説明

ピンスライド式浮動型ディスクブレーキ

【課題】ピンブーツのスライド孔側環状シール部にて所期のリトラクト機能が得られるようにする。
【解決手段】ディスクブレーキにて、ピンブーツ23のスライド孔側環状シール部23bにおける外周部分23b1には、環状収容溝41bの底壁面41b1に圧接する環状外周シール面23b1a、23b1bと、環状収容溝41bの両側壁面41b2,41b3に弾性的に係合してスライド孔側環状シール部23bの環状収容溝41b内でのロータ軸方向移動を弾性的に規制する弾性規制部(23b1c、23b1d)が形成されている。一方、スライド孔側環状シール部23bの内周部分23b2には、支持ピン21の外周面21aに向けて開口する内周環状溝23b2aがロータ軸方向の中間部に形成され、これのベロー部側に支持ピンの外周面21aと摺接する環状第1リップ部23b2bが形成され、これの反ベロー部側に支持ピンの外周面21aに対して弾性変形可能に係合してリトラクト機能を有する環状第2リップ部23b2cが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、車両において車輪を制動するために採用されるピンスライド式浮動型ディスクブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のディスクブレーキの一つとして、車体に組付けられるマウンティングおよびこのマウンティングに対してロータ軸方向に移動可能に組付けられるキャリパのうち、何れか一方にロータ軸方向に延びるスライド孔が設けられるとともに、他方にロータ軸方向に延びて前記スライド孔に摺動可能に挿通される支持ピンが設けられていて、前記支持ピンの前記スライド孔から突出する部分が筒状のピンブーツによって被覆されており、このピンブーツが、前記支持ピンの外周に被嵌されるピン側環状シール部と、前記スライド孔の開口端部に設けた環状収容溝内に嵌着されて外周部分にて同環状収容溝の底壁面に圧接しかつ内周部分にて前記支持ピンの外周面と接合するスライド孔側環状シール部と、これら両環状シール部を連結する伸縮自在の筒状ベロー部を一体的に有しているものがあり、例えば、下記特許文献1に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−120725号公報
【0004】
上記した特許文献1に記載されているディスクブレーキにおいては、ピンブーツのスライド孔側環状シール部における内周部分に、支持ピンの外周面に向けて開口する内周環状溝(環状の切り込み)がロータ軸方向の中間部に形成されるとともに、支持ピンの外周面とロータ軸方向に移動可能に摺接する環状第1リップ部と、支持ピンの外周面に対してロータ軸方向に弾性変形可能に係合してリトラクト機能(制動解除時に支持ピンを引き戻す機能)を有する環状第2リップ部が前記内周環状溝の両側に形成されている。
【発明の概要】
【0005】
ところで、上記した特許文献1に記載されているディスクブレーキにおいては、リトラクト機能を有する環状第2リップ部が内周環状溝のベロー部側でスライド孔の開口端に設けられている。このため、制動に伴う支持ピンのスライド孔に対する移動時に、環状第2リップ部がスライド孔外に移動してスライド孔による外周からの拘束(緊縛)を解かれるおそれがあり、環状第2リップ部の支持ピンに対する係合力(保持力)が低下して、所期のリトラクト機能が得られないことがある。また、ピンブーツのスライド孔側環状シール部における外周部分が、環状収容溝内にロータ軸方向にて所要量移動可能に収容されていて、スライド孔側環状シール部の環状収容溝内への組付性は良好とされているが、スライド孔側環状シール部が環状収容溝内をロータ軸方向に移動することに起因して、上記したリトラクト機能が阻害されることがある。
【0006】
本発明は、上記した課題を解決すべくなされたものであり、車体に組付けられるマウンティングおよびこのマウンティングに対してロータ軸方向に移動可能に組付けられるキャリパのうち、何れか一方にロータ軸方向に延びるスライド孔が設けられるとともに、他方にロータ軸方向に延びて前記スライド孔に摺動可能に挿通される支持ピンが設けられていて、前記支持ピンの前記スライド孔から突出する部分が筒状のピンブーツによって被覆されており、このピンブーツが、前記支持ピンの外周に被嵌されるピン側環状シール部と、前記スライド孔の開口端部に設けた環状収容溝内に嵌着されて外周部分にて同環状収容溝の底壁面に圧接しかつ内周部分にて前記支持ピンの外周面と接合するスライド孔側環状シール部と、これら両環状シール部を連結する伸縮自在の筒状ベロー部を一体的に有しているピンスライド式浮動型ディスクブレーキにおいて、前記ピンブーツの前記スライド孔側環状シール部における前記外周部分には、前記環状収容溝の底壁面に圧接する環状外周シール面が形成されるとともに、前記環状収容溝の両側壁面に弾性的に係合して前記スライド孔側環状シール部の前記環状収容溝内でのロータ軸方向移動を弾性的に規制する弾性規制部が形成され、前記ピンブーツの前記スライド孔側環状シール部における前記内周部分には、前記支持ピンの外周面に向けて開口する内周環状溝がロータ軸方向の中間部に形成されるとともに、前記支持ピンの外周面とロータ軸方向に移動可能に摺接する環状第1リップ部が前記内周環状溝のベロー部側に形成され、前記支持ピンの外周面に対してロータ軸方向に弾性変形可能に係合してリトラクト機能を有する環状第2リップ部が前記内周環状溝の反ベロー部側(前記ベロー部側とは反対側)に形成されていることに特徴がある。
【0007】
このピンスライド式浮動型ディスクブレーキにおいては、ピンブーツのスライド孔側環状シール部における外周部分に上記した弾性規制部が形成されている。このため、スライド孔側環状シール部の環状収容溝内でのロータ軸方向移動を弾性的に規制することが可能である。したがって、スライド孔側環状シール部が環状収容溝内をロータ軸方向に移動することに起因する上記したリトラクト機能の低下を抑制することが可能である。
【0008】
また、このピンスライド式浮動型ディスクブレーキにおいては、リトラクト機能を有する環状第2リップ部が内周環状溝の反ベロー部側に形成されていて、制動に伴う支持ピンのスライド孔に対する移動時に、環状第2リップ部がスライド孔外に移動することはなくてスライド孔の内周壁による外周からの拘束(緊縛)を解かれることはない。このため、環状第2リップ部の支持ピンに対する係合力(保持力)は維持されて、ピンブーツにおいて所期のリトラクト機能が得られる。
【0009】
上記した本発明の実施に際して、前記弾性規制部は、前記外周部分のベロー部側端面のロータ径方向中間部分からロータ軸方向に突出して前記環状収容溝のベロー部側の側壁面に弾性的に係合する第1突起と、前記外周部分の反ベロー部側端面のロータ径方向中間部分からロータ軸方向に突出して前記環状収容溝の反ベロー部側の側壁面に弾性的に係合する第2突起を備えていることも可能である。この場合には、前記外周部分のベロー部側端面の全体と反ベロー部側端面の全体にそれぞれ突部を設けた場合に比して、環状収容溝内に組付を容易とするスペースを十分に確保することが可能であって、前記スライド孔側環状シール部の前記環状収容溝内への良好な組付性と、上記したリトラクト機能の低下抑制の両立を図ることが可能である。この場合において、前記第1突起(ベロー部側の突起)が、環状に形成されていて、先端にて前記環状収容溝のベロー部側の側壁面に圧接している場合には、第1突起が環状収容溝のベロー部側の側壁面に圧接することによってもシール性(スライド孔内への水や塵埃の侵入防止)が得られて、シール性の向上を図ることが可能である。
【0010】
また、上記した本発明の実施に際して、前記外周部分のロータ軸方向中間部位に、前記環状収容溝の底壁面に向けて開口し前記環状外周シール面を二分する環状凹部が形成されていることも可能である。この場合には、前記環状外周シール面の前記環状収容溝の底壁面に対する面圧を容易に高めることができるとともに、ピンブーツの外周に沿ってスライド孔に向けて仮に水や塵埃が侵入することがあってもその侵入する水や塵埃を前記環状凹部内に貯めることができて、シール性を向上させることが可能である。
【0011】
また、上記した本発明の実施に際して、前記環状収容溝の反ベロー部側にて前記スライド孔の環状収容溝側端部は、スライド孔側を小径とし環状収容溝側を大径とするテーパー形状に形成され、前記内周環状溝のベロー部側は、ベロー部側を小径とし反ベロー部側を大径とするテーパー形状に形成されていることも可能である。この場合には、リトラクト機能を有する環状第2リップ部のロータ軸方向両側に環状第2リップ部の撓みを許容するスペースを十分に確保することができて、上記したリトラクト機能の向上を図ることが可能である。
【0012】
また、上記した本発明の実施に際して、前記環状凹部によって二分されて前記環状第1リップ部の外径側に位置する環状外周第1シール面の自由状態での外径が、前記環状凹部によって二分されて前記環状第2リップ部の外径側に位置する環状外周第2シール面の自由状態での外径に比して小さくされ、前記環状第1リップ部の自由状態での内径と前記環状第2リップ部の自由状態での内径が同径とされていることも可能である。
【0013】
この場合には、ピンブーツのスライド孔側環状シール部を環状収容溝内に嵌着したときの、環状第1リップ部による支持ピンの緊迫力(保持力)を、環状第2リップ部による支持ピンの緊迫力(保持力)に比して小さくすることができる。このため、環状第1リップ部と支持ピンとの摺動抵抗を、環状第2リップ部と支持ピンとの摺動抵抗に比して、小さくすることができて、環状第2リップ部にて上記したリトラクト機能を十分に発揮させることが可能である。
【0014】
この場合において、前記環状外周第1シール面の軸方向長さが、前記環状外周第2シール面の軸方向長さに比して小さくされていることも可能である。この場合には、環状第1リップ部による支持ピンの緊迫力(保持力)を下げつつ、環状外周第1シール面の環状収容溝における底壁面に対する面圧を維持することが可能であり、上記した効果を得つつ、環状外周第1シール面による防水性も維持することが可能である。
【0015】
また、上記した本発明の実施に際して、前記ピンブーツの前記スライド孔側環状シール部と前記支持ピンとの間にグリースが介在していて、前記環状第1リップ部の前記支持ピンとの摺動面の面粗度が、前記環状第2リップ部の前記支持ピンとの摺動面の面粗度に比して、大きくされていることも可能である。この場合には、環状第1リップ部の支持ピンとの摺動面に収容される単位面積当たりのグリース量を、環状第2リップ部の支持ピンとの摺動面に収容される単位面積当たりのグリース量に比して、多くすることが可能である。このため、環状第1リップ部と支持ピンとの摺動抵抗を、環状第2リップ部と支持ピンとの摺動抵抗に比して、小さくすることができて、環状第2リップ部にて上記したリトラクト機能を十分に発揮させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明によるピンスライド式浮動型ディスクブレーキの一実施形態を示す側面図である。
【図2】図1の部分破断側面図である。
【図3】図1の3−3線に沿った断面図である。
【図4】図2に示したピンブーツにおけるスライド孔側環状シール部の組付部分の拡大断面図である。
【図5】図4に示したピンブーツの自由状態での断面図である。
【図6】図4に示したピンブーツに図5に示したピンブーツを重ねた図である。
【図7】ピンブーツの他の実施形態の自由状態での断面図である。
【図8】ピンブーツのその他の実施形態の自由状態での断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1〜図4は本発明を車両用のピンスライド式浮動型ディスクブレーキに実施した実施形態を示していて、この実施形態のディスクブレーキAにおいては、キャリパ10が両アーム部11,12にて一対のピンスライド手段20,30を介してマウンティング40の両キャリパ支持部41,42にロータ軸方向へスライド可能に支持されている。
【0018】
キャリパ10は、図3に示したように、インナーパッド51をディスクロータ60に向けて押動可能なピストン71をロータ軸方向へ移動可能に支持するシリンダ部13と、アウターパッド52をディスクロータ60に向けて押動可能なリアクション部14とを有するとともに、これらを連結するブリッジ部15を有していて、ディスクロータ60の一部を跨ぐ形状に形成されている。キャリパ10のシリンダ部13とピストン71間には、ピストンシール72とダストブーツ73が設けられている。
【0019】
ピストンシール72は、シリンダ部13のシリンダ内孔13aに組付けられて内周部にてピストン71の外周に係合しており、ピストン71とによってピストンリトラクション機構を構成している。ピストンリトラクション機構は、ピストンシール72における内周部の弾性復帰作用によって、制動解除時にピストン71をシリンダ部13に対してインナー側に向けて所定量戻す機能(リトラクト機能)を有している。ダストブーツ73は、内周端部にてピストン71の外周に組付けられ、外周端部にてシリンダ部13のシリンダ内孔13aの開口側取付部13bに組付けられていて、ピストン71の摺動部を被覆保護している。
【0020】
一方のピンスライド手段20は、図2に示したように、ロータ軸方向に延びてマウンティング40のキャリパ支持部41に設けたスライド孔41aにロータ軸方向へ摺動可能に挿通される支持ピン21と、キャリパ10のアーム部11に設けた取付孔11aに挿通されて支持ピン21をキャリパ10のアーム部11に一体的に連結するピンボルト22と、支持ピン21のスライド孔41aから突出する部分の外周に装着されて支持ピン21の摺動部を被覆保護する筒状のピンブーツ23を備えるとともに、支持ピン21の先端部に組付けたブッシュ24を備えている。
【0021】
他方のピンスライド手段30は、図2に示したように、ロータ軸方向に延びてマウンティング40のキャリパ支持部42に設けたスライド孔42aにロータ軸方向へ摺動可能に挿通される支持ピン31と、キャリパ10のアーム部12に設けた取付孔12aに挿通されて支持ピン31をキャリパ10のアーム部12に一体的に連結するピンボルト32と、支持ピン31のスライド孔42aから突出する部分の外周に装着されて支持ピン31の摺動部を被覆保護する筒状のピンブーツ33を備えている。
【0022】
各ピンブーツ23,33は、同一形状に形成されていて、支持ピン21,31の外周に被嵌されるピン側環状シール部23a,33aと、スライド孔41a,42aの開口端部に設けた環状収容溝(図4の符号41b参照)内に嵌着されるスライド孔側環状シール部23b,33bと、これら両環状シール部を連結する伸縮自在の筒状ベロー部23c,33cを一体的に有している。各スライド孔側環状シール部23b,33bは、ピンブーツ23側を例として図4に示したように、外周部分23b1にて環状収容溝41bの底壁面41b1に圧接しかつ内周部分23b2にて支持ピン21の外周面21aと接合している。
【0023】
マウンティング40は、上記したキャリパ支持部41,42を有するとともに、ディスクロータ60のインナー側にパッド支持部43と取付部44を有し、ディスクロータ60のアウター側にパッド支持部45を有していて、ディスクロータ60の一部を跨ぐ形状に形成されている。なお、取付部44には、ボルト挿通孔(図示省略)が形成されていて、これらに挿通されるボルト(図示省略)によってマウンティング40が車体の一部に組付けられるようになっている。
【0024】
ところで、この実施形態においては、ピンブーツ23側を例として図4および図5に示したように、ピンブーツ23のスライド孔側環状シール部23bにおける外周部分23b1に、環状収容溝41bの底壁面41b1に圧接する一対の環状外周シール面23b1a,23b1bが形成されるとともに、環状収容溝41bの両側壁面41b2,41b3に弾性的に係合してスライド孔側環状シール部23bの環状収容溝41b内でのロータ軸方向移動を弾性的に規制する弾性規制部としての第1突起23b1cと第2突起23b1dが形成されている。
【0025】
環状外周シール面23b1a,23b1bは、外周部分23b1のロータ軸方向中間部位に環状凹部23b1eを形成することによりロータ軸方向にて二分されている。環状凹部23b1eは、環状収容溝41bの底壁面41b1に向けて開口している。第1突起23b1cは、外周部分23b1のベロー部側端面のロータ径方向中間部分からロータ軸方向に突出していて、環状に形成されており、環状収容溝41bのベロー部側の側壁面41b2に先端にて弾性的に係合し圧接している。第2突起23b1dは、外周部分23b1の反ベロー部側端面のロータ径方向中間部分からロータ軸方向に突出していて、環状に形成されており、環状収容溝41bの反ベロー部側の側壁面41b3に先端にて弾性的に係合し圧接している。なお、第2突起23b1dは環状に形成されていなくてもよい。
【0026】
また、この実施形態においては、ピンブーツ23のスライド孔側環状シール部23bにおける内周部分23b2に、支持ピン21の外周面21aに向けて開口する内周環状溝23b2aがロータ軸方向の中間部に形成されるとともに、この内周環状溝23b2aのロータ軸方向両側に環状第1リップ部23b2bと環状第2リップ部23b2cが形成されている。環状第1リップ部23b2bは、内周環状溝23b2aのベロー部側に形成されていて、支持ピン21の外周面21aに対してロータ軸方向に移動可能に摺接している。環状第2リップ部23b2cは、内周環状溝23b2aの反ベロー部側に形成されていて、支持ピン21の外周面21aに対してロータ軸方向に弾性変形可能に係合してリトラクト機能(弾性復帰作用によって制動解除時に支持ピン21を引き戻す機能)を有している。
【0027】
また、この実施形態においては、環状収容溝41bの反ベロー部側にてスライド孔41aの環状収容溝側端部が、スライド孔側を小径とし環状収容溝側を大径とするテーパー形状に形成されている(図4参照)。また、内周環状溝23b2aのベロー部側が、図4および図5に示したように、ベロー部側を小径とし反ベロー部側を大径とするテーパー形状に形成されている。
【0028】
上記のように構成したこのディスクブレーキAにおいては、制動時に、インナーパッド51がピストン71によってディスクロータ60に向けて押動・押圧され、アウターパッド52がキャリパ10のリアクション部14によってディスクロータ60に向けて押動・押圧されて、インナーパッド51とアウターパッド52がディスクロータ60に摺接して制動する。また、制動解除時に、キャリパ10とピストン71がピンブーツ23,33にて得られるリトラクト機能とピストンシール72にて得られるリトラクト機能によって戻されて、制動が解除される。
【0029】
ところで、このディスクブレーキAにおいては、ピンブーツ23,33のスライド孔側環状シール部(23b)における外周部分(23b1)に上記した弾性規制部(第1突起23b1cと第2突起23b1d)が形成されている。このため、スライド孔側環状シール部(23b)の環状収容溝(41b)内でのロータ軸方向移動を弾性的に規制することが可能である。したがって、スライド孔側環状シール部(23b)が環状収容溝(41b)内をロータ軸方向に移動することに起因する上記したリトラクト機能(環状第2リップ部23b2cによって得られるリトラクト機能)の低下を抑制することが可能である。
【0030】
また、このディスクブレーキAにおいては、ピンブーツ23,33のリトラクト機能を有する環状第2リップ部(23b2c)が内周環状溝(23b2a)の反ベロー部側に形成されていて、制動に伴う支持ピン21,31のスライド孔41a,42aに対する移動時に、環状第2リップ部(23b2c)がスライド孔41a,42a外に移動することはなくてスライド孔41a,42aの内周壁による外周からの拘束(緊縛)を解かれることはない。このため、環状第2リップ部(23b2c)の支持ピン21,31に対する係合力(保持力)は維持されて、ピンブーツ23,33において所期のリトラクト機能が得られる。
【0031】
また、このディスクブレーキAにおいては、上記した弾性規制部が、外周部分(23b1)のベロー部側端面のロータ径方向中間部分からロータ軸方向に突出して環状収容溝のベロー部側の側壁面(41b2)に弾性的に係合する第1突起(23b1c)と、外周部分(23b1)の反ベロー部側端面のロータ径方向中間部分からロータ軸方向に突出して環状収容溝の反ベロー部側の側壁面(41b3)に弾性的に係合する第2突起(23b1d)を備えている。このため、前記外周部分のベロー部側端面の全体と反ベロー部側端面の全体にそれぞれ突部を設けた場合に比して、環状収容溝(41b)内に組付を容易とするスペースを十分に確保することが可能であって、スライド孔側環状シール部(23b)の環状収容溝(41b)内への良好な組付性と、上記したリトラクト機能の低下抑制の両立を図ることが可能である。
【0032】
また、このディスクブレーキAにおいては、第1突起(ベロー部側の突起23b1c)が、環状に形成されていて、先端にて環状収容溝のベロー部側の側壁面(41b2)に圧接しているため、第1突起(23b1c)が環状収容溝のベロー部側の側壁面(41b2)に圧接することによってもシール性(スライド孔41a,42a内への水や塵埃の侵入防止)が得られて、シール性の向上を図ることが可能である。
【0033】
また、このディスクブレーキAにおいては、ピンブーツ23,33における外周部分(23b1)のロータ軸方向中間部位に、環状収容溝の底壁面(41b1)に向けて開口し環状外周シール面(23b1a,23b1b)のように二分する環状凹部(23b1e)が形成されている。このため、環状外周シール面(23b1a,23b1b)の環状収容溝の底壁面(41b1)に対する面圧を容易に高めることができるとともに、ピンブーツ23,33の外周に沿ってスライド孔41a,42aに向けて仮に水や塵埃が侵入することがあってもその水や塵埃を環状凹部(23b1e)内に貯めることができて、シール性を向上させることが可能である。
【0034】
また、このディスクブレーキAにおいては、環状収容溝(41b)の反ベロー部側にてスライド孔41a,42aの環状収容溝側端部が、スライド孔側を小径とし環状収容溝側を大径とするテーパー形状に形成され、内周環状溝(23b2a)のベロー部側が、ベロー部側を小径とし反ベロー部側を大径とするテーパー形状に形成されている。このため、ピンブーツ23,33のスライド孔側環状シール部23b,33bが、支持ピン21,31とキャリパ支持部41,42間に組付けられることで、図6に示したように、仮想線にて示した状態から実線で示した状態に弾性変形するものの、ピンブーツ23,33においてリトラクト機能を有する環状第2リップ部(23b2c)のロータ軸方向両側に環状第2リップ部(23b2c)の撓みを許容するスペースを十分に確保することができて、上記した環状第2リップ部(23b2c)によるリトラクト機能の向上を図ることが可能である。
【0035】
上記した実施態様においては、環状凹部23b1eによって二分されて環状第1リップ部23b2bの外径側に位置する環状外周(第1)シール面23b1aの自由状態での外径と、環状凹部23b1eによって二分されて環状第2リップ部23b2cの外径側に位置する環状外周(第2)シール面23b1bの自由状態での外径が同径とされるとともに、前記環状第1リップ部の自由状態での内径と、前記環状第2リップ部の自由状態での内径が同径とされているが、図7に示した実施形態のように構成して実施することも可能である。
【0036】
図7に示した実施形態では、環状凹部23b1eによって二分されて環状第1リップ部23b2bの外径側に位置する環状外周(第1)シール面23b1aの自由状態での外径D1が、環状凹部23b1eによって二分されて環状第2リップ部23b2cの外径側に位置する環状外周(第2)シール面23b1bの自由状態での外径D2に比して小さくされ、環状第1リップ部23b2bの自由状態での内径と、環状第2リップ部23b2cの自由状態での内径が同径Doとされている。
【0037】
したがって、ピンブーツ23のスライド孔側環状シール部23bを環状収容溝41b内に嵌着したときの、環状第1リップ部23b2bによる支持ピン21の緊迫力(保持力)を、環状第2リップ部23b2cによる支持ピン21の緊迫力(保持力)に比して小さくすることができる。このため、環状第1リップ部23b2bと支持ピン21との摺動抵抗を、環状第2リップ部23b2cと支持ピン21との摺動抵抗に比して、小さくすることができて、環状第2リップ部23b2cにて上記したリトラクト機能を十分に発揮させることが可能である。
【0038】
また、図7に示した実施形態では、環状外周(第1)シール面23b1aの軸方向長さW1が、環状外周(第2)シール面23b1bの軸方向長さW2に比して小さくされている。このため、環状第1リップ部23b2bによる支持ピン21の緊迫力(保持力)を下げつつ、環状外周(第1)シール面23b1aの環状収容溝41bにおける底壁面41b1に対する面圧を維持すること(環状外周(第2)シール面23b1bの環状収容溝41bにおける底壁面41b1に対する面圧と同等とすること)が可能であり、上記した効果を得つつ、環状外周(第1)シール面23b1aによる防水性も維持することが可能である。
【0039】
また、上記した実施態様においては、環状第1リップ部23b2bの支持ピン21との摺動面(内周面)の面粗度(面粗さ)と、環状第2リップ部23b2cの支持ピン21との摺動面(内周面)の面粗度(面粗さ)が同じとなるように構成して実施したが、図8に示した実施形態のように構成して実施することも可能である。図8に示した実施形態では、環状第1リップ部23b2bの支持ピン21との摺動面(内周面)の面粗度(面粗さ)が、環状第2リップ部23b2cの支持ピン21との摺動面(内周面)の面粗度(面粗さ)に比して、大きくされている。
【0040】
これにより、ピンブーツ23のスライド孔側環状シール部23bと支持ピン21との間にグリース(図示省略)が介在する場合において、環状第1リップ部23b2bの支持ピン21との摺動面に収容される単位面積当たりのグリース量を、環状第2リップ部23b2cの支持ピン21との摺動面に収容される単位面積当たりのグリース量に比して、多くすることが可能である。このため、環状第1リップ部23b2bの支持ピン21との摺動抵抗を、環状第2リップ部23b2cの支持ピン21との摺動抵抗に比して、小さくすることができて、環状第2リップ部23b2cにて上記したリトラクト機能を十分に発揮させることが可能である。
【0041】
また、上記した各実施態様においては、各ピンスライド手段20,30が、キャリパ10に一体的に組付けられてロータ軸方向に延びる支持ピン21,31と、マウンティング40に設けられて支持ピン21,31がロータ軸方向へ摺動可能に挿通されるスライド孔41a,42aとを備えるディスクブレーキAに本発明を実施したが、各ピンスライド手段が、マウンティングに一体的に組付けられてロータ軸方向に延びる支持ピンと、キャリパに設けられて支持ピンがロータ軸方向へ摺動可能に挿通されるスライド孔とを備えるディスクブレーキにも本発明は同様に実施することが可能である。
【符号の説明】
【0042】
10…キャリパ、11,12…アーム部、13…シリンダ部、14…リアクション部、15…ブリッジ部、20,30…ピンスライド手段、21,31…支持ピン、21a…支持ピンの外周面、23,33…ピンブーツ、23a,33a…ピン側環状シール部、23b,33b…スライド孔側環状シール部、23c,33c…筒状ベロー部、23b1…外周部分、23b1a,23b1b…環状外周シール面、23b1c…第1突起、23b1d…第2突起、23b1e…環状凹部、23b2…内周部分、23b2a…内周環状溝、23b2b…環状第1リップ部、23b2c…環状第2リップ部、40…マウンティング、41,42…キャリパ支持部、41a,42a…スライド孔、41b…環状収容溝、41b1…環状収容溝における底壁面、41b2…環状収容溝におけるベロー部側の側壁面、41b3…環状収容溝における反ベロー部側の側壁面、43,45…パッド支持部、51…インナーパッド、52…アウターパッド、60…ディスクロータ、71…ピストン、A…ピンスライド式浮動型ディスクブレーキ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に組付けられるマウンティングおよびこのマウンティングに対してロータ軸方向に移動可能に組付けられるキャリパのうち、何れか一方にロータ軸方向に延びるスライド孔が設けられるとともに、他方にロータ軸方向に延びて前記スライド孔に摺動可能に挿通される支持ピンが設けられていて、前記支持ピンの前記スライド孔から突出する部分が筒状のピンブーツによって被覆されており、このピンブーツが、前記支持ピンの外周に被嵌されるピン側環状シール部と、前記スライド孔の開口端部に設けた環状収容溝内に嵌着されて外周部分にて同環状収容溝の底壁面に圧接しかつ内周部分にて前記支持ピンの外周面と接合するスライド孔側環状シール部と、これら両環状シール部を連結する伸縮自在の筒状ベロー部を一体的に有しているピンスライド式浮動型ディスクブレーキにおいて、
前記ピンブーツの前記スライド孔側環状シール部における前記外周部分には、前記環状収容溝の底壁面に圧接する環状外周シール面が形成されるとともに、前記環状収容溝の両側壁面に弾性的に係合して前記スライド孔側環状シール部の前記環状収容溝内でのロータ軸方向移動を弾性的に規制する弾性規制部が形成され、
前記ピンブーツの前記スライド孔側環状シール部における前記内周部分には、前記支持ピンの外周面に向けて開口する内周環状溝がロータ軸方向の中間部に形成されるとともに、前記支持ピンの外周面とロータ軸方向に移動可能に摺接する環状第1リップ部が前記内周環状溝のベロー部側に形成され、前記支持ピンの外周面に対してロータ軸方向に弾性変形可能に係合してリトラクト機能を有する環状第2リップ部が前記内周環状溝の反ベロー部側に形成されていることを特徴とするピンスライド式浮動型ディスクブレーキ。
【請求項2】
請求項1に記載のピンスライド式浮動型ディスクブレーキにおいて、
前記弾性規制部は、前記外周部分のベロー部側端面のロータ径方向中間部分からロータ軸方向に突出して前記環状収容溝のベロー部側の側壁面に弾性的に係合する第1突起と、前記外周部分の反ベロー部側端面のロータ径方向中間部分からロータ軸方向に突出して前記環状収容溝の反ベロー部側の側壁面に弾性的に係合する第2突起を備えていることを特徴とするピンスライド式浮動型ディスクブレーキ。
【請求項3】
請求項2に記載のピンスライド式浮動型ディスクブレーキにおいて、
前記第1突起は、環状に形成されていて、先端にて前記環状収容溝のベロー部側の側壁面に圧接していることを特徴とするピンスライド式浮動型ディスクブレーキ。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載のピンスライド式浮動型ディスクブレーキにおいて、
前記外周部分のロータ軸方向中間部位には、前記環状収容溝の底壁面に向けて開口し前記環状外周シール面を二分する環状凹部が形成されていることを特徴とするピンスライド式浮動型ディスクブレーキ。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載のピンスライド式浮動型ディスクブレーキにおいて、
前記環状収容溝の反ベロー部側にて前記スライド孔の環状収容溝側端部は、スライド孔側を小径とし環状収容溝側を大径とするテーパー形状に形成され、前記内周環状溝のベロー部側は、ベロー部側を小径とし反ベロー部側を大径とするテーパー形状に形成されていることを特徴とするピンスライド式浮動型ディスクブレーキ。
【請求項6】
請求項4に記載のピンスライド式浮動型ディスクブレーキにおいて、
前記環状凹部によって二分されて前記環状第1リップ部の外径側に位置する環状外周第1シール面の自由状態での外径が、前記環状凹部によって二分されて前記環状第2リップ部の外径側に位置する環状外周第2シール面の自由状態での外径に比して小さくされ、前記環状第1リップ部の自由状態での内径と前記環状第2リップ部の自由状態での内径が同径とされていることを特徴とするピンスライド式浮動型ディスクブレーキ。
【請求項7】
請求項6に記載のピンスライド式浮動型ディスクブレーキにおいて、
前記環状外周第1シール面の軸方向長さが、前記環状外周第2シール面の軸方向長さに比して小さくされていることを特徴とするピンスライド式浮動型ディスクブレーキ。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項に記載のピンスライド式浮動型ディスクブレーキにおいて、
前記ピンブーツの前記スライド孔側環状シール部と前記支持ピンとの間にグリースが介在していて、前記環状第1リップ部の前記支持ピンとの摺動面の面粗度が、前記環状第2リップ部の前記支持ピンとの摺動面の面粗度に比して、大きくされていることを特徴とするピンスライド式浮動型ディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−107740(P2012−107740A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56786(P2011−56786)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】