説明

パルスレーダ装置

【課題】近距離の検知限界が短く、距離分解能が高いパルスレーダ装置を提供する。さらに他のレーダからの干渉による誤動作を防止する。
【解決手段】送信パルス作成の基となる信号を遅延させて制御用パルス信号を生成する手段2と、制御パルス信号を用いて受信信号に対するゲート動作を行う手段3とを備える。また前述の基となる第1の信号と、第1の信号より低周波で位相変調用の第2の信号と、第1と第2の信号の中間周波数で生成される擬似ランダム信号とを用いて作成された信号を遅延させて制御パルス信号を生成する手段と、前述のゲート動作を行う手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波を発射してその反射波を受信することにより、ターゲットを検出するレーダの方式に係わり、更に詳しくは高周波の送信電波を、一般に等しい間隔に区切ってパルス状にして発射するパルスレーダであって、近距離計測に用いることができ、分解能の高いパルスレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在レーダとして用いられているものは、ほとんどがパルスレーダである。パルスレーダは一般に距離の遠いターゲットを検出し、ターゲットまでの距離を測定することができる。このようなパルスレーダで用いられる様々な信号処理技術は、次の非特許文献1に記述されている。
【非特許文献1】関根松夫 レーダ信号処理技術 電子情報通信学会
【0003】
また比較的近距離にあるターゲットを検出するための従来技術としては、次の非特許文献2、特許文献1,2がある。非特許文献2では正弦波信号によって振幅変調された9.5GHz帯のマイクロ波を用いて、距離125m以内の移動物体の距離と速度を測定する方法が提案されている。
【0004】
特許文献1では、マイクロ波帯微弱無線を利用したデータ通信、センサ、計測器などの用途に適する小型、低コスト、低消費電力のマイクロ波帯パルス送受信機が開示されている。ここでゲートを用いているが、これは発振の抑制用であり、本発明と目的を異にしている。
【0005】
特許文献2では、簡易な免許申請で使用が許可され、電波障害の心配なしに屋外使用も可能となり、屋外での非接触距離計測による各種の応用が期待される高分解能近距離レーダが開示されている。
【非特許文献2】森上、中司,“近距離移動物体の距離・速度測定の一方法” 電子情報通信学会総合大会 ’00 B−2−2 P.215
【特許文献1】特開2001−116822公報「マイクロ波帯パルス送受信機」
【特許文献2】特開2000−241535公報「近距離レーダ装置」
【0006】
前述のように、従来のパルスレーダはターゲットまでの距離が数十メートル以上と、比較的長距離において用いられてきた。パルスレーダを近距離の計測に用いるためには鋭いパルスにする必要があり、使用周波数帯域が広くなり、装置に用いるべき素子の帯域も広くする必要があり、その実現は困難であった。
【0007】
図25,図26はこのパルスレーダにおける帯域の説明図である。図25は一般のAM,FM信号などの使用帯域の説明図である。AM,FM信号においては、その使用帯域は搬送波の周波数を中心として狭い帯域に限定されており、このためノイズの影響を少なくおさえることができる。
【0008】
図26はパルスレーダの帯域の説明図である。パルスレーダのパルスはその幅が狭い程、使用帯域が広くなり、信号電力Sは同じでも帯域総合の雑音電力Nが大きくなり、S/N(信号対雑音比)が悪化し、ノイズの影響を受けやすくなる。特に1GHz以上ではS/Nが悪化し、いろいろな問題点が発生する。S/Nをおさえるためにパルスの幅を広げると帯域は狭くなり雑音Nは小さくなるが、検知可能な対象物までの最小距離が大きくなる。
【0009】
以上に述べたようなパルスレーダの従来技術によって、検知の近距離限界を15cm程度にするには、パルスの幅を1nsec程度にする必要がある。このためには約1GHzの帯域幅が必要となり、雑音の帯域幅も1GHzと極端に広く、S/Nが非常に悪くなり、ターゲットの検知が非常に難しくなる。
【0010】
更にパスル幅として約1nsecや、周波数帯域幅が約1GHzの信号を扱うために、DSPなどの汎用のディジタルLSIを使うことができず、特別に高速用に開発された半導体により回路を構成する必要があり、非常にコストが高く、また特性のバラつきのために大量生産が難しいという問題点があった。
【0011】
更に異なる問題点として、従来技術においては複数のレーダからの干渉によって検出すべきターゲット以外のターゲット、すなわち誤ったターゲットを検出してしまうような誤動作が起こるという問題点があった。
【0012】
本発明の課題は、上述の問題点に鑑み、近距離検知限界が短く、距離分解能が高いパルスレーダ装置を、特別に開発された半導体を用いることなく、提供することである。またパルスレーダにスペクトラム拡散技術を応用することによって、誤ったターゲットを検出するような誤動作を防止できるパルスレーダ装置を提供することである。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0013】
図1は本発明のパルスレーダ装置受信部の構成ブロック図である。同図はパルス信号を送信してターゲットを検出するパルスレーダ装置1の原理構成を示し、装置1は少なくとも制御パルス生成手段2、およびゲート手段3を備える。
【0014】
制御パルス生成手段2は、送信パルス作成の基となる信号、例えばAM矩形波信号を遅延させて制御パルス信号を生成するものであり、ゲート手段3は制御パルス信号を用いて、ターゲットから反射された受信信号に対するゲート動作を行うものである。
【0015】
発明の実施の形態においては、図1に示すように、ゲート手段3の出力を検波、例えば位相検波(I−Q検波)する検波手段4と、制御パルス生成手段2が前述の遅延の量を変化させる時に、検波手段4の出力を用いて、受信信号の振幅に相当する成分、例えばI成分とQ成分の2乗和が極大となる遅延量に対応させてターゲットまでの距離を算出する距離算出手段5とを更に備えることもでき、あるいは検波手段4と、検波手段4の出力、例えばI成分とQ成分を用いて、前述の送信パルス作成の基となる信号と受信信号との位相差に対応させて、対象物までの距離を算出する距離算出手段5とを更に備えることもできる。
【0016】
また実施の形態においては、送信パルス作成の基となる信号からパルス、例えば実際に送信パルスの幅を持つパルスを生成し、そのパルスのスペクトル範囲を帯域制限して送信パルス生成用変調信号を生成し、例えば搬送波としての正弦波を振幅変調する振幅変調器に与える変調信号生成手段を更に備えることもできる。
【0017】
本発明のパルスレーダ装置は、送信パルス作成の基となる第1の信号と、第1の信号より低い周波数の位相変調用の第2の信号と、第1と第2の信号の中間の周波数で生成される変調用の擬似ランダム信号とを用いて作成された信号を遅延させて、制御パルス信号を生成する制御パルス生成手段と、制御パルス信号を用いて、受信信号に対するゲート動作を行うゲート手段とを備える。
【0018】
発明の実施の形態においては、変調用の擬似ランダム信号が第1の信号に対する振幅変調用の信号であることもできる。あるいは第1の信号に対する位相変調用の信号であり、前述の作成された信号が擬似ランダム信号がLowの区間にもパルスが存在する信号であることもできる。
【0019】
発明の実施の形態においては、前述のようにゲート手段の出力を検波する検波手段と、制御パルス生成手段が遅延量を変化させる時、検波手段の出力を用いて、受信信号の振幅に相当する成分が極大となる遅延量、または前述の基となる信号と受信信号との位相差に対応させて、対象物までの距離を算出する距離算出手段とを更に備えることもできる。
【0020】
更に実施の形態においては、前述の第1の信号と、第2の信号と、擬似ランダム信号とを用いて作成された信号からパルスを生成し、そのパルスのスペクトル範囲を帯域制限して送信パルス生成用変調信号を生成する変調信号生成手段を更に備えることもできる。
【0021】
以上のように本発明によれば、例えば送信パルス作成の基となる信号を遅延させて、その信号を用いて受信信号に対するゲート動作が実行される。
【発明の効果】
【0022】
以上詳細に説明したように本発明によれば、例えば送信パルス作成の基となる信号を遅延させ、受信信号に対するゲート動作を行うことによって、正確な近距離計測を行うことができるレーダ装置が実現される。またAMの長所として、狭帯域フィルタでカットすることにより雑音帯域を制限でき、またスペクトラム拡散を利用することによって他のレーダからの干渉によって誤った対象物を検知するなどの誤動作を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図2は本発明におけるパルスレーダ装置の第1の実施形態の構成ブロック図である。本発明の実施形態においては、搬送波としての正弦波信号に対して振幅変調を行うASK(アンプリチュード・シフト・キーイング)方式を基本とするパルスレーダについて説明する。
【0024】
図2のパルスレーダ装置の動作について、図3〜図14に示す各部の波形などを用いて説明する。まず図2の矩形波発振器11は、図3に示すような矩形波を発振する。この矩形波のデューティ比は、例えば50%、周波数は10MHzとする。
【0025】
パルス生成回路および帯域制限部12は、矩形波発振器11の発生した矩形波の、例えば立ち上がりに同期して、周波数が同じでデューティー比の小さい、すなわち図4(a)に示すような幅の狭いパルスを生成すると共に、同図(b)に示すように、法規に合致するように帯域制限を行う。
【0026】
(a)のパルスの幅は基本的にはパルスレーダに要求される距離分解能によって決定される。この要求分解能(最小距離)をa、パルス幅をpW とすると、電波の往復距離は2×aとなり、光の速度をcとするとパルス幅pW は次式によって与えられる。
【0027】
pW =2×a/c (1)
例えばa=0.3mとすると、pW は2nsとなる。
例えば国内向けの車載レーダでは76GHz付近の帯域が使用される。法規では76〜77GHz帯では1チャンネルあたり500MHzを専有することができる。パルス幅が2nsの場合には、メインローブの幅は500MHzであるが、サイドローブはそれ以上であり、減衰させる必要がある。したがって、帯域を制限する必要がある。
【0028】
図2のプログラマブルディレイライン13は、矩形波発振器11の発生する矩形波を、コンピュータからの信号、例えば0〜100nsの範囲で1ns毎にシフト可能な信号に対応して、図5に示すように遅延させるものである。この遅延範囲およびシフト量は要求によって異なる。また遅延シフトの方向も要求によって異なる。例えばどこに何があるか分からない場合には遅延時間をスイープする必要があるが、あらかじめその位置が検出されているような自動車をトラッキングする場合には、その距離に対応した遅延時間の近傍のみを探索すればよく、要求の内容に応じて遅延量を制御することができる。
【0029】
パルス生成回路14は、プログラマブルディレイライン13によって遅延させられた、例えば10MHz、デューティー比50%の矩形波に対応して、同一の周波数でデューティー比が小さく、立ち上がりが一致するようなパルスを生成するものである。このパルスは、図6に示されるように、パルス生成回路および帯域制限部12の出力に対してプログラマブルディレイライン13による遅延時間分だけ遅れたパルスとなる。
【0030】
搬送波発振器15の出力を図7に示す。この搬送波は(a)に示されるような連続波(正弦波)であり、その周波数は(b)に示すように単一成分のみである。
この搬送波発振器15の出力は、パルス生成回路および帯域制限部12の出力するパルスを用いて、振幅変調器16によって振幅変調される。その出力をイメージ的に図8に示す。
【0031】
図8(a)は振幅変調器16の出力であり、図4(a)の波形としてのパルスがHIGHの間だけ図7の搬送波が出力されるようなイメージである。(b)はこの出力の周波数領域波形であり、搬送波の周波数を中心として制限された帯域幅を持っている。
【0032】
振幅変調器16の出力は、送信アンテナ17によってレーダによる検出対象物側に送られ、ここでは2台の車両のそれぞれから反射されて、パルスレーダ装置の受信アンテナ18によって受信される。
【0033】
図9(a)はこの受信アンテナ18への入力波形を示し、これらのうち、振幅の小さい波形は手前にある小さな車両からの、また振幅の大きい波形はそれよりも遠くにある大きい車両からの反射波を示している。
【0034】
受信アンテナ18によって受信された受信パルスは、検波器19によって包絡線検波される。図9(b)はこの検波器19の出力波形の説明図である。同図に示すように、受信アンテナ18によって受信された車両2台からの反射信号は、包絡線検波されることによって、下に示すような振幅の異なる2組のパルスとして出力される。なお出力のパルスの間隔は、受信アンテナ18によって受信された信号の間隔よりも広く描かれている。
【0035】
検波器19の出力は、増幅器20によって増幅された後、ゲート回路21に与えられる。ゲート回路21にはパルス生成回路14の出力、すなわち図6で説明した、プログラマブルディレイライン13によって遅延させられたパルスが入力され、ゲート回路21はこのパルス生成回路14の出力を制御信号として用いて、増幅器20の出力に対するゲート動作を実行する。
【0036】
このゲート動作によって、送信パルスの幅が小さく、雑音の影響が大きい場合にも、対応する受信パルス以外の部分をカットして、ターゲットを正しく検出することが可能となる。
【0037】
図10はこのゲート回路21の動作の説明図である。同図(a)ではゲート回路21への入力としての増幅器20の出力を示す実線の波形と、制御のためのゲート信号としてのパルス生成回路14の出力を示す点線の波形が描かれており、(b)はゲート回路21の出力を示す。
【0038】
(i)ではゲート信号の遅延量が小さく、ゲートパルスは入力パルスのいずれにも時間的に一致せず、ゲート回路21の出力は基本的に0となる。(ii)ではゲート信号のパルスと図2で近い車両(前車)から反射された波形に相当するパルスとの時刻t1 が一致し、出力としてこのパルスが得られる。(iii)では遅延量が中間的であり、(i)と同様に出力は0となる。(iv)では遅延量t2 が遠くの車両(後車)から反射されたパルスの時刻と一致し、このパルスが出力される。
【0039】
図11はローパスフィルタ22への入力と出力の説明図である。このフィルタは矩形波発振器11の出力の基本波としての10MHz以下の周波数成分を通過させるものであり、図10の(i)と(iii)に対応する出力は基本的に零となり、(ii)と(iv)に対応する出力は正弦波となるが、その正弦波の振幅と位相は入力パルスの大きさと位置に対応する。
【0040】
ローパスフィルタ22の出力はI−Q検波器23に与えられる。I−Q検波器23には、ローパスフィルタ24を経由して矩形波発振器11の出力も入力される。前述のように、これらの2つのローパスフィルタ22,24は矩形波発振器11の出力としての基本波、すなわち10MHzを通過させるためのものであり、I−Q検波器23はローパスフィルタ24の出力、すなわち矩形波発振器11の出力の基本波としての正弦波を基準として、ローパスフィルタ22の出力に対するI−Q検波を行い、I(同期)成分、およびQ(直交)成分をそれぞれ出力する。
【0041】
図12はこのI−Q検波器23の動作の説明図である。同図において、1番上の波形はローパスフィルタ24の出力、すなわち基準となる波形である。(i)は図11の(i)に対応し、ローパスフィルタ22の出力が0のため、I,Qの出力も0となる。(ii)は前述の近い車両からの反射波に対応する出力であり、I,Q信号の基準信号に対する位相差θ1 は近い車両との距離に対応し、振幅は反射波の受信強度に対応する。
【0042】
(iii)は遅延量が中間的な場合に対応し、I,Qの出力も0となる。(iv)は遠い車両からの反射波に対応し、I,Qの出力の基準信号との位相差θ2 は遠い車両との距離に対応し、振幅は反射波の受信強度に対応するため、(ii)よりも大きくなる。
【0043】
本実施形態ではI−Q検波器の出力としてのI成分、およびQ成分を用いて対象物との距離を求めるために、2種類の方法を使用する。この距離算出は、2つのローパスフィルタ25,26を介したI−Q検波器23の出力としてのI成分、およびQ成分を用いて、A/D変換器、およびマイクロコンピュータ(MC)27によって実行される。ここで2つのローパスフィルタ25,26は、A/D変換器の前に挿入される、一般的にサンプリング周波数の半分に対応するローパスフィルタである。
【0044】
対象物までの距離を求める第1の方法においては、ローパスフィルタ25,26の出力としてのI,Q成分から振幅に相当する(I +Q)の値を求める。
図2のプログラマブルディレイライン13による遅延時間を変化させることによって、この(I +Q )の値が極大なる時点をもって、電波が対象物から反射されて戻るまでの時間とし、その時間から対象物までの距離が求められる。この第1の方法は、例えばパルス幅が短く、信号電力が小さい場合に使用される。
【0045】
図13はこの遅延時間と振幅の関係の説明図である。同図において、図2で説明した近い車両までの電波の往復時間に相当するt1 と、大きい車両との間で電波が往復する時間t2 において振幅が極大となっている。
【0046】
対象物までの距離を求める第2の方法では、I成分、およびQ成分から求められる位相差、すなわち図12で説明した位相差θ1 ,θ2 を利用して対象物までの距離が求められる。この第2の方法は、例えば信号電力が比較的大きい場合に用いられる。
【0047】
I,Q成分、矩形波発振器11の出力に対すると同一の送信パルスの繰り返し周期T(100ns)、および光の速度cを用いて、位相差θ、遅れ時間τ、および対象物までの距離Dは次式によって与えられる。
【0048】
θ=tan−1(Q/I) (2)
τ=θT/2π (3)
D=τ×c/2=θTc/4π (4)
図14は、図13と同様にプログラマブルディレイライン13による遅延時間と位相差の関係を示す。遅延時間t1 およびt2 は、図12で説明した位相差θ1 およびθ2 に対応する。
【0049】
ここでは対象物までの距離を求めるために、I−Q検波器の出力するI,Q成分をディジタル化した後に、マイクロコンピュータによりソフトウエアで処理を行うものとしたが、アナログ回路を用いることによっても、位相や距離の計算ができることは当然である。前述のように、ローパスフィルタによって10MHz以下の信号となっているため、一般的なLSIなどを使用できる。
【0050】
図15は本発明のパルスレーダ装置の第2の実施形態の構成ブロック図である。この第2の実施形態では、前述の複数のレーダからの干渉によって誤った対象物を検知するなどの誤動作を防ぐために、スペクトラム拡散(SS)方式を応用して、擬似ランダム系列を用いて信号を拡散して送信し、受信時に逆拡散を行うところに特徴があり、ASK−SS方式と呼ぶことにする。
【0051】
すなわち図15と図2を比較すると、図2において矩形波発振器11の出力を、そのままパルス生成回路および帯域制限部12とプログラマブルディレイライン13に与える代わりに、擬似ランダム系列を用いた拡散結果を与える点に基本的な違いがある。
【0052】
図15において、図3で説明した矩形波発信器11の出力(S21信号)は分周器31に与えられ、分周器31によってPN系列のチップ区間に対応する周波数のS22信号が出力される。またその信号は更に他の分周器32に与えられ、S22信号よりさらに低い周波数、例えばPN系列のくり返しが1/2周期に対応する周波数のS23信号が出力される。
【0053】
図16はPN(系列)発生器33の出力である。このPN系列の繰り返し周期は、前述のように例えばビット区間に対応し、例えばS23信号の周期の1/2とされる。
次にEXORゲート34によって、PN(系列)発生器33の出力と分周器32の出力としてのS23信号との排他的論理和(EXOR)がとられる。その出力としては、図17(a)に示すようにS23信号がHの区間ではPN系列の波形が出力され、S23信号がLの区間ではPN系列が反転されて出力される。
【0054】
このEXORゲート34の出力はPN系列のS23信号による位相変調の結果に相当する。PN系列を用いるのは、前述のように例えば車載レーダにおいて他の多くのレーダからの干渉を防ぐためであるが、この位相変調によって、この干渉防止はさらに有効となるものと考えられる。
【0055】
最後にANDゲート35によって、EXORゲート34の出力と矩形波発振器11の出力するS21信号との論理積がとられ、その出力は図2と同様のパルス生成回路および帯域制限部12と、プログラマブルディレイライン13とに与えられる。
【0056】
図18はANDゲート35の出力の説明図である。同図(a)は時間領域の波形を示す。上の波形では、例えば1つのチップ区間に対応する最初のHの区間の内部に、矩形波発振器11の出力としてのS21信号(10MHz)のパルスが何回も繰り返されることになるが、これを上の波形では正しく表現することができないため、パルス生成回路および帯域制限部12の出力の形式で、拡大した波形を下に示してある。
【0057】
図18(b)は周波数領域の波形を示し、その周波数成分としてはS21信号の周波数の回りに更に多くの成分が存在することが示されている。
図15の第2の実施形態において、ANDゲート35の出力に基づいて送信パルスが送られ、受信パルスがゲート回路21などを介してI−Q検波器23によって検波され、ローパスフィルタ25,26から出力されるまでは、図2の第1の実施形態におけると動作は基本的に同じである。しかしながら送信信号が擬似ランダム系列を用いて拡散されているため、その逆拡散などの動作が必要となり、A/D変換器およびマイクロコンピュータ27、特にマイクロコンピュータによる処理が異なってくる。
【0058】
異なってくる点を説明すると、逆拡散のためにEXORゲート34の出力がマイクロコンピュータに与えられて逆拡散が行われ、前述の(I+Q)の値が求められてフーリエ変換が行われ、S23信号の周波数領域のみの電力が抽出され、その値が極大になる時点が対象物までの電波の往復時間として距離が求められる。
【0059】
前述の第2の方法では、同様に逆拡散後のI,Q信号がそれぞれフーリエ変換され、S23の信号の周波数領域のみの電力が抽出され、それをI,Qの値として、前述の(2)〜(4)式によって位相差や、対象物までの距離が求められる。
【0060】
図19は本発明のパルスレーダ装置の第3の実施形態の構成ブロック図である。この第3の実施形態では第2の実施形態と同様に、スペクトラム拡散方式を応用した動作が行われるが、図15で増幅器20の後段に配置されていたゲート回路21が受信アンテナ18と包絡線検波器19との間におかれる点が異なっている。
【0061】
これによって、ゲート動作を制御するパルス信号へのリークが存在する場合にも、ハイパルスフィルタによって高周波の信号とは分離可能であり、リーク成分は遮断できて、誤動作を防止することができる。
【0062】
図20は本発明のパルスレーダ装置の第4の実施形態の構成ブロック図である。この第4の実施形態でも、第2,第3の実施形態と同様に、スペクトラム拡散方式を応用した動作が行なわれるが、例えば第2の実施形態としての図15におけるANDゲート35に代わって、図20ではEXNORゲート40が用いられる点が異なっている。この第4の実施形態を改良ASK−SS方式と呼ぶ。
【0063】
第2の実施形態では、図18で説明したように、擬似ランダム系列がLの区間では、パルス生成回路および帯域制限部12の出力にはパルスが存在せず、送信アンテナ17から信号が送信されない区間があり、受信信号の振幅もそれに対応して小さくなる。そこで第4の実施形態ではEXNORゲート40を用いることによって、パルスが出力されない区間を減らし、また後述するように受信時の信号の振幅を2倍とすることによって、信号処理をより確実なものとすることができる。
【0064】
図21は、図20におけるEXNORゲート40の出力信号の説明図である。
同図は第2の実施形態に対する図18に対応する。図18ではPN系列がHの区間に対してのみパルス生成が行われることを説明したが、図21ではPN系列がLの区間においても、AM−OSC矩形波信号、すなわちS21信号の立ち下がり時点に一致して立ち上がるパルスが生成されることが示されている。
【0065】
これは、図15ではANDゲート35が用いられているために、S21信号がHの区間のみにパルスが生成される、すなわち振幅変調が行なわれるのに対して、図20ではEXNORゲートが用いられているために位相が180度ずれて、S21信号の立ち下がりの時点に同期してパルスが生成される動作、すなわち位相変調動作が行なわれることを示している。
【0066】
図22〜図24を用いて、第4の実施形態における受信信号に対する動作と、第2の実施形態における動作との相違点について説明する。図22はローパスフィルタ22の出力の概念的な説明図であり、左側は第4の実施形態、右側は第2の実施形態における出力を示す。
【0067】
受信信号、すなわちゲート回路21の出力も、図18および図21で説明した生成パルスと同様の波形とすると、左側の第4の実施形態ではPN系列がLの区間においてもローパスフィルタ22からは矩形波発振器11の出力周波数、例えば10MHzの正弦波波形が出力される。PN系列がHからLに変化する時点で位相が急激に変化するが、PN系列がLの区間においても同じ周波数の正弦波が出力される。
【0068】
これに対して右側、すなわち第2の実施形態においてはPN系列がLの区間では正弦波は出力されず、ローパスフィルタ22の出力は0となる。
図23は第4の実施形態、図24は第2の実施形態におけるI−Q検波器23の出力動作の説明図である。このI−Q検波では、入力信号と同じ周波数の正弦波としてのローカル信号を用いて検波が行なわれる。
【0069】
図23ではPN系列がHの区間に対してはI成分、Q成分共に正の値が出力され、PN系列がLの区間ではローパスフィルタ22からの入力信号の位相がほぼ反転しているために、I成分およびQ成分共に負の値が出力される。
【0070】
これに対して図24の第2の実施形態では、PN系列がLの区間では入力信号の値が0となるために、I成分、Q成分共にその値は0となる。
このように第4の実施形態では、I−Q検波器の出力信号の振幅を第2の実施形態に比較してほぼ2倍とすることができ、また振幅が0となる区間を減らすことができる。これによって例えばA−D変換器およびマイコン27による信号処理などをより確実とすることが可能となる。
【0071】
すなわち、第2の実施形態においてはPN系列がHの区間のみのデータを選択する必要があるが、例えば信号処理が高速化すると時間ずれなどのためにHやLの区間を調べるのは面倒になってしまう。また信号の値に正と負の区間が存在しないために、直流オフセットの検出を行なうことも不可能である。これに対して第4の実施形態では、例えば平均をとることによって直流オフセットをキャンセルし、また全区間をデータとして使用することが可能となる。
【0072】
(付記1)パルス信号を送信してターゲットを検出するレーダ装置において、送信パルス作成の基となる信号を遅延させて制御パルス信号を生成する制御パルス生成手段と、
該制御パルス信号を用いて、受信信号に対するゲート動作を行うゲート手段とを備えることを特徴とするパルスレーダ装置。
【0073】
(付記2)前記ゲート手段の出力を検波する検波手段と、
前記制御パルス生成手段が前記遅延の量を変化させる時、該検波手段の出力を用いて、受信信号の振幅に相当する成分が極大となる遅延量に対応させてターゲットまでの距離を算出する距離算出手段とを更に備えることを特徴とする付記1記載のパルスレーダ装置。
【0074】
(付記3)前記ゲート手段の出力を検波する検波手段と、
前記制御パルス生成手段が前記遅延の量を変化させる時、該検波手段の出力を用いて、前記基となる信号と受信信号との位相差に対応させてターゲットまでの距離を算出する距離算出手段とを更に備えることを特徴とする付記1記載のパルスレーダ装置。
【0075】
(付記4)前記送信パルス作成の基となる信号からパルスを生成し、該パルスのスペクトル範囲を帯域制限して送信パルス生成用変調信号を生成する変調信号生成手段を更に備えることを特徴とする付記1記載のパルスレーダ装置。
【0076】
(付記5)パルス信号を送信してターゲットを検出するレーダ装置において、送信パルス作成の基となる第1の信号と、該第1の信号より低い周波数の位相変調用の第2の信号と、該第1と第2の信号の中間の周波数で生成される振幅変調用の擬似ランダム信号とを用いて作成された信号を遅延させて、制御パルス信号を生成する制御パルス生成手段と、
該制御パルス信号を用いて、受信信号に対するゲート動作を行うゲート手段とを備えることを特徴とするパルスレーダ装置。
【0077】
(付記6)前記擬似ランダム信号が、前記第1の信号に対する振幅変調用の信号であることを特徴とする付記5記載のパルスレーダ装置。
(付記7)前記擬似ランダム信号が、前記第1の信号に対する位相変調用の信号であり、前記作成された信号が該擬似ランダム信号がLowの区間にもパルスが存在する信号であることを特徴とする付記5記載のパルスレーダ装置。
【0078】
(付記8)前記ゲート手段の出力を検波する検波手段と、
前記制御パルス生成手段が前記遅延の量を変化させる時、該検波手段の出力に対して前記擬似ランダム信号を用いて逆拡散を行い、周波数帯域の電力を抽出して、該電力値が極大となる遅延量に対応させてターゲットまでの距離を算出する距離算出手段とを更に備えることを特徴とする付記5記載のパルスレーダ装置。
【0079】
(付記9)前記ゲート手段の出力を検波する検波手段と、
前記制御パルス生成手段が前記遅延の量を変化させる時、該検波手段の出力に対して前記擬似ランダム信号を用いて逆拡散を行い、周波数帯域の電力を抽出して、前記基となる第1の信号と受信信号との位相差に対応させてターゲットまでの距離を算出する距離算出手段とを更に備えることを特徴とする付記5記載のパルスレーダ装置。
【0080】
(付記10)前記第1の信号と、第2の信号と、擬似ランダム信号とを用いて作成された信号からパルスを生成し、該パルスのスペクトル範囲を帯域制限して送信パルス生成用変調信号を生成する変調信号生成手段をさらに備えることを特徴とする付記5記載のパルスレーダ装置。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明のレーダ装置受信部の原理構成ブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施形態としてのASKパルスレーダ装置の構成ブロック図である。
【図3】第1の実施形態における矩形波発振器の出力を示す図である。
【図4】パルス生成回路および帯域制限部の出力を示す図である。
【図5】プログラマブルディレイラインの出力を示す図である。
【図6】プログラマブルディレイラインの出力が与えられるパルス生成回路の出力を示す図である。
【図7】搬送波発振器の出力を示す図である。
【図8】振幅変調器の出力を示す図である。
【図9】包絡線検波器の出力を示す図である。
【図10】ゲート回路の動作を説明する図である。
【図11】ゲート回路の出力が入力されるローパスフィルタの出力を示す図である。
【図12】I−Q検波器の出力を説明する図である。
【図13】I−Q検波器の出力に対応する振幅とディレイラインの遅延時間との関係を示す図である。
【図14】検波器の出力から求められた位相差とディレイラインの遅延時間との関係を示す図である。
【図15】第2の実施形態としてのASK−SSレーダ装置の構成ブロック図である。
【図16】PN系列の例を示す図である。
【図17】EXORゲートの出力を説明する図である。
【図18】ANDゲートと、パルス生成回路および帯域制限部との出力を説明する図である。
【図19】本発明のパルスレーダ装置の第3の実施形態の構成ブロック図である。
【図20】第4の実施形態としての改良ASK−SSレーダ装置の構成ブロック図である。
【図21】第4の実施形態において生成されるパルスの説明図である。
【図22】第4の実施形態と第2の実施形態におけるゲート回路とその後段のローパスフィルタとの出力の比較を示す図である。
【図23】第4の実施形態におけるI−Q検波器の出力を示す図である。
【図24】第2の実施形態におけるI−Q検波器の出力を示す図である。
【図25】従来技術におけるノイズの影響を説明する図(その1)である。
【図26】従来技術におけるノイズの影響を説明する図(その2)である。
【符号の説明】
【0082】
1 パルスレーダ装置
2 制御パルス生成手段
3 ゲート手段
4 検波手段
5 距離算出手段
11 矩形波発振器
12 パルス生成回路および帯域制御部
13 プログラマブルディレイライン
14 パルス生成回路
15 搬送波発振器
16 振幅変調器
19 包絡線検波器
21 ゲート回路
22,24,25,26 ローパスフィルタ
23 I−Q検波器
27 A/D変換器およびマイコン
31,32 分周器
33 PN(系列)発生器
34 EXORゲート
35 ANDゲート
40 EXNORゲート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス信号を送信してターゲットを検出するレーダ装置において、送信パルス作成の基となる第1の信号と、該第1の信号より低い周波数の位相変調用の第2の信号と、該第1と第2の信号の中間の周波数で生成される振幅変調用の擬似ランダム信号とを用いて作成された信号を遅延させて、制御パルス信号を生成する制御パルス生成手段と、
該制御パルス信号を用いて、受信信号に対するゲート動作を行うゲート手段とを備えることを特徴とするパルスレーダ装置。
【請求項2】
前記擬似ランダム信号が、前記第1の信号に対する振幅変調用の信号であることを特徴とする請求項1記載のパルスレーダ装置。
【請求項3】
前記擬似ランダム信号が、前記第1の信号に対する位相変調用の信号であり、前記作成された信号が該擬似ランダム信号がLowの区間にもパルスが存在する信号であることを特徴とする請求項1記載のパルスレーダ装置。
【請求項4】
前記ゲート手段の出力を検波する検波手段と、
前記制御パルス生成手段が前記遅延の量を変化させる時、該検波手段の出力に対して前記擬似ランダム信号を用いて逆拡散を行い、周波数帯域の電力を抽出して、該電力値が極大となる遅延量に対応させてターゲットまでの距離を算出する距離算出手段とを更に備えることを特徴とする請求項1記載のパルスレーダ装置。
【請求項5】
前記ゲート手段の出力を検波する検波手段と、
前記制御パルス生成手段が前記遅延の量を変化させる時、該検波手段の出力に対して前記擬似ランダム信号を用いて逆拡散を行い、周波数帯域の電力を抽出して、前記基となる第1の信号と受信信号との位相差に対応させてターゲットまでの距離を算出する距離算出手段とを更に備えることを特徴とする請求項1記載のパルスレーダ装置。
【請求項6】
前記第1の信号と、第2の信号と、擬似ランダム信号とを用いて作成された信号からパルスを生成し、該パルスのスペクトル範囲を帯域制限して送信パルス生成用変調信号を生成する変調信号生成手段をさらに備えることを特徴とする請求項1記載のパルスレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2006−177985(P2006−177985A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−89228(P2006−89228)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【分割の表示】特願2003−138012(P2003−138012)の分割
【原出願日】平成15年5月15日(2003.5.15)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】