説明

ピンチロールの速度制御装置及び速度制御システム

【課題】ピンチロールの速度制御において、操業中にピンチロールモータの速度制御系の不安定化によるハンチングを抑制することを目的とする。
【解決手段】ピンチロールの速度目標値と張力バランス目標値とを入力信号とし、第1のPI制御器を用いてピンチロールの補正速度目標値を出力する主幹制御部と、該補正速度目標値とピンチロールの速度実績値との第1の差分値を求め、該差分値を入力として第2のPI制御器によりピンチロールモータを駆動する電流指令値を求めるドライブ部とを具備し、主幹制御部は、張力バランス目標値と電流指令値との第2の差分値を求め、該第2の差分値を第1のPI制御器に入力し、その出力をローパスフィルタに入力し、該ローパスフィルタの出力と速度目標値とから補正速度目標値を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板を通板するピンチロールモータのディジタル信号処理による速度制御技術において、制御信号の遅れを考慮した速度制御装置、及び内蔵するフィルタの時定数を調整する速度制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、鉄鋼製造プロセスのような金属材料の製造プロセスにおいて、熱間連続圧延プロセスの張力制御等に代表されるアクチュエータを制御するときに、負帰還ループを用いた、所謂フィードバック制御を用いることが多い。熱間連続圧延プロセスの張力制御装置等のフィードバック制御においては、実際のアクチュエータ(制御対象)の動作状態を、回転速度検出器等の検出器で検出し、その検出値(以下、検出信号ともいう)と目標値との偏差を取り除くような指令を出力することによって、アクチュエータの制御を行う。
【0003】
例えば、鋼板のような金属板を、熱間連続圧延プロセスにおいてコイル状に巻き取る装置では、後からも説明するが、仕上スタンドの下流側に捲取機が設置されており、この捲取機で金属板をコイル状に巻き取る。仕上スタンドと捲取機の間にピンチロールが配置されており、ピンチロールは、仕上スタンドを抜けた金属板を押さえ込むことにより、ピンチロールと捲取機間に張力を付与することで、金属板のバタツキを抑える役割を持っている。
【0004】
上記のフィードバック制御を実際の金属板の製造プロセスへ実装するにあたり、制御対象である金属板の動作状態を検出する検出器の応答速度、当該検出器から入力された検出信号に基づく計算機での信号の処理時間、及び検出信号の伝送系の遅れに起因する、検出信号の時間遅れが問題となる。この検出信号の時間遅れは制御系の一巡伝達関数の位相遅れとなり、制御系が不安定となることがある。そのため、制御系を安定化させるために位相余裕を持たせることを目的として、ローパスフィルタを導入することが従来から行われている。
【0005】
上記した検出信号の遅れによる制御系が不安定化したとき、ピンチロールの回転速度(ピンチロール速度)が速度目標値に追従せず、さらにピンチロール速度(回転速度)が振動するハンチング現象(すなわち振動的に変動する現象)が発生することがあった。これにより、例えば鋼板を押さえ込んだピンチロールがハンチングするために鋼板に縞模様の跡が付き、製品品質が劣化する問題があった。
【0006】
ところで、近年のディジタル制御法の発展により、アクチュエータの制御方法は従来のアナログ制御からディジタル制御への移行が急速に進んでおり、離散化された検出信号をディジタル信号処理してディジタル制御することが一般的となってきている。例えば鋼板の熱間連続圧延プロセスの張力制御に用いられているディジタル制御装置では、プログラマブル ロジックコントローラ(Progra mable Logic Controller、以下ではPLCと記す)を用いて構成されて、ディジタル信号処理によりディジタル制御することが多い。PLCの制御周期は例えば20〜50msec(制御周波数で表すと50Hz〜20Hz)である。なお、PLCで可能な計算速度や計算規模は、通常FA用コンピュータと比べてかなり遅く、且つ小さい。
【0007】
特許文献1には、鋼板をコイル状に巻き取るダウンコイラーのラッパーロールの押付力制御系に、共振振動数付近のゲインを大きくしたバンドパスフィルタを設け、巻き取り過程にある鋼板からの外乱による押付力制御での共振振動を防止するラッパーロール制御装置が開示されている。
【0008】
また、特許文献2には、圧延機のワークロール、バックアップロ−ル、あるいは、連続鋳造でモ−ルドから引抜かれた鋳片を挟圧ガイドし搬送するロ−ル等として用いるピンチロールについて、当該ピンチロールのトルク信号を用いた振動解析や、解析結果からの異常判定機能、判定結果の表示、異常判定データの保存機能等の機能を持ったピンチロール駆動異常監視装置の発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−21512号公報
【特許文献2】特開平7−24560号公報
【特許文献3】特許第4383476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載のラッパーロール制御装置では、共振振動を抑制するバンドパスフィルタが設けられているが、リアルタイムにバンドパスフィルタの共振振動周波数付近のゲインを変更することはできなかった。
【0011】
また、特許文献2に記載のピンチロール駆動異常監視装置では、ピンチロールのトルク信号から異常を判定、異常データの保存を実施しているが、振動解析等のデータ処理のための演算負荷が大きく、ほぼリアルタイムに高速に異常状態の回復を行うことが難しいという問題があった。
【0012】
以上の従来技術の問題に鑑みて、本発明は、鋼板等の金属板を、熱間連続圧延プロセス等において通板する装置等におけるピンチロールの速度制御において、速度制御系の位相余裕を改善し、操業中にピンチロールモータの速度制御系の不安定化によるハンチングを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のピンチロールの速度制御装置は、金属板を被圧延材とし、仕上スタンドと捲取機との間に金属板を挟んで張力を付与しながら通板する一対のロールからなるピンチロールを備えた連続圧延機において、ディジタル制御により前記ピンチロールを駆動するピンチロールの速度制御装置であって、予め設定された前記ピンチロールの速度目標値Vrefと張力バランス目標値Trefとを入力信号とし、第1のPI制御器を用いて前記ピンチロールの補正速度目標値Vref’を出力する主幹制御部と、前記主幹制御部から入力された補正速度目標値Vref’と前記ピンチロールの速度実績値Vとの第1の差分値を求め、該差分値を入力として第2のPI制御器によりピンチロールモータを駆動する電流指令値Iを求めて、前記ピンチロールモータを駆動するドライブ部とを具備し、
前記主幹制御部は、前記ピンチロールの速度目標値の補正量を演算する第1のPI制御器の遅れに対するローパスフィルタを有し、前記張力バランス目標値Trefと、前記ドライブ部から入力された電流指令値Iとの第2の差分値を求め、該第2の差分値を前記第1のPI制御器に入力し、その出力を前記ローパスフィルタに入力し、該ローパスフィルタの出力と前記速度目標値Vrefとを加算器で加えて前記補正速度目標値Vref’を出力することを特徴とする。
本発明のピンチロールの速度制御システムは、上記本発明のピンチロールの速度制御装置と、前記ピンチロールの速度制御装置の制御周期に同期して、前記ピンチロールモータを駆動する電流指令値Iもしくはピンチロールの駆動電流の実績値、前記補正速度目標値Vref’、又は前記ピンチロールモータの速度実績値Vの内のいずれかを含む操業実績データを入力信号とし、該入力信号の周波数解析により周波数成分のピークを求め、予め設定した閾値と比較してピンチロール速度に顕著な振動が発生していることを検知し、その振動周波数を求めて前記ピンチロールモータの速度制御装置のローパスフィルタの時定数Tを出力する振動検知装置とを備え、前記ローパスフィルタの時定数をピンチロール速度に振動周波数に基づき変更することで、ピンチロールの振動を抑制することを特徴とする。
また、本発明のピンチロールの速度制御システムの他の特徴とするところは、前記ピンチロールの速度制御装置はPLCで構成され、前記振動検知装置はパーソナルコンピュータで構成される点にある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、速度制御器(PI制御器)部にローパスフィルタを導入することで速度制御系の位相余裕を改善し、速度制御系の不安定化を改善することが可能となる。また、リアルタイムにピンチロールモータの電流実績や速度指令等のデータをパーソナルコンピュータに取り込み、周波数解析等を実施することで、ピンチロールのハンチングを検知し、その際にはローパスフィルタの時定数をリアルタイムに変更することで、操業中にピンチロールモータの速度制御系の不安定化によるハンチングを抑制することができる
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1の実施形態のピンチロールの速度制御装置の構成を示す図である。
【図2】第2の実施形態のピンチロールモータの速度制御装置の構成を示す図である。
【図3】鋼板の熱間連続圧延プロセスのけるピンチロールを含む巻き取り装置の一例を示す図である。
【図4】本発明適用前と適用後の、シミュレーションによるBode線図である。
【図5】実際の熱間圧延プロセスのピンチロールにおける、本発明適用前の速度実績値と速度目標値を示す特性図である。
【図6】実際の熱間圧延プロセスのピンチロールにおける、本発明適用後の速度実績値と速度目標値を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
金属板の一例である鋼板の熱間連続圧延プロセスにおける、被圧延材である鋼板をコイル状に巻き取る装置を例として、本発明のピンチロールの速度制御装置及び速度制御システムの実施の形態を説明する。図3に鋼板の巻き取り装置の概略構成を示す。熱間連続圧延機の仕上スタンド100、110の下流側に捲取機140が設置されており、この捲取機140で鋼板130をコイル状に巻き取る。仕上スタンド100、110と捲取機140との間に、一対のロールからなるピンチロール120が配置されており、仕上スタンド100、110から出てきた鋼板130を鋼板面の両側から挟んで押さえ込むことにより、ピンチロール120と捲取機140との間に張力を付与することで、鋼板130のバタツキを抑える役割を持っている。
【0017】
<第1の実施形態>
本発明の第1の実施形態のピンチロールの速度制御装置の構成を図1を用いて説明する。本実施形態のピンチロールの速度制御装置は、主幹制御部30とドライブ部31とで構成される。
【0018】
主幹制御部30において、3は第1のPI制御器、4はフィルタ、5は減算器、6は加算器である。第1のPI制御器3への入力信号は、後記するドライブ部31の電流指令値I、並びに設定入力である速度目標値Vref及び張力バランス目標値Trefである。また、主幹制御部30はドライブ部31へ補正速度目標値Vref’を信号処理の結果として出力する。
【0019】
ドライブ部31において、2は第2のPI制御器のPゲイン、8は第2のPI制御器のIゲイン、7は減算器である。第2のPI制御器2、8で演算した電流指令値Iの駆動電流をピンチロールモータ(図3の150)へ入力し、そのピンチロールモータの速度を速度検出器(図3の160)で検出した後に、速度実績値Vを減算器7へフィードバックする。なお、図1において検出器は黒丸●で示した。
【0020】
主幹制御部30の第1のPI制御器3は、通常は比例制御と積分制御とで構成される制御器である。このPI制御器3の入力信号は、予めオペレータ等により設定された張力バランス目標値Trefとドライブ部31から入力される電流指令値Iとの差分値を減算器5で演算した結果である。第1のPI制御器3の出力信号はフィルタ4へ入力される。
【0021】
フィルタ4はローパスフィルタであり、機能を数式で表すと1/(Ts+1)となる。ただし、Tは時定数、sはラプラス変換の変数sである。このフィルタ4は、ピンチロールモータ150の速度制御系の位相余裕を増加させるために用いられる。なお、時定数Tは後で説明するような方法で決定することができる。第1のPI制御器3から入力された信号はフィルタ4を経て、予めオペレータ等により設定された速度目標値Vrefと加算器6で加算されて補正速度目標値Vref’となる。
【0022】
ドライブ部31の第2のPI制御器2、8は、比例要素2(Ksc)と積分要素8[(Tsc+1)/Tsc]とからなる。その入力信号は、主幹制御部30の出力信号である補正速度目標値Vref’である。第2のPI制御器2、8の出力は電流指令値Iの、ピンチロールモータ150の駆動電流ある。第2のPI制御器2、8から出力された駆動電流の値(電流指令値I)は電流検出器により検出するようにしても良い(すなわち実績値)。又は、第2のPI制御器2、8の電流指令値Iの演算結果を主幹制御部30に入力しても良い。
【0023】
モデル式G(s)1は、制御対象であるピンチロール系(ピンチロール+モータ)のモデル式であり、ピンチロールモータと軸とロールからなる物理系の機能を表現した通常は一次の伝達関数である。
【0024】
上記の速度目標値Vrefと張力バランス目標値Trefとは、主幹制御部30の上位からの指令(オペレータ等の設定に基づく)により、圧延前にセットアップしておく。これらの目標値は、通板する鋼板の鋼種、板厚、及び板幅に基づいて設定される。
【0025】
次に、上記の各部分により構成されるピンチロールの速度制御装置における信号処理のフロー(方法)について説明する。ピンチロールモータ150への駆動電流の値である電流指令値Iと張力バランス目標値Trefとの差分値を減算器5で演算し、その演算結果を第1のPI制御器3に入力してピンチロール速度の補正量を演算し、このピンチロール速度の補正量の信号の高周波数成分をフィルタ4でカットした演算結果と速度目標値Vrefとを加算器6で演算して補正速度目標値Vref’を得る処理を主幹制御部30で行う。なお、上記の電流指令値Iと張力バランス目標値Trefとは、そのままではディメンジョンが異なっているので、例えば電流指令値Iを張力バランスに量的に相当・対応するべく変換処理して用いる。当該処理は以下の信号処理でも実施する。
【0026】
ドライブ部31では、その補正速度目標値Vref’とピンチロールの回転速度である速度実績値Vとの差分を減算器5により演算し、この差分を第2のPI制御器2、8でピンチロールモータ150への電流指令値Iをドライブ部31で演算して、ピンチロールモータ150の駆動電流を出力する。
【0027】
本実施形態のピンチロールの速度制御装置では、主幹制御部30とドライブ部31とにより上記のように信号処理することで、ピンチロール速度を安定に制御する。フィルタ4を導入することでピンチロールモータの速度制御系の位相余裕を増加させることにより、速度制御系を安定化し、ハンチングを抑制する。
【0028】
なお、主幹制御部30及びドライブ部31は、例えばPLC又はパーソナルコンピュータにより構成することができる。このパーソナルコンピュータは表示用のディスプレイ、入力用のキーボード、マウス、さらにその他I/O用のボード等を具備させると良い。また、ドライブ部31はさらにパワーアンプ、又はそれに代わるパソコン用ボードを用いて構成しても良い。そして、上記の制御のための信号処理を実行するためのPLCの制御プログラム又はコンピュータプログラムを作成してロードしておく。
【0029】
特に、ピンチロールの速度制御には、リアルタイムで安定した制御をするためにPLCで構成すると良い。しかしながら、PLCで可能な計算速度や計算規模は、通常はパーソナルコンピュータと比べて大幅劣っている。なお、ピンチロールの速度制御装置の制御周期は、数十msec程度以上とすることが多い。
【0030】
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態のピンチロールの速度制御装置の構成を図2を用いて説明する。本実施形態では、第1の実施形態で説明したピンチロールの制御装置に例えばLANボードを付加して、主幹制御部30を上記制御基幹ネットワーク60にLANケーブル40を用いて接続する。
【0031】
また、パーソナルコンピュータ80を制御基幹ネットワーク60に接続する。制御基幹ネットワーク60には熱間連続圧延プロセスの操業状態を検出・監視する各種のセンサと検出器が接続しておく。こうして、ネットワークを介して操業中のピンチロールモータの電流指令値または駆動電流実績値や速度実績値等の操業実績データをパーソナルコンピュータ80にリアルタイムに取り込むことが可能となる。
【0032】
この取り込んだ操業実績データを用いて、パーソナルコンピュータ80で周波数解析を実施する。その手順は、ピンチロールモータの電流指令値又は駆動電流実績値や速度実績値等の操業実績データを入力データとして、例えばFFT(高速フーリエ変換)して周波数成分を求める。また、補正速度目標値を用いても良い。次に、横軸に周波数をとりグラフ化したときのピーク値(振動ピークと記す)とそのときの周波数(ピーク周波数と記す)とを演算により導出することで、顕著であるピンチロールのハンチングによる振動周波数を把握することができ、その振動周波数の信号成分を遮断又は充分抑圧するように、フィルタ4の時定数Tを決定する。
【0033】
パーソナルコンピュータ80による高速演算により操業中に略リアルタイムに、そのフィルタ4の時定数Tを決定して変更することで、ピンチロールのハンチングを抑制することが可能となる。なお、当然であるが、フィルタ4の時定数Tは可変としておく。すなわち、遮断周波数を可変としておく。
【0034】
上記の例では制御基幹ネットワーク60を用いたが、代わりにパーソナルコンピュータ80、ピンチロールの制御装置、及びセンサ・検出器の間を専用の信号ケーブルで接続するようしても良い。また、パーソナルコンピュータ80にインストールした、例えば市販の汎用のFFT等の周波数解析ソフトを用いて、取り込んだ操業実績データを周波数解析することや、パーソナルコンピュータ内にモデルを構築し、そのモデルの入力として操業実績データを使用し、操業中に並列してシミュレーションを実行しても良い。また、操業実績データを用いて、センサ等では測定することのできないパラメータや、モータ速度制御系に加わる外乱等を同定することも可能となる。
【0035】
パーソナルコンピュータ内に取り込んだ操業実績データを周波数解析することで、振動ピークを検出し、上記のピーク値とあらかじめ設定した閾値とを比較して、ハンチングが発生しているかどうかを判定する。ハンチングが発生した際には、第1の実施形態で説明した速度制御系に導入したローパスフィルタ4の時定数を、上記ピーク周波数を基づいてピーク周波数の信号成分を十分減衰して抑圧するように、また、ピーク周波数を含む高周波数領域における位相余裕を十分確保するように設定して、リアルタイムに変更する。パーソナルコンピュータ80で導出した時定数Tは、制御基幹ネットワーク60を介して、ピンチロールの制御装置の主幹制御部30に伝送して、フィルタ4の時定数Tを変更することにより、リアルタイムに変更することが可能となる。上記の顕著な振動の発生を検出してフィルタの時定数を決定する、コンピュータで構成した装置を振動検知装置と本願発明では呼ぶことにする。
【0036】
ここで、振動検知装置をパーソナルコンピュータで構成する理由を説明する。第1の実施形態でおいて説明したように、PLC等によるディジタル制御による速度制御は、例えば50msecの制御周期でピンチロールの電流指令値Iを計算して、ピンチロールのモータへの駆動電流を設定してドライブする。そこで、上記の振動の発生を検知する周波数解析等の一連のデータ処理は、PLCの制御周期に同期して短時間に実行して完了させる必要がある。望ましくは1つの制御周期の時間内で実行させる。そこで、PLCと比べて、大規模且つ高速演算が可能なパーソナルコンピュータで振動検知装置を構成するのが好ましい。なお、パーソナルコンピュータとしては汎用のパーソナルコンピュータでも良いが、FA用のパーソナルコンピュータの方が動作の安定性の点から望ましい。
【0037】
なお、PLCとパーソナルコンピュータとの組み合わせを用いたプラント制御システムを構成する技術は特許文献3に記載されている。
【0038】
こうして、操業中にリアルタイムにローパスフィルタの時定数を変更することができ、操業状態に合わせた時定数を用いることで、精度良くピンチロールモータの速度制御を実施することが可能となる。
【実施例】
【0039】
図1に示したブロック図からなるピンチロールの速度制御装置をパーソナルコンピュータを用いて、制御解析ソフトを作成して構築した。鋼板の熱間連続圧延プロセスにおける仕上げ圧延機と巻取り機の間のピンチロールを想定して、当該ピンチロールの制御装置の動作をシミュレーションにより検証した。また、制御対象(ピンチロール+モータ)G(s)1は一次の関数で表現し、フィルタ4はローパスフィルタとした。主幹制御部30の制御周期は50msecで、主幹制御部30とドライブ部31間の伝送遅れは50msecとし、遅れを含んだモデルを構築し、シミュレーションを実施した。
【0040】
図4は、本発明のピンチロールの制御装置であるところのローパスフィルタで構成したフィルタ4を有する場合(本発明適用後)と、比較例としてフィルタ4が無い場合(本発明適用前)それぞれの主幹制御部30とドライブ部31の一巡伝達関数をBode線図で表したものである。なお、ローパスフィルタの時定数は10[rad/sec]とした。
【0041】
適用前は位相線図で180度を交差したとき、ゲイン線図では約3dBとなっており、ピンチロールモータの速度制御系は不安定化していることが分かる。本発明適用後は、位相線図で180度を交差したとき、ゲイン線図では約−3dBとなっており、ピンチロールモータの速度制御系は安定したことが分かる。
【0042】
図5、6は、実際の鋼板の熱間圧延プロセスにおけるピンチロールを制御したときの、本発明適用前と適用後の操業実績データである。図5、6共に(a)は速度実績、(b)は速度目標値を表している。本発明適用前は、ピンチロールモータの速度制御系が不安定化しているため、速度目標値がハンチングしていることが分かる。本発明適用後は、ピンチロールモータの速度制御系が安定化しているため、速度目標値はハンチングすることなく良好に操業できていることが分かる。
【符号の説明】
【0043】
1:制御対象(ピンチロール+モータ)、2:ドライブ部の第2のPI制御器のPゲイン、3:主幹制御部の第1のPI制御器、4:ローパスフィルタ、5、7:減算器、6:加算器、8:ドライブ部の第2のPI制御器のIゲイン、30:主幹制御部、31:ドライブ部、40、50、60:制御基幹ネットワーク、LAN、70:汎用又はFA用のパーソナルコンピュータ、100、110:仕上スタンド、120:ピンチロール、130:鋼板、140:捲取機、150:ピンチロールモータ、160:速度検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板を被圧延材とし、仕上スタンドと捲取機との間に金属板を挟んで張力を付与しながら通板する一対のロールからなるピンチロールを備えた連続圧延機において、ディジタル制御により前記ピンチロールを駆動するピンチロールの速度制御装置であって、
予め設定された前記ピンチロールの速度目標値Vrefと張力バランス目標値Trefとを入力信号とし、第1のPI制御器を用いて前記ピンチロールの補正速度目標値Vref’を出力する主幹制御部と、
前記主幹制御部から入力された補正速度目標値Vref’と前記ピンチロールの速度実績値Vとの第1の差分値を求め、該差分値を入力として第2のPI制御器によりピンチロールモータを駆動する電流指令値Iを求めて、前記ピンチロールモータを駆動するドライブ部とを具備し、
前記主幹制御部は、前記ピンチロールの速度目標値の補正量を演算する第1のPI制御器の遅れに対するローパスフィルタを有し、
前記張力バランス目標値Trefと、前記ドライブ部から入力された電流指令値Iとの第2の差分値を求め、該第2の差分値を前記第1のPI制御器に入力し、その出力を前記ローパスフィルタに入力し、該ローパスフィルタの出力と前記速度目標値Vrefとを加算器で加えて前記補正速度目標値Vref’を出力することを特徴とするピンチロールの速度制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のピンチロールの速度制御装置と、
前記ピンチロールの速度制御装置の制御周期に同期して、前記ピンチロールモータを駆動する電流指令値Iもしくはピンチロールの駆動電流の実績値、前記補正速度目標値Vref’、又は前記ピンチロールモータの速度実績値Vの内のいずれかを含む操業実績データを入力信号とし、該入力信号の周波数解析により周波数成分のピークを求め、予め設定した閾値と比較してピンチロール速度に顕著な振動が発生していることを検知し、その振動周波数を求めて前記ピンチロールモータの速度制御装置のローパスフィルタの時定数Tを出力する振動検知装置とを備え、
前記ローパスフィルタの時定数をピンチロール速度に振動周波数に基づき変更することで、ピンチロールの振動を抑制することを特徴とするピンチロールの速度制御システム。
【請求項3】
前記ピンチロールの速度制御装置はPLCで構成され、
前記振動検知装置はパーソナルコンピュータで構成されることを特徴とする請求項2に記載のピンチロールの速度制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−166240(P2012−166240A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29706(P2011−29706)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】