説明

フェライト−パーライト型非調質鍛造部品の製造方法

【課題】一つの部品内に、十分な降伏強度が付与された部分(高強度化させる部分)と、切削加工性を向上させるために降伏強度が抑えられた部分(低強度化させる部分)とを、非調質で形成させた鍛造部品の製造方法を提供することにある。
【解決手段】被加工材について、TTiCとなるように加熱する加熱処理工程と、高強度化させる部分について、1050℃以上、前記加熱温度以下で熱間鍛造を行い、低強度化させる部分について、Ac3点以上、950℃以下で、真歪量を0.3以上とする熱間鍛造を行う熱間鍛造工程と、高強度化させる部分について、急冷停止温度までの平均冷却速度が、3.0℃/s以上となり、急冷停止温度から400℃までの平均冷却速度が、0.1℃/s以上、1.5℃/s以下となり、低強度化させる部分について、600℃までの平均冷却速度が、1.0℃/s以下となるように、被加工材を冷却する冷却工程と、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、船舶などの輸送機のエンジンおよび足回り等に用いられるコンロッド、クランクシャフト、ハブ等の鍛造部品の製造方法に関するものであり、特に、熱間鍛造後に熱処理を行わない(非調質)鍛造部品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、船舶などで用いられる部品を軽量化させるため、部品の降伏強度の向上が求められている。そして、現在、当該要求に応じるため、中炭素鋼に0.1〜0.2質量%程度のVを含有させた鋼の適用が進んでいる。
しかし、この鋼で得られる降伏強度は800MPa程度までであるため、一層の高強度化を目指すべく、下記のような多くの取り組みがなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、Cを比較的低めに制御した鋼にVを含有させ、フェライト−ベイナイト2相組織とした後、200〜700℃の温度で時効処理を行うことにより、降伏強度を向上させた熱間鍛造用鋼の製造方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、Ti+Zrを0.04〜1.0質量%、Bを0.0005質量%以上含有させるとともに、TiおよびZr炭硫化物のサイズを10μm以下とした鋼を、1100℃以上の状態で熱間鍛造し、900℃以上で熱間鍛造を終了した後、30〜300℃/分の冷却速度で冷却することにより、強度を向上させたマルテンサイト・ベイナイト型非調質鋼材の製造方法が開示されている。
【0005】
特許文献3には、中炭素鋼にVとCaを含有させ、Ca含有量が40質量%を超える硫化物の割合、Ca含有量が0.3〜40質量%となる硫化物の割合、および、Ca含有量が0.3質量%未満となる硫化物の割合を、所定の範囲とすることにより、強度を向上させた非調質鋼が開示されている。
【0006】
特許文献4には、Vを0.30質量%超、および、Tiを0.003〜0.050質量%含有させた鋼を、十分に高温に加熱した後、300℃までを平均冷却速度0.05〜2℃/sで冷却することにより、強度を向上させた非調質鍛造部品の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−109518号公報
【特許文献2】特開2000−129393号公報
【特許文献3】特開平11−350065号公報
【特許文献4】特開平7−3386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された製造方法は、熱間鍛造後に時効処理が必要となるため(非調質ではないため)、製造の工程数が増加してしまう。また、特許文献2に開示された製造方法は、マルテンサイト・ベイナイトを用いているため、遅れ破壊の懸念が生じてしまう。また、特許文献3には、実施例(No.8)として、C量0.45質量%の鋼にV量0.3質量%を含有させた鋼の評価を行っているが、この鋼はφ25mmまで鍛造した後、空冷させただけで十分な冷却制御がなされておらず、十分な高強度化が図れていない。また、特許文献4に係る製造方法は、単調なパターンの冷却しか行っていないため、フェライトの析出強化量が適切に制御できていない。よって、析出強化量が少ないフェライトが局所的に形成されてしまい、当該フェライトが降伏を律速させてしまうため、鋼の降伏強度が十分に改善できない(最大83kgf/mm)。
【0009】
さらに、被加工材を最終形状にまで作りこむには切削加工が必要となるが、切削性は強度に依存するため、切削加工の必要な部分については、高強度化されていないことが好ましい。したがって、高強度化させる部分とは別に、切削加工の必要な部分については高強度化させず、一つの部品内に強度差を付与させることが有効である。
ここで、一つの部品内に強度差を付与させる技術としては、浸炭処理、肌焼処理、窒化処理、部分焼入れなど、熱処理を用いれば実現できることは知られているが、非調質で強度差を付与できる技術については報告されていない。
【0010】
本発明は、前記の問題に鑑みてなされたものであり、その課題は、一つの部品内に、十分な降伏強度が付与された部分(高強度化させる部分)と、切削加工性を向上させるために降伏強度が抑えられた部分(低強度化させる部分)とを、非調質で形成させた鍛造部品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するために、以下の知見に基づき発明を完成した。
鍛造部品において高強度化を実現するためには、鋼の冷却中に変態と同時に起こる相界面析出を活用することにより、微細な析出物を均一に分散させることができ、大きな析出強化量を確保できることが知られている。ここで、本発明の目標とする降伏強度1100MPa以上を実現するには、加熱処理工程において炭化物形成元素を多量に固溶させておき、その後の変態で析出させる必要がある。しかし、非調質鍛造部品用の鋼に使われる中炭素鋼は炭素の含有量が多く、炭化物が非常に安定に形成されるため、炭化物形成元素を多量に溶かすことが難しい。加えて、非調質鍛造部品用の鋼は、冷却中に析出物を析出させる必要があるため、変態と同時に析出できるような析出強化能力のある元素を含有させることが重要である。この様な条件を満たす元素および含有量について検討した結果、VとTiの複合添加が最適であり、目標の降伏強度とするにはVを0.2質量%以上、Tiを0.025質量%以上含有させることが必要であることを見出した。
【0012】
さらに、高強度化を実現するためには、0.2質量%以上のVおよび0.025質量%以上のTiを含有させたとしても、一旦、Vを完全に固溶させ、かつ、Tiを0.010質量%以上固溶させる必要があるとともに、加熱終了後、固溶したVおよびTiがオーステナイト中に析出しないようにするために、転位が蓄積しない高温域で鍛造する必要があることを見出した。加えて、一部固溶したTiは、フェライト変態、パーライト変態時にVと複合析出物(V,Ti)Cとして相界面析出して、析出強化に寄与することを見出した。
さらに、鍛造の後、オーステナイト粒界における(V,Ti)Cの析出を抑制し、フェライト−パーライト変態時に析出強化量の大きい、微細な(V,Ti)Cを高密度に相界面析出させるために、適切な冷却速度制御を行う必要があることを見出した。
【0013】
一方で、熱間鍛造工程においてオーステナイト中に転位が残存するように低温で鍛造を施し、その後、緩冷却することで、オーステナイト中での(V,Ti)Cの析出が促進されてフェライト−パーライト変態が起こる前に大半のVおよびTiを析出させることができる。また、加熱時に粗大Ti(C,N)としてTiを0.015質量%以上析出させておくことにより、オーステナイト中の転位に加えて粗大Ti(C,N)もフェライトの核生成サイトとして作用し、緩冷却中に、パーライトに比べて強度が低いフェライトの形成が促進される。その結果、フェライト−パーライト変態時に微細な相界面析出が十分に得られず析出強化できず、かつ、フェライト分率が高いフェライト−パーライト組織が得られるため、VおよびTiを多量に含有していても低強度化できることを見出した。
その結果、降伏強度700MPa以下のフェライト−パーライト組織を実現できることを見出した。
以上の知見から、本発明者らは以下の本発明を創出した。
【0014】
前記課題を解決するために、本発明に係るフェライト−パーライト型非調質鍛造部品の製造方法は、C:0.20〜0.80質量%、Si:0.50質量%以下、Mn:0.40〜1.00質量%、P:0.050質量%以下、S:0.050質量%以下、V:0.20〜0.80質量%、Ti:0.025〜0.30質量%、N:0.0100質量%以下を含有し、かつ、下記式(1)を満たし、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼を用いて、前記鋼からなる被加工材について、下記式(2)で算出されるTTiCとなるように加熱する加熱処理工程と、前記加熱処理工程の後に、前記被加工材の高強度化させる部分について、1050℃以上、前記加熱処理工程における加熱温度以下とし、かつ、前記被加工材の低強度化させる部分について、AC3点以上、950℃以下として、熱間鍛造を行い、当該熱間鍛造により当該低強度化させる部分の真歪量を0.3以上とする熱間鍛造工程と、前記熱間鍛造工程の後に、前記被加工材の高強度化させる部分について、前記熱間鍛造工程終了時の前記被加工材の温度から急冷停止温度までの平均冷却速度が、3.0℃/s以上となり、急冷停止温度から400℃までの平均冷却速度が、0.1℃/s以上、1.5℃/s以下となり、前記被加工材の低強度化させる部分について、前記熱間鍛造工程終了時の前記被加工材の温度から600℃までの平均冷却速度が、1.0℃/s以下となるように、前記被加工材を冷却する冷却工程と、を含み、前記急冷停止温度が550〜720℃である、ことを特徴とする。
[%Ti]−[%N]・48/14≧0.010・・・(1)
−10500/(log([%C]・0.01)−4.85)−273≦TTiC(℃)≦−10500/(log([%C]・([%Ti]+[%N]・48/14−0.015))−4.85)−273・・・(2)
(ただし、前記式(1)および(2)において、[%Ti]、[%N]、[%C]は、前記Ti、前記N、前記Cの各含有量(質量%)とする。)
【0015】
このように、本発明に係るフェライト−パーライト型非調質鍛造部品の製造方法は、Vを0.20〜0.80質量%、かつ、Tiを0.025〜0.30質量%含有させることにより、本発明で目標とする降伏強度1100MPa以上という高強度化の実現を確保することができる。
【0016】
そして、加熱処理工程において、被加工材をTTiCの範囲に加熱することにより、Vを完全に固溶させつつ、一部の(例えば、0.01質量%以上の)Tiを固溶させ、同時に、残りの(例えば、0.015質量%以上の)Tiを未固溶とし、高強度化させる部分のための固溶Ti、および、低強度化させる部分のためのフェライトの核生成サイトとなる粗大析出Ti(C,N)を確保することができる。
【0017】
そして、熱間鍛造工程において、被加工材の高強度化させる部分について、1050℃〜加熱処理工程の加熱温度以下で熱間鍛造を行うことにより、析出強化に寄与しない粗大な(V,Ti)Cの析出を抑制することができる。一方、低強度化させる部分について、Ac3〜950℃の加熱温度以下で、真歪量が0.3以上となるように熱間鍛造を行うことにより、オーステナイト中に形成される粗大な(V,Ti)Cを積極的に分散させることができる。
【0018】
そして、冷却工程において、高強度化させる部分については、急冷停止温度(550〜720℃)までの平均冷却速度が3.0℃/s以上となるように急冷却し、急冷却終了後、400℃までの平均冷却速度が0.1℃/s以上1.5℃/s以下となるように緩冷却を行うことにより、オーステナイト中での粗大な(V,Ti)Cの発生を抑制しつつ、フェライト−パーライト変態を低温化させることで相界面析出する(V,Ti)Cを微細に分散させることができ、高強度化を実現することができる。一方、低強度化させる部分については、熱間鍛造終了後、600℃までの平均冷却速度が、1.0℃/s以下となるように、緩冷却を行うことにより、オーステナイト中での粗大な(V,Ti)Cの発生を促進させつつ、オーステナイト中の転位および加熱処理工程で粗大に析出したTi(C,N)を核をとしたフェライト変態を促進させ、かつ、600℃以上の高温域における滞在時間を長くすることで、相界面析出する(V,Ti)Cを粗大かつ低密度に分散させることができ、低強度化を実現することができる。
その結果、高強度化させる部分(降伏強度:1100MPa以上)と低強度化させる部分(降伏強度:700MPa以下)との降伏強度の差の最大値を400MPa以上とすることができる。
【0019】
また、本発明に係るフェライト−パーライト型非調質鍛造部品の製造方法は、C:0.20〜0.80質量%、Si:0.50質量%以下、Mn:0.40〜1.00質量%、P:0.050質量%以下、S:0.050質量%以下、V:0.20〜0.80質量%、Ti:0.025〜0.30質量%、N:0.0100質量%以下を含有し、かつ、下記式(1)を満たし、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼を用いて、前記鋼からなる被加工材について、下記式(2)で算出されるTTiCとなるように加熱する加熱処理工程と、前記加熱処理工程の後に、前記被加工材の高強度化させる部分を断熱材で覆うとともに、前記被加工材の低強度化させる部分に冷却材を吹き付け、前記被加工材の高強度化させる部分について、1050℃以上、前記加熱処理工程における加熱温度以下とし、かつ、前記被加工材の低強度化させる部分について、AC3点以上、950℃以下として、1段または2段以上の熱間鍛造を行い、当該熱間鍛造により当該低強度化させる部分の真歪量を0.3以上とする熱間鍛造工程と、前記熱間鍛造工程の後に、前記被加工材の低強度化させる部分を断熱材で覆うとともに、前記被加工材の高強度化させる部分のみに冷却材を吹き付け、前記高強度化させる部分について、前記熱間鍛造工程終了時の前記被加工材の温度から急冷停止温度までの平均冷却速度が、3.0℃/s以上となるように、前記被加工材を冷却し、前記冷却後、前記被加工材の全体に冷却材を吹き付け、前記高強度化させる部分について、急冷停止温度から400℃までの平均冷却速度が、0.1℃/s以上、1.5℃/s以下となり、かつ、前記低強度化させる部分について、前記熱間鍛造工程終了時の前記被加工材の温度から600℃までの平均冷却速度が、1.0℃/s以下となるように、前記被加工材を冷却する冷却工程と、を含み、前記急冷停止温度が550〜720℃である、ことを特徴とする。
[%Ti]−[%N]・48/14≧0.010・・・(1)
−10500/(log([%C]・0.01)−4.85)−273≦TTiC(℃)≦−10500/(log([%C]・([%Ti]+[%N]・48/14−0.015))−4.85)−273・・・(2)
(ただし、前記式(1)および(2)において、[%Ti]、[%N]、[%C]は、前記Ti、前記N、前記Cの各含有量(質量%)とする。)
【0020】
このように、本発明に係るフェライト−パーライト型非調質鍛造部品の製造方法は、熱間鍛造工程において、高強度化させる部分を断熱材で覆った上で、低強度化させる部分に冷却材を吹き付け、また、冷却工程において、低強度化させる部分を断熱材で覆った上で、高強度化させる部分に冷却材を吹き付けることで、被加工材の部位に応じた冷却制御が可能となり、特別な加熱装置を利用することなく、一つの部品内で高強度化させる部位と低強度化させる部位が存在する鍛造部品を製造することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るフェライト−パーライト型非調質鍛造部品の製造方法によれば、一つの部品内に、十分な降伏強度が付与された部分(高強度化させる部分)と、切削加工性を向上させるために降伏強度が抑えられた部分(低強度化させる部分)とを非調質で形成させた鍛造部品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態に係るフェライト−パーライト型非調質鍛造部品の製造方法の工程を説明する模式図である。
【図2】本発明の実施形態に係るフェライト−パーライト型非調質鍛造部品の製造方法の工程における、高強度化させる部分と低強度化させる部分の熱履歴のグラフである。
【図3】実施例の引張試験を行う際の引張試験片を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係るフェライト−パーライト型非調質鍛造部品の製造方法(以下、適宜、単に鍛造部品の製造方法という)を実施するための形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
なお、フェライト−パーライト型とは、フェライト−パーライトを主体(例えばフェライト及びパーライトの合計が面積率で70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上)とするものである。
【0024】
[鋼]
本発明に係る鍛造部品の製造方法で用いる鋼は、C:0.20〜0.80質量%、Si:0.50質量%以下、Mn:0.40〜1.00質量%、P:0.050質量%以下、S:0.050質量%以下、V:0.20〜0.80質量%、Ti:0.025〜0.30質量%、N:0.0100質量%以下を含有し、かつ、[%Ti]−[%N]・48/14≧0.010・・・(1)を満たし、残部がFeおよび不可避不純物からなる。ただし、前記式(1)において、[%Ti]、[%N]は、前記Ti、前記Nの各含有量(質量%)とする。
以下に、本発明に係る鍛造部品の製造方法で用いる鋼の各組成を数値限定した理由について説明する。
【0025】
(C:0.20〜0.80質量%)
Cを0.20質量%以上含有させると、Vおよび/またはTiと結び付き(V,Ti)Cを析出させ、析出強化量を高めることでフェライト−パーライトで鋼の降伏強度(ビッカース硬さ)の向上に寄与する。一方、Cの含有量が0.80質量%を超えると、フェライト変態やパーライト変態が抑制されるため、ベイナイトが形成されるようになり、相界面析出が起こらなくなることで降伏強度が低下する。
したがって、Cの含有量は、0.20〜0.80質量%とする。
なお、好ましくはCの含有量は、0.30〜0.60質量%、さらに好ましくは0.40〜0.50質量%である。
【0026】
(Si:0.50質量%以下)
Siは、固溶強化で降伏強度(ビッカース硬さ)の向上に寄与するが、Siの含有量が0.50質量%を超えると、焼入れ性が高くなり、ベイナイトが形成され降伏強度低下の要因となる。
したがって、Siの含有量は、0.50質量%以下とする。なお、0質量%でもよい。
【0027】
(Mn:0.40〜1.00質量%)
Mnは、固溶強化で降伏強度(ビッカース硬さ)の向上に寄与するが、Mnの含有量が1.00質量%を超えると、焼入れ性が高くなり、ベイナイトが形成され降伏強度低下の要因となる。また、Mnの含有量が0.40質量%未満であると、Mnの添加による降伏強度の向上の効果が得られない。
したがって、Mnの含有量は、0.40〜1.00質量%とする。
【0028】
(P:0.050質量%以下)
Pは、鋼に不可避的に含まれるが、Pの含有量が0.050質量%を超えると、鋼を脆化させてしまう。
したがって、Pの含有量は、0.050質量%以下とする。なお、0質量%でもよい。
【0029】
(S:0.050質量%以下)
Sは、鋼に不可避的に含まれ、Mnと反応しMnSを形成して切削性改善に寄与するが、Sの含有量が0.050質量%を超えると、延性および靭性を低下させてしまう。
したがって、S含有量は0.050質量%以下とする。なお、0質量%でもよい。
【0030】
(V:0.20〜0.80質量%)
Vを0.20質量%以上含有させることにより、フェライトおよびパーライト中のラメラフェライト中にV炭化物もしくは炭窒化物として析出することでフェライトおよびパーライトを強化し、降伏強度(ビッカース硬さ)を向上させることができる。一方、Vの含有量が0.80質量%を超えると、熱間鍛造工程後の冷却工程において、フェライト変態やパーライト変態が抑制されてベイナイトが形成されるようになり、降伏強度が低下してしまう。
なお、従来からVの添加は行われていたものの、後記する本発明に係る冷却工程のような冷却制御を行なわない場合は、フェライト−パーライト変態が抑制されてしまうことにより、ベイナイトが形成されたり、変態温度が低くなりすぎフェライト中のVCの相界面析出が起こりにくくなったりしてしまう。よって、逆に降伏強度の低下を招いてしまっていた。
前記事項を考慮し、本発明に係る鍛造部品の製造方法で用いる鋼のVの含有量は、0.20〜0.80質量%とする。
なお、好ましくはVの含有量は、0.35〜0.80質量%、さらに好ましくは0.45〜0.80質量%である。
【0031】
(Ti:0.025〜0.30質量%)
Tiは、フェライトおよびパーライト中のラメラフェライト中にVとともに炭化物および炭窒化物として析出することでフェライトおよびパーライトを強化し、非調質鍛造部品の降伏強度の高強度化に寄与する元素である。また、TiはVが完全に固溶するような高温域においても一部は未固溶状態の粗大なTi(C,N)として存在する。そして、Ti(C,N)が低強度化させる部分においてフェライトの核生成サイトとなって、フェライト分率が高いフェライト−パーライト組織が得られる。
Tiの含有量が0.025質量%未満では、非調質鍛造部品において、高強度化させる部分で降伏強度1100MPaが得られなくなる。一方で、Tiの含有量が0.30質量%を超えると、降伏強度の向上効果が飽和する。
したがって、Tiの含有量は、0.025〜0.30質量%とする。
なお、Tiの含有量は、好ましくは0.05〜0.25質量%、さらに好ましくは0.07〜0.20質量%である。
【0032】
(N:0.0100質量%以下)
Nは、Tiと高温で結合して炭窒化物を形成する元素である。N量が0.0100質量%を超えると、高温域でNと結合した分、相界面析出で微細に析出させ得るTi量が減少するので、その分析出強化量が低下し、降伏強度が低下するようになる。一方、高温で形成されたTiの炭窒化物は、フェライトの核生成サイトとなり低強度化させる部分のフェライト分率を増加させ、低強度化に寄与する。
したがって、Nの含有量は、0.0100質量%以下であり、好ましくは0.0090質量%以下、さらに好ましくは0.0080質量%以下である。なお、低強度化させる部分のフェライトの核生成サイトとして、Nを含まないTiCも利用できるので、Nの含有量は0質量%でもよい。
【0033】
([%Ti]−[%N]・48/14≧0.010)
TiとNは高温で結合して炭窒化物を形成するため、高温域でNと結合した分、相界面析出で微細に析出させ得るTi量が減少するので、その分析出強化量が低下し、降伏強度が低下するようになる。加熱処理工程においてTiを0.010質量%以上固溶させるため、[%Ti]−[%N]・48/14≧0.010とする。好ましくは[%Ti]−[%N]・48/14≧0.015、さらに好ましくは[%Ti]−[%N]・48/14≧0.020である。
【0034】
(不可避不純物)
不可避不純物としては、例えば、Sn、Sb、O等が挙げられ、本発明の効果を妨げない範囲で含有することが許容される。
【0035】
[被加工材]
本発明に係る鍛造部品の製造方法で用いる被加工材は、前記組成の鋼から構成される。なお、当該被加工材に対し、後記する各工程の処理を施すことにより、十分な降伏強度が付与された部分(高強度化させる部分)と、切削加工性を向上させるために降伏強度が抑えられた部分(低強度化させる部分)とを形成させる。
なお、本発明に係る鍛造部品の製造方法で用いる被加工材は、例えば、鋳造、鍛造加工、押出加工等によって準備すればよい。
【0036】
ここで、高強度化させる部分とは、降伏強度を1100MPa以上とする部分のことであり、低強度化させる部分とは、降伏強度を700MPa以下とする部分のことである。したがって、本発明の製造方法で製造された鍛造部品は、一つの部品内の降伏強度の差の最大値が400MPa以上となる。
【0037】
この高強度化させる部分Xと、低強度化させる部分Yは、図1(a)で示しているように、被加工材に1箇所ずつ存在していてもよいし、複数個所ずつ存在していてもよい。また、どのような範囲(大きさ)で存在していてもよい。
なお、鍛造部品は、基本的に高強度化が要求されるものであるため、切削加工性を向上させる必要がある部分以外の全ての部分を、高強度化させる部分Xと判断してもよい。
【0038】
次に、図1、図2を参照しつつ、本発明に係る鍛造部品の製造方法の工程について説明する。なお、本発明に係る鍛造部品の製造方法は、加熱処理工程、熱間鍛造工程、冷却工程を含む構成となっている。
【0039】
[加熱処理工程]
加熱処理工程は、被加工材を、TTiCの範囲となるように加熱する工程である。
ここで、TTiCは、−10500/(log([%C]・0.01)−4.85)−273≦TTiC(℃)≦−10500/(log([%C]・([%Ti]+[%N]・48/14−0.015))−4.85)−273・・・(2)で表される。ただし、前記式(2)において、[%Ti]、[%N]、[%C]は、前記Ti、前記N、前記Cの各含有量(質量%)とする。
なお、加熱処理工程は、図1の(a)→(b)の間の工程である。
【0040】
(加熱処理の温度範囲)
加熱処理工程は、被加工材をTTiCの範囲の加熱温度で加熱処理する工程で、被加工材のV全量、およびTiの一部が固溶化する。加熱温度がTTiCの範囲の下限未満であると、Tiが0.010質量%以上固溶せず、非調質鍛造部品において、微細な(V、Ti)C複合析出物が十分に生成せずに、降伏強度が低下する。加熱温度がTTiCの範囲の上限を超えると、未固溶Tiが0.015質量%以下となり、粗大なTi(C,N)が十分に確保されず、低強度化させる部分のフェライト分率が十分増加せず、低強度化させる部分の降伏強度が上昇する。
また、TTiCの範囲に加えて、加熱温度の上限は、鋼の溶融温度未満とすることが好ましく、設備の能力等から、1300℃程度とすることがさらに好ましい。
ここで、TTiCは、TiCの溶解度積(日本鉄鋼協会、鉄鋼便覧第3版、第1巻基礎、1981年、p.412)から式変形して導出した温度であり、当該温度範囲の下限未満の温度に加熱することで固溶Tiが0.01質量%以下となり、当該温度範囲の上限を超える温度に加熱することで未固溶Tiが0.015質量%以下となる。なお、当該温度範囲の上限を設定する際、鋼に含有されるNは全てTiNとして析出しているとし、TiN中のTiおよび、TiCの溶解度積から計算される析出Tiの合計が0.015質量%以下となる温度を設定した。
なお、加熱処理工程での温度とは、加熱処理工程での被加工材の最高到達温度とする。
【0041】
(加熱処理工程の具体的な手順)
加熱処理工程において、被加工材をTTiCの範囲となるように加熱するが、加熱する手段については、特に限定されず、被加工材全体を、均一に加熱できるものであればよい。
【0042】
(加熱処理工程における熱履歴)
加熱処理工程における熱履歴は、図2の時間t0→t2に示すとおりである。
時間t0→t1において、被加工材の温度をT0→T1まで上昇させるが、この間の加熱速度については、加熱手段の性能によるものであり、特に限定されない。しかし、図2に示すとおり、略均一の加熱速度で加熱するのが好ましい。なお、T1は、TTiCの範囲である。
時間t1→t2の加熱保持時間については、特に限定されないが、製造時の安定性、生産性の観点から、60秒以上、1時間以下が好ましい。
また、時間t0→t1の加熱時間についても、特に限定されないが、V、Tiの固溶量、設備の能力等から、60秒〜1時間が好ましい。
【0043】
[熱間鍛造工程]
熱間鍛造工程は、加熱処理工程の後に行う工程であり、被加工材の高強度化させる部分Xについては、1050℃以上、加熱処理工程における加熱温度以下とし、かつ、被加工材の低強度化させる部分Yについては、AC3点以上、950℃以下として、熱間鍛造を行い、当該熱間鍛造により低強度化させる部分Yの相当歪量を0.3以上とする工程である。
なお、熱間鍛造工程は、図1の(b)→(c)の間の工程である。
【0044】
(高強度化させる部分の温度範囲)
高強度化させる部分Xについては、1050℃以上、前記加熱処理工程における加熱温度以下として、熱間鍛造を行う。
これは、1050℃未満になると、熱間鍛造温度が低下し組織は微細化されるが、(V,Ti)Cがオーステナイト中に析出することで、フェライト変態時にフェライト中に微細に相界面析出できる析出量が低下してしまうため、高強度化を確保できなくなるからである。
なお、熱間鍛造を行う処理の間、高強度化させる部分Xの温度が1050℃以上、前記加熱処理工程における加熱温度以下となっていることが好ましい。
【0045】
(低強度化させる部分の温度範囲、および真歪量)
低強度化させる部分Yについては、AC3点以上、950℃以下として、熱間鍛造を行い、当該熱間鍛造により当該低強度化させる部分Yの真歪量を0.3以上とする。
これは、AC3点未満だと、鍛造前にフェライトが形成された状態となり、この状態で鍛造を行うと、フェライト中に歪が導入され強度が向上してしまい、低強度化を確保できなくなるためである。
【0046】
また、950℃を超えると、オーステナイト中に形成される粗大な(V,Ti)Cの形成を抑制してしまい、高強度化されてしまうからである。
さらに、真歪量が0.3未満となってしまうと、オーステナイト中に形成される粗大な(V,Ti)Cの形成を抑制してしまい、高強度化されてしまうからである。好ましくは真歪量が0.4以上となるような熱間鍛造、さらに好ましくは真歪量が0.5以上となるような熱間鍛造を行う。そして、真歪量は、熱間鍛造時の変形抵抗が高くなりすぎないよう、5.0以下であることが好ましい。
なお、熱間鍛造を行う処理の間、低強度化させる部分Yの温度がAC3点以上、950℃以下となっていることが好ましい。
【0047】
ここで、AC3点とは、加熱処理工程のような昇温する場合において、オーステナイト相とフェライト相からなる2相領域から高温で安定なオーステナイト単相領域へ変態する温度である。
また、真歪量は、ln[(熱間鍛造前の被加工材の断面積)/(熱間鍛造後の被加工材の断面積)]で計算された歪量である。
【0048】
(熱間鍛造工程の具体的な手順)
次に、熱間鍛造工程の具体的な手順を説明する。
まず、被加工材の高強度化させる部分Xを断熱材で覆うとともに、被加工材の低強度化させる部分Yに冷却材を吹き付ける。この断熱材については、特に限定されず、ガラスウール等を使用すればよい。また、冷却材についても、特に限定されず、空気、Nガス、アルゴンガス、ミスト等を使用すればよい。
【0049】
その後、被加工材に対し、熱間鍛造を行う。ここで、熱間鍛造の装置、熱間鍛造の方法等については、特に限定されず、従来の装置を用いて従来の方法により行えばよい。また、熱間鍛造の回数についても、特に限定されず、1段または2段以上であればよい。
【0050】
なお、熱間鍛造工程の具体的な手段については、前記手段に限定されず、高強度化させる部分Xと低強度化させる部分Yとの温度差が生じるような処理を行った後、熱間鍛造を行う方法であればよい。
【0051】
(熱間鍛造工程における熱履歴)
熱間鍛造工程の熱履歴は、図2の時間t2→t4に示すとおりである。
時間t2→t3については、被加工材の高強度化させる部分Xの温度をT1→T2まで下降させ、被加工材の低強度化させる部分Yの温度をT1→T3まで下降させるが、この間の平均冷却速度については、冷却手段の性能(冷却材の種類)によるものであり、特に限定されない。しかし、図2に示すとおり、略均一の冷却速度で冷却するのが好ましい。そして、時間t3→t4の鍛造時間については、高強度化させる部分Xと低強度化させる部分Yとの温度差を確保したまま被加工材を鍛造させる必要があるため、短いほうが好ましい。
なお、T2は、1050℃以上、前記加熱処理工程における加熱温度以下であり、T3は、AC3点以上、950℃以下である。
【0052】
[冷却工程]
冷却工程は、熱間鍛造工程の後に行う工程であり、被加工材の高強度化させる部分Xについて、熱間鍛造工程終了時の被加工材の温度から急冷停止温度までの平均冷却速度が、3.0℃/s以上となり、急冷停止温度から400℃までの平均冷却速度が、0.1℃/s以上、1.5℃/s以下となり、被加工材の低強度化させる部分Yについて、熱間鍛造工程終了時の被加工材の温度から600℃までの平均冷却速度が、1.0℃/s以下となるように、被加工材を冷却する工程である。
ここで、急冷停止温度とは、被加工材の高強度化させる部分Xに対する急冷を停止させる温度であり、550〜720℃である。
なお、冷却工程は、図1の(c)→(e)で表わされる。
【0053】
(高強度化させる部分の冷却速度)
高強度化させる部分Xについて、熱間鍛造工程終了時の被加工材の温度から急冷停止温度(550〜720℃)までの平均冷却速度が、3.0℃/s以上となるように冷却する。
ここで、フェライト変態、パーライト変態時に相界面析出させることにより高強度化を達成するためには、オーステナイト域での(V,Ti)Cの析出を防止する必要がある。特に析出し易いTiの添加により、オーステナイト粒界に(V,Ti)Cが析出し易い。よって、オーステナイト域での冷却速度を速くする必要がある。したがって、本発明で使用する鋼のフェライト変態開始温度である720℃以下までの平均冷却速度を3.0℃/s以上とした。好ましくは5.0℃/s以上である。ただし、3.0℃/s以上の速度で低温域まで急冷しすぎると、フェライト−パーライト変態ができずに、ベイナイトが形成されるようになるため、当該速度での冷却は、550℃以上までとした。
【0054】
また、高強度化させる部分Xについて、急冷停止温度(550〜720℃)から400℃までの平均冷却速度が、0.1℃/s以上、1.5℃/s以下となるように冷却する。
これは、本発明ではV、Ti添加により特にパーライト変態が遅延されるため、平均冷却速度が1.5℃/sを超えるとベイナイトやマルテンサイトが形成されてしまうからである。一方、平均冷却速度が0.1℃/s未満となると、フェライト−パーライト変態が高温化し、変態と同時に起こる相界面析出により形成される(V,Ti)Cが粗大化して析出強化量が低下するため、強度を確保することができなくなるからである。
【0055】
なお、急冷停止温度は、前記したように、高強度化させる部分Xについて、オーステナイト中に(V,Ti)Cが析出するのを抑制するため、720℃以下にする必要がある。一方、急冷停止温度が550℃未満となると、その後、徐冷してもフェライト−パーライト変態ができなくなる。よって、急冷停止温度は、550〜720℃とした。急冷停止温度の好ましい範囲は560〜670℃、さらに好ましい範囲は570〜650℃である。
【0056】
(低強度化させる部分の冷却速度)
低強度化させる部分Yについて、熱間鍛造工程終了時の被加工材の温度から600℃までの平均冷却速度が、1.0℃/s以下となるように冷却する。
これは、熱間鍛造後、1.0℃/s以下で冷却すると、フェライト変態開始前にオーステナイト域で粗大な(V,Ti)Cが析出することにより、V、Nbの相界面析出量が減少し、析出強化量が低下するためである。また、1.0℃/s以下で冷却することにより、加熱処理工程で析出したTi(C,N)を核生成サイトとしたフェライトが生成し、フェライト−パーライト組織のフェライト分率が増加するためである。好ましい平均冷却速度は0.8℃/s以下、さらに好ましい平均冷却速度は0.5℃/s以下である。なお、生産性の低下を防止するため、0.01℃/s以上であることが好ましい。
【0057】
(冷却工程の具体的な手順)
被加工材の高強度化させる部分Xと低強度化させる部分Yとを、異なる平均速度で冷却する必要があるため、高強度化させる部分Xのみに冷却材を吹き付けられるように低強度化させる部分Yを断熱材(ガラスウール等)で覆う。その後、高強度化させる部分Xにのみ冷却材を吹き付ける(図1の(d−1)等)。
なお、高強度化させる部分Xと低強度化させる部分Yとを、異なる平均速度で冷却できればよいため、前記方法のみに限定されることはなく、例えば、仕切り板等で冷却材が低強度化させる部分Yに当たらないようにするといった構成でもよい。
【0058】
被加工材の高強度化させる部分Xが急冷停止温度(550〜720℃)となった後も、高強度化させる部分Xと低強度化させる部分Yとを、異なる平均速度で冷却する。ただし、急冷停止温度(550〜720℃)までの手順と比べて、冷却材の吹き付ける流量を少なくする等により、高強度化させる部分Xの冷却速度を遅くする。
【0059】
冷却方法については、特に限定されないが、所定の速度範囲内で冷却する必要があるため、単位時間あたりに同量の冷却材を吹き付ける方法が好ましい。また、冷却材については、冷却効果を有する圧縮ガス(空気、Nガス、アルゴンガス、ミスト等)が好ましい。
【0060】
(冷却工程における熱履歴)
冷却工程の熱履歴は、図2の時間t4以降に示すとおりである。
時間t4→t5の高強度化させる部分Xの平均冷却速度については、3.0℃/s以上で、時間t5以降の高強度化させる部分Xの平均冷却速度については、0.1℃/s以上、1.5℃/s以下である。そして、T4は、550〜720℃(急冷停止温度)であり、T5は、400℃である。
時間t4以降(600℃まで)の低強度化させる部分Yの平均冷却速度については、1.0℃/s以下である。
なお、時間t4以降の冷却速度については、本発明では平均値で規定しているが、図2に示しているように、略一定速度で冷却されることが好ましい。
【0061】
なお、本発明に係る鍛造部品の製造方法は、加熱処理工程、熱間鍛造工程、冷却工程以外の工程、例えば、加熱処理工程の前に被加工材を所定形状に整える工程や、冷却工程の後に被加工材を放冷する工程等、を含む構成となっていてもよい。
【0062】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更可能である。
【実施例】
【0063】
次に、本発明に係る鍛造部品の製造方法について、本発明の効果を確認した実施例(供試材No.2〜6、20)を、本発明の要件を満たさない比較例(供試材No.1、7〜19、21〜22)と対比して具体的に説明する。
【0064】
[供試材の作製]
表1に示す化学成分組成からなる円柱状(φ40.0mm×60mm)を呈する鋼を、全体が均一な温度となるように均一加熱した。
その後、供試材がφ28.1mmの円柱状を呈するように熱間押出(熱間鍛造)を行った。なお、熱間鍛造前に、一部の供試材については、空冷もしくは強制冷却により、表2の熱間鍛造温度まで冷却している。
熱間鍛造後、図1の(d−1)、(d−2)、(d−3)、(d−4)、(d−5)に示すような圧縮ガスおよび水を用いて冷却する方法、並びに、(d−6)に示すようなガラスウールで構成された断熱材で供試材を覆うことで徐冷する方法、および、(d−7)に示すように浸漬により水冷する方法を用いて、表2に示す平均冷却速度により供試材を冷却した。
なお、各条件の詳細な設定温度、時間等は表2に示した。
【0065】
[測定方法]
作製した鍛造部品の降伏強度を以下のように評価した。
鍛造部品の高強度化させる部分Xと、低強度化させる部分Yそれぞれより、長さ方向と垂直に微小引張試験片を作製した。サイズは図3に示すサブサイズの引張試験片とした。それぞれ引張試験を行い、降伏強度を測定した。その結果を表2に示す。
【0066】
[評価方法]
評価方法については、高強度化させる部分X(表2では、高強度部と記載)の降伏強度が1100MPa以上であり、かつ、低強度化させる部分Y(表2では、低強度部と記載)の降伏強度が700MPa以下の場合を効果ありと評価し、それ以外の場合を効果なしと評価した。
なお、表2の加熱温度とは、図2のT1(t1→t2)であり、表2の均一加熱時間とは図2のt1→t2である。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
(V含有量、Ti含有量による評価)
表1に示すように鋼種AのV含有量(0.10質量%)は、本発明が規定するV含有量の下限値(0.20質量%)よりも少なかった。よって、鋼種Aからなる供試材No.1は、高強度化させる部分の降伏強度が810MPaとなり1100MPaを下回る結果となった。
また、表1に示すように鋼種DのV含有量(1.00質量%)は、本発明が規定するV含有量の上限値(0.80質量%)よりも多かった。よって、鋼種Dからなる供試材No.19は、高強度化させる部分の降伏強度が825MPaとなり1100MPaを下回る結果となった。
また、表1に示すように、鋼種F、GのTi含有量は、本発明が規定するTi含有量の下限値(0.025質量%)よりも少ないとともに、鋼種F、Gの[%Ti]−[%N]・48/14は、本発明が規定する[%Ti]−[%N]・48/14の下限値(0.010)よりも低かった。よって、鋼種F、Gからなる供試材No.21、22は、高強度化させる部分の降伏強度が1100MPaを下回る、または、低強度化させる部分の降伏強度が700MPaを上回る結果となった。
【0070】
(加熱処理工程による評価)
供試材No.7は、加熱処理工程において、加熱温度を1100℃とし、TTiCの範囲(1186〜1420℃)の範囲の下限値よりも低かった。よって、供試材No.7は、高強度化させる部分の降伏強度が1045MPaとなり1100MPaを下回る結果となった。
【0071】
(熱間鍛造工程による評価)
供試材No.8は、熱間鍛造工程において、高強度化させる部分Xの熱間鍛造温度を900℃とし、1050℃よりも低かった。よって、供試材No.8は、高強度化させる部分の降伏強度が910MPaとなり1100MPaを下回る結果となった。
供試材No.9は、熱間鍛造工程において、低強度化させる部分Yの熱間鍛造温度を1150℃とし、950℃よりも高かった。よって、供試材No.9は、低強度化させる部分の降伏強度が976MPaとなり、700MPaを上回る結果となった。
供試材No.10は、熱間鍛造工程において、低強度化させる部分Yの熱間鍛造温度を750℃とし、AC3点(815℃)よりも低かった。よって、供試材No.10は、低強度化させる部分の降伏強度が821MPaとなり、700MPaを上回る結果となった。
供試材No.11は、熱間鍛造工程において、低強度化させる部分の真歪量を0.20とし、0.3よりも低かった。よって、供試材No.11は、低強度化させる部分の降伏強度が832MPaとなり、700MPaを上回る結果となった。
【0072】
(冷却工程による評価)
供試材No.12は、冷却工程において、高強度化させる部分Xの急冷停止温度までの冷却速度を1.2℃/sとし、3.0℃/sよりも遅かった。よって、供試材No.12は、高強度化させる部分の降伏強度が955MPaとなり、1100MPaを下回る結果となった。
供試材No.13は、冷却工程において、低強度化させる部分Yの600℃までの冷却速度を3.0℃/sとし、1.0℃/sよりも速かった。よって、供試材No.13は、低強度化させる部分の降伏強度が860MPaとなり、700MPaを上回る結果となった。
供試材No.14は、冷却工程において、急冷停止温度を750℃とし、720℃よりも高かった。よって、供試材No.14は、高強度化させる部分の降伏強度が815MPaとなり、1100MPaを下回る結果となった。
供試材No.15は、冷却工程において、急冷停止温度を500℃とし、550℃よりも低かった。よって、供試材No.15は、高強度化させる部分の降伏強度が871MPaとなり、1100MPaを下回る結果となった。
供試材No.16は、冷却工程において、高強度化させる部分Xの急冷停止温度から400℃までの冷却速度を2.0℃/sとし、1.5℃/sよりも速かった。よって、供試材No.16の高強度化させる部分Xの降伏強度が845MPaとなり、1100MPaを下回る結果となった。
【0073】
供試材No.17は、冷却工程において、高強度化させる部分Xの急冷停止温度から400℃までの冷却速度を0.08℃/sとし、0.1℃/sよりも遅かった。よって、供試材No.17の高強度化させる部分Xの降伏強度が878MPaとなり、1100MPaを下回る結果となった。
供試材No.18は、冷却工程において、急冷停止温度を設定せず、浸漬により水冷する方法(d−7)により一気に冷却した。よって、供試材No.18の高強度化させる部分Xの降伏強度が965MPaとなり、1100MPaを下回り、低強度化させる部分Yの降伏強度が960MPaとなり、700MPaを上回る結果となった。
【0074】
以上の結果より、本発明に係る鍛造部品の製造方法によると、一つの部品内に、1100MPa以上という十分な降伏強度が付与された部分(高強度化させる部分)と、700MPa以下に降伏強度が抑えられた切削加工性が向上された部分(低強度化させる部分)とを非調質で形成させることができることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.20〜0.80質量%、Si:0.50質量%以下、Mn:0.40〜1.00質量%、P:0.050質量%以下、S:0.050質量%以下、V:0.20〜0.80質量%、Ti:0.025〜0.30質量%、N:0.0100質量%以下を含有し、かつ、下記式(1)を満たし、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼を用いて、
前記鋼からなる被加工材について、下記式(2)で算出されるTTiCとなるように加熱する加熱処理工程と、
前記加熱処理工程の後に、前記被加工材の高強度化させる部分について、1050℃以上、前記加熱処理工程における加熱温度以下とし、かつ、前記被加工材の低強度化させる部分について、AC3点以上、950℃以下として、熱間鍛造を行い、当該熱間鍛造により当該低強度化させる部分の真歪量を0.3以上とする熱間鍛造工程と、
前記熱間鍛造工程の後に、前記被加工材の高強度化させる部分について、前記熱間鍛造工程終了時の前記被加工材の温度から急冷停止温度までの平均冷却速度が、3.0℃/s以上となり、急冷停止温度から400℃までの平均冷却速度が、0.1℃/s以上、1.5℃/s以下となり、前記被加工材の低強度化させる部分について、前記熱間鍛造工程終了時の前記被加工材の温度から600℃までの平均冷却速度が、1.0℃/s以下となるように、前記被加工材を冷却する冷却工程と、を含み、
前記急冷停止温度が550〜720℃である、ことを特徴とするフェライト−パーライト型非調質鍛造部品の製造方法。
[%Ti]−[%N]・48/14≧0.010・・・(1)
−10500/(log([%C]・0.01)−4.85)−273≦TTiC(℃)≦−10500/(log([%C]・([%Ti]+[%N]・48/14−0.015))−4.85)−273・・・(2)
(ただし、前記式(1)および(2)において、[%Ti]、[%N]、[%C]は、前記Ti、前記N、前記Cの各含有量(質量%)とする。)
【請求項2】
C:0.20〜0.80質量%、Si:0.50質量%以下、Mn:0.40〜1.00質量%、P:0.050質量%以下、S:0.050質量%以下、V:0.20〜0.80質量%、Ti:0.025〜0.30質量%、N:0.0100質量%以下を含有し、かつ、下記式(1)を満たし、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼を用いて、
前記鋼からなる被加工材について、下記式(2)で算出されるTTiCとなるように加熱する加熱処理工程と、
前記加熱処理工程の後に、前記被加工材の高強度化させる部分を断熱材で覆うとともに、前記被加工材の低強度化させる部分に冷却材を吹き付け、前記被加工材の高強度化させる部分について、1050℃以上、前記加熱処理工程における加熱温度以下とし、かつ、前記被加工材の低強度化させる部分について、AC3点以上、950℃以下として、1段または2段以上の熱間鍛造を行い、当該熱間鍛造により当該低強度化させる部分の真歪量を0.3以上とする熱間鍛造工程と、
前記熱間鍛造工程の後に、前記被加工材の低強度化させる部分を断熱材で覆うとともに、前記被加工材の高強度化させる部分のみに冷却材を吹き付け、前記高強度化させる部分について、前記熱間鍛造工程終了時の前記被加工材の温度から急冷停止温度までの平均冷却速度が、3.0℃/s以上となるように、前記被加工材を冷却し、
前記冷却後、前記被加工材の全体に冷却材を吹き付け、前記高強度化させる部分について、急冷停止温度から400℃までの平均冷却速度が、0.1℃/s以上、1.5℃/s以下となり、かつ、前記低強度化させる部分について、前記熱間鍛造工程終了時の前記被加工材の温度から600℃までの平均冷却速度が、1.0℃/s以下となるように、前記被加工材を冷却する冷却工程と、を含み、
前記急冷停止温度が550〜720℃である、ことを特徴とするフェライト−パーライト型非調質鍛造部品の製造方法。
[%Ti]−[%N]・48/14≧0.010・・・(1)
−10500/(log([%C]・0.01)−4.85)−273≦TTiC(℃)≦−10500/(log([%C]・([%Ti]+[%N]・48/14−0.015))−4.85)−273・・・(2)
(ただし、前記式(1)および(2)において、[%Ti]、[%N]、[%C]は、前記Ti、前記N、前記Cの各含有量(質量%)とする。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−790(P2013−790A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137420(P2011−137420)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 「鉄鋼材料の革新的高強度・高機能化基盤研究開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】