説明

パルスドップラレーダ装置

【課題】使用形態の変更を自動的に判定して使用条件を切り替えるパルスドップラレーダ装置を提供する。
【解決手段】判定・制御部110は、使用形態判定手段111と、パルス幅選択手段112と、帯域制限幅選択手段113とを有しており、使用形態判定手段111が自車両の所定の制御装置からギア状態の信号を入力して使用形態の判定を行っている。使用形態判定手段111の判定結果に基づいて、パルス幅選択手段112および帯域制限幅選択手段113がそれぞれ広帯域インパルス生成部120および帯域幅制限部150を制御している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近傍の対象物までの距離とその相対速度を同時に検知するパルスドップラレーダ装置に関し、特に、超広帯域パルスを利用するパルスドップラレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、距離と相対速度を検知する車載用パルスレーダ装置として、例えば特許文献1に記載のものが知られている。特許文献1に記載の車載用パルスレーダ装置は、パルスを放射し、これが対象物で反射された反射波を受信する。
【0003】
受信された反射波は、距離ゲート(又はレンジビン)毎にサンプリングされ、サンプリングされたデータをプリサム処理し、その結果をFFT(Fast Fourier Transform)処理している。FFT処理では、各距離ゲートの信号について周波数解析を行って周波数ゲート毎に振幅出力を求める。このような処理を行った後、信号が検出された距離ゲートから対象物までの距離を、信号が検出された周波数ゲートからその距離ゲートで検出された対象物の相対速度を求めている。さらに、S/N比を向上させるために、受信回路で複数の距離ゲートにまたがるプリサム処理を行うことが提案されている。
【特許文献1】特開2004−125591号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、車載用のレーダ装置では、その使用形態として衝突検知レーダなどのように高速走行時に用いる場合と、駐車支援レーダなどのように低速で用いる場合があり、それぞれで要求される距離分解能、計測範囲(距離範囲)、計測周期(データ更新周期)等の使用条件が異なっている。前者の衝突検知レーダなどでは、距離分解能が数十センチ程度と低くてもよいが、所定の距離範囲内にある相対速度が例えば200km/h程度までの高速の対象物を検出したいといった要求がある。これに対し、後者の駐車支援レーダなどでは、距離分解能として例えば10cm以下が要求されるが、相対速度は例えば20km/h以下の低速の対象物を検知できれば十分である。
【0005】
また、レーダ検知した結果を乗員に通知するデータ更新周期(計測周期)も使用形態によって異なる長さが要求される。すなわち、前者の衝突検知レーダなどの使用形態の場合には、対象物との相対速度が高速となることから、計測周期も例えば10ms程度の短周期とする必要があるのに対し、後者の駐車支援レーダなどの使用形態の場合には、対象物との相対速度が低速となるのに合わせて、計測周期を前者の10倍程度の長周期とすることも可能である。
【0006】
このように、レーダ装置に対する要求が大きく異なる使用形態に対しては、それぞれの使用形態に対応するレーダ装置を個別に設ける必要があった。しかし、複数のレーダ装置を設置するためには大きな設置スペースが必要となり、これが設置上の大きな制約事項となる上、コストも増大してしまうといった問題があった。
【0007】
そこで、本発明は上記問題を解決するためになされたものであり、使用形態の変更を自動的に判定して使用条件を切り替えるパルスドップラレーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のパルスドップラレーダ装置の第1の態様は、所定の判定基準データを入力して使用形態を判定する判定・制御部と、前記使用形態の判定結果に基づいて設定される帯域幅のパルスを生成する広帯域インパルス生成部と、前記広帯域インパルス生成部で生成された前記パルスを送信パルスとして外部に送信し、対象物で反射されて戻ってきた反射パルスを受信し、前記反射パルスを前記送信パルスの搬送波で直交位相検波して直交位相I、Q信号を出力するパルスドップラ送受部と、前記直交位相I、Q信号をサンプリングするタイミングを前記送信パルスの生成を基準に距離ゲート毎の遅延時間から決定し、前記タイミングで距離ゲート信号を出力する距離ゲート設定部と、前記パルスドップラ送受部から前記直交位相I、Q信号を入力し、該直交位相I、Q信号を前記使用形態の判定結果に基づいて設定される帯域制限幅に制限して出力する帯域幅制限部と、前記帯域幅制限部から前記直交位相I、Q信号を入力し、前記距離ゲート設定部から前記距離ゲート信号を入力したタイミングで前記直交位相I、Q信号をA/D変換するA/D変換部と、前記A/D変換部から前記A/D変換された直交位相I、Q信号毎のディジタル値を入力し、該直交位相I、Q信号毎のディジタル値を所定の回数に達するまで積算して積算I、Q信号を出力するプリサム部と、前記距離ゲート毎の遅延時間を決定して前記距離ゲート設定部に出力するとともに、前記プリサム部から前記積算I、Q信号を入力して前記距離ゲートすべてについて周波数解析を行って距離ゲート毎振幅出力および周波数ゲート毎振幅出力を算出し、前記距離ゲート毎振幅出力および前記周波数ゲート毎振幅出力をそれぞれ所定の閾値と比較して前記対象物の有無を判定し、前記対象物が検出される前記距離ゲートおよび前記周波数ゲートからそれぞれ対象物までの距離および対象物の相対速度を算出する演算処理部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明のパルスドップラレーダ装置の他の態様は、車両に搭載され、前記判定・制御部は、前記判定基準データとして前記車両のギア状態を入力し、前記ギア状態がバックギアONのときは前記パルスの帯域幅および前記帯域制限幅を所定の広帯域幅に設定し、前記ギア状態がバックギアOFFのときは前記パルスの帯域幅および前記帯域制限幅を所定の狭帯域幅に設定することを特徴とする。
【0010】
本発明のパルスドップラレーダ装置の他の態様は、車両に搭載され、前記判定・制御部は、前記判定基準データとして前記車両の速度を入力し、前記速度が所定の速度閾値以下のときは前記パルスの帯域幅および前記帯域制限幅を所定の広帯域幅に設定し、前記速度が所定の速度閾値を超えるときは前記パルスの帯域幅および前記帯域制限幅を所定の狭帯域幅に設定することを特徴とする。
【0011】
本発明のパルスドップラレーダ装置の他の態様は、車両に搭載され、前記演算処理部は、前記プリサム部から入力した前記積算I、Q信号を用いてレーダ断面積を算出し、前記判定・制御部は、前記判定基準データとして前記演算処理部から前記レーダ断面積を入力し、前記レーダ断面積が所定の断面積閾値より大きいときは前記パルスの帯域幅および前記帯域制限幅を所定の広帯域幅に設定し、前記レーダ断面積が前記断面積閾値以下のときは前記パルスの帯域幅および前記帯域制限幅を所定の狭帯域幅に設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、使用形態の変更を自動的に判定して使用条件を切り替えることで、狭範囲を高い距離分解能で検知可能とするとともに、広範囲を高速に検知することが可能なパルスドップラレーダ装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(第1の実施形態)
本発明の好ましい実施の形態におけるパルスドップラレーダ装置について、図面を参照して詳細に説明する。同一機能を有する各構成部については、図示及び説明簡略化のため、同一符号を付して示す。以下では、本発明のパルスドップラレーダ装置を車両に搭載して用いる場合を例に説明する。
【0014】
本発明の第1の実施の形態に係るパルスドップラレーダ装置は、相対速度が高い対象物を比較的低い距離分解能で検知する衝突検知等の使用形態と、相対速度が低い対象物を高い距離分解能で検知する駐車支援等の使用形態とを、1つのドップラレーダで実現可能としたものである。以下ではまず、それぞれの使用形態において要求される使用条件について説明する。
【0015】
相対速度vで移動する対象物を中心周波数FcのRF信号を用いて検知する場合、ドップラ周波数Fdは次式で与えられる。
Fd=2v×Fc/c
ここで、cは光速を表している。パルスドップラレーダでは、所定の距離ゲートにおけるサンプル値を周波数解析することによりFdを推定することができる。ドップラ周期は1/Fdである。ドップラ周期と相対速度との関係を図2に示す。ここでは、中心周波数Fc=26.5[GHz]、光速c=3×10[m/s]としている。前記周波数解析の方法として、FFT処理を実施することでドップラ周波数を推定するためには、距離ゲート1つあたり少なくともドップラ周期の1周期分にわたる観測が必要となる。
【0016】
まず、相対速度が低い対象物に対し高い距離分解能が要求される場合について説明する。一例として、対象物の相対速度を1[m/s](3.6[km/h])とし、要求される距離分解能を0.075[m]とする。このとき、上式に相対速度1[m/s]を代入することにより、ドップラ周期は5.67[ms]となる。相対速度が低くなるとドップラ周期は長くなる(図2)ことから、低い相対速度の対象物を観測するためには距離ゲート毎の観測周期Tsを長くする必要がある。
【0017】
つぎに、相対速度が高い対象物を観測する場合について説明する。一例として、距離分解能および距離ゲート毎の観測周期Tsをそれぞれ上記の0.075[m]、5.67[ms]とし、相対速度vが200[km/h]の対象物を観測する場合、一観測周期Tsにおける対象物の移動距離Lsは、次式のように計算される。
Ls=200×10/3600×0.00567
=0.315[m]
1つの距離ゲートの観測時間Tsの間に対象物が0.3m以上移動してしまうのに対し、距離ゲート1つ当たりの距離(距離分解能)が0.075[m]に設定されていることから、1つの距離ゲートにおける対象物の検出信号が1/4以下に低減されてノイズに埋没してしまうおそれがある。
【0018】
また、距離ゲートを上記の0.075[m]単位としたとき、所定の距離範囲を計測するのに要する時間、すなわち計測周期(データ更新周期)Tmは下記のように算出される。最大計測距離をRmax、最小計測距離をRmin、および距離分解能(距離ゲート1つあたりの距離)をRstepとしたとき、計測周期Tmは、
Tm=Ts×int[(Rmax―Rmin)/Rstep]
で与えられる。ここで、int[・]は整数化のための演算子である。上式に、Ts=5.67[ms]、Rmax =10[m]、Rmin=0.1[m]、Rstep=0.075[m]を代入すると、Tm=748[ms]が得られる。
【0019】
上記の通り、距離ゲートを0.075[m]単位として10mの距離範囲を観測させるには、計測周期Tmを非常に長くする必要がある。しかしながら、計測周期がこのように長くなると、衝突検知レーダとしてもまた駐車支援レーダとしても好ましくないと考えられる。そこで、距離分解能Rstepを小さくする場合には、最大計測距離Rmaxも短くする必要がある。逆に、最大計測距離Rmaxを長くするためには距離分解能Rstepを大きくする必要があり、特に対象物との相対速度が高い場合には、距離分解能Rstepを大きくして計測周期を短くするのが好ましい。
【0020】
上記の通り、対象物を計測する距離範囲(Rmax)、距離分解能(Rstep)、相対速度の分解能に相当する距離ゲート毎の観測周期(Ts)、および計測周期(Tm)の各使用条件が相互に関連することから、要求される使用形態に対応してそれぞれを好適に設定する必要がある。本実施形態のパルスドップラレーダ装置は、車両から所定の判定基準データを入力して使用形態を決定し、決定された使用形態に対応してパルスドップラレーダ装置の各使用条件を決定するように構成されている。
【0021】
さらに、本実施形態のパルスドップラレーダ装置では、送出するインパルスのパルス幅を距離分解能に対応させて変更するようにしている。インパルスを用いて測定可能な距離分解能は、パルス幅Tp×光速c×1/2で決まることから、駐車支援レーダ等のように高い距離分解能が要求される場合には、超広帯域なパルス幅の短いインパルスを出力するのがよい。一例として、前記駐車支援レーダを実現するために、距離分解能0.075mの計測が可能なTp=0.5ns(2GHz)程度とする。
【0022】
これに対し、衝突検知レーダ等のように距離分解能を低くできる場合には、狭帯域なパルス幅の長いインパルスを出力する。距離分解能に対応させてパルス幅を長くすることで、不感帯のない計測が可能となる。一例として、前記衝突検知レーダを実現するために、距離分解能0.3mの計測が可能なTp=2ns(0.5GHz)程度とする。また、このように、帯域を狭くすることは、周波数帯域の占有を抑制することができるため、他システム等との干渉を低減することができる。
【0023】
本実施形態のパルスドップラレーダ装置を、図1に示すブロック図を用いて説明する。本実施形態のパルスドップラレーダ装置100は、相対速度が高いときに必要となる衝突検知レーダとしての使用形態と、相対速度が低い状態で使用される駐車支援レーダとしての使用形態とを、自動的に判定して切り替えて用いるように構成されている。
【0024】
本実施形態では、上記の使用形態の判定のために、自車両の所定の制御装置からギア情報を入力し、これをもとに衝突検知レーダとしての使用形態か、あるいは駐車支援レーダとしての使用形態かのいずれかを自動的に選択させるようにしている。そして、衝突検知レーダとしての使用形態が選択された場合には、所定の距離範囲にある高速の対象物を計測できるように各使用条件を設定する。また、駐車支援レーダとしての使用形態が選択された場合には、低速の対象物を高い距離分解能で計測できるように各使用条件を設定する。
【0025】
さらに、本実施形態では、高い距離分解能の計測が要求される駐車支援レーダとしての使用形態が選択された場合には超広帯域のインパルスを送出して計測を行い、距離分解能を低くできる衝突検知レーダとしての使用形態が選択された場合には狭帯域のインパルスを送出して計測を行う構成としている。このような構成とすることで、駐車支援レーダとして使用する場合には高い距離分解能を実現することが可能になるとともに、衝突検知レーダとして使用する場合には不感帯のない計測が可能となる。
【0026】
本実施形態のパルスドップラレーダ装置100は、使用形態を判定して所定の制御を行う判定・制御部110、使用形態の判定結果に基づいて設定される帯域幅のインパルス信号を生成する広帯域インパルス生成部120、インパルス信号を送信パルスとして送出するとともに対象物で反射されて戻ってきた反射パルスを受信して処理するパルスドップラ送受部130、および受信信号を処理するための距離ゲート設定部140、帯域幅制限部150、A/D変換部160、プリサム部170、演算処理部180を備えている。
【0027】
判定・制御部110は、使用形態判定手段111と、パルス幅選択手段112と、帯域制限幅選択手段113とを有しており、使用形態判定手段111が自車両の所定の制御装置(図示せず)からギア状態の信号を入力して使用形態の判定を行っている。そして、使用形態判定手段111の判定結果に基づいて、パルス幅選択手段112および帯域制限幅選択手段113がそれぞれ広帯域インパルス生成部120および帯域幅制限部150を制御している。また、使用形態判定手段111は、使用形態の変更を判定すると演算処理部180に対して演算処理の初期化を指示する。
【0028】
広帯域インパルス生成部120は、パルス幅設定手段121と種パルス生成手段122とインパルス生成手段123とを有して所定のパルス幅のインパルス信号を出力する。
パルスドップラ送受部130は、広帯域インパルス生成部120からインパルス信号を入力して送信パルスを外部に送出するとともに、対象物で反射されて戻ってきた反射パルスを受信し、送信パルスの搬送波で直交位相検波してI信号、Q信号を出力する。
【0029】
距離ゲート設定部140は、種パルス生成手段122で種パルスが生成されたタイミングを基準として、パルスドップラ送受部130から出力される直交位相I、Q信号を距離ゲート毎にサンプリングするタイミングを指示する信号(距離ゲート信号)を出力する。
帯域幅制限部150は、パルスドップラ送受部130から出力される直交位相I、Q信号の通過帯域を制限する。
【0030】
A/D変換部160は、距離ゲート設定部140から距離ゲート信号が入力されるタイミングで帯域幅制限部150から出力されるI、Q信号をA/D変換する。
プリサム部170は、加算手段171とメモリ172とデータ読出手段173とを有し、A/D変換部160によりディジタル値に変換されたI、Q信号のサンプル値を所定回数積算してプリサム値を出力する。
【0031】
演算処理部180は、計測制御手段181、FFT手段182、およびピーク検出手段183を有しており、計測制御手段181が種パルスの生成および受信パルスの処理を制御している。また、判定・制御部110から演算処理の初期化指示を入力すると、距離ゲート番号やパルス送信回数を初期化した後、衝突検知レーダまたは駐車支援レーダとしての計測を開始する。
【0032】
以下では、本実施形態のパルスドップラレーダ装置100の各構成部について、それぞれの動作をさらに詳細に説明する。
まず、判定・制御部110では、使用形態判定手段111が、判定基準データとしてギア状態の信号を自車両の所定の制御装置(図示せず)から入力し、この信号をもとにパルスドップラレーダ装置100を衝突検知レーダとして使用する(以下では衝突検知モードとする)か、あるいは駐車支援レーダとして使用する(以下では駐車支援モードとする)かを判定する。使用形態判定手段111における使用形態の判定方法を、図3を用いて説明する。図3は、使用形態判定手段111において使用形態を判定する方法を示す流れ図である。
【0033】
図3において、自車両の電源がONにされると(ステップS11)、まずパルスドップラレーダ装置100の使用形態の初期値として衝突検知モードが設定される(ステップS12)。以下、周期的に行う処理として、所定の制御装置からギア状態を入力し〔ステップS13〕、バックギアの状態(ON/OFF)が変更されたかを判定する(ステップS14)。バックギアの状態が変更されていない場合には、つぎの監視周期において再びステップS13、S14の処理を行う。
【0034】
これに対し、ステップS14においてバックギアの状態が変更されたと判定された場合には、ステップS15においてバックギアの状態がONかOFFかを判定し、バックギアがONの場合には駐車支援モードを選択し(ステップS16)、バックギアがOFFの場合には衝突検知モードを選択する(ステップS17)。さらに、ステップS18において、使用形態変更に伴う指示として、パルス幅選択手段112および帯域制限幅選択手段113に対し選択された使用形態モードを出力するとともに、演算処理部180に対し演算処理の初期化を指示する。
【0035】
パルス幅選択手段112は、使用形態判定手段111から使用形態モードを入力すると、それに対応するパルス幅(あるいは帯域幅)指示値をパルス幅設定手段121に出力する。すなわち、使用形態判定手段111から衝突検知モードを入力した場合にはパルス幅の長いインパルス信号を発生させるための指示値を、また駐車支援モードを入力した場合にはパルス幅の短いインパルス信号を発生させるための指示値を、それぞれパルス幅設定手段121に出力する。
【0036】
パルス幅選択手段112からパルス幅設定手段121に出力する指示値は、例えば図4(a)に示すような閾値電圧41に相当するディジタル値とすることができる。このディジタル値は、広帯域インパルス生成部120で生成されるインパルス信号のパルス幅を決定するのに用いられ、パルス幅を短くするためにはディジタル値を大きくし(図4(a.1))、パルス幅を長くするためにはディジタル値を小さくする(図4(a.2))。
【0037】
帯域制限幅選択手段113は、使用形態判定手段111から入力した衝突検知モードまたは駐車支援モードの指示をもとに、広帯域インパルス生成部120で生成されるパルスの帯域に対応させて受信波の通過帯域を制限する帯域制限幅を帯域幅制限部150に出力する。
【0038】
上記説明の判定・制御部110における処理を、状態遷移図を用いて表すと図5のようになる。図5に示す状態遷移図では、バックギア=OFFである間は衝突検知モードを継続し、バックギア=ONである間は駐車支援モードを継続することが示されている。また、バックギアがOFFからONに切り替わると衝突検知モードから駐車支援モードに切り替えられ、逆に、バックギアがONからOFFに切り替わると駐車支援モードから衝突検知モードに切り替えられることが示されている。
【0039】
衝突検知モードの場合には、距離分解能を低くするためにパルス信号の帯域幅を狭帯域(例えば0.5GHz)としてパルス幅を長くしている(例えば2ns)。これに対し、駐車支援モードの場合には、距離分解能を高くするためにパルス信号の帯域幅を広帯域(例えば2GHz)としてパルス幅を短くしている(例えば0.5ns)。
【0040】
つぎに、広帯域インパルス生成部120の動作を、図4を用いて詳細に説明する。図4は、広帯域インパルス生成部120において送信用のインパルス信号を生成する方法を説明する模式図である。同図左側は、パルス幅の短いインパルス信号を生成する場合(駐車支援モード)を示しており、同図右側は、パルス幅の長いインパルス信号を生成する場合(衝突検知モード)を示している。
【0041】
パルス幅設定手段121は、例えばD/A変換器で構成され、パルス幅選択手段112から所定のディジタル値を入力すると、これをD/A変換して図4(a)に示す閾値電圧41をインパルス生成手段123に出力する。
【0042】
種パルス生成手段122は、計測制御手段181からパルス生成指示を入力すると、例えば図4(a)に示すような三角形状の種パルス42を生成し、これをインパルス生成手段123に出力する。種パルス42は、常に一定のものを生成して出力するようにしている。
【0043】
インパルス生成手段123は、種パルス生成手段122から入力した種パルス42をパルス幅設定手段121から入力した閾値電圧41と比較し(図4(a))、種パルス42が閾値電圧41以上の期間だけHighを出力し、それ以外の期間はLowを出力する。これにより、Highが出力される期間に相当するパルス幅のインパルス信号43がインパルス生成手段123から出力される(図4(b))。図4左側に示すように、パルス幅設定手段121から出力される閾値電圧41が高いと、Highが出力される期間が短くなってパルス幅の短いインパルス信号43が生成される(図4(b、1))。また、図4右側に示すように、パルス幅設定手段121から出力される閾値電圧41を低くすると、Highが出力される期間が長くなってパルス幅の長いインパルス信号43が生成される(図4(b.2))。
【0044】
図4(c)には、インパルス生成手段123で生成されたインパルス信号43の周波数スペクトルの一例を示している。パルス幅が短い場合には広帯域になる(図4(c、1))のに対し、パルス幅を長くすると帯域幅が狭くなる(図4(c、2))ことを示している。
【0045】
パルスドップラ送受部130は、広帯域インパルス生成部120からインパルス信号を入力すると、これを所定の周波数帯、たとえば準ミリ波帯(26.5GHz)の搬送波でアップコンバートして空間に放射する。また、放射された送信パルスが対象物で反射されて戻ってきた反射パルスを受信し、これを送信パルスの搬送波で直交位相検波する。これにより、直交するI信号、Q信号が生成されて出力される。
【0046】
距離ゲート設定部140は、計測制御手段181から計測中の距離ゲートに対応する遅延時間を入力するとともに、種パルス生成手段から種パルス42の出力タイミングを入力する。これを用いて、種パルス42が出力されてから遅延時間だけ経過したタイミングで距離ゲート信号をA/D変換部160に出力する。種パルス42の出力タイミングとして、種パルスそのものを用いることができ、これを計測制御手段181から入力した遅延時間だけ遅延させたものを距離ゲート信号としてA/D変換部160に出力するようにしてもよい。
【0047】
帯域幅制限部150は、帯域制限幅選択手段113から入力した帯域制限幅に基づいて、パルスドップラ送受部130から出力される直交位相I、Q信号の通過帯域を制限する。帯域幅制限部150は、たとえば図6に示すようなアクティブLPFを用いて構成することができ、帯域制限幅選択手段113から入力した帯域制限幅に基づき、図4(c)に示すいずれかの帯域を通過させるようにすることができる。
【0048】
A/D変換部160は、距離ゲート設定部140から距離ゲート信号を入力したタイミングで、帯域幅制限部150から出力されるI、Q信号をA/D変換する。距離ゲート信号として、種パルス生成手段122で生成された種パルスを所定の遅延時間だけ遅延させたパルスを入力する場合には、A/D変換部160では該パルスの立ち上がり時のごく短時間だけI、Q信号をラッチしてディジタル信号に変換するように構成することができる。
【0049】
プリサム部170では、加算手段171がA/D変換部160からA/D変換されたディジタル値を入力し、これをプリサム処理する。プリサム処理の概要を、図7を用いて説明する。図7は、1つの距離ゲートに対するプリサム処理の一例を示す模式図である。プリサム処理では、A/D変換部160から入力したディジタル値si(図7に示す符号71)を所定個数ずつ加算して圧縮し、これをプリサム値Pjとしている(図7に示す符号72)。
【0050】
図7に示す例では、1つの距離ゲートnに対し1回の観測周期で960点の時系列サンプル値siを取得するものとしている(図7の符号71)。このサンプル値を15点ずつプリサム処理して64点のプリサム値Pjを得る(図7の符号72)。プリサム処理では、加算手段171がデータ読出手段173を用いてメモリ172に保存されているそれまでの加算結果I、Qを読み出し、これに新たにA/D変換部160から入力したディジタル値siを加算して再びメモリ172に保存する。そして、加算回数が15回に達すると、これをプリサム値Pjとしてメモリ172に保存する。このような処理を繰り返すことで、距離ゲートnに対する64点のプリサム値がメモリ172に保存される。
【0051】
演算処理部180では、計測制御手段181が送信パルスの生成および受信パルスの処理を制御している。計測制御手段181は、使用形態判定手段111から演算処理の初期化指示を入力すると、それまでの演算処理を中断して演算処理を初期化した後、使用形態判定手段111から入力した衝突検知モードまたは駐車支援モードに従った処理を開始する。演算処理の初期化では、距離ゲート番号nを1、パルス送信回数iを0に設定する。
【0052】
計測制御手段181は、距離ゲート毎に所定の回数(例えば960回)だけパルスを送出させ、受信した反射パルスの演算処理を制御する。距離ゲートnに対し、まず受信パルスをサンプリングするタイミングを決定するための遅延時間を距離ゲート設定部140に出力する。この遅延時間は、距離ゲートnに相当する距離をRとすると、2・R/cから算出される。この遅延時間をもとに距離ゲート設定部140から距離ゲート信号が出力されるタイミングが決定され、このタイミングでA/D変換部160が距離ゲートnに対するサンプリング(A/D変換)を行う。
【0053】
計測制御手段181は、つぎに距離ゲートn毎に所定回数だけ所定のインパルス信号を広帯域インパルス生成部120から送出させるために、種パルス生成手段122に対し種パルスの生成指示を出力する。これにより、インパルス生成手段123からインパルス信号が出力され、パルスドップラ送受部130で所定の周波数帯にアップコンバートされて空間に送出される。送信信号が対象物で反射されてパルスドップラ送受部130で受信されると、帯域幅制限部150、A/D変換部160、およびプリサム部170で処理され、プリサム処理された結果がメモリ172に保存される。
【0054】
計測制御手段181は、距離ゲート毎に上記の処理を行わせ、すべての距離ゲートに対するプリサム値がメモリ172に保存されると、これを読み込んでFFT手段182を実行させる。FFT手段182は、プリサム部170でI、Q信号毎にプリサム処理されたデータをもとに、距離ゲート毎に周波数解析を行い、すべての距離ゲートについて周波数解析を行った結果をピーク検出手段183に出力する。
【0055】
ピーク検出手段183は、各距離ゲート及び周波数ゲートに対応する各振幅出力を予め設定した閾値と比較することにより対象物の有無を検出し、対象物が検知された距離ゲートから対象物までの距離を、周波数ゲートから対象物の相対速度をそれぞれ求める。
【0056】
FFT手段182で行われるFFT処理の詳細を、図8に示す流れ図を用いて説明する。まず、ステップS21では、距離ゲートnの初期化を行う。次のステップS22では、距離ゲートnに対応するプリサム処理されたチャネル毎データ(I、Q信号各64点)をメモリ172から読み出す。そして、ステップS23において、I信号のデータを実部、Q信号のデータを虚部とする複素FFT処理を行う。
【0057】
ステップS24において、64個すべての距離ゲートについてFFT処理を完了したか判定し、処理を完了した距離ゲート数が所定数(64)未満であれば、ステップS25で距離ゲートの番号を1だけ加算してステップS22の処理に戻る。また、ステップS24ですべての距離ゲートについてFFT処理を完了したと判定すると、FFT処理を終了する。
【0058】
上記説明の本実施形態のパルスドップラレーダ装置100の動作を、図9に示す全体の流れ図を用いて説明する。本実施形態のパルスドップラレーダ装置100は、電源をONにするか、使用形態判定手段111で使用形態の変更が判定されたときに、レーダ計測の処理を初期化して演算処理を開始する。以下では、使用形態判定手段111で使用形態の変更が判定されたときの処理を、図9を用いて説明する。なお、図9において括弧内に記載した数字は、処理を行う構成部の符号を表している。
【0059】
まず、使用形態判定手段111において、ギア状態に基づいて使用形態の変更が判定されると(ステップS31)、パルス幅選択手段112が使用形態に対応するパルス幅を選択してパルス幅設定手段121に出力するとともに、帯域制限幅選択手段113が帯域制限幅を選択して帯域幅制限部150に出力する(ステップS32)。また、使用形態判定手段111から計測制御手段181に対して初期化指示が出力され、計測制御手段181で距離ゲート番号n、パルス送信回数iの初期化が行われる(ステップS33)。
【0060】
ステップS34からステップS44では、計測制御手段181の制御により、所定個数の距離ゲートについてそれぞれ所定回数のインパルス信号を出力させ、各々の受信パルスに対し所定の信号処理を行っていく。ここでは、図7に示したプリサム処理の例に合わせて、距離ゲートの個数を64とし、各距離ゲートに対するパルス送信回数を960として説明する。
【0061】
ステップS34では、計測制御手段181において距離ゲートを1から64まで順次設定するとともに、各距離ゲートnに対応する受信信号のサンプリング・タイミングを決定するための遅延時間を距離ゲート設定部140に出力する。
【0062】
次のステップS35からステップS41までは、距離ゲート毎に実行する。
まずステップS35では、計測制御手段181から種パルス生成手段122に対して種パルス生成を指示する信号を出力するとともに、パルス送信回数iに1を加算する。種パルス生成手段122から種パルスを出力させることにより、インパルス生成手段123からパルスドップラ送受部130の送信側にインパルス信号が出力される(ステップS36)。
【0063】
パルスドップラ送受部130は、送信側にインパルス信号が入力されるとこれを所定の周波数帯にて空間に放射し、対象物で反射されると再びパルスドップラ送受部130に受信される。受信されたパルス信号は、パルスドップラ送受部130において直交位相検波され、直交するI信号、Q信号として帯域幅制限部150に出力される(ステップS37)。
【0064】
帯域幅制限部150は、帯域制限幅選択手段113から設定された帯域制限幅に基づいて、パルスドップラ送受部130から出力される直交位相I、Q信号の通過帯域を制限する。帯域制限幅選択手段113から設定された帯域制限幅は、インパルス生成手段123で生成されたインパルス信号と同等の帯域幅となっている(ステップS38)。
【0065】
帯域幅制限部150を通過した直交位相I、Q信号は、A/D変換部160において距離ゲート設定部140から距離ゲート信号を入力したタイミングでディジタル信号に変換され、プリサム部170に出力される(ステップS39)。
プリサム部170は、A/D変換部160から入力したディジタル値を距離ゲート毎にプリサム処理する。これにより、距離ゲート毎に64点のプリサム値がメモリ172に保存される(ステップS40)。
【0066】
ステップS41では、計測制御手段181において、距離ゲートnに対し所定回数(960回)のパルス送信が行われたかを判定し、パルス送信が所定回数に達していないときには、再びステップS35に戻って上記と同様の処理を繰り返す。また、パルス送信が所定回数に達しているときには、つぎのステップS42において、上記の処理を終えた距離ゲート数が所定個数(64)に達した(すべての距離ゲートの処理を終えた)かを判定し、所定個数に達しない(未処理の距離ゲートが残っている)場合にはステップS43に進む。
【0067】
計測制御手段181において、ステップS43で距離ゲート番号nに1を加算するとともにつぎのステップS44でパルス送信回数iを0に初期化することで、つぎの距離ゲートの処理を開始する準備を行う。その後、ステップS34からの処理を再び行わせる。
ステップS42ですべての距離ゲートの処理を終えたと判定された場合には、ステップS45でFFT手段182によるFFT処理を行い、すべての距離ゲートに対するFFT処理を終えると、ステップS46でピーク検出手段183を実行する。ピーク検出手段183により、ピークの距離ゲートから対象物までの距離が、また周波数ゲートから対象物の相対速度が抽出される。
【0068】
上記説明の第1の実施形態のパルスドップラレーダ装置100によれば、ギア情報を入力して使用形態を自動的に判定させるように構成することで、高い距離分解能が要求されるバックギアON(駐車支援モード)のときには、広帯域(2GHz程度)で狭範囲を低速スキャンする一方、バックギアOFF(衝突検知モード)のときには、狭帯域(0.5GHz程度)で広範囲を高速スキャンすることが可能となる。
【0069】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係るパルスドップラレーダ装置として、使用形態の判定に自車両の速度を用いるように構成することができる。使用形態判定手段111において、第1の実施形態で用いていたギア状態の信号に代えて、自車両の所定の制御装置から自車両の速度を入力し、これを判定基準データとしてパルスドップラレーダ装置100を駐車支援モードとして使用するか、あるいは衝突検知モードで使用するかを判定させる。
【0070】
一実施例として、使用形態判定手段111において、自車両の速度が低速(20km/h以下)であると判定された場合には駐車支援モードとし、自車両の速度が高速(20km/h超)であると判定された場合には衝突検知モードとする。これにより、低速走行の場合には、広帯域(2GHz程度)で狭範囲を低速スキャンするように使用条件を設定する一方、高速走行の場合には、狭帯域(0.5GHz程度)で広範囲を高速スキャンすることが可能となる。
【0071】
本実施形態における使用形態の判定処理を、図10に示す状態遷移図を用いて説明する。図10に示す状態遷移図では、自車両の速度が20km/h以下(低速)を維持している間は駐車支援モードを継続し、自車両の速度が20km/hを超えている(高速)間は衝突検知モードを継続することが示されている。また、自車両の速度が20km/以下の状態から20km/hを超えた時点で駐車支援モードから衝突検知モードに切り替えられ、逆に、自車両の速度が20km/hを超えた状態から20km/以下に減速された時点で衝突検知モードから駐車支援モードに切り替えられることが示されている。
【0072】
本実施形態においても、衝突検知モードの場合には距離分解能を低くするためにパルス信号の帯域幅を狭帯域(例えば0.5GHz)とし、パルス幅を長くしている(例えば2ns)。これに対し、駐車支援モードの場合には、距離分解能を高くするためにパルス信号の帯域幅を広帯域(例えば2GHz)とし、パルス幅を短くしている(例えば0.5ns)。これにより、低速走行の場合には広帯域(2GHz程度)で狭範囲を低速スキャンすることができ、高速走行の場合には狭帯域(0.5GHz程度)で広範囲を高速にスキャンすることができる。
【0073】
(第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態に係るパルスドップラレーダ装置として、検知範囲に大きな対象物が存在するか否かによって使用形態を変更するように構成することができる。すなわち、通常は距離分解能が比較的低い狭帯域(例えば0.5GHz)のパルス信号を用いて広範囲を高速にスキャンし、検知範囲に大きな対象物が検知されると、該大きな対象物より手前を広帯域(例えば2GHz)のパルス信号を用いて高い距離分解能でスキャンする。大きな障害物の存在を判定させるために、たとえば演算処理部180において、プリサム部170から入力した積算I、Q信号を用いてレーダ断面積を算出させるようにすることができる。
【0074】
検知範囲に大きな対象物(レーダ断面積20dBsm相当)が存在するとき、距離分解能が低いとそれより手前にある小さな対象物(レーダ断面積0dBsm相当)を見落としてしまうおそれがある。そこで本実施形態では、通常は距離分解能が比較的低い狭帯域のパルス信号を用いて広範囲を高速にスキャンし、検知範囲に大きな対象物が検知されると、広帯域のパルス信号に切り替えて大きな対象物の手前の限られた範囲を高い距離分解能でスキャンさせることで、小さな対象物を見落とさないようにすることができる。検知範囲に大きな対象物が存在するときには、広帯域のパルス信号を用いても大きな障害物の後方に電波が放射されることはなく、他のシステムとの干渉を低減することができる。
【0075】
本実施形態における使用形態の判定処理を、図11に示す状態遷移図を用いて説明する。図11に示す状態遷移図では、検知範囲に大きな対象物(レーダ断面積20dBsm相当)が存在しない場合(以下では通常モードという)には、計測範囲を広くするためにパルス信号の帯域幅を狭帯域(例えば0.5GHz)としてパルス幅を長くしている(例えば2ns)。また、検知範囲に大きな対象物が存在している間(以下では高分解能モードという)は、小さな対象物(レーダ断面積0dBsm相当)を検知できるように、パルス信号の帯域幅を広帯域(例えば2GHz)としてパルス幅を短く(例えば0.5ns)することで、距離分解能を高くしている。
【0076】
さらに、大きな対象物が存在しない状態からこれが検知されると、使用形態を通常モードから高分解能モードに切り替えて狭範囲を高分解能でスキャンさせる。同様に、検知範囲に存在した大きな対象物がなくなると、使用形態を高分解能モードから通常モードに切り替えて広範囲を高速にスキャンさせる。これにより、小さな対象物も見落とすことなくスキャンすることが可能となる。
【0077】
本発明によれば、使用形態の変更を自動的に判定して使用条件を切り替えることで、狭範囲を高い距離分解能で検知可能とするとともに、広範囲を高速に検知することが可能なパルスドップラレーダ装置を提供することができる。本発明のパルスドップラレーダ装置を用いることで、複数のセンサを搭載することなく複数の使用形態に対応することが可能となる。
【0078】
なお、本実施の形態における記述は、本発明に係るパルスドップラレーダ装置の一例を示すものであり、これに限定されるものではない。本実施の形態におけるパルスドップラレーダ装置の細部構成及び詳細な動作等に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るパルスドップラレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図2】ドップラ周期と相対速度との関係を示す図である。
【図3】第1の実施形態の使用形態判定手段で使用形態を判定する方法を示す流れ図である。
【図4】第1の実施形態の広帯域インパルス生成部において送信用のインパルス信号を生成する方法を説明する模式図である。
【図5】第1の実施形態の判定・制御装置による処理を説明する状態遷移図である。
【図6】第1の実施形態の帯域幅制限部の構成を示す構成図である。
【図7】1つの距離ゲートに対するプリサム処理の一例を示す模式図である。
【図8】第1の実施形態のFFT手段で行われるFFT処理の詳細を示す流れ図である。
【図9】第1の実施形態のパルスドップラレーダ装置の動作を示す全体流れ図である。
【図10】第2の実施形態の判定・制御装置による処理を説明する状態遷移図である。
【図11】第3の実施形態の判定・制御装置による処理を説明する状態遷移図である。
【符号の説明】
【0080】
100 パルスドップラレーダ装置
110 判定・制御装置
111 使用形態判定手段
112 パルス幅選択手段
113 帯域制限幅選択手段
120 広帯域インパルス生成部
130 パルスドップラ送受部
140 距離ゲート設定部
150 帯域幅制限部
160 A/D変換部
170 プリサム部
180 演算処理装置
181 計測制御手段
182 FFT手段
183 ピーク検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の判定基準データを入力して使用形態を判定する判定・制御部と、
前記使用形態の判定結果に基づいて設定される帯域幅のパルスを生成する広帯域インパルス生成部と、
前記広帯域インパルス生成部で生成された前記パルスを送信パルスとして外部に送信し、対象物で反射されて戻ってきた反射パルスを受信し、前記反射パルスを前記送信パルスの搬送波で直交位相検波して直交位相I、Q信号を出力するパルスドップラ送受部と、
前記直交位相I、Q信号をサンプリングするタイミングを前記送信パルスの生成を基準に距離ゲート毎の遅延時間から決定し、前記タイミングで距離ゲート信号を出力する距離ゲート設定部と、
前記パルスドップラ送受部から前記直交位相I、Q信号を入力し、該直交位相I、Q信号を前記使用態様の判定結果に基づいて設定される帯域制限幅に制限して出力する帯域幅制限部と、
前記帯域幅制限部から前記直交位相I、Q信号を入力し、前記距離ゲート設定部から前記距離ゲート信号を入力したタイミングで前記直交位相I、Q信号をA/D変換するA/D変換部と、
前記A/D変換部から前記A/D変換された直交位相I、Q信号毎のディジタル値を入力し、該直交位相I、Q信号毎のディジタル値を所定の回数に達するまで積算して積算I、Q信号を出力するプリサム部と、
前記距離ゲート毎の遅延時間を決定して前記距離ゲート設定部に出力するとともに、前記プリサム部から前記積算I、Q信号を入力して前記距離ゲートすべてについて周波数解析を行って距離ゲート毎振幅出力および周波数ゲート毎振幅出力を算出し、前記距離ゲート毎振幅出力および前記周波数ゲート毎振幅出力をそれぞれ所定の閾値と比較して前記対象物の有無を判定し、前記対象物が検出される前記距離ゲートおよび前記周波数ゲートからそれぞれ対象物までの距離および対象物の相対速度を算出する演算処理部と、を備える
ことを特徴とするパルスドップラレーダ装置。
【請求項2】
車両に搭載され、
前記判定・制御部は、前記判定基準データとして前記車両のギア状態を入力し、前記ギア状態がバックギアONのときは前記パルスの帯域幅および前記帯域制限幅を所定の広帯域幅に設定し、前記ギア状態がバックギアOFFのときは前記パルスの帯域幅および前記帯域制限幅を所定の狭帯域幅に設定する
ことを特徴とする請求項1に記載のパルスドップラレーダ装置。
【請求項3】
車両に搭載され、
前記判定・制御部は、前記判定基準データとして前記車両の速度を入力し、前記速度が所定の速度閾値以下のときは前記パルスの帯域幅および前記帯域制限幅を所定の広帯域幅に設定し、前記速度が所定の速度閾値を超えるときは前記パルスの帯域幅および前記帯域制限幅を所定の狭帯域幅に設定する
ことを特徴とする請求項1に記載のパルスドップラレーダ装置。
【請求項4】
車両に搭載され、
前記演算処理部は、前記プリサム部から入力した前記積算I、Q信号を用いてレーダ断面積を算出し、
前記判定・制御部は、前記判定基準データとして前記演算処理部から前記レーダ断面積を入力し、前記レーダ断面積が所定の断面積閾値より大きいときは前記パルスの帯域幅および前記帯域制限幅を所定の広帯域幅に設定し、前記レーダ断面積が前記断面積閾値以下のときは前記パルスの帯域幅および前記帯域制限幅を所定の狭帯域幅に設定する
ことを特徴とする請求項1に記載のパルスドップラレーダ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2009−276213(P2009−276213A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−128093(P2008−128093)
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】