パネル折り曲げ装置
【課題】ワーク曲げ径の違いによって金型を補填するごとにラム押圧力の不足を自動調整して補助できるようにすることで、高精度で信頼性の高いパネル折り曲げ装置を提供する。
【解決手段】駆動源20の動力を倍力機構7,8,9で倍加してラム2の上下動ストロークによる押圧力に変換し、ラムに保持されて一体に上下動する上型3を含む金型によってパネルを所要の形状に曲げ加工するパネル折り曲げ装置であって、上型を厚さの増大したものに変更することで厚さ増大分10だけ短くなるラムのストロークを、ストローク調整装置30によって最大の押圧力を発生する長さに補正する。
【解決手段】駆動源20の動力を倍力機構7,8,9で倍加してラム2の上下動ストロークによる押圧力に変換し、ラムに保持されて一体に上下動する上型3を含む金型によってパネルを所要の形状に曲げ加工するパネル折り曲げ装置であって、上型を厚さの増大したものに変更することで厚さ増大分10だけ短くなるラムのストロークを、ストローク調整装置30によって最大の押圧力を発生する長さに補正する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に鍛圧機械と呼ばれ、鉄鋼板など金属製のパネルを加工素材として曲げ加工するプレスブレーキやパネルベンダー等のパネル折り曲げ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属製パネルをワークに折り曲げ加工して製品のケースやハウジングなど筺体物を製造するにあたり、図9はその製造工程における通称「シゴキ曲げ」による板金加工例を概略的に示す。また、図10は、シゴキ曲げによるフランジ曲げ加工を行うパネルベンダーの構造例を概略的に示す。ベンダー本体の全体骨格を形成するフレーム1にラム2が左右方向のほぼ横幅一杯の長さで設けられ、ラム両端は上下方向にスライドして昇降動が可能にフレーム側板に支持されている。また、ラム2の下端に沿ってほぼ同等の長さを有する上型3がボルト結合などして保持され、ラム2に伴って一体に上下動する。また、フレーム1の下方でベースとなる部分の上面には下型4が固定して設けられ、この下型4は上型3に対をなして同等な長さを有している。機体に搬入してセットされたワーク5は上型3と下型4による金型一対間に挟み込まれ、図9中矢印Pで示す押圧力でクランプされる。
【0003】
また、図9に示すように、フレーム1の背面側にはシゴキ曲げ型6a,6bが上下の位置に対向してホルダに保持されている。図示例の場合、下方のシゴキ曲げ型6aを上昇動させ、クランプ状態のワーク5の耳端部5aに当接させてシゴキ上げて所要の角度にフランジ曲げ加工する。
【0004】
上型3によってワーク5をクランプする押圧力Pはラム2の下降動に伴って付与される。ラム上下動の動力にはこれまで一般的に油圧が使用されてきたが、近年、本出願人を含む鍛圧業界においては、油圧駆動方式に代えてACサーボモータを用いたサーボ駆動方式の開発が主流となってきている。図10に示すパネルベンダーの場合、そうしたACサーボモータの回転出力をトグルリンク機構などの倍力装置に伝達し、倍力装置で倍加した押圧力Pをラム2に伝え、そのラム2に保持された上型3によって下型4と協働してワーク5をクランプする。
【0005】
トグルリンク機構は、フレーム1の左右横幅方向の両側にそれぞれ2つのリンク部材7,8からなる組み合わせの一対が配置されている。リンク部材7,8はそれらの一端部が長尺のロッド9との三体一緒にヒンジピン10でそれぞれの動きが可能に連結されている。下方のリンク部材7の他端部はラム2にヒンジピン12で回動可能に軸支され、上方のリンク部材8の他端部は上部のフレーム1にヒンジピン11で回動可能に軸支されている。すなわち、ヒンジピン11はトグルリンク機構として力を倍加するための支点となり、ヒンジピン12はラム2を上型3と一体に押し下げて押圧力Pをワーク5に付与する力点となる。
【0006】
ロッド9は図10中の矢印Fで示す水平方向に往復動し、そのロッド水平動作でリンク部材7,8が鈍角α°のく字形状からほぼ一直線形状になる上死点前の最大鈍角になるまで形状変化する。ロッド9を往復動させる力は図示しないACサーボモータの回転動力を往復動に変換する駆動源機構から伝達される。したがって、上死点直近の最大鈍角で最大の押圧力Pmaxをラム2に押し下げ力として付与し、ラム2に一体結合された上型3を押し下げて下型4と協働してワーク5をクランプ位置決めする。
【0007】
一方、図11(a),(b)に示すように、1枚のワーク5において耳端部5aのフランジ曲げ径RがR1、R2といったように異なる寸法の部位を工程を変えて曲げ加工する製品が多々ある。その場合、曲げ径R1,R2の加工に対応する金型をその度ごとに交換するのでは加工タクトが非常に長くなって不都合である。そのため、前回の曲げ径R1に用いた上型3に図12に示す別途用意された第2の上型10を重ね合わせて結合し、曲げ径R2による曲げ加工ができる抱き合わせ金型にする場合がある。再び当初の曲げ径R1の曲げ工程に戻るときは、第2の上型10を第1の上型3から離脱させて原位置に復帰させ、つぎの曲げ径R2による曲げ工程まで待機させる。
【0008】
ところで、図12に示すように、第2の上型10を重ねて補充した場合、増大したその型厚さ寸法Aだけラム2が上下動するストロークは当初設定した長さ距離と比べて短くなる。ラム2のストロークが短くなると、リンク部材7,8がなす鈍角α°はより小さくなり、たとえば上死点前に当初設定した最大の押圧力Pmaxが弱くなって不足する。
【0009】
従来、そうした最大押圧力Pmaxの不足を補償するために鍛圧業界では様々な研究が行われてきた(たとえば、特許文献1参照)。この特許文献1の技術によれば、第2の上型10を重ね合わせたときの増大厚さ寸法分だけ半リング形状のトーションばねを弾性圧縮させ、そのばね弾発力でワークのクランプ力を得ようとするものである。
【0010】
【特許文献1】 特願2000−612079号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献1に開示されたプレス機の金型加締め装置の場合、トーションばねの圧縮が長年にわたって甚大な回数で繰り返されることから、ばねが金属疲労などによって経年劣化することが経験的に分かっている。加えて、ワークのクランプ力補助にばね力を利用するのでは有効な押圧力Pを定量的かつ定性的に把握することは困難であり、クランプ力の信頼性低下は即ワークの曲げ径の精度に影響する不具合がある。
【0012】
そこで、本発明の目的は、ワーク曲げ径が異なる部位の曲げ工程ごとに金型を増減する場合、ラムストロークが短くなって押圧力が不足する場合に自動調整して最大押圧力が得られるよう補正することで、高精度で信頼性の高いパネル折り曲げ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明に係る代表的なパネル折り曲げ装置は、駆動源の動力を倍力機構で倍加してラムの上下動ストロークによる押圧力に変換し、前記ラムに保持されて一体に上下動する上型を含む金型によってパネルを所要の形状に曲げ加工するにあたり、前記上型を厚さの増大したものに変更することで厚さ増大分だけ短くなる前記ラムのストロークを、ストローク調整装置によって最大の押圧力を発生する長さに補正することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の代表的な請求項1に記載のパネル折り曲げ装置によれば以下の効果が得られる。ワークのパネルを曲げ加工する際、たとえば1つのパネルの部位ごとに曲げ径が異なる工程を有する製品が多々ある。その場合、たとえば曲げ径R1に対応する上型に別途用意された第2の上型を重ね合わせて曲げ径R2の曲げ加工を行うことがある。第2の上型を加増することにより、その増大寸法分の型厚さだけラムのストロークが短くなる。ラムのストロークが短くなると、当初設定したストロークで発生させた最大の押圧力が不足して弱まる。これを補償するために、ストローク調整装置を作動させてラムに連結されている1つのリンク部材の端部、すなわち倍加した力の力点となるそのリンク端部の位置を上型の増大寸法分だけ変位させて補正する。リンク部材の力点の位置を補正することで、トグルリンク機構が最大の押圧力を発生できるようにする。それにより、パネルを押圧してクランプする力が不足することなく、信頼性の高い高精度の曲げ加工が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明によるパネル折り曲げ装置の好適な実施形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、図9〜図12で示した従来例の構造に対比させて本実施形態の要点が明確になるよう、共通部材には同一符号を付して重複する説明は省き、要点の部材には異なる符号を付してある。以下の説明は好適な一実施形態であるが、主旨思想を満足する範囲内で本発明はかかる一実施形態に限定されることなく他の実施形態も可能である。
【0016】
図1は、ACサーボドライブ方式パネルベンダーに応用した本実施形態のパネル折り曲げ装置を背面からみて示す図である。但し、駆動方式は上記ACサーボドライブ方式に何ら限定されるものではない。したがってここでは、動力駆動源20にACサーボモータ21に用い、その出力回転、速度および方向を検出するためのエンコーダを備えている。エンコーダで検出した情報の検出信号をサーボアンプ(制御部)にフィードバックする制御の他、各種信号の検出に基づいた電子制御方式を採用できる。ACサーボモータ21の回転出力は減速機などの適宜機構を介してボールねじ22に伝達され、そのボールねじ22の回転を次に説明するトグルリンク機構の一部材を構成するロッド9の水平方向への往復動に変換するようになっている。
【0017】
図2(a),(b)以下の各図に示すように、装置本体の骨格を形成するフレーム1の左右方向でいうほぼ横幅一抔に長尺押板部材であるラム2が備わっている。ラム2はその長手方向の両端でスライドして上下方向への昇降動が可能に左右のサイドフレームに支持されている。また、ラム2の下端で長手方向のほぼ全長にわたって上型3がボルト締めなどして保持され、ラム2と一体に図でいう上下方向に昇降動する。フレーム1のベース部分の上面には上型3と対をなすほぼ同等な長さを有する下型4が固定状態で保持されている。搬入されてきたワーク5は上型3と下型4による金型間に挟み込まれ、図2中の矢印Pで示す押圧力でクランプされる。
【0018】
一方、フレーム1の背面側にはシゴキ曲げ型6が図示略したホルダに保持されて待機しており、作動信号オンによって上下方向に移動するようになっている。図3(a),(b)に示すように、シゴキ曲げ型6はその上昇動でクランプされているワーク5の耳端部5aを下方から上方にしごき上げ、所要の角度にフランジ曲げ加工するための金型である。曲げ加工後は、図4(a),(b)に示すように、ラム2に伴って上型3が上昇動してワーク5の取り外しに干渉しない高さ位置まで退避し、シゴキ曲げ型6もまた下降動して退避するように構成されている。
【0019】
つぎに、上記トグルリンク機構の構成ならびに当該機構に連動するストローク調整装置30について説明する。
【0020】
まず、トグルリンク機構は2つのリンク部材7,8が装置にむかって左右両側に一対ずつ配置され、それらリンク部材7,8の一端部がロッド9と三体でヒンジピン10によって連結され、ロッド9の水平動に伴って回動可能に軸支されている。図でいう下方のリンク部材7の他端部はラム2にヒンジピン12で回動可能に軸支して連結されている。また、上方のリンク部材8の他端部はフレーム1上部にヒンジピン11で回動可能に軸支して連結されている。このヒンジピン11はフレーム1に対して位置不動の固定ピンであり、トグルリンク機構として力を倍加するための支点となる。
【0021】
ロッド9は図1中の矢印Fで示す水平方向に往復動し、そのロッド往復動作でリンク部材7,8は鈍角α°のく字形状からほぼ一直線形状になる上死点前の最大鈍角になるまでまたはその逆に形状変化する。リンク部材7,8は上死点前の最大鈍角で最大の押圧力Pmaxを発生する。その場合、上方のヒンジピン11を支点にして、下方のリンク部材8の端部を連結した後述の偏心シャフト34を介してしてラム2に最大の押圧力Pmaxを付与する。ラム2に付与された最大の押圧力Pmaxを上型3による押し下げ力として伝え、下型4との協働でワーク5をクランプする。その状態でシゴキ曲げ型6によるワーク5のフランジ曲げ加工に備える(図3参照)。
【0022】
ここで、上記ストローク調整装置30について図5および図6を参照して説明する。
【0023】
ストローク調整装置30は、ラム2の長手方向すなわち左右方向に長尺のラックギア31がフレーム1などに保持されて両側に配置した二組のリンク部材7,8にさし渡る長さを有して水平動が可能となっている。かかるラックギア31は、シリンダ装置35のピストンに連結されて水平方向に往復動し、そのラックギア31に噛合してピニオンギア33がギア軸32上で時計廻り方向または反時計廻り方向に回転可能である。
【0024】
さらに、ピニオンギア33のギア軸32には軸心を偏心量Aだけずれて偏心させた偏心シャフト34が一体回転可能に結合されている。その偏心シャフト34の軸上にリンク部材7の他端部が一体に結合されている。次に説明するように、偏心量Aは第1の上型3に下から重ね合わせて補充される第2の上型10の「型厚さ寸法A」と同等に設定してある。
【0025】
本実施形態においては、ラックギア31の往復動によってピニオンギア33は時計廻り方向または反時計廻り方向にたとえば角度180°半回転するように設定されている。ピニオンギア33の半回転と一体に偏心シャフト34が半回転し、さらにその半回転と一体にリンク部材7が180°角度位相分の偏心量(A/2)だけ図の上下方向に位置を変動するようになっている。リンク部材7の端部を結合した偏心シャフト34は押圧力Pをラム2に伝達する支軸となり、トグルリンク機構で倍加した力を押し下げ力としてラム2に伝達する力点(作用点)となる。すなわち、偏心シャフト34が180°半回転する回転位相の偏心量Aだけリンク部材7の端部つまり力点の位置を変位させる。よって本実施形態の要旨は、リンク部材7の端部を変位させ、上方のリンク部材8との鈍角α°が最大の押圧力Pmaxを発生する上死点もしくは上死点前になるよう、トグルリンク機構の形状をストローク調整装置30で変動させることである。
【0026】
以上の構成から、本実施形態のパネル折り曲げ装置ではつぎのように動作して所要の作用および効果を得ることができる。
【0027】
図2(a),(b)に示すように、リンク部材7,8が一直線状に揃うたとえば上死点手前の鈍角で最大の押圧力Pmaxでもってワーク5をクランプ保持する。続いて、図3(a),(b)に示すように、シゴキ曲げ型6が上昇動し、ワーク5の耳端部5aを下方からシゴキ曲げて所要の角度にフランジ曲げ加工する。図4(a),(b)に示すように、フランジ曲げ加工を終えると、ラム2が上昇してそれと一体に上型3が加工済みのワーク5を取り外せる高さ位置まで退避する。
【0028】
1枚のワーク5において、曲げ径RがR1からR2に変わる部位のフランジ曲げ加工に対応させるために、装置は以下のように作動する。
【0029】
図7(a),(b)および図8に示すように、型補充スイング機構40に保持されて待機中の第2の上型10を当初使用の第1の上型3に重ね合わせてセットする。制御装置から作動信号が送られると型補充スイング機構40はスイング作動して、保持している第2の上型10を移動させて第1の上型3に下から重ね合わせる。第1の上型3に下方から第2の上型10を取り付けた後の結合形態については凹凸嵌合やボルト結合など様々な構造があるのでここでは特に詳しい説明を省く。また、型補充スイング機構40についても図8に示す構造に特に限定されない。要は、人力交換作業に頼らず、自動化で第2の上型10を第1の上型3に重ね合わせる位置まで供給できるメカニズムであればよい。
【0030】
第2の上型10が補充されると、その第2の上型10の型厚さ寸法A分だけラム2のストロークは短くなり、リンク部材7,8のなす鈍角α°が図7(a)中の仮想線で示すように小さくなる。それによってラム2に付与される最大の押圧力Pmaxが弱くなって不足する。そうした押圧力Pmaxの不足をストローク調整装置30が作動して以下のように調整して補正する。
【0031】
型補充スイング機構40に保持された第2の上型10の移動が検出されると、その作動にほぼ同期して制御装置はストローク調整装置30に対して作動信号を送る。ストローク調整装置30では、シリンダ装置35のピストンが作動してラックギア31をたとえば図でいう右方向に水平移動させる。ラックギア31の移動によってピニオンギア33がたとえば反時計廻り方向に180°回転する。
【0032】
図5(c)に示すように、ピニオンギア33の180°半回転によって、同軸上の偏心シャフト32が一体に半回転する。偏心シャフト32の半回転によってその角度位相分の距離、すなわち第2の上型10の型厚さ寸法Aだけリンク部材7を変位させて位置を下げる(偏心下側)。それによって、リンク部材7,8は最大の押圧力Pmaxを発生する図2および図3に示す上死点前の最大鈍角α°の形状に変動できるようになる。すなわち、第1の上型3のみ装着時に得られた上死点前鈍角による最大の押圧力Pmaxでもってラム2を押し下げ可能となる。
【0033】
図5(b)に示すように、最大押圧力Pmaxでクランプされた状態のワーク5に対して、その耳端部5aをシゴキ曲げ型6が上昇動してシゴキ上げ、耳端部5aを目標とする曲げ径R2でフランジ曲げ加工する。
【0034】
ワーク5の曲げ径R2によるフランジ曲げ加工を終えると、図6(b)に示すように、シゴキ曲げ型6が下降動して加工終了ワークに干渉しない位置まで退避する。次の曲げ工程において第2の上型10を必要としない場合、ラム2と一体に第1の上型3を上昇動させて加工終了ワークに干渉しない位置まで退避させる。この退避動作にほぼ同期して、型補充スイング機構40を作動させて第2の上型10を第1の上型3から離脱させ、原位置(図8参照)に戻す。
【0035】
かかる一連の作動に合わせて、図6(c)に示すように、ストローク調整装置30が作動してラックギア31をたとえば図の左方向に水平移動させる。ピニオンギア33は時計廻り方向へ180°半回転し、それと一体に偏心シャフト34が同じく時計廻り方向に1
80°半回転する。それによって偏心量Aだけリンク部材7が変動して位置を上げる(偏心上側)。
【0036】
以上のように、1枚の同一のワーク5に対して曲げ径がR1からR2に曲げ工程が変わるごとに、あるいは曲げ径R2の加工を終えて再び曲げ径R1の加工に戻るごとに、第2の上型10を補充または離脱させる。型補充時は、トグルリンク機構のリンク部材7,8によって付与されるラム2の最大押圧力Pmaxが不足しないよう、ストローク調整装置30をその度ごとに作動させて不足分の押圧力を補償する。すなわち、金型の補填ごとに、リンク部材7,8が最大押圧力Pmaxを発生する上死点前の最大鈍角α°の形状になるように、ストローク調整装置30の偏心シャフト34による偏心量Aだけリンク部材7の変動位置を調整するのである。
【0037】
なお、本実施形態においては、補充される第2の上型10について型厚さ寸法Aの場合を説明したが、もちろんそうした型厚さ寸法Aのものに限定されない。それ以外の厚さ寸法を有する様々な第2の上型10を補充する場合でも対応可能である。その場合、押圧補助装置30では第2の上型10の型厚さ寸法の変更に応じた偏心量に設計した偏心シャフト34を用いる。したがって、多種の第2の上型10に応じた多種の偏心シャフト34を準備し、ピニオンギア33のギア軸32上に着脱可能で一体結合する構造とすることができる。このような応用例から第2の上型10は1つとは限らず、極端には第三、第四・・・に増型することも理解されよう。
【0038】
また、本実施形態では1つのワーク5に対して曲げ径がR1からR2に工程変化する場合を想定して説明した。これは単に加工例の1つであり、同一の大量枚数のワーク5に対して最初の工程で曲げ径R1のフランジ曲げ加工を終え、それから曲げ径R2のフランジ曲げ加工の工程に移行するロット生産においてもちろん適用可能である。
【0039】
その他、本発明の思想や主旨を逸脱しない範囲内でその他の実施形態、応用例、変形例、そしてそれらの組み合わせも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る好適な実施形態のパネル折り曲げ装置としてACサーボドライブパネルベンダーに適用した場合の装置本体を背面から示す図。
【図2】同図(a),(b)は本実施形態の第2の上型補充前においてワーククランプ状態を示す背面図と側面図。
【図3】同図(a),(b)は本実施形態の第2の上型補充前においてワークシゴキ曲げ加工例を示す背面図と側面図。
【図4】同図(a),(b)は本実施形態の第2の上型補充前においてワークシゴキ曲げ加工終了後の離型を示す背面図と側面図。
【図5】同図(a)〜(c)は本実施形態において第2の上型を補充してシゴキ曲げ加工に備えるワーククランプ状態を示す背面図、側面図および要部の押圧補助装置。
【図6】同図(a)〜(c)は本実施形態において第2の上型を補充してシゴキ曲げ加工の態様を示す背面図、側面図および要部の押圧補助装置。
【図7】同図(a),(b)は本実施形態において第2の上型を補充する態様を示す背面図と側面図。
【図8】本実施形態における型補充スイング機構を示す側面図。
【図9】シゴキ曲げ加工の一例を示す従来の側面図。
【図10】トグルリンク機構を利用したパネルベンダーの一例を概略的に示す装置の背面図。
【図11】同図(a),(b)はワークを曲げ径R1と曲げ径R2でフランジ曲げ加工する場合の二態を示すワーク断面図。
【図12】第2の上型を補充して曲げ径R2によるフランジ曲げ加工に対応する態様の一例を示す部分断面による側面図。
【符号の説明】
【0041】
1・・・装置本体フレーム
2・・・ラム
3・・・第1の上型
4・・・下型
5・・・ワーク
6・・・シゴキ曲げ型
7,8・・リンク部材(トグルリンク機構)
9・・・ロッド(トグルリンク機構)
10・・・第2の上型
20・・・駆動源機構
21・・・ACサーボモータ
22・・・ボールねじ
30・・・ストローク調整装置
31・・・ラックギア
32・・・ピニオンギア軸
33・・・ピニオンギア
34・・・偏心シャフト
40・・・型補充スイング機構
A・・・・偏心量
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に鍛圧機械と呼ばれ、鉄鋼板など金属製のパネルを加工素材として曲げ加工するプレスブレーキやパネルベンダー等のパネル折り曲げ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属製パネルをワークに折り曲げ加工して製品のケースやハウジングなど筺体物を製造するにあたり、図9はその製造工程における通称「シゴキ曲げ」による板金加工例を概略的に示す。また、図10は、シゴキ曲げによるフランジ曲げ加工を行うパネルベンダーの構造例を概略的に示す。ベンダー本体の全体骨格を形成するフレーム1にラム2が左右方向のほぼ横幅一杯の長さで設けられ、ラム両端は上下方向にスライドして昇降動が可能にフレーム側板に支持されている。また、ラム2の下端に沿ってほぼ同等の長さを有する上型3がボルト結合などして保持され、ラム2に伴って一体に上下動する。また、フレーム1の下方でベースとなる部分の上面には下型4が固定して設けられ、この下型4は上型3に対をなして同等な長さを有している。機体に搬入してセットされたワーク5は上型3と下型4による金型一対間に挟み込まれ、図9中矢印Pで示す押圧力でクランプされる。
【0003】
また、図9に示すように、フレーム1の背面側にはシゴキ曲げ型6a,6bが上下の位置に対向してホルダに保持されている。図示例の場合、下方のシゴキ曲げ型6aを上昇動させ、クランプ状態のワーク5の耳端部5aに当接させてシゴキ上げて所要の角度にフランジ曲げ加工する。
【0004】
上型3によってワーク5をクランプする押圧力Pはラム2の下降動に伴って付与される。ラム上下動の動力にはこれまで一般的に油圧が使用されてきたが、近年、本出願人を含む鍛圧業界においては、油圧駆動方式に代えてACサーボモータを用いたサーボ駆動方式の開発が主流となってきている。図10に示すパネルベンダーの場合、そうしたACサーボモータの回転出力をトグルリンク機構などの倍力装置に伝達し、倍力装置で倍加した押圧力Pをラム2に伝え、そのラム2に保持された上型3によって下型4と協働してワーク5をクランプする。
【0005】
トグルリンク機構は、フレーム1の左右横幅方向の両側にそれぞれ2つのリンク部材7,8からなる組み合わせの一対が配置されている。リンク部材7,8はそれらの一端部が長尺のロッド9との三体一緒にヒンジピン10でそれぞれの動きが可能に連結されている。下方のリンク部材7の他端部はラム2にヒンジピン12で回動可能に軸支され、上方のリンク部材8の他端部は上部のフレーム1にヒンジピン11で回動可能に軸支されている。すなわち、ヒンジピン11はトグルリンク機構として力を倍加するための支点となり、ヒンジピン12はラム2を上型3と一体に押し下げて押圧力Pをワーク5に付与する力点となる。
【0006】
ロッド9は図10中の矢印Fで示す水平方向に往復動し、そのロッド水平動作でリンク部材7,8が鈍角α°のく字形状からほぼ一直線形状になる上死点前の最大鈍角になるまで形状変化する。ロッド9を往復動させる力は図示しないACサーボモータの回転動力を往復動に変換する駆動源機構から伝達される。したがって、上死点直近の最大鈍角で最大の押圧力Pmaxをラム2に押し下げ力として付与し、ラム2に一体結合された上型3を押し下げて下型4と協働してワーク5をクランプ位置決めする。
【0007】
一方、図11(a),(b)に示すように、1枚のワーク5において耳端部5aのフランジ曲げ径RがR1、R2といったように異なる寸法の部位を工程を変えて曲げ加工する製品が多々ある。その場合、曲げ径R1,R2の加工に対応する金型をその度ごとに交換するのでは加工タクトが非常に長くなって不都合である。そのため、前回の曲げ径R1に用いた上型3に図12に示す別途用意された第2の上型10を重ね合わせて結合し、曲げ径R2による曲げ加工ができる抱き合わせ金型にする場合がある。再び当初の曲げ径R1の曲げ工程に戻るときは、第2の上型10を第1の上型3から離脱させて原位置に復帰させ、つぎの曲げ径R2による曲げ工程まで待機させる。
【0008】
ところで、図12に示すように、第2の上型10を重ねて補充した場合、増大したその型厚さ寸法Aだけラム2が上下動するストロークは当初設定した長さ距離と比べて短くなる。ラム2のストロークが短くなると、リンク部材7,8がなす鈍角α°はより小さくなり、たとえば上死点前に当初設定した最大の押圧力Pmaxが弱くなって不足する。
【0009】
従来、そうした最大押圧力Pmaxの不足を補償するために鍛圧業界では様々な研究が行われてきた(たとえば、特許文献1参照)。この特許文献1の技術によれば、第2の上型10を重ね合わせたときの増大厚さ寸法分だけ半リング形状のトーションばねを弾性圧縮させ、そのばね弾発力でワークのクランプ力を得ようとするものである。
【0010】
【特許文献1】 特願2000−612079号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献1に開示されたプレス機の金型加締め装置の場合、トーションばねの圧縮が長年にわたって甚大な回数で繰り返されることから、ばねが金属疲労などによって経年劣化することが経験的に分かっている。加えて、ワークのクランプ力補助にばね力を利用するのでは有効な押圧力Pを定量的かつ定性的に把握することは困難であり、クランプ力の信頼性低下は即ワークの曲げ径の精度に影響する不具合がある。
【0012】
そこで、本発明の目的は、ワーク曲げ径が異なる部位の曲げ工程ごとに金型を増減する場合、ラムストロークが短くなって押圧力が不足する場合に自動調整して最大押圧力が得られるよう補正することで、高精度で信頼性の高いパネル折り曲げ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明に係る代表的なパネル折り曲げ装置は、駆動源の動力を倍力機構で倍加してラムの上下動ストロークによる押圧力に変換し、前記ラムに保持されて一体に上下動する上型を含む金型によってパネルを所要の形状に曲げ加工するにあたり、前記上型を厚さの増大したものに変更することで厚さ増大分だけ短くなる前記ラムのストロークを、ストローク調整装置によって最大の押圧力を発生する長さに補正することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の代表的な請求項1に記載のパネル折り曲げ装置によれば以下の効果が得られる。ワークのパネルを曲げ加工する際、たとえば1つのパネルの部位ごとに曲げ径が異なる工程を有する製品が多々ある。その場合、たとえば曲げ径R1に対応する上型に別途用意された第2の上型を重ね合わせて曲げ径R2の曲げ加工を行うことがある。第2の上型を加増することにより、その増大寸法分の型厚さだけラムのストロークが短くなる。ラムのストロークが短くなると、当初設定したストロークで発生させた最大の押圧力が不足して弱まる。これを補償するために、ストローク調整装置を作動させてラムに連結されている1つのリンク部材の端部、すなわち倍加した力の力点となるそのリンク端部の位置を上型の増大寸法分だけ変位させて補正する。リンク部材の力点の位置を補正することで、トグルリンク機構が最大の押圧力を発生できるようにする。それにより、パネルを押圧してクランプする力が不足することなく、信頼性の高い高精度の曲げ加工が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明によるパネル折り曲げ装置の好適な実施形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、図9〜図12で示した従来例の構造に対比させて本実施形態の要点が明確になるよう、共通部材には同一符号を付して重複する説明は省き、要点の部材には異なる符号を付してある。以下の説明は好適な一実施形態であるが、主旨思想を満足する範囲内で本発明はかかる一実施形態に限定されることなく他の実施形態も可能である。
【0016】
図1は、ACサーボドライブ方式パネルベンダーに応用した本実施形態のパネル折り曲げ装置を背面からみて示す図である。但し、駆動方式は上記ACサーボドライブ方式に何ら限定されるものではない。したがってここでは、動力駆動源20にACサーボモータ21に用い、その出力回転、速度および方向を検出するためのエンコーダを備えている。エンコーダで検出した情報の検出信号をサーボアンプ(制御部)にフィードバックする制御の他、各種信号の検出に基づいた電子制御方式を採用できる。ACサーボモータ21の回転出力は減速機などの適宜機構を介してボールねじ22に伝達され、そのボールねじ22の回転を次に説明するトグルリンク機構の一部材を構成するロッド9の水平方向への往復動に変換するようになっている。
【0017】
図2(a),(b)以下の各図に示すように、装置本体の骨格を形成するフレーム1の左右方向でいうほぼ横幅一抔に長尺押板部材であるラム2が備わっている。ラム2はその長手方向の両端でスライドして上下方向への昇降動が可能に左右のサイドフレームに支持されている。また、ラム2の下端で長手方向のほぼ全長にわたって上型3がボルト締めなどして保持され、ラム2と一体に図でいう上下方向に昇降動する。フレーム1のベース部分の上面には上型3と対をなすほぼ同等な長さを有する下型4が固定状態で保持されている。搬入されてきたワーク5は上型3と下型4による金型間に挟み込まれ、図2中の矢印Pで示す押圧力でクランプされる。
【0018】
一方、フレーム1の背面側にはシゴキ曲げ型6が図示略したホルダに保持されて待機しており、作動信号オンによって上下方向に移動するようになっている。図3(a),(b)に示すように、シゴキ曲げ型6はその上昇動でクランプされているワーク5の耳端部5aを下方から上方にしごき上げ、所要の角度にフランジ曲げ加工するための金型である。曲げ加工後は、図4(a),(b)に示すように、ラム2に伴って上型3が上昇動してワーク5の取り外しに干渉しない高さ位置まで退避し、シゴキ曲げ型6もまた下降動して退避するように構成されている。
【0019】
つぎに、上記トグルリンク機構の構成ならびに当該機構に連動するストローク調整装置30について説明する。
【0020】
まず、トグルリンク機構は2つのリンク部材7,8が装置にむかって左右両側に一対ずつ配置され、それらリンク部材7,8の一端部がロッド9と三体でヒンジピン10によって連結され、ロッド9の水平動に伴って回動可能に軸支されている。図でいう下方のリンク部材7の他端部はラム2にヒンジピン12で回動可能に軸支して連結されている。また、上方のリンク部材8の他端部はフレーム1上部にヒンジピン11で回動可能に軸支して連結されている。このヒンジピン11はフレーム1に対して位置不動の固定ピンであり、トグルリンク機構として力を倍加するための支点となる。
【0021】
ロッド9は図1中の矢印Fで示す水平方向に往復動し、そのロッド往復動作でリンク部材7,8は鈍角α°のく字形状からほぼ一直線形状になる上死点前の最大鈍角になるまでまたはその逆に形状変化する。リンク部材7,8は上死点前の最大鈍角で最大の押圧力Pmaxを発生する。その場合、上方のヒンジピン11を支点にして、下方のリンク部材8の端部を連結した後述の偏心シャフト34を介してしてラム2に最大の押圧力Pmaxを付与する。ラム2に付与された最大の押圧力Pmaxを上型3による押し下げ力として伝え、下型4との協働でワーク5をクランプする。その状態でシゴキ曲げ型6によるワーク5のフランジ曲げ加工に備える(図3参照)。
【0022】
ここで、上記ストローク調整装置30について図5および図6を参照して説明する。
【0023】
ストローク調整装置30は、ラム2の長手方向すなわち左右方向に長尺のラックギア31がフレーム1などに保持されて両側に配置した二組のリンク部材7,8にさし渡る長さを有して水平動が可能となっている。かかるラックギア31は、シリンダ装置35のピストンに連結されて水平方向に往復動し、そのラックギア31に噛合してピニオンギア33がギア軸32上で時計廻り方向または反時計廻り方向に回転可能である。
【0024】
さらに、ピニオンギア33のギア軸32には軸心を偏心量Aだけずれて偏心させた偏心シャフト34が一体回転可能に結合されている。その偏心シャフト34の軸上にリンク部材7の他端部が一体に結合されている。次に説明するように、偏心量Aは第1の上型3に下から重ね合わせて補充される第2の上型10の「型厚さ寸法A」と同等に設定してある。
【0025】
本実施形態においては、ラックギア31の往復動によってピニオンギア33は時計廻り方向または反時計廻り方向にたとえば角度180°半回転するように設定されている。ピニオンギア33の半回転と一体に偏心シャフト34が半回転し、さらにその半回転と一体にリンク部材7が180°角度位相分の偏心量(A/2)だけ図の上下方向に位置を変動するようになっている。リンク部材7の端部を結合した偏心シャフト34は押圧力Pをラム2に伝達する支軸となり、トグルリンク機構で倍加した力を押し下げ力としてラム2に伝達する力点(作用点)となる。すなわち、偏心シャフト34が180°半回転する回転位相の偏心量Aだけリンク部材7の端部つまり力点の位置を変位させる。よって本実施形態の要旨は、リンク部材7の端部を変位させ、上方のリンク部材8との鈍角α°が最大の押圧力Pmaxを発生する上死点もしくは上死点前になるよう、トグルリンク機構の形状をストローク調整装置30で変動させることである。
【0026】
以上の構成から、本実施形態のパネル折り曲げ装置ではつぎのように動作して所要の作用および効果を得ることができる。
【0027】
図2(a),(b)に示すように、リンク部材7,8が一直線状に揃うたとえば上死点手前の鈍角で最大の押圧力Pmaxでもってワーク5をクランプ保持する。続いて、図3(a),(b)に示すように、シゴキ曲げ型6が上昇動し、ワーク5の耳端部5aを下方からシゴキ曲げて所要の角度にフランジ曲げ加工する。図4(a),(b)に示すように、フランジ曲げ加工を終えると、ラム2が上昇してそれと一体に上型3が加工済みのワーク5を取り外せる高さ位置まで退避する。
【0028】
1枚のワーク5において、曲げ径RがR1からR2に変わる部位のフランジ曲げ加工に対応させるために、装置は以下のように作動する。
【0029】
図7(a),(b)および図8に示すように、型補充スイング機構40に保持されて待機中の第2の上型10を当初使用の第1の上型3に重ね合わせてセットする。制御装置から作動信号が送られると型補充スイング機構40はスイング作動して、保持している第2の上型10を移動させて第1の上型3に下から重ね合わせる。第1の上型3に下方から第2の上型10を取り付けた後の結合形態については凹凸嵌合やボルト結合など様々な構造があるのでここでは特に詳しい説明を省く。また、型補充スイング機構40についても図8に示す構造に特に限定されない。要は、人力交換作業に頼らず、自動化で第2の上型10を第1の上型3に重ね合わせる位置まで供給できるメカニズムであればよい。
【0030】
第2の上型10が補充されると、その第2の上型10の型厚さ寸法A分だけラム2のストロークは短くなり、リンク部材7,8のなす鈍角α°が図7(a)中の仮想線で示すように小さくなる。それによってラム2に付与される最大の押圧力Pmaxが弱くなって不足する。そうした押圧力Pmaxの不足をストローク調整装置30が作動して以下のように調整して補正する。
【0031】
型補充スイング機構40に保持された第2の上型10の移動が検出されると、その作動にほぼ同期して制御装置はストローク調整装置30に対して作動信号を送る。ストローク調整装置30では、シリンダ装置35のピストンが作動してラックギア31をたとえば図でいう右方向に水平移動させる。ラックギア31の移動によってピニオンギア33がたとえば反時計廻り方向に180°回転する。
【0032】
図5(c)に示すように、ピニオンギア33の180°半回転によって、同軸上の偏心シャフト32が一体に半回転する。偏心シャフト32の半回転によってその角度位相分の距離、すなわち第2の上型10の型厚さ寸法Aだけリンク部材7を変位させて位置を下げる(偏心下側)。それによって、リンク部材7,8は最大の押圧力Pmaxを発生する図2および図3に示す上死点前の最大鈍角α°の形状に変動できるようになる。すなわち、第1の上型3のみ装着時に得られた上死点前鈍角による最大の押圧力Pmaxでもってラム2を押し下げ可能となる。
【0033】
図5(b)に示すように、最大押圧力Pmaxでクランプされた状態のワーク5に対して、その耳端部5aをシゴキ曲げ型6が上昇動してシゴキ上げ、耳端部5aを目標とする曲げ径R2でフランジ曲げ加工する。
【0034】
ワーク5の曲げ径R2によるフランジ曲げ加工を終えると、図6(b)に示すように、シゴキ曲げ型6が下降動して加工終了ワークに干渉しない位置まで退避する。次の曲げ工程において第2の上型10を必要としない場合、ラム2と一体に第1の上型3を上昇動させて加工終了ワークに干渉しない位置まで退避させる。この退避動作にほぼ同期して、型補充スイング機構40を作動させて第2の上型10を第1の上型3から離脱させ、原位置(図8参照)に戻す。
【0035】
かかる一連の作動に合わせて、図6(c)に示すように、ストローク調整装置30が作動してラックギア31をたとえば図の左方向に水平移動させる。ピニオンギア33は時計廻り方向へ180°半回転し、それと一体に偏心シャフト34が同じく時計廻り方向に1
80°半回転する。それによって偏心量Aだけリンク部材7が変動して位置を上げる(偏心上側)。
【0036】
以上のように、1枚の同一のワーク5に対して曲げ径がR1からR2に曲げ工程が変わるごとに、あるいは曲げ径R2の加工を終えて再び曲げ径R1の加工に戻るごとに、第2の上型10を補充または離脱させる。型補充時は、トグルリンク機構のリンク部材7,8によって付与されるラム2の最大押圧力Pmaxが不足しないよう、ストローク調整装置30をその度ごとに作動させて不足分の押圧力を補償する。すなわち、金型の補填ごとに、リンク部材7,8が最大押圧力Pmaxを発生する上死点前の最大鈍角α°の形状になるように、ストローク調整装置30の偏心シャフト34による偏心量Aだけリンク部材7の変動位置を調整するのである。
【0037】
なお、本実施形態においては、補充される第2の上型10について型厚さ寸法Aの場合を説明したが、もちろんそうした型厚さ寸法Aのものに限定されない。それ以外の厚さ寸法を有する様々な第2の上型10を補充する場合でも対応可能である。その場合、押圧補助装置30では第2の上型10の型厚さ寸法の変更に応じた偏心量に設計した偏心シャフト34を用いる。したがって、多種の第2の上型10に応じた多種の偏心シャフト34を準備し、ピニオンギア33のギア軸32上に着脱可能で一体結合する構造とすることができる。このような応用例から第2の上型10は1つとは限らず、極端には第三、第四・・・に増型することも理解されよう。
【0038】
また、本実施形態では1つのワーク5に対して曲げ径がR1からR2に工程変化する場合を想定して説明した。これは単に加工例の1つであり、同一の大量枚数のワーク5に対して最初の工程で曲げ径R1のフランジ曲げ加工を終え、それから曲げ径R2のフランジ曲げ加工の工程に移行するロット生産においてもちろん適用可能である。
【0039】
その他、本発明の思想や主旨を逸脱しない範囲内でその他の実施形態、応用例、変形例、そしてそれらの組み合わせも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る好適な実施形態のパネル折り曲げ装置としてACサーボドライブパネルベンダーに適用した場合の装置本体を背面から示す図。
【図2】同図(a),(b)は本実施形態の第2の上型補充前においてワーククランプ状態を示す背面図と側面図。
【図3】同図(a),(b)は本実施形態の第2の上型補充前においてワークシゴキ曲げ加工例を示す背面図と側面図。
【図4】同図(a),(b)は本実施形態の第2の上型補充前においてワークシゴキ曲げ加工終了後の離型を示す背面図と側面図。
【図5】同図(a)〜(c)は本実施形態において第2の上型を補充してシゴキ曲げ加工に備えるワーククランプ状態を示す背面図、側面図および要部の押圧補助装置。
【図6】同図(a)〜(c)は本実施形態において第2の上型を補充してシゴキ曲げ加工の態様を示す背面図、側面図および要部の押圧補助装置。
【図7】同図(a),(b)は本実施形態において第2の上型を補充する態様を示す背面図と側面図。
【図8】本実施形態における型補充スイング機構を示す側面図。
【図9】シゴキ曲げ加工の一例を示す従来の側面図。
【図10】トグルリンク機構を利用したパネルベンダーの一例を概略的に示す装置の背面図。
【図11】同図(a),(b)はワークを曲げ径R1と曲げ径R2でフランジ曲げ加工する場合の二態を示すワーク断面図。
【図12】第2の上型を補充して曲げ径R2によるフランジ曲げ加工に対応する態様の一例を示す部分断面による側面図。
【符号の説明】
【0041】
1・・・装置本体フレーム
2・・・ラム
3・・・第1の上型
4・・・下型
5・・・ワーク
6・・・シゴキ曲げ型
7,8・・リンク部材(トグルリンク機構)
9・・・ロッド(トグルリンク機構)
10・・・第2の上型
20・・・駆動源機構
21・・・ACサーボモータ
22・・・ボールねじ
30・・・ストローク調整装置
31・・・ラックギア
32・・・ピニオンギア軸
33・・・ピニオンギア
34・・・偏心シャフト
40・・・型補充スイング機構
A・・・・偏心量
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源の動力を倍力機構で倍加してラムの上下動ストロークによる押圧力に変換し、前記ラムに保持されて一体に上下動する上型を含む金型によってパネルを所要の形状に曲げ加工するパネル折り曲げ装置において、
前記上型を厚さの増大したものに変更することで厚さ増大分だけ短くなる前記ラムのストロークを、ストローク調整装置によって最大の押圧力を発生する長さに補正することを特徴とするパネル折り曲げ装置。
【請求項2】
前記倍力機構が複数のリンク部材を連結してなるトグルリンクであり、前記リンク部材の1つの端部を押圧力の倍加した力点にして前記ラムに連結したことを特徴とする請求項1に記載のパネル折り曲げ装置。
【請求項3】
前記ストローク調整装置は、前記リンク部材の端部である力点の位置を変位させることによって、前記トグルリンクを変動させて最大押圧形状にすることを特徴とする請求項2に記載のパネル折り曲げ装置。
【請求項4】
前記上型を厚さの増大したものに変更する場合、厚さ増大した上型が単体または複数のものからなっていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載のパネル折り曲げ装置。
【請求項5】
前記パネルにおいて曲げ径が異なる部位の曲げ加工に対応して前記上型の数が増減して上型厚さが変化するごとに、前記ストローク調整装置によって前記トグルリンクを変動させて最大押圧形状にすることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載のパネル折り曲げ装置。
【請求項6】
前記ストローク調整装置は、前記リンク部材の力点である端部と前記ラムとを連結する偏心シャフトを有し、前記偏心シャフトの偏心量は厚さ増大した前記上型の増大寸法に等しく設定してあり、回転動力で前記偏心シャフトを回転させることによって前記リンク部材の端部である力点の位置を前記偏心量だけ変位させることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1つに記載のパネル折り曲げ装置。
【請求項1】
駆動源の動力を倍力機構で倍加してラムの上下動ストロークによる押圧力に変換し、前記ラムに保持されて一体に上下動する上型を含む金型によってパネルを所要の形状に曲げ加工するパネル折り曲げ装置において、
前記上型を厚さの増大したものに変更することで厚さ増大分だけ短くなる前記ラムのストロークを、ストローク調整装置によって最大の押圧力を発生する長さに補正することを特徴とするパネル折り曲げ装置。
【請求項2】
前記倍力機構が複数のリンク部材を連結してなるトグルリンクであり、前記リンク部材の1つの端部を押圧力の倍加した力点にして前記ラムに連結したことを特徴とする請求項1に記載のパネル折り曲げ装置。
【請求項3】
前記ストローク調整装置は、前記リンク部材の端部である力点の位置を変位させることによって、前記トグルリンクを変動させて最大押圧形状にすることを特徴とする請求項2に記載のパネル折り曲げ装置。
【請求項4】
前記上型を厚さの増大したものに変更する場合、厚さ増大した上型が単体または複数のものからなっていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載のパネル折り曲げ装置。
【請求項5】
前記パネルにおいて曲げ径が異なる部位の曲げ加工に対応して前記上型の数が増減して上型厚さが変化するごとに、前記ストローク調整装置によって前記トグルリンクを変動させて最大押圧形状にすることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載のパネル折り曲げ装置。
【請求項6】
前記ストローク調整装置は、前記リンク部材の力点である端部と前記ラムとを連結する偏心シャフトを有し、前記偏心シャフトの偏心量は厚さ増大した前記上型の増大寸法に等しく設定してあり、回転動力で前記偏心シャフトを回転させることによって前記リンク部材の端部である力点の位置を前記偏心量だけ変位させることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1つに記載のパネル折り曲げ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−218443(P2011−218443A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−98274(P2010−98274)
【出願日】平成22年4月5日(2010.4.5)
【出願人】(500419218)株式会社吉野機械製作所 (2)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月5日(2010.4.5)
【出願人】(500419218)株式会社吉野機械製作所 (2)
【Fターム(参考)】
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