説明

パラジウム含有触媒、その製造方法、およびα,β−不飽和カルボン酸の製造方法

【課題】アルコール、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を高生産性で製造するための触媒、その触媒の製造方法、およびα,β−不飽和カルボン酸の製造方法を提供する。
【解決手段】アルコール、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を製造するためのパラジウム含有触媒であって、触媒構成元素としてパラジウム元素およびタングステン元素を含有するパラジウム含有触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を製造するためのパラジウム含有触媒、その製造方法、およびα,β−不飽和カルボン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
α,β−不飽和カルボン酸は工業上有用な物質が多い。例えば、アクリル酸やメタクリル酸は合成樹脂原料などの用途に極めて大量に使用されている。
【0003】
α,β−不飽和カルボン酸を製造する方法として、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素により液相酸化して製造する方法について研究がされている。オレフィンを分子状酸素により液相酸化してα,β−不飽和カルボン酸を製造するための触媒として、例えば、特許文献1では、パラジウムと、鉛、ビスマス、タリウムまたは水銀との金属間化合物を含有するパラジウム含有触媒が提案されている。また、特許文献1においては、モリブデンの酸化物、ヘテロポリモリブデン酸およびヘテロポリモリブデン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種のモリブデン化合物の水溶液と前記触媒の存在下でオレフィンを酸化することが記載されている。
【0004】
また、オレフィンからα,β−不飽和アルデヒドおよびα,β−不飽和カルボン酸を製造、または、α,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を製造するための触媒として、例えば、特許文献2では、パラジウム金属1.0モルに対してテルル金属0.001〜0.40モルを含有するパラジウム含有触媒が提案されている。また、特許文献3では、パラジウム担持触媒およびその製造方法として、シリカ担体に金属酸化物が含まれているシリカ−金属酸化物担体に、パラジウムを担持した触媒が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭56−59722号公報
【特許文献2】国際公開第2005/118134号
【特許文献3】特開2007−203284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の特許文献1〜3に記載された方法に準じて製造したパラジウム含有触媒を使用した液相酸化においては、このパラジウム含有触媒の活性は十分といえず、より生産性が高いα,β−不飽和カルボン酸製造用触媒の開発が望まれている。
【0007】
従って本発明の目的は、アルコール、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を高生産性で製造するための触媒、その触媒の製造方法、およびα,β−不飽和カルボン酸の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、アルコール、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を製造するためのパラジウム含有触媒であって、触媒構成元素としてパラジウム元素およびタングステン元素を含有するパラジウム含有触媒である。前記パラジウム含有触媒は、さらに、触媒構成元素としてテルル元素を含有することが好ましい。また、前記触媒構成元素の少なくとも1種が担体に担持されている担持型のパラジウム含有触媒とすることが好ましい。
【0009】
また、本発明はパラジウム含有触媒を製造する方法であって、担持型のパラジウム含有触媒を製造する場合には、パラジウム元素とタングステン元素とを同時に担体に担持させる、または、パラジウム元素を担体に担持させた後、タングステン元素を担持させることが好ましい。さらに、酸化状態のパラジウム元素を含む化合物を還元剤で還元する工程を含むパラジウム含有触媒の製造方法である。担持型のパラジウム含有触媒を製造する場合は、前記還元工程を担体の存在下で行うことが好ましい。
【0010】
さらに本発明は、前記パラジウム含有触媒を用いて、アルコール、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素により液相酸化するα,β−不飽和カルボン酸の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アルコール、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を高生産性で製造できるパラジウム含有触媒、その触媒の製造方法、およびα,β−不飽和カルボン酸の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のパラジウム含有触媒(以後、略して「触媒」ともいう。)は、アルコール、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素で液相酸化してα,β−不飽和カルボン酸を製造する(以後、略して「液相酸化」ともいう。)ための触媒であって、パラジウム元素およびタングステン元素を含有する。触媒中にパラジウム元素およびタングステン元素を含有することで、アルコール、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を高生産性で製造することが可能な触媒が得られる。触媒中のパラジウム元素1モルに対するタングステン元素のモル数、すなわちタングステン元素とパラジウム元素のモル比(「W/Pd」と略すこともある)は、0.001〜0.25が好ましく、0.01〜0.225がより好ましい。触媒にタングステン元素を含有させることによって、α,β−不飽和カルボン酸の生産性が向上するが、過剰に含有させると、逆にα,β−不飽和カルボン酸の生産性が低下する。
【0013】
本発明の触媒は、さらにテルル元素を含有することが好ましい。触媒中のパラジウム元素1モルに対するテルル元素のモル数、すなわちテルル元素とパラジウム元素のモル比(「Te/Pd」と略すこともある)は、0.001〜0.4が好ましく、0.005〜0.35がより好ましく、0.01〜0.3がさらに好ましい。触媒にテルル元素を含有させることによって、α,β−不飽和カルボン酸の生産性が向上するが、過剰に含有させると、逆にα,β−不飽和カルボン酸の生産性が低下する。
【0014】
このW/PdおよびTe/Pdは、パラジウム含有触媒の製造に使用する、酸化状態のパラジウム元素を含む化合物、タングステン元素を含む化合物、およびテルル元素を含む化合物の配合比等により調整可能である。なお、本明細書において、パラジウム含有触媒の製造に使用する、酸化状態のパラジウム元素を含む化合物を「Pd原料」、タングステン元素を含む化合物を「W原料」、テルル元素を含む化合物を「Te原料」ともいう。
【0015】
W/PdおよびTe/Pdは、触媒に含まれるタングステン元素とパラジウム元素の質量および原子量、テルル元素とパラジウム元素の質量および原子量からそれぞれ算出できる。触媒に含まれるパラジウム元素、タングステン元素およびテルル元素の質量は元素分析により定量できる。元素分析法による触媒中のパラジウム元素とタングステン元素の質量の定量方法としては次のα処理液とβ処理液を調製して分析する方法が例示できる。テルル元素も同様に測定できる。
α処理液の調製:触媒0.2g、および、所定量の濃硝酸、濃硫酸、過酸化水素水をテフロン(登録商標)製分解管にとり、マイクロ波加熱分解装置(CEM社製、MARS5(商品名))で溶解処理を行う。試料をろ過し、ろ液および洗浄水を合わせてメスフラスコにメスアップし、α処理液とする。
β処理液の調製:α処理液調製の際の不溶解分を集めたろ紙を白金製ルツボに移し加熱・灰化した後、メタホウ酸リチウムを加えてガスバーナーで溶融する。冷却後に塩酸と少量の水をルツボに入れて溶解後、メスフラスコにメスアップし、β処理液とする。
【0016】
得られたα処理液およびβ処理液に含まれる各元素の質量を、ICP発光分析装置(サーモエレメンタル社製、IRIS−Advantage(商品名))で定量し、両処理液中の元素毎の質量合計から触媒中の各元素の質量を求めることができる。
【0017】
また、ポアフィリング法や浸漬担持法のようにPd原料、W原料およびTe原料に含まれるパラジウム元素、タングステン元素およびテルル元素の実質的に全量が触媒に含まれる方法で触媒を製造した場合には、使用するPd原料のパラジウム含有率と配合量、使用するW原料のタングステン含有率と配合量、使用するTe原料のテルル含有率と配合量から各元素の質量を算出してもよい。
【0018】
本発明の触媒は、非担持型でもよいが、触媒構成元素(パラジウム元素、タングステン元素およびテルル元素)の少なくとも1種または全部が担体に担持されている担持型が好ましい。担体としては、例えば、活性炭、カーボンブラック、シリカ、アルミナ、マグネシア、カルシア、チタニアおよびジルコニア等が挙げられる。中でもシリカ、アルミナ、マグネシア、カルシア、チタニアおよびジルコニアがより好ましく、シリカ、チタニア、ジルコニアが特に好ましい。担体は1種でもよいが、2種以上を用いることもできる。2種以上を用いる場合は、例えば、シリカとアルミナとを混合して得られる混合酸化物等の混合物、複合酸化物であるシリカ−アルミナ等の複合物等が挙げられる。
【0019】
担体の好ましい比表面積は担体の種類等により異なるので一概にいえないが、シリカの場合、50m2/g以上が好ましく、100m2/g以上がより好ましい。また1500m2/g以下が好ましく、1000m2/g以下がより好ましい。担体の比表面積は、小さいほど有用成分(パラジウム元素、タングステン元素およびテルル元素)がより表面に担持された触媒の製造が可能となり、大きいほど有用成分が多く担持された触媒の製造が可能となる。
【0020】
担体の細孔容積は特に限定されないが、0.1cc/g以上が好ましく、0.2cc/g以上がより好ましい。また2.0cc/g以下が好ましく、1.5cc/g以下がより好ましい。
【0021】
担体の形状やサイズは、反応装置の形状、サイズ等によって異なり、特に制限されないが、例えば、粉末状、粒状、球状、ペレット状など種々の形状が挙げられる。中でもろ別等の操作性が容易な粒状、球状が好ましい。担体が粉末状や粒状の場合の粒径(メディアン径)は、0.5μm以上が好ましく、1.0μm以上がより好ましい。また、200μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましい。担体の粒径は大きいほど触媒と反応液の分離が容易になり、小さいほど反応液中における触媒の分散性がよくなる。
【0022】
担持型触媒の場合、担体に対するパラジウム元素の担持率は、担持前の担体質量に対して0.1〜40質量%が好ましく、0.5〜30質量%がより好ましく、1.0〜20質量%がさらに好ましい。
【0023】
担持型触媒の場合での各元素の担持率は、前記の方法等で求められる各元素の質量と使用する担体の質量から算出できる。また、担体の質量は、次のような方法で定量することもできる。すなわち、触媒を白金るつぼにとり、炭酸ナトリウムを加えて融解する。その後、蒸留水を加えて均一溶液として、ICP発光分析で試料溶液中の特定元素の定量をする。例えばシリカ担体の場合、Si元素を定量する。
【0024】
本発明の触媒は、パラジウム元素、タングステン元素、およびテルル元素以外の、その他の金属元素を触媒構成元素として含んでいてもよい。その他の金属元素としては、例えば、白金、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、金、銀、オスミウム、銅、鉛、ビスマス、タリウム、水銀、アンチモン等が挙げられる。他の金属元素は1種または2種以上含有することができる。高い触媒活性を発現させる観点から、触媒に含まれる全ての触媒構成元素のうち、パラジウム元素、タングステン元素、およびテルル元素の合計が60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。
【0025】
触媒の製造に使用するその他の金属元素の原料としては、単体(金属)またはその他の金属元素を含む化合物(以後、「その他の原料」ともいう。)を使用することができる。以後、その他の原料、Pd原料、W原料およびTe原料をまとめて「金属原料」ともいう。
【0026】
触媒中において、金属元素が金属または化合物のいずれの状態で含まれているかは、XPS分析によって結合状態を定性的に確認することで知ることができる。
【0027】
次に、本発明の触媒の製造方法について説明する。
【0028】
前に述べたように本発明の触媒は、非担持型でもよいが、触媒構成元素(パラジウム元素、タングステン元素およびテルル元素)の少なくとも1種または全部が担体に担持されている担持型が好ましい。
【0029】
本発明の担持型触媒は、担体にPd原料を担持する工程(以後、「Pd担持工程」ともいう。)、担体にW原料を担持する工程(以後、「W担持工程」ともいう。)を含む方法で好適に製造できる。テルルを含有する担持型触媒を製造する場合には、担体にTe原料を担持する工程(以後、「Te担持工程」ともいう。)をさらに有する方法で好適に製造できる。その他の金属元素を含有する担持型触媒を製造する場合には、担体にその他の原料を担持する工程(以後、「その他の担持工程」ともいう。)を有する方法で製造することができる。Pd担持工程において担持するPd原料が酸化状態のパラジウム元素を含む化合物である場合、このPd原料を還元してパラジウム金属に変える工程(以後、「Pd還元工程」ともいう。)が必要である。W原料が酸化状態のタングステン元素を含む場合、Te原料が酸化状態のテルル元素を含む場合、およびその他の原料が酸化状態のその他の金属元素を含む場合の各原料を還元して金属に変える工程(以後、それぞれ「W還元工程」、「Te還元工程」、「その他の還元工程」ともいう。)は、実施しても、しなくてもよい。すなわち、触媒中において、タングステン元素、テルル元素、その他の金属元素は、金属または化合物のいずれの状態で含まれていてもよい。
【0030】
Pd担持工程、W担持工程、Te担持工程およびその他の担持工程(以後、これらをまとめて「担持工程」ともいう。)において、金属原料を担持する方法としては、例えば、金属原料の1種または2種以上を溶媒に溶解または分散した溶液またはスラリーを担体に含浸した後、乾燥して溶媒を除去する方法が挙げられる。
【0031】
溶液またはスラリーを担体に含浸する方法としては、溶液またはスラリーを担体に吸収させる、ポアフィリング法や浸漬法が好ましい。溶媒は金属原料を溶解または分散できるものであれば特に限定されない。金属原料の溶媒としては、例えば、水;酢酸、吉草酸等の有機カルボン酸類;硝酸、塩酸等の無機酸;エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類等を単独または複数組み合わせて用いることができる。金属原料の溶解性または分散性あるいは担体の分散性の観点から、水、有機カルボン酸類が好ましい。
【0032】
担持工程において、金属原料を担持する順序としては、パラジウム元素とタングステン元素とを同時に担体に担持させる、または、パラジウム元素を担体に担持させた後、タングステン元素を担持させることが好ましい。テルル元素等のパラジウム元素、タングステン元素以外の構成元素を含む触媒であれば、パラジウム元素とタングステン元素とを同時に担体に担持させる場合には、テルル元素等の他の構成元素をそれらと同時に担持させてもよい。タングステン元素よりも前にパラジウム元素を担体に担持させる場合には、テルル元素等の他の構成元素をパラジウム元素と同時に担持させてもよい。担持工程の操作は、溶液またはスラリーを用いて1度だけ行うこともできるが、複数の溶液またはスラリーを用いて複数回行うこともできる。複数回行う場合の2回目以降の担持工程は前回の担持工程後、後述する還元工程後のいずれに行ってもよい。
【0033】
Pd原料としては、例えば、パラジウム塩、酸化パラジウム、酸化パラジウム合金等が挙げられる。中でも、パラジウム塩が好ましい。パラジウム塩としては、例えば、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、テトラアンミンパラジウム塩化物およびビス(アセチルアセトナト)パラジウム等が挙げられる。中でも、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、硝酸パラジウム、テトラアンミンパラジウム塩化物が好ましい。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0034】
W原料としては、例えば、タングステン金属、タングステン酸、タングステン酸アンモニウム、メタタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸アンモニウム、タングステン塩、酸化タングステン等が挙げられる。タングステン塩としては、例えば、オキシ四塩化タングステン、六塩化タングステン、タングステンペンタエトキシド、タングステンペンタ−iso−プロポキシド等が挙げられる。中でも、タングステン酸、タングステン酸アンモニウム、メタタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸アンモニウムが好ましい。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。なお、W還元工程は必ずしも必須ではないことから、W原料に含まれるタングステン元素は、酸化状態でも金属状態でも良い。
【0035】
Te原料としては、テルル金属、テルル塩、テルル酸およびその塩、亜テルル酸およびその塩、酸化テルル等が挙げられる。中でも、テルル酸およびその塩、亜テルル酸およびその塩、酸化テルルが好ましい。テルル塩としては、例えば、テルル化水素、四塩化テルル、二塩化テルル、六フッ化テルル、四ヨウ化テルル、四臭化テルル、二臭化テルル等が挙げられる。テルル酸塩としては、例えば、テルル酸ナトリウム、テルル酸カリウム等が挙げられる。亜テルル酸塩としては、例えば、亜テルル酸ナトリウム、亜テルル酸カリウム等が挙げられる。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。なお、Te還元工程は必ずしも必須ではないことから、Te原料に含まれるテルル元素は、酸化状態でも金属状態でも良い。
【0036】
また、上記の化合物の他に、パラジウム元素、タングステン元素およびテルル元素のうち2種以上の元素を含有する化合物を、その2種以上の元素の原料として用いることも可能である。具体的には、例えばパラジウム−テルル錯体等〔PdXn(TeRR’)4-n〕(式中、Pdはパラジウムを表し、Xはフッ素、塩素、臭素またはヨウ素を表し、TeRR’は有機テルル化合物を表す。)を、Pd原料かつTe原料として用いることが挙げられる。酸化状態のパラジウム元素とタングステン元素の両方を含有する化合物等をPd原料かつW原料として用いることも可能である。
【0037】
上記のようなPd原料およびW原料を適宜選択して、触媒を製造するための原料として用いる。これらの原料の配合量は、W/Pdやパラジウム元素の担持率が目的とする値となるように適宜選択する。テルル元素を含有する触媒を製造する場合には、さらに上記のようなTe原料を適宜選択して、触媒を製造するための原料として用いる。Te原料の配合量は、Te/Pdが目的とする値となるように適宜選択する。
【0038】
また、パラジウム元素、タングステン元素、テルル元素以外に、その他の金属元素を触媒構成元素として含む触媒を製造する場合は、原料として、その他の原料を併用すればよい。その他の原料としては、例えば、その他の金属元素を含む、金属、金属酸化物、金属塩、金属酸素酸、金属酸素酸塩等が挙げられる。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。なお、その他の原料の酸化数は任意である。
【0039】
前に述べたように、Pd担持工程において担持するPd原料が酸化状態のパラジウム元素を含む化合物である場合には、Pd還元工程は必須である。一方、W還元工程、Te還元工程およびその他の還元工程の実施は任意である。これらの各還元工程は別々に行ってもよいし、2種以上の元素の還元工程を同時に行ってもよい。また、還元工程を行う順序は任意である。
【0040】
担持型の触媒を製造する際の還元方法としては、例えば、(1)酸化状態の金属元素を含む原料を担体上に担持してから還元剤を接触させて金属元素を還元する方法、(2)酸化状態の金属元素を含む原料の溶液またはスラリーと担体が接触している状態で還元剤を接触させて溶液またはスラリー中の金属元素を還元すると同時に担持する方法、(3)(2)の方法を実施した後、さらに他の原料を添加する方法等が挙げられる。中でも金属元素の分散度が高い触媒が得られ易い(1)の還元方法が好ましい。
【0041】
(1)の還元方法としては、金属原料を上記の担持工程により担体上に担持した後、還元剤を接触させて酸化物を還元する方法が挙げられる。また、その還元に先立って加熱処理して金属酸化物として担体に担持し、次いで還元剤を接触させて酸化物を還元する方法が好ましい。加熱処理の温度は金属原料が酸化物に変化する分解温度以上とすることが好ましい。加熱処理の時間は金属原料の少なくとも一部が金属酸化物に変化する時間であればよく、1〜12時間が好ましい。
【0042】
(2)の還元方法としては、例えば、金属原料の1種または2種以上を前述したような溶媒に溶解または分散した溶液またはスラリーを担体に含浸させた状態で還元剤を接触させて金属原料を還元する方法、前記溶液またはスラリー中に担体を分散させた状態で還元剤を接触させて金属原料を還元する方法等が挙げられる。
【0043】
還元剤を接触させる操作は、全ての金属原料を含む溶液またはスラリーを用いて1度だけ行うこともできるが、一部の金属原料を含む複数の溶液またはスラリーを用いて複数回行うこともできる。複数回行う場合は、2回目以降の還元処理では前回の還元処理した担体を使用する。
【0044】
(3)の還元方法としては、例えば、担体の存在下で金属原料を還元剤で還元した後の溶液またはスラリーに、別途、他の金属原料を水などの溶媒に溶解または分散させた溶液またはスラリーを添加する手法が好ましい。添加する溶液またはスラリーの溶媒としては、水が一般的であるが、前述したような種々の有機溶媒等を用いてもよい。他の金属原料を添加した後に、再度還元剤を添加して還元してもよい。
【0045】
還元処理を複数回行う場合、還元剤の種類、還元温度および時間、液相で行う際の溶媒の種類等は、各回で独立して適宜設定できる。
【0046】
還元の際に用いる還元剤は特に限定されないが、例えば、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、水素化ホウ素ナトリウム、水素、蟻酸、蟻酸の塩、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブチレン、1,3−ブタジエン、1−ヘプテン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、シクロヘキセン、アリルアルコール、メタクリルアルコール、アクロレインおよびメタクロレイン等が挙げられる。中でもヒドラジン、ホルムアルデヒド、水素、蟻酸、蟻酸の塩が好ましい。また、これらを2種以上併用することもできる。
【0047】
液相中で還元する際に使用する溶媒としては、水が好ましいが、担体の分散性によっては、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸、n−吉草酸、イソ吉草酸等の有機酸類;ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類等の有機溶媒を単独または複数組み合わせて用いることができる。これらと水の混合溶媒を用いることもできる。
【0048】
還元剤が気体の場合、溶液中への溶解度を上げるためにオートクレーブ等の加圧装置中で行うことが望ましい。その際、加圧装置の内部を還元剤で加圧することが好ましい。その圧力は0.1〜1MPa(ゲージ圧;以下の圧力はゲージ圧表記とする)が好ましい。
【0049】
また、還元剤が液体の場合、還元を行う装置に制限はなく溶液中に還元剤を添加することで行うことができる。このときの還元剤の使用量は特に限定されないが、還元する原料1モルに対して1モル〜100モルとすることが好ましい。
【0050】
還元温度および還元時間は、還元する原料や還元剤等により異なるが、還元温度は−5〜150℃が好ましく、15〜80℃がより好ましい。還元時間は0.1〜4時間が好ましく、0.25〜3時間がより好ましく、0.5〜2時間がさらに好ましい。
【0051】
還元を必要としない金属原料を用いて担持型触媒を製造する場合は、上記の還元を終えた担体に、その金属原料を担持させればよい。
【0052】
上記Pd原料、W原料およびTe原料の担持、加熱処理および還元処理の全ての工程は同時、または任意の順序で行うことができる。また、その場合Pd原料の加熱処理の後に還元処理を行うことが好ましい。
【0053】
得られた触媒は、水、有機溶媒等で洗浄することが好ましい。水、有機溶媒等での洗浄により、例えば、塩化物、酢酸根、硝酸根、硫酸根等の金属原料等に由来する不純物が除去される。洗浄の方法および回数は特に限定されないが、不純物によっては液相酸化反応を阻害する場合があるため不純物を十分除去できる程度に洗浄することが好ましい。洗浄された触媒は、ろ別または遠心分離などにより回収した後、そのまま反応に用いてもよい。また、Pd還元工程、W還元工程およびTe還元工程を別工程で行う場合、その工程間で洗浄を行うことも好ましい。
【0054】
また、回収された触媒を乾燥してもよい。乾燥方法は特に限定されないが、乾燥機を用いて空気中または不活性ガス中で乾燥することが好ましい。乾燥された触媒は、必要に応じて反応に使用する前に活性化することもできる。活性化の方法は特に限定されないが、例えば、水素気流中の還元雰囲気下で熱処理する方法が挙げられる。この方法によれば触媒構成元素の酸化被膜および洗浄で取り除けなかった不純物を除去することができる。調製した触媒の物性は、BET表面積測定、XRD測定、COパルス吸着法、TEM測定等により確認できる。
【0055】
次に、本発明の触媒を用いて、アルコール、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素により液相酸化するα,β−不飽和カルボン酸の製造方法について説明する。
【0056】
原料のアルコールとしては、例えば、2−プロパノール、t−ブタノール、2−ブタノール等が挙げられる。中でも、2−プロパノールおよびt−ブタノールが好適である。原料のアルコールは2種以上併用することもできる。原料のアルコールは、不純物として水や飽和炭化水素および/または低級飽和アルデヒドを少量含んでも良い。アルコールを原料とした製造では、脱水反応を経由してα,β−不飽和カルボン酸が得られる。例えば、原料が2−プロパノールの場合はプロピレンを経由するので、プロピレンと同一骨格を有するアクリル酸が得られ、原料がt−ブタノールの場合はイソブチレンを経由するので、イソブチレンと同一骨格を有するメタクリル酸が得られる。
【0057】
原料のオレフィンとしては、例えば、プロピレン、イソブチレン、2−ブテン等が挙げられる。中でも、プロピレンおよびイソブチレンが好適である。原料のオレフィンは2種以上併用することもできる。原料のオレフィンは、不純物として飽和炭化水素および/または低級飽和アルデヒド等を少量含んでいてもよい。オレフィンから製造されるα,β−不飽和カルボン酸は、オレフィンと同一炭素骨格を有するα,β−不飽和カルボン酸である。例えば、原料がプロピレンの場合アクリル酸が得られ、原料がイソブチレンの場合メタクリル酸が得られる。また、通常オレフィンからはα,β−不飽和アルデヒドが同時に得られる。このα,β−不飽和アルデヒドは、オレフィンと同一炭素骨格を有するα,β−不飽和アルデヒドである。例えば、原料がプロピレンの場合アクロレインが得られ、原料がイソブチレンの場合メタクロレインが得られる。
【0058】
原料のα,β−不飽和アルデヒドとしては、例えば、アクロレイン、メタクロレイン、クロトンアルデヒド(β−メチルアクロレイン)、シンナムアルデヒド(β−フェニルアクロレイン)等が挙げられる。中でも、アクロレインおよびメタクロレインが好適である。原料のα,β−不飽和アルデヒドは2種以上併用することもできる。原料のα,β−不飽和アルデヒドは、不純物として飽和炭化水素および/または低級飽和アルデヒド等を少量含んでいてもよい。α,β−不飽和アルデヒドから製造されるα,β−不飽和カルボン酸は、α,β−不飽和アルデヒドのアルデヒド基がカルボキシル基に変化したα,β−不飽和カルボン酸である。例えば、原料がアクロレインの場合アクリル酸が得られ、原料がメタクロレインの場合メタクリル酸が得られる。
【0059】
アルコール、オレフィンおよびα,β−不飽和アルデヒドから選択される2種以上の原料を組み合わせることもできる。原料の組み合わせは、オレフィンとアルコールの組み合わせが好ましく、原料としてアルコールを用いる場合は原料兼溶媒として用いることが好ましい。
【0060】
液相酸化反応は連続式、バッチ式のいずれの形式で行ってもよいが、生産性を考慮すると工業的には連続式が好ましい。
【0061】
液相酸化反応に用いる分子状酸素源は、空気が経済的であり好ましいが、純酸素または純酸素と空気との混合ガスを用いることもでき、必要であれば、空気または純酸素を窒素、二酸化炭素、水蒸気等で希釈した混合ガスを用いることもできる。分子状酸素は、オートクレーブ等の反応容器内に加圧状態で供給することが好ましい。
【0062】
液相酸化反応に用いる溶媒としては、例えば、t−ブタノール、シクロヘキサノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸、プロピオン酸、n−酪酸、iso−酪酸、n−吉草酸、iso−吉草酸、酢酸エチルおよびプロピオン酸メチルからなる群から選ばれる少なくとも1つの有機溶媒を用いることが好ましい。中でも、t−ブタノール、メチルイソブチルケトン、酢酸、プロピオン酸、n−酪酸、iso−酪酸、n−吉草酸およびiso−吉草酸からなる群から選ばれる少なくとも1つの有機溶媒がより好ましい。また、α,β−不飽和カルボン酸をより選択率よく製造するために、これら有機溶媒に水を共存させることが好ましい。共存させる水の量は特に限定されないが、有機溶媒と水の合計質量に対して好ましくは2質量%以上、より好ましくは5質量%以上であり、好ましくは70質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。有機溶媒と水との混合物は均一な状態であることが望ましいが、不均一な状態であっても差し支えない。
【0063】
液相酸化の反応系中に存在するオレフィンおよびα,β−不飽和アルデヒドの合計濃度は、反応器内に存在する溶媒に対して0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。また30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。アルコールを原料として用いる場合には、アルコール、オレフィンおよびα,β−不飽和アルデヒドの合計濃度は、反応器内に存在する液量全体中、0.5質量%以上が好ましく、2.0質量%以上がより好ましい。また95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましい。
【0064】
また、反応系中に酸性物質が共存していても差し支えない。酸性物質としては、無機酸、ヘテロポリ酸およびその塩、並びに固体酸等が挙げられる。酸性物質は2種以上を併用することもできる。
【0065】
分子状酸素の使用量は、反応系中に存在するオレフィンおよびα,β−不飽和アルデヒドの合計1モルに対して0.1モル以上が好ましく、0.2モル以上がより好ましく、0.3モル以上が特に好ましい。また、20モル以下が好ましく、15モル以下がより好ましく、10モル以下が特に好ましい。
【0066】
触媒は液相酸化を行う反応液に懸濁させた状態で使用することが好ましいが、固定床で使用してもよい。触媒の使用量は、反応器内に存在する溶液に対して0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上が特に好ましい。また、40質量%以下が好ましく、35質量%以下がより好ましく、30質量%以下が特に好ましい。
【0067】
反応温度および反応圧力は、用いる溶媒および原料によって適宜選択される。反応温度は30℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましい。また、200℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましい。反応圧力は大気圧(0MPa)以上が好ましく、0.2MPa以上がより好ましい。また、10MPa以下が好ましく、7MPa以下がより好ましい。
【実施例】
【0068】
以下、本発明について実施例、比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。下記の実施例および比較例中の「部」は質量部である。
【0069】
W/Pd、Te/Pdおよびパラジウム元素の担持率の算出に用いるパラジウム元素、タングステン元素およびテルル元素の質量は、それぞれ、使用するPd原料のパラジウム含有率と配合量、使用するW原料のタングステン含有率と配合量、および使用するTe原料のテルル含有率と配合量から算出した。また、担体質量に対するパラジウム元素の質量の比を「パラジウム元素の担持率」とした。担体質量は次のように定量した。まず、触媒を白金るつぼにとり、炭酸ナトリウムを加えて融解した。そして、蒸留水を加えて均一溶液として、ICPで試料溶液中のSi原子を定量した。
【0070】
(α,β−不飽和カルボン酸の製造における生成物の分析)
α,β−不飽和カルボン酸の製造における生成物の分析は、ガスクロマトグラフィーを用いて行った。なお、生成するα,β−不飽和カルボン酸の生産性は以下のように定義される。
【0071】
α,β−不飽和カルボン酸の生産性(g/(gPd×h))=A/(B×C)
ここで、Aは生成したα,β−不飽和カルボン酸の質量(単位:g)、Bは触媒に含まれるパラジウム元素の質量(単位:g)、Cは反応時間(単位:時間)である。
【0072】
[実施例1]
(触媒調製)
パラタングステン酸アンモニウム五水和物[(NH4101241・5H2O]0.25部に純水40部を加え、60℃に加熱し溶解液Aを調製した。溶解液Aに硝酸パラジウム硝酸溶液(パラジウム元素23.5質量%)4.26部を加え、均一溶液を調製した。この溶液に粒状のシリカ担体(BET法による比表面積450m2/g、窒素ガス吸着法による細孔容積0.68cc/g、メディアン径53.58μm)20部を完全に浸漬した後、エバポレーションで浸漬溶媒を除去した。このような浸漬担持法で溶液を含浸させた担体を空気中300℃で3時間焼成(昇温速度=1℃/分)を行い、パラジウム元素およびタングステン元素が担持された触媒前駆体(A)を調製した。
【0073】
37質量%ホルムアルデヒド水溶液40.0部に触媒前駆体(A)を加えた。これを70℃に加熱し、2時間攪拌保持することで還元処理を行った。次いで、吸引ろ過後、温水1000部でろ過洗浄して、パラジウム元素およびタングステン元素がシリカ担体に担持された触媒を調製した。この触媒のW/Pdは0.1、パラジウム元素の担持率は5.0質量%であった。
【0074】
(反応評価)
オートクレーブに上記の方法で調製した触媒のうち10.6g(パラジウム元素としては0.5g)を内容積330mlのオートクレーブ(東洋高圧製、型式:LC−3)に仕込んだ。さらに、反応溶媒としての86質量%t−ブタノール水溶液100gと、反応溶液に対して200ppmとなる量のラジカルトラップ剤としてのp−メトキシフェノールとを入れ、オートクレーブを密閉した。オートクレーブ内を窒素ガスで置換し、次いで、イソブチレンを6.5g導入し、攪拌(回転数1000rpm)を開始し、110℃まで昇温した。昇温完了後、オートクレーブ内に窒素を内圧2.4MPaまで導入した後、圧縮空気を内圧4.8MPaまで導入した。反応中に内圧が0.2MPa低下した時点(内圧4.6MPa)で、酸素を0.2MPa導入する操作を繰り返した。酸素追加量の合計が2.0MPaに達した時点で反応を終了した。反応時間は23分であった。
【0075】
反応終了後、氷水浴にてオートクレーブ内を冷却した。オートクレーブのガス出口にガス捕集袋を取り付け、ガス出口を開栓して出てくるガスを回収しながらオートクレーブ内の圧力を開放した。オートクレーブから触媒入りの反応液を取り出し、メンブランフィルターで触媒を分離して、反応液を回収した。回収した反応液と捕集したガスをガスクロマトグラフィーにより分析した。このとき生成したメタクリル酸は21.8mmol(1.88g)であり、メタクリル酸の生産性は9.8(g/(gPd×h))であった。結果を表1に示した。
【0076】
[比較例1]
(触媒調製)
実施例1の触媒調製においてW原料の添加を行わなかった。即ち溶解液Aを調製せず、硝酸パラジウム硝酸溶液(パラジウム元素23.5質量%)4.26部に純水40部を加え均一溶液を調製し、実施例1と同様の操作で触媒調製を行い、パラジウム元素がシリカ担体に担持された触媒を調製した。パラジウム元素の担持率は5.0質量%であった。
【0077】
(反応評価)
上記の方法で調製した触媒のうち10.5g(パラジウム元素としては0.5g)を用いた以外は、実施例1と同様の操作で反応評価を行った。酸素追加量の合計が2.0MPaに達した時点で反応を終了した。反応時間は33分であった。このときの生成したメタクリル酸は19.5mmol(1.68g)であり、メタクリル酸の生産性は6.1(g/(gPd×h))であった。結果を表1に示した。
【0078】
[実施例2]
(触媒調製)
実施例1と同様の手順で溶解液Aを調製した。テルル酸0.11部に純水10部を加え溶解させ溶解液Bを調製した。溶解液Aと溶解液Bとを混合し、さらに硝酸パラジウム硝酸溶液(パラジウム元素23.5質量%)4.26部を加え均一溶液を調製した。この溶液に実施例1と同様のシリカ担体20部を加え完全に浸漬した後、実施例1と同様の操作で触媒調製を行い、パラジウム元素、タングステン元素およびテルル元素がシリカ担体に担持された触媒を調製した。この触媒のW/Pdは0.1、Te/Pdは0.05、パラジウム元素の担持率は5.0質量%であった。
【0079】
(反応評価)
上記の方法で調製した触媒のうち10.6g(パラジウム元素としては0.5g)を用いた以外は、実施例1と同様の操作で反応評価を行った。酸素追加量の合計が2.0MPaに達した時点で反応を終了した。反応時間は20分であった。このときの生成したメタクリル酸は26.4mmol(2.27g)であり、メタクリル酸の生産性は13.1(g/(gPd×h))であった。結果を表1に示した。
【0080】
[実施例3]
(触媒調製)
パラタングステン酸アンモニウム五水和物[(NH4101241・5H2O]0.37部を用いたこと以外は、実施例2と同様の操作で触媒調製を行いパラジウム元素、タングステン元素およびテルル元素がシリカ担体に担持された触媒を調製した。この触媒のW/Pdは0.15、Te/Pdは0.05、パラジウム元素の担持率は5.0質量%であった。
【0081】
(反応評価)
上記の方法で調製した触媒のうち10.7g(パラジウム元素としては0.5g)を用いた以外は、実施例1と同様の操作で反応評価を行った。酸素追加量の合計が2.0MPaに達した時点で反応を終了した。反応時間は16分であった。このときの生成したメタクリル酸は30.3mmol(2.61g)であり、メタクリル酸の生産性は19.6(g/(gPd×h))であった。結果を表1に示した。
【0082】
[実施例4]
(触媒調製)
パラタングステン酸アンモニウム五水和物[(NH4101241・5H2O]0.49部を用いたこと以外は、実施例2と同様の操作で触媒調製を行いパラジウム元素、タングステン元素およびテルル元素がシリカ担体に担持された触媒を調製した。この触媒のW/Pdは0.2、Te/Pdは0.05、パラジウム元素の担持率は5.0質量%であった。
【0083】
(反応評価)
上記の方法で調製した触媒のうち10.7g(パラジウム元素としては0.5g)を用いた以外は、実施例1と同様の操作で反応評価を行った。酸素追加量の合計が2.0MPaに達した時点で反応を終了した。反応時間は22分であった。このときの生成したメタクリル酸は26.6mmol(2.29g)であり、メタクリル酸の生産性は12.5(g/(gPd×h))であった。結果を表1に示した。
【0084】
[比較例2]
(触媒調製)
実施例2の触媒調製においてW原料の添加を行わなかった。即ち溶解液Aを調製せず、テルル酸0.11部に純水40部を加え溶解させ溶解液Bを調製した。この溶解液Bに硝酸パラジウム硝酸溶液(パラジウム元素23.5質量%)4.26部を加え均一溶液を調製し、実施例1と同様の操作で触媒調製を行いパラジウム元素およびテルル元素がシリカ担体に担持された触媒を調製した。この触媒のTe/Pdは0.05、パラジウム元素の担持率は5.0質量%であった。
【0085】
(反応評価)
上記の方法で調製した触媒のうち10.5g(パラジウム元素としては0.5g)を用いた以外は、実施例1と同様の操作で反応評価を行った。酸素追加量の合計が2.0MPaに達した時点で反応を終了した。反応時間は25分であった。このときの生成したメタクリル酸は27.9mmol(2.40g)であり、メタクリル酸の生産性は11.5(g/(gPd×h))であった。結果を表1に示した。
【0086】
[実施例5]
(触媒調製)
実施例1と同様の手順で溶解液Aを調製した。この溶解液Aに実施例1と同様のシリカ担体20部を加え完全に浸漬した後、エバポレーションで浸漬溶媒を除去した。このような浸漬担持法で溶液を含浸させた担体を空気中600℃で3時間焼成(昇温速度=1℃/分)を行い、タングステン元素が担持された触媒前駆体(a)を調製した。
【0087】
さらに、テルル酸0.11部に純水40部を加え溶解させ溶解液Bを調製した。この溶解液Bに硝酸パラジウム硝酸溶液(パラジウム元素23.5質量%)4.26部を加え均一溶液を調製した。この溶液に前記触媒前駆体(a)を加え完全に浸漬した後、エバポレーションで浸漬溶媒を除去した。このような浸漬担持法で溶液を含浸させた担体を空気中300℃で3時間焼成(昇温速度=1℃/分)を行い、パラジウム元素、タングステン元素およびテルル元素が担持された触媒前駆体(b)を調製した。
【0088】
触媒前駆体(b)に対し実施例1と同様の還元処理およびろ過洗浄を行い、パラジウム元素、タングステン元素およびテルル元素がシリカ担体に担持された触媒を調製した。この触媒のW/Pdは0.1、Te/Pdは0.05、パラジウム元素の担持率は5.0質量%であった。
【0089】
(反応評価)
上記の方法で調製した触媒のうち10.6g(パラジウム元素としては0.5g)を用いた以外は、実施例1と同様の操作で反応評価を行った。酸素追加量の合計が2.0MPaに達した時点で反応を終了した。反応時間は29分であった。このときの生成したメタクリル酸は34.3mmol(2.95g)であり、メタクリル酸の生産性は12.2(g/(gPd×h))であった。結果を表1に示した。
【0090】
[実施例6]
(触媒調製)
パラタングステン酸アンモニウム五水和物[(NH4101241・5H2O]0.37部を用いて溶解液Aを調製した以外は、実施例5と同様の操作で触媒調製を行い、パラジウム元素、タングステン元素およびテルル元素がシリカ担体に担持された触媒を調製した。この触媒のW/Pdは0.15、Te/Pdは0.05、パラジウム元素の担持率は5.0質量%であった。
【0091】
(反応評価)
上記の方法で調製した触媒のうち10.7g(パラジウム元素としては0.5g)を用いた以外は、実施例1と同様の操作で反応評価を行った。酸素追加量の合計が2.0MPaに達した時点で反応を終了した。反応時間は29分であった。このときの生成したメタクリル酸は35.9mmol(3.09g)であり、メタクリル酸の生産性は12.8(g/(gPd×h))であった。結果を表1に示した。
【0092】
[実施例7]
(反応評価)
実施例2の方法で調製した触媒のうち4.3g(パラジウム元素としては0.2g)を内容積330mlのオートクレーブ(東洋高圧製、型式:LC−3)に仕込んだ。さらに、反応溶媒としての88質量%酢酸水溶液110gと、メタクロレイン5gと、反応溶液に対して200ppmとなる量のラジカルトラップ剤としてのp−メトキシフェノールと、を入れ、オートクレーブを密閉した。オートクレーブ内を窒素ガスで置換し、攪拌(回転数1000rpm)を開始して、90℃まで昇温した。昇温完了後、オートクレーブ内に圧縮空気を内圧3.2MPaまで導入した。この時点を反応開始とし、30分経過した時点で反応を終了した。その後の分析までの操作に関しては、実施例1と同じ方法で行った。このときの生成したメタクリル酸は30.0mmol(2.58g)であり、メタクリル酸の生産性は25.8(g/(gPd×h))であった。結果を表2に示した。
【0093】
[実施例8]
(反応評価)
実施例3の方法で調製した触媒のうち4.3g(パラジウム元素としては0.2g)を用いた以外は、実施例7と同様の操作で反応評価を行った。このときの生成したメタクリル酸は33.7mmol(2.90g)であり、メタクリル酸の生産性は29.0(g/(gPd×h))であった。結果を表2に示した。
【0094】
[実施例9]
(反応評価)
実施例4の方法で調製した触媒のうち4.3g(パラジウム元素としては0.2g)を用いた以外は、実施例7と同様の操作で反応評価を行った。このときの生成したメタクリル酸は30.2mmol(2.60g)であり、メタクリル酸の生産性は26.0(g/(gPd×h))であった。結果を表2に示した。
【0095】
[比較例3]
(反応評価)
比較例2の方法で調製した触媒のうち4.2g(パラジウム元素としては0.2g)を用いた以外は、実施例7と同様の操作で反応評価を行った。このときの生成したメタクリル酸は29.5mmol(2.53g)であり、メタクリル酸の生産性は25.4(g/(gPd×h))であった。結果を表2に示した。
【0096】
[実施例10]
(触媒調製)
硝酸パラジウム硝酸溶液(パラジウム元素23.5質量%)4.26部に純水40部を加え均一溶液を調製した。これに実施例1と同様のシリカ担体20部を加え完全に浸漬した後、エバポレーションで浸漬溶媒を除去した。このような浸漬担持法で溶液を含浸させた担体を空気中300℃で3時間焼成(昇温速度=1℃/分)を行い、パラジウム元素が担持された触媒前駆体(a)を調製した。
【0097】
さらに、実施例1と同様の手順で溶解液Aを調製し、この溶液に前記触媒前駆体(a)を加え完全に浸漬した後、エバポレーションで浸漬溶媒を除去した。このような浸漬担持法で溶液を含浸させた担体を空気中600℃で3時間焼成(昇温速度=1℃/分)を行い、パラジウム元素およびタングステン元素が担持された触媒前駆体(b)を調製した。
【0098】
触媒前駆体(b)に対し実施例1と同様の還元処理およびろ過洗浄を行い、パラジウム元素およびタングステン元素がシリカ担体に担持された触媒を調製した。この触媒のW/Pdは0.1、パラジウム元素の担持率は5.0質量%であった。
【0099】
(反応評価)
上記の方法で調製した触媒のうち10.5g(パラジウム元素としては0.5g)を用いた以外は、実施例1と同様の操作で反応評価を行った。酸素追加量の合計が2.0MPaに達した時点で反応を終了した。反応時間は31分であった。このときの生成したメタクリル酸は24.6mmol(2.12g)であり、メタクリル酸の生産性は7.7(g/(gPd×h))であった。結果を表1に示した。
【0100】
[実施例11]
(触媒調製)
テルル酸0.11部に純水40部を加え溶解させ溶解液Bを調製した。この溶解液Bに硝酸パラジウム硝酸溶液(パラジウム元素23.5質量%)4.26部を加え均一溶液を調製した。これに実施例1と同様のシリカ担体20部を加え完全に浸漬した後、エバポレーションで浸漬溶媒を除去した。このような浸漬担持法で溶液を含浸させた担体を空気中300℃で3時間焼成(昇温速度=1℃/分)を行い、パラジウム元素およびテルル元素が担持された触媒前駆体(a)を調製した。
【0101】
さらに、実施例10と同様の手順で前記触媒前駆体(a)にタングステン元素を担持させ、パラジウム元素、タングステン元素およびテルル元素が担持された触媒を調製した。この触媒のW/Pdは0.1、Te/Pdは0.05、パラジウム元素の担持率は5.0質量%であった。
【0102】
(反応評価)
上記の方法で調製した触媒のうち10.6g(パラジウム元素としては0.5g)を用いた以外は、実施例1と同様の操作で反応評価を行った。酸素追加量の合計が2.0MPaに達した時点で反応を終了した。反応時間は28分であった。このときの生成したメタクリル酸は33.6mmol(2.90g)であり、メタクリル酸の生産性は12.4(g/(gPd×h))であった。結果を表1に示した。
【0103】
[実施例12]
(触媒調製)
パラタングステン酸アンモニウム五水和物[(NH4101241・5H2O]0.37部を用いて溶解液Aを調製した以外は、実施例11と同様の操作で触媒調製を行い、パラジウム元素、タングステン元素およびテルル元素がシリカ担体に担持された触媒を調製した。この触媒のW/Pdは0.15、Te/Pdは0.05、パラジウム元素の担持率は5.0質量%であった。
【0104】
(反応評価)
上記の方法で調製した触媒のうち10.7g(パラジウム元素としては0.5g)を用いた以外は、実施例1と同様の操作で反応評価を行った。酸素追加量の合計が2.0MPaに達した時点で反応を終了した。反応時間は27分であった。このときの生成したメタクリル酸は33.6mmol(2.90g)であり、メタクリル酸の生産性は12.9(g/(gPd×h))であった。結果を表1に示した。
【0105】
[実施例13]
実施例5の方法で調製した触媒のうち4.3g(パラジウム元素としては0.2g)を用いた以外は、実施例7と同様の操作で反応評価を行った。このときの生成したメタクリル酸は29.9mmol(2.57g)であり、メタクリル酸の生産性は25.7(g/(gPd×h))であった。結果を表2に示した。
【0106】
[実施例14]
実施例6の方法で調製した触媒のうち4.3g(パラジウム元素としては0.2g)を用いた以外は、実施例7と同様の操作で反応評価を行った。このときの生成したメタクリル酸は30.6mmol(2.64g)であり、メタクリル酸の生産性は26.4(g/(gPd×h))であった。結果を表2に示した。
【0107】
[実施例15]
実施例11の方法で調製した触媒のうち4.3g(パラジウム元素としては0.2g)を用いた以外は、実施例7と同様の操作で反応評価を行った。このときの生成したメタクリル酸は30.5mmol(2.63g)であり、メタクリル酸の生産性は26.3(g/(gPd×h))であった。結果を表2に示した。
【0108】
[実施例16]
実施例12の方法で調製した触媒のうち4.3g(パラジウム元素としては0.2g)を用いた以外は、実施例7と同様の操作で反応評価を行った。このときの生成したメタクリル酸は31.4mmol(2.70g)であり、メタクリル酸の生産性は27.0(g/(gPd×h))であった。結果を表2に示した。
【0109】
【表1】

【0110】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を製造するためのパラジウム含有触媒であって、触媒構成元素としてパラジウム元素およびタングステン元素を含有するパラジウム含有触媒。
【請求項2】
さらに、触媒構成元素としてテルル元素を含有する請求項1記載のパラジウム含有触媒。
【請求項3】
前記触媒構成元素の少なくとも1種が担体に担持されている請求項1または2記載のパラジウム含有触媒。
【請求項4】
請求項3記載のパラジウム含有触媒を製造する方法であって、パラジウム元素とタングステン元素とを同時に担体に担持させる工程を含むパラジウム含有触媒の製造方法。
【請求項5】
請求項3記載のパラジウム含有触媒を製造する方法であって、パラジウム元素を担体に担持させた後、タングステン元素を担持させる工程を含むパラジウム含有触媒の製造方法。
【請求項6】
請求項1または2記載のパラジウム含有触媒を製造する方法であって、酸化状態のパラジウム元素を含む化合物を還元剤で還元する工程を含むパラジウム含有触媒の製造方法。
【請求項7】
請求項3記載のパラジウム含有触媒を製造する方法であって、前記担体の存在下で酸化状態のパラジウム元素を含む化合物を還元剤で還元する工程を含むパラジウム含有触媒の製造方法。
【請求項8】
請求項1から3のいずれか一項記載のパラジウム含有触媒を用いて、アルコール、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素により液相酸化するα,β−不飽和カルボン酸の製造方法。

【公開番号】特開2012−71299(P2012−71299A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178881(P2011−178881)
【出願日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】