説明

パッド型軸受装置及び横軸水車

【課題】
本発明は、水を潤滑剤として用い、軸受パッドの潤滑を確実に行い、軸受摺動面の耐摩耗性を長期に渡って維持すると共に、オイルフリー化に対応できる水潤滑のパッド型軸受装置及び横軸水車を得ることにある。
【解決手段】
横置きの回転軸を支持するパッド型軸受装置において、回転軸の摺動面を囲むように摺動面側に樹脂材料を用いた複数個の軸受パッドを配置し、下半部に位置する軸受パッドの摺動面を潤滑水中に浸漬し、軸受パッドの両端部の近傍位置に揚水手段を設置するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水を潤滑剤として横置きの回転軸を支承するパッド型軸受装置と、これを利用した横軸水車とに係わり、特に摺動面側に樹脂材料を適用した軸受パッドを有するものに関する。
【背景技術】
【0002】
横軸水車の回転軸を支承する軸受としては、油潤滑のジャーナル軸受やティルティングパッド軸受が用いられているが、耐荷重性の観点からティルティングパッド軸受が多用されている。ティルティングパッド軸受としては、特開平5−332355号公報(特許文献1)に開示されているように、ロータ自重を含む荷重を支えるように、負荷側に2枚の傾斜可能なパッドと無負荷側の前記2枚のパッドとロータ軸心に対して対称位置に1枚の傾斜可能なパッドとが配設され、前記各パッドには外部の給油手段に接続されロータとの摺動面に到る給油穴を設けて構成している。このティルティングパッド軸受は各パッドに直接給油されているので、給油量の節約が図れかつ、低損失化が達成できる。また、負荷側に2個の軸受パッドを配置しているので、長期使用に対しても十分な耐荷重性を確保し、安定した軸受性能が得られる。
【0003】
【特許文献1】特開平05−332355号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されているティルティングパッド軸受において、油の代替として水を潤滑剤として給水して使用することを考えた場合、以下に示す項目に対して十分に配慮されているとは言えない。
1.直接軸受パッドに加圧給水された場合、軸受パッドの給水口近傍には十分な水が供給されるが、軸受パッド全面には潤滑水が行き渡らない可能性がある。このため、軸受パッドの摺動面では部分的な水膜切れが発生する恐れがあり、長期に渡って安定した軸受性能が得られないことが考えられる。
2.外部給水装置を使用しているので、給水装置のポンプ等でトラブルが発生したりすると主機の運転ができなくなるので、十分な信頼性を有しているとは言えない。
3.起動・停止時は摺動面が直接接触するので特に負荷側軸受パッドの高耐摩耗性が要求されるが、油潤滑用の軸受パッドをそのまま用いた場合は十分な耐摩耗性を確保できないことが予想される。
【0005】
以上のように、公知例においては、水潤滑条件での使用を前提とした場合、潤滑構造や軸受摺動面材料の耐摩耗性等に関して、十分に考慮されていないので高い信頼性を長期間に渡って維持出来ない可能性がある。
【0006】
本発明は上記のような事情に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、水を潤滑剤として用い、軸受パッドの潤滑を確実に行い、軸受摺動面の耐摩耗性を長期に渡って維持すると共に、高信頼性の水潤滑のパッド型軸受装置及びこの軸受装置を搭載した横軸水車を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明は、横置きの回転軸を支持するパッド型軸受装置において、回転軸の摺動面を囲むように摺動面側に樹脂材料を用いた複数個の軸受パッドを配置し、下半部に位置する前記軸受パッドの摺動面を潤滑水中に浸漬し、上半部に位置する前記軸受パッドを非接触状態に設置し、前記軸受パッドの両端部の近傍位置に揚水手段を設置するように構成したことを特徴とするものである。
【0008】
前記目的を達成するために、本発明は、横置きの回転軸を支持するパッド型軸受装置において、回転軸の外周側にスリーブを固定し、該スリーブの摺動面を囲むように摺動面側に樹脂材料を用いた複数個の軸受パッドを配置し、下半部に位置する前記軸受パッドの摺動面を潤滑水中に浸漬し、上半部に位置する前記軸受パッドを非接触状態に設置し、前記軸受パッドの両端部の近傍位置に揚水手段を設置するように構成したことを特徴とするものである。
【0009】
前記目的を達成するために、本発明は、横置きの回転軸と、この回転軸に固定された羽根車と、該羽根車の外周を囲むように配置した水車ケーシングと、回転軸を囲むように配置したドラフトチューブと、この回転軸を支持するパッド型軸受装置とを備えた横軸水車において、前記パッド型軸受装置は回転軸の摺動面を囲むように摺動面側に樹脂材料を用いた複数個の軸受パッドを配置し、下半部に位置する前記軸受パッドの摺動面を潤滑水中に浸漬し、上半部に位置する前記軸受パッドを非接触状態に設置し、前記軸受パッドの両端部の近傍位置に揚水手段を設けるように構成したことを特徴とするものである。
【0010】
上記発明において、より好ましくは、次の構成とすることにある。
(1)前記樹脂材料は、熱可塑性樹脂材料の中でカーボンを繊維含有するポリフェニレンサルファイド樹脂からなること。
(2)前記揚水手段は回転軸に固定された外周面傾斜ディスクと該ディスクを囲むケースとで構成したこと。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水を潤滑剤として用いて流体潤滑状態で作動するパッド型軸受装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の各実施例について図を用いて説明する。第2実施例以降の実施例においては第1実施例と共通する構成の重複する説明を省略する。なお、各実施例の図における同一符号は同一物又は相当物を示す。ここでは、軸受摺動面側に用いる樹脂材料としてカーボン繊維を含有したPPS系の熱可塑性樹脂を用いた場合について説明するが、カーボン繊維の大きさ、含有量は、水潤滑下で安定した摺動特性と耐摩耗性を示す範囲であれば特に限定するものではない。
【0013】
図1は本発明による水潤滑のパッド型軸受装置30における軸受パッド2の配置状況を示すものである。横軸の回転軸1の摺動面を囲むように3個の軸受パッド2が配置されている。各軸受パッド2は摺動面に樹脂材料3を用い、この樹脂材料3を金属ケース4より摺動面側に数ミリ突出させて、金属ケース4に格納し、かつ、樹脂材料3と金属ケース4とで形成される隙間に接着剤(図示せず)を充満させて固定する方法で製造されている。
【0014】
また、金属ケース4の背面に凹み4aが設けられている。この凹み4aと対向して先端部が球面形状5bをした調整ボルト5が設置されている。調整ボルト5,5aは軸受ケーシング6に固定されている。
【0015】
下側に位置する調整ボルト5は軸受ケーシング6にねじ込み固定する。この調整ボルト5の球面形状5bに金属ケース背面に設けた凹み4aが接触した状態で設定される。
【0016】
下半部の図中の水平点線C−Cは潤滑水の水位を示している。下半部には1個の軸受パッド2が配置されており、この軸受パッド2の摺動面3aは潤滑水に浸漬した状態にある。各軸受パッド2の両端部には軸受ケーシング6に固定した金具7a、7bが装着されている。金具7a、7bは軸受パッド2の軸方向、半径方向の位置決めをするものである。
【0017】
一方、上半部には2個の軸受パッド2が配置されている。この軸受パッド2も金属ケース4の背面に凹み4aが設けられている。この凹み4aと対向し先端部が球面形状5bをした調整ボルト5aが設置されている。この調整ボルト5aは摺動面隙間を調整した後にナット5cにより軸受ケーシング6に固定される。上半部の軸受パッド2の初期設定隙間を調整するための金具7aに吊りボルト8が装着されている。吊りボルト8を調整することで、金具7aの内周側先端部の突起に引っ掛かった軸受パッドを半径方向に移動させることができる。また、吊りボルト8は軸受パッドの摺動面を所定の位置に移動調整した後に固定用ナット8aにより軸受ケーシング6に固定される。その結果、上半部に位置する軸受パッド2の背面に設けた凹み4aと調整ボルト5aの先端(球面形状5bの先端)とは所定の隙間をもって設定される。
【0018】
この構成によると、上半部の軸受パッド2を回転軸の外周面と非接触状態に設定できるので、起動直後から摺動発熱の発生もなく、樹脂材料の耐熱温度以下で十分に使用できる。
【0019】
次に、上半部に設置された軸受パッド2の潤滑を行うために設置された揚水手段について説明する。
【0020】
図2は図1のA−A線に相当する断面図である。軸受パッド2の両端部に揚水手段9が配置されている。揚水手段9は回転軸1に固定された外周面傾斜ディスク10と該ディスクを囲むケース13とで構成されている。ディスク10は軸方向に傾斜する傾斜部11と平行部12で構成されているが、傾斜部11のみで構成しても良い。ケース13には水槽14内に貯水した潤滑水とケース内の潤滑水の水位を同レベルに保持するため連通孔19が複数個設けられている。そのため、ディスク10の回転によりケース13内の潤滑水が外周側に移動すると連通孔19より水槽側から補給され、水位レベルを一定に保持している。
【0021】
図中r1は回転軸中心から初期水位までの距離、r2は回転軸中心からディスク傾斜面の反軸受側の半径、r3は回転軸中心からディスク傾斜面の軸受側の半径、を示す。
【0022】
図3は図2のB−B線に相当する断面図である。揚水手段9を構成するディスク10の回転軸への取り付け構造について図3を用いて説明する。ディスク10は回転軸1にボルト18により固定されており、回転軸と一体となって回転する。ボルト18はディスク端面から埋没した状態にあり、ディスク10の回転による潤滑水の撹乱が防止できる。
【0023】
これまで本発明のパッド型軸受装置の構成について説明してきたので、次に作用について述べる。下半部に設置されている軸受パッドの摺動面は潤滑水に浸漬した状態にあり、停止中回転軸1の自重を支承している。この場合、軸受パッドの摺動面半径は回転軸摺動面半径よりも僅か大きく設定しているので、軸受パッドの摺動面は回転軸と線接触状態にある。そのため、潤滑水は摺動面のほぼ全面に渡って浸入している状態にある。回転軸の起動とほぼ同時に摺動面には水膜が形成され、流体潤滑状態で作動する。一方、上半部に設置された軸受パッドは回転軸と非接触状態に設定されているため、回転軸の回転に伴う摺動発熱が無く、安定した潤滑状態で作動する。したがって、通常の運転条件では長期間に渡って安定した軸受性能が得られる。
【0024】
一方、上半部の軸受パッドは回転軸の浮上を防止するために設置されたものであり、回転軸の回転中は軸受パッドの摺動面が確実に潤滑された状態にあることが不可欠である。上半部の軸受パッドの潤滑は、揚水手段により供給される潤滑水で達成される。そこで、揚水手段の作用について説明する。
【0025】
外周面傾斜ディスクの反軸受側の潤滑水と接する面では、回転軸中心から初期水位までの距離r1と回転軸中心からディスク傾斜面の反軸受側の半径r2との差により、潤滑水に速度水頭が付与される。その速度水頭Hは次式で計算される。
【0026】
H=[(r2・ω)2−(r1・ω)2]/2/g
ここで、ωは角速度、gは重力加速度である。
【0027】
速度水頭の大きさは角速度ωが大きくなるに伴いおおきくなる。この速度水頭により、外周面傾斜ディスク10とディスクを囲むケース13の隙間に潤滑水が押込まれ、外周面傾斜ディスク10の頂点10aに向かって潤滑水が押込まれる。潤滑水の押込まれる高さは角速度によって異なるが、通常の運転条件では外周面傾斜ディスク10の頂点10aに容易に達して、隙間を充満させる。隙間に充満した潤滑水は回転軸中心からディスク傾斜面の反軸受側の半径r2と回転軸中心からディスク傾斜面の軸受側の半径r3との差により軸受側へ送水する速度水頭hが付与される。
【0028】
hは以下で計算できる。
【0029】
h=[(r3・ω)2−(r2・ω)2]/2/g
ここで、ωは角速度、gは重力加速度である。
【0030】
外周面傾斜ディスク10とケース13の隙間に押込まれた潤滑水は速度水頭hにより軸受側へ排出される。潤滑水は上半部に設置されている軸受パッドの両端部15と軸受パッドの入口側16,出口側17に供給される。回転中は継続して潤滑水が上半部に設置した軸受パッドの周囲に供給できる。したがって、上半部の軸受パッドに対しても軸受パッド周囲を囲むように安定して潤滑水が供給できるので安定した摺動特性が得られる。
【0031】
外周面傾斜ディスク10を囲むように設けたケース13は下半部内の潤滑水と接する部分に連通孔19を設けているので、水槽側からケース13内に補給され、潤滑水の液面は低下することなく安定している。このため、外周面傾斜ディスクが潤滑水と接する水位も一定しており、安定した揚水機能が維持できる。下半部の軸受パッドは金属ケース背面の凹みと対向し接触するように先端部が球面形状をした調整ボルトで支持されているので、ティルティング状態にあり、片当りが確実に防止でき安定した軸受性能が発揮できる。また、上半部に設置された軸受パッドは荷重が発生しても、潤滑水が十分に確保されているので、安定した摺動特性が得られる。回転軸が浮上すると、上半部の軸受パッドが調整ボルトの先端で支持され軸受機能が発揮される。 また、通常の運転条件では上半部の軸受パッドで発生する損失が軽減できるので、軸受装置としての低損失化に寄与できる。
【0032】
図4に本発明によるパッド型軸受装置の第二の実施例を示す。この実施例で、第一の実施例と異なるのは回転軸の外周部に二分割のスリーブ20を溶接等(溶接ビード20a)により一体リング状にして固定した点にある。ここでは、スリーブ20を溶接により回転軸に固定しているが、固定方法については特に限定するものではない。
【0033】
この実施例によれば、基本的には前述した第一の実施例と同様の作用効果を得ることができる他、回転軸摺動面が万一損傷した場合はスリーブの交換ですみ、回転軸の交換に比較して、交換費用が安価ですむので、保守費の節約が図れる。また、既設プラントにパッド型軸受装置を適用しようとした場合、既設の回転軸にスリーブのみを固定することで適用可能となるので、適用拡大に有効である。
【0034】
軸受パッドの摺動面にカーボン繊維を含有したPPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂材料を用いている。その効果を確認するため、起動・停止繰返しに対する摩擦係数の経時変化と試験前後での摩耗量の変化を実測した。
【0035】
試験は静止時接触させておき、起動後水膜で非接触状態となる起動停止を繰り返した場合のPPSの摩擦係数と耐摩耗性を検討した。
【0036】
水道水中において、軸受摺動部にPPSを用い、回転軸のスリーブにSUS403を用いた組合せにおいて、PPSの摩耗量と起動停止回数の関係を実測した。
【0037】
試験条件としては、静止時に面圧0.24MPaで接触させ、起動後周速8m/sに達してから5分保持し、その後停止、停止時間5分が経過したら、起動するパターンを繰り返した。試験回数としては、一回/日の起動・停止で10年相当分の約4000回に設定した。
【0038】
図5に起動停止繰返しに対する耐摩耗性の評価結果を示す。図5に示すように、摩擦係数は起動回数の増加に伴い僅か増大するが、2000回の試験後からはほぼ一定値で推移し、約0.3で安定していた。この結果から、起動・停止を繰り返しても摩擦係数の大きな変動も無く安定していることが確認できた。主機の起動動力から摺動面に用いる材料に対しては従来の油潤滑(ホワイトメタルを使用した場合の起動・停止摩擦係数は0.3程度)並みの起動・停止摩擦係数が要求される。この値を超えると、主機の起動機の容量アップや軸受リフターが必要となり適用できない。今回選定した軸受摺動面材料は起動・停止摩擦係数が従来並みとなり新たな起動機や軸受リフターが不要となりこの材料で対応できることが分かった。更に、軸受のオイルフリー化を考えた軸受部のみの改造で済み、低コストの環境対応に適した軸受が提供できる。また、試験前後における負荷側の軸受パッド両端部近傍での樹脂材料の金属ケースから突出高さはほとんど変化なく摩耗していないことが判った。このように、優れた耐摩耗性を示した理由としては、PPS樹脂にカーボン繊維を含有しているため、摺動面に形成された表面粗さ程度の動圧で硬度差に起因した凹凸ができ、カーボン繊維が無い場合に比較して耐荷重性の向上に繋がったものと推定できる。また、カーボン繊維はPPSとの相性が良好で脱落しにくいことも耐摩耗性向上に寄与していると考えられる。更に、カーボン繊維はグラファイトを含んでいるので低摩擦特性を示す。
【0039】
以下に横軸水車に本発明のパッド型軸受装置を搭載した場合について説明する。
【0040】
図6に示す横置水車は回転軸1と、回転軸1の右側に固定された羽根車41と、羽根車41を囲む水車ケーシング42と、回転軸1を囲むように配置したドラフトチューブ43と、回転軸1を支承するパッド型軸受装置30とを有している。水車ケーシング42からランナ41に流入する水の流量がガイドベーン44によって調整される。ガイドベーン44は水車ケーシング42上に設けられたガイドリング45と連結され、油圧サーボ(図示せず)により駆動される。また、回転軸1とドラフトチューブ43との間には流体の漏洩を防止するシール46が設けられている。パッド型軸受装置30は架台47に固定されている。
【0041】
そして、パッド型軸受装置30は、大別すると、回転軸1と、回転軸1の摺動面を囲むように摺動面側に樹脂材料を用いた3個の軸受パッドを配置し、下半部に位置する軸受パッドの摺動面を潤滑水中に浸漬し、軸受パッドの両端部の近傍位置に揚水手段と、潤滑水の蒸発による減少分を補給するための給水管50と、給水管への供給を制御する電磁弁48と、給水タンク(図示せず)と接続された配管51とを備えている。また、潤滑水量の減少を検出する水位センサー49が設けられている。水位センサー49からの水位低下の情報により電磁弁を開き給水し、水位が所定値に戻ったら電磁弁を閉じて給水を止める。また、本実施例では、パッド型軸受装置をドラフトチューブ側の一箇所に設けているが、ドラフトチューブの反対側(軸端側)にも設けて二箇所に設置しても同様の作用効果を得ることができる。
【0042】
このようなパッド型軸受装置であると、回転軸の摺動面を囲むように配置した軸受パッドの内、下半部(負荷側)に位置する軸受パッドの摺動面のみ潤滑水中に常時浸漬された状態で配置されているので、軸受パッドの摺動面の周囲が潤滑水に囲まれているので、確実に潤滑でき流体潤滑状態で作動することができる。
【0043】
一方、上半部に設置された軸受パッドは回転軸と非接触状態に設定されているため、回転軸の回転に伴う摺動発熱が無く、安定した潤滑状態で作動する。したがって、通常の運転条件では長期間に渡って安定した軸受性能が得られる。
【0044】
一方、上半部の軸受パッドは回転軸の浮上を防止するために設置されたものであり、回転軸の回転中は軸受パッドの摺動面が揚水手段により確実に潤滑された状態を維持できるので長期間の使用に対しても安定した摺動特性を得ることができる。
【0045】
したがって、長期間の使用に対しても安定した軸受性能を得ることができ、横軸水車の水潤滑のパッド型軸受装置として使用できる。また、横軸水車のオイルフリー化に対応できるので、河川汚染防止が図れ、環境に優しく、メンテナンスフリー化が達成できる。
【0046】
以上、述べたように、本発明の実施例によれば、水を潤滑剤として用い、回転軸の摺動面を囲むように摺動面側に樹脂材料を用いた複数個の軸受パッドを配置するとともに、下半部に位置する前記軸受パッドの摺動面を潤滑水中に浸漬し、前記軸受パッドの両端部の近傍位置に揚水手段を設置するように構成したので、水潤滑のパッド型軸受装置を得ることができる。
【0047】
すなわち、回転軸の摺動面を囲むように配置した軸受パッドの内、下半部(負荷側)に位置する軸受パッドの摺動面のみ常時潤滑水中に浸漬された状態で配置されているので、軸受パッドの摺動面の周囲が潤滑水に囲まれているので、確実に潤滑でき流体潤滑状態で作動することができる。一方、上半部に設置された軸受パッドは非接触状態で設置されているので安定した潤滑状態で作動することができる。また、揚水手段により起動直後から潤滑水が供給されるので、万一回転軸が浮上するようなことがあっても上半部に設置された軸受パッドの摺動面には水膜が形成でき安定した軸受性能が維持できる。また、外部給水装置を使用していないので、給水装置のポンプ等の補機が省略でき、十分な信頼性を確保できる。
【0048】
したがって、長期間の使用に対しても安定した摺動特性を得ることができ、横軸水車の水潤滑のパッド型軸受装置として搭載できる。
【0049】
前述した好ましい構成によれば、前記樹脂材料は、熱可塑性樹脂材料の中でカーボン繊維を含有するポリフェニレンサルファイド樹脂材料で構成されているので、水潤滑下で安定した摺動特性と高耐摩耗性とが得られ、長期使用に対する摺動面の形状変化が防止でき、運転初期から継続して信頼性の高い状態を維持することができる。また、ガラス転移温度が約90℃と高く、水潤滑下での使用を考えた場合、十分な耐熱性を有し過剰品質となっておらず樹脂材料の適正化と低コストが図られている。
【0050】
前述した本発明の好ましい構成によれば、前記揚水手段は回転軸に固定された外周面傾斜ディスクと該ディスクを囲むケースとで構成されているので、回転中は軸受下半部に相当する水槽部分でディスク側面の速度水頭により、外周面傾斜ディスクと該ディスクを囲むケース間に潤滑水が押し込まれ、さらに傾斜面での速度水頭差により軸受側に水が移動し、軸受パッド両端部から供給される。その結果、軸受パッド間及び軸受パッド両端部に確実に潤滑水の供給が行われる。
【0051】
本発明のパッド型軸受装置は、例えば横軸水車などのように水が関与する回転装置における回転軸の支承用として好適に用いることができるものである。このような水潤滑のパッド型軸受装置の高信頼性化やメンテナンスフリーの改善を図る本発明は、水が関与する回転装置の分野に有効なものとして利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施例におけるパッド型軸受装置の軸受パッドの配置を示す断面図。
【図2】図1のA−A線に相当する断面図。
【図3】図2のB−B線に相当する断面図。
【図4】本発明のパッド型軸受装置の他の実施例を示す断面図。
【図5】本発明の水潤滑下での起動停止繰返し時の耐摩耗性を示す説明図。
【図6】本発明のパッド型軸受装置を横軸水車に適用した状態を示す説明図。
【符号の説明】
【0053】
1 回転軸
2 軸受パッド
3 樹脂材料
4 金属ケース
5,5a 調整ボルト
6 軸受ケーシング
7a,7b 金具
8 吊りボルト
9 揚水手段
10 外周面傾斜ディスク
11 ディスクの傾斜部
12 ディスクの平行部
13 ケース
14 水槽
15 軸受パッドの両端部
16 軸受パッドの入口側
17 軸受パッドの出口側
18 ボルト
19 連通孔
20 スリーブ
30 パッド型軸受装置
41 羽根車
42 水車ケーシング
43 ドラフトチューブ
44 ガイドベーン
47 架台
48 電磁弁
49 水位センサー
50 給水管
51 配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
横置きの回転軸を支持するパッド型軸受装置において、回転軸の摺動面を囲むように摺動面側に樹脂材料を用いた複数個の軸受パッドを配置し、下半部に位置する前記軸受パッドの摺動面を潤滑水中に浸漬し、上半部に位置する前記軸受パッドを非接触状態に設置し、前記軸受パッドの両端部の近傍位置に揚水手段を設けたことを特徴とするパッド型軸受装置。
【請求項2】
横置きの回転軸を支持するパッド型軸受装置において、回転軸の外周側にスリーブを固定し、該スリーブの摺動面を囲むように摺動面側に樹脂材料を用いた複数個の軸受パッドを配置し、下半部に位置する前記軸受パッドの摺動面を潤滑水中に浸漬し、上半部に位置する前記軸受パッドを非接触状態に設置し、前記軸受パッドの両端部の近傍位置に揚水手段を設けたことを特徴とするパッド型軸受装置。
【請求項3】
請求項1,2の樹脂材料は、熱可塑性樹脂材料の中でカーボンを繊維含有するポリフェニレンサルファイド樹脂としたことを特徴とするパッド型軸受装置。
【請求項4】
請求項1,2の揚水手段は回転軸に固定された外周面傾斜ディスクと該ディスクを囲むケースとで構成したことを特徴とするパッド型軸受装置。
【請求項5】
横置きの回転軸と、この回転軸に固定された羽根車と、該羽根車の外周を囲むように配置した水車ケーシングと、回転軸を囲むように配置したドラフトチューブと、この回転軸を支承するパッド型軸受装置とを備えた横軸水車において、前記パッド型軸受装置は回転軸の摺動面を囲むように摺動面側に樹脂材料を用いた複数個の軸受パッドを配置し、下半部に位置する前記軸受パッドの摺動面を潤滑水中に浸漬し、上半部に位置する前記軸受パッドを非接触状態に設置し、前記軸受パッドの両端部の近傍位置に揚水手段を設けるように構成したことを特徴とする横軸水車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−7805(P2010−7805A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−169777(P2008−169777)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(000233044)株式会社日立エンジニアリング・アンド・サービス (276)
【Fターム(参考)】