説明

パーキングブレーキ装置

【課題】パーキングブレーキの熱緩みを抑制することができるディスクブレーキ構造のパーキングブレーキを提供すること
【解決手段】
パーキングレバー2とブレーキキャリパ3R,3Lとを接続するパーキングケーブル71,72に熱変形手段10を設ける。熱変形手段10は、車両の排気管の近くに配置され、エンジンからエンジン熱を受け膨張し、放熱すると収縮し、収縮することで、ピストン4をブレーキパッド5がディスクロータ6を押し付ける方向に移動させる。熱変形手段10の熱膨張率はブレーキパッド5の熱膨張率よりも大きいため、熱変形手段10の放熱による収縮量はブレーキパッド5の収縮量よりも大きくなる。そのため、パーキングブレーキの熱ゆるみを熱変形手段10の収縮によって補償し、パーキングブレーキ力の熱緩みを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、パーキングブレーキ装置に関し、特にパーキングブレーキ力の熱緩み防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、パーキングブレーキ装置としてディスクブレーキ構造のパーキングブレーキ装置がある。ここで、ディスクブレーキ構造のパーキングブレーキ装置とは、液圧回路を介してブレーキペダルとブレーキキャリパとが接続されるとともに、パーキングケーブルを介してパーキングレバーとブレーキキャリパとが接続されており、運転者のブレーキペダル操作または運転者のパーキングレバー操作によって、ブレーキキャリパ内に設けられているピストンが押動され、ピストンの押動によってブレーキパッドがディスクロータに押し付けられることで、車輪にサービスブレーキ力またはパーキングブレーキ力が付与されるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−190504
【発明の概要】
【0004】
ところで、サービスブレーキ力によって走行中の車両を減速・停止させるときは、ディスクロータとブレーキパッドとの間に摩擦が生じ、ブレーキパッドやディスクロータは熱を帯びる。この摩擦熱により、ディスクロータやブレーキパッドの温度は常温よりも高くなり、ディスクロータやブレーキパッドが膨張をする。車両が停車した直後にパーキングレバー操作が行われると、ブレーキパッドが膨張した状態でパーキングブレーキ力が車輪に付与されるため、その後、ディスクロータやブレーキパッドの放熱による温度低下に伴って、当該ディスクロータやブレーキパッドが収縮し、ブレーキパッドのディスクロータへの押圧力が低下し、パーキングブレーキ力が低下(以下「パーキングブレーキ力の熱緩み」という)するという問題がある。
【0005】
そこで、本願発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、ブレーキパッドの放熱によるパーキングブレーキ力の熱緩みを抑制することができるパーキングブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、サービスブレーキ操作子及びパーキングブレーキ操作子の各操作子の操作に伴って、当該各操作子の操作量に応じてピストンをディスクロータに向けて移動させて、前記ピストンの前記ディスクロータ側に設けられたブレーキパッドを前記ディスクロータに押し当てるブレーキ機構を備えたパーキングブレーキ装置において、車両の走行中に発熱する熱源と、前記パーキングブレーキ操作子と前記ピストンとの間に設けられ、前記熱源から放出される熱の受熱による温度上昇に伴って膨張し、放熱による温度低下に伴って収縮することで前記ピストンを前記ディスクロータに前記ブレーキパッドを押し当てる側に移動させる熱変形手段とを備えていることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、前記熱変形手段が、前記ブレーキパッドの熱膨張率よりも熱膨張率が大きい材料で形成されていることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、2つ以上の車輪にそれぞれ前記ブレーキ機構が設けられ、前記パーキングブレーキ操作子に接続されるとともに各輪のブレーキ機構に向けて分岐し、各輪のブレーキ機構に前記パーキングブレーキ操作子の前記操作量を伝達する接続部を備え、前記熱変形手段が、前記パーキングブレーキ操作子と前記接続部との間に設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の発明によると、車両の走行中は、車両の走行中に発熱する熱源から放熱される熱の受熱による温度上昇に伴って熱変形手段が膨張し、車両の停車後は、放熱による温度低下に伴って熱変形手段が収縮する。その結果、ピストンがディスクロータにブレーキパッドを押し当てる側に移動し、ブレーキパッドがディスクロータに押し当てられる。これにより、車両の停車直後にパーキングブレーキ操作子の操作によってパーキングブレーキ力を付与した後に、ブレーキパッドの収縮によるパーキングブレーキ力の低下が起こったとしても、熱変形手段の収縮によるパーキングブレーキ力の増大によりパーキングブレーキ力が補償されるため、パーキングブレーキ力の熱緩みを抑制することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明によると、熱変形手段をブレーキパッドよりも熱膨張率が大きい材料で形成することにより、熱変形手段の体格を小さくすることができる。
【0011】
請求項3に記載の発明によると、熱変形手段をパーキングブレーキ操作子と接続部との間に設けることにより、2つ以上の車輪にそれぞれ設けられている各ブレーキ機構に対し熱変形手段を設ける必要がなく、熱変形手段を各ブレーキ機構に共通化することができる。すなわち、熱変形手段の収縮を接続部を介して2つ以上のブレーキ機構のピストンに伝達し、熱変形手段の収縮によって2つ以上のブレーキ機構のディスクロータにブレーキパッドを押し当てる側に移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本願発明のパーキングブレーキ装置の概略図
【図2】(a)は常温時の熱変形手段を、(b)は高温時の熱変形手段を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本願発明を、図面を用いて説明する。
図1は、本願発明のパーキングブレーキ装置の概略図である。パーキングブレーキ装置1は、パーキングレバー2と、図示しないブレーキペダルと、各車輪に設けられ、パーキングレバー2及びブレーキペダルの各操作子の操作量に応じた制動力を各車輪に付与するブレーキキャリパ3(3R、3L)とを備えている。
パーキングレバー2が特許請求の範囲の「パーキングブレーキ操作子」に相当し、ブレーキペダルが特許請求の範囲の「サービスブレーキ操作子」に相当する。
【0014】
右後輪ブレーキキャリパ3Rは、パーキングケーブル71、熱変形手段10、パーキングケーブル72、分岐具9及びパーキングケーブル73を介して、パーキングレバー2と接続されている。左後輪のブレーキキャリパ3Lは、パーキングケーブル71、熱変形手段10、パーキングケーブル72、分岐具9及びパーキングケーブル74を介して、パーキングレバー2と接続されている。
分岐具9が、特許請求の範囲の「接続部」に相当する。
【0015】
右後輪及び左後輪のブレーキキャリパ3R及び3Lは、ピストン4を有しており、ピストン4のディスクロータ6側への移動によりブレーキパッド5をディスクロータ6に押し当てて制動力を発生可能に構成されている。詳しくは、右後輪及び左後輪のブレーキキャリパ3R及び3Lは、パーキングケーブル73、74との接続箇所を力点、ピストン4との接続箇所を作用点、右後輪及び左後輪のブレーキキャリパ3R及び3Lの本体との接続箇所を支点とするてこ機構8を有している。当該てこ機構8がパーキングレバー2の操作等によって生じるパーキングケーブル73、74の張力により駆動されると、当該てこ機構8によりピストン4がディスクロータ6にブレーキパッド5を押し当てる側に移動され、ブレーキパッド5がディスクロータ6に押し当てられて、車輪にパーキングブレーキ力が付与されるように構成されている。
【0016】
また、右後輪及び左後輪のブレーキキャリパ3R及び3Lは、図示しない液圧配管によって、図示しないブレーキペダルの操作量に応じたブレーキ液圧(以下「マスタシリンダ圧」という)を発生させるマスタシリンダに接続されており、マスタシリンダ圧によってピストン4がディスクロータ6にブレーキパッド5を押し当てる側に移動され、ブレーキパッド5がディスクロータ6に押し当てられて、車輪にサービスブレーキ力が付与されるように構成されている。
【0017】
さらに、熱変形手段10を、特許請求の範囲の「熱源」に相当するエンジンから排気口まで延びた排気管に隣接するように配置し、当該排気管の熱を受熱可能としている。熱変形手段10は、ブレーキパッド5やディスクロータ6よりも熱膨張率の大きい材料で形成されている。
【0018】
以上、本願発明のパーキングブレーキ装置の構成について説明した。以降、本願発明のパーキングブレーキ装置の作動について説明する。
【0019】
車両の走行中、運転者によるブレーキペダル操作に応じて車輪にサービスブレーキ力を付与すると、ブレーキパッド5とディスクロータ6との間に摩擦熱が生じ、摩擦熱のためにブレーキパッド5及びディスクロータ6が膨張する。そのため、車両が停車した直後に、運転者によりパーキングレバー2が操作されて車輪にパーキングブレーキ力が付与された場合、ブレーキパッド5及びディスクロータ6が膨張した状態で当該ブレーキパッド5がディスクロータ6に押し当てられることとなる。そして、時間の経過とともにブレーキパッド5及びディスクロータ6が収縮することによるパーキングブレーキ力の熱緩みが発生してしまう。
【0020】
一方、車両の走行中、排気管はエンジンの廃熱を受け常温より高温となる。そのため、熱変形手段10は、排気管から放熱される熱を受熱し、常温よりも高温となって膨張する。
ブレーキパッド5及びディスクロータ6と熱変形手段10とが常温より高温となった状態でパーキングレバー2の操作が行われると、ブレーキパッド5及びディスクロータ6と熱変形手段10とが膨張した状態で車輪にパーキングブレーキ力が付与される。熱変形手段10は、車両の停車後、時間の経過とともに、放熱により温度が低下して収縮する。その結果、右後輪及び左後輪のブレーキキャリパ3R及び3Lにおいて、てこ機構8の力点がパーキングレバー2側に引かれ、ピストン4がディスクロータ6にブレーキパッド5を押し当てる側に移動する。
【0021】
よって、車両の停車直後において運転者によりパーキングレバー2が操作された後、ブレーキパッド5やディスクロータ6が放熱による温度低下に伴って収縮することによりパーキングブレーキ力が低下したとしても、熱変形手段10が放熱による温度低下に伴って収縮することによりピストン4がブレーキパッド5をディスクロータ6に押し当てることでパーキングブレーキ力が増加するため、パーキングブレーキ力の熱緩みを抑制することができる。
特に、熱変形手段10の収縮によるパーキングブレーキ力の増大が、ブレーキパッド5やディスクロータ6の収縮によるパーキングブレーキ力の低下よりも大きくなるように、熱変形手段10を構成することにより、パーキングブレーキ力の熱緩みを防止することができる。
上述の如く熱変形手段10を、ブレーキパッド5やディスクロータ6の熱膨張率よりも大きい材料で形成しているため、熱変形手段10の収縮によるパーキングブレーキ力の増大量を所定値に設定するに際し、ブレーキパッド5やディスクロータ6の熱膨張率よりも小さい材料で形成する場合よりも、熱変形手段10の体格を小さくすることができる。
【0022】
上記実施形態では、熱変形手段10の熱源としてエンジンの排熱により発熱する排気管を利用したが、熱源は、車両の走行中に発熱するものであればよく、これに限らない。例えば、新たに電気ヒータなどの熱源を設けて車両の走行中に通電するようにしてもよい。この場合、ブレーキパッド5やディスクロータ6の温度に応じて、ヒータへの通電量を制御することができる。これにより、例えば下り坂を走行した直後など、排気管からの受熱による熱変形手段10の温度に対してブレーキパッド5及びディスクロータ6の温度が高くなるような場合においても、ヒータによる熱変形手段10の過熱を行うことができ、パーキングブレーキ力の熱緩みを確実に抑制することができる。
【0023】
上記実施形態では、熱変形手段10を熱源である排気管の近傍に配置したが、熱源から当該熱変形手段10に熱を伝える熱伝導手段を設けて熱変形手段10を熱源から離間した位置に配置してもよい。これにより、熱変形手段10の配置の自由度を高めることができる。
【0024】
熱変形手段10は、形状記憶合金のように塑性変形する材料で形成された熱変形容易体11を備えて構成してもよい。この場合、図2に示すように、熱変形手段10を、上記熱変形容易体11を囲う筐体12を備えて構成することが好ましい。図2の熱変形手段10について補足説明すると、熱変形手段10は、筐体12のパーキングレバー2側に設けられている入力具13と、筐体12を貫通し熱変形容易体11のブレーキキャリパ3側に設けられている出力具14とを備え、出力具14が熱変形容易体11の変形に応じて筐体12に対し相対移動するように構成されている。入力具13は、パーキングケーブル71を介して当該パーキングレバー2に接続されている。出力具14は、パーキングケーブル73、74を介して右後輪及び左後輪のブレーキキャリパ3R及び3L(てこ機構8の力点)に接続されている。これにより、熱変形容易体11は、パーキングレバー2及びピストン4のそれぞれに接続されている。
【0025】
この場合、熱変形容易体11が排気管からの受熱により膨張すると、出力具14は筐体12に対し右後輪及び左後輪のブレーキキャリパ3R及び3L側に相対移動し、熱変形容易体11が放熱により収縮すると、出力具14は筐体12に対しパーキングレバー2側に相対移動する。熱変形容易体11の塑性変形が筐体12の大きさの範囲内に制限されるため、当該熱変形容易体11の破損を防ぐことができる。
【0026】
この場合さらに、熱変形容易体11を円筒状に形成することが好ましい。これにより、熱変形容易体11の塑性変形が均等になるため、当該熱変形容易体の破損を一層確実に防ぐことができる。
【符号の説明】
【0027】
1・・・パーキングブレーキ装置
2・・・パーキングレバー
3R,3L・・・ブレーキキャリパ
4・・・ピストン
5・・・ブレーキパッド
6・・・ディスクロータ
71,72,73,74・・・パーキングケーブル
8・・・てこ機構
9・・・分岐具
10・・・熱変形手段
11・・・熱変形容易体
12・・・筐体
13・・・入力具
14・・・出力具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サービスブレーキ操作子及びパーキングブレーキ操作子の各操作子の操作に伴って、当該各操作子の操作量に応じてピストンをディスクロータに向けて移動させて、前記ピストンの前記ディスクロータ側に設けられたブレーキパッドを前記ディスクロータに押し当てるブレーキ機構を備えたパーキングブレーキ装置において、
車両の走行中に発熱する熱源と、
前記パーキングブレーキ操作子と前記ピストンとの間に設けられ、前記熱源から放出される熱の受熱による温度上昇に伴って膨張する一方で、放熱による温度低下に伴って収縮することで前記ピストンを前記ディスクロータに前記ブレーキパッドを押し当てる側に移動させる熱変形手段と、
を備えていることを特徴とするパーキングブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のパーキングブレーキ装置において、
前記熱変形手段は、前記ブレーキパッドの熱膨張率よりも熱膨張率が大きい材料で形成されていることを特徴とするパーキングブレーキ装置。
【請求項3】
請求項2に記載のパーキングブレーキ装置において、
2つ以上の車輪にそれぞれ前記ブレーキ機構が設けられ、
前記パーキングブレーキ操作子に接続されるとともに各輪のブレーキ機構に向けて分岐し、各輪のブレーキ機構に前記パーキングブレーキ操作子の前記操作量を伝達する接続部を備え、
前記熱変形手段は、前記パーキングブレーキ操作子と前記接続部との間に設けられていることを特徴とするパーキングブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−148703(P2012−148703A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9797(P2011−9797)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】