説明

ファン用防振ボス

【課題】ねじり方向のばね特性を軟らかくして振動抑制効果を高くすることができる一方で、軸直角方向,こじり方向のばね特性を硬くし、ファン本体の回転を効果的に安定化することのできるファン用防振ボスを提供する。
【解決手段】剛性の円筒部材18と、ファン本体と一体回転する剛性の接続板20と、円筒部材18と接続板20とを弾性連結する弾性体22とを有し、回転ファンの中心部に備えられて防振作用するファン用防振ボス14において、円筒部材18を接続板20に対して径方向に重合しない位置まで全体的に軸方向に位置をずらせて配置し、それら円筒部材18と接続板20とを弾性体22にて軸方向に連結しておく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は回転ファンの中心部に備えられ、弾性体の弾性変形により回転シャフトとファン本体との間で防振作用するファン用防振ボスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転ファンとして長い円筒状のファン本体の半径方向のある範囲から空気を吸い込み、そして吸い込んだ空気をファン本体の内部を横断方向に流しながら半径方向の別のある範囲から吹き出すクロスフローファン(以下単にファンとすることがある)が、風を幅広く帯状に吹き出し得ることからエアコン(エアコンディショナー)等の回転ファンとして広く用いられている。
【0003】
図6はその一例を示している。
図において200はケーシングで、202はファン本体、204はファン本体202を回転駆動するモータである。
ケーシング200は左右に一対の側板206を有しており、またファン本体202は周方向に沿って設けられた複数の羽根208と、左右端の端板210とを有している。
212は振動絶縁用の防振ボスで、回転シャフト214とファン本体202、詳しくは端板210との間に介在させられている。
このクロスフローファンの場合、矢印で示すように上方から空気を吸い込んで、前方へと風を帯状に送り出す。
【0004】
近年、エアコンは世界的な環境意識の高まりと、省エネルギー及び快適性向上のニーズの高まりを受けてインバータ制御が主流となっている。
このインバータ制御の下で、エアコンは例えば急冷後は低電力運転で設定温度を維持し、経済的に電力消費することが可能となる。
一方でインバータ制御の下では、DCモータによる頻繁なトルク変動が生じ、そしてそのトルク変動によって振動,騒音が発生し易い。
【0005】
上記防振ボス212は、回転シャフト214からファン本体202への振動伝達、及びファン本体202から回転シャフト214への振動伝達を抑制する目的、即ち回転シャフト214とファン本体202との間で振動絶縁する目的で設けられている。
【0006】
このクロスフローファン用の防振ボスとして代表的な例が、下記特許文献1に開示されている。
図7はその具体例を示している。
図において216はその防振ボスで、円筒状をなして内側の嵌合孔218に回転シャフト214を嵌入させ、回転シャフト214からの駆動力を受けて回転シャフト214と一体に回転する剛性の内筒部材(インナ側部材)220と、ファン本体202に、詳しくは端板210に接合されてファン本体202と一体に回転する剛性の円板状の接続板(アウタ側部材)222と、それらを径方向に弾性連結する弾性体224とを有している。
ここで内筒部材220は、雄ねじ部材226にて回転シャフト214に一体回転状態に固定されている。
【0007】
この防振ボス216では、内筒部材220の回転運動を弾性体224を介して接続板222に、つまりファン本体202に伝達してこれを回転運動させ、また弾性体224の弾性変形により内筒部材220、つまり回転シャフト214からファン本体202への振動伝達、及びファン本体202から回転シャフト214への振動伝達を抑制する。
【0008】
図7に示す防振ボス216にあっては、接続板222と内筒部材220との間の径方向距離を大きくすることで、つまりそれらの間の弾性体224の寸法を大とし、弾性体224のねじり方向のばね特性(接続板222が内筒部材220に対し回転する方向のばね特性)を軟らかくした方が、回転シャフト214とファン本体202との間での振動抑制効果、即ち防振性能を高くすることができる。
【0009】
しかしながらそのようにすると、弾性体224における軸直角方向のばね特性、及びこじり方向のばね特性(図7(B)に示しているように接続板222を内筒部材220に対し傾動させる方向のばね特性)も同時に軟らかくなってしまう。
【0010】
軸直角方向及びこじり方向のばね特性が軟らかくなると、製品(ファン)輸送時にファン本体202が暴れ(ファン本体202がケーシング200に対し傾動運動したり不規則運動したりする)、ファン本体202がケーシング200に当って損傷してしまう問題が生じる。
またファンを横置きで使用した場合においても、ファン本体202がケーシング200に対して傾き、場合によってケーシング200と接触して破損したり、異音を発生したりする。
【0011】
またファンを横置きにして使用した場合、弾性体224の軸直角方向のばね特性が軟らかいと、同方向の変形量が大きくなり、この場合、回転シャフト214の軸心に対しファン本体202の軸心がずれて、ファン本体202が不規則に回転運動するようになり、それにより振動や異音が発生するといった問題を生ずる。
【0012】
また図7に示す防振ボス216の場合、接続板222に対してファン本体202(詳しくはその端板210)を接合するため、接続板222の弾性体224からの径方向の突出寸法aとして一定以上の寸法が必要であり、また弾性体224への接続板222の埋め込みのための寸法bとして一定以上が必要であり、更にねじりばね特性を軟らかくするために弾性体224における接続板222と内筒部材220との間の寸法cも一定以上必要であり、これに内筒部材220の径方向の肉厚寸法も加わって、接続板222の外径が必然的に大きくなり、防振ボス216が大型化してしまう問題がある。
【0013】
防振ボス216が大型化すると、弾性体224にて内筒部材220と接続板222とを連結する状態に防振ボス216を成形する際、金型1つ当りの製品の取り個数が少なくなって、その分防振ボス216の製造コストが高くなってしまう。
【0014】
加えて弾性体224の寸法cが大きくなれば、上記の変形の量もより大となり、このこともまたファン本体202の軸心のずれを大きくする要因となる。
【0015】
以上はクロスフローファン用防振ボスの例であるが、同種の問題は他の種々のファン用防振ボスにおいても共通に生じ得る。
一般に回転ファン用の防振ボスは、回転シャフトと一体に回転する剛性のインナ側部材と、ファン本体と一体回転する剛性のアウタ側部材と、それらを弾性連結する弾性体とで構成されており、弾性体のねじり方向のばね特性を軟らかくすることで振動低減の効果が高くなる一方、軸直角方向,こじり方向のばね特性が同時に軟らかくなってしまう問題を内包しており、そしてそのことに起因してファン本体の保持や回転が不安定化する問題を抱えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平7−158584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は以上のような事情を背景とし、ねじり方向のばね特性を軟らかくして振動抑制効果を高くすることができる一方で、軸直角方向,こじり方向のばね特性を硬くし、ファン本体の保持や回転を効果的に安定化することのできるファン用防振ボスを提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
而して請求項1のものは、(a)筒状をなして内側の嵌合孔に回転シャフトを嵌入させ、該回転シャフトからの駆動力を受けて該回転シャフトと一体に回転する剛性のインナ側部材と、(b)回転ファンのファン本体に接合されて該ファン本体と一体回転する剛性のアウタ側部材と、(c)前記インナ側部材とアウタ側部材とに接合されて、それらインナ側部材とアウタ側部材とを弾性連結する弾性体と、を有し、前記回転ファンの中心部に備えられて該弾性体の弾性変形により前記回転シャフトと前記ファン本体との間で防振作用するファン用防振ボスであって、前記インナ側部材を前記アウタ側部材に対して径方向に重合しない位置まで全体的に軸方向に位置をずらせて配置し、それらインナ側部材とアウタ側部材とを軸方向に連結して該アウタ側部材に加わる回転方向の力を支持する第1支持部と、前記回転シャフトに非接合で、径方向において該アウタ側部材と該回転シャフトとの間に介在し、該アウタ側部材に対し径方向内方に加わる力を該回転シャフトへの当接により支持する第2支持部と、を含む前記弾性体にて前記インナ側部材とアウタ側部材とを一体に弾性連結したことを特徴とする。
【0019】
請求項2のものは、請求項1において、前記弾性体を前記回転シャフト周りに環状となしてあることを特徴とする。
【0020】
請求項3のものは、請求項2において、前記弾性体を前記回転シャフトに外嵌状態に嵌合させ、該弾性体の内周面を該回転シャフトの外周面に対し滑らせつつ該弾性体を該回転シャフトに対し回転方向に相対移動可能となしてあることを特徴とする。
【0021】
請求項4のものは、請求項2,3の何れかにおいて、前記インナ側部材の外径に対し前記アウタ側部材の内径が小径をなし、該アウタ側部材の内周位置が該インナ側部材の外周位置よりも径方向内側に位置していることを特徴とする。
【0022】
請求項5のものは、請求項1〜4の何れかにおいて、前記アウタ側部材が円板状となしてあることを特徴とする。
【0023】
請求項6のものは、請求項5において、前記弾性体は、前記アウタ側部材の内周側の部分を埋め込む埋込部を有していることを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0024】
以上のように本発明は、インナ側部材をアウタ側部材に対して径方向に重合しない位置まで、全体的に軸方向に位置をずらせて配置し、そしてインナ側部材とアウタ側部材とを軸方向に連結してアウタ側部材に加わる回転方向の力を支持する第1支持部と、回転シャフトに非接合で、径方向においてアウタ側部材と回転シャフトとの間に介在し、アウタ側部材に対し径方向内方に加わる力を回転シャフトへの当接により支持する第2支持部と、を含む弾性体にて、それらインナ側部材とアウタ側部材とを一体に弾性連結したものである。
【0025】
かかる本発明において、回転シャフトに非接合で、径方向においてアウタ側部材と回転シャフトとの間に介在した弾性体の第2支持部は、ねじり方向のばね特性に対し殆んど影響を与えず、そのねじり方向のばね特性は、アウタ側部材とインナ側部材との軸方向の距離によって、即ち主として弾性体における第1支持部の軸方向長さによって定まる。
【0026】
本発明の防振ボスにおいて、アウタ側部材の径方向内側位置にはインナ側部材は位置しておらず、また径方向内側に位置する弾性体の第2支持部は回転シャフトに対し非接合であるため、アウタ側部材が回転シャフト周りに回転運動すると、第2支持部はアウタ側部材と一体に回転運動し、アウタ側部材の回転、即ちねじり方向の運動に対し弾性抵抗体とはならず、ねじり方向のばねを発現しない。
【0027】
即ち本発明では、第1支持部の長さを変えることによってねじり方向のばね特性を独立して自在に調節することができる。
一方で軸直角方向のばね特性は、主として上記の第2支持部の径方向寸法によって定まる。併せてこじり方向のばね特性もまた第2支持部の径方向寸法によって定まってくる。
【0028】
本発明では、ねじり方向のばね特性を軟らかくするために弾性体の第2支持部、即ちアウタ側部材の径方向内側に位置する部分の径方向寸法を大とする必要はなく、同寸法を小さく設定することができる。
而して同部分の径方向寸法を小さくできれば、軸直角方向及びこじり方向のばね特性を硬くすることができる。
即ち本発明によれば、ねじり方向のばね特性と、軸直角方向及びこじり方向のばね特性とを、それぞれ独立して調節することが可能である。
【0029】
本発明では、ねじり方向のばね特性を軟らかくしつつ、軸直角方向及びこじり方向のばね特性を硬くすることができることから、防振ボスの防振性能を高く確保しながら、製品(回転ファン)輸送時にファン本体が傾動運動したり不規則運動したりしてケーシングに当り、損傷してしまう問題を解決することができる。
【0030】
更に回転ファン使用時において、ファン本体がケーシングに当って損傷したり異音を発生させる問題、特に回転ファンがクロスフローファンである場合において、且つこれを横置きで使用した場合において、ファン本体がケーシングに対して傾動し、ケーシングと接触して損傷したり、異音を発生させる問題を良好に解決することができる。
【0031】
更に第2支持部の軸直角方向のばね特性を硬くすることにより、また径方向寸法を小とすることにより、弾性体の軸直角方向の変形量を少なくでき、ファン本体の軸心が回転シャフトの軸心に対しずれを生じることでファン本体が不規則に回転運動したり異音を発生させたりする問題も併せて解決することができる。
【0032】
また本発明では、アウタ側部材と径方向に重合する位置において径方向内側にインナ側部材が存在していないため、少なくともインナ側部材の径方向の肉厚寸法分、弾性体の外径寸法及びアウタ側部材の外径寸法を小さくすることが可能であり、加えて本発明では第2支持部の径方向寸法を小さくできるため、防振ボスの全体の径方向寸法を効果的に小さくでき、防振ボスを小型化することができる。
【0033】
而して防振ボスを小型化できれば、金型1つ当りの製品の取り個数を多くすることができ、生産性を高め得ると同時に製造コストを安価となすことができる。
また第2支持部の径方向寸法を小さくできるため、弾性体の同方向の変形量を少なく抑制することができる。
【0034】
本発明では、上記弾性体を回転シャフト周りに環状をなす形状となしておくことができる(請求項2)。
【0035】
この場合において、弾性体を回転シャフトに外嵌状態に嵌合させ、弾性体の内周面を回転シャフトの外周面に対し滑らせつつ弾性体を回転シャフトに対し回転方向に相対移動可能となしておくことができる(請求項3)。
【0036】
本発明では、インナ側部材の外径に対しアウタ側部材の内径を小径となし、アウタ側部材の内周位置がインナ側部材の外周位置よりも径方向内側に位置するようになしておくことができる(請求項4)。
図7に示す従来の防振ボスの場合には、このようなことを実現できないが、本発明の防振ボスによれば実現することができ、またそのようにすることで弾性体、詳しくは第2支持部の軸直角方向及びこじり方向のばね特性を効果的に大となすことができ、更には防振ボスをより効果的に小型化することができる。
【0037】
本発明では、上記アウタ側部材を円板状となしておくことができる(請求項5)。
この場合において弾性体は、アウタ側部材の内周側の部分を埋め込む埋込部を有するものとなしておくことができる(請求項6)。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施形態である防振ボスをクロスフローファン用に適用した場合の要部断面図である。
【図2】同実施形態の防振ボスの図である。
【図3】本発明の防振ボスをプロペラファン用の防振ボスとして適用した場合の図である。
【図4】比較のために従来構造の防振ボスを示した図である。
【図5】防振ボスのばね測定の方法の説明図である。
【図6】クロスフローファンの図である。
【図7】従来の防振ボスの一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
次に本発明の実施形態を図面に基づいて以下に詳しく説明する。
図1において、10はクロスフローファンで、12はそのファン本体11の端板、14はファン本体11の中心部、詳しくは端板12の中心部に備えられた防振ボスで、16はモータ側から突き出した回転シャフトである。
防振ボス14は、インナ側部材としての内筒部材18,アウタ側部材としての円板状の接続板20、及び内筒部材18と接続板20とにそれぞれ接合されて、それらを一体に弾性連結する弾性体22とを有している。
【0040】
ここで内筒部材18,接続板20は何れも金属製の剛性の部材である。但しこれら内筒部材18,接続板20を樹脂から成る剛性部材となしておくこともできる。
一方弾性体22は、ここではゴム弾性体から成っている。但しこれを熱可塑性エラストマーにて構成しておいても良い。
【0041】
内筒部材18は円筒状の部材で、中心部に嵌合孔24を有しており、そこに回転シャフト16が嵌入されている。
内筒部材18には、径方向に貫通の雌ねじ孔25が設けられていて、そこに雄ねじ部材26がねじ込まれている。そしてこの雄ねじ部材26のねじ込みにより、内筒部材18が回転シャフト16に対し一体回転状態に固定されている。
尚この内筒部材18には、図2(B)に示しているように外周部の周方向所定個所に、回転方向の位置決用の切欠部28が設けられている。
【0042】
図2にも示しているように、上記接続板20は中心部に円形の開口30を有する薄肉の円板状の部材で、板厚方向に貫通した複数の連結孔32,34を有している。
図1に示す上記の端板12は、この接続板20の、弾性体22から径方向に露出した部分の外周側の部分を包み込むようにして接続板20に一体に成形されている。
このとき、樹脂製の端板12は接続板20の図1中右側に位置している部分と、左側に位置する部分とが連結孔32で互いに連結されて一体化されている。
【0043】
この実施形態において、内筒部材18は接続板20に対して径方向に重合しない位置まで、全体的に軸方向(図中右方向)に位置をずらせて配置してあり、その状態で、内筒部材18と接続板20とが弾性体22にて弾性連結されている。
ここで内筒部材18と接続板20と弾性体22とは、加硫接着にて一体に接合されている。
【0044】
この実施形態において、弾性体22は図1に示す回転シャフト16周りに環状をなし、その中心部は内筒部材18の嵌合孔24に軸方向にほぼ連続して直線状に延びる嵌合孔36を成している。
嵌合孔36の孔径は回転シャフト16の外径とほぼ同径、詳しくは微小寸法(ここでは径方向片側で0.1mm)だけ大径であり、図1に示す状態、即ち内筒部材18の嵌合孔24に及び弾性体22の嵌合孔36に回転シャフト16を嵌入させた状態で、弾性体22の内周面は回転シャフト16の外周面に対し微小隙間(0.1mm)を介して嵌合した状態にある。
【0045】
弾性体22は、インナ側部材としての内筒部材18と、アウタ側部材としての接続板20とを軸方向に連結し、接続板20に加わる回転方向の力を支持する第1支持部G1と、回転シャフト16に非接合で、径方向において接続板20と回転シャフト16との間に介在し、接続板20に対し径方向内方に加わる力を、回転シャフト16への当接により支持する第2支持部G2とを有している。
【0046】
弾性体22はまた、内筒部材18の図中左端部を埋め込む埋込部G3,接続板20の内周側の部分を埋め込む埋込部G4、更に図中左方への突出部G5を有している。
この実施形態の防振ボス14では、接続板20を回転させると、主として第1支持部G1が弾性抵抗力を発生させる。即ち主として第1支持部G1がねじりばねとして働く。
【0047】
このとき第2支持部G2は、内周面を回転シャフト16の外周面に対し滑らせながら接続板20に連動して一体に回転運動し、接続板20の回転運動に対し弾性抵抗力を特に発生させない。
つまりこの実施形態において、第2支持部G2はねじりばねとしては実質働かない。
【0048】
一方で、図1に示す状態、即ち回転シャフト16を内筒部材18及び弾性体22の中心部の嵌合孔24,36に嵌入させた状態の下で、接続板20を軸直角方向に移動させると、第2支持部G2が軸直角方向に圧縮弾性変形させられ、大きな弾性抵抗力を発生させる。即ちこのとき、第2支持部G2が主として軸直角方向ばねとして働く。
その際、第2支持部G2の径方向寸法(径方向厚み寸法)が小さいほど、軸直角方向ばねは大となる。
【0049】
この実施形態の防振ボス14では、接続板20を傾動させると弾性体22全体が弾性抵抗力を発生させ、こじり方向ばねとして働く。
但しそのこじり方向ばねは、第2支持部G2の径方向寸法が小さいほど、つまり接続板20の内周端の位置が回転シャフト16に近くなるほど、軸直角方向ばねと同様に大となる。
【0050】
つまりこの実施形態では、実質的には第1支持部G1の軸方向長を変えることで、ねじりばねのばね定数を調節することができ、また軸直角方向及びこじり方向の動きに対しては、第2支持部G2の径方向の厚みを変化させることで、それらの方向のばね定数を調節することが可能である。
【0051】
尚この実施形態において、内筒部材18の内径d1は回転シャフト16と同径のd1=φ8mmであり、外径d2=φ16mmである。
ここで弾性体22における嵌合孔36の径は、回転シャフト16の外径よりも径方向片側で微小寸法0.1mmだけ大であることは上記した通りである。
接続板20の内径d3=φ12mmであり、従って第2支持部G2の径方向の肉厚d7=1.9mmであり、また第1支持部G1における接続板20と内筒部材18との軸方向の重なり部分の寸法(径方向寸法)は、ここでは径方向片側で2mm,両側で4mmである。
【0052】
この第1支持部G1の、接続板20と内筒部材18とで軸方向で挟まれた部分は、特にねじりばねに対して大きな影響を及ぼす。
また第1支持部G1の軸方向寸法d4=1.7mmであり、更に接続板20の外径d5=φ61mm,接続板20の板厚d6=1.0mmである。
【0053】
以上のような本実施形態では、第1支持部G1の軸方向長さを変えることによって、ねじり方向のばね特性を独立して調節することができる。
一方で軸直角方向のばね特性は、主として上記の第2支持部G2の径方向寸法によって定まる。併せてこじり方向のばね特性も第2支持部G2の径方向寸法によって定まってくる。
【0054】
本実施形態では、ねじり方向のばね特性を軟らかくするために弾性体22の第2支持部G2、即ち接続板20の径方向内側に位置する部分の径方向寸法を大とする必要はなく、同寸法を小さく設定することができる。
而して同部分の径方向寸法を小さくすることで、弾性体22の軸直角方向及びこじり方向のばね特性を硬くすることができる。
即ち本実施形態によれば、ねじり方向のばね特性と、軸直角方向及びこじり方向のばね特性とを、それぞれ独立して調節することができる。
【0055】
そして本実施形態では、ねじり方向のばね特性を軟らかくしつつ、軸直角方向及びこじり方向のばね特性を硬くすることができることから、防振ボス14の防振性能を高く確保しながら、製品(ファン)輸送時にファン本体40が傾動運動したり不規則運動したりしてファン本体40がケーシングに当り、損傷してしまう問題を解決することができる。
【0056】
更にファン使用時において、ファン本体40がケーシングに当って損傷したり異音を発生させる問題を良好に解決することができる。
【0057】
更に第2支持部G2の径方向寸法を小とすることにより軸直角方向のばね特性を硬くすることで、弾性体22の軸直角方向の変形量を少なくでき、ファン本体40の軸心が回転シャフト16の軸心に対しずれを生じることで、ファン本体40が不規則に回転運動したり異音を発生させたりする問題も併せて解決することができる。
【0058】
また本実施形態では、接続板20と径方向に重合する位置において径方向内側に円筒部材18が存在していないため、少なくとも円筒部材18の径方向の肉厚寸法分、弾性体22の外径寸法及び接続板20の外径寸法を小さくすることが可能であり、加えて本発実施形態では、第2支持部G2の径方向寸法を小さくできるため、防振ボス14の全体の径方向寸法を効果的に小さくでき、防振ボス14を小型化することができる。
【0059】
そして防振ボス14を小型化することで、金型1つ当りの製品の取り個数を多くすることができ、生産性を高め得ると同時に製造コストを安価となすことができる。
また第2支持部G2の径方向寸法を小さくできるため、弾性体22の同方向の変形量を少なく抑制することができる。
【0060】
本実施形態では、円筒部材18の外径に対し接続板20の内径を小径となし、接続板20の内周位置が円筒部材18の外周位置よりも径方向内側に位置するようになしてある。
図7に示す従来の防振ボス14Aの場合には、このようなことを実現できないが、本実施形態の防振ボス14によれば実現することができ、またそのようにすることで弾性体22の軸直角方向及びこじり方向のばね特性を効果的に大となすことができ、更には防振ボス14をより効果的により小型化することができる。
【0061】
上記の防振ボス14は、クロスフローファン以外の他の回転ファン、例えばプロペラファンやターボファン用の防振ボスとしても適用可能である。
図3は、防振ボス14をプロペラファン用の防振ボスとして適用した場合の例を示している。
【0062】
図において、40はプロペラファン38におけるファン本体を示している。
ファン本体40は、ハブ42と、ハブ42から放射状に延び出た複数の羽根44と、防振ボス14との接合部46とを有している。
そしてこの接合部46が、防振ボス14における接続板20を包み込むようにこれに一体に成形されている。
尚接合部46,ハブ42,羽根44を含むファン本体40は樹脂製である。
また図中48はモータを示している。
更に図中16Aは、横断面がD字形状をなす回転シャフト16の雄係合部で、ここでは内筒部材18の嵌合孔24が対応するD字形状の雌係合部を成している。
また58は回転シャフト16から突き出した雄ねじ軸で、60はそこにねじ込まれたナットである。
【0063】
<ばね測定>
本実施形態の防振ボス14におけるねじり方向,軸直角方向,こじり方向の各ばね測定を以下のようにして行った。
尚、比較のために図4(B)に示す従来構造の防振ボス14A、及びプロペラファン用として用いられている図4(A)に示す従来構造の防振ボス14Bのばね測定も併せて行った。
尚、図4(B)に示す防振ボス14Aは、図7に示したものと基本的な構造は同様であるが、図7に示したものとは異なった例のものである。
図において18Aは内筒部材を、20Aは円板状の接続板を、22Aはゴム弾性体をそれぞれ示している。
【0064】
一方、図4(A)に示すプロペラファン用に用いられている従来例の防振ボス14Bは、円筒形状をなす内筒部材50Bと、同じく円筒形状をなす外筒部材52Bと、それらに一体に加硫接着された同じく円筒形状をなすゴム弾性体54Bとを有している。
図4(A)に示す防振ボス14Bの場合、外筒部材52Bの外周面に、プロペラファンのファン本体の円筒形状の接合部55Bが接合される。
【0065】
尚、寸法関係は以下の通りである。
図4(B)に示す防振ボス14Aにおいて、d8=φ50mm,d9=φ27mm,d10=7mm,d11=20mmである。
また図4(A)の防振ボス14Bにおいて、d12=14mm,d13=24mm,d14=(d13−d12/2)=5mm,d15=30mm,d16=φ46.2mmである。
【0066】
ねじり方向,軸直角方向,こじり方向の各ばね測定は、図5に示すようにして行った。
図5では、従来クロスフローファン用防振ボスとして用いられている図4(B)の防振ボス14Aを代表として、ばね測定の方法を示している。
ここでは内筒部材18Aにシャフト56を挿入して、これに内筒部材18Aを固定し、そして接続板20Aを固定状態として、シャフト56から内筒部材18Aに矢印で示す方向にねじりトルクを加え、そのときの変位と荷重からねじり方向のばね定数を導いた。
尚、変位の角度は0〜10°の範囲とした。
【0067】
一方、図5(B)は軸直角方向のばね測定の方法を示しており、ここでは接続板20Aを固定し、そしてシャフト56から内筒部材18Aに軸直角方向荷重を加え、そのときの変位と荷重からばね定数を導いた。
ここでは変位量を0〜0.4mmとした。
【0068】
他方、図5(C)はこじり方向のばね測定の方法を示しており、ここではシャフト56から内筒部材18Aに図中矢印で示すこじり方向にトルクを加え、そのときの変位と荷重からばね定数を導いた。
ここでは変位角度を0〜6°の範囲とした。
これらの測定結果が表1に示してある。
尚表1のゴム硬度の測定は、JIS K6253に準拠して行った。
【0069】
【表1】

【0070】
表1に示しているように、本実施形態の防振ボス14の場合、ゴム硬度70度の下で、ねじり方向のばね定数が図4(B)に示す防振ボス14Aと同等である一方、軸直角方向のばね定数及びこじり方向のばね定数の何れもが、図4(B)に示す防振ボス14Aに比べて大幅に大となっている。
【0071】
また図4(A)に示す防振ボス14Bに比べて、軸直角方向のばね定数/ねじり方向ばね定数、及びこじり方向ばね定数/ねじり方向ばね定数の比率が大幅に大となっている。
このことから、本実施形態のものは、ねじり方向のばね定数に比べて軸直角方向のばね定数、及びこじり方向のばね定数を効果的に大とすることができることが分かる。
【0072】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示であり、本発明の防振ボスはインナ側部材,アウタ側部材,弾性体の形態を上例以外の他の様々な形態となすことが可能であり、また様々な回転ファン用の防振ボスとして適用することが可能である等、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
【符号の説明】
【0073】
14 防振ボス
16 回転シャフト
18 内筒部材(インナ側部材)
20 接続板(アウタ側部材)
22 弾性体
24 嵌合孔
40 ファン本体
G1 第1支持部
G2 第2支持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)筒状をなして内側の嵌合孔に回転シャフトを嵌入させ、該回転シャフトからの駆動力を受けて該回転シャフトと一体に回転する剛性のインナ側部材と、(b)回転ファンのファン本体に接合されて該ファン本体と一体回転する剛性のアウタ側部材と、(c)前記インナ側部材とアウタ側部材とに接合されて、それらインナ側部材とアウタ側部材とを弾性連結する弾性体と、を有し、前記回転ファンの中心部に備えられて該弾性体の弾性変形により前記回転シャフトと前記ファン本体との間で防振作用するファン用防振ボスであって、
前記インナ側部材を前記アウタ側部材に対して径方向に重合しない位置まで全体的に軸方向に位置をずらせて配置し、それらインナ側部材とアウタ側部材とを軸方向に連結して該アウタ側部材に加わる回転方向の力を支持する第1支持部と、前記回転シャフトに非接合で、径方向において該アウタ側部材と該回転シャフトとの間に介在し、該アウタ側部材に対し径方向内方に加わる力を該回転シャフトへの当接により支持する第2支持部と、を含む前記弾性体にて前記インナ側部材とアウタ側部材とを一体に弾性連結したことを特徴とするファン用防振ボス。
【請求項2】
請求項1において、前記弾性体を前記回転シャフト周りに環状となしてあることを特徴とするファン用防振ボス。
【請求項3】
請求項2において、前記弾性体を前記回転シャフトに外嵌状態に嵌合させ、該弾性体の内周面を該回転シャフトの外周面に対し滑らせつつ該弾性体を該回転シャフトに対し回転方向に相対移動可能となしてあることを特徴とするファン用防振ボス。
【請求項4】
請求項2,3の何れかにおいて、前記インナ側部材の外径に対し前記アウタ側部材の内径が小径をなし、該アウタ側部材の内周位置が該インナ側部材の外周位置よりも径方向内側に位置していることを特徴とするファン用防振ボス。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかにおいて、前記アウタ側部材が円板状となしてあることを特徴とするファン用防振ボス。
【請求項6】
請求項5において、前記弾性体は、前記アウタ側部材の内周側の部分を埋め込む埋込部を有していることを特徴とするファン用防振ボス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−159034(P2012−159034A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−19073(P2011−19073)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】