説明

ピペコリン酸含有抗糖尿病組成物

【課題】生体内内因性物質であり、かつ食経験が豊富である成分を含有する組成物を提供すること。
【解決手段】本発明により、ピペコリン酸を一日あたりの投与量が20mg/kg体重〜2000mg/kg体重となる量で含有する組成物を提供する。本発明の組成物は、糖尿病の治療等に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はピペコリン酸含有組成物並びに該組成物を含有する医薬組成物、食品、サプリメント、飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、我が国の食生活の欧米化や高カロリー化、車社会の発達などによる運動不足、そして高齢化現象に伴い糖尿病患者が急増している。2002年に厚生労働省で行われた糖尿病実態調査では、「糖尿病が強く疑われる人」は約740万人また「糖尿病の可能性を否定できない人」と合わせると約1620万人にも上ることが示された。この現状は生活習慣病対策の上で重大な社会・医療問題になってきている(非特許文献1)。
糖尿病の治療剤としては、インスリンの分泌を促すスルフォニルウレア系製剤、食後の過血糖を抑制するα−グルコシダーゼ阻害剤、あるいは最近ではインスリン抵抗性を改善するチアゾリジン系製剤が用いられるが、これら医療用合成製剤は、処方箋を必要とするため、簡易には入手できないばかりか、製剤の投与又は服用により種々の副作用を伴うことがある(非特許文献2、3)。そのため糖尿病の治療に使用される抗糖尿病剤として、入手が容易でかつ副作用ができるだけ少ない天然由来のものが求められており、難消化性デキストリンやその他の天然抽出物が注目されている(非特許文献4、特許文献1、2)。しかし、これらのほとんどは糖吸収抑制により血糖上昇を抑えるため、直接的には体質を改善しない上に下痢や便秘など消化器に悪影響を引き起こすことがある。したがって、より副作用が少なく、病態の改善に直接的に作用する抗糖尿病剤が望まれている。
【0003】
動脈硬化は糖尿病(高血糖、インスリン抵抗性)、高脂血症または内臓脂肪の蓄積などのメタボリックシンドロームと呼ばれる生活習慣病によって惹起されることが報告されており、その進行によって心筋梗塞や脳梗塞が発症することが知られている。この2つの病気による死亡は日本人の死亡原因の31.0%を占め、がんによる死亡の28.5%を上回っており、動脈硬化の予防・改善を図る抗動脈硬化剤の開発が切望されている。例えば、米ヌカに含まれるトリテルペンアルコールや各種植物ステロールのフェルラ酸エステルの総称であるγ-オリザノールは、血中脂質を低下させることにより、抗動脈硬化作用を呈することが知られている(特許文献3)。またユーカリ属植物の抽出物も抗肥満作用を呈することにより抗動脈硬化作用を奏することが予測されている(特許文献4)。
【0004】
ピペコリン酸は哺乳類の体内でリジンから生合成されるアミノ酸の一種であり、食経験が豊富な種々の植物(特にインゲン属)にも多く含まれていることが知られている(非特許文献5、6、7)。またその代謝経路はリジン代謝とほぼ同様であり、最終的にはTCA回路でCO2にまで代謝されることも報告されている(非特許文献8)。このようにピペコリン酸は内因性の物質であり食経験が豊富であるとともに、その代謝経路もリジン代謝と相似しているため、非常に高い安全性を有していると考えられる。
一方、ピペコリン酸のL型異性体はヒトにおいて腎臓で再吸収されその血中濃度が維持されることも報告されている(非特許文献5)。しかしながら、ピペコリン酸が内因性調節因子として生体機構に具体的に関与しているか否か不明であり、まして、糖尿病に効果を奏する知見は全く知られていない。さらに食品から摂取され得るピペコリン酸量は多く見積もっても一日あたり15mg/kg体重であるため、今回の発明と比較すると量的に明らかに少ないことが容易に推定される。
【0005】
【特許文献1】特開2002−316938号公報
【特許文献2】特開2001−181194号公報
【特許文献3】特開昭60−248611号公報
【特許文献4】特開2001−270833号公報
【非特許文献1】糖尿病実態調査報告書。厚生労働省、2002
【非特許文献2】「Acta anaesthesiologica Scandinavica」47;221−225(2003)
【非特許文献3】「Diabetes」52;2249−2259(2003)
【非特許文献4】「Journal of nutritional food」6;89−98(2003)
【非特許文献5】「Clinica Chimica Acta」287;145−156(1999)
【非特許文献6】「Journal of Chromatography A」708;131−141(1995)
【非特許文献7】「Journal of agricultural and food chemistry」34;282−284(1986)
【非特許文献8】「Biochimica et Biophysica Acta」675;411−415(1981)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は生体内内因性物質であり、かつ食経験が豊富である成分を含有する組成物を提供することを目的とする。
【0007】
本発明者らはピペコリン酸の投与が正常ラットおよび肥満モデル、糖尿病病態モデルラットにおける耐糖能、インスリン抵抗性を改善し、血中中性脂肪や内臓脂肪の蓄積を減少させることを見出し、このような知見に基づいて本発明を完成した。
すなわち本発明は、ピペコリン酸を一日あたりの供与量が20mg/kg体重〜2000mg/kg体重となる量で含有する組成物を提供する。
本発明はまた、ピペコリン酸を含有する、血糖値の上昇抑制若しくは血糖値の降下;インスリン感受性の亢進若しくはインスリン抵抗性の改善;血中脂質の上昇抑制若しくは血中脂質の低下;内臓脂肪蓄積の抑制若しくは蓄積した内臓脂肪の減少;又は糖尿病、動脈硬化、肥満若しくは高血圧の予防、軽減又は治療用組成物を提供する。
本発明はまた、上記組成物を含有する医薬組成物を提供する。
本発明はまた、上記組成物を含有する食品を提供する。
本発明はまた、上記組成物を含有するサプリメントを提供する。
本発明はまた、上記組成物を含有する飼料を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、毒性が低く、上記糖尿病等の疾患又は病態を直接的且つ効果的に予防、軽減または治療することができる組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において用いることのできるピペコリン酸としては、L型ピペコリン酸、D型ピペコリン酸、およびピペコリン酸誘導体があげられる。
本発明で使用するピペコリン酸誘導体とは、ピペコリン酸ベタインそのものまたは生理学的に許容されうるピペコリン酸、ピペコリン酸ベタインの源となる化合物を指す。
生理学的に許容されうるピペコリン酸、ピペコリン酸ベタインの源となる化合物には、以下の化合物が含まれる。
ピペコリン酸、ピペコリン酸ベタインを構成要素として含むペプチド;
(アラニル−ピペコリン酸、γ−グルタミル−ピペコリン酸等のピペコリン酸、ピペコリン酸ベタインを含むオリゴペプチド)
ピペコリン酸アルキルまたはアルケニルまたはアラルキルエステル;
ピペコリン酸アミド;
ピペコリン酸アルキルまたはアルケニルまたはアラルキルアミド;
ピペコリン酸ジアルキルアミド;
N−アシル−ピペコリン酸;
N−アシル−ピペコリン酸アルキルエステル;
N−アシル−ピペコリン酸アミド;
N−アシル−ピペコリン酸アルキルアミド;
N−アシル−ピペコリン酸ジアルキルアミド;
ピペコリン酸ベタインアルキルまたはアルケニルまたはアラルキルエステル;
ピペコリン酸ベタインアミド;
ピペコリン酸ベタインアルキルまたはアルケニルまたはアラルキルアミド;
ピペコリン酸ベタインジアルキルアミド。
ここで、アルキル基の炭素数は1から22、アルケニル基の炭素数は2から22、アラルキル基の炭素数は7から22、アシル基の炭素数は炭素数1から22である。ジアルキルを有する場合、各アルキル基の炭素数は同一でも異なっていても良い。
【0010】
本発明で使用するピペコリン酸は、遊離体、塩、及び溶媒和物の何れの形態でも良い。塩としては、例えば、式中のカルボキシル基に対しては、アンモニウム塩、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属との塩、アルミニウム塩、亜鉛塩、トリエチルアミン、エタノールアミン等の有機アミンとの塩を、塩基性基に対しては、塩酸、硫酸、リン酸などの無機酸との塩、酢酸、クエン酸、安息香酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、コハク酸等の有機カルボン酸との塩、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機スルホン酸との塩を挙げることができる。溶媒和物としては、水和物、アルコール付加物等を挙げることが出来る。ピペコリン酸はまた、L 体、D 体、D L 体およびL体とD体の任意の比率の混合物のいずれであっても良い。ピペコリン酸は、上記物質の2 種類以上を併用することができることは言うまでもない。
また本発明の組成物におけるピペコリン酸の含有量は、一日あたりの投与量が20mg/kg体重〜2000mg/kg体重、好ましくは50mg/kg体重〜1000mg/kg体重となる量である。一日あたりの投与量が20mg/kg体重より少ない場合は所期の作用を十分に示さず、2000mg/kg体重より多い場合は、毒性が現れるという観点で問題がある。
本発明の組成物の好ましい投与方法(摂取方法)は、経口摂取であり、さらに数日間連続摂取することが望ましい。
【0011】
本発明の組成物は、血糖値の上昇抑制若しくは血糖値の降下;インスリン感受性の亢進若しくはインスリン抵抗性の改善;血中脂質の上昇抑制若しくは血中脂質の低下;内臓脂肪蓄積の抑制若しくは蓄積した内臓脂肪の減少;又は糖尿病、動脈硬化、肥満若しくは高血圧の予防、軽減又は治療に使用することができる。特に、動脈硬化および動脈硬化症、肥満、高血圧、その他糖尿病性合併症の予防、軽減又は治療に好ましく用いることができる。さらに特にII型糖尿病における食後の血糖上昇の抑制またはインスリン抵抗性の改善などに優れた効果を発揮する。さらに内臓脂肪や血中脂質を低下させることができる。
本発明の組成物は、医薬組成物形態の他、上記疾患又は病態の予防、軽減又は治療のために用いられるものである旨の表示を附した食品、健康食品、サプリメント、栄養組成物又は飼料等の形態をとることもできる。
【0012】
医薬組成物形態の場合、医薬的に許容できる担体又は希釈剤、例えばカルボキシメチルセルロース・エチルセルロース等のセルロース誘導体、ポテトスターチ・コーンスターチ等の澱粉類、乳糖・ショ糖等の糖類、ピーナツ油・コーン油・ゴマ油等の植物性油、ポリエチレングリコール、アルギン酸、ゼラチン、タルク等と混合し、錠剤・散剤・丸剤・顆粒剤・カプセル剤・シロップ等の経口剤、皮下注射剤・静脈内注射剤・筋肉内注射剤・硬膜外腔注射剤・くも膜下腔注射剤当の注射剤、経鼻投与製剤・経皮製剤・軟膏剤等の外用剤、直腸坐剤・膣坐剤等の坐剤、点滴剤等の剤形とすることができる。
本発明の医薬組成物は、経口的又は非経口的に、例えば経腸、経静脈投与することができる。
【0013】
食品形態の場合、適宜の添加剤を使用して常法により調製することもできる。このような添加剤としては味を調整改良する果汁、デキストリン、環状オリゴ糖、糖類(果糖、ブドウ糖、液糖、蔗糖)、酸味料、香料、抹茶粉末、油脂、テクスチャーを改善する乳化剤、コラーゲン、全脂粉乳、増粘多糖類や寒天(ゼリー飲料の場合)など通常健康食品の成分として使用されているものを挙げる事ができる。
本発明の食品は、更に、アミノ酸、ビタミン、卵殻カルシウムパントテン酸カルシウム、その他のミネラル類、ローヤルゼリー、プロポリス、蜂蜜、食物繊維、アガリクス、キチン、キトサン、カプサイシン、ポリフェノール、カロテノイド、脂肪酸、ムコ多糖、補酵素、抗酸化物質などを配合することにより健康食品とすることもできる。
【0014】
サプリメント形態の場合、乳化剤、色素、香料等と混合し、錠剤、カプセル状、リキッド状等の剤型をとることができる。
本発明の組成物は、ブタ、ウシ、ヒツジ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、サル等の哺乳動物またはニワトリ、キジ、ダチョウ等の鳥類の飼料としてもよく、例えば、当該技術分野において周知の方法にしたがい、飼料用の固体又は液体の添加剤とすることもできる。
本発明の組成物の製品形態には特別の制限は無く、通常用いられているアミノ酸の摂取できる形態であればいずれの形態でもよい。このような形態としては経口摂取であれば適当な賦形剤を使用した粉末、顆粒、タブレット、液体(飲料、ゼリー飲料)、キャンディ(チョコレート等)、あるいは上記1種あるいは2種のアミノ酸の単なる混合物を挙げることができる。また静脈投与であれば上記1種あるいは2種のアミノ酸を含有した輸液、水溶液、用時調整のためのアミノ酸粉末を挙げることができる。
【0015】
以下、本発明を具体的に実施例で説明する。ここで用いた分析方法は、糖負荷試験およびインスリン抵抗性試験であり、これらは、糖尿病またはインスリン抵抗性を判断するために一般的に用いられる手法であり、薬理学および生理学の観点から妥当なものである。今回の全ての結果は平均値±標準誤差で示した。また統計解析には、各測定項目についてTukey−Kramerの多重検定を用いて全ての試験群間の平均値の検定を行った。
【実施例】
【0016】
以下、試験例により本発明を更に詳細に説明する。
試験例1(正常ラットにピペコリン酸を4週間供与した際の糖負荷後血糖推移の確認)
(1)試験の概要:
(a)正常ラットを対象に、D,L型ピペコリン酸を4週間供与することによって糖負荷後の血糖上昇が抑制され得るかを検討した。
(b)9週齢のSD系雄ラットを用いて実験を開始した。
(c)正常ラット24匹を絶食時血糖および体重が一定となるように3群(各群8匹)に分け、それぞれの群にD,L型ピペコリン酸を0、0.2または0.4%添加した餌を4週間供与した。その後17時間絶食し、2g/kg体重となるように10%グルコース液を経口投与した。投与後0、15、30、60および120分の血糖値および血中インスリン濃度を測定した。
【0017】
(d)D,L型ピペコリン酸を0.2および0.4%添加した餌を供与した群では、糖負荷後の血糖上昇が抑制された。特に0.4%添加群においては血糖の上昇が著しい30分および60分の血糖を低下させた。しかしながら血中インスリン濃度はどの群のどの時間においても変化しなかった。(図1参照)
(e)以上の結果から、ピペコリン酸は血中インスリン濃度に影響することなく、血糖値の上昇を抑制することが確認された。これはインスリン感受性が亢進された結果であると考えられる。したがって本発明で言及したように、ピペコリン酸供与は糖負荷後の血糖上昇抑制およびインスリン抵抗性改善効果を有すると考えられる。
【0018】
(2)試験の詳細
(a)各群の構成:下記第1表に示す。
第1表

【0019】
(b)飼料調整:市販飼料(オリエンタル酵母社製 CRF−1)にD,L型ピペコリン酸(アルドリッチ)を少量ずつ混合し、さらに万能混合撹拌機(ダルトン社製)を用いて5分間混合した。
(c)動物飼育:7週齢のSD系雄性ラット24匹(3試験区×8匹)を日本チャールス・リバーより購入し、12時間の明暗サイクル(7:00−19:00)、室温25℃の動物飼育室で単飼飼育した。2週間の馴化後、体重および絶食時血糖をもとに3群に群分けし、上記飼料を4週間供与した。この期間の月・水・金曜日に体重および摂食量を測定し、飼料を追加した。4週間経過後、糖負荷試験を行った。
(d)糖負荷試験:前日の17時に絶食を開始し、当日の10時に2g/kg体重となるように10%グルコース液を経口投与した。投与後、0、15、30、60および120分に採血を行い、血糖値および血中インスリン濃度を測定した。血糖値は動物用生化学自動分析装置(富士写真フィルム製 富士ドライケム5500)を用いて、採血後即時に測定された。また血中インスリン濃度は、採取した血液を遠心機(日立社製 himacCF15D)で遠心し、血漿を取り出し、インスリン測定キット(森永生化学研究所)を用いて測定した。結果を図1に示す。(A)は血糖値推移およびその濃度曲線下面積、(B)は血中インスリン濃度推移を示す。
【0020】
試験例2(肥満モデルラットにピペコリン酸を4週間供与した際の糖負荷後血糖推移の確認)
(1)試験の概要:
(a)高脂肪食負荷により作成した肥満モデルラットはインスリン抵抗性を発現し、高インスリン血症を示すことが報告されている。そこでこの肥満モデルラットを対象に、D,L型ピペコリン酸を4週間供与することによって糖負荷後の血糖および血中インスリン濃度の上昇が抑制され得るかを検討した。
(b)6週齢のSD系雄ラットを用いて実験を開始した。
(c)ラット48匹を絶食時血糖および体重が一定となるように2群に分け、通常食または高脂肪食を3週間供与した(モデル作成期)。その後、絶食時血糖および絶食時血中インスリン濃度、体重をもとにそれぞれを更に3群に分け(計6群)、通常食または高脂肪食にD,L型ピペコリン酸を0、0.2、0.4%添加した飼料を4週間供与した(試験期)。4週間供与後、17時間絶食し、2g/kg体重となるように10%グルコース液を経口投与した。投与後0、15、30、60および120分の血糖値および血中インスリン濃度を測定した。
【0021】
(d)通常食群に比べて高脂肪食群は、糖負荷後の血糖上昇が遅延することや血中インスリン濃度が高くなることが確認され、これは公知の事実・報告と一致した。しかし、高脂肪食にD,L型ピペコリン酸を添加した群では、糖負荷後の血糖上昇はほとんど抑制されなかったが、血中インスリン濃度は通常食群と同程度にまでに低下した。(図2参照)
(e)以上の結果をまとめると、ピペコリン酸は高脂肪食負荷肥満モデルラットにおいて血糖上昇の抑制にはほとんど効果がなかったが、血中インスリン濃度を有意に低下させることができた。これはピペコリン酸が肥満モデルラットにおいてインスリン抵抗性を改善した結果だと考えられる。
【0022】
(2)実験の詳細
(a)各群の構成:下記第2表に示す。
第2表

【0023】
【化1】

【0024】
(c)飼料調整:通常食および高脂肪食組成を下記第3表に示す。これらの飼料にD,L型ピペコリン酸(アルドリッチ)を0.2または0.4%混合し、通常食または高脂肪食+ピペコリン酸飼料を作成した。














第3表

(d)動物飼育:5週齢のSD系雄性ラット48匹(4試験区×8匹)を日本チャールス・リバーより購入し、12時間の明暗サイクル(7:00−19:00)、室温25℃の動物飼育室で単飼飼育した。1週間の馴化後、体重および絶食時血糖をもとに2群に群分けし、一方には通常食もう一方には高脂肪食を供与した(モデル作成期)。3週間経過時点で体重、絶食時血糖および血中インスリン濃度が一定になるように、それぞれの群を更に3群に群分けし(計6群)、通常食または高脂肪食にD,L型ピペコリン酸を0、0.2、0.4%添加した飼料を4週間供与した(試験期)。モデル作成期から試験期の終了まで全期間にわたって月・水・金曜日に体重および摂食量を測定し、飼料を追加した。試験期終了時点で糖負荷試験を行った。
(e)糖負荷試験:前日の17時に絶食を開始し、当日の10時に2g/kg体重となるように10%グルコース液を経口投与した。投与後、0、15、30、60および120分に採血を行い、血糖値および血中インスリン濃度を測定した。血糖値は動物用生化学自動分析装置(富士写真フィルム製 富士ドライケム5500)を用いて、採血後即時に測定された。また血中インスリン濃度は、採取した血液を遠心機(日立社製 himacCF15D)で遠心し、血漿を取り出し、インスリン測定キット(森永生化学研究所)を用いて測定した。結果を図2に示す。(A)は血糖値推移およびその濃度曲線下面積、(B)は血中インスリン濃度推移およびその濃度曲線下面積を示す。
【0025】
試験例3(II型糖尿病モデルマウスの病態推移に対するピペコリン酸の効果)
(1)試験の概要:
(a)II型糖尿病モデルマウスを対象に、D,L型ピペコリン酸による病態の改善効果を検討した。
(b)II型糖尿病モデルであるKK−Ay雄マウスを用いて実験を開始した。
(c)KK−Ayマウス24匹を体重、糖負荷時の血糖値および血中インスリン濃度推移をもとに3群に群分けし、それぞれの群にD,L型ピペコリン酸を0、0.4または0.8%添加した餌を10週間供与した。試験開始から2週間目および8週間目に糖負荷後の血糖値、血中インスリン濃度を測定した。また9週目にインスリン耐性試験を行い、10週目には解剖検体を行って、副睾丸脂肪および腎周囲脂肪重量を測定した。
【0026】
(d)D,L型ピペコリン酸を0.4添加した群では、無添加群に比べて、2週間目の糖負荷試験において血糖上昇が抑制されたが、8週目では強い血糖上昇抑制作用は確認されなかった。しかしながら、D,L型ピペコリン酸0.8%添加群においては、糖負荷後の血糖上昇抑制効果は8週間目まで確認された。(図3参照)
また9週目に行われたインスリン抵抗性試験でも、D,L型ピペコリン酸0.8%添加群は、インスリン投与後の血糖降下が無添加群に比べて促進された。(図4参照)剖検時に採取された副睾丸脂肪と腎周囲脂肪の重量はD,L型ピペコリン酸0.8%添加によって低下することが認められた。(図5参照)
(e)ピペコリン酸(特に0.8%添加)は糖負荷試験およびインスリン抵抗性試験おいて糖尿病病態を改善する結果を示したため、II型糖尿病の予防・治療に効果的であることが示唆された。また内臓脂肪である副睾丸脂肪や腎周囲脂肪の蓄積は肥満の原因であるとともに動脈硬化を誘起する危険因子の1つであるため、その重量を減少させたピペコリン酸は抗肥満および抗動脈硬化効果をも有すると考えられる。
【0027】
(2)実験の詳細
(a)各群の構成:下記第4表に示す。
第4表

【0028】
(b)飼料調整:市販飼料(オリエンタル酵母社製 CRF−1)にD,L型ピペコリン酸(アルドリッチ社)を少量ずつ混合し、さらに万能混合撹拌機(ダルトン社製)を用いて5分間混合した。
(c)動物飼育:5週齢のKK−Ay雄性マウス24匹を日本クレア(株)より購入し、12時間の明暗サイクル(7:00−19:00)、室温25℃の動物飼育室で単飼飼育した。糖負荷時の血糖値および血中インスリン濃度を測定し、それらの値をもとにKK−Ayマウスを3群に群分けした。2週間の馴化後、上記飼料を10週間供与した。2週間目および8週間目に糖負荷試験を実施し、糖負荷後の血糖値、血中インスリン濃度を測定した。9週目にはインスリン抵抗性試験を行い、それぞれの群におけるインスリン耐性を検討した。また10週目には剖検検体を行い、副睾丸脂肪および腎周囲脂肪重量を測定し、内臓脂肪重量に対するピペコリン酸の効果を確認した。
(d)糖負荷試験:前日の20時に絶食を開始し、当日の10時に1g/kg体重となるように10%グルコース液を経口投与した。投与後、0、30、60、120、180および240分に採血を行い、血糖値および血中インスリン濃度を測定した。血糖値は動物用生化学自動分析装置(富士写真フィルム製 富士ドライケム5500)を用いて、採血後即時に測定された。また血中インスリン濃度は、採取した血液を遠心機(日立社製 himac CF15D)で遠心し、血漿を取り出し、インスリン測定キット(森永生化学研究所)を用いて測定した。結果を図3に示す。(A)に2週間目、(B)に8週間目の血糖値、血中インスリン濃度推移およびそれらの濃度曲線下面積を示す。
(e)インスリン抵抗性試験:前日の18時に絶食を開始し、当日の10時に0.5U/kg体重となるようにInsulinを皮下投与した。投与後0、30、60、120および180分に採血を行い、動物用生化学自動分析装置(富士写真フィルム製 富士ドライケム5500)を用いて血糖値を測定した。結果を図4に示す。
(f)剖検検体:前日の18時に絶食を開始し、当日の10時から剖検検体を行った。副睾丸脂肪および腎周囲脂肪を摘出し、その湿重量を測定した。結果を図5に示す。
【0029】
試験例4(II型糖尿病モデルマウスの血中および肝臓中脂質濃度に対するピペコリン酸の効果)
(1)試験の概要
(a)II型糖尿病モデルマウスを対象に、D,L型ピペコリン酸が血中脂質および肝臓中脂質に与える影響を検討した。
(b)6週齢のKK−Ay雄マウスを用いて実験を開始した。
(c)KK−Ayマウス16匹を体重をもとに2群に群分けし、それぞれの群にD,L型ピペコリン酸を0、1.6%添加した餌を5週間供与した。5週目に絶食させ、採血および肝臓の摘出を行い、絶食時血中トリグリセリド、絶食時血中総コレステロール、絶食時血中遊離脂肪酸、肝臓中総脂質、肝臓中トリグリセリド、肝臓中総コレステロールを測定した。
【0030】
(d)D,L型ピペコリン酸1.6%添加群は対照群に比べて、血中トリグリセリドおよび血中遊離脂肪酸、肝臓中総脂質、肝臓中トリグリセリドを平均値として約20%程度減少させた(図6,7参照)肝臓中の総脂質に関してはピペコリン酸添加量と有意に相関することも確認された。
(e)この試験において、ピペコリン酸はインスリン抵抗性誘起因子として知られている肝臓中の脂質や血中遊離脂肪酸を減少させたため、ピペコリン酸はインスリン感受性の亢進効果を有する可能性が高い。またピペコリン酸の飼料への添加は、動脈硬化の危険因子である血中トリグリセリドも低下させたため、前記試験の内臓脂肪蓄積抑制とあわせて考えると複合的に動脈硬化の治療・予防に効果的であると考えられる。さらに、動脈硬化は高血圧の要因の一つであるため、ピペコリン酸は高血圧の治療・予防にも効果的であることが示唆された。
【0031】
(2)実験の詳細
(a)各群の構成:下記第5表に示す。
第5表

【0032】
(b)飼料調整:市販飼料(オリエンタル酵母社製 CRF−1)にD,L型ピペコリン酸(アルドリッチ)を少量ずつ混合し、さらに万能混合撹拌機(ダルトン社製)を用いて5分間混合した。
(c)動物飼育:4週齢のKK−Ay雄性マウス16匹(2試験区×8匹)を日本クレアより購入し、12時間の明暗サイクル(7:00−19:00)、室温25℃の動物飼育室で単飼飼育した。2週間の馴化後、体重をもとに2群に群分けし、上記飼料を5週間供与した。この期間の月・水・金曜日に体重および摂食量を測定し、飼料を追加した。5週間経過後、17時間絶食し採血および肝臓を摘出した。それらサンプルを用いて絶食時血中トリグリセリド、絶食時血中総コレステロール、絶食時血中遊離脂肪酸、肝臓中総脂質、肝臓中トリグリセリド、肝臓中総コレステロールを測定した。
(d)血中脂質の測定:採血した血液を遠心機(日立社製 himac CF15D)で遠心し、得られた血漿をサンプルとして用いた。血中トリグリセリドおよび血中総コレステロールは動物用生化学自動分析装置(富士写真フィルム製 富士ドライケム5500)を用いて測定した。また血中遊離脂肪酸はNEFA E−テストワコー和光純薬工業社製)を用いて測定した。結果を図6に示す。
(e)肝臓中脂質の測定:約0.5gの肝臓サンプルをクロロホルム/メタノール溶液(2:1)10ml中でホモジナイズし、一晩脂質を抽出する。翌日桐山ロートを用いて肝臓残渣を除去し、再びクロロホルム/メタノール溶液で10mlにフィルアップする。そこに生理食塩水を2ml入れ、振とう機(ヤヨイ社製 model YS−8D)を用いて10分間撹拌する。その後2時間以上静置し、上清を吸い取り、再びクロロホルム/メタノール溶液で10mlにフィルアップする。その内の5mlを遠心エバポレーターを用いて濃縮乾固し、重量を測定して肝臓中総脂質とした。
また肝臓中トリグリセリドおよび総コレステロールは、上記の脂質抽出液40μlを乾固後、1%Triton X−100を含むイソプロパノールで再溶解した液を用いて、トリグリセリド E−テストワコーおよび遊離コレステロール E−テストワコー(和光純薬工業社製)を用いて測定された。結果を図7に示す。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】試験1で行われた糖負荷試験の結果を示す図である。(A)は糖負荷後の血糖値推移およびその濃度曲線下面積、(B)は糖負荷後の血中インスリン濃度推移を示す。図に示したP値は、対照群に比べての危険率を示す。
【図2】試験2で行われた糖負荷試験の結果を示す図である。(A)は糖負荷後の血糖値推移およびその濃度曲線下面積、(B)は糖負荷後の血中インスリン濃度推移を示す。*および#はそれぞれ対応している群間に、危険率P<0.05、P<0.01で有意差があることを示す。
【図3A】試験3で行われた糖負荷試験の結果を示す図である。(A)は試験食供与後2週間目の糖負荷後の血糖値および血中インスリン濃度推移、それらの濃度曲線下面積を示す。*および#はそれぞれ対照群に比べ、危険率P<0.05、P<0.01で有意差があることを示す。また図中に示されたP値は、対照群に比べての危険率を示す。
【図3B】試験3で行われた糖負荷試験の結果を示す図である。(B)は8週間目の糖負荷後の血糖値および血中インスリン濃度推移、それらの濃度曲線下面積を示す。*および#はそれぞれ対照群に比べ、危険率P<0.05、P<0.01で有意差があることを示す。また図中に示されたP値は、対照群に比べての危険率を示す。
【図4】試験3の9週間目に行われたインスリン抵抗性試験の結果を示す図である。0分にインスリンを0.5U/kg体重投与し、インスリンによる血糖降下作用が増強されるか検討した。*は対照群に比べ、危険率P<0.05で有意差があることを示す。
【図5】試験3の剖検検体時の各種臓器重量を示す結果である。体重100gあたりの重量を示している。なおこれらの重量は体右側のみの重量である。#は対照群に比べ、危険率P<0.01で有意差があることを示す。
【図6】試験4でピペコリン酸供与5週間目に測定された絶食時血中トリグリセリド、血中総コレステロールおよび血中遊離脂肪酸を示す図である。
【図7】試験4でピペコリン酸供与5週間目に摘出された肝臓中の総脂質、トリグリセリド、総コレステロールを示す図である。図中に示されたP値は、対照群に比べての危険率を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピペコリン酸を一日あたりの投与量が20mg/kg体重〜2000mg/kg体重となる量で含有する組成物。
【請求項2】
ピペコリン酸の一日あたりの投与量が50mg/kg体重〜1000mg/kg体重である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ピペコリン酸が、L−ピペコリン酸、D−ピペコリン酸およびLまたはD−ピペコリン酸誘導体からなる群から選ばれる請求項1又は2項記載の組成物。
【請求項4】
ピペコリン酸を含有する、血糖値の上昇抑制若しくは血糖値の降下;インスリン感受性の亢進若しくはインスリン抵抗性の改善;血中脂質の上昇抑制若しくは血中脂質の低下;内臓脂肪蓄積の抑制若しくは蓄積した内臓脂肪の減少;又は糖尿病、動脈硬化、肥満若しくは高血圧の予防、軽減又は治療用組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の組成物を含有する医薬組成物。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項記載の組成物を含有する食品。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項記載の組成物を含有するサプリメント。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか1項記載の組成物を含有する飼料。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−262017(P2007−262017A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−91147(P2006−91147)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】