シートの保水性の点で好ましくない。保水状態での皮膚面への保持性の点から、繊維シートの目付は、10〜100g/m程度、好ましくは30〜60g/m程度に調節する。
【0049】
繊維シートの樹脂バインダーを融着する手法としては、ヒートロール、加熱平板等の加熱部材を用いて押圧する熱プレス、熱風を供給する方法等があり、確実且つ有効に結合を形成する点で熱プレスの方が有利である。熱風の場合、樹脂バインダーの配合割合を高くする必要があるため、シートの触感や吸水性との兼ね合いを考慮しなければならない。
【0050】
熱プレスによって繊維シートを融着する場合、樹脂バインダーの表面部分のみが溶融して点接着を形成するのが理想的であり、これに近づくように、繊維シートの目付、樹脂バインダーの組成及び配合割合に従って、加熱部材の温度、プレス圧力及びプレス時間を適切に調節するのが好ましい。好適なプレス条件は、プレス装置や樹脂の種類により若干異なるが、概して、加熱平板でプレスする場合は、温度90〜150℃、圧力5〜50kPaの範囲で適宜調節し、実用的には110〜130℃程度、圧力10〜30kPa程度で5〜10秒程度プレスするのが好ましい。加熱が片面からのみである場合は、上記のプレスを繰り返して両面を均等に加熱するのが望ましい。加熱温度が150℃を超えると、コラーゲンの変質による臭気が生じる。また、繊維シートの裁断の際の毛羽立ちを防止するために、裁断刃又はその近辺を加熱しても良い。
【0051】
パック化粧料として使用する際に、コラーゲンを溶解する水性液は、コラーゲンを溶解した状態でのpHがコラーゲンの等イオン点から外れるような水を主体とする液体であれば良く、基本的に水のみであってもよい。但し、純水に対する溶解性はコラーゲン自体の緩衝作用によって低下するが、この点は、電解質の存在によって解消され、酸、塩基、中和塩、緩衝塩等の電解質を少量添加することにより水性液への溶解性が向上する。特に、クエン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、燐酸ナトリウム等の弱酸性〜中性にpHを安定させる緩衝塩(つまり弱酸と強塩基との塩)を水性液に添加して水性液のpHを約5.5〜9.0にすると、コラーゲン繊維の溶解性を安定化でき、平均繊度が10dtx程度以下のコラーゲン繊維は30秒以内で容易に溶解することができる。但し、過剰の塩は、塩析作用によりコラーゲンを水性液に溶け難くする。電解質は、コラーゲン繊維に含まれていても良く、コラーゲン繊維の調製において電解質を含む可溶化コラーゲン水溶液を用いると、電解質を含有する可溶化コラーゲン繊維が得られる。この点に関して、可溶化処理後の脱塩が完全でないために塩が残存する可溶化コラーゲンを原料として使用することは、本発明においては許容される。
【0052】
又、水性液へのコラーゲンの溶解を妨げない範囲で、必要に応じて、化粧料に一般的に添加される種々の成分を水性液へ添加でき、例えば、ブタンジオール、ペンタンジオール、グリセロール、ヒアルロン酸等の保湿剤、p−ヒドロキシ安息香酸メチル、フェノキシエタノール等の保存料(防腐剤)、アロエエキス等の植物抽出物、エタノール等のアルコール系溶剤、紫外線吸収剤、ビタミン類、抗炎症剤、オリーブ油等の油脂類、脂肪酸類などや、美容上の効能を有する各種機能成分が挙げられる。得られる化粧料のコラーゲン含有量が0.1〜6質量%程度、特に0.1〜3質量%程度となるようにコラーゲン繊維と水性液とを組み合わる割合を設定すると、均一に溶解した化粧料が迅速に得られ、化粧料として好適に作用するので好ましい。
【0053】
上述の水性液の要件によれば、市販の化粧水や化粧液なども水性液に包含される。従って、使用者は、好みに応じて化粧水や化粧液を選択し、これを繊維シートと合わせることによって簡単にパック化粧料を調製できる。つまり、使用者の要望を満足するコラーゲンパック化粧料を新鮮な状態で随時使用者に提供することが可能であり、使用者の肌質に応じて好適な化粧料に調整できる。従来のコラーゲン化粧料のような冷温保存も不要である。
【0054】
溶解した後のコラーゲン化粧料は通常の水溶液状態のコラーゲン化粧料と同様に変性し易いが、アルコールを用いる可溶化コラーゲン繊維の紡糸はコラーゲンの殺菌効果があり、無菌空気での乾燥を経て得られる可溶化コラーゲン繊維は雑菌に汚染されていない。しかも、乾燥状態の可溶化コラーゲンは、溶液状態のものに比べて細菌やカビの繁殖が著しく抑制されるので、流通時の防腐のための処置を軽減でき、防腐剤、保存料等も不要となる。故に、コラーゲン以外の成分を殆ど含まないパック化粧料として使用することも可能である。
【0055】
本発明の繊維シートは、パック化粧料として、単独で販売したり、化粧料用の水性液と組み合わせて提供することができる。1回又は1シート当たりの使用量づつ化粧料用水性液を個別パックにすることにより使用時の計量の手間が省略される。水性液の必要量を示す目盛りを付した容器を併せて提供しても良い。
【0056】
以下、本発明の化粧料及びその製造について、実施例を参照して更に詳細に説明する。
【実施例1】
【0057】
<可溶化コラーゲン水溶液の調製>
ブタの塩蔵皮を原料として、石灰漬けを行った。詳細には、半裁したブタの塩蔵皮1枚(約4kg)を3cm角程度の皮片に裁断し、その質量に対して300%の水及び0.6%の非イオン性界面活性剤を加えて攪拌することによって皮片を洗浄し、皮片を回収した。次いで、皮片質量に対して300%の水、0.6%の非イオン性界面活性剤及び0.75%の炭酸ナトリウムを加えて2時間攪拌して皮片を回収した。更に、皮片質量に対して700%の水を用いた洗浄を、回収した皮片に対して2回行った後、皮片質量に対して300%の水、0.15%の非イオン性界面活性剤、3.6%の水硫化ナトリウム、0.84%の硫化ナトリウム及び2.4%の水酸化カルシウムを加えて16時間攪拌し、皮片を回収して、皮片質量に対して700%の水を用いた洗浄を3回行った。
【0058】
水酸化ナトリウム6質量%、硫酸ナトリウム15質量%及びモノメチルアミン1.25質量%を含有する水溶液8000gを調製し、上記皮片2000g(乾燥質量として約500g)を投入してよく攪拌混合した。これを密閉容器中で25℃に保持して5日間インキュベートすることによりコラーゲンを可溶化した。水溶液を穏やかに攪拌しながら水溶液中のアルカリと等量の硫酸を少量ずつ滴下して中和し、pHを4.8に調整した。中和後の皮片を取り出し、圧搾して液を除去した後、pH5.0の乳酸水溶液約8000gを用いて30分間攪拌した後、皮片を圧搾して脱水した。この操作をさらに4回繰り返して行い、十分に脱塩した。中和の段階で皮片は可溶化コラーゲンの等イオン点付近のpHに調整されているため、コラーゲンは可溶化されているが、脱塩操作の後もほとんど水に溶解せず皮片の形状を保持していた。
【0059】
脱塩後の皮片のコラーゲン含有量をキエルダール法による総窒素測定の結果から算出し、このコラーゲン含有量に基づいて、脱塩後の皮片からコラーゲン質量120gに相当する分量を取分け、コラーゲン濃度が4.4質量%、乳酸ナトリウム濃度が1.2質量%となるように水及び乳酸ナトリウムを加えてよく混練し、可溶化コラーゲン水溶液4000gを得た。次いで、少量の20%水酸化ナトリウム水溶液を加えて混練することによりpHを6.7に調整した。
【0060】
<可溶化コラーゲン繊維の調製>
図1に示す構造の製造装置1のタンク5に、上述で得た可溶化コラーゲン水溶液4000gを収容し、長さが3m、幅10cmの第1溶媒槽3に有機溶媒としてイソプロパノール18Lを収容した。ギアポンプ9を作動させて、水平方向に向けられたノズル7の吐出孔(孔径:0.10mm、孔数:1000)から可溶化コラーゲン水溶液を38g/分の割合(吐出速度:4.8m/分)で有機溶媒に吐出させた。イソプロパノール中で紡糸された可溶化コラーゲン繊維の束は、巻き取りロール11によって5m/分の巻き取り速度で巻き上げ、イソプロパノール5.0Lを収容した第2溶媒槽13に浸漬した。
【0061】
第2溶媒槽13中の可溶化コラーゲン繊維の束を引き上げて、90cm程度に切断して水平な棒にかけて無菌空気を送風し、無荷重状態で十分乾燥することにより、平均繊度が3.7dtx(但し、繊維の両端10mを除く)の自然な捲縮がかかった可溶化コラーゲン繊維の束50g(等イオン点:pH4.9)を得た。尚、繊度は、繊度計(DENIEL COMPUTER DC-11A、SEARCH CO. LTD社製)を用いて、20℃、65%RHの環境下で1サンプル当たり20本測定し、平均値を算出した。この可溶化コラーゲン繊維を脱イオン水に溶解した0.5質量%溶液のpHは6.8であった。
【0062】
得られた可溶化コラーゲン繊維の束を35mmの長さに切断し、ハンドカード機を用いて解繊して可溶化コラーゲン綿を調製した。
【0063】
尚、可溶化コラーゲン繊維の等イオン点は次のように確認した。
【0064】
(等イオン点の測定)
予め活性化及び洗浄した陽イオン交換樹脂(アンバーライトIPR−120B、オルガノ(株)社製)と陰イオン交換樹脂(アンバーライトIPA−400、オルガノ(株)社製)とを2:5の割合で混合して混床イオン交換体を調製した。混床イオン交換体100mlを脱イオン水で平衡化させた後、タンパク質濃度が5%になるように調製した試料溶液を50ml加えて、40℃の水浴中に保持して30分間穏やかに攪拌して混合し、混合液から上澄みを分離して上澄みのpHを測定して、その値を等イオン点とした(J.W.Janus, A.W.Kenchington and A.G.Ward, Research, 4247(1951)に記載の方法を参考とした)。
【0065】
<繊維シートの製造>
(試料1)
ニードルパンチを用いて、上記可溶化コラーゲン綿の割合が10質量%となるように市販の木綿綿100%不織布(KPコットンガーゼ、目付け:40g/m、川本産業株式会社製)に可溶化コラーゲン綿を植設し、可溶化コラーゲン繊維が毛羽立った繊維シートを得た。
【0066】
(試料2)
可溶化コラーゲン綿の割合が20質量%であること以外は試料1と同様にして試料2の繊維シートを得た。
【0067】
(試料3)
前述の可溶化コラーゲン水溶液の調製において得た脱塩後の皮片を用いて、グリセリンを含有する可溶以下コラーゲン水溶液(コラーゲン:1質量%、グリセリン:10質量%)を調製した。この水溶液を用いて、可溶化コラーゲン含有量が10質量%となるように、試料1の調製で用いた木綿綿100%不織布に含浸して乾燥することにより、試料3の繊維シートを得た。
【0068】
(試料4)
可溶化コラーゲン綿を用いずに、上記木綿綿100%不織布をニードルパンチにかけて毛羽立たせることにより、試料4の繊維シートを得た。
【0069】
(試料5)
基布として市販の木綿綿100%織布(白十字株式会社製ホームガーゼ)を用いた以外は試料1と同様に可溶化コラーゲン綿を植設し、繊維シートを得た。
【0070】
(試料6)
可溶化コラーゲン繊維を用いずに、試料5で用いた木綿綿100%織布をニードルパンチにかけて毛羽立たせることにより、試料6の繊維シートを得た。
【0071】
<含水率の測定>
上記試料1〜6の繊維シートと、コントロール用繊維シートとして上述の木綿綿100%不織布(コントロール1)及び木綿綿100%織布(コントロール2)とを用いて以下の操作を行った。
【0072】
繊維シートを目元パック用の形状に裁断して、恒温恒湿室(20℃、湿度65%)で24時間保管した。次に、繊維シートを取り出し、シートが十分に浸る程度に脱イオン水を染み込ませ、ピンセットで摘み上げて液垂れが納まるのを30秒間待ってから吸水性のない平板上に広げて載せ、恒温恒湿室内で保管して10分毎に質量を測定し、繊維シートの含水前の乾燥質量と測定された含水質量とから含水率[%、100×(含水質量−乾燥質量)/乾燥質量]を求め、その経時変化を調べた。結果を表1に示す。
【0073】
(表1)
繊維シートの含水率の経時変化
繊維シート 乾燥質量 含水率(%)
(g) 0分 10分 20分 30分 40分 50分
試料1 0.066 2203 2112 1991 1885 1794 1703
試料2 0.080 2688 2575 2500 2413 2325 2250
試料3 0.133 419 366 321 261 223 178
試料4 0.062 1771 1658 1561 1481 1384 1271
試料5 0.078 1122 1055 954 848 737 632
試料6 0.070 753 658 562 475 379 272
コントロール1 0.062 1158 1077 981 884 784 674
コントロール2 0.068 718 621 529 442 346 240

表1の結果から明らかに、コラーゲン水溶液を含浸したシート(試料3)は、コラーゲンを含まない不織布(試料4、コントロール1)に比べて含水率が極度に低下し、しかも、時間が経過すると含水率が減少してパック化粧料としては満足な機能を発揮し得ないことが解る。これに比べて、可溶化コラーゲン繊維を植設したシート(試料1、2)の場合、含水率が不織布の約2倍になり、経時後も高い含水率を維持しているので、皮膚へ貼付した場合の保湿機能が高く、パック化粧料として非常に有効である。これは、可溶化コラーゲンが繊維であるため、不織布のコットン繊維の表面に吸水を阻害する皮膜がなく、不織布とコラーゲン繊維の両方の吸水性及び保水能が発揮されることによると考えられる。織布に植設した場合(試料5)にも、同様に、植設しなかった場合(試料6、コントロール2)に比べて吸水性及び保水能が著しく高くなる。
【実施例2】
【0074】
(試料7)
実施例1で調製した可溶化コラーゲン綿を用いて、この可溶化コラーゲン綿の割合が10質量%となる割合で可溶化コラーゲン綿とレーヨン綿とをカーディング機に投入して均一な混合繊維のスライバーを得た。これをニードルパンチにかけて繊維を密にして、目付48g/mの不織布状の繊維シートを得た。
【0075】
(試料8、9)
カーディング機に投入する可溶化コラーゲン綿とレーヨン綿との割合を変更したこと以外は試料5と同様の操作を繰り返して、試料2(可溶化コラーゲン綿:20質量%、52g/m)、試料9(可溶化コラーゲン綿:27質量%、57g/m)の不織布状繊維シートを得た。
【0076】
<化粧料の調合>
1,2−ペンタンジオール5.0質量%、グリセリン5.0質量%、1,3−ブチレングリコール3質量%、クエン酸ナトリウム0.66質量%、クエン酸0.03質量%及び残部が滅菌水からなる化粧料用の水性液(pH約6.6)を調製した。
【0077】
試料5〜7の繊維シートを、各々、4cm×5cmの長方形に裁断し、上記化粧料用水性液2mlを染み込ませて皮膚に貼付した。30分後、繊維シートを皮膚から剥離し、皮膚上の剥離残りの有無を調べたところ、何れの試料の場合も剥離残りはなく、剥離したシートは形状を完全に保持していた。
【実施例3】
【0078】
(試料10)
実施例1の可溶化コラーゲン繊維の製造において吐出した繊維を巻き取らなかったこと以外は同じ操作を繰り返して可溶化コラーゲン繊維の束を製造したところ、得られた繊維の収量はほぼ同じであったが、平均繊度は10.4dtxであった。得られた可溶化コラーゲン繊維の束を35mmの長さに切断して、ハンドカード機を用いて解繊してコラーゲン綿を調製した。
【0079】
上記コラーゲン綿及び実施例1で得たコラーゲン綿の各々を試料として、実施例2で調合した化粧料用水性液用いて、以下のように可溶化コラーゲン繊維が完全に溶解するまでの時間を計測した。
【0080】
まず、手のひら上で可溶化コラーゲン綿10mgに水性液1gを加えて指先で馴染ませて溶かし、可溶化コラーゲン試料が完全に溶解するまでの時間を計測した。各試料について、計測は5回繰り返し、得られた計測値から最小値、最大値、平均値及び中央値を求めた。その結果、実施例1のコラーゲン綿では、最小値=12秒、最大値=33秒、平均値=20秒、中央値=17秒であり、試料8のコラーゲン綿では、最小値=20秒、最大値=62秒、平均値=30秒、中央値=23秒であった。
【実施例4】
【0081】
上記試料1及び試料10のコラーゲン綿について、摩擦試験を行って、平均摩擦係数及び摩擦係数の平均偏差を調べた。また、圧縮試験を行って、圧縮仕事量及び圧縮レジリエンスを調べた。その結果、試料1のコラーゲン綿では、平均摩擦係数=0.1665、摩擦係数の平均偏差=0.01015、圧縮仕事量=0.643N・m/m、圧縮レジリエンス=65.3%であり、試料10のコラーゲン綿では、平均摩擦係数=0.2065、摩擦係数の平均偏差=0.0176、圧縮仕事量=1.93N・m/m、圧縮レジリエンス=54.1%であった。
【0082】
上記結果から、可溶化コラーゲン繊維の繊度が小さいほど、綿は柔軟性に富み、肌触りがよいことが明らかで、繊維シートの加工にも幅広く応用でき、風合いの良いシートが作製できることが解る。
【実施例5】
【0083】
(試料11)
実施例1の可溶化コラーゲン繊維の製造において、イソプロパノールの代わりに17質量%濃度、pH約11の硫酸ナトリウム水溶液を第1溶媒槽3に収容して同様の操作を繰り返して、可溶化コラーゲン水溶液を無機塩で凝固させて紡糸した。凝固した可溶化コラーゲン繊維は、第2溶媒相には浸漬せずに、エポキシ架橋剤濃度0.3質量%、硫酸ナトリウム濃度15%、pH10〜11の架橋処理液中に25℃で24時間浸漬して不溶化した。不溶化したコラーゲン繊維を取り出して、流水で洗浄し、癒着防止のために界面活性剤処理液に浸積した後、無菌空気を送風して十分乾燥することにより、平均繊度が3.7dtx(但し、繊維の両端10mを除く)の不溶性コラーゲン繊維の束50gを得た。繊維束を撚糸して自然な捲縮をかけた後、約35mmに切断してハンドカート機を用いて解繊することにより不溶性コラーゲン綿を得た。
【0084】
上記不溶性コラーゲン綿と実施例1で得た可溶化コラーゲン綿とを用いて、可溶化コラーゲン綿の割合が10質量%となる割合で可溶化コラーゲン綿及び不溶性コラーゲン綿をカーディング機に投入して均一な混合繊維のスライバーを得た。これをニードルパンチにかけて繊維を密にして、目付68g/mの不織布状の繊維シートを得た。
【0085】
上記繊維シートを目元パック用の形状に裁断して、実施例1と同様に、恒温恒湿室で保管した後に脱イオン水を染み込ませて、質量測定によって含水率を調べた。その結果、乾燥質量=0.19g、染み込ませた直後の含水率=1480%、50分後の含水率=971%であった。
【実施例6】
【0086】
(試料a〜k)
表2に示す配合割合に従って、可溶化コラーゲン繊維(6.5dtx、繊維長5cm)、熱融着繊維(PET、商品名:メルティ4000、ユニチカ(株)社製)及び基材繊維(R:繊度3.2dtx、繊維長5cmのレーヨン短繊維、B:繊度3.4dtx、繊維長2〜4cmのキュプラ短繊維)を混合してローラーカード機(型番:SC−360DR、大和機工株式会社製)を用いて表2に示す目付のウェブになるようにシート化し、熱プレス機(片面加熱、型番:HP−612CD、株式会社ハシマ製)を用いて表2記載の条件で熱プレスした(表中の「×2回」は、裏返して表裏面を各1回ずつ加熱したことを意味する)。
【0087】
得られた繊維シートの吸水率、保水性、乾き易さ及び強度を下記に従って測定し、触感及び溶出感を官能試験によって評価した。更に、裁断機を用いて繊維シートを顔形に裁断し、裁断部の毛羽立ちの有無を調べ、「A」:無し、「B」:僅かに有り、「C」:有りの3段階で評価した。結果を表2に示す。
【0088】
(吸水率)
繊維シートを裁断して試験片を作製し、この乾燥質量を測定した後、容器に入れた水に浸漬して吸水させ、1分間経過後に試験片をピンセットで引き上げて容器壁で軽く水を切って試験片の質量を測定し、乾燥質量との差を吸収した水の質量として、繊維シートの乾燥質量に対する吸収した水の質量の百分率(質量%)を算出して吸水率とした。
【0089】
(保水性)
繊維シートを4cm×5cmに裁断して試験片を作製し、この乾燥質量を測定した後、容器に入れた水に浸漬して10分間吸水させ、試験片を水から引き上げて10秒間保持(落水)した後に質量を測定した。試験片を水中に戻して再度吸水させ、水から引き上げて60秒間保持(落水)した後に再度質量を測定した。10秒後及び60秒後における試験片の保水量H1,H2を、試験片の落水後質量と乾燥質量との差として算出し、落水率(質量%)=[1−(H2/H1)]×100を計算して、保水性を評価する目安とした。
【0090】
(乾き易さ)
繊維シートを4cm×5cmに裁断して試験片を作製し、この乾燥質量を測定した後、容器に入れた水に浸漬して1分間吸水させ、試験片をピンセットで引き上げて容器壁で軽く水を切って、予め質量を測定したステンレスシャーレに載せて質量W0を測定した。この後、水温が35℃の恒温槽の水上に、試験片が載ったステンレスシャーレを浮かべ、10分後にステンレスシャーレを取り出して外側の水分を拭き取って質量W1を測定し、水分減少率(質量%)=[(W1−W0)/W0]×100を計算して、乾き易さを評価する目安とした。
【0091】
(強度)
繊維シートを1.5cm×4cmに裁断して試験片を作製し、容器に入れた水(20±2℃)に浸漬して3分後に試験片をピンセットで引き上げて、キムワイプ(商標)に載せて水が垂れない程度まで水を切り、測定部位が2cmになるようにレオメーター(NRM−2010J−CW、不動工業社製)の測定アダプター(食品引張り用)に試験片を水平に装着した。引っ張り荷重を加えて6cm/分の速度で引っ張り、トップピークとなる切断荷重(g)を測定し、目付(g/m)で除して目付当たり強度(単純引っ張り強度)とした。
【0092】
(触感)
10人のパネラーによる官能試験によって、繊維シートの肌触りを評価した。評価は、「A」:良好、「B」:普通、「C」:硬いの3段階評価とした。
【0093】
(溶出感)
実施例2で調合した化粧料用水性液を繊維シートに含ませて皮膚に貼付した際の溶出したコラーゲンによるぬめり感を、10人のパネラーによる官能試験によって評価した。評価は、「−−」:少ない、「−」:やや少い、「良好」、「+」:やや多い、「++」:多いの5段階評価とした。
【0094】
(測定結果及び評価)
試料a〜fの結果から、熱融着繊維の使用によって繊維シート裁断部の毛羽立ちを抑制でき、20質量%以上の熱融着繊維によって毛羽立ちがない好適な強度の繊維シートが得られることが解る。熱融着繊維の増加は繊維シートの触感を硬くするが、シートの触感に影響を与える要素には、基材繊維の種類(試料g、h参照)、シートの目付や熱プレスで受ける熱量(融着程度、試料i参照)もあるので、条件に応じて適宜調整可能である。
【0095】
試料aの繊維シートは、熱プレスの加熱温度を150℃に、圧力を30kPaに変更すると、裁断部の毛羽立ちが見られなくなったが、熱によりコラーゲンの臭気が発生した。このことから、加熱温度及び圧力の上昇は熱融着を促進するが、過熱はコラーゲンを劣化させるので、150℃未満に設定することが望ましい。
【0096】
試料a〜kの繊維シートは、可溶化コラーゲンの含有量としては適切であるが、溶出感が低下する場合がある。この原因としては、保水性の低さに起因する落水によってコラーゲンの保湿性が完全に享受できないためと考えられる。表2によれば、繊維シートの落水率は、概して、基材繊維質量の割合との相関関係が認められるので、基材繊維の素材にも依るが、基材繊維を約30質量%以上配合すると、可溶化コラーゲンの含有量を少な目に設定しても適切な保水性を備えた繊維シートが的確に得られる。このようなシートでは液垂れがなく乾燥し難いので、パック化粧料としての使用感が好適である。
【0097】
上記から、可溶化コラーゲン繊維、熱融着繊維及び基材繊維からなる繊維シートにおける各繊維の配合割合は、コラーゲン溶解後のシート形状保持及び保湿機能の点から可溶化コラーゲン繊維は10〜40質量%程度、毛羽立ち抑制の点から熱融着繊維は20質量%程度以上、保水性の点から基材繊維は30質量%程度以上が適正となる。パック化粧料としての使用感の点では、可溶化コラーゲン繊維の割合が20〜30質量%であると好ましい。
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明における可溶化コラーゲン繊維を製造するための装置の一例を示す概略構成図。
【符号の説明】
【0099】
1 製造装置、3 第1溶媒槽、5 ピストンタンク、7 ノズル、
9 ギアポンプ、11 巻き取りロール、13 第2溶媒槽、
S1 有機溶媒、S2 親水性有機溶媒、A 可溶化コラーゲン水溶液、
F 可溶化コラーゲン繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に不溶で吸水性を有する基材繊維と、等イオン点がpH5.0以下である可溶化コラーゲン繊維とを含有する繊維シートを有するパック化粧料。
【請求項2】
前記基材繊維は、植物繊維、動物繊維、再生繊維及び半合成繊維からなる群より選択される親水性繊維である請求項1記載のパック化粧料。
【請求項3】
前記基材繊維は、綿花繊維、麻繊維、和紙繊維、絹繊維、獣毛繊維、レーヨン及び不溶性コラーゲン繊維からなる群より選択される繊維である請求項1記載のパック化粧料。
【請求項4】
前記繊維シートは、前記基材繊維に前記可溶化コラーゲン繊維を混合した繊維混合物からなる不織布である請求項1〜3の何れかに記載のパック化粧料。
【請求項5】
前記繊維シートは、基布と、前記基布に植設される植毛繊維とを有し、前記基布は前記基材繊維を含有し、前記植毛繊維は前記可溶化コラーゲン繊維を含有する植毛布である請求項1〜3の何れかに記載のパック化粧料。
【請求項6】
前記繊維シートとは別体として、使用時に前記可溶化コラーゲン繊維を溶解して皮膚への施与を可能とするための水性液が組み合わされる請求項1〜5の何れかに記載のパック化粧料。
【請求項7】
前記繊維シートは、水に不溶のバインダー樹脂を含む請求項1〜6の何れかに記載のパック化粧料。

【図1】
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【公開番号】特開2007−39438(P2007−39438A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−174129(P2006−174129)
【出願日】平成18年6月23日(2006.6.23)
【出願人】(591189535)ホクヨー株式会社 (37)
【Fターム(参考)】