説明

フィルムの製造方法および製造装置

【課題】均一な孔径を有する空孔が形成された周期的なハニカム構造のフィルムを効率的に製造することができるフィルムの製造方法および製造装置を提供すること。
【解決手段】ポリマー溶液から成る所定厚みの溶液膜を基板上に形成する工程と、加湿された気体を、ノズルから前記溶液膜の表面に、当該表面に対して平行な前記気体の流れが存在するように吹き付け、前記気体の吹き付け方向と反対方向で前記溶液膜の表面に平行な方向に前記ノズルを移動させ、前記溶液膜の表面に、結露による水滴を形成する工程と、前記溶液膜に含まれる溶媒を蒸発させる工程と、前記溶液膜に含まれる水滴を蒸発させる工程と、有するフィルムの製造方法である。水滴に対応する空孔をフィルムの内部または表面に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造を有するフィルムの製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハニカム構造を有するフィルムは、細胞培養用基材として有用であると考えられている。また、特定の孔径と孔径バラツキをもつハニカム構造のフィルムは、血液濾過膜などとしても利用されることが期待されている。この濾過膜は輸血用の全血から白血球を除去するためなどに用いられる。
【0003】
ところで、近年、種々の病症を治療するためにステントなどの医療用具を体内に留置することが行われている。たとえば、ガンなどで狭窄・閉鎖した胆管や尿管を拡張するための医療用具として胆管ステントや尿管ステントが知られている。
【0004】
これらのステントを用いる場合には、ガンの進行により、一旦拡張した胆管や尿管が再狭窄・閉鎖してしまう場合がある。そこで、これを防ぐために、ステントなどの医療器具の表面に被覆層を設け、この被覆層の存在によりガンの進行を抑制させる試みも提案されている。この被覆層として、ハニカム構造を有するフィルムを用いようとする試みが、本出願人により提案されている(特許文献1)。
【0005】
下記の特許文献2には、ハニカム構造を有するフィルムの製造方法および製造装置が開示されている。この文献に記載してある方法では、まず、高分子溶液を、基板上にキャストし、溶液膜を形成する。その後に、溶液膜の表面に、結露水からなる水滴を形成する。この水滴を溶液膜中に含有させ、その後に、溶液膜中の溶媒の蒸発と、水滴の蒸発とを行い、ハニカム構造を有するフィルムを製造することができる。
【0006】
しかしながら、従来のハニカム構造を有するフィルムの製造方法および製造装置では、溶液膜の表面に加湿された空気をノズルから略垂直に吹き付け、溶液膜を保持する基板を、ノズルの吹き出し方向に対して略垂直方向に移動させている。このため、溶液膜に対しては、溶液膜の表面に結露が開始する時点から全面に結露するまでの時点で、空気の吹き付け速度が一定であり、径が揃った結露水を溶液膜の全面に対して均一に一層のみ形成することが困難である。溶液膜の全面に結露水が生じすぎても、少なすぎても、均一な孔径の空孔が形成された周期的なハニカム構造を有するフィルムを製造することは困難である。
【0007】
また、従来のハニカム構造を有するフィルムの製造方法および製造装置では、溶液膜が形成される基板がノズルに対して移動する構成であり、溶液膜の表面に加湿された空気をノズルから略垂直に吹き付けていることから、溶液膜の表面の平行度を保持することが困難である。そのため、得られるフィルムの膜厚のバラツキなどが生じ、結果として、周期的なハニカム構造を有するフィルムを製造することは困難である。
【特許文献1】PCT/JP2006/308980
【特許文献2】特開2006−70254号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、均一な孔径を有する空孔が形成された周期的なハニカム構造のフィルムを効率的に製造することができるフィルムの製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係るフィルムの製造方法は、
ポリマー溶液から成る所定厚みの溶液膜を基板上に形成する工程と、
加湿された気体を、ノズルから前記溶液膜の表面に、当該表面に対して平行な前記気体の流れが存在するように吹き付け、前記気体の吹き付け方向と反対方向で前記溶液膜の表面に平行な方向に前記ノズルを移動させ、前記溶液膜の表面に、結露による水滴を形成する工程と、
前記溶液膜に含まれる溶媒を蒸発させる工程と、
前記溶液膜に含まれる水滴を蒸発させる工程とを、有し、
前記水滴に対応する空孔をフィルムの内部または表面に形成することを特徴とする。
【0010】
本発明に係るフィルムの製造装置は、
所定厚みの溶液膜が形成された基板を保持する基板保持台と、
前記基板保持台の周囲雰囲気を一定の温度および湿度に保つことが可能なチャンバと、
加湿された気体を、前記溶液膜の表面に、当該表面に対して平行な前記気体の流れが存在するように吹き付けるノズルと、
前記気体の吹き付け方向と反対方向で前記溶液膜の表面に平行な方向に前記ノズルを移動させることが可能なノズル移動手段と、
前記基板の温度を制御する基板温度制御手段と、を有する。
【0011】
本発明に係るフィルムの製造方法および製造装置では、基板を移動させることなく、ノズルを移動させるために、基板の上に形成される溶液膜の平行度を保ちやすい。また、気体を吹き出すノズルを、気体の吹き付け方向と反対方向で溶液膜の表面に平行な方向に移動させるために、溶液膜の表面では、ノズルが遠ざかるにつれて、気体の吹き付け速度が減少する。そのため、既に結露水が形成された溶液膜の表面では、新たな結露水が生じることはなくなり、結露水が二層以上に形成されるなどの不都合を防止することができる。
【0012】
さらに、溶液膜の表面において、結露水が生じている表面部分と、まだ結露水が形成されていない表面部分との境界が、ノズルの移動に連れて徐々に移動し、水滴間や水滴のクラスター間に働く圧縮応力を逃がしやすい。
【0013】
これらの結果として、本発明に係るフィルムの製造方法および製造装置では、均一な孔径を有する空孔が形成された周期的なハニカム構造のフィルムを効率的に製造することができる。また、ノズルから吹き出されるガスの吹き出し速度、ノズルの移動速度、ノズルの吹き出し口の角度などを制御することで、ハニカム構造における空孔の大きさや周期パターンなどを変化させることも可能である。
【0014】
さらに、本発明に係るフィルムの製造方法および製造装置では、フィルムの製造後に、ロール状にフィルムを巻き付ける工程がないため、ハニカム構造が潰れるなどの不都合もない。
【0015】
好ましくは、前記ポリマー溶液には、水よりも沸点が低い溶媒が含まれている。溶液膜中の溶媒を最初に蒸発させ、その後に、水滴を蒸発させて水滴に対応する空孔をフィルムの内部に形成し、ハニカム構造を得るためである。
【0016】
前記ポリマー溶液には、水よりも沸点が低い二種類以上の溶媒が含まれてもよい。溶媒の蒸発速度を制御することにより、周期性の高いハニカム構造のフィルムを得ることができる。
【0017】
好ましくは、前記ノズルは、当該ノズルの移動方向に沿って前記溶液膜の表面における第1端部から第2端部まで移動し、その後に、前記溶液膜の表面から遠ざかる。溶液膜の表面において、結露水が生じている表面部分と、まだ結露水が形成されていない表面部分との境界が、ノズルの移動に連れて徐々に移動し、溶液膜の表面の全面に結露水が形成された後には、溶液膜の表面からノズルが離れていることが好ましい。溶液膜の表面に多重に結露水の層が形成されないようにするためである。
【0018】
好ましくは、チャンバー内の温度および湿度を一定に制御した後に、前記チャンバー内で、前記気体を、前記ノズルから前記溶液膜の表面に吹き付ける。また、好ましくは、前記溶液膜の表面において、前記ノズルから吹き付けられる気体の露点以下の温度となるように、前記基板の温度を制御し、その後に、前記気体を、前記ノズルから前記溶液膜の表面に吹き付ける。
【0019】
好ましくは、前記溶液膜の全表面に、結露による水滴を形成した後、前記溶液膜の表面付近の温度が露点付近になるように、前記基板の温度を上げ、その状態を維持し、前記溶液膜に含まれる溶媒を蒸発させる。
【0020】
好ましくは、前記気体を吹き出すノズルの吹き出し口は、前記溶液膜の表面に対して略平行な方向を向いている。吹き出し口の吹き出し角度は、制御可能になっていてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
図1(A)は本発明の一実施形態に係るハニカム構造のフィルムの要部断面図、図1(B)は本発明の他の実施形態に係るハニカム構造のフィルムの要部断面図、図1(C)は本発明のさらに他の実施形態に係るハニカム構造のフィルムの要部断面図、
図2は図1(A)に示すハニカム構造のフィルムの平面図、
図3は本発明の一実施形態に係るフィルムの製造装置、
図4は図3に示すノズルと基板との関係を示す斜視図、
図5は結露水の形成過程を示す概略断面図、
図6は基板の温度経時変化を示すグラフである。
【0022】
図1(A)、図1(B)および図2に示すように、後述する本実施形態のフィルムの製造方法により形成されるフィルム2は、略均一な孔径の空孔4が平面方向に規則正しく周期的に形成してあるハニカム構造のフィルムである。なお、図1(A)に示す実施形態のフィルム2では、空孔4は、平面方向に相互に一部が接触して形成してあり、フィルム2の一方の面のみに開口している。なお、図1(C)に示すように、隣接する空孔4の接触部は、相互に連通していても良い。
【0023】
後述する本実施形態のフィルムの製造方法の製造条件によっては、図1(A)および図1(C)に示すフィルム2のみではなく、たとえば図1(B)に示すフィルム2を製造することもできる。図1(B)に示すフィルム2では、空孔4は、平面方向に相互に接触せずに形成してあり、フィルム2の両側の面に開口している。
【0024】
なお、図1(A)および図1(B)に示すいずれのフィルム2でも、空孔4は、フィルム2の平面方向に沿って一層で形成されることが好ましい。空孔4の平均孔径は、通常0.05〜100μmであり、0.1〜100μmであることが好ましく、0.1〜20μmであることがより好ましく、0.5〜10μmであることがさらに好ましい。このような平均孔径を有する空孔4を有するハニカム構造のフィルム2は、細胞増殖抑制作用に優れている。ただし、この実施形態のフィルム2の用途は、たとえばステントの表面に具備されるフィルムとしての医療用に限定されず、その他の用途に幅広く使うことができる。
【0025】
ここで、孔径とは孔の開口形状に対する最大内接円の直径を指し、例えば、孔の開口形状が実質的に円形状である場合はその円の直径を指し、実質的に楕円形状である場合はその楕円の短径を指し、実質的に正方形状である場合はその正方形の辺の長さを指し、実質的に長方形状である場合はその長方形の短辺の長さを指すものである。当該孔径の測定は走査型電子顕微鏡(SEM)等を用いて行うことができる。
【0026】
本実施形態のフィルム2において、空孔4の孔径の変動係数〔=標準偏差÷平均値×100(%)〕が30%以下であることが好ましく、孔径の変動係数が20%以下であることがより好ましい。このような孔径の均一性が高い多孔構造(ハニカム構造)が構成されることにより、より優れた細胞増殖抑制作用を有するフィルム2を得ることができる。
【0027】
フィルム2を構成する樹脂としては、特に限定されず、非生体分解性樹脂と生体分解性樹脂のいずれも使用できる。生体内において細胞増殖抑制作用を長期間持続させる観点からは、生体内で容易に分解されない非生体分解性樹脂から形成されてなるものが好ましい。
【0028】
本発明のフィルム2を構成する樹脂の具体例としては、ポリブタジエン(1,2−ポリブタジエン、1,4−ポリブタジエン)、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体などの共役ジエン系高分子;ポリε−カプロラクトン;ポリウレタン;酢酸セルロース、セルロイド、硝酸セルロース、アセチルセルロース、セロファンなどのセルロース系高分子;ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド12、ポリアミド46などのポリアミド系高分子;ポリテトラフルオロエチレン、ポリトリフルオロエチレン、パーフルオロエチレン−プロピレン共重合体などのフッ素高分子;ポリスチレン、スチレン−エチレン−プロピレン共重合体、スチレン−エチレン−ブチレン共重合体、塩素化ポリエチレン−アクリロニトリル−スチレン共重合体、メタクリル酸エステル−スチレン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、アクリル酸エステル−アクリロニトリルースチレン共重合体などのスチレン系高分子;ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−塩化ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン、オレフィン−ビニルアルコール共重合体、ポリメチルペンテンなどのオレフィン系高分子;フェノール樹脂、アミノ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂などのホルムアルデヒド系高分子;ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系高分子;エポキシ樹脂;ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリ−2−ヒドロキシエチルアクリレート、メタクリル酸エステル−酢酸ビニル共重合体などの(メタ)アクリル系高分子;ノルボルネン系樹脂;シリコン樹脂;ポリ乳酸、ポリヒドロキシ酪酸、ポリグリコール酸などのヒドロキシカルボン酸の重合体;などが挙げられる。これらは1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
これらの中でも、細胞増殖抑制作用を有するフィルムを得るためには、共役ジエン系高分子、スチレン系高分子またはポリウレタンの使用がより好ましく、1,2−ポリブタジエンの使用が特に好ましい。
【0030】
また、フィルム2を構成する樹脂には、両親媒性物質を添加してもよい。添加する両親媒性物質としては、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体;アクリルアミドポリマーを主鎖骨格とし疎水性側鎖としてドデシル基と親水性側鎖としてラクトース基またはカルボキシル基を併せ持つ両親媒性樹脂;ヘパリンやデキストラン硫酸、核酸(DNAやRNA)などのアニオン性高分子と長鎖アルキルアンモニウム塩とのイオンコンプレックス;ゼラチン、コラーゲン、アルブミンなどの水溶性タンパク質を親水性基とした両親媒性樹脂;ポリ乳酸−ポリエチレングリコールブロック共重合体、ポリε−カプロラクトン−ポリエチレングリコールブロック共重合体、ポリリンゴ酸−ポリリンゴ酸アルキルエステルブロック共重合体などの両親媒性樹脂;などが挙げられる。
【0031】
本実施形態では、このようなハニカム構造のフィルム2の厚みは、特に限定されないが、0.05〜100μmであるのがより好ましく、0.5〜20μmであるのが更に好ましい。本実施形態のフィルム2は、図3に示すフィルムの製造装置10により製造される。
【0032】
この製造装置10は、チャンバ12を有し、そのチャンバ12の内部に、基板14を保持する基板保持台16が固定してある。基板保持台16の下部には、基板温調装置18が装着してある。基板温調装置18の内部には、たとえばペルチェ素子などの冷却素子が装着してあり、電源操作盤24および温度コントローラ22からの電力供給により、基板14の温度を制御するようになっている。
【0033】
チャンバー12の内部であって、基板14の上方には、吹き出し口30aを有するノズル30がX軸方向に移動自在に配置してある。ノズル30は、連結具34を介して移動ユニット32に連結してあり、モータ35を回転駆動させて駆動軸38を軸回りに回転させることで、移動ユニット32が、駆動軸ノズル30と共に、X軸方向に移動するようになっている。
【0034】
モータ35は、たとえばステップもモータであり、その回転数などを制御することで、ノズル30のX軸方向の移動速度、停止位置などを制御することができる。また、ノズル30が連結具34を介して移動ユニットに連結してあり、連結具34を回動ヒンジなどで構成することで、X軸に対するノズル30の吹き出し口30aから吹き出される気体における主流の吹き出し方向30bの角度を変化させることができる。
【0035】
たとえば図3に示す例では、吹き出し方向30bは、ほとんどX軸の方向と平行であるが、X軸に対して、+15度〜−15度の範囲で傾斜させても良い。また、ノズル30をX軸方向に移動させる途中において、その角度を変化させるようにしても良い。
【0036】
ノズル30の吹き出し口30aから吹き出される気体は、加湿されており、その相対湿度は、好ましくは60〜95%であり、チャンバ12の内部の相対湿度よりは、少し湿度が高いガスが吹き出される。吹き出し口30aから吹き出される気体は、一般には、空気であるが、場合によっては、その他のガスでも良い。加湿された空気は、ノズル30の上部に接続してあるダクト36を通してチャンバ12の外部から導入される。
【0037】
チャンバ12の内部は、温度センサ、湿度センサ、圧力センサなどにより、その内部の温度、湿度、圧力が検出され、一定な温度、湿度、圧力に制御される。チャンバ12の内部の温度は、たとえば15〜30°Cであり、その内部の相対湿度は、たとえば10〜95%である。チャンバ12の上部には、プレナムチャンバ12aが装着してあり、ダクト12bを通して導入された一定温度および湿度の空気を、チャンバ12内に向けて層流状態で均一に供給するようになっている。この例では、プレナムチャンバ12aは、チャンバ12との境界に格子状の金属板などが配置してある箱形状を有する。
【0038】
図4および図5に示すように、この実施形態では、長方形状の基板14の外周に沿って、外周縁凸部15が形成してあり、基板14の上面に、後工程にてフィルム2となる溶液膜2aが形成される。重力以外の外力が作用しない状態では、溶液膜2aの表面は、X軸およびY軸に平行であり、鉛直方向のZ軸に垂直である。この実施形態では、Y軸は、基板14の長手方向と平行である。
【0039】
基板14は、たとえばガラス基板、金属基板、シリコン基板などの無機基板で構成されることが好ましいが、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエーテルケトンなどの高分子からなる有機基板でもよい。
【0040】
図4に示すように、ノズル30における吹き出し口30aの幅W1は、基板14の上面に形成される溶液膜2aの幅W2よりも大きいことが好ましく、さらに好ましくは基板14のY軸方向の幅よりも大きいことが好ましい。
【0041】
図5に示すように、ノズル30は、吹き出し口30aから吹き出されるガスの主流の吹き出し方向30bに対して反対方向のX軸に沿って移動する。その際には、ノズル30の吹き出し口30aの下端と、基板14の外周縁凸部15との隙間h1は、特に限定されないが、0より大きく、好ましくは50cm以内、さらに好ましくは30cm以内、特に好ましくは15cm以内である。この隙間h1が離れすぎると、吹き出し方向30bが溶液膜2aの表面に平行な場合には、吹き出し口30aからの気体が溶液膜2aの表面に当たりにくくなる。
【0042】
図5に示す状態でのX軸に沿ったノズル30の移動速度は、吹き出し口30aから吹き出される気体の速度などとの関係で決定され、好ましくは0.1cm/分〜100cm/分である。吹き出し口30aから吹き出される気体の速度は、特に限定されないが、好ましくは0.01m/秒〜5m/秒である。
【0043】
次に、本発明の一実施形態に係るフィルムの製造方法について説明する。まず、図3に示すチャンバ12の内部の温度および湿度を一定に制御する。チャンバ12の内部の温度および湿度の範囲については、上述したとおりである。
【0044】
次に、チャンバ12の内部において、図5に示すように、基板14の表面に、溶液膜2aを形成する。溶液膜2aは、ポリマー溶液を基板14の表面に塗布あるいは流し込むことにより形成される。その時には、図3に示す温調装置18による基板14の冷却は行わず、基板14の温度は、チャンバ12の内部温度と略同じである。溶液膜2aの当初膜厚t0は、2〜10mm、さらに好ましくは3〜7mm程度である。
【0045】
溶液膜2aを形成するためのポリマー溶液には、非水溶性の有機溶媒が含まれる。
【0046】
有機溶媒としては、クロロホルム、塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタンなどの飽和炭化水素系溶媒;シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒;ジエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒;二硫化炭素;などが挙げられる。これらの有機溶媒は1種単独で、あるいはこれらの2種以上からなる混合溶媒として使用することができる。
【0047】
有機溶媒に溶解する樹脂の濃度は、好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは0.05〜5重量%である。樹脂濃度が0.01重量%より低いと得られるフィルムの力学的強度が不足し望ましくない。また、樹脂濃度が10重量%以上では、所望の多孔構造(ハニカム構造)が得られなくなるおそれがある。
【0048】
溶液膜2aには、両親媒性物質を樹脂組成物中に添加することが好ましい。なかでも、水に対して溶解性が低く、有機溶解に可溶である、両親媒性樹脂(以下「Cap樹脂」という。)を添加することが好ましい。
【0049】
このような両親媒性物質を添加することで、水滴の融合が抑えられ安定化するので、孔径の均一性がさらに向上した多孔構造を有する部材を得ることができる。両親媒性物質を添加する量は、樹脂:両親媒性物質の重量比で99:1〜50:50であることが好ましい。
【0050】
溶液膜2aを形成した後、図3に示す温調装置18により基板14を冷却する。基板14の冷却温度は、溶液膜2aの表面が、ノズル30の吹き出し口30aから吹き出される気体の露点以下となるように決定される。
【0051】
その直後に、あるいは同時に、ノズル30を、図5に示す基板14におけるX軸方向に沿って一方の外周縁凸部15の位置付近から、ノズル30の吹き出し口30aの吹き出し方向30bと反対方向のX軸に沿って他方の外周縁凸部15に向けて移動させる。同時に、吹き出し口30aからの加湿された気体の吹き出しも開始する。ノズルの移動速度は、前述したとおりである。
【0052】
図5に示すように、ノズル30の移動に連れて、吹き出し口30aから吹き出された加湿された気体は、溶液膜2aの表面に当たり、そこで露点以下に冷やされ、結露水の水滴4aが発生し、溶液膜2aの表面に徐々に形成される。ノズル30がX軸方向に沿って吹き出し方向30bと反対方向に移動することで、図4に示すように、溶液膜2aの表面において、結露水の水滴4aが形成されている領域が拡がる。その結果、結露水が生じている表面部分と、まだ結露水が形成されていない表面部分との境界が、ノズル30の移動に連れて徐々に移動し、水滴間や水滴のクラスター間に働く圧縮応力を逃がしやすい。
【0053】
なお、図4において、結露水の水滴4aが形成されている領域が、山の形状に形成されるのは、吹き出し口30aから吹き出される気体の吹き出し速度が、吹き出し口30aにおいて、Y軸方向の中央部で高く、両端部で低くなるからと考えられる。
【0054】
図5の二点鎖線に示すように、ノズル30の吹き出し口30aが、基板14においてX軸方向の他方の端部に位置する外周縁凸部15まで移動した後には、ノズル30は、さらにX軸に沿って移動し続け、図3に示すように、ノズル30は、基板14からX軸方向に離れた位置で停止する。ただし、その後も、吹き出し口30aからは、加湿された気体を吹き出し続けることが好ましい。
【0055】
図4に示す溶液膜2aの全面に結露水による水滴4aの膜が1層形成された段階では、ノズル30は、基板14からX軸方向に離れた位置にあり、図3に示す温調装置18により、基板の温度を、露点付近の温度に上昇させる。チャンバ12の内部温度は、一定温度と湿度に保持される。
【0056】
その状態では、溶液膜2aに含まれる溶媒が蒸発し、しかも、水滴4aは、ほとんど蒸発しない。そのため、溶液膜2aの厚みt0が減少し、水滴4aは、溶液膜2aの内部に取り込まれる。
【0057】
溶液膜2aの厚みt0が水滴4aの外径と同程度になった段階で、図3に示す温調装置18により、基板14の温度を上げて、水滴4aを蒸発させる。その結果、図5に示す水滴4aに相当する部分が図1(A)または図1(B)に示す空孔4となり、基板の温度を上げるタイミングなどを調節することにより、図1(A)または図1(B)に示すようなハニカム構造のフィルム2を製造することが可能になる。なお、図6は、基板14の温度制御の一例を示すグラフであり、結露による水滴4aが溶液膜2aの表面に形成された後には、基板の温度は、段階的に上げることが好ましい。また、以上の一連の動作は、チャンバ12の内部で行われることが好ましい。
【0058】
基板14の表面に、たとえば図1(A)または図1(B)に示すようなハニカム構造のフィルム2を製造した後、このフィルム2は、基板14と共に、チャンバ12から取り出される。その後に、基板14からフィルム2が取り除かれる。なお、チャンバ12の内部で、基板14からフィルム2を取り除いても良い。
【0059】
フィルム2は、その後に、延伸されても良い。あるいは、その他のフィルムと積層されても良い。また、基板14が樹脂基板である場合には、フィルム2の製造過程において、基板14と一体化して積層することも可能である。
【0060】
本実施形態に係るフィルムの製造方法および製造装置では、基板14を移動させることなく、ノズル30を移動させるために、基板14の上に形成される溶液膜2aの平行度を保ちやすい。また、気体を吹き出すノズル30を、気体の吹き付け方向30bと反対方向で溶液膜2aの表面に平行なX軸方向に移動させるために、溶液膜2aの表面では、ノズル30が遠ざかるにつれて、気体の吹き付け速度が減少する。そのため、既に結露水が形成された溶液膜2aの表面では、新たな結露水が生じることはなくなり、結露水が二層以上に形成されるなどの不都合を防止することができる。
【0061】
さらに、溶液膜2aの表面において、結露水が生じている表面部分と、まだ結露水が形成されていない表面部分との境界が、ノズルの移動に連れて徐々に移動し、水滴間や水滴のクラスター間に働く圧縮応力を逃がしやすい。
【0062】
これらの結果として、本実施形態に係るフィルムの製造方法および製造装置では、均一な孔径を有する空孔4が形成された周期的なハニカム構造のフィルム2を効率的に製造することができる。また、ノズル30から吹き出されるガスの吹き出し速度、ノズルの移動速度、ノズルの吹き出し口の角度などを制御することで、ハニカム構造における空孔4の大きさや周期パターンなどを変化させることも可能である。
【0063】
さらに、本実施形態に係るフィルム2の製造方法および製造装置では、フィルム2の製造後に、ロール状にフィルムを巻き付ける工程がないため、ハニカム構造が潰れるなどの不都合もない。
【0064】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0065】
たとえば、本発明では、基板14の温度を調節する温調装置18としては、上述した実施形態に限定されない。また、ノズル30を移動させるための機構としては、図示する実施形態に限定されない。
【実施例】
【0066】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
実施例1
【0067】
本実施例のフィルム2を以下のようにして作製した。すなわち、1,2-ポリブタジエン(商品名 RB820 JSR社製)と、Cap樹脂(重量平均分子量:62,000、数平均分子量:21,000)とを重量比20:1の割合で混合した後にクロロホルムに溶解し、濃度5.0mg/mLの樹脂溶液(1)を調製した。
【0068】
調製した樹脂溶液(1)を図5に示す基板14の上にキャストし、次いで、チャンバ12の内部を23℃、相対湿度60%の雰囲気下で、相対湿度80%の高湿度空気を、ノズル30の吹き出し口30aから吹き出した。また同時に、ノズル30を、図5に示すように、吹き出し方向30bと反対方向に移動させた。
【0069】
ノズル30の吹き出し口から吹き出される加湿空気の速度とノズル30の移動速度とを制御し、フィルム試料を製造した。周期性の高いハニカム構造のフィルムが得られたことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】図1(A)は本発明の一実施形態に係るハニカム構造のフィルムの要部断面図、図1(B)は本発明の他の実施形態に係るハニカム構造のフィルムの要部断面図、図1(C)は本発明のさらに他の実施形態に係るハニカム構造のフィルムの要部断面図である。
【図2】図2は図1(A)に示すハニカム構造のフィルムの平面図である。
【図3】図3は本発明の一実施形態に係るフィルムの製造装置である。
【図4】図4は図3に示すノズルと基板との関係を示す斜視図である。
【図5】図5は結露水の形成過程を示す概略断面図である。
【図6】図6は基板の温度経時変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0071】
2… フィルム
2a… 溶液膜
4… 空孔
4a… 水滴
10… フィルムの製造装置
12… チャンバ
14… 基板
16… 基板保持台
18… 基板温調装置
30… ノズル
30a… 吹き出し口
30b… 吹き出し方向
35… モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー溶液から成る所定厚みの溶液膜を基板上に形成する工程と、
加湿された気体を、ノズルから前記溶液膜の表面に、当該表面に対して平行な前記気体の流れが存在するように吹き付け、前記気体の吹き付け方向と反対方向で前記溶液膜の表面に平行な方向に前記ノズルを移動させ、前記溶液膜の表面に、結露による水滴を形成する工程と、
前記溶液膜に含まれる溶媒を蒸発させる工程と、
前記溶液膜に含まれる水滴を蒸発させる工程とを、有し、
前記水滴に対応する空孔をフィルムの内部または表面に形成することを特徴とするフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記ポリマー溶液には、水よりも沸点が低い溶媒が含まれている請求項1に記載のフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記ポリマー溶液には、水よりも沸点が低い二種類以上の溶媒が含まれている請求項1に記載のフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記ノズルは、当該ノズルの移動方向に沿って前記溶液膜の表面における第1端部から第2端部まで移動し、その後に、前記溶液膜の表面から遠ざかる請求項1〜3のいずれかに記載のフィルムの製造方法。
【請求項5】
チャンバー内の温度および湿度を一定に制御した後に、前記チャンバー内で、前記気体を、前記ノズルから前記溶液膜の表面に吹き付ける請求項1〜4のいずれかに記載のフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記溶液膜の表面において、前記ノズルから吹き付けられる気体の露点以下の温度となるように、前記基板の温度を制御し、その後に、前記気体を、前記ノズルから前記溶液膜の表面に吹き付ける請求項1〜5のいずれかに記載のフィルムの製造方法。
【請求項7】
前記溶液膜の全表面に、結露による水滴を形成した後、前記溶液膜の表面付近の温度が露点付近になるように、前記基板の温度を上げ、その状態を維持し、前記溶液膜に含まれる溶媒を蒸発させる請求項1〜6のいずれかに記載のフィルムの製造方法。
【請求項8】
所定厚みの溶液膜が形成された基板を保持する基板保持台と、
前記基板保持台の周囲雰囲気を一定の温度および湿度に保つことが可能なチャンバと、
加湿された気体を、前記溶液膜の表面に、当該表面に対して平行な前記気体の流れが存在するように吹き付けるノズルと、
前記気体の吹き付け方向と反対方向で前記溶液膜の表面に平行な方向に前記ノズルを移動させることが可能なノズル移動手段と、
前記基板の温度を制御する基板温度制御手段とを有するフィルムの製造装置。
【請求項9】
前記気体を吹き出すノズルの吹き出し口は、前記溶液膜の表面に対して略平行な方向を向いている請求項8に記載のフィルムの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−108163(P2009−108163A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−280710(P2007−280710)
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】