説明

フィルム用ポリエステル組成物およびその製造方法

【課題】 溶融比抵抗が低く、高い清澄度および耐熱性を備えたフィルム用ポリエステル組成物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 重縮合触媒としてアンチモン化合物を使用し、マグネシウム化合物とカリウム化合物およびリン化合物を添加して、得られるフィルム用ポリエステル組成物であって、当該ポリエステル組成物の275℃での溶融比抵抗が0.15〜0.30×10Ω・cmであり、さらに下記(1)〜(3)の条件を満たすフィルム用ポリエステル組成物。
(1)Mg含有量:当該ポリエステル組成物に対して15〜35ppm
(2)K含有量:当該ポリエステル組成物に対して5〜20ppm
(3)P含有量:当該ポリエステル組成物に対して5〜15ppm

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフィルム用ポリエステル組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートに代表される飽和線状ポリエステルは、優れた力学特性、耐熱性、電気絶縁性、耐薬品性等を有するため、従来から包装用途、写真用途、電気用途、磁気テープ等の様々な用途のフィルムとして使用されている。また、近年においては、光学用フィルムとして有用されている。例えば、液晶表示装置におけるレンズフィルムに用いる基材フィルムやプラズマディスプレイ、CRTおよび液晶表示装置の保護フィルム等である。
【0003】
通常、ポリエステルフィルムは、ポリエステルを溶融押出した後、2軸延伸して得られる。すなわち、押出機により溶融押出されたシート状物を回転する冷却ドラムの表面に密着させて引き取り、次いで、該シート状物を冷却ドラムの後段に配置された延伸ロールへと導いて縦延伸し、さらに、テンターで横延伸した後、熱固定(熱セット)される。ここで、フィルムの厚みの均一性を高め、また、キャスティングの速度を高めるには、押出口金から溶融押出したシート状物を回転冷却ドラム表面で冷却する際に、該シート状物とドラム表面とが十分に高い付着力で密着していなければならない。このため、シート状物と回転ドラムの表面との付着力を高めるための方法として、押出口金と冷却回転ドラムの間にワイヤー状の電極を設けて高電圧を印加し、未固化のシート状物の表面に静電気を析出させて、該シート状物を冷却ドラムの表面に静電付着させて、急冷する、所謂、静電密着キャスト法が多く使用されている。すなわち、冷却ドラムにシート状物を静電付着させることで、ドラムの表面にシート状物が該表面との間に隙間を形成することなく高い付着力で密着し、冷却回転ドラムの回転速度を速めてもシート状物が位置ずれすることなく引き取られて一様にキャスティングされ、厚みの均一性に優れたフィルムが効率良く製造される。
【0004】
静電密着キャスト法において、シート状物の冷却ドラムへの静電密着性を向上させるにはシート状物表面における電荷量を多くすることが有効であり、該電荷量を多くするには、原料となるポリエステル(以下、原料ポリエステルと称す)を改質してその溶融比抵抗を低くすることが有効であることが知られている。そして、この溶融比抵抗を低くする方法として、原料ポリエステルの製造段階において、エステル化またはエステル交換反応中、または反応完了後、重縮合反応前にアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属化合物をリン化合物とともに添加することが行われている(例えば特許文献1、2参照)。
しかし、かかる発明は溶融比抵抗を低くすると言う点では改良されているものの、ポリマー中の異物抑制と言う点において、用途によっては不十分であり、ポリエステルを合成後、あるいは、溶融・押し出し工程後のフィルターの孔径を小さくする必要があり、生産性の低下やコストの上昇になっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−345617号公報
【特許文献2】特開2006−249213号公報
【0006】
一方、ポリエステルフィルムは厚みの均一性が高くても、それのみでは十分な品質を有しているとは言えず、フィルム中の異物量を少なくして、フィッシュ・アイ等の欠陥を極力少なくする必要がある。すなわち、ポリエステルフィルムには清澄度が要求される。そのために、原料ポリエステルにも高度の清澄度が必要となり、清澄度を高めるための対策がとられている。その一つとして、ポリエステルの反応生成物であるポリマーを微細なフィルターを使ってろ過することによって清澄度を高める方法が一般に採用されている。しかしながら、近年、その使用が拡大している光学用フィルムに使用するポリエステルフィルムにおいては、より高度の清澄度が要求され、従来の原料ポリエステルを製膜して得られるポリエステルフィルムでは、かかる要求に十分に対応できず、原料ポリエステルの更なる清澄度の向上が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑み、良好な静電密着性を有し、しかも、異物の存在量が極めて少なく、従来よりも高度の清澄度を有するフィルム用ポリエステル組成物およびその製造方法を提供することを目的としている。
また、特に、良好な静電密着性および高度の清澄度を有するとともに、優れた耐熱性を有するフィルム用ポリエステル組成物およびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成すべく、鋭意研究した結果、フィルム用ポリエステル組成物の良好な静電密着性を達成するには、重縮合触媒にアンチモン化合物を使用し、抵抗調整剤(低抵抗化剤)としてマグネシウム化合物を使用するだけでなく、カリウム化合物とリン化合物の3種類を所定量添加・併用することにより、ポリエステル組成物の溶融比抵抗が充分に低く、かつ、良好な耐熱性を示し、不溶性の異物が極めて少ないフィルム用ポリエステル組成物を提供できること見出した。さらには抵抗調整剤の添加の方法がフィルム用ポリエステル組成物の性能に大きく影響することを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明は以下の構成を特徴とする。
すなわち、重縮合触媒としてアンチモン化合物を使用し、マグネシウム化合物とカリウム化合物およびリン化合物を添加して、得られるフィルム用ポリエステル組成物であって、当該ポリエステル組成物の275℃での溶融比抵抗が0.15〜0.30×10Ω・cmであり、さらに下記(1)〜(3)の条件を満たすフィルム用ポリエステル組成物。
(1)Mg含有量:当該ポリエステル組成物に対して15〜35ppm
(2)K含有量:当該ポリエステル組成物に対して5〜20ppm
(3)P含有量:当該ポリエステル組成物に対して5〜15ppm
さらには、主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートであり、主たるリン化合物として、ジエチルホスホノ酢酸エチルを添加して得られるフィルム用ポリエステル組成物。
さらには、重縮合触媒としてアンチモン化合物を使用するポリエステル組成物の製造方法であって、下記の(a)〜(b)の条件を満たすフィルム用ポリエステル組成物の製造方法によって達成される。
(a)缶内を常圧以上の圧力とした少なくとも3缶以上のエステル化反応缶でエステル化反応を行う。
(b)マグネシウム化合物、カリウム化合物、リン化合物は前記3缶以上のエステル化反応缶のうちの第3番目以降のエステル化反応缶の同一反応缶に全量を添加する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、低い溶融比抵抗と高い清澄度および高い耐熱性を有するフィルム用ポリエステル組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書の前記および以下の記載において、「エステル化反応」とは、ジカルボン酸−グリコールジエステルおよび/またはそのオリゴマーを生成する反応を意味し、特に断りがない場合、直接エステル化反応に限らず、エステル交換反応をも含む概念である。また、「エステル化反応缶」とは、主としてかかる「エステル化反応」が行われる反応缶を意味する。
【0012】
ポリエステル組成物の275℃での溶融比抵抗(比抵抗値Si(Ω・m))は、ポリエステル組成物を静電密着キャスト法で製膜する際の静電密着性の指標として用いており、これが0.15〜0.30×10Ω・cmの範囲であれば、良好な静電密着性が得られて、厚みの均一性に優れたフィルムを安定に形成することができる。かかる溶融比抵抗が0.15×10Ω・cm未満であると、そのようなポリエステル組成物は、概ね抵抗調整剤(低抵抗化剤)が過多であり、不溶性の異物が多量に存在して高度の清澄度が得られない。逆に、0.30×10Ω・cmを超えるようなものは、シート(フィルム)の表面に静電気が十分に析出されず、良好な静電密着性が得られず、キャスティングに際して回転冷却ドラムとシートの間に気泡を巻き込み、均一な厚みのフィルムが得られなくなり、フィルムの生産の速度を減少させる必要が生ずるなどの障害が起きる。
【0013】
ポリエステル組成物の清澄度は、ポリエステルチップに含まれる粗大粒子(5μm以上の粒子)を顕微鏡で観察して、その個数によっても評価できる。すなわち、この方法は、ポリエステルチップ(一粒)を2枚のカバーガラス間に挟んで280℃で溶融プレスし、急冷したのち、100倍の位相差顕微鏡で20視野観察し、イメージアナライザーを用いて5μm以上の粒子の数をカウントして評価する方法である。この方法で測定した5μm以上の粒子の合計個数が15個以下(より好ましくは5以下)であれば、そのようなポリエステル組成物は、不溶性の異物(粗大粒子)であるマグネシウム塩(Mg塩)やカリウム塩(K塩)、金属アンチモンなどが少なく、高度の清澄度を有し、製膜して得られるフィルムは高度の清澄度を有する。一方、5μm以上の粒子の合計個数が15個を超える場合、そのようなポリエステル組成物は高度の清澄度が得られていない。
【0014】
本発明のフィルム用ポリエステル組成物は、重縮合触媒としてアンチモン化合物を使用し、マグネシウム化合物とカリウム化合物およびリン化合物を同一の反応缶に添加することによって製造される。その詳細についは後述する。
【0015】
本発明のフィルム用ポリエステル組成物は、目的の高度の清澄度を有する観点から、主たるエステル単位(繰り返し単位)がエチレンテレフタレートからなるものが好適であり、具体的には、全エステル単位(繰り返し単位)の好ましくは80モル%以上、より好ましくは90〜97モル%がエチレンテレフタレートからなるものが好適である。共重合成分としては、ジカルボン酸成分として、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸類;1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸類;イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類等が挙げられる。また、グリコール成分として、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール等の脂肪族グリコール類;1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール等の脂環式グリコール類;p−キシリレングリコール、m−キシリレングリコール等の芳香族グリコール類等が挙げられる。結晶化速度の抑制のために、反応で副生するジエチレングリコール(1〜2モル%対エチレングリコール)の他に1〜4モル%(対エチレングリコール)のジエチレングリコールを添加しても良いが、共重合成分としては、前記の範囲であることが好ましい。また、ジカルボン酸成分及びグリコール成分のいずれにおいても、いずれか1種を単独で使用しても、2種以上を任意の割合で組み合わせて使用してもよい。
【0016】
本発明のフィルム用ポリエステル組成物の重縮合触媒として使用するアンチモン化合物としては、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、酢酸アンチモン、アンチモングリコキサイド等が挙げられ、これらはいずれか1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。特に三酸化アンチモンが好ましい。
当該アンチモン化合物は、最終的に得られるポリエステル組成物質量に対するアンチモン原子の含有量が100〜200ppmとなる量添加するのが好ましく、100ppm未満であると重合生産性が低下し、逆に、200ppmを超えると、不溶性の異物を生じやすくなる。より好ましいアンチモン原子の含有量は130〜170ppmである。
【0017】
なお、本発明において、重合触媒には、上記アンチモン化合物以外のものを併用してもよく、該アンチモン化合物以外の重合触媒としては、例えば、ゲルマニウム化合物、チタン化合物、アルミニウム化合物などが挙げられる。これらの使用量は、それぞれ、最終的に得られるポリエステル組成物質量に対するゲルマニウム原子またはチタン原子、アルミニウム原子としての含有量が多くても30ppm以下となる量である。
【0018】
本発明で使用するマグネシウム化合物としては、例えば、酢酸マグネシウムのような低級脂肪酸塩や、マグネシウムメトキサイドのようなアルコキサイド等が挙げられ、これらはいずれか1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。特に酢酸マグネシウムが好ましい。
当該マグネシウム化合物は、最終的に得られるポリエステル組成物質量に対するマグネシウム原子の含有量が15〜35ppmとなる量添加する必要がある。
マグネシウム原子の含有量が15ppm未満であると、そのようなポリエステル組成物は溶融比抵抗が十分に低下せず、製膜時に十分な静電密着性が得られにくく、逆に、35ppmを超えると、そのようなポリエステル組成物は、不溶性の異物(Mg塩)の生成量が多くなり、また耐熱性の低下を招きフィルムの着色が酷くなり好ましくない。より好ましいマグネシウム原子の含有量は20〜30ppmである。
【0019】
本発明で使用するカリウム化合物としては、例えば、酢酸カリウムのような低級脂肪酸塩や、カリウムメトキサイドのようなアルコキサイド等が挙げられ、これらはいずれか1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。特に酢酸カリウムが好ましい。
当該カリウム化合物は、最終的に得られるポリエステル組成物質量に対するカリウム原子の含有量が5〜20ppmとなる量添加する必要がある。
カリウム原子の含有量が5ppm未満であると、そのようなポリエステル組成物は溶融比抵抗が十分に低下せず、製膜時に十分な静電密着性が得られにくく、逆に、20ppmを超えると、そのようなポリエステル組成物は、不溶性の異物(K塩)の生成量が多くなり、また耐熱性の低下を招きフイルムの着色が酷く好ましくない。より好ましいカリウム原子の含有量は7〜15ppmである。
なお、アルカリ金属化合物として、一般的に使用されるナトリウム化合物に比べ、前記マグネシウム化合物の規定する含有量の範囲内では、カリウム化合物の方が溶融比抵抗を低下させる効果が大きいことを見出したことが、本発明の重要な要件をなしている。
【0020】
本発明で使用するリン化合物は、例えば、リン酸、亜リン酸、ホスホン酸およびそれらの誘導体等が挙げられ、具体例としては、リン酸、リン酸トリメチル、リン酸トリブチル、リン酸トリフェニル、リン酸モノメチル、リン酸ジメチル、リン酸モノブチル、リン酸ジブチル、亜リン酸、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリブチル、メチルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチル、エチルホスホン酸ジメチル、ジエチルホスホノ酢酸エチル、フェニールホスホン酸ジメチル、フェニールホスホン酸ジエチル、フェニールホスホン酸ジフェニール等が挙げられる。これらはいずれか1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。また、これらのうちでもジエチルホスホノ酢酸エチル、リン酸トリメチルおよびリン酸が好ましく、飛散のしにくさと溶融比抵抗の低下のしやすさから、ジエチルホスホノ酢酸エチルが特に好ましい。
本発明では、主たるリン化合物として、ジエチルホスホノ酢酸エチルを添加することが好ましいが、この場合、ジエチルホスホノ酢酸エチルが全リン化合物の70モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましく、100モル%であることがさらに好ましい。
当該リン化合物は、最終的に得られるポリエステル組成物質量に対するリン原子の含有量が5〜15ppmとなる量添加する必要があり、5ppm未満であると、そのようなポリエステル組成物は耐熱性が低下する。逆に、15ppmを超えると、溶融比抵抗の低下が不十分であり、不溶性の異物(Mg塩およびK塩)の生成量が多くなり、好ましくない。より好ましいリン原子の含有量は7〜12ppmである。
い。
【0021】
不溶性の異物(Mg塩およびK塩)の生成量を低く抑える効果を向上させるためには、最終的に得られるポリエステル組成物質量に対するマグネシウム原子の含有量、カリウム原子の含有量、およびリン原子の含有量の合計が、60ppm以下であることが好ましく、50ppm以下であることがより好ましい。
【0022】
本発明のポリエステル組成物の好ましい極限粘度の範囲は、0.580〜0.650dl/gであり、本発明のポリエステル組成物の好ましい酸価は、10〜25eq/tonである。
【0023】
本発明のポリエステル組成物は、重縮合触媒にアンチモン化合物を使用し、かつ、マグネシウム化合物とカリウム化合物およびリン化合物を添加して製造でき、マグネシウム原子の含有量、カリウム原子の含有量、およびリン原子の含有量が上記規定の範囲のとき、ポリエステル組成物の275℃での溶融比抵抗が0.15〜0.30×10Ω・cmを満たすためには、その製造時に次の(a)〜(b)の条件を満たすことが少なくとも必要である。
(a)缶内を常圧以上の圧力とした少なくとも3缶以上のエステル化反応缶を用いてエステル化反応を行う。
(b)マグネシウム化合物、カリウム化合物、リン化合物は前記3缶以上のエステル化反応缶のうちの第3番目以降のエステル化反応缶の同一反応缶に全量を添加する。
【0024】
すなわち、上記(a)〜(b)の条件を満足することは、以下の技術内容を意味する。
エステル化反応缶の缶内を減圧状態にすると、リン化合物だけでなく、マグネシウム化合物やカリウム化合物が飛散してしまう恐れがあり、残存量管理が困難になる。従って、これを避けるためにエステル化反応缶の圧力を常圧以上にする。圧力の上限は29.4kPaが好ましい。29.4kPaを超えると、ジエチレングリコール(DEG)の副生量が増加し、ポリエステルの軟化点を低下させ、フィルムの製膜時にフィルムの破断等を生じて、製膜作業性を悪化させてしまう。
【0025】
エステル化反応缶内に、ジカルボン酸(またはそのジアルキルエステル)とグリコールを供給すると、エステル化反応によって、ジカルボン酸−グリコールジエステルおよび/またはそのオリゴマーを生成する(例えば、テレフタル酸とエチレングリコールを供給した場合、ビス−(β−ヒドロキシエチルテレフタレート)および/またはそのオリゴマーを生成する。)が、第1および第2エステル化反応缶では生成するオリゴマーの酸価がまだ大きく、この段階でマグネシウム化合物やカリウム化合物を添加すると、マグネシウム化合物やカリウム化合物とジカルボン酸の間で不溶性の異物(Mg塩およびK塩)が生成しやすくなる。従って、マグネシウム化合物やカリウム化合物は3缶目以降のオリゴマーの酸価が小さいエステル化反応缶に供給する。
【0026】
また、リン化合物は液状のものが多くて特に飛散しやすく、リン化合物をマグネシウム化合物やカリウム化合物が存在しない反応缶に添加すると、リン化合物の系外飛散量が多くなり、反応系に有効に取り込まれなくなって目標の品質のポリエステル組成物が得られない。従って、マグネシウム化合物やカリウム化合物の存在下に添加するのが好ましく、そのために、リン化合物を、マグネシウム化合物、カリウム化合物を添加する反応缶と同じ反応缶に添加することが好ましい。
【0027】
なお、かかる本発明のポリエステル組成物の製造方法において、重合触媒であるアンチモン化合物の添加時期は特に制限されない。すなわち、エステル化反応における初期段階で添加しておいても、その後に添加してもよい。また、マグネシウム化合物、カリウム化合物およびリン化合物は、供給精度の点からエチレングリコール溶液として添加するのが好ましい。また。エステル化反応缶における缶内(反応系)温度は通常240〜280℃、好ましくは255〜265℃である。240℃未満では、オリゴマーが固化しやすくなり、反応速度が低下するので、好ましくなく、逆に、280℃を超えるとDEGの副生量が増大し、また、生成ポリマーの色相が悪化する傾向を示すので好ましくない。また、エステル化反応缶はポリエステルの製造効率の観点からは、5缶以下とするのが好ましい。
また、最終生成物(ポリマー)はろ過してから、チップ化されるのが好ましい。かかるろ過には、通常、目開き3〜20μm程度のフィルターが使用される。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら制限されるものではない。なお、以下の実施例、比較例においてTPAはテレフタル酸、EGはエチレングリコール、DEPAはジエチルホスホノ酢酸エチル、TMPAはリン酸トリメチルを意味する。また、各特性、物性値は下記の試験方法で測定した。
【0029】
(1)ポリマー酸価
ポリエステルチップを粉砕、乾燥し、0.2gの乾燥物を10mlのベンジルアルコールにより加熱溶解し、0.04モル/Lの水酸化カリウムエタノール溶液(0.5モル/Lの水酸化カリウム水溶液80mLをエタノールで希釈し1Lとしたもの)でフェノールレッドを指示薬として滴定により求める。
(2)極限粘度
ポリエステル組成物をフェノール(6重量部)と1,1,2,2−テトラクロルエタン(4重量部)の混合溶媒に溶解し、30℃で測定する。
(3)275℃での溶融比抵抗
275℃で溶融したポリエステル組成物中に2本の電極(直径0.6mmのステンレス針金)を置き、120Vの電圧を印加した時の電流(i)を測定し、これを次式に当てはめて求めた比抵抗値Si(Ω・m)である。
Si(Ω・m)=(A/L)×(V/i
[A:電極間面積(cm)、L=電極間距離(cm)、V=電圧(V)]
(4)ポリマー中Mg(マグネシウム),K(カリウム),Na(ナトリウム)、P(リン)の含有量
ポリマー(チップ)を平滑な金属板上で約5mmの厚みで円板状に成型し、平滑面を蛍光X線分析装置で測定した。
なお、検量線は予め発光プラズマ分析法で濃度を確認した、標準サンプルを使用して作成したものである。
(5)ポリエステル組成物中の粗大粒子数(粒径5μm以上の粒子数)
先に説明した通り実施した。
(6)ポリマーの耐熱性
ポリマー(チップ)をガラスアンプルに投入し、窒素置換後、13.3kPaの減圧下(窒素雰囲気)でガラスアンプルの封を実施し、300℃で2時間加熱処理した時の極限粘度の変化を測定する。耐熱性は、加熱処理による極限粘度低下(ΔIV)で表示する。ΔIVが小さいほど耐熱性は良好である。
【0030】
実施例1
エステル化反応装置として、攪拌装置、蒸留塔、分縮器、原料仕込口および生成物取り出し口を有する3段の完全混合槽よりなる連続エステル化反応装置を使用し、TPAを2トン/hrとし、EGをTPA1モルに対して2モルとし、三酸化アンチモンを生成PETに対してSb原子が160ppmとなる量とし、これらのスラリーをエステル化反応装置の第1エステル化反応缶に連続供給し、常圧にて平均滞留時間4時間で、255℃で反応させた。
次に、上第1エステル化反応缶内の反応生成物を連続的に系外に取り出して第2エステル化反応缶に供給し、第2エステル化反応缶内に第1エステル化反応缶から留去されるEGを生成PETに対し8重量%添加し、常圧にて平均滞留時間1.5時間で、260℃で反応させた。
次に、上記第2エステル化反応缶内の反応生成物を連続的に系外に取り出して第3エステル化反応缶に供給し、生成PETに対してMg原子が25ppmとなる量の酢酸マグネシウムを含むEG溶液と、生成PETに対してK原子が10ppmとなる量の酢酸カリウムを含むEG溶液、および生成PETに対してP原子が9ppmとなる量のDEPAを含むEG溶液を添加し、常圧にて平均滞留時間0.5時間で、260℃で反応させた。なお、添加剤の歩留まりはすべて100%として添加量を決定した。
【0031】
上記第3エステル化反応缶内で生成したエステル化反応生成物を3段の連続重縮合反応装置に連続的に供給して重縮合を行い、目開き5μmの焼結繊維フィルターで濾過後に、極限粘度0.620dl/gのPET(ポリエステル組成物)を得た。
【0032】
実施例2
実施例1において、リン化合物の種類をDEPAからTMPAに変更し、リン化合物の添加量を歩留まり85%としてリン原子として生成ポリエステル組成物に対して10.6ppmに変更する以外は実施例1と同様にポリエステル組成物を合成した。
【0033】
実施例3
エステル化反応装置として、攪拌装置、蒸留塔、分縮器、原料仕込口および生成物取り出し口を有する4段の完全混合槽よりなる連続エステル化反応装置を使用し、酢酸マグネシウム、酢酸カリウム、DEPAの添加場所を第4エステル化反応缶に変更する以外は実施例1と同様にポリエステル組成物を合成した。
【0034】
実施例4
実施例1において、酢酸マグネシウム、酢酸カリウム、およびDEPAの添加量が表1に記載の量になるように変更する以外は実施例1と同様にポリエステル組成物を合成した。
【0035】
実施例5
実施例1において、酢酸マグネシウム、酢酸カリウム、およびDEPAの添加量が表1に記載の量になるように変更する以外は実施例1と同様にポリエステル組成物を合成した。
【0036】
比較例1
実施例1において、マグネシウム化合物、カリウム化合物、リン化合物の添加量をそれぞれ65ppm、30ppm、30ppmに変更する以外は実施例1と同様にポリエステル組成物を合成した。
【0037】
比較例2
実施例1においてカリウム化合物の添加を止める以外は実施例1と同様にポリエステル組成物を合成した。
【0038】
比較例3
実施例1において、酢酸カリウムの添加を止めて、酢酸ナトリウムをナトリウム原子として生成ポリエステル組成物に対して10ppm添加する以外は実施例1と同様にポリエステル組成物を合成した。
【0039】
比較例4
実施例1において、エステル化反応缶を2缶とし、第2エステル化反応缶に、第1エステル化反応缶から留去されるEGを、生成PETに対し8重量%添加するとともに、実施例1と同量の酢酸マグネシウム、酢酸カリウム、DEPAを添加する以外は実施例1と同様にポリエステル組成物を合成した。
【0040】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0041】
以上の説明により明らかなように、本発明によれば、低い溶融比抵抗と高い清澄度および高い耐熱性を有するフィルム用ポリエステル組成物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重縮合触媒としてアンチモン化合物を使用し、マグネシウム化合物とカリウム化合物およびリン化合物を添加して、得られるフィルム用ポリエステル組成物であって、当該ポリエステル組成物の275℃での溶融比抵抗が0.15〜0.30×10Ω・cmであり、さらに下記(1)〜(3)の条件を満たすフィルム用ポリエステル組成物。
(1)Mg含有量:当該ポリエステル組成物に対して15〜35ppm
(2)K含有量:当該ポリエステル組成物に対して5〜20ppm
(3)P含有量:当該ポリエステル組成物に対して5〜15ppm
【請求項2】
主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートであり、主たるリン化合物として、ジエチルホスホノ酢酸エチルを添加して得られる、請求項1に記載のフィルム用ポリエステル組成物。
【請求項3】
重縮合触媒としてアンチモン化合物を使用するポリエステル組成物の製造方法であって、下記の(a)〜(b)の条件を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載のフィルム用ポリエステル組成物の製造方法。
(a)缶内を常圧以上の圧力とした少なくとも3缶以上のエステル化反応缶でエステル化反応を行う。
(b)マグネシウム化合物、カリウム化合物、リン化合物は前記3缶以上のエステル化反応缶のうちの第3番目以降のエステル化反応缶の同一反応缶に全量を添加する。











【公開番号】特開2010−285527(P2010−285527A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139832(P2009−139832)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】