説明

パラジウムナノコンポジット粉末状粒子、その製造方法及び粒子分散液

【課題】水等の溶媒に対しても、数十ナノレベルで高分散するパラジウムナノコンポジット粉末状粒子の提供。
【解決手段】パラジウム粒子が、下記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーで複合化されてなるパラジウムナノコンポジット粉末状粒子。


{式中、R及びRは、−(CF)p−Y基、又は−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、R及びR中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。Bは炭素数1〜5のアルキレン基を示す。n3は5〜1000の整数である。n1とn2のモル比は1:99〜99:1である。}

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラジウムナノコンポジット粉末状粒子、その製造方法及び該コンポジット粉末状粒子を含有する粒子分散液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属ナノ粒子は、一部はその大きな比表面積と高い反応性から、有機合成反応や排ガス処理における触媒として幅広く応用され、産業上の有用性はますます高まりつつある。
【0003】
金属ナノ粒子は粒径が小さいほど、比表面積が増大し触媒活性が高まる傾向がある。しかし、粒径が小さくなるほど高い表面エネルギーを有するため凝集を起こしやすくなる。このため、金属ナノ粒子の分散性を向上させる方法が種々検討されている。
【0004】
特にパラジウムは、種々の有機合成反応の触媒として有用であることから、その粒子サイズをナノレベルで、制御でき、さらに種々の溶媒に対して高い分散安定性を有するパラジウム微粒子は、興味深い材料の一つである。
【0005】
本発明者らは、先に各種溶媒に対して優れた分散性を有する金属ナノ粒子として、フルオロアルキル基含有オリゴマーで複合化した金属−含フッ素オリゴマーナノコンポジットを提案した(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−239022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の金属−含フッ素オリゴマーナノコンポジットは、水に対しての分散性に問題があり、このため、水系溶媒を用いた有機合成反応を効率的に行うことが難しく、また、該金属−含フッ素オリゴマーナノコンポジットを得るのに100℃以上の高温を必要とし、工業的に有利でない。
【0008】
更に、本発明者らは、水等の溶媒に対しても高分散するパラジウム粒子について研究を進める中で、特定のフルオロアルキル基含有オリゴマーを用いると温和な条件下でパラジウム粒子を複合化できること。また、得られるパラジウムナノコンポジット粉末状粒子は、水等の溶媒に対する分散性にも優れたものであることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明の目的は、水等の溶媒に対しても、数十ナノレベルで高分散するパラジウムナノコンポジット粉末状粒子、その工業的に有利な製造方法及び該パラジウムナノコンポジット粉末状粒子が高分散した粒子分散液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明が提供する第1の発明は、パラジウム粒子が、下記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーで複合化されてなることを特徴とするパラジウムナノコンポジット粉末状粒子である。
【化1】


{式中、R及びRは、−(CF)p−Y基、又は−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、R及びR中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。Bは炭素数1〜5のアルキレン基を示す。n3は5〜1000の整数である。n1とn2のモル比は1:99〜99:1である。}
【0011】
また、本発明が提供する第2の発明は、パラジウム粒子と、前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーとを溶媒中で接触させることを特徴とするパラジウムナノコンポジット粉末状粒子の製造方法である。
また、本発明が提供する第3の発明は、第1の発明のパラジウムナノコンポジット粉末状粒子を含有することを特徴とする粒子分散液である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水等の溶媒に対しも、数十ナノレベルの極めて高い分散性を有するパラジウムナノコンポジット粉末状粒子を提供することが出来る。また、本発明によれば、該パラジウムナノコンポジット粉末状粒子を温和な条件下で製造でき、工業的に有利な方法で該ナノコンポジット粉末状粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例10、11、12で得られたパラジウムナノコンポジット粉末状粒子のX線回折図。
【図2】実施例12で得られたパラジウムナノコンポジット粉末状粒子のTEM写真。
【図3】実施例10で得られたパラジウムナノコンポジット粉末状粒子のTGAチャート。
【図4】実施例11で得られたパラジウムナノコンポジット粉末状粒子のTGAチャート。
【図5】実施例12で得られたパラジウムナノコンポジット粉末状粒子のTGAチャート。
【図6】実施例13で得られたパラジウムナノコンポジット粉末状粒子のTEM写真。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。
本発明に係るパラジウムナノコンポジット粉末状粒子は、パラジウム粒子が、前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーで複合化されてなることを特徴とするものである。
【0015】
本発明で用いるパラジウム粒子の好ましい諸物性は、ナノ粒子であれば特に制限なく用いることができるが、特に本発明によれば数十ナノレベルでの分散が可能である点で、パラジウム粒子の平均粒子径は100nm以下、好ましくは10〜100nmの範囲のものが好適に用いられる。
【0016】
本発明で用いるフルオロアルキル基含有オリゴマーは、下記一般式(1)で表わされる。
【化2】


{式中、R及びRは、−(CF)p−Y基、又は−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、R及びR中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。Bは炭素数1〜5のアルキレン基を示す。n3は5〜1000の整数である。n1とn2のモル比は1:99〜99:1である。}
【0017】
該フルオロアルキル基含有オリゴマーは、例えば、下記反応式(A−1)に従って製造することが出来る。
【化3】


(式中、R、R、B、n1、n2及びn3は前記と同義。)
【0018】
即ち、一般式(a1)で表される過酸化フルオロアルカノイル類と、前記一般式(a2)で表されるスルホン酸化合物及び前記一般式(a3)で表されるアダマンチル基含有化合物とをモル比で通常1:1〜100:1〜100、好ましくは1:1〜50:1〜50で、100℃以下、好ましくは10〜50℃で20時間以内、好ましくは2〜5時間、ハロゲン化脂肪族系の溶媒中で反応を行うことにより目的とする前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーを製造することができる(例えば、Langmuir, Vol.23, No.11, 5848−5851p(2007)参照)。
【0019】
本発明のパラジウムナノコンポジット粉末状粒子は、TEM(透過型電子顕微鏡)観察では、1個又は2個以上のパラジウム粒子が前記一般式(1)で表わされるフルオロアルキル基オリゴマー中に包接されて含有されるか、フルオロアルキル基オリゴマー粒子表面に吸着されて含有されるか、或いはフルオロアルキル基オリゴマーの粒子内部と粒子表面の両方に存在して含有される。
パラジウムナノコンポジット粉末状粒子におけるパラジウム粒子の含有量は2重量%以上、好ましくは5〜99重量%であることが各種用途に適用できる観点から好ましい。
【0020】
本発明のパラジウムナノコンポジット粉末状粒子において、他の好ましい物性は、平均粒子径が10〜100nm、好ましくは20〜70nmであることが分散性の観点から好ましい。
【0021】
本発明のパラジウムナノコンポジット粉末状粒子は、パラジウム粒子と、前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーとを溶媒中で接触させることにより容易に製造することができる。
【0022】
前記パラジウム粒子と、前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーとの接触方法は、例えば、A)前記一般式(1)で表わされるフロオロアルキル基含有オリゴマーを溶媒に溶解した溶液に、前記パラジウム粒子を添加して、攪拌及び/又は超音波処理をする方法(以下、「A法」と略記する)、或いは、B)パラジウム源を溶媒中で還元してパラジウム粒子を製造する方法において、溶媒中に前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーを存在させて、還元反応を行ってパラジウム源からパラジウム粒子を生成させると同時に、生成されたパラジウム粒子とフルオロアルキル基含有オリゴマーとを接触させる方法(以下、「B法」と略記する)がある。
【0023】
前記A法に係る溶媒は、前記一般式(1)で表わされるフルオロアルキル基含有オリゴマーを溶解でき、該フルオロアルキル基含有オリゴマー及びパラジウム粒子に対して不活性な溶媒が用いられる。例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコールが挙げられ、この中で、メタノールが特に好ましい。
【0024】
A法におけるフルオロアルキル基含有オリゴマーを溶解した溶液の濃度は、該フルオロアルキル基含有オリゴマーが溶解可能な濃度であれば、特に制限されるものではないが、通常2〜90重量%、好ましくは5〜60重量%である。
【0025】
A法におけるパラジウム粒子の添加量は、フルオロアルキル基含有オリゴマー1gに対して0.1〜100g、好ましくは0.5〜50gである。
【0026】
A法における接触条件は接触温度が、0〜70℃、好ましくは10〜50℃である。また、接触時間は、0.1時間以上、好ましくは0.5〜10時間である。
【0027】
所定の時間接触させた後、反応液から目的物を回収し、回収物を乾燥してパラジウムナノコンポジット粉末状粒子を得ることができる。なお、反応溶液から目的物を回収する方法としては、例えば該反応液を遠心分離処理し、未反応のパラジウム源を沈殿物として析出させ、該沈殿物を反応液から除去し、必要により精製を行って、目的物を回収することができる。
【0028】
前記B法では、通常、前記一般式(1)で表わされるフルオロアルキル基含有オリゴマーを溶媒に溶解した溶液に、還元反応によりパラジウム粒子に転換可能なパラジウム源を添加し、還元反応を行うことにより行われる。
【0029】
前記パラジウム源としては、例えば、パラジウムの炭酸塩、硝酸塩、塩化物、酢酸塩、ギ酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、尿酸塩、フタル酸塩等を用いることができる。このうち、塩化パラジウムが工業的に容易に入手でき、また、反応性にも優れている点で好ましく用いられる。
【0030】
かかるパラジウム源の還元は、各種還元剤を用いてもよく、光還元を行ってもよい。或いは加熱により還元することも可能である。
【0031】
本発明にかかるパラジウムナノコンポジット粉末状粒子を得るには、パラジウム源の還元反応を溶媒中で行ってパラジウム粒子を製造する方法において、溶媒中に前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーを存在させて還元反応を行えばよい。
【0032】
本発明において、特に以下の工程を含むことにより製造されたものが、パラジウムナノコンポジット粉末状粒子中のパラジウム粒子の含有率を高めることができる点で好ましい。
(イ)パラジウム源の溶解工程。
(ロ)該溶液に前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーを添加する工程。
(ハ)該溶液に還元剤を添加しパラジウム源の還元反応を行う工程。
(二)目的物を回収する工程。
【0033】
(イ)のパラジウム源の溶解工程は、パラジウム源を溶媒に溶解する工程である。
(イ)工程に係る溶媒は、パラジウム源、フルオロアルキル基含有オリゴマー及び還元剤を溶解できるものが用いられる。メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコールが好ましく用いられ、特にメタノールが好ましい。
(イ)工程におけるパラジウム源を溶解した溶液の濃度は、パラジウム源が溶解可能な濃度であれば特に制限されるものではないが、通常1〜70重量%、好ましくは3〜50重量%である。
また、(イ)工程において、パラジウムナノ粒子を調製する目的で、塩化ナトリウム等の補触媒を添加することができる。該補触媒の添加量はパラジウム源に対するモル比で、0.9〜1.2、好ましくは0.95〜1.15である。
かかる溶解工程において、次工程の(ロ)工程を行うに当たって、不溶分はろ過等により、除去しておくことが望ましい。
【0034】
パラジウム源を溶解した溶液は、(二)工程に付して、該溶液に前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーが添加される。
該フルオロアルキル基含有オリゴマーの添加量は、該フルオロアルキル基含有オリゴマー1gに対してパラジウム源が1〜100モル、好ましくは5〜80モルになるように添加される。
【0035】
該フルオロアルキル基含有オリゴマーが添加された溶液は、(ハ)工程に付して、パラジウム源の還元反応が行われる。
(ハ)工程での反応操作は、該フルオロアルキル基含有オリゴマーが添加された溶液に還元剤を添加して還元反応を行う。
(ハ)工程に係る還元剤として、糖類、アスコルビン酸、水素ガス、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム、ポリメチルヒドロシロキサン、ジメチルアミンボラン、カルボン酸又はその塩、1〜3級の有機アミン等が用いられる。
還元剤の添加量は、パラジウム源に対するモル比で、3〜20、好ましくは5〜15である。
(ハ)工程における反応温度は0〜50℃、好ましくは5〜35℃であり、反応時間は、通常15分以上、好ましくは30分〜4時間程度である。
【0036】
反応終了後、本発明のパラジウムナノコンポジット粉末状粒子を含む反応液が得られ、(ニ)工程に付して、目的物を回収し、本発明のパラジウムナノコンポジット粉末状粒子を得る。
【0037】
反応液から、パラジウムナノコンポジット粉末状粒子を回収する方法としては、反応液を、例えば、遠心分離処理して、固形分を沈殿させ、沈殿物を回収した後、必要により洗浄及び透析等の常法の精製を行い、必要により更に乾燥することで本発明のパラジウムナノコンポジット粉末状粒子を得ることができる。
【0038】
本発明のパラジウムナノコンポジット粉末状粒子は、2007−239022公報のパラジウムナノコンポジット粉末状粒子に比べ、パラジウムナノコンポジット粉末状粒子に含有させるパラジウム粒子の含有率を温和な反応条件で高めることができ、また、水に対しても高分散可能である点で、水を反応溶媒とする有機合成反応の触媒としての用途についても期待できる。
【0039】
本発明のパラジウムナノコンポジット粉末状粒子分散液は、本発明のパラジウムナノコンポジット粉末状粒子が、分散溶媒に分散されている分散液である。
【0040】
本発明のパラジウムナノコンポジット粉末状粒子は、種々の分散溶媒に対して高い分散性を示す。そのため、本発明のパラジウムナノコンポジット粉末状粒子を分散溶媒に分散させて得られる分散液、すなわち、本発明のパラジウムナノコンポジット粉末状粒子分散液では、パラジウムナノコンポジット粉末状粒子が凝集せずに分散しているので、目視において固形物が観察されない。
【0041】
本発明のパラジウムナノコンポジット粉末状粒子分散液に係る分散溶媒としては、本発明のパラジウムナノコンポジット粉末状粒子に不活性で、均一分散可能なものであれば特に制限はなく、水又は有機溶媒のいずれでもよく、また、有機溶媒としては、極性有機溶媒又は非極性有機溶媒のいずれでもよい。本発明のパラジウムナノコンポジット粉末状粒子分散液に係る有機溶媒としては、例えば、メタノール、イソプロピルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール等が挙げられ、特に本発明のパラジウムナノコンポジット粉末状粒子は、水及びメタノールに対して極めて高い分散性を示す。
【0042】
本発明のパラジウムナノコンポジット粉末状粒子分散液中、パラジウムナノコンポジット粉末状粒子の濃度は、用途や使用方法等を考慮して適宜調製すればよく特に制限されるものではなく、多くの場合、1〜90重量%である。
【0043】
本発明に係るパラジウムナノコンポジット粉末状粒子は、各種溶媒に対して優れた分散性を示すことから、本発明に係るパラジウムナノコンポジット粉末状粒子は、非線形光学材料、導電性プラスチック、帯電防止剤、プラスチック充填材、アルキン化合物またはアルケン化合物の水素化触媒、クロスカップリング反応の触媒等に利用することができる。
また、本発明のパラジウムナノコンポジット粉末状粒子分散液は、所望の濃度に調製し、そのまま所望の有機合成反応に必要な基質を添加し反応をそのまま行うこともできる。
【0044】
本発明に係るパラジウムナノコンポジット粉末状粒子は、特に鈴木―宮浦カップリング反応の触媒として好適に用いることが出来る。
【0045】
鈴木―宮浦カップリング反応は、一般的には、塩基の存在下に、パラジウム触媒を用いて、有機ホウ素化合物と、ハロゲン化アリール、ハロゲン化ビニル、アリールトリフラート又はビニルトリフラートとをクロスカップリング反応させることにより、ビアリール化合物、アルキルアリール化合物又は置換オレフィンを製造する方法である。
この反応により、例えば、
一般式;RB(OR)又は一般式;(R
(式中、Rはアリール基、ビニル基又はアルキル基を示す。Rは水素原子又はアルキル基を示す。)と、
一般式;R
(式中、Rはアリール基又はビニル基、Xはハロゲン原子又はトリフラート基を示す。)とを反応させ、ビアリール化合物、アルキルアリール化合物、アルケニルアリール化合物又はジエン化合物を製造することができる。
【0046】
本発明に係るパラジウムナノコンポジット粉末状粒子は、特に前記鈴木―宮浦カップリング反応のパラジウム触媒として用いられる。
【0047】
鈴木―宮浦カップリング反応における本発明のパラジウムナノコンポジット粉末状粒子の使用量は、0.01〜10mol%、好ましくは0.1〜5mol%である。反応溶媒としては水と有機溶媒の混合溶媒を用いることができ、有機溶媒としてはトルエンなどの炭化水素が好ましく、ジメトキシエタン、テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトン等のケトン類、アセトニトリル等のニトリル類も好ましく用いることができる。必要に応じてエタノールのようなアルコールなどを添加することもできる。
【0048】
鈴木―宮浦カップリング反応において、添加する塩基はアルカリ金属の炭酸塩又はリン酸塩などが好適に用いられる。反応温度は70℃〜150℃、好ましくは100℃前後であり、反応時間は基質にも拠るが1時間〜24時間、通常は数時間で反応が終了する。
鈴木―宮浦カップリング反応において、塩基はアリルホスフィン配位子及びアルカリ金属の炭酸塩又はリン酸塩などが好適に用いられる。前記配位子として、例えば、ジメチルフェニルホスフィン、ジフェニルホスフィノフェロセン、トリフェニルホスフィン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、トリフェノキシホスフィン、トリ−o−トリルホスフィン、トリ−m−トリルホスフィン、トリ−p−トリルホスフィン等が挙げられる。
反応後の後処理は、濾過或いは遠心分離等によりパラジウムナノコンポジット粉末状粒子を除去・回収し、濾液を抽出、濃縮、及び精製操作により目的物を得ることができる。一方、回収したパラジウムナノコンポジット粉末状粒子は洗浄・乾燥することにより再使用が可能である。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<フルオロアルキル基含有オリゴマーの調製>
(合成例1;前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマー(以下、「Rf−オリゴマー」ということもある)
(合成例A1)
フッ素系溶媒AK−225(商品名:旭硝子社製アサヒクリンAK−225)中、開始剤:過酸化フルオロアルカノイル(RCO[R:−CF(CF3)OC]の2.95mmolを用い、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の2.95mmolおよび3−ヒドロキシ−1−アダマンチルアクリラートの17.7mmolを、窒素下45℃で5時間攪拌し、反応を行った。反応後、遠心分離を行って未反応モノマーを除去した後、AK−225で数回洗浄し、さらに遠心分離して、反応生成物を回収した。得られた反応生成物を真空乾燥機で1日間乾燥して、目的のオリゴマーを得た。
得られたオリゴマーのH−NMRで求めた共重合比(mol比)n1:n2=11:89であった。
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)(Shodex社製DS−4)で分子量を測定しが、数平均分子量Mnは測定不可であった。
【0050】
(合成例A2〜A6)
各原料の仕込みモル比を代えた以外は、合成例A1と同様な反応操作で目的とするオリゴマーを得た。
【0051】
【表1】

【0052】
{実施例1〜12}
メタノール4mlを溶媒とし、塩化パラジウム(PdCl)60.7mgと塩化ナトリウム20.7mgを室温(25℃)で1日間攪拌した。次いで、未溶解のものをフィルターでろ過し、前記で調製したフルオロアルキル基含有オリゴマーを表2に示す量と酢酸ナトリウム0.35gを加えて室温(25℃)で1時間反応を行った。
反応終了後、反応液を遠心分離処理して沈殿物を回収し、該回収物をメタノールで洗浄し、水で1日透析を行った。次いで、得られた液体をエバポレーションでメタノールに置き換え濃縮し、濃縮物を真空乾燥してパラジウムナノコンポジット粉末状粒子試料を得た。
得られたパラジウムナノコンポジット粉末状粒子試料をIRで分析した結果、いずれの実施例においてもフルオロアルキル基含有オリゴマー試料に起因するピークが観察された。また、パラジウムナノコンポジット粉末状粒子試料をX線回折分析した結果、パラジウム粒子に起因する回折ピークが観察された(図1参照。)
また、TEM観察により、実施例1〜12ではパラジウム粒子がフルオロアルキル基含有オリゴマー試料に取り込まれ、該マグネタイト粒子がカプセル化されていることが確認できた。実施例12で得られたパラジウムナノコンポジット粉末状粒子試料のTEM写真を図2に示す。
【0053】
【表2】


注)Rfオリゴマー;フルオロアルキル基含有オリゴマーを示す。収率は塩化パラジウムとフルオロアルキル基含有オリゴマーに基づいて算出した。
【0054】
<物性評価>
実施例1〜12で得られたパラジウムナノコンポジット粉末状粒子試料について、パラジウム粒子の含有量、平均粒子径について評価した。
(パラジウム粒子の含有量の評価)
得られたパラジウムナノコンポジット粉末状粒子についてTGA測定を行った。TGAカーブからパラジウム粒子の含有量を求めた(図3〜5参照)。
(平均粒子径の評価)
得られたパラジウムナノコンポジット粉末状粒子をメタノールに再分散させて光散乱光度計(大塚電子製のDLS−6000HL)を用いて測定した。
【0055】
【表3】

【0056】
(溶媒に対する分散性の評価)
実施例11で得られたパラジウムナノコンポジット粉末状粒子の各分散溶媒に対する分散性を試験した。その結果を表4に示す。なお、評価は溶媒5mlにパラジウムナノコンポジット粉末状粒子0.01gを添加し、分散状態を目視で観察した。
なお、表中の記号は以下のことを示す。
×;分散しない
△;一部分散
○;全部分散
◎;良好な分散
【0057】
【表4】


注)AK−225(ClCHCFCFとCClFCFCHClFとの重量比1:1の混合溶媒)、DE(1,2−ジクロロエタン)、THF(テトラヒドロフラン)、DMSO(ジメチルスルホキシド)、DMF(ジメチルホルムアミド)
【0058】
{実施例13}
メタノール4mlを溶媒とし、塩化パラジウム(PdCl)0.80mmolと塩化ナトリウム0.7mmolを室温(25℃)で1日間攪拌した。次いで、未溶解のものをフィルターでろ過し、前記で調製したフルオロアルキル基含有オリゴマー(試料A1)を64mgと酢酸ナトリウム8.54mmolを加えて室温(25℃)で1時間反応を行った。
反応終了後、反応液を遠心分離処理して沈殿物を回収し、該回収物をメタノールで洗浄し、水で1日透析を行った。次いで、得られた液体をエバポレーションでメタノールに置き換え濃縮し、濃縮物を真空乾燥してパラジウムナノコンポジット粉末状粒子試料(収率61%)を得た。
実施例1〜12と同様にして、パラジウム粒子の含有量及び平均粒子径を測定した。その結果、パラジウム含有量は61重量%で、平均粒子径は36±2.3nmであった。また、TEM観察により、実施例13ではパラジウム粒子がフルオロアルキル基含有オリゴマー粒子の粒子表面に存在していることが確認できた。実施例13で得られたパラジウムナノコンポジット粉末状粒子試料のTEM写真を図6に示す。
【0059】
(触媒能の評価)
【化4】


実施例13で得られたパラジウムナノコンポジット粉末状粒子試料、ブロモベンゼン、フェニルボロン酸、炭酸水素ナトリウム及びジメチルホルムアミド(DMF)を表5に示す割合で仕込み、窒素雰囲気中で8時間還流下に100℃で反応を行った。
反応終了後、遠心分離処理して、得られた上澄みをHPLCで分析した。
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、水等の溶媒に対しも、数十ナノレベルの極めて高い分散性を有するパラジウムナノコンポジット粉末状粒子を提供することが出来る。また、本発明によれば、該パラジウムナノコンポジット粉末状粒子を温和な条件下で製造でき、工業的に有利な方法で該ナノコンポジット粉末状粒子を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウム粒子が、下記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーで複合化されてなることを特徴とするパラジウムナノコンポジット粉末状粒子。
【化1】


{式中、R及びRは、−(CF)p−Y基、又は−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、R及びR中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。Bは炭素数1〜5のアルキレン基を示す。n3は5〜1000の整数である。n1とn2のモル比は1:99〜99:1である。}
【請求項2】
平均粒子径が10〜100nmであることを特徴とする請求項1記載のパラジウムナノコンポジット粉末状粒子。
【請求項3】
パラジウム粒子と、前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーとを溶媒中で接触させることを特徴とする請求項1記載のパラジウムナノコンポジット粉末状粒子の製造方法。
【請求項4】
パラジウム源を溶媒中で還元してパラジウム粒子を製造する方法において、溶媒中に前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーを存在させて、還元反応を行うことを特徴とする請求項3記載のパラジウムナノコンポジット粉末状粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2のいずれか一項記載のパラジウムナノコンポジット粉末状粒子が、分散溶媒に分散されていることを特徴とする粒子分散液。
【請求項6】
鈴木−宮浦カップリング反応の触媒として用いられることを特徴とする請求項1又は2記載のパラジウムナノコンポジット粉末状粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−235942(P2010−235942A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54862(P2010−54862)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【Fターム(参考)】