説明

パルスレーダ装置

【課題】本発明の目的は、FM変調波を利用したパルスレーダ装置において、FM−AM変換雑音を削減したパルスレーダ装置を提供することである。
【解決手段】本発明では、距離計測を行なうための送信高周波信号を受信周波数変換に用いるパルスレーダ装置であって、所定の距離以下の計測では無変調の高周波信号を発振し、前記所定の距離以上の計測では周波数変調された高周波信号を発振する発振手段と、前記無変調の高周波信号を低速パルス信号で振幅変調された高速パルス信号により振幅変調し、前記周波数変調された高周波信号を高速パルス信号で振幅変調する振幅変調手段と、前記振幅変調手段によって変調された前記高周波信号を送信信号として外部に放射する送信手段と、前記送信信号の反射波を受信信号として受信する受信手段と、前記受信信号の遅延時間を検出する遅延時間検出手段と、前記遅延時間を用いて目標物までの距離を求める距離算出手段とを備えたことを特徴とするパルスレーダ装置を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルスレーダ装置に関し、特に周波数変調によって生じた振幅変調成分を除去してレーダの検知感度を向上させるパルスレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、交通路の障害物検知や通行車両の監視、自動車のACC(Adaptive Cruise Control)等の用途にミリ波レーダ技術が注目されている。これらのレーダ技術には、FM−CW(Frequency Modulated Continuos Wave)方式が用いられているが、数m以下の極近距離の計測は困難であった。
【0003】
極近距離を計測するレーダとして、数nsec幅のパルスを利用するパルスレーダがある(特許文献1参照)。
【0004】
前記パルスレーダでは、送信高周波信号をローカル信号として受信周波数変換に用いるパルスレーダ装置において、受信周波数変換におけるホモダイン検波においてヌル点が発生しないように、送信部の高周波発振器を周波数変調した後に、パルス振幅変調を行っている。
【0005】
また、従来のFM−CWレーダの受信部においてもホモダイン検波が用いられ、送信部で発信した高周波がローカル信号として受信部の周波数変換器(以下ミキサ)に供給され、受信した高周波信号を低周波信号に周波数変換する。
【0006】
このような周波数変調(以下FM変調)を利用したレーダでは、高周波FM変調器や高周波回路の周波数対振幅特性が平坦で無い場合に、FM変調によって生じた振幅変調成分(以下FM−AM変換雑音)が発生する。FM−AM変換雑音は、レーダ装置において不要な干渉雑音となりレーダ計測の感度を下げる。
【0007】
前記FM−AM変換雑音を削減する対策として、FM変調された高周波信号をさらに振幅変調し、レーダ受信部のホモダイン検波出力において前記振幅変調周波数だけシフトした周波数のレーダ受信信号を選択して抽出し、必要なレーダ受信信号と不要なFM−AM変換雑音を周波数で分離する方法があった(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2004−264067号公報
【特許文献2】特開平5−40169号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
先に説明した背景技術において、FM変調された高周波信号をさらに振幅変調し、レーダ受信部でホモダイン検波する方法は、ホモダイン検波器出力においてFM−AM変換雑音を振幅検波した成分は除去できるが、ホモダイン検波出力における前記振幅変調の周波数だけシフトした成分にもFM−AM変換雑音は含まれ、必要なレーダ信号との分離が出来ないので完全な対策ではなかった。
【0009】
従って、本発明の目的の1つは、FM−AM変換雑音を削減したパルスレーダ装置を提供することである。
【0010】
尚、上記目的に限らず、後述する発明を実施するための最良の形態に示す各構成により導かれる結果であって従来の技術によっては得られない効果も、本発明の他の目的の1つとして位置付けることができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明では、距離計測を行なうための送信高周波信号を受信周波数変換に用いるパルスレーダ装置であって、所定の距離以下の計測では無変調の高周波信号を発振し、前記所定の距離以上の計測では周波数変調された高周波信号を発振する発振手段と、前記無変調の高周波信号を低速パルス信号で振幅変調された高速パルス信号により振幅変調し、前記周波数変調された高周波信号を高速パルス信号で振幅変調する振幅変調手段と、前記振幅変調手段によって変調された前記高周波信号を送信信号として外部に放射する送信手段と、前記送信信号の反射波を受信信号として受信する受信手段と、前記受信信号の遅延時間を検出する遅延時間検出手段と、前記遅延時間を用いて目標物までの距離を求める距離算出手段とを備えたことを特徴とするパルスレーダ装置を用いる。
【0012】
好ましくは、前記パルスレーダ装置は、前記所定の距離以上の計測においては、前記パルスレーダ装置が計測する距離に応じて変調周波数と変調周波数幅を制御して、前記受信手段により得られるビート周波数が所定帯域内に入るように制御する制御手段を備えたことを特徴とする請求項1記載のパルスレーダ装置を用いる。
(2)本発明では、前記送信高周波信号を無変調から周波数変調に切り替える所定の距離は、前記受信手段により得られる送信周波数と受信周波数の差の周波数が前記周波数変調する変調周波数より高い周波数に対応する距離であることを特徴とする請求項1記載のパルスレーダ装置を用いる。
【0013】
好ましくは、前記無変調の高周波信号を振幅変調する低速パルス信号は、擬似ランダム符号であることを特徴とする請求項1記載のパルスレーダ装置を用いる。
(3)本発明では、送信高周波信号をローカル信号として受信周波数変換に用いるパルスレーダ装置であって、周波数変調された前記高周波信号を発振する発振手段と、前記高周波信号を高速パルスの第1の変調信号で振幅変調する第1の振幅変調手段と、前記振幅変調手段によって変調された高周波信号を送信信号として外部に放射する送信手段と、前記送信信号の反射波を受信信号として受信する受信手段と、前記周波数変調を行う変調信号に同期して振幅と位相が制御された第2の変調信号により、前記受信信号を振幅変調する第2の振幅変調手段と、前記周波数変調を行う変調信号に同期して振幅と位相が制御された第3の変調信号により、前記受信周波数変換に用いるローカル信号を振幅変調する第3の振幅変調手段と、前記受信信号の遅延時間を検出する遅延時間検出手段と、前記遅延時間を用いて目標物までの距離を求める距離算出手段とを備えたことを特徴とするパルスレーダ装置を用いる。
(4)本発明では、前記受信信号を振幅変調する前記第2の振幅変調手段は、前記高周波信号発信手段から送信アンテナ、受信アンテナ、周波数変換手段までのレーダ信号伝送経路の周波数対振幅特性により発生する振幅変化成分を打ち消すことを特徴とする請求項3記載のパルスレーダ装置を用いる。
【0014】
好ましくは、前記ローカル信号を振幅変調する第3の振幅変調手段は、前記高周波信号発信手段から周波数変換手段までのローカル信号伝送経路の周波数対振幅特性により発生する振幅変化成分を打ち消すことを特徴とする請求項3記載のパルスレーダ装置を用いる。
【0015】
好ましくは、前記パルスレーダ装置は、所定の距離以下の計測では無変調の前記高周波を発振し、前記所定の距離以上の計測では周波数変調された前記高周波信号を発振する発振手段と、前記無変調の高周波信号を低速パルス信号で振幅変調された高速パルス信号により振幅変調し、前記周波数変調された高周波信号を高速パルス信号で振幅変調する振幅変調手段と、を備えたことを特徴とする請求項3記載のパルスレーダ装置を用いる。
(5)本発明では、送信高周波信号をローカル信号として受信周波数変換に用いるパルスレーダ装置であって、周波数変調された前記高周波信号を発振する発振手段と、前記周波数変調を行う三角波又はのこぎり波の変調信号を帯域制限する帯域制限手段と、前記高周波信号をパルス振幅変調する振幅変調手段と、前記振幅変調手段によって変調された高周波信号を送信信号として外部に放射する送信手段と、前記送信信号の反射波を受信信号として受信する受信手段と、前記受信手段により得られる送信周波数と受信周波数の差の周波数を抽出する帯域通過濾波手段と、前記受信信号の遅延時間を検出する遅延時間検出手段と、前記遅延時間を用いて目標物までの距離を求める距離算出手段とを備えたことを特徴とするパルスレーダ装置を用いる。
【0016】
好ましくは、前記周波数変調を行う三角波又はのこぎり波の変調信号に対する帯域制限手段は、前記ビート周波数を抽出する帯域通過手段の通過帯域を遮断する低域通過濾波器または帯域阻止濾波器であることを特徴とする請求項5記載のパルスレーダ装置を用いる。
【0017】
好ましくは、前記パルスレーダ装置は、所定の距離以下の計測では無変調の前記高周波を発振し、前記所定の距離以上の計測では周波数変調された前記高周波信号を発振する発振手段と、前記無変調の高周波信号を低速パルス信号で振幅変調された高速パルス信号により振幅変調し、前記周波数変調された高周波信号を高速パルス信号で振幅変調する振幅変調手段と、備えたことを特徴とする請求項5記載のパルスレーダ装置を用いる。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、FM−AM変換雑音を削減した高感度なパルスレーダ装置を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照することにより、本発明の実施の形態について説明する。
(実施例1)
実施例1においては、パルスレーダの計測周期内を、送信高周波をFM変調してパルス振幅変調する区間と、無変調の高周波をパルス振幅変調する区間に分けることとする。
【0020】
図1に、実施例1におけるパルスレーダ装置を用いたレーダシステムの構成を示す。
【0021】
図1において、100はパルスレーダ装置、101は信号処理回路、102はFM変調信号発生回路、103はFM発振器、104は結合回路、105は増幅器、106は送信スイッチ、107は送信スイッチ駆動回路、108は送信アンテナ、109はレーダ反射体、110は受信アンテナ、111は受信スイッチ、112は受信スイッチ駆動回路、113は遅延スライディング回路、114は増幅器、115はローカルスイッチ、116は第1ミキサ、117は第2ミキサ、118はBPF(バンンドパスフィルタ)、119は複合パルス生成回路をそれぞれ示す。
【0022】
図2に、実施例1における各部の信号波形を示す。
【0023】
図2において、図2(a)のD201は低速パルス信号、図2(b)のD202は複合パルス信号波形、図2(c)のD203はFM変調信号波形、図2(d)のD204はローカルスイッチ制御信号をそれぞれ示す。
・「パルスレーダの動作」
図1に示すシステム構成図と、図2に示す各部の信号波形を用いて、実施例1におけるパルスレーダ装置100の動作を説明する。
【0024】
FM発振器103は、FM変調信号発生回路102より供給されたFM変調信号D203により、FM変調された高周波信号を出力する。
【0025】
FM変調信号D203は図2(c)に示すように、周期Tm0における初めのTm1の区間は一定値であるので、FM発振器103は無変調の連続波(周波数をfとする)を出力する。周期Tm0の後の区間Tm2では、周期Tの三角波(繰り返し周波数f=1/T)であるので、FM発振器103は中心周波数がfであって、三角波でFM変調された(変調幅をΔfとする)FM−CW信号の高周波を出力する。
【0026】
FM発振器103の出力は、結合回路104、増幅器105を介して送信スイッチ106に供給される。
【0027】
信号処理回路101から発生した高速パルス信号(繰り返し周波数をfとする)は、複合パルス生成回路119において低速パルス信号D201(繰り返し周波数をfとする)により複合変調されて複合パルス信号D202が生成される。複合パルス信号D202は、送信スイッチ駆動回路107において短パルス化され、送信スイッチ106を駆動する。
【0028】
その結果、送信スイッチ106の出力は、図2(b)〜(c)におけるTm1の区間は無変調の連続高周波が複合パルス信号D202によってパルス振幅変調された信号となり、Tm2の区間はD203の三角波でFM変調された高周波がさらにD202に示す高速パルス信号で振幅変調された信号となり、送信アンテナ108より放射される。
【0029】
レーダ反射体109で反射したレーダ反射波は、受信アンテナ110で受信され受信信号となる。受信信号は受信スイッチ111において短パルスでスイッチされる。受信スイッチ111を駆動するスイッチ信号は、送信スイッチを振幅変調した信号と同じ高速パルス信号の繰り返し周波数fであって、周波数fの高速パルス信号が、図1の遅延スライディング回路113において信号処理回路101からの遅延制御信号により、遅延時間(τとする)が順次変化するように制御され、受信スイッチ駆動回路112において短パルス化された信号である。
【0030】
遅延時間τが順次変化するように制御された高速パルス信号の短パルス時間と、受信信号の短パルスの時間が一致した時のみに、受信スイッチ111の出力は繰り返し周波数fの高速パルス信号で振幅変調された高周波信号を出力する。
【0031】
受信スイッチ111の出力は、増幅器114で高周波増幅され第1ミキサ116において、送信のFM発振器103出力を結合回路104で分岐したローカル信号と混合されホモダイン検波される。
【0032】
図2(a)〜(d)におけるTm1の区間では、第1ミキサ116に入力する受信信号は、無変調の高周波が、D202のTm1の区間の波形で高速パルス信号(繰り返し周波数f)と低速パルス信号(繰り返し周波数f)で複合振幅変調された波形であり、第1ミキサ116に入力するもう一方のローカル信号は、ローカルスイッチ115が信号処理回路101からの制御信号D204によりオフになっているので第1ミキサ116に入力しない。したがってTm1の区間では、第1ミキサ116は受信信号のみを振幅検波し、第1ミキサ116出力ではD202のTm1区間の波形が中間周波数(以下IF:Intermediate Frequency)信号として得られる。
【0033】
図2(a)〜(d)におけるTm2の区間では、第1ミキサ116に入力する受信信号は、高周波がD203の波形でFM変調され、さらにD202のTm2の区間の波形で振幅変調された波形である。第1ミキサ116に入力するもう一方のローカル信号は、ローカルスイッチ115が信号処理回路101からの制御信号D204によりオンになっているので、波形D203によりFM変調された信号となって第1ミキサ116に入力する。したがって、Tm2の区間では第1ミキサ116はホモダイン検波器として動作し、第1ミキサ116出力は、FM−CWレーダ方式におけるレーダ反射体までの距離に対応したビート周波数の正弦波で高速パルス信号(繰り返し周波数f)の振幅が変化するIF信号出力が得られる。
【0034】
前記第1ミキサ116出力のIF信号は、第2ミキサ117において、遅延スライディングされた高速パルス信号(繰り返し周波数f)を基準信号として同期検波される。
【0035】
受信信号を通過させた受信スイッチ111の駆動パルス信号と、第2ミキサ117へ供給された高速パルス信号の基準信号は、遅延スライディング回路112により同一の遅延時間で順次変化するように制御された信号であるから、繰り返し周波数はfで完全に同期しており、遅延時間が順次変化するように制御されても位相差は0度であって変化しない。
【0036】
第2ミキサ117では、図2(a)〜(d)におけるTm1の区間では低速パルス信号D201が検波され、Tm2の区間では送信されたFM変調波と受信したFM変調波の差の周波数であるビート周波数fの正弦波が検波され、BPF118に出力する。
【0037】
BPF118の通過帯域は、低速パルス信号D201の繰り返し周波数fおよび、ビート周波数fが通過する帯域幅に設計されている。ただし、従来のFM−CW方式では、(1)式で示されるように、レーダ反射体までの距離Rに比例してビート周波数fは変化する。
【0038】
【数1】


ただし、ΔfはFM変調の変調幅で、fはFM変調三角波の繰り返し周波数、Rはレーダ装置からレーダ反射体までの距離、cは光速である。
【0039】
本パルスレーダでは、計測する距離Rに応じてΔfまたはfを変化させる。
【0040】
本パルスレーダにおいては、距離Rのレーダ反射体109からの反射波の受信信号は、遅延時間が順次変化する高速パルス信号に駆動された受信スイッチ111によりスイッチされ、受信信号の遅延時間τが受信スイッチ111を駆動する高速パルス信号の遅延時間(τcとする)に一致した時に、受信スイッチ111を通過し、周波数変換されBPF118に供給される。
【0041】
なお、レーダ反射体までの距離Rに対応した受信信号の遅延時間τと一致する制御された遅延時間τの関係は(2)式で示される。
【0042】
【数2】


前記受信スイッチ111を駆動する高速パルス信号の遅延時間τに応じて、(1)式における(Δff)の値をRに対し反比例するように制御することにより、ビート周波数fは一定値fb0となる。
【0043】
例えば、基準状態として、距離R=1.5mにおいて、Δf=100MHz、fm=6kHzとすると、(1)式によりビート周波数f=12kHzとなる。距離R=3mを計測する遅延時間では、距離の2倍に反比例してΔfを1/2にして、100MHz/2=50MHzに変化させれば、(1)式により、ビート周波数fは12kHzのままに維持される。
【0044】
実際の場合は、(Δff)の値を、Rに対し近似的に反比例するように制御するのでビート周波数fは多少変化する。またレーダ反射体が移動しているとドップラー効果によりビート周波数が変化するので、BPF118の帯域幅はこれらの変化分広くされる。
BPF118を通過した信号は、信号処理回路101において、受信信号レベルが計算される。
【0045】
前記の各遅延スライディング時間に対して、受信信号レベルが一定以上のピーク値を示すと、その遅延時間τに対し、レーダ反射体までの距離Rが(2)式で計算される。
・「FM−AM変換雑音の発生」
高周波のFM変調器103および、FM変調器103からローカルスイッチ115を介して第1ミキサに至るローカル信号の経路における周波数対振幅特性が平坦で無い場合、繰り返し周波数fの三角波のFM変調により生じる振幅変調(以下FM−AM変換)成分を持った高周波信号が、ローカル信号として第1ミキサ116に供給される。
【0046】
第1ミキサ116では、レーダ反射波の受信入力がない時でも、前記受信ローカル信号のFM−AM変換成分を振幅検波する。前記受信ローカル信号は、第1ミキサ116を介して増幅器114に漏洩し、増幅器114で再度反射して第1ミキサ116に入力する成分がある。増幅器114は周波数fでスイッチされる受信スイッチ111の影響を受けるので、前記再度反射した成分はローカル信号がスイッチ周波数fとFM−AM変換の周波数fで複合的に振幅変調されている。この信号は第1ミキサ116で振幅検波さると、周波数fの信号振幅が周波数fで変化するIF信号出力となる。前記IF信号は、第2ミキサ117において周波数fを基準信号として同期検波され、第2ミキサ117は周波数fの成分を出力する。
【0047】
また受信信号に対しても、高周波のFM変調器103から送信アンテナ108出力にいたる高周波の送信回路、および受信アンテナ110から第1ミキサ116までの高周波回路の経路において、周波数対振幅特性が平坦で無い場合、繰り返し周波数fの三角波によりFM−AM変換された受信信号が、第1ミキサ116でホモダイン検波され、スイッチ周波数fsのパルス信号がfの周波数で振幅変調されたIF信号出力となり、第2ミキサ117において、周波数fを基準信号として同期検波され、第2ミキサ117は周波数fの成分を出力する。
【0048】
前記の周波数fの成分はFM−AM変換雑音となり、BPF118で遮断できない場合は、レーダ計測における不要雑音となり、計測感度を劣化させる。
・「ビート信号とFM−AM変換雑音の周波数の関係」
前記で説明したようなFM−AM変換雑音の影響を避けるには、希望のビート信号周波数fと不要なFM−AM変換雑音の周波数fを分離する必要がある。
【0049】
まず、周波数fとfの関係について説明する。
【0050】
実施例1のパルスレーダにおいて、受信レベル計算において安定な値を得るには、図2のTm2のFM―CW区間においては、周期T(=1/f)の三角波の上昇区間および下降区間T/2に、周波数fのビート信号が1/2周期以上含まれる必要がある。この関係は(3)式で示される。
【0051】
【数3】


ただし、周波数fとfの成分を分離するには(3)式の不等号を満たす適切な関係が必要であるので後で説明する。
【0052】
また、FM変調幅Δfは、良好なFM変調特性を得るにはハードウエアによる上限値がΔfmaxがある。
【0053】
【数4】


ミリ波周波数を利用するレーダでは、例えば、Δfmax=100MHzである。
(1)、(3)、(4)式より、Δfが許容される変化範囲は(5)式となる。
【0054】
【数5】


またΔfの値は(1)式より(6)式となる。
【0055】
【数6】


また、f/fは(7)式となる。
【0056】
【数7】


計測距離Rを変化させた時に、ビート周波数fを所定の一定値にするために、fを所定値に決め、(7)式によりΔfを制御する。
【0057】
計測距離Rが大きい時のΔfは、(6)式により変化させることにより、f/fが(3)式の条件に設定されてあれば、Δfの許容範囲(5)式は満たされる。
【0058】
一方、計測距離Rが小さくなった時のΔfは(6)式により増加させても、可能最大値Δfmax以上には出来ないのでΔfmaxに固定される。この時(ΔfR)は小さくなるので、Rが所定の値より小さくなると(7)式によりf/fが1より小さくなる。これは、三角波の上昇区間および下降区間T/2に、周波数fのビート信号が1/2周期含まれない状態を示すので、計算した受信信号レベルが正確でなくなる。
【0059】
また、計測距離Rが極近距離の場合にf/fが1に近くなると、ビート周波数fと三角波の繰り返し周波数fが接近して、BPF118による周波数の分離が困難になるので、希望のビート信号を取り出すBPF118の出力に、前記の不要なFM−AM変換雑音が現れる。第1ミキサ116に入力するローカル信号に含まれるFM−AM変換雑音は、レーダ反射体からの受信信号の有無に関係ないレベルでBPF118から出力し、受信信号に含まれるFM−AM変換雑音は受信レベルに比例したレベルでBPF118から出力する。いずれも距離計測には不要な雑音となり、計測感度を劣化させる。
【0060】
特にRの小さい極近距離では、(6)式によりΔfの値が大きいのでFM−AM変換雑音レベルも大きく、レーダの計測感度を大きく劣化させる。
【0061】
前記の説明は、計測距離Rに対応して(6)式により、Δfを変化させる場合であった。(6)式においてfを変化させるとΔfの増加は軽減されるように見える。
【0062】
しかしながら、(6)式を変形した(7)式によれば、Rが小さい場合ΔfをΔfmaxに固定すると、f/fはやはり1に近づくので、fとfの分離は同様に出来なくなる。
【0063】
本パルスレーダにおいてFM−AM変換雑音を削減するためには、fとfを離すことにより分離する必要があるから、f/fがRとΔfでどう変化するかが重要である。(7)式によれば、f/fはΔfとRにより決定される。従って、計測距離Rが変化した時はΔfを変化させることによってのみ、f/fは所定の比率となる。(7)式によれば、ΔfとRxが決まれば、fを変化させてもfが同じ比率で変化するだけであるから、周波数fと周波数fの分離には関係しない。
・「FM−AM変換雑音の除去方法」
実施例1では、前記に説明した極近距離におけるFM−AM変換雑音の影響を除去するため、所定の距離以下のレーダ反射体の距離計測時は、送信高周波のFM変調を停止し振幅変調を使う。
【0064】
前記に説明した不都合が起きない距離Rの下限について説明する。
【0065】
(5)式において等号になる時がRの最小限界であり、(3)式においても等号となりf=fの場合であるから、fとfの分離は出来ない。
【0066】
BPF118により、fを通過させfを遮断する必要がある。
【0067】
例えば、f≧2fに設定してfとfを離すと、(6)式により(8)式となる。
【0068】
【数8】


例えばΔfの最大値Δfmax=100MHzの場合(8)式よりRx≧1.5mとなる。
即ち、計測距離Rが(8)式による下限距離以下の距離計測の場合は、図2におけるTm1に対応し、低速パルス信号周波数fを例えば12kHzの矩形波とし、高速パルス信号周波数fを例えば10MHzの矩形波を振幅変調して複合パルス信号とし、短パルス化して送信スイッチ106により高周波を振幅変調する。
【0069】
一方、計測距離が(8)式による下限距離以上の距離計測の場合は、図2におけるTm2に対応しレーダ送信の高周波をFM変調する。
【0070】
この方法により、極近距離のRを計測する図2のTmの区間は、FM変調によるビート信号のレベルではなく、例えば12kHzの低速パルス信号を検波した信号レベルの計算になるので、FM変調を行なうことによる前記FM−AM変換雑音の発生はなく、またFM周期内のビート信号の波数を考慮する必要がなくなる。
【0071】
所定距離より遠い距離Rを計測する図2のTmの区間は、FM変調によるビート信号のレベルを計算し、距離Rを計測する。この距離範囲の計測では、所定のf(例えば6kHz)と希望のビート周波数f(例えば12kHz)を与え、計測距離Rの変化に従い(6)式によりΔfに変化させると、一定のビート周波数f(例えば12kHz)が得られる。
【0072】
この場合は、fが12kHz一定であってf=2fの関係が維持されるので、BPF118によりビート周波数fは通過させ、FM−AM変換雑音の繰り返し周波数fを遮断することが可能となる。
【0073】
この場合、例えば、f=12kHz、f=6kHz、BPF118の中心周波数f=12kHz、通過帯域幅ΔW=6kHz(f±3kHz)と設定される。
【0074】
ただし、通過帯域幅±3kHzはレーダ反射体109の移動速度によるドップラー周波数を考慮した値であり、3kHzのドップラー周波数は、例えば76GHzのミリ波の場合、レーダ反射体の時速約20km/hに相当する。BPF118として、例えば6次のバターワースフィルタを用いると、FM−AM変換雑音の繰り返し周波数f=6kHzにおいては約35dBの減衰量が得られるので、FM−AM変換雑音を十分削減できる。
【0075】
また、(6)式により、計測距離Rが大きい場合は、ΔfはRに反比例して小さい値に制御されるので、FM−AM変換雑音自身が少なく、FM−AM変換雑音の影響は少なくすることが出来る。
【0076】
実施例1では、BPF118の選択特性によるfとfの分離を十分取るため、f≧2fとしたが、BPF118の選択特性が狭くできれば、(3)式による範囲内でfはfに近づけることが出来る。
【0077】
なお、図1に示す実施例1におけるパルスレーダ装置100において、ローカルスイッチ115をオフにした時は第1ミキサ116を振幅検波器として動作させ、ローカルスイッチ115をオンにした時は第1ミキサ116をホモダイン検波器として動作させた。前記説明におけるように、振幅検波器として動作させるのは、レーダ反射体が極近傍にある場合であるので、受信信号のレベルは十分大きい。このときは、ローカルスイッチ115をオンのままにしても、実際の第1ミキサ116の非線形特性により振幅検波成分を出力することが出来る。
【0078】
従って、実際にはローカルスイッチ115無しで、常時ローカル信号を第1ミキサ116に供給しても、実施例1における振幅変調による低速パルス信号と高速パルス信号による複合パルス信号(図2におけるD202のTm1区間の波形と同じ信号)が第1ミキサ116から取り出すことが出来るので、本発明による効果が得られる。
(実施例2)
実施例2においては、FM−AM変換雑音を打ち消す回路を用いることとする。
【0079】
図3に、実施例2におけるパルスレーダ装置300を用いたレーダシステムの構成を示す。
【0080】
図3において、図1と同じものは同一の番号を付してあり、300はパルスレーダ装置、301は打ち消し信号発生器、302は打ち消し信号発生器、303は増幅器をそれぞれ示す。
【0081】
図3におけるパルスレーダ装置300の動作は、実施例1におけるFM変調区間Tm2における動作と同じであり、実施例2では振幅変調の区間Tm1が無く、1周期Tm0のすべてがFM変調されている。
【0082】
また、FM変調周波数幅Δfは実施例1と同様に、計測距離Rに対して、(6)式により変化するように制御される。
・「FM−AM変換雑音打消し動作」
図3および図4を用いて、実施例2におけるFM−AM変換雑音打消し動作を説明する。
【0083】
図4に実施例2における各部の信号波形を示す。
【0084】
図4において、図4(a)のD401はFM発振器103に入力するFM変調信号、図4(b)のD402は結合回路104から増幅器303に入力するローカル信号波形および受信スイッチ111から増幅器114に入力する波形、図4(c)のD403は打消し信号発生器301および打消し信号発生器302から出力する打消し信号、図4(d)のD404は増幅器303および増幅器114から第1ミキサ116に入力するFM−AM変換成分が打ち消された高周波信号をそれぞれ示す。
【0085】
レーダ反射体109からのレーダ反射波を受信した受信信号は、FM発振器103から受信スイッチ111までの高周波経路における周波数特性により、FM変調信号の三角波D401に同期して振幅変調され、例えばD402の波形となっている。打ち消し信号発生器301は、FM変調信号の三角波D401に同期して例えばD403の信号を発生する。
【0086】
打ち消し信号D403は、受信信号D402の振幅変調成分を打ち消す波形になるように振幅と位相が調整され、増幅器114の利得を制御して受信信号D402を振幅変調する。増幅器114の出力はD404となりFM−AM変換によって発生した振幅変調成分がなくなる。この振幅一定の受信信号は第1ミキサ116および第2ミキサで周波数され、FM−AM変換された成分を含まないビート信号がBPF118を介して信号処理回路101に供給される。
【0087】
第1ミキサ116にローカル信号として入力する高周波信号は、FM発振器103から増幅器303までのローカル信号経路における周波数特性により、FM変調信号の三角波D401に同期して振幅変調された例えばD402の波形となっている。
【0088】
図4では説明を簡略にするため、ローカル信号の波形と前記レーダ受信信号波形は同じ波形D402としているが、実際にはレーダ信号の経路とローカル信号の経路は異なるので周波数特性も異なり、その結果FM−AM変換成分も異なる。
【0089】
ローカル信号のFM−AM変換による振幅変調成分の打ち消し信号D403は、ローカル信号D402の振幅変調成分を打ち消す波形になるように振幅と位相が調整され、増幅器303の利得を制御してローカル信号を振幅変調する。増幅器303の出力はD404となりFM−AM変換によって発生した振幅変調成分がなくなる。
【0090】
振幅一定のローカル信号D404は第1ミキサ116に供給され、レーダ受信信号がある時はレーダ受信信号を周波数変換し、第1ミキサ116の変換利得がローカル信号の振幅により変化し、レーダ受信信号の振幅にFM−AM変換成分が重畳するのを防ぐ。また、レーダ受信信号が無い時は、第1ミキサ116は振幅検波器として動作するが、ローカル高周波信号D404は、FM−AM変換による振幅変調成分が打ち消されているので、第1ミキサ116出力にはFM−AM変換雑音が現れない。従って、第2ミキサ117、BPF118を介して信号処理回路101に供給される信号にもFM−AM変換雑音が現れない。
【0091】
なお、打消し信号発生器301、打消し信号発生器302は、FM変調信号の三角波D401をAD変換し、次にFFT(高速フーリエ変換)した後、レーダ受信信号のビート周波数(周波数=fとする)が通過するBPF118を通過するFFT周波数スペクトラム成分のみを取り出し、DA変換して打ち消し信号D403を生成してもよい。
【0092】
また、増幅器114、増幅器303を構成する高周波トランジスタ、例えばHEMT(High Electron Mobility Transistor:高電子移動度トランジスタ)のゲートバイアス直流電圧、またはドレインバイアス直流電圧に、打ち消し信号D403を重畳して増幅器114、増幅器303の利得を制御することにより、D402におけるFM−AM変換雑音の打消しを行なってもよい。
【0093】
また、前記説明では計測距離Rの全範囲において、パルスレーダ装置300は三角波により送信高周波をFM変調したが、(7)式によりf/fが1に近づく極近距離Rの計測では、実施例1におけるTm1の区間と同じく、高周波信号のFM変調は停止し、低速パルス信号により高速パルス信号を振幅変調した複合パルスにより前記高周波信号を振幅変調し、受信部では低速パルス信号を抽出する方法を併用してもよい。
【0094】
この場合、極近距離以上の距離Rの計測では、前記の説明のように、受信信号に含まれる振幅変調成分と、ローカル信号に含まれる振幅変調成分をFM変調する三角波に同期した打消し信号により打ち消し、受信部ではビート信号を抽出する。この方法により、極近距離から遠距離にわたる全距離範囲の計測において、FM−AM変換雑音を削減することが出来る。
(実施例3)
実施例3においては、送信高調波をFM変調する三角波信号に対し、レーダ受信部においてビート周波数帯域を通過する成分を除去する帯域制限を行い、この帯域制限された信号によりFM変調することする。
【0095】
図5に、実施例3におけるパルスレーダ装置500を用いたレーダシステムの構成を示す。
【0096】
図5において、図1および図2と同じものは同一の番号を付してあり、500はパルスレーダ装置、501はLPF(ローパスフィルタ)を示す。
【0097】
図5におけるパルスレーダ装置500の動作は、実施例1におけるFM変調区間Tm2における動作と同じであり、実施例3では振幅変調の区間Tm1が無く、1周期Tm0のすべてがFM変調されている。
【0098】
また、FM変調周波数幅Δfは実施例1と同様に、計測距離Rに対して、(6)式により変化するように制御される。
【0099】
ただし、FM変調する波形が三角波ではなく、フィルタにより所定の帯域が遮断された波形であるのが実施例1と異なる。
・「FM−AM変換雑音の除去方法」
図5、図6を用いて、実施例3において、FM−AM変換雑音を削減する方法を説明する。
【0100】
図6(a)は、三角波のFM変調波により発生した、FM−AM変換雑音の周波数スペクトラム成分の例を示す。ただし、理想的三角波は基本波周波数fと奇数次高調波3f、5f・・・しか含まないが、実際には、三角波の増幅回路や高周波回路における周波数対振幅特性の非線形により、図6(a)の様にfの偶数次高調波2f、4f成分も発生する。f成分とfの高調波成分は、実施例1における「FM−AM変換雑音の発生」で説明した動作により、実施例3においては図5の第2ミキサ117から出力する。
【0101】
図5のBPF118の特性は図6(b)のD601で示され、ビート周波数fの成分が抽出されると同時に、BPF118の通過帯域内に入るFM−AM変換雑音の高調波3fと4f成分を抽出して不要な干渉波となる。
【0102】
すなわち、図6において例えばf=4kHz、f=14kHz、BPF118の通過帯域幅を14kHz±3kHzにした場合、3f=12kHz、4f=16kHzであるから、FM−AM変換雑音の高調波3fと4f成分を抽出してしまう。
【0103】
図6(c)は、実施例3においてLPF501により、FM変調波の三角波を帯域制限した場合のスペクトラムを示す。LPF501は、例えば遮断周波数=6kHz、6次バタワース低域通過濾波器であり、3f=12kHzおよび4f=16kHzにおいて、35dB以上の減衰特性が得られる。
【0104】
この結果、FM−AM変換雑音の3f、4f成分は、図6(c)に示す様に、大幅に減少し、図6(d)においてBPF118の通過帯域内に入力する成分は、希望波ビート周波数f成分のみとなり、この結果、信号処理回路101に入力するFM−AM変換雑音が削減される。
・「実施例3におけるビート周波数成分」
図6および図7を用いて、実施例3における帯域制限された三角波FM変調信号によるビート周波数を説明する。
【0105】
図7に、実施例3におけるFM変調された各部の周波数変化を従来技術と比較して示す。
【0106】
図7(a)において、D701は実施例3により帯域制限された三角波によりFM変調された送信信号の周波数、D702はD701が遅延して受信された受信信号の周波数、 図7(b)において、D703は実施例3によるビート周波数、 図7(c)において、D704は従来の三角波FM変調による送信信号の周波数、D705はD604が遅延して受信された受信信号の周波数、 図7(c)において、D706は従来三角波FM変調によるビート周波数をそれぞれ示す。
【0107】
従来技術においては、三角波によりFM変調された送信高周波D704はレーダ反射体109により反射され、距離に対応して遅延し受信高周波D705となり、D704とD705の差の周波数がビート周波数D706となる。D706の頂上の平坦部の周波数が、(1)式で示されるビート周波数fである。
【0108】
実施例3において、帯域制限された三角波によりFM変調された送信高周波周波数は、図7(a)D701の周波数変化波形をしており、レーダ反射体109により反射さると距離に応じて遅延した受信高周波周波数波形D702となり、D701とD702の差の周波数がビート周波数D703となる。D703の頂上付近の中心周波数が、(1)式で示されるビート周波数fである。図7(b)のビート周波数の頂上付近は、図7(d)に比べ多少変化しているが周波数fの成分を有しており、帯域制限によるf成分の低下はわずかである。
【0109】
また、実施例3のパルスレーダ装置500は、FM−CW方式におけるようにビート周波数の値から距離を計測するのでは無く、BPF118を通過したビート信号のレベルを最大にするゲーティングパルスの遅延時間により距離を計測するので、多少のビート周波数の変化はBPF118の帯域内であれば問題にならない。
【0110】
また、実施例3のパルスレーダ装置500は、FM変調信号を帯域制限する濾波器としてLPF501を用いたが、ビート信号を抽出するBPF118の通過帯域を遮断する帯域阻止濾波器を用いても、前記と同様にしてFM−AM変換雑音を削減することが出来る。
【0111】
また、前記説明では計測距離Rの全範囲において、パルスレーダ装置500は帯域制限された三角波により送信高周波をFM変調したが、(7)式によりf/fが1に近づく極近距離Rの計測では、実施例1におけるTm1の区間と同じく、高周波信号のFM変調は停止し、低速パルス信号により高速パルス信号を振幅変調した複合パルスにより前記高周波信号を振幅変調し、受信部では低速パルス信号を抽出する方法を併用してもよい。
【0112】
この場合、極近距離以上の距離Rの計測では、前記帯域制限された三角波により高周波信号をFM変調し、受信部ではビート信号を抽出する。この方法により、極近距離から遠距離にわたる全距離範囲の計測において、FM−AM変換雑音を削減することが出来る。
(付記1)
距離計測を行なうための送信高周波信号を受信周波数変換に用いるパルスレーダ装置であって、
所定の距離以下の計測では無変調の高周波信号を発振し、前記所定の距離以上の計測では周波数変調された高周波信号を発振する発振手段と、
前記無変調の高周波信号を低速パルス信号で振幅変調された高速パルス信号により振幅変調し、前記周波数変調された高周波信号を高速パルス信号で振幅変調する振幅変調手段と、
前記振幅変調手段によって変調された前記高周波信号を送信信号として外部に放射する送信手段と、
前記送信信号の反射波を受信信号として受信する受信手段と、
前記受信信号の遅延時間を検出する遅延時間検出手段と、
前記遅延時間を用いて目標物までの距離を求める距離算出手段とを備えたことを特徴とするパルスレーダ装置。
(付記2)
前記パルスレーダ装置は、前記所定の距離以上の計測においては、前記パルスレーダ装置が計測する距離に応じて変調周波数と変調周波数幅を制御して、前記受信手段により得られるビート周波数が所定帯域内に入るように制御する制御手段を備えたことを特徴とする付記1記載のパルスレーダ装置。
(付記3)
前記送信高周波信号を無変調から周波数変調に切り替える所定の距離は、前記受信手段により得られる送信周波数と受信周波数の差の周波数が前記周波数変調する変調周波数より高い周波数に対応する距離であることを特徴とする付記1記載のパルスレーダ装置。
(付記4)
前記無変調の高周波信号を振幅変調する低速パルス信号は、擬似ランダム符号であることを特徴とする付記1記載のパルスレーダ装置。
(付記5)
送信高周波信号をローカル信号として受信周波数変換に用いるパルスレーダ装置であって、
周波数変調された前記高周波信号を発振する発振手段と、
前記高周波信号を高速パルスの第1の変調信号で振幅変調する第1の振幅変調手段と、
前記振幅変調手段によって変調された高周波信号を送信信号として外部に放射する送信手段と、
前記送信信号の反射波を受信信号として受信する受信手段と、
前記周波数変調を行う変調信号に同期して振幅と位相が制御された第2の変調信号により、前記受信信号を振幅変調する第2の振幅変調手段と、
前記周波数変調を行う変調信号に同期して振幅と位相が制御された第3の変調信号により、前記受信周波数変換に用いるローカル信号を振幅変調する第3の振幅変調手段と、
前記受信信号の遅延時間を検出する遅延時間検出手段と、
前記遅延時間を用いて目標物までの距離を求める距離算出手段とを備えたことを特徴とするパルスレーダ装置。
(付記6)
前記受信信号を振幅変調する前記第2の振幅変調手段は、前記高周波信号発信手段から送信アンテナ、受信アンテナ、周波数変換手段までのレーダ信号伝送経路の周波数対振幅特性により発生する振幅変化成分を打ち消すことを特徴とする付記5記載のパルスレーダ装置。
(付記7)
前記ローカル信号を振幅変調する第3の振幅変調手段は、前記高周波信号発信手段から周波数変換手段までのローカル信号伝送経路の周波数対振幅特性により発生する振幅変化成分を打ち消すことを特徴とする付記5記載のパルスレーダ装置。
(付記8)
前記パルスレーダ装置は、所定の距離以下の計測では無変調の前記高周波を発振し、前記所定の距離以上の計測では周波数変調された前記高周波信号を発振する発振手段と、
前記無変調の高周波信号を低速パルス信号で振幅変調された高速パルス信号により振幅変調し、前記周波数変調された高周波信号を高速パルス信号で振幅変調する振幅変調手段と、
を備えたことを特徴とする付記5記載のパルスレーダ装置。
(付記9)
送信高周波信号をローカル信号として受信周波数変換に用いるパルスレーダ装置であって、
周波数変調された前記高周波信号を発振する発振手段と、
前記周波数変調を行う三角波又はのこぎり波の変調信号を帯域制限する帯域制限手段と、
前記高周波信号をパルス振幅変調する振幅変調手段と、
前記振幅変調手段によって変調された高周波信号を送信信号として外部に放射する送信手段と、
前記送信信号の反射波を受信信号として受信する受信手段と、
前記受信手段により得られる送信周波数と受信周波数の差の周波数を抽出する帯域通過濾波手段と、
前記受信信号の遅延時間を検出する遅延時間検出手段と、
前記遅延時間を用いて目標物までの距離を求める距離算出手段とを備えたことを特徴とするパルスレーダ装置。
(付記10)
前記周波数変調を行う三角波又はのこぎり波の変調信号に対する帯域制限手段は、前記ビート周波数を抽出する帯域通過手段の通過帯域を遮断する低域通過濾波器または帯域阻止濾波器であることを特徴とする付記9記載のパルスレーダ装置。
(付記11)
前記パルスレーダ装置は、所定の距離以下の計測では無変調の前記高周波を発振し、前記所定の距離以上の計測では周波数変調された前記高周波信号を発振する発振手段と、
前記無変調の高周波信号を低速パルス信号で振幅変調された高速パルス信号により振幅変調し、前記周波数変調された高周波信号を高速パルス信号で振幅変調する振幅変調手段と、
を備えたことを特徴とする付記9記載のパルスレーダ装置。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】パルスレーダシステム構成(実施例1)を示す図である。
【図2】各部の信号波形(実施例1)を示す図である。
【図3】パルスレーダシステム構成(実施例2)を示す図である。
【図4】各部の信号波形(実施例2)を示す図である。
【図5】パルスレーダシステム構成(実施例3)を示す図である。
【図6】ビートスペクトラム(実施例3)を示す図である。
【図7】FM変調信号とビート周波数(実施例3)を示す図である。
【符号の説明】
【0114】
100 パルスレーダ装置
101 信号処理回路
102 FM変調信号発生回路
103 FM発振器
104 結合回路
105 増幅器
106 送信スイッチ
107 送信スイッチ駆動回路
108 送信アンテナ
109 レーダ反射体
110 受信アンテナ
111 受信スイッチ
112 受信スイッチ駆動回路
113 遅延スライディング回路
114 増幅器
115 ローカルスイッチ
116 第1ミキサ
117 第2ミキサ
118 BPF(バンンドパスフィルタ)
119 複合パルス生成回路
300 パルスレーダ装置
301 打ち消し信号発生器
302 打ち消し信号発生器
303 増幅器
500 パルスレーダ装置
501 LPF(ローパスフィルタ)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
距離計測を行なうための送信高周波信号を受信周波数変換に用いるパルスレーダ装置であって、
所定の距離以下の計測では無変調の高周波信号を発振し、前記所定の距離以上の計測では周波数変調された高周波信号を発振する発振手段と、
前記無変調の高周波信号を低速パルス信号で振幅変調された高速パルス信号により振幅変調し、前記周波数変調された高周波信号を高速パルス信号で振幅変調する振幅変調手段と、
前記振幅変調手段によって変調された前記高周波信号を送信信号として外部に放射する送信手段と、
前記送信信号の反射波を受信信号として受信する受信手段と、
前記受信信号の遅延時間を検出する遅延時間検出手段と、
前記遅延時間を用いて目標物までの距離を求める距離算出手段とを備えたことを特徴とするパルスレーダ装置。
【請求項2】
前記送信高周波信号を無変調から周波数変調に切り替える所定の距離は、前記受信手段により得られる送信周波数と受信周波数の差の周波数が前記周波数変調する変調周波数より高い周波数に対応する距離であることを特徴とする請求項1記載のパルスレーダ装置。
【請求項3】
送信高周波信号をローカル信号として受信周波数変換に用いるパルスレーダ装置であって、
周波数変調された前記高周波信号を発振する発振手段と、
前記高周波信号を高速パルスの第1の変調信号で振幅変調する第1の振幅変調手段と、
前記振幅変調手段によって変調された高周波信号を送信信号として外部に放射する送信手段と、
前記送信信号の反射波を受信信号として受信する受信手段と、
前記周波数変調を行う変調信号に同期して振幅と位相が制御された第2の変調信号により、前記受信信号を振幅変調する第2の振幅変調手段と、
前記周波数変調を行う変調信号に同期して振幅と位相が制御された第3の変調信号により、前記受信周波数変換に用いるローカル信号を振幅変調する第3の振幅変調手段と、
前記受信信号の遅延時間を検出する遅延時間検出手段と、
前記遅延時間を用いて目標物までの距離を求める距離算出手段とを備えたことを特徴とするパルスレーダ装置。
【請求項4】
前記受信信号を振幅変調する第2の振幅変調手段は、前記高周波信号発信手段から送信アンテナ、受信アンテナ、周波数変換手段までのレーダ信号伝送経路の周波数対振幅特性により発生する振幅変化成分を打ち消すことを特徴とする請求項3記載のパルスレーダ装置。
【請求項5】
送信高周波信号をローカル信号として受信周波数変換に用いるパルスレーダ装置であって、
周波数変調された前記高周波信号を発振する発振手段と、
前記周波数変調を行う三角波又はのこぎり波の変調信号を帯域制限する帯域制限手段と、
前記高周波信号をパルス振幅変調する振幅変調手段と、
前記振幅変調手段によって変調された高周波信号を送信信号として外部に放射する送信手段と、
前記送信信号の反射波を受信信号として受信する受信手段と、
前記受信手段により得られる送信周波数と受信周波数の差の周波数を抽出する帯域通過濾波手段と、
前記受信信号の遅延時間を検出する遅延時間検出手段と、
前記遅延時間を用いて目標物までの距離を求める距離算出手段とを備えたことを特徴とするパルスレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−298283(P2007−298283A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−123991(P2006−123991)
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】