説明

フィブリン/フィブリノーゲン結合結合体

【課題】フィブリン/フィブリノーゲン結合結合体を提供すること。
【解決手段】フィブリン凝塊からの薬学的に活性な物質徐放のための貯蔵部を形成するためのフィブリン/フィブリノーゲン結合体が、開示される。この結合体は、薬学的に活性な物質に直接にかまたは介在物質捕捉部分(例えば、抗体)を介して結合されているフィブリン/フィブリノーゲン結合部分を含む。この結合体はまた、創傷治癒物質(例えば、レプチン)に融合されたフィブリン/フィブリノーゲン結合部分(例えば、VEGF165C末端ドメイン)を含む、組換え融合タンパク質であり得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、薬学的に活性な物質の貯蔵部として特定の有用性を有する結合体に
関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
持続的な放出作用のために薬物の貯蔵部を提供することは、特にその薬物が体
内に適用されることが所望される場合に、特定の薬学的に活性な物質の定常的な
投与を必要とする患者に対する効率的な処置に必要不可欠である。適切な薬物貯
蔵部の必須条件は、このような貯蔵部からの薬学的に活性な物質の放出が、特定
の遅延プロセスにより制御可能であることである。これは、薬学的に活性な物質
が貯蔵部のマトリクスに可逆的様式もしくは非可逆的様式のいずれかで連結され
る必要があるということを示唆する。
【0003】
薬学的に活性な物質が結合したマトリクスは、その活性な物質に対する親和性
を有するだけではなく、生体適合性の特性も有するべきである。好ましくは、こ
のような貯蔵部のマトリクスは、空の貯蔵部を除去するために患者のさらなる処
置が必要とされないように、患者の体内で生分解性である。
【0004】
これらの有利な生物学的な特性に起因して、特にフィブリンゲルは、好ましい
薬物貯蔵部マトリクスとして提唱されてきた(例えば、AT 369 900を
参照のこと)。フィブリンゲルは、調製が容易であり、良好な生体適合性を有し
、そしてそれらの体内での生物学的分解が調節され得る。しかし、フィブリンの
水和された広範な多孔構造に起因して、薬学的に活性な物質の拡散は、たとえフ
ィブリンゲルが、その天然の架橋エフェクターである第XIII因子の過剰な添
加により高度に架橋されていても、ほとんどの目的に対してあまりにも速すぎる
速度で生じる。
本発明のために実施された予備実験にて、β−ガラクトシダーゼ等の種々のタ
ンパク質が、3日間以内にフィブリンゲルから完全に放出されることが示され得
た。
【0005】
従って、第XIIIa因子活性を用いてトランスグルタミナーゼ基質ドメイン
に生物活性因子を連結することによって、生物活性因子をフィブリンの網状構造
に共有結合することが提唱された(WO98/43686)。しかし、フィブリ
ン網状構造への目的の薬物の共有結合は、強すぎる結合を生じ得、患者に対する
薬物の十分な放出を可能にしない。全ての薬物が共有結合と適合性を有するわけ
ではない。さらに、フィブリンの凝塊は、この反応に必要不可欠なトランスグル
タミナーゼ基質により架橋部位が用いられているため、不安定になり得る。
従って、患者の体内において、十分な生体適合性および調節可能な半減期を有
する薬物貯蔵部を提供することが、目的である。
【0006】
特に、活性物質を変化させることもなく、その連結のために酵素活性を使用す
ることもなく、フィブリンに基づく代替的な薬物貯蔵部を提供することは、本発
明のさらなる目的である。
【0007】
本発明の別の目的は、生物学的に活性な物質の拡散を、標準的なフィブリンゲ
ルからの拡散によるこの薬物の放出時間と比較して、効率的に遅延させる能力を
有する、薬物貯蔵部を提供することである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の要旨)
これらの目的は、フィブリン/フィブリノーゲン結合の結合体によって解決さ
れ、この結合体は、フィブリン/フィブリノーゲン結合部分、薬学的に活性な物
質と可逆的に結合し得る物質捕捉部分、および薬学的に活性な物質を含み、ここ
で、このフィブリン/フィブリノーゲン結合部分は、この物質捕捉部分に結合さ
れている。
【0009】
本発明に従う結合体においては、フィブリンまたはフィブリノーゲンに対する
親和性を有する結合パートナーが、薬学的に活性な物質の結合パートナーをフィ
ブリンゲルに連結するために用いられる。これらのフィブリンまたはフィブリノ
ーゲンの結合部分に起因して、その結合体は、薬学的に活性な物質の溶出が、単
純な拡散によって可能でなく、主として、フィブリンに対するフィブリン/フィ
ブリノーゲン結合部分の親和性および薬学的に活性な物質に対する物質捕捉部分
の結合親和性に依存するように十分に、フィブリンマトリクスに結合されている

【0010】
物質捕捉部分へのフィブリン/フィブリノーゲン結合部分の結合は、例えば、
当該分野で公知の1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイ
ミン(EDC)等の化学的なリンカーを使用して共有結合であり得るか、または
静電力によるものであり得る。
【0011】
本発明の別の実施形態においては、結合体は、介在する物質捕捉部分を有しな
い、薬学的に活性な物質に共有結合されたフィブリン/フィブリノーゲン結合部
分を含む融合タンパク質である。
【0012】
用語「フィブリン/フィブリノーゲン結合部分」は、(1)フィブリンまたは
(2)フィブリノーゲンおよびフィブリンの両方、のいずれかに結合し得る結合
部分に関する。その結合能力がフィブリンおよびフィブロイチンの両方に対する
ものである場合、本発明の結合体が予め「充填」されたフィブリノーゲン分子を
用いてフィブリンゲルを形成し、薬物貯蔵部の均一な形成および結合体の均一な
分散、従って、ならびにそのフィブリン薬物貯蔵部全体にわたる医薬を可能とし
得る。
本発明は、例えば以下の項目を提供する。
(項目1) 以下:
フィブリン/フィブリノーゲン結合部分;
薬学的に活性な物質に可逆的に結合し得る物質捕捉部分;および
薬学的に活性な物質、
を含む、フィブリン/フィブリノーゲン結合結合体であって、
ここで、該フィブリン/フィブリノーゲン結合部分は、該物質捕捉部分に結合さ
れている、結合体。
(項目2) 項目1に記載の結合体であって、前記フィブリン/フィブ
リノーゲン結合部分が、トロンビン、フィブロネクチン、細菌性フィブリノーゲ
ン結合タンパク質、塩基性繊維芽細胞増殖因子、組織特異的プラスミノーゲン活
性化因子、インテグリン、核酸、VEGF165C末端ドメインおよびこの群の
任意のメンバー由来の部分からなる群より選択される、結合体。
(項目3) 項目1に記載の結合体であって、前記物質捕捉部分が、前
記薬学的に活性な物質を特異的に認識する、抗体、レセプターまたはこの一部で
ある、結合体。
(項目4) 項目1に記載の結合体であって、前記薬学的に活性な物質
が、抗生物質、増殖因子、組織構成成分に対するレセプター、組織接着性物質、
核酸、血漿タンパク質、ホルモン、ヘパリノイド、創傷治癒物質および画像剤か
らなる群より選択される、結合体。
(項目5) 項目1に記載の結合体であって、前記フィブリン/フィブ
リノーゲン結合部分および前記物質捕捉部分が、共有結合されている、結合体。
(項目6) 以下:
フィブリン/フィブリノーゲン結合部分;および
薬学的に活性な物質に可逆的に結合し得る物質捕捉部分、
を含む、フィブリン/フィブリノーゲン結合結合体であって、
ここで、該フィブリン/フィブリノーゲン結合部分は、該物質捕捉部分に結合さ
れている、結合体。
(項目7) 以下:
フィブリン/フィブリノーゲン結合部分;および
薬学的に活性な物質、
を含む、フィブリン/フィブリノーゲン結合結合体であって、
ここで、該フィブリン/フィブリノーゲン結合部分は、該薬学的に活性な物質に
結合されている、結合体。
(項目8) 前記フィブリン/フィブリノーゲン結合部分が、前記薬学的
に活性な物質に共有結合されている、項目7に記載の結合体。
(項目9) 前記結合体が、組換え融合タンパク質である、項目8に記
載の結合体。
(項目10) 前記フィブリン/フィブリノーゲン結合部分が、VEGF
165のC末端ドメインを含む、項目9に記載の結合体。
(項目11) 前記フィブリン/フィブリノーゲン結合部分が、トロンビ
ン、フィブロネクチン、細菌性フィブリノーゲン結合タンパク質、塩基性繊維芽
細胞増殖因子、組織特異的プラスミノーゲン活性化因子、インテグリン、核酸、
VEGF165C末端ドメインおよびこの群の任意のメンバー由来の部分からな
る群より選択される、項目8に記載の結合体。
(項目12) 前記薬学的に活性な物質が、抗生物質、増殖因子、組織構
成成分に対するレセプター、組織接着性物質、核酸、血漿タンパク質、ホルモン
、ヘパリノイド、創傷治癒物質および画像剤からなる群より選択される、項目
8に記載の結合体。
(項目13) 薬学的に活性な物質のための貯蔵部を形成するためのキッ
トであって、以下:
フィブリノーゲンに基づく組織接着剤、ならびに
フィブリン/フィブリノーゲン結合部分、および薬学的に活性な物質に可逆的
に結合し得る物質捕捉部分を含むフィブリン/フィブリノーゲン結合結合体であ
って、ここで、該フィブリン/フィブリノーゲン結合部分は、該物質捕捉部分に
結合されている、結合体
を備える、キット。
(項目14) フィブリノーゲンをフィブリンにプロセシングし得る因子
を含む構成成分をさらに備える、項目13に記載のキット。
(項目15) フィブリノーゲンをフィブリンにプロセシングし得る因子
を含む前記構成成分が、トロンビン調製物である、項目14に記載のキット。
(項目16) 前記組織接着剤および前記結合体を貯蔵部位に投与するた
めのデバイスをさらに備える、項目13に記載のキット。
(項目17) 薬学的に活性な物質の貯蔵部を生成するための方法であっ
て、以下の工程:
フィブリン/フィブリノーゲン結合部分、薬学的に活性な物質に可逆的に結合
し得る物質捕捉部分および薬学的に活性な物質を含む、フィブリン/フィブリノ
ーゲン結合結合体を提供する工程であって、ここで、該フィブリン/フィブリノ
ーゲン結合部分は、該物質捕捉部分に結合されている、工程;
該結合体をフィブリノーゲン調製物と一緒に貯蔵部位に投与する工程;
該フィブリノーゲンをフィブリンにプロセシングさせる工程であって、これに
よりフィブリン凝塊が形成される、工程;ならびに
該フィブリン凝塊において該フィブリノーゲンに該結合体を結合させる工程、
を包含する、方法。
(項目18) 薬学的に活性な物質の貯蔵部を生成するための方法であっ
て、以下の工程:
フィブリン/フィブリノーゲン結合部分、薬学的に活性な物質に可逆的に結合
し得る物質捕捉部分および薬学的に活性な物質を含む、フィブリン/フィブリノ
ーゲン結合結合体を提供する工程であって、ここで、該フィブリン/フィブリノ
ーゲン結合部分は、該物質捕捉部分に結合されている、工程;
該結合体をフィブリノーゲン調製物と一緒に貯蔵部に投与する工程;
該フィブリノーゲンをフィブリンにプロセシングさせる工程であって、これに
よりフィブリン凝塊が形成される、工程;ならびに
該フィブリン凝塊に該結合体を結合させる工程、
を包含する、方法。
(項目19) 前記フィブリノーゲンをフィブリンにプロセシングさせる
工程が、該フィブリノーゲンをフィブリンにプロセシングさせ得る因子を添加す
ることによって実施される、項目18に記載の方法。
(項目20) 前記因子が、外因性トロンビンである、項目19に記載
の方法。
(項目21) 薬学的に活性な物質のための貯蔵部であって、該貯蔵部は
、フィブリンおよびフィブリン/フィブリノーゲン結合結合体を含み、該結合体
は、フィブリン/フィブリノーゲン結合部分、薬学的に活性な物質に可逆的に結
合し得る物質捕捉部分および薬学的に活性な物質を含み、ここで、該フィブリン
/フィブリノーゲン結合部分が、該物質捕捉部分に結合されている、貯蔵部。
(項目22) 薬学的に活性な物質のための貯蔵部であって、該貯蔵部は
、以下の工程:
フィブリン/フィブリノーゲン結合結合体を提供する工程であって、該結合体
は、フィブリン/フィブリノーゲン結合部分、薬学的に活性な物質に可逆的に結
合し得る物質捕捉部分および薬学的に活性な物質を含み、ここで、該フィブリン
/フィブリノーゲン結合部分が、該物質捕捉部分に結合されている、工程;
該結合体をフィブリノーゲン調製物と一緒に貯蔵部位に投与する工程;
該フィブリノーゲンをフィブリンにプロセシングさせて、これによりフィブリ
ン凝塊が形成されることを可能にする工程;ならびに
該結合体を、該フィブリノーゲンまたは該フィブリン凝塊に結合させる工程、
によって取得可能である、貯蔵部。
(項目23) 病理学的状態を罹患する患者を処置するための方法であっ
て、該病理学的状態は、薬学的に活性な物質で処置可能であり、ここで、該方法
は、フィブリノーゲンに基づく組織接着剤の有効量およびフィブリン/フィブリ
ノーゲン結合結合体を該患者に投与する工程を包含し、該結合体は、フィブリン
/フィブリノーゲン結合部分、該薬学的に活性な物質に可逆的に結合し得る物質
捕捉部分および該薬学的に活性な物質を含み、ここで、該フィブリン/フィブリ
ノーゲン結合部分が、該物質捕捉部分に結合されている、方法。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、それぞれ、TNF抗体およびトロンビンの共有結合(−)ならびにフィブリン/フィブリノーゲンおよびTNFへの結合親和性(点二重線)の検出のための、ELISAサンドイッチ系を示す。
【図2】図2は、トロンビンにカップリングされたTNF抗体を介した、フィブリノーゲンマトリクスへのTNFの結合を示す。
【図3】図3は、それぞれ、TNF抗体およびフィブロネクチンの共有結合(−)ならびにフィブリン/フィブリノーゲンおよびTNFへのそれらの結合親和性(点二重線)の検出のための、ELISAサンドイッチ系を示す。
【図4】図4は、フィブロネクチンにカップリングされたTNF抗体を介した、フィブリノーゲンマトリクスへのTNFの結合を示す。
【図5】図5は、カップリングされていないフィブロネクチンおよびTNF抗体の存在下でのTNFの保持と比較した、本発明に従う結合体を用いたTNFの保持を示す。
【図6】図6は、3000KIU/mlの遊離アプロチニンを用いたか、または3000KIU/mlの結合されたアプロチニンを用いた、フィブリン凝塊の安定性(時間)を示す。
【図7】図7は、フィブリノーゲンへのGST単独ではなくfbe−GSTの特異的結合を示す。
【図8a】図8aは、BSAではなくフィブリノーゲンへのビオチン化した二本鎖(ds)および一本鎖(ss)DNAの特異的結合を示す。
【図8b】図8bは、フィブリンシーラント結合部分としてDNAを介する、フィブリノーゲンマトリックスへの、ビオチン化DNAと共にプレインキュベートされたストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ(SV−POX)の結合を示す。
【図9】図9は、フィブリン凝塊からの、遊離のビオチン化されたアルブミンの放出と比較した、トロンビンに共有結合されているビオチン化されたアルブミンの放出速度を示す。
【図10】図10は、薬学的に活性なタンパク質に連結されたVEGF165C末端のフィブリン結合ドメインを含む、フィブリン結合組換え融合タンパク質の概略図を示す。
【図11】図11は、レプチン−VEGF165C末端−Hisタグ融合タンパク質[SEQ ID NO:1]のアミノ酸配列を示す。
【図12】図12は、レプチン−VEGF165C末端−Hisタグの融合タンパク質をコードするカセットを含む、発現プラスミドを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(発明の詳細な説明)
本発明は、フィブリンゲルに、および好ましくはフィブリノーゲンにも結合し
得る結合体を有する、生体マトリクスを提供する。フィブリノーゲンへのこの結
合体の結合親和性は、フィブリンへのフィブリノーゲンの切断後に、フィブリン
の結合に変換される。
【0015】
本発明に従う1つの結合体は、フィブリン/フィブリノーゲンに結合する結合
部分、薬学的に活性な物質に可逆的に結合し得る物質捕捉部分、および薬学的に
活性な物質を含む。本発明に従って、フィブリン/フィブリノーゲン結合部分は
、好ましくは共有結合で、物質捕捉部分に結合される。例えば、フィブリン/フ
ィブリノーゲン結合タンパク質またはフィブリン/フィブリノーゲンに結合する
その一部は、物質捕捉部分に、結合またはカップリングされ得る。このカップリ
ングは、化学的リンカー、組換えDNA技術、ペプチド合成またはそれらの技術
の組み合わせにより達成され得る。
【0016】
本発明の別の結合体は、介在する物質捕捉部分を有しない、薬学的に活性な物
質に直接共有結合されたフィブリン/フィブリノーゲン結合部分を含む。この結
合体により形成される貯蔵部は、フィブリンからのフィブリン/フィブリノーゲ
ン結合部分の放出速度、および経時的なフィブリン凝塊の自然な溶解に基いて、
薬学的に活性な物質の持続的な放出を提供する。この例において、その薬学的に
活性な物質は、それがフィブリン/フィブリノーゲン結合部分に共有結合された
ままである場合でさえ、その活性を保持する。
【0017】
フィブリン/フィブリノーゲン結合部分は、トロンビン、フィブロネクチン、
細菌性のフィブリノーゲン結合タンパク質、塩基性繊維芽細胞増殖因子、インテ
グリン、組織プラスミノーゲン活性化因子、VEGF165、および少なくとも
1つのフィブリン/フィブリノーゲン結合部分を示す類似のタンパク質等の、天
然に存在する(生理学的)結合タンパク質から誘導され得る。
【0018】
さらなる実施形態においては、核酸、特にDNAが、フィブリン/フィブリノ
ーゲン結合部分として用いられ得る。このDNAは、コード機能を有する必要が
無く、従って、ランダムな配列のものであり得るが、その配列内において可能性
のある炎症性モチーフ(特に、CpGモチーフ)を避けるように注意が払われる
必要がある。本発明の目的のために、DNAは、フィブリン/フィブリノーゲン
結合部分として、任意の形態(これは、一本鎖DNAまたは二本鎖DNA、直鎖
状DNAまたは環状DNAを意味する)で用いられる。
【0019】
本発明の結合体について、タンパク質は、それらの生理学的形態またはプロセ
シングされた形態のいずれかにて用いられ得る。例えば、そのような生理学的結
合パートナーは、これらのタンパク質の少なくともフィブリン/フィブリノーゲ
ン結合部分を提供するために、公知の生化学的技術によってプロセシングされ得
る。あるいは、フィブリン/フィブリノーゲンに結合することが公知の部分はま
た、組換えDNA技術によって提供され得る。多くのフィブリン/フィブリノー
ゲン結合タンパク質に対して、三次元構造が記載または提唱され、このことは、
当業者に、本発明における使用のためのフィブリン/フィブリノーゲン結合に関
連するこれらのタンパク質の部分を選択させ得る。フィブリン/フィブリノーゲ
ンに対する結合親和性を有する他の物質は、そのような物質が、タンパク質もし
くはタンパク質誘導体、またはファージディスプレイによる選択物である場合、
上述のタンパク質の既知の三次元モデルに基づいて(例えば、配列分析によって
)、これらの推定上のフィブリン/フィブリノーゲン結合部位について分析がさ
れ得る。
【0020】
物質捕捉部分または直接結合される薬学的に活性な物質の選択は、本質的には
、フィブリン貯蔵部により投与される薬学的に活性な物質に依存する。物質捕捉
部分および薬学的に活性な物質の適切な組み合わせは、当該分野にて公知である

【0021】
例えば、物質捕捉部分は、抗体、レセプター、またはその一部であり得、それ
らは、目的の薬学的に活性な物質を(例えば、抗原またはリガンドとして)特異
的に認識し、そして可逆的に結合する。本明細書において、用語「抗体」は、定
常ドメインおよび可変抗原結合ドメインを含む、任意のクラスの完全な抗体、な
らびに、抗体の部分または抗体由来の分子(例えば、フラグメントまたは組換え
構築物)を含む。実際に、そのような「古典的」抗体のほとんどの部分は、薬学
的に活性な物質の結合を可能にする本質的な部分(すなわち、可変結合領域)が
存在する限り、省略され得る。
【0022】
さらなる物質捕捉部分の例は、抗体結合分子のグループ(例えば、プロテイン
AまたはプロテインGのような細菌タンパク質、あるいはマクロファージのFc
レセプター)、ならびにそれらのフラグメントまたは組換え構築物であり得る。
【0023】
本発明の好ましい実施形態に従って、モノクローナル抗体またはモノクローナ
ル抗体の抗原結合領域は、物質捕捉部分として用いられる。さらに、フィブリン
/フィブリノーゲン結合部分(特に、フィブリン結合タンパク質)への、このよ
うなモノクローナル抗体またはその部分のカップリングは、古典的なタンパク質
化学によって確立され得る。
【0024】
本発明は、可能な全ての薬学的に活性な物質(特に、それに対する適切な結合
パートナーが既知である物質(例えば、抗原/抗体、レセプター/リガンド、複
合体パートナー))に対して適応され得る。薬物として適用される結合パートナ
ーは、個々の対応する結合パートナーを介するのみで結合体に結合され、その後
者が、フィブリン/フィブリノーゲン結合部分に共有結合カップリングされてい
る。
【0025】
本明細書において、用語「可逆的結合」とは、物質捕捉部分と薬学的に活性な
物質との間に親和性を与える静電力に基づく非共有結合をいい、それによって、
薬学的に活性な物質は、長時間にわたって放出され、フィブリン凝塊から拡散す
る。
【0026】
本発明の結合体において用いられる、好ましい薬学的に活性な物質は、抗生物
質、増殖因子、組織構成成分に対するレセプター、組織接着性物質、抗腫瘍剤、
細胞接着性物質、核酸、血漿タンパク質、抗プロテーアーゼ、フィブリン溶解イ
ンヒビター、ホルモン、ヘパリノイド、創傷治癒物質、およびそれらの混合物で
ある。薬学的に活性な物質が、本発明の結合体の一部として、フィブリン溶解イ
ンヒビター(例えば、アプロチニン)である場合、結合体が結合される凝塊は、
凝塊から容易に拡散する遊離のアプロチニンを単に含む凝塊よりも、長く持続す
る。
【0027】
これらの物質は、直接的に薬学的に活性であり得るか、または別の薬学的に活
性な物質の改善された作用を可能とし得るかのいずれかであり得、これらの物質
は、本発明の薬物貯蔵部と同時にか、または別々に適用され得る。例えば、組織
構成成分に対するレセプター、または組織接着性物質が適用され得、これは、フ
ィブリノーゲンに基づく組織接着剤の改善された能力を可能とする。組織接着剤
の接着特性を変化させる他の例は、本発明の結合体と共に提供され得る物質であ
る。「古典的」組織接着剤と共に適用される場合、接着特性に対する影響を有す
るそのような薬学的に活性な物質の存在は、特定の組織または細胞に対するフィ
ブリノーゲン組織接着剤の接着性または非接着性の能力に影響する。核酸または
抗腫瘍剤等の他の物質もまた、特定のフィブリン/フィブリノーゲン基剤と共に
適用され、所望の効果が必要とされる部位に、それらの物質の貯蔵部を形成し得
る。例えば、X線または磁気共鳴誘導法(MRI)あるいは呈色法等の画像に基
づく診断法に対して有用な物質もまた、本発明に従って用いられ得る。
【0028】
本発明の好ましい実施形態に従って、結合体または二官能性分子が、「古典的
」組織接着系に組み込むために設計される。通常、そのような系は、フィブリノ
ーゲンおよびトロンビン含有調製物(その調製物は、適用部位でのフィブリンの
形成を生じる、「1成分」もしくは「2成分」の接着剤に類似する)または予め
形成されたフィブリン調製物(例えば、フィブリンフリース(fleece))
を含む。形成されたフィブリン凝塊またはフィブリンフリースは、例えば、創傷
閉鎖または組織の接着を可能にする。この系における別の成分は、例えば、第X
III因子(架橋剤として)、フィブリン溶解インヒビター、などである(例え
ば、Fibrin Sealing in Surgical and Non
−Surgical Fields、 Schlag G.、Redl H.編、
Vols.1−9を参照のこと)。
フィブリン/フィブリノーゲン結合部分および物質捕捉部分は、好ましくは、
リンカー物質(特に、タンパク質化学において使用され、そして好ましく適用さ
れ得ることが証明されたリンカー物質)によって共有結合される。この好ましい
実施形態は、それらの部分の増強された可撓性が所望される場合に、特に適切で
ある。
【0029】
本発明に従う結合体の薬学的に活性な形態は、薬学的に活性な物質を含むが、
本発明はまた、薬物を有さない結合体にも関する。そのような「裸の」結合体は
、フィブリン/フィブリノーゲン結合部分および物質捕捉部分を含む結合体を、
それに対して物質捕捉部分が設計された個々の薬物で「充填すること」により、
薬学的に活性な形態へと容易に転換され得る。
【0030】
本発明の特定の実施形態は、適用される薬物がフィブリン/フィブリノーゲン
含有部分を保存するように設計された、結合体に関する。本発明のこの局面に従
って、物質捕捉部分は、省略され得る。また、結合体は、タンパク質化学、ペプ
チド合成および/または組換え技術によって、フィブリン/フィブリノーゲン結
合部分と薬学的に活性な物質を結合することによって(例えば、直接の共有結合
によってか、または適切なリンカー物質で結合させることによって)設計され得
る。また、これらの結合体は、薬学的に活性な物質を別に「充填すること」を必
要とせず、上記のような通常の組織接着系において用いられ得る。
【0031】
好ましいフィブリン/フィブリノーゲン結合の結合体は、VEGF165のC
末端ドメインが、その分子のフィブリン結合能力を担うという本発明者の発見に
基づく。本明細書中で、用語「VEGF165のC末端ドメイン」は、米国特許
第5,332,671号、図10aおよび10b(FerraraおよびLeu
ng)において示されたような、アミノ酸残基C104−R165をいう。VE
GF165はさらに、Tischerら、J.Biol.Chem.(1991
)266:11947−11954;Sahniら、Blood(2000)9
6:3772−3778;およびHouckら、J.Biol.Chem.(1
992)267:26031−26037において記載されている。この結合体
のフィブリン結合ドメインは、本明細書中の図10において示されるような、エ
キソン5、7、および8によりコードされている天然のアミノ酸配列に限定され
ない。その得られた融合タンパク質のフィブリン結合特性は、VEGF165
末端ドメインにおける特定のアミノ酸残基の付加、除去、または変異によって、
フィブリン貯蔵部からの放出速度を増加または減少させるために変更され得る。
VEGF165はまた、そのC末端ドメインの最初に、天然のプラスミン切断部
位を含む。従って、VEGF165のC末端ドメインは、フィブリン結合部分と
薬学的に活性な物質との間の「物質結合部分」を必要とすることなく、薬学的に
活性な物質を有する融合タンパク質を形成し得る。その結合体が、創傷部位にて
フィブリン凝塊に組み込まれる場合、その創傷に入る患者の血漿中の天然のプラ
スミノーゲンは、プラスミンへと変換され、次いで、そのプラスミンは、薬学的
に活性な物質を放出するために、融合タンパク質を切断し、凝塊からのその拡散
を可能にする。放出のための別の機構は、フィブリンからのVEGF165C末
端ドメインの解離速度に基づく;この機構に従って、この結合体全体は、凝塊か
ら放出され、そして拡散し、薬学的に活性な物質が、凝塊の外側で、創傷部位に
て働くことを可能とする。以下は、VEGF165のC末端部分に融合され得る
薬学的に活性な物質の例である:
レプチン(Frankら、J.Clin.Invest.(2000)106
:501−509;Sierra−Honigmannら、Science(1
998)281:1683−1686)、IL−8、MCP−1、およびPF−
4等の、サイトカイン、増殖因子、および創傷治癒物質。
【0032】
マガイニン、デフェンシン、およびグラヌリシン等の抗生物質ペプチド。
【0033】
アプロチニンおよびヒトリポタンパク関連凝固インヒビターのKunitzド
メイン(LACI−D1;Marklandら、Biochemistry(1
996)35:8045−8057)等のフィブリン溶解インヒビター。
【0034】
このように、放出される薬学的に活性な物質は、特定の細胞型の増殖、移動、
および分化を方向付けるように作用し、従って、このことが、創傷治癒および組
織修復の間の新生血管形成を増強する。
【0035】
別の局面に従って、本発明は、フィブリノーゲンに基づく組織接着剤および本
発明に従う結合体を備える、薬学的に活性な物質のための貯蔵部を形成するため
のキットに関する。その結合体は、医療使用の前に混合され得るように準備され
た、別々の形態において提供され得る。フィブリノーゲンに基づく組織接着剤お
よび本発明に従う結合体の「既時使用」混合物は、「古典的」組織接着剤につい
て当該分野において既に公知であるような手段および方法を用いて(特に、この
ような接着剤のフィブリノーゲン成分を用いて)適用され得る。このフィブリノ
ーゲン成分は、フィブリンへフィブリノーゲンをプロセシングする活性(好まし
くは、トロンビン調製物)を含む成分と共に、周知の方法において混合され得る

【0036】
従って、本発明に従うキットはまた、組織接着剤および結合体、ならびに必要
に応じて、フィブリノーゲンからのフィブリンへのプロセシング活性を投与する
ための適切なデバイスを備え得る。このようなデバイスについての例は、EP
0 037 393 A、EP 0 315 222 A、EP 0 156
098 A、EP 0 210 160 A、およびEP 0 292 472
Aにおいて記載されており、これらは、参考として本明細書中に援用される。
【0037】
別の局面に従って、本発明は、薬学的に活性な物質の貯蔵部を提供するための
方法に関し、その方法は、本発明に従う結合体を提供する工程、フィブリノーゲ
ン調製物と共に、貯蔵部位にてこの結合体を投与する工程、このフィブリノーゲ
ンをフィブリンにプロセシングさせる工程であって、これによって、フィブリン
凝塊が形成される、工程、およびこのフィブリノーゲンまたは形成されたフィブ
リン凝塊へこの結合体を結合させる工程を包含する。
【0038】
フィブリンへのフィブリノーゲンのプロセシングは、投与部位に既に存在して
いるトロンビンか、または外因的に添加されたフィブリノーゲンプロセシング活
性のいずれかによって実施され得る。トロンビンまたはトロンビン由来プロテア
ーゼ以外に、ストレプチラーゼ、プロテアーゼIIIおよび毒性のプロテアーゼ
(例えば、バクソトロピン)等の他のプロテアーゼが、フィブリノーゲン分子を
切断するために用いられ得る。フィブリン/フィブリノーゲンへのこの結合体の
結合は、フィブリン凝塊の形成の後で起こり得る。しかし、本発明に従う結合体
の結合がフィブリノーゲンレベルにて起こり得るように、より早い段階(例えば
、フィブリノーゲンプロセシング工程の間に、または(もっとも好ましくは)さ
らに前に)で、この結合プロセスを行わせることが好ましい。これは、貯蔵部全
体にわたる均一な結合体の分散を有するフィブリン貯蔵体を生じる。一方、この
結合体が、主としてフィブリン貯蔵部の表面に位置されることが意図される場合
、この結合体の結合は、フィブリン凝塊の形成後に成されるべきである。
本発明の別の局面は、本発明に従う結合体およびフィブリン(例えば、適切な
フィブリンマトリクス)を含む、薬学的に活性な物質のための貯蔵部に関する。
このような貯蔵部は、例えば、本発明に従う結合体のフィブリン網状構造基剤へ
の投与によって得ることが可能である。
【0039】
本発明のなおさらに別の目的は、病理学的状態に羅患している患者を処置する
ための方法に関し、この病理学的状態は、薬学的に活性な物質で処置され得、こ
の方法は、この患者に、フィブリノーゲンに基づく組織接着剤、および本発明に
従う結合体の有効量を投与する工程を包含する。
【0040】
それによって、適切な放出特性を有する薬学的に活性な物質の貯蔵部が提供さ
れ、その貯蔵部は、この物質を連続的および別々に提供することを必要とせずに
、この薬学的に活性な物質での患者の適切な処置を可能とする。
【0041】
ここで、本発明は、実施例および図面によって、より詳細に説明されるが、本
発明は、これらの実施例および図面に限定されない。
【実施例】
【0042】
(実施例)
本実施例において、任意の薬学的に活性な物質の例としての腫瘍壊死因子(T
NF)を、市販のTNF抗体を介して、フィブリン結合物質にカップリングする
。トロンビンおよびフィブロネクチンを、フィブリン/フィブリノーゲン結合部
分を有する物質の例として選択した。トロンビンおよびフィブロネクチンへの抗
体のカップリングを、1−エチル−3−(3−ジメチル−アミノプロピル)カル
ボジイミド(EDC)を用いて達成した。この型の反応において、カップリング
成分のカルボキシル基を、EDCにより活性化した;これらの活性化されたカル
ボキシル基は、他の成分のアミノ基と反応する。この部分の特性は、どの成分が
最初に活性化されるかに依存して異なり得るので、可能性とバリエーションは、
常に調査されてきた。以下の実施例において、結合体A−Bは、成分Aが、カル
ボキシル基で活性化された成分であり、そして成分Bが、そのアミノ基を介して
カップリングされている、ということを意味する。成功したカップリングの証明
および個々の結合親和性(TNF−抗体、トロンビン/フィブロネクチン−フィ
ブリン)の検出を、サンドイッチ−ELISAを介して分析した。
【0043】
(実施例1:)
(トロンビンへのTNF抗体のカップリング)
市販のTNF抗体を、EDCを介してトロンビンにカップリングした。この結
合体におけるカップリングおよび個々の結合親和性の証明は、サンドイッチ−E
LISA(図1)を介して検出した。簡単には、マイクロタイタープレートを、
フィブリノーゲンを用いてコートし、その後、複合体(トロンビン−TNF抗体
またはTNF抗体−トロンビン)と共に、TNFと共に、二次TNF抗体と共に
、そしてその二次抗体を認識する酵素結合体と共に、インキュベートした。この
酵素は、無色の基質を、有色の化合物に変換し、この化合物は、その後、検出可
能である。この基質のターンオーバーは、両方の成分(TNF抗体およびトロン
ビン)が、EDC反応によって共有結合でカップリングされ、そして両方の結合
親和性が保存された場合のみ可能となる。トロンビン−TNF抗体およびTNF
抗体−トロンビンは、この系において陽性反応を示す(図2)。コントロールと
して用いられた、改変されていないTNF抗体は、フィブリノーゲンマトリクス
にTNFを結合し得なかった。
【0044】
(実施例2:)
(フィブロネクチンへのTNF抗体のカップリング)
市販のTNF抗体を、EDCを用いて、フィブロネクチンにカップリングさせ
た。この結合体におけるカップリングの証明および個々の結合親和性の測定を、
実施例1におけるように、サンドイッチELISAを介して実施した(図3)。
フィブロネクチン−TNF抗体およびTNF抗体−フィブロネクチンは、この系
において陽性反応を示した(図4)。コントロールとしてのTNF抗体およびフ
ィブロネクチンの混合物は、フィブリノーゲンマトリクスへのTNFの低度の結
合性のみを示した。
【0045】
(実施例3:)
(組織接着凝塊からのTNFの遅延された遊離)
フィブリノーゲンに基づく組織接着凝塊におけるTNFの効率的な遅延の証明
を、フィブリンシーラントのフィブリノーゲンゲン成分への、実施例2において
記載されたようなTNFおよびフィブロネクチン−TNF抗体の複合体の添加に
よって実施した。コントロール実験において、TNFならびにフィブロネクチン
およびTNF抗体の混合物を、このフィブリノーゲン成分に添加された。フィブ
リン凝塊は、このような改変されたフィブリノーゲン成分により生成され、そし
てこのフィブリン凝塊を、凝集60分後にPBSに移した。次いで、凝塊を、3
7℃にてインキュベートし、そしてPBS上清を、規定の期間にて、新しいPB
Sで置換した。これらの上清中のTNF含量を、検出した(図5)。12日後、
凝塊を、ウロキナーゼによって溶解し、溶解物中のTNF含量を、検出した。
【0046】
組織接着剤のフィブリノーゲン成分へのフィブロネクチン−TNF抗体複合体
の添加は、フィブロネクチン−TNF抗体混合物の添加と比較して、TNFの遊
離の有意な遅延を生じた。これは、PBS上清中の、TNFの初期の遊離の減少
によって(1日目から3日目)、およびPBSにおける12日間のインキュベー
ション後の凝塊溶解物中のより高いTNF含量によって示された(図5)。フィ
ブリン凝塊は、PBS中でインキュベートしただけであり、そしてタンパク分解
性消化に曝されなかったので、測定されたTNFの遊離は、主としてフィブリン
凝塊からの拡散に起因した。プロテアーゼ(例えば、ウロキナーゼ)の添加を伴
うインキューベーションは、より長時間にわたる、TNFの連続的な遊離を生じ
る。
【0047】
(実施例4:)
(フィブロネクチンを介するアプロチニンの結合)
フィブリン結合アンカー(この場合においてはフィブロネクチン)への活性物
質(この場合においてはフィブリン溶解インヒビター)の共有結合に基いて、フ
ィブリン凝塊から周辺の媒体へのフィブリン溶解インヒビターの遅延された放出
が、示され得る。
【0048】
フィブロネクチン−アプロチニン結合体を、上記のように形成した。この結合
体を、フィブリン凝塊におけるその結合体の均一な分散を確保するために、トロ
ンビンとの混合の前に、フィブリノーゲン成分中に溶解した。その凝塊を、リン
酸緩衝化生理食塩水(PBS)中で、37℃にてインキュベートした。PBS上
清を数回交換し、そして凝塊の持続性を、視覚的に確認したか、またはPBS上
清中のタンパク濃度を測定することによって定量した。
【0049】
アプロチニン−フィブロネクチン結合体は、同じ活性の結合体化されていない
アプロチニンを補充したフィブリン凝塊と比較して、凝塊の持続性を増加した。
この凝塊の持続性の増加は、結合体化されていないアプロチニンと比較して、凝
塊からのPBSへのこの結合体の減少された放出によって起こり得る(図6)。
【0050】
(実施例5:)
(細菌性のフィブリン結合タンパク質fbeの結合)
フィブリン結合アンカーについての別の実施例は、streptococcu
s epidermidisの細菌タンパク質fbeである。このタンパク質を
、活性部分としてグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)を有する融
合タンパク質として発現させた。融合タンパク質fbe−GSTもしくはGST
単独のいずれかを発現する細菌からの溶解物を、同じ活性のGSTを含むように
調製し、そしてフィブリノーゲンまたはBSAをコートしたELISA−プレー
トに適用した。結合されたGSTを、抗GST抗体によって検出した。融合タン
パク質fbe−GSTは、そのfbe−ドメインを介してフィブリノーゲンに特
異的に結合する。この融合タンパク質は、非特異的なタンパク質−タンパク質の
相互作用のためのコントロールとして働く、ウシ血清アルブミン(BSA)に結
合しない。fbeドメインを欠く単独のGSTは、フィブリノーゲンには結合し
ない(図7)。
【0051】
(実施例6:)
(フィブリン/フィブリノーゲンアンカーとしてのDNA)
DNAは、フィブリン/フィブリノーゲンに非常に強く結合する。従って、D
NAの一部を、フィブリンシーラントマトリクスにおいて包理し、そしてそのフ
ィブリン/フィブリノーゲンに対する親和性は、長時間にわたる、DNAの遅い
が持続的な放出を導く。本発明の目的のために、DNAは、いずれの形態におい
ても(これは、一本鎖DNAまたは二本鎖DNA、直鎖状DNAまたは環状DN
Aを意味する)、フィブリン/フィブリノーゲン結合部分として好ましく用いら
れる。本実験のために、ビオチン化した一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(2
0b)およびビオチン化した二本鎖DNA(700b)を、合成した。ビオチン
化したDNA分子を、ストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ結合体と混合し、
親和性に基づく複合体を形成させた。この複合体を、フィブリノーゲンまたはB
SAをコートしたELISAプレートに適用し、そして結合されたペルオキシダ
ーゼ活性を測定した。ペルオキシダーゼは、フィブリン/フィブリノーゲン結合
部分としてのDNAを介して、フィブリノーゲンをコートしたウェルに特異的に
結合された。BSAへの結合は認められず、そしてDNAへのストレプトアビジ
ン−ペルオキシダーゼの非特異的な結合に起因する擬陽性の結果を除去するため
に、ビオチン化していないDNAを用いて、コントロール実験を実施し、これは
、シグナルを示さなかった(図8aおよび図8b)。
【0052】
(実施例7:)
(フィブリン/フィブリノーゲンアンカーとしてのトロンビン)
トロンビンは、フィブリノーゲン切断活性およびフィブリン/フィブリノーゲ
ン結合活性を有する。この2つの活性は、その分子における別々の部位に位置さ
れている。
【0053】
本実験のために、ビオチン化したアルブミンを、それ自体(=遊離の形態)で
か、またはトロンビン−PPACK(=D−Phe−Pro−Arg−クロロメ
チルケトン)アンカーを介して結合された(=共有結合された形態)かのいずれ
かの、フィブリン凝塊に混合した。ビオチンを、アルブミンの両方の形態の放出
量を測定するためのマーカーとして用いた。
【0054】
図9において示されたように、共有結合されたアルブミンは、フィブリンシー
ラント凝塊において、4日間遅延され、一方、遊離のアルブミンは1日以内に放
出された。
【0055】
(実施例8:)
(フィブリン結合組換え融合タンパク質)
図11は、本実施例のために生成された組換え融合タンパク質を示す(配列番
号1)。この融合タンパク質のフィブリン結合部分である、VEGF165のC
末端部分を、薬学的に活性な物質の一例である、レプチンに融合する。この融合
タンパク質は、VEGF165由来の天然のプラスミン切断部位を含む。C14
6において、全長レプチンにおける最後の残基は、VEGF165のC末端ドメ
インにおける最初のシステインと重複する。
【0056】
レプチン−VEGF165融合タンパク質をコードするDNA構築物を、Hi
ndIIIおよびPacI制限部位を用いて、図12において示されるプラスミ
ドに挿入した。次いで、そのプラスミドを、E.coliにトランスフェクトし
、そして、この融合タンパク質を、この細菌によって発現させた。
この融合タンパク質を、遺伝子工学の分野において周知の技術を用いて、この
細菌から精製する。次いで、その融合タンパク質を、フィブリン凝塊へと組み込
み、ここで、VEGF165のC末端部分は、その凝塊中のフィブリンに結合す
る。生じた凝塊は、創傷治癒のプロモーターであることが公知である、レプチン
の持続的な放出のための貯蔵部を形成する。その凝塊が、創傷部位に位置された
場合、その創傷に入る患者の血漿中の天然のプラスミノーゲンは、プラスミンに
変換され、次いで、そのプラスミンは、融合タンパク質を切断し、それによって
、レプチン部分を放出し、凝塊から拡散させ、治癒において作用する。放出のた
めの別の機構は、フィブリンからのVEGF165C末端ドメインの解離速度に
基づく;本機構に従って、その結合体全体は、放出され、そして凝塊から拡散し
、凝塊の外側で、レプチン部分が、創傷部位にて作用することを可能にする。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8a】
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【図8b】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−137044(P2011−137044A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−85844(P2011−85844)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【分割の表示】特願2002−531162(P2002−531162)の分割
【原出願日】平成13年9月25日(2001.9.25)
【出願人】(501056094)バクスター アクチェンゲゼルシャフト (9)
【出願人】(591013229)バクスター・インターナショナル・インコーポレイテッド (448)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER INTERNATIONAL INCORP0RATED
【Fターム(参考)】