説明

フィルム浸漬装置および異物除去方法

【課題】 液体中にてフィルムを搬送するフィルム浸漬装置であって、液体中の異物を除去することができるフィルム浸漬装置、および液体中の異物を除去する異物除去方法を提供する。
【解決手段】 第1長手状側壁20には、液体11を貯留空間に供給するための供給口19が、隣接する搬送ローラ14,15間の予め定める供給位置に形成され、供給位置から幅方向Y内方に液体を供給可能であり、第1長手状側壁20の底壁16とは反対側の端部には、幅方向Y外方に液体を排出可能であり、長手方向Xに沿って延びる排出口が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液槽に貯留される液体中にフィルムを浸漬させて、フィルムを搬送するフィルム浸漬装置、および前記液体中に浮遊する異物を除去する異物除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルムの製造工程では、フィルムを液槽内に搬送しながら、湿式処理する工程がある。その処理にはフィルム浸漬装置が利用される。フィルム浸漬装置には、PETフィルムおよびPPフィルムなどの高分子フィルムの洗浄槽およびめっき槽、PVAフィルムの膨潤槽、染色槽、延伸槽および固定化槽、TACフィルム処理の水洗槽およびケン化槽、ポリオレフィン系樹脂の酸処理槽、中和槽などがある。
【0003】
図9は、湿式処理で用いられるポリマーフィルムのケン化処理装置1を簡略化して示す斜視図である。図10は、ケン化処理装置1の液体の流れの一例を示す側面図である。ケン化処理装置は、処理液2が貯留される液槽3、および液槽3に設けられる複数のローラ4を有する。液槽3には、処理液2を供給するための供給口5が側壁6に形成される。また液槽3には、処理液2を排出するための排出口7が、供給口5が形成される側壁6と同一の側壁6の底壁8付近に形成される。このような供給口5を介して処理液2を供給し、排出口7から排出することによって、図10に示すように、処理液2を循環させている。
【0004】
図11は、ケン化処理装置1の液体の流れの他の例を示す側面図である。図11に示すケン化処理装置1では、処理液2を排出するための排出口7が、供給口5が形成される側壁6とは対向する側壁9の上方部分に形成される。このような供給口5を介して処理液2を供給し、排出口7から排出することによって、図11に示すように、処理液2を循環させている。
【0005】
前述のケン化処理工程では、ケン化処理装置1を用いて、処理液が貯留される液槽に、フィルムを浸漬し、ローラ4によって搬送することによって、予め定める搬送方向に搬送しながら、処理液2によってケン化処理して、フィルムが順次、次の工程に搬送される。
【0006】
【特許文献1】特開2001−188124号公報
【特許文献2】特開2004−269830号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述の従来の技術のケン化処理装置では、本件出願人は、フィルム面に異物が付着する不具合を発見した。このような異物は、液槽の液体中にて浮遊しており、異物がフィルムに付着すると、この異物によってフィルムを均一にケン化させることができず、また次の工程における処理に悪影響を与えるおそれがある。
【0008】
したがって本発明の目的は、液体中にてフィルムを搬送するフィルム浸漬装置であって、液体中の異物を除去することができるフィルム浸漬装置、および液体中の異物を除去する異物除去方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、底壁と、底壁に立設される複数の側壁とを有し、底壁と複数の側壁とによって液体を貯溜可能な貯留空間を形成する液槽と、
液槽内に配設され、帯状のフィルムを張架可能な複数の搬送ローラであって、フィルムを張架した状態で、予め定める搬送方向にフィルムを搬送する複数の搬送ローラとを含み、
予め定める1つの側壁には、液体を貯留空間に供給するための供給口が、隣接する搬送ローラ間の予め定める供給位置に形成され、供給位置から前記搬送方向に略直交する供給方向に液体を供給可能であり、
前記予め定める1つの側壁の底壁とは反対側の端部には、供給方向とは反対の排出方向に液体を排出可能であり、搬送方向に沿って延びる排出口が形成されることを特徴とするフィルム浸漬装置である。
【0010】
また本発明は、前記供給口は、予め定める1つの側壁に、搬送方向に沿って複数形成されることを特徴とする。
【0011】
さらに本発明は、前記予め定める1つの側壁には、前記供給口から供給される液体を、予め定める1つの側壁に沿って、底壁に至るように案内する案内板が設けられることを特徴とする。
【0012】
さらに本発明は、底壁と、底壁に立設される複数の側壁とを有し、底壁と複数の側壁とによって液体を貯溜可能な貯留空間を形成する液槽と、
液槽内に配設され、帯状のフィルムを張架可能な複数の搬送ローラであって、フィルムを張架した状態で、予め定める搬送方向にフィルムを搬送する複数の搬送ローラとを含むフィルム浸漬装置の液体中の異物を除去する異物除去方法であって、
予め定める1つの側壁の隣接する搬送ローラ間の予め定める供給位置から、前記搬送方向に略直交する供給方向に液体を供給する液体供給工程と、
前記予め定める1つの側壁の底壁とは反対側の端部であって、搬送方向に沿って延びる排出口から、供給方向とは反対の排出方向に液体を排出する液体排出工程とを含むことを特徴とする異物除去方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、フィルム浸漬装置は、液槽と複数の搬送ローラとを含む。液槽は、底壁と複数の側壁とによって、貯留空間を形成するので、液体を貯留することができる。搬送ローラは、液槽内に設けられる。搬送ローラは、フィルムを張架可能であり、フィルムを張架した状態で、搬送方向にフィルムを搬送する。したがってフィルムは、搬送ローラに搬送されることによって、液槽内に貯留される液体に浸漬される。これによってフィルムは、液体の性質によって表面を処理、たとえばケン化処理することができる。このような液体を循環させるために、予め定める1つの側壁には、液体を貯留空間に供給するための供給口が、隣接する搬送ローラ間の予め定める供給位置に形成される。供給口から供給される液体は、供給位置から搬送方向に略直交する供給方向に供給される。供給位置は、隣接する搬送ローラ間であるので、搬送ローラによって供給される液体の流れを妨げられることなく、液体を予め定める1つの側壁に対向する側壁に向かって供給することができる。また予め定める1つの側壁の底壁とは反対側の端部には、供給方向とは反対の排出方向に液体を排出可能であり、搬送方向に沿って延びる排出口が形成される。このような排出口によって液体が排出されるので、供給口から供給される液体と、排出口から排出される液体との流路を搬送ローラによって遮られることなく、また貯留する液面に渦が発生することを可及的に抑制することができる。これによって液体中に浮遊する異物を、前述のような流れにそって、運ぶことができるので、排出口から異物を液体と共に排出することができる。したがって従来の技術と同様に、液体を循環しながら、異物を排出することができるので、異物を排出するための特別な除去手段が必要なく、簡単な構成で本発明を実現することができる。また本発明では、液体を循環させるので、異物が液中の滞留部に留まり、フィルムに再付着することを防ぐことができる。また液体を液槽内で循環させるので、液槽内の液体の温度および液組成を均一化することができる。
【0014】
また本発明によれば、供給口は、予め定める1つの側壁に、搬送方向に沿って複数形成される。排出口は、前述のように搬送方向に沿って延びる排出口が形成されるので、このような排出口に対応するように供給口を複数形成することによって、より供給口から排出口への液体の流れを円滑にすることができる。これによって液体中の異物を除去する機能をより高めることができる。
【0015】
さらに本発明によれば、予め定める1つの側壁には、供給口から供給される液体を、予め定める1つの側壁に沿って、底壁に至るように案内する案内板が設けられる。このような案内板によって、供給口から供給される液体は、底壁に沿って移動し、対向する側壁に沿って上方に移動し、さらに上方に移動した液体が、再び予め定める1つの側壁に向かって移動して、排出口から排出させることができる。このような液体の流れを作ることができるので、液体中の異物を除去する機能をより高めることができる。
【0016】
さらに本発明によれば、フィルム浸漬装置は、液槽と複数の搬送ローラとを含む。液槽は、底壁と複数の側壁とによって、貯留空間を形成するので、液体を貯留することができる。搬送ローラは、液槽内に設けられる。搬送ローラは、フィルムを張架可能であり、フィルムを張架した状態で、搬送方向にフィルムを搬送する。したがってフィルムは、搬送ローラに搬送されることによって、液槽内に貯留される液体に浸漬される。これによってフィルムは、液体の性質によって表面を処理、たとえばケン化処理することができる。このようなフィルム浸漬装置において、予め定める1つの側壁の隣接する搬送ローラ間の予め定める供給位置から、前記搬送方向に略直交する供給方向に液体を供給し、予め定める1つの側壁の底壁とは反対側の端部であって、搬送方向に沿って延びる排出口から、供給方向とは反対の排出方向に液体を排出する。供給位置は、隣接する搬送ローラ間であるので、搬送ローラによって供給される液体の流れを妨げられることなく、液体を予め定める1つの側壁に対向する側壁に向かって供給することができる。また排出口によって液体が排出されるので、供給口から供給される液体と、排出口から排出される液体との流路を搬送ローラによって遮られることなく、また貯留する液面に渦が発生することを可及的に抑制することができる。これによって液体中に浮遊する異物を、前述のような流れにそって、運ぶことができるので、排出口から異物を液体と共に排出することができる。したがって従来の技術と同様に、液体を循環しながら、異物を排出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明を実施するための形態を、複数の形態について説明する。各形態で先行する形態で説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付し、重複する説明を略する場合がある。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、先行して説明している形態と同様とする。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。以下の説明では、異物除去方法の説明も含む。
【0018】
図1は、本発明の第1の実施の形態のフィルム浸漬装置10を簡略化して示す斜視図である。図2は、フィルム浸漬装置10を簡略化して示す正面図である。フィルム浸漬装置10は、液体11を貯留可能であり、液体11中にフィルム12を浸漬させて、搬送可能に構成される。フィルム浸漬装置10は、液体11中にてフィルム12を搬送することによって、フィルム12を液体11によって表面処理することができる。フィルム浸漬装置10は、たとえばケン化処理に用いられる。フィルム浸漬装置10は、液槽13と、複数の搬送ローラ14,15とを含んで構成される。
【0019】
液槽13は、有底四角筒状であって、その内方に液体11を貯留可能な貯留空間を形成する。液槽13は、底壁16と、底壁16に立設される複数、本実施の形態では4つの側壁17とを有する。底壁16および各側壁17は、平板状に形成され、底壁16の厚み方向Zと各側壁17の厚み方向とは略直交するように液槽13が形成される。換言すると、各側壁17は、底壁16の厚み方向Zに沿って延びるように底壁16に設けられる。底壁16の厚み方向Z外方から見て、各側壁17は、長方形状となるように配置される。
【0020】
以下、底壁16の厚み方向Zを液槽13の厚み方向Zと称する。また液槽13の厚み方向Zに対して垂直な方向のうち、厚み方向Zに垂直な投影面に投影した場合に長方形状に配置される側壁17の長辺に沿って延びる方向を長手方向Xと称する。また厚み方向Zおよび長手方向Xに対してともに垂直な方向を幅方向Yと称する。
【0021】
搬送ローラ14,15は、液槽13内に複数配設される。各搬送ローラ14,15は、帯状のフィルム12を張架可能に配置される。各搬送ローラ14,15は、フィルム12を張架した状態で、予め定める搬送方向にフィルム12を搬送する。本実施の形態では、搬送方向は、液槽13の長手方向Xと略平行となるように設定される。したがって各搬送ローラ14,15は、その軸線が液槽13の幅方向Yに沿って延びるように設けられる。各搬送ローラ14,15は、前記軸線まわりに回転自在に液槽13に設けられる。長手方向Xに隣接する2つの搬送ローラ14,15の間に、厚み方向Zに離間して設けられる1つの搬送ローラ14,15が設けられる。したがって各搬送ローラ14,15は、幅方向Y外方から見て、ジグザグ状となるように配置される。
【0022】
各搬送ローラ14,15は、本実施の形態では予め定める位置に固定される固定用搬送ローラ14と、厚み方向Zに沿って変位可能な昇降用搬送ローラ15との2種類が設けられる。固定用搬送ローラ14は、厚み方向Z一方側の3つの搬送ローラ14である。また昇降用搬送ローラ15は、厚み方向Z他方側、すなわち底壁16側の4つの搬送ローラ15である。昇降用搬送ローラ15は、厚み方向Zに変位可能であるので、フィルム12を張架した状態で変位させることによって、フィルム12に与える張力を調整することができる。昇降用搬送ローラ15の軸線方向両端部には、厚み方向Zに沿って延びるガイド18が設けられる。昇降用搬送ローラ15は、ガイド18に軸線まわりに回転自在に設けられる。したがってガイド18を厚み方向Zに沿ってスライド変位させることによって、昇降用搬送ローラ15を変位させることができる。
【0023】
このような各搬送ローラ14,15にフィルム12を張架することによって、フィルム12は蛇行するように液槽13内を搬送される。各搬送ローラ14,15は、駆動手段(図示せず)によって、予め定める回転数で、同じ回転方向に回転するように駆動される。また搬送ローラ14,15は、駆動手段によって駆動力が与えられることなく、フィルム12に搬送力を与えることによって、従動することによって、フィルム12を搬送してもよい。
【0024】
次に液槽13に関して、さらに詳細に説明する。4つの側壁17のうち、予め定める1つの側壁17には、供給口19が形成される。供給口19は、本実施の形態では、長手方向Xに沿って延びる2つの側壁17のうちの一方の第1長手状側壁20に形成される。供給口19は、液体11を貯留空間に供給するために形成される。供給口19は、隣接する搬送ローラ14,15間の予め定める供給位置に形成される。このように供給口19が供給位置に形成されるので、供給位置から搬送方向に略直交する供給方向、本実施の形態では液槽13の幅方向Y内方に向かって液体11を供給することができる。また供給口19から供給される液体11は、各搬送ローラ14,15の軸線と略平行となる供給方向に向かって液体11を供給することができる。供給位置は、液槽13の長手方向Xに隣接する2つの搬送ローラ14,15間であって、底壁16よりの2つの搬送ローラ14,15間である。液槽13に貯留される液体11の液面の位置は、供給位置よりも厚み方向Z一方側であって、厚み方向Z一方側の搬送ローラ14,15よりも厚み方向Z一方側となるように、その体積が設定される。したがってフィルム12は、搬送ローラ14,15に張架されている状態では、液面より厚み方向Z他方、すなわち液体11中に浸漬している状態となる。
【0025】
また前記第1長手状側壁20の底壁16とは反対側の端部には、排出口21が形成される。したがって排出口21は、供給口19よりも厚み方向Z一方側に設けられる。排出口21は、供給方向とは反対の排出方向、本実施の形態では液槽13の幅方向Y外方に向かって液体11を排出可能である。排出口21は、搬送方向、すなわち液槽13の長手方向Xに沿って延びるように形成される。排出口21は、本実施の形態では第1長手状側壁20の厚み方向Z一方の端部の全域が排出口21として機能するように構成される。したがって第1長手状側壁20の厚み方向Zの寸法は、他の3つの側壁17の厚み方向Zの寸法より小さくなるように設定される。これによって第1長手状側壁20の厚み方向Z一方の端部よりも、液面の位置が厚み方向Z一方側になると、排出口21から液体11があふれ出し、液体11が液槽13の幅方向Y外方に排出される。
【0026】
図3は、液槽13の液体11の流れを示す側面図である。図4は、液槽13の液体11の流れを示す平面図である。図5は、比較例の液槽13の液体11の流れを示す平面図である。図3に示すように、先ず、液体供給工程として、液体11は、供給位置から幅方向Y内方に供給される。次に、液体排出工程として、液体11は、排出口21から排出される。供給位置は、隣接する搬送ローラ14,15間であるので、搬送ローラ14,15によって供給される液体11の流れを妨げられることなく、液体11を他方の長手状側壁17である第2長手状側壁22に向かって供給することができる。第2長手状側壁22に至った流れは、第2長手状側壁22に沿って厚み方向Z一方と厚み方向Z他方向とに分離し、厚み方向Z一方に向かった流れは液面に到達すると、再び、第1長手状側壁20に向かう流れとなる。また第2長手状側壁22から厚み方向Z他方に向かった流れは底壁16に到達すると、再び、第1長手状側壁20に向かう流れとなる。これによって図4に示す流体の流れる方向を示すベクトル23の向きは、幅方向Y外方に向かって一様である。したがって液面において、第1長手状側壁20に向かう流れは、前述のような排出口21によって排出されるので、供給口19から供給される液体11と、排出口21から排出される液体11との流路を搬送ローラ14,15によって遮られることなく、また貯留する液面中に渦が発生することを可及的に抑制することができる。
【0027】
これに対して、従来の技術として図9および図10にて示したフィルム浸漬装置では、図5に示すように、液体11の流れる方向示すベクトル23の向きがばらばらであり、一様ではないので、渦が発生している。このような渦が発生すると、渦によって浮遊物が渦に巻き込まれて滞留する。このように本実施の形態のフィルム浸漬装置10の液体11の流れと、従来の技術のフィルム浸漬装置10の液体11の流れとは大きく異なる。
【0028】
これによって本実施の形態のフィルム浸漬装置10では、液体11中に浮遊する異物を、前述のような流れにそって、運ぶことができるので、排出口21から異物を液体11と共に排出することができる。したがって従来の技術と同様に、液体11を循環しながら、異物を排出することができるので、異物を排出するための特別な除去手段が必要なく、簡単な構成で本実施の形態のフィルム浸漬装置10を実現することができる。また液体11を循環させるので、異物が液中の滞留部に留まり、フィルム12に再付着することを防ぐことができる。また液体11を液槽13内で循環させるので、液槽13内の液体11の温度および液組成などを均一化することができる。
【0029】
また本実施の形態では、前述のような液面における流れを実現することができるので、搬送されるフィルム12の表面に沿って、液体11を流させることができる。これによってフィルム12表面から異物を除去するような流れを、フィルム12表面に与えることができる。したがってフィルム12に異物が付着するのを防止することができる。
【0030】
次に、本実施の形態のフィルム浸漬装置10の設計方法に関して説明する。図6は、フィルム浸漬装置10の設計方法を示すフローチャートである。ステップa1では、フィルム浸漬装置10の設計条件が設定され、ステップa2に移る。ステップa2では、設定される設計条件に基づいて、シミュレーションし、ステップa3に移る。ステップa3では、シミュレーション結果に基づいて、液面流速ベクトル23から液面における渦の有無判断し、渦がある場合、ステップa1に戻り、渦がない場合、ステップa4に移る。ステップa4では、液面の流速ベクトル23では渦がないので、第2長手状側壁22に流れ境界があるか否かを判断し、境界がある場合、ステップa5に移り、ステップa5にて、設定された設計条件を第1設計条件に決定し、本フローを終了する。ステップa4にて、境界がない場合、ステップa6に移る。ステップa6では、第2長手状側壁22の厚み方向Z一方に向かう一様の流れがあるか否かを判断し、一様な流れがある場合、ステップa7に移り、ステップa7にて、設定された設計条件を第2設計条件に決定し、本フローを終了する。ステップa6にて、境界がない場合、ステップa1に戻る。
【0031】
このように液面における渦の有無、および第2長手状側壁22の厚み方向Zの流れの境界の有無に基づいて、設計条件を決定する。前述の第2設計条件では、第1設計条件に比べて、液体11の混合効率が低くなるが、異物の排出に関しては、第1設計条件と同様の効果があるので、第1設計条件の設定が困難な場合には、第2設計条件を用いることによって、異物除去効果を達成することができる。
【0032】
またステップa2におけるシミュレーションでは、たとえばフィルム12の移動速度は0に設定され、液体11の粘度および密度は計算が容易な水が用いられ、供給口19から流入する液体11の流速、および排出口21から排出される流体の圧力などに基づいて、モデルがたとえば乱流モデルになどに設定される。このように設定することによって、フィルム浸漬装置10における液体11の流れをシミュレーションすることができる。
【0033】
またステップa4における判断では、第2長手状側壁22における境界の有無を判断しているが、このような境界は、厚み方向Zに関して、固定用搬送ローラ14と昇降用搬送ローラ15との間であって、幅方向Yの延びるような境界である。このような境界が発生することよって、図3に示すような、厚み方向Z一方と厚み方向Z他方とに流れが別れることを意味する。これによって供給された液体11を、効率よく混合することができる。
【0034】
次に、本発明の第2の実施の形態のフィルム浸漬装置10Aに関して説明する。本実施の形態のフィルム浸漬装置10Aでは、供給口19付近の第1長手状側壁20に案内板24が設けられる点に特徴を有する。図7は、案内板24を簡略化して示す斜視図である。図7では、理解を容易にするため、案内板24の厚み寸法を省略して示す。図8は、液槽13の液体11の流れを示す側面図である。案内板24は、第1長手状側壁20に設けられる。案内板24は、供給口19から供給される液体11を、第1長手状側壁20に沿って、底壁16に至るように案内する。
【0035】
案内板24は、天井部25と、2つの外側部26と、案内部27とを含む。天井部25は、略平板状であり、幅方向Yおよび長手方向Xを含む仮想一平面に沿って設けられ、その幅方向Y一方の部分は、第1長手状側壁20に連結される。したがって天井部25は、第1長手状側壁20に立設され、供給口19の厚み方向Z一方に設けられる。2つの外側部26は、略平板状であり、幅方向Yおよび厚み方向Zを含む仮想一平面に沿って設けられ、その厚み方向Z一方の端部が、天井部25の幅方向Y両方の端部にそれぞれ連結される。また2つの外側部26は、その幅方向Y一方の部分は、第1長手状側壁20に連結される。したがって2つの外側部26は、第1長手状側壁20に立設され、供給口19の幅方向Y両方に設けられる。案内部27は、略平板状であって、天井部25および2つの外側部26の幅方向Y他方の端部に連結される。このような天井部25と2つの外側部26とによって、供給口19から幅方向Y内方に向かって供給される液体11は、幅方向Y内方、厚み方向Z一方および長手方向X外方に向かって拡散することが抑制され、厚み方向Z他方に向かうように案内される。
【0036】
このような案内板24が設けられることによって、図8に示すように、供給口19から供給される液体11を、第1長手状側壁20に沿って、底壁16に至るように案内することができる。これによって供給口19から供給される液体11は、案内板24によって底壁16に沿って移動し、対向する第2長手状側壁22に沿って厚み方向Z一方に移動し、さらに液面まで移動した液体11が、再び第1長手状側壁20に向かって移動して、排出口21から排出させることができる。これによって供給口19の数が少なく、液槽13の液体11全体の流れを作りにくい場合であっても、案内板24によって供給される液体11を効果的に拡散することができる。したがって前述のような液体11の流れを作ることができるので、液体11中に異物を除去する機能をより高めることができる。
【0037】
また案内板24を設けることによって、直接フィルム12に供給口19から供給される液体11の流体力が作用しないので、供給口19から供給される液体11によってフィルム12にしわなどが発生することを防止することができる。このようにしわが発生しやすいフィルム12を用いる場合には、案内板24を好適に用いることができる。
【0038】
前述の実施の形態は、本発明の例示に過ぎず、本発明の範囲内において構成を変更することができる。たとえば供給口19は、予め定める1つの長手状側壁20に、搬送方向に沿って複数形成してもよい。排出口21は、前述のように搬送方向に沿って延びる排出口21が形成されるので、このような排出口21に対応するように供給口19を複数形成することによって、より供給口19から排出口21への液体11の流れを円滑にすることができる。これによって液体11中の異物を除去する機能をより高めることができる。
【0039】
また前述の実施の形態では、フィルム浸漬装置10は、ケン化処理に用いられるが、これに限ることはなく、たとえばPETフィルムおよびPPフィルムなどの高分子フィルムの洗浄槽およびめっき槽に適用してもよく、PVAフィルムの膨潤槽、染色槽、延伸槽および固定化槽に適用してもよく、TACフィルム処理の水洗槽およびケン化槽に適用してもよく、ポリオフィレン系樹脂の酸処理槽、中和槽および水洗槽に適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第1の実施の形態のフィルム浸漬装置10を簡略化して示す斜視図である。
【図2】フィルム浸漬装置10を簡略化して示す正面図である。
【図3】液槽13の液体11の流れを示す側面図である。
【図4】液槽13の液体11の流れを示す平面図である。
【図5】比較例の液槽13の液体11の流れを示す平面図である。
【図6】フィルム浸漬装置10の設計方法を示すフローチャートである。
【図7】案内板24を簡略化して示す斜視図である
【図8】液槽13の液体11の流れを示す側面図である。
【図9】湿式処理で用いられるポリマーフィルムのケン化処理装置1を簡略化して示す斜視図である。
【図10】ケン化処理装置1の液体の流れの一例を示す側面図である。
【図11】ケン化処理装置1の液体の流れの他の例を示す側面図である。
【符号の説明】
【0041】
10,10A フィルム浸漬装置
11 液体
12 フィルム
13 液槽
14 固定用搬送ローラ
15 昇降用搬送ローラ
16 底壁
17 側壁
19 供給口
21 排出口
24 案内板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底壁と、底壁に立設される複数の側壁とを有し、底壁と複数の側壁とによって液体を貯溜可能な貯留空間を形成する液槽と、
液槽内に配設され、帯状のフィルムを張架可能な複数の搬送ローラであって、フィルムを張架した状態で、予め定める搬送方向にフィルムを搬送する複数の搬送ローラとを含み、
予め定める1つの側壁には、液体を貯留空間に供給するための供給口が、隣接する搬送ローラ間の予め定める供給位置に形成され、供給位置から前記搬送方向に略直交する供給方向に液体を供給可能であり、
前記予め定める1つの側壁の底壁とは反対側の端部には、供給方向とは反対の排出方向に液体を排出可能であり、搬送方向に沿って延びる排出口が形成されることを特徴とするフィルム浸漬装置。
【請求項2】
前記供給口は、予め定める1つの側壁に、搬送方向に沿って複数形成されることを特徴とする請求項1に記載のフィルム浸漬装置。
【請求項3】
前記予め定める1つの側壁には、前記供給口から供給される液体を、予め定める1つの側壁に沿って、底壁に至るように案内する案内板が設けられることを特徴とする請求項1または2記載のフィルム浸漬装置。
【請求項4】
底壁と、底壁に立設される複数の側壁とを有し、底壁と複数の側壁とによって液体を貯溜可能な貯留空間を形成する液槽と、
液槽内に配設され、帯状のフィルムを張架可能な複数の搬送ローラであって、フィルムを張架した状態で、予め定める搬送方向にフィルムを搬送する複数の搬送ローラとを含むフィルム浸漬装置の液体中の異物を除去する異物除去方法であって、
予め定める1つの側壁の隣接する搬送ローラ間の予め定める供給位置から、前記搬送方向に略直交する供給方向に液体を供給する液体供給工程と、
前記予め定める1つの側壁の底壁とは反対側の端部であって、搬送方向に沿って延びる排出口から、供給方向とは反対の排出方向に液体を排出する液体排出工程とを含むことを特徴とする異物除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−108196(P2009−108196A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−282191(P2007−282191)
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】