説明

ピストン及び内燃機関

【課題】 ノッキングの発生を抑制できるピストン及び内燃機関を提供する。
【解決手段】 ピストン103は、内燃機関100の燃焼室63とクランク室67との間に配置されるピストンであって、本体107と、オイル経路108とを備える。本体107は、燃焼室63側の冠面103bと、クランク室67側の内面103acとを有する。オイル経路108は、内面103acに設けられている。オイル経路108は、噴霧部分103aaに噴霧されたオイルOLを、内面103acの噴霧部分103aaと反対側の部分へ導く。噴霧部分103aaは、内面103acの一部である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストン及び内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内部に経路が形成されたピストンが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−73770(第1−5頁、第1−10図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1のピストンでは、クランク室側の第2面と経路とを連通する開口が設けられており、その開口へ向けてオイル噴霧装置からオイルが噴射される。噴射されたオイルは、その開口を介して経路へ導入されて、経路を流れることによりピストンを冷却する。
【0004】
しかし、特許文献1の技術では、オイル噴霧装置からオイルが分散噴霧された場合、その開口を介してオイルを経路へ導入することが困難になる傾向がある。このため、ピストンに取り込まれた燃焼室の熱をオイルにより効率的に逃がせないことがある。その結果、燃焼室の温度が下がりにくく、ノッキングが発生することがある。
【0005】
本発明の課題は、ノッキングの発生を抑制できるピストン及び内燃機関を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るピストンは、内燃機関の燃焼室とクランク室との間に配置されるピストンであって、本体と、オイル経路とを備える。本体は、燃焼室側の第1面と、クランク室側の第2面とを有する。オイル経路は、第2面に設けられている。オイル経路は、噴霧部分に噴霧されたオイルを、第2面の噴霧部分と反対側の部分へ導く。噴霧部分は、第2面の一部である。
【0007】
このピストンでは、オイル経路は、噴霧部分に噴霧されたオイルを、第2面の噴霧部分と反対側の部分へ導く。噴霧部分に噴霧されたオイルは、第2面に接触しながらオイル経路を流れる過程で、取り込まれた熱を吸収することができる。そして、反対側の部分に到達したオイルを下方へ落とすことができ、その熱を逃がすことができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るピストンでは、オイルと第2面との接触面積及び接触時間を増やすことができるため、取り込まれた燃焼室の熱をオイルにより効率的に逃がすことができる。この結果、燃焼室の温度を下げることができるので、ノッキングの発生を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
<本発明の前提となる内燃機関の構成及び動作>
本発明の前提となる内燃機関1の構成及び動作について、図1〜図3を参照しながら説明する。
【0010】
(内燃機関の概略構成)
内燃機関1は、主として、燃焼室63、吸排気機構、燃料噴射弁27、点火プラグ29、ピストン3、ピストンピン4、コンロッド5及びオイルジェット(オイル噴霧装置)12を備える。
【0011】
燃焼室63は、シリンダヘッド20,シリンダブロック10およびピストン3に囲まれた室である。シリンダヘッド20には、燃焼室63に新気空気を供給するための吸気ポート23と、燃焼室63から既燃ガスを排気ガスとして排出するための排気ポート24とが形成されている。
【0012】
また、吸排気機構として、吸気ポート23の下流には、吸気バルブ21が配備されている。一方、排気ポート24の上流には排気バルブ22が配備されている。クランクシャフトの回転に連動して回転する吸気用カム軸21b/排気用カム軸22bに固定された吸気用カム21a/排気用カム22aは、吸気バルブ21/排気バルブ22の上方に配置されており、吸気バルブ21/排気バルブ22を開閉させる。
【0013】
燃料噴射弁27は、吸気ポート23にガソリン燃料を噴射する弁である。燃料噴射弁27は、吸気ポート23上部のシリンダヘッド20から吸気ポート23内部へ延びるように設けられている。燃料噴射弁27の先端は、吸気ポート23に突出している。
【0014】
点火プラグ29は、燃焼室63上部略中央のシリンダヘッド20から燃焼室63内部へ延びるように設けられている。点火プラグ29の先端部分29aは、燃焼室63に突出している。
【0015】
ピストン3は、燃焼室63とクランク室67との間に配置されている。また、ピストンピン4は、ピストン3とコンロッド5とを連結する。ピストン3とコンロッド5とは、ピストンピン4を介して回転することができるようになっている。そして、オイルジェット12は、ピストン3下方のシリンダブロック10が開口されることにより形成されている。
【0016】
(内燃機関の概略動作)
内燃機関1では、吸気ポート23に新気空気が導入されている。燃料噴射弁27は、吸気ポート23に導入された新気空気に、燃料を噴射する。これにより、新気混合気が生成される。また、オイルジェット12は、ピストン3下方(クランク室67側)からピストン3へ向けてオイルOLを分散噴霧する。ピストン3は、オイルOLが分散噴霧されることにより冷却される。
【0017】
吸気行程において、吸気用カム21aにより吸気バルブ21は開状態とされ、新気混合気は吸気ポート23から燃焼室63へ導入される。
【0018】
圧縮行程において、ピストン3が上昇して、燃焼室63の新気混合気が圧縮される。そして、点火プラグ29の先端部分29aにより、燃焼室63の新気混合気は所定のタイミングで点火され燃焼する。
【0019】
膨張行程では、新気混合気が燃焼して発生した燃焼圧力によって、ピストン3が押し下げられる。その圧力は、コンロッド5を介してピストン3からクランク(図示せず)へ動力として伝達される。このとき、燃焼室63の温度が上昇しすぎると、ノッキングが発生することがある。
【0020】
排気行程では、排気用カム22aにより排気バルブ22が開状態とされ、燃焼室63で燃焼された既燃ガスが、排気ガスとして排気ポート24へ排出される。このとき、既燃ガスに含まれた熱も排気ポート24へ排出される。
【0021】
(ピストンの詳細構成)
ピストン3の拡大断面図を図2に示す。
【0022】
ピストン3は、図2に示すように、主として本体7を備える。本体7は、燃焼室63側の冠面(第1面)3bと、クランク室67に開放された内面(第2面)3aとを有する。冠面3bは、燃焼室63に接している。内面3aに囲まれた部分には、略円筒形状の空洞31が形成されている。空洞31の中心軸は、シリンダ軸CAとほぼ一致している。また、内面3aは、第1部分3acと第2部分3adとを有する。第1部分3acは、シリンダ軸CAに略垂直な部分であり、噴霧部分3aaを含む。噴霧部分3aaは、内面3aの一部であり、オイルOLが分散噴霧される部分である。第2部分3adは、シリンダ軸CAに略平行な部分であり、第1部分3acの縁部からクランク室67側へ延びている。
【0023】
また、第1部分3acの噴霧部分3aaとオイルジェット12との間の位置において、ピストンピンボス(図示せず)が形成されておりピストンピン4を支持している。ピストン3とコンロッド5とは、ピストンピン4を介して回転することができるように連結されている。すなわち、ピストンピン4は、第1部分3acの噴霧部分3aaとオイルジェット12との間に位置しており、ピストン3とコンロッド5とを連結する。このため、ピストンピン4やコンロッド5が配置されている部分は、空洞31に含まれないことになる。
【0024】
なお、ピストン3の上部には吸気バルブ21及び排気バルブ22が配置されており、図面上では右側が吸気側であり左側が排気側となっている。燃焼室63では、吸気側の温度よりも排気側の温度の方が高い傾向がある。そして、燃焼室63では、燃焼が行われることにより温度が高くなる。燃焼室63の熱は、ピストン3の冠面3bを介してピストン3に取り込まれる。
【0025】
(ピストンの詳細動作)
ピストンピン4は、第1部分3acの噴霧部分3aaとオイルジェット12との間に位置しており、ピストン3とコンロッド5とを連結する。このため、オイルジェット12は、ピストンピン4やコンロッド5をよけて、空洞31を介して内面3aへ向けてオイルOLを分散噴霧することになる。すなわち、内面3aの第1部分3acには、オイルOLが分散噴霧される。ここで、オイルOLは、分散噴霧されるので、スポット的に進むのではなく、ある程度の広がりの角度を持って進んでいる。また、内面3aの第1部分3acには、シリンダ軸CAに対して排気側に偏った噴霧部分3aaにオイルOLが噴霧される。
【0026】
第1部分3acの噴霧部分3aaに到達したオイルOLは、白抜き矢印で示すように、第1部分3acの噴霧部分3aaで反射されて下方へ落ちていく。ここで、噴霧部分3aaがシリンダ軸CAに対して偏っているので、シリンダ軸CAに対して噴霧部分3aaと反対側における第2部分3adの近傍には、ほとんどオイルOLが供給されないことになる。
【0027】
一方、ピストン3の冠面3bを介してピストン3に取り込まれた熱は、図3に砂模様の矢印で示すように、噴霧部分3aaに到達したオイルOLにその一部が吸収されて、第1部分3acの噴霧部分3aaで反射されたオイルOLとともに下方へ逃がされることになる。ここで、オイルOLが内面3aと接する領域が噴霧部分3aaに限られるので、オイルOLと内面3aとの接触面積は限られている。また、オイルOLが内面3aと接する時間が第1部分3acの噴霧部分3aaで反射される瞬間に限られるので、オイルOLと内面3aとの接触時間は限られている。また、噴霧部分3aaがシリンダ軸CAに対して偏っているので、シリンダ軸CAに対して噴霧部分3aaと反対側における第2部分3adの近傍では、取り込まれた熱がほとんどオイルOLに吸収されないことになる。なお、砂模様の矢印は、伝達される熱量の大きさを太さで示している。
【0028】
<本発明の第1実施形態に係る内燃機関の構成及び動作>
本発明の第1実施形態に係る内燃機関100について、図4〜図8を参照しながら、本発明の前提となる上記の内燃機関1と異なる点を中心に説明する。なお、本発明の前提となる内燃機関1と同様の構成要素は、同じ部材番号で示し説明を省略する。
【0029】
(内燃機関の概略構成)
内燃機関100は、ピストン3の代わりにピストン103を備える。他の点は、本発明の前提となる内燃機関1と同様である。
【0030】
(内燃機関の概略動作)
圧縮行程において、ピストン103が上昇して、燃焼室63の新気混合気が圧縮される。
【0031】
膨張行程では、新気混合気が燃焼して発生した燃焼圧力によって、ピストン103が押し下げられる。
【0032】
他の点は、本発明の前提となる内燃機関1と同様である。
【0033】
(ピストンの詳細構成)
ピストン103の拡大断面図を図5,図7に示す。また、シリンダ軸CA方向視の透視図を図6に示す。
【0034】
ピストン103は、図5に示すように、主として、本体107とオイル経路108とを備える。本体107は、燃焼室63側の冠面(第1面)103bと、クランク室67に開放された内面(第2面)103aとを有する。冠面103bは、燃焼室63に接している。内面103aに囲まれた部分には、略円筒形状の空洞131が形成されている。空洞131の中心軸は、シリンダ軸CAとほぼ一致している。また、内面103aは、第1部分103acと第2部分103adとを有する。第1部分103acは、シリンダ軸CAに略垂直な部分であり、噴霧部分103aaを含む。噴霧部分103aaは、内面103aの一部であり、オイルOLが分散噴霧される部分である。第2部分103adは、シリンダ軸CAに略平行な部分であり、第1部分103acの縁部からクランク室67側へ延びている。そして、第2部分103adは、接触部分103abを含む。接触部分103abは、第2部分103adの一部であり、オイル経路108を流れるオイルOLが接触する部分である。
【0035】
オイル経路108は、主として、フィン(環状突出部)106により形成されている。フィン106は、第2部分103adからシリンダ軸CA側へ突出している。フィン106には、主として、オイル受け面106aと、オイル落とし部109としての切り欠き部106b(図6参照)とが形成されている。なお、オイル経路108がフィン106により形成されているので、それに応じて空洞131の形状も、本発明の前提となる内燃機関1における空洞31と異なっている。
【0036】
オイル受け面106aは、図7に示すように、シリンダ軸CAを含む面で切った断面視において、第2部分103adからシリンダ軸CA側へ、水平面に対して上方に傾斜するように延びている。具体的には、点Cを通る水平面HP1に対して、オイル受け面106aを含む平面OP1は、鋭角の角度θ1を成して上方へ傾斜している。ここで、点Cは、オイルOLが噴霧される噴霧部分103aaに近い側において、オイル受け面106aと第2部分103adとが交わる点である。これにより、切り欠き部106b以外の部分からオイルOLが下方へ落ちることが抑制される。すなわち、オイル受け面106aと第2部分103adとで挟まれた部分が、噴霧されたオイルOLを反対側(概ね、シリンダ軸CAと垂直な平面内における、シリンダ軸CAをはさんだ反対側の部位)における第2部分103adの近傍へ導くオイル経路108になっている。なお、オイル受け面106aが水平面となす角度は一様にθ1であり、オイルOLが噴霧される噴霧部分103aaから遠い側の部分においても同様である。
【0037】
また、オイル落とし部109としての切り欠き部106bは、図6に示すように、噴霧されたオイルOLを反対側における第2部分103adの近傍で下方へ落とすように形成されている。すなわち、オイルOLが噴霧される噴霧部分103aaから遠い側の部分において、フィン106が切り欠かれることにより、切り欠き部106bが形成されている。これにより、オイル受け面106aに到達したオイルOLの流れを良くすることができるようになっている。
【0038】
さらに、図7に示すように、切り欠き部106bの近傍のオイル受け面106aが第2部分103adと交差する部分は、シリンダ軸CAに対して切り欠き部106bと反対側のオイル受け面106aが第2部分103adと交差する部分よりも、下方に位置している。具体的には、点Cを通る(重力方向に対して垂直な)水平面HP1に対して、点Dと点Cとを含む平面IP1は、鋭角の角度θ2を成しており、点Cから点Dにかけて下方へ傾斜している。ここで、点Cは、オイルOLが噴霧される噴霧部分103aaに近い側において、オイル受け面106aと第2部分103adとが交わる点である。点Dは、オイルOLが噴霧される噴霧部分103aaから遠い側において、オイル受け面106aと第2部分103adとが交わる点である。これにより、オイル受け面106aに到達したオイルOLの流れを良くすることができるようになっている。すなわち、オイルOLの冷却性能の低下が抑制されている。
【0039】
(ピストンの詳細動作)
ピストンピン4は、第1部分103acの噴霧部分103aaとオイルジェット12との間に位置しており、ピストン103とコンロッド5とを連結する。そして、第1部分103acには、オイルOLが分散噴霧される。すなわち、内面103aの第1部分103acには、シリンダ軸CAに対して排気側に偏った噴霧部分103aaにオイルOLが噴霧される。
【0040】
第1部分103acの噴霧部分103aaに到達したオイルOLは、図5に白抜き矢印で示すように、第1部分103acの噴霧部分103aaで反射されて下方へ落ちていく。そして、第1部分103acの噴霧部分103aaで反射されたオイルOLの一部は、オイル受け面106aに到達する。オイル経路108は、図6に白抜き矢印で示すように、オイルOLを反対側における第2部分103adの近傍へ導く。すなわち、オイルOLは、第2部分103adの接触部分103abに接触しながらオイル経路108を流れる。これにより、噴霧部分103aaがシリンダ軸CAに対して偏っていても、シリンダ軸CAに対して噴霧部分103aaと反対側における第2部分103adの近傍にも、オイルOLが供給されることになる。
【0041】
そして、反対側における第2部分103adの近傍に導かれたオイルOLは、切り欠き部106bへ到達する。切り欠き部106bは、到達したオイルOLを下方へ落とす(図5参照)。これにより、オイル受け面106aに到達したオイルOLの流れが良くなっている。
【0042】
一方、ピストン103の冠面103bを介してピストン103に取り込まれた熱は、図8に砂模様の矢印で示すように、噴霧部分103aaに到達したオイルOLにその一部が吸収されて、第1部分103acの噴霧部分103aaで反射されたオイルOLとともに下方へ逃がされることになる。
【0043】
反射されたオイルOLの一部は、第2部分103adの接触部分103abに接触しながらオイル経路108を流れる過程で、ピストン103に取り込まれた熱を吸収する。すなわち、オイルOLは、噴霧部分103aaだけでなく接触部分103abにおいても内面103aと接している。このため、本発明の前提となる内燃機関1と比較して、オイルOLと内面103aとの接触面積は増えている。
【0044】
また、オイルOLは、第1部分103acの噴霧部分103aaで反射される瞬間だけでなく、オイル経路108を流れる過程においても内面103aと接している。このため、本発明の前提となる内燃機関1と比較して、オイルOLと内面103aとの接触時間は増えている。
【0045】
さらに、ピストン103に取り込まれた熱は、反対側における第2部分103adの近傍においてもオイルOLに吸収されている。これにより、シリンダ軸CAに対して噴霧部分103aaと反対側における第2部分103adの近傍でも、ピストン103に取り込まれた熱が吸収されることになる。
【0046】
それから、切り欠き部106bへ到達したオイルOLは、下方へ落ちることにより、吸収した熱を下方へ逃がす。このため、オイルOLがオイル受け面106aに滞留して温度が上昇しすぎることが低減され、オイルOLが十分に熱を吸収できなくなることが抑制されている。すなわち、オイルOLの冷却性能の低下が抑制されている。
【0047】
(内燃機関に関する特徴)
(1)
ここでは、オイル経路108は、噴霧されたオイルOLを反対側における第2部分103adの近傍へ導く。噴霧されたオイルOLは、第2部分103adの接触部分103abに接触しながらオイル経路108を流れる過程で、ピストン103に取り込まれた熱を吸収する。そして、反対側における第2部分103adの近傍に到達したオイルOLが下方へ落とされることにより、その熱は逃がされる。
【0048】
このように、オイルOLと内面103aとの接触面積及び接触時間が増えるため、ピストン103に取り込まれた燃焼室63の熱は、オイルOLにより効率的に逃がされる。この結果、燃焼室63の温度が下がるので、ノッキングの発生は抑制される。
【0049】
(2)
ここでは、フィン106は、第2部分103adからシリンダ軸CA側へ突出している。このため、分散噴霧され第1部分103acの噴霧部分103aaで反射されたオイルOLの一部は、フィン106で受けられる。そして、フィン106で受けられたオイルOLは、フィン106により反対側における第2部分103adの近傍へ導かれる。
【0050】
このように、反射されたオイルOLがそのまま下方へ落ちる場合に比べて、オイルOLとフィン106との接触面積及び接触時間は増える。このため、オイルOLと内面103aとの接触面積及び接触時間も増える。
【0051】
(3)
ここでは、切り欠き部106bは、オイルOLが噴霧される噴霧部分103aaとシリンダ軸CAに対して反対側における第2部分103adの近傍に形成されている。このため、オイルOLとフィン106との接触面積及び接触時間を増やすことが容易になっている。
【0052】
また、切り欠き部106bは、オイルOLを下方へ落とす。これにより、オイル受け面106aに到達したオイルOLの流れを良くすることができるようになっている。このため、オイルOLがオイル受け面106aに滞留して温度が上昇しすぎることが低減され、オイルOLが十分に熱を吸収できなくなることが抑制されている。すなわち、オイルOLの冷却性能の低下が抑制されている。
【0053】
(4)
ここでは、オイル受け面106aは、シリンダ軸CAを含む面で切った断面視において、第2部分103adからシリンダ軸CA側へ、水平面に対して上方に傾斜するように延びている。具体的には、点Cを通る水平面HP1に対して、オイル受け面106aを含む平面OP1は、鋭角の角度θ1を成して上方へ傾斜している(図7参照)。
【0054】
このように、第2部分103adの接触部分103abとオイル受け面106aとにより、オイル経路108が形成されている。これにより、切り欠き部106b以外の部分からオイルOLが下方へ落ちることが抑制される。
【0055】
(5)
ここでは、第1部分103acの噴霧部分103aaには、オイルOLが分散噴霧される。このため、ピストン103の内部に設けた経路にオイルが流されるような構造が採用されれば、経路と第1部分103acとを連通する開口を介してオイル経路にオイルOLを導入することが困難になりやすいので、ピストン103に取り込まれた熱をオイルOLにより効率的に逃がすことができない傾向がある。
【0056】
この場合でも、噴霧されたオイルOLを反対側における第2部分103adの近傍へ導くオイル経路108が、ピストン103の内部ではなく第2部分103adの近傍に形成されている。すなわち、噴霧されたオイルOLは、第2部分103adの接触部分103abに接触しながらオイル経路108を流れる過程で、ピストン103に取り込まれた熱を吸収する。そして、反対側における第2部分103adの近傍に到達したオイルOLが下方へ落とされることにより、その熱は逃がされる。
【0057】
このように、十分な量のオイルOLがオイル経路108に供給され、オイルOLと内面103aとの接触面積及び接触時間が増えるため、ピストン103に取り込まれた燃焼室63の熱は、オイルOLにより効率的に逃がされる。この結果、燃焼室63の温度が下がるので、ノッキングの発生は抑制される。
【0058】
(6)
ここでは、第1部分103acには、シリンダ軸CAに対して偏った噴霧部分103aaにオイルOLが噴霧される。このため、第1部分103acにおいてオイルOLが噴霧される噴霧部分103aaと反対側における第2部分103adの近傍において、ピストン103に取り込まれた熱をオイルOLにより効率的に逃がすことができない傾向がある。
【0059】
この場合でも、オイル経路108は、噴霧されたオイルOLを反対側における第2部分103adの近傍へ導く。噴霧されたオイルOLは、第2部分103adの接触部分103abに接触しながらオイル経路108を流れる過程で、ピストン103に取り込まれた熱を吸収する。そして、反対側における第2部分103adの近傍に到達したオイルOLが下方へ落とされることにより、その熱は逃がされる。
【0060】
このように、オイルOLと内面103aとの接触面積及び接触時間が増えるため、ピストン103に取り込まれた燃焼室63の熱は、オイルOLにより効率的に逃がされる。この結果、燃焼室63の温度が下がるので、ノッキングの発生は抑制される。
【0061】
(7)
ここでは、燃焼室63において、吸気側の温度よりも排気側の温度の方が高い傾向がある。
【0062】
この場合でも、第1部分103acには、シリンダ軸CAに対して排気側に偏った噴霧部分103aaにオイルOLが噴霧される。オイルOLは、排気側に偏った噴霧部分103aaで反射される瞬間に、ピストン103に取り込まれた熱を吸収する(図8参照)。また、反射されたオイルOLの一部は、第2部分103adの接触部分103abに接触しながらオイル経路108を流れる過程で、ピストン103に取り込まれた熱を吸収する。
【0063】
このように、燃焼室63の吸気側よりも排気側からより多くの熱を吸収するので、排気側の温度は吸気側の温度よりも多く下がることになる。このため、燃焼室63における吸気側と排気側との温度分布は均一化される。
【0064】
(8)
ここでは、切り欠き部106bの近傍のオイル受け面106aが第2部分103adと交差する部分は、シリンダ軸CAに対して切り欠き部106bと反対側のオイル受け面106aが第2部分103adと交差する部分よりも、下方に位置している。具体的には、点Cを通る水平面HP1に対して、点Dと点Cとを含む平面IP1は、鋭角の角度θ2を成しており、点Cから点Dにかけて下方へ傾斜している(図7参照)。このため、噴霧部分103aaに近い側でオイル受け面106aに受けられたオイルOLは、噴霧部分103aaから遠い側へ容易に流れて、切り欠き部106bで下方へ落とされる。
【0065】
このように、オイルOLの流れが良くなっているので、ピストン103に取り込まれた熱は、オイルOLにより効率的に逃がされる。
【0066】
(9)
ここでは、ピストンピン4は、内面103aの第1部分103acとオイルジェット12との間に位置しており、ピストン103とコンロッド5とを連結する。このため、第1部分103acとシリンダ軸CAとの交点G(図5参照)の近傍にオイルジェット12によりオイルOLを噴霧させることが困難になる傾向がある。
【0067】
この場合でも、オイル経路108は、噴霧されたオイルOLを反対側における第2部分103adの近傍へ導く。噴霧されたオイルOLは、第2部分103adの接触部分103abに接触しながらオイル経路108を流れる過程で、ピストン103に取り込まれた熱を吸収する。そして、反対側における第2部分103adの近傍に到達したオイルOLが下方へ落とされることにより、その熱は逃がされる。
【0068】
このように、オイルOLと内面103aとの接触面積及び接触時間が増えるため、ピストン103に取り込まれた燃焼室63の熱は、オイルOLにより効率的に逃がされる。この結果、燃焼室63の温度が下がるので、ノッキングの発生は抑制される。
【0069】
(第1実施形態の変形例)
(A)フィン106は、本体107と別部材として成形される代わりに、本体107と一体成形されてもよい。
【0070】
(B)図9に示すように、内燃機関100iのオイル経路108iは、フィン106の代わりにフィン(環状突出部)106iにより形成されていてもよい。フィン106iには、オイル受け面106aの代わりにオイル受け面106aiが形成され、切り欠き部106bの代わりに切り欠き部106biが形成されている。このとき、切り欠き部106biの近傍のオイル受け面106aiが第2部分103adと交差する部分は、シリンダ軸CAに対して切り欠き部106biと反対側のオイル受け面106aiが第2部分103adと交差する部分よりも、下方に位置している。具体的には、点Cを通る(重力方向に対して垂直な)水平面HP1に対して、点Diと点Cとを含む平面IP2は、鋭角の角度θ2iを成して下方へ傾斜している。ここで、角度θ2iは角度θ2よりも大きい角度である。点Cは、オイルOLが噴霧される噴霧部分103aaに近い側において、内面103aの第2部分103adとオイル受け面106aiとが交わる点である。点Diは、オイルOLが噴霧される噴霧部分103aaから遠い側において、内面103aの第2部分103adとオイル受け面106aiとが交わる点である。これにより、オイル受け面106aiに到達したオイルOLの流れをさらに良くすることができるようになっている。すなわち、オイルOLの冷却性能の低下がさらに抑制されている。
【0071】
ただし、角度θ2iを大きくしすぎると、オイル受け面106aiに供給されるオイルOLが切れて、オイルOLの冷却性能がかえって低下してしまう。したがって、角度θ2iは、オイル受け面106aiに到達するオイルOLの量に対して、オイルOLが切れない程度にオイルOLの流れが良くなるような角度であることが好ましい。
【0072】
なお、オイル経路108iがフィン106の代わりにフィン106iにより形成されているので、それに応じて空洞131iの形状も、本発明の前提となる内燃機関1における空洞31と異なっている。
【0073】
(C)図10に示すように、内燃機関100jは、フィン106の代わりにフィン(環状突出部)106jを備えてもよい。フィン106jには、オイル受け面106aの代わりにオイル受け面106ajが形成され、切り欠き部106bの代わりに切り欠き部106bjが形成されている。このとき、切り欠き部106bjの近傍のオイル受け面106ajが第2部分103adと交差する部分は、シリンダ軸CAに対して切り欠き部106bjと反対側のオイル受け面106ajが第2部分103adと交差する部分を通る(重力方向に対して垂直な)水平面上に位置している。具体的には、点Cを通る水平面HP1は、点Djも通る。ここで、点Cは、オイルOLが噴霧される噴霧部分103aaに近い側において、内面103aの第2部分103adとオイル受け面106ajとが交わる点である。点Djは、オイルOLが噴霧される噴霧部分103aaから遠い側において、内面103aの第2部分103adとオイル受け面106ajとが交わる点である。
【0074】
この場合でも、噴霧されるオイルOLの勢いが強く、噴霧部分103aaで反射されたオイルOLの速度が速ければ、オイル経路108jは、噴霧されたオイルOLを反対側における第2部分103adの近傍へ導く。
【0075】
なお、オイル経路108jがフィン106の代わりにフィン106jにより形成されているので、それに応じて空洞131jの形状も、本発明の前提となる内燃機関1における空洞31と異なっている。
【0076】
<本発明の第2実施形態に係る内燃機関の構成及び動作>
本発明の第2実施形態に係る内燃機関200について、図11を参照しながら、本発明の前提となる上記の内燃機関1と異なる点を中心に説明する。なお、本発明の前提となる内燃機関1と同様の構成要素は、同じ部材番号で示し説明を省略する。
【0077】
(内燃機関の概略構成)
内燃機関200は、V型の機関であり、シリンダ軸CBが鉛直方向軸VAに対して鋭角の角度θ4だけ傾いている。また、内燃機関200は、ピストン3の代わりにピストン203を備える。他の点は、本発明の前提となる内燃機関1と同様である。
【0078】
(内燃機関の概略動作)
圧縮行程において、ピストン203が上昇して、燃焼室63の新気混合気が圧縮される。
【0079】
膨張行程では、新気混合気が燃焼して発生した燃焼圧力によって、ピストン203が押し下げられる。
【0080】
他の点は、本発明の前提となる内燃機関1と同様である。
【0081】
(ピストンの詳細構成)
ピストン203の拡大断面図を図12に示す。また、シリンダ軸CB方向視の透視図を図13に示す。
【0082】
ピストン203は、図12に示すように、主として、本体207とオイル経路208とを備える。本体207は、燃焼室63側の冠面(第1面)203bと、クランク室67に開放された内面(第2面)203aとを有する。冠面203bは、燃焼室63に接している。内面203aに囲まれた部分には、略円筒形状の空洞231が形成されている。空洞231の中心軸は、シリンダ軸CBとほぼ一致している。また、内面203aは、第1部分203acと第2部分203adとを有する。第1部分203acは、シリンダ軸CBに略垂直な部分であり、噴霧部分203aaを含む。噴霧部分203aaは、内面203aの一部であり、オイルOLが分散噴霧される部分である。第2部分203adは、シリンダ軸CBに略平行な部分であり、第1部分203acの縁部からクランク室67側へ延びている。そして、第2部分203adは、接触部分203abを含む。接触部分203abは、第2部分203adの一部であり、オイル経路208を流れるオイルOLが接触する部分である。
【0083】
オイル経路208は、主として、フィン(環状突出部)206により形成されている。フィン206は、第2部分203adからシリンダ軸CB側へ突出している。フィン206には、主として、オイル受け面206aと、オイル落とし部209としての切り欠き部206b(図13参照)とが形成されている。なお、オイル経路208がフィン206により形成されているので、それに応じて空洞231の形状も、本発明の前提となる内燃機関1における空洞31と異なっている。
【0084】
オイル受け面206aは、シリンダ軸CBを含む面で切った断面視において、第2部分203adからシリンダ軸CB側へ、水平面に対して上方に傾斜するように延びている。具体的には、点Eを通る水平面HP3に対して、オイル受け面206aを含む平面OP3は、鋭角の角度θ5を成して上方へ傾斜している。ここで、点Eは、オイルOLが噴霧される噴霧部分203aaに近い側において、オイル受け面206aと第2部分203adとが交わる点である。これにより、切り欠き部206b以外の部分からオイルOLが下方へ落ちることが抑制される。すなわち、オイル受け面206aと第2部分203adとで挟まれた部分が、噴霧されたオイルOLを反対側(概ね、シリンダ軸CAと垂直な平面内における、シリンダ軸CAをはさんだ反対側の部位)における第2部分203adの近傍へ導くオイル経路208になっている。なお、オイル受け面206aが水平面となす角度は一様にθ5であり、オイルOLが噴霧される噴霧部分203aaから遠い側の部分においても同様である。
【0085】
また、オイル落とし部209としての切り欠き部206bは、図13に示すように、噴霧されたオイルOLを反対側における第2部分203adの近傍で下方へ落とすように形成されている。すなわち、オイルOLが噴霧される噴霧部分203aaから遠い側の部分において、フィン206が切り欠かれることにより、切り欠き部206bが形成されている。これにより、オイル受け面206aに到達したオイルOLの流れを良くすることができるようになっている。
【0086】
さらに、図12に示すように、切り欠き部206bの近傍のオイル受け面206aが第2部分203adと交差する部分は、シリンダ軸CBに対して切り欠き部206bと反対側のオイル受け面206aが第2部分203adと交差する部分よりも、下方に位置している。具体的には、点Eを通る(重力方向に対して垂直な)水平面HP3に対して、点Eと点Fとを含む平面IP3は、鋭角の角度θ3を成しており、点Eから点Fにかけて下方へ傾斜している。ここで、点Eは、オイルOLが噴霧される噴霧部分203aaに近い側において、オイル受け面206aと第2部分203adとが交わる点である。点Fは、オイルOLが噴霧される噴霧部分203aaから遠い側において、オイル受け面206aと第2部分203adとが交わる点である。これにより、オイル受け面206aに到達したオイルOLの流れを良くすることができるようになっている。すなわち、オイルOLの冷却性能の低下が抑制されている。
【0087】
(ピストンの詳細動作)
ピストンピン4は、第1部分203acの噴霧部分203aaとオイルジェット12との間に位置しており、ピストン203とコンロッド5とを連結する。そして、内面203aの第1部分203acには、オイルOLが分散噴霧される。すなわち、内面203aの第1部分203acには、シリンダ軸CBに対して排気側に偏った噴霧部分203aaにオイルOLが噴霧される。
【0088】
第1部分203acの噴霧部分203aaに到達したオイルOLは、図12に白抜き矢印で示すように、第1部分203acの噴霧部分203aaで反射されて下方へ落ちていく。そして、第1部分203acの噴霧部分203aaで反射されたオイルOLの一部は、オイル受け面206aに到達する。オイル経路208は、図13に白抜き矢印で示すように、オイルOLを反対側における第2部分203adの近傍へ導く。すなわち、オイルOLは、第2部分203adの接触部分203abに接触しながらオイル経路208を流れる。これにより、噴霧部分203aaがシリンダ軸CBに対して偏っていても、シリンダ軸CBに対して噴霧部分203aaと反対側における第2部分203adの近傍にも、オイルOLが供給されることになる。
【0089】
そして、反対側における第2部分203adの近傍に導かれたオイルOLは、切り欠き部206bへ到達する。切り欠き部206bは、到達したオイルOLを下方へ落とす(図12参照)。これにより、オイル受け面206aに到達したオイルOLの流れが良くなっている。
【0090】
一方、ピストン203の冠面203bを介してピストン203に取り込まれた熱は、図14に砂模様の矢印で示すように、噴霧部分203aaに到達したオイルOLにその一部が吸収されて、第1部分203acの噴霧部分203aaで反射されたオイルOLとともに下方へ逃がされることになる。
【0091】
反射されたオイルOLの一部は、第2部分203adの接触部分203abに接触しながらオイル経路208を流れる過程で、ピストン203に取り込まれた熱を吸収する。すなわち、オイルOLは、噴霧部分203aaだけでなく接触部分203abにおいても内面203aと接している。このため、本発明の前提となる内燃機関1と比較して、オイルOLと内面203aとの接触面積は増えている。
【0092】
また、オイルOLは、第1部分203acの噴霧部分203aaで反射される瞬間だけでなく、オイル経路208を流れる過程においても内面203aと接している。このため、本発明の前提となる内燃機関1と比較して、オイルOLと内面203aとの接触時間は増えている。
【0093】
さらに、ピストン203に取り込まれた熱は、反対側における第2部分203adの近傍においてもオイルOLに吸収されている。これにより、シリンダ軸CBに対して噴霧部分203aaと反対側における第2部分203adの近傍でも、ピストン203に取り込まれた熱が吸収されることになる。
【0094】
それから、切り欠き部206bへ到達したオイルOLは、下方へ落ちることにより、吸収した熱を下方へ逃がす。このため、オイルOLがオイル受け面206aに滞留して温度が上昇しすぎることが低減され、オイルOLが十分に熱を吸収できなくなることが抑制されている。すなわち、オイルOLの冷却性能の低下が抑制されている。
【0095】
(内燃機関に関する特徴)
(1)
ここでは、オイル経路208は、噴霧されたオイルOLを反対側における第2部分203adの近傍へ導く。噴霧されたオイルOLは、第2部分203adの接触部分203abに接触しながらオイル経路208を流れる過程で、ピストン203に取り込まれた熱を吸収する。そして、反対側における第2部分203adの近傍に到達したオイルOLが下方へ落とされることにより、その熱は逃がされる。
【0096】
このように、オイルOLと内面203aとの接触面積及び接触時間が増えるため、ピストン203に取り込まれた燃焼室63の熱は、オイルOLにより効率的に逃がされる。この結果、燃焼室63の温度が下がるので、ノッキングの発生は抑制される。
【0097】
(2)
ここでは、フィン206は、第2部分203adからシリンダ軸CB側へ突出している。このため、分散噴霧され第1部分203acの噴霧部分203aaで反射されたオイルOLの一部は、フィン206で受けられる。そして、フィン206で受けられたオイルOLは、フィン206により反対側における第2部分203adの近傍へ導かれる。
【0098】
このように、反射されたオイルOLがそのまま下方へ落ちる場合に比べて、オイルOLとフィン206との接触面積及び接触時間は増える。このため、オイルOLと内面203aとの接触面積及び接触時間も増える。
【0099】
(3)
ここでは、切り欠き部206bは、オイルOLが噴霧される噴霧部分203aaとシリンダ軸CBに対して反対側における第2部分203adの近傍に形成されている。このため、オイルOLとフィン206との接触面積及び接触時間を増やすことが容易になっている。
【0100】
また、切り欠き部206bは、オイルOLを下方へ落とす。これにより、オイル受け面206aに到達したオイルOLの流れを良くすることができるようになっている。このため、オイルOLがオイル受け面206aに滞留して温度が上昇しすぎることが低減され、オイルOLが十分に熱を吸収できなくなることが抑制されている。すなわち、オイルOLの冷却性能の低下が抑制されている。
【0101】
(4)
ここでは、オイル受け面206aは、シリンダ軸CBを含む面で切った断面視において、第2部分203adからシリンダ軸CB側へ、水平面に対して上方に傾斜するように延びている。具体的には、点Eを通る水平面HP3に対して、オイル受け面206aを含む平面OP3は、鋭角の角度θ5を成して上方へ傾斜している(図12参照)。
【0102】
このように、第2部分203adの接触部分203abとオイル受け面206aとにより、オイル経路208が形成されている。これにより、切り欠き部206b以外の部分からオイルOLが下方へ落ちることが抑制される。
【0103】
(5)
ここでは、第1部分203acの噴霧部分203aaには、オイルOLが分散噴霧される。このため、ピストン203の内部に設けた経路にオイルが流されるような構造が採用されれば、経路と第1部分203acとを連通する開口を介してオイル経路にオイルOLを導入することが困難になりやすいので、ピストン203に取り込まれた熱をオイルOLにより効率的に逃がすことができない傾向がある。
【0104】
この場合でも、噴霧されたオイルOLを反対側における第2部分203adの近傍へ導くオイル経路208が、ピストン203の内部ではなく第2部分203adの近傍に形成されている。すなわち、噴霧されたオイルOLは、第2部分203adの接触部分203abに接触しながらオイル経路208を流れる過程で、ピストン203に取り込まれた熱を吸収する。そして、反対側における第2部分203adの近傍に到達したオイルOLが下方へ落とされることにより、その熱は逃がされる。
【0105】
このように、十分な量のオイルOLがオイル経路208に供給され、オイルOLと内面203aとの接触面積及び接触時間が増えるため、ピストン203に取り込まれた燃焼室63の熱は、オイルOLにより効率的に逃がされる。この結果、燃焼室63の温度が下がるので、ノッキングの発生は抑制される。
【0106】
(6)
ここでは、第1部分203acには、シリンダ軸CBに対して偏った噴霧部分203aaにオイルOLが噴霧される。このため、第1部分203acにおいてオイルOLが噴霧される噴霧部分203aaと反対側における第2部分203adの近傍において、ピストン203に取り込まれた熱をオイルOLにより効率的に逃がすことができない傾向がある。
【0107】
この場合でも、オイル経路208は、噴霧されたオイルOLを反対側における第2部分203adの近傍へ導く。噴霧されたオイルOLは、第2部分203adの接触部分203abに接触しながらオイル経路208を流れる過程で、ピストン203に取り込まれた熱を吸収する。そして、反対側における第2部分203adの近傍に到達したオイルOLが下方へ落とされることにより、その熱は逃がされる。
【0108】
このように、オイルOLと内面203aとの接触面積及び接触時間が増えるため、ピストン203に取り込まれた燃焼室63の熱は、オイルOLにより効率的に逃がされる。この結果、燃焼室63の温度が下がるので、ノッキングの発生は抑制される。
【0109】
(7)
ここでは、燃焼室63において、吸気側の温度よりも排気側の温度の方が高い傾向がある。
【0110】
この場合でも、第1部分203acには、シリンダ軸CBに対して排気側に偏った噴霧部分203aaにオイルOLが噴霧される。オイルOLは、排気側に偏った噴霧部分203aaで反射される瞬間に、ピストン203に取り込まれた熱を吸収する(図14参照)。また、反射されたオイルOLの一部は、第2部分203adの接触部分203abに接触しながらオイル経路208を流れる過程で、ピストン203に取り込まれた熱を吸収する。
【0111】
このように、燃焼室63の吸気側よりも排気側からより多くの熱を吸収するので、排気側の温度は吸気側の温度よりも多く下がることになる。このため、燃焼室63における吸気側と排気側との温度分布は均一化される。
【0112】
(8)
ここでは、切り欠き部206bの近傍のオイル受け面206aが第2部分203adと交差する部分は、シリンダ軸CBに対して切り欠き部206bと反対側のオイル受け面206aが第2部分203adと交差する部分よりも、下方に位置している。具体的には、点Eを通る水平面HP3に対して、点Eと点Fとを含む平面IP3は、鋭角の角度θ3を成しており、点Eから点Fにかけて下方へ傾斜している(図12参照)。このため、噴霧部分203aaに近い側でオイル受け面206aに受けられたオイルOLは、噴霧部分203aaから遠い側へ容易に流れて、切り欠き部206bで下方へ落とされる。
【0113】
このように、オイルOLの流れが良くなっているので、ピストン203に取り込まれた熱は、オイルOLにより効率的に逃がされる。
【0114】
また、切り欠き部206bの近傍のオイル受け面206aが第2部分203adと交差する部分(点F近傍)と、シリンダ軸CBに対して切り欠き部206bと反対側のオイル受け面206aが第2部分203adと交差する部分(点E近傍)との位置関係は、水平面を基準に決められている。このため、シリンダ軸CBが鉛直方向軸VAに対して鋭角の角度θ4だけ傾いている場合でも、オイルOLの流れは良くなる。
【0115】
(9)
ここでは、ピストンピン4は、第1部分203acの噴霧部分203aaとオイルジェット12との間に位置しており、ピストン203とコンロッド5とを連結する。このため、第1部分203acとシリンダ軸CBとの交点H(図12参照)の近傍にオイルジェット12によりオイルOLを噴霧させることが困難になる傾向がある。
【0116】
この場合でも、オイル経路208は、噴霧されたオイルOLを反対側における第2部分203adの近傍へ導く。噴霧されたオイルOLは、第2部分203adの接触部分203abに接触しながらオイル経路208を流れる過程で、ピストン203に取り込まれた熱を吸収する。そして、反対側における第2部分203adの近傍に到達したオイルOLが下方へ落とされることにより、その熱は逃がされる。
【0117】
このように、オイルOLと内面203aとの接触面積及び接触時間が増えるため、ピストン203に取り込まれた燃焼室63の熱は、オイルOLにより効率的に逃がされる。この結果、燃焼室63の温度が下がるので、ノッキングの発生は抑制される。
【0118】
(第2実施形態の変形例)
フィン206は、本体207と別部材として成形される代わりに、本体207と一体成形されてもよい。
【0119】
また、シリンダ軸CBが鉛直方向軸VAに対して鋭角θ4だけ傾いているため、フィン206がシリンダ軸CBに概ね垂直な平面内で構成され、組込時の姿勢で生じる傾斜によって、オイルOLが噴霧部分203aa側から反対側へと導かれても良い。この場合、オイル受け面206aでは、少なくとも噴霧部分203aa側において、シリンダ軸CBに垂直な平面に対する傾き角が、シリンダ軸CBと鉛直方向軸VAとのなす角度θ4よりも大きくなるようにしておけばよい。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明に係るピストン及び内燃機関は、ノッキングの発生を抑制できるという効果を有し、ピストン及び内燃機関等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】前提となる内燃機関の断面図。
【図2】前提となる内燃機関におけるピストンの拡大断面図。
【図3】前提となる内燃機関におけるピストンの拡大断面図。
【図4】本発明の第1実施形態に係る内燃機関の断面図。
【図5】本発明の第1実施形態に係る内燃機関におけるピストンの拡大断面図。
【図6】本発明の第1実施形態に係るシリンダ軸CA方向視の透視図。
【図7】本発明の第1実施形態に係る内燃機関の断面図。
【図8】本発明の第1実施形態に係る内燃機関の断面図。
【図9】本発明の第1実施形態の変形例に係る内燃機関の断面図。
【図10】本発明の第1実施形態の変形例に係る内燃機関の断面図。
【図11】本発明の第2実施形態に係る内燃機関の断面図。
【図12】本発明の第2実施形態に係る内燃機関におけるピストンの拡大断面図。
【図13】本発明の第2実施形態に係るシリンダ軸CB方向視の透視図。
【図14】本発明の第2実施形態に係る内燃機関の断面図。
【符号の説明】
【0122】
1,100,100i,100j,200 内燃機関
3,103,103i,103j,203 ピストン
4 ピストンピン
5 コンロッド
12 オイルジェット(オイル噴霧装置)
106,106i,106j,206 フィン(環状突出部)
106a,106ai,106aj,206a オイル受け面
106b,106bi,106bj,206b 切り欠き部
108,208 オイル経路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の燃焼室とクランク室との間に配置されるピストンであって、
前記燃焼室側の第1面と、前記クランク室側の第2面とを有する本体と、
前記第2面に設けられており、前記第2面の一部である噴霧部分に噴霧されたオイルを、前記第2面の前記噴霧部分と反対側の部分へ導くオイル経路と、
を備えた、
ピストン。
【請求項2】
前記オイル経路には、オイル落とし部が形成されており、
前記オイル落とし部は、前記噴霧部分に噴霧された前記オイルを、前記噴霧部分と反対側の部分において下方へ落とす、
請求項1に記載のピストン。
【請求項3】
前記噴霧部分と反対側の部分に近い側の前記オイル経路は、前記噴霧部分に近い側の前記オイル経路よりも、下方に位置している、
請求項1又は2に記載のピストン。
【請求項4】
前記第2面は、
前記噴霧部分を含む第1部分と、
前記第1部分の縁部から前記クランク室側へ延びている第2部分と、
を有し、
前記オイル経路は、前記第2部分からシリンダ軸側に突出する環状突出部により形成されている、
請求項1から3のいずれか1項に記載のピストン。
【請求項5】
前記環状突出部には、オイル受け面が形成されており、
前記オイル受け面は、シリンダ軸を含む面で切った断面視において前記第2部分からシリンダ軸側へ水平面に対して上方に傾斜するように延びている、
請求項4に記載のピストン。
【請求項6】
前記噴霧部分には、前記オイルが分散噴霧される、
請求項1から5のいずれか1項に記載のピストン。
【請求項7】
前記噴霧部分は、シリンダ軸に対して偏って位置している、
請求項1から6のいずれか1項に記載のピストン。
【請求項8】
前記噴霧部分は、シリンダ軸に対して排気側に偏って位置している、
請求項7に記載のピストン。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載のピストンと、
前記ピストンの前記噴霧部分に前記オイルを噴霧するオイル噴霧装置と、
前記噴霧部分と前記オイル噴霧装置との間に位置しており、前記ピストンとコンロッドとを連結するピストンピンと、
を備えた、
内燃機関。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−291858(P2006−291858A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−114231(P2005−114231)
【出願日】平成17年4月12日(2005.4.12)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】