説明

ヒドロキシアリール官能化重合体

所望の特性を有する加硫物を,ヒドロキシル基含有アリール官能部を含む重合体を組み入れた化合物から得ることができる。官能部は,適切な開始剤,単量体及び任意に停止化合物のいずれか又は全てを使用して組み入れることができる。かかる重合体は,従来型及び新型充填剤の両者と優れた相互作用を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
牽引性能は,タイヤトレッドにおける主要な評価基準の一つであり,氷雪などの湿潤表面上の性能は,該評価において重要である。
【背景技術】
【0002】
道路表面の突起に起因するトレッドゴムの変形,トレッドと道路表面間の排水率,トレッドと路面間の界面における可能な接着相互作用は,トレッド配合物を処方するに必要な定量的な力学的理解の類型を複雑化する複合的で相互に関連した要因の一部である。タイヤ性能を更に向上するため,トレッドの設計及び製造に関わるもので,湿潤走行に影響する多数の要因が引き続き研究されている。
【0003】
タイヤトレッドなどのゴム製品は,一以上の補強材料を含むエラストマー組成物から製造される。例えば,「ヴァンダービルトゴムハンドブック(The Vanderbilt Rubber Handbook)第13版」(1990),pp.603-04を参照されたい。充填剤として最初に広く用いられた材料は,カーボンブラックであり,ゴム組成物に良好な補強特性及び優れた耐摩耗性を与えるものである。しかしながら,カーボンブラックを含有する処方は,自動車両の燃費を向上するため最小化する必要のある特性であるタイヤ転動時のヒステリシス及び発熱性の低減と相関する転がり抵抗の増大に悩まされている場合が多い。
【0004】
カーボンブラックの使用によって増大したヒステリシスは,量(すなわち,体積)の低減及び/又はカーボンブラック粒子の粒径の増大によっていくらかは相殺できるが,補強特性及び耐摩耗性の劣化のリスクにより,これらの経路で追及できる範囲が制限されている。
【0005】
最近数十年にわたり,非晶質シリカ及びその処理された変形物の単独で,及びカーボンブラックと組み合わせた使用は共に,著しく増加している。シリカ充填剤の使用によって,タイヤに低減した転がり抵抗,湿潤表面上の向上した牽引力及び他の強化された特性をもたらすことができる。
【0006】
補強充填剤としてシリカ及びカーボンブラックを採用したトレッドの卓越した性能にも関わらず,絶えずより厳しい規制及び性能の要望により,代替の充填剤の研究が継続している。かかる非従来型の充填剤の例示としては,水酸化アルミニウム(例えば,米国特許第6,242,522号及び第6,489,389号に加えて,H. Mouriら「鉱物充填剤の使用を通じて向上したタイヤの湿潤牽引力(“Improved Tire Wet Traction Through the Use of Mineral Fillers,”)」Rubber Chem. and Tech.,vol.72,pp.960-68 (1999)参照),非常に高密度の金属酸化物(米国特許第6,734,235号参照),タイヤのサイドウォールの製造に使用する酸化鉄やストロンチウムフェライトなどの磁化可能粒子(米国特許第6,476,110号参照),肉眼で見える(例えば,平均粒径10-5000μm)アルミナ,CaCO3及び水晶などの硬質鉱物粒子(米国特許第5,066,702号参照),SiO2を含有する軽石 (米国特許公開第2004/0242750号A1公報),サブミクロンのZnO粒子(米国特許第6,972,307号参照)及びミクロン大のZnSO4,BaSO4及び/又はTiO2(米国特許第6,852,785号参照)が挙げられる。より多くの場合,潜在的に有用な充填剤は,単に一覧の形式で並べられている。例えば,米国特許第4,255,296号及び第4,468,496号を参照されたい。他の非従来型の充填剤としては,粘土及び複合酸化物が挙げられる。
【0007】
近年,酸化第二鉄,酸化第一鉄,酸化アルミニウム等などの無機酸化物で,より汎用型の粒子状充填剤の一部又は全部を置換することによって,加硫物に優れた湿潤牽引特性を付与できることが示されている。例えば,米国特許公開第2008/0161467号公報を参照されたい。
【0008】
単数又は複数のエラストマー中にわたる単数又は複数の補強充填剤の分散の向上により生産性及び特定の物理的特性を向上できる。かかる観点からの工夫としては,選択的反応性促進剤の存在下での高温混合,配合材料の表面酸化,表面グラフト処理及び単数又は複数の重合体の化学的修飾が挙げられる。
【0009】
重合体の化学的修飾は多くの場合末端で生じる。末端の化学的修飾は,官能性停止剤と,末端活性な,すなわち,リビング(すなわち,アニオン的に開始した)又は擬リビング重合体との反応で生じうる。また,末端の修飾は,官能性開始剤を用いて,単独で又は官能性停止処理と組合せて,提供できる。官能性開始剤は,典型的には,付加的に他の官能部,典型的には窒素原子を含む官能部を有する有機リチウム化合物である。残念ながら,官能性開始剤は,一般にアニオン重合において通常用いられる種類の炭化水素溶媒には比較的乏しい溶解度しか有さず,より汎用のブチルリチウムなどのアルキルリチウム開始剤と同様にリビング末端の生長を維持できない。両特性は,重合速度及び効率に負の影響を与える。
【0010】
3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)を組み入れた重合体が,多くの場合,接着用途にかねてから合成されている。例えば,米国特許第4,908,404号を参照されたい。かかる重合体は高コストで製造困難であることから,性能を近似させたいわゆるバルク重合体が探究されている。Westwoodら「接着性タンパク質で架橋した単純化した重合体疑似物(“Simplified Polymer Mimics of Cross-Linking Adhesive Proteins,”)」Macromolecules 2007 40,3960-64を参照されたい。しかしながら,重合体がエチレン系不飽和物を含む場合,前述の手法によって用いられた脱保護工程は使用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第6,242,522号
【特許文献2】米国特許第6,489,389号
【特許文献3】米国特許第6,734,235号
【特許文献4】米国特許第6,476,110号
【特許文献5】米国特許第5,066,702号
【特許文献6】米国特許公開第2004/0242750号A1公報
【特許文献7】米国特許第6,972,307号
【特許文献8】米国特許第6,852,785号
【特許文献9】米国特許第4,255,296号
【特許文献10】米国特許第4,468,496号
【特許文献11】米国特許公開第2008/0161467号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】「ヴァンダービルトゴムハンドブック(The Vanderbilt Rubber Handbook)第13版」(1990),pp.603-04
【非特許文献2】H. Mouriら「鉱物充填剤の使用を通じて向上したタイヤの湿潤牽引力(“Improved Tire Wet Traction Through the Use of Mineral Fillers,”)」Rubber Chem. and Tech.,vol.72,pp.960-68 (1999)
【非特許文献3】Westwoodら「接着性タンパク質で架橋した単純化した重合体疑似物(“Simplified Polymer Mimics of Cross-Linking Adhesive Proteins,”)」Macromolecules 2007 40,3960-64
【発明の概要】
【0013】
所望の特性を有する加硫物は,ヒドロキシル基を含有するアリール官能部を含む重合体を採用する組成物から得ることができる。かかる重合体は,従来型及び非従来型の充填剤の両方との相互作用能を強化するものである。
【0014】
一実施形態において,一種類以上のポリエン・マー,及び,少なくとも一つの直接結合したOR置換基(ここで,Rが加水分解可能な保護基である)を有するアリール基を含む少なくとも一つの官能化単位を有する官能性重合体の製造方法を提供する。開始化合物及び少なくとも一種類のポリエンを含む一種類以上のエチレン系不飽和単量体を含む溶液中で,開始化合物は,カルボアニオン重合体を提供するように,単量体の重合をアニオン的に開始できる。任意に,カルボアニオン重合体は,停止化合物と反応できる。単数又は複数の官能化単位は,少なくとも一つの開始化合物,単数又は複数の単量体及び任意の停止化合物から得られる(すなわち,これらの単数又は複数のラジカルである)。
【0015】
方法は,少なくとも一つの直接結合するヒドロキシル基を有するアリール基を提供するように,保護R基が加水分解する,追加の反応工程を備える。かかる追加の工程は,停止化合物とカルボアニオン重合体の反応でありうる。
【0016】
官能化単位のアリール基は,少なくとも二つの直接結合するOR基を含むことができる。また,又は代わりに,官能化単位は,特に単位が停止化合物から誘導された場合に,第二のアリール基を含むことができる。
【0017】
官能化単位を提供できる開始化合物は,下記一般式を有する化合物を含む。
【化1】

[式中,Mはアルカリ金属原子であり,R1は,少なくとも一つのOR2置換基(ここで,各R2がMに対しても非反応性であるR基である)を有する置換又は非置換のアリール基であり,Zは単結合又は置換もしくは非置換のアルキレン(非環状もしくは環状)もしくはアリーレン基であり,QはC,N又はSn原子を介してMと結合する基である。R1アリール基は,単一の芳香族環(フェニル基)又は二以上の融合した芳香族環を含むことができる。かかる種類の官能性開始剤での反応開始によって,下記一般式によって定義される末端官能部を有する少なくとも一つの重合体鎖を含む高分子,
【化2】

又は下記一般式によって定義される官能化重合体を得ることができる。

【化3】

[式中,R3は,少なくとも一つのOR4置換基(RはH又はRである)を含む置換又は非置換のアリール基であり,Zは上記定義どおりであり,Q’はQのラジカル,すなわち,C,N又はSn原子を介して重合体鎖と結合する開始部位の残部であり,πは重合体鎖であり,κは水素原子又は停止化合物と重合体の反応によって生成した官能基含有ラジカルである。2以上のOR4基が存在する場合,各基は同一の又は異なる環であってもよく,特定の実施形態において,少なくとも二つのOR4置換基が隣接できる。]
【0018】
官能化単位が単量体から得られた場合,単量体は,少なくとも一つの直接結合するOR基を有するアリール基,好適にはフェニル基を含むことができる。得られた重合体は,アルケン(A単位),及び,隣接しえない又は重合体とブロックを構成できる記載した種類の少なくとも三つのマー(B単位)を組み入れることで得られた複数のマーを含むことができる。B単位のブロックが存在する場合,重合体の末端に比較的近く,すなわち,末端単位から,六,四又は二重合体鎖原子以内にあることができる。他の実施態様において,典型的には,他の単量体の重合が完了した後,任意に,引き続き,重合体へ任意に付加的な末端官能部を提供できる化合物との反応によって,一以上のB単位を重合体へ組み入れることができる。(かかる化合物は,下記式(IV)中に示した特定の官能部を提供できる種類である必要はなく,その代わりに,とりわけ,一以上のヘテロ原子を含有する官能部を含む多種の官能部のいずれかを提供できる。)
【0019】
官能化単位が,停止化合物とカルボアニオン重合体の反応から得られる場合,官能部は下記一般式を有することができる。
【化4】

[式中,Z’は,単結合又はアルキレン基であり,R3は上記定義どおりであり,R6は,H,一以上のOR4置換基,R’又はJR’(式中,JがO,S,又は−NR単位(各R’が独立に置換又は非置換のアルキル基である)である)を任意に含むことができる置換又は非置換のアリール基であり,Q”は,カルボアニオン重合体と反応性だが,それ自体はかかる重合体と非反応性である官能部の残部である。]R3アリール基は,単一の芳香族環(フェニル基)又は二以上の融合した芳香族環を含むことができ,OR4基は,同一の又は異なるアリール基の環であってもよいが,特定の実施形態において,OR4置換基は好適には隣接できる。加えて,R6及び一部のR3が,それらが結合するQ”基の一以上の原子(及び任意にZ’)と共に,R3アリール基に結合した又はR3アリール基と融合した環を形成するように連結できる。例としては,少なくとも一つのアリール基上に一以上のOR4置換基を有する多種のフラボン及びアントロン型構造のいずれかが挙げられる。(これは,式(IVb)に関して,下記により詳細に記載する。)
【0020】
多種の前述の方法において,同様の官能化単位は,例えば,擬リビング重合体のような他の種類の末端反応性重合体と,記載した停止化合物の反応から得られる。
【0021】
特定の実施形態において,単数又は複数のポリエンは,共役ジエンであってもよい。また,これら又は他の実施形態において,重合体は,好適には重合体鎖に沿って,共役ジエン・マーが実質的にランダムに組み込まれているビニル芳香族・マーを含むことができる。
【0022】
前述の各々において,重合体は実質的に直鎖でありうる。特定の実施形態において,実質的に直鎖の重合体は,末端部位として,ヒドロキシル基へ加水分解できる一以上の置換基を有する少なくとも一つのアリール基を含む化合物のラジカルを含むことができる。
【0023】
また,粒子状充填剤及び上述の種類の重合体を含む組成物が,かかる組成物の提供及び使用方法と共に提供される。また,かかる充填組成物から作製された加硫物が提供される。一部または全てにおいて,重合体は,カーボンブラック及びシリカだけでなく,好適には,無機酸化物及び水酸化物,粘土等などの非従来型充填剤を含む粒子状充填剤と相互作用できる。
【0024】
以下に続く多種の実施形態の記載から,本発明の他の形態は,当業者に明らかである。かかる記載中において,周囲の文章が明示的に反対の意図を示さない限り,以下の定義がすべてに適用される。
「重合体」とは,一以上の単量体の重合生成物を意味し,二元共重合体、三元共重合体、四元共重合体等を含み,
「マー」又は「マー単位」とは,単一の反応体分子から誘導された重合体の部分(例えば,エチレン・マーは,一般式-CH2CH2-である)を意味し,
「共重合体」とは,典型的には,単量体である二つの反応体から誘導されたマー単位を含む重合体を意味し,ランダム,ブロック,セグメント化,グラフト等の共重合体を含み,
「共重合体」とは,典型的には単量体である少なくとも二つの反応体から誘導されたマー単位を含む重合体を意味し,二元共重合体,三元共重合体,四元共重合体等を含み,
「ランダム共重合体」とは,実質的に反復しないように及び実質的にブロックができないように組み入れられた各種類の構成単量体から誘導されたマー単位,すなわち,三以上の同一マーのセグメントを有する共重合体を意味し,
「反応性重合体」とは,関連する触媒又は開始剤の存在ゆえに,他の分子と直ちに反応する少なくとも一つの位置を有する重合体を意味し,該用語は,とりわけ,擬リビング及びカルボアニオン重合体を含んでおり,
「触媒組成物」とは,成分の単純な混合物,物理的又は化学的引力によって生じた多種の成分の錯体,一部又は全部の成分の化学反応生成物又は前述の組合せを範囲とする一般的な用語であり,その結果物が適切な種類の一以上の単量体に関する触媒活性を呈する組成物であり,
「ゴムムーニー粘度」とは,単数又は複数の充填剤のいずれをも添加する前の未硬化重合体のムーニー粘度であり,
「配合物ムーニー粘度」とは,とりわけ,未硬化又は部分的に硬化した重合体及び単数又は複数の充填剤を含む組成物のムーニー粘度であり,
「置換した」とは,対象となる基の本来の目的の妨げとならないヘテロ原子又は官能部(例えば,ヒドロカルビル基)を含有することを意味し,
「直接結合した」とは,原子又は基を介在しないで共有結合したことを意味し,
「ポリエン」とは,その最長部分又は鎖中に位置する少なくとも二つの二重結合を有する分子を意味し,特にジエン,トリエン等を含み,
「ポリジエン」とは,一以上のジエンからのマー単位を含む重合体を意味し,
「phr」とは,ゴム100重量部(pbw)当たりのpbwを意味し,
「非配位アニオン」とは,立体障害ゆえに触媒系の活性中心と配位結合を形成しない立体的に嵩高いアニオンを意味し,
「非配位アニオン前駆体」とは,反応条件下,非配位アニオンを形成できる化合物を意味し,
「ラジカル」とは,反応の結果としていずれかの原子を得るか失うかにかかわらず,他の分子との反応後に残存する分子の部分を意味し,
「アリール基」とは,フェニル基又は多環式芳香族ラジカルを意味し,
「末端」とは,重合体鎖の端部を意味し,
「末端部位」とは,末端に位置する基又は官能部を意味する。
【0025】
本明細書全体にわたって,周囲の文章が明示的に反対の意図を示さない限り,百分率の形で与えられた全数値は重量百分率である。記載した特許又は特許公報の関連する部分はいずれも参照して本明細書に組み込む。
【発明を実施するための形態】
【0026】
前述の概要から明らかなように,該方法は,いずれの多種のその可能な順列又は組合せを伴うことができ,得られた重合体は多種の方法で同定できる。一般的に,重合体は,一以上のポリエン,特にはジエンから誘導されたマー,式(II)及び(IV)のいずれか又は両方で定義された末端官能部及び/又は一以上の前記Bマー単位を含む。また,最低限,特定の実施形態において,重合体は,直接結合する付加した芳香族基を含むことができる。
【0027】
以下に,複数のAマー,すなわち,アルケン単位と,任意に,複数のCマー,すなわち,所望の官能化の少なくとも一部が官能性単量体から誘導されたものである,ペンダント・アリール基,特にフェニル基を含む単位,及び,少なくとも一つのBマー,すなわち,少なくとも一つの直接結合するOR基とペンダント・アリール,好適にはフェニル基を含む単位を有する重合体の製造及び使用を記載する。各A,B及びCマーは,エチレン系不飽和単量体を組み入れることから得ることができる。
【0028】
Aマーは,典型的にはポリエン,特にはトリエン(例えば,ミルセン)及びジエン,特にはC4〜C12ジエン,更により特には1,3−ブタジエン,1,3−ペンタジエン,1,3−ヘキサジエン,2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン,2−エチル−1,3−ブタジエン,2−メチル−1,3−ペンタジエン,3−メチル−1,3−ペンタジエン,イソプレン,4−メチル−1,3−ペンタジエン,2,4−ヘキサジエン等などの共役ジエンを組み入れることから得られる。Aマーの一部又は全てを,一種類以上のジエン,特には一種類以上の共役ジエン,例えば,1,3−ブタジエンから誘導できる。一部の実施形態において,実質的に全て(すなわち,少なくとも95%)のポリエンが,特には共役ジエンでありうる。
【0029】
ポリエンは,一以上の方法で重合体鎖へ組み入れることができる。特に,タイヤトレッド用途において,かかる組み入れ方法の制御が望ましい。ポリエン単位の総数に基づく数値の百分率として,約10〜約80%,任意に約25〜約65%が得られた全体の1,2−ミクロ構造を有する重合体鎖は,特定の最終使用用途に対して望ましい。全ポリエン含有量に基づいた約50%以下,好適には約45%以下,より好適には約40%以下,更により好適には約35%以下,最も好適には約30%以下の全体の1,2−ミクロ構造を有する重合体は,実質的に線形であると考えられる。特定の最終使用用途には,1,2−結合含有量をかなり低く,例えば,約7%より低く,5%より低く,2%より低く,又は1%より低く,保つことが望ましい。
【0030】
意図した最終用途に応じて,一以上の重合体鎖は,Cマー,すなわち,ビニル芳香族,特に例えば,スチレン,α−メチルスチレン,p−メチルスチレン,ビニルトルエン及びビニルナフタレンなどのC〜C20ビニル芳香族から誘導されたマーによって提供できる付加した芳香族基を含むことができる。一以上のポリエンとともに使用する場合,Cマーは,重合体鎖の約1〜約50%,約10〜約45%又は約20〜約40%を構成できる。ランダムミクロ構造は,例えば,タイヤトレッドの製造に使用するゴム組成物などのいくつかの最終使用用途において,特別な利点を提供できる。ブロック共重合体を所望する場合,C単位は,約1〜約90%,一般的には,約2から約80%,通常は約3〜約75%及び典型的には重合体鎖の約5〜約70%を構成できる。(本段落では,百分率は全てモル百分率である。)
【0031】
共重合体の例示としては,一以上の共役ジエンがA単位,すなわち,ポリジエンを提供するのに使用される共重合体が挙げられ,これらの中で,1,3−ブタジエンが数個の中の一つ又は唯一の採用されたポリジエンでありうる。C単位が望まれる場合,例えばSBRを提供するように,スチレンから提供されうる。また,前述の種類の例示した共重合体において,一以上のB単位を組み入れることができる。
【0032】
B単位としては,一以上の直接結合したヒドロキシル基を含む付加したアリール基が挙げられる。ヒドロキシル基のH原子は活性であり,特定の重合過程を妨害しうるため,一以上のB単位は,典型的にはR基を含む化合物,すなわち,エチレン系不飽和単量体を重合する際に用いる種類の条件において非反応性であるが、所望のヒドロキシル基を提供するように,典型的には加水分解又は同様の反応によって後に除去できる基から提供される。採用した特定の単数又は複数種類の単数又は複数の保護基は,重合工程を妨害してはならず,ヒドロキシル基を提供するために採用した脱保護工程は,A単位の存在から得られる重合体中のエチレン系不飽和を破壊又は該不飽和と反応してはならない。有用な保護基の限定されない種類としては,ヒドロキシル基をトリアルキルシリルハライドと反応させることによって得ることができるトリアルキルシロキシ基が挙げられる。一方,以下の例ではtert−ブチルジメチルシロキシル基を採用し,アセタール,tert−ブチルエーテル,2−メトキシエトキシエーテル等のようなその他の基も使用できる。
【0033】
アリール上,典型的にはフェニル上のOR基数は,各B単位の基数と同じである必要はなく,同数の場合,OR基は,かかる環上の同位置である必要はない。アリール基の代表としてフェニル基を用いたとき,高分子鎖へのフェニル基の結合点に対して,単数のOR基は,フェニル環上にオルト,メタ,パラ位を提供でき,一方,複数のOR基は,フェニル環上に2,3−,2,4−,2,5−,2,6−,3,4−,3,5−,3,6−,2,3,4−,2,3,5−等を提供できる。
【0034】
B単位は,典型的には,アリール、典型的にはフェニルの環と直接結合した一以上のヒドロキシル生成基を含むビニル芳香族化合物から得られる。かかる化合物は,下記一般式によって表わすことができる。
【化5】

[式中,R1は上記定義どおりであり,1〜5個のOR基(各Rが独立に上記保護基の種類である)を含むことができ(各Rが同一である必要はないが,簡便のため,典型的には,所与の化合物において単一種類のR部位が使用されている。)]OR基は,R1の同じ環の置換基又は違う環の置換基であってもよく,R1が三以上のOR基を含む場合,そのうちの二つは一環の置換基であり,単数又は複数の他の基が単数又は複数の他の環の単数又は複数の置換基であってもよい。一実施態様において,二つのOR基は,好適にはフェニル基である,アリール基内の同じ環の3及び4位にあってもよい。R1がフェニル基以外であり,一以上のOR基を含み,OR基が2以上の環上にあり,少なくとも二つのOR基が好適には少なくともいくらか近接して,すなわち,4以下,好適には3,より好適には2個の他環の原子によって分離されている環のC原子に直接結合している。かかる化合物の多くは,有利なことに,下記に規定する種類の有機溶媒に可溶である。
【0035】
一以上の式(V)の種類の化合物を重合する場合,該化合物は単数又は複数のB単位を提供し,その後,各R部位を,フェノール性ヒドロキシル基を提供するように,加水分解できる。
【0036】
B単位数は,典型的には,A単位数,また存在する場合C単位と比較して小さい。比較的小さいB単位数は,望ましい特性の満足な水準を提供し,これら特性の更なる向上は存在するB単位数に必ずしも比例しないことを見出した。かかる比較的小さい数は,多数の方法で表現できる。例えば,B単位に起因する最終重合体の重量百分率は,通常2%より少なく,より通常には約0.1〜約1.5%,典型的には約0.2〜約1.0%である。重合体内の全マーに対するBマーの百分率は,通常1%より少なく,より通常には約0.01〜約0.75%,典型的には約0.05〜約0.5%である。所与の重合体内のB単位の総数は,一般的に1〜数,通常1〜12,より通常には1〜10,最も通常には1〜5ダースである。
【0037】
B単位は,相互に分離でき,又は二以上のB単位は,重合体鎖に沿って近接できる(一方,当業者は,下記で幾分詳述するランダム及びブロック共重合体の合成方法を理解する。)。更に,B単位は,重合の開始点付近,重合の終点付近又はいずれの一以上の中間点で組み入れることができる。前述の可能性の最初の二つにおいて,B単位は,単独又はブロックの一部として,重合体の末端の6鎖原子以内,2単位以内,末端に隣接して又は末端単位として得られる。
【0038】
前述の種類の重合体は,乳化重合又は溶液重合によって製造でき,後者は、ランダム性,ミクロ構造などの特性に関してより大きく制御できる。溶液重合は,数十年にわたって実施されており,そのため,その一般的な態様は当業者に既知であり,そこで,特定の一般的な態様のみを明細書中に参照の便宜のために記す。
【0039】
THFなどの極性溶媒及び非極性溶媒の両方が溶液重合に採用でき,後者のタイプは工業的な実践においてより一般的である。非極性溶媒の例示としては,多種のC5〜C12の環状及び非環状アルカンだけでなく、そのアルキル化誘導体,特定の液状芳香族化合物,その混合物が挙げられる。当業者は他の有用な溶媒の選択及び組合せを知っている。
【0040】
所望の重合体の性質に応じて,溶液重合の特定の条件を大きく変えることができる。以下の議論において,リビング重合を最初に記載し,引き続き,擬リビング重合を記載する。これらの記載の後,そのように製造された重合体の任意の官能化及び処理を議論する。
【0041】
溶液重合は,典型的には開始剤を伴う。開始剤の例示としては,有機リチウム化合物,特にアルキルリチウム化合物が挙げられる。有機リチウム開始剤の例示としては,N−リチオ−ヘキサメチレンイミン;n−ブチルリチウム;トリブチルスズリチウム;ジメチルアミノリチウム,ジエチルアミノリチウム,ジプロピルアミノリチウム,ジブチルアミノリチウム等のジアルキルアミノリチウム化合物;ジエチルアミノプロピルリチウムなどのジアルキルアミノアルキルリチウム化合物;及びC1〜C12,好適にはC1〜C4アルキル基を含むトリアルキルスタニルリチウム化合物が挙げられる。
【0042】
また,多官能性開始剤,すなわち,2以上のリビング端部を有する重合体を形成できる開始剤も使用できる。多官能性開始剤の例示としては,限定される訳ではないが,1,4−ジリチオブタン,1,10−ジリチオデカン,1,20−ジリチオエイコサン,1,4−ジリチオベンゼン,1,4−ジリチオナフタレン,1,10−ジリチオアントラセン,1,2−ジリチオ−1,2−ジフェニルエタン,1,3,5−トリリチオペンタン,1,5,15−トリリチオエイコサン,1,3,5−トリリチオシクロヘキサン,1,3,5,8−テトラリチオデカン,1,5,10,20−テトラリチオエイコサン,1,2,4,6−テトラリチオシクロヘキサン及び4,4’−ジリチオビフェニルが挙げられる。
【0043】
有機リチウム開始剤に加えて,いわゆる官能化開始剤もまた有用でありうる。これらは重合体鎖中に組み入れられ,それ故に、鎖の開始端部に官能基を提供する。かかる物質の例としては,リチオ化アリールチオアセタール(例えば,米国特許第7,153,919号参照)及び有機リチウム化合物の反応性生物,例えば,任意にジイソプロペニルベンゼンなどの化合物と予め反応させた置換アルジミン,ケチミン,二級アミン等のN含有有機化合物(例えば,米国特許第5,153,159号及び第5,567,815号参照)が挙げられる。例えば,リチオ化HMIなどの,N原子含有開始剤の使用により,重合体鎖とカーボンブラック粒子間の相互作用を更に強化できる。これら官能性開始剤の多くは,上記で規定した多くの溶媒,特に比較的非極性の溶媒への溶解性が乏しい。
【0044】
これに反して,式(I)中に含まれる多くの化合物は,溶液重合において溶媒として通常採用される有機液体のタイプへの許容できる溶解性を示す。本式内に含まれる化合物を,以下,R1含有開始剤と呼ぶ。
【0045】
1含有開始剤のアリール基は,フェニル基又は二以上の融合芳香族環であってもよい。R1アリール基が2以上のOR2基(各R2がMに対して非反応性のR基である)を含む場合,OR2基はアリール基内の同じ環又は異なる環の置換基であってもよく,アリール基は三以上のOR2基を含み,そのうちの二つは一環の置換基であり,単数又は複数の他の基が単数又は複数の他の環の単数又は複数の置換基であってもよい。一実施形態において,二つのOR2基は,好適にはフェニル基であるアリール基内の同じ環の3及び4位であってもよい。R1がフェニル基以外であり,2以上のOR2基を含み,OR2基が2以上の環上にあり,少なくとも二つのOR2基が好適には少なくともいくらか近接している,すなわち,4以下,好適には3,より好適には2個の他環の原子によって分離されている環のC原子に直接結合している。フェニル基上に単一のOR2基が存在する場合,環のいかなる位置にあってもよいが,特定の用途に関しては,Zに対してパラ位であるのが好適である。
【0046】
1含有開始剤のR2部位は,R1アリール基内に活性水素原子が存在しないことを確実にするものである。かかる活性水素原子は,R1含有開始剤のアニオン重合を開始する能力を妨害する。特定のR2部位が,粒子状充填剤との相互作用力をもたらしうる基を構成しない限り,好適にも水素原子へ加水分解されうる。トリアルキルシロキシ基が,これら二重の目的をかなえる種類の限定されない例である。かかる基は,R1アリール基に付着したヒドロキシル基をトリアルキルシリルハライドと反応させることで得られる。各R2は同一である必要はないが,簡便のため,典型的には,所与のR1含有開始剤について単一種類のR2部位を使用する。
【0047】
1含有開始剤が重合を開始する際,そのラジカルが重合体鎖の一末端を形成する(式(II)及び(III)参照)。かかるラジカルのR2部位は,式(II)及び(III)のR3基へのヒドロキシル基の置換をもたらすように典型的には加水分解される。かかる種類のR3基は,カーボンブラック及びシリカだけでなく無機酸化物及び水酸化物,粘土などの非従来型充填剤を含めた広範な粒子状充填剤との優れた相互作用力をもたらすことを見出した。
【0048】
1含有開始剤において,Mはアルカリ金属原子(好適にはK,Na又はLi原子,最も好適にはLi原子)であり,QはC,N又はSn原子を介してMと結合する基である。一般的に,Qは,当業者に明らかであるように,R1含有開始剤の効率を阻害するいずれの活性水素原子も含まない。潜在的に有用なQ基は,網羅的に一覧するには数が多すぎて,いくつかの限定されない例を記載する。当業者はこれらから多数の他の代替品を想定できる。
【0049】
チオアセタールは,潜在的に有用なQ基の一類型である。これら官能部は,下記一般式を有する。
【化6】

[式中,R15は,C2〜C10アルキレン基,好適にはC2〜C8アルキレン基,より好適にはC3〜C6基であり,Xは,S,O及びNR16から選択され,ここで,R16は,C1〜C6トリアルキルシリル基,C1〜C20アルキル基,C4〜C20シクロアルキル基,C6〜C20アリール基であり、但し、C1〜C10アルキル基,C6〜C20アリール基,C2〜C10アルケニル基,C3〜C10非末端アルキニル基,エーテル,tert−アミン,ホスフィン,硫化物,シリル及びそれらの混合物のいずれも結合できる。一つの好適な種としては,XとしてS原子及びR15としてC3アルキレン基を含む,すなわち,1,3−ジチアンが挙げられる。特定の態様において,Qは,Liなどのアルカリ金属原子ヘ結合するのに適したヘテロ原子置換環状部位を含む基であってもよい。追加情報については,関心ある読者には米国特許第7,153,919号を示す。
【0050】
他の潜在的に有用なQ基としては,SnR72(R7が,各々独立にヒドロカルビル(例えば,アルキル,シクロアルキル,アリール,アラルキル,アルカリール等)基である又は共にシクロアルキル基を形成する)及びNR8(R8がヒドロカルビル基,特にはアリール,C3〜C8シクロアルキル又はC1〜C20アルキル基である)が挙げられ,後者の中には,例えば,米国特許第5,574,109号に記載されているものなどのシクロアルキレンイミノアルキルリチウム化合物が含まれる。また,潜在的に有用なQ基はいずれの多種の直鎖又は分岐したアルキル基であり,限定されない例示としては,ブチル,ペンチル,ヘキシル,へプチル,オクチル等が挙げられる。前述の全ての開始剤は,以下の例中により詳細に記載した合成技術を通じてヒドロキシル置換ベンズアルデヒドから調製できる。
【0051】
式(I)で規定した化合物は,多様な方法で提供でき、合成経路の選択は、大きくQの特定の性質によって決まる。例えば,複数のヒドロキシル基がアリール基及び少なくとも他の一つの官能部に結合した化合物は,Q基を提供するように,他の官能部を介して化合物と反応できる。その後,単数又は複数のヒドロキシル基の単数又は複数のH原子は,前述のR2基を提供できる化合物と反応でき,得られた材料は,アルカリ金属を含有する物質、例えば有機リチウムと反応できる。かかる種類の合成手法を下記例中で採用して,適例なジチアン型の開始剤が得られる。
【0052】
1含有開始剤は開始剤として作用する重合容器の外で製造できる。この場合,単数又は複数の単量体及び溶媒の混合物を反応容器へ注入でき,引き続き,多くの場合,溶液又は混合物(すなわち,溶媒保有物中)の一部として添加される開始剤を添加する。簡便のため,R1含有開始剤は,典型的にはインサイチュで合成される。
【0053】
当業者は,溶液重合において典型的に採用される条件を理解するが,参照を容易にするため代表的なものを記載する。以下はバッチ処理に基づいているが,当業者は,本記載をセミバッチ,連続又は他の処理に適応できる。
【0054】
溶液重合は,典型的には単数又は複数の単量体及び溶媒の混合物を適切な反応容器へ注入することで開始し,引き続き,溶液又は混合物の一部として添加される調整剤 (使用の場合)及び開始剤を添加するか,その代わりに,単数又は複数の単量体及び調整剤を開始剤に添加することができる。ランダム化及びビニル含有量(すなわち,1,2−ミクロ構造)は共に,通常は極性化合物である調整剤を入れることにより増加できる。開始剤の当量当たり90当量以上までの調整剤を,例えば,所望のビニル含有量,採用した非ポリエン単量体のレベル,反応温度及び採用した特定の調整剤の性質によって決まる量で,使用できる。調整剤として有用な化合物としては,非結合電子対を有するヘテロ原子(例えば,O又はN)を含む有機化合物が挙げられる。例としては,モノ−及びオリゴ−アルキレングリコールのジアルキルエーテル;クラウンエーテル;テトラメチルエチレンジアミンなどの三級アミン;THF;THFオリゴマー;2,2’−ジ(テトラヒドロフリル)プロパン,ジピペリジルエタン,ヘキサメチルホスホルアミド,N,N′−ジメチルピペラジン,ジアザビシクロオクタン,ジエチルエーテル,トリブチルアミン等などの直線状及び環状のオリゴマーのオキソラニルアルカン(例えば,米国特許第4,429,091号参照)が挙げられる。
【0055】
典型的には,重合用の単数又は複数の溶媒及び単数又は複数の単量体の溶液は,約−80°〜+100℃,より通常には−40°〜+50℃,及び典型的には約0°〜+30℃の温度で提供され,この溶液へ,開始化合物、又は官能化単位が開始剤から得られる場合、R1含有開始剤(又は有機リチウムを持つその前駆体,典型的にはアルキルリチウム)が添加される。溶液は,約−70°〜約150℃,より通常には−20°〜120℃,及び典型的には約10°〜約100℃の温度であってもよい。重合は,通常は約0.01〜約100時間,より通常には約0.08〜約48時間及び典型的には約0.15〜約2時間という所望の重合体が形成できるのに十分な期間,無水,無酸素性条件下で進行する。所望の転換度に達した後,熱源(使用する場合)を外し,反応容器を重合専用に取っておく場合には,反応混合物を,官能化及び/又は失活のために重合後の容器へ移す。
【0056】
アニオン技術によって製造した重合体は,一般的に,約500,000ダルトンまでの数平均分子量(Mn)を有する。特定の実施形態において,Mnは約2000ダルトンまでと低くてもよく,これら及び/又は他の実施形態において,Mnは好適には少なくとも約10,000ダルトン若しくは約50,000〜約250,000ダルトン又は約75,000〜約150,000ダルトンの範囲に及ぶことができる。多くの場合,Mnは,停止した試料が,約2〜約150,より通常には約2.5〜約125,更に通常には約5〜約100及び最も通常には約10〜約75のゴムムーニー粘度(ML4/100℃)を示すようなものである。
【0057】
特定の最終使用用途は,アニオン(リビング) 重合を介して達成するのが困難又は非効率的であろう特性を有する重合体を要求する。例えば,一部の用途において,高シス-1,4-結合含有量を有する共役ジエン重合体が望まれる。ポリジエンは,触媒 (リビング重合で採用された開始剤に対し)を使用して調製でき,擬リビング特性を呈してもよい。
【0058】
特定種類の触媒系は,共役ジエン単量体から非常に立体特異的な1,4−ポリジエンを製造するのに有用であることが知られている。一部の触媒系はシス−1,4−ポリジエンを優先的にもたらし,一方,他の触媒系はトランス−1,4−ポリジエンを優先的にもたらし,当業者は各種類の例に精通している。以下の記載は特定のシス-特異的触媒系に基づくが,これは単に例示のためであり,官能化方法及び化合物を制限するとみなすものではない。
【0059】
適例な触媒系は,共役ジエン単量体の重合に有用であると知られているランタニド金属を採用することができる。具体的には,ランタニド化合物を含む触媒系を,一種類以上の共役ジエンからシス−1,4−ポリジエンを提供するのに使用できる。好適なランタニド系触媒組成物には,米国特許第6,699,813号中及び該文献にて引用された特許文献に記載されたものがある。参照を簡便簡潔にするため,凝縮した記載を本明細書中に示す。
【0060】
適例なランタニド触媒組成物としては,(a)ランタニド化合物,アルキル化剤及びハロゲン含有化合物(しかしながら、ハロゲン含有化合物の使用は、ランタニド化合物及び/又はアルキル化剤がハロゲン 原子を含有する場合には任意である),(b)ランタニド化合物及びアルミノキサン,又は,(c)ランタニド化合物,アルキル化剤及び非配位アニオン又はその前駆体が挙げられる。
【0061】
多種のランタニド化合物又はその混合物を採用でき,芳香族,脂肪族及び/又は環状脂肪族液体中に可溶であるものが好ましいが,炭化水素に溶解しないランタニド化合物は重合媒体中に懸濁できる。好適なランタニド化合物としては,少なくとも一つのNd,LaもしくはSm原子を含むものまたはジジミウムを含むものが挙げられる。ランタニド化合物中の単数又は複数のランタニド原子は,酸化状態数がいくつでもよいが,+3酸化状態が最も一般的である。好適なランタニド化合物としては,カルボン酸塩,有機リン酸塩,有機ホスホン酸塩,有機ホスフィン酸塩,キサントゲン酸塩,カルバミン酸塩,ジチオカルバミン酸塩,β-ジケトナート,アルコキシド,アリールオキシド,ハロゲン化物,擬ハロゲン化物,オキシハライド等が挙げられる。
【0062】
典型的には,ランタニド化合物は一以上のアルキル化剤,すなわち,ヒドロカルビル基を他の金属に移動できる有機金属化合物とともに使用される。かかる薬剤は,典型的には 1,2及び3属金属などの電気陽性な金属の有機金属化合物である。適例なアルキル化剤としては,有機アルミニウム化合物及び/又は有機マグネシウム化合物が挙げられる。前者には,(1)下記一般式AlR9nX′3-n[式中,nは1〜3の整数であり, 各R9は独立にC原子を介してAl原子と結合する一価の有機基 (N,O,B,Si,S,P等のヘテロ原子を含んでもよい)であり,各X′は独立に水素原子,ハロゲン原子,カルボキシレート基,アルコキシド基又はアリールオキシド基である]を有する化合物,(2)トリヒドロカルビルアルミニウム化合物を水と反応を反応させることによって作製できる直鎖又は環状のアルミノキサンオリゴマーが挙げられる。後者には,下記一般式MgR10yX′2-y[式中,X′は上記定義どおりであり,yは1〜2の整数であり,R10は各一価の有機基がC原子を介してMg原子と結合する以外はR9と同様である]を有する化合物が挙げられる。
【0063】
一部の触媒組成物は一以上の不安定なハロゲン原子を有する化合物を含む。有用なハロゲン含有化合物としては,ハロゲン元素,混合ハロゲン,ハロゲン化水素,有機ハロゲン化物,無機ハロゲン化物,金属ハロゲン化物,有機金属ハロゲン化物及びそれらの混合物が挙げられる。ハロゲン含有化合物は,好適にはランタニド化合物に関して上述したものなどの溶媒に可溶であるが,炭化水素に溶解しない化合物は重合媒体中に懸濁できる。
【0064】
他の触媒組成物は,非配位アニオン又は非配位アニオン前駆体を含む。適例な非配位アニオンとしては,テトラアリールホウ酸アニオン, 特にはフッ素化されたテトラアリールホウ酸アニオン,並びに非配位アニオン及び対カチオンを含有するイオン性化合物(例えば,トリフェニルカルボニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸塩)が挙げられる。適例な非配位アニオン前駆体としては,強い電子吸引性基を含有するホウ素化合物が挙げられる。
【0065】
この種の触媒組成物は,広範な濃度及び比率にわたり共役ジエンが立体特異的ポリジエンへと重合するのに非常に高い触媒活性を有するが,最も望ましい特性を有する重合体は,典型的には成分の濃度及び比率の比較的狭い範囲を採用する系から得られる。更に,触媒成分は,活性触媒種を形成するように相互作用すると考えられており,それ故に、いずれの一種の成分の最適な濃度は他の成分の濃度に依存しうる。以下のモル比率は,前述の成分に基づく多種の異なる系に対して比較的適例と考えられる。
ランタニド化合物に対するアルキル化剤(アルキル化剤/Ln)は,約1:1〜約200:1,好適には約2:1〜約100:1,より好適には約5:1〜約50:1であり,
ランタニド化合物に対するハロゲン含有化合物(ハロゲン原子/Ln)は,約1:2〜約20:1,好適には約1:1〜約10:1,より好適には約2:1〜約6:1であり,
ランタニド化合物に対するアルミノキサン,特にランタニド化合物中のランタニド原子当量に対するアルミノキサン中のアルミニウム原子当量(Al/Ln)は,約10:1〜約50,000:1,好適には約75:1〜約30,000:1,より好適には約100:1〜約1,000:1であり,
ランタニド化合物に対する非配位アニオン又は前駆体(An/Ln)は,約1:2〜約20:1,好適には約3:4〜約10:1,より好適には約1:1〜約6:1である。
【0066】
ランタニド系触媒を用いて製造されたポリジエンの分子量は,触媒系内の触媒量及び/又は共触媒濃度量を調整することで制御できる。一般に,触媒及び共触媒の濃度を増加させると,得られるポリジエンの分子量は低下するが,極低分子量のポリジエン(例えば,液状ポリジエン)は,加硫速度の遅延などの悪影響を回避するため重合体から触媒残渣を除去する必要がある極めて高い触媒濃度を必要とする。ランタニド系触媒組成物へ一以上のNi含有化合物を含めることは,有利なことに,触媒活性及び重合体ミクロ構造へ重大な負の影響を与えることなく、得られたポリジエンの分子量を容易に制御できる。上記で示したものなどの炭化水素溶媒に可溶なものを優先して、多種のNiを含有する化合物又はその混合物を採用できる。
【0067】
Ni含有化合物中のNi原子は,酸化状態数がいくつでもよいが,Ni原子が+2酸化状態である二価Ni化合物が一般的に好ましい。適例なNi化合物としては,カルボン酸塩,有機リン酸塩,有機ホスホン酸塩,有機ホスフィン酸塩,キサントゲン酸塩,カルバミン酸塩,ジチオカルバミン酸塩,β-ジケトナート,アルコキシド,アリールオキシド,ハロゲン化物,擬ハロゲン化物,オキシハライド,有機ニッケル化合物(すなわち,例えば,ニッケロセン,デカメチルニッケロセンなどの少なくとも一つのC−Ni結合を有する化合物,)等が挙げられる。
【0068】
ランタニド化合物に対するNi含有化合物物のモル比率(Ni/Ln)は,一般的に約1:1000〜約1:1,好適には約1:200〜約1:2及びより好適には約1:100〜約1:5の範囲に及ぶ。
【0069】
かかる種類の触媒組成物は,下記方法を使用して形成できる。
(1) インサイチュ 触媒成分を,単量体及び溶媒(又は単にバルク単量体)を含有する溶液に添加する。添加は段階的又は一斉に行ってもよい。後者の場合,アルキル化剤を好適には最初に添加し,順次ランタニド化合物,ニッケル含有化合物(使用する場合)および(使用する場合)ハロゲン含有化合物又は非配位アニオン又は非配位アニオン前駆体が続く。
(2) 予備混合 成分を,単数又は複数の共役ジエン単量体を導入する前に,重合系外で,一般に約-20°〜80℃の温度で混合できる。
(3) 単数又は複数の単量体の存在下での予備形成 触媒成分を,少量の単数又は複数の共役ジエン単量体の存在下,約-20°〜80℃の温度で混合できる。共役ジエン単量体の量は,ランタニド化合物のモル当たり約1〜約500モル,好適には約5〜約250モル、より好適には約10〜約100モルの範囲に及ぶことができる。得られた触媒組成物を重合する単数又は複数の共役ジエン単量体の残分に添加する
(4) 二段階法
(a) 共役ジエン単量体の不在又は少量の共役ジエン単量体の存在下,アルキル化剤を,ランタニド化合物と約−20°〜80℃の温度で混合する。
(b) 前述の混合物及び残存する構成成分を段階的又は一斉のいずれの方法で重合する単数又は複数の共役ジエン単量体の残分に注入する(使用する場合,Ni含有化合物はいずれの段階にも含めることができる)。
一以上の触媒成分の溶液を,前述の方法により重合系外で調製する場合,有機溶媒又はキャリヤーを好適には使用する。有用な有機溶媒としては,前述のものが挙げられる。
【0070】
シス−1,4−ポリジエンの製造は,触媒的に効果的な量の触媒組成物の存在下での共役ジエン単量体の重合によってなされる。重合質量で採用される全触媒濃度は,成分の純度,重合温度,重合速度及び所望の転換率,所望の分子量並びに多くの他の要因などの多種の要因との相互作用に依存する。従って,個々の触媒成分の触媒的に効果的な量を使用すべきであると言う以外に,具体的な全触媒濃度を絶対的に示すことはできない。一般に使用されるランタニド化合物の量は,共役ジエン単量体100g当たり約0.01〜約2mmol,好適には約0.02〜約1mmol,より好適には約0.03〜約0.5mmolの範囲に及ぶ。他の全ての成分は,一般に,ランタニド化合物の量に基づいた量で添加される(前記で規定した多種の比率を参照)。
【0071】
重合を、好適には有機溶媒中で,すなわち,単量体が凝縮相中にある溶液重合又は沈殿重合として実施する。触媒成分は,好適には有機液体内に溶解又は懸濁される。重合初期に重合媒体中に存在する単量体量(wt.%)は,一般的に,約3〜約80%,好適には約5〜約50%及びより好適には約10%から約30%の範囲に及ぶ(また,重合は,凝縮液相中又は気相中のいずれかで行われるバルク重合手段によっても実施できる)。
【0072】
バッチ,連続又は半連続方法のいずれを採用するかに関わらず,重合は,好適には,中程度から激しく撹拌して,不活性保護気体により提供される無酸素条件下で行われる。重合温度は,広範囲に変更してもよいが,典型的には,約20°〜約90℃の温度が採用され,熱を,外部冷却及び/又は単量体又は溶媒の蒸発による冷却によって除去できる。採用される重合圧力は,広範囲に変更してもよいが,典型的には約0.1〜約1MPaの圧力が採用される。
【0073】
1,3−ブタジエンを重合する場合,シス−1,4−ポリブタジエンは,一般的に,ポリスチレン標準を用いたGPCによって決定された約5000〜約200,000ダルトン,約25,000〜約150,000ダルトン又は約50,000〜約125,000ダルトンのMを有する。重合体の多分散は,一般的に,約1.5〜約5.0,典型的には約2.0〜約4.0の範囲に及ぶ。
【0074】
得られたポリジエンは,好適には,少なくとも約60%,少なくとも約75%,少なくとも約90%及び更に少なくとも約95%のシス−1,4−結合含有量を有し,約7%以下,約5%以下,約2%以下,約1%以下の1,2−結合含有量を有し得る。
【0075】
採用した重合方法の種類に関わらず,この時点で,反応混合物を,その比較的高い重合体濃度ゆえに通常「ポリマーセメント」と呼ぶ。
【0076】
上記式(IV)中で定義した種類の末端官能部を提供することで,失活前に,有利なことには,上記ポリマーセメント状態にある場合,重合体を官能化できる。この官能化に影響を与える一つの方法は,末端活性な重合体と反応可能な基に加えて一以上のヒドロキシル基又は加水分解可能な基(すなわち,一以上のOR4置換基)を含む一以上の芳香族化合物をポリマーセメントへ導入することと、かかる単数又は複数の化合物を反応性重合体鎖の末端で反応させることを伴う。かかる種類の化合物を以降,停止化合物と呼ぶ。
【0077】
停止化合物が,一以上のOR4置換基を含む場合,各々がアリール基の同一の環上にあってもよく,又は二以上がアリール基内の異なる環上にあってもよい。アリール基が三以上のOR4置換基を含む場合,それら全てが同一の環上にあってもよいか,その二つが同一の環上にあって,単数又は複数の他の基が単数又は複数の他の環上にあってもよいか、又はその各々が別の環上にあってもよい。
【0078】
停止化合物の好適な基としては,少なくとも二つのOR4置換基を有するアリール基のあるものが挙げられ,その中でも好適なのは,少なくとも二つのOR4置換基がアリール基の同一の環上にあるものである。後者の中でも,特に好適なのは,OR4置換がアリール基,好適にはフェニル基内の同一環の3位及び4位にあるものである。
【0079】
式(IV)に示したような官能部を提供するのに使用できる化合物の例としては,下記一般式を有するものが挙げられる。
【化7】

[式中,各R5は独立に水素原子,ヒドロキシル基,アルコキシ基又はヒドロカルビル基,好適にはアルキル基,より好適にはC1〜C3アルキル基であり,特定の実施形態において,各R5はHであってもよい。前述に加えて,二以上のR5基が共に,例えば,アントロン及びフラボン、すなわち、

【化8】

などの他の環を形成してもよい。]

式(VIIf)及び(VIIg)と上記式(IV)を比較することで,式(IV)で表わされる末端官能部において,R6及びR3の一部分が連結して,単数又は複数の原子と共に結合し(直接又は間接的に),R3アリール基と結合又は融合する環を形成することが分かる。これは下記一般式によって図示的に表わすことができる。

【化9】

[式中,各変数は上記定義と同様である。]
【0080】
前述は,適例で限定されないと解される。例えば,前述の代表的な化合物は,各々隣接するヒドロキシル置換基を含む(しかしながら,式(VIIf)は隣接ヒドロキシル置換基がない一つの環を含む)が,既に記載したように,ヒドロキシル置換基は隣接する必要がない。前述の式(VIIa)〜(VIIg)中に特には示されていないが,有用な化合物の範囲内に含まれるのは,フェニル基以外のアリール基を有するもの,カルボニルC原子に直接結合しないアリール基を有するもの,カルボニルC原子がOでなくS原子に結合するもの(すなわち,チオケト類縁体),Z’が単結合以外であるもの等である。R3がフェニル基以外である場合,ヒドロキシル置換基は,同一又は異なる環上にあってもよく,それらが一以上の環上にある場合,少なくともいくらか近接する,すなわち,それらが,4,好適には3,更により好適には2以下の他の環原子によって分離されている環のC原子に直接結合することが好ましい。
【0081】
更に,上記で示唆したように,化合物自体は,ヒドロキシル基を含有する必要はなく,その代わりに,容易に加水分解可能され,反応後にヒドロキシル基を提供するような基を含有できる。保護化合物は,一般的に,式(VIIa)〜(VIIg)に関して,一部又は全部のOH基の位置においてOR基について,上記で定義したものと同様の構造を有する。限定されない例として,保護化合物は,概して,各R5がHである式(VIIa)からの化合物に類似し、下記式で表わすことができる。
【化10】

[式中,各R11は,独立してヒドロカルビル基,例えば,直鎖又は分岐アルキル基である。ヒドロキシル含有化合物に関する上記のものと同様の変形は,保護化合物について想定される。]
【0082】
式(VIIa)〜(VIIg)及び(VIII)で表される各化合物は,カルボニル基を含む。カルボニル基は,カルボアニオン重合体鎖との反応および該重合体鎖への結合に都合のよい点を提供する。他の潜在的に有用な反応性基の限定されない例示としては,アルデヒド,(チオ)ケトン,(チオ)エステル,ジ(チオ)エステル,アミド,エポキシ,ハロシラン等が挙げられる。
【0083】
これらの種類の化合物の予め製造した反応性重合体との反応は,比較的短時間(数分間〜数時間)に中程度の温度(例えば,0°〜70℃)で実施できる。
【0084】
予め製造した反応性重合体と反応するかかる化合物の量は,所望する効果の程度,採用した非従来型の単数又は複数の充填剤の量,従来型対非従来型の充填剤粒子の比率等に有意に大きく依存して,幅広く変化できる。反応性重合体鎖の量(一般的に,開始剤又は触媒の当量に基づき決定される)に基づいて,式(VIIa)〜(VIIg)及び(VIII)に該当する化合物の量は,一般的に,約1:10〜約5:4,一般的に約1:5〜約9:8及び典型的には約1:2〜約1:1の範囲に及ぶことができる。
【0085】
記載した種類の停止化合物のより少ない量を,議論した化合物の前後又は該化合物と共に添加できる他の官能化剤との反応用にいくつかの反応性重合体末端を保護するように,特定の実施形態において採用できる。この種類の複数の官能化は,前述したような官能性開始剤を使用することで,少なくともある程度は回避できる。また,式(IV)及び(IVb)によって定義された官能部を有する重合体の少なくとも一部の実施形態は,保護された類縁体と同様に,カーボンブラック及びシリカとの優れた相互作用を示すことができ,そのため,複数の官能化反応を必要としないようにすることができる。
【0086】
前述の種類の停止化合物を採用しないが,高分子が,開始剤及び式(V)の種類の単量体のいずれか又は両方から誘導された少なくとも一つの官能化単位を含む場合,追加の官能化は,限定されないが,Sn,Si及びNを含むヘテロ原子を含有する化合物との末端反応から得ることができる。代替の又は追加の停止化合物の特定の例示としては,1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI),3−ビス(トリメチルシリル)アミノプロピル−メチルジエトキシシラン(APMDEOS)に加えて,米国特許第3,109,871号,4,647,625号,4,677,153号,5,109,907号及び6,977,281号及びこれらに引用されている参考文献並びにこれらの特許を引用する後の刊行物中に記載されたものが挙げられる。かかる種類の官能化について下記例73〜75中に記載している。
【0087】
この時点で,得られた重合体は,一種類以上のポリエン・マー及び少なくとも一つの直接結合したOR4置換基を有するアリール基を含む少なくとも一つの官能化単位を含む。単数又は複数の官能化単位は,開始化合物,単数又は複数の単量体又は停止化合物から誘導できる。特定の形態において,二以上の官能化単位を組み入れることができ,これらは複数のマー,開始剤と一以上のマー,末端基と一以上のマー又は三種類全てから得ることができる。
【0088】
置換基のR4部位の同定は(すなわち,H原子又は保護基のいずれであるか),一部分である単位の起源によって決まる。開始剤及び/又は単量体から誘導された単位はOR基を有し,一方,停止化合物から誘導された単位はOR又はOH基を有しうる。充填剤粒子との最大相互作用力を促進するように(重合体が,ゴム組成物の一部として使用される場合),大部分,好適には全てのR部位がH原子へ転換されることを確実にすることが典型的には望ましい。下記に記載した加工工程(失活も含む)は,少なくともR部位の一部で加水分解するには十分なものであり,それによって,一以上のヒドロキシル置換基を,重合体内の一以上のアリール基に与える。代わりとして,広範に,好適には完全に加水分解を促進するように設計された別個の反応工程を採用できる。下記例のいくつかにおいて採用した適例な技術から,当業者は他の潜在的に効果的な反応を想定できる。更に,当業者は,R1基,R3基,R6基又は他の場所のいずれかに存在するOR又はOH基が,本加工工程及び/又は一種類以上の粒子状充填剤(以下に記載)との配合工程中に更なる反応を行ってもよいことを理解する。
【0089】
失活は,重合体及びアルコール又は酸などの活性水素含有化合物を約25°〜約150℃の温度で約120分間まで撹拌することで行うことができる。
【0090】
溶媒を,失活したポリマーセメントからドラム乾燥、押出機乾燥、真空乾燥又は同類のもの等の通常の技術により除去でき,水、アルコール又は水蒸気、熱脱溶媒和等での凝固と組み合わせてもよい。凝固を行う場合、オーブン乾燥が望ましい場合がある。
【0091】
得られた重合体は,トレッドストック配合物に使用できるか,又は,天然ゴム、及び/又は例えば,ポリエン由来のマー単位を含む一以上の単独重合体及び二元共重合体(例えば,ポリ(ブタジエン),ポリ(イソプレン)及びブタジエン,イソプレン等を組み入れた二元共重合体等),SBR,ブチルゴム,ネオプレン,EPR,EPDM,NBR,シリコーンゴム,フルオロエラストマー,エチレン/アクリルゴム,EVA,エピクロロヒドリンゴム,塩素化ポリエチレンゴム,クロロスルホン化ポリエチレンゴム,水素化ニトリルゴム,テトラフルオロエチレン/プロピレンゴム等を含むなどの非官能化合成ゴムを含む従来採用されているトレッドストックゴムのいずれとも混合できる。単数又は複数の官能化重合体を単数又は複数の従来のゴムと混合する場合,その量は,単数又は複数の従来のゴムが全ゴムのバランスを整えながら,全ゴムの約5〜約99%で変えることができる。最小量は,所望するヒステリシス低減度合いに大いに依存する。
【0092】
エラストマー配合物は,典型的には,添加した単数又は複数の充填剤の全体積をエラストマーストックの全体積で割ったものである約25%の体積分率で充填される。従って,典型的な(組み合わせた)補強充填剤の量は約30〜100phrである。
【0093】
潜在的に有用なカーボンブラック材料としては,限定されないが,ファーネスブラック,チャンネルブラック及びランプブラックが挙げられる。より具体化したカーボンブラックの例としては,超耐摩耗性ファーネスブラック,高耐摩耗性ファーネスブラック,高速押出性ファーネスブラック,微粒子ファーネスブラック,準超耐摩耗性ファーネス(ISAF)ブラック,半補強性ファーネス(SRF)ブラック,中級作業性チャンネルブラック,難作業性チャンネルブラック及び導電性チャンネルブラック及びアセチレンブラックが挙げられ,これらの二以上の混合物も使用できる。少なくとも20m2/g,好適には少なくとも約35m2/gの表面積(EMSA)を有するカーボンブラックが好適である。表面積の値は,ASTM D-1765によって決定できる。カーボンブラックは、ペレット化された形態でも、ペレット化されていない凝集した塊でもよいが,ペレット化されていないカーボンブラックが,特定の混合機に好適でありうる。
【0094】
使用されるカーボンブラックの量は,歴史的には重合体100部当たり(phr)約50質量部(pbw)までであって,約5〜約40phrが典型的である。特定の油展処方に関しては,カーボンブラックの量は,幾分高く,例えば,約80phrの桁である。
【0095】
また,非晶質シリカ(SiO2)も通常充填剤として使用される。 シリカは,典型的には水中での化学反応によって製造され,超微細球状粒子としてとして沈殿させ、該超微細球状粒子が強く会合して凝集体になり、該凝集体は、順にそれほど強くなく結合し凝集塊になる。表面積は,異なるシリカの補強特性の信頼できる測定結果を与え,BET法 (Brunauerら,J. Am. Chem. Soc., vol. 60, p. 309 以下を参照)では,450m2/g以下表面積,普通は約32〜約400m2/g間及び典型的には 約100〜約250m2/gが一般的に有用と考えられている。シリカの商業的供給者としては,PPGインダストリーズ社、ピッツバーグ、ペンシルバニア州),グレースダビソン社(ボルティモア、メリーランド州),デグサ社(パーシッパニー、ニュージャージー州),ロディアシリカシステムズ社(クランバリー、ニュージャージー州)及びJ.M.フーバー社(エジソン、ニュージャージー州)が挙げられる。
【0096】
補強充填剤としてシリカを採用した場合,良好な混合及び単数又は複数のエラストマーとの相互作用を確実にするように,シランなどのカップリング剤を添加することが、通例である。一般に,約4〜20%の間の範囲で添加されるシランの量は,配合物中に存在するシリカ充填剤の重量に基づく。カップリング剤は,一般式A−T−Gを有することができ,式中,Aは,シリカ充填剤の表面上の基(例えば,表面のシラノール基)と物理的及び/又は化学的に結合可能な官能基を表わし,Tは,炭化水素基の結合を表わし,Gは,エラストマーと結合可能な(例えば,硫黄含有結合を介して)官能基を表わす。かかるカップリング剤としては,オルガノシラン,特には多硫化アルコキシシラン(例えば,米国特許第3,873,489号,第3,978,103号,第3,997,581号,第4,002,594号,第5,580,919号,第5,583,245号,第5,663,396号,第5,684,171号,第5,684,172号,第5,696,197号等参照)又は上述のG及びA官能部を含有するポリオルガノシロキサンが挙げられる。加工助剤の添加によって、採用されるシランの量を低減することができる。例えば,加工助剤として使用した糖の脂肪酸エステルの記載に関しては,米国特許第6,525,118号参照。加工助剤として有用な追加の充填剤としては,クレイ(含水ケイ酸アルミニウム),タルク(含水ケイ酸マグネシウム)及びマイカなどの鉱物充填剤だけでなく,尿素及び硫酸ナトリウムなどの非鉱物充填剤が挙げられる。好適なマイカは,アルミナ,シリカ及び炭酸カリウムを原則的に含むことができるが,他の変形もまた有用でありうる。追加の充填剤は,約40phrまで,典型的には約20phrまでの量で使用できる。
【0097】
シリカは,通常約100phrまで,典型的には約5〜約80phrの量で採用される。有用な上限範囲は,充填剤が付与できるような高粘度によって制限される。カーボンブラックも併用される場合,シリカの量は,約1phrという低さまで低減でき,シリカの量を低減するにつれ,加工助剤,更にもしあるならシランの量をより少なく使用できる。
【0098】
比較的高い界面自由エネルギー,すなわち,水との表面自由エネルギー値(γpl)を有する一以上の非従来型の充填剤は,好適にはカーボンブラック及び/又はシリカとともに又は置換して使用される。「比較的高い」という用語は,例えば,水−空気界面のものより大きい,好適にはこの値の数倍(例えば,少なくとも2×,少なくとも3×,更には少なくとも4×),非晶質シリカのγplの値の少なくとも数倍(例えば,少なくとも2×,少なくとも3×,少なくとも4×,少なくとも5×,少なくとも6×,少なくとも7×,少なくとも8×,少なくとも9×又は更には少なくとも10×),例えば,少なくとも約300,少なくとも約400,少なくとも約500,少なくとも約600,少なくとも約700,少なくとも約750,少なくとも約1000,少なくとも約1500及び少なくとも約2000mJ/m2などの絶対的用語で,例えば,約300〜約5000mJ/m2,約350〜約4000mJ/m2,約400〜約5000mJ/m2,約450〜約4000mJ/m2,約500〜約5000mJ/m2などの範囲で,及び前述の及び/又は他の上限値及び下限値の組み合わせ内の多種の下位範囲で等の多様な方法で定義又は特徴付けることができる。
【0099】
限定されない比較的高い界面自由エネルギーを有する天然生成物質の例としては,F−アパタイト,ゲーサイト,ヘマタイト,ジンカイト,テノライト,ギブサイト,クォーツ,カオリナイト,パイライトの全形等が挙げられる。また,特定の合成複合酸化物もこの種の高い界面自由エネルギーを示すことができる。
【0100】
前述の種類の材料は,典型的にはカーボンブラック又は非晶質シリカのいずれよりも高密度である。それゆえ,特定質量のカーボンブラック又はシリカを等質量の非従来型充填剤で置換すると,典型的には所与の配合物中に存在している充填剤の全体体積がはるかに小さくなる。そのため,置換は,典型的には等重量ではなく,等体積基準で行われる。
【0101】
一般に,単数又は複数の従来の粒子状充填剤材料の約5〜約60%を,およそ等体積の(約0.8×から約1.2×)非従来型の充填剤粒子で置換できる。特定の実施形態において,単数又は複数の従来の粒子状充填剤材料の約10〜約58%を,およそ等体積の(約0.85×から約1.15×)非従来型の充填剤粒子で置換することが十分である。他の実施形態において,単数又は複数の従来の粒子状充填剤材料の約15〜約55%を,およそ等体積の(約0.9×から約1.1×)非従来型の充填剤粒子で置換することが適切である。更に他の実施形態において,単数又は複数の従来の粒子状充填剤材料の約18〜約53%を,およそ等体積の(約0.95×から約1.05×)非従来型の充填剤粒子で置換することが好適でありうる。
【0102】
重量が等しくない問題点は,標準的でない粒子を採用することで,克服ないし改善できうる。例えば,一種類以上の非従来型の充填剤の実質的に中空な粒子だけでなく,一種類以上の非従来型の充填剤配合物を含む表面を有するように被覆した比較的軽量な粒子が想定される。
【0103】
非従来型の充填剤粒子は,一般に,配合物に採用した従来型の充填剤と略同サイズでありうる。言い換えれば,前述の米国特許第5,066,702号中に採用されたもののように極めて大きな粒子や前述の米国特許第6,972,307号中に採用されたもののように極めて小さな粒子のいずれでもないことが要求される。一般に,比較的小さな粒子が,補強目的及びトレッド表面で大多数の粒子が利用可能であることを確保するための両方で好適である。
【0104】
また,他の従来のゴム添加剤も添加できる。これらとしては,例えば,プロセスオイル,可塑剤,酸化防止剤及びオゾン劣化防止剤などの抗分解剤,硬化剤等が挙げられる。
【0105】
全ての成分を,例えば,バンバリーミキサー又はブラベンダーミキサーなどの標準的な装置で混合できる。典型的には,混合は二以上の段階で行われる。第一段階中(マスターバッチ段階としても既知),混合は,典型的には約120°から約130℃の温度で開始し,いわゆる落下温度,典型的には約165℃に達するまで上昇させる。
【0106】
処方がカーボンブラック以外の充填剤を含む場合,単数又は複数のシラン成分を別個に添加するため,別個のリミル(re-mill)段階が多くの場合採用される。本段階は,マスターバッチ段階で採用したのと同じであるが,多くの場合,やや低い温度、すなわち,約90℃から落下温度の約150℃までの傾斜する温度で多くの場合行われる。
【0107】
補強されたゴム配合物を,通常,例えば,硫黄又は過酸化物系硬化システムなどの一以上の既知の加硫剤を約0.2〜約5phr用いて硬化する。適した好適な加硫剤の一般的な開示について,関心ある読者には,カーク・オスマー(Kirk-Othmer),Encyclopedia of Chem. Tech.,第3版,(ワイリーインターサイエンス、ニューヨーク州、1982年),20巻,pp.365-468に載せられた総説等を薦める。加硫剤,促進剤等は,最終混合段階で添加する。望ましくないスコーチ及び/又は加硫の早期開始を低減するため,本混合工程は,多くの場合より低い温度,例えば,約60°〜約65℃で開始し,約105°から約110℃より高くならない温度で行われる。
【0108】
その後,配合された混合物を,いずれの多種の部材に形成する前に,シート状に加工し(例えば,圧延),その後,典型的には,混合段階中で採用される最高温度よりも約5°〜約15℃高い温度,最も通常には約170℃で加硫される。
【0109】
下記に示す実施例は、読者に本発明の実施に有用となり得る詳細な条件及び材料を提供するが、これらの実施例は本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0110】
全ての例において,陽性Nパージ下で抽出隔壁ライナー及び穴あきクラウンカップでで予め封止された乾燥ガラス容器を,全ての調製に対して使用した。
【0111】
全ての核磁気共鳴(NMR)試験は,バリアン(Varian 商標)300MHz分光分析装置(Varian, Inc.社製,Palo Alto, California)上で実施した。
【0112】
「バウンドラバー」に一致するデータは,J.J. Brennanら,Rubber Chem. and Tech.,40,817 (1967)により記載された手順を用いて決定した。
【0113】
コールドフロー試験は,スコット(Scott 商標)試験装置を使用して実施した。試料を,予備加熱加圧を用いるモールド内で,重合体2.5gを100℃で20分間溶融加圧することにより調製した。得られた円筒形試料は,約12mmの均一な厚さを有しており,モールドから外す前に室温へ冷却した。試料は,較正錘5kgの荷重下に置かれた。試験は,SBR試料については約30分間,ポリブタジエン試料については約8分間(錘から解放された時間から計測したもの),試料厚さを時間の関数として記録しながら,実施された。適切な時間(約30分間又は約8分間)の終わりの試料厚さは,一般的に,耐コールドフロー性の許容しうる指標であると考えられる。
【0114】
ムーニー粘度 (ML1+4)値は,アルファテクノロジー(Alpha Technologies 商標)ムーニー粘度計(大型ローター)で,1分間の暖機時間と4分間の運転時間を用いて測定した。引張りの機械的特性はASTM−D412に記載されている標準的手順を用いて測定した。ペイン効果(ΔG’,すなわち,0.25%歪でのG’と14%歪でのG’との間の差)及びヒステリシス(tanδ)のデータは,60℃及び10Hz(歪み掃引)並びに2%歪み及び10Hz(温度掃引)で行われた動的試験から得られた。引張り特性に関しては,MYは伸びY%時のモジュラス,Tbは破壊時の引張り強度及びEbは破壊時の伸び百分率である。
【0115】
A.例1〜33(停止剤)
これらの例において,スチレン(ヘキサン中33%),ヘキサン,n−ブチルリチウム(ヘキサン中1.60M),2,2−ビス(2’−テトラヒドロフリル)プロパン(1.6Mヘキサン溶液,CaH上で保存)及び2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール(BHT)ヘキサン溶液を使用した。
【0116】
市販試薬及び出発物質としては,以下が挙げられ,すべて,Sigma-Aldrich Co.社(St. Louis, Missouri)から入手し,特別な例中に他の記載が限り,更なる精製なしに使用した。3,4−ジヒドロキシベンズアルデヒド,3,4−ジヒドロキシベンゾフェノン,イミダゾール,t−ブチル(クロロ)ジメチルシラン,ジエチルエーテル,NHCl,MgSO(無水),THF,酢酸エチル,メチルアルミノキサン(MAO),ジイソブチルアルミニウムヒドリド,HMI,ジエチルアルミニウムクロリド,4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン(DEAB)及びテトラブチルアンモニウムフルオライドフルオリド(TBAF)が挙げられる。
【0117】
例の大部分の試験データは,下記に示す処方に従って作製した充填組成物において行った。
表1a(酸化チタン,ルチル),
表1b(カーボンブラック及び水酸化アルミニウム),
表1c(カーボンブラック及び酸化チタン)及び
表1d(カーボンブラック)。
これらの処方で採用した酸化チタンは,粒径約0.17μmで比重約4.2を有するトロノックス(Tronox 商標)CR-834,アルミナ安定化TiO2(Tronox Inc.社製,Oklahoma City, Oklahoma)であり,採用した水酸化アルミニウムは,メディアン粒径約1μmで比重2.42g/cm3を有するハイドラル(Hydral 商標)PGA-HD,Al(OH)3粒子 (Almatis, Inc.社製 Leetsdale, Pennsylvania)である。これら(及び同様のその後の表)において,N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン(6PPD)は酸化防止剤として作用し,2,2’−ジチオビス(ベンゾチアゾール)(MBTS),N−tert−ブチルベンゾチアゾール−2−スルフェンアミド(TBBS)及びN,N’−ジフェニルグアニジン(DPG)は促進剤として作用する。ブラックオイルは,比較的少量の多環式芳香族(PCA)化合物を含む伸展油である。
【表1−1】

【表1−2】

【表1−3】

【表1−4】

【0118】
例1:3,4−ビス(tert−ブチルジメチルシリロキシ)ベンゾフェノンの合成
窒素雰囲気下,乾燥フラスコへ,3,4−ジヒドロキシベンゾフェノン約6.0g,トリエチルアミン約6.0g,4-(ジメチルアミノ)ピリジン約0.14g及びDMF30mLを注入した。その後,tert-ブチル(クロロ)ジメチルシラン約9.3gのDMF溶液30mLを滴下して添加した。
【0119】
反応混合物を,約100mLのヘキサン及び約30mLの飽和NH4Cl溶液を注入する前に,室温で約4時間撹拌した。有機相を50mLの水で三回洗浄し,無水MgSO4で乾燥した。
【0120】
溶媒を除去した後,残渣を,ヘキサン/酢酸エチル(85:15,v/v)を溶出液とするフラッシュシリカゲルカラムによって分離した。およそ11.5g(収率93%)の白色固体が得られた。プロトン及び13CNMR分光分析で,生成物が3,4−ビス(tert−ブチルジメチルシリロキシ)ベンゾフェノン(BTBDMSBP)であることを確認した。
【0121】
例2:3,4−ビス(tert−ブチルジメチルシリロキシ)ベンズアルデヒドの合成
窒素雰囲気下,乾燥フラスコへ,3,4−ジヒドロキシベンズアルデヒド約10.0g,トリエチルアミン約16.1g,4−(ジメチルアミノ)ピリジン約0.35g及びDMF60mLを注入した。tert−ブチル(クロロ)ジメチルシラン約24.0gのDMF溶液60mLをその後滴下して添加した。
【0122】
反応混合物を,ヘキサン約200mL及び飽和NH4Cl溶液約100mLを注入する前に,室温で約4時間撹拌した。有機相を水100mLで三回洗浄し,無水MgSO4で乾燥した。
【0123】
溶媒を除去した後,残渣を,ヘキサン/酢酸エチル(95:5,v/v)を溶出液とするフラッシュシリカゲルカラムによって分離した。およそ25.5g(収率96%)の白色固体が得られた。プロトン及び13CNMR分光分析で,生成物が3,4−ビス(tert−ブチルジメチルシリロキシ)ベンズアルデヒド(BTBDMSBA)であることを確認した。
【0124】
例3〜5:スチレン/ブタジエン二元共重合体
2でパージした撹拌機を備えた反応器へ,ヘキサン1.39kg,スチレン溶液0.37kg及びブタジエン溶液2.27kg(ヘキサン中21.6wt%)を添加した。反応器へ,n−ブチルリチウム溶液3.19mL,引き続き,2,2−ビス(2’−テトラヒドロフリル)プロパン溶液1.13mLを注入した。反応器ジャケットを50℃へ加熱し,重合を約75分間続行した。ポリマーセメントを,2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニルを含有するイソプロパノール中で失活する前に,室温へ冷却し,その後ドラム乾燥した。これを以下例3と呼ぶ。
【0125】
以下の重合を基本的に繰り返した。しかしながら,凝固前に,BTBDMSBP(例1から)0.83Mヘキサン溶液6.0mLを反応器へ添加し,ポリマーセメントを,室温へ冷却する前に,50℃で更に約30分間撹拌した。ポリマーセメントをN2でパージした容器に移し,そこへTBAF溶液約130mL(THF中0.23M)を添加した。容器を25℃の水槽中で約4時間,引き続き,50℃の水槽中で更に約30分間回転させた。その後,容器の中身を凝固させ,上述のようにドラム乾燥した。これを以下例4と呼ぶ。
【0126】
ブタジエンの21.9wt.%溶液約2.24kgを使用した以外は,重合を再び基本的に繰り返した。凝固の前に,BTBDMSBA(例2から)1.0Mヘキサン溶液4.9mLを反応器へ添加し,ポリマーセメントを例4からのと同様に加工した。これを以下例5と呼ぶ。
【0127】
これらスチレン/ブタジエン二元共重合体の特性を以下の表にまとめる。分子量はSBR標準品を用いたGPCを使用して決定し,1,2−結合含有量は1H NMR分光法から決定した。

【表2】

【0128】
例6〜11:充填組成物
例3〜5からの重合体を上記表1aに示した処方で使用して,組成物を得,それから以下例6〜8と名付けた加硫物を調製した。
【0129】
同じ重合体を上記表1b中に示した処方で使用して,組成物を得,それから以下例9〜11と名付けた加硫物を調製した。
【0130】
各配合物(すなわち,充填組成物)の混合は,65gのブラベンダー(Brabender 商標)密閉式混合機で行った。高圧高温での加硫後,配合物の物理的特性を測定し,結果を下記表3中にまとめた。
【表3】

【0131】
例6及び9(非官能化対照)と各々比較して,例7〜8及び10〜11は,室温でのショアA硬度値が有意に高く,50℃でのリバウンド値が有意に高く(一般に,ヒステリシスの低減に相当する),室温での引張り強度が強化され,−20℃でのモジュラス値が低下し(一般に,良好な氷上走行性に相当する),60℃での弾性モジュラスが高く及び歪みが大きく(一般に,取扱い性能)及び60℃での損失正接が有意に低い(一般に,ヒステリシスの低減に相当する)ことを示した。
【0132】
例12〜14:官能化スチレン/ブタジエン二元共重合体
2パージした撹拌機を備えた反応器へ,ヘキサン1.39kg,スチレン溶液0.37kg及びブタジエン溶液2.27kg(ヘキサン中21.6wt.%)を添加した。反応器へ,トルエン中3.0MのHMI1.62mL及びn−ブチルリチウム溶液3.19mL,引き続き,2,2−ビス(2’−テトラヒドロフリル)プロパン溶液1.13mLを注入した。反応器ジャケットを50℃へ加熱し,重合を60分間継続した。ポリマーセメントを,失活前に,室温へ冷却し,前記のようにドラム乾燥した。これを以下例12と呼ぶ。
【0133】
前述の重合を基本的に繰り返した。しかしながら,重合を50℃で約75分間継続し,凝固前に,BTBDMSBP(例1から)0.83Mヘキサン溶液6.0mLを添加し,ポリマーセメントを,室温へ冷却する前に,50℃で更に約30分間撹拌した。ポリマーセメントをN2でパージした容器に移し,そこへTBAF溶液約130mL(THF中0.23M)を添加した。容器を25℃の水槽中で約4時間,引き続き,50℃の水槽中で更に約30分間回転させた。その後,容器の中身を凝固させ,上述のようにドラム乾燥した。これを以下例13と呼ぶ。
【0134】
ブタジエンの21.9wt.%溶液約2.24kgを使用した以外は,例13に関連して記載した重合及び加工を再び実質的に繰り返した。凝固の前に,BTBDMSBA(例2から)1.0Mヘキサン溶液4.9mLを反応器へ添加した。これを以下例14と呼ぶ。
【0135】
これら二元共重合体の特性を以下の表にまとめた。
【表4】

【0136】
例15〜20:充填組成物
例12〜14からの重合体を上記表1cに示した処方で使用して,組成物を得,それから各々以下例15〜17と名付けた加硫物を調製した。
【0137】
同じ重合体を,上記表1b中に示した処方で使用して,他の組成物を得,それから以下例18〜20と名付けた加硫物を調製した。
【0138】
充填組成物での混合,加硫及び試験は,例6〜11に関して上記したものと同様に行った。
【表5】

【0139】
表5のデータは,表3に関して上記で見られたのと同様の傾向を示す。
【0140】
例21:3,4−ビス(トリメチルシリロキシ)ベンズアルデヒドの合成
乾燥フラスコへ,3,4−ジヒドロキシベンズアルデヒド約4.83g,イミダゾール約4.80g及びTHF50mLを窒素雰囲気下注入した。n−ブチルリチウム約43.8mLの1.6M溶液を滴下して添加する前に,溶液を−78℃へ冷却した。
【0141】
クロロトリメチルシラン約7.61gを滴下して添加する前に,反応混合物を室温へ加温し,その後,反応混合物を室温で約2時間撹拌した。
【0142】
LiClが容器底部に沈殿した後,3,4−ビス(トリメチルシリロキシ)ベンズアルデヒド(BTMSBA)約0.33Mを以下例26〜27において停止化合物としてすぐに使用した。
【0143】
例22〜27:シス−1,4−ポリブタジエン
乾燥し,封冠したN2換気した容器へ下記成分を添加することで,触媒を調製した。
【表6】

混合物を,以下の重合に使用する前に,室温で15分間エージング処理した。
【0144】
2でパージした撹拌機を備えた反応器へ,ヘキサン1.22kg及びブタジエン溶液2.86kg(ヘキサン中21.4wt。%)を添加した。反応器へ触媒混合物Aを注入し,ジャケット温度を60℃へ設定した。重合を60分間継続した。ポリマーセメントを,失活前に,室温へ冷却し,前記のようにドラム乾燥した。これを以下例22と呼ぶ。
【0145】
前述の重合を基本的にあと三回繰り返した。第一に,ヘキサン1.3kg,ブタジエン溶液2.76kg(ヘキサン中22.2wt.%)だけでなく触媒混合物Bも使用した。これを以下例23と呼ぶ。
【0146】
第二に,凝固前に触媒混合物Cを使用し,トルエン中0.5 MのDEAB(ポリマーセメント100g当たり1.25mL)を添加し,65℃の水槽中約30分間反応させた。これを以下例24と呼ぶ。
【0147】
第三に,ヘキサン1.32kg,ブタジエン溶液2.76kg(ヘキサン中22.2wt.%)だけでなく触媒混合物Dも使用した。ポリマーセメントを三分割して容器に移し,失活前に以下のように処理し,前記のようにドラム乾燥した。
例25: ヘキサン中1.0M(ポリマーセメント100g当たり0.3mL)のBTBDMSBA(例2から)を添加し,TBAF溶液(THF中1.0M,ポリマーセメント100g当たり0.7mL)を添加する前に,セメントと65℃の水槽中約30分間反応させ,容器を25℃水槽中約4時間回転させた。
例26: ヘキサン中0.33M(ポリマーセメント100g当たり0.91mL)のBTMSBA(例21から)を添加し,セメントと65℃の水槽中約30分間反応させた。
例27 : ヘキサン中0.33M(ポリマーセメント100g当たり0.91mL)のBTMSBA (from 例21から)を添加し,イソプロパノール中1.0M(ポリマーセメント100g当たり1.0mL)のHClを添加する前に,セメントと65℃の水槽中約30分間反応させ,容器を50℃水槽中約30分間回転させた。
【0148】
これらポリブタジエンの特性を以下の表中にまとめた。前述と同様に, 分子量はGPCで測定し,重合体のミクロ構造はIR分光分析で測定した。コールドフロー抵抗値は上記と同様に測定した。
【表7】

【0149】
例28〜33:充填組成物
例22〜27からの重合体を上記表1dに示した処方で使用して,組成物を得,それから各々以下例28〜33と名付けた加硫物を調製した。
【0150】
充填組成物での混合,加硫及び試験は,例6〜11に関して上記したものと同様に行い,物理的特性を以下の表にまとめた。
【表8】

【0151】
表8のデータは,とりわけ,隣接する環の炭素原子に直接結合するヒドロキシル置換基を含有するアリール基で官能化したシス-1,4-ポリブタジエン官能化から作成した加硫物(例31〜33)が,非官能化対照重合体(例28〜29)又は更に官能化比較重合体(例30)から作成した加硫物と比較して,50℃でのtanδのとても有意な低減(ヒステリシスの低減に相当する)を表すことを示した。
【0152】
B.例34〜50(開始剤)
ブタジエン溶液(すべてヘキサン中),スチレン(ヘキサン中33%),ヘキサン,n−ブチルリチウム(n−BuLi,ヘキサン中1.69M),2,2−ビス(2’−テトラヒドロフリル)プロパン(1.6Mヘキサン溶液,CaHで保管)及びブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)ヘキサン溶液をこれらの例では使用した。
【0153】
市販試薬及び出発物質としては,下記が挙げられ,その全てを,特別な例中に他の記載が限り,更なる精製なしに使用した。
Sigma-Aldrich Co.社からは,3,4−ジヒドロキシベンズアルデヒド(97%),1,3−プロパンジチオール(99%),p−トルエンスルホン酸一水和物(98.5%),酢酸エチル(99.5%及び4−ジ(メチルアミノ)ピリジン(DMAP,99%),
ACROS Organics社からは,tert−ブチルジメチルシリルクロリド(98%)及びTBAF(約5%水を含有するTHF中1M)。
【0154】
試験は,表9a(粒子状充填剤としてシリカのみを採用する処方)および9b(粒子状充填剤としてカーボンブラックのみを採用する処方)に示した処方に従って作成した充填組成物について行った。
【表9−1】

【表9−2】

【0155】
例34:3,4−ジ(tert−ブチルジメチルシロキシ)フェニル−1,3−ジチアン
マグネティックスターラーバー及び冷却管を備える乾燥した500mLフラスコへ,3,4−ジヒドロキシベンズアルデヒド8.2g,p−トルエンスルホン酸一水和物1.6g及びTHF100mL,引き続き,1,3−プロパンジチオール6mLのTHF30mL溶液を添加した。この混合物を窒素雰囲気下約12時間還流した。室温へ冷却後,混合物をろ過し,無水MgSO4で乾燥する前に,ろ液を,飽和NaHCO3(100mL)で二回洗浄し,飽和NaCl溶液(100mL)で一回洗浄した。溶媒を留去し,残渣を,ヘキサン中50%酢酸エチルを溶出溶媒として使用するシリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いて精製した。油状生成物(13.3g,収率99%)が得られ,CDCl3中の1H及び13C NMRにより下記の構造であると確認した。
【化11】

【0156】
マグネティックスターラーバーを備える乾燥した500mLフラスコへ,本ジチアン13.3g,DMAP0.5g,THF100mL及びトリエチルアミン30mL,引き続き,tert−ブチルジメチルシリルクロリド18.7gのTHF溶液50mLを注射器で添加した。本混合物を室温で約1時間(窒素雰囲気下)撹拌した。固体を混合物からろ過し,ろ液を,ヘキサン中5%酢酸エチルを溶出溶媒として使用する,シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いて精製する前に,溶媒を留去した。白色固体(24.9g,収率92%)が得られ,CDCl3中の1H及び13C NMRにより本生成物が3,4−ジ(tert−ブチルジメチルシロキシ)フェニル−1,3−ジチアンであると確認した。
【0157】
3,5−,2,5−,2,3−等の3,4−ジ(tert−ブチルジメチルシロキシ)フェニル−1,3−ジチアンの類縁体は,対応するジヒドロキシベンズアルデヒドを用いて同様に調製できる。また,4−(tert−ブチルジメチルシロキシ)フェニル−1,3−ジチアンは,4−ヒドロキシベンズアルデヒドを出発物質として使用して調製できる。全てのベンズアルデヒドは,例えば,Sigma-Aldrich社などの市販業者から入手できる。
【0158】
例35:BTBDMSBA(例2の合成の代替)
マグネティックスターラーバーを備える乾燥した500mLフラスコへ,3,4−ジヒドロキシベンズアルデヒド約8.2g,DMAP約0.5g,THF100mL及びトリエチルアミン30mLを添加し,引き続き,tert−ブチルジメチルシリルクロリド約19.0gのTHF溶液50mLを注射器で添加した。この混合物を,室温で約1時間(窒素雰囲気下)撹拌した。固体を混合物からろ過し,ろ液を,ヘキサン中10%酢酸エチルを溶出溶媒として使用する,シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いて精製する前に,溶媒を留去した。ワックス状で,油上の半固体(21.3g,収率97%)を得た。1H及び 13C NMRにより,化合物がBTBDMSBAであると確認した。
【0159】
例36:SBR(対照)
2でパージした撹拌機を備えた反応器へ,ヘキサン1.47kg,スチレン溶液0.41kg及びブタジエン溶液2.60kg(ヘキサン中20.9%)を添加した。反応器へ,n−BuLi溶液約3.2mL,引き続き,2,2−ビス(2’−テトラヒドロフリル)プロパン溶液1.1mLを注入した。反応器ジャケットを50℃へ加熱し,約30分後,バッチ温度が約64℃でピークを打った。更に約30分後,ポリマーセメントを,BHTを含有するイソプロパノール中に滴下し,ドラム乾燥した。
【0160】
この重合体を書き表10中の試料36と呼ぶ。
【0161】
例37〜40:開始剤前駆体としての3,4−ジ(tert−ブチルジメチルシロキシ)フェニル−1,3−ジチアン
例36で採用したのと同様のN2でパージした反応器へ,ヘキサン1.37kg,スチレン溶液0.41kg及びブタジエン溶液2.71kg(ヘキサン中20.1%)を添加した。反応器へ,例34からのジチアン1.0Mヘキサン溶液5.9mL,引き続き,n−BuLi溶液3.9mLを注入した。約5分後,2,2−ビス(2’−テトラヒドロフリル)プロパン溶液1.1mLを添加した。反応器ジャケットを50℃へ加熱し,約35分後,バッチ温度が約67℃でピークを打った。
【0162】
更に約30分後,ポリマーセメントの一部分をガラス容器に移し,下記のようにして失活した。
試料37及び38では,イソプロパノール,
試料39では,BTBDMSBA(例35より),ヘキサン中1.0M(ベンズアルデヒドとLi原子の比率1:1を使用),及び
試料40では,ヘキサン中SnCl4,0.25M(SnとLiの比率1:1を使用)。
各試料を50℃水槽中で更に約30分間撹拌した。試料5〜7からの保護基を,室温で(約2時間)TBAF溶液(保護基の計算量と比べて約20%モル過剰)と反応させることで加水分解した。
【0163】
各ポリマーセメントを例36と同様に,凝固し乾燥した。
【0164】
例36〜40からの重合体の特性を下記表10にまとめた。表中,Mpは最頻分子量を表わす。
【表10】

【0165】
試料39は,下記試験手順に従った優秀なコールドフロー結果を示した。
【0166】
例41〜49:加硫物の調製及び試験
上記表9a及び9bからの処方を用いて,補強充填剤を含有する加硫可能なエラストマー配合物を試料36〜40から調製した。表9aの処方からの調製物を各々例41〜45と名付け,一方,表9aの処方からの調製物を各々例46〜50と名付けた。組成物を171℃で約15分間硬化した。
【0167】
歪み掃引の試験結果を表11a及び11bに作表し,一方,温度掃引の試験結果を表12a及び12bに作表した。
【表11−1】



【表11−2】

【表12−1】

【表12−2】

【0168】
表11a,11b,12a及び12bによれば,官能性開始剤で開始したSBR共重合体を採用する加硫物は,n−BuLiで開始した対照SBを採用する配合物と比較して,有意なヒステリシスの低減を呈することが示された。この効果は,末端官能化から得られた官能基が並存する及び/又は,保護基が加水分解されてヒドロキシル基を提供する場合に,強まる。同様の正の蛍光が,G'データについて表11a及び11b中に見ることができる。
【0169】
より完全な一連の物理的性能データを,例41,43〜44,46及び48〜49において得た。本データを下記表13中にまとめる。
【表13】

【0170】
C.例51〜87(単量体)
これらの例中で使用したブタジエン溶液(すべてヘキサン中),スチレン溶液(ヘキサン中33%),ヘキサン,n-ブチルリチウム(n−BuLi,ヘキサン中1.60M),2,2−ビス(2’−テトラヒドロフリル)プロパン(ヘキサン中1.6M溶液,CaH上で保管)及びBHTヘキサン溶液は,保管室在庫からのものである。
【0171】
市販試薬及び出発物質としては,下記が挙げられ,その全てを,特別な例中に他の記載が限り,更なる精製なしに使用した。
Sigma-Aldrich Co.社からは,2,3−ジヒドロキシベンズアルデヒド(97%),3,4−ジヒドロキシベンズアルデヒド(97%),3,5−ジヒドロキシベンズアルデヒド(98%),2,5−ジヒドロキシベンズアルデヒド(98%),3,4,5−トリヒドロキシベンズアルデヒド一水和物(98%),メチルトリフェニルホスフェニウムブロミド(MTP−Br,98%),酢酸エチル(99.5%)及びDMAP(99%),
ACROS Organics社からは,tert−ブチルジメチルシリルクロリド(98%)及びTBAF(約5%水を含有するTHF中1M)。
【0172】
カラムクロマトグラフィーは,200〜425メッシュのシリカゲル吸着剤(Fisher Scientific社製,Pittsburgh, Pennsylvania)を用いて行った。薄層クロマトグラフィーは,Sigma-Aldrich社から得たクロマトグラフィープレート上で行った。
【0173】
試験は,表9a及び9b(上記参照)中に示した処方に従ったゴム配合物から作製した加硫物について行った。
【0174】
例51:3,4−ジ(tert−ブチルジメチルシロキシ)スチレンの合成
撹拌し冷却(0℃)したMTP-Br23.2gの無水THF100mL溶液中へ,n−BuLi溶液40.6mLを窒素雰囲気下,滴下して添加した。約15分後,BTBDMSBA約22.3g(例35から)のTHF溶液30mLを,注射器を介して滴下した。得られた黄色懸濁液を,NH4Clで処理する前に約4時間撹拌した。この溶液をろ過し真空下濃縮した。残渣を,ヘキサン中5%酢酸エチルを溶出溶媒として使用するシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製し,集めた無色油約20.6g(収率94%)を得た。1H及び13C NMRで,化合物が,3,4−ジ(tert−ブチルジメチルシロキシ)スチレン(DTBDMSOS)であることを確認した。
【0175】
例52:SBR(対照)
2でパージした撹拌機を備えた反応器へ,ヘキサン0.81kg,スチレン溶液0.21kg及びブタジエン溶液1.20kg(ヘキサン中22.6%)を添加した。反応器へ,n−BuLi溶液約1.9mL,引き続き,2,2−ビス(2’−テトラヒドロフリル)プロパン溶液0.55mLを注入した。反応器ジャケットを50℃へ加熱し,約30分後,バッチ温度は約59℃でピークを打った。
【0176】
更に約30分後,各ポリマーセメントを,BHTを含有するイソプロパノール中に滴下し,ドラム乾燥した。この重合体を以下表14中の試料52と呼ぶ。
【0177】
例53〜55:3,4−ジ(tert−ブチルジメチルシロキシ)スチレン単位含有共重合体
例53と同様のN2でパージした反応器中での一連の重合を,ヘキサン0.81 kg,スチレン溶液0.21kg及びブタジエン溶液1.20kg(ヘキサン中22.6%)を含む混合物について行った。混合物は,特に採用したDTBDMSOS(ヘキサン中1.0M)及びn−BuLi溶液の量が異なる。
53 DTBDMSOS溶液2.6mL及び開始剤2.01mL,
54 DTBDMSOS溶液9.2mL及び開始剤1.92mL,
55 DTBDMSOS溶液14.3mL及び開始剤1.80mLである。
また,各混合物へ,2,2−ビス(2’−テトラヒドロフリル)プロパン溶液0.55mLを添加した。反応器ジャケットを各々50℃へ加熱し,バッチ温度は,各々約56℃(約32分後),約57℃(約30分後)及び約56℃(約30分後)ピークを打った。十分なTBAF溶液を,TBAFの比率がDTBDMSOSに対して各々約6:5となるように添加し,これら混合物を各々室温で約2時間撹拌した。
【0178】
各ポリマーセメントを,BHTを含有するイソプロパノール中に滴下し,ドラム乾燥した。これら重合体は以下表14中の試料53〜55と名付ける。
【表14】

【0179】
例56〜58:3,4−ジ(tert−ブチルジメチルシロキシ)スチレンブロック含有共重合体
例52と同様のN2でパージした反応器へ,ヘキサン1.55kg,スチレン溶液0.41kg及びブタジエン溶液2.52kg(ヘキサン中21.6%)を添加した。反応器にn−BuLi溶液約3.3mL,引き続き,2,2−ビス(2’−テトラヒドロフリル)プロパン溶液1.1mLを注入した。反応器ジャケットを50℃へ加熱し,約30分後,バッチ温度が約63℃でピークを打った。
【0180】
更に約30分後,ポリマーセメントの一部分をガラス容器に入れた。DTBDMSOSの比率がLi原子に対して各々1:1,3:1及び5:1となるように量を振ったDTBDMSOS溶液を添加した。これら混合物を50℃水槽中で更に約40分間撹拌した。
【0181】
TBAF溶液に,TBAFの比率がDTBDMSOSに対してそれぞれ約6:5になるよう添加し,これら混合物を室温で約2時間各々撹拌した。
【0182】
各ポリマーセメントを,BHTを含有するイソプロパノール中に滴下し,ドラム乾燥した。
【0183】
例59:コールドフロー試験
試験試料を上記のように調製し,試験した。
【0184】
試験結果は,例53の重合体から調製した試料は,例52の重合体から調製した試料とほぼ同一のコールドフロー性能であり,一方,例54及び56〜58の重合体から調製した試料はすべて,例52の重合体から調製した試料よりも有意に良好(約1.5×〜約3.5×より大きい)であって,ブロック共重合体がランダム共重合体より良好であることを示した。
【0185】
例60〜67:加硫物の調製及び試験
上記表9a及び9bからの処方を用いて,補強充填剤を含有する加硫可能なエラストマー配合物を試料52〜55から調製した。表9aの処方からの調製物を各々例60〜63と名付け,一方,表9aの処方からの調製物を各々例64〜67と名付けた。かかる組成物を171℃で約15分間硬化することで,加硫物を調製した。
【0186】
歪み掃引試験データを表15a(G'及びtanδの両方)及び15b(tanδのみ)に作表し,一方,温度掃引試験結果を表16a及び16bに作表した。
【表15−1】

【表15−2】

【表16−1】

【表16−2】

【0187】
表15a及び15bのデータ(歪み掃引60℃での)は,とりわけ,B単位の存在が,低減したヒステリシスを示すtanδの低減をもたらすことを示す。表16a及び16bのデータは,B単位の存在が,とりわけ,向上した寒冷及び湿潤走行性能を示すtanδのピーク及び0℃でのtanδの一般的な増加をもたらすことを示す。
【0188】
例68:3,4,5−トリ(tert−ブチルジメチルシロキシ)ベンズアルデヒドの合成
乾燥した250mLのマグネティックスターラーバーを備えたフラスコへ,3,4,5-トリヒドロキシベンズアルデヒド約5.0g,DMAP約0.3g,THF60mL及びトリエチルアミン1.0mLを添加し,引き続き,tert−ブチルジメチルシリルクロリド約15.2gのTHF30mL溶液を注射器で添加した。本混合物を,室温で約1時間(窒素雰囲気下)撹拌した。固体は混合物からろ過され,ろ液を溶出溶媒として10%酢酸エチルのヘキサン溶液を採用するシリカゲルカラムクロマトグラフィーを使用して精製する前に,溶媒を留去した。ワックス状の生成物(15.3g,収率96%)を得た。1H及び13C NMRにより,組成物が,3,4,5−トリ(tert−ブチルジメチルシロキシ)ベンズアルデヒドだと確認した。
【0189】
例69:3,4,5−トリ(tert−ブチルジメチルシロキシ)スチレンの合成
窒素雰囲気下,MTP−Br約11.5gの冷却(0℃)無水THF100 mL溶液を撹拌し,n−BuLi溶液約19.5mLを滴下した。約1.0分後,例6〜8からの生成物15.0gのTHF30mL中の溶液を,注射器を介して滴下した。NH4Clで処理する前に,得られた黄色懸濁液を約4時間撹拌した。本溶液をろ過し真空下濃縮した。残渣を,ヘキサン中の5%酢酸エチルを溶出溶媒として使用するシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製し,約13.4g(収率90%)の無色油の集合体が得られた。1H及び13C NMRにより,組成物が,3,4,5−トリ(tert−ブチルジメチルシロキシ)スチレン(TTBDMSOS)であることを確認した。
【0190】
例70:SBR(対照)
2でパージした撹拌機を備えた反応器へ,ヘキサン約1.55kg,スチレン溶液約0.41kg及びブタジエン溶液(ヘキサン中21.6%)約2.52kgを添加した。
【0191】
n−BuLi溶液(1.7M)約3.0mL,引き続き,2,2−ビス(2’−テトラヒドロフリル)プロパン溶液1.10mLを反応器へ注入した。反応器ジャケットを50℃へ加熱し,34分後,バッチ温度は約63℃でピークを打った。
【0192】
更に約30分後,ポリマーセメントを,BHTを含有するイソプロパノール中に滴下し,ドラム乾燥した。本重合体を以下表17中の試料70と呼ぶ。
【0193】
例71〜74:3,4,5−トリ(tert−ブチルジメチルシロキシ)スチレン単位を含む共重合体
例70と同様のN2でパージした 反応器中での重合を実施した。開始剤溶液(ここでは約2.9mL)の量以外,添加した材料の量は例70からの量と同一である。反応器ジャケットを50℃へ加熱し,約35分後,バッチ温度は約64℃でピークを打った。
【0194】
更なる約30分間の後,TTBDMSOS(ヘキサン中1.0M)の1.0M溶液5mLを反応器に注入した。ポリマーセメントの複数部分をガラス瓶へ移し,
試料71−イソプロパノール,
試料72−SnCl4,ヘキサン中0.25M(Sn対Liの比率1:1を使用),
試料73−DMI,トルエン中1.0M,
試料74−APMDEOS,ヘキサン中1.0Mで
各試料を50℃の水槽中で更に約30分間撹拌した。
【0195】
試料71の半分を他の容器に移し,これを以下試料71aと呼ぶ。
【0196】
試料71a及び73〜74からの保護基を,TBAF溶液(約5%の水を含有する1MのTHF溶液,TBAF対TTBDMSOS比11:10になるような量を用いる)により室温で60分間反応させることで加水分解した。
【0197】
各ポリマーセメントを,例70中のように凝固し乾燥した。
【表17】

【0198】
例75:コールドフロー試験
例70及び73〜74の重合体だけでなく,DMI及びAPMDEOSで停止したSBR(すなわち,ポリマー鎖中に含まれるB単位がない)を,上記で定義した手順を用いて,試験試料を調製するのに使用した。
【0199】
試験結果は,例73〜74の重合体から調製された試料(所与のいずれの温度でも約2mmより厚い)は共に,B単位を含まない同様な重合体から調製した試料よりも優れていたことを示した。
【0200】
例76〜87:加硫物の調製及び試験
上記表9a及び9bからの処方を使用して,補強充填剤を含有する加硫可能なエラストマー配合物を試料70〜74から調製した。表9aの処方からの調製物を各々例76〜81と名付け,一方,表9b処方からの調製物を各々例82〜87と名付けた。かかる組成物を171℃で約15分間硬化することで,加硫物を調製した。
【0201】
上記で規定したと同様の物理的試験(すなわち,tanδ対両方の歪み%(60℃で)及び温度、両方とも10Hzでの)は,末端官能部に隣接する一以上のBマーを含むように設計したSBR二元共重合体を採用した加硫物が,カーボンブラック及びシリカを共に含有する加硫物における有意なヒステリシスの低減及び他の望ましい特性を示すことを提示した。
【0202】
物理的性能データの全揃いを得て,下記表18及び19中にまとめた。
【表18】

【表19】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの官能化単位及び一以上の種類のポリエン・マーを含む官能性重合体の製造方法であって,前記官能化単位が,少なくとも一つの直接結合したOR基(式中、Rが加水分解性の保護基である)を有するアリール基を含み,前記方法が,
a)開始化合物及び少なくとも一つの種類のポリエンを有する一以上の種類のエチレン系不飽和単量体を含む溶液を用意する工程と,
b)前記開始化合物に,カルボアニオン重合体を提供するように,前記一以上の種類の単量体のアニオン重合を開始させる工程と,
c)任意に、前記カルボアニオン重合体を,カルボアニオン重合体と反応できる官能部を含む停止化合物と反応させる工程とを備え,
前記少なくとも一つの官能化単位が,少なくとも一つの前記開始化合物,前記少なくとも一つ以上の種類の単量体及び前記停止化合物から誘導されている、前記官能性重合体の製造方法。
【請求項2】
前記少なくとも一つの官能化単位の一以上が,直接結合した二つのOR基(式中、各Rが加水分解性の保護基である)を有するアリール基を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記カルボアニオン重合体を一以上の活性水素原子含有化合物とを反応させ,それによって,前記カルボアニオン重合体を停止する工程と、各OR基を加水分解する工程を更に備える請求項2に記載の方法。
【請求項4】
直接結合した二つのOR基を有するアリール基を含む前記少なくとも一つの官能化単位の一つが,前記停止化合物から誘導されている請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記停止化合物が,第二のアリール基を更に含む請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記カルボアニオン重合体と反応できる官能部が,カルボニル基である請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記二つのOR基が,前記アリール基の隣接する炭素原子に直接結合している請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記アリール基が,フェニル基である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記アリール基が,フェニル基である請求項2に記載の方法。
【請求項10】
前記アリール基が,フェニル基である請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記官能性重合体が,前記開始化合物から誘導された官能化単位を含む請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記一以上の種類のエチレン系不飽和単量体が,少なくとも一つ以上の種類のビニル芳香族を更に含む請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記開始化合物が,一般式R1ZQ−M[式中,Mはアルカリ金属原子であり,R1は,少なくとも一つのOR2置換基(式中、各R2がMに対して非反応性であり,かつ加水分解可能な基である)を有する置換又は非置換のアリール基であり,Zが単結合又は置換もしくは非置換の環状アルキレン,非環状アルキレンもしくはアリーレン基であり,QがC,N又はSn原子を介してMと結合する基である]を有する請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記重合体の官能化単位が,少なくとも一つの直接結合したOR基を有するフェニル基を含む単量体から誘導される請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記カルボアニオン重合体が,複数のAマー及び少なくとも三つのBマーを含み,前記Aマーがエチレン系不飽和部を含み,前記Bマーの各々が,少なくとも一つの直接結合したOR基を有するフェニル基を含む請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも三つのBマーの三以上が,ブロックを構成する請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記Bマーのブロックが,前記カルボアニオン重合体の末端単位から重合体鎖の6原子以下である請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記官能化単位が,前記重合体の末端にあり,前記方法が,前記カルボアニオン重合体を,少なくとも一つのヘテロ原子を含む官能部を含む前記停止化合物と反応させる工程を更に備える請求項14に記載の方法。
【請求項19】
下記一般式,
【化1】

[式中,R3は,少なくとも一つのOR4置換基(式中、R4がH又は加水分解性の保護基である)を含む置換又は非置換のアリール基であり,
Zは,単結合又は置換もしくは非置換の非環状アルキレン,環状アルキレンもしくはアリーレン基であり,
Q’は,C,N又はSn原子を介して,前記重合体鎖に結合した開始部位のラジカルである]
又は,下記一般式、
【化2】

3は,上記と同様に定義され,
6は,H,置換又は非置換のアリール基,置換又は非置換のアルキル基,又はJR’(式中,JがO,S又は−NR’であり,各R’が独立に置換又は非置換のアルキル基である)であり,
Z’は,単結合又はアルキレン基であり,
Q”は,カルボアニオン重合体と反応性であるが,それ自体はかかる重合体と非反応性である官能部の残部であり、
但し、R6及び一部のR3が、R6及び一部のR3が結合しているQ”基の一以上の原子及び任意にZ’と共に連結でき,R3アリール基に結合した又はR3アリール基と融合した環を形成する]
により定義される末端官能部を有する少なくとも一つの重合体鎖を含む高分子。
【請求項20】
エチレン系不飽和単量体のアニオン重合を開始することができる下記の一般式を有する化合物。
【化3】

[式中,Mはアルカリ金属原子であり,R1は少なくとも一つのOR2置換基(式中、各R2が、Mに対して非反応性である加水分解可能な保護基である)を有する置換又は非置換のアリール基であり,Zは単結合若しくは置換又は非置換の非環状アルキレン,環状アルキレン又はアリーレン基であり,QはC,N又はSn原子を介してMと結合している基である。]
【請求項21】
重合体を官能化する方法であって、
a)擬リビング重合体を含む溶液を用意する工程と,
b)前記溶液へ,擬リビング重合体と反応することができる基と一以上のOR4置換基(式中、R4がH又は加水分解性の保護基である)を含む少なくとも一つの種類の芳香族化合物を導入する工程と,
c)前記化合物を,前記擬リビング重合体と反応させ,それによって,前記重合体を官能化する工程を備える、
前記重合体を官能化する方法。

【公表番号】特表2011−508068(P2011−508068A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−540912(P2010−540912)
【出願日】平成20年12月28日(2008.12.28)
【国際出願番号】PCT/US2008/088384
【国際公開番号】WO2009/086490
【国際公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】