説明

パワーアシスト装置及びその制御方法

【課題】ロボットの手先もしくはワークの進入できない領域である仮想ガイドを設けて、ロボットの手先速度を決定することでワークの位置と姿勢を制御できるパワーアシスト装置を提供する。
【解決手段】複数の関節3aを有するロボットアーム3と、前記ロボットアーム3にフリージョイント4を介して3次元的に揺動可能に接続され、ウィンドウ2を保持する吸着治具5と、関節3a及びフリージョイント4の角度を検出するエンコーダ10と、前記角度に基づいて前記ロボットアーム3の手先3c位置またはウィンドウ2の位置を計算する第一演算部8aと、前記ウィンドウ2の進入を認めない領域である仮想ガイドGを記憶した記憶部8cと、手先3c位置もしくはウィンドウ2の位置を、仮想ガイドGの位置と比較して、仮想ガイドGを越えないように制限をかける速度指令値を算出する第二演算部8bと、前記速度指令値で手先3cを制御する制御手段8と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造現場等において作業を行う作業者の作業動作を補助するパワーアシスト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、製造現場等において、作業者による重量物の昇降を補助する装置として、特許文献1に記載されているようにワークを把持する把持手段の傾きを検出して、該把持手段を上下に駆動する装置が公知となっている。具体的には、前記装置は、ワークと装置の間の角度偏差に応じて装置の運動を制御することで、ワークの搬送を行っている。
【特許文献1】特開平11−245124号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載されているような装置では、ワークを進めたい方向に傾きを与える必要があるが、ワークの形状と作業環境の条件などから、ワークに傾き(以下、角度ズレという)を生じさせることが困難な場合があった。
具体的には、上下に動かすなら上下方向の、左右に動かすなら左右方向の角度ズレを与えることが必要であるが、ワークの形状と作業環境の条件などから、例えば、上下に狭いスペースに対してワークを斜め方向に通過させる場合など、ワークの上下方向の角度ズレが許されないにもかかわらず、ワークに上下の傾きを生じさせなければならない場合には、ワークを所望の経路で移動させることが困難な場合があった。
また、角度ズレを用いたワークの搬送制御を使用しつつ、上下ズレを発生させずに作業者の意図通りにワークを上下させたいという要望もあるが、角度ズレを用いた搬送制御方法では、ワークが角度ズレを持った方向へしか動かないという問題点があった。
そこで、本発明は以上の問題点に鑑みてなされたものであり、ロボットの手先もしくはワークの進入できない領域である仮想ガイドを設けて、ロボットの手先速度を決定することでワークの位置と姿勢を制御できるパワーアシスト装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0005】
即ち、請求項1においては、作業者が対象物を搬送する作業を補助するパワーアシスト装置であって、複数の関節を有するロボットと、前記ロボットにフリージョイントを介して3次元的に揺動可能に接続され、前記対象物を保持する保持手段と、前記関節及び前記フリージョイントの角度を検出する角度検出手段と、該角度検出手段で検出した角度に基づいて前記ロボットにおける前記保持手段との接続部の位置または対象物の位置を計算する第一演算部と、前記対象物の進入を認めない領域を前記接続部の座標系上の位置として記述した仮想ガイドを記憶した記憶部と、前記ロボットにおける前記保持手段との接続部の位置もしくは対象物の位置を、前記仮想ガイドの位置と比較して、仮想ガイドを越えて対象物を運動させないように前記接続部の目標速度に制限をかける速度指令値を算出する第二演算部と、前記速度指令値に基づく速度で前記接続部の運動を制御する制御手段と、を備えたものである。
【0006】
請求項2においては、前記第二演算部では、対象物を仮想ガイドに向かわせる方向の目標速度が速度指令値として算出されるものである。
【0007】
請求項3においては、複数の関節を有するロボットと、前記ロボットにフリージョイントを介して3次元的に揺動可能に接続され、前記対象物を保持する保持手段と、前記関節及び前記フリージョイントの角度を検出する角度検出手段と、前記対象物の進入を認めない領域を前記接続部の座標系上の位置として記述した仮想ガイドを記憶した記憶部とを備えたパワーアシスト装置の制御方法であって、該角度検出手段で検出した角度に基づいて前記ロボットにおける前記保持手段との接続部の位置または対象物の位置を計算する工程と、算出した前記保持手段との接続部の位置もしくは対象物の位置を、前記記憶部に記述された仮想ガイドの位置と比較して、仮想ガイドを越えて対象物を運動させないように前記接続部の目標速度に制限をかける速度指令値を算出する工程と、算出した前記速度指令値に基づく速度で前記接続部の運動を制御する工程と、を備えるものである。
【0008】
請求項4においては、前記速度指令値を算出する工程では、対象物を仮想ガイドに向かわせる方向の目標速度が速度指令値として算出されるものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0010】
請求項1においては、操作者はワークを仮想ガイドに沿わせて移動させることで、ワークを搬送したい方向に角度ズレを与えることなく、ワークの姿勢変化の方向とは別の方向にワークを搬送させることができる。
【0011】
請求項2においては、ワークを仮想ガイドに沿わせつつ、ワークの姿勢変化の方向とは別の方向にワークを搬送させることができる。
【0012】
請求項3においては、操作者はワークを仮想ガイドに沿わせて移動させることで、ワークを搬送したい方向に角度ズレを与えることなく、ワークの姿勢変化の方向とは別の方向にワークを搬送させることができる。
【0013】
請求項4においては、ワークを仮想ガイドに沿わせつつ、ワークの姿勢変化の方向とは別の方向にワークを搬送させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明に係るパワーアシスト装置の全体構成を示す模式図、図2は本発明に係る仮想ガイドを示す模式図、図3は仮想ガイドの別実施例を示す模式図、図4は仮想ガイドから速度を得る別実施例を示す模式図、図5はウィンドウガラスの回転方向と移動方向の関係を示す説明図、図6はパワーアシスト装置の制御方法を示すフローチャート図、図7はパワーアシスト装置の制御系の構成を示すブロック図である。
なお、本実施形態では、説明を簡単にするため、対象物を、図2に示すXYZ座標系のXZ平面内で移動する作業を例とする。XZ平面はボデー100の断面である。
また、以下の説明をおいては、説明の便宜上、図2に示す矢印Xの方向を前方とする。
また、本実施形態において、作業者が行うべき作業は、対象物(ワーク)であるウィンドウガラス2(以下、ウィンドウ2という)を、図2に示す自動車のボデー100の窓枠100aの位置へ移動する作業である。
【0015】
まず、パワーアシスト装置の全体構成について説明する。
パワーアシスト装置50は、図1に示すように、主としてロボットの一例であるロボットアーム3と、フリージョイント4と、ウィンドウ2の保持手段である吸着治具5と、ハンドル6と、デッドマンスイッチ6aと、ロボットアーム3を制御する制御手段8(図7に図示)によって構成されている。
【0016】
ロボットアーム3は、図1に示すようにマニュピュレータ等の多関節型ロボットを模式的に示したものであり、ロボットアーム3の一端は関節3aを介して天井ガイド部12に接続されており、ロボットアーム3の他端は、該ロボットアーム3の先端である手先3cであり、該手先3cはフリージョイント4を介してウィンドウ2を吸着する吸着治具5に繋がっている。また、ロボットアーム3の中途部には関節3aが配設されており、上部の関節3aと下部の関節3aとの間、及び下部の関節3aとフリージョイント4の間が各リンク3b・3bで連結されている。前記フリージョイント4は前記吸着治具5に吸着されているウィンドウ2の姿勢を3次元的に揺動可能である。また、前記関節3a・3a、フリージョイント4及び各リンク3b・3bによりリンク機構を構成しており、該リンク機構にはアクチュエータ11(図7に図示)が取り付けられており、該アクチュエータ11を駆動することによりリンク機構が駆動し、ロボットアーム3の手先3cが3次元的に揺動可能となっている。また、ロボットアーム3は、図5に示すように、通常の搬送の場合は、作業者1(操作者)が対象物であるウィンドウ2をヨー軸、ロール軸回りに回転させたときにそれぞれ横方向(図5の(a))、縦方向(図5の(b))にロボットアーム3の手先3cを動かしウィンドウ2を移動させることが可能である。
【0017】
また、ロボットアーム3の各関節3a・3a及びフリージョイント4には、各リンク3b・3bの位置を角度として検出する角度検出手段であるエンコーダ10(図7に図示)が配置されている。該エンコーダ10による角度検出値は制御手段8内の第一演算部8a(図7に図示)へ送られる。第一演算部8aは、送られたエンコーダ10の角度検出値から、ロボットアーム3の手先3cの位置と姿勢、及び対象物であるウィンドウ2の位置と姿勢を求めることができる。
なお、本実施形態では、ロボットアーム3の移動を示す基準点として手先3cを使用しているが、特に限定するものではなく、ロボットアーム3における保持手段(吸着治具5)との接続部分を使用してもかまわない。具体的にはロボットアーム3の手先3cからフリージョイント4を介して吸着治具5を接続した接続部分に至る中途部分の何れかの部分を使用してもかまわない。
【0018】
なお、本実施形態では上記のようにロボットアームを1本のマニュピュレータとして模式的に示しているが、特に限定するものではなく、パンタグラフ型のロボットアーム等として構成することも可能である。
【0019】
吸着治具5は、該吸着治具5の枠組みであるフレーム5aと、該フレーム5aの左右両側(ライン進行方向である矢印Xに対して両側)にそれぞれ張り出した作業者1が把持して吸着治具5を操作するためのハンドル6・6を備えている。また、吸着治具5は、ロボットアーム3の手先3cにフリージョイント4を介して吊られており、ウィンドウ2を吸着保持可能となっている。具体的には、フレーム5aの下端には、ウィンドウ2の表面(つまり、ウィンドウ2をボデー100に取り付けたときにボデー100の外側になる面)に吸い付く複数の吸盤(図示せず)が取り付けられている。吸着治具5にウィンドウ2を保持させる場合、吸盤をウィンドウ2表面に密着させ、図示しないポンプによって吸盤内の空気を吸引する。これにより、ウィンドウ2は吸盤に吸着され、吸着治具5に保持される。一方、吸着治具5からウィンドウ2を開放する場合には、ポンプによる空気の吸引を停止し、吸盤とウィンドウ2との間に空気を注入することで、吸盤へのウィンドウ2の吸着を停止する。これにより、ウィンドウ2は吸着治具5から開放される。
【0020】
前記ハンドル6は、図1に示すように平面視略U字状であり、吸着治具5の両端部に配置されている。また、ハンドル6の一端(作業者1がハンドルを把持する側)の幅方向一端には前記デッドマンスイッチ6aが配設されている。ハンドル6は、ボデー100の窓枠100aにウィンドウ2を取り付ける際に作業者1によって把持される。作業者1がハンドル6を把持することで、吸着治具5が安定し、作業者1は窓枠100aに対するウィンドウ2の位置調整を行うことができる。また、デッドマンスイッチ6aは安全性確保のために作業者1がデッドマンスイッチ6aを押している間だけロボットアーム3が動作するように構成されている。デッドマンスイッチ6aは制御手段8に接続されている。
なお、本実施形態ではデッドマンスイッチ6aはハンドル6の一方(図1に図示)に配設したものであるが特に限定するものではなく、作業性等を考慮してハンドル6の他方に配設することも可能である。
【0021】
制御手段8には、図7に示すように上述したデッドマンスイッチ6a、エンコーダ10及びロボットアーム3を駆動させるアクチュエータ11が接続されている。パワーアシスト装置50の各部の動作は制御手段8によって制御される。
【0022】
また、制御手段8は、第一演算部8aと、第二演算部8bと、記憶部8c(ハードディスク装置、RAMやROM)やインターフェース等からなり、記憶部8cは前記第一演算部8aと第二演算部8bとのそれぞれと情報をやりとりする。記憶部8cに前記ウィンドウ2もしくはロボットアーム3の手先3cの進入を認めない領域を前記手先3cの3次元座標系上の位置として記述した仮想ガイドGを記憶している。また、仮想ガイドGを発生させるかどうかの判定するための情報が記憶されている。
【0023】
第一演算部8aは、前記関節3a及び前記フリージョイント4の角度に基づいて前記ロボットアーム3の手先3c位置または対象物であるウィンドウ2の位置を計算することができる。つまり、前記エンコーダ10で検出された関節3a及びフリージョイント4の角度に基づき吸着治具5及びウィンドウ2の3次元座標系上の位置情報をリアルタイムで算出する。
【0024】
第二演算部8bは、第一演算部8aで算出されたロボットアーム3の手先3c位置もしくはウィンドウ2の位置を、前記記憶部8c内に予め記憶されている仮想ガイドGの位置とを比較することで、仮想ガイドに対してウィンドウ2の相対位置を認識し、ウィンドウ2が仮想ガイドGを越えてロボットアーム3の手先3cを運動させないように手先3cの目標速度に制限をかける速度指令値を算出する。該速度指令値はロボットアーム3を駆動するアクチュエータ11に出力されて、ロボットアーム3の手先速度が制御される。
なお、第一演算部8aと第二演算部8bとは特に独立している必要はなく、例えば一つの中央演算処理装置(CPU)としてもかまわない。
【0025】
なお、仮想ガイドGとは、いわゆる境界またはポテンシャル場と称するものである。本実施形態においてはロボットアーム3の手先3c、もしくは吸着治具5に吸着されているウィンドウ2が進入できない領域の境界を仮想ガイドと呼ぶことにする。本発明においては、仮想ガイドGは予め設定された座標上に3次元データとして記憶している。特に、対象物であるウィンドウ2を進入できないような境界を設定したものである。仮想ガイドGは、制御手段8のなかの記憶部8cに三次元座標として記憶させておき、ロボットアーム3の手先3cもしくはウィンドウ2の位置情報と三次元座標上の仮想ガイドGとの相対位置を常に比較し、ロボットアーム3の手先3cが移動して対象物であるウィンドウ2を仮想ガイドG内に進入させないように制御手段8がロボットアーム3の手先速度を制御して仮想空間上で規制をかけるものである。また、仮想ガイドGの三次元データとしては、特に平面に限るわけでなく、曲面または断続的な面や開口部を備えた曲面等適宜設定することが可能である。
【実施例1】
【0026】
次に上記構成のパワーアシスト装置を用いて、ロボットと作業者が協調してウィンドウをボデーの窓枠位置に移動する作業及びパワーアシスト装置の動作について図1、図2及び図5を用いて説明する。
【0027】
図1に示すように、作業者1とロボットアーム3がウィンドウ2を協調搬送する場合、ロボットアーム3の先端となる手先3cにフリージョイント4を介して吊られた吸着治具5があり、ウィンドウ2をボデー100の窓枠100aに取り付けるために、前記吸着治具5によりウィンドウ2が吸着されている。作業者1はウィンドウ2の位置と姿勢を調整しながらロボットアーム3を誘導することで、ウィンドウはめ込み位置である窓枠100a付近までウィンドウ2を搬送する。ロボットアーム3の手先3cはフリージョイント4を介してウィンドウ2を吸着する吸着治具5に接続している。作業者1は吸着治具5に設置されたハンドル6を持ち、ウィンドウ2を回転させることでロボットアーム3の手先cに移動速度である手先速度を指令する。以下では回転によって手先目標速度が計算される制御方式を「ズレ制御」と呼ぶ。ズレ制御におけるウィンドウ2の回転と手先速度指令値(図5(a)、(b)のそれぞれの矢印が移動方向となる)の関係は図5のとおりである。ロボットアーム3は指令値にしたがって動作するが、安全のため作業者がデッドマンSWを押している間だけ動作するように設定してある。
【0028】
図2はセダンタイプボデーのリアウィンドウを組み付ける作業を表している。この作業では、ウィンドウ2はボデー100上空から降下し、開状態のラゲッジハッチ101の前端部101aの下方をくぐり、組み付け位置である窓枠100a近傍まで運ばれる。ハッチ101の下方をくぐる際にはハッチ101の前端部101aとボデー100の間の小さな(本例の場合は30mm程度)隙間を接触することなく通過する必要がある。ハッチ101の前端部101aをくぐる直前でボデー100の窓枠100a面に平行に仮想ガイドGを発生させて、ウィンドウ2がボデー100に接触しないようにするのと同時に、Z軸下方に速度Aによって仮想ガイドGに向かわせる目標速度を制御手段8により発生させて、仮想ガイドGに向かって自動降下させる。
なお、降下してきたウィンドウ2が仮想ガイドGに達すると、それ以上の下降が仮想ガイドGにより規制されるが、仮想ガイドGが解除(無効化)された際には前記ウィンドウ2の自動降下も解除される。
ウィンドウ2が仮想ガイドGに達すると、作業者1は吸着治具5をヨー軸回転させてX軸後方の目標速度Bをロボットアーム3に指示する。そして、ロボットアーム3に目標速度Bを指示することで、目標速度Aと目標速度Bの合成によって後斜め下方の速度Cが実現され、目標速度Bが大きすぎない場合には、ウィンドウ2は仮想ガイドGに沿って斜め下方に移動することとなる。この場合、ウィンドウ2は、あたかも仮想ガイドGに押し付けられつつ坂を下るようにハッチ101の下方をくぐるように搬送される。この際にはズレ制御を用いてウィンドウ2を上下方向に搬送してくるにもかかわらず、仮想ガイドGにウィンドウ2が押し付けられることによりウィンドウ2のロール方向の傾きは発生しない。これにより、ロール方向の傾きが許されないラゲッジハッチ101のくぐり抜けを可能としている。
また、図2の右側方向(X軸前方)にウィンドウ2をヨー回転させることでX軸前方の速度Dが設定され、速度Aと速度Dとが合成されて合成速度Eが生成されることで、仮想ガイドGによる規制によりウィンドウ2が仮想ガイドG上に留まることとなり、仮想ガイドGによってウィンドウ2の動き(降下)を止めることができる。
【0029】
次に上述したパワーアシスト装置の動作についてフローチャート図を用いて説明する。
図6はウィンドウの進入できない領域である仮想ガイドを設けて、ロボットの手先速度を決定する処理に係るフローチャート図である。
ステップS10では、エンコーダ10によって関節3a及びフリージョイント4の角度を検出して、その検出値が制御手段8内の第一演算部8aに入力される。第一演算部8aは、入力されたエンコーダ10の検出値からウィンドウ2の位置と姿勢及びロボットアーム3の手先3cの位置を求める。次にステップS20では、ウィンドウ2の位置と姿勢及びロボットアーム3の手先3cの位置情報と記憶部8c内に予め記憶されている仮想ガイドGの3次元座標上の位置とが比較されて、ウィンドウ2もしくは手先3cが仮想ガイドGに対して所定間隔内に入ったと判定された場合は、仮想ガイドGを発生させる(有効にする)。ここで所定間隔内に入っていない場合は、図5で示すように通常操作(前述した通常のズレ制御による搬送)のみを行う状態となる。次にステップS30では、制御手段8がロボットアーム3の手先3cを自動降下させるために手先目標速度を指定する速度指定値を算出する。算出された手先速度の速度指定値は、ステップS40でアクチュエータ11へ出力されて、アクチュエータ11が駆動する。そうしてロボットアーム3の手先3c(ウィンドウ2)が自動的に降下する目標速度Aを発生させる。次にステップS50では、作業者1がズレ制御によりウィンドウ2をヨー回転させて後方へ向かう目標速度Bを発生させる。ステップS50では目標速度Aと目標速度Bとが合成された結果、速度Cで仮想ガイドG上を移動する。以上のステップが実行されることによって、対象物であるウィンドウ2が窓枠100aに近づいてきた際に、作業者1がズレ制御によるウィンドウ2の上下方向回転を行わずに、作業者1とパワーアシスト装置50は協調して、ウィンドウ2をハッチ101の下方をくぐるように搬送することができる。
つまり、ロボットアーム3はあらかじめ与えられた仮想ガイドGにウィンドウ2を押し付けるように手先速度を決定して自動降下する(図2、速度A)。操作者が図5(a)のようにウィンドウ2をヨー回転させてズレ制御を行うことで、速度指令値が図2の速度Bのように生成され、速度Aと合成された結果、ロボットアーム3の手先3cは速度Cで移動する。
また、ウィンドウ2がハッチ101の下方をくぐり、窓枠100aに対して所定の取付位置にきたことが、制御手段8により確認された場合、仮想ガイドGは解除されて、作業者1が手動操作で窓枠100aにウィンドウを組み付ける。
こうして、適切な仮想ガイドGと仮想ガイドGにロボットアーム3の手先3cを近づける速度Aにより、図5(b)のようなロール回転をしないで、ワークを上下方向に移動できる。
【実施例2】
【0030】
次に、発生させる仮想ガイドの別実施例について図3を用いて説明する。
実施例1では、ウィンドウ2がボデー100に接触しないように仮想ガイドGを窓枠100aの上方のみに平行配置していたが、ヨー軸回転による速度Bがある程度大きくなると、ウィンドウ2が仮想ガイドGから離れて横方向に動くことによって、ラゲッジハッチ101に衝突する恐れが出てくる。そこで、図3に示すように、仮想ガイドGと平行な仮想ガイドG2を、仮想ガイドGに対して所定間隔だけ離してラゲッジハッチ101側にも配置することで、ウィンドウ2の移動範囲を仮想ガイドGと仮想ガイドG2との間の範囲に規制し、速度Bの大きさによらずボデー100とハッチ101の両方に衝突しないようにウィンドウ2を窓枠100a近傍に搬送することができる。
【実施例3】
【0031】
次に、発生させる仮想ガイドの別実施例について図4を用いて説明する。
図4に示すように速度Aの仮想ガイドGに対する接線成分の速度(速度E)を、制御手段8がロボットアーム3に指令することで、作業者1によるヨー回転がなくても仮想ガイドGに沿って下るようにウィンドウ2を移動させることができる。この場合でも作業者1がヨー軸回転を加えて実施例1で示したように速度Dのような速度を設定することで、ウィンドウ2を停止させることができる。
【0032】
また、実施例1乃至実施例3において仮想ガイドGにロボットアーム3の手先3cが接触する際や逆に仮想ガイドGから離れる際には、ロボットアーム3の手先速度が不連続に変化するため操作性が低下する。これに対して、ロボットアーム3の手先位置や速度などを元に仮想ガイドGの表面固さ(影響力)を変化させることで操作性の低下を軽減できる。つまり、仮想ガイドG面の近傍に仮想的な弾力部(速度低減部)を持たせて、仮想ガイドへの接近もしくは仮想ガイドからの離脱を仮想的に弾力を持たせるように設定することができる。
【0033】
このように、作業者1が対象物であるウィンドウ2を搬送する作業を補助するパワーアシスト装置50であって、複数の関節3aを有するロボットアーム3と、前記ロボットアーム3にフリージョイント4を介して3次元的に揺動可能に接続され、前記ウィンドウ2を保持する保持手段である吸着治具5と、前記関節3a及び前記フリージョイント4の角度を検出する角度検出手段であるエンコーダ10と、該エンコーダ10で検出した角度に基づいて前記ロボットアーム3の手先3c位置またはウィンドウ2の位置を計算する第一演算部8aと、前記ウィンドウ2の進入を認めない領域を前記ロボットアーム3の手先3cの座標系上の位置として記述した仮想ガイドGを記憶した記憶部8cと、前記ロボットアーム3の手先3cの位置もしくはウィンドウ2の位置を、前記仮想ガイドGの位置と比較して、仮想ガイドGを越えてウィンドウ2を運動させないように前記ロボットアーム3の手先3cの目標速度に制限をかける速度指令値を算出する第二演算部8bと、前記速度指令値に基づく速度で前記ロボットアーム3の手先3cの運動を制御する制御手段8と、を備えたパワーアシスト装置50を構成したことにより、操作者はワークであるウィンドウ2を仮想ガイドGに沿わせて移動させることで、ウィンドウ2を搬送したい方向に角度ズレを与えることなく、ウィンドウ2の姿勢変化の方向とは別の方向にウィンドウ2を搬送させることができる。
【0034】
また、前記第二演算部8bでは、ウィンドウ2を仮想ガイドGに向かわせる方向の目標速度が速度指令値として算出されることにより、ウィンドウ2を仮想ガイドGに沿わせつつ、ウィンドウ2の姿勢変化の方向とは別の方向にウィンドウ2を搬送させることができる。
【0035】
また、複数の関節3aを有するロボットアーム3と、前記ロボットアーム3にフリージョイント4を介して3次元的に揺動可能に接続され、前記ウィンドウ2を保持する保持手段である吸着治具5と、前記関節3a及び前記フリージョイント4の角度を検出する角度検出手段であるエンコーダ10と、前記ウィンドウ2の進入を認めない領域を前記ロボットアーム3の手先3cの座標系上の位置として記述した仮想ガイドGを記憶した記憶部8cとを備えたパワーアシスト装置50の制御方法であって、該エンコーダ10で検出した角度に基づいて前記ロボットアーム3の手先3c位置またはウィンドウ2の位置を計算する工程と、算出した手先3c位置もしくはウィンドウ2の位置を、前記記憶部8cに記述された仮想ガイドGの位置と比較して、仮想ガイドGを越えてウィンドウ2を運動させないように前記ロボットアーム3の手先3cの目標速度に制限をかける速度指令値を算出する工程と、算出した前記速度指令値に基づく速度で前記ロボットアーム3の手先3cの運動を制御する工程と、を備える制御方法を適用することにより、操作者はワークであるウィンドウ2を仮想ガイドGに沿わせて移動させることで、ウィンドウ2を搬送したい方向に角度ズレを与えることなく、ウィンドウ2の姿勢変化の方向とは別の方向にウィンドウ2を搬送させることができる。
【0036】
また、前記制御方法の前記速度指令値を算出する工程では、ウィンドウ2を仮想ガイドGに向かわせる方向の目標速度が速度指令値として算出されることにより、ウィンドウ2を仮想ガイドGに沿わせつつ、ウィンドウ2の姿勢変化の方向とは別の方向にウィンドウ2を搬送させることができる。
【0037】
つまり、従来、ロボットとワークをつなぐフリージョイント4のズレ制御に基づいてロボットを誘導することで作業者とロボットがワークを協調搬送する装置では、ワークを進めたい方向にワークの姿勢を変えてズレ制御を生じさせなくてはワークの移動ができないものであったが、本発明を用いることで、姿勢を変える方向とは別の方向にワークを進めることができ、ワークと作業環境の衝突を避けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係るパワーアシスト装置の全体構成を示す模式図。
【図2】本発明に係る仮想ガイドを示す模式図。
【図3】仮想ガイドの別実施例を示す模式図。
【図4】仮想ガイドから速度を得る別実施例を示す模式図。
【図5】ウィンドウガラスの回転方向と移動方向の関係を示す説明図。
【図6】パワーアシスト装置の制御方法を示すフローチャート図。
【図7】パワーアシスト装置の制御系の構成を示すブロック図。
【符号の説明】
【0039】
1 作業者
2 ウィンドウ
3 ロボットアーム
3a 関節
3c 手先
4 フリージョイント
5 吸着治具
8 制御手段
8a 第一演算部
8b 第二演算部
8c 記憶部
10 エンコーダ
50 パワーアシスト装置
G 仮想ガイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業者が対象物を搬送する作業を補助するパワーアシスト装置であって、
複数の関節を有するロボットと、
前記ロボットにフリージョイントを介して3次元的に揺動可能に接続され、前記対象物を保持する保持手段と、
前記関節及び前記フリージョイントの角度を検出する角度検出手段と、
該角度検出手段で検出した角度に基づいて前記ロボットにおける前記保持手段との接続部の位置または対象物の位置を計算する第一演算部と、
前記対象物の進入を認めない領域を前記接続部の座標系上の位置として記述した仮想ガイドを記憶した記憶部と、
前記ロボットにおける前記保持手段との接続部の位置もしくは対象物の位置を、前記仮想ガイドの位置と比較して、仮想ガイドを越えて対象物を運動させないように前記接続部の目標速度に制限をかける速度指令値を算出する第二演算部と、
前記速度指令値に基づく速度で前記接続部の運動を制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とするパワーアシスト装置。
【請求項2】
前記第二演算部では、対象物を仮想ガイドに向かわせる方向の目標速度が速度指令値として算出される、
ことを特徴とする請求項1に記載のパワーアシスト装置。
【請求項3】
複数の関節を有するロボットと、
前記ロボットにフリージョイントを介して3次元的に揺動可能に接続され、前記対象物を保持する保持手段と、
前記関節及び前記フリージョイントの角度を検出する角度検出手段と、
前記対象物の進入を認めない領域を前記接続部の座標系上の位置として記述した仮想ガイドを記憶した記憶部とを備えたパワーアシスト装置の制御方法であって、
該角度検出手段で検出した角度に基づいて前記ロボットにおける前記保持手段との接続部の位置または対象物の位置を計算する工程と、
算出した前記保持手段との接続部の位置もしくは対象物の位置を、前記記憶部に記述された仮想ガイドの位置と比較して、仮想ガイドを越えて対象物を運動させないように前記接続部の目標速度に制限をかける速度指令値を算出する工程と、
算出した前記速度指令値に基づく速度で前記接続部の運動を制御する工程と、
を備えることを特徴とするパワーアシスト装置の制御方法。
【請求項4】
前記速度指令値を算出する工程では、対象物を仮想ガイドに向かわせる方向の目標速度が速度指令値として算出される、
ことを特徴とする請求項3に記載のパワーアシスト装置。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【公開番号】特開2009−39814(P2009−39814A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−207152(P2007−207152)
【出願日】平成19年8月8日(2007.8.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】