説明

ヒアルロン酸の製造方法

【課題】食品原料に豊富に含まれる糖を炭素源とする培地を乳酸菌で培養することにより、ヒアルロン酸を生産することを目的とする。さらに、ヒアルロン酸ならびにヒアルロン酸を含有する飲食品および組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】果糖を資化してヒアルロン酸を生産する能力を有する乳酸菌を培養することを特徴とする、ヒアルロン酸の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品原料に豊富に含まれる糖を資化してヒアルロン酸を生産する能力を有する乳酸菌を用いるヒアルロン酸の製造方法ならびにそのような製造方法で得られるヒアルロン酸、ヒアルロン酸を含有する飲食品および組成物に関する。本発明は、ヒアルロン酸合成酵素および該酵素をコードする遺伝子にも関する。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸は、N−アセチル−D−グルコサミンおよびD−グルクロン酸の2糖による繰り返し構造からなる直鎖の多糖であり、高保湿性、高粘弾性、高潤滑性等を示す素材である。それらの特徴を生かして、保湿剤として化粧品に配合するのみならず、関節症治療剤や眼科手術補助剤等の医療分野への利用も広がっている。また、近年は、ヒアルロン酸の機能への関心の高まりから、ヒアルロン酸が配合されたサプリメントや嗜好食品が多数販売されている。
【0003】
食品や化粧品に利用されるヒアルロン酸として、鶏冠からの抽出物や、ストレプトコッカス属等の微生物を培地で培養・精製して得たものが一般的に用いられている(例えば、特許文献1参照)。そして、ヒアルロン酸の商品形態を拡大するために、食品原料を微生物を用いて発酵し、ヒアルロン酸含有組成物を提供する技術の開発にも注目が集まっている。このようなヒアルロン酸含有組成物は、食品原料や微生物等を分離せずに、そのまま飲食・塗布することもできると考えられる。近年、ヨーグルトやチーズの製造に利用されているストレプトコッカス サーモフィルスの特定の菌株を、主たる炭素源を乳糖(ラクトース)とするスキムミルク含有培地で培養し、ヒアルロン酸を含有する培養物が得られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
一方、食品原料については、近年、植物性原料を乳酸菌で発酵させた原料を有する飲食品や化粧品が販売されており、例えば、果実や野菜の処理物に乳酸菌を接種し発酵して、飲食物に利用した例(例えば、特許文献2参照)が報告されている。
【0005】
なお、これまでにラクトコッカス ラクティス由来のヒアルロン酸合成酵素遺伝子に関する報告例はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−112260号公報
【特許文献2】特開2006−76927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
食品原料を発酵し、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸含有飲食品およびヒアルロン酸含有組成物を得るためには、食品原料の糖組成に関する課題があると本発明者らは考えた。
【0008】
トマト、リンゴ、ナシ、ブドウ等の果実や野菜の糖組成は、表1に示すとおり、半分以上が果糖(フルクトース)であるという報告がなされている(例えば、日本果汁協会監修,「最新 果汁・果実飲料事典」,朝倉書店,1997年,p.223、伊藤三郎 編,「果実の科学」,朝倉書店,1991年,p.63および「FASEB Journal」,(米国),1990年,4巻,p.2652−2660参照)。したがって、このような食品原料と微生物を利用してヒアルロン酸を生産する場合、果糖を炭素源としてヒアルロン酸を生産する微生物を利用することが有利である。さらに、果実や野菜には、ブドウ糖(グルコース)やショ糖(スクロース)も含まれるため、多様な食品原料と微生物を利用してヒアルロン酸を生産するためには、これらの糖も炭素源としてヒアルロン酸を生産できる微生物を利用することも有利である。
【表1】

【0009】
また、米、麦、とうもろこし等の穀物や、いも等の澱粉を豊富に含む食品原料については、澱粉を加熱等によってアルファ化した後に、アミラーゼ等の酵素類を用いて麦芽糖やブドウ糖溶液(液化糖)に変換することが行われる。この糖化液をさらにグルコースイソメラーゼで処理することによって、ブドウ糖から果糖への異性化も行われる(例えば、特開2001−200号公報参照)。したがって、このような食品原料の酵素処理物(例えば異性化糖)を原料として、微生物を利用してヒアルロン酸を生産するためには、果糖、麦芽糖、ブドウ糖等の糖を炭素源としてヒアルロン酸を生産できる微生物を利用することが有利である。
【0010】
さらに、海藻、いも、豆等の食品原料は、ガラクタン、マンナン、ガラクトマンナン等の多糖を含んでいる。これらの多糖類を微生物発酵、各種酵素処理、化学処理等することによって、ガラクトースやマンノースが生成することが知られている(例えば、「Agricaltural and Biological Chemistry」,(米国),1985年,49巻,p.3445−3454、特開平5−23183号公報および特表2010−518850号公報参照)。したがって、このような食品原料の酵素処理物を原料として、微生物を利用してヒアルロン酸を生産するためには、ガラクトースやマンノース等の糖を炭素源としてヒアルロン酸を生産できる微生物を利用することが有利である。
【0011】
さらに、キノコ等の食品原料は、キチン等の多糖を含んでいる。また、キチンは、カニの甲羅、エビの殻、イカの腱等にも豊富に含まれている。キチンを粉砕処理、微生物発酵、各種酵素処理、化学処理等することによって、N−アセチル−D−グルコサミン(以下、単にN−アセチルグルコサミンという)が生成することが知られている(例えば、特開2007−189944号公報および特開2008−212025号公報参照)。したがって、このような食品原料の処理物を原料として、微生物を利用してヒアルロン酸を生産するためには、N−アセチルグルコサミン等の糖を炭素源としてヒアルロン酸を生産できる微生物を利用することが有利である。
【0012】
しかしながら、これまでに果実、野菜、穀物、いも、海藻、豆、キノコ等の食品原料を主たる原料として発酵し、ヒアルロン酸やヒアルロン酸含有飲食品、ヒアルロン酸含有組成物を得たという報告はなされていない。
【0013】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、果糖、ブドウ糖、ショ糖、麦芽糖、ガラクトース、マンノースおよびN−アセチルグルコサミン等、食品原料に豊富に含まれる糖を炭素源とする培地で乳酸菌を培養することにより、ヒアルロン酸を生産することを目的とする。本発明はまた、ヒアルロン酸ならびにヒアルロン酸を含有する飲食品および組成物の製造方法を提供することを目的とする。本発明は、新たなヒアルロン酸合成酵素遺伝子を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、乳酸菌の中に果糖を含む各種糖を炭素源として資化してヒアルロン酸生産能を示す株を見出した。
【0015】
本発明者らは、また、上記のヒアルロン酸生産能を有する株として、ラクトコッカス属に属する乳酸菌を見出した。これまで知られている、ヒアルロン酸生産能を有する微生物は、ストレプトコッカス属等の微生物であり、得られる培養物の風味も限られていた。ラクトコッカス属に属する乳酸菌は、チーズやヨーグルトの製造に利用されており、独特の風味が醸し出すことが一般的に知られているが(例えば、乳酸菌研究集談会編,「乳酸菌の科学と技術」,株式会社学会出版センター,1996年,p.344参照)、これまでにヒアルロン酸を生産するラクトコッカス属乳酸菌は報告されていない。ヒアルロン酸生産能を有するラクトコッカス属に属する乳酸菌を培養することにより、これまでとは異なる風味を示すヒアルロン酸含有培養物が得られた。また、本菌株からヒアルロン酸合成酵素遺伝子を見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち本発明は:
(1)果糖を資化してヒアルロン酸を生産する能力を有する乳酸菌を、培地で培養することを特徴とする、ヒアルロン酸の製造方法;
(2)乳酸菌がラクトコッカス(Lactococcus)属に属する乳酸菌である、上記(1)に記載のヒアルロン酸の製造方法;
(3)乳酸菌がラクトコッカス ラクティス(Lactococcus lactis)に属する乳酸菌である、上記(2)に記載のヒアルロン酸の製造方法;
(4)乳酸菌が、ブドウ糖、ショ糖、乳糖、麦芽糖、ガラクトース、マンノースおよびN−アセチルグルコサミンからなる群から選択される1以上の糖を資化してヒアルロン酸を生産する能力を有する、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のヒアルロン酸の製造方法;
(5)培地が、果実、野菜、穀物、いも、海藻、豆、キノコおよびこれらの処理物からなる群から選択される1以上の食品原料を炭素源として含有する、上記(1)〜(4)のいずれかに記載のヒアルロン酸の製造方法;
(6)培養が、20〜30℃の温度下、嫌気的条件で行われる、上記(1)〜(5)のいずれかに記載のヒアルロン酸の製造方法;
(7)前記乳酸菌が、以下の(a)または(b)に記載のタンパク質をコードする遺伝子:
(a)配列番号15に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質;または
(b)配列番号15に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつヒアルロン酸合成酵素活性を有するタンパク質;
あるいは、以下の(c)〜(e)のいずれかに記載のDNAからなる遺伝子:
(c)配列番号14に記載の塩基配列からなるDNA;
(d)配列番号14に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、ヒアルロン酸合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA;および
(e)配列番号14に記載の塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつヒアルロン酸合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA;
を有する、上記(1)〜(4)のいずれかに記載のヒアルロン酸の製造方法;
(8)乳酸菌が、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシズ ラクティス(Lactococcus lactis subsp. lactis)K3041株(FERM P−21970)である、上記(3)〜(7)のいずれかに記載のヒアルロン酸の製造方法;
(9)上記(1)〜(8)のいずれかに記載の方法により得られるヒアルロン酸;
(10)上記(1)〜(8)のいずれかに記載の方法により得られる、ヒアルロン酸含有飲食品またはヒアルロン酸含有組成物;
(11)果糖を資化してヒアルロン酸を生産する能力を有する、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシズ ラクティス(Lactococcus lactis subsp. lactis)K3041株(FERM P−21970);
(12)以下の(a)または(b)に記載のタンパク質であるヒアルロン酸合成酵素:
(a)配列番号15に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質;または
(b)配列番号15に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつヒアルロン酸合成酵素活性を有するタンパク質;ならびに
(13)以下の(c)〜(e)のいずれかに記載のDNAからなる遺伝子:
(c)配列番号14に記載の塩基配列からなるDNA;
(d)配列番号14に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、ヒアルロン酸合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA;および
(e)配列番号14に記載の塩基配列において、1若しくは数個のDNAが欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつ、ヒアルロン酸合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA;
に関する。
【0017】
本発明はまた:
〔1〕培地が、果糖を炭素源として含有する、上記(1)〜(8)のいずれかに記載のヒアルロン酸の製造方法;
〔2〕培地が、果実、野菜、穀物、いも、豆およびこれらの処理物からなる群から選択される1以上の食品原料を炭素源として含有する、上記(1)〜(8)のいずれかに記載のヒアルロン酸の製造方法;
〔3〕培地が、果糖、ブドウ糖、ショ糖、乳糖、麦芽糖、ガラクトース、マンノースおよびN−アセチルグルコサミンからなる群から選択される1以上の糖を炭素源として含有する、上記(1)〜(8)のいずれかに記載のヒアルロン酸の製造方法;
〔4〕乳酸菌が、ブドウ糖およびショ糖からなる群から選択される1以上の糖を資化してヒアルロン酸を生産する能力を有し、培地が、果糖、ブドウ糖およびショ糖からなる群から選択される1以上の糖を炭素源として含有する、上記(1)〜(8)のいずれかに記載のヒアルロン酸の製造方法;
〔5〕乳酸菌が、ガラクトースおよびマンノースからなる群から選択される1以上の糖を資化してヒアルロン酸を生産する能力を有し、培地が、いも、海藻、豆およびこれらの処理物からなる群から選択される1以上の食品原料を炭素源として含有する、上記(1)〜(8)のいずれかに記載のヒアルロン酸の製造方法;
〔6〕乳酸菌が、N−アセチルグルコサミンを資化してヒアルロン酸を生産する能力を有し、培地が、キノコ、魚介類およびその残渣ならびにこれらの処理物からなる群から選択される1以上の食品原料を炭素源として含有する、上記(1)〜(8)のいずれかに記載のヒアルロン酸の製造方法;
〔7〕培養が、培地のpHの下限値をpH6.5以上に制御して行われる、上記(1)〜(8)のいずれかに記載のヒアルロン酸の製造方法;
〔8〕培地が乳糖を含有する、上記(2)〜(8)のいずれかに記載のヒアルロン酸の製造方法;
〔9〕上記(12)に記載のヒアルロン酸合成酵素をコードする遺伝子;又は
上記(13)に記載の遺伝子
を含有する組換えベクター;
〔10〕上記(14)に記載の組換えベクターを含有する形質転換体;
〔16〕上記(14)に記載の形質転換体を培地で培養し、ヒアルロン酸を含有する培養物を得る工程を含むヒアルロン酸の製造方法; 〔17〕重量平均分子量(Mw)50万〜80万である、上記(9)に記載のヒアルロン酸;ならびに
〔18〕重量平均分子量(Mw)60万〜70万である、上記(9)に記載のヒアルロン酸;
にも関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、食品原料に豊富に含まれる糖を炭素源として含む培地で乳酸菌を培養することによりヒアルロン酸を生産することができる。また、上記の培地でチーズやヨーグルトの製造に利用されているラクトコッカス属に属する乳酸菌を培養して、これまでとは異なる風味のヒアルロン酸含有飲食品およびヒアルロン酸含有組成物を提供することができる。さらに、本発明によれば、ヒアルロン酸合成酵素を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例2において、K1780株およびK3041株のRAPD解析を行った結果を示す電気泳動図である。
【図2】実施例4において、K3041株を様々な温度で培養した場合のヒアルロン酸の生産量を示すグラフである。
【図3】実施例8において、市販のヒアルロン酸の酵素処理物(上)と、K3041株の培養物から得られた結晶の酵素処理物(下)についてHPLC分析を行った結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において、乳酸菌とは、発酵によって糖類から乳酸を産生する菌であれば特に限定されない。本発明で用いられる乳酸菌(以下、「本発明菌」とも称する)は、果糖を資化してヒアルロン酸を生産する能力を有する乳酸菌である限り、特に制限されない。例えば、ラクトコッカス属細菌(例えば、ラクトコッカス ラクティス等)、ストレプトコッカス属細菌(例えば、ストレプトコッカス サーモフィルス等)、ラクトバチルス属細菌(例えば、ラクトバチルス カゼイ、ラクトバチルス アシドフィルス、ラクトバチルス ガッセリ、ラクトバチルス デルブルッキィ サブスピーシズ ブルガリカス、ラクトバチルス デルブルッキィ サブスピーシズ デルブルッキィ等)、ロイコノストック属細菌(例えば、ロイコノストック メセンテロイテス、ロイコノストック ラクティス等)、エンテロコッカス属細菌(例えば、エンテロコッカス フェカーリス、エンテロコッカス フェシウム等)、ビフィドバクテリウム属細菌(例えば、ビフィドバクテリウム ビフィダム、ビフィドバクテリウム アドレッセンティス等)、ペディオコッカス属細菌(例えば、ペディオコッカス ペントサセウス、ペディオコッカス ハロフィルス等)等が挙げられる。
【0021】
本発明の一態様において、本発明菌は、果糖を資化してヒアルロン酸を生産する能力を有するラクトコッカス属に属する乳酸菌である。また、本発明の一態様において、本発明菌として、培地で培養した場合に、培養物にチーズやヨーグルトらしい独特の風味を与える、ラクトコッカス属に属する乳酸菌が好ましく用いられる。ラクトコッカス属に属する乳酸菌としては、例えば、ラクトコッカス ラクティス(Lactococcus lactis)、ラクトコッカス プランタラム(Lactococcus plantarum)、ラクトコッカス ラフィノラクティス(Lactococcus raffinolactis)が挙げられ、ラクトコッカス ラクティスが好ましく用いられる。亜種についても特に制限はなく、例えばラクトコッカス ラクティス サブスピーシズ ラクティス(Lactococcus lactis subsp. lactis)、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシズ クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシズ ラクティス バイオバラエティー ジアセチラクティス(Lactococcus lactis subsp. lactis biovar. diacetylactis)が挙げられる。なかでもラクトコッカス ラクティス サブスピーシズ ラクティスK3041株が好ましく用いられる。なお、このK3041株は、2010年6月1日付で、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに、特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約に基づき寄託され、受託番号FERM P−21970が付与されている。また、この菌株は、果糖、ブドウ糖、ショ糖、乳糖、麦芽糖、ガラクトース、セロビオース、トレハロース、リボース、マンノース、D−グルコサミン、N−アセチル−D−グルコサミン、アミグダリンまたはエスクリンのいずれの糖についても発酵性を有しており、このうち、果糖、ブドウ糖、ショ糖、乳糖、麦芽糖、ガラクトース、マンノースまたはN−アセチルグルコサミンを炭素源とした培地におけるヒアルロン酸の生産能を調べた結果、これらのいずれの糖も炭素源として資化してヒアルロン酸を生産する能力を有することを本発明者らは確認している。
【0022】
菌株の同定は、例えば、当業者に公知の手法を用いて16S rDNAの部分増幅産物の塩基配列解析および相同性検索により行うことができる。また、Randomly Amplified Polymorphic DNA(RAPD)解析(例えば「Journal of Clinical Microbiology」,(米国),2001年,39巻,p.3865−3870参照)を行い、増幅遺伝子断片を比較することによって種の鑑別を行うこともできる。
【0023】
任意の菌株が、果糖を資化してヒアルロン酸を生産する能力を有するか調べる方法を以下に説明する。まず、市販の果糖を添加した、乳酸菌が生育可能な一般的な培地を調製し、適量の培地に対象菌株を適量接種し、各培地について培養した後に、得られる培養物中のヒアルロン酸を測定することにより、調べることができる。
【0024】
例えば、水道水に果糖1%、トリプトン1%、酵母エキス0.5%およびリン酸水素二カリウム0.2%を添加した、pH7.0程度の滅菌培地を、上記の一般的な培地として用いることができる。トリプトンは原料のタンパク質(例えばカゼイン等)を酵素トリプシンで加水分解したものであり、種類は特に限定されず、例えば、市販のトリプトンを用いることができる。酵母エキスの種類は特に限定されず、例えば市販の酵母エキスを用いることができる。培地のpHは、滅菌前に調整しても滅菌後に調整してもよい。例えば、3mL程度の上記の培地に、プレート培地に生育した菌株のコロニーをつまようじ等で採取して接種するか、またはあらかじめ培地で培養した任意の菌株を0.1%(v/v)程度接種し、30℃で1日間培養した後に、得られる培養物中のヒアルロン酸を定量すればよい。
【0025】
培養後、得られる培養物中のヒアルロン酸量の測定方法については特に限定されないが、例えば、サンドイッチ法(ヒアルロン酸結合タンパク質を固相に吸着させ、ついで検体ヒアルロン酸を添加して該タンパク質に結合させ、さらにビオチン等で標識されたヒアルロン酸結合性タンパク質を添加して、検体ヒアルロン酸を固相に吸着した該タンパク質と標識された該タンパク質とで挟み、サンドイッチ状結合体を形成させて、該結合体の標識物質を測定する方法、例えば「Analytical Biochemistry」,(蘭国),2003年,319巻,p.65−72参照)、競合法(固相に結合させたヒアルロン酸、検体ヒアルロン酸、およびビオチン等で標識したヒアルロン酸結合性タンパク質を競合反応させて、固相に結合させたヒアルロン酸と該標識したヒアルロン酸結合性タンパク質の複合体を形成させ、該結合体の標識物質を測定する方法、例えば「Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry」,(日本),1999年,63巻,p.892−895参照)等が挙げられる。競合法を利用したヒアルロン酸測定キットも販売されており、このようなキットを用いて測定することもできる。
【0026】
なお、本発明において、「ヒアルロン酸」とは、N−アセチルグルコサミンおよびD−グルクロン酸の2糖による繰り返し構造からなる直鎖の多糖であればよく、その特性、分子量、分子量分布等は特に制限されないが、一態様において、本発明は、重量平均分子量(Mw)50万〜80万、好ましくは60万〜70万のヒアルロン酸を提供する。このようなヒアルロン酸は、溶解性や吸収性が良好であり、また、水溶液粘度が低いため取り扱い容易であるという利点を有する。また、分子量分布の広がりを示す指標のひとつとして、多分散度があり、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)から、例えば後述の実施例に記載の方法で測定することができる。一態様において、本発明の製造方法で得られるヒアルロン酸は、Mw/Mnで算出される多分散度が、1.0〜3.0であり、好ましくは1.5〜2.5である。
【0027】
一態様において、本発明菌は、果糖、ブドウ糖、ショ糖、乳糖、麦芽糖、ガラクトース、マンノースおよびN−アセチルグルコサミンからなる群から選択される1以上の糖を資化してヒアルロン酸を生産する能力を有する。したがって、さまざまな食品原料を用いてヒアルロン酸を生産することができる。任意の菌が各種糖を資化してヒアルロン酸を生産する能力を有するかは、上記の果糖の場合の方法を参照し、果糖の代わりに各糖を添加した乳酸菌が生育可能な一般的な培地を調製し、適量の培地に対象菌株を適量接種し、各培地について培養した後に、得られる培養物中のヒアルロン酸を測定することにより、調べることができる。
【0028】
一態様において、本発明菌は、好ましくは、以下の(a)または(b)に記載のタンパク質をコードする遺伝子または以下の(c)〜(e)のいずれかに記載のDNAからなる遺伝子(以下、「本発明遺伝子」という)を有する。
(a)配列番号15に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質;または
(b)配列番号15に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつヒアルロン酸合成酵素活性を有するタンパク質;
(c)配列番号14に記載の塩基配列からなるDNA;
(d)配列番号14に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、ヒアルロン酸合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA;および
(e)配列番号14に記載の塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつ、ヒアルロン酸合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【0029】
(a)配列番号15に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質
上記配列番号15に記載のアミノ酸配列は、ラクトコッカス ラクティスに属する乳酸菌(より特定すれば、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス K3041株(FERM P−21970))由来のヒアルロン酸合成酵素のアミノ酸配列である。これまでラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティスに属する特定の乳酸菌(IL1403株)が該配列を有することは知られていたが、ヒアルロン酸合成酵素との関係は全く知られていなかった。なお、後述の比較例5および6にも記載の通り、既知のヒアルロン酸合成酵素(hasA)との相同性(類似性)のみを指標とするだけでは、ヒアルロン酸生産菌を見出すことはできない。また、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシズ ラクティスに属する菌において、ヒアルロン酸合成能の有無の違いは、ヒアルロン酸合成酵素ホモログのアミノ酸配列のわずかな違いに基づく可能性があり、配列の相同性(類似性)からその機能を推定することは難しいと考えられる。
【0030】
(b)配列番号15に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつヒアルロン酸合成酵素活性を有するタンパク質
上記(b)のタンパク質のアミノ酸配列としては、例えば、配列番号15に記載のアミノ酸配列において、ヒアルロン酸合成酵素活性に関与しない一部のアミノ酸を欠失、置換または付加させたアミノ酸配列が挙げられる。性質の似たアミノ酸への置換等であれば、変異後のアミノ酸配列からなるタンパク質の酵素活性に影響しないであろう。また、(b)のタンパク質のアミノ酸配列としては、例えば、配列番号15に記載のアミノ酸配列に各種のアミノ酸残基が付加したアミノ酸配列であって、かつ該アミノ酸配列からなるタンパク質がヒアルロン酸合成活性を有するアミノ酸配列も挙げられる。そのようなアミノ酸配列としては、例えば、配列番号15に記載のアミノ酸配列に、タグを付加した融合タンパク質等が挙げられる。一態様において、上記(b)のタンパク質は、配列番号15に記載のアミノ酸配列と、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の相同性を示すアミノ酸配列からなり、かつヒアルロン酸合成酵素活性を有するタンパク質である。
【0031】
得られるアミノ酸配列からなるタンパク質がヒアルロン酸合成酵素活性を有する限り、上記の欠失、置換または付加等の変異は、適宜組み合わせることも可能である。任意のアミノ酸配列からなるタンパク質がヒアルロン酸合成酵素活性を有するか否かは、当業者に公知の手法により確認することができる。例えば、該アミノ酸配列をコードする塩基配列を含む遺伝子をトランスフェクトして得た形質転換体を培養し、培養物中のヒアルロン酸濃度を分析し、ヒアルロン酸生産量を測定することで確認することができる。
【0032】
上記(a)または(b)のタンパク質をコードする遺伝子は、それぞれのタンパク質のアミノ酸配列に基づいて、容易に得ることができる。(a)のタンパク質をコードする遺伝子としては、特に限定されないが、例えば、配列番号14に記載の塩基配列からなる遺伝子が例示される。
【0033】
(c)配列番号14に記載の塩基配列からなるDNA
上記(c)のDNAは、上記配列番号15に記載のアミノ酸配列ラクトコッカス ラクティスに属する乳酸菌(より特定すれば、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス K3041株(FERM P−21970))由来のヒアルロン酸合成酵素のアミノ酸配列)をコードするDNAである。
【0034】
(d)配列番号14に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、ヒアルロン酸合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA
上記(d)のDNAは、上記(c)のDNAをもとに、当業者に公知の手法を用いて得ることができる。ここで、「ストリンジェントな条件」とは、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法、あるいはサザンブロット・ハイブリダイゼーション法等(Current Protocols in Molecular Biology (WILEY Interscience,1989))を行った際、特異的なハイブリッドのシグナルが非特異的なハイブリッドのシグナルと明確に識別される条件であり、この条件は使用するハイブリダイゼーションの系と、プローブの種類、配列および長さによって異なる。このような条件は、ハイブリダイゼーションの温度を変えること、洗浄の温度および塩濃度を変えることにより決定可能である。このような条件としては、例えば、DIG Easy Hyb試薬(ロシュ・ダイアグノスティクス社製)を用いて37℃〜42℃で一晩ハイブリダイゼーションを行った後、0.5×SSC、0.1% SDSを用い、15分間、2回、45℃以上、好ましくは52℃以上、更に好ましくは57℃以上で洗浄を行う条件が例示される。このようなストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAは、DNAの塩基配列と一定以上の相同性を有するDNAであるため、一態様において、上記(d)のDNAは、配列番号14に記載の塩基配列からなるDNAと、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の相同性を有し、かつ、ヒアルロン酸合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNAである。
【0035】
(e)配列番号14に記載の塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつヒアルロン酸合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA
上記(e)のDNAは、上記(c)のDNAをもとに、当業者に公知の手法を用いて得ることができる。例えば、配列番号14に記載の塩基配列と同一のアミノ酸をコードする塩基配列、上記(b)のタンパク質をコードする塩基配列等が挙げられる。また、ヒアルロン酸合成酵素活性に関与しないアミノ酸に対応する一部の塩基を変異(欠失、置換または付加)させた塩基配列も挙げられる。変異の導入は、天然型のヒアルロン酸合成酵素をコードする遺伝子(例えば上記(c)のDNAからなる遺伝子)をもとに当業者に公知の遺伝子工学的技術や変異処理などを用いて行うことができる。
【0036】
本発明の一態様において、ヒアルロン酸の生産は、上記の本発明菌を、培地に接種して培養することによって行う。ヒアルロン酸の生産に用いる培地の種類や培養条件については、用いる本発明菌が資化可能な炭素源が培地中に含まれ、ヒアルロン酸が生産される条件であれば特に限定されない。培地としては、天然培地、合成培地、半合成培地のいずれを用いてもよく、例えば、トマトジュース、果汁、野菜汁、豆乳、牛乳等の動物乳、肉汁、酵母エキス、スキムミルク、大豆由来タンパク質、乳由来タンパク質、穀物、いも、豆、海藻またはキノコの酵素消化物、コーンスティープリカー、廃糖蜜、糖類、アミノ酸類等の栄養源、各種塩類およびビタミン類を適宜組み合わせて含む培地を用いることができる。本発明の一態様において、培地は、本発明菌の培養後、そのまま飲食品等に使用する場合には、安全性を考慮して、食用可能な成分のみで構成されていることが好ましい。
【0037】
本発明の一態様において、本発明菌の培養によりヒアルロン酸を生産する際、ヒアルロン酸生産量の観点から、培地に酵母エキスを添加することが好ましい。酵母エキスとしては、微生物培養の際に通常用いられるものであれば、その原料酵母の種類や製法は特に限定されない。簡便には、市販の酵母エキスを用いることができる。酵母エキスの培地への添加量は、本発明菌がヒアルロン酸を生産する量であればよいが、培地に対し、例えば0.1〜5%(w/v)、好ましくは0.5〜3%(w/v)、より好ましくは0.8〜2%(w/v)添加することができる。
【0038】
一態様において、本発明菌は、果糖を資化してヒアルロン酸を生産する能力を有するため、培地中に果実、野菜、穀物、いも、豆およびこれらの処理物からなる群から選択される1以上の食品原料が含まれる場合に、これらの食品原料の含有する果糖を資化してヒアルロン酸を生産することができ、従来にはなかったヒアルロン酸含有飲食品またはヒアルロン酸含有組成物を得ることができる。
【0039】
このような食品原料としては、果糖を含有するか、その処理物が果糖を含有するもの(例えばデンプンを含むもの)であれば特に限定されないが、例えば、トマト、リンゴ、ナシ、ブドウ、柑橘類(ミカン、オレンジ等)、スイカ、ビワ、オウトウ、カキ、パイナップル、バナナ、イチゴ、ブルーベリー、米、小麦、大麦、とうもろこし、じゃがいも、さつまいも、さといも、小豆、平豆、緑豆等およびこれらの混合物が挙げられる。また、これらの処理物とは、上記の食品原料から、食品製造で一般的に用いられる工程(絞汁、ろ過、濃縮、加熱殺菌、酵素処理、発酵等)を経て得られる食品原料であり、例えば、ジュース状、ペースト状、乾燥粉末状のものを用いることができる。具体的な一例として、トマトジュースは、本発明においてヒアルロン酸を生産する良好な培地として好ましく用いられる。一態様において、上記の処理物は、好ましくは、上記の食品原料に含まれる多糖(例えばデンプン)に各種糖加水分解酵素や発酵、化学分解処理を行うことで、単糖(特に果糖)の含有量を高めたものである。これらの処理の副生成物として麦芽糖とブドウ糖の含有量が高まることもある。具体的な一例として、デンプンを含む穀物やいもから得られた各種異性化糖を上記の処理物として用いることができる。
【0040】
さらに、一態様において、本発明菌が果糖以外にブドウ糖、ショ糖および麦芽糖からなる群から選択される1以上の糖を資化してヒアルロン酸を生産する能力を有する場合、上記の食品原料の含有するブドウ糖、ショ糖または麦芽糖も資化してヒアルロン酸を生産することができる。また、上記の食品原料以外の、ブドウ糖、ショ糖および麦芽糖からなる群から選択される1以上の糖を含有する食品原料(処理物を含む)を培地に添加してヒアルロン酸を生産してもよい。このようにして、従来にはなかったヒアルロン酸含有飲食品またはヒアルロン酸含有組成物を得ることができる。
【0041】
一態様において、本発明菌が、果糖以外に、ガラクトースおよびマンノースからなる群から選択される1以上の糖を資化してヒアルロン酸を生産する能力を有する場合、培地にガラクトースまたはマンノースを添加して本発明菌を培養することにより、ヒアルロン酸を生産することができる。また、ガラクトース、マンノースおよびこれらの糖を構成糖とする多糖(例えば、ガラクタン、ガラクトマンナン、マンナン等)からなる群から選択される1以上の糖を含有する食品原料(その処理物を含む)を培地に添加して、本発明菌を培養してヒアルロン酸を生産させ、従来にはなかったヒアルロン酸含有飲食品またはヒアルロン酸含有組成物を得ることができる。そのような食品原料として、例えば、ガラクタンを含有するさといも、テングサ、ノリ等、ガラクトマンナンを含有するグァー豆等、マンナンを含有するこんにゃくいも等およびこれらの混合物ならびにこれらの処理物が挙げられる。これらの処理物の代表例は、上記の食品素材を微生物発酵、各種酵素処理、化学処理等することによって得られる、ガラクトースやマンノースを含む処理物である。
【0042】
一態様において、本発明菌が、果糖以外に、N−アセチルグルコサミンを資化してヒアルロン酸を生産する能力を有する場合、培地にN−アセチルグルコサミンを添加して本発明菌を培養することにより、ヒアルロン酸を生産することができる。また、N−アセチルグルコサミンまたはN−アセチルグルコサミンを構成糖とする多糖(例えば、キチン等)を含有する食品原料(その処理物を含む)を培地に添加して、本発明菌を培養してヒアルロン酸を生産させ、従来にはなかったヒアルロン酸含有飲食品またはヒアルロン酸含有組成物を得ることができる。そのような食品原料として、例えば、キノコ(エノキ、シイタケ、シメジ、ナメコ等)、魚介類およびその残渣(カニの甲羅やエビの殻、イカの腱等)等ならびにこれらの混合物ならびにこれらの処理物が挙げられる。これらの処理物の代表例は、上記の食品素材を粉砕処理、微生物発酵、各種酵素処理、化学処理等することによって得られる、N−アセチルグルコサミンを含む処理物である。
【0043】
一態様において、本発明菌は、チーズやヨーグルトの製造に用いられるラクトコッカス属に属する乳酸菌であり、好ましくは乳糖を資化してヒアルロン酸を生産する能力を有する乳酸菌であり、乳糖を含む培地で本発明菌を培養してヒアルロン酸を生産することにより、独特の風味を有するヒアルロン酸含有飲食品またはヒアルロン酸含有組成物を得ることができる。上記培地は、乳糖を含む食品原料を添加した培地でもよい。乳糖を含む食品原料としては、例えば、牛乳、山羊乳等の動物乳、スキムミルクのようなこれらの動物乳の加工品が挙げられる。
【0044】
本発明菌の培養温度は、ヒアルロン酸が生産される限り限定されないが、ヒアルロン酸の生産量の観点から、好ましくは10〜40℃であり、さらに好ましくは20〜30℃である。
【0045】
培養は、嫌気性条件、好気性条件のいずれの条件下で行ってもよいが、ヒアルロン酸生産量の観点から、嫌気性条件下で行うことが好ましい。培養は、静置培養、攪拌培養等、いずれの手法を用いてもよく、目的に応じて適宜培養方法を選択することができるが、嫌気性条件下で行う場合、静置培養が好ましい。
【0046】
培地の初発pHや培養中のpHについてもヒアルロン酸が生産される限り特に限定されないが、ヒアルロン酸生産量の観点から、pH3〜8が好ましく、pH6.5〜7.5程度がより好ましく、pH7.0〜7.5程度が特に好ましく、酸やアルカリを用いてこの範囲に調整することができる。本発明菌の培養中に乳酸が生成することによってpHが低下するため、培養中、アルカリで上記の範囲にpHを制御し続けることがより好ましい。
【0047】
培養時間についても、特に限定されず、培地中のヒアルロン酸含有量の増加が緩やかになった時点で培養を終了することができる。本発明者らは、後述の実施例に示す種々の培養量および培養条件では、いずれも半日〜1日間の培養で培地中のヒアルロン酸含有量の増加が緩やかになることを確認している。培養中に糖などの培地中の成分や培地類を追加して、培養時間を延長することもできる。
【0048】
本発明において、良好なヒアルロン酸の生産量は、本発明菌を上記の例示条件で培養後、得られる培養物中のヒアルロン酸量が、例えば0.5mg/L以上、好ましくは1mg/L以上、より好ましくは5mg/L以上、さらに好ましくは10mg/L以上、特に好ましくは20mg/L以上である。また、pH調整したトマトジュースのみを培地として用いて培養した場合に、得られる培養物中のヒアルロン酸量が、例えば1mg/L以上、好ましくは5mg/L以上、さらに好ましくは10mg/L以上、特に好ましくは15mg/L以上である。さらに、培養中、培地のpHを制御できる場合(例えば実施例5に記載のように、培養中、培地のpHの下限をpH6.5に制御した場合)、得られる培養物中のヒアルロン酸量が、例えば5mg/L以上、好ましくは10mg/L以上、さらに好ましくは20mg/L以上、特に好ましくは40mg/L以上である。
【0049】
また、本発明菌の培養の際には他の菌と共培養してもよい。各種飲食品等の製造において、乳酸菌と他の菌を共培養することが一般に行われている。他の菌としては、本発明菌のヒアルロン酸産生能を損なわない範囲であれば特に限定されず、培地に添加する原料や得ようとする飲食品または組成物に応じて、適切な菌を用いることができ、例えば、本発明菌以外のラクトコッカス属細菌(例えば、ラクトコッカス ラクティス等)やストレプトコッカス属細菌(例えば、ストレプトコッカス サーモフィルス等)、ラクトバチルス属細菌(例えば、ラクトバチルス カゼイ、ラクトバチルス アシドフィルス、ラクトバチルス ガッセリ、ラクトバチルス デルブルッキィ サブスピーシズ ブルガリカス、ラクトバチルス デルブルッキィ サブスピーシズ デルブルッキィ等)、ロイコノストック属細菌(例えば、ロイコノストック メセンテロイテス、ロイコノストック ラクティス等)、エンテロコッカス属細菌(例えば、エンテロコッカス フェカーリス、エンテロコッカス フェシウム等)、ビフィドバクテリウム属(例えば、ビフィドバクテリウム ビフィダムやビフィドバクテリウム アドレッセンティス等)、ペディオコッカス属(例えば、ペディオコッカス ペントサセウス、ペディオコッカス ハロフィルス等)、ケフィア酵母(例えば、クルイベロミセス マルキシアヌスやサッカロミセス ユニスポラス等)等を使用することができる。これらは、1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。また、食品原料に含まれる多糖類を分解する酵素を産生する菌と共培養することもできる。
【0050】
このようにして得られたヒアルロン酸含有培養物は、そのまままたは乾燥処理等を行うことによって、ヨーグルトや飲料、サプリメント等のヒアルロン酸含有飲食品として利用することができ、また化粧品等にヒアルロン酸含有組成物として配合することもできる。
【0051】
例えば、トマトジュースを培地として、本発明菌を所望により他の菌と組み合わせて培養して得られたヒアルロン酸含有培養物は、ヒアルロン酸を含有する発酵トマト飲料とすることができる。また、牛乳を培地として、本発明菌を所望により他の菌と組み合わせて培養して得られたヒアルロン酸含有培養物は、チーズらしい香味の付与されたヒアルロン酸を含有する飲食品とすることができる。
【0052】
あるいは、得られたヒアルロン酸含有培養物を加熱殺菌、各種ろ過処理または遠心分離することによって、菌体や培地由来の不溶性成分を除去してヒアルロン酸の粗精製物を得て、これを飲食品に添加したり化粧品等に配合したりすることもできる。また、エタノール等の溶媒沈殿等、ヒアルロン酸の精製法として一般的に行われる処理によって、純度を高めたヒアルロン酸を得ることもできる。
【0053】
一態様において、本発明は、植物由来原料のみを培地として用いて本発明菌を培養することによってヒアルロン酸含有組成物である培養物を得ることができるため、得られた培養物について、特に精製工程を経ずに、そのまま飲食品や化粧品に利用して、アレルギー(例えば牛乳アレルギー)対応飲食品や、動物由来原料を含まない化粧品を製造することもできる。
【0054】
本発明はまた、上記(a)または(b)に記載のタンパク質であるヒアルロン酸合成酵素および上記(c)〜(e)のいずれかに記載のDNAからなる遺伝子を提供する。これらのヒアルロン酸合成酵素および遺伝子は、ヒアルロン酸の製造に有用である。
【0055】
遺伝子の取得方法としては、通常一般的に用いられている遺伝子のクローニング方法等を用いることができる。例えば、前述した本発明菌から常法、例えば、Current Protocols in Molecular Biology (WILEY Interscience,1989)記載の方法により、染色体DNAを抽出する。ついで、上記(a)または(b)に記載のタンパク質のアミノ酸配列または上記(c)〜(e)のいずれかに記載のDNAに基づき、適当なプローブDNAを合成して、これを用いて染色体DNAを鋳型として、PCRを行うことができる。
【0056】
本発明はまた、上記(a)または(b)に記載のタンパク質であるヒアルロン酸合成酵素をコードする遺伝子あるいは上記(c)〜(e)のいずれかに記載のDNAからなる遺伝子を含有する組換えベクターも提供する。そのような組換えベクターは、例えば、形質転換体において導入遺伝子を発現させるための発現ベクターに、上記の遺伝子を挿入して得ることができる。このような発現ベクターとしては、宿主を形質転換し、得られた形質転換体を培養した場合に、ヒアルロン酸合成酵素を含む培養物が得られるベクターであれば特に限定されず、ファージおよびプラスミドのいずれを用いることもできる。例えば、pBR322、pUC19、pKK223−3、pETベクター等を使用することができる。
【0057】
上記の遺伝子とともに、大腸菌ラクトースオペロンやトリプトファンオペロン等に由来するプロモーター、オペレーターおよびリボゾーム結合部位等の発現領域を含むDNA配列(The Operon,p.227, Cold Spring Harbor Laboratory, 1980を参照)をベクターに挿入することができる。
【0058】
発現ベクターへの遺伝子の挿入は、制限酵素およびDNAリガーゼを用いて常法により行うことができる。得られたベクターに目的の遺伝子が挿入されていることは、例えばDNAシーケンスにより確認することができる。
【0059】
本発明はまた、上記の組換えベクターを含む形質転換体も提供する。上述の組換えベクターを用いて、大腸菌のほか、乳酸菌や枯草菌等の細菌、酵母、糸状菌、放線菌などの微生物や動物細胞などの宿主を適宜形質転換し、それぞれの形質転換体を得ることができる。得られた形質転換体は、ヒアルロン酸の製造に有用である。
【0060】
本明細書中において、形質転換とは、遺伝子を細胞(菌体)に導入し、形質転換体を得ることを意味する。そのような形質転換体には形質導入体も含まれる。形質転換の方法は当業者が一般に行うことができるものであれば特に限定されない。例えば、D.M.Morrisonの方法(Methods in Enzymology,68,p.326−331,1979)、マイクロインジェクション法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法などが例示される。目的の遺伝子がトランスフェクトされた形質転換体の選択には、導入した発現ベクターに存在する選択マーカーを利用すればよい。
【0061】
本発明はまた、上記の形質転換体を培地で培養し、ヒアルロン酸を含有する培養物を得る工程を含むヒアルロン酸の製造方法も提供する。
【0062】
形質転換体の培養は、用いた宿主の生育に適した培養条件を用いて行うことができる。例えば、宿主として大腸菌を用いた場合、培地の種類や組成は大腸菌の生育に適する限り特に限定されないが、LB培地等が好ましく用いられる。培地には、酵素生産誘導基質として、適量のイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)等を適宜添加してもよい。なお、培地の初発pHは、例えば、7〜9に調整するのが適当である。また培養は、例えば、10〜42℃、好ましくは15〜37℃前後で、6〜120時間、通気撹拌深部培養、振とう培養、静置培養等により実施するのが好ましい。上記の手法で形質転換体を培養して得られる培養物は、形質転換体内、培養液中またはその両方にヒアルロン酸を含有することができるが、回収容易性等の観点から、好ましくは、培養液中にヒアルロン酸を含む。培養終了後、該培養物よりヒアルロン酸を回収するには、通常のヒアルロン酸の回収手段を用いることができる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例および比較例(単に「実施例等」という場合がある)により本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明の技術的範囲は、それらの例により何ら限定されるものではない。
【0064】
[実施例1]
〔果糖含有培地においてヒアルロン酸生産能を有する乳酸菌の探索〕
探索には、各種乳製品、漬物、野菜、果物サンプル等から分離した乳酸菌保存株、および微生物保存機関から分与された乳酸菌保存株、合計約1,500株を用いた。各菌をMRS寒天培地またはM17寒天培地で、30℃、1日間、アネロパック・ケンキ(三菱ガス化学社製)を用いた嫌気条件にて静置培養した。試験管に入った果糖含有滅菌培地[水道水に、果糖(D−フルクトース、和光純薬工業社製)1.0%(w/v)、トリプトンN1(オルガノテクニー社製)1.0%(w/v)、酵母エキス(べクトン・ディッキンソン社製)0.5%(w/v)、リン酸水素二カリウム0.2%(w/v)を添加。pH7.0]3mLに寒天培地上に生育した各菌のコロニーをつまようじで接種し、30℃、1日間、アネロパック・ケンキ(三菱ガス化学社製)を用いた嫌気条件にて静置培養した。ヒアルロン酸生産能については、全ての実施例等において、得られた培養液を採取し、ヒアルロン酸測定キット(生化学バイオビジネス社製)を用いてヒアルロン酸含有量を調べることで評価した。その結果、K3041株およびK1780株の2株がヒアルロン酸をそれぞれ6.2mg/L,0.7mg/L生産することがわかった。
【0065】
[実施例2]
〔菌の同定〕
実施例1で見出された2株について、Randomly Amplified Polymorphic DNA(RAPD)解析で分類した。本発明菌から、Genereleaser(Bio Ventures社製)を用いて、染色体DNAを抽出した。これを鋳型とし、プライマーとして、配列3’−GGT GCG GGA A−5’(配列番号4)および3’−AAC GCG CAA C−5’(配列番号5)(GE Healthcare社製)を用いて、Mighty AMP DNA Polymerase(タカラバイオ社製)でPCRを行った。PCRの温度プロファイルは、まず、98℃,2分間処理し、次いで98℃,10秒−47℃,15秒−68℃,2分のサイクルを30回行った後、68℃,7分間処理して、4℃で冷却した。得られたPCR増幅についてアガロースゲル電気泳動を行った(図1)。マーカーとして、Loading Quick DNA Mass Ladder DNA−134(東洋紡社製)を用いた。RAPD解析の結果、実施例1で見出された2つの菌株は異なる菌であると考えられた。
【0066】
実施例1で見出された2株について、さらに、16S rDNA配列に基づく同定を実施した。先に抽出した染色体DNAを鋳型とし、ユニバーサルプライマー配列3’−GGA TCC AGA CTT TGA TYM TGG CTC AG−5’(配列番号6)および3’−TAC GGY TAC CTT GTT ACG ACT T−5’(配列番号7)を用いて、Mighty AMP DNA Polymerase(タカラバイオ社製)でPCRを行った。PCRの温度プロファイルは、まず、98℃,2分間処理し、次いで98℃,10秒−55℃,15秒−68℃,2分のサイクルを30回行った後、68℃,7分間処理して、4℃で冷却した。得られたPCR産物についてQIA quick PCR Purification kit(QIAGEN社製)を用いて精製した。精製したDNAについて、3’−GWA TTA CCG CGG CKG CTG−5’ (配列番号8)および3’−AAA CTY AAA KGA ATT GAC GG−5’ (配列番号9)を用いて16S rDNAの3’側および5’側それぞれ約500塩基の配列を決定した。2株の3’側の配列(配列番号1)および5’側の配列(配列番号2)はいずれも同一であった。得られた16S rDNA塩基配列をもとに、データベース(BLAST)に登録されている配列との比較を行った。その結果、K3041株およびK1780株はともにラクトコッカス ラクティス サブスピーシズ ラクティスと同定された。
【0067】
実施例1においてヒアルロン酸の生産量が高かったK3041株については、さらに16S rDNAの全長を決定し(配列番号3)、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシズ ラクティスのtype strainであるNCDO604Tの配列と比較したところ、1塩基の挿入が見られたが、それ以外は完全に一致した。K3041株を、2010年6月1日付で独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託した(受託番号FERM P−21970)。
【0068】
また、K3041株について、29種類の糖の発酵性をBergey’s manual of systematic bacteriology vol.2の方法に基づいて調べた(表2)。
【表2】

【0069】
実施例1で見出された2株について顕微鏡観察を行ったところ、いずれも双球菌であった。さらにK3041株については、Bergey’s manual of determinative bacteriology 9th editionの方法に基づいて菌の性状を調べた(表3)。ラクトコッカス ラクティスの2亜種との性状を比較した結果、K3041株はサブスピーシズ ラクティスと同じ性状を示し、16S rDNAの配列および生理性状の両面での確認ができた。
【表3】

【0070】
[実施例3]
〔糖の種類によるヒアルロン酸の生産性への影響〕
試験管に入った各種糖含有滅菌培地[トリプトンN1(オルガノテクニー社製)1.0%(w/v)、酵母エキス(べクトン・ディッキンソン社製)1.0%(w/v)、リン酸水素二カリウム0.2%(w/v)、pH7.3に、炭素源として果糖(D−フルクトース、和光純薬工業社製)、ブドウ糖(D−グルコース、和光純薬工業社製)、ショ糖(スクロース、和光純薬工業社製)、乳糖(ラクトース、和光純薬工業社製)、麦芽糖(マルトース、和光純薬工業社製)、D−ガラクトース(和光純薬工業社製)、D−マンノース(和光純薬工業社製)、またはN−アセチル−D−グルコサミン(シグマ社製)をそれぞれ1.0%(w/v)含む培地]3mLずつ入れ、寒天培地上に生育した各菌のコロニーをつまようじで接種した。30℃、1日間、アネロパック・ケンキ(三菱ガス化学社製)を用いた嫌気条件にて静置培養し、ヒアルロン酸生産量を調べた(表4)。
【表4】

【0071】
結果、K3041株はブドウ糖、ショ糖、乳糖、麦芽糖、ガラクトース、マンノース、またはN−アセチルグルコサミンのいずれを炭素源とする培地でもヒアルロン酸を生産したため、幅広い食品原料を用いたヒアルロン酸の製造に利用できると考えられた。
【0072】
また、実施例3では、培地中の酵母エキス量を1.0%(w/v)、培養の初発pHを7.3とした以外は、実施例1と同様の条件で培養を行った。果糖を炭素源とした培地におけるK3041株のヒアルロン酸生産量は、実施例1と比較して4倍以上増加した。
【0073】
[比較例1]
微生物保存機関から分与された乳酸菌保存株ラクトコッカス ラクティス サブスピーシズ ラクティス NBRC100933を実施例3と同様に培養し、培養液中のヒアルロン酸量を調べたが、ヒアルロン酸は検出されなかった。
【0074】
[比較例2]
乳製品から独自に見出した、ショ糖を含有する培地で微量のヒアルロン酸生産能を有するストレプトコッカス サーモフィルス K1296株をM17寒天培地上に生育させて、コロニーをつまようじで採取し、実施例3に記載の培地に接種した。本菌株のヒアルロン酸生産の最適条件である、50min-1にて往復振とう下、好気条件で、37℃にて1日間培養した。培養液中のヒアルロン酸量を調べた結果(表4)、本菌株は乳酸菌が資化する最も一般的な糖である乳糖、ショ糖、ブドウ糖およびガラクトースでしかヒアルロン酸を生産せず、生産量もK3041株よりも低かった。
【0075】
[実施例4]
〔培養最適温度〕
試験管に入った滅菌培地[水道水に、乳糖(ラクトース、和光純薬工業社製)1.0%(w/v)、トリプトンN1(オルガノテクニー社製)1.0%(w/v)、酵母エキス(べクトン・ディッキンソン社製)0.5%(w/v)、リン酸水素二カリウム0.2%(w/v)を添加。pH7.0]3mLにMRS寒天培地に生育させたK3041株のコロニーをつまようじで接種し、図2に示す各温度にて、実施例1と同様に培養し、ヒアルロン酸生産量を調べた(図2)。本菌株によるヒアルロン酸生産には、20〜30℃での培養が好適であることがわかった。
【0076】
[実施例5]
〔K3041株のトマトジュース培地におけるヒアルロン酸の生産〕
無塩トマトジュース(日本デルモンテ社製,pH4.5)を、無菌条件下で滅菌した8N NaOHでpH7.4に調整し、滅菌した試験管に分注した。MRS寒天培地上に生育させたK3041株のコロニーをつまようじで接種してシリコン栓をし、これを30℃で18時間、アネロパック・ケンキ(三菱ガス化学社製)を用いた嫌気条件にて静置培養した。得られた培養液を十分に混合した後に採取し、ヒアルロン酸含有量を調べた。なお、ヒアルロン酸の生産量については、K3041株非接種のブランクのヒアルロン酸含量も同時に測定し、これを差し引くことで求めた。本菌株はトマトジュース培地において、ヒアルロン酸を21.6mg/L生産していることがわかった。
【0077】
[比較例3]
比較例2で用いたストレプトコッカス サーモフィルス K1296株をM17寒天培地上に生育させて、コロニーをつまようじで採取し、実施例5に記載のトマトジュース培地(pH7.4)に接種した。本菌株のヒアルロン酸生産の最適条件である、50min-1にて往復振とう下、好気条件で、37℃にて間培養した。培養液中のヒアルロン酸量を調べた結果、K1296株はトマトジュース培地にて、ヒアルロン酸を0.8mg/Lしか生産していなかった。
【0078】
[実施例6]
〔K3041株のスキムミルク培地におけるヒアルロン酸の生産〕
スキムミルク(べクトン・ディッキンソン社製、糖として主に乳糖を含有)10%(w/v)の培地3mLを試験管に分注して滅菌し、MRS寒天培地上に生育させたK3041株のコロニーをつまようじで接種した。アネロパック・ケンキ(三菱ガス化学社製)を用いて嫌気条件とし、30℃で1日間培養した。得られた各培養液を採取し、ヒアルロン酸含有量を調べた。なお、ヒアルロン酸の生産量については、K3041株非接種のブランクのヒアルロン酸含量も同時に測定し、これを差し引くことで求めた。本菌株はスキムミルク培地にて、ヒアルロン酸を8.3mg/L生産していることがわかった。培養物はチーズらしい香味を呈していた。
【0079】
[比較例4]
比較例2で用いたK1296株をM17寒天培地上に生育させて、コロニーをつまようじで採取し、実施例6に記載の培地に接種した。本菌株のヒアルロン酸生産の最適条件である、50min-1にて往復振とう下、好気条件で、37℃にて1日間培養した。培養液中のヒアルロン酸量を調べた結果、K1296株はスキムミルク培地にて、ヒアルロン酸を2.9mg/L生産しており、K3041株よりも生産量が低かった。本培養物はK3041株の培養物と比較するとチーズらしい香味が弱く感じられた。
【0080】
[実施例7]
〔K3041株のミニジャーによるヒアルロン酸の生産と精製1〕
乳糖(ラクトース、和光純薬工業社製)1.0%(w/v)、トリプトンN1(オルガノテクニー社製)1.0%(w/v)、酵母エキス(べクトン・ディッキンソン社製)1.0%(w/v)、リン酸水素二カリウム0.2%(w/v)の培地(pH7.0)2Lを121℃にて15分間滅菌し、K3041株の前培養液を0.1%接種した。回転数50rpmにて攪拌し、窒素ガスを通気して嫌気条件として、27℃で1日間培養した。pHは1Nの水酸化ナトリウム水溶液で、下限6.5となるように調整しつづけた。得られた各培養液を採取し、ヒアルロン酸含有量を調べた結果、ヒアルロン酸を40mg/L生産していることがわかった。
【0081】
得られた培養液を遠心処理して上清を回収後、デオキシリボヌクレアーゼI(ウシ脾臓由来、和光純薬工業社製)2mgを添加し、撹拌し、室温で2時間処理した。これに終濃度が10%(w/v)となるようにトリクロロ酢酸を添加し、4℃で2時間静置した。これを遠心処理して上清を回収し、上清にエタノールを等量加えて、4℃で一晩静置した。次いで、遠心処理により沈殿を得て、エタノール100mLで再懸濁して遠心処理を行い、沈殿を回収した。これに純水を300mL添加し、撹拌して、沈殿を再溶解した。これにセチルトリメチルアンモニウムブロミド(和光純薬工業社製)2%(w/v)水溶液を300mL、さらに各種アルコール混合液[エタノール90%(v/v)、メタノール5%(v/v)、2−プロパノール5%(v/v)]を600mL添加し、混合して、沈殿を形成させた。次いで、混合液を遠心処理し、沈殿を回収し、沈殿に1M 食塩水200mLを添加し、撹拌して、沈殿を再溶解した。得られた液をろ過して不溶性物質を除去し、ろ液にエタノールを400mL添加して、沈殿を形成させた。これをろ過し、固形分を減圧乾燥して、無色の結晶を350mg得た。
【0082】
得られた結晶について、フーリエ変換赤外分光光度計(FT/IR−6000,日本分光社製)分析を行い、市販のヒアルロン酸サンプルとスペクトルを比較した結果、ヒアルロン酸を含む混合物であることがわかった。
【0083】
得られた結晶および市販のヒアルロン酸サンプル(フードケミファ社製)をそれぞれ1%(w/v)となるように純水で溶解した。別途、200mM酢酸緩衝液(pH5.0)に、ウシ精巣由来ヒアルロニダーゼ(Sigma社製、801unit/mg solid)を5mg/mlとなるように溶解し、これを上記1%(w/v)ヒアルロン酸溶液と等量ずつ混合し、37℃にて1日間インキュベートした。各サンプルを膜ろ過し、市販のオリゴヒアルロン酸(フナコシ社製)とともに、HPLC分析も行った。
【0084】
<分析条件>
カラム:SuperQ−5PW(東ソー社製)
溶離液:水 〜 水−0.5M 塩化ナトリウム 6:4(80分間のグラデーション)
検出:210nm
カラム槽温度:40℃
流量:1mL/min
注入量:0.1mL
分析時間:80min
【0085】
培養物から得られた結晶の酵素処理物、市販のヒアルロン酸の酵素処理物、および市販のオリゴヒアルロン酸において、同じ保持時間でピークが検出された。以上の結果から、培養物から得られた結晶にはヒアルロン酸が含まれていることが確認された。
【0086】
[実施例8]
〔K3041株のミニジャーによるヒアルロン酸の生産と精製2〕
実施例7と同様の手法でK3041株を培養してヒアルロン酸含有培養液を得た。K3041株を培養して得られた培養液を遠心処理して上清を回収後、デオキシリボヌクレアーゼI(ウシ脾臓由来、和光純薬工業社製)およびリボヌクレアーゼ(ウシ膵臓由来、和光純薬工業社製)をそれぞれ2mgずつ添加した以外は実施例7と同様に処理し、無色の結晶を350mg得た。
【0087】
得られた結晶について、フーリエ変換赤外分光光度計(FT/IR−6000,日本分光社製)分析を行った結果、市販のヒアルロン酸サンプル(FCH−200,キッコーマンバイオケミファ社製)とスペクトルが一致し、ヒアルロン酸が得られたことが確認された。以下に分析結果を示す。
IR νmax(cm-1)=1607,1407,1376,1148,1032,945
【0088】
得られた結晶および市販のヒアルロン酸サンプル(キッコーマンバイオケミファ社製)をそれぞれ1%(w/v)となるように純水で溶解した。別途、200mM酢酸緩衝液(pH5.0)に、ウシ精巣由来ヒアルロニダーゼ(Sigma社製、801unit/mg solid)を5mg/mlとなるように溶解し、これを上記1%(w/v)ヒアルロン酸溶液と等量ずつ混合し、37℃にて1日間インキュベートした。各サンプルを膜ろ過し、実施例7と同様の条件で市販のオリゴヒアルロン酸(フナコシ社製)とともに、HPLC分析を行った。
【0089】
培養物から得られた結晶の酵素処理物、市販のヒアルロン酸の酵素処理物において、同じ保持時間でピークが検出された(図3)。以上の結果から、培養物から得られた結晶はヒアルロン酸であることが確認された。
【0090】
[実施例9]
〔K3041株が生産するヒアルロン酸の平均分子量測定〕
実施例8で得られたヒアルロン酸の無色結晶および下記に示す平均分子量の異なる市販のヒアルロン酸標品を、SEC/MALS(サイズ排除クロマトグラフィー/多角度光散乱検出法)により分析した。装置および分析条件を下記に記す。
<装置>
HPLC:GPC−101(ポンプ、デガッサ、オーブン、示差屈折計一体型,昭和電工社製)
カラム:Shodex OHpak SB−806M HQ(昭和電工社製)
MALS
光散乱検出器:DAWN HELEOS 8(Wyatt technology社製)
解析ソフト:ASTRA Ver 5.3.4(Wyatt technology社製)
HA水溶液の屈折率増分dn/dc:0.152
第2ビリアル定数A2:0.000cm3・mol/g
(文献値は0.002cm3・mol/gであるが、高分子域で数万程度の分子量差しか与えないので、今回は無視した。)
【0091】
<分析条件>
カラム槽温度:40℃
溶離液:0.2M 硝酸ナトリウム
流量:0.5mL/min
試料濃度:0.01g/dL
注入量:0.1mL
分析時間:30min
【0092】
<試料>
実施例7で調製したサンプル
標品(キッコーマンバイオケミファ社製)
標品A(極限粘度より換算した平均分子量 2,040,000)
標品B(極限粘度より換算した平均分子量 1,040,000)
標品C(極限粘度より換算した平均分子量 100,000)
【0093】
K3041株が生産するヒアルロン酸の重量平均分子量は重量平均分子量(Mw)で約63万であり、また、分子量分布は、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で算出した多分散度が約2.1であった。
【0094】
[実施例10]
〔K3041株のヒアルロン酸合成酵素のクローニング〕
(1)K3041株 染色体DNAの調製
K3041株をMRS寒天培地に接種し、30℃、1日間、アネロパック・ケンキ(三菱ガス化学社製)を用いた嫌気条件にて静置培養した。培地表面に生育した菌体を集菌し、抽出液(10mM Tris−HCl、pH8.0、100mM EDTA、0.5%SDS)2mlに懸濁させた。RNase(Sigma社製)を1mg添加し、1時間室温で放置した。次いでプロテイナーゼK(Roche社製)を1mg添加し、55 ℃にて4時間処理した。TE飽和フェノール(和光純薬工業社製)0.5mlで2回処理し、上清をクロロホルム0.5mlで処理して上清を回収した。これに等量のイソプロピルアルコールを添加し、遠心処理して沈殿を得た。これを滅菌水に溶かして、染色体DNA溶液を得た。
【0095】
(2)K3041株のヒアルロン酸合成酵素のクローニング
ストレプトコッカス ズーエピデミカス ATCC35246株のヒアルロン酸合成酵素(hasA)のアミノ酸配列(日本DNAデータバンク アクセッションナンバー AF347022)の配列情報を利用して、日本DNAデータバンクの国際塩基配列データベースを用いて、アミノ酸相同性検索(BLAST検索)を行った結果、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシズ ラクティスの中では、IL1403株のタンパク質(Q9CH63、Glycosyltransferase protein(糖転位酵素))のアミノ酸配列と21%同一性、44%類似性であることがわかった。
【0096】
上記2つのタンパク質(hasAおよびQ9CH63)について、相同性が高い領域の部分配列を基に、コドンが縮重している箇所を混合塩基とした、以下の4種のdegenerate PCR用プライマーを作製した。
[センスプライマー1:5’−GTNATHWSNGCNTAYAAYGARGA’(配列番号10、23mer,Aはアデニン、Cはシトシン、Gはグアニン、Tはチミン、Nはアデニン、シトシン、グアニンまたはチミン、Hはアデニン、シトシンまたはチミン、Wはアデニンまたはチミン、Sはシトシンまたはグアニン、Yはチミンまたはシトシン、Rはアデニンまたはグアニンを示す。);
センスプライマー2:5’−GARATHTTYATHGTNGAYGA−3’(配列番号11、20mer);
アンチセンスプライマー1:5’−CCANCKNCKNCKYTGYTTNA−3’(配列番号12、20mer,Kはグアニンまたはチミンを示す。);
アンチセンスプライマー2:5’−CKRTTNCKNACDATNGGNCKNCCNGT−3’(配列番号13、26mer,Dはアデニン、グアニンまたはチミンを示す。)]
【0097】
実施例10中(1)で調製した染色体DNAを鋳型とし、上記4種のプライマーとEx Taq DNA ポリメラーゼ(タカラバイオ社製)を用いてNested PCRを行った。PCR反応は、PCRマスターサイクラーグラジエント(エッペンドルフ社製)にて、熱変性94℃,2分、アニール50℃,30秒、伸長反応72℃,1分の条件下、30サイクル行った結果、0.3kbp程度に相当する遺伝子断片が増幅した。得られた遺伝子断片について、ダイレクトシーケンスで塩基配列を解読した結果、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシズ ラクティス IL1403株のタンパク質(Q9CH63)の塩基配列の一部と完全に一致することが明らかになった。このQ9CH63の塩基配列の上流と下流の塩基情報を利用してPCRを行い、K3041株のヒアルロン酸合成酵素をコードすると推定される遺伝子の全長を取得した(配列番号14)。配列番号14の塩基配列でコードされる推定アミノ酸配列を配列番号15に示す。配列番号15のアミノ酸配列はラクトコッカス ラクティス サブスピーシズ ラクティス IL1403株のタンパク質(Q9CH63)の塩基配列と完全に一致した。
【0098】
[比較例5]
ヒアルロン酸非生産株である、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシズ ラクティス NBRC100933株について、実施例10中(1)に記載の方法で染色体DNAを取得し、実施例10中(2)に記載の方法で同プライマーを用いてNested PCRを行った結果、0.3kbp程度に相当する遺伝子断片が増幅した。得られた遺伝子断片についてダイレクトシーケンスで塩基配列を解読した結果、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシズ ラクティス IL1403株のタンパク質(Q9CH63)の塩基配列の一部と高い相同性(95%類似性)が確認された。ラクトコッカス ラクティス サブスピーシズ ラクティス IL1403株の配列情報を利用して、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシズ ラクティス NBRC100933株のQ9CH63に対応する部分をコードする遺伝子の全長を取得した(配列番号16)。配列番号16の塩基配列でコードされる推定アミノ酸配列は配列番号17に示す。配列番号17のアミノ酸配列は、実施例8で得られたラクトコッカス ラクティス サブスピーシズ ラクティス K3041株由来の配列番号15のアミノ酸配列とは9アミノ酸異なり、さらにC末端側に52アミノ酸が挿入されていることがわかった。配列番号17のアミノ酸配列についてBLAST検索した結果、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシズ クレモリスの細胞内接着タンパク質様タンパク質(intercellular adhesion protein−like protein(3308223AFH))のアミノ酸配列と最も高い相同性を示すことがわかった(81%同一性、87%類似性)。
以上、ヒアルロン酸非生産株であるラクトコッカス ラクティス サブスピーシズ ラクティス属する菌においても、Q9CH63の塩基配列の一部と高い類似性(相同性)を有する遺伝子が存在すること、該遺伝子と類似し、異なる機能を有する遺伝子が確認されたことから、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシズ ラクティスに属する菌において、ヒアルロン酸合成能の有無の違いは、ヒアルロン酸合成酵素ホモログのアミノ酸配列のわずかな違いに基づく可能性が示唆され、配列の類似性からその機能を推定することは難しいと考えられた。
【0099】
[比較例6]
ストレプトコッカス ズーエピデミカス ATCC35246株のヒアルロン酸合成酵素(hasA)のアミノ酸配列について、日本DNAデータバンクの国際塩基配列データベースを用いて、ラクトバチルス属とのアミノ酸相同性検索(BLAST検索)を行った。その結果、K3041株のヒアルロン酸合成酵素と推定されるタンパク質のアミノ酸配列(配列番号15、hasAと21%同一性、44%類似性)よりも高い相同性(類似性)を示すタンパク質(Q88WUO、Glucosyltransferase(糖転位酵素)、hasAと24%同一性、45%類似性)を有する乳酸菌 ラクトバチルス プランタラム NCIMB8826株が見つかった。そこで、ラクトバチルス プランタラム NCIMB8826株を実施例1と同様に炭素源の異なる複数種の培地で培養したが、いずれの培地中でもヒアルロン酸の生産は確認できなかった。ストレプトコッカス ズーエピデミカス ATCC35246株のヒアルロン酸合成酵素(hasA)との相同性(類似性)のみを指標とするだけでは、ヒアルロン酸生産菌を見出すことができないことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明によれば、食品原料に豊富に含まれる糖を炭素源とする培地で乳酸菌を培養することにより、ヒアルロン酸を製造することができる。従って、多様な食品原料を用いてヒアルロン酸を生産することができる。また、本発明の製造方法で得られたヒアルロン酸含有組成物は、食品原料や乳酸菌等を分離せずに、そのまま、飲食・塗布することができる。さらに、本発明によれば、ヒアルロン酸合成能を有する形質転換体、該形質転換体を得るための組換えベクターも提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
果糖を資化してヒアルロン酸を生産する能力を有する乳酸菌を、培地で培養することを特徴とする、ヒアルロン酸の製造方法。
【請求項2】
乳酸菌がラクトコッカス(Lactococcus)属に属する乳酸菌である、請求項1に記載のヒアルロン酸の製造方法。
【請求項3】
乳酸菌がラクトコッカス ラクティス(Lactococcus lactis)に属する乳酸菌である、請求項2に記載のヒアルロン酸の製造方法。
【請求項4】
乳酸菌が、ブドウ糖、ショ糖、乳糖、麦芽糖、ガラクトース、マンノースおよびN−アセチルグルコサミンからなる群から選択される1以上の糖を資化してヒアルロン酸を生産する能力を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のヒアルロン酸の製造方法。
【請求項5】
培地が、果実、野菜、穀物、いも、海藻、豆、キノコおよびこれらの処理物からなる群から選択される1以上の食品原料を炭素源として含有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のヒアルロン酸の製造方法。
【請求項6】
培養が、20〜30℃の温度下、嫌気的条件で行われる、請求項1〜5のいずれか1項に記載のヒアルロン酸の製造方法。
【請求項7】
前記乳酸菌が、以下の(a)または(b)に記載のタンパク質をコードする遺伝子:
(a)配列番号15に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質;または
(b)配列番号15に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつヒアルロン酸合成酵素活性を有するタンパク質;
あるいは、以下の(c)〜(e)のいずれかに記載のDNAからなる遺伝子:
(c)配列番号14に記載の塩基配列からなるDNA;
(d)配列番号14に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、ヒアルロン酸合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA;および
(e)配列番号14に記載の塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつヒアルロン酸合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA;を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のヒアルロン酸の製造方法。
【請求項8】
乳酸菌が、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシズ ラクティス(Lactococcus lactis subsp. lactis)K3041株(FERM P−21970)である、請求項3〜7のいずれか1項に記載のヒアルロン酸の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法により得られるヒアルロン酸。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法により得られる、ヒアルロン酸含有飲食品またはヒアルロン酸含有組成物。
【請求項11】
果糖を資化してヒアルロン酸を生産する能力を有する、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシズ ラクティス(Lactococcus lactis subsp. lactis)K3041株(FERM P−21970)。
【請求項12】
以下の(a)または(b)に記載のタンパク質であるヒアルロン酸合成酵素:
(a)配列番号15に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質;または
(b)配列番号15に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつヒアルロン酸合成酵素活性を有するタンパク質。
【請求項13】
以下の(c)〜(e)のいずれかに記載のDNAからなる遺伝子:
(c)配列番号14に記載の塩基配列からなるDNA;
(d)配列番号14に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、ヒアルロン酸合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA;および
(e)配列番号14に記載の塩基配列において、1若しくは数個のDNAが欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつ、ヒアルロン酸合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−40001(P2012−40001A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129519(P2011−129519)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(000004477)キッコーマン株式会社 (212)
【Fターム(参考)】