説明

パッシブマトリックス式多点接触タッチセンサのための走査特性変更式分析用電子回路

本発明は、パッシブマトリックス式多点接触タッチセンサ(1)のための分析用電子回路であって、このマトリックスの2つの軸の一方に電力を供給する手段と、このマトリックスの他方の軸による電気的特性を、これら2つの軸のノードにおいて検出する手段と、を有し、少なくとも1つの走査特性を局所的または時間的に変更することを特徴とする分析用電子回路に関する。本発明は、このような分析用電子回路をさらに有するパッシブマトリックス式多点接触タッチセンサ(1)にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パッシブマトリックス式多点接触タッチセンサのための走査特性変更式分析用電子回路に関する。
【0002】
本発明は、パッシブマトリックス式の透明多点接触タッチセンサに関する。
【背景技術】
【0003】
このタイプのセンサは、好ましくはグラフィックインターフェイスを通じてある装置を制御することを目的として、センサ表面における複数の指の位置、圧力、サイズ、形状、移動を同時に取得する手段を有する。
【0004】
このセンサは、パーソナルコンピュータ(ラップトップまたはデスクトップ)、携帯電話、自動窓口(銀行、店頭、切符売場)、ゲーム機のコンソール、携帯式マルチメディアリーダ(ディジタル再生プレイヤ)、オーディオビジュアル装置または家電製品のコントローラ、工業生産装置のコントローラ、GPSナビゲータなどのためのインターフェイスとして利用できる。
【0005】
従来技術では、同時に複数の接触点の存在と状態を検出できる多点接触センサを有する透明タッチセンサが知られている。このようなセンサは、マトリックス式にすることができる。マトリックスの各ノードの端子における電圧の測定が順次迅速になされ、センサの画像が1秒に複数回作成される。
【0006】
このセンサが検知できないくらい短い反応時間が要求される用途(タイピング、ビデオゲーム、音楽またはマルチメディアの用途)で利用するには、指の動きを最大で20ミリ秒の遅延時間で測定できねばならない。
【0007】
従来技術では、仏国特許発明第2,866,726号の中に1つの解決法が記載されており、多点接触タッチディスプレイ上で仮想グラフィックオブジェクトを操作することによる制御装置に照準が当てられている。この装置は、センサからデータをサンプリング周波数100Hzで取得して分析することのできる分析用電子回路をさらに有する。このセンサは複数の領域に分割することができ、これらの領域に対して並列処理を実行する。このセンサは、複数の導線からなるマトリックスを有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この解決法の欠点は、分析用電子回路による測定の精度にある。この精度は、サンプリング周波数に直接依存するため、センサの所定の領域への接触とは無関係にセンサ全体で同じである。同様に、各走査段階で走査の解像度が高い必要がある。
【0009】
したがって十分に高精度な測定ができるためには、センサ全体で高周波数および高解像度の走査を無駄に行なう必要がある。すると分析用電子回路が組み込まれるタッチスクリーンでの電力消費が多くなる。
【0010】
本発明の目的は、所定の取得段階での走査特性を変更できるパッシブマトリックス式多点接触タッチセンサのための電子制御装置を提案することによってこの欠点をなくすことである。
【0011】
この変更は、走査を条件付きで局所的に制御して走査周波数を調節することで、低周波数でマトリックス式センサ全体を走査することと、高周波数でこのセンサの1つまたはいくつかの領域を走査することとが同時にできるようにすることと、からなる。
【0012】
この変更は、マトリックス式センサ走査の解像度を調節すること、すなわち低解像度でマトリックス式センサ全体を走査することと、高解像度でこのセンサの1つまたはいくつかの高精度領域を走査することと、からなる。
【0013】
本発明は、これら2つの変更モードを組み合わせることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的において、本発明では、パッシブマトリックス式多点接触タッチセンサのための分析用電子回路であって、このマトリックスの2つの軸の一方に電力を供給する手段と、このマトリックスの他方の軸による電気的特性を、これら2つの軸のノードにおいて検出する手段と、を有し、少なくとも1つの走査特性を局所的または時間的に変更することを特徴とする分析用電子回路を提案する。
【0015】
第1の実施態様によれば、変更は、走査周波数を局所的または時間的に変更することからなる。
【0016】
第2の実施態様によれば、変更は、走査の解像度を局所的または時間的に変更することからなる。
【0017】
第3の実施態様によれば、変更は、走査の解像度および周波数を局所的または時間的に変更することからなる。
【0018】
走査は、センサの表面全体に対しては一群の低い走査特性に従って実行され、少なくとも1つの小さな領域に対しては少なくとも一群の高い走査特性に従って実行されることが好ましい。
【0019】
本発明の別の特定の実施態様によれば、
−少なくとも1つの小さな領域は、一群の低い走査特性に従って実行される走査の間に検出された接触を内部に含む接触領域であり、
−少なくとも一群の高い走査特性に従って実行される走査は、一群の低い走査特性に従って実行される走査の際に発生しうる接触領域の検出を条件とし、
−少なくとも一群の高い走査特性に従って実行される走査の領域の境界は、一群の低い走査特性に従って実行される走査の際に検出される接触領域の輪郭に応じて決定され、
−少なくとも一群の高い走査特性に従って実行される走査の領域の境界は、一群の低い走査特性に従って実行される走査のそれぞれの後に更新され、
−少なくとも一群の高い走査特性は、走査する領域のサイズの関数である。
【0020】
したがって本発明により、電力の消費が最適化された状態でより迅速かつより確実な分析がなされる。
【0021】
本発明の別の特定の実施態様によれば、
−少なくとも1つの小さな領域は、グラフィックオブジェクトの位置に対応する領域であり、
−グラフィックオブジェクトの位置に対応する少なくとも1つの小さな領域の走査は、一群の高い走査特性に従って実行され、この一群の高い走査特性は、そのグラフィックオブジェクトの特性の関数であり、
−少なくとも一群の高い走査特性に従って実行される走査の領域の分析は、一群の低い走査特性に従って実行されるセンサの表面全体の分析の際に実施されるフィルタリングよりも高度なフィルタリングステップをさらに有する。
【0022】
したがって本発明により、走査とそれに関連するグラフィックオブジェクトの形態の結び付きを改善することができる。
【0023】
本発明の特定の一実施態様によれば、変更は、タッチスクリーンに表示されるグラフィック要素の関数である。
【0024】
本発明の特定の一実施態様によれば、変更は、発生しうる接触点の検出の結果による。
【0025】
本発明の特定の一実施態様によれば、タッチスクリーンでグラフィックオブジェクトを含まない部分に対しては走査がなされない。したがって、接触の情報が必要でない領域で無駄な取得がなされることが回避される。
【0026】
本発明の特定の一実施態様によれば、分析用電子回路は、1つの走査段階において、一方の網の複数のラインに順次電力を供給し、第2の網の複数のラインのそれぞれにおける応答を検出することによってセンサを制御する。
【0027】
本発明は、マトリックスの2つの軸の一方に電力を供給する電気的手段と、このマトリックスの他方の軸による電気的特性を、これら2つの軸のノードにおいて検出する手段と、を有し、上に説明したいずれかの特徴を持つ分析用電子回路をさらに有するパッシブマトリックス式多点接触タッチセンサに関する。
【0028】
この明細書では、高品質の走査がなされるときの高い走査特性について説明する。また、低品質の走査がなされるときの低い走査特性についても説明する。特に、走査に関する高解像度と高周波数は、高い走査特性に対応する。走査に関する低解像度と低周波数は、低い走査特性に対応する。
【0029】
本発明は、添付の図面に記載した例示としての非限定的実施例に関する詳細な説明を読めばよく理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】パッシブマトリックス式多点接触タッチディスプレイの図である。
【図2】従来の電子回路によって実現されてセンサ全体でデータを取得する処理“取得1”のフローチャートである。
【図3】従来の電子回路によって実現されてデータを分析する処理“分析1”のフローチャートである。
【図4】本発明の電子回路によって実現されてセンサを条件付きで局所的に制御する処理“制御1”のフローチャートである。
【図5】マトリックス式センサの図であり、このセンサの表面で接触が実現される。
【図6】マトリックス式センサの図であり、このセンサの表面で接触が実現される。
【図7】本発明の電子回路によって実現されてデータを取得する処理“取得2”のフローチャートである。
【図8】本発明の電子回路によって実現されてデータを分析する処理“分析2”のフローチャートである。
【図9】条件付きで局所的に制御する処理で実行される2つのループのタイミング図である。
【図10】本発明による公知のタイプのグラフィックユーザーインターフェイスである。
【図11】本発明の電子回路によって実現されて表示領域の違いに応じてデータを分析する処理のフローチャートである。
【図12】条件付きで局所的に制御する処理で実行されて異なるタッチ領域を規定するためのさまざまなループのタイミング図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の分析用電子回路は、マトリックス式多点接触タッチセンサに組み込まれることを目的とする。このセンサは、パッシブマトリックス式、すなわちマトリックスに配置された透明な導電材料からなる2つの層が1つの絶縁層によって分離された方式のもの、またはアクティブマトリックス式、すなわちマトリックスの各ノードが能動素子(トランジスタやダイオードなど)で構成されているものが可能である。
【0032】
図1は、電子タッチ装置の図であり、
−マトリックス式タッチセンサ1と、
−スクリーン2と、
−センサインターフェイス3と、
−主プロセッサ4と、
−グラフィック用プロセッサ5と、を有する。
【0033】
このタッチ装置の第1の基本要素は、センサインターフェイス3を用いた取得(多点接触操作)のために必要なタッチセンサ1である。センサインターフェイス3は、取得と分析のための電子回路を有する。
【0034】
このタッチセンサ1はマトリックス式である。このセンサは、データ取得の高速化のため、場合によっては複数の部分に分割して各部分を同時にスキャンすることができる。
【0035】
センサインターフェイス3からのデータは、フィルタリングされた後、主プロセッサ4に送られる。主プロセッサ4は、スクリーン2に表示して操作するグラフィックオブジェクトにセンサのデータを関連付けることのできるローカルプログラムを実行する。
【0036】
また、主プロセッサ4は、スクリーン2に表示するデータをグラフィックインターフェイス5に送る。このグラフィックインターフェイスはさらに、グラフィック用プロセッサで制御することができる。
【0037】
タッチセンサは以下のように制御される。第1の走査段階では一方の網のラインに順番に電力を供給し、第2の網の各ラインで応答を検出する。その応答に従って、状態が休止状態と比べて変化したノードに対応する接触領域を決定する。状態が変化した隣接するノードの一つまたは複数の集合を決定する。隣接したこのようなノードの1つの集合が、1つの接触領域を規定する。ノードのこの集合を元にして、本発明の意味でカーソルと名づける位置情報を算出する。アクティブでない領域によって隔てられたノードの集合が複数ある場合には、同じ走査段階の間に互いに独立な複数のカーソルを決定する。
【0038】
この情報は、新しい走査段階を通じて周期的にリフレッシュされる。
【0039】
カーソルは、連続した走査の間に得られた情報に基づいて作成され、追跡され、消去される。カーソルは、例えば接触領域の重心を求める関数によって算出される。
【0040】
一般的な原理は、タッチセンサ上で検出された領域と同数のカーソルを作成し、その時間変化を追跡するというものである。利用者が自分の指をセンサから引っ込めると、付随するカーソルが消去される。このようにして、タッチセンサ上にある複数の指の位置と時間変化を同時に捉えることができる。
【0041】
マトリックス式センサ1は、例えば抵抗方式のセンサ、または投影型静電容量方式のセンサである。このセンサは、導線に対応する複数の行または列が表面に配置された透明な2つの層で構成されている。したがってこれらの層は複数の導線からなるマトリックス状の網を形成する。
【0042】
ある行がある列と接触してセンサ1上の1つの接触点を決定したか否かを知りたいときには、マトリックスの各ノードの端子における電気的特性(電圧、容量、インダクタンス)を測定する。
【0043】
この装置により、センサ1と主要プロセッサ4の中に組み込まれた命令回路とを用いて、約100Hzのサンプリング周波数にてセンサ1全体でデータを取得することができる。
【0044】
主プロセッサ4は、センサのデータを、操作のために表示スクリーン2に表示されるグラフィックオブジェクトと関連づけることのできるプログラムを実行する。
【0045】
図2は、従来の電子回路によって実現されて領域Z1でデータを取得する処理“取得1”11のフローチャートである。
【0046】
この処理は、マトリックス式センサ1の領域Z1の各点の状態、すなわちその点への接触があるかないかを決定する機能を有する。センサの領域Z1はM行N列であり、センサ全体に対応する。
【0047】
この領域のサンプリング周波数は行と列に関して100Hzである。
【0048】
この処理は、マトリックスのその領域の全ノードの測定に対応する。マトリックスの各ノードで測定される電気的特性は、例えば電圧である。この行列は、各点(I,J)に、第I行と第J列が交差することによって形成されるノードの端子で測定された電圧の値を有する行列[N,M]である(ただし1≦I≦Nかつ1≦J≦M)。この処理により、所定の瞬間におけるマトリックス式センサ1の各ノードの状態が与えられる。
【0049】
取得する処理“取得1”11は、前の取得時に得られたデータの初期化ステップ12から始まる。
【0050】
ここでは列の軸が電力供給軸を構成し、行の軸が検出軸を構成する。
【0051】
処理11は、最初に第1列の走査を実行する。この列には例えば5ボルトが供給される。電子回路は、この列に関し、この列と、第1行〜第N行のそれぞれとの間のノードにおける電気的特性(例えば電圧)を測定する。
【0052】
第N行の測定が実行されたとき、この処理は次の列に移り、対象となる新しい列と、第1行〜第N行のそれぞれとの間のノードの端子における電圧の測定を再び開始する。
【0053】
すべての列が走査されたとき、マトリックス式センサ1の各点の端子における電圧が測定され終えている。するとこの処理は終了し、電子回路は、得られた“電圧”行列の分析に進むことができる。
【0054】
図3は、従来の電子回路によって実現されてデータを分析する処理“分析1”21のフローチャートである。
【0055】
この処理は、以下のステップを実現する一連のアルゴリズムからなる。
−1回または複数回のフィルタリング22。
−各接触領域を取り囲む領域の決定23。
−各接触領域の重心の決定24。
−接触領域の補間25。
−接触領域の軌跡の予測26。
【0056】
分析する処理“分析1”21が終了すると、ソフトウエアは、タッチスクリーンをリアルタイムでリフレッシュさせるため、そのタッチスクリーンの仮想グラフィックオブジェクトに異なる特定の処理を行なうことができる。データの取得ステップ11で検出された接触領域を取り囲んだ領域も規定される。
【0057】
従来技術によれば、電子回路はこれらの処理11および12を約100Hzの周波数でループにして繰り返す。このような電子回路の欠点は、電力の過剰消費の原因となる過重な計算量と、接触点の状態に関する測定の細かさの間のバランスが難しいことである。その結果として、タッチスクリーンの信頼性と感度が不足する。
【0058】
従来技術のこの欠点をなくすため、電子回路には、センサの走査を条件付きで局所的に制御する処理が組み込まれるとともに、2つの走査モード、すなわち
−センサの領域Z1(この領域Z1は、例えばマトリックス式センサの表面全体に対応する)に対する低周波数F1および低解像度R1による第1の走査モードと、
−領域Z1に含まれ第1の走査モードによる領域Z1の走査結果の全体分析の際に規定される接触領域Z2だけに対する、それぞれがF1およびR1と等しいかそれよりも高い周波数F2および解像度R2による第2の走査モードと、が採用されている。
【0059】
例えば走査用の低周波数F1は20ヘルツ以下であり、例えば1ヘルツである。走査用の高周波数F2は100ヘルツ以上であり、例えば200ヘルツである。
【0060】
周波数と解像度は、走査の特性として定義される。
【0061】
図4は、本発明の電子回路によって実現されてセンサを条件付きで局所的に制御する処理“制御1”31のフローチャートである。
【0062】
この処理は、連続したステップ11および21、すなわちマトリックス式センサ(1)の領域Z1のデータを取得するステップと分析するステップに対応する第1のループ32を有する。
【0063】
この第1のループ(32)は、マトリックス式センサの領域Z1全体に対し、低周波数F1および低解像度R1で実行される。
【0064】
低周波数F1は例えば20ヘルツに等しい。低解像度R1のほうは、マトリックス式センサの解像度を整数で割った値である。例えばこの第1のループにおいて半分の行に電力が供給され、半分の列で測定がなされる。その場合、R1はM×N/4に等しい。
【0065】
この第1のループ32が終了すると、条件付きかつ局所的な制御が実行される。領域Z1全体で少なくとも1つの接触点が検出された場合、この処理は、連続したステップ34、51および61に対応する第2のループ33に入る。
【0066】
この第2のループ33は、図5に示してあるように、接触領域41を取り囲んだ領域42を更新する第1のステップ34を有する。この領域42は、第1のループ32の分析ステップ21の際に領域Z1全体に関するデータが分析された後に得られる。
【0067】
第2のループ33は周波数F2で実行される。この周波数はF1よりも高い。周波数F2は例えば100ヘルツに等しくすることができる。第2のループ33は、R1とは異なる解像度R2で実行される。R2は、例えばマトリックス式センサの解像度に等しくすることができる。その場合、R2はM×Nに等しい。領域Z2でこれ以上接触が検出されない場合、ループ33は停止する。
【0068】
この第2のループ33が実行されている全期間を通じて第1のループ32は実行され続ける。第1のループ32が1回終わるごとに条件付きかつ局所的な制御が新たに実行される。新たな接触点が検出されると第2のループ33が再び開始される。
【0069】
分析ステップ21の出口でのデータにより、センサ1の各点の状態を知ること、特に1つまたは複数の接触の位置を特定することができる。
【0070】
図6からわかるように、ある物体がマトリックス式センサ1と接触したとき、取得ステップ11の後に接触領域41がセンサ上に検出される。この接触領域41は次に分析ステップ21において処理され、この接触領域41を取り囲んだ領域42がさらに決定される。この領域42の形状は、電子回路のレベルでパラメータ化することができる。本発明の第1の実施態様では、長方形タイプの形状にすることができる。しかし本発明は、他のどのようなタイプの形状の領域でも実施することができる。
【0071】
電子回路がマトリックス式センサ1全体で異なる複数の接触領域41を検出した場合には、それらを取り囲んだ複数の領域42が規定される。
【0072】
取り囲んだ領域42は、図6からわかるように領域Z2の座標と境界線を規定する。この領域Z2は、第2の走査モードにおいて分析される。
【0073】
図5と図6は、2つの走査モードの解像度の違いも示している。領域2の走査解像度R2は、領域1の走査解像度R1の5倍に等しい。したがって図5に示した領域Z1の走査は、図6に示した領域Z2の走査と比べて1/5の解像度でなされる。
【0074】
実際、領域Z1に関する図5に示した分割43は、領域Z2に関する図6に示した分割44よりも5倍粗い。
【0075】
図7は、本発明の電子回路によって実現されてデータを取得する処理“取得2”51のフローチャートである。
【0076】
この場合には、処理51は、電子回路によって領域Z1全体に対して周波数F1でなされるデータ取得処理“取得1”11と同様である。
【0077】
しかし処理51は、算出された接触領域を取り囲んだ領域、すなわち領域Z2に対してだけ取得が実行される点が異なっている。
【0078】
検出された領域41が1つだけであり、取り囲んだ領域42が長方形である場合、輪郭線は、整数パラメータI1、I2、J1、J2によって規定される。処理51は、各列J1〜J2の位置で行I1〜I2の走査を実行し、長方形[I1,I2,J1,J2]の各点の端子における電圧を測定する。
【0079】
ここには長方形の領域42に関する例が示されている。もちろんこの形状に限られることはなく、当業者であれば、必ずしも長方形ではない他の任意の形状の領域42で処理51を実行できることを理解するであろう。
【0080】
図8は、本発明の電子回路によって実現されてデータを分析する処理“分析2”61のフローチャートである。
【0081】
分析ステップ61が実行される領域Z2は、上に説明した領域41を取り囲んだ領域42に対応する。領域Z2が領域Z1よりもかなり小さくなる程度に、分析する処理61は、フィルタリングステップ62において、フィルタリングステップ22で実行されるフィルタリングよりも高度なフィルタリングを実行することが好ましい。
【0082】
説明のため、図9は、条件付きかつ局所的な制御31で実行される2つのループ32および33のタイミング図を示している。これは、最初の2つの周期において接触が検出され、3番目の周期では接触がまったく検出されない場合である。
【0083】
条件付きかつ局所的な制御31により、第1のループ32の出口で発生しうる接触点の検出の結果に応じて、第2のループ33を周波数F2および解像度R2で始動させることができる。したがってこの第2のループ33は、周波数F2で実行される。
【0084】
本発明によれば、周波数F2は周波数F1よりも大きい。
【0085】
“接触1”関数は、2つの値、すなわち少なくとも1つの接触がセンサ1の表面全体で検出された場合の高い値と、そうでない場合の低い値を取ることのできる関数として定義される。“接触1”関数は、周波数F1の第1のループ32の終わりに再更新される。
【0086】
“接触1”関数が高い値に移行すると第2のループ33が周波数F2で実行される。この第2のループ33は、“接触1”関数と同様の“接触2”関数もさらに生成させるが、第1のループ32の出口で得られてステップ34で更新された領域42に関してだけである。
【0087】
この例では、“接触1”関数は、最初の2つの周期で高い値を取る。すると“接触2”関数も高い値に移行する。
【0088】
3番目の周期では、マトリックス式センサ全体でこれ以上接触は検出されないため、“接触1”関数は、低い値に移行し、その結果として第2のループ33が停止する。
【0089】
本発明の別の一実施態様は、タッチスクリーン上に表示されるグラフィック要素に応じて走査の解像度を局所的に変えることからなる。走査の解像度を減少させるのは、接触の確率が小さい1つまたは複数の領域、それどころか触覚機能をなくしたい領域に限定することができる。
【0090】
例えば図10は、公知のタイプのグラフィックユーザーインターフェイス77(GUI)を示している。このGUIは、グラフィックオブジェクトの集合からなる。これらのグラフィックオブジェクトは、グラフィックユーザーインターフェイス77の部分集合に含まれることがある。グラフィックユーザーインターフェイス77のこの部分集合は、一般に“ウインドウ”と呼ばれる。
【0091】
したがって、ウインドウ71および74は、インターフェイス77の部分集合である。オブジェクト73はウインドウ71に含まれ、オブジェクト75はウインドウ74の一部をなす。インターフェイス77は、触覚的にニュートラルな領域76、すなわち利用者が操作可能ないかなるグラフィックオブジェクトも含まない領域も含んでいる。
【0092】
ウインドウ72および74に含まれるオブジェクトは、タイプが異なっている。オブジェクト73は、接触によってアクティブにされるボタンである。これらのボタンは、例えばツールまたは関数を選択するのに役立つ。オブジェクト75は、例えばソフトウエアまたは装置のパラメータを変更するために指を滑らせて操作するスライドバーである。
【0093】
タイプが異なるこれらのオブジェクトは、同じ触覚精度である必要はない。実際には、ボタンは高い解像度である必要はないのに対し、スライドバーは、細かい調節ができるようにするためできるだけ高い解像度である必要がある。逆に、ボタンをアクティブにするには時間的に優れた応答が要求されるのに対し、スライドバーの移動は、時間というこのパラメータに関して感度がより低くてもよい。
【0094】
ニュートラルな領域76は、高解像度も高周波数も必要としない。場合によってはこの領域を走査しなくてもよい。
【0095】
碁盤の目のようになった図10は、グラフィックユーザーインターフェイス77の異なる部分集合において好ましい異なるレベルの解像度を示している。
【0096】
本発明のこの実施態様では、触覚データの取得の改善と最適化は、対応するグラフィックオブジェクトに応じて規定されるタッチ領域に応じた走査の解像度と周波数を適応することによってなされる。
【0097】
そうするため命令回路を主プロセッサ4の制御下に置き、そのプロセッサが、表示されるグラフィックオブジェクトに応じて走査パラメータをダイナミックに変化させることができるようにする。
【0098】
書き込み機能がアクティブにされた特定の一実施態様によると、多点接触タッチセンサのマトリックスの取得は、接触領域の存在によって書き込みが検出された領域においてより高い解像度で実行される。解像度がより高いこの領域は、接触領域よりも広い領域を取り囲んでいる。したがって解像度は、検出された最後の接触点の周囲の小さな領域で高くなっている。このようにすると、次の取得の際にスタイレットの移動を予測することができる。したがって、可能な限り正確な触覚情報が接触領域の近傍において得られる。
【0099】
特定の一実施態様によると、接触がないときには、グラフィックオブジェクト73または74上で低周波数および低解像度での取得が実行され、接触が検出された後にその接触が常に検出されるときには、そのグラフィックオブジェクト上で高周波数および高解像度での取得が実行される。
【0100】
特定の一実施態様によると、所定のグラフィックオブジェクト74または75に関し、接触が検出された後にその接触が常に検出されるときには、解像度は、接触領域に近い領域ではより高く、より離れた領域ではより低い。このようにすると、カーソルを素早く移動させる際に、接触の移動に関するよりよい情報を得ることができる。
【0101】
特定の一実施態様によると、一方の軸(電力供給軸または検出軸)を他方の軸よりも高い解像度(または周波数)にすることができる。これは、一方の軸に沿ったカーソルの移動を優先的に分析するときに有用である。
【0102】
図11は、この実施態様による制御処理“制御2”81のフローチャートを示している。上に説明した走査ループ32と同じ第1の走査ループ82では、領域Z1全体が、周波数F1および解像度R1で走査される。この領域は、例えばセンサ全体、またはグラフィックユーザーインターフェイス全体に対応させることができる。
【0103】
このループ82が終了したとき、グラフィック(ウインドウまたはオブジェクト)の少なくとも1つの部分集合がスクリーンに表示されていると、第2のループ83が開始される。
【0104】
このループ83は、最初に、グラフィックオブジェクトの諸パラメータ(位置、サイズ、周波数、解像度)を読み取るステップ84を有する。
【0105】
領域Z2の座標は、スクリーンに表示されるグラフィックオブジェクトの座標によって決まる。走査の周波数F2および解像度R2は、グラフィックオブジェクトのタイプ(例えばボタン、スライドバーなど)に応じて決まる。
【0106】
例えばボタンタイプのオブジェクトでは、周波数F2は100Hzに調節され、解像度R2は4列×4行である。同様に、バータイプのオブジェクトでは、周波数F2は60Hzになり。解像度R2は40列×10行になる。
【0107】
次に、領域Z2が周波数F2および解像度R2で走査される。
【0108】
スクリーンにグラフィックオブジェクトの複数個の部分集合が表示されている場合には、そのすべてが走査されるまで、取得ステップ51と分析ステップ61が、そのそれぞれの部分集合に対して同様に順次実行される。領域Z1に含まれるグラフィックオブジェクトに対応する領域がすべて走査されると、領域Z1に対する新たな走査が実行される。
【0109】
図12は、異なる表示領域に対応する別々の走査が並列して行なわれることを示すタイミング図である。
【0110】
タッチ領域Z1全体は周波数F1で走査される。このタッチ領域の異なる部分集合がそれぞれ周波数F2およびF3で並列に走査される。例えば走査2は、“スライドバー”タイプのオブジェクトが表示される領域に対応するのに対し、走査3は、“ボタン”タイプのオブジェクトが表示される領域に対応する。
【0111】
これまでに説明したいずれかの実施態様に従う分析用電子回路を組み込んだタッチスクリーンは、接触の検出に関して従来技術のタッチスクリーンよりもはるかに優れた感度と精度を提供しつつ、電流の過剰な消費を必要とせず、超高性能プロセッサを利用する必要もないという利点を有する。
【0112】
これまでに説明した本発明の実施態様は例として与えたものであり、本発明がこれら実施態様に限定されることは決してない。当業者であれば、発明の枠組から逸脱することなく、本発明のさまざまな実施態様を実現することさえできるのは当然である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パッシブマトリックス式多点接触タッチセンサのための分析用電子回路であって、
前記マトリックスの2つの軸の一方に電力を供給する手段と、
前記マトリックスの他方の軸による電気的特性を、前記2つの軸の間のノードにおいて検出する手段と、を有し、
少なくとも1つの走査特性を局所的または時間的に変更することを特徴とする分析用電子回路。
【請求項2】
前記変更が、走査周波数を局所的または時間的に変更することからなることを特徴とする、請求項1に記載の分析用電子回路。
【請求項3】
前記変更が、走査の解像度を局所的または時間的に変更することからなることを特徴とする、請求項1に記載の分析用電子回路。
【請求項4】
前記変更が、走査の解像度および周波数を局所的または時間的に変更することからなることを特徴とする、請求項1に記載の分析用電子回路。
【請求項5】
前記走査が、センサの表面全体に対しては一群の低い走査特性に従って実行され、少なくとも1つの小さな領域に対しては少なくとも一群の高い走査特性に従って実行されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の分析用電子回路。
【請求項6】
前記少なくとも1つの小さな領域が、前記一群の低い走査特性に従って実行される走査の間に検出された接触を内部に含む接触領域であることを特徴とする、請求項5に記載の分析用電子回路。
【請求項7】
前記少なくとも一群の高い走査特性に従って実行される走査が、前記一群の低い走査特性に従って実行される走査の際に発生しうる接触領域の検出を条件とすることを特徴とする、請求項6に記載の分析用電子回路。
【請求項8】
前記少なくとも一群の高い走査特性に従って実行される走査の領域の境界が、前記一群の低い走査特性に従って実行される走査の際に検出される接触領域の輪郭に応じて決定されることを特徴とする、請求項6または7に記載の分析用電子回路。
【請求項9】
前記少なくとも一群の高い走査特性に従って実行される走査の領域の境界が、前記一群の低い走査特性に従って実行される走査のそれぞれの後に更新されることを特徴とする、請求項6〜8のいずれか1項に記載の分析用電子回路。
【請求項10】
前記少なくとも一群の高い走査特性が、走査する領域のサイズの関数であることを特徴とする、請求項6〜9のいずれか1項に記載の分析用電子回路。
【請求項11】
前記少なくとも1つの小さな領域が、グラフィックオブジェクトの位置に対応する領域であることを特徴とする、請求項5〜10のいずれか1項に記載の分析用電子回路。
【請求項12】
前記グラフィックオブジェクトの位置に対応する前記少なくとも1つの小さな領域の走査が、一群の高い走査特性に従って実行され、前記一群の高い走査特性は、前記グラフィックオブジェクトの特性の関数であることを特徴とする、請求項11に記載の分析用電子回路。
【請求項13】
前記一群の高い走査特性に従って実行される走査の領域の分析が、前記一群の低い走査特性に従って実行されるセンサの表面全体の分析の際に実施されるフィルタリングよりも高度なフィルタリングをさらに有することを特徴とする、請求項1〜12のいずれか1項に記載の分析用電子回路。
【請求項14】
前記変更が、タッチスクリーンに表示されるグラフィック要素の関数であることを特徴とする、請求項1〜13のいずれか1項に記載の分析用電子回路。
【請求項15】
前記変更が、発生しうる接触点の検出の結果によることを特徴とする、請求項1〜14のいずれか1項に記載の分析用電子回路。
【請求項16】
タッチスクリーンでグラフィックオブジェクトを含まない部分に対しては走査がなされないことを特徴とする、請求項1〜15のいずれか1項に記載の分析用電子回路。
【請求項17】
1つの走査段階において、一方の網の複数のラインに順次電力を供給し、第2の網の複数のラインのそれぞれにおける応答を検出することによって前記センサを制御することを特徴とする、請求項1〜16のいずれか1項に記載の分析用電子回路。
【請求項18】
マトリックスの2つの軸の一方に電力を供給する電気的手段と、
前記マトリックスの他方の軸による電気的特性を、前記2つの軸のノードにおいて検出する手段と、を有し、請求項1〜17のいずれか1項に記載の分析用電子回路をさらに有するパッシブマトリックス式多点接触タッチセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2011−507123(P2011−507123A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538848(P2010−538848)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【国際出願番号】PCT/FR2008/001809
【国際公開番号】WO2009/112649
【国際公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(509270546)
【氏名又は名称原語表記】STANTUM
【Fターム(参考)】