説明

ヒートインシュレータ

【課題】コストアップを招くことなく必要な方向の剛性を効率良く高めて薄肉化と軽量化を図ることができるヒートインシュレータの高剛性構造を提供すること。
【解決手段】
アルミニウム板または鋼板を、幅方向の断面が山形形状に湾曲するようにプレス成形されたヒートインシュレータであって、この湾曲して形成された面に、幅方向に沿って延在し、凸部と凹部が連続する台形波型形状の複数の凹凸3が形成され、複数の凹凸3が、幅方向に直交する長さ方向の断面における凸部の幅と凹部の幅が同寸法とされ、凸部と凹部の深さ寸法hがピッチ寸法Pより小さく形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートインシュレータの剛性を高めるための構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車用ヒートインシュレータ101は図11に示すようにアルミニウム板又は鋼板を山形に屈曲成形して構成され、これは主に自動車の床下に設置される触媒コンバータ等からの熱を遮断する目的で使用される。このヒートインシュレータ101の板面には、剛性を高める目的でビード104が山形に沿って突出成形されている。
【0003】
しかし、上記ヒートインシュレータ101は床下と触媒コンバータの間の隙間に設置されるため、ビード104の形状及び個数はヒートインシュレータ101に所要の剛性を確保するには不十分であった。
【0004】
そこで、図12に示すように、板厚を厚くすることなく十分な剛性を確保するため、エンボス成形によって予め多数の円形凸部201aが形成された金属プレートを型隙間を有する金型によって成形されたヒートインシュレータ201とその製造方法が提案されている(特開2000−136720公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−136720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、図11に示すようなビード104が形成されたヒートインシュレータ101にあっては、十分な剛性を確保するためにビード104の大きさと個数を確保する場合は、その成形時に材料を呼び込むために断面の線長が増加し、結果的に使用する材料の寸法が大きくなるという問題がある。
【0007】
又、図12に示すヒートインシュレータ201にあっては、エンボス成形によって金属プレートに予め円形凸部201aを形成する必要があるため、加工工数が増えてコストアップが避けられないという問題がある。そして、エンボス成形による円形凸部201aの形成は全方位に亘って剛性を高めることを目的としているため、ヒートインシュレータのように方向によって強化すべき剛性が異なる部品の場合には、どの方向も同じ割合でしか剛性アップが望めず、効率が悪いという問題もあった。
【0008】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とする処は、コストアップを招くことなく必要とする方向の剛性を効率良く高めて薄肉化と軽量化を図ることができるヒートインシュレータの高剛性構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1記載のヒートインシュレータは、幅方向の断面が山形形状に湾曲して形成された面に、幅方向に沿って延在し、凸部と凹部が連続する台形波型形状の複数の凹凸が形成され、この複数の凹凸は、前記幅方向に直交する長さ方向の断面における前記凸部の幅と前記凹部の幅が同寸法とされ、前記凸部と凹部の深さ寸法がピッチ寸法より小さく形成されたことを特徴とする。
【0010】
また、請求項2記載のヒートインシュレータは、前記山形形状に湾曲形成された面に、座面が平滑な取付ボスを備え、前記複数の凹凸の前記ピッチ寸法が、前記取付ボスの座面寸法より小さいことを特徴とする。
【0011】
さらに、請求項3記載のヒートインシュレータは、前記山形形状に湾曲形成された面に、表面が平滑で径方向の外側に向けて突出して延在するビードを備え、前記複数の凹凸の前記ピッチ寸法が、前記ビードにおける延在する長さ方向と直交する方向の幅寸法よりも小さいことを特徴とする。
【0012】
従って、請求項1記載の発明によれば、ヒートインシュレータの幅方向の剛性を効率よく高めることができ、ヒートインシュレータの薄肉化と軽量化を図ることができる。
【0013】
請求項2記載の発明によれば、取付ボスの座面が平滑に形成されているため、ビードと同様にヒートインシュレータの長さ方向の剛性を高めることができる。また、凹凸のピッチ寸法が取付ボスの座面寸法よりも小さく形成されているため、取付ボスに隣接する湾曲面におけるヒートインシュレータの幅方向の剛性を高めることができる。すなわち、ビードの形状及び個数が取付スペース等の制約のために十分確保できない場合であっても剛性を高めることができる。
【発明の効果】
【0014】
以上の説明で明らかなように、本発明によれば、波型形状の凹凸をプレス成形品に形成すると、該プレス成形品の凹凸が延びる方向の剛性が高められるため、コストアップを招くことなく必要な方向の剛性を効率良く高めることができ、プレス成形品の薄肉化と軽量化を図ることができるという効果が得られる。
【0015】
また、本発明によれば、凹凸とビードとを組み合わせて形成することによってプレス成形品の剛性を複数の方向に亘って高めることができるという効果が得られる。
【0016】
さらに、取付ボスの座面を平滑に形成することで、ビードと同様にヒートインシュレータの長さ方向の剛性を高めることができる。また、凹凸のピッチ寸法を取付ボスの座面寸法よりも小さく形成することにより、取付ボスに隣接する湾曲面におけるヒートインシュレータの幅方向の剛性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る高剛性構造を備える自動車用ヒートインシュレータの斜視図である。
【図2】本発明に係る高剛性構造を備える自動車用ヒートインシュレータの側面図である。
【図3】本発明に係る高剛性構造を備える自動車用ヒートインシュレータの平面図である。
【図4】図3のA−A線断面図である。
【図5】波型形状の凹凸の断面形状を示す拡大断面図である。
【図6】エンボス形状と波型形状を有する平板の直交する方向(X,Y方向)剛性値を示す図である。
【図7】平板とエンボス形状及び波型形状を有するインシュレータの直交する方向(X,Y方向)剛性値を示す図である。
【図8】波型形状の凹凸とビードとの組み合わせ例を示すヒートインシュレータの部分斜視図である。
【図9】本発明のフロアヒートインシュレータへの適用例を示す斜視図である。
【図10】本発明のサイレンサインシュレータへの適用例を示す斜視図である。
【図11】従来例1に係るヒートインシュレータの斜視図である。
【図12】従来例2に係るヒートインシュレータの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0019】
図1は本発明に係る高剛性構造を備える自動車用ヒートインシュレータの斜視図、図2は同ヒートインシュレータの側面図、図3は同ヒートインシュレータの平面図、図4は図3のA−A線断面図、図5は波型形状の凹凸の断面形状を示す拡大断面図である。
【0020】
本実施の形態に係る自動車用ヒートインシュレータ(遮熱板)1は、図1に示すように、自動車の床下に設置された触媒コンバータ2を上方から覆って該触媒コンバータ2からの熱(触媒と排気ガスとの反応熱)の車体への伝達を遮断するものであって、これは鋼板又はアルミニウム板のプレス成形によって得られる。即ち、このヒートインシュレータ1は、円筒状の前記触媒コンバータ2の外形形状に沿って山形(断面略円弧状)に屈曲成形され、その幅方向(図示Y方向)両端縁1aはU字状にカール成形されている(図4参照)。
【0021】
又、ヒートインシュレータ1の上面の長さ方向(図示X方向)両端部と中間部の3箇所には取付ボス1bが一体に突設されており、各取付ボス1bの中央部にはボルト挿通孔1cがそれぞれ穿設されている。この取付ボス1bは、座面が平滑に形成され、後述する凹凸3の複数段に跨って形成されている。
【0022】
而して、本実施の形態に係るヒートインシュレータ1には、波型形状を成す多数の凹凸3が山型形状に沿って幅方向(図示Y方向)全幅に亘って一体に形成されるとともに、所定幅の複数のビード4が幅方向に沿って形成されている。
【0023】
ところで、ヒートインシュレータ1が設置される触媒コンバータ2と自動車の床下との間の隙間は狭く、ビード4の形状と個数ではヒートインシュレータ1に要求される剛性を満足することは困難である。
【0024】
そこで、本実施の形態では、ビード4の形状に対して大きさ(高さ、幅、ピッチ等)が小さな波型形状を成す前記凹凸3を要求される剛性を満足する方向に必要個数だけ形成するようにした。
【0025】
以上の構成を有するヒートインシュレータ1は、鋼板又はアルミニウム板のプレス成形によって一体に形成されるが、これに形成された波型形状を成す前記凹凸3の寸法は材料を呼び込むことなく張り出し成形が可能な値に設定されている。従って、波型形状を成す凹凸3の成形工程には新たな工程を追加する必要はなく、既存の工程内で凹凸3の成形を行うことができる(例えば、ビード4の成形と同時加工することができる)ため、工程の増加及び材料寸法の変更に伴うコストアップを避けることができる。
【0026】
ここで、波型形状を成す凹凸3の断面形状の詳細を図5に示すが、同図に示すように、凹凸3のピッチをP、高さをh、材料の伸びをδ(%)とすると、材料を呼び込むことなく張り出し成形が可能であるためには、P、h、δの間に下式が満足される必要がある。
【0027】
h≦P(δ(δ+100))1/2 /200 …(1)
従って、材料が鉄である場合において伸びδ=30%とすると、(1)式より、
h≦0.312P …(2)
を満足する必要がある。
【0028】
又、材料がアルミニウム(3000系、5000系、6000系)である場合において伸びを18%とすると、(1)式より、
h≦0.230P …(3)
を満足する必要がある。
【0029】
而して、鋼板又はアルミニウム板のプレス成形によって一体に形成されたヒートインシュレータ1は、前記取付ボス1bに形成されたボルト挿通孔1cに下方から挿通する不図示のボルトによって車体の下面に取り付けられ、前述のように触媒コンバータ2を上方から覆って該触媒コンバータ2からの熱の車体への伝達を遮断する機能を果たす。
【0030】
ところで、一般に製品の剛性は下式で表される。
【0031】
I×E …(4)
ここに、I:断面2次モーメント(製品の形状によって決まる値)
E:ヤング率(材料の性質によって決まる係数)
製品の剛性を高めるために従来から採用されているビードは、製品の形状を変えて断面2次モーメントの値を高める効果を狙っている。
【0032】
これに対して、エンボス成形による凸部(以下、「エンボス形状」と称する)や本発明に係る波型形状の凹凸(以下、「波型形状」と称する)は、ビードよりも寸法を十分小さく設定した場合、製品の形状を大きく変更することなく剛性を高める効果が得られるため、ヤング率Eの値を疑似的に高めるものと見なすことができる。
【0033】
従って、ビードの形状及び個数が取付スペース等の制約のために十分確保できない場合、コストアップとなる素材の板厚アップを避けたい場合には、エンボス形状や本発明に係る波型形状は、剛性を高める方法として有効である。
【0034】
ところが、エンボス形状と波型形状とでは剛性値の方向性に大きな違いがある。ここで、金属平板に対するエンボス形状と波型形状についての直交する2方向(X,Y方向)の剛性値を平板の剛性値を1として図6(a),(b)にそれぞれ示す。
【0035】
図6(a)に示すように、エンボス形状においては、剛性値は方向性を示さず、全方位に亘って同じ値(1.6)を示す。尚、剛性値は平板のそれを1として、その比で表している。これに対して、波型形状では、図6(b)に示すように、波に平行な方向(Y方向)では剛性値は非常に高い値(12)を示す反面、それと直交する方向(X方向)では剛性値は低い値(0.85)を示す。
【0036】
而して、ヒートインシュレータの形状には山形形状が多く採用されており、このような形状を有するヒートインシュレータの剛性値は方向によって大きく異なる。
【0037】
ここで、平板のままのヒートインシュレータ、エンボス形状を有するヒートインシュレータ、波型形状を有するヒートインシュレータについての直交する2方向(X,Y方向)の剛性値を平板の剛性値を1として図7(a),(b),(c)にそれぞれ示す。
【0038】
図7(a)に示す平板のヒートインシュレータにおいては、長さ方向(X方向)の剛性値は高い値(104)を示す反面、幅方向(Y方向)の剛性値は非常に低い値(2)を示す。
【0039】
又、図7(b)に示すエンボス形状を有するヒートインシュレータにおいては、長さ方向(X方向)及び幅方向(Y方向)の剛性値が図7(a)に示す平板のヒートインシュレータの剛性値に対してほぼ同じ割合で増加し、長さ方向(X方向)の剛性値が高い値(166)を示すのに対して、幅方向(Y方向)の剛性値は非常に低い値(3)を示し、図7(a)に示す平板のヒートインシュレータと同様に剛性値が強い方向性を示す。
【0040】
これに対して、図7(c)に示す波型形状を有する本発明に係るヒートインシュレータにおいては、幅方向(Y方向)の剛性値の増加率が高められて高い値(25)を示し、長さ方向(X方向)の剛性値は図7(a)に示す平板のヒートインシュレータ及び図7(b)に示すエンボス形状を有するヒートインシュレータのそれ(104,166)に対して低い値(88)を示している。
【0041】
而して、本実施の形態に係るヒートインシュレータ1においては、従来から剛性が低い幅方向(Y方向)に沿って波型形状の凹凸3をプレス成形によって一体に形成したため、コストアップを招くことなく幅方向(Y方向)の剛性が効率良く高められ、剛性がアップした分だけ素材である鋼板又はアルミニウム板の薄肉化を図ってヒートインシュレータ1の軽量化を実現することができる。具体的には、従来は素材である鋼板又はアルミニウム板の板厚として0.5mmが必要であったが、本実施の形態では板厚を0.35〜0.4mmに薄くすることができた。
【0042】
又、本実施の形態では、波型形状の凹凸3のピッチPと高さhを前記(2)式又は(3)式を満足するよう設定したため、材料を呼び込むことなく張り出し成形によってヒートインシュレータ1に波型形状の凹凸3を形成することができる。又、従来のようにエンボス成形等の加工工程を追加する必要がないため、材料の増加を防いでコストダウンと軽量化を図ることができる。さらに、(2)式及び(3)式を満足することでP>hを満足するため、ヒートインシュレータの幅方向の剛性を効率よく高めることができ、ヒートインシュレータの薄肉化と軽量化を図ることができる。
【0043】
尚、図8に示すように、幅方向に沿って多数の波型形状の凹凸3が形成されたヒートインシュレータ1の頂部に所定幅のビード5を長さ方向に形成すれば、幅方向に加えて長さ方向の剛性も高めることができる。又、ビード5に代え、波型形状の凹凸3を用いても剛性を高めることができる。
【0044】
ここで、本発明を自動車用のフロアヒートインシュレータ11に適用した形態を図9に示し、サイレンサインシュレータ21に適用した形態を図10に示すが、本発明の適用に際しては、これらのフロアヒートインシュレータ11やサイレンサインシュレータ21の強度解析を予め行い、剛性アップが必要な板面及び方向を見極めてその方向に沿って波型形状の凹凸3を形成する。
【0045】
尚、以上の実施の形態は本発明を特にヒートインシュレータ等の自動車用プレス成形品に対して適用した形態について述べたが、本発明は他の任意のプレス成形品に対しても同様に適用可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0046】
1 ヒートインシュレータ(プレス成形品)
1a ヒートインシュレータの幅方向両端縁
1b 取付ボス
1c ボルト挿通孔
2 触媒コンバータ
3 波型形状を成す凹凸
4,5 ビード
11 フロアヒートインシュレータ(プレス成形品)
21 サイレンサインシュレータ(プレス成形品)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム板または鋼板を、幅方向の断面が山形形状に湾曲して形成されたヒートインシュレータであって、
湾曲して形成された面に、前記幅方向に沿って延在し、凸部と凹部が連続する台形波型形状の複数の凹凸が形成され、
該複数の凹凸は、前記幅方向に直交する長さ方向の断面における前記凸部の幅と前記凹部の幅が同寸法とされ、前記凸部と凹部の深さ寸法がピッチ寸法より小さく形成されたことを特徴とするヒートインシュレータ。
【請求項2】
前記山形形状に湾曲形成された面に、座面が平滑な取付ボスを備え、
前記複数の凹凸の前記ピッチ寸法が、前記取付ボスの座面寸法より小さいことを特徴とする請求項1に記載のヒートインシュレータ。
【請求項3】
前記山形形状に湾曲形成された面に、表面が平滑で径方向の外側に向けて突出して延在するビードを備え、
前記複数の凹凸の前記ピッチ寸法が、前記ビードにおける延在する長さ方向と直交する方向の幅寸法よりも小さいことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のヒートインシュレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−50107(P2013−50107A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−205693(P2012−205693)
【出願日】平成24年9月19日(2012.9.19)
【分割の表示】特願2011−55571(P2011−55571)の分割
【原出願日】平成13年4月26日(2001.4.26)
【出願人】(000219233)東プレ株式会社 (91)
【Fターム(参考)】