説明

パワー半導体モジュール及びそれを用いた電力変換装置

【課題】本発明の課題は、生産性の低下を抑制するとともに配線インダクタンスの低減を図ることである。
【解決手段】上記課題を解決するために、上アーム回路部を有する第1パッケージと、下アーム回路部を有する第2パッケージと、第1及び第2パッケージを収納するための収納空間及びその収納空間と繋がる開口を形成する金属製のケースと、前記上アーム回路部と前記下アーム回路部とを接続する中間接続導体とを備え、前記ケースは、第1放熱部と前記収納空間を介してその第1放熱部と対向する第2放熱部とを含み、前記第1パッケージは、当該第1及び第2パッケージとの配置方向が前記第1及び前記第2の放熱部とのそれぞれの対向面と平行になるように配置され、前記中間接続導体は、前記ケースの前記収納空間において前記第1パッケージから延びるエミッタ側端子と前記第2パッケージから延びるコレクタ側端子とを接続される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電流を交流電流に変換するためのパワー半導体モジュール及びそれを用いた電力変換装置に関し、特にハイブリッド自動車や電気自動車の駆動用モータに交流電流を供給するパワー半導体モジュール及びそれを用いた電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電力変換装置では、大電流を出力することができるものが求められている一方、小型化も要求されている。電力変換装置が大電流を出力しようとすると、パワー半導体モジュールに内蔵されるパワー半導体素子で発生する熱が大きくなり、パワー半導体モジュールや電力変換装置の熱容量を大きくしなければパワー半導体素子の耐熱温度に達してしまい、小型化の妨げとなる。そこでパワー半導体素子を両面から冷却することにより冷却効率を向上させる両面冷却型パワー半導体モジュールが開発されている。
【0003】
上記両面冷却型パワー半導体モジュールは上記パワー半導体素子の両主面を板状導体であるリードフレームで挟み込み、パワー半導体素子の主面と対向する面と反対側のリードフレームの面が冷却媒体と熱的に接続され、冷却される。
【0004】
特許文献1にはパワー半導体素子を一対の金属体で挟んだものをモールド樹脂にて封止してなる半導体パッケージ同士を、バスバーを介することなく電気的に接続するために前記金属体に接続端子を設けてこれを電気的に接続して半導体装置を構成するという発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−35670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
半導体パッケージが1相分の上アーム回路及び下アーム回路を1つのパッケージとして、かつ3相分設ける場合には、3つの半導体パッケージを設ける必要がある。さらに半導体パッケージが1相分の上アーム回路または下アーム回路を1つのパッケージとして、かつ3相分設ける場合には、6個の半導体パッケージを設ける必要がある。出力電流が増大した場合には、上アーム回路または下アーム回路において半導体パッケージを電気的に並列に接続させる場合が想定され、さらに半導体パッケージの数が多くなる。そのため半導体パッケージの生産性の向上が重要になる。
【0007】
一方で、生産性の向上が配線インダクタンスの増大に繋がってしまうと、電力変換装置の出力の増大の妨げとなってしまう。例えば、上アーム回路及び下アーム回路を構成するインバータ回路のスイッチング動作時には、上下アームを貫通する過渡電流が流れ、これが配線の寄生インダクタンスの影響を受けて跳ね上がり電圧やサージ及びノイズの原因となりパワー半導体素子の損失増大や誤動作の原因となる。
【0008】
本発明の課題は、生産性の低下を抑制するとともに配線インダクタンスの低減を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係るパワー半導体モジュール及びそれを備えた電力変換装置は、インバータ回路を構成する上アーム回路部を有する第1パッケージと、インバータ回路を構成する下アーム回路部を有する第2パッケージと、前記第1パッケージ及び前記第2パッケージを収納するための収納空間及び当該収納空間と繋がる開口を形成する金属製のケースと、前記上アーム回路部と前記下アーム回路部とを接続する中間接続導体と、を備え、前記ケースは、第1放熱部と、前記収納空間を介して当該第1放熱部と対向する第2放熱部とを含んで構成され、前記第1パッケージは、当該第1パッケージと前記第2パッケージとの配置方向が前記第1放熱部と前記第2放熱部とのそれぞれの対向面と平行になるように配置され、
前記中間接続導体は、前記ケースの前記収納空間において前記第1パッケージから延びるエミッタ側端子と前記第2パッケージから延びるコレクタ側端子とを接続される。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、生産性の低下を抑制することができるとともに配線インダクタンスの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ハイブリッド自動車の制御ブロックを示す図である。
【図2】(a)は、本実施形態に係るパワー半導体モジュール300の斜視図であり、(b)は、本実施形態に係るパワー半導体モジュール300の断面図である。
【図3】(a)は、本実施形態に係るパッケージ301の内部構造を示しており、(b)は、第一封止樹脂336によって封止された状態のパッケージ301を示しており、(c)は、パッケージ301に対応した回路図を示している。
【図4】(a)は、パッケージ301及び反転させたパッケージ301′とバスバーコネクタ317の接続構造を示しており、(b)は、(a)に対応した回路図を示している。
【図5】(a)は、パッケージ301及びパッケージ301′のそれぞれの第一封止樹脂350の表面337及び337′と絶縁部材333及び333′との接合工程を示す図であり、(b)は、絶縁部材333及び333′が接合されたパッケージ301及び301′の断面図である。
【図6】(a)は、パッケージ301を冷却器304に挿入する工程を示す斜視図である。(b)及び(c)は冷却器304の内壁とパッケージ301と接合する工程を示す断面図である。
【図7】(a)は、冷却器304のベース部307Cの反り311とベース部307Bの傾き312を示す断面図である。(b)は、薄肉部305が変位して、冷却器304とパッケージ301及びパッケージ301′が接合した状態を示す断面図である。
【図8】(a)は、IGBT155のスイッチング動作時において、上アーム回路部と下アーム回路部を貫通する過渡電流の1つ、ダイオード156のリカバリー電流100の経路を示した回路図である。(b)は、パワー半導体モジュール300に流れるリカバリー電流100の経路を示した斜視図である。
【図9】パワー半導体モジュール300を電力変換装置の筺体12へ組み付ける工程を説明した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態に係る電力変換装置について、図面を参照しながら以下詳細に説明する。
【0013】
〔実施例〕
本実施形態に係る電力変換装置は、ハイブリッド用の自動車や純粋な電気自動車に適用可能であるが、代表例として、ハイブリッド自動車に適用した場合における制御構成と回路構成について、図1と図2を用いて説明する。
【0014】
図1は、ハイブリッド自動車の制御ブロックを示す図である。
【0015】
本実施形態に係る電力変換装置では、車両駆動用電機システムに用いられ、搭載環境や動作的環境などが大変厳しい車両駆動用インバータ装置を例に挙げて説明する。
【0016】
車両駆動用インバータ装置は、車載電源を構成する車載バッテリ或いは車載発電装置から供給された直流電力を所定の交流電力に変換し、得られた交流電力を車両駆動用電動機に供給して車両駆動用電動機の駆動を制御する。また、車両駆動用電動機は発電機としての機能も有しているので、車両駆動用インバータ装置は運転モードに応じ、車両駆動用電動機が発生する交流電力を直流電力に変換する機能も有している。
【0017】
なお、本実施形態の構成は、自動車やトラックなどの車両駆動用電力変換装置として最適であるが、これら以外の電力変換装置、例えば電車や船舶,航空機などの電力変換装置、さらに工場の設備を駆動する電動機の制御装置として用いられる産業用電力変換装置、或いは家庭の太陽光発電システムや家庭の電化製品を駆動する電動機の制御装置に用いられたりする家庭用電力変換装置に対しても適用可能である。
【0018】
図1において、ハイブリッド電気自動車(以下、「HEV」と記述する)110は1つの電動車両であり、2つの車両駆動用システムを備えている。その1つは、内燃機関であるエンジン120を動力源としたエンジンシステムである。エンジンシステムは、主としてHEVの駆動源として用いられる。もう1つは、モータジェネレータ192,194を動力源とした車載電機システムである。車載電機システムは、主としてHEVの駆動源及びHEVの電力発生源として用いられる。モータジェネレータ192,194は例えば同期機あるいは誘導機であり、運転方法によりモータとしても発電機としても動作するので、ここではモータジェネレータと記す。
【0019】
車体のフロント部には前輪車軸114が回転可能に軸支され、前輪車軸114の両端には1対の前輪112が設けられている。車体のリア部には後輪車軸が回転可能に軸支され、後輪車軸の両端には1対の後輪が設けられている(図示省略)。本実施形態のHEVでは、いわゆる前輪駆動方式を採用しているが、この逆、すなわち後輪駆動方式を採用しても構わない。
【0020】
前輪車軸114の中央部には前輪側デファレンシャルギア(以下、「前輪側DEF」と記述する)116が設けられている。前輪側DEF116の入力側には変速機118の出力軸が機械的に接続されている。変速機118の入力側にはモータジェネレータ192の出力側が機械的に接続されている。モータジェネレータ192の入力側には動力分配機構122を介してエンジン120の出力側及びモータジェネレータ194の出力側が機械的に接続されている。尚、モータジェネレータ192,194及び動力分配機構122は、変速機118の筐体の内部に収納されている。
【0021】
インバータ装置140,142にはバッテリ136が電気的に接続されており、バッテリ136とインバータ装置140,142との相互において電力の授受が可能である。
【0022】
本実施形態では、モータジェネレータ192及びインバータ装置140からなる第1電動発電ユニットと、モータジェネレータ194及びインバータ装置142からなる第2電動発電ユニットとの2つを備え、運転状態に応じてそれらを使い分けている。すなわち、エンジン120からの動力によって車両を駆動している場合において、車両の駆動トルクをアシストする場合には第2電動発電ユニットを発電ユニットとしてエンジン120の動力によって作動させて発電させ、その発電によって得られた電力によって第1電動発電ユニットを電動ユニットとして作動させる。また、同様の場合において、車両の車速をアシストする場合には第1電動発電ユニットを発電ユニットとしてエンジン120の動力によって作動させて発電させ、その発電によって得られた電力によって第2電動発電ユニットを電動ユニットとして作動させる。
【0023】
また、本実施形態では、バッテリ136の電力によって第1電動発電ユニットを電動ユニットとして作動させることにより、モータジェネレータ192の動力のみによって車両の駆動ができる。さらに、本実施形態では、第1電動発電ユニット又は第2電動発電ユニットを発電ユニットとしてエンジン120の動力或いは車輪からの動力によって作動させて発電させることにより、バッテリ136の充電ができる。
【0024】
バッテリ136はさらに補機用のモータ195を駆動するための電源としても使用される。補機としては例えば、エアコンディショナーのコンプレッサを駆動するモータ、あるいは制御用の油圧ポンプを駆動するモータであり、バッテリ136からインバータ43装置に直流電力が供給され、インバータ装置43で交流の電力に変換されてモータ195に供給される。前記インバータ装置43はインバータ装置140や142と同様の機能を持ち、モータ195に供給する交流の位相や周波数,電力を制御する。例えばモータ195の回転子の回転に対し進み位相の交流電力を供給することにより、モータ195はトルクを発生する。一方、遅れ位相の交流電力を発生することで、モータ195は発電機として作用し、モータ195は回生制動状態の運転となる。このようなインバータ装置43の制御機能はインバータ装置140や142の制御機能と同様である。モータ195の容量がモータジェネレータ192や194の容量より小さいので、インバータ装置43の最大変換電力がインバータ装置140や142より小さいが、インバータ装置43の回路構成は基本的にインバータ装置140や142の回路構成と同じである。
【0025】
図2乃至図6を用いて本実施形態に係るパワー半導体モジュール300を説明する。
【0026】
図2(a)は、本実施形態に係るパワー半導体モジュール300の斜視図であり、図2(b)は、本実施形態に係るパワー半導体モジュール300の断面図である。
【0027】
図2(b)に示すように、パワー半導体素子であるIGBT155とダイオード156は、コレクタ導体板313とエミッタ導体板314により両面からそれぞれ挟まれている。コレクタ導体板313はIGBT155のコレクタ電極及びダイオード156のアノード電極と金属接合材を介して接続され、エミッタ導体板314はIGBT155のエミッタ電極及びダイオード156のカソード電極と金属接合材を介して固着される。
【0028】
後述されるバスバーコネクタ317は、各部配線と端子部を一体成型して構成され、冷却器304内部から外部に向かって延びる端子と接続される。
【0029】
冷却器304は、金属製であり、具体的にはアルミ合金材料例えばAl,AlSi,AlSiC,Al−C等で構成され、かつ挿入口306以外に開口を設けないように構成されるケース部材である。冷却器304の挿入口306が形成される面にはフランジ304Aが形成される。また冷却器304は、他の冷却器304の面より広い面を有する第1放熱部304B及び第2の放熱部304Cが互いに対向した状態で配置される。なお冷却器304は、正確な直方体である必要が無く、角が曲面していても良い。冷却器304がこのような金属製の有底筒状のケースとすることで、水や油などの冷却媒体が流れる流路内に挿入しても、冷却媒体に対するシールをフランジ304Aにて確保できるため、冷却媒体が冷却器304の内部及び端子部分に侵入するのを、簡易な構成にて防ぐことができる。
【0030】
また第1放熱部304B及び第2の放熱部304Cの外壁にはフィン309が均一に形成されている。第1放熱部304Bを囲む外周部及び第2の放熱部304Cを囲む外周部には、第1放熱部304B及び第2の放熱部304Cの厚みよりも薄くなっている薄肉部305が形成されている。薄肉部305は、フィン309を加圧することにより、第1放熱部304B及び第2の放熱部304が変形することなく薄肉部305が変形することができる程度までその厚みを薄くしてある。これにより、IGBT155やコレクタ導体板313等により構成されるパッケージ301が冷却器304に挿入された後、薄肉部305を変位させて、絶縁部材333を介して冷却器304の内壁とパッケージ301の表面とを接合することができる。
【0031】
パッケージ301は、IGBT155やコレクタ導体板313等を第一封止樹脂350により封止されるように構成され、パッケージ301の全体が冷却器304の中に挿入される。冷却器304の内部に残存する空隙には、第二封止樹脂351が充填される。
【0032】
図3(a)は、本実施形態に係るパッケージ301の内部構造を示しており、図3(b)は、第一封止樹脂336によって封止された状態のパッケージ301を示しており、図3(c)は、パッケージ301に対応した回路図を示している。
【0033】
本実施形態に係るパッケージ301は、直流電流を複数相の交流電流に変換するインバータ回路において、上アーム回路及び下アーム回路により構成される1相分の直列回路のうちの上アーム回路又は下アーム回路のいずれか一方の1アーム分を構成する。
【0034】
IGBT155とダイオード156は板形状で、その両面に金属接合用の電極が設けられており、コレクタ導体板313とエミッタ導体板314が前記IGBT155とダイオード156を両面から挟んで配置され、前記電極はコレクタ導体板313及びエミッタ導体板314に設けられた素子搭載部315と金属接合材にて接合されている。
【0035】
前記金属接合材には、はんだ材やろう材及び金属ナノ粒子や金属マイクロ粒子を用いることができる。第一封止樹脂350には、熱硬化性の樹脂材料が適しており、特にフィラーを充填して機械物性を金属に近付けたエポキシ樹脂材が適している。また、IGBT155は、代わりにMOSFETを用いることもできる。
【0036】
また、コレクタ導体板313には、外部コレクタ端子313Aと内部コレクタ端子313Bが設けられており、それぞれ素子搭載部315における厚み方向の側面から突出している。信号配線325Uは、外部コレクタ端子313Aと隣り合う位置に配置される。このとき、外部コレクタ端子313Aと信号配線325Uが同一方向で延び、内部コレクタ端子313Bはこれに対して反対方向に延びている。
【0037】
図3(b)に示されるように、パッケージ301は、第一封止樹脂350の表面337から露出したエミッタ導体板314の一部により構成される伝熱面316を有する。コレクタ導体板313も同様に、その一部により構成されかつ第一封止樹脂350から露出する伝熱面を有する。この伝熱面316は、IGBT155及びダイオード156の発熱を、後述の絶縁部材333を介して冷却器304に伝熱する。
【0038】
1アーム分のパッケージ301を用いた上下アーム直列回路の形成について説明する。
【0039】
図4(a)は、パッケージ301及び反転させたパッケージ301′とバスバーコネクタ317の接続構造を示しており、図4(b)は、その回路図を示している。
【0040】
パッケージ301′は、図3にて説示したパッケージ301を反転され、かつパッケージ301の側方に配置される。
【0041】
パッケージ301の外部コレクタ端子313Aの主面と、もう一方のパッケージ301′の外部エミッタ端子314A′の主面とが、同一面となるように、パッケージ301及びパッケージ301′が配置される。
【0042】
外部コレクタ端子313Aは、バスバーコネクタ317の正極接続端子318Bと接続される。外部エミッタ端子314A′は、バスバーコネクタ317の負極接続端子319Bと接続される。また、外部コレクタ端子313A′は、バスバーコネクタ317の交流接続端子320Bと接続される。
【0043】
中間接続導体321は、上アーム回路を構成するパッケージ301と下アーム回路を構成するパッケージ301′とを冷却器304内で接続する。中間接続導体321の端子321Aは、内部エミッタ端子314Bと接続される。中間接続導体321の端子321Bは、内部コレクタ端子313B′と接続される。これらの接続は、溶接及びろう付けといった金属接合によって行われる。
【0044】
コレクタ導体板313とエミッタ導体板314及び中間接続導体321には、熱伝導率が高く、プレス加工や押し出し加工で成形できる材料がモジュール冷却性能と生産性の点で適しており、候補にはCu合金系やAl合金系の材料が考えられる。
【0045】
バスバーコネクタ317は、正極導体318と、負極導体319と、交流導体320と、正極導体318と負極導体319との間に配置された絶縁部材360と、により構成される。正極導体318は、一方の端部に正極端子318Aを、他方の端部に正極接続端子318Bをインサート成型等で一体に成型される。負極導体319は、一方の端部に負極端子319Aを、他方の端部に負極接続端子319Bをインサート成型等で一体に成型される。交流導体320は、一方の端部に交流端子320Aを、他方の端部に交流接続端子320Bをインサート成型等で一体に成型される。成型材にはPPS(ポリフェニルサルファイド)やPBT(ポリブチレンテレフタレート)といった高耐熱な熱可塑性樹脂が適している。
【0046】
負極端子319Aと正極端子318Aが対向して形成されるように、正極導体318と負極導体319はそれぞれ屈曲して構成される。絶縁部材360は正極導体318と負極導体319の間に配置され、正極導体318と負極導体319が絶縁部材360を介した積層状態となるので、正極導体318と負極導体319は配線インダクタンス化の低減が図られている。
【0047】
以上の様にして図4(b)に示される上下アーム直列回路が形成される。なお未使用の端子は切断される。このように、上アーム回路部を構成するパッケージ301と、下アーム回路部を構成するパッケージ301′とを別々にモジュール化をして製造することにより、一つの導体板に対するスイッチング素子を接合する金属接合部材の接触箇所を少なく抑えることができる。よって、パッケージ301及びパッケージ301′の生産性及び歩留まりを向上させることができる。
【0048】
図5(a)は、パッケージ301及びパッケージ301′のそれぞれの第一封止樹脂350の表面337及び337′と絶縁部材333及び333′との接合工程を示す図であり、図5(b)は、絶縁部材333及び333′が接合されたパッケージ301及び301′の断面図である。
【0049】
絶縁部材333は2つ設けられ、一方の絶縁部材333はパッケージ301の一方の表面337及び伝熱面316を覆うようにパッケージ301に接合され、他方の絶縁部材333はパッケージ301の他方の表面及び伝熱面を覆うようにパッケージ301に接合される。絶縁部材333′についても同様にパッケージ301′に接合される。この段階の工程にて、パッケージ301及び301′と絶縁部材333及び333′の位置決めを行う。
【0050】
絶縁部材333及び333′には、熱により融解した状態で外部から圧力をかける熱圧着によって接着性を発現する材料がボイドの低減や表面追従性の観点から適しており、樹脂絶縁シート材や絶縁性接着材が考えられる。
【0051】
図6(a)は、パッケージ301を冷却器304に挿入する工程を示す斜視図である。図6(b)及び(c)は冷却器304の内壁とパッケージ301と接合する工程を示す断面図である。
【0052】
図6(a)に示されるように、絶縁部材333と333′が仮付けされた2個のパッケージ301と301′が、冷却器304のフランジ304Aに形成された挿入口306から挿入される。
【0053】
図6(b)に示されるように、パッケージ301とパッケージ301′は、冷却器304の内壁の下方側に形成される接合面308と接合面308′にそれぞれ配置される。
【0054】
そして図6(c)に示されるように、高温下で冷却器304を外部から加圧して冷却器304の薄肉部305を変位させ、冷却器304の内壁の上方側に形成される接合面308と308′と絶縁部材333と333′をそれぞれ接合する。
【0055】
冷却器304の第1放熱部304Bは、冷却器304の内壁側において、絶縁部材333と対向するとともに所定の厚さであるベース部307Bを形成する。このベース部307Bの厚さは、第1放熱部304Bの外周に形成される薄肉部305の厚さよりも大きく形成される。同様に第1放熱部304Bは、冷却器304の内壁側において、絶縁部材333′と対向するとともに所定の厚さであるベース部307B′を形成する。このベース部307B′の厚さは、第1放熱部304Bの外周に形成される薄肉部305の厚さよりも大きく形成される。
【0056】
同様に、冷却器304の第2放熱部304Cは、冷却器304の内壁側において、絶縁部材333と対向するとともに所定の厚さであるベース部307Cを形成する。このベース部307Cの厚さは、第2放熱部304Cの外周に形成される薄肉部305の厚さよりも大きく形成される。同様に第2放熱部304Cは、冷却器304の内壁側において、絶縁部材333′と対向するとともに所定の厚さであるベース部307C′を形成する。このベース部307C′の厚さは、第2放熱部304Cの外周に形成される薄肉部305の厚さよりも大きく形成される。
【0057】
上記の構成のように第1放熱部304B及び第2放熱部304Cがパッケージ301及びパッケージ301′に対応するようにして薄肉部305を設けて分割されているので、それぞれの絶縁部材333及び絶縁部材333′の表面の傾きに合わせて、薄肉部305が変位することができる。
【0058】
図7(a)は、冷却器304のベース部307Cの反り311とベース部307Bの傾き312を示す断面図である。図7(b)は、薄肉部305が変位して、冷却器304とパッケージ301及びパッケージ301′が接合した状態を示す断面図である。
【0059】
ベース部307Cの反り311は、フィン309の加工時や接合面308の加工時に発生するおそれがある。またベース部307Bの傾き312は、冷却器304全体を形成する際に発生するおそれがある。生産性の観点では、本実施形態のように2つのパッケージ301及びパッケージ301′を接続することで冷却器304との接触面積が増えるため、冷却器304,パッケージ301及びパッケージ301′の製造時に発生する反りやバラツキの影響で絶縁部材333及び必要な場合に用いられるグリースの厚みのバラツキや接触不良を引き起こし、結果的にパワー半導体モジュール300の絶縁性能の劣化を引き起こしてしまうおそれがある。
【0060】
しかしながら本実施形態においては、薄肉部305がこの反り311や傾き312を吸収するように微小変位することができる。ゆえに高温下で加圧して絶縁部材333及び絶縁部材333′表面と冷却器304を接合する際に、各薄肉部305が変位し、パッケージ301及びパッケージ301′もそれぞれ微小に傾いて、第1放熱部304B及び第2放熱部304Cとパッケージ301及びパッケージ301′とが反り311及び傾き312に追従して接合される。
【0061】
なお本実施形態においては、第1放熱部304B及び第2放熱部304Cの双方に薄肉部305を形成したが、第1放熱部304Bまたは第2放熱部304Cの一方のみに薄肉部305が形成されていてもよい。
【0062】
図8(a)は、IGBT155のスイッチング動作時において、上アーム回路部と下アーム回路部を貫通する過渡電流の1つ、ダイオード156のリカバリー電流100の経路を示した回路図である。図8(b)は、パワー半導体モジュール300に流れるリカバリー電流100の経路を示した斜視図である。500は、バッテリから供給される直流電流を平滑化するための平滑コンデンサである。
【0063】
図8(a)に示すように、上アーム回路側のIGBT155がターンONして導通する場合について説明する。このとき、下アーム回路側のダイオード156は順方向バイアス状態から逆方向バイアス状態に移行し、これに伴ってダイオード156内部のキャリアが再結合する際にリカバリー電流100が流れる。
【0064】
本実施形態においては、バスバーコネクタ317の負極導体319と正極導体318が対向して配置されていることにより、同一な電流が逆方向に流れて磁界362Uを生じさせて、配線インダクタンス363U及び363Lが低減される。
【0065】
またエミッタ導体板314及びコレクタ導体板313′は絶縁部材333を介して金属製の冷却器304と近接して配置されている。同様にコレクタ導体板313及びエミッタ導体板314′は絶縁部材333を介して金属製の冷却器304と近接して配置されている。さらに中間接続導体321は、金属製の冷却器304内であってパッケージ301及びパッケージ301′を介して冷却器304の挿入口306とは反対側に配置されている。これにより、パワー半導体モジュール300は、リカバリー電流100が流れる際に、これと逆方向に流れる渦電流101が、金属製の冷却器304に発生する。特に、中間接続導体321が前記のように配置されることにより、渦電流101が円形に近い形状に沿って流れることになるので配線インダクタンスの低減効果が向上する。
【0066】
この渦電流101は、リカバリー電流100が発生する磁界を打ち消す方向に磁界362Mを発生させて、磁界を相殺する様に働き、冷却器304内部における配線インダクタンス363Mを低減することができる。
【0067】
図9は、パワー半導体モジュール300を電力変換装置の筺体12へ組み付ける工程を説明した図である。筺体12は、冷却媒体が流れる流路19が形成される冷却ジャケット19Aを備える。冷却ジャケット19Aは、その上部に開口19Bが形成され、かつ、流路19を介して開口19Bと対向する側に開口19Cが形成される。開口19Bからパワー半導体モジュール300が挿入され、シール800と冷却器304のフランジ304Aにより冷媒の漏れが防止される。冷媒としては例えば水が使用され、上記冷媒は上アーム回路と下アーム回路が配置されている方向に沿って、すなわちパワー半導体モジュール300の挿入方向に対してこれを横切る方向に沿って流れる。
【0068】
本実施形態に係るパワー半導体モジュール300は、パッケージ301に内蔵された上アーム回路部と、パッケージ301′に内蔵された下アーム回路部が、冷媒の流れの方向に沿って並べて配置されているので、パワー半導体モジュール300の厚みが薄くなり、冷媒の流れに対する流体抵抗が抑えられる。
【符号の説明】
【0069】
300 パワー半導体モジュール
301,301′ パッケージ
304 冷却器
304A フランジ
304B 第1の放熱部
304C 第2の放熱部
305 薄肉部
306 挿入口
307B,307B′,307C,307C′ ベース部
308,308′ 接合面
309 フィン
317 バスバーコネクタ
333,333′ 絶縁部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータ回路を構成する上アーム回路部を有する第1パッケージと、インバータ回路を構成する下アーム回路部を有する第2パッケージと、前記第1パッケージ及び前記第2パッケージを収納するための収納空間及び当該収納空間と繋がる開口を形成する金属製のケースと、前記上アーム回路部と前記下アーム回路部とを接続する中間接続導体と、を備え、
前記ケースは、第1放熱部と、前記収納空間を介して当該第1放熱部と対向する第2放熱部とを含んで構成され、
前記第1パッケージは、第1半導体チップと、当該第1半導体チップを挟み込む第1導体板及び第2導体板と、当該第1導体板と接続された第1コレクタ側端子と、当該第2導体板と接続された第1エミッタ側端子と、当該第1導体板及び当該第2導体板の一部と前記第1半導体チップを封止する第1封止材と、を有し、
前記第2パッケージは、第2半導体チップと、当該第2半導体チップを挟み込む第3導体板及び第4導体板と、当該第3導体板と接続されたコレクタ側端子と、当該第4導体板と接続された第2エミッタ側端子と、第3導体板及び第4導体板の一部と前記第2半導体チップを封止する第2封止材とを有し、
さらに前記第1パッケージは、当該第1パッケージと前記第2パッケージとの配置方向が前記第1放熱部と前記第2放熱部とのそれぞれの対向面と平行になるように配置され、
前記第1コレクタ側端子及び前記第2エミッタ側端子は前記ケースの前記開口から当該ケースの外部に突出しており、
前記中間接続導体は、前記ケースの前記収納空間において前記第1エミッタ側端子と前記第2コレクタ側端子とを接続するパワー半導体モジュール。
【請求項2】
請求項1に記載されたパワー半導体モジュールであって、
前記第1放熱部又は前記第2放熱部の一方は、前記第1パッケージと対向する第1部分を囲むとともに当該第1部分よりも薄く形成された第1薄肉部と、前記第2パッケージと対向する第2部分を囲むとともに当該第2部分よりも薄く形成された第2薄肉部と、を含んで構成されるパワー半導体モジュール。
【請求項3】
請求項1または2に記載されたいずれかのパワー半導体モジュールであって、
前記第1コレクタ側端子と接続される正極側バスバーと、前記第2エミッタ側端子と接続されるとともに当該正極側バスバーと絶縁部材を介して対向する部分を有する負極側バスバーと、を有するバスバーコネクタを備えるパワー半導体モジュール。
【請求項4】
請求項1ないし3に記載されたいずれかのパワー半導体モジュールであって、
前記中間接続導体は、前記第1パッケージと前記第2パッケージを介して、前記ケースの前記開口とは反対側に配置されるパワー半導体モジュール。
【請求項5】
請求項1ないし3に記載されたいずれかのパワー半導体モジュールを備える電力変換装置であって、
冷却冷媒を流すための流路を形成する冷却ジャケットを備え、
前記ケースは、前記第1放熱部及び前記第2放熱部が前記流路内に配置されるように前記冷却ジャケットに固定され、
前記第1放熱部及び前記第2放熱部は、冷却冷媒と直接接触する電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−9501(P2013−9501A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140059(P2011−140059)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】