説明

ビフィドバクテリウム・ロンガム及び機能性GI障害

本発明は、概してプロバイオティクス細菌の分野に関する。本発明は、特にビフィドバクテリウム・ロンガム(例えばビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999)及び摂取可能な組成物中でのその使用に関する。本発明の組成物は、機能性GI障害の治療又は予防に使用可能である。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、概してプロバイオティクス細菌の分野に関する。特に、本発明は、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)NCC3001(ATCC BAA−999)(以下、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999という。)及び摂取可能な組成物における同菌の使用に関する。本発明に記載の組成物は、機能性胃腸(GI)障害を治療又は予防するために使用することができる。
【0002】
機能性GI障害(FGID)は、過敏性腸症候群(IBS)及び機能性消化不良を含む障害群であり、腹部の不快感又は腹痛、腹部膨満、及びIBSの場合は排便習慣の変化(下痢及び/又は便秘)により特徴付けられる、高い疾病率を伴う慢性状態である。
【0003】
一般集団におけるFGIDの有病率は比較的高く、15%〜30%であり、かなりの経済的負担となっている。IBS単独の年間直接経費は、現在、先進工業8ヶ国では約$US410億であり、さらに相当な間接経費(例えば業務欠勤)を伴うことが示唆されている。FGIDのための現在の治療はよくてもわずかな効果しか示さず、これは、病因の理解が不十分なことと歴史的に関連している。
【0004】
IBSの正確な病態生理学は依然不明のままである。
【0005】
最近の研究では、IBS患者における粘膜の炎症及び腸内細菌叢の変化、並びに腸管感染との疾患相関性が記載されている。
【0006】
いくつかのプロバイオティクスが、抗菌、抗ウイルス、及び抗炎症特性を示し、腸内微生物叢のバランスを修復することができるという事実は、これらのプロバイオティクスがIBSのための適当な治療薬となり得ることを示唆する。
【0007】
これまでに、IBSに対する様々なプロバイオティクスの効果に関する複数の試験が公表されている。これらの試験は、プロバイオティクスの使用がIBS症状の改善に関係し得ることだけでなく、すべてのプロバイオティクスがIBSにおいて等しい効果を有するわけではないことも示唆している。
【0008】
最近実施された複数のメタ解析では、他のプロバイオティクスの有効性についてコメントするにはデータが不十分と結論付けられている(Lynne V McFarlandら、World J Gastroenterol、2008年5月7日;第14巻(17):2650〜2661頁;Nourieh Hoveydaら、BMC Gastroenterology、2009年、第9巻:15頁)。
【0009】
そこで、本発明は、現在の技術水準を改善すること、特に、機能性GI障害を治療又は予防するために使用可能であり、効果的、容易に入手可能、低価格で、投与するのに安全で望ましくない副作用のない、他の細菌株を含む組成物を提供することを目的とした。
【0010】
本発明者らはこの要求に取り組み、驚くべきことに、本願の独立請求項の発明により上記目的が達成できることを見出した。従属請求項は、本発明の思想をさらに発展させるものである。
【0011】
機能性GI障害の治療及び/又は予防における有効性は、使用される細菌の属、種、株に依存することが判明している。
【0012】
したがって、本発明の一実施形態は、機能性GI障害の治療及び/又は予防用組成物であって、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999及び/又は同菌の発酵増殖培地を含有する組成物である。
【0013】
また、本発明は、機能性GI障害の治療及び/又は予防用組成物を調製するためのビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999の使用にも関する。
【0014】
ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999は、本発明の目的を達成するのに特に効果的であることが判明しているビフィドバクテリウム・ロンガム種の1株であった。
【0015】
好都合にも、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999は商業的に入手可能であり、すでに試験されて、例えば食品への添加が許容可能なことが明らかにされていた。
【0016】
ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999(BL999)は、専門供給業者から商業的に入手可能であり、例えば日本の森永乳業株式会社から商標BB536の下に入手することができる。
【0017】
ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999(BAA999)は、任意の適当な方法で培養することができる。同菌は、例えば凍結乾燥又は噴霧乾燥された形態で製品に添加されてもよい。
【0018】
「ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999(BAA999)」という語は、細菌、細菌の部分、及び/又は細菌により発酵された増殖培地を包含する。
【0019】
組成物は任意の組成物であり得るが、好ましくは、経口的、経腸的又は経直腸的に投与される組成物である。
【0020】
例えば、組成物は食用組成物であり得る。
【0021】
「食用」とは、ヒト又は動物の摂取用として承認された物質を意味する。
【0022】
一般に、組成物は、食品組成物、ペットフード組成物、栄養補助食品、機能性食品、栄養製剤、飲料物、及び/又は医薬組成物からなる群より選択され得る。
【0023】
本発明の組成物が食品組成物の場合、組成物は、薬局、ドラッグストアだけでなく、普通のスーパーマーケットにも分配可能であり、誰もが容易に入手可能であるという利点を有する。
【0024】
食品組成物の味が一般に良好であれば、製品の許容性にさらに寄与するであろう。特に小さい子供又はペットは、一般に好まれる味を有する組成物を進んで消費する可能性が非常に高い。
【0025】
本発明に適用可能な食品の例として、ヒト用の、ヨーグルト、ミルク、フレーバードミルク、アイスクリーム、即席デザート、例えばミルク若しくは水で再構成する粉末、チョコレートミルク飲料物、麦芽飲料物、即席食品、インスタント食品若しくは飲料物、又はペット若しくは家畜用の、完全食品若しくは部分食品である食品組成物が挙げられる。
【0026】
したがって、一実施形態において、本発明による組成物はヒト、ペット又は家畜用の食品である。
【0027】
組成物は、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ又は家禽からなる群より選択される動物用として意図され得る。
【0028】
好ましい一実施形態において、組成物は、成体種、特にヒト成人用の食品である。
【0029】
本発明の組成物は、保護性の親水コロイド(例えばゴム、タンパク質、加工デンプン等)、結合剤、被膜形成剤、カプセル化剤/材、壁/シェル材、マトリックス化合物、コーティング、乳化剤、界面活性剤、可溶化剤(油、脂肪、ワックス、レシチン等)、吸着剤、担体、充填剤、共化合物、分散剤、湿潤剤、加工助剤(溶媒)、流動化剤、風味マスキング剤、増量剤、ゼリー化剤、ゲル形成剤、酸化防止剤、及び抗菌剤をさらに含有し得る。組成物は、水、任意の起源のゼラチン、植物性ゴム、リグニンスルホネート、タルク、糖、デンプン、アラビアゴム、植物油、ポリアルキレングリコール、香味剤、防腐剤、安定剤、乳化剤、緩衝剤、潤滑剤、着色剤、湿潤化剤、充填剤等を含むがこれらに限定されない、従来型の医薬添加物及びアジュバント、賦形剤及び希釈剤も含有することができる。すべての場合において、そのような追加成分は、意図されるレシピエントにとって適当であるかどうかを考慮して選択される。
【0030】
組成物は栄養上完全な処方であり得る。
【0031】
本発明による組成物は、タンパク質源を含み得る。
【0032】
任意の適当な食物タンパク質、例えば、動物タンパク質(例えば、乳タンパク質、食肉タンパク質、及び卵タンパク質);植物性タンパク質(例えば、大豆タンパク質、小麦タンパク質、米タンパク質、及びエンドウ豆タンパク質);遊離アミノ酸の混合物;又はこれらを組み合わせたものが使用可能である。カゼイン及び乳清等の乳タンパク質、及び大豆タンパク質が特に好ましい。
【0033】
タンパク質は、完全な若しくは加水分解されたタンパク質、又は完全な及び加水分解されたタンパク質の混合物であり得る。部分的に加水分解されたタンパク質(2〜20%の加水分解度)を、例えば牛乳アレルギー発症リスクを有するヒト対象及び/又は動物用として供給することが望ましい場合もある。
【0034】
さらに、事前に加水分解されたタンパク質源は、一般に障害のある胃腸管により消化、吸収されやすい。
【0035】
加水分解されたタンパク質が必要とされる場合には、加水分解プロセスは望む通りに、また当技術分野において知られているように実施することができる。部分的に加水分解されたタンパク質(2〜20%の加水分解度)を供給することが望ましい場合もある。
【0036】
例えば、乳清タンパク質加水分解物は、少なくとも1つのステップで乳清画分を酵素的に加水分解することにより調製され得る。出発物質として用いられる乳清画分が実質的にラクトースを含まない場合には、加水分解プロセス期間中にタンパク質が受けるリシン遮断はかなり少ないことが見出される。このことは、リシン遮断範囲を総リシン重量の約15%からリシン重量の約10%未満まで、例えばリシン重量の約7%まで低減することができ、タンパク質源の栄養品質を大幅に改善する。
【0037】
組成物は、炭水化物源及び脂肪源も含有し得る。
【0038】
組成物が脂肪源を含む場合には、脂肪源は、組成物のエネルギーの5%〜40%、例えば、エネルギーの20%〜30%を好ましくは提供する。適当な脂肪プロファイルは、キャノーラ油、コーン油、及び高オレイン酸ヒマワリ油のブレンド品を用いて得ることができる。
【0039】
炭水化物源が組成物に添加されてもよい。
【0040】
炭水化物源は、組成物のエネルギーの40%〜80%を好ましくは提供する。任意の適当な炭水化物、例えばスクロース、ラクトース、グルコース、フルクトース、コーンシロップ固形物、マルトデキストリン、及びこれらの混合物が使用可能である。また、所望により食物繊維が添加されてもよい。食物繊維は酵素により消化されずに小腸を通過し、天然の膨張性薬剤及び緩下剤として機能する。食物繊維は可溶性であっても、また不溶性であってもよく、一般的にはこれら2つのタイプのブレンド品であるのが好ましい。適当な食物繊維源としては、大豆、エンドウ豆、エンバク、ペクチン、グアーガム、部分的に加水分解されたグアーガム、アラビアゴム、フルクトオリゴ糖、酸性オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、シアリルラクトース、及び動物乳に由来するオリゴ糖が挙げられる。好ましい繊維ブレンド品は、短鎖フルクトオリゴ糖を有するイヌリン混合物である。繊維が存在する場合、繊維含有量は、好ましくは消費される組成物の2〜40g/L、より好ましくは4〜10g/Lである。
【0041】
組成物はまた、USRDA等の政府機関の勧告に基づき、微量元素やビタミン等の無機物及び微量栄養素も含有し得る。例えば、組成物は1日用量当たり少なくとも1種の下記微量栄養素を次の範囲で含有し得る。カルシウム、300〜500mg;マグネシウム、50〜100mg;リン、150〜250mg;鉄、5〜20mg;亜鉛、1〜7mg;銅、0.1〜0.3mg;ヨウ素、50〜200μg;セレニウム、5〜15μg;βカロテン、1000〜3000μg;ビタミンC、10〜80mg;ビタミンB1、1〜2mg;ビタミンB6、0.5〜1.5mg;ビタミンB2、0.5〜2mg;ナイアシン、5〜18mg;ビタミンB12、0.5〜2.0μg;葉酸、100〜800μg;ビオチン、30〜70μg;ビタミンD、1〜5μg;ビタミンE、3〜10μg。
【0042】
所望であれば、少なくとも1種の食品グレードの乳化剤、例えばモノ及びジグリセリドのジアセチル酒石酸エステル、レシチン、並びにモノ及びジグリセリドを組成物に組み込むことができる。同様に適当な塩及び安定剤も含まれ得る。
【0043】
組成物は、例えばミルク又は水で再構成する粉末の形態で、経口的及び/又は経腸的に投与可能であり得る。
【0044】
本発明の好ましい一実施形態によれば、組成物は、他の少なくとも1種の食品グレードの微生物を含有する。
【0045】
「食品グレード」の微生物とは、食物で使用するのに安全な微生物である。
【0046】
食品グレードの微生物は、食品グレードの細菌、又は食品グレードの酵母であるのが好ましい。食品グレードの細菌は、乳酸菌、ビフィズス菌、プロピオン酸菌、又はこれらの混合物からなる群より選択され得る。食品グレードの酵母として、例えばサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、及び/又はサッカロマイセス・ブラウディ(Saccharomyces boulardii)が使用可能である。
【0047】
食品グレードの細菌はプロバイオティクス細菌であり得る。
【0048】
「プロバイオティクス」とは、宿主の健康又は健全な状態に有益な効果を有する微生物細胞の調製物、又は成分を意味する(Salminen S、Ouwehand A. Benno Y.ら、“Probiotics:how should they be defined”Trends Food Sci. Technol.、1999年:第10巻;107〜10頁)。
【0049】
プロバイオティクス細菌は、乳酸菌、ビフィズス菌、プロピオン酸菌、又はこれらの混合物からなる群より好ましくは選択される。プロバイオティクス細菌は、確立されたプロバイオティクス特性を有する任意の乳酸菌又はビフィズス菌であり得る。例えば、プロバイオティクス細菌は、ビフィズス菌の腸内微生物叢の発達を促進することもできる。
【0050】
適当なプロバイオティクスは、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、及びサッカロマイセス属(Saccharomyces)、又はこれらの混合物からなる群より選択され得、特にビフィドバクテリウム・ロンガム、ビフィドバクテリウム・ラクティス(Bifidobacterium lactis)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)、ラクトバチルス・ジョンソニイ(Lactobacillus johnsonii)、ラスラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・サリヴァリゥス(Lactobacillus salivarius)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)、サッカロマイセス・ブラウディ、及びラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、又はこれらの混合物からなる群より選択され得、好ましくはラクトバチルス・ジョンソニイ(NCC533;CNCM I−1225)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(NCC490;CNCM I−2170)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(NCC2705;CNCM I−2618)、ビフィドバクテリウム・ラクティス(2818;CNCM I−3446)、ラクトバチルス・パラカゼイ(NCC2461;CNCM I−2116)、ラクトバチルス・ラムノサスGG(ATCC53103)、ラクトバチルス・ラムノサス(NCC4007;CGMCC 1.3724)、エンテロコッカス・フェシウムSF68(NCIMB10415)、及びこれらの混合物からなる群より選択され得る。
【0051】
本発明の好ましい実施形態において、組成物は少なくとも1種のプレバイオティクスをさらに含有する。「プレバイオティクス」とは、腸内のプロバイオティクス細菌の増殖を促進するよう意図された食品中の物質を意味する。
【0052】
したがって、プレバイオティクスは、腸内の特定の食品グレードの細菌、特にプロバイオティクス細菌の増殖を促進し、したがって、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999の作用を増進することができる。さらに、いくつかのプレバイオティクスは、例えば消化に好ましい影響を有する。
【0053】
好ましくは、プレバイオティクスは、オリゴ糖からなる群より選択され得るが、またフルクトース、ガラクトース、マンノース、大豆、及び/又はイヌリン、食物繊維、又はこれらの混合物を任意選択により含有し得る。
【0054】
ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999は、生菌並びに不活性化された非複製性の細菌種の両方として使用可能である。
【0055】
「非複製性」とは、古典的な平板法では生存細胞及び/又はコロニー形態単位が検出され得ないことを意味する。そのような古典的な平板法は微生物学書に要約されている:James Monroe Jay、Martin J. Loessner、David A. Golden.2005年、Modern food microbiology、第7版、Springer Science、New York、N.Y.790頁。一般に、生存細胞が存在しないことは次のように示すことができる。異なる濃度の細菌調製物(「非複製」サンプル)を播種し、しかるべき条件下で(好気的及び/又は嫌気的雰囲気で少なくとも24時間)インキュベートした後に、寒天プレート上に可視的なコロニーが、又は液体増殖培地内に濁りが認められない。
【0056】
組成物中のビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999の少なくとも一部は生存しており、好ましくは生存した状態で腸内に到達するのが好ましい。こうして、同菌は腸内で生き残ることができ、増殖することによりその有効性を高めることができる。また同菌は、共生細菌及び/又は宿主と相互作用することによっても有効となり得る。
【0057】
例えば、特別な滅菌食品又は医薬品の場合、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999は非複製性の形態で組成物中に存在することが好ましい。したがって、本発明の一実施形態において、組成物中のビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999の少なくとも一部は非複製性である。
【0058】
治療用途では、組成物は、疾患及びその合併症の症状を少なくとも部分的に治癒又は阻止するのに十分な量で投与される。それを実現するのに十分な量は「治療有効量」と定義される。上記目的に有効な量は、当業者に公知のいくつかの要因、例えば疾患の重症度並びに患者の体重及び全身状態に依存する。
【0059】
予防用途では、本発明による組成物は、特定の疾患に罹患しやすい、又はそうでなければそのリスクを有する患者に、疾患を発症するリスクを少なくとも部分的に軽減するのに十分な量で投与される。かかる量は「予防有効量」として定義される。この場合も、正確な量はいくつかの患者固有の要因、例えば患者の健康状態及び体重に依存する。
【0060】
一般に、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999は、治療有効量、及び/又は予防有効量で投与されることになる。
【0061】
ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999が生存可能な形態で存在する場合には、これらの細菌は腸内でコロニー形成し、増殖することができるという事実を考慮すれば、理論上、任意の濃度で有効である。
【0062】
本発明の組成物の場合、組成物の1日用量は、10〜1012cfu(コロニー形成単位)のビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999を含有するのが一般的に好ましい。ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999の特に好適な1日用量は10〜1011cfu、より好ましくは10〜1010cfuである。
【0063】
また、本発明の組成物は、組成物の乾燥重量1グラム当たり10〜1010cfu、好ましくは10〜10cfu、より好ましくは10〜10cfuのビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999を含有する。
【0064】
不活性化された及び/又は非複製性のビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999の場合には、本発明の組成物は、組成物の乾燥重量1グラム当たり10〜1010個のビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999の非複製性細胞を含有するのが一般的に好ましい。ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999の特に好適な用量は、組成物の乾燥重量1グラム当たり、10〜10個の非複製細胞、より好ましくは10〜10個の非複製性細胞である。
【0065】
明らかに非複製性微生物はコロニーを形成しないので、したがって、細胞という用語は、規定量の複製性の細菌細胞から得られた所定量の非複製性の微生物として理解されるべきである。これには、不活性化された、生存不能の、若しくは死滅した、又はDNA若しくは細胞壁物質等の断片として存在する微生物が含まれる。
【0066】
本発明の組成物は、0.2未満、例えば0.19〜0.05の範囲、好ましくは0.15未満の水分活性を有する粉末形態で提供され得る。
【0067】
組成物は長期保存可能な粉末であり得る。水分活性が低いとそのような長期保存性が得られ、プロバイオティクス微生物、例えばビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999は長期の保存期間の後も確実に生存可能な状態に留まるようになる。水分活性又はaは、系内の水のエネルギー状態の測定値である。同活性は、水の蒸気圧を同温に純水の蒸気圧で除したものとして定義され、したがって、純粋な蒸留水はちょうど1の水分活性を有する。
【0068】
あるいは、プロバイオティクス微生物であるビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999はカプセル化された形態で提供されてもよい。
【0069】
細菌のカプセル化は治療上及び技術上の利点を有することが判明している。カプセル化は細菌の生存率、したがって腸に到達する生菌数を高める。さらに、細菌は徐放され、対象の健康に対して持続した作用をもたらすことが可能となる。細菌は、例えば本明細書で参考として援用する仏国特許第2443247号(Societe des Produits Nestle)に記載のようにマイクロカプセル化されてもよい。要するに、細菌は凍結乾燥又は噴霧乾燥してゲルに組み込まれてもよい。
【0070】
驚くべきことに、本発明者らは、本発明の組成物を用いて、海馬BDNF発現を顕著に増加させることができることを見出した。
【0071】
BDNF(脳由来神経栄養因子)はポリペプチド増殖因子の固有のファミリーに由来する増殖因子である。BDNF及び他の神経栄養因子(例えば、NGF(神経増殖因子)、NT−3(ニューロトロフィン−3)、NT−4(ニューロトロフィン−4))は神経系の健康及び健全な状態に必要不可欠である。
【0072】
この効果は、機能性腸疾患に対して認められた効果をおそらく説明し得る。
【0073】
「機能性GI障害」という語は、症状を説明し得る構造的又は生化学的な原因を有さない慢性腹部愁訴により特徴付けられる腸障害の一群を意味する。
【0074】
機能性GI障害は当業者に周知であり、例えば、Longstrethらにより、GASTROENTEROLOGY、2006年;第130巻:1480〜1491頁において、中間部又は下部胃腸管に起因する症状を有する機能性胃腸障害と記載及び定義されている。
【0075】
機能性GI障害は、過敏性腸症候群、機能性消化不良、機能性便秘、機能性下痢、機能性腹痛、機能性腹部膨満、心窩部痛症候群、食後愁訴症候群、又はこれらの組み合わせからなる群より選択され得る。
【0076】
本発明により治療又は予防され得る機能性GI障害としては、例えば不安に関連する機能性GI障害が挙げられる。
【0077】
不安は、典型的には焦燥、恐れ又は心配に関連する不快感を引き起こす心理学的及び生理学的状態である。不安は、例えばストレスに対する正常な反応である。不安はヒトが職場又は学校において困難な状況に対処するのに役立ち得るが、過剰な場合は、不安障害が生じる。不安に関連する機能性GI障害はそのような障害の一群である。
【0078】
本発明者らは現在のところ、本発明の組成物が有効である基本的な機構は、心理的要因と有意に関連している可能性のある双方向性の微生物−腸−脳軸の調節と関連するものと考えている(ただし、理論に束縛されるものではない)。
【0079】
本明細書に記載のあらゆる特徴が、開示されている本発明の範囲から逸脱することなく自由に組み合わせ可能であることは、当業者にとって明白である。特に、本発明の組成物について記載されるすべての特徴は本発明の用途に適用可能であり、その逆も成り立つ。
【0080】
本発明のさらなる特徴及び利点は下記の実施例及び図面に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】暗箱/明箱試験の結果、すなわちネズミ鞭虫(Trichuris muris)(Tm)に感染したマウスにおける、明箱での総滞在時間、明箱に再び入るまでの潜時、及び降りるまでの潜時を示す図である。Tm−培地及びTm−B.ロンガム(B.longum)は、それぞれ新鮮な培地(陰性対照)及びビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999で処置されたTm感染マウスである。L.ラムノサス(L.rhamnosus)(L.rh)株で処置されたTm群を比較対象として示す。
【図2】ネズミ鞭虫(Tm)に感染したマウスの脳海馬領域におけるin situハイブリダイゼーションの結果を示す図である。Tm−B.ロンガム(B.longum)はビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999で処置されたTm感染マウスである。L.ラムノサス(L.rhamnosus)株で処置されたマウスのTm群を比較対象として示す。35Sシグナルの定量は、オートラジオグラフィー及び画像解析により行った(右上パネル)。
【図3】ネズミ鞭虫(Tm)に感染したマウスにおいて大腸炎について得られた、ミエロペルオキシダーゼ活性アッセイ(左側)及び単核球浸潤(右側)の測定結果を示す図である。Tm−培地及びTm−B.ロンガム(B.longum)は、それぞれ新鮮な培地(陰性対照)及びビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999で処置されたTm感染マウスである。L.ラムノサス(L.rhamnosus)株で処置されたマウスのTm群を比較対象として示す。
【実施例】
【0082】
材料及び方法:
細菌培養条件:
プロバイオティクス(ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999及び比較用のL.ラムノサス NCC4007)は、Man−Rogosa−Sharpe(MRS、BioMerieux)ブロス(0.5%システインを含むビフィズス菌)中、嫌気性条件下で増殖させた。37℃で24時間経過後、600nmで光学濃度を測定することにより細菌数を見積もった(1OD600=10細菌/mL)。5000×g、4℃で15分間遠心分離することによって細菌細胞をペレット化し、その使用済み培地中に1010/mLの濃度でさらに再懸濁させた。1mLのアリコートを使用時まで凍結状態に維持した。
【0083】
動物:
雄のBALB/c又はAKRマウス(Harlan、カナダ)を6〜8週齢で購入し、McMaster大学中央動物施設にある通常の特定病原菌フリーのユニット内に収容した。すべての実験は、McMaster大学動物管理委員会の承認を得て実施した。
【0084】
デザイン:
慢性ネズミ鞭虫感染:
雄のAKRマウスに、ネズミ鞭虫(300個の卵/マウス)(n=26)又はプラセボ(n=9)を強制摂取させた。次に、感染マウスに、30日目から10日間、L.ラムノサス、B.ロンガム又は新鮮なMRSを毎日強制摂取させた。非感染マウスは、30日目から40日目まで毎日、新鮮なMRSを強制摂取させた。プロバイオティクス又はプラセボ投与の終了時に、マウスを暗箱/明箱試験及びステップダウン試験に供した。その後、マウスを屠殺し、組織サンプルを得た。大腸サンプルは、組織学的分析用にホルマリンで固定化するか、又はMPO測定用に急速凍結した。脳は液体窒素中で急速凍結し、in situハイブリダイゼーション用に保存した。
【0085】
行動試験:
暗箱/明箱試験:
不安行動を、文献記載のように暗箱/明箱を用いてマウスを対象に個別に評価した。簡単に説明すると、各マウスは、開口部(10×3cm)により小さめの暗箱(30×15cm)に連結された照射されている明箱(30×30cm)の中央に配置された。明箱中の各マウスの自発運動行動をデジタルビデオカメラで10分間記録し、オフライン分析用にコンピュータに保存した。明箱での総滞在時間、明箱に再び入るまでの潜時(暗箱中に最初に入った後の滞在時間)、及びクロスオーバー数(暗箱から明箱に渡った回数)を含むいくつかのパラメータが盲検観察者により評価された。
【0086】
ステップダウン試験:
不安行動を、文献記載のようにステップダウン試験を用いて評価した。簡単に説明すると、各マウスを、黒い床の中央に位置する高架プラットフォーム(直径7.5cm、高さ3cm)の中央に配置した。台座から降りるまでの潜時をストップウォッチで計測した。試験の最大持続時間は5分間であった。
【0087】
組織学的検査:
大腸サンプルを10%ホルマリンで固定し、次いでヘマトキシリン−エオシンを用いて染色した。スライドを光学顕微鏡で観察し、急性及び慢性炎症性浸潤に等級付けした。
【0088】
ミオペルオキシダーゼ活性アッセイ:
急性腸炎を評価するために、ミオペルオキシダーゼ活性(MPO)アッセイを、先に記載のように凍結組織について行った。MPO活性は、組織1mg当たりのユニットで表し、MPO1ユニットは、室温で1分間に1μmolの過酸化水素を水に変換できる酵素量と定義する。
【0089】
CNSにおけるin situハイブリダイゼーション:
海馬内のBDNFレベル及び視床下部(傍室核)内のCRHレベルを、先に記載のように、凍結脳切片について、35S−標識RNAプローブを用いたin situハイブリダイゼーションにより評価した(Whitfieldら.、1990年;Fosterら、2002年)。簡単に説明すると、脳を取り出し、−60℃の2−メチルブタン内に浸漬して急速に凍結させ、−70℃で保管した。クライオスタットで切った12μm厚の冠状切片を、ゼラチンコーティングされたスライド上に解凍マウントし、乾燥させ、−35℃で保管した。組織切片を4%ホルムアルデヒドで固定し、0.1Mトリエタノールアミン−HCl(pH8.0)中の0.25%無水酢酸でアセチル化し、脱水し、クロロホルムで脱脂した。アンチセンスBDNFリボヌクレオチドプローブ(Dr.J.Lauterborn、及びDr.C.Gall、Univeristyof California Irvineより寄贈)及びアンチセンスCRHリボヌクレオチドプローブ(Dr.James Herman、Univeristy of Cincinnatiより寄贈)をそれぞれ、α−35S−UTP(比活性>1000Ci/mmol;Perkin−Elmer、Boston、MA)、T3及びT7ポリメラーゼと共にRiboprobeシステム(Promega Biotech社、Burlington、ON)を用いて線状プラスミドから転写した。放射性標識プローブをハイブリダイゼーションバッファー(0.6M NaCl、10mMトリス(pH8.0)、1mM EDTA(pH8.0)、10%デキストラン硫酸、0.01%剪断サケ精子DNA、0.05%トータル酵母RNA、タイプXI、0.01%酵母tRNA、1×デンハルト溶液)中で希釈し、脳切片(約500,000CPM/切片)にアプライした。スライドを加湿チャンバー中、55℃で一晩インキュベートした。プローブの非特異結合を減少させるために、スライドは、室温の20μg/mlのRNase溶液中で30分間洗浄し、その後50℃の2×SSC中で、また55℃及び60℃の0.2×SSC中で各1時間洗浄した。スライドは、オートラジオグラフィーを行うために脱水及び空気乾燥した。スライド及び14CプラスチックスタンダードをX線カセット内に配置し、5日間フィルム(BioMax MR;Eastman Kodak、Rochester、NY)に並置し、現像した(Kodak Medical X−Ray Processor)。脳切片及びスタンダードのオートラジオグラフィーフィルム画像を、QCaptureソフトウェア(Qicam;Quorum Technologies Inc.、Guelph、ON)を用いた60mmニコンレンズ付き固体カメラ、及び画像ソフトウェア(http://rsb.info.nih.gov/nih−image)を用いたMacintoshコンピュータベースの画像解析システムでデジタル化した。フィルムの光透過率を、モニター上で構造の輪郭を描くことにより測定した。BDNFのmRNAに関しては、上記スタンダードに適用したRodbard曲線を用いて透過率を放射能レベルに変換した。CRHのmRNAに関しては、密度スライス機能を利用して光透過率及びmRNAシグナルの面積の両方を測定した。次いで、算出されたDPMに面積を乗じて積分密度の測定値を得た。図は、取り込まれた画像から直接作成した。
【0090】
統計解析:
データは適宜、平均値±標準偏差、又は中央値と四分位範囲で示す。データは適宜、二元配置ANOVA、検定又は対応のないt検定のいずれかを用いて解析した。p値が<0.05の場合に統計的に有意とみなした。
【0091】
結果:
寄生虫のネズミ鞭虫に慢性的に感染させたマウスは、2つの行動試験で不安様行動の増加を示した。1)暗箱/明箱試験では、感染動物は明箱での滞在時間の減少、及び明箱に再び入るまでの潜時の増加を示した。2)ステップダウン試験では、感染により、台座から降りるまでの潜時が増加した(図1)。L.ラムノサス NCC4007ではなくビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999で処置すると、不安様行動が減少し正常に向かうように誘導された。行動に対する効果は、B.ロンガムでのみ、ネズミ鞭虫が媒介する海馬中BDNFレベルの低下の正常化と相関した(図2)。対照的に、B.ロンガム及びL.ラムノサスで処置すると、ネズミ鞭虫感染により事前誘発されたミエロペルオキシダーゼ活性及び単核球浸潤の低下が引き起こされた(図3)。これは、行動の正常化が細菌の抗炎症効果とは無関係であることを示唆している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能性GI障害の治療及び/又は予防用組成物であって、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999を含有する組成物。
【請求項2】
前記機能性GI障害は、過敏性腸症候群、機能性消化不良、機能性便秘、機能性下痢、機能性腹痛、機能性腹部膨満、心窩部痛症候群、食後愁訴症候群、又はこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記機能性GI障害は不安に関連するものである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
食品組成物、ペットフード組成物、栄養補助食品、機能性食品、栄養製剤、飲料物、及び/又は医薬組成物からなる群より選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
組成物は他の少なくとも1種の食品グレードの細菌をさらに含有し、該食品グレードの細菌は、好ましくは、乳酸菌、ビフィズス菌、プロピオン酸菌、又はこれらの混合物からなる群より選択される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
少なくとも1種のプレバイオティクスをさらに含有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記プレバイオティクスはオリゴ糖からなる群より選択され、フルクトース、ガラクトース、マンノース、大豆、及び/又はイヌリン、食物繊維、又はこれらの混合物を任意選択により含有する、請求項7に記載の組成物。
【請求項8】
組成物中のビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999の少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも15%が生存している、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
組成物中のビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999の少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%が非複製性である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
1日用量当たり10〜1010細胞のビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999を含有する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
組成物の乾燥重量1g当たり10〜10細胞のビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999を含有する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
加水分解された乳清タンパク質を含むタンパク質源をさらに含有する、請求項1〜11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
0.2未満、例えば0.19〜0.05の範囲、好ましくは0.15未満の水分活性を有する粉末の形態である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−503130(P2013−503130A)
【公表日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−526036(P2012−526036)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【国際出願番号】PCT/EP2010/062320
【国際公開番号】WO2011/023689
【国際公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(599132904)ネステク ソシエテ アノニム (637)
【Fターム(参考)】