説明

ヒトインターフェロンベータ変異体

本発明は、ヒトインターフェロンベータ変異体を開示する。詳細には、本発明は天然型ヒトインターフェロンベータに比べて1本または2本の糖鎖が追加された形態のヒトインターフェロンベータ変異体を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトインターフェロンベータ変異体、より詳細には、天然型ヒトインターフェロンベータに比べて1本または2本の糖鎖が追加された形態のヒトインターフェロンベータ変異体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インターフェロン(IFNs)は、サイトカインの一種で抗ウイルス活性を示し、細胞増殖を抑制して、自然免疫反応を調節する機能を有する。その中でインターフェロンベータ(interferon-beta;IFN−β)は、5個のアルファヘリックスを有する球形タンパク質で、大きさは22kDであり、糖鎖を除去すると18kDになる(Arduini等、Protein Science,1999年,第8巻,1867−1877頁)。
【0003】
インターフェロンベータの臨床適用に関する研究は活発に進行中であり、特に多発性硬化症に対する症状の緩和、軽減または治療剤として脚光を浴びている(Goodkin等,Multiple sclerosis:Treatment options for patients with relapsing−remitting and secondary progressive multiple sclerosis、1999年)。
【0004】
多発性硬化症以外にもインターフェロンベータは、抗ウイルス活性、細胞成長抑制または抗成長活性、リンパ球細胞毒性増大活性、免疫調節活性、標的細胞の分化誘導または抑制活性、大食細胞活性化活性、サイトカイン生成増加活性、細胞毒性T細胞の効果増加活性、ナチュラルキラー細胞増加活性等の多様な免疫学的活性により、癌、自己免疫疾患及びウイルス感染、HIV関連疾病、C型肝炎、リウマチ性関節炎等に治療等の効果があるという報告がある(Pilling等,European Journal of Immunology,1999年,第29巻,1041−1050頁;Young等,Neurology,1998年,第51巻,682−689頁;Cirelli等,Major therapeutic uses of interferons. Clin Immunother,1995年,第3巻,27−87頁)。
【0005】
ヒトインターフェロンベータは糖タンパク質の一種であるが、このようなタンパク質に結合された糖鎖部分はそのタンパク質の活性に重要な役目をする。
【0006】
したがって、糖タンパク質の場合、糖鎖を付加するとその活性が増加する場合があり得る。
【0007】
国際特許公開第96/25498号や米国特許第5,618,698号は、糖タンパク質であるhTPO、hEPOに一つ以上の糖鎖を導入することよって活性が増加したことを開示している。
【0008】
本発明も前述した観点で糖タンパク質であるヒト天然型インターフェロンベータに糖鎖を導入し、その活性や機能が増加または向上したヒトインターフェロンベータ変異体を開示する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、ヒト天然型インターフェロンベータに糖鎖を導入し、その活性や機能が増加または向上したヒトインターフェロンベータ変異体を提供することにある。
【0010】
その他、本発明の他の目的や他の態様等は以下で提示する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、一側面において、ヒトインターフェロンベータ変異体に関するものである。
【0012】
本発明のヒトインターフェロンベータ変異体は、天然型ヒトインターフェロンベータに糖鎖を1本ないし2本追加した形態を取ることで、天然型ヒトインターフェロンベータに比べて向上または増加した抗ウイルス活性、細胞成長抑制活性、免疫調節機能、生体内での半減期を示す(下記の図7〜10参照)。
【0013】
本発明者等は、下記の実施例で確認されるように、配列番号1のアミノ酸配列を有する天然型ヒトインターフェロンベータの27番アミノ酸であるアルギニン(R)をスレオニン(T)またはセリン(S)に置換したり、該天然型ヒトインターフェロンベータのC−末端にグリシン−アスパラギン−イソロイシン−スレオニン−バリン(G−N−I−T−V)配列を追加したポリペプチドを動物細胞で発現製造した場合に、一つまたは二つのN−結合型糖鎖が追加で付加されることによって、天然型ヒトインターフェロンベータに比べて活性または機能が増加または向上したヒトインターフェロンベータ変異体を得ることができた。
【0014】
本発明は、このような実験結果に基づいて提供されるものである。
【0015】
天然型ヒトインターフェロンベータに比べて、その活性または機能が増加または向上した本発明のヒトインターフェロンベータ変異体は、天然型ヒトインターフェロンベータまたは天然型ヒトインターフェロンベータ変異体のアミノ酸配列のC−末端にグリシン−アスパラギン−イソロイシン−スレオニン−バリン配列を含み、その位置にN−結合型糖鎖を含むことを特徴とする。
【0016】
特許請求の範囲および本明細書において、前記「天然型ヒトインターフェロンベータ変異体」は、天然型ヒトインターフェロンベータに由来するアミノ酸配列の全部または一部を有しながらヒトインターフェロンベータ活性を有するすべてのポリペプチドを含む意味である。
【0017】
前記「ヒトインターフェロンベータ活性」とは、あるポリペプチドがヒトインターフェロンベータとして同定されるのに十分な一つ以上の活性と定義される。そのような活性としては、すでに前述したような多発性硬化症に対する軽減、緩和または治療活性、抗ウイルス活性、細胞成長抑制活性、抗成長活性、抗増殖活性、リンパ球細胞毒性増大活性、免疫調節活性、標的細胞の分化誘導または抑制活性、サイトカイン生成増加活性、細胞毒性T細胞効果増加活性、大食細胞効果増加活性、ナチュラルキラー細胞増加活性、癌予防または治療活性、自己免疫疾患予防または治療活性、ウイルス感染予防または治療活性、HIV関連疾病の予防または治療活性、C型肝炎予防または治療活性、リウマチ性関節炎予防または治療活性等を例示することができる。
【0018】
また前記「天然型ヒトインターフェロンベータに由来するアミノ酸配列の全部または一部を有するポリペプチド」とは、天然型ヒトインターフェロンベータのアミノ酸配列である配列番号1のアミノ酸配列全体またはその実質的な部分を含むポリペプチドや、そのようなポリペプチドと実質的に類似のポリペプチドを含む意味である。
【0019】
ここで、前記「配列番号1のアミノ酸配列全体の実質的な部分を含むポリペプチド」とは、配列番号1のアミノ酸配列を有する天然型ヒトインターフェロンベータに比べて活性は低いとしても、依然ヒトインターフェロンベータの活性を保持する配列番号1のアミノ酸配列の一部分を含むポリペプチドと定義され、前記「配列番号1のアミノ酸配列全体またはその実質的な部分と実質的に類似のポリペプチド」とは、配列番号1の天然型ヒトインターフェロンベータに比べて活性は低いとしても、ヒトインターフェロンベータの活性を依然保持しながら一つ以上の置換されたアミノ酸を含む配列番号1のアミノ酸配列全体またはその実質的な部分を含むポリペプチドと定義される。
【0020】
配列番号1で表されるアミノ酸配列全体の実質的な部分を含むポリペプチドは、配列番号1で表されるアミノ酸配列のN−末端部分及び/またはC−末端部分が欠失したポリペプチドであってもよく、配列番号1で表されるアミノ酸配列全体またはその実質的な部分と実質的に類似のポリペプチドとして、一つ以上のアミノ酸が置換されたポリペプチドであって、置換前のアミノ酸が置換されたアミノ酸と化学的に等価のもの、例えば疎水性アミノ酸であるアラニンが他の疎水性のアミノ酸、例えばグリシン、またはさらに疎水性のアミノ酸、例えば、バリン、ロイシンまたはイソロイシンに置換されたものを挙げることができる。
【0021】
もちろん場合によって、N−末端部分、C−末端部分、または置換されたアミノ酸がヒトインターフェロンベータの活性に必須なモチーフに関与することで、N−末端部分及び/またはC−末端部分を欠失したポリペプチドや置換したアミノ酸を含むポリペプチドが、ヒトインターフェロンベータ活性を示さない場合があり得るが、そうであっても、配列番号1に由来する前記のポリペプチドが、前記例示された活性中の一つ以上を有するかどうかを確認することにより、及び/またはその他に本発明の出願時に当該技術分野で公知のヒトインターフェロンベータの同定に関連する方法により、そのような活性を有しないポリペプチドを活性を有するポリペプチドと区分して検出することは、当業者の通常の能力の範囲内に属する。
【0022】
上述した内容を総合して考慮すれば、本発明のヒトインターフェロンベータ変異体は、下記のポリペプチドの一つにおいて、C−末端にグリシン−アスパラギン−イソロイシン−スレオニン−バリン配列を含み、その位置にN−結合型糖鎖を含みながら、ヒトインターフェロンベータ活性を有する変異体と定義することができる。
【0023】
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列全体を含むポリペプチド;
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列の実質的な部分を含むポリペプチド;
(c)前記(a)または(b)のポリペプチドと実質的に類似のポリペプチド
【0024】
ゆえに、本発明のヒトインターフェロンベータ変異体は、C−末端にグリシン−アスパラギン−イソロイシン−スレオニン−バリン配列を含みながら、その位置にN−結合型糖鎖を含むヒトインターフェロンベータ活性を有するすべてのポリペプチドとして理解されなければならない。
【0025】
このように、本発明のヒトインターフェロンベータ変異体は、C−末端にグリシン−アスパラギン−イソロイシン−スレオニン−バリン配列を含みながら、その位置にN−結合型糖鎖を含むヒトインターフェロンベータ活性を有するすべてのポリペプチドとして定義され理解されるが、本発明の好ましいヒトインターフェロンベータ変異体は、配列番号1のアミノ酸配列を含む天然型ヒトインターフェロンベータのC−末端にグリシン−アスパラギン−イソロイシン−スレオニン−バリン配列を含みながらその位置にN−結合型糖鎖を含むポリペプチドである。
【0026】
また、本発明の好ましいヒトインターフェロンベータ変異体は、配列番号1のアミノ酸配列全体またはその実質的な部分を含むポリペプチドと実質的に類似のポリペプチド(前記(c)のポリペプチド)であって、C−末端にグリシン−アスパラギン−イソロイシン−スレオニン−バリンを含むことで、その位置にN−結合型糖鎖を含む以外に、配列番号1の27番アミノ酸であるアルギニンがスレオニンやセリンに置換されて、アスパラギン−グリシン−スレオニン/セリン−ロイシンからなる配列番号1の25〜28番のアミノ酸配列を含むことによって、その位置にN−結合型糖鎖を追加で含むポリペプチドである。
【0027】
前記本発明のヒトインターフェロンベータ変異体の最も好ましい形態は、配列番号1のアミノ酸配列を有する天然型ヒトインターフェロンベータの27番アミノ酸であるアルギニンがスレオニンやセリンに置換されることで、その位置にN−結合型糖鎖を含み、また、C−末端にグリシン−アスパラギン−イソロイシン−スレオニン−バリン配列を含むことで、その位置にN−結合型糖鎖を追加で含むポリペプチドである。
【0028】
本発明の下記の実施例は、天然型ヒトインターフェロンベータに比べて糖鎖が2本付加した形態の変異体の活性または機能が、糖鎖が1本付加した形態の変異体よりさらに向上または増加することを示している(下記の実施例5〜6及び図7〜10参照)。
【0029】
一方、本発明のヒトインターフェロンベータ変異体は、次のように他の方式で定義することも可能である。
具体的には、本発明のヒトインターフェロンベータ変異体は、ヒトインターフェロンベータ活性を有する下記のポリペプチドの一つにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の中でアスパラギン−グリシン−スレオニン/セリン−ロイシンからなる25〜28番のアミノ酸配列を保存することで、その位置にN−結合型糖鎖が付加したポリペプチドと定義することができる。
【0030】
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列全体を含むポリペプチド;
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列の実質的な部分を含むポリペプチド;
(c)前記(a)または(b)のポリペプチドと実質的に類似のポリペプチド
【0031】
特許請求の範囲および本明細書において、前記「アスパラギン−グリシン−スレオニン/セリン−ロイシンからなる25〜28番のアミノ酸配列が保存される」の意味は、アスパラギン−グリシン−スレオニン/セリン−ロイシンからなる25〜28番のアミノ酸配列が、前記(b)または(c)のポリペプチド(すなわち、配列番号2で表されるアミノ酸配列の実質的な部分を含むポリペプチドまたは配列番号2で表されるアミノ酸配列全体またはその実質的な部分と実質的に類似のポリペプチド)に必ず存在するということである。
【0032】
本発明のヒトインターフェロンベータ変異体が前記のように他の方式で定義される場合、本発明の好ましいヒトインターフェロンベータ変異体は、配列番号2で表されるアミノ酸配列全体を含むポリペプチドにおいて、アスパラギン−グリシン−スレオニン/セリン−ロイシンからなる25〜28番のアミノ酸配列位置にN−結合型糖鎖が付加したポリペプチドである。
【0033】
前記配列番号2のアミノ酸配列は、天然型アミノ酸配列を示す配列番号1のアミノ酸配列においてその27位のアミノ酸であるアルギニンがスレオニン/セリンに置換した配列である。
【0034】
一方、前記「配列番号2で表されるアミノ酸配列の実質的な部分を含むポリペプチド」や「配列番号2で表されるアミノ酸配列全体またはその実質的な部分と実質的に類似のポリペプチド」については、すでに定義した意味がそのまま有効である。
【0035】
本発明は、他の側面において、前述のヒトインターフェロンベータ変異体をコードするポリヌクレオチドに関するものである。
【0036】
ここで「前述のヒトインターフェロンベータ変異体」は、前記二つの方式で定義した本発明のヒトインターフェロンベータ変異体、および、その各々の好ましい態様のヒトインターフェロンベータ変異体を全て含む意味である。
【0037】
当業者であれば、その通常の能力を活用して、あるアミノ酸配列が与えられた場合、そのアミノ酸配列に基づいてそのアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを容易に作製することができる。
【0038】
特許請求の範囲および本明細書において、前記「ポリヌクレオチド」は、一本鎖または二本鎖のRNAまたはDNAの重合体を全て含む意味として定義される。
【0039】
一方、活性という側面からみた場合、前記ポリヌクレオチドとしては、配列番号1のアミノ酸配列からなる天然型ヒトインターフェロンベータのC−末端にグリシン−アスパラギン−イソロイシン−スレオニン−バリン配列が付加したヒトインターフェロンベータ変異体をコードするポリヌクレオチド、または、配列番号2からなるヒトインターフェロンベータ変異体をコードするポリヌクレオチドが好ましく、配列番号1のアミノ酸配列からなる天然型ヒトインターフェロンベータのC−末端にグリシン−アスパラギン−イソロイシン−スレオニン−バリン配列が付加する一方、配列番号1のアミノ酸配列の27番アミノ酸であるアルギニンがスレオニンやセリンに置換したヒトインターフェロンベータ変異体をコードするポリヌクレオチドがさらに好ましい。
【0040】
本発明は、また他の側面において、動物細胞で本発明のヒトインターフェロンベータ変異体を発現させることができる、前述のポリヌクレオチドを含む動物細胞発現ベクターに関するものである。
【0041】
本発明のヒトインターフェロンベータ変異体は、天然型ヒトインターフェロンベータ変異体に比べて1本または2本の糖鎖を追加に含む。このような糖鎖の付加が、動物細胞で一般的に起きる現象であることを考慮すると、前記動物細胞発現ベクターは具体的には、
(i)前述のヒトインターフェロンベータ変異体をコードするポリヌクレオチド;
(ii)前記(i)のポリヌクレオチド配列に作動可能に連結された、RNA分子を形成させるプロモーター;
(iii)リーダー配列をコードするポリヌクレオチド;
(iv)複製基点;及び
(v)前記RNA分子の3’−末端のポリアデニル化を惹起させる3’−非翻訳領域
を基本的に含む。
【0042】
前記プロモーターは、転写を活性化できる配列をいい、そのような配列は、当該技術分野において公知であり、同様に翻訳されたタンパク質を糖化が起きる小胞体に移動させるリーダー配列、および前記リーダー配列とmRNAとを安定化させる役目をする前記3’−非翻訳領域も、当該技術分野において公知である。
【0043】
一方、本発明の発現ベクターは、選択的にリポーター(例:ルシフェラーゼ及びβ−グルクロニダーゼ)遺伝子や選択標識遺伝子として抗生剤(例:ネオマイシン、カルベニシリン、カナマイシン、スペクチノマイシン、ハイグロマイシン等)耐性遺伝子等を含むことができ、また選択的にエンハンサーを含むことができる。
【0044】
一方、本発明の動物細胞発現ベクターとして使用し得るものとしては、pSV2−neo(サザンとベルグ、J.Mol.Appl.Genet.,1982年,第1巻,327−341頁参照)、pCAGGS(ニワ等、Gene,1991年,第108巻,193−200頁)、pcDL−SRα296(タケベ等、Mol.Cell Biol.,1988年,第8巻,466−472頁参照)、pAc373(ロッコウ等、Bio/Technology,1988年,第6巻,47−55頁参照)等を例示することができるが、上に例示されたベクターは、必要によって前述のプロモーター、リーダー、複製基点、3’−非翻訳領域、リポーター遺伝子、選択標識遺伝子、エンハンサー等を含むことができる。
【0045】
本発明は、また他の側面において、前記発現ベクターにより形質転換された動物細胞、及びそのような動物細胞を培養してヒトインターフェロンベータ変異体を生産する方法に関するものである。
【0046】
特許請求の範囲および本明細書において、形質転換とは、外来性ポリヌクレオチド(本発明ではヒトインターフェロンベータ変異体をコードするポリヌクレオチドを意味する)が導入されることによる宿主細胞の遺伝子型の変形を意味し、その形質転換に使用された方法とは無関係に、外来性ポリヌクレオチドが宿主細胞内に導入されたことを意味する。宿主細胞内に導入された外来性ポリヌクレオチドは、宿主細胞のゲノム内に統合されて維持されたり、統合されないで維持されることができるが、本発明は両者全てを含む。
【0047】
一方、前記で動物細胞とは、組換えタンパク質の生産に使用し得る哺乳動物細胞および昆虫細胞を含む意味であり、本発明に使用し得る動物細胞としては、COS細胞、CHO細胞、C−127細胞、BHK細胞、ラットHep I細胞、ラットHep II細胞、TCMK細胞、ヒト肺細胞、ヒト肝腫瘍細胞、HepG2細胞、マウス肝細胞、DUKX細胞、293細胞等を挙げることができ、昆虫細胞としては、カイコ培養細胞等を挙げることができる。
【0048】
本発明は、また他の側面において、前述の本発明のヒトインターフェロンベータ変異体を含む薬剤学的組成物に関するものである。
【0049】
本発明の薬剤学的組成物に含まれるヒトインターフェロンベータは、多発性硬化症治療剤として主に使用されてきたが、癌、自己免疫疾患、ウイルス感染、HIV関連疾病、C型肝炎等の治療にも使用することができるという報告があり(Pilling等,European Journal of Immunology,1999年,第29巻,1041−1050頁)、また、その新たな薬理効果が引き続き報告されている。
【0050】
このような理由で、本発明の薬剤学的組成物における薬理効果は、多発性硬化症治療剤としての薬理効果だけではなく、ヒトインターフェロンベータが有するその他のすべての薬理効果を含むものであると理解されなければならない。
【0051】
また、そのような薬理効果は、ヒトインターフェロンベータの薬理効果として現在まで知られた薬理効果だけではなく、今後明らかにされる薬理効果も含む意味として理解されなければならないだろう。
【0052】
本発明の薬剤学的組成物は、本発明によって得られる活性または機能が増加したヒトインターフェロンベータ変異体を含むことに特徴があるので、本発明の薬剤学的組成物が上記薬物の現在まで知られた薬理効果だけではなく、追って明らかにされる薬理効果を含んでも、本発明の範囲が不当に拡大されるものではない。
【0053】
しかし、ヒトインターフェロンベータ変異体が多発性硬化症治療剤として広く使用されて来た点、そして、すでに癌、自己免疫疾患、ウイルス感染、HIV関連疾病、C型肝炎等の治療効果が明らかにされているという点で、前記薬理効果はこのような薬理効果であることが好ましい。
【0054】
一方、本発明の薬剤学的組成物は、経口投与されたり、その他、経皮、皮下、静脈または筋肉を含む多くの経路を通じて投与することができる。
【0055】
また、前記本発明の薬剤学的組成物は、さまざまな剤形に製剤化することができる。製剤化する場合には、通常使用する充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤及び界面活性剤等の希釈剤または賦形剤を使用して製剤化することができる。
【0056】
また、ヒト患者を処置する場合、本発明の薬剤学的組成物の典型的な1日投与量は、一般的に0.01〜5mg/kg体重の範囲であってもよく、1回または数回に分けて投与することができる。しかし、本発明の薬剤学的組成物の実際の投与量は、投与経路、患者の年齢、性別及び体重、及び患者の重症度等の多くの関連因子に照らして決定されるものなので、前記投与量は、いかなる意味においても本発明の範囲を制限するものと理解されてならない。
【0057】
以下、本発明を実施例により説明する。但し、本発明の範囲はこのような実施例に限定されるものではない。
【0058】
実施例1:突然変異により一つ以上のAsn−X−Ser/Thr配列が付加したインターフェロンベータ変異体遺伝子の作製
【0059】
配列番号1のヒトインターフェロンベータ(IFN−β)のアミノ酸配列(図1)中のR27(27位のアミノ酸であるアルギニン)をスレオニン(T)またはセリン(S)に人工的に変異させ、または、IFN−βのC−末端にグリシン−アスパラギン−イソロイシン−スレオニン−バリン(G−N−I−T−V)配列を付加するために、配列番号3の天然型インターフェロンベータ遺伝子を鋳型にして部位特異的変異導入法/DNA合成法を使用した。
【0060】
すなわち、突然変異をさせようとする部位を対象にプライマーセットを製作した。ここで、インターフェロンベータ変異体遺伝子を取得するために使用したオーバーラッピングPCRのためのプライマーセットを下記に示す。
【0061】
i)R27T作製用プライマーセット
R27T−5’:GCAAT TGAAT GGGAC GCTTG AATAC TGCCT C (配列番号4)
R27T−3’:GAGGC AGTAT TCAAG CGTCC CATTC AATTG C (配列番号5)
ii)R27S作製用プライマーセット
R27S−5’:GCAAT TGAAT GGGAG TCTTG AATAC TGCCT C (配列番号6)
R27S−3’:GAGGC AGTAT TCAAG ACTCC CATTC AATTG C (配列番号7)
iii)GNITV作製用プライマーセット
GNITV−5’:CTTAC AGGTT ACCTC CGAAA CGGTA ATATC ACTGT CTGAA GATCTCCTAGCCTGTCC (配列番号8)
GNITV−3’:GAATG TCCAA TGGAG GCTTT GCCAT TATAG TGACA GACTT CTAGAGGATCGGACAGG (配列番号9)
【0062】
(前記でR27TおよびR27Sは、各々インターフェロンベータ遺伝子を変異させて27位のアルギニンがスレオニンまたはセリンに置換したタンパク質をコードする遺伝子をいい、GNITVはインターフェロンベータ遺伝子を変異させてC−末端にグリシン−アスパラギン−イソロイシン−スレオニン−バリン(G−N−I−T−V)が付加したタンパク質をコードする遺伝子をいう。以下同様)
【0063】
図2に示したように、インターフェロンベータ遺伝子を含むプラスミドpGEM−T Easyベクター(Promega、米国)を鋳型に使用し、2個のオーバーラッピングプライマーセットとPfu−turbo DNA重合酵素とを使用してPCRを遂行した。PCR用反応液は、5μlの10×反応緩衝溶液に5〜50ngの鋳型遺伝子、125ngのプライマー対、および1μlのdNTP mixを添加して最終的に超純水で50μlになるように容積を合わせ、1μlのPfu Turbo DNA重合酵素(2.5U/μl)を添加して調製した。95℃で30秒間反応させて鋳型遺伝子を変性させた後、95℃で30秒、55℃で60秒、68℃で480秒のサイクルを12回反復した。PCRで合成した反応物を1μlのDpnI(10U/μl)により37℃で4時間処理し、メチル化された鋳型遺伝子を除去した。氷上で溶かしたXL1−blue大腸菌細胞に1μlのDpnI処理された反応液を添加した後、42℃で45秒間熱を加え、氷冷した。大腸菌細胞に500μlの培養培地を添加して37℃で1時間培養した後、遠心分離により細胞を回収した。回収した細胞をLB寒天培地に塗抹して37℃で16時間以上、コロニーが形成されるまで培養した。コロニーのプラスミドDNAを分離した後、インターフェロンベータ変異体遺伝子は、DNAシーケンサーにより配列を確認した。その結果、部位特異的変異導入により27位のアミノ酸が、スレオニン(R27T)、またはセリン(R27S)をコードするコドンに変わった。また、天然ヒトインターフェロンベータC末端にグリシン−アスパラギン−イソロイシン−スレオニン−バリンからなるアミノ酸配列(GNITV)をコードするコドンを添加した。これを含むプラスミドを、pGEMT−IFN−β−R27T、pGEMT−IFN−β−R27S、pGEMT−IFN−β−GNITVと名付けた。
【0064】
pGEMT−IFN−β−R27TとpGEMT−IFN−β−R27Sを鋳型にして、前記GNITV用オーバーラッピングプライマーセット(iii)とPfu−turbo DNA重合酵素とを使用して同一条件でPCRを遂行した後、前記のようにクローニングした。その結果、27番アミノ酸の位置にスレオニンまたはセリンがコードされ、インターフェロンベータC末端にグリシン−アスパラギン−イソロイシン−スレオニン−バリンからなるアミノ酸配列をコードするコドンが付加された遺伝子を得た。これを含むプラスミドを、pGEMT−IFN−β−R27T+GNITV、pGEMT−IFN−β−R27S+GNITVと名付けた。
【0065】
下記の<表1>は、本発明において作製したインターフェロンベータ変異体遺伝子5種をクローニングしたプラスミドを示したものである。
【0066】
【表1】

【0067】
実施例2:発現ベクターの作製及びCOS細胞へのトランスフェクション及び細胞培養
実施例1で作製したインターフェロンベータ変異体の遺伝子を含むプラスミドを鋳型に使用して、プライマーP1(CCGGAATTCGCCACCATGACCAACAAGTGTCTCCTCCAAA、配列番号10)とP2(CCGCTCGAGGTCACTTAAACAGCATCTGCTGGTTGA、配列番号11)とを使用してPCRを遂行し、人工的に置換されたインターフェロンベータをコードする遺伝子を得た(図3)。ここで、DNA重合酵素(Stratagene)を使用し、この遺伝子末端は、制限酵素EcoRIおよびXhoI部位を有する。pCDNA3.1(Invitrogen社)と上で増幅したIFN−β遺伝子とを制限酵素EcoRIとXhoIとで各々処理した。アガロースゲルで線形化したpcDNA3.1とIFN−β変異体遺伝子をQiagen溶出キットを使用して回収した後、ライゲーション反応を経て大腸菌DH5αに形質転換した。LB−アンピシリン固形培地で一晩培養した後、現れたコロニーからプラスミドを分離し、制限酵素EcoRIとXhoIとで処理して、1%アガロースゲル電気泳動でIFN−β遺伝子が挿入されたコロニーのみを選択した。選択されたコロニーのプラスミドDNAのIFN−β遺伝子の塩基配列を確認した。このプラスミドをpCDNA3.1−IFN−β−X(ここでXは、インターフェロンベータ変異体の番号)と名付けた。
【0068】
作製した組換え発現ベクターのうち、天然型インターフェロンベータ、インターフェロンベータ変異体R27T、R27S、R27T+GNITV、R27S+GNITVに該当する発現ベクターを各々COS細胞(ATCC No.CRL−1650)にトランスフェクトした。すなわち、前培養したCOS細胞を2×10細胞/ml濃度で60mm組職培養プレートに接種した後、24時間培養した。前述の各々の組換え発現ベクターDNA2μgおよび7μlのリポフェクチン(Lipofectin(登録商標)、Gibco BRL)試薬を、血清を含まないDMEM培地100μlに各々添加して常温で15分間反応させた後、2溶液を互いに混合して再び常温で15分間反応させてリポフェクチン−DNA複合体を形成した。前記リポフェクチン−DNA複合体に血清を含まないDMEMを添加した後、それをCOS細胞上にそっと載せて37℃、5%CO培養器で6時間培養してトランスフェクトした。各々の発現ベクターをトランスフェクトしたCOS細胞は、10%ウシ胎児血清(fetal bovine serum、JRH)、50μg/mlペニシリン、50μg/mlストレプトマイシンを含有するDMEM培地を使用して、37℃、5%CO条件下で48時間培養した。培養しながら3日から5日間、馴化培養液を収集した。
【0069】
実施例3:インターフェロンベータ変異体の特性確認
実施例3−1:糖鎖追加の確認
実施例2に記載のトランスフェクトCOS細胞から1〜2μgの組換えヒトインターフェロンベータ及びインターフェロンベータ変異体を含む培養上清を、室温でウサギ抗インターフェロンベータポリクローナル抗体で一晩免疫沈降した。前記抗体を含む培養上清に、PBSで1:1に懸濁したプロティンAセファロース樹脂を20〜80μl添加して常温で1時間反応させた。試料を遠心分離して、沈殿物をPBSで洗浄した。沈殿物の一部を酵素N−グリカナーゼで処理してN−結合型糖鎖を切断した。N−グリカナーゼで処理した沈殿物と処理していない沈殿物を15%SDS−ポリアクリルアミドゲルにて電気泳動し、ニトロセルロースメンブレンに移して、ルンケル(Runkel)等が発表した方法(Runkel等、Pharmaceutical Research、1998年、第15巻、641−649頁)によってマウス抗インターフェロンベータモノクローナル抗体を使用したウエスタンブロット法で分析した。
【0070】
インターフェロンベータ変異体と形質転換したCOS細胞の培養上清を分析した結果、天然型インターフェロンベータに比べてタンパク質分子量の増加が確認された(図5)。このようなタンパク質分子量が増加したインターフェロンベータ変異体をNグリカナーゼで処理したところ、糖鎖が除去されて分子量が減少した(図5)。
【0071】
実施例3−2:インターフェロンベータ変異体の活性比較
天然型インターフェロンベータとインターフェロンベータ変異体の活性を比べるために、EIAによりインターフェロンタンパク質の量を定量した。抗ウイルス活性試験法により天然型インターフェロンベータ及びインターフェロンベータ変異体の力価を測定した。
【0072】
EIAは、PBL社のキットを使用して製造者の指示に従って実施した。すなわち、酵素免疫測定キット中の抗体吸着プレートの指定された各ウェルに希釈液を各々100μlずつ加えて、希釈液に適切に希釈した国際標準液及び検液を100μl加えてよく混ぜた後、室温で1時間反応させた。ここで、国際標準液は、ヒトIFN−β国際標準(英国NIBSC社)アンプル1本を再構成バッファー1mlに溶解した後、バイアル当り100μlずつ分注して−70℃に保管し、使用する際に−70℃からバイアルを取り出して解凍した後、希釈液に希釈して使用した。各ウェルの残余反応液を除去して洗浄溶液で250μlずつ3回洗浄した後、各ウェルに100μlずつの酵素抗体接合体液を加えて再び室温で1時間反応させた。反応後、反応液を除去して洗浄溶液で200μlずつ3回洗浄した後、残余液を全て除去して調製した基質−発色溶液100μlずつを加えた後、室温で30分間反応させた。反応が終わった後、各ウェルに反応停止液100μlずつを加え、反応を停止させてよく混ぜた後、450nmで吸光度を測定した。標準液の濃度を横軸、吸光度(A450nm)を縦軸にして標準曲線から国際標準液と検液各々の吸光度によるヒトIFN−β濃度数値を求めて、そこに各々の希釈比を掛けて得た3種の希釈液濃度数値の平均値を計算して、国際標準サンプルと検液の測定値を求めた後、最終濃度を計算した。抗ウイルス活性試験法は、実施例6に記述したのと同じ方法で実施した。COS細胞で一過性に発現させた種々のインターフェロンベータ変異体の培養液でのEIAと抗ウイルス力価測定比を<表2>に示した。このような結果によって、糖鎖が付加して分子量増加が確認され、天然型インターフェロンベータに比べて活性が同一または増加したインターフェロンベータ変異体であることが分かった。このようなインターフェロンベータ変異体を大量生産するために、前述のインターフェロンベータ変異体発現ベクターをCHO細胞株にトランスフェクトした。
【0073】
【表2】

【0074】
++ 分子量が26kDaで1本の糖鎖が付加している。
++++ 分子量が30kDaで2本の糖鎖が付加している。
【0075】
実施例4:トランスフェクション及び細胞培養(CHO細胞)
60mm細胞培養容器でCHO細胞(DG44)を増殖させ、40〜80%コンフルエント程度に(1〜4×10細胞/60mmディッシュ)培養した。ギブコ(Gibco)社のリポフェクチン(Lipofectin)試薬3μlと細胞培地(α−MEM、無血清、無抗生剤)97μlとをよく混合して、プラスミドpcDNA3.1−IFN−β−X DNA(0.1μg/μl以上、約2μg)とpSP72−DHFR(0.2μg)を添加して室温で30分間反応させた後、用意した前記細胞に加えた(図4)。1日経過後、G418を500μg/mlになるように添加した培地(α−MEM、10% FBS)に交換した。約7〜10日間デオキシリボヌクレオシド及びリボヌクレオシドが欠乏したα−MEM最小培地に入れ替えて培養することで、トランスフェクトされた細胞を選択した。以後、CHO DHFR+トランスフェクト細胞を2次選択した。2次選択されたCHO DHFR+トランスフェクト細胞を限界希釈法で96ウェルプレートにクローニングして選択培地で継続培養した後、MTX(メトトレキサート、米国Sigma社)濃度を20nMから1000nMまで2倍ずつ漸次増加させて、10%血清含有最小培地で培養しながら、MTX選択培地で成長するMTX抵抗性クローンを3次選択した。
【0076】
1μMで1ヶ月以上培養して良好に増殖する細胞株について単細胞分離をした。まず、96ウェルマルチプレートに各ウェル当り1個の単一細胞を入れて培養した後、その中で単一細胞のみが入ったものを選択した。以後、EIA定量分析により発現量が優秀な候補群を選択した。このように選択した候補群を、24ウェルプレート、そして6ウェルプレートに順次に移して培養した。このように培養した候補群をEIA定量分析を使用して再び選択して、最終インターフェロンベータ高発現細胞株を確立した。前記で作製した組換えCHO細胞株のインターフェロンベータ生成量を測定した結果、天然型インターフェロンベータ細胞株は1.8μg/ml/24時間である一方、インターフェロンベータ変異体を産生するCHO−R27T細胞株は6.5μg/ml/24時間、CHO−R27T−GNITV細胞株は7.0μg/ml/24時間でIFN−βを生産することを確認した。これは、天然型の細胞株より3倍以上高い。
【0077】
実施例5:CHO細胞株により産生された一つ以上の糖鎖が付加したインターフェロンベータの精製
実施例4に記載の突然変異配列を一つまたは二つ以上含む細胞株を、セルファクトリー(cell factory;Nunc社、Cat No.170069)を使用して培養した。10%FBS含有α−MEM培地で各発現細胞株を5×10細胞/mlに希釈し、セルファクトリーに継代して、5%CO、37℃で72時間培養し、細胞増殖を確認した。PBSで3回洗浄して血清成分を最大限除去し、無血清培地(Sigma C8730)に置換した。無血清培地に置換した後、24時間ごとに培養液を回収して、新しい無血清培地を添加した。計4回にわたり培養液を回収して精製した。ブルーセファロース樹脂(Amersham−Pharmacia)200mlをXK50/20カラム(Amersham−Pharmacia)に充填後、緩衝液A(20mMリン酸ナトリウム、1M NaCl、pH7.4)を10C.V.(column volume)流し、平衡状態に達するようにした。平衡状態のカラムに除菌ろ過した培養液を20ml/分の流速で流し、UV検出器で波長280nmにてモニターした。緩衝液B(20mMリン酸ナトリウム、1M NaCl、30%エチレングリコール、pH7.4)をカラムに流して未吸着成分を洗浄し、緩衝液C(20mMリン酸ナトリウム、1M NaCl、60%エチレングリコール、pH7.4)で樹脂に付着したタンパク質を溶出した。溶出液をPBSに対して透析し、濃縮器(Centricon、Cut off 10,000)で濃縮して、再度PBSに対して透析した。
【0078】
実施例6:CHO細胞株が産生した一つ以上の糖鎖が付加したインターフェロンベータの理化学的性質の分析
実施例6−1:SDS−PAGE及びウエスタンブロット
実施例5で精製した試料に5×サンプル緩衝溶液(125mM Tris−HCl、5%SDS、50%グリコール、0.1%β−メルカプトエタノール、1mg/mlブロモフェノールブルー)を1:4の割合で混合して、95℃で5分間前処理した後、分子量標準品とともに15%ポリアクリルアミドゲルのウェルに20μlずつローディングして展開した。電気泳動が終わった後、クマシーブリリアント染色液で染色した後、脱色液で脱色した結果、天然型インターフェロンベータは糖鎖がないタンパク質である約18.0kDaのバンドと糖鎖があるタンパク質である約22.0kDaのバンドを示して、1本の糖鎖が付加したIFN−βは約26.0kDaのバンドが加えられ、2本の糖鎖が付加したIFN−βは約30.0kDaのバンドが加えらたことが確認された(図6)。
【0079】
実施例6−2:糖鎖末端のシアル酸付加の確認試験
精製したタンパク質は、全てPBL社が提供するヒトIFN−βELISAキット(Human IFN−β ELISA kit)を使用してインターフェロンベータの含量を測定した。そして、イトウ・マサキ(Masaki Ito等.Anal.Biochem.2002年、第300巻、260頁)の方法の変法により、各タンパク質のシアル酸含量を測定した。シアル酸は、80℃で1時間、0.1N塩酸で反応させて糖タンパク質から分離し、その中の一部をタカラ社が供給するシアル酸蛍光標識キットを使用してシアル酸に蛍光物質を標識して、HPLCで含量分析した。その結果を、天然型インターフェロンベータとインターフェロンベータ変異体対シアル酸の重量の%比で<表3>に示した。
【0080】
【表3】

【0081】
実施例7:CHO細胞が発現するインターフェロンベータ変異体の生物学的活性
実施例7−1:R27T、R27S及びGNITVインターフェロンベータ変異体の抗ウイルス活性
R27T、R27T+GNITV、GNITV、および糖鎖が除去されたインターフェロンベータ(IFNβ−1b)の抗ウイルス活性を、天然型インターフェロンベータ(IFNβ−1a)を基準に、相対的に比較した。天然型インターフェロンベータには、セロノ(Serono)のRebifを使用した。
【0082】
A549細胞を、10%FBS、MEM非必須アミノ酸100×溶液、および100mMピルビン酸ナトリウムが添加されたMEM培地で培養した。分析当日、細胞を前記の新鮮な培地に入れ、細胞密度を3×10細胞/mlに調整した。試験区及び対照区インターフェロンベータを、前記培地に希釈した。希釈は、96ウェルマルチプレート内で、各ウェルが100μl/ウェルを含むようにして2倍段階希釈した。すべてのサンプルは、2個ずつ用意した。100μlの培地のみ(インターフェロンベータ無し)を含む対照区ウェルも含めた。100μlの細胞を各ウェルに添加した後、プレートを37℃、5%COで20時間インキュベートした。プレートから培地を除去し、前記培地に希釈したEMCV(1000TCID50/ml)100μlを各ウェルに添加した。プレートを37℃、5%COで22時間インキュベートした後、培地を除去してクリスタルバイオレットで染色した。染色液を除去した後、2−メトキシエタノール100μlを添加して染色液を抽出し、450nmで吸光度を測定して抗ウイルス活性を決定した。
【0083】
糖鎖が除去されたインターフェロンベータ(IFNβ−1b)は、同一条件で低い活性を示し、それに比べてR27T及びR27T+GNITV、GNITVは、天然型インターフェロンベータ(IFNβ−1a;Rebif)と比べて高い活性を示した。糖鎖が2本追加されたR27T+GNITVは、天然型に比べて4倍程度高い活性を示し、糖鎖が1本追加されたR27Tは3倍程度高い活性を示した(図7)。
【0084】
実施例7−2:細胞増殖の抑制
細胞増殖に対するインターフェロンベータ変異体の効果を調査した。抗ウイルス活性と同様に天然型インターフェロンベータ(IFNβ−1a)を基準に相対比較し、天然型インターフェロンベータとしてセロノ(Serono)のRebifを使用した。抗増殖活性は、Daudi細胞を使用して調査した。
【0085】
Daudi細胞を100U/mlペニシリン、100mg/mlストレプトマイシン、2mMグルタミン、および10%FBSを添加したRPMI 1640培地で培養した。試験区及び対照区インターフェロンベータを、10%FBSを含むRPMI 1640培地で、96ウェルマルチプレート内にて、各ウェルが100μl/ウェルを含むように2倍段階希釈した。すべてのサンプルは、2個ずつ用意した。細胞を96ウェルマルチプレートに1×10細胞/ウェルの濃度で添加して、37℃、5%COで40〜48時間インキュベートした。続けて、[H]チミジン1μCiを含む培地50μlをウェルに添加して、6時間インキュベートした後、細胞を回収して取り込んだ放射線活性の量を測定した。
【0086】
インターフェロンベータ変異体は、Daudi細胞の増殖を抑制し、活性は投与量依存的だった。糖鎖が除去されたインターフェロンベータ(IFNβ−1b)は、低い抗増殖活性を示し、R27T、R27T+GNITV、およびGNITVは、天然型インターフェロンベータ(IFNβ−1a)より高い活性を示した。変異したインターフェロンベータの活性は、R27T+GNITV、R27T、GNITVの順であった(図8)。
【0087】
実施例7−3:免疫調節機能
天然型インターフェロンベータ及び変異体の免疫調節機能は、A549細胞でMHCクラスIの活性化を通じて測定した。
【0088】
A549細胞は、10%FBSと2mMグルタミンとを含むDMEM培地で培養した。細胞を、2倍段階希釈した天然型インターフェロンベータ、変異体、または糖鎖がないインターフェロンベータ(IFNβ−1b)が添加された培地に1×10細胞/mlの密度で接種して、48時間37℃、5%COでインキュベートした。5mM EDTAが添加されたハンクス緩衝塩(Hank’s buffered salt)溶液で細胞を処理した後、遠心分離で回収した。細胞ペレットをFACSバッファーに2×10細胞/mlの密度で懸濁した後、FACS分析でMHCクラスIの発現量を測定した。ビオチンとカップリングした抗HLA ABC抗体と、フルオレセインとカップリングしたストレプトアビジンとを測定に使用し、すべてのサンプルは2個ずつ用意した。
【0089】
インターフェロンベータ変異体の免疫増強効果は、天然型インターフェロンベータ(IFNβ−1a)と同等か、または若干高かった。上記の他の二つの活性と同様に、インターフェロンベータ変異体の効果は、GNITV、R27T、R27T+GNITVの順に高くなった。糖鎖が付加していないインターフェロンベータ(IFNβ−1b)は、その濃度に比べて低い免疫調節効果を示した(図9)。
【0090】
実施例7−4:薬物速度論定数の検討
in vivo活性試験は、CHO細胞で発現させたインターフェロンベータ変異体を投与したラットの血中インターフェロンベータ変異体の経時的濃度変化を測定する方法で実施した。in vivo活性試験に使用した実験動物はHsd:スプラグ−ドーレイ(Sprague−Dawley)ラットのメスで、体重分布は246.3〜258.1gであり、恒温(24±1℃)、恒湿(55%)、照明時間12時間に設定された動物室で1週間程度馴化させた後使用した。試験期間中、動物は、同一飼育室で飼育した。
【0091】
1群が4匹になるように体重を指標にした層別無作為抽出によってラットを4群に分け、各々天然型インターフェロンベータ投与群、各変異体投与群及び薬剤を投与しない無処理群に設定した。実験2日前に頚静脈にカテーテルを手術により挿入した。カテーテル挿入ラットの平均体重は、253.5gだった。
【0092】
天然型インターフェロンベータ及び各インターフェロンベータ変異体を、ラットの尾静脈に検体として注射した。注射後、1、5、15、30分、1時間15分、3時間、5時間、8時間の時点で、頚静脈カテーテルを採血前に食塩水で洗浄してから0.3ml採血した。採血後、カテーテルにはヘパリン食塩水(50IU/ml)を充填し、管の閉塞を防止した。採血した血液は、直ちに抗凝固剤クエン酸ナトリウム4%溶液で処理して凝固を防ぎ、遠心分離した後、血球を除いた血漿を回収し、−70℃に凍結した。実験動物の血中インターフェロンベータの量は、抗ウイルス試験法で測定した。図10には、天然型インターフェロンベータ及び変異体のラットの時間別血中残留濃度を示した。そして、このような残留濃度を根拠に薬物速度論定数を求めた。
【0093】
その結果は、<表4>に示したとおりである。糖鎖が2本追加されたR27T+GNITV、R27S+GNITVインターフェロンベータ変異体は、天然型インターフェロンベータに比べて3倍の半減期延長効果があった。その次に糖鎖が1本追加されたインターフェロンベータ変異体R27T、R27S、GNITVの場合、天然型インターフェロンベータに比べて2倍の半減期延長効果があった。
【0094】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0095】
上述したように、本発明によればヒト天然型インターフェロンベータに比べてその活性や機能が増加または向上したヒトインターフェロンベータ変異体を提供することができる。
【0096】
本発明のヒトインターフェロンベータ変異体は、天然型ヒトインターフェロンベータより1本ないし2本の糖鎖を追加的に含むことで、天然型ヒトインターフェロンベータに比べて向上または増加した抗ウイルス活性、細胞増殖抑制活性、免疫調節機能、生体内半減期を有する。これは、ヒトインターフェロンベータの投与用量及び投与回数を低減することができることを意味する。
【0097】
一方、本発明によれば、前記ヒトインターフェロンベータ変異体をコードする遺伝子とそのような遺伝子を含む動物細胞発現ベクター、そのような発現ベクターで形質転換された動物細胞、そのような動物細胞を培養してヒトインターフェロンベータ変異体を製造する方法、及びヒトインターフェロン変異体を含む薬剤学的組成物を同時に提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】インターフェロンベータの遺伝子及びタンパク質の配列を示した図である。人工的に置換されるアミノ酸配列を四角で表示した。
【図2】ヒトインターフェロンベータの遺伝子の特定の部位を部位特異的変異導入により人工的に変異させる過程を示した模式図である。第1段階は、作製したプライマー対が遺伝子配列の特定の部位に結合して、DNAポリメラーゼによって遺伝子が置換された遺伝子に新しく合成される段階をいう。第2段階では、合成されたインターフェロンベータ遺伝子を含むPCR反応液中のメチル化されたインターフェロンベータ鋳型遺伝子を制限酵素Dpn Iで処理して除去した後、大腸菌に形質転換する段階を示す。
【図3】インターフェロンベータ変異体を発現させるための発現ベクターpcDNA3.1−IFN−βの構築過程を示した模式図である。
【図4】インターフェロンベータを発現させるための発現ベクターpcDNA3.1−IFN−βとpsp72−DHFRとを動物細胞に導入するためにコトランスフェクトする過程を示した模式図である。
【図5】COS細胞を使用して発現させたインターフェロンベータ変異体を電気泳動してウエスタンブロットで確認した結果、および、同変異体をNグリカナーゼで切断して、それを電気泳動してウエスタンブロットで確認した結果を示した図である。1次抗体は、ヒトインターフェロンベータに対するモノクローナル抗体を使用し、2次抗体はHRP標識ウサギ抗マウス免疫クロブリン抗体を使用した。
【0099】
【図6】CHO細胞培養液から精製したインターフェロンベータ変異体のSDS−PAGE分析の結果を示した図である。
【図7】CHO細胞を使用して発現させたインターフェロンベータ変異体と天然型インターフェロンベータの抗ウイルス活性を比べた結果を示した図である。
【図8】CHO細胞を使用して発現させたインターフェロンベータ変異体と天然型インターフェロンベータの細胞増殖に対する阻害効果を比べた結果を示した図である。
【図9】CHO細胞を使用して発現させた天然型インターフェロンベータ及びインターフェロンベータ変異体の免疫調節機能を、A549細胞でのMHCクラスIの活性化を通じて測定し、それを比べた結果を示した図である。
【図10】CHO細胞を使用して発現させた天然型インターフェロンベータ及びインターフェロンベータ変異体のラットの時間別血中残留濃度を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(a)、(b)及び(c)からなる群から選択されるヒトインターフェロンベータ活性を有するポリペプチドにおいて、C−末端にグリシン−アスパラギン−イソロイシン−スレオニン−バリン配列を含み、その位置にN−結合型糖鎖を含む、ヒトインターフェロンベータ変異体:
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列全体を含むポリペプチド;
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列の実質的な部分を含むポリペプチド;
(c)前記(a)または(b)のポリペプチドと実質的に類似のポリペプチド。
【請求項2】
ヒトインターフェロンベータ活性を有するポリペプチドが、配列番号1のアミノ酸配列からなる天然型ヒトインターフェロンベータであることを特徴とする、請求項1記載のヒトインターフェロンベータ変異体。
【請求項3】
ヒトインターフェロンベータ活性を有するポリペプチドが、(c)のポリペプチドであり、該ポリペプチドは配列番号1の27番アミノ酸であるアルギニンがスレオニンまたはセリンに置換されて、アスパラギン−グリシン−スレオニン/セリン−ロイシンからなる配列番号1の25〜28番のアミノ酸配列を含むことにより、その位置にN−結合型糖鎖を追加で含むことを特徴とする、請求項1記載のヒトインターフェロンベータ変異体。
【請求項4】
ヒトインターフェロンベータ活性を有するポリペプチドが、(a)のポリペプチドと実質的に類似のポリペプチドであり、該ポリペプチドは27番アミノ酸であるアルギニンがスレオニンまたはセリンに置換されている配列番号1のアミノ酸配列を有し、前記置換によってアスパラギン−グリシン−スレオニン/セリン−ロイシンからなる25〜28番のアミノ酸配列を含むことにより、その位置にN−結合型糖鎖を追加で含むことを特徴とする、請求項1記載のヒトインターフェロンベータ変異体。
【請求項5】
下記の(a)、(b)及び(c)からなる群から選択されるヒトインターフェロンベータ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2の25〜28番に相当するアスパラギン−グリシン−スレオニン/セリン−ロイシン配列を保存することにより、その位置にN−結合型糖鎖を含むヒトインターフェロンベータ変異体:
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列全体を含むポリペプチド;
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列の実質的な部分を含むポリペプチド;
(c)前記(a)または(b)のポリペプチドと実質的に類似のポリペプチド。
【請求項6】
ヒトインターフェロンベータ活性を有するポリペプチドが、配列番号2のアミノ酸配列を有するポリペプチドであることを特徴とする、請求項5記載のヒトインターフェロンベータ変異体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のヒトインターフェロンベータ変異体をコードするポリヌクレオチド。
【請求項8】
ヒトインターフェロンベータ変異体が、配列番号1のアミノ酸配列のC−末端にグリシン−アスパラギン−イソロイシン−スレオニン−バリン配列を含むヒトインターフェロンベータ変異体であることを特徴とする、請求項7記載のポリヌクレオチド。
【請求項9】
ヒトインターフェロンベータ変異体が、配列番号2のアミノ酸配列を含むヒトインターフェロンベータ変異体であることを特徴とする、請求項7記載のポリヌクレオチド。
【請求項10】
ヒトインターフェロンベータ変異体が、配列番号2のアミノ酸配列のC−末端にグリシン−アスパラギン−イソロイシン−スレオニン−バリン配列を含むヒトインターフェロンベータ変異体であることを特徴とする、請求項7記載のポリヌクレオチド。
【請求項11】
請求項7〜10のいずれか1項に記載のヒトインターフェロンベータ変異体をコードするポリヌクレオチドを含む、動物細胞でヒトインターフェロンベータを発現させる発現ベクター。
【請求項12】
請求項11に記載の発現ベクターで形質転換された動物細胞。
【請求項13】
請求項12に記載の動物細胞を培養する工程を含む、ヒトインターフェロンベータ変異体の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のヒトインターフェロンベータ変異体を含む薬剤学的組成物。
【請求項15】
薬剤学的組成物が、天然型ヒトインターフェロンベータが有する薬理効果を有することを特徴とする、請求項14記載の薬剤学的組成物。
【請求項16】
薬剤学的組成物が、天然型ヒトインターフェロンベータが有する薬理効果を有し、該薬理効果が、多発性硬化症、癌、自己免疫疾患、ウイルス感染、HIV関連疾病およびC型肝炎からなる群から選択される疾病の予防または治療の薬理効果であることを特徴とする、請求項14記載の薬剤学的組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−518631(P2008−518631A)
【公表日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−540249(P2007−540249)
【出願日】平成17年11月2日(2005.11.2)
【国際出願番号】PCT/KR2005/003665
【国際公開番号】WO2006/049423
【国際公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【出願人】(507146533)
【氏名又は名称原語表記】SHIN,Young Kee
【Fターム(参考)】