説明

ピストン機構

【課題】リターンスプリングにウエーブスプリングを用いたクラッチにおいて、座屈を生じさせないで、安定した変速性能が得られるようにする。
【解決手段】ピストン20とスプリングリテーナ30の間にリターンスプリング15を配置する。ピストンはスプリングリテーナに向かう複数の突起25を周方向に有し、スプリングリテーナは筒部32を備えて先端に突起に対応する切欠き35を有する。突起が切欠き内に進入することにより筒部と突起が軸方向にそって連続して、リターンスプリングが間隙sへ落ち込むのを規制するので、圧縮の際に径方向にズレたリターンスプリングが筒部と突起に挟まれてクラッチの締結解放機能を損ずる事態が確実に回避されるとともに、切欠きと突起の係合によってピストンとスプリングリテーナ間の相対回転も抑えられるので、リターンスプリングは波の山同士のズレが助長されることなく、座屈が防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機などに用いられるクラッチのピストン機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動変速機のクラッチには、摩擦係合要素を押圧するためのピストンと、固定側部材に係止されピストンに対向するスプリングリテーナと、ピストンとスプリングリテーナとの間に介装されるリターンスプリングとを備えたピストン機構が設けられている。
そして、上記リターンスプリングとして例えば多数のコイルスプリングをピストンとスプリングリテーナとの間に環状に配列していた。
しかし、上記コイルスプリングを用いたものでは、部品点数が多くなり、組付けにも手間がかかるために、コスト上昇を招いており、この対策として、例えば特開平9−100911号公報には、波型に成形した1枚の板バネを波の山同士が当接するように螺旋状に巻回したウエーブスプリングを用いるようにしたピストン機構が提案されている。
【0003】
図7の(a)はこのウエーブスプリングを用いたピストン機構におけるスプリングの支持構造を示している。ピストン40の内側円筒部40aの外側に、同心状にウエーブスプリング45を配するとともに、スプリングリテーナ50はウエーブスプリング45の一端を支持する外径側のスプリング当接部51が内径部53よりもピストン40側へ突出するように折曲形成されている。
【0004】
ピストン40の初期位置において内側円筒部40aの先端とスプリング当接部51との間には間隙yが設けられているとともに、ピストン40の内側円筒部40aの外径はスプリングリテーナ50の折曲部52の内径よりも小さく設定され、ピストン40が摩擦板43の押圧方向にストロークしたときに内側円筒部40aが折曲部52の内側に入り込んで、これにより内側円筒部40aがスプリングリテーナ50と干渉しないようになっている。
ウエーブスプリング45は、ピストン40のストロークにより軸方向に圧縮されたときに波の山同士が突っ張り合ってばね力を得ることができるとともに、1つのピストン40に対して1個で足りるので部品点数が顕著に減少し組み付けも簡単となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−100911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ウエーブスプリング45はばね力を得るために圧縮されたときに波の山同士が突っ張り合うので、波の山同士が相対的にズレやすい傾向にあり、とくに径方向の剛性は低い。
一方、上記従来の支持構造ではピストン40の内側円筒部40aの先端とスプリング当接部51との間に間隙yが存在し、この間隙はピストン40のストローク必要寸法xを確保するために避けられないものとなっている。
【0007】
そして、当該間隙y部分はウエーブスプリング45の径方向の変位可能空間となり、図7の(b)に示すように、ピストン40とスプリングリテーナ50の相対回転方向の移動を規制するものもないので、ピストンによる押圧時ウエーブスプリングの波の山同士のズレによる巻回部分45aのスプリング外周側へのズレは径方向に広がりながらズレる一方、巻回部分45aに連続している巻回部分45b部においては径方向に縮径する作用が働くことで隣り合う当接部のズレが助長され、あるいは遠心力その他の外力を受けたとき、ウエーブスプリング45の板バネの隣接する巻回部分45a、45bが板幅分ズレて互いに係合し合ったままの、いわゆる座屈状態となる。
【0008】
座屈状態となった巻回部分は内側円筒部40aとスプリング当接部51との間隙に入り込むので、ピストン40のストロークにしたがって内側円筒部40aと軸方向に干渉することとなり、摩擦板43の滑らかな押圧が阻害されて変速性能を悪化させ、あるいはスプリングリテーナ50を位置決めしているスナップリング55の保持力を越えてスプリングリテーナ50の組み付け破壊を招くこととなる。
【0009】
そこで本発明は、上記従来の問題点に鑑み、リターンスプリングにウエーブスプリングを用いたクラッチにおいて、座屈を生じさせないで、安定した変速性能が得られるようにしたピストン機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、摩擦係合要素を押圧するためのピストンと、固定側部材に係止されピストンに対向するスプリングリテーナと、ピストンとスプリングリテーナとの間に介装され波型に成形した板バネを螺旋状に巻回して形成された環状のウエーブスプリングからなるリターンスプリングとを備えたピストン機構において、ピストンにはリターンスプリングより内径側においてスプリングリテーナに向かう複数の突起が周方向に間隔を存して設けられ、スプリングリテーナは、リターンスプリングより内径側においてピストンへ向かって延びる筒部を備え、該筒部の先端にピストンの突起に対応する複数の凹部が形成され、少なくともピストンが移動して摩擦係合要素が係合された状態において突起が凹部に進入されるように構成されているものとした。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、突起が凹部内に進入して筒部と突起が連続し、リターンスプリングが間隙へ落ち込むのを規制するので、リターンスプリングが圧縮された際に径方向にズレた板バネの巻回部分が挟まれてクラッチの締結解放機能を損ずる事態が回避される。
更には、一旦座屈状態が保持されるとリターンスプリングのバネ定数が変化して設計時のスプリング反力が得られないと言う事態も回避される。
また、凹部と当該凹部に進入する突起の係合によってピストンとスプリングリテーナ間の相対回転が抑えられるので、リターンスプリングにおける波の山同士のズレが助長されることなく、座屈が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1の実施例にかかるクラッチを示す縦断面図である。
【図2】ピストンを示す図である。
【図3】スプリングリテーナを示す図である。
【図4】図1におけるC−C部断面図である。
【図5】摩擦板押圧方向にピストンがストロークした状態を示す図である。
【図6】第2の実施例を示す縦断面図である。
【図7】従来例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に本発明の実施の形態を実施例により説明する。
図1は第1の実施例にかかるクラッチを示す縦断面図、図2は実施例におけるピストンを示す図、そして図3は実施例におけるスプリングリテーナを示す図である。図2における(a)は正面図、(b)は(a)におけるA−A部の断面図である。図3における(a)は正面図、(b)は(a)におけるB−B部の断面図である。
とくに図1に示すように、変速機ケース1の内壁にスプライン2が形成されるとともに、スプライン2に対向して外周にスプライン6を備えるハブ部5が不図示の回転部材から延びており、ハブ部5のスプライン6に係合する複数のドライブプレート7aと変速機ケース1のスプライン2に係合する複数のドリブンプレート7bとが摩擦板7として軸方向に交互に重ねて配置されている。
【0014】
これらの摩擦板7を押圧するためのピストン20が、変速機ケース1に固定された隔壁10に形成されたリング状のシリンダ11内に、軸方向にストローク可能に配置され、ピストン20とシリンダ11間に油室13が形成されている。ピストン20の外周縁近傍からは押圧部21が摩擦板7に向かって軸方向に伸びている。
摩擦板7と隔壁10の間には、スプリングリテーナ30が設けられ、ピストン20とスプリングリテーナ30の間にウエーブスプリングからなるリターンスプリング15が、ピストン20と同心に配置されている。
ピストン20はシリンダ11に対応して、図2に示すように、軸方向に押圧部21を備えたリング状であり、スプリングリテーナ30も、図3に示すように、軸方向先端に切欠き35を有する筒部32を備えるリング状である。
【0015】
スプリングリテーナ30は、円盤部31と円盤部31の内径側から軸方向に延びる筒部32とからなり、変速機ケース1のスプライン2部に形成した溝3に嵌め込んだスナップリング4により円盤部31の外周縁を係止されて、軸方向が位置決めされており、また、円盤部31にはピストン20の押圧部21を貫通させる通過孔33を備えている。
押圧部21および通過孔33はそれぞれ周方向に等間隔に設けられている。
通過孔の周方向長さは押圧部の周方向幅よりわずかに大きく設定されて両者間の間隙を抑え、ピストン20とスプリングリテーナ30の相対回転を所定内に規制するようになっている。
【0016】
とくに、図1に示すように、ピストン20は油室13と反対側に凹部22を有し、その底壁22aがリターンスプリング15の軸方向一端の当接(着座)部となっている。また、スプリングリテーナ30は円盤部31の通過孔33を含む外半部31bがそれより内径側の内半部31aよりもわずかに筒部32の延び方向にオフセットしており、換言すれば隔壁10側から見て内半部31aが凹んでいる。この内半部31aがリターンスプリング15の他端の当接(着座)部となっている。
リターンスプリング15により、ピストン20はシリンダ底壁に底着きした初期位置方向へ付勢される。図1はピストン20が初期位置にある状態を示しており、摩擦板7を押圧していないクラッチの解放状態である。
【0017】
ピストン20の凹部22において、底壁22aからはそれぞれスプリングリテーナ30方向へ延びる複数の突起25が設けられ、ピストン20の摩擦板7側に面する内径側の軸方向の端面23は突起25の先端を含めて面一の平坦面となっている。
図2に示すように、突起25は内径側周面22bにそって周方向に等間隔に設けられ、ここでは、押圧部21と同一角度上に整合させて、同一個数としてある。
図1におけるC−C部断面図である図4に示すように、突起25は径方向から見たときスプリングリテーナ30に向かって先細の山形をなしており、また図1の断面において突起25の頂部25aは軸方向に平行となっている。なお、ここで平行とは厳密な平行に限定されず、ピストン20の成形型の抜き勾配も許容するものである。
【0018】
突起25を径方向で見たときの高さは、突起の頂部25aとリターンスプリング15間の間隙ができるだけ小さくなるように設定され、最大でもリターンスプリング15を形成する板バネK(図4参照)の板幅wの1/2よりも小さくするのが望ましい。
スプリングリテーナ30の筒部32とリターンスプリング15間の間隙も、突起の頂部25aとリターンスプリング15間の間隙と同レベルでできるだけ小さくなるように設定され、最大でもリターンスプリング15の板幅wの1/2よりも小さくするのが望ましい。
【0019】
筒部32はピストン20側の先端部にわずかな傾斜をもった縮径部32aを備え、この縮径部32aには、ピストン20がストロークしたときの突起25を受け入れる切欠き35がピストン20の各突起25に対応させて周方向に等間隔に形成されている。ここでは図4に示すように、切欠き35は矩形としてあるが、その開口幅は必要ストロークだけピストン20がストロークしたときに突起25との間にわずかな間隙が残るように設定されている。
【0020】
ピストン20が初期位置にあるときの筒部32(縮径部32a)先端と突起25との間隙sはリターンスプリング15の板バネKの波の高さ、すなわち波の山の頂部と谷の底部間の振幅長さd以下に設定されれば、リターンスプリング15が当該間隙sに落ち込むことはない。
切欠き35の軸方向深さは、必要ストロークだけピストン20がストロークしたときにも突起25の軸方向先端が切欠き35の底部35aと当接しないように設定され、また当然、筒部32の長さも縮径部32aの先端がピストン20の凹部22の底壁22aに当接しない値に設定される。
【0021】
図5に示すように、摩擦板押圧のためピストン20が初期位置からストロークしたときはその突起25がスプリングリテーナ30の筒部32の切欠き35に入り込んで、軸方向にそってみたとき筒部32と突起25が連続した状態となる。
これにより、リターンスプリング15はその両端を支持しているスプリングリテーナ30の円盤部31からピストン20の凹部底壁22aにわたる全範囲で、連続した筒部32と突起25に規制されて所定以上の内径方向へのズレ移動を防止される。
【0022】
また、ピストン20とスプリングリテーナ30が、押圧部21と通過孔33の間隙設定により相対回転を所定内に規制され、また切欠き35内に入り込んだ突起25も相対回転を規制されることと相俟って、リターンスプリング15の両端を支持する各当接部(内半部31a、底壁22a)はリターンスプリング15の圧縮時にも相対回転しないから波の山同士のズレが助長されることもない。
【0023】
本実施例では、スプリングリテーナ30を係止するスナップリング4が嵌め込まれているスプライン2、すなわち当該スプラインが形成された変速機ケース1が発明におけるピストンに対する固定側部材に該当し、摩擦板7が摩擦係合要素に該当する。
また、スプリングリテーナ30の切欠き35が発明における凹部に該当する。
【0024】
本実施例は以上のように構成され、摩擦板7を押圧するためのピストン20と、変速機ケース1に係止されピストン20に対向するスプリングリテーナ30と、ピストン20とスプリングリテーナ30との間に介装され波型に成形した板バネKを螺旋状に巻回して形成された環状のウエーブスプリングからなるリターンスプリング15とを備えたピストン機構において、ピストン20にはリターンスプリング15より内径側においてスプリングリテーナ30に向かう複数の突起25が周方向に間隔を存して設けられ、スプリングリテーナ30は、リターンスプリング15より内径側においてピストン20へ向かって延びる筒部32を備え、該筒部32の先端にピストン20の突起25に対応する複数の切欠き35が形成され、少なくともピストン20が移動して摩擦板7が係合された状態において突起25が切欠き35に進入されるように構成されているものとしたので、これにより、リターンスプリング15が圧縮された際に径方向にズレた板バネKの巻回部分が筒部32と突起25の間に挟まれてクラッチの締結解放機能を損ずる事態が確実に回避される。
また、ピストン20とスプリングリテーナ30間の相対回転も切欠き35と当該切欠きに進入する突起25の係合によって所定内に抑えられるので、リターンスプリング15は波の山同士のズレが助長されることなく、座屈が防止される。(請求項1に対応する効果)
【0025】
ピストン20は摩擦板7を押圧するための押圧部21が周方向に間隔を存して突設され、スプリングリテーナ30には押圧部21が貫通される通過孔33が形成され、ピストン20がリターンスプリング15の付勢力のみによって規制される初期位置にある状態で、少なくとも押圧部21の先端が通過孔33に挿入されると共に、筒部32の先端と突起25との間に間隙を存するように構成しているので、初期位置において切欠き35と突起25が係合していなくても押圧部21と通過孔33の係合によってピストン20とスプリングリテーナ30間の相対回転が所定内に抑えられることにより、リターンスプリング15の波の山同士のズレが助長されることがなく、これによってもリターンスプリング15の座屈が防止される。(請求項2に対応する効果)
【0026】
そして、スプリングリテーナ30の筒部32の先端と突起25との間の間隙sが、板バネKの波の高さ以下に設定されているので、板バネKが波形をしているリターンスプリング15が当該間隙に落ち込むことはなく、初期位置において筒部32と突起25が連続していなくても座屈発生のおそれはないから、ピストン20およびスプリングリテーナ30のサイズ設計の自由度が高い。(請求項3に対応する効果)
【0027】
ピストン20の突起25及びスプリングリテーナ30の筒部32の外周側と、リターンスプリング15の内周側との間の径方向間隙がリターンスプリング15を形成する板バネKの板幅wの1/2よりも小さく設定されているので、板バネKの隣接する巻回部分が相対的に板幅分ズレる可能性がなくなり、座屈の発生が確実に防止される。(請求項6に対応する効果)
【0028】
また、スプリングリテーナ30の筒部32は先端に向かって縮径する縮径部32aを有しているので、リターンスプリング15の圧縮の過程で径方向にズレた板バネKの巻回部分が発生しても縮径部32aの傾斜面にガイドされてズレが減少することになる。(請求項7に対応する効果)
【0029】
なお、第1の実施例では、ピストンに設ける突起25を押圧部21と周方向同角度位置に配置して押圧部21と同数としたが、突起の個数は任意に設定して押圧部とは異ならせてよい。
【0030】
図6は第2の実施例を示す、図1相当の縦断面図である。これは、スプリングリテーナを変速機ケース側に係止させる代わりに、隔壁側に係止させるようにした点で前実施例と異なる。
変速機ケースに固定された隔壁10’に形成されたリング状のシリンダ11内に、軸方向に押圧部21’を備えたリング状のピストン20’が軸方向にストローク可能に配置されている。ピストン20の外周縁近傍からは押圧部21’が摩擦板7に向かって軸方向に伸びている。
摩擦板7と隔壁10’の間には、スプリングリテーナ30’が設けられ、ピストン20’とスプリングリテーナ30’の間にウエーブスプリングからなるリターンスプリング15が配置されている。
【0031】
スプリングリテーナ30’は、円盤部31’と円盤部31の径方向中間位置から軸方向に延びる筒部32とからなり、隔壁10’に形成した溝12に嵌め込んだスナップリング4’により円盤部31’の内周縁を係止されて、軸方向が位置決めされている。
なお、スプリングリテーナ30’が押圧部21’を越えて径方向外方へ延びる必要はないので、押圧部21’は周方向に連続したリング状をなしているが、前実施例と同様に分割した複数個を周方向に等間隔に設けるものとしてもよい。
【0032】
ピストン20’は凹部22を有し、その底壁22aがリターンスプリング15の軸方向一端の当接部となっている。また、スプリングリテーナ30’は円盤部31’の筒部32よりも外径側がスプリング当接部31cとなっている。
ピストン20’の凹部22に複数の突起25が周方向に等間隔に設けられ、スプリングリテーナ30’の筒部32は縮径部32aを備えて、この縮径部32aにピストン20’がストロークしたときの突起25を受け入れる切欠き35が形成されている。
ピストン20’の初期位置において、突起25は切欠き35内に位置しており、ピストンがリターンスプリング15を圧縮したときにスプリングリテーナ30’が回転しないようになっている。
その他の構成は前実施例と同じである。
動作は前実施例と同じである。
なお、本実施例では、スプリングリテーナ30’を係止するスナップリング4’が嵌め込まれている隔壁10’が発明におけるピストンに対する固定側部材に該当し、摩擦板7が摩擦係合要素に該当する。
また、スプリングリテーナ30’の切欠き35が発明における凹部に該当する。
【0033】
本実施例は以上のように構成され、摩擦板7を押圧するためのピストン20’と、変速機ケース1に係止されピストン20’に対向するスプリングリテーナ30’と、ピストン20’とスプリングリテーナ30’との間に介装され波型に成形した板バネKを螺旋状に巻回して形成された環状のウエーブスプリングからなるリターンスプリング15とを備えたピストン機構において、ピストン20’にはリターンスプリング15より内径側においてスプリングリテーナ30’に向かう複数の突起25が周方向に間隔を存して設けられ、スプリングリテーナ30’は、リターンスプリング15より内径側においてピストン20’へ向かって延びる筒部32を備え、該筒部32の先端にピストン20’の突起25に対応する複数の切欠き35が形成され、少なくともピストン20’が移動して摩擦板7が係合された状態において突起25が切欠き35に進入されるように構成されているものとしたので、これにより、リターンスプリング15が圧縮された際に径方向にズレた板バネKの巻回部分が筒部32と突起25の間に挟まれてクラッチの締結解放機能を損ずる事態が確実に回避される。(請求項1に対応する効果)
【0034】
また、ピストン20’がリターンスプリング15の付勢力のみによって規制される初期位置にある状態で、突起25が複数の切欠き35内に位置しているので、ピストンの初期位置およびストロークの間を通じて、ピストン20’とスプリングリテーナ30’間の相対回転が切欠き35と突起25の係合によって所定内に抑えられるので、リターンスプリング15は波の山同士のズレが助長されることなく、座屈が防止される。(請求項4に対応する効果)
【0035】
そして、ピストン20’の突起25及びスプリングリテーナ30’の筒部32の外周側と、リターンスプリング15の内周側との間の径方向間隙がリターンスプリング15を形成する板バネKの板幅wの1/2よりも小さく設定されているので、板バネKの隣接する巻回部分が相対的に板幅分ズレる可能性がなくなり、座屈の発生が確実に防止される。(請求項6に対応する効果)
【0036】
また、スプリングリテーナ30’の筒部32は先端に向かって縮径する縮径部32aを有しているので、リターンスプリング15の圧縮の過程で径方向にズレた板バネKの巻回部分が発生しても縮径部32aの傾斜面にガイドされてズレが減少することになる。(請求項7に対応する効果)
【0037】
各実施例では、突起25は凹部22の内径側周面22bにそって設けられ、突起25の先端がピストン20の端面23と面一の平坦面となっているものとしたが、凹部の深さが浅い場合などには、突起25がその軸方向全長にわたって内径側周面22bとつながっている必要はなく、突起25が独立して底壁22aから延びているものとしてもよい。
また、突起25は径方向から見たときスプリングリテーナに向かって先細の山形をなし、筒部32の切欠き35は矩形をなしているものとしたが、互いに相似形としてもよく、例えば切欠き35を突起25の山形に対応させた略V字形とすることもできる。
【0038】
各実施例は摩擦板におけるドリブンプレート7bが変速機ケース1のスプライン2に係合して、締結時にドライブプレート7a側の回転部材を停止させるクラッチに適用したものを示したが本発明はこれに限定されず、回転部材同士を連結するクラッチにも適用されるものである。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、車両用その他の自動変速機に適用してとくに有効である。
【符号の説明】
【0040】
1 変速機ケース
2、6 スプライン
3 溝
4、4’ スナップリング
5 ハブ部
7 摩擦板
7a ドライブプレート
7b ドリブンプレート
10、10’ 隔壁
11 シリンダ
13 油室
15 リターンスプリング
20、20’ ピストン
21、21’ 押圧部
22 凹部
22a 底壁
22b 内径側周面
23 端面
25 突起
25a 頂部
30、30’ スプリングリテーナ
31、31’ 円盤部
31a 内半部
31b 外半部
31c スプリング当接部
32 筒部
32a 縮径部
33 通過孔
35 切欠き(凹部)
35a 底部
d 振幅長さ
K 板バネ
s 間隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦係合要素を押圧するためのピストンと、固定側部材に係止され前記ピストンに対向するスプリングリテーナと、前記ピストンと前記スプリングリテーナとの間に介装され波型に成形した板バネを螺旋状に巻回して形成された環状のウエーブスプリングからなるリターンスプリングとを備えたピストン機構において、
前記ピストンには前記リターンスプリングより内径側において前記スプリングリテーナに向かう複数の突起が周方向に間隔を存して設けられ、
前記スプリングリテーナは、前記リターンスプリングより内径側において前記ピストンへ向かって延びる筒部を備え、該筒部の先端に前記ピストンの前記突起に対応する複数の凹部が形成され、
少なくとも前記ピストンが移動して前記摩擦係合要素が係合された状態において前記突起が前記凹部に進入されるように構成されていることを特徴とするピストン機構。
【請求項2】
前記ピストンは前記摩擦係合要素を押圧するための押圧部が周方向に間隔を存して突設され、
前記スプリングリテーナには前記押圧部が貫通される通過孔が形成され、前記ピストンが前記リターンスプリングの付勢力のみによって規制される初期位置にある状態で、少なくとも前記押圧部の先端が前記通過孔に挿入されると共に、前記筒部の先端と前記突起との間に間隙を存するように構成したことを特徴とする請求項1に記載のピストン機構。
【請求項3】
前記スプリングリテーナの前記筒部の先端と前記突起との間の前記間隙が、前記板バネの波の高さ以下に設定されていることを特徴とする請求項2に記載のピストン機構。
【請求項4】
前記ピストンが前記リターンスプリングの付勢力のみによって規制される初期位置にある状態で、前記突起が前記複数の凹部内に位置していることを特徴とする請求項1に記載のピストン機構。
【請求項5】
前記ピストンは前記摩擦係合要素を押圧するための押圧部が周方向に突設され、
前記スプリングリテーナは、前記押圧部より内径側に設けられ、内周縁を固定側部材に係止するように成形したことを特徴とする請求項4に記載のピストン機構。
【請求項6】
前記ピストンの前記突起及び前記スプリングリテーナの前記筒部の外周側と、前記リターンスプリングの内周側との間の径方向間隙が前記リターンスプリングを形成する板バネの板幅の1/2よりも小さく設定されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1に記載のピストン機構。
【請求項7】
前記スプリングリテーナの前記筒部は先端に向かって縮径する縮径部を有していることを特徴とする請求項1から6のいずれか1に記載のピストン機構。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−203595(P2010−203595A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−53125(P2009−53125)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】