説明

ビタミンB1配合末梢静脈投与用総合輸液剤

【課題】 予めビタミンB1を配合してもビタミンB1の安定性を保持し、使用時に中性に近いpHとなることで静脈炎を起こしにくいビタミンB1配合末梢静脈投与用総合輸液剤の提供。
【解決手段】 (i)用時連通可能な隔離手段で区画した容器の一室に糖液を収容し他方の室にアミノ酸含有液を収容し、カルシウム塩及びリン酸塩を前記糖液の両方ともに配合するか又はいずれか一方を糖液に他方をアミノ酸含有液に配合した用時混合型の末梢静脈投与用輸液剤であって、(ii)糖液は混合後の輸液剤の全容量に対して糖濃度3〜7.5w/v%となる量で糖を含有し、亜硫酸イオンを含有せず、ビタミンB1を含有し、pH4.2〜5.5、滴定酸度30以下に調整され、(iii)アミノ酸含有液はpH6.5〜8.5であり、(iv)隔離手段を連通させて輸液剤のすべての液の混合時にpH6.6〜7.4、滴定酸度10以下となる、用時混合型のビタミンB1配合末梢静脈投与用総合輸液剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビタミンB1をあらかじめ配合した用時混合型の末梢静脈投与用総合輸液剤に関するものであって、具体的には、あらかじめビタミンB1を配合してあってもビタミンB1の安定性を保持し、使用時に中性に近いpHとなることで静脈炎を起こしにくくすることができる用時混合型のビタミンB1配合末梢静脈投与用総合輸液剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
患者の栄養管理は静脈栄養療法および経腸栄養療法が普及し、これらの療法がすでに日常医療の一部となっている。特に、経口から栄養補給を行うことが困難な患者に対する栄養管理は静脈栄養療法によって行われている。静脈栄養療法には、中心静脈ルートを用いる高カロリー輸液(TPN)療法と末梢静脈ルートを用いる末梢静脈栄養(PPN)療法がある。TPN療法は栄養補給のすべてを輸液剤により行うため、栄養素の種類および量に細心の注意が払われる。TPN療法を行う場合、TPNによる栄養管理の期間が比較的長くなると、微量元素やビタミンの欠乏が起こり、問題となる。特に、TPN療法ではビタミンB1欠乏による死亡例が発生したため、現在では必ずビタミンB1を投与するように厚生省より緊急安全性情報が出されている。
一方、PPN療法においても静脈内投与された糖が代謝される際にビタミンB1が消費される点はTPN療法と同様であり、代謝上必要とするビタミンB1を投与しない限りビタミンB1欠乏に陥るリスクがある。実際に、PPN療法適応患者は、栄養状態が悪い場合が多く、欠乏症状が肉眼的に観察されていなくても、潜在的なビタミンB1欠乏状態にある場合が多いことが報告されている。このため、より安全なPPN療法を行うために、あらかじめビタミンB1を配合した末梢静脈投与用総合輸液剤を開発する必要がある。
【0003】
ところで、PPN療法を行う場合、静脈炎の発生は避けられない問題である。このため、PPN療法を行っている医療現場では静脈炎の発生を遅延させることや発生しても軽減させることを考えなければいけない。静脈炎は輸液剤のpHが原因の一つとして考えられ、静脈炎を避けるためにPPN療法を行う場合の輸液剤のpHは中性に近いpHにする必要があった。
一方、ビタミンB1の安定性は一般にpHに依存する。例えば、ビタミンB1の中で最も代表的な塩酸チアミンはpH2のとき最も安定で、pHが高くなるにしたがって不安定となることが知られている。また、第十三改正日本薬局方解説書には水溶液中ではpH2〜4で比較的安定であるとなっている。ビタミンB1をあらかじめ輸液剤に配合する場合、ビタミンB1の安定性を保持するために、その輸液剤のpHを低くすることが好ましくなる。
【0004】
このように、PPN療法を行う場合の輸液剤は静脈炎を避けるためにpHが中性に近くなるようにする必要があるが、ビタミンB1の安定性のためにはpHを低くする必要があった。すなわち、末梢静脈投与用総合輸液剤においてビタミンB1の安定性を保持するためと静脈炎を起こしにくくするための輸液剤の至適pHは相反するものであった。このため、末梢静脈投与用総合輸液剤にあらかじめビタミンB1を配合してもビタミンB1の安定性を保持し、使用時に中性に近いpHとなることで静脈炎を起こしにくくすることができるビタミンB1配合末梢静脈投与用総合輸液剤を開発することは困難であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ビタミンB1をあらかじめ配合した末梢静脈投与用総合輸液剤を提供することであって、あらかじめビタミンB1を配合してもビタミンB1の安定性を保持し、使用時に中性に近いpHとなることで静脈炎を起こしにくくすることができるビタミンB1配合末梢静脈投与用総合輸液剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、糖液とアミノ酸液とを分離して収容し、ビタミンB1を糖液に配合した用時混合型のビタミンB1配合末梢静脈投与用総合輸液剤において、糖液は亜硫酸イオンを含まず、かつカルシウム塩とリン酸塩のいずれか一方または両方が添加され、糖液のpHが4.0〜5.5で滴定酸度が30以下に調整されており、アミノ酸液のpHが6.5〜8.5に調整されており、すべての液を混合したときのpHが6.0〜7.4で滴定酸度が10以下となるようにすれば、保存時にビタミンB1の安定性が高く、使用時に混合した際、中性に近いpHとなるため、静脈炎を起こしにくくできるビタミンB1配合末梢静脈投与用総合輸液剤が得られることを見出し、この知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(6)に示したものである。
(1) (i)用時連通可能な隔離手段により区画された容器の一室に糖を含有する糖液が収容され、他方の室にアミノ酸を含有するアミノ酸液が収容され、カルシウム塩およびリン酸塩が前記糖液に両方とも配合されるか又はいずれか一方が糖液に他方がアミノ酸液に配合されてなる用時混合型の末梢静脈投与用輸液剤であって、
(ii)前記糖液は、混合後の輸液剤の全容量に対して糖濃度が3〜7.5w/v%となる量で糖を含有し、亜硫酸イオンを含有せず、ビタミンB1を含有し、pHが4.2〜5.5で、且つ滴定酸度が30以下に調整されており;
(iii)前記アミノ酸液は、pHが6.5〜8.5に調整されており;および
(iv)隔離手段を連通させて前記輸液剤のすべての液を混合したときのpHが6.0〜7.4で且つ滴定酸度が10以下となる;
ことを特徴とする用時混合型のビタミンB1配合末梢静脈投与用総合輸液剤。
(2) 糖がブドウ糖である上記(1)記載のビタミンB1配合末梢静脈投与用総合輸液剤。
(3) カルシウム塩とリン酸塩が糖液とアミノ酸液に別々に配合されている上記(1)または(2)記載のビタミンB1配合末梢静脈投与用総合輸液剤。
(4) ビタミンB1がチアミン及びその塩から選ばれる1種以上である上記(1)〜(3)のいずれかに記載のビタミンB1配合末梢静脈投与用総合輸液剤。
【0008】
(5) すべての液を混合した後の組成が、ブドウ糖3〜7.5w/v%、チアミン0.4〜40mg/L、L−ロイシン2.0〜7.0g/L、L−イソロイシン1.0〜4.0g/L、L−バリン0.7〜4.2g/L、L−リジン1.5〜7.5g/L、L−トレオニン0.8〜3.0g/L、L−トリプトファン0.2〜1.2g/L、L−メチオニン0.5〜2.5g/L、L−フェニルアラニン1.0〜4.0g/L、L−システイン0.1〜0.7g/L、L−チロジン0〜0.5g/L、L−アルギニン1.4〜5.5g/L、L−ヒスチジン0.8〜2.7g/L、L−アラニン1.0〜4.2g/L、L−プロリン0.6〜2.6g/L、L−セリン0.3〜1.7g/L、アミノ酢酸1.0〜4.5g/L、L−アスパラギン酸0.1〜1.7g/L、L−グルタミン酸0.1〜3.0g/L、ナトリウム25〜70mEq/L、カリウム15〜50mEq/L、カルシウム3〜15mEq/L、マグネシウム3〜10mEq/L、クロル25〜70mEq/L、リン5〜20mmol/L、亜鉛0〜30μmol/Lである上記(1)〜(4)のいずれかに記載のビタミンB1配合末梢静脈投与用総合輸液剤。
(6) 用時連通可能な隔離手段により区画された容器がガス透過性容器であり、かつ脱酸素剤と共にガス非透過性外装容器に封入されている上記(1)〜(5)のいずれかに記載のビタミンB1配合末梢静脈投与用総合輸液剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明のB1配合末梢静脈投与用総合輸液剤は、用連通可能な隔離手段により区画された容器の一室に糖を含有する糖液が他方の室にアミノ酸を含有するアミノ酸液が収容され、カルシウム塩およびリン酸塩は前記糖液に両方とも配合されるかいずれか一方が糖液に他方がアミノ酸液に配合されてなる用時混合型輸液剤であって、前記糖液は、混合後の輸液剤の全容量に対して糖を3〜7.5w/v%の割合で含有し、亜硫酸イオンを含有せず、ビタミンB1を含有し、pHが4.2〜5.5で且つ滴定酸度が30以下に調整されており、前記アミノ酸液はpHが6.5〜8.5に調整されており、隔離手段を連通させ前記輸液剤のすべての液を混合したときのpHが6.0〜7.4で且つ滴定酸度が10以下となるビタミンB1配合末梢静脈投与用総合輸液剤であるので、あらかじめビタミンB1が配合された末梢静脈投与用総合輸液剤でありながら長期間ビタミンB1の安定性を保持でき、しかも使用時に糖液とアミノ酸液を混合した時に中性に近いpHとなるため、投与した際に静脈炎を起こしにくくすることができる。
さらに、本発明は、輸液を収容する容器を脱酸素剤とともにガス非透過性外装包材に封入されているので輸液成分の糖やアミノ酸が長期間にわたり安定に維持されるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明のビタミンB1配合末梢静脈投与用総合輸液剤を詳細に説明する。
本発明のビタミンB1配合末梢静脈投与用総合輸液剤は、糖液とアミノ酸液とを分離して収納し、糖液は亜硫酸イオンを含まず、かつビタミンB1およびカルシウム塩とリン酸塩のいずれか一方または両方が添加されてなる用時混合型のビタミンB1配合末梢静脈投与用総合輸液剤であり、糖液のpHが4.2〜5.5で滴定酸度が30以下に調整されており、アミノ酸液のpHが6.5〜8.5に調整されており、すべての液を混合したときのpHが6.0〜7.4で滴定酸度が10以下となるものである。
【0011】
本発明に用いるビタミンB1は、従来使用されているものはいずれも可能であり、例えば、チアミン、フルスルチアミン、チアミンジスルフィド、コカルボキシラーゼ、プロスルチアミン、シコチアミン、チアミンモノホスフェイトジスルフィド、ビスベンチアミン、ベンフォチアミンなど、およびこれらの塩が挙げられる。これらのなかでもチアミンおよびこの塩が好ましい。
【0012】
本発明に用いる糖としては、ブドウ糖、フルクトース、マルトース、キシリトール、ソルビトール、グリセリンなどが挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を配合することができる。これらのうち、血糖管理の面などの点からブドウ糖を用いることが好ましい。糖の配合量は、糖液とアミノ酸液の混合後の濃度が3〜7.5w/v%となるようにする。本発明では、必要に応じてpH調節剤を使用して、糖液のpHを、4.0〜5.5の範囲のうちでも、特にpH4.2〜5.5、好ましくはpH4.2〜5.3に調整する。糖液のpHが4.0に満たないと、糖液とアミノ酸液を混合したときのpHを6.0以上にすることが困難となり、5.5を超えると、糖の分解により液の着色などの品質劣化を起こす可能性が高くなる。また、糖液の滴定酸度は30以下とすることが必要である。糖液の滴定酸度が30を超えると、糖液とアミノ酸液を混合したときのpHの範囲からはずれがちになる。
【0013】
本発明に用いるアミノ酸としては、輸液剤の技術分野において使用されるアミノ酸であれば、特に限定されず、具体的には、L−ロイシン、L−イソロイシン、L−バリン、L−リジン、L−トレオニン、L−トリプトファン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−システイン、L−チロジン、L−アルギニン、L−ヒスチジン、L−アラニン、L−プロリン、L−セリン、アミノ酢酸、L−アスパラギン酸、L−グルタミン酸などが挙げられ、これらのアミノ酸は遊離アミノ酸のみならず種々の塩、例えばナトリウム、カリウムとの金属塩、酢酸、リンゴ酸との有機酸塩、塩酸、硫酸との鉱酸塩などを形成しているものであっても良く、さらには一部のアミノ酸をペプチドにしても良い。
アミノ酸の配合量は、投与経路などの使用目的に応じて適宜決定できるが糖液とアミノ酸液の混合後の濃度が2〜10w/v%となる濃度範囲で配合することが好適である。
【0014】
本発明のアミノ酸液は、必要に応じてpH調節剤を使用して、pH6.5〜8.5、好ましくはpH6.7〜8.3に調整される。アミノ酸液のpHが6.5に満たないと、糖液とアミノ酸液を混合したときのpHを6.0以上にすることが困難となり、8.5を超えると、L−システインなどのアミノ酸が不安定となりやすくなり、好ましくない。
また、本発明のアミノ酸液には、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムなどの亜硫酸塩が安定化剤として添加できる。
【0015】
本発明に用いる電解質としては、一般の電解質輸液などに用いられる化合物と同様ものを使用でき、生体に必須の電解質であるナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、クロル、リンなどが挙げられる。具体的には、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化カリウム、ヨウ化カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、乳酸カリウム、クエン酸カリウム、酢酸カリウム、乳酸カルシウム、グリセロリン酸ナトリウム、グリセロリン酸カリウム、グリセロリン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、硫酸鉄、塩化第一鉄、塩化第二鉄、グルコン酸鉄、硫酸銅、硫酸マンガンなどが使用でき、これらは水和物であってもよい。
なお、カルシウム塩とリン酸塩の電解質を配合するにあたっては、液のpHが高いと両塩による沈殿を生じることがあるために、両塩をpHの低い糖液に配合するか、それぞれ分離して配合することが好ましく、例えば、カルシウム塩を糖液に配合した場合はリン酸塩をアミノ酸液に配合し、リン酸塩を糖液に配合した場合はカルシウム塩をアミノ酸液に配合することが好ましい。さらに、マグネシウム塩もリン酸塩との沈殿形成することがあるので、カルシウム塩と同液に配合することが好ましい。
【0016】
上記糖液およびアミノ酸液は、必要に応じてpH調節剤を使用することができる。本発明で用い得るpH調節剤は、医薬品添加物として使用できるものであれば制限を受けない。例えば、クエン酸、酢酸、酒石酸、炭酸、乳酸、フマル酸、プロピオン酸、ホウ酸、リン酸、硫酸およびそれらの化合物やアジピン酸、塩酸、グルコン酸、コハク酸、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、マレイン酸、リンゴ酸などのうちから選ばれる1種以上を混合することができる。
かくして調製された糖液およびアミノ酸液は、使用する際に混合してから使用することとなる。すべての液を混合したときのpHは6.0〜7.4、好ましくはpH6.5〜7.4に調整される。混合液のpHが6.0に満たないと、静脈炎を起こしやすくなり、7.4を超えると、血液のpHを超えてしまう。また、すべての液を混合したときの滴定酸度は10以下とすることが必要である。すべての液を混合したときの滴定酸度が10を超えると、混合液のpHは前記範囲から外れがちになる。
以上、本発明のビタミンB1配合末梢静脈投与用総合輸液剤の薬液について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではなく、必要に応じて、ビタミンB1以外の水溶性ビタミン類、脂溶性ビタミン類、糖類、アミノ酸類、電解質成分類や添加剤などを添加してもよい。
【0017】
本発明のビタミンB1配合末梢静脈投与用総合輸液剤を収容する容器としては特に限定されない。容器の材質としては、医療用容器などに通常使用されているポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、架橋エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・α−オレフィン共重合体、これらの各ポリマーのブレンドや積層体などが挙げられる。
容器への充填、収容は常法に従って行うことができ、例えば、各液を不活性ガス雰囲気下で充填し、施栓し、加熱滅菌する方法が挙げられる。加熱滅菌方法は、高圧蒸気滅菌、熱水滅菌、熱水シャワー滅菌などの公知の方法を適宜採用することができる。また、滅菌方法の操作条件、例えば、滅菌時間、滅菌温度などは通常のこの種の滅菌操作条件などと同様のものとすることができる。さらに、上記加熱滅菌は、必要に応じて窒素などの不活性ガス雰囲気中で行うことができる。
【0018】
さらに、本発明のビタミンB1配合末梢静脈投与用総合輸液剤の酸化などの変質を確実に防止するために、輸液剤を収容した容器を脱酸素剤とともに実質的に酸素を透過しない外装容器で包装することができる。この際、輸液剤を収納する容器の材質としてガス透過性を有するプラスチックを用いることが好ましい。脱酸素剤としては、公知の各種のものが使用できる。例えば、水酸化鉄、酸化鉄、炭化鉄などの鉄化合物を有効成分とするものを利用できる。市販品としてはエージレス(三菱ガス化学(株)製)、モジュラン(日本化薬(株)製)およびセキュール(日本曹達(株)製)などが挙げられる。
【0019】
包装に適した実質的に酸素を透過しない外装容器の材質としては、一般に汎用されている各種材質のフィルムシートを使用することができる。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、エチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリエステル、アルミ箔、アルミ蒸着フィルム、酸化アルミ蒸着フィルム、酸化ケイ素蒸着フィルムなどおよびこれらの少なくとも1つを含む多層フィルムシートなどが挙げられる。なお、外装容器内の空間は窒素等の不活性ガスで充填されていることが好ましい。このようにして得られたビタミンB1配合末梢静脈投与用総合輸液剤は、あらかじめビタミンB1を配合してもビタミンB1の安定性を保持し、使用時に中性に近いpHとなることで静脈炎を起こしにくくすることができるビタミンB1配合末梢静脈投与用総合輸液剤を提供することができる。
【実施例】
【0020】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
《実施例1》
窒素気流下、ブドウ糖75g/700mL、塩化ナトリウム0.80g/700mL、乳酸ナトリウム2.29g/700mL、グルコン酸カルシウム1.12g/700mL、硫酸マグネシウム0.62g/700mL、硫酸亜鉛1.40g/700mLおよび塩酸チアミン2.3mg/700mLを注射用蒸留水に溶解し、pH調節剤として微量の氷酢酸を用いてpH5.0として、糖液を調製した。この糖液の滴定酸度は2であった。
一方、窒素気流下、L−ロイシン4.2g/300mL、L−イソロイシン2.4g/300mL、L−バリン2.4g/300mL、塩酸リジン3.93g/300mL、L−トレオニン1.71g/300mL、L−トリプトファン0.6g/300mL、L−メチオニン1.17g/300mL、L−フェニルアラニン2.1g/300mL、L−システイン0.315g/300mL、L−チロジン0.15g/300mL、L−アルギニン3.15g/300mL、L−ヒスチジン1.5g/300mL、L−アラニン2.4g/300mL、L−プロリン1.5g/300mL、L−セリン0.9g/300mL、アミノ酢酸1.77g/300mL、L−アスパラギン酸0.3g/300mL、L−グルタミン酸0.3g/300mL、リン酸水素二カリウム1.74g/300mLおよび亜硫酸水素ナトリウム90mg/300mLを注射用蒸留水に溶解し、pH調節剤として微量の氷酢酸を用いてpH6.9として、アミノ酸液を調製した。
以上のようにして調製した糖液の350mLおよびアミノ酸液の150mLをそれぞれポリエチレン製2室容器の各室に充填し、密封した後、窒素ガスを導入し高圧蒸気滅菌処理を行った。さらに、容器を脱酸素剤(エージレス、三菱ガス化学(株)製)2個と共にガス非透過性外装包材(アルミ蒸着フィルム、大日本印刷(株)製)に封入し、B1配合末梢静脈投与用総合輸液剤1を得た。なお、この輸液剤の糖液およびアミノ酸液を混合した後の液のpHは6.7であり、滴定酸度は8であった。
【0021】
《比較例1》
実施例1においてアミノ酸液の亜硫酸水素ナトリウム90mg/300mLの代わりに亜硫酸水素ナトリウムをアミノ酸液に60mg/300mLと糖液に30mg/700mLとに分けて配合した以外は実施例1と全く同じ操作を繰り返して末梢静脈投与用総合輸液剤を得た。
【0022】
《試験例1》
上記各実施例1で調製したB1配合末梢静脈投与用総合輸液剤1および比較例1で調製した末梢静脈投与用総合輸液剤の滅菌直後および室温に7日間保存した後のチアミン量を液体クロマトグラフ法により測定した。結果を表1に示す。
なお、表1には、配合量に対する割合を百分率で示す。
【0023】
【表1】

【0024】
表1の結果より、実施例1のB1配合末梢静脈投与用総合輸液剤は滅菌直後および室温に7日間保存した後も高濃度でチアミンを含有していたが、亜硫酸イオンを含んだ比較例1の末梢静脈投与用総合輸液剤は滅菌直後および室温に7日間保存した後のチアミン量が著しく減少した。
【0025】
《実施例2》
実施例1において糖液のpHを4.4に、アミノ酸液のpHを7.9にした以外は実施例1と全く同じ操作を繰り返してB1配合末梢静脈投与用総合輸液剤2を得た。なお、この糖液の滴定酸度は15であった。また、この輸液剤の糖液およびアミノ酸液を混合した後の液のpHは6.7であり、滴定酸度は8であった。
【0026】
《実施例3》
実施例1において糖液のpHを4.2に、アミノ酸液のpHを8.2にした以外は実施例1と全く同じ操作を繰り返してB1配合末梢静脈投与用総合輸液剤3を得た。なお、この糖液の滴定酸度は25であった。また、この輸液剤の糖液およびアミノ酸液を混合した後の液のpHは6.7であり、滴定酸度は8であった。
【0027】
《実施例4》
窒素気流下、ブドウ糖75g/700mL、リン酸水素二カリウム1.74g/700mLおよび塩酸チアミン2.3mg/700mLを注射用蒸留水に溶解し、pH調節剤として微量の氷酢酸を用いてpH5.2として、糖液を調製した。この糖液の滴定酸度は15であった。
一方、窒素気流下、L−ロイシン4.2g/300mL、L−イソロイシン2.4g/300mL、L−バリン2.4g/300mL、塩酸リジン3.93g/300mL、L−トレオニン1.71g/300mL、L−トリプトファン0.6g/300mL、L−メチオニン1.17g/300mL、L−フェニルアラニン2.1g/300mL、L−システイン0.315g/300mL、L−チロジン0.15g/300mL、L−アルギニン3.15g/300mL、L−ヒスチジン1.5g/300mL、L−アラニン2.4g/300mL、L−プロリン1.5g/300mL、L−セリン0.9g/300mL、アミノ酢酸1.77g/300mL、L−アスパラギン酸0.3g/300mL、L−グルタミン酸0.3g/300mL、塩化ナトリウム0.80g/300mL、乳酸ナトリウム2.29g/300mL、グルコン酸カルシウム1.12g/300mL、硫酸マグネシウム0.62g/300mL、硫酸亜鉛1.40g/300mLおよび亜硫酸水素ナトリウム90mg/300mLを注射用蒸留水に溶解し、pH調節剤として微量の氷酢酸を用いてpH7.9として、アミノ酸液を調製した。
以上のようにして調製した糖液の350mLおよびアミノ酸液の150mLをそれぞれポリエチレン製2室容器の各室に充填し、密封した後、窒素ガスを導入して高圧蒸気滅菌処理を行った。さらに、容器を脱酸素剤(エージレス、三菱ガス化学(株)製)2個と共にガス非透過性外装包材(アルミ蒸着フィルム、大日本印刷(株)製)に封入し、B1配合末梢静脈投与用総合輸液剤4を得た。なお、この輸液剤の糖液およびアミノ酸液を混合した後の液のpHは6.7であり、滴定酸度は8であった。
【0028】
《実施例5》
実施例4において糖液のpHを4.7に、アミノ酸液のpHを8.2にした以外は実施例4と全く同じ操作を繰り返してB1配合末梢静脈投与用総合輸液剤5を得た。なお、この糖液の滴定酸度は24であった。また、この輸液剤の糖液およびアミノ酸液を混合した後の液のpHは6.7であり、滴定酸度は8であった。
【0029】
《試験例2》
上記各実施例2〜5で調製したB1配合末梢静脈投与用総合輸液剤2〜5の保存開始直後,60℃に3週間保存した後および40℃に12週間保存した後のチアミン量を液体クロマトグラフ法により、L−システイン量を比色定量法により測定した。
チアミン量の結果を表2にL−システイン量の結果を表3に示す。なお、表2および3には、保存開始直後のチアミン量およびL−システイン量に対する割合を百分率で示す。
【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
表2および3の結果より、実施例2〜5のB1配合末梢静脈投与用総合輸液剤2〜5は60℃に3週間保存した後および40℃に12週間保存した後も高濃度でチアミンおよびL−システインを含有していた。また、糖液側には着色はみられず、また糖の分解が発生していないことも確認された。
【0033】
《実施例6》
実施例5において調製したアミノ酸液を用いた以外は実施例4と全く同じ操作を繰り返してB1配合末梢静脈投与用総合輸液剤6を得た。この輸液剤の糖液およびアミノ酸液を混合した後の液のpHは7.3であり、滴定酸度は1であった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のB1配合末梢静脈投与用総合輸液剤は、あらかじめビタミンB1が配合された末梢静脈投与用総合輸液剤でありながら長期間ビタミンB1の安定性を保持でき、しかも使用時に糖液とアミノ酸液を混合した際に中性に近いpHとなるため、投与したときに静脈炎を起こしにくく、末梢静脈投与用総合輸液剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)用時連通可能な隔離手段により区画された容器の一室に糖を含有する糖液が収容され、他方の室にアミノ酸を含有するアミノ酸液が収容され、カルシウム塩およびリン酸塩が前記糖液に両方とも配合されるか又はいずれか一方が糖液に他方がアミノ酸液に配合されてなる用時混合型の末梢静脈投与用輸液剤であって、
(ii)前記糖液は、混合後の輸液剤の全容量に対して糖濃度が3〜7.5w/v%となる量で糖を含有し、亜硫酸イオンを含有せず、ビタミンB1を含有し、pHが4.2〜5.5で、且つ滴定酸度が30以下に調整されており;
(iii)前記アミノ酸液は、pHが6.5〜8.5に調整されており;および、
(iv)隔離手段を連通させて前記輸液剤のすべての液を混合したときのpHが6.0〜7.4で且つ滴定酸度が10以下となる;
ことを特徴とする用時混合型のビタミンB1配合末梢静脈投与用総合輸液剤。
【請求項2】
糖がブドウ糖である請求項1記載のビタミンB1配合末梢静脈投与用総合輸液剤。
【請求項3】
カルシウム塩とリン酸塩が糖液とアミノ酸液に別々に配合されている請求項1または2記載のビタミンB1配合末梢静脈投与用総合輸液剤。
【請求項4】
ビタミンB1がチアミンおよびその塩から選ばれる1種以上である請求項1〜3のいずれかに記載のビタミンB1配合末梢静脈投与用総合輸液剤。
【請求項5】
すべての液を混合した後の組成が、ブドウ糖3〜7.5w/v%、チアミン0.4〜40mg/L、L−ロイシン2.0〜7.0g/L、L−イソロイシン1.0〜4.0g/L、L−バリン0.7〜4.2g/L、L−リジン1.5〜7.5g/L、L−トレオニン0.8〜3.0g/L、L−トリプトファン0.2〜1.2g/L、L−メチオニン0.5〜2.5g/L、L−フェニルアラニン1.0〜4.0g/L、L−システイン0.1〜0.7g/L、L−チロジン0〜0.5g/L、L−アルギニン1.4〜5.5g/L、L−ヒスチジン0.8〜2.7g/L、L−アラニン1.0〜4.2g/L、L−プロリン0.6〜2.6g/L、L−セリン0.3〜1.7g/L、アミノ酢酸1.0〜4.5g/L、L−アスパラギン酸0.1〜1.7g/L、L−グルタミン酸0.1〜3.0g/L、ナトリウム25〜70mEq/L、カリウム15〜50mEq/L、カルシウム3〜15mEq/L、マグネシウム3〜10mEq/L、クロル25〜70mEq/L、リン5〜20mmol/L、亜鉛0〜30μmol/Lである請求項1〜4のいずれかに記載のビタミンB1配合末梢静脈投与用総合輸液剤。
【請求項6】
用時連通可能な隔離手段により区画された容器がガス透過性容器であり、かつ脱酸素剤と共にガス非透過性外装容器に封入されている請求項1〜5のいずれかに記載のビタミンB1配合末梢静脈投与用総合輸液剤。

【公開番号】特開2006−1945(P2006−1945A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−253334(P2005−253334)
【出願日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【分割の表示】特願2001−248449(P2001−248449)の分割
【原出願日】平成13年8月20日(2001.8.20)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】