説明

フィラメントワインディング装置

【課題】繊維束に対して樹脂を吹付ける方法を用いたフィラメントワインディング装置において、樹脂が飛散することに起因した歩留りの悪化を防止することができる技術を提供する。
【解決手段】ライナー2を回転させながら移送するとともに、ライナー2の軌道上の周囲に配置された繊維供給ガイド44により導かれる繊維束1Bをライナー2の外周面2aに巻き付けていくフィラメントワインディング装置100において、ライナー2に巻き付けられる手前の繊維束1Bに対して樹脂を吹付ける樹脂供給ノズル45を備え、樹脂供給ノズル45は、樹脂供給ノズル45の噴射口45aとライナー2の回転軸とを結んだ直線により定義される仮想線に対して、ライナー2の回転方向の下流側に向けて樹脂を吹付けるように配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィラメントワインディング装置の技術に関する。より詳細には、フィラメントワインディング装置において、繊維束に樹脂を含浸させる際の歩留りの悪化を防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、樹脂を含浸させた繊維束をライナーの外周面に巻き付けていくフィラメントワインディング装置が知られている。そして、繊維束に樹脂を含浸させる方法として、繊維束を樹脂槽に浸漬させる方法(例えば特許文献1参照。)や、繊維束に対して樹脂を吹付ける方法(例えば特許文献2参照。)等が公知となっている。
【0003】
しかし、繊維束を樹脂槽に浸漬させる方法においては、浸漬後の繊維束を送り出すガイドローラ等に樹脂が付着するためにメンテナンスの頻度が増加するという問題点があった。一方、繊維束に対して樹脂を吹付ける方法においては、繊維束がライナーに巻き付けられる直前に樹脂を吹付けることによってガイドローラ等に樹脂が付着することを回避できるが、吹付けた樹脂が飛散することに起因した歩留りの悪化が問題とされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−108487号公報
【特許文献2】特開平9−262910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、繊維束に対して樹脂を吹付ける方法を用いたフィラメントワインディング装置において、樹脂が飛散することに起因した歩留りの悪化を防止することができる技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
次に、この課題を解決するための手段を説明する。
【0007】
即ち、第1の発明は、ライナーを回転させながら移送するとともに、該ライナーの軌道上の周囲に配置された繊維供給ガイドにより導かれる繊維束を該ライナーの外周面に巻き付けていくフィラメントワインディング装置において、
前記ライナーに巻き付けられる手前の前記繊維束に対して樹脂を吹付ける樹脂供給ノズルを備え、
前記樹脂供給ノズルは、該樹脂供給ノズルの噴射口と前記ライナーの回転軸とを結んだ直線により定義される仮想線よりも前記ライナーの回転方向の下流側に向けて樹脂を吹付けるように配置されるものである。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、前記樹脂供給ノズルは、前記ライナーの移送方向と直交する平面により定義される仮想平面に対して平行に樹脂を吹付けるように配置されるものである。
【0009】
第3の発明は、第1の発明において、前記樹脂供給ノズルは、前記ライナーの移送方向と直交するとともに前記噴射口と交わる平面により定義される仮想平面よりも前記ライナーの前側に向けて樹脂を吹付けるように配置されるものである。
【0010】
第4の発明は、第1から第3のいずれかに記載の発明において、前記樹脂供給ノズルは、前記ライナーに巻き付けられる手前の前記繊維束の進行方向に対して平行又は略平行に樹脂を吹付けるように配置されるものである。
【0011】
第5の発明は、第1から第4のいずれかに記載の発明において、前記樹脂供給ノズルは、前記ライナーの外周面に対して進退する方向に移動自在とするものである。
【0012】
第6の発明は、第1から第5のいずれかに記載の発明において、前記樹脂供給ノズルは、前記ライナーの移送方向に対して前側に配置される第1の樹脂供給ノズルと前記ライナーの移送方向に対して後側に配置される第2の樹脂供給ノズルとを含み、
前記第1の樹脂供給ノズルが主として前記繊維束に対して樹脂を吹付け、前記第2の樹脂供給ノズルが補完的に前記繊維束に対して樹脂を吹付けるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0014】
第1の発明によれば、繊維束に対して吹付けられた樹脂の飛散を抑制することができて、樹脂の歩留りの悪化を防止することが可能となる。
【0015】
第2の発明によれば、ライナーに巻き付けられる手前の繊維束に確実に樹脂を含浸させることができるとともに、繊維束に対して吹付けられた樹脂の飛散を抑制することができて、樹脂の歩留りの悪化を防止することが可能となる。
【0016】
第3の発明によれば、ライナーに巻き付けられる手前の繊維束に確実に樹脂を含浸させることができるとともに、繊維束に対して吹付けられた樹脂の飛散を抑制することができて、樹脂の歩留りの悪化を防止することが可能となる。また、吹付けられた樹脂がライナーの外周面を沿うようにして流れるために、ライナーに巻き付けられた後の繊維束に対して更に樹脂を含浸させることが可能となる。
【0017】
第4の発明によれば、ライナーに巻き付けられる手前の繊維束により確実に樹脂を含浸させることができるとともに、繊維束に対して吹付けられた樹脂の飛散を抑制することができて、樹脂の歩留りの悪化を防止することが可能となる。また、吹付けられた樹脂がライナーの外周面を沿うようにして流れるために、ライナーに巻き付けられた後の繊維束に対して更に樹脂を含浸させることが可能となる。
【0018】
第5の発明によれば、樹脂供給ノズルとライナーとの距離を適宜調整することでライナーに巻き付けられる手前の繊維束に確実に樹脂を含浸させることができるとともに、繊維束に対して吹付けられた樹脂の飛散を抑制することができて、樹脂の歩留りの悪化を防止することが可能となる。
【0019】
第6の発明によれば、第1の樹脂供給ノズルが主として繊維束に対して樹脂を吹付け、第2の樹脂供給ノズルが補完的に繊維束に対して樹脂を吹付けることで、繊維束の巻き付け速度等の変化に対しても確実に樹脂を含浸させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係るフィラメントワインディング装置の全体構成を示す図。
【図2】本発明に係るフィラメントワインディング装置を構成するヘリカル巻き装置を示す図。
【図3】ヘリカル巻き装置を構成する繊維供給ガイドならびに樹脂供給ノズルを示す図。
【図4】ライナーの外径に応じて繊維供給ガイドならびに樹脂供給ノズルを移動する動作を示す図。
【図5】(5A)本発明の第一実施形態に係るフィラメントワインディング装置の樹脂の吹付けを示す正面図。(5B)本発明の第一実施形態に係るフィラメントワインディング装置の樹脂の吹付けを示す側面図。
【図6】(6A)従来のフィラメントワインディング装置の樹脂噴霧を示す正面図。(6B)本発明の第一実施形態に係るフィラメントワインディング装置の樹脂噴霧を示す正面図。
【図7】(7A)本発明の第二実施形態に係るフィラメントワインディング装置の樹脂の吹付けを示す正面図。(7B)本発明の第二実施形態に係るフィラメントワインディング装置の樹脂の吹付けを示す側面図。
【図8】(8A)本発明の第二実施形態に係るフィラメントワインディング装置の樹脂噴霧を示す正面図。(8B)本発明の第二実施形態に係るフィラメントワインディング装置の樹脂噴霧を示す側面図。
【図9】繊維束に対して第2の樹脂供給ノズルが補完的に樹脂を吹付けることを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
まず、図1を用いて本発明に係るフィラメントワインディング装置100の全体構成について説明する。
【0022】
図1は、本発明に係るフィラメントワインディング装置100の側面図であり、図中に示す矢印はライナー2の移送方向を示している。ここで、ライナー2の移送方向と平行する方向をライナー2若しくはフィラメントワインディング装置100の前後方向とし、ライナー2が移送される方向である一側を前側(本図左側)、その他側を後側(本図右側)と定義する。なお、ライナー2は、フィラメントワインディング装置100の前後方向に往復動するものであるため、図1に示す移送方向と反対側に移送される場合には、前後方向が反対向きとなる。
【0023】
フィラメントワインディング装置100は、備え付けられたライナー2の外周面2aに樹脂を含浸させた繊維束1A・1Bを巻き付けていく装置である。フィラメントワインディング装置100は、主に主基台10と、ライナー移送装置20と、フープ巻き装置30と、ヘリカル巻き装置40と、から構成される。
【0024】
ライナー2は、フィラメントワインディング装置100によって、その外周面2aに繊維束1A・1Bが巻き付けられる被巻回物である。ライナー2は、例えば高強度アルミニウム材やポリアミド系樹脂等によって形成された略円筒形状の中空容器とされ、該ライナー2の外周面2aに繊維束1A・1Bが巻き付けられることによって耐圧特性の向上が図られる。つまり、ライナー2は、耐圧容器を構成する基材とされる。
【0025】
主基台10は、フィラメントワインディング装置100の主たる構造体をなすものである。そして、主基台10の上部に設けられたライナー移送装置用レール11には、ライナー移送装置20がフィラメントワインディング装置100の前後方向に移動可能に載置されている。また、ライナー移送装置用レール11と平行するように設けられたフープ巻き装置用レール12には、フープ巻き装置30がフィラメントワインディング装置100の前後方向に移動可能に載置されている。
【0026】
ライナー移送装置20は、備え付けられたライナー2を回転させるとともに、該ライナー2をフィラメントワインディング装置100の前後方向に移送する装置である。ライナー移送装置20は、主に移送装置基台21と、図示しない移送用駆動装置と、ライナー支持部22と、から構成される。
【0027】
移送装置基台21は、ライナー移送装置20の主たる構造体をなすものであり、上述したように主基台10のライナー移送装置用レール11に載置されて移送用駆動装置によって前後方向に移動可能とされる。そして、移送装置基台21には前後方向に一対のライナー支持部22が設けられており、該ライナー支持部22によってライナー2が支持されることとなる。
【0028】
具体的には、ライナー支持部22は、主に移送装置基台21から上方に向けて延設されたライナー支持フレーム23と、該ライナー支持フレーム23の上部から前後方向に向けて延設された回転軸部24と、で構成される。そして、一対のライナー支持部22を構成するそれぞれの回転軸部24にチャック等によって取り付けられたライナー2は、回転軸部24によって一方向に回転されることとなる。
【0029】
このような構成により、ライナー2は、該ライナー2の回転軸がフィラメントワインディング装置100の前後方向に対して平行となるように回転されるとともに、フィラメントワインディング装置100の前後方向に移送されるのである。
【0030】
フープ巻き装置30は、フィラメントワインディング装置100の前後方向に対して略垂直となるようにライナー2の外周面2aに繊維束1Aを巻き付けていく、いわゆるフープ巻きを行なう装置である。フープ巻き装置30は、主にフープ巻き装置基台31と、図示しない移送用駆動装置と、回転用駆動装置32と、フープ巻き掛け装置33と、から構成される。
【0031】
フープ巻き装置基台31は、フープ巻き装置30の主たる構造体をなすものであり、上述したように主基台10のフープ巻き装置用レール12に載置されて移送用駆動装置によって前後方向に移動可能とされる。そして、フープ巻き装置基台31には回転用駆動装置32ならびにフープ巻き掛け装置33が設けられており、回転用駆動装置32によりフープ巻き掛け装置33が回転されることによって繊維束1Aの巻き付けが行なわれるものとされる。
【0032】
具体的には、フープ巻き掛け装置33は、主にフープ巻きを行なう巻き掛けテーブル34と、該巻き掛けテーブル34に繊維束1Aの供給を行なうボビン35と、で構成される。巻き掛けテーブル34は、ライナー2の外周面2aに繊維束1Aを導く複数の繊維供給ガイドと、該繊維供給ガイドからライナー2へ向かう繊維束1Aに対して樹脂を吹付ける複数の樹脂供給ノズルとが配置された部材である。
【0033】
詳細に説明すると、巻き掛けテーブル34には、ライナー2の外周面2aから互いに等しい距離となるように繊維供給ガイドが放射状に配置されており、これらの繊維供給ガイドにより導かれるそれぞれの繊維束1Aに対して樹脂供給ノズルから樹脂を吹付けるものとされる。そして、このようにして樹脂が含浸された繊維束1Aは、フープ巻き装置30が巻き掛けテーブル34を回転させながら前後方向に移動することによってライナー2の外周面2aに巻き付けられていくのである。
【0034】
ヘリカル巻き装置40は、フィラメントワインディング装置100の前後方向に対して所定の角度となるようにライナー2の外周面2aに繊維束1Bを巻き付けていく、いわゆるヘリカル巻きを行なう装置である。ヘリカル巻き装置40は、主にヘリカル巻き装置基台41と、ヘリカル巻き掛け装置42と、から構成される。
【0035】
ヘリカル巻き装置基台41は、ヘリカル巻き装置40の主たる構造体をなすものであり、主基台10に固設されている。そして、ヘリカル巻き装置基台41にはヘリカル巻き掛け装置42が設けられており、ライナー移送装置20に備え付けられたライナー2が回転されながら移送されて、ヘリカル巻き掛け装置42を通過することによって繊維束1Bの巻き付けが行なわれるものとされる。
【0036】
具体的には、ヘリカル巻き掛け装置42は、主にヘリカル巻きを行なうヘリカル巻きヘッド43と、該ヘリカル巻きヘッド43に繊維束1Bの供給を行なう図示しないボビンと、で構成される。ヘリカル巻きヘッド43は、ライナー2の外周面2aに繊維束1Bを導く複数の繊維供給ガイド44と、該繊維供給ガイド44からライナー2へ向かう繊維束1Bに対して樹脂を吹付ける複数の樹脂供給ノズル45とが配置された部材である(図2参照。)。
【0037】
詳細に説明すると、ヘリカル巻きヘッド43には、ライナー2の軌道上の周囲であって該ライナー2の外周面2aから互いに等しい距離となるように繊維供給ガイド44が放射状に配置されており、これらの繊維供給ガイド44により導かれるそれぞれの繊維束1Bに対して樹脂供給ノズル45から樹脂を吹付けるものとされる。そして、このようにして樹脂が含浸された繊維束1Bは、ライナー移送装置20に備え付けられたライナー2が回転されながら移送されることによって該ライナー2の外周面2aに巻き付けられていくのである。
【0038】
図2、図3を用いて本発明に係るフィラメントワインディング装置100のヘリカル巻き装置40と、該ヘリカル巻き装置40を構成する繊維供給ガイド44ならびに樹脂供給ノズル45について詳細に説明する。
【0039】
図2は、フィラメントワインディング装置100のヘリカル巻き装置40の構成を示す側面図であり、図3は、ヘリカル巻き装置40を構成する繊維供給ガイド44ならびに樹脂供給ノズル45を示す側面図である。
【0040】
上述したように、ヘリカル巻き装置40は、主たる構造体をなすヘリカル巻き装置基台41と、ヘリカル巻きヘッド43等からなるヘリカル巻き掛け装置42と、から構成される。そして、ヘリカル巻きヘッド43に設けられた繊維供給ガイド44は、図示しないボビンから供給された繊維束1Bをライナー2へ導くものとされ、樹脂供給ノズル45は、繊維供給ガイド44からライナー2へ向かう繊維束1Bに対して樹脂を吹付けるものとされる。
【0041】
図2、図3を用いて繊維供給ガイド44について詳細に説明する。繊維供給ガイド44は、主にガイド50と、ガイド進退機構60と、ガイド回転機構70と、から構成される。
【0042】
ガイド50は、ボビンから供給された繊維束1Bをライナー2の外周面2aまで導くものである。ガイド50は、主に繊維束1Bの案内通路が形成された略テーパ形状のガイド部材51と、該ガイド部材51が挿通される側面視L字形状のガイド支持部材52と、で構成される。
【0043】
ガイド部材51は、その一側である入口部51aから他側である出口部51bまで貫通するように案内通路が形成されており、ボビンから供給された繊維束1Bをライナー2の外周面2aまで導くものである。なお、ガイド部材51は、その出口部51bの形状が略長円形状に形成されており、これによって、繊維束1Bを円滑に供給することを可能としている。
【0044】
ガイド支持部材52は、テーパ形状の貫通穴52aが設けられており、該貫通穴52aにガイド部材51を挿通させることによって、その軸心方向を中心軸として回転自在に支持するものである。
【0045】
このような構成により、ボビンから供給された繊維束1Bは、ガイド支持部材52に支持されたガイド部材51に導かれてライナー2の外周面2aに巻き付けられていくのである。
【0046】
ガイド進退機構60は、ライナー2の外周面2aに対して進退する方向にガイド50を移動させる機構である。ガイド進退機構60は、主にガイド支持部材52に設けられた貫通穴52bに挿通されて該ガイド支持部材52を軸心方向に移動自在とするガイド軸61と、ガイド支持部材52を案内する案内溝62aが穿設された環状の溝カム62と、で構成される。
【0047】
ガイド軸61は、その軸心方向がライナー2の回転軸に対して垂直となる方向に設けられており、該ガイド軸61の両端はライナー2の回転軸と同軸となるように配置された断面視C字形状の環状部材46に固設されている。
【0048】
溝カム62は、その回転軸がライナー2の回転軸と同軸となるように配置され、環状部材46の凹部46aに内設されている。そして、溝カム62の一面には回転に伴って径方向に軌道が変化する案内溝62aが穿設されており、該案内溝62aには前後方向に対して平行に突設されたガイド支持部材52の突出部52cが挿入されている。
【0049】
このような構成により、図4に示すように、ライナー2の外周面2aに対して進退する方向にガイド50を移動させることが可能となる。つまり、ライナー2の外径に応じて溝カム62を回転すると、該溝カム62の案内溝62aにガイド支持部材52を案内させることができ、ガイド50をガイド軸61の軸心方向に移動させることが可能となるのである。
【0050】
ガイド回転機構70は、ガイド部材51の軸心方向を中心軸として該ガイド部材51を回転させる機構である。ガイド回転機構70は、主にガイド支持部材52に設けられた貫通穴52dに挿通されて軸心方向を中心軸として回転可能に支持された伝達軸71と、該伝達軸71の一端部に形成されたスプライン軸部により挿通される略円筒形状のソケット72と、環状のフェースギヤ73と、で構成される。
【0051】
伝達軸71は、その軸心方向がライナー2の回転軸に対して垂直となる方向であってガイド進退機構60を構成するガイド軸61と平行に設けられている。そして、伝達軸71の一端はガイド支持部材52の貫通穴52dに回転自在に挿通され、スプライン軸部が形成された他端はソケット72に挿通されている。また、伝達軸71の中途部にはガイド部材51の一端部に設けられたドリブンギヤ51cと噛合するようにドライブギヤ71aが設けられている。
【0052】
ソケット72は、その軸心方向にスプライン穴が形成されており、該スプライン穴には上述したように伝達軸71のスプライン軸部が挿通される。そして、ソケット72は、ライナー2の回転軸と同軸となるように配置された環状部材46にその軸心方向を中心軸として回転自在に支持されている。
【0053】
フェースギヤ73は、その回転軸がライナー2の回転軸と同軸となるように配置され、環状部材46の外周に回転自在に外嵌されている。そして、フェースギヤ73のギヤ部はソケット72の一端部に設けられたドリブンギヤ72aと噛合される。
【0054】
このような構成により、ガイド部材51の軸心方向を中心軸として該ガイド部材51を回転させることが可能となる。つまり、フェースギヤ73を回転すると、ソケット72や伝達軸71を介してガイド部材51を回転させることができ、ガイド部材51とライナー2とを近接させた場合であってもガイド部材51同士の当接を回避することが可能となるのである。
【0055】
次に、図2、図3を用いて樹脂供給ノズル45について詳細に説明する。樹脂供給ノズル45は、主にノズル本体部80と、二重管ノズル部90と、で構成される。
【0056】
ノズル本体部80は、樹脂供給ノズル45の主たる構造体をなすものであり、本発明に係るフィラメントワインディング装置100においては、繊維供給ガイド44を構成するガイド支持部材52の側方に取り付けられている。そして、ノズル本体部80は、図示しない空気タンクや樹脂タンクとバルブ等を介して接続される。
【0057】
二重管ノズル部90は、円管形状の外管91と、該外管91に内設された円管形状の内管92と、から構成されて、繊維供給ガイド44のガイド部材51からライナー2へ向かう繊維束1Bに対して樹脂を吹付けるものである。
【0058】
二重管ノズル部90を構成する外管91は、空気タンクから供給された空気を噴出させるエアノズルとされ、内管92は、樹脂タンクから供給された樹脂を噴出させる樹脂ノズルとされる。つまり、空気タンクから供給された空気は、外管91と内管92との隙間から噴出し、樹脂タンクから供給された樹脂は、内管92から噴出するものとされる。
【0059】
このような構成により、比較的に比重が大きく粘度が高い樹脂であっても空気噴流によって安定して噴出させることが可能となる。従って、ライナー2へ向かう繊維束1Bに対して樹脂を吹付けることを可能とするとともに、樹脂供給ノズル45の樹脂吹付け特性に及ぼす重力の影響を低減させることが可能となるのである。
【0060】
なお、本発明に係るフィラメントワインディング装置100においては、ノズル本体部80がガイド支持部材52の側方に取り付けられるものとしているが、ガイド50と一体となって移動可能であれば取り付け位置について、これに限定するものではない。
【0061】
以上のような構成において、本発明の第一実施形態に係るフィラメントワインディング装置100について説明する。
【0062】
図5Aは、本発明の第一実施形態に係るフィラメントワインディング装置100の樹脂の吹付けを示す正面図であり、図5Bは、その側面図である。なお、図中に示す矢印はライナー2の移送方向ならびに回転方向を示している。
【0063】
本実施形態において、繊維束1Bに対して樹脂を吹付ける樹脂供給ノズル45は、該樹脂供給ノズル45の噴射口45aとライナー2の回転軸とを結んだ直線により定義される仮想線よりもライナー2の回転方向(図示時計方向)の下流側に(図5A参照。)、且つ、ライナー2の移送方向と直交する平面により定義される仮想平面に対して平行に(図5B参照。)樹脂を吹付けるものとされる。
【0064】
また、図5A、図5Bに示すように、繊維供給ガイド44のガイド部材51からライナー2へ導かれる繊維束1Bは、正面視にて時計方向に回転されながら側面視にてフィラメントワインディング装置100の前側に移送されるライナー2によって、その外周面2aに巻き付けられるために、ライナー2の回転方向の下流側、且つ、ライナー2の前側へ張架されることとなる。
【0065】
このため、ガイド部材51とライナー2との間で張架された繊維束1Bは、樹脂供給ノズル45から噴出して形成される樹脂噴霧を通過してライナー2へ向かうこととなるために、繊維束1Bへの樹脂の含浸を良好に行なうことが可能となる。
【0066】
また、図6Aに示すように、従来の樹脂の吹付けの態様においては、樹脂噴霧がライナー2の外周面2aと衝突することによって樹脂の飛散を生じていたが、図6Bに示すように、本実施形態に係るフィラメントワインディング装置100においては、ライナー2の外周面2aに達した樹脂噴霧が、その後、外周面2aに沿って流れるために樹脂の飛散を抑制することが可能となる。従って、樹脂の飛散に起因した歩留りの悪化を防止することが可能となるのである。
【0067】
次に、本発明の第二実施形態に係るフィラメントワインディング装置100について説明する。
【0068】
図7Aは、本発明の第二実施形態に係るフィラメントワインディング装置100の樹脂の吹付けを示す正面図であり、図7Bは、その側面図である。なお、図中に示す矢印はライナー2の移送方向ならびに回転方向を示している。
【0069】
本実施形態において、繊維束1Bに対して樹脂を吹付ける樹脂供給ノズル45は、該樹脂供給ノズル45の噴射口45aとライナー2の回転軸とを結んだ直線により定義される仮想線よりもライナー2の回転方向(図示時計方向)の下流側に(図7A参照。)、且つ、ライナー2の移送方向と直交するとともに噴射口45aと交わる平面により定義される仮想平面よりもライナー2の前側に向けて(図7B参照。)樹脂を吹付けるものとされる。
【0070】
また、前述したように、繊維供給ガイド44のガイド部材51からライナー2へ導かれる繊維束1Bは、ライナー2の回転方向の下流側、且つ、ライナー2の前側へ張架されることとなる。
【0071】
このため、ガイド部材51とライナー2との間で張架された繊維束1Bは、樹脂供給ノズル45から噴出して形成される樹脂噴霧を通過してライナー2へ向かうこととなるために、繊維束1Bへの樹脂の含浸を良好に行なうことが可能となる。
【0072】
そして、図8A、図8Bに示すように、ライナー2の外周面2aに達した樹脂噴霧は、その後、外周面2aに沿って流れるために、樹脂噴霧がライナー2の外周面2aと衝突することによる樹脂の飛散を抑制することが可能となる。従って、樹脂の飛散に起因した歩留りの悪化を防止することが可能となるのである。
【0073】
また、ライナー2の外周面2aを沿うようにして流れる樹脂噴霧は、ライナー2の回転によって生じる随伴気流(図8A破線矢印参照。)によってライナー2の前側に向けて螺旋状に流れるために(図8B破線矢印参照。)、ライナー2に巻き付けられた後の繊維束1Bに対して更に樹脂を含浸させることが可能となる。
【0074】
このとき、放射状に配置された複数の樹脂供給ノズル45から噴出して形成されるそれぞれの樹脂噴霧は、互いの樹脂噴霧の流れを阻害することなく協調して螺旋状に流れるために、ライナー2に巻き付けられた後の繊維束1Bに対してムラ無く樹脂を含浸させることが可能となるのである。
【0075】
なお、本発明に係るフィラメントワインディング装置100における樹脂の吹付けの一態様として、樹脂の吹付け方向がライナー2に巻き付けられる手前の繊維束1Bの進行方向に対して平行又は略平行となるように、即ち、樹脂供給ノズル45から噴出して形成される樹脂噴霧が繊維束1Bに沿うように樹脂供給ノズル45を配置することが挙げられる。
【0076】
こうすることで、繊維束1Bは、樹脂噴霧を沿うように通過してライナー2へ向かうこととなるために、樹脂の含浸をより良好に行なうことが可能となる。また、樹脂噴霧がライナー2の外周面2aと衝突することによる樹脂の飛散を抑制できるために、樹脂の歩留りの悪化を防止することが可能となる。更に、樹脂噴霧がライナー2の前側に向けて螺旋状に流れるために、ライナー2に巻き付けられた後の繊維束1Bに対してムラ無く樹脂を含浸させることが可能となる。
【0077】
次に、本発明に係るフィラメントワインディング装置100において、ライナー2の外径が変化する場合における樹脂の吹付けの態様について説明する。
【0078】
前述したように、本発明に係るフィラメントワインディング装置100においては、繊維供給ガイド44を構成するガイド進退機構60によって、ライナー2の外周面2aに対して進退する方向にガイド50を移動させることが可能とされる(図4参照。)。
【0079】
これは、ライナー2における繊維束1Bの巻き付け位置において、該ライナー2の外径が変化すると外周面2aとガイド部材51との距離が変化して繊維束1Bの張力に影響を与える可能性があるために、ガイド50を移動させることによって張力の安定を図ったものである。
【0080】
また、繊維束1Bに対して樹脂を吹付ける樹脂供給ノズル45は、ガイド50を構成するガイド支持部材52の側方に取り付けられているために、ガイド50と一体となって移動することとなる。
【0081】
これにより、ライナー2の外径が変化する場合であっても、樹脂供給ノズル45とライナー2との距離を適宜に調整することが可能となり、繊維束1Bへの樹脂の含浸を良好に行なうことが可能となる。
【0082】
なお、例えば樹脂供給ノズル45の樹脂を吹付ける方向を変化させるアクチュエータを備えて、ライナー2の外径の変化や繊維束1Bの巻き付け角度に応じて樹脂を吹付ける方向を適宜に調節可能とする構成としても良い。これにより、ライナー2の外径や繊維束1Bの巻き付け角度が変化する場合であっても、繊維束1Bに対して安定して樹脂を吹付けることができ、繊維束1Bへの樹脂の含浸を良好に行なうことが可能となる。
【0083】
更に、本発明に係るフィラメントワインディング装置100においては、ヘリカル巻きヘッド43がフィラメントワインディング装置100の前後方向に並列に設けられているために(図2参照。)、それぞれに備えられる樹脂供給ノズル45から同時に樹脂を吹付けることも可能とされる。
【0084】
また、図9に示すように、フィラメントワインディング装置100の前側となる第1の樹脂供給ノズル45が主として樹脂を吹付け、フィラメントワインディング装置100の後側となる第2の樹脂供給ノズル45が補完的に樹脂を吹付けるものとしても良い。
【0085】
これは、ライナー移送装置20によって回転されるライナー2の回転速度は常に一定とされるために、ライナー2の外径やライナー2の送り速度が変化することに伴って繊維束1Bの巻き付け速度が変化した場合には樹脂の吹付け量を適宜に調量する必要があるためである。
【0086】
これにより、例えば繊維束1Bの巻き付け速度が上昇した場合においては、第2の樹脂供給ノズル45によって補完的に樹脂の吹付けを行ない、繊維束1Bの巻き付け速度が低下した場合においては、第2の樹脂供給ノズル45による樹脂の吹付けを停止することで、繊維束1Bへの樹脂の含浸を良好に行なうことが可能となる。
【符号の説明】
【0087】
1A・1B 繊維束
2 ライナー
2a 外周面
10 主基台
20 ライナー移送装置
30 フープ巻き装置
40 ヘリカル巻き装置
42 ヘリカル巻き掛け装置
43 ヘリカル巻きヘッド
44 繊維供給ガイド
45 樹脂供給ノズル
45a 噴射口
50 ガイド
51 ガイド部材
52 ガイド支持部材
60 ガイド進退機構
61 ガイド軸
62 溝カム
62a 案内溝
70 ガイド回転機構
71 伝達軸
72 ソケット
73 フェースギヤ
80 ノズル本体部
90 二重管ノズル部
91 外管
92 内管
100 フィラメントワインディング装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ライナーを回転させながら移送するとともに、該ライナーの軌道上の周囲に配置された繊維供給ガイドにより導かれる繊維束を該ライナーの外周面に巻き付けていくフィラメントワインディング装置において、
前記ライナーに巻き付けられる手前の前記繊維束に対して樹脂を吹付ける樹脂供給ノズルを備え、
前記樹脂供給ノズルは、該樹脂供給ノズルの噴射口と前記ライナーの回転軸とを結んだ直線により定義される仮想線よりも前記ライナーの回転方向の下流側に向けて樹脂を吹付けるように配置される、ことを特徴とするフィラメントワインディング装置。
【請求項2】
前記樹脂供給ノズルは、前記ライナーの移送方向と直交する平面により定義される仮想平面に対して平行に樹脂を吹付けるように配置される、ことを特徴とする請求項1に記載のフィラメントワインディング装置。
【請求項3】
前記樹脂供給ノズルは、前記ライナーの移送方向と直交するとともに前記噴射口と交わる平面により定義される仮想平面よりも前記ライナーの前側に向けて樹脂を吹付けるように配置される、ことを特徴とする請求項1に記載のフィラメントワインディング装置。
【請求項4】
前記樹脂供給ノズルは、前記ライナーに巻き付けられる手前の前記繊維束の進行方向に対して平行又は略平行に樹脂を吹付けるように配置される、ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のフィラメントワインディング装置。
【請求項5】
前記樹脂供給ノズルは、前記ライナーの外周面に対して進退する方向に移動自在とする、ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のフィラメントワインディング装置。
【請求項6】
前記樹脂供給ノズルは、前記ライナーの移送方向に対して前側に配置される第1の樹脂供給ノズルと前記ライナーの移送方向に対して後側に配置される第2の樹脂供給ノズルとを含み、
前記第1の樹脂供給ノズルが主として前記繊維束に対して樹脂を吹付け、前記第2の樹脂供給ノズルが補完的に前記繊維束に対して樹脂を吹付ける、ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のフィラメントワインディング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−56799(P2011−56799A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209253(P2009−209253)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】