説明

ヒ素含有被処理水の浄化処理方法

【課題】 安全且容易に、しかも極く安価に地下水等の被処理水内のヒ素を除去できるようにしたヒ素含有被処理水のヒ素除去方法を提供する。
【解決手段】 ヒ素及び二価鉄成分を含有する水溶液にポリアミノ酸放射線架橋体から成る生分解性凝集剤を混入して攪拌し、その後凝集固形物を分離除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下水、池水、河川水、湖沼水等に含まれるヒ素の除去処理方法の改良に関するものであり、被処理水中のヒ素含有量を大掛りな浄化処理装置を必要とすることなしに簡便に、しかも安価に除去できるようにしたヒ素含有被処理水の浄化処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒ素は人体に悪影響を及ぼす有害物質であり、そのため飲料水中のヒ素含有量や排水中のヒ素含有量には厳格な規制が設けられている。また、上記ヒ素含有量の規制と相俟って、飲料水や排水等(以下被処理水と呼ぶ)からのヒ素除去処理についても、従前から多くの技術が開発され、公開されている。
【0003】
例えば、上記被処理水からのヒ素除去技術としては、従来から、a.凝集沈殿法(共沈法)(特許文献1,2等)、b.吸着及びイオン交換法(特許文献3,4等)、c.膜処理法(特許文献5等)、d.生物浄化法及びe.電気化学処理法等が広く知られている。
【0004】
しかし、前期b.の吸着及びイオン交換法には、ヒ素含有濃度が高い場合や懸濁した被処理液の場合には、前処理として共沈処理を必要とするうえ、吸着材のコストや高度な処理操作技術を必要とする等の問題があった。また、c.の膜処理法には、ヒ素除去量が少ないうえ、設備費や運転管理費が高価になる等の問題があり、更に、d.の生物浄化法やe.の電気化学処理法には、被処理水のヒ素濃度が高い場合には除去処理が困難なうえ、処理時間が長くなる等の問題がある。
【0005】
一方、前記a.の凝集沈殿法(共沈法)は相対的に安価であり、従前から最も多く使用される処理技術である。しかし、一般に共沈法のみの処理によって、ヒ素濃度を飲用水基準(WHO基準0.01mg/l)の濃度にまで低減することは困難なことであり、多くの場合には他の吸着処理や砂濾過処理と組み合せて使用されている。
【0006】
図10は凝集沈殿法と砂濾過塔との組み合わせ使用の一例を示すものであり、特許文献1に開示の地下熱水中含有ヒ素の除去方法の説明図である。
この図10に於いては、反応槽21内へ地熱発電用の地下熱水22を導入し、これに酸化剤23、鉄系薬剤24、酸又はアルカリ25を混入して約5分間撹拌混合したあと、凝集槽26内で高分子凝集剤27を供給しつつ約20分間撹拌して、反応固形物を大きなフロックに成長させる。その後、凝集槽26から被処理物を砂濾過槽28a、28bへ送り、ここで大型化せしめたヒ素を含む固形物を除去し、砂濾過塔28bからヒ素を除去した後の処理済水29を外部へ取り出す構成としている。
【0007】
具体的には、図10に於いては、地下熱水22として99℃、PH6.8〜7.2、ヒ素濃度3.9mg/l、ケイ酸(SiO2)濃度666mg/lのものを、酸化剤23として次亜塩素酸ナトリウム(又は過酸化水素)を、鉄系薬剤24として塩化第2鉄(又は硫酸第2鉄)を夫々使用しており、地下熱水22中に存在する亜ヒ酸イオンAsO33-(以下AS(III)と呼ぶ)に酸化すると共に、これと地下熱水22中に始めから存在するヒ素イオンAsO4-3(以下As(V)と呼ぶ)とを凝集剤である第2鉄イオンと反応させて不溶性のヒ酸鉄(FeAsO4)の固形物として折出させるようにしている。
【0008】
また、酸又はアルカリの添加により地下熱水22のPHを2.5〜5.0位に調整し、ケイ酸と鉄イオンとの反応によりケイ酸鉄が形成されることによる鉄系薬剤消糧量の増大及びスラッジの生成量の増大を防止すると共に、ヒ酸鉄の固形物の粒径が小さくなるのを防止している。
【0009】
【特許文献1】特開平5−245483号公報
【特許文献2】特開平11−314094号公報
【特許文献3】特開2003−320370号公報
【特許文献4】特開2005−169171号公報
【特許文献5】特開平11−277050号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一般に、鉄系薬剤を使用する凝集沈殿法に於いては、被処理中のAs(V)は三価鉄(Fe2Cl3、Fe(SO43等)を用いることにより除去することが可能であったが、AS(III)の方は、三価鉄の鉄系薬剤ではその除去が困難であった。そのため、従前の鉄系薬剤を使用する凝集沈殿法に於いては、先ずAs(III)に酸化前処理を施してAs(V)に変換し、その後三価鉄の鉄系薬剤を用いることにより、これを凝集沈殿させることが行われてきた。
しかし、酸化前処理を必要とするため薬剤使用量が増えるうえ、低ヒ素濃度の被処理水では鉄系薬剤使用量が増大する。また、PH調整や膜濾過処理との組み合せ処理を必要としたり、酸化効率の点からAs(III)の除去能力が制約されたり、或いは反応時間が長いために処理能率が悪い等の多くの解決すべき問題が残されていた。
【0011】
これに対して、前記図10に示した凝集沈殿法にあって、鉄系薬剤として塩化第1鉄や硫酸第1鉄の二価鉄を使用し、被処理水中のAs(III)を過酸化水素系等の酸化剤によって酸化させると共に、酸化により形成されたAs(V)と凝集剤である二価鉄とを反応させて固形物を形成させ、ヒ素を共沈させるようにしている。
そのため、従前のように酸化前処理装置を別途に設置する必要が無くなり、従前のヒ素除去処理方法に比較してヒ素除去装置の簡素化や処理操作の簡素が図られている。
【0012】
しかし、当該図10に示した被処理水のヒ素除去方法にあっても、被処理水21のPH調整や凝集物を除去するために高性能な砂濾過塔28a、28bを必要とするうえ、固形物の大型化による濾過効率の向上を図るために大量の高分子凝集剤27を必要とし、設備費や運転管理費の大幅な低減が図れないと云う問題がある。
【0013】
本発明は、従前の鉄系薬剤を凝集剤とする凝集沈殿法による被処理水のヒ素除去方法に於ける上述の如き問題、即ち、凝集沈殿法のみではヒ素濃度を飲料に適した安全な基準値以下にまで除去することができず、結果として設備費や運転管理費の大幅な削減が図れないという問題を解決せんとするものであり、簡単な操作の凝集沈殿処理のみによって安価にしかも確実に、被処理水内のヒ素を規制値濃度以下に低減させることを可能とした被処理水の浄化処理方法を提供することを発明の第1目的とするものである。
【0014】
また、本願発明は、上記被処理水の浄化処理方法を提供することにより、飲料水や生活用水の大部分を地下水に依存している開発途上国の一部に於いて、大きな問題となっているヒ素含有地下水による人体の傷害(ヒ素汚染)の絶減を図ることを発明の第2目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願発明者等は、前記図10のヒ素除去処理方法の検討を通して硫酸第1鉄や塩化第1鉄等の二価鉄と共に、酸化剤を被処理水内に混入することにより、被処理水中のAs(V)のみならずAs(III)の方も凝集沈殿させることが出来ると共に、二価鉄自体が酸化剤によるAs(III)の酸化を促進する所謂触媒機能を果すことにより、As(III)からAs(V)への酸化効率が高められることを知得した。
【0016】
また、本願発明者等は、二価鉄から成る凝集剤が水中で酸化剤により酸化されて三価鉄となり、難溶性塩となって沈殿固形物が生成され、この際に水中に共存するAs(V)が取り込まれて行くことを知得した。
【0017】
更に、本願発明者等は、As(III)は、酸化剤と二価鉄の触媒作用によって速やかにAs(V)に酸化され、生成したAs(V)は上記と同様のメカニズムで分離、除去されると共に、酸化反応によって新たに生成したAs(V)には新しい結合面ができているため、三価鉄の難溶性塩に取り込まれやすくなっていることを知得した。
【0018】
加えて、本願発明者等は本願出願人が開発した後述する日本ポリグル株式会社製のγ−ポリグルタミン酸から成る凝集剤(以下、PGα21Caと呼ぶ)により、前記As(V)を取り込みした難溶性塩の沈殿を凝集させ、凝集固形物の粗大化によりその分離、除去を容易なものとすることを着想した。
【0019】
本願発明は、上記各知得及び着想に基づいて創作されたものであり、請求項1の発明は、ヒ素及び二価鉄成分を含有する水溶液にポリアミノ酸放射線架橋体から成る生分解性凝集剤を混入して攪拌し、その後凝集固形物を分離除去することを発明の基本構成とするものである。
【0020】
請求項2の発明は、ヒ素を含有する水溶液に二価鉄系凝集剤と酸化剤とポリアミノ酸放射線架橋体から成る生分解性凝集剤とを混入して攪拌し、その後凝集固形物を分離除去することを発明の基本構成とするものである。
【0021】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2の発明において、二価鉄系凝集剤を硫酸第1鉄又は塩化第1鉄とするようにしたものである。
【0022】
請求項4の発明は、請求項1又は請求項2の発明において、酸化剤をさらし粉、過酸化水素、塩素、次亜塩素酸ソーダ又はオゾンの何れかとするようにしたものである。
【0023】
請求項5の発明は、請求項1又は請求項2の発明において、ポリアミノ酸放射線架橋体を、γ−ポリグルタミン酸の架橋体(PGα21)又はγ−ポリグルタミン酸の架橋体にカルシウムを含有せしめたもの(PGα21Ca)とするようにしたものである。
【0024】
請求項6の発明は、請求項1又は請求項2の発明において、凝集固形物の分離除去を、静置による自然沈降により行うようにしたものである。
【0025】
請求項7の発明は、請求項1又は請求項2の発明において、凝集固形物の分離除去を塗布又は濾紙を用いた濾過処理により行うようにしたものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明に於いては、生分解性のPGα21Ca凝集剤を二価鉄系凝集剤及び酸化剤と一緒に被処理水内へ混合撹拌し、二価鉄系凝集剤等の作用によって難溶性塩から成る凝集固形物を形成すると共に、前記PGα21Ca等の凝集作用によって前記凝集固形物の粒径を粗大化するようにしているため、AS(V)を取り込んだ凝集固形物を容易に且つ完全に分離除去することが可能となり、ヒ素除去効率が大幅に向上する。
また、PGα21Caは天然素材を主体とする生分解性の物質であるため、安全性が高いだけでなしに、使用後の薬剤の残留も無く、また、凝集フロックの含水量が低いために発生する廃棄物量も少なくなり、更に、凝集剤の添加によるPH変動も小さいと云う多くの優れた効用が奏される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
図1は、本発明によるヒ素含有被処理水の浄化処理方法の基本工程図を示すものであり、1は混合撹拌工程、2は静置分離工程である。
図1を参照して、前記混合撹拌工程1では、撹拌槽8aの中へ所定量の被処理原水4と、所定量の酸化剤5と、所定量の二価鉄凝集剤6と、所定量のPGα21Ca凝集剤(以下PG凝集剤と呼ぶ)7とを搬入し、これを手動又は撹拌機(図示省略)により撹拌する。撹拌時間は、被処理水4の量が0.5〜2ton程度の場合には5分間程度で十分である。
【0028】
次に、静置分離工程2に於いて、上記三者の撹拌混合物を約20〜40分間静置する。この20〜40分間の静置により混合物内に形成された凝集固形物が撹拌槽8aの底部へ沈殿し、混合物の上澄のみが処理水排出口9より外部へ排出される。
【0029】
前記撹拌槽8aは、如何なる構造のものであってもよく、通常はプラスチック製又は金属製の撹拌槽が使用される。また、撹拌槽8aの大きさは、被処理水4の処理量に於いて適宜に選定される。
更に、撹拌槽8aと静置槽8bとは、通常は実質に同一のものであり、一つの槽を用いてバッチ的に処理される。
【0030】
被処理水4は地下水や河川の水、池の水、沼湖の水、工場排水等であり、地熱発電用の高温地下水であってもよいことは勿論である。
【0031】
前記酸化剤5としては、塩素、オゾン、過マンガン酸塩、過酸化水素、次亜鉛素酸ソーダ、さらし粉等が主として利用される。
【0032】
前記二価鉄系凝集剤(酸化助剤)6として塩化第2鉄、硫酸第2鉄その他の所謂二価鉄が利用される。
【0033】
次に、本発明で使用するポリグルタミン酸凝集剤(PGα21Ca)7について説明する。ポリグルタミン酸凝集剤(PGα21Ca)7の出発物質であるアミノ酸は、一般にNH2(COOH)−CH−Rなる構造式で表される。ポリアミノ酸には同一アミノ酸が鎖状に重合したホモポリマーと複数種のアミノ酸が鎖状に重合したヘテロポリマーが存在する。ポリアミノ酸の中にある水素原子Hや酸素原子Oは水と水素結合するため、ポリアミノ酸は表面に水を吸着する保湿性を有する。
【0034】
この鎖状分子であるポリアミノ酸を放射線照射すると、例えば、ポリアミノ酸の中にあるCH2が脱水素反応によりCH−となり、2本のポリアミノ酸のCH−同士がCH−HCと結合して架橋体を形成する。多数のポリアミノ酸同士が放射線で架橋すると網目構造になり、この網目構造の内部に袋状の空間が多数形成される。脱水素反応以外の経路でも架橋反応が生じることはある。
【0035】
放射線による架橋はポリアミノ酸を加熱する事無く架橋できるので、アミノ酸本来の性質を残したままポリアミノ酸放射線架橋体を形成できる利点を有する。放射線架橋反応は低温架橋反応であり、加熱による架橋反応と異なる点が特徴である。加熱によりポリアミノ酸は熱変成を受けるが、本発明の放射線架橋では熱変成を受けない点に特徴を有する。
【0036】
ポリアミノ酸放射線架橋体は多数の袋状空間を内部に有するため、この袋状空間に水分子を吸収保存する能力を有し、この作用によりポリアミノ酸よりも大きな保水性能を発現できる。この保水性能が、懸濁物質を吸収して凝集させる凝集性能であると考えられる。つまり、この保水性能が、水中のCOD成分・BOD成分・SS成分を吸収する能力を与える。
【0037】
次に、上記ポリアミノ酸の一例としてγ−ポリグルタミン酸について考察する。γ−ポリグルタミン酸は(−OOC−CH2−CH2−CH(COOH)NH−)nで表される鎖状分子で、添字nが重合度を与える。出発原料となるγ−ポリグルタミン酸は分子量の大きなもの、特に数十万〜数百万の分子量を有するものが好適であり、これらの分子量は前記重合度nによって決まる。
【0038】
このγ−ポリグルタミン酸に放射線を照射すると、脱水素反応によりCH2がCH−となり、2本のγ−ポリグルタミン酸の直鎖がCH−HCを介して連結し、[(−OOC−CH2−CH2−CH(COOH)NH−)n]2のように架橋するこの架橋度が更に大きくなると、[(−OOC−CH2−CH2−CH(COOH)NH−)n]mのような分子量の大きな放射線架橋体が生成される。ここで、mは架橋度を示し、架橋連結されるγ−ポリグルタミン酸の直鎖の本数を与える。
【0039】
架橋度mを更に大きくすることによって、γ−ポリグルタミン酸放射線架橋体の分子量を1000万以上にする。γ−ポリグルタミン酸はポリペプチド鎖であるから、−CH−HC−の連結により内部に多数の大きな空間が形成された網目構造となる。前述したように、この多数の内部空間に汚濁水を吸収して、汚濁物質を内部蓄積すると考えられる。しかも、その表面や内部空間に凝集固形物や重金属類を強力に吸着する性能を有している。
【0040】
本発明に係るポリグルタミン酸は、種々の製造方法により生産されたものが用いられる。製法としては、例えば微生物による培養方法、化学合成法などがある。微生物により生産されたポリアミノ酸は天然物質であり、安全性の観点から推奨される。ポリアミノ酸の中でも、γ−ポリグルタミン酸が特に有力である。
【0041】
γ−ポリグルタミン酸の微生物培養法では、バチルス属のバチルス・スブチリス、バチルス・アントラシス、バチルス・メガテリウム、バチルス、ナットウ等の菌が利用できるが、特にバチルス・スブチリスのF−2−01株が生産量において好適である。この菌株は分子量が数十万〜数100万のγ−ポリグルタミン酸を産生し、その分子量が比較的大きいから、放射線によって効率よく架橋体を製造できる。
【0042】
微生物が産生するγ−ポリグルタミン酸は、古くより納豆の粘物質の主成分として食されているように、人畜無害な天然物であり、しかも食品であるという大きな特徴を有する。つまり、このγ−ポリグルタミン酸は凝集性能とダイオキシン吸着性能を有するだけでなく、誤って食べてしまっても害が全く無く、逆に栄養分になるという点で優れている。
【0043】
前記微生物が産生するγ−ポリグルタミン酸は、枝分かれのない直鎖状のγ−ペプチドでL−グルタミン酸とD−グルタミン酸の共重合体、即ちヘテロポリマーである。このヘテロポリマー構造のγ−ポリグルタミン酸がポリアミノ酸の一例として使用される。
【0044】
微生物産生のγ−ポリグルタミン酸は、所要の養分を混入した液体培地に微生物を植種し、所要温度で所要時間培養して、培養液からγ−ポリグルタミン酸を単離して得られる。液体培地以外に固形培地を利用しても良い。本発明においては、γ−ポリグルタミン酸単体のみならず、培養液自体、また培養液から沈殿させて得られたγ−ポリグルタミン酸を含む培養物でも構わない。この培養物にはγ−ポリグルタミン酸と同時にγ−ポリグルタミン酸塩も生成されている。
【0045】
より具体的には、本実施形態で使用するPGα21Caは日本ポリグル株式会社製の商品名PGα21Caであり、その成分構成は下記の通りである。
成分構成(wt%)
PGα21=14%、C=0.5%、O=45%、Na=8%、Al=0.5%、Si=12%、C1=0.4%、Ca=15%、K=0.1%、Fe=15%。
また、当該PGα21Caは、粉体状凝集剤であり、生分解性を有するγ−ポリグルタミン酸を主体とする新規な自然分解性の物質である。
更に、上記構成成分のO、Ca、Fe、Si等は通常2Ca4・H2O、Na2CO3・H2O、NaSO4、MgSO4・6H2O、Al2(SO4)・18H2O等の化学構造式で表される物質の型で当該凝集剤内に含まれている。
【0046】
この凝集剤は、親水性、保水性に優れているだけでなく、分子量が数千〜数万と高いため、水中の懸濁物質に対して従前の合成高分子凝集剤と同等以上の凝集・沈降促進作用を有している。
また、従前の合成高分子凝集剤に比較してより低濃度で凝集効果を発揮することができ5〜20ppm程度の低混合濃度でもって高い凝集効果が得られる。
更に、天然の高分子体であるため毒性が全くなく、水質汚染の虞れがないうえ、微生物により分解されるので、処理水中で残留し続けることがない等の特性を具備するものである。
【0047】
図2は本発明の第2実施形態を示すものであり、静置分離工程に替えて簡易濾過工程3を使用するようにしたものである。濾過側としては、極く簡単な構成の簡易砂濾過装置や濾紙又は炉布を濾材とする簡易濾過装置で十分であり、混合撹拌工程1で形成された凝集沈殿物が比較的堅固で且大粒径のものとなるため、簡易濾過装置でもってほぼ完全に凝集沈殿物を除去することが出来、WHO基準以下のヒ素濃度の浄化処理済水を得ることが出来る。
【0048】
[予備試験1]
次に、本発明の創作に至る過程で行った各種予備テストとその結果を説明する。図3は、凝集剤及び酸化助剤6としての二価鉄(硫酸第1鉄、以下Fe(II)と記す)の添加濃度と、酸化剤5としてのさらし粉(CaC12・Ca(OCl)2・2H2O)の添加濃度と、ヒ素濃度及びヒ素除去率の関係を示すものであり、五価ヒ素As(V)を含む原水(被処理水)4はヒ酸を池水に溶解して作成したものである(As(V)濃度0.5PPM)。
また、三価砒素(As(III))を含む原水(被処理水)4は、三酸化二砒素を無色透明の池水に溶解して作成したものであり、ヒ素濃度は0.5ppmに調整されている。
【0049】
図3からも明らかなように、二価鉄Fe(II)とさらし粉Sとの併用で凝集能力が向上し、Fe(II)濃度の増加につれてもヒ素除去能力が高まることが判った。尚、テストに於ける撹拌時間は約5分、分離のための静置時間は約30分間とした。
【0050】
[予備試験2]
原水被処理水(4)をAs(III)を含有するものに変更して、前記予備試験と同様のテストを行ったものである。図4に示されているように、As(III)を含む原水(被処理水4)の場合には、As(V)を含有する原水の場合よりも高い除去性能が得られることが判明した。
【実施例1】
【0051】
図5は、実施例1の結果を示すものであり、As(V)を含有する原水(被処理水4)に二価鉄Fe(II)とさらし粉SとPGα21Caとを混合した場合を示すもので、PGα21Caを併用することにより、凝集固化物が大型となり、その分離性能が向上することにより、ヒ素除去率が大幅に向上することが示されている。
尚、撹拌時間及び静置時間は、何れも予備テスト1の場合と同一である。
【0052】
また、同一の原水にPGα21Caのみを添加した場合には、ヒ素除去率が下表の通りになることが確認されている。
【0053】
【表1】

【0054】
図6は、実施例2の結果を示すものである。この実施例2は実施例1に於いてFe(II)の添加濃度を変えた場合のヒ素除去率の変化を示すものであり、Fe(II)が極く低濃度(1ppm)であっても、90%の高ヒ素除去率が得られることが判明した。
【0055】
図7は、実施例3の結果を示すものであり、実施例1に於いて原水(被処理水4)をAS(V)を含有するものからAS(III)を含有するものに変更した場合の結果である。尚、撹拌時間や静置時間等の試験条件は、実施例1の場合と全く同一である。
PGα21Caを併用することにより、ヒ素除去率が劇的に向上し、As(V)の場合よりもより高い除去率を示すことが判明した。
【0056】
また、同一のAs(III)を含有する原水(被処理水4)にPGα21Caのみを添加した場合には、ヒ素除去率が下表の通りとなり、ヒ素除去を行うことが不可能なことが判った。
【0057】
【表2】

【0058】
図8は、実施例4の結果を示すものであり、As(III)を含有する被処理水について、酸化助剤であり且つ鉄凝集剤であるFe(II)の添加濃度を変更した場合のヒ素除去率の変化を示すものであり、処理条件は実施例2の場合と全く同一である。
図8からも明らかなように、Fe(II)の添加濃度を1ppmまで低下させても96%の高いヒ素除去率が得られることが判る。
【0059】
図9は、バングラディシュに於いて採取した井戸水(ヒ素濃度0.058mg/l、黄色懸濁液、As(III)約56〜76%、残部As(V))を被処理水4とし、これにPGα21Caを添加した場合を示すものである。Fe(II)は外部より添加していないが原水自体にFe(II)が相当量含有されているので、これがAs(III)のAs(V)への酸化作用を促進して、酸化剤としてのさらし粉等を添加しなくても、WHO基準の0.01mg/l以下のヒ素濃度にまでヒ素除去を行うことが出来た。
【0060】
尚、上記各実施例に於いては凝集剤としてPGα21Caを利用しているが、当該凝集剤が日本ポリグル株式会社のPGα21(Caを含まないγ−ポリグルタミン酸凝集剤)であっても、或いはポリアミノ酸放射線架体であってもよいことは勿論である。
また、凝集剤PGα21Caに替えて、磁性材製の微粒体の外表面にPGα21Caを結合させた構成の、本願出願人の出願に係る特願2007−049127号に開示の凝集材を使用することも可能であり、当該凝集剤を使用した場合には磁気力を利用して凝集固形物をより効率よく分離回収することが出来る。
【0061】
本発明は、地下水や工業用排水の処理のみならずヒ素を含有するあらゆる種類の被処理水からのヒ素除去に利用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の第1実施形態を示す工程説明である。
【図2】本発明の第2実施形態を示す工程説明図である。
【図3】予備試験1(二価鉄Fe(II)+さらし粉S、原水As(III)含有)の結果を示すものである。
【図4】予備試験2(二価鉄Fe(II)+さらし粉S,原水As(V)含有)の結果を示すものである。
【図5】実施例1(Fe(II)+さらし粉S+PGα21Ca)の結果を示すものである。
【図6】実施例2(Fe(II)+さらし粉S+PGα21Ca)の結果を示すものである。
【図7】実施例3の結果を示すものである。
【図8】実施例4の結果を示すものである。
【図9】実施例4の結果を示すものである。
【図10】実施例4の結果を示すものである。
【符号の説明】
【0063】
1 混合撹拌工程
2 静置分離工程
3 簡易濾過工程
4 被処理水
5 酸化剤
6 二価鉄系凝集剤(酸化助剤)
7 生分離性凝集剤(PGα21Ca)
8a 撹拌槽
8b 静置槽
9 浄化水排出口
10 固形物取出口(沈殿凝集物取出口)
21 反応槽
22 地下熱水
23 酸化剤
24 鉄系薬剤
25 酸又はアルカリ
26 凝集槽
27 高分子凝集剤
28a 前段砂濾過塔
28b 後段砂濾過塔
29 処理済水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒ素及び二価鉄成分を含有する水溶液にポリアミノ酸放射線架橋体から成る生分解性凝集剤を混入して攪拌し、その後凝集固形物を分離除去することを特徴とするヒ素含有被処理水の浄化処理方法。
【請求項2】
ヒ素を含有する水溶液に二価鉄系凝集剤と酸化剤とポリアミノ酸放射線架橋体から成る生分解性凝集剤とを混入して攪拌し、その後凝集固形物を分離除去することを特徴とするヒ素含有被処理水の浄化処理方法。
【請求項3】
二価鉄系凝集剤を硫酸第1鉄又は塩化第1鉄とするようにした請求項1又は請求項2に記載のヒ素含有被処理水の浄化処理方法。
【請求項4】
酸化剤をさらし粉、過酸化水素、塩素、次亜塩素酸ソーダ又はオゾンの何れかとするようにした請求項1又は請求項2に記載のヒ素含有被処理水の浄化処理方法。
【請求項5】
ポリアミノ酸放射線架橋体を、γ−ポリグルタミン酸の架橋体(PGα21)又はγ−ポリグルタミン酸の架橋体にカルシウムを含有せしめたもの(PGα21Ca)とするようにした請求項1又は請求項2に記載のヒ素含有被処理水の浄化処理方法。
【請求項6】
凝集固形物の分離除去を、静置による自然沈降により行うようにした請求項1又は請求項2に記載のヒ素含有被処理水の浄化処理方法。
【請求項7】
凝集固形物の分離除去を濾布又は濾紙を用いた濾過処理により行うようにした請求項1又は請求項2に記載のヒ素含有被処理水の浄化処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−75880(P2010−75880A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−248807(P2008−248807)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(502426452)日本ポリグル株式会社 (12)
【Fターム(参考)】