説明

パティキュレートフィルタの故障診断装置

【課題】内燃機関の排気通路におけるパティキュレートフィルタより下流側に設けられたPMセンサを用いてパティキュレートフィルタの故障が発生したか否かを診断するパティキュレートフィルタの故障診断装置において、その診断精度を向上させることを目的とする。
【解決手段】本発明は、所定期間におけるPMセンサの出力値の変化量に基づいて算出される該所定期間中のフィルタ通過PM量の積算値と、フィルタが所定の状態であると仮定して推定されたフィルタ通過PM量の前記所定期間中の積算値と、を比較することで、フィルタの故障が発生したか否かを診断するものであって、前記所定期間中において、内燃機関から実際に排出されるPMの量と内燃機関の運転状態に応じたPM排出量の基準値との差が所定量より大きくなる条件が成立した場合、内燃機関から実際に排出されるPMの量を前記基準値側に増加又は低減させる制御を実行するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気通路に設けられたパティキュレートフィルタの故障が発生したか否かを診断するパティキュレートフィルタの故障診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の排気通路に、排気中の粒子状物質(Particulate Matter:以下、PMと称する)を捕集するパティキュレートフィルタ(以下、単にフィルタと称する)を設ける場合がある。該フィルタにおいては、排気中の一部のPMが捕集され、該捕集されたPMが徐々に堆積する。
【0003】
特許文献1には、内燃機関からのPM排出量と、フィルタより上流側に設けられた酸化触媒でのPMの酸化量とに基づいて、フィルタへのPMの流入量を算出し、さらに、フィルタ内でのPMの燃焼量を算出し、該PMの流入量とPMの燃焼量とに基づいて、フィルタにおけるPM堆積量を算出する技術が記載されている。
【0004】
特許文献2には、内燃機関から単位時間当たりに排出されるPM量とフィルタの捕集効率とを乗算して得られる値を積算することで、フィルタにおけるPM堆積量を算出する技術が記載されている。
【0005】
特許文献3には、内燃機関における燃料噴射時期の制御遅れが生じる過渡運転時に、EGR率を低下させることで、内燃機関からのPM排出量を低減する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−044457号公報
【特許文献2】特開2003−155921号公報
【特許文献3】特開平09−042016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フィルタにおいて破損や溶損等の故障が発生すると、フィルタに捕集されずに該フィルタを通過するPMの量(以下、フィルタ通過PM量と称する)が増加する。そこで、このようなフィルタの故障が発生したか否かを診断するために、フィルタより下流側の排気通路に、自身に堆積したPM量に対応する信号を出力するPMセンサを設ける場合がある。
【0008】
このようなPMセンサを設けた場合、PMセンサの出力値の変化量に基づいて算出される所定期間中のフィルタ通過PM量の積算値と、フィルタが所定の状態であると仮定した場合のフィルタ通過PM量の推定値の該所定期間中の積算値とを比較することで、フィルタの故障が発生したか否かを診断することができる。しかしながら、該故障診断を行うべくフィルタ通過PM量を積算している所定期間中に、内燃機関の運転状態の急激な変化等に起因して、内燃機関から実際に排出されるPMの量と、内燃機関の運転状態に応じたPM排出量の基準値との差が大きくなる場合がある。この場合、フィルタ通過PM量の推定精度が低下する。フィルタ通過PM量の推定精度が低下すると、フィルタの故障が発生したか否かについて誤診断する虞がある。
【0009】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであって、内燃機関の排気通路にお
けるフィルタより下流側に設けられたPMセンサを用いてフィルタの故障が発生したか否かを診断するフィルタの故障診断装置において、その診断精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、所定期間におけるPMセンサの出力値の変化量に基づいて算出される該所定期間中のフィルタ通過PM量の積算値と、フィルタが所定の状態であると仮定して推定されたフィルタ通過PM量の該所定期間中の積算値と、を比較することで、フィルタの故障が発生したか否かを診断するものであって、前記所定期間中において、内燃機関から実際に排出されるPMの量と内燃機関の運転状態に応じたPM排出量の基準値との差が所定量より大きくなる条件が成立した場合、内燃機関から実際に排出されるPMの量を前記基準値側に増加又は低減させる制御を実行するものである。
【0011】
より詳しくは、本発明に係るパティキュレートフィルタの故障診断装置は、
内燃機関の排気通路におけるパティキュレートフィルタより下流側に設けられ、自身に堆積した粒子状物質の量に対応する信号を出力するPMセンサと、
パティキュレートフィルタが所定の状態であると仮定した場合の、パティキュレートフィルタを通過する粒子状物質の量であるフィルタ通過PM量を推定するフィルタ通過PM量推定手段と、を備え、
所定期間における前記PMセンサの出力値の変化量に基づいて算出される該所定期間中のフィルタ通過PM量の積算値と、前記フィルタ通過PM量推定手段によって推定されたフィルタ通過PM量の前記所定期間中の積算値と、を比較することで、パティキュレートフィルタの故障が発生したか否かを診断するパティキュレートフィルタの故障診断装置であって、
前記所定期間中において、内燃機関から実際に排出される粒子状物質の量と内燃機関の運転状態に応じた粒子状物質の排出量の基準値との差が所定量より大きくなる所定の条件が成立した場合に、内燃機関から実際に排出される粒子状物質の量を前記基準値側に増加又は低減させる制御を実行する実PM排出量制御手段をさらに備える。
【0012】
ここで、所定期間とは、フィルタの故障診断が可能な程度にPMセンサにおけるPM堆積量が増加すると判断できる期間である。該所定期間は、実験等に基づいて予め定められている。また、所定の状態とは、フィルタの破損や溶損等の程度が故障と判断すべきある一定のレベルに達した状態であってもよく、また正常な状態であってもよい。フィルタが所定の状態であると仮定した場合のフィルタ通過PM量は、内燃機関からのPM排出量及びフィルタにおけるPM堆積量等に基づいて推定することができる(以下、該推定値を推定通過PM量と称する)。内燃機関からのPM排出量は、内燃機関の運転状態から算出することができる。つまり、推定通過PM量の算出に用いられる内燃機関からのPM排出量は、内燃機関の運転状態に応じたPM排出量の基準値である。また、フィルタにおけるPM堆積量は、内燃機関からのPM排出量及びフィルタにおけるPM酸化量等に基づいて算出することができる。
【0013】
破損又は溶損等のフィルタの故障が発生すると、実際のフィルタ通過PM量(以下、実通過PM量と称する)が増加する。そのため、所定期間におけるPMセンサの出力値の変化量に基づいて算出される該所定期間中の実通過PM量の積算値が、フィルタが正常な状態であるときよりも増加する。従って、所定期間中における、推定通過PM量の積算値と実通過PM量の積算値とを比較することで、フィルタの故障が発生したか否かを診断することができる。
【0014】
そして、本発明では、所定期間中において、内燃機関からの実際のPM排出量と内燃機関の運転状態に応じたPM排出量の基準値との差が所定量より大きくなる所定の条件が成
立した場合、実PM排出量制御手段によって、内燃機関からの実際のPM排出量を基準値側に増加又は低減させる制御が実行される。
【0015】
ここで、所定量は、フィルタの故障診断の精度を許容範囲内に維持することができる閾値であってもよい。また、内燃機関からの実際のPM排出量を増加又は減少させる制御としては、燃料噴射時期を進角又は遅角する制御、主燃料噴射の前に副燃料噴射を実行している場合は副燃料噴射量を増加又は減少させる制御、内燃機関の吸気系にEGRガスが導入されている場合はEGRガス量を増加又は減少させる制御を例示することができる。
【0016】
上記制御が実行されることで、所定期間中において、内燃機関からの実際のPM排出量と内燃機関の運転状態に応じたPM排出量の基準値との差が大きくなることを抑制することができる。そのため、推定PM通過量の推定精度を高く維持することが可能となる。従って、本発明によれば、所定期間中に内燃機関の運転状態の変化等に伴って内燃機関からのPM排出量が基準値からずれた場合であっても、フィルタの故障が発生したか否かの診断を高精度で行うことができる。
【0017】
また、所定期間中において所定の条件が成立する度にフィルタの故障診断の実行を中止していると、該故障診断の実行頻度が低下することとなる。本発明によれば、所定期間中において所定の条件が成立した場合であってもフィルタの故障診断を継続することができる。そのため、フィルタの故障診断の実行頻度の低下を抑制することができる。
【0018】
気筒内の温度又は圧力が変化すると、内燃機関からのPM排出量が変化する。また、気筒内の温度又は圧力が変化すると、内燃機関から排出される排気の温度又は圧力も変化する。そこで、本発明に係る所定の条件を、内燃機関から排出された排気の温度又は圧力の検出値と、内燃機関の運転状態に応じて定められた排気の温度又は圧力の基準値との差が、所定量より大きいこととしてもよい。
【0019】
また、EGR装置によって内燃機関の吸気系にEGRガスが導入されている場合、EGRガス量が変化すると、内燃機関からのPM排出量が変化する。そこで、本発明に係る所定の条件を、実際のEGRガス量の推定値と、内燃機関の運転状態に応じて定められたEGRガス量の基準値との差が、所定量より大きいこととしてもよい。
【0020】
EGRガス量が変化すると、EGRガスが導入された吸気の温度、即ち内燃機関に供給される吸気の温度も変化する。そこで、本発明に係る所定の条件を、内燃機関に供給される吸気の温度の検出値と、内燃機関の運転状態に応じて定められた、内燃機関に供給される吸気の温度の基準値との差が、所定量より大きいこととしてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、内燃機関の排気通路におけるフィルタより下流側に設けられPMセンサを用いてフィルタの故障が発生したか否かを診断するパティキュレートフィルタの故障診断装置において、その診断精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例に係る内燃機関の吸排気系の概略構成を示す図である。
【図2】実施例に係るPMセンサの概略構成を示す図である。
【図3】PMセンサにおけるPM堆積量、PMセンサの電極間の電気抵抗及びPMセンサの出力値の関係を示すグラフである。
【図4】実施例に係るフィルタの故障診断のフローを示すフローチャートである。
【図5】実施例に係る第1の実PM排出量制御のフローを示すフローチャートである。
【図6】実施例に係る第2の実PM排出量制御のフローを示すフローチャートである。
【図7】実施例に係る第3の実PM排出量制御のフローを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の具体的な実施形態について図面に基づいて説明する。本実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置等は、特に記載がない限りは発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0024】
<実施例>
ここでは、本発明を車両駆動用のディーゼルエンジンの排気通路に設けられたフィルタの故障診断に適用した場合を例に挙げて説明する。ただし、本発明に係る内燃機関はディーゼルエンジンに限られるものではなく、例えば、ガソリンエンジン等であってもよい。
【0025】
[内燃機関の吸排気系の概略構成]
図1は、本実施例に係る内燃機関の吸排気系の概略構成を示す図である。内燃機関1は車両駆動用のディーゼルエンジンである。内燃機関1には、吸気通路2および排気通路3が接続されている。
【0026】
吸気通路2にはエアフローメータ4及びスロットル弁5が設けられている。エアフローメータ4は内燃機関1の吸入空気量を検出する。スロットル弁5は、吸気通路2における流路断面積を変更することで、内燃機関1に供給される吸入空気の流量を調節する。
【0027】
排気通路3には、酸化触媒6が設けられている。酸化触媒6より下流側の排気通路3には、排気中のPMを捕集するフィルタ7が設けられている。尚、酸化触媒6に代えて、他の酸化機能を有する触媒(例えば、吸蔵還元型NOx触媒、選択還元型NOx触媒等)を設けてもよい。また、フィルタ7には酸化機能を有する触媒が担持されていてもよい。酸化触媒6より上流側の排気通路3には、排気中に燃料を添加する燃料添加弁8が設けられている。
【0028】
また、排気通路3における燃料添加弁8より上流側にはEGR通路17の一端が接続されており、吸気通路2におけるスロットル弁5より下流側にはEGR通路17の他端が接続されている。内燃機関1から排出された排気の一部がEGRガスとして該EGR通路17を通って吸気通路2に導入される。吸気通路2に導入されたEGRガスは吸入空気と共に内燃機関1に供給される。
【0029】
EGR通路17にはEGR弁18が設けられている。EGR弁18は、EGR通路17における流路断面積を変更することで、吸気通路2に導入されるEGRガスの流量、即ち内燃機関1に供給されるEGRガス量を調節する。
【0030】
吸気通路2におけるEGR通路17の接続部分より下流側には、吸気温度センサ19及び空燃比センサ12が設けられている。吸気温度センサ19は、内燃機関1に供給される吸気の温度を検出する。空燃比センサ12は、内燃機関1に供給される吸気の空燃比を検出する。
【0031】
排気通路3におけるEGR通路17の接続部分より下流側且つ燃料添加弁8より上流側には、第1排気温度センサ13及び排気圧力センサ14が設けられている。第1排気温度センサ13は、内燃機関1から排出される排気の温度を検出する。排気圧力センサ14は、内燃機関1から排出される排気の圧力を検出する。
【0032】
酸化触媒6とフィルタ7との間の排気通路3には、第2排気温度センサ15が設けられている。フィルタ7より下流側の排気通路3には、PMセンサ16が設けられている。第2排気温度センサ15は、フィルタ7に流入する排気の温度を検出する。PMセンサ16の詳細については後述する。
【0033】
また、内燃機関1には、該内燃機関1を制御するための電子制御ユニット(ECU)10が併設されている。ECU10には、エアフローメータ4、吸気温度センサ19、空燃比センサ12、第1排気温度センサ13、排気圧力センサ14、第2排気温度センサ15、及びPMセンサ16が電気的に接続されている。さらに、ECU10には、内燃機関1のクランクポジションセンサ11が電気的に接続されている。そして、これらの出力信号がECU10に入力される。ECU10は、クランクポジションセンサ11の出力信号に基づいて内燃機関1の機関回転速度を導出する。
【0034】
ECU10には、スロットル弁5、燃料添加弁8、EGR弁18、及び内燃機関1の燃料噴射弁(図示略)が電気的に接続されている。ECU10によって、これらの装置の動作が制御される。
【0035】
例えば、ECU10は、フィルタ7に堆積したPMを除去するために、燃料添加弁8から燃料を添加することでフィルタ再生処理を実行する。燃料添加弁8から添加された燃料は、酸化触媒6に供給される。そして、酸化触媒6において該燃料が酸化されることで、フィルタ7に流入する排気の温度が上昇する。その結果、フィルタ7が昇温し、該フィルタ7に堆積したPMが酸化され、除去される。フィルタ7に酸化機能を有する触媒が担持されている場合は、該触媒においても燃料が酸化されるため、フィルタ再生処理の実行時にフィルタ7がより昇温し易くなる。そのため、PMの酸化が促進され易くなる。
【0036】
[PMセンサ]
PMセンサ16は、自身に堆積したPM量に対応する電気信号を出力するセンサである。図2は、PMセンサ16のセンサ素子の概略構成を示す図である。図3は、PMセンサ16におけるPM堆積量と、PMセンサ16の電極16a,16b間の電気抵抗及びPMセンサ16の出力値との関係を示すグラフである。図3において、横軸はPMセンサ16におけるPM堆積量を表しており、下段縦軸はPMセンサ16の電極16a,16b間の電気抵抗を表しており、上段縦軸はPMセンサ16の出力値を表している。
【0037】
図2に示すように、PMセンサ16のセンサ素子は、一対の櫛歯型電極16a,16bを有している。PMセンサ16には、排気中のPMが付着し、該付着したPMが徐々に堆積する。PMセンサ16におけるPM堆積量が増加するにつれて、電極16a,16b間に存在するPMの量が増加する。
【0038】
そのため、図3に示すように、PMセンサ16におけるPM堆積量が多いほど、電極16a,16b間の電気抵抗が低くなる。そして、電極16a,16b間の電気抵抗が低下するほど、PMセンサ16の出力値が増加する。従って、該PMセンサ16の出力値は、PMセンサ16におけるPM堆積量に対応した値となる。
【0039】
また、PMセンサ16は、フィルタ7の下流側に設けられている。そのため、PMセンサ16には、フィルタ7に捕集されずに、該フィルタ7を通過したPMが捕集される。従って、該PMセンサ16におけるPM堆積量は、実際のフィルタ通過PM量(実通過PM量)の積算値に対応した量となる。
【0040】
尚、電極16a,16b間に存在するPMの量が変化すれば、該電極6a,6b間を流
れる電流等の電気抵抗以外の電気的特性値も変化する。そのため、PMセンサ16は、電気抵抗以外の電気的特性値に基づいて、自身に堆積したPM量に対応した信号をするものであってもよい。
【0041】
[フィルタの故障診断]
上述したように、本実施例では、フィルタ7に堆積したPMを除去すべくフィルタ再生処理が実行される。フィルタ再生処理では、フィルタ7の温度がPMの酸化が可能な温度まで上昇するため、破損や溶損等のフィルタ7の故障が発生する可能性がある。このようなフィルタ7の故障が発生すると、フィルタ通過PM量が増加する。その結果、外部に放出されるPMが増加するという問題が生じる。
【0042】
そこで、本実施例では、ECU10によって、フィルタ7の故障診断が行われる。該フィルタの故障診断は、PMセンサ16の出力値に基づいて算出される所定期間中の実通過PM量の積算値と、フィルタ7が所定の状態であると仮定した場合における推定通過PM量の該所定期間中の積算値とを比較することで行われる。
【0043】
ここで、本実施例に係るフィルタの故障診断の詳細について、図4に示すフローチャートに基づいて説明する。図4は、本実施例に係るフィルタの故障診断のフローを示すフローチャートである。本フローは、ECU10に予め記憶されており、ECU10によって繰り返し実行される。
【0044】
本フローでは、先ず、ステップS101において、フィルタ7の故障診断の実行条件が成立したか否かが判別される。ここでの故障診断の実行条件は、例えば、フィルタ再生処理の実行完了後、フィルタ7におけるPM堆積量の推定値が所定の堆積量に達したことであってもよい。この場合、所定の堆積量は、フィルタ7の故障診断が可能となったと判断できる閾値として、実験等に基づいて予め定められる値である。フィルタ7におけるPM堆積量は、内燃機関1からのPM排出量及びフィルタ7におけるPM酸化量(フィルタ7に一旦捕集された後、酸化されるPMの量)等に基づいて算出することができる。内燃機関1からのPM排出量は、内燃機関1の運転状態(本実施例では、内燃機関1の機関回転数と、内燃機関1における燃料噴射量)に基づいて算出することができる。フィルタ7におけるPM酸化量は、フィルタ7に流入する排気の流量及び温度等に基づいて算出することができる。また、フィルタ再生処理の実行完了後における、経過時間、車両の走行距離、又は、内燃機関1における燃料噴射量の積算値が所定値に達した場合に、故障診断の実行条件が成立したと判定してもよい。
【0045】
ステップS101において否定判定された場合は、本フローの実行が一旦終了される。一方、ステップS101において肯定判定された場合、次に、ステップS102において、フィルタ7が所定の状態であると仮定した場合における推定通過PM量Qpmouteを算出する。
【0046】
ここで、所定の状態とは、フィルタ7の破損や溶損等の程度が故障と判断すべきある一定のレベルに達した状態である。つまり、フィルタ7の状態が該所定の状態である場合は、フィルタ7が正常な状態であるときよりもフィルタ通過PM量がある一定の程度多くなると想定される。そして、フィルタ7の状態が所定の状態であると特定すれば、推定通過PM量Qpmouteは、内燃機関1からのPM排出量及びフィルタ7におけるPM堆積量に基づいて算出することができる。
【0047】
上述したように、内燃機関1からのPM排出量は、内燃機関1の運転状態に基づいて算出することができる。つまり、推定通過PM量Qpmouteの算出に用いられる内燃機関1からのPM排出量は、内燃機関1の運転状態に応じたPM排出量の基準値である。内
燃機関1の運転状態と該PM排出量との関係は、実験等に基づいて予め求められており、マップ又は関数としてECU10に記憶されている。ECU10は、該マップ又は関数を用いて内燃機関1からのPM排出量を算出する。
【0048】
内燃機関1からのPM排出量が多いほど、推定通過PM量Qpmouteは多くなる。また、フィルタ7におけるPM堆積量が多いほど、フィルタ7のPM捕集率(フィルタ7に流入するPM量に対するフィルタ7に捕集されるPM量の割合)が高くなる。そのため、フィルタ7におけるPM堆積量が多いほど、推定通過PM量Qpmouteは少なくなる。フィルタ7の状態が該所定の状態である場合の推定通過PM量Qpmouteと、内燃機関1からのPM排出量及びフィルタ7におけるPM堆積量との関係は、実験等に基づいて予め求められており、ECU10にマップ又は関数として記憶されている。ステップS102では、該マップ又は関数を用いて推定通過PM量Qpmouteが算出される。尚、本実施例においては、該ステップS102の処理を実行するECU10が、本発明に係るフィルタ通過PM量推定手段に相当する。
【0049】
次に、ステップS103において、ステップS102で算出された推定通過PM量Qpmouteが積算されることで、推定通過PM量の積算値ΣQpmouteが算出される。次に、ステップS104において、フィルタ7の故障診断の実行条件が成立してから所定期間Δtaが経過したか否かが判別される。ここでの所定期間Δtaとは、フィルタ7の故障診断が可能な程度にPMセンサ16におけるPM堆積量が増加すると判断できる期間であって、実験等に基づいて予め定められた一定の期間である。
【0050】
ステップS104において否定判定された場合、ステップS102及びS103の処理が繰り返される。つまり、フィルタ7の故障診断の実行条件が成立してから所定期間Δtaが経過するまでの間、推定通過PM量Qpmouteが積算される。そして、ステップS104おいて肯定判定された場合、次に、ステップS105において、所定期間Δta中におけるPMセンサ16の出力値の変化量に基づいて、該所定期間Δtaの実通過PM量の積算値ΣQpmoutrが算出される。
【0051】
尚、PMセンサ16に該PMセンサ16を加熱する電気ヒータを設け、フィルタ7の故障診断の実行条件が成立した時点で、該電気ヒータによってPMセンサ16を加熱することで該PMセンサ16に堆積したPMを酸化させ、それによって、PMセンサ16におけるPM堆積量が一旦略零となるようにしてもよい。この場合、所定期間Δtaが経過した時点におけるPMセンサ16の出力値に基づいて、該所定期間Δta中の実通過PM量の積算値ΣQpmoutrを算出することが可能となる。
【0052】
次に、ステップS106において、所定期間Δta中の実通過PM量の積算値ΣQpmoutrが、所定期間Δta中の推定通過PM量の積算値ΣQpmoute以上であるか否かが判別される。所定期間Δta中の実通過PM量の積算値ΣQpmoutrが、所定期間Δta中の推定通過PM量の積算値ΣQpmoute以上である場合、フィルタ7が所定の状態であると仮定した場合の推定通過PM量以上のPMがフィルタ7を通過していると判断できる。つまり、この場合、フィルタ7の故障のレベルが所定の状態における故障のレベル以上であると判断できる。
【0053】
そこで、ステップS106において肯定判定された場合、次に、ステップS107において、フィルタ7の故障が発生したと判定される。一方、ステップS106において否定判定された場合、次に、ステップS108において、フィルタ7は正常な状態であると判定される。
【0054】
尚、上記のようなフィルタの故障診断においては、フィルタ7が正常な状態であると仮
定して推定通過PM量Qpmouteを算出してもよい。即ち、「所定の状態」を正常な状態としてもよい。この場合、所定期間Δta中の実通過PM量の積算値と、所定期間Δta中の推定通過PM量の積算値との差が、フィルタ7が故障していると判断できる閾値以上のときに、フィルタ7が故障していると判定する。
【0055】
[実PM排出量制御]
上述したように、本実施例に係るフィルタの故障診断を行う際には、フィルタ7の故障診断の実行条件が成立してから所定期間Δtaが経過するまでの間における、推定通過PM量Qpmoute及び実通過PM量Qpmoutrの積算値を算出し、それらの積算値を比較する必要がある。しかしながら、所定期間Δta中に、定常運転から過渡運転となったときのような内燃機関1の運転状態の急激な変化等に起因して、内燃機関1からの実際のPM排出量(以下、実PM排出量と称する)と、内燃機関1の運転状態に応じたPM排出量の基準値(以下、基準PM排出量と称する)との差が大きくなる場合がある。
【0056】
上述したように、推定通過PM量Qpmouteは基準PM排出量に基づいて算出される。そのため、実PM排出量と基準PM排出量との差が大きくなると、推定通過PM量Qpmouteの推定精度が低下する。そして、推定通過PM量Qpmouteの推定精度が低下すると、該推定通過PM量の積算値に基づいて行われるフィルタ7の故障診断において、誤診断が生じる虞がある。
【0057】
また、このような誤診断を抑制すべく、所定期間Δta中において、実PM排出量と基準PM排出量との差が、フィルタ7の故障診断の精度を許容範囲内に維持することができる閾値より大きくなると判断できる条件が成立した場合は、フィルタ7の故障診断を中止するようにすると、該故障診断の実行頻度が低下するという問題が生じる。
【0058】
そこで、本実施例では、所定期間Δta中において、上記のような条件が成立した場合、実PM排出量を基準PM排出量側に増加又は低減させる制御である実PM排出量制御を実行する。該実PM排出量制御を実行することで、実PM排出量と基準PM排出量との差を小さくすることができる。そのため、推定PM通過量の推定精度を高く維持することが可能となる。その結果、所定期間Δta中に、上記のような条件が成立した場合であっても、フィルタ7の故障が発生したか否かの診断を高精度で行うことが可能となる。また、所定期間Δta中に、上記のような条件が成立した場合であっても、フィルタ7の故障診断を継続することができるため、該故障診断の実行頻度の低下を抑制することができる。
【0059】
ここで、本実施例に係る具体的な実PM排出量制御について図5から7に基づいて説明する。図5は、本実施例に係る第1の実PM排出量制御のフローを示すフローチャートである。本フローは、ECU10に予め記憶されており、ECU10によって繰り返し実行される。
【0060】
内燃機関1における気筒内の温度又は圧力が変化すると、実PM排出量が変化する。即ち、気筒内の温度又は圧力が高くなると、着火遅れ期間が短縮されるため、実PM排出量が増加する。逆に、気筒内の温度又は圧力が低くなると、着火遅れ期間が延長されるため、実PM排出量が減少する。
【0061】
また、内燃機関1における気筒内の温度又は圧力が変化すると、該内燃機関1から排出される排気の温度又は圧力も変化する。そこで、第1の実PM排出量制御のフローでは、内燃機関1から排出される排気の温度又は圧力の検出値と、内燃機関1の運転状態に応じて定められた排気の温度又は圧力の基準値(即ち、内燃機関1の運転状態が安定した定常運転であるときの排気の温度又は圧力)との差が、所定量より大きい場合に、実PM排出量と基準PM排出量との差が、フィルタ7の故障診断の精度を許容範囲内に維持すること
ができる閾値より大きくなる条件が成立したと判断する。
【0062】
第1の実PM排出量制御のフローでは、先ず、ステップS201において、上述したフィルタの故障診断のフローにおける所定期間Δtaの経過中であるか否かが判別される。即ち、フィルタ7の故障診断を行うべく推定通過PM量Qpmouteを積算している最中であるか否かが判別される。ステップS201において否定判定された場合、本フローの実行は一旦終了される。
【0063】
一方、ステップS201において肯定判定された場合、次にステップS202において、内燃機関1の運転状態に基づいて排気の温度の基準値Toutgbaseが算出される。次に、ステップS203において、内燃機関1の運転状態に基づいて排気の圧力の基準値Poutgbaseが算出される。内燃機関1の運転状態と排気の温度又は圧力の基準値Toutgbase,Poutgbaseとの関係は、実験等に基づいて予め求められており、マップ又は関数としてECU10に記憶されている。ステップS202及びS203においては、該マップ又は関数を用いて、排気の温度又は圧力の基準値Toutgbase,Poutgbaseが算出される。
【0064】
次に、ステップS204において、第1排気温度センサ13によって検出される実際の排気の温度Toutgと、ステップS202で算出された排気の温度の基準値Toutgbaseとの差ΔToutgが算出される。次に、ステップS205において、排気圧力センサ14によって検出される実際の排気の圧力Poutgと、ステップS203で算出された排気の圧力の基準値Poutgbaseとの差ΔPoutgが算出される。
【0065】
次に、ステップS206において、ステップS204で算出された排気の温度の差ΔToutgが所定量ΔToutg0より大きい、又は、ステップS205で算出された排気の圧力の差ΔPoutgが所定量ΔPoutg0より大きいか否かが判別される。尚、各所定量ΔToutg0,ΔPoutg0は実験等に基づいて予め定められている。
【0066】
ステップS206において肯定判定された場合、次に、ステップS207において、実際の排気の温度Toutgが排気の温度の基準値Toutgbaseよりも高い、又は、実際の排気の圧力Poutgが排気の圧力の基準値Poutgbaseより高いか否かが判別される。
【0067】
ステップS207において肯定判定された場合、実PM排出量が基準PM排出量より多い状態であると判断できる。この場合、次に、ステップS208において、実PM排出量を低減させる実PM排出量制御として、内燃機関1における燃料噴射時期を、その運転状態に応じて定められた基準時期(圧縮行程上死点以降の時期であり且つ圧縮行程上死点近傍の時期)よりも遅角させる制御が実行される。燃料噴射時期を基準時期より遅角させると、燃料噴射時期が圧縮行程上死点に対してより遅い時期となるため、着火遅れ期間が延長される。その結果、実PM排出量が減少する。
【0068】
一方、ステップS207において否定判定された場合、即ち、実際の排気の温度Toutgが排気の温度の基準値Toutgbaseよりも低いか、又は、実際の排気の圧力Poutgが排気の圧力の基準値Poutgbaseより低い場合、実PM排出量が基準PM排出量より少ない状態であると判断できる。この場合、次に、ステップS209において、実PM排出量を増加させる実PM排出量制御として、内燃機関1における燃料噴射時期を、その運転状態に応じて定められた基準時期よりも進角させる制御が実行される。燃料噴射時期を基準時期より進角させると、燃料噴射時期が圧縮行程上死点に近づくため、着火遅れ期間が短縮される。その結果、実PM排出量が増加する。
【0069】
ここで、実PM排出量制御として燃料噴射時期を遅角又は進角させる場合、基準時期よりも予め定められた一定量遅角又は進角させるようにしてもよい。また、ステップS204で算出された排気の温度の差ΔToutgと所定量ΔToutg0との差、又は、ステップS205で算出された排気の圧力の差ΔPoutgと所定量ΔPoutg0との差に応じて、燃料噴射時期の遅角量又は進角量を決定してもよい。この場合、いずれかの差が大きいほど、燃料噴射時期の遅角量又は進角量を大きくする。
【0070】
ステップS206において否定判定された場合、次に、ステップS210において、内燃機関1における燃料噴射時期を、その運転状態に応じて定められた基準時期に制御する。
【0071】
尚、内燃機関1において、圧縮行程上死点近傍で行われる主燃料噴射の前に副燃料噴射が行われている場合、上記フローのステップS208又はS209において行われる実PM排出量制御として、副燃料噴射量を減少又は増加させる制御を実行してもよい。副燃料噴射量を減少させることによっても、主燃料噴射によって噴射される燃料の着火遅れ期間を延長させることができる。また、副燃料噴射量を増加させることによっても、主燃料噴射によって噴射される燃料の着火遅れ期間を短縮させることができる。そのため、副燃料噴射量を減少又は増加させることで、実PM排出量を低減又は増加させることができる。また、実PM排出量制御として、燃料噴射時期を遅角又は進角させる制御と副燃料噴射量を減少又は増加させる制御との両方を実行してもよい。
【0072】
図6は、本実施例に係る第2の実PM排出量制御のフローを示すフローチャートである。本フローは、ECU10に予め記憶されており、ECU10によって繰り返し実行される。
【0073】
内燃機関1に供給されるEGRガス量が変化すると、実PM排出量が変化する。即ち、内燃機関1に供給されるEGRガス量が増加すると、気筒内における燃焼温度が低下するため、実PM排出量が増加する。逆に、内燃機関1に供給されるEGRガス量が減少すると、気筒内における燃焼温度が上昇するため、実PM排出量が減少する。
【0074】
そこで、第2の実PM排出量制御のフローでは、内燃機関1に実際に供給されるEGRガス量の推定値と、内燃機関1の運転状態に応じて定められたEGRガス量の基準値(即ち、内燃機関1の運転状態が安定した定常運転であるときのEGRガス量)との差が、所定量より大きい場合に、実PM排出量と基準PM排出量との差が、フィルタ7の故障診断の精度を許容範囲内に維持することができる閾値より大きくなる条件が成立したと判断する。
【0075】
第2の実PM排出量制御のフローでは、先ず、ステップS301において、第1の実PM排出量制御のフローにおけるステップS201と同様、上述したフィルタの故障診断のフローにおける所定期間Δtaの経過中であるか否かが判別される。ステップS301において否定判定された場合、本フローの実行は一旦終了される。
【0076】
一方、ステップS301において肯定判定された場合、次にステップS302において、内燃機関1の運転状態に基づいてEGRガス量の基準値Regrbaseが算出される。内燃機関1の運転状態とEGRガス量の基準値Regrbaseとの関係は、実験等に基づいて予め求められており、マップ又は関数としてECU10に記憶されている。ステップS302においては、該マップ又は関数を用いて、EGRガス量の基準値Regrbaseが算出される。
【0077】
次に、ステップS303において、エアフローメータ4によって検出される吸入空気量
と、空燃比センサ12によって検出される吸気の空燃比とに基づいて、実際のEGRガス量の推定値Regrが算出される。次に、ステップS304において、ステップS302で算出されたEGRガス量の基準値RegrbaseとステップS303で算出された実際のEGRガス量の推定値Regrとの差ΔRegrが算出される。
【0078】
次に、ステップS305において、ステップS304で算出されたEGRガス量の差ΔRegrが所定量ΔRegr0より大きいか否かが判別される。尚、該所定量ΔRegr0は実験等に基づいて予め定められている。
【0079】
ステップS305において肯定判定された場合、次に、ステップS306において、実際のEGRガス量の推定値RegrがEGRガス量の基準量Regrbaseよりも多いか否かが判別される。
【0080】
ステップS306において肯定判定された場合、実PM排出量が基準PM排出量より多い状態であると判断できる。この場合、次に、ステップS307において、実PM排出量を低減させる実PM排出量制御として、目標EGR率(吸気の全体量に対するEGRガス量の割合であるEGR率の目標値)を、その運転状態に応じて定められた基準目標値よりも低減させる制御が実行される。目標EGR率を基準目標値より低減させると、内燃機関1に実際に供給されるEGRガス量が減少するため、気筒内における燃焼温度が上昇する。その結果、実PM排出量が減少する。
【0081】
一方、ステップS306において否定判定された場合、即ち、実際のEGRガス量の推定値RegrがEGRガス量の基準量Regrbaseよりも少ない場合、実PM排出量が基準PM排出量より少ない状態であると判断できる。この場合、次に、ステップS308において、実PM排出量を増加させる実PM排出量制御として、目標EGR率を、その運転状態に応じて定められた基準目標値よりも増加させる制御が実行される。目標EGR率を基準目標値より増加させると、内燃機関1に実際に供給されるEGRガス量が増加するため、気筒内における燃焼温度が低下する。その結果、実PM排出量が増加する。
【0082】
ここで、実PM排出量制御として目標EGR率を低減又は増加させる場合、基準目標値よりも予め定められた一定量低減又は増加させるようにしてもよい。また、ステップS304で算出されたEGRガス量の差ΔRegrと所定量ΔRegr0との差に応じて、目標EGR率の低減量又は増加量を決定してもよい。この場合、これらの差が大きいほど、目標EGR率の低減量又は増加量を大きくする。
【0083】
ステップS305において否定判定された場合、次に、ステップS309において、目標EGR率を、その運転状態に応じて定められた基準目標値に設定する。
【0084】
図7は、本実施例に係る第3の実PM排出量制御のフローを示すフローチャートである。本フローは、ECU10に予め記憶されており、ECU10によって繰り返し実行される。尚、本フローにおいて、図6に示す第2の実PM排出量制御のフローにおける各ステップと同一の処理が実行されるステップについては、同一の参照番号を付し、その説明を省略する。
【0085】
EGRガス量が変化すると、EGRガスが導入された吸気の温度、即ち内燃機関1に供給される吸気の温度も変化する。つまり、EGRガス量が増加すると、内燃機関1に供給される吸気の温度が上昇する。逆に、EGRガス量が減少すると、内燃機関1に供給される吸気の温度が低下する。
【0086】
そこで、第3の実PM排出量制御のフローでは、内燃機関1に供給される吸気の温度の
検出値と、内燃機関1の運転状態に応じて定められた、内燃機関1に供給される吸気の温度の基準値(即ち、EGRガス量が基準値であるときの吸気の温度)との差が、所定量より大きい場合に、実PM排出量と基準PM排出量との差が、フィルタ7の故障診断の精度を許容範囲内に維持することができる閾値より大きくなる条件が成立したと判断する。
【0087】
第3の実PM排出量制御のフローでは、ステップS301において肯定判定された場合、次にステップS402の処理が実行される。ステップS402において、内燃機関1の運転状態に基づいて、内燃機関1に供給される吸気の温度の基準値Tinbaseが算出される。内燃機関1の運転状態と吸気の温度の基準値Tinbaseとの関係は、実験等に基づいて予め求められており、マップ又は関数としてECU10に記憶されている。ステップS402においては、該マップ又は関数を用いて、吸気の温度の基準値Tinbaseが算出される。
【0088】
次に、ステップS403において、吸気温度センサ19によって検出される実際の吸気の温度Tingと、ステップS402で算出された吸気の温度の基準値Tingbaseとの差ΔTingが算出される。
【0089】
次に、ステップS404において、ステップS403で算出された吸気の温度の差ΔTingが所定量ΔTing0より大きいか否かが判別される。尚、該所定量ΔTing0は実験等に基づいて予め定められている。
【0090】
ステップS404において肯定判定された場合、次に、ステップS405において、実際の吸気の温度Tingが吸気の温度の基準量Tingbaseよりも高いか否かが判別される。
【0091】
ステップS405において肯定判定された場合、実際のEGRガス量がEGRガス量の基準量Regrbaseよりも多く、そのために、実PM排出量が基準PM排出量より多い状態であると判断できる。この場合、次に、ステップS307の処理が実行される。一方、ステップS405において否定判定された場合、実際のEGRガス量がEGRガス量の基準量Regrbaseよりも少なく、そのために、実PM排出量が基準PM排出量より少ない状態であると判断できる。この場合、次に、ステップS308の処理が実行される。
【0092】
ステップS404において否定判定された場合、次に、ステップS309の処理が実行される。
【0093】
上記のような第1、第2、又は第3の実PM排出量制御のフローを実行することで、フィルタ7の故障診断を行うべく推定通過PM量を積算している最中(所定期間Δtaの経過中)における推定通過PM量の推定精度を高く維持することができる。
【0094】
尚、本実施例においては、第1の実PM排出量制御のフローにおけるステップS208若しくはS209を実行するECU10、又は、第2若しくは第3の実PM排出量制御のフローにおけるけるステップS307若しくはS308を実行するECU10が、本発明に係る実PM排出量制御手段に相当する。
【符号の説明】
【0095】
1・・・内燃機関
2・・・吸気通路
3・・・排気通路
6・・・酸化触媒
7・・・パティキュレートフィルタ(フィルタ)
10・・ECU
11・・クランクポジションセンサ
12・・空燃比センサ
13・・第1排気温度センサ
14・・排気圧力センサ
15・・第2排気温度センサ
16・・PMセンサ
17・・EGR通路
18・・EGR弁
19・・吸気温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路におけるパティキュレートフィルタより下流側に設けられ、自身に堆積した粒子状物質の量に対応する信号を出力するPMセンサと、
パティキュレートフィルタが所定の状態であると仮定した場合の、パティキュレートフィルタを通過する粒子状物質の量であるフィルタ通過PM量を推定するフィルタ通過PM量推定手段と、を備え、
所定期間における前記PMセンサの出力値の変化量に基づいて算出される該所定期間中のフィルタ通過PM量の積算値と、前記フィルタ通過PM量推定手段によって推定されたフィルタ通過PM量の前記所定期間中の積算値と、を比較することで、パティキュレートフィルタの故障が発生したか否かを診断するパティキュレートフィルタの故障診断装置であって、
前記所定期間中において、内燃機関から実際に排出される粒子状物質の量と内燃機関の運転状態に応じた粒子状物質の排出量の基準値との差が所定量より大きくなる所定の条件が成立した場合に、内燃機関から実際に排出される粒子状物質の量を前記基準値側に増加又は低減させる制御を実行する実PM排出量制御手段をさらに備えるパティキュレートフィルタの故障診断装置。
【請求項2】
前記所定の条件が、内燃機関から排出された排気の温度又は圧力の検出値と、内燃機関の運転状態に応じて定められた排気の温度又は圧力の基準値との差が、所定量より大きいことである請求項1に記載のパティキュレートフィルタの故障診断装置。
【請求項3】
内燃機関の排気の一部をEGRガスとして吸気系に導入するEGR装置をさらに備え、
前記所定の条件が、実際のEGRガス量の推定値と、内燃機関の運転状態に応じて定められたEGRガス量の基準値との差が、所定量より大きいことである請求項1に記載のパティキュレートフィルタの故障診断装置。
【請求項4】
内燃機関の排気の一部をEGRガスとして吸気系に導入するEGR装置をさらに備え、
前記所定の条件が、内燃機関に供給される吸気の温度の検出値と、内燃機関の運転状態に応じて定められた、内燃機関に供給される吸気の温度の基準値との差が、所定量より大きいことである請求項1に記載のパティキュレートフィルタの故障診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−19389(P2013−19389A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155132(P2011−155132)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】