フェライト焼結磁石及びその製造方法
【課題】フェライト焼結磁石の磁石特性を向上させることであり、特に、CaLaCoフェライト焼結磁石よりも安価であり磁石特性に優れるSrLaCoフェライト焼結磁石の磁石特性をより一層向上させ、近年益々強くなる高性能化の要求を満足するフェライト焼結磁石を安価にして提供する。
【解決手段】Sr、La、Fe及びCoを含有し440〜455℃にキュリー温度Tc1が存在する第一の粒子状のフェライト化合物相と、Ca、La、Fe及びCoを含有し420℃以上440℃未満にキュリー温度Tc2が存在する第二の粒子状のフェライト化合物相とを有するフェライト焼結磁石であって、前記第一のフェライト化合物相の体積比率が50%を超え90%以下、前記第二のフェライト化合物相の体積比率が10%以上50%未満であり、両体積比率の和が95%以上であることを特徴とするフェライト焼結磁石。
【解決手段】Sr、La、Fe及びCoを含有し440〜455℃にキュリー温度Tc1が存在する第一の粒子状のフェライト化合物相と、Ca、La、Fe及びCoを含有し420℃以上440℃未満にキュリー温度Tc2が存在する第二の粒子状のフェライト化合物相とを有するフェライト焼結磁石であって、前記第一のフェライト化合物相の体積比率が50%を超え90%以下、前記第二のフェライト化合物相の体積比率が10%以上50%未満であり、両体積比率の和が95%以上であることを特徴とするフェライト焼結磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト焼結磁石及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェライト焼結磁石は、各種モータ、発電機、スピーカ等に使用されている。代表的なフェライト焼結磁石として、六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するSrフェライト(SrFe12O19)及びBaフェライト(BaFe12O19)が知られている。これらのフェライト焼結磁石は、酸化鉄とストロンチウム(Sr)又はバリウム(Ba)の炭酸塩等とを原料とし、粉末冶金法によって比較的安価に製造される。
【0003】
近年、環境に対する配慮等から、自動車用電装部品、電気機器用部品等において、部品の小型・軽量化及び高効率化を目的として、フェライト焼結磁石の高性能化が要望されている。特に、自動車用電装部品に用いられるモータには、高い残留磁束密度Br(以下、単に「Br」という)を保持しながら、薄型化した際に、反磁界により減磁しない高い保磁力HcJ(以下、単に「HcJ」という)を有するフェライト焼結磁石が要望されている。
【0004】
フェライト焼結磁石の磁石特性の向上を図るため、上記のSrフェライトにおけるSrの一部をLa等の希土類元素で置換し、Feの一部をCoで置換することにより、HcJ及びBrを向上させる方法が、特開平10-149910号(特許文献1)、特開平11-154604号(特許文献2)等により提案されている。
【0005】
特許文献1及び特許文献2に記載の、Srの一部をLa等の希土類元素で置換し、Feの一部をCo等で置換したSrフェライト(以下、「SrLaCoフェライト」という)は、磁石特性に優れることから、従来のSrフェライトやBaフェライトに代わり、各種用途に多用されつつあるものの、さらなる磁石特性の向上も望まれている。
【0006】
一方、フェライト焼結磁石として、上記SrフェライトやBaフェライトとともに、Caフェライトも知られている。Caフェライトは、CaO-Fe2O3又はCaO-2Fe2O3の組成式で表される構造が安定であり、Laを添加することによって六方晶フェライトを形成することが知られている。しかし、得られる磁石特性は、従来のBaフェライトの磁石特性と同程度であり、充分に高くはない。
【0007】
特許第3181559号(特許文献3)は、CaフェライトのBr及びHcJの向上、並びにHcJの温度特性の改善を図るため、Caの一部をLa等の希土類元素で置換し、Feの一部をCo等で置換した、20 kOe以上の異方性磁界HAを有するCaフェライト(以下「CaLaCoフェライト」という)を開示しており、この異方性磁界HAはSrフェライトに比べて10%以上高い値であると記載している。
【0008】
しかしながら、特許文献3に記載のCaLaCoフェライトは、SrLaCoフェライトを上回る異方性磁界HAを有するものの、Br及びHcJはSrLaCoフェライトと同程度であり、一方で角形比Hk/HcJ(以下、単に「Hk/HcJ」という)が非常に悪く、高いHcJと高いHk/HcJとの両方を満足することができず、モータ等の各種用途に応用されるまでには至っていない。
【0009】
上記のSrLaCoフェライトの磁石特性を改良すべく、特開平11-195516号(特許文献4)は、特許文献1及び特許文献2で提案されたSrLaCoフェライトの製造方法において、Srフェライトの仮焼粉にLa及びCoを添加し、成形し、焼成を行うことにより、SrLaCoフェライトを製造する方法を提案している。この方法により得られる焼結磁石は、2つの異なるキュリー温度(Tc)を有し、角形性が高く、Co含有量を少量化できると記載している。
【0010】
特許文献4は特許文献1及び2で提案されたSrLaCoフェライトに対して磁石特性は向上しているものの、高性能化の要求は近年益々強くなる一方であり、さらなる磁石特性の向上が要望されている。
【0011】
特開2006-104050号(特許文献5)、国際公開第2007/060757号(特許文献6)及び国際公開第2007/077811号(特許文献7)は、いずれも特許文献3で提案されたCaLaCoフェライトの高性能化を目的としたもので、特許文献5は、各構成元素の原子比率及びモル比nの値を最適化し、かつLa及びCoを特定の比率で含有させることを提案しており、特許文献6は、Caの一部をLa及びBaで置換することを提案しており、特許文献7は、Caの一部をLa及びSrで置換することを提案している。
【0012】
特許文献5〜7に記載の発明により、SrLaCoフェライトを超える高いBr及び高いHcJを有するCaLaCoフェライト焼結磁石が得られている。しかしながら、特許文献5〜7に記載のフェライト焼結磁石はいずれも、高い磁石特性を得るためにCoを原子比率で0.3程度含有させる必要がある。つまり現在市場に提供されているSrLaCoフェライト焼結磁石(原子比率で0.2程度のCo含有量)に比べ多くのCoを必要とし、原料コストが増大するという問題がある。
【0013】
フェライト焼結磁石の最大の特徴の一つに高い経済性がある。例え高い磁石特性を有するフェライト焼結磁石であっても、価格が高いと市場では受け入れられ難い。例えば、CoやLaの価格は、主成分である酸化鉄の価格の十数倍から数十倍であるため、CoやLaの含有量が多くなるとフェライト焼結磁石の価格が著しく上昇する(2009年11月のLMB(London Metal Bulletin)コバルト相場は高品位品で21.1〜22.0 $/lbでありCo3O4に単純換算すると3,100〜3,200円/kg、日本CIFのLa相場は10$/kgでありLa2O3に単純換算すると約770円/kgとなる。)。
【0014】
しかしながら、特許文献5〜7等に記載のCaLaCoフェライトのCo含有量を、SrLaCoフェライトと同等(原子比率で0.2程度)に低減すると、磁石特性、特にHcJがSrLaCoフェライト以下となり、CaLaCoフェライトの特徴(高いBr及び高いHcJ)が発揮されなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平10-149910号公報
【特許文献2】特開平11-154604号公報
【特許文献3】特許第3181559号公報
【特許文献4】特開平11-195516号公報
【特許文献5】特開2006-104050号公報
【特許文献6】国際公開第2007/060757号パンフレット
【特許文献7】国際公開第2007/077811号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、フェライト焼結磁石の磁石特性を向上させることであり、特に、CaLaCoフェライト焼結磁石よりも安価なSrLaCoフェライト焼結磁石の磁石特性をより一層向上させ、近年益々強くなる高性能化の要求を満足するフェライト焼結磁石を安価にして提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、発明者らは、Sr、La、Fe及びCoを含有するフェライト(以下、SrLaCoフェライトとも言う)仮焼体に、Ca、La、Fe及びCoを含有するフェライト(以下、CaLaCoフェライトとも言う)仮焼体を特定量混合し、粉砕、成形及び焼成して得られるフェライト焼結磁石は、SrLaCoフェライト仮焼体を由来とし440〜455℃にキュリー温度が存在する第一の粒子状のフェライト化合物相と、CaLaCoフェライト仮焼体を由来とし420℃以上440℃未満にキュリー温度が存在する第二の粒子状のフェライト化合物相とを有し、高いBrと高いHk/HcJを維持したまま高いHcJが得られることを見出し、本発明に想到した。
【0018】
本発明を提案するに際して、発明者らは、SrLaCoフェライト焼結磁石と、CaLaCoフェライト焼結磁石との磁石特性、特にHcJの違いに着目した。焼結磁石のHcJは焼結体組織の影響は受けるものの、理論的にはほぼHAと比例関係にある。つまり、材料のHAが高いほどHcJの向上が期待される。
【0019】
SrLaCoフェライト焼結磁石及びCaLaCoフェライト焼結磁石のHAを磁気ヒステリシス曲線からSPD(Singular Point Detection)法により測定した結果、Coの原子比率を0.3としたCaLaCoフェライトのHAは2.1 MA/m(約26.4 kOe)、Coの原子比率を0.2としたCaLaCoフェライトのHAは1.9 MA/m(約23.9 kOe)であり、共にCoの原子比率を0.2とした一般的なSrLaCoフェライトのHA[1.8 MA/m(約22.6 kOe)]に比べ高い値を示し、CaLaCoフェライトはSrLaCoフェライトよりも高いHcJが期待された。
【0020】
しかしながら、上述の通り、Coの原子比率を0.3としたCaLaCoフェライトでは原料コストが増大するため、フェライト焼結磁石の特徴である経済性が失われ市場では受け入れられ難くなる。一方、Coの原子比率を0.2としたCaLaCoフェライトは、原料コストの増大は避けられるものの、期待に反してHcJがSrLaCoフェライト以下となりCaLaCoフェライトの特徴が発揮できない。
【0021】
現在市場に提供されているSrLaCoフェライト焼結磁石の代表的な磁石特性はBrが約440 mT及びHcJが約350 kA/mである。製品としては、上記磁石特性を中心に高Brタイプと高HcJタイプがラインアップされており、Br及びHcJをそれぞれ縦軸及び横軸としたとき、Brが約450 mT及びHcJが約300 kA/mの点と、Brが約430 mT及びHcJが約370 kA/mの点とを結んだライン上にSrLaCoフェライト焼結磁石の磁石特性がある。
【0022】
一般的に、高い磁石特性の材料に低い磁石特性の材料を混合してゆくと、磁石特性は低下してゆくと予想される。例えば、Coの原子比率を0.2とした一般的なSrLaCoフェライトに、SrLaCoフェライトよりもHcJに劣るCoの原子比率を0.2としたCaLaCoフェライトを混合して得られた焼結磁石は、CaLaCoフェライト仮焼体の混合割合の増加に伴いHcJが低下すると予想される。
【0023】
しかしながら、本願の発明者らは、SrLaCoフェライト焼結磁石の磁石特性の改良を試みるうち、SrLaCoフェライト仮焼体にCoの原子比率を0.2としたCaLaCoフェライト仮焼体を特定の質量比率で混合して得られた焼結磁石は、SrLaCoフェライト焼結磁石に比べてHk/HcJが同等以上でHcJ及びBrが向上するという、予想に反する磁石特性を有することを見出した。
【0024】
得られた焼結磁石を分析した結果、Sr、La、Fe及びCoを含有する粒子状のフェライト化合物相(キュリー温度:440〜455℃)と、Ca、La、Fe及びCoを含有する粒子状のフェライト化合物相(キュリー温度:420℃以上440℃未満)とが焼結体内部で共存する特殊な組織を有していることを見出した。HcJの向上はこの特殊な組織に起因しているものと考えられる。
【0025】
特許文献4は、前述したように特許文献1及び特許文献2で提案されたSrLaCoフェライトの改良発明であり、六方晶フェライトの主相を有し、400〜480℃の範囲に温度差が5℃以上の少なくとも2つの異なるキュリー温度を有する焼結磁石を開示している。
【0026】
特許文献4に記載の2つの異なるキュリー温度を有するSrLaCoフェライト焼結磁石は、いわゆる「後添加法」により作製したものである。「後添加法」とは、原料としてSr化合物及びFe化合物を配合及び仮焼して得られたM型Srフェライトの仮焼体に、La、Fe及びCoの化合物を所定の比率で添加し、粉砕、成形及び焼成してSrLaCoフェライト焼結磁石を作製する方法である。
【0027】
特許文献4は、「後添加法」により2つの異なるキュリー点を有する構造が得られる理由について以下のように記載している。すなわち、焼成時にSrフェライトと、後から添加したLa、Fe及びCoの化合物とが反応し、その過程でLaとCoの濃度の高いM型フェライト部分と、濃度の低いM型フェライト部分とができる。つまり、M型フェライトの仮焼体粒子に対して、後添加したLaやCoが拡散してゆくとすると、粒子の中心部よりも表層部でLaやCoの濃度が高い構造が得られる。キュリー温度は、LaやCoの置換量、特にLaの置換量に依存するため、このような組成が不均一になっているような構造を有することにより、キュリー温度が少なくとも2つ存在するようになると考えられる(段落[0031])。
【0028】
また特許文献4は、2つのキュリー温度は、製造方法等により磁気的に異なるM型フェライトの2相構造となるために発現すると考えられると記載しており(段落[0053])、低い方のキュリー温度(Tc1)は、La量及びCo量の増加とともに減少したが、高い方のキュリー温度(Tc2)は、あまり大きな変化を示さなかったことから、Tc1はLa及びCoの置換量の多いSrフェライト構造部分のキュリー温度であることが予想されると記載している(段落[0138])。
【0029】
これらの記載から、「後添加法」により得られるSrLaCoフェライト焼結磁石は、La及びCoの濃度が高いSrLaCoフェライト粒子と、La及びCoの濃度が低いSrLaCoフェライト粒子が混在した二相構造、又は中心部よりも表層部でLa及びCoの濃度が高いSrLaCoフェライト粒子から構成される二相構造となっており、それぞれの相のキュリー温度が異なっているものと考えられる。いずれにしても、特許文献4に記載の「後添加法」において2つの異なるキュリー温度が発現する現象は、La及びCoの濃度分布が異なる相が存在することに起因するものである。
【0030】
これに対して、本発明のフェライト焼結磁石は、Sr、La、Fe及びCoを含有するSrLaCoフェライト仮焼体を由来とするフェライト化合物相(キュリー温度:440〜455℃)と、Ca、La、Fe及びCoを含有するCaLaCoフェライト仮焼体を由来とするフェライト化合物相(キュリー温度:420℃以上440℃未満)とが焼結体内部で粒子状に分布した構造であり、特許文献4に記載のフェライト焼結磁石とは全く異なるものである。
【0031】
また、本発明のフェライト焼結磁石は、それぞれ異なる組成を有するSrLaCoフェライト仮焼体及びCaLaCoフェライト仮焼体を特定の質量比率で混合し、粉砕、成形及び焼結してなるものであり、特許文献4に記載の「後添加法」によって得られるものとは全く異なるものである。
【0032】
従って、本発明のフェライト焼結磁石は、
Sr、La、Fe及びCoを含有し440〜455℃にキュリー温度が存在する第一の粒子状のフェライト化合物相と、
Ca、La、Fe及びCoを含有し420℃以上440℃未満にキュリー温度が存在する第二の粒子状のフェライト化合物相とを有するフェライト焼結磁石であって、
前記第一の粒子状のフェライト化合物相の体積比率が50%を超え90%以下、前記第二の粒子状のフェライト化合物相の体積比率が10%以上50%未満であり、両体積比率の和が95%以上であることを特徴とする。
【0033】
前記第一の粒子状のフェライト化合物相の体積比率は60〜80%、前記第二の粒子状のフェライト化合物相の体積比率は20〜40%であり、両体積比率の和が95%以上であるのが好ましい。
【0034】
前記第二の粒子状のフェライト化合物相は、さらにBa及び/又はSrを含有するのが好ましい。
【0035】
前記フェライト焼結磁石のSr、La、Ca、Ba、Fe及びCoの組成比は、一般式:
Sr1-x-a-bLaxCaaBabFe2n-yCoy
(ただし、Sr、La、Ca、Ba、Fe及びCoの原子比率を表わすx、a、b及びy並びにモル比を表わすnが、
0.1≦x≦0.5、
0.04≦a≦0.5、
0≦b≦0.2、
0.2≦1-x-a-b、
0.05≦y≦0.3、及び
4≦n≦6
を満足する数値である。)により表わされるのが好ましい。
【0036】
前記Sr、La、Ca、Ba、Fe及びCoの原子比率を表わすx、a、b及びy並びにモル比を表わすnは、
0.2≦x≦0.4、
0.1≦a≦0.4、
0≦b≦0.1、
0.3≦1-x-a-b、
0.1≦y≦0.3、及び
4.2≦n≦5.7
を満足する数値であるのが好ましい。
【0037】
前記第一の粒子状のフェライト化合物相のSr、La、Fe及びCoの組成比が、一般式:
Sr1-x'Lax'Fe2n'-y'Coy'
(ただし、Sr、La、Fe及びCoの原子比率を表わすx'及びy'並びにモル比を表わすn'が、
0.05≦x'≦0.3、
0.05≦y'≦0.3、及び
5≦n'≦6
を満足する数値である。)により表わされるのが好ましい。
【0038】
前記第一の粒子状のフェライト化合物相のCoの原子比率を表わすy'は、
0.1≦y'≦0.2
を満足する数値であるのが好ましい。
【0039】
前記第二の粒子状のフェライト化合物相のCa、La、(Ba+Sr)、Fe及びCoの組成比が、(Ba+Sr)をA元素としたとき、一般式:
Ca1-x''-cLax''AcFe2n''-y''Coy''
(ただし、Ca、La、A元素、Fe及びCoの原子比率を表わすx''、c及びy''並びにモル比を表わすn''が、
0.4≦x''≦0.6、
0≦c≦0.2、
0<y''≦0.2、及び
4≦n''≦6
を満足する数値である。)により表わされるのが好ましい。
【0040】
前記第二の粒子状のフェライト化合物相のCoの原子比率を表わすy''は、
0.1≦y''≦0.2
を満足する数値であるのが好ましい。
【0041】
前記第二の粒子状のフェライト化合物相のCoの原子比率を表わすy''は、
0.1<y''≦0.2
を満足する数値であるのが好ましい。
【0042】
本発明のフェライト焼結磁石の製造方法は、
Sr、La、Fe及びCoの組成比が、一般式:Sr1-x'Lax'Fe2n'-y'Coy'(ただし、Sr、La、Fe及びCoの原子比率を表わすx'及びy'並びにモル比を表わすn'が、0.05≦x'≦0.3、0.05≦y'≦0.3、及び5≦n'≦6を満足する数値である。)で表される第一のフェライト仮焼体、及びCa、La、(Ba+Sr)、Fe及びCoの組成比が、(Ba+Sr)をA元素としたとき、一般式:Ca1-x''-cLax''AcFe2n''-y''Coy''(ただし、Ca、La、A元素、Fe及びCoの原子比率を表わすx''、c及びy''並びにモル比を表わすn''が、0.4≦x''≦0.6、0≦c≦0.2、0<y''≦0.2、及び4≦n''≦6を満足する数値である。)で表される第二のフェライト仮焼体を、第一のフェライト仮焼体及び第二のフェライト仮焼体の合計100質量%に対して、第二のフェライト仮焼体の混合比率が10質量%以上50質量%未満となるように混合し、フェライト仮焼体混合物を得る混合工程、
前記フェライト仮焼体混合物を粉砕し、粉末を得る粉砕工程、
前記粉末を成形し、成形体を得る成形工程、及び
成形体を焼成し、焼結体を得る焼成工程
を含むことを特徴とする。
【0043】
前記第一のフェライト仮焼体及び前記第二のフェライト仮焼体を、前記第二のフェライト仮焼体の混合比率が20〜40質量%となるように混合することを特徴とするフェライト焼結磁石の製造方法。
【0044】
前記第一のフェライト仮焼体におけるCoの原子比率を表わすy'は、
0.1≦y'≦0.2
を満足する数値であるのが好ましい。
【0045】
前記第二のフェライト仮焼体におけるCoの原子比率を表わすy''は、
0.1≦y''≦0.2
を満足する数値であるのが好ましい。
【0046】
前記第二のフェライト仮焼体におけるCoの原子比率を表わすy''は、
0.1<y''≦0.2
を満足する数値であるのが好ましい。
【0047】
前記フェライト焼結磁石のCa、La、Sr、Ba、Fe及びCoの組成比は、一般式:
Sr1-x-a-bLaxCaaBabFe2n-yCoy
(ただし、Sr、La、Ca、Ba、Fe及びCoの原子比率を表わすx、a、b及びy並びにモル比を表わすnが、
0.1≦x≦0.5、
0.04≦a≦0.5、
0≦b≦0.2、
0.2≦1-x-a-b、
0.05≦y≦0.3、及び
4≦n≦6
を満足する数値である。)により表わされるのが好ましい。
【発明の効果】
【0048】
本発明により、HcJ、Br及びHk/HcJを向上させることができるので、磁石を薄型化した際に、反磁界により減磁が生じることがない高性能なフェライト焼結磁石を安価にして提供することができる。このため、本発明のフェライト焼結磁石を使用することにより、小型・軽量化、高能率化された自動車用電装部品、電気機器用部品を安価にして提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明のフェライト焼結磁石のCaについてEPMAによって面分析した結果を示す写真である。
【図2】本発明のフェライト焼結磁石、SrLaCoフェライト焼結磁石及びCaLaCoフェライト焼結磁石の熱磁気天秤の測定結果を示すグラフである。
【図3】実施例1のフェライト焼結磁石の(a)Sr、(b)Ca、(c)Si元素についてEPMAによって面分析した結果、並びに(d)反射電子像を示す写真である。
【図4】熱磁気天秤の一例を示す模式図である。
【図5】実施例1のフェライト焼結磁石の熱磁気天秤の測定結果及びその微分データを示すグラフである。
【図6】実施例2のフェライト焼結磁石のCaLaCoフェライト仮焼体の混合比率とHcJとの関係を示すグラフである。
【図7】実施例2のフェライト焼結磁石のCaLaCoフェライト仮焼体の混合比率とBrとの関係を示すグラフである。
【図8】実施例2のフェライト焼結磁石のCaLaCoフェライト仮焼体の混合比率とHk/HcJとの関係を示すグラフである。
【図9】実施例2のフェライト焼結磁石のCaLaCoフェライト仮焼体の混合比率と第一のキュリー温度(Tc1)との関係を示すグラフである。
【図10】実施例2のフェライト焼結磁石のCaLaCoフェライト仮焼体の混合比率と第二のキュリー温度(Tc2)との関係を示すグラフである。
【図11】実施例2のフェライト焼結磁石(No.10)の(a)Sr、(b)Ca、(c)Si元素についてEPMAによって面分析した結果、並びに(d)反射電子像を示す写真である。
【図12】実施例2のフェライト焼結磁石(No.11)の(a)Sr、(b)Ca、(c)Si元素についてEPMAによって面分析した結果、並びに(d)反射電子像を示す写真である。
【図13】実施例2のフェライト焼結磁石(No.15)の(a)Sr、(b)Ca、(c)Si元素についてEPMAによって面分析した結果、並びに(d)反射電子像を示す写真である。
【図14】実施例2のフェライト焼結磁石(No.9)の(a)Sr、(b)Ca、(c)Si元素についてEPMAによって面分析した結果、並びに(d)反射電子像を示す写真である。
【図15】実施例2のフェライト焼結磁石のCaLaCoフェライト仮焼体の混合比率とBr及びその温度係数との関係を示すグラフである。
【図16】実施例2のフェライト焼結磁石のCaLaCoフェライト仮焼体の混合比率とHcJ及びその温度係数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0050】
[1]フェライト焼結磁石
本発明のフェライト焼結磁石は、Sr、La、Fe及びCoを含有し440〜455℃にキュリー温度Tc1が存在する第一の粒子状のフェライト化合物相と、Ca、La、Fe及びCoを含有し420℃以上440℃未満にキュリー温度Tc2が存在する第二の粒子状のフェライト化合物相とを有し、フェライト焼結磁石中における第一の粒子状のフェライト化合物相の体積比率が50%を超え90%以下、第二の粒子状のフェライト化合物相の体積比率が10%以上50%未満であり、両体積比率の和が95%以上である。
【0051】
本発明のフェライト焼結磁石は、SrLaCoフェライト仮焼体及びCaLaCoフェライト仮焼体を、SrLaCoフェライト仮焼体及びCaLaCoフェライト仮焼体の合計100質量%に対して、CaLaCoフェライト仮焼体の混合比率が10質量%以上50質量%未満となるように混合し、粉砕、成形及び焼成することにより得られる。なお「SrLaCoフェライト仮焼体及びCaLaCoフェライト仮焼体を混合する際の質量比率」を単に「混合比率」と言う。
【0052】
(1)組織
図1は、本発明のフェライト焼結磁石のCaについてEPMAによって面分析した結果を示す。図において、濃淡が大きく3つに分かれており、薄い部分(白色部分)はCa濃度が最も高い部分であり、濃い部分(黒色部分)はCa濃度が最も低い部分であり、両者の中間の部分(灰色部分)はCa濃度がそれらの間の濃度である。
【0053】
前記Ca濃度が最も高い部分は、別途測定したSi濃度が高い部分と対応していることと、結晶粒成長を抑制し磁石特性の向上を図るために粉砕工程において添加したCaCO3及びSiO2等の添加物は、焼成後に粒子間(粒界)、特に粒界三重点に多く集積するのが知られていることから、粒界三重点であると考えられる。
【0054】
前記Ca濃度が最も低い部分は、別途測定したSr濃度が高い部分と対応していることから、SrLaCoフェライト化合物相と考えられる。
【0055】
前記Ca濃度が中間の濃度である部分は、前記粒界相及びSrLaCoフェライト化合物相以外の部分であり、CaLaCoフェライト化合物相と考えられる。
【0056】
図2は、SrLaCoフェライト焼結磁石、CaLaCoフェライト焼結磁石、及びSrLaCoフェライト仮焼体とCaLaCoフェライト仮焼体とを70:30の質量比率で混合し、粉砕、成形及び焼成してなる本発明のフェライト焼結磁石の熱磁気天秤の測定結果である。本発明のフェライト焼結磁石は、第一のキュリー温度(Tc1:443℃)を有する化合物相と、第二のキュリー温度(Tc2:431℃)を有する化合物相との、少なくとも2つの異なる化合物相を有している。
【0057】
従来から知られるSrフェライト、SrLaCoフェライト、CaLaCoフェライト等の焼結磁石は、Sr、La、Fe等の原料粉末を混合及び仮焼して得られた仮焼体を、粉砕、成形及び焼成して作製される。これらのフェライト化合物は、仮焼の段階で固相反応(フェライト化反応)によって生成され、その物理的性質は仮焼の段階でほぼ決定される。従って、粉砕、成形及び焼成を経て得られた焼結体においても基本的にその物理的性質は維持されている。
【0058】
本発明のフェライト焼結磁石におけるTc1(443℃)は、前記SrLaCoフェライト焼結磁石のキュリー温度(約443℃)とほぼ同じであることから、第一のキュリー温度(Tc1)を有する化合物相は、SrLaCoフェライト仮焼体に由来する、Sr、La、Fe及びCoを含有する化合物相(第一のフェライト化合物相)であると推定できる。従って、第二のキュリー温度(Tc2)を示す化合物相は、CaLaCoフェライト仮焼体に由来する、Ca、La、Fe及びCoを含有する化合物相(第二のフェライト化合物相)であると推定できる。
【0059】
ここで、前記第二のフェライト化合物相のTc2(431℃)は、CaLaCoフェライト焼結磁石のキュリー温度(約418℃)よりも若干高い。後述する実施例に示すように、第一のフェライト化合物相のキュリー温度が、CaLaCoフェライト仮焼体の混合比率にかかわらずほぼ一定であるのに対し、第二のフェライト化合物相のキュリー温度は、CaLaCoフェライト仮焼体の混合比率が大きくなるに従って低下する傾向がある。
【0060】
CaLaCoフェライト仮焼体に由来する第二のフェライト化合物相は、仮焼体の混合により、キュリー温度以外に、X線回折やEPMAによって確認できるような物理的性質の変化を起こさない。一般に、キュリー温度の変化は、化合物相の組成の変化に伴って起こることが多い(特にLaはキュリー温度に与える影響が大きい)。しかしながら、第一のフェライト化合物相のキュリー温度が前記両仮焼体の混合比率によってほとんど変化しないことから、第一のフェライト化合物相と第二のフェライト化合物相との間には、構成する各元素の相互拡散は起こっていないと考えられる。
【0061】
第二のフェライト化合物相のキュリー温度の変化が起こる理由は明らかでないが、第二のフェライト化合物相は、物理的性質を維持しようとする第一のフェライト化合物相と焼結体内部で共存を図るために何らかの変化を起こし、それに伴い物理的性質(キュリー温度)が変化しているのではないかと考えられる。この物理的性質の変化が、HcJ、Br及びHk/HcJを向上させるという効果を発揮するものと考えられる。
【0062】
本発明のフェライト焼結磁石は、第一のフェライト化合物相の体積比率が50%を超え90%以下、第二のフェライト化合物相の体積比率が10%以上50%未満であり、両体積比率の和が95%以上であるとき、BrとHk/HcJはほとんど低下せず、HcJが向上するという効果が得られる。このような体積比率を有するとき、第一のフェライト化合物相のキュリー温度Tc1は440〜455℃、好ましくは440℃以上445℃以下の範囲であり、第二のフェライト化合物相のキュリー温度Tc2は420℃以上440℃未満の範囲である。
【0063】
前述したように、SrLaCoフェライト仮焼体及びCaLaCoフェライト仮焼体を前記質量比率で混合し、粉砕、成形及び焼成することにより得られる焼結磁石は、フェライト化合物の物理的性質が仮焼の段階でほぼ決定され、焼結体においても基本的にその物理的性質は維持されるため、基本的に、SrLaCoフェライト仮焼体は第一のフェライト化合物相として、CaLaCoフェライト仮焼体は第二のフェライト化合物相として、混合時の混合比率(質量比率)とほぼ同じ比率(体積比率)でフェライト焼結磁石中に存在している。すなわち、粉砕工程及び焼成工程により、フェライト化合物相の結晶粒径は変化するが比率は変化しない。
【0064】
従って、SrLaCoフェライト仮焼体(第一のフェライト仮焼体)、及びCaLaCoフェライト仮焼体(第二のフェライト仮焼体)を、SrLaCoフェライト仮焼体及びCaLaCoフェライト仮焼体の合計100質量%に対して、CaLaCoフェライト仮焼体の混合比率が10質量%以上50質量%未満となるように混合し、粉砕、成形及び焼成することにより得られるフェライト焼結磁石は、第一のフェライト化合物相の体積比率が50%を超え90%以下、第二のフェライト化合物相の体積比率が10%以上50%未満となる。
【0065】
フェライト焼結磁石中における第一のフェライト化合物相の体積比率と、第二のフェライト化合物相の体積比率は、以下の3種類の方法によって求めることができる。これらの方法は、併用することにより、より精度を高めることができる。
(i)焼結磁石の断面写真と、そのEPMAによる元素分析結果から、第一のフェライト化合物相と第二のフェライト化合物相とを特定し、各化合物相の面積割合を求める方法。
(ii)2種類のフェライト仮焼体の混合比率と混合後のフェライト仮焼体混合物の組成(計算値)との関係を求めておき、焼結体の組成の実測値から体積比率を求める。
(iii)振動試料型磁力計(VSM)によるσ- T曲線から求める方法。
【0066】
第一のフェライト化合物相と第二のフェライト化合物相の体積比率の和は95%以上である。残りの5%未満の部分は、主に仮焼後に添加する添加物等からなる粒界相である。粒界相は、透過電子顕微鏡(TEM)等で存在の有無を確認することができる。本発明のフェライト焼結磁石は、基本的に、第一のフェライト化合物相と第二のフェライト化合物相と粒界相とから構成されるが、X線回折等により極少量(5質量%程度)観察される異相(オルソフェライト相、スピネル相等)、不純物相等の存在は許容される。X線回折からの異相の定量にはリートベルト解析のような手法を用いることができる。
【0067】
フェライト焼結磁石は、第二のフェライト化合物相に、さらにBa及び/又はSrを含有するのが好ましい。すなわち、CaLaCoフェライト仮焼体として、特許文献6(Caの一部をLa及びBaで置換してなる仮焼体)、特許文献7(Caの一部をLa及びSrで置換してなる仮焼体)等に記載される公知のCaLaCoフェライト仮焼体を用いることにより、磁石特性をさらに向上させることができる。
【0068】
(2)組成
(i)フェライト焼結磁石全体の組成
本発明のフェライト焼結磁石は、焼結磁石全体として前記Sr、La、Ca、Ba、Fe及びCoの組成比が、
一般式:Sr1-x-a-bLaxCaaBabFe2n-yCoy
(ただし、Sr、La、Ca、Ba、Fe及びCoの原子比率を表わすx、a、b及びy並びにモル比を表わすnが、
0.1≦x≦0.5、
0.04≦a≦0.5、
0≦b≦0.2、
0.2≦1-x-a-b、
0.05≦y≦0.3、及び
4≦n≦6
を満足する数値である。)により表わされるのが好ましい。
【0069】
さらに、前記x、a、b、y及びnが、
0.2≦x≦0.4、
0.1≦a≦0.4、
0≦b≦0.1、
0.3≦1-x-a-b、
0.1≦y≦0.3、及び
4.2≦n≦5.7
を満足する数値であるのがより好ましい。
【0070】
Srは、基本的にSrLaCoフェライト仮焼体を由来とする元素であり、第一のフェライト化合物相に含有される。Srが含まれるCaLaCoフェライト仮焼体を用いたときは、そのSrは第二のフェライト化合物相に含有される。Srの原子比率(以下「含有量」という)を示す(1-x-a-b)は、0.2以上であるのが好ましい。Srの含有量が0.2未満ではLa、Ca、Baが相対的に増加するためHcJが低下する。より好ましい含有量は0.3以上である。
【0071】
Laは、SrLaCoフェライト仮焼体及びCaLaCoフェライト仮焼体の両方を由来とし、第一のフェライト化合物相及び第二のフェライト化合物相の両方に含有される。Laの含有量(x)は、0.1〜0.5の範囲であるのが好ましい。Laの含有量が0.1未満の場合又は0.5を超える場合にはHcJが低下する。より好ましい含有量は0.2〜0.4の範囲である。
【0072】
Caは、CaLaCoフェライト仮焼体、仮焼後に添加するCaCO3等の添加物等に含まれるが、CaLaCoフェライト仮焼体に由来するCaは第二のフェライト化合物相に含有され、仮焼後に添加するCaCO3等に由来するCaは粒界相等に含有される。Caの含有量(a)は、0.04〜0.5の範囲であるのが好ましい。Caの含有量が0.04未満ではHcJの向上効果が得られず、0.5を超えるとHcJが低下する。より好ましい含有量は0.1〜0.4の範囲である。
【0073】
Baは、基本的にCaLaCoフェライト仮焼体に含有されているBaを由来とし、第二のフェライト化合物相に含有される。Baの含有量(b)は0.2以下が好ましい。Baの含有量が0.2を超えるとHcJ及びBrが低下する。より好ましい範囲は0.1以下である。なお、BaはSrの原料粉末に不純物として混入されているため、SrLaCoフェライト仮焼体に微量に含有されている場合がある。
【0074】
Coは、SrLaCoフェライト仮焼体及びCaLaCoフェライト仮焼体の両方を由来とし、第一のフェライト化合物相及び第二のフェライト化合物相の両方に含有される。Coの含有量(y)は、0.05〜0.3の範囲であるのが好ましい。Coの含有量が0.05未満ではHcJ、Br及びHk/HcJが低下し、0.3を超えるとCoを多く含む異相(Coスピネル相)が生成しHcJ、Br及びHk/HcJが低下する。より好ましい含有量は0.1〜0.3の範囲である。
【0075】
nは、(Sr+La+Ca+Ba)と(Fe+Co)のモル比を反映する値で、2n=(Fe+Co)/(Sr+La+Ca+Ba)で表わされる。nは4〜6が好ましい。4未満及び6を超えるとHcJ、Br及びHk/HcJが低下するため好ましくない。より好ましい範囲は4.2〜5.7である。
【0076】
一般に、フェライト焼結磁石を製造する場合、焼成時に液相を生成させて焼結を促進させるために、SiO2、CaCO3等の焼結助剤を添加する。添加されたSiO2、CaCO3等は、そのほとんどがフェライト化合物相の粒界で粒界相を形成する。本発明のフェライト焼結磁石には、これらの焼結助剤が添加されたフェライト焼結磁石も含まれる。SiO2、CaCO3等の焼結助剤を添加すると、Ca含有量が相対的に増加するとともに、Siの含有により他の元素の含有量が相対的に減少する。上述した組成範囲は、このような焼結助剤の添加による組成変化を考慮した範囲に設定したものである。
【0077】
(ii)第一のフェライト化合物相の組成
前記第一のフェライト化合物相のSr、La、Fe及びCoの組成比は、
一般式:Sr1-x'Lax'Fe2n'-y'Coy'
(ただし、Sr、La、Fe及びCoの原子比率を表わすx'及びy'並びにモル比を表わすn'が、
0.05≦x'≦0.3、
0.05≦y'≦0.3、及び
5≦n'≦6
を満足する数値である。)により表わされるのが好ましい。
【0078】
Coの含有量(y')は、HcJ、Br及びHk/HcJをより向上させるために、0.1≦y'≦0.2の範囲であるのがより好ましい。
【0079】
前述の通り、第一のフェライト化合物相は、SrLaCoフェライト仮焼体が由来となっており、基本的にSrLaCoフェライト仮焼体の組成をそのまま維持しているので、上記の第一のフェライト化合物相の組成は、SrLaCoフェライト仮焼体の組成とほぼ同様である。従って、第一のフェライト化合物相の組成の限定理由については、後述するSrLaCoフェライト仮焼体の組成の限定理由と同様である。
【0080】
(iii)第二のフェライト化合物相の組成
本発明のフェライト焼結磁石において、前記第二のフェライト化合物相のCa、La、(Ba+Sr)、Fe及びCoの組成比は、(Ba+Sr)をA元素としたとき、
一般式:Ca1-x''-cLax''AcFe2n''-y''Coy''
(ただし、Ca、La、A元素、Fe及びCoの原子比率を表わすx''、c及びy''並びにモル比を表わすn''が、
0.4≦x''≦0.6、
0≦c≦0.2、
0<y''≦0.2、及び
4≦n''≦6
を満足する数値である。)により表わされるのが好ましい。
【0081】
Coの含有量(y'')は、HcJ、Br及びHk/HcJをより向上させるために、0.1≦y''≦0.2の範囲であるのがより好ましく、0.1<y''≦0.2の範囲であるのがさらに好ましい。
【0082】
第二のフェライト化合物相において、HcJ、Br及びHk/HcJをより向上させるために、La含有量及びCo含有量の比率x''/y''を1.3以上にするのが好ましい。
【0083】
上記の通り、第二のフェライト化合物相は、CaLaCoフェライト仮焼体が由来となっており、基本的にCaLaCoフェライト仮焼体の組成をそのまま維持しているので、上記の第二のフェライト化合物相の組成は、CaLaCoフェライト仮焼体の組成とほぼ同様である。従って、第二のフェライト化合物相の組成の限定理由については、後述するCaLaCoフェライト仮焼体の組成の限定理由と同様である。
【0084】
(3)その他
本発明において「フェライト」とは、二価の陽イオン金属の酸化物と三価の鉄の酸化物とが作る化合物の総称である。
【0085】
本発明のフェライト焼結磁石は、六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有している。第一のフェライト化合物相及び第二のフェライト化合物相も同様に六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有している。さらに、第一のフェライト化合物相の由来となるSrLaCoフェライト仮焼体及び第二のフェライト化合物相の由来となるCaLaCoフェライト仮焼体もまた六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有している。
【0086】
「六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有している」とは、一般的な条件でX線回折測定を行ったときに、六方晶のM型マグネトプランバイト構造のX線回折パターンのみが観察されることを意味する。すなわち、前記フェライト焼結磁石、化合物相及び仮焼体は、実質的に六方晶のM型マグネトプランバイト構造の単一構造である。ただし、X線回折パターンに現れない微細な結晶粒界相や不純物相の存在は許容される。
【0087】
[2]フェライト焼結磁石の製造方法
本発明のフェライト焼結磁石は、SrLaCoフェライト仮焼体及びCaLaCoフェライト仮焼体を、SrLaCoフェライト仮焼体及びCaLaCoフェライト仮焼体の合計100質量%に対して、CaLaCoフェライト仮焼体の混合比率が10質量%以上50質量%未満となるように混合し、粉砕、成形及び焼成することにより製造する。
【0088】
SrLaCoフェライト仮焼体としては、特許文献1、2、4等に記載のものを用いることができ、CaLaCoフェライト仮焼体としては、特許文献3、5、6、7等に記載のものを用いることができる。
【0089】
(1)フェライト仮焼体の組成
SrLaCoフェライト仮焼体は、Sr、La、Fe及びCoの組成比が、
一般式:Sr1-x'Lax'Fe2n'-y'Coy'
(ただし、Sr、La、Fe及びCoの原子比率を表わすx'及びy'並びにモル比を表わすn'が、
0.05≦x'≦0.3、
0.05≦y'≦0.3、及び
5≦n'≦6
を満足する数値である。)で表されるのが好ましい。
【0090】
Srの含有量(1-x')は、後述するLaの含有量(x')から、0.7〜0.95の範囲となる。Srの含有量が0.7未満ではLaの含有量が相対的に増加するためBr及びHk/HcJが低下する。Srの含有量が0.95を超えるとLaの含有量が相対的に減少するためBr及びHk/HcJが低下する。
【0091】
Laの含有量(x')は、0.05〜0.3の範囲であるのが好ましい。Laの含有量が0.05未満及び0.3を超えるとBr及びHk/HcJが低下する。なお、La以外の、不可避的不純物として混入する希土類元素は許容することができる。
【0092】
Coの含有量(y')は、0.05〜0.3の範囲であるのが好ましい。Coの含有量が0.05未満ではCo添加による磁気特性の向上効果が得られない。Coの含有量が0.3を超えるとCoを多く含む異相(Coスピネル相)が生成してHcJ、Br及びHk/HcJが低下する。
【0093】
n'は、(Sr+La)と(Fe+Co)のモル比を反映する値で、2n=(Fe+Co)/(Sr+La)で表わされる。n'は5〜6が好ましい。5未満では非磁性部分の比率が多くなりHcJが大きく低下してしまう。6を超えると仮焼体に未反応のα-Fe2O3が残存しHcJ、Br及びHk/HcJが低下する。
【0094】
CaLaCoフェライト仮焼体は、Ca、La、(Ba+Sr)、Fe及びCoの組成比が、(Ba+Sr)をA元素としたとき、
一般式:Ca1-x''-cLax''AcFe2n''-y''Coy''
(ただし、Ca、La、A元素、Fe及びCoの原子比率を表わすx''、c及びy''並びにモル比を表わすn''が、
0.4≦x''≦0.6、
0≦c≦0.2、
0<y''≦0.2、及び
4≦n''≦6
を満足する数値である。)で表されるのが好ましい。
【0095】
Caの含有量(1-x''-c)は、後述するLaの含有量(x'')及びA元素(Ba+Sr)の含有量(c)から、0.2〜0.6の範囲となる。Caの含有量が0.2未満では、La及びA元素の含有量が相対的に増加するため、Br及びHk/HcJが低下する。Caの含有量が0.6を超えると、La及びA元素の含有量が相対的に減少するため、Br及びHk/HcJが低下する。
【0096】
Laの含有量(x'')は、0.4〜0.6の範囲であるのが好ましい。Laの含有量が0.4未満及び0.6を超えるとBr及びHk/HcJが低下する。なお、La以外の、不可避的不純物として混入する希土類元素は許容することができる。
【0097】
A元素はBa及び/又はSrである。A元素の含有量(c)は、0.2以下であるのが好ましい。A元素を含有しなくても本発明の効果が損なわれることはないが、A元素を添加することにより、仮焼体における結晶の微細化及びアスペクト比を小さくすることができ、フェライト焼結磁石のHcJをさらに向上させることができる。
【0098】
Coの含有量(y'')は、0<y''≦0.2の範囲であるのが好ましい。Coの含有量が0ではCo添加による磁気特性の向上効果が得られない。Coの含有量が0.2を超えると原料コストが増大するため好ましくない。より好ましい含有量は0.1≦y''≦0.2の範囲であり、さらに好ましい含有量は0.1<y''≦0.2の範囲である。
【0099】
n''は、(Ca+La+A)と(Fe+Co)のモル比を反映する値で、2n=(Fe+Co)/(Ca+La+A)で表わされる。n''は4〜6が好ましい。4未満では非磁性部分の比率が多くなりBr及びHk/HcJが低下する。6を超えると仮焼体に未反応のα-Fe2O3が残存しBr及びHk/HcJが低下する。
【0100】
CaLaCoフェライト仮焼体において、HcJ、Br及びHk/HcJをより向上させるために、La含有量及びCo含有量の比率x''/y''を1.3以上にするのが好ましい。また、La含有量>Co含有量>A元素含有量であるとき、すなわち、x''>y''>cであるとき、磁石特性の向上効果が大きい。また、Ca含有量>A元素含有量であるとき、すなわち、1-x''-c>cであるとき、高い磁石特性を有する。
【0101】
本発明のフェライト焼結磁石の製造方法において、SrLaCoフェライト仮焼体及びCaLaCoフェライト仮焼体は、SrLaCoフェライト仮焼体及びCaLaCoフェライト仮焼体の合計100質量%に対して、CaLaCoフェライト仮焼体の混合比率が10質量%以上50質量%未満となるように混合する。CaLaCoフェライト仮焼体の混合比率が10質量%未満又は50質量%以上になるとHcJの向上効果が得られない。より好ましい混合比率は20〜40質量%である。
【0102】
(2)フェライト仮焼体の準備工程
SrLaCoフェライト仮焼体及びCaLaCoフェライト仮焼体は、上述した各特許文献に記載された手法により準備することができる。以下に好ましい準備工程の例を示す。
【0103】
Sr化合物、La化合物、Ca化合物、A元素の化合物、鉄化合物、Co化合物等の原料粉末を上述した組成式に基づき、それぞれ好ましい範囲になるように配合する。原料粉末は、価数にかかわらず酸化物や炭酸塩以外に、水酸化物、硝酸塩、塩化物等でもよく、溶液状態であってもよい。具体的には、Sr化合物としては、Srの炭酸塩、酸化物、塩化物等を使用する。Laの化合物としては、La2O3等の酸化物、La(OH)3等の水酸化物、La2(CO3)3・8H2O等の炭酸塩等を使用する。Ca化合物としては、Caの炭酸塩、酸化物、塩化物等を使用する。A元素の化合物としては、Ba及び/又はSrの炭酸塩、酸化物、塩化物等を使用する。鉄化合物としては、酸化鉄、水酸化鉄、塩化鉄、ミルスケール等を使用する。Co化合物としては、CoO、Co3O4等の酸化物、CoOOH、Co(OH)2、Co3O4・m1H2O(m1は正の数である)等の水酸化物、CoCO3等の炭酸塩、及びm2CoCO3・m3Co(OH)2・m4H2O等の塩基性炭酸塩(m2、m3、m4は正の数である)を使用する。
【0104】
SrLaCoフェライト仮焼体を準備する場合は、Sr化合物、鉄化合物、Co化合物及びLa化合物等の原料粉末は、原料混合時から全部添加して仮焼してもよいし、一部を仮焼後に添加してもよい。例えば、SrCO3、Fe2O3、La(OH)3の一部、Co3O4の一部を配合、混合及び仮焼して仮焼体を準備し、後述のCaLaCoフェライト仮焼体へ混合する工程で、La(OH)3の残部、Co3O4の残部を添加し、粉砕、成形及び焼結してもよい。
【0105】
CaLaCoフェライト仮焼体を準備する場合、Ca化合物、鉄化合物、Co化合物及びLa化合物等の原料粉末は、原料混合時から全部添加して仮焼してもよいし、一部を仮焼後に添加してもよい。例えば、CaCO3、Fe2O3、La(OH)3の一部、及びCo3O4の一部を配合、混合及び仮焼して仮焼体を準備し、後述のSrLaCoフェライト仮焼体を混合する工程で、La(OH)3の残部、Co3O4の残部を添加し、粉砕、成形及び焼結してもよい。また、仮焼時には、反応性促進のため、必要に応じて、B2O3、H3BO3等を含む化合物を添加しても良い。
【0106】
H3BO3の添加は、HcJ及びBrの向上に有効である。H3BO3の添加量は、配合粉末又は仮焼体100質量%に対して0.3質量%以下であるのが好ましい。添加量の最も好ましい値は0.2質量%近傍である。H3BO3の添加量を0.1質量%よりも少なくするとBrの向上効果が得られず、0.3質量%よりも多くするとBrが低下する。H3BO3は、焼結時の結晶粒の形状やサイズを制御する機能を有するので、その効果を発揮させるため、仮焼後(微粉砕前又は焼結前)に添加しても良く、さらに仮焼前及び仮焼後の両方で添加してもよい。
【0107】
原料粉末の配合は、湿式、乾式いずれでもよい。スチールボール等の媒体とともに原料粉末を撹拌するとより均一に混合することができる。湿式の場合は、溶媒に水を用いる。原料粉末の分散性を高める目的でポリカルボン酸アンモニウムやグルコン酸カルシウム等の公知の分散剤を用いてもよい。混合した原料スラリーは脱水して混合原料粉末とする。
【0108】
混合原料粉末を電気炉、ガス炉等を用いて加熱することで、固相反応が進行し六方晶のM型マグネトプランバイト構造のフェライト化合物が形成される。このプロセスを「仮焼」と呼び、得られた化合物を「仮焼体」と呼ぶ。
【0109】
仮焼工程は、酸素濃度が5%以上の雰囲気中で行うのが好ましい。酸素濃度が5%未満であると、固相反応が進行し難い。より好ましい酸素濃度は20%以上である。
【0110】
仮焼工程では、温度の上昇とともに固相反応によりフェライト相が形成され、約1100℃で完了する。この温度以下では、未反応のヘマタイト(酸化鉄)が残存しており磁石特性が低い。本発明の効果を十分に発揮させるためには1100℃以上の温度で仮焼するのが好ましい。一方、仮焼温度が1450℃を超えると結晶粒が成長し過ぎ、粉砕工程において粉砕に多大な時間を要する等の不都合を生じる恐れがある。従って、仮焼温度は、1100〜1450℃が好ましい。より好ましくは1200〜1350℃である。仮焼時間は、0.5〜5時間であるのが好ましい。仮焼前にH3BO3を添加した場合は、上記反応が促進されるため、1100〜1300℃で仮焼を行うのが好ましい。
【0111】
(2)フェライト仮焼体の混合工程
上記の準備工程によって得られたSrLaCoフェライト仮焼体及びCaLaCoフェライト仮焼体を、SrLaCoフェライト仮焼体及びCaLaCoフェライト仮焼体の合計100質量%に対して、CaLaCoフェライト仮焼体の混合比率が10質量%以上50質量%未満となるように混合し、フェライト仮焼体混合物を得る。混合工程は、公知の混合方法を採用することができる。また、例えば、CaLaCoフェライト焼結磁石を製造した後の設備(ライン)でSrLaCoフェライト焼結磁石を製造することによっても混合が可能である。いわゆる「コンタミ」を利用して混合する。この場合は、どの工程でどの程度の量が混入するかを予め確認しておくのが好ましい。SrLaCoフェライト焼結磁石とCaLaCoフェライト焼結磁石を異なる設備(ライン)で製造できない場合は有効な手段となる。
【0112】
混合工程において、前記混合フェライト仮焼体に、結晶粒成長を抑制し、磁石特性の向上を図るべく、CaCO3、SiO2等の添加物を添加するのが好ましい。添加物は、仮焼体100質量%に対して1.8質量%以下のSiO2と、仮焼体100質量%に対してCaO換算で2質量%以下のCaCO3を添加するのが好ましい。
【0113】
SiO2は粉砕工程の前に、仮焼体に対して添加することが最も好ましいが、添加量のうちの一部を仮焼工程前の原料粉末配合工程にて添加することもできる。仮焼前に添加することにより、仮焼時の結晶粒の制御を行うことができるという利点がある。
【0114】
(4)フェライト仮焼体混合物の粉砕工程
前記フェライト仮焼体混合物を、振動ミル、ボールミル、アトライター等によって粉砕し粉砕粉とする。粉砕粉は平均粒径0.4〜0.8μm程度(空気透過法)とするのが好ましい。粉砕工程は、乾式粉砕及び湿式粉砕のいずれでもよいが、両者を組み合わせて行うのが好ましい。
【0115】
湿式粉砕に際しては、水等の水系溶媒や種々の非水系溶媒(例えば、アセトン、エタノール、キシレン等の有機溶剤)を用いることができる。湿式粉砕により、溶媒と仮焼体とが混合されたスラリーが生成される。スラリーには公知の各種分散剤及び界面活性剤を固形分比率でスラリー100質量%に対して0.2〜2質量%を添加するのが好ましい。湿式粉砕後は、スラリーを濃縮及び混練するのが好ましい。
【0116】
粉砕工程において、上述したCaCO3及びSiO2のほか、磁石特性向上のために、仮焼体に対して、Cr2O3、Al2O3等の添加物を添加することもできる。これら添加物の添加量は仮焼体あるいはスラリー100質量%に対して、Cr2O3は5質量%以下、Al2O3は5質量%以下であるのが好ましい。
【0117】
(5)成形工程
前記スラリーは、含まれる溶媒を除去しながら、磁界中又は無磁界中でプレス成形する。磁界中でプレス成形することにより、粉末粒子の結晶方位を整列(配向)させる。磁界中プレス成形によって、磁石特性を飛躍的に向上させることができる。さらに、配向性を向上させるために、分散剤及び/又は潤滑剤をスラリー100質量%に対して0.01〜1質量%加えてもよい。また成形前にスラリーを必要に応じて濃縮してもよい。濃縮は遠心分離、フィルタープレス等により行うことができる。
【0118】
(6)焼成工程
プレス成形により得られた成形体は、必要に応じて脱脂を施した後、焼成する。焼成は、電気炉、ガス炉等を用いて行う。
【0119】
焼成工程は、酸素濃度が10%以上の雰囲気中で行うのが好ましい。酸素濃度が10%未満であると、異常粒成長や異相の生成を招き、磁石特性が劣化する。より好ましい酸素濃度は20%以上であり、最も好ましくは酸素濃度100%である。
【0120】
焼成温度は1150〜1250℃が好ましく、焼成時間は0.5〜2時間が好ましい。焼成工程によって得られる焼結磁石の平均結晶粒径は約0.5〜2μmである。
【0121】
焼成工程の後は、加工工程、洗浄工程、検査工程等の公知の製造プロセスを経て、最終的にフェライト焼結磁石の製品が完成される。
【実施例】
【0122】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0123】
実施例1
[SrLaCoフェライト仮焼体の準備]
組成式:Sr1-x'Lax'Fe2n'-y'Coy'において、x'=0.2、y'=0.15及びn'=5.8となるようにSrCO3粉末、La(OH)3粉末、Fe2O3粉末及びCo3O4粉末を配合し、この配合粉末100質量%に対して0.1質量%のH3BO3を添加し混合原料粉末を得た。この混合原料粉末に水を添加して湿式ボールミルで4時間混合し、乾燥して整粒した後、大気中において1250℃で3時間仮焼し、得られた仮焼体をハンマーミルで粗粉砕してSrLaCoフェライト仮焼体の粗粉砕粉を準備した。
【0124】
[CaLaCoフェライト仮焼体の準備]
組成式:Ca1-x''-cLax''AcFe2n''-y''Coy''において、x''=0.5、c=0、y''=0.2及びn''=5.2となるようにCaCO3粉末、La(OH)3粉末、Fe2O3粉末及びCo3O4粉末を配合し、この配合粉末100質量%に対して0.1質量%のH3BO3を添加し混合原料粉末を得た。この混合原料粉末に水を添加して湿式ボールミルで4時間混合し、乾燥して整粒した後、大気中において1250℃で3時間仮焼し、得られた仮焼体をハンマーミルで粗粉砕してCaLaCoフェライト仮焼体の粗粉砕粉を準備した。
【0125】
[フェライト焼結磁石の作製]
得られたSrLaCoフェライト仮焼体及びCaLaCoフェライト仮焼体を70:30の質量比で混合し、フェライト仮焼体混合物100質量%に対して0.6質量%のSiO2粉末及びCaO換算で0.7質量%のCaCO3粉末を混合し、水を添加して湿式ボールミルで空気透過法による平均粒度が0.6μmになるまで微粉砕しスラリーを得た。この微粉砕スラリーを、加圧方向と磁場方向とが平行になるように約1 Tの磁場をかけながら、約50 MPaの圧力をかけ水を除去しながら成形した。得られた成形体を大気中で1200℃で1時間焼成しフェライト焼結磁石を得た。
【0126】
[フェライト焼結磁石の各元素の面分析]
得られたフェライト焼結磁石の各元素の面分析を、EPMA装置(島津製作所製EPMA−1610)を用いて、加速電圧15 kV、ビーム電流30 nA、照射時間3 msec/pointの条件で行い、Sr、Ca、La、Fe、Si、Co及びO(酸素)の各元素の濃度分布を分析した。Sr、Ca、Si及び反射電子線像の結果を図3に示す。
【0127】
図3(a)〜(c)は、それぞれ同じ視野におけるSr、Ca及びSiの濃度分布を示し、(d)は反射電子線像を示す。図3(a)〜(c)において、白黒画像の濃淡が薄い部分(白色部分)は該当する元素の濃度が最も高く、黒色部分は該当する元素の濃度が最も低く、濃淡が両者の中間の部分(灰色部分)は該当する元素の濃度がそれらの間の濃度であることを示す。なお、La、Fe、Co及びOの濃度分布には濃淡がほとんどなく、各々一様に灰色一色であったため図示を省略した。
【0128】
Caの濃度分布を示す図3(b)から、白い粒子状の部分(Ca濃度が最も高い部分)、灰色の粒子状の部分(Ca濃度が高い部分)、及び黒い粒子状の部分(Ca濃度が最も低い部分)の大きく3つの領域が存在することが分かる。
【0129】
Caの濃度が最も高い部分は、その部分と対応する位置のSi濃度(図3(c)参照)もCaと同様に高いことから、焼成前に仮焼体混合物に添加したSiO2粉末及びCaCO3粉末に由来する粒界(特に粒界三重点)であると考えられる。
【0130】
Ca濃度が高い部分は粒子状に分布していることから、Caの濃度が高い部分はCaLaCoフェライト仮焼体を由来とする第二の粒子状のフェライト化合物相であると考えられる。
【0131】
Caの濃度が低い部分も粒子状に分布しており、その部分と対応する位置においてSrの濃度が高くなっている(図3(a)参照)ので、SrLaCoフェライト仮焼体を由来とする第一の粒子状のフェライト化合物相であると考えられる。
【0132】
このように、本発明のフェライト焼結磁石は、Sr、La、Fe及びCoを含有する粒子状のフェライト化合物相(第一のフェライト化合物相とする)と、Ca、La、Fe及びCoを含有する粒子状のフェライト化合物相(第二のフェライト化合物相とする)を有していることが分かる。
【0133】
[キュリー温度の測定]
得られたフェライト焼結磁石について、熱磁気天秤を用いて、室温から500℃まで20℃/minの速度で昇温しTG曲線を求めた。熱磁気天秤1(Thermomagnetic Analysis)は、図4に示すように、熱天秤2(Thermogravimetric Analysis:TG、Mettler Toledo社製TGA/SDTA 851e)に永久磁石3,3'を取付けたものであり、サンプル4に付与した磁界A(10〜15 mT)によってサンプル4中の強磁性相に作用する磁気的な吸引力FをTGの重量値として検出するものである。熱源5によってサンプル4を昇温させながらTGを測定し、強磁性から常磁性への変化に伴って磁気的な吸引力が作用しなくなる温度を検出することにより、サンプル4中の強磁性相のキュリー点を求めることができる。なお、本発明のフェライト焼結磁石においては、上述の昇温範囲では化学反応による相・組織変化は起こらないので、サンプル中の強磁性相、すなわち、第一のフェライト化合物相及び第二のフェライト化合物相のキュリー点のみを求めることができる。
【0134】
さらに、SrLaCoフェライト仮焼体のみを用いた以外、本発明のフェライト焼結磁石と同様にして作製したSrLaCoフェライト焼結磁石、及びCaLaCoフェライト焼結磁石のみを用いた以外、本発明のフェライト焼結磁石と同様にして作製したCaLaCoフェライト焼結体についても、同様にしてTG曲線を求めた。得られたTG曲線を、本発明のフェライト焼結磁石と合わせて図2に示す。
【0135】
図5は、本発明によるフェライト焼結磁石のTG曲線とその微分値(DTG)を示す。TG曲線の微分値の負のピーク値、すなわちTG曲線のTGの低下率が最大となる温度をキュリー温度と定義した。高温側のピークを第一のキュリー温度(Tc1)、低温側のピークを第二のキュリー温度(Tc2)とした。
【0136】
図2及び図5より、本発明のフェライト焼結磁石は少なくとも2つの異なるキュリー温度を有しており、第一のキュリー温度(Tc1)は約443℃、第二のキュリー温度(Tc2)は約431℃であることが分かる。従って、本発明のフェライト焼結磁石は、キュリー温度が異なる少なくとも2つの化合物相を有していると推定できる。また、SrLaCoフェライト焼結磁石のキュリー温度は約443℃、CaLaCoフェライト焼結磁石のキュリー温度は約418℃であった。
【0137】
本発明のフェライト焼結磁石の第一のキュリー温度(443℃)が、SrLaCoフェライト焼結磁石のキュリー温度(443℃)とほぼ同じであることから、第一のキュリー温度(Tc1)を有する化合物相は、EPMAにより明らかになったSrLaCoフェライト仮焼体を由来とするSr、La、Fe及びCoを含有する第一のフェライト化合物相であると推定される。
【0138】
従って、第二のキュリー温度(Tc2)を有する化合物相は、EPMAによる元素分析から明らかになった、CaLaCoフェライト仮焼体を由来とするCa、La、Fe及びCoを含有する第二の粒子状のフェライト化合物相と考えられる。
【0139】
CaLaCoフェライト仮焼体を由来とする第二のフェライト化合物相のキュリー温度(431℃)は、CaLaCoフェライト焼結磁石のキュリー温度(約418℃)よりもやや高いが、これは、後述する実施例にて示すように、第二のフェライト化合物相のキュリー温度は、SrLaCoフェライト仮焼体に混合するCaLaCoフェライト仮焼体の混合比率が大きくなるに従って低下する傾向があるためである。(これに対して、第一のフェライト化合物相のキュリー温度は、SrLaCoフェライト仮焼体に混合するCaLaCoフェライト仮焼体の混合比率にかかわらずほぼ一定である。)
【0140】
実施例2
[SrLaCoフェライト仮焼体の準備]
組成式:Sr1-x'Lax'Fe2n'-y'Coy'において、1-x'、x'、y'及びn'が表1のS-1、S-2及びS-3の各組成となるようにSrCO3粉末、La(OH)3粉末、Fe2O3粉末及びCo3O4粉末を配合し、この配合粉末100質量%に対して0.1質量%のH3BO3を添加し混合原料粉末を得た。この混合原料粉末に水を添加して湿式ボールミルで4時間混合し、乾燥して整粒した後、大気中において1250℃で3時間仮焼し、得られた仮焼体をハンマーミルで粗粉砕してS-1、S-2及びS-3の各組成を有するSrLaCoフェライト仮焼体の粗粉砕粉を準備した。
【0141】
【表1】
【0142】
[CaLaCoフェライト仮焼体の準備]
組成式:Ca1-x''-cLax''AcFe2n''-y''Coy''(c=0)において、1-x''-c、x''、y''及びn''が表2のC-1及びC-2の各組成となるようにCaCO3粉末、La(OH)3粉末、Fe2O3粉末及びCo3O4粉末を配合し、この配合粉末100質量%に対して0.1質量%のH3BO3を添加し混合原料粉末を得た。この混合原料粉末に水を添加して湿式ボールミルで4時間混合し、乾燥して整粒した後、大気中において1250℃で3時間仮焼し、得られた仮焼体をハンマーミルで粗粉砕してC-1及びC-2の各組成を有するCaLaCoフェライト仮焼体の粗粉砕粉を準備した。
【0143】
【表2】
【0144】
[フェライト焼結磁石の作製]
得られた各SrLaCoフェライト仮焼体及びCaLaCoフェライト仮焼体を、表3に示すようにCaLaCoフェライト仮焼体の混合比率が0質量%、10質量%、20質量%、30質量%、40質量%、50質量%、70質量%、90質量%及び100質量%(第一のフェライト化合物相及び第二のフェライト化合物相の体積比率が100:0、90:10、80:20、70:30、60:40、50:50、30:70、10:90及び0:100に相当)となるように混合し、表4に示す組成のフェライト仮焼体混合物を作製した。各フェライト仮焼体混合物100質量%に対して0.6質量%のSiO2粉末及びCaO換算で0.7質量%のCaCO3粉末を混合し、水を添加して湿式ボールミルで空気透過法による平均粒度が0.6μmになるまで微粉砕しスラリーを得た。この微粉砕スラリーを、加圧方向と磁場方向とが平行になるように約1 Tの磁場をかけながら、約50 MPaの圧力をかけ水を除去しながら成形した。得られた成形体を大気中で1200℃で1時間焼成し、フェライト焼結磁石を得た。
【0145】
【表3】
【0146】
【表4】
【0147】
ここでSrLaCoフェライト仮焼体及びCaLaCoフェライト仮焼体の密度は実質的に等しく、またフェライト仮焼体混合物に添加したSiO2粉末及びCaCO3粉末の量は無視できるので、これらのフェライト焼結磁石中のSrLaCoフェライト相及びCaLaCoフェライト相の体積比率はそれぞれの混合比率(質量比率)と同じであると考えた。なお「SrLaCoフェライト相及びCaLaCoフェライト相の体積比率」を単に「体積比率」と言う。
【0148】
[磁石特性の評価]
得られたフェライト焼結磁石の磁石特性を表5並びに図6、図7及び図8に示す。図6、図7及び図8は、いずれも混合したCaLaCoフェライト仮焼体の混合比率(質量%)に対して、それぞれHcJ(図6)、Br(図7)及びHk/HcJ(図8)をプロットしたグラフである。なお、磁石特性は、焼結体を加工後、B-Hトレーサーを用いて室温(約23℃)で測定した。Hk/HcJにおけるHkは、J(磁化の大きさ)−H(磁界の強さ)曲線の第2象限において、Jの値が0.95BrとなるときのHの値である。
【0149】
【表5】
【0150】
(i)保磁力HcJ
図6から明らかなように、Co含有量(y')が0.10〜0.20の範囲にあるSrLaCoフェライト仮焼体(No.S-1〜S-3の仮焼体)を用いた場合、CaLaCoフェライト仮焼体の混合比率が0質量%(すなわち、SrLaCoフェライト焼結磁石)におけるHcJと、混合比率が100質量%(すなわち、CaLaCoフェライト焼結磁石)におけるHcJとを結ぶ直線に対して、混合比率10質量%以上50質量%未満の範囲でHcJが高くなっており、特に20〜40質量%でより高いHcJが得られ、30質量%近傍で最も高いHcJが得られた。さらに、SrLaCoフェライト仮焼体のCo含有量(y')が0.15〜0.20の範囲にあり、CaLaCoフェライト仮焼体のCo含有量(y'')が0.20の場合(S-2/C-1、S-3/C-1の組み合わせ)、混合比率20〜40質量%の範囲のフェライト焼結磁石は、混合比率0質量%のフェライト焼結磁石(SrLaCoフェライト焼結磁石)よりも高いHcJを有していた。また、高いHcJを得るためには、Co含有量が0.10≦y''≦0.20、特に好ましくは0.10<y''≦0.20の範囲にあるCaLaCoフェライト仮焼体を使用するのが好ましいことが分かった。
【0151】
(ii)残留磁束密度Br
図7から明らかなように、Co含有量(y')が0.10〜0.20の範囲にあるSrLaCoフェライト仮焼体(No.S-1〜S-3の仮焼体)を用いた場合、混合比率が0質量%におけるBrと、混合比率が100質量%におけるBrとを結ぶ直線に対して、CaLaCoフェライト仮焼体の混合比率10質量%以上50質量%未満の範囲でBrが向上した。
【0152】
(iii)角形比Hk/HcJ
図8から明らかなように、全体的に混合比率0質量%及び100質量%のHk/HcJを結ぶ直線に対して、CaLaCoフェライト仮焼体の混合比率10質量%以上50質量%未満の範囲でHk/HcJが向上した。Co含有量(y')が0.10のSrLaCoフェライト仮焼体(No.S-1の仮焼体)を用いた場合は、混合比率10〜30質量%の範囲でHk/HcJが若干低下しているものの、93%以上の高いHk/HcJを有していた。
【0153】
このように、SrLaCoフェライト仮焼体及びCaLaCoフェライト仮焼体を混合して作製した本発明のフェライト焼結磁石は、SrLaCoフェライト焼結磁石に対して、高いBrとHk/HcJを維持したまま、より高いHcJを有することが分かった。
【0154】
[キュリー温度]
得られたフェライト焼結磁石のキュリー温度を表5並びに図9及び図10に示す。キュリー温度は実施例1と同様な方法で測定した。図9はCaLaCoフェライト仮焼体の混合比率(質量%)に対して第一のキュリー温度(Tc1)をプロットしたグラフであり、図10はCaLaCoフェライト仮焼体の混合比率(質量%)に対して第二のキュリー温度(Tc2)をプロットしたグラフである。
【0155】
表5及び図9から明らかなように、本発明のフェライト焼結磁石の第一のキュリー温度(Tc1)は、本実施例で検討した範囲においては約440℃から約445℃の間で若干変化する程度であり、S rLaCoフェライト仮焼体の組成及びCaLaCoフェライト仮焼体の混合比率によらず、ほぼ一定となることが分かる。従って、本発明のフェライト焼結磁石は、440℃以上445℃以下のキュリー温度を持つ、Sr、La、Fe及びCoを含有する第一の粒子状のフェライト化合物相を有する。なお、キュリー温度(Tc1)はLaの含有量によって変化するため、キュリー温度(Tc1)の範囲は、第一の粒子状のフェライト化合物相のLaの含有量(x)の範囲(0.1≦x≦0.5)を考慮して440〜455℃とした。好ましい範囲は440℃以上445℃以下である。
【0156】
一方、表5及び図10から明らかなように、本発明のフェライト焼結磁石の第二のキュリー温度(Tc2)は、全ての組み合わせにおいてCaLaCoフェライト仮焼体の混合比率が大きくなるに従って低下する傾向にあった。CaLaCoフェライト仮焼体の混合比率が10質量%以上50質量%未満の領域では、第二のキュリー温度(Tc2)は約420℃から約440℃の範囲で変化した。つまり本発明のフェライト焼結磁石は、420℃以上440℃未満のキュリー温度を持つ、Ca、La、Fe及びCoを含有する第二の粒子状のフェライト化合物相を有する。
【0157】
[成分分析]
得られたフェライト焼結磁石の成分分析結果を表6に示し、組成を原子比率及びモル比に換算して表した結果を表7に示す。成分分析は、ICP発光分光分析装置(島津製作所製ICPV-1017)にて行った。
【0158】
【表6】
【0159】
【表7】
【0160】
成分分析結果(質量%)を原子比率及びモル比に換算するに際しては、フェライト仮焼体混合物との対比ができるように、Ca、La、Sr、Fe及びCoの各元素を原子比率及びモル比で換算し、フェライト仮焼体混合物に対して添加したSiO2及びCaCO3は、CaCO3、La(OH)3、SrCO3、Fe2O3及びCo3O4の合計100質量%に対する含有比率(質量%)で表記した。
【0161】
なお、フェライト仮焼体混合物に対して添加したSiO2及びCaCO3は、全量が焼結磁石の粒子間(粒界又は粒界三重点)に集積すると仮定した。ただし、Ca量については、原料粉末として添加したCaCO3とフェライト仮焼体混合物に対して添加したCaCO3を成分分析結果から分けることができないので、その配合量(フェライト仮焼体混合物に対して添加した量)をCaO換算値で表し、それを成分分析結果から差し引いて化合物相の原子比率及びモル比を算出した。またSiO2の量にばらつきがあるのは、フェライト仮焼体混合物に対して添加したSiO2に加えて、原料粉末として用いたFe2O3粉末の不純物としてSiO2が混入したためである。
【0162】
表4に示すフェライト仮焼体混合物の組成(原子比率及びモル比)と表7に示すフェライト焼結磁石の組成(原子比率及びモル比)とを対比すると、フェライト仮焼体混合物とフェライト焼結磁石の組成とはほぼ同じであることが分かる。
【0163】
前述したように、第一のフェライト化合物相と第二のフェライト化合物相とは相互拡散してしないと考えられることから、フェライト焼結磁石における第一の粒子状のフェライト化合物相と第二の粒子状のフェライト化合物相との体積比率は、SrLaCoフェライト仮焼体とCaLaCoフェライト仮焼体の混合比率(質量比率)と同じであると考えられる。
【0164】
従って、予めSrLaCoフェライト仮焼体とCaLaCoフェライト仮焼体との混合比率、及び混合後のフェライト仮焼体混合物の組成(計算値)の関係を求めておくことにより、フェライト焼結磁石の成分分析結果から体積比率を求めることができる。
【0165】
[フェライト焼結磁石の各元素の面分析]
試料No.9、10、11、13及び15のフェライト焼結磁石のEPMAによる各元素の面分析を実施例1同じ装置を用いて同じ条件で行った。前記各試料は、組成式:Sr1-x'Lax'Fe2n'-y'Coy'において、x'=0.2、y'=0.15、n'=5.8の組成のSrLaCoフェライト仮焼体(仮焼体No.S-2)と、組成式:Ca1-x''-cLax''AcFe2n''-y''Coy''において、x''=0.5、c=0、y''=0.2、n''=4.8の組成のCaLaCoフェライト仮焼体(仮焼体No.C-1)とを、CaLaCoフェライト仮焼体の混合比率がそれぞれ100質量%、0質量%、10質量%、30質量%及び50質量%となるように混合して得られたフェライト焼結磁石である。試料No.10、11、15及び9の結果をそれぞれ図11〜図14に示す。なお、試料No.13(混合比率30質量%)は実施例1で作製したフェライト焼結磁石と同じものであり、そのEPMAによる各元素の面分析の結果は実施例1の結果(図3)を参照した。
【0166】
図3及び図11〜図14におけるCaの濃度分布(各図の(b))から、CaLaCoフェライト仮焼体の混合比率が大きくなるに従ってCaの濃度が高くなっている(灰色部分が多くなっている)ことが分かる。一方、Srの濃度分布図(各図の(a))から、CaLaCoフェライト仮焼体の混合比率が大きくなるに従ってSrの濃度が低くなっている(黒色部分が多くなっている)ことが分かる。また、Ca及びSiの濃度分布(各図の(b)及び(c))から、フェライト仮焼体混合物に添加したCaCO3及びSiO2が粒子間(粒界)に集積し、特に、粒界三重点に多く集積していることが分かる。
【0167】
これらの結果から、実施例1にて実証した、本発明のフェライト焼結磁石はSr、La、Fe及びCoを含有する第一の粒子状のフェライト化合物相と、Ca、La、Fe及びCoを含有する第二の粒子状のフェライト化合物相とを有しているという結果が裏付けられる。
【0168】
[残留磁束密度Br及び保磁力HcJの温度係数]
試料No.9〜17のBr及びHcJの温度係数(-40〜20℃及び20〜100℃)を図15及び図16に示す。図15は、CaLaCoフェライト仮焼体の混合比率に対してBrの温度係数(縦軸左)及びBr(縦軸右)をプロットしたものであり、図16は、CaLaCoフェライト仮焼体の混合比率に対して、縦軸左にHcJの温度係数(縦軸左)及びHcJ(縦軸右)をプロットしたものである。
【0169】
図15及び図16から明らかなように、Brの温度係数はCaLaCoフェライト仮焼体の混合比率にかかわらずほぼ一定であるが、HcJの温度係数は混合比率10質量%以上50質量%未満の範囲で小さくなっており、-40〜20℃の温度係数及び20〜100℃の温度係数のいずれも混合比率40質量%近傍で最も小さくなった。
【0170】
このように、本発明のフェライト焼結磁石は、低温においても反磁界による減磁が起こり難いことが分かる。従って、本発明のフェライト焼結磁石を使用することにより、小型・軽量化、高能率化された自動車用電装部品、電気機器用部品を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0171】
本発明は、各種モータ、発電機、スピーカ等、種々の用途に用いることができ、特に、自動車用電装部品、電気機器用部品に用いられるモータに好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0172】
1 熱磁気天秤
2 熱天秤
3、3’ 永久磁石
4 サンプル
5 熱源
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト焼結磁石及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェライト焼結磁石は、各種モータ、発電機、スピーカ等に使用されている。代表的なフェライト焼結磁石として、六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するSrフェライト(SrFe12O19)及びBaフェライト(BaFe12O19)が知られている。これらのフェライト焼結磁石は、酸化鉄とストロンチウム(Sr)又はバリウム(Ba)の炭酸塩等とを原料とし、粉末冶金法によって比較的安価に製造される。
【0003】
近年、環境に対する配慮等から、自動車用電装部品、電気機器用部品等において、部品の小型・軽量化及び高効率化を目的として、フェライト焼結磁石の高性能化が要望されている。特に、自動車用電装部品に用いられるモータには、高い残留磁束密度Br(以下、単に「Br」という)を保持しながら、薄型化した際に、反磁界により減磁しない高い保磁力HcJ(以下、単に「HcJ」という)を有するフェライト焼結磁石が要望されている。
【0004】
フェライト焼結磁石の磁石特性の向上を図るため、上記のSrフェライトにおけるSrの一部をLa等の希土類元素で置換し、Feの一部をCoで置換することにより、HcJ及びBrを向上させる方法が、特開平10-149910号(特許文献1)、特開平11-154604号(特許文献2)等により提案されている。
【0005】
特許文献1及び特許文献2に記載の、Srの一部をLa等の希土類元素で置換し、Feの一部をCo等で置換したSrフェライト(以下、「SrLaCoフェライト」という)は、磁石特性に優れることから、従来のSrフェライトやBaフェライトに代わり、各種用途に多用されつつあるものの、さらなる磁石特性の向上も望まれている。
【0006】
一方、フェライト焼結磁石として、上記SrフェライトやBaフェライトとともに、Caフェライトも知られている。Caフェライトは、CaO-Fe2O3又はCaO-2Fe2O3の組成式で表される構造が安定であり、Laを添加することによって六方晶フェライトを形成することが知られている。しかし、得られる磁石特性は、従来のBaフェライトの磁石特性と同程度であり、充分に高くはない。
【0007】
特許第3181559号(特許文献3)は、CaフェライトのBr及びHcJの向上、並びにHcJの温度特性の改善を図るため、Caの一部をLa等の希土類元素で置換し、Feの一部をCo等で置換した、20 kOe以上の異方性磁界HAを有するCaフェライト(以下「CaLaCoフェライト」という)を開示しており、この異方性磁界HAはSrフェライトに比べて10%以上高い値であると記載している。
【0008】
しかしながら、特許文献3に記載のCaLaCoフェライトは、SrLaCoフェライトを上回る異方性磁界HAを有するものの、Br及びHcJはSrLaCoフェライトと同程度であり、一方で角形比Hk/HcJ(以下、単に「Hk/HcJ」という)が非常に悪く、高いHcJと高いHk/HcJとの両方を満足することができず、モータ等の各種用途に応用されるまでには至っていない。
【0009】
上記のSrLaCoフェライトの磁石特性を改良すべく、特開平11-195516号(特許文献4)は、特許文献1及び特許文献2で提案されたSrLaCoフェライトの製造方法において、Srフェライトの仮焼粉にLa及びCoを添加し、成形し、焼成を行うことにより、SrLaCoフェライトを製造する方法を提案している。この方法により得られる焼結磁石は、2つの異なるキュリー温度(Tc)を有し、角形性が高く、Co含有量を少量化できると記載している。
【0010】
特許文献4は特許文献1及び2で提案されたSrLaCoフェライトに対して磁石特性は向上しているものの、高性能化の要求は近年益々強くなる一方であり、さらなる磁石特性の向上が要望されている。
【0011】
特開2006-104050号(特許文献5)、国際公開第2007/060757号(特許文献6)及び国際公開第2007/077811号(特許文献7)は、いずれも特許文献3で提案されたCaLaCoフェライトの高性能化を目的としたもので、特許文献5は、各構成元素の原子比率及びモル比nの値を最適化し、かつLa及びCoを特定の比率で含有させることを提案しており、特許文献6は、Caの一部をLa及びBaで置換することを提案しており、特許文献7は、Caの一部をLa及びSrで置換することを提案している。
【0012】
特許文献5〜7に記載の発明により、SrLaCoフェライトを超える高いBr及び高いHcJを有するCaLaCoフェライト焼結磁石が得られている。しかしながら、特許文献5〜7に記載のフェライト焼結磁石はいずれも、高い磁石特性を得るためにCoを原子比率で0.3程度含有させる必要がある。つまり現在市場に提供されているSrLaCoフェライト焼結磁石(原子比率で0.2程度のCo含有量)に比べ多くのCoを必要とし、原料コストが増大するという問題がある。
【0013】
フェライト焼結磁石の最大の特徴の一つに高い経済性がある。例え高い磁石特性を有するフェライト焼結磁石であっても、価格が高いと市場では受け入れられ難い。例えば、CoやLaの価格は、主成分である酸化鉄の価格の十数倍から数十倍であるため、CoやLaの含有量が多くなるとフェライト焼結磁石の価格が著しく上昇する(2009年11月のLMB(London Metal Bulletin)コバルト相場は高品位品で21.1〜22.0 $/lbでありCo3O4に単純換算すると3,100〜3,200円/kg、日本CIFのLa相場は10$/kgでありLa2O3に単純換算すると約770円/kgとなる。)。
【0014】
しかしながら、特許文献5〜7等に記載のCaLaCoフェライトのCo含有量を、SrLaCoフェライトと同等(原子比率で0.2程度)に低減すると、磁石特性、特にHcJがSrLaCoフェライト以下となり、CaLaCoフェライトの特徴(高いBr及び高いHcJ)が発揮されなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平10-149910号公報
【特許文献2】特開平11-154604号公報
【特許文献3】特許第3181559号公報
【特許文献4】特開平11-195516号公報
【特許文献5】特開2006-104050号公報
【特許文献6】国際公開第2007/060757号パンフレット
【特許文献7】国際公開第2007/077811号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、フェライト焼結磁石の磁石特性を向上させることであり、特に、CaLaCoフェライト焼結磁石よりも安価なSrLaCoフェライト焼結磁石の磁石特性をより一層向上させ、近年益々強くなる高性能化の要求を満足するフェライト焼結磁石を安価にして提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、発明者らは、Sr、La、Fe及びCoを含有するフェライト(以下、SrLaCoフェライトとも言う)仮焼体に、Ca、La、Fe及びCoを含有するフェライト(以下、CaLaCoフェライトとも言う)仮焼体を特定量混合し、粉砕、成形及び焼成して得られるフェライト焼結磁石は、SrLaCoフェライト仮焼体を由来とし440〜455℃にキュリー温度が存在する第一の粒子状のフェライト化合物相と、CaLaCoフェライト仮焼体を由来とし420℃以上440℃未満にキュリー温度が存在する第二の粒子状のフェライト化合物相とを有し、高いBrと高いHk/HcJを維持したまま高いHcJが得られることを見出し、本発明に想到した。
【0018】
本発明を提案するに際して、発明者らは、SrLaCoフェライト焼結磁石と、CaLaCoフェライト焼結磁石との磁石特性、特にHcJの違いに着目した。焼結磁石のHcJは焼結体組織の影響は受けるものの、理論的にはほぼHAと比例関係にある。つまり、材料のHAが高いほどHcJの向上が期待される。
【0019】
SrLaCoフェライト焼結磁石及びCaLaCoフェライト焼結磁石のHAを磁気ヒステリシス曲線からSPD(Singular Point Detection)法により測定した結果、Coの原子比率を0.3としたCaLaCoフェライトのHAは2.1 MA/m(約26.4 kOe)、Coの原子比率を0.2としたCaLaCoフェライトのHAは1.9 MA/m(約23.9 kOe)であり、共にCoの原子比率を0.2とした一般的なSrLaCoフェライトのHA[1.8 MA/m(約22.6 kOe)]に比べ高い値を示し、CaLaCoフェライトはSrLaCoフェライトよりも高いHcJが期待された。
【0020】
しかしながら、上述の通り、Coの原子比率を0.3としたCaLaCoフェライトでは原料コストが増大するため、フェライト焼結磁石の特徴である経済性が失われ市場では受け入れられ難くなる。一方、Coの原子比率を0.2としたCaLaCoフェライトは、原料コストの増大は避けられるものの、期待に反してHcJがSrLaCoフェライト以下となりCaLaCoフェライトの特徴が発揮できない。
【0021】
現在市場に提供されているSrLaCoフェライト焼結磁石の代表的な磁石特性はBrが約440 mT及びHcJが約350 kA/mである。製品としては、上記磁石特性を中心に高Brタイプと高HcJタイプがラインアップされており、Br及びHcJをそれぞれ縦軸及び横軸としたとき、Brが約450 mT及びHcJが約300 kA/mの点と、Brが約430 mT及びHcJが約370 kA/mの点とを結んだライン上にSrLaCoフェライト焼結磁石の磁石特性がある。
【0022】
一般的に、高い磁石特性の材料に低い磁石特性の材料を混合してゆくと、磁石特性は低下してゆくと予想される。例えば、Coの原子比率を0.2とした一般的なSrLaCoフェライトに、SrLaCoフェライトよりもHcJに劣るCoの原子比率を0.2としたCaLaCoフェライトを混合して得られた焼結磁石は、CaLaCoフェライト仮焼体の混合割合の増加に伴いHcJが低下すると予想される。
【0023】
しかしながら、本願の発明者らは、SrLaCoフェライト焼結磁石の磁石特性の改良を試みるうち、SrLaCoフェライト仮焼体にCoの原子比率を0.2としたCaLaCoフェライト仮焼体を特定の質量比率で混合して得られた焼結磁石は、SrLaCoフェライト焼結磁石に比べてHk/HcJが同等以上でHcJ及びBrが向上するという、予想に反する磁石特性を有することを見出した。
【0024】
得られた焼結磁石を分析した結果、Sr、La、Fe及びCoを含有する粒子状のフェライト化合物相(キュリー温度:440〜455℃)と、Ca、La、Fe及びCoを含有する粒子状のフェライト化合物相(キュリー温度:420℃以上440℃未満)とが焼結体内部で共存する特殊な組織を有していることを見出した。HcJの向上はこの特殊な組織に起因しているものと考えられる。
【0025】
特許文献4は、前述したように特許文献1及び特許文献2で提案されたSrLaCoフェライトの改良発明であり、六方晶フェライトの主相を有し、400〜480℃の範囲に温度差が5℃以上の少なくとも2つの異なるキュリー温度を有する焼結磁石を開示している。
【0026】
特許文献4に記載の2つの異なるキュリー温度を有するSrLaCoフェライト焼結磁石は、いわゆる「後添加法」により作製したものである。「後添加法」とは、原料としてSr化合物及びFe化合物を配合及び仮焼して得られたM型Srフェライトの仮焼体に、La、Fe及びCoの化合物を所定の比率で添加し、粉砕、成形及び焼成してSrLaCoフェライト焼結磁石を作製する方法である。
【0027】
特許文献4は、「後添加法」により2つの異なるキュリー点を有する構造が得られる理由について以下のように記載している。すなわち、焼成時にSrフェライトと、後から添加したLa、Fe及びCoの化合物とが反応し、その過程でLaとCoの濃度の高いM型フェライト部分と、濃度の低いM型フェライト部分とができる。つまり、M型フェライトの仮焼体粒子に対して、後添加したLaやCoが拡散してゆくとすると、粒子の中心部よりも表層部でLaやCoの濃度が高い構造が得られる。キュリー温度は、LaやCoの置換量、特にLaの置換量に依存するため、このような組成が不均一になっているような構造を有することにより、キュリー温度が少なくとも2つ存在するようになると考えられる(段落[0031])。
【0028】
また特許文献4は、2つのキュリー温度は、製造方法等により磁気的に異なるM型フェライトの2相構造となるために発現すると考えられると記載しており(段落[0053])、低い方のキュリー温度(Tc1)は、La量及びCo量の増加とともに減少したが、高い方のキュリー温度(Tc2)は、あまり大きな変化を示さなかったことから、Tc1はLa及びCoの置換量の多いSrフェライト構造部分のキュリー温度であることが予想されると記載している(段落[0138])。
【0029】
これらの記載から、「後添加法」により得られるSrLaCoフェライト焼結磁石は、La及びCoの濃度が高いSrLaCoフェライト粒子と、La及びCoの濃度が低いSrLaCoフェライト粒子が混在した二相構造、又は中心部よりも表層部でLa及びCoの濃度が高いSrLaCoフェライト粒子から構成される二相構造となっており、それぞれの相のキュリー温度が異なっているものと考えられる。いずれにしても、特許文献4に記載の「後添加法」において2つの異なるキュリー温度が発現する現象は、La及びCoの濃度分布が異なる相が存在することに起因するものである。
【0030】
これに対して、本発明のフェライト焼結磁石は、Sr、La、Fe及びCoを含有するSrLaCoフェライト仮焼体を由来とするフェライト化合物相(キュリー温度:440〜455℃)と、Ca、La、Fe及びCoを含有するCaLaCoフェライト仮焼体を由来とするフェライト化合物相(キュリー温度:420℃以上440℃未満)とが焼結体内部で粒子状に分布した構造であり、特許文献4に記載のフェライト焼結磁石とは全く異なるものである。
【0031】
また、本発明のフェライト焼結磁石は、それぞれ異なる組成を有するSrLaCoフェライト仮焼体及びCaLaCoフェライト仮焼体を特定の質量比率で混合し、粉砕、成形及び焼結してなるものであり、特許文献4に記載の「後添加法」によって得られるものとは全く異なるものである。
【0032】
従って、本発明のフェライト焼結磁石は、
Sr、La、Fe及びCoを含有し440〜455℃にキュリー温度が存在する第一の粒子状のフェライト化合物相と、
Ca、La、Fe及びCoを含有し420℃以上440℃未満にキュリー温度が存在する第二の粒子状のフェライト化合物相とを有するフェライト焼結磁石であって、
前記第一の粒子状のフェライト化合物相の体積比率が50%を超え90%以下、前記第二の粒子状のフェライト化合物相の体積比率が10%以上50%未満であり、両体積比率の和が95%以上であることを特徴とする。
【0033】
前記第一の粒子状のフェライト化合物相の体積比率は60〜80%、前記第二の粒子状のフェライト化合物相の体積比率は20〜40%であり、両体積比率の和が95%以上であるのが好ましい。
【0034】
前記第二の粒子状のフェライト化合物相は、さらにBa及び/又はSrを含有するのが好ましい。
【0035】
前記フェライト焼結磁石のSr、La、Ca、Ba、Fe及びCoの組成比は、一般式:
Sr1-x-a-bLaxCaaBabFe2n-yCoy
(ただし、Sr、La、Ca、Ba、Fe及びCoの原子比率を表わすx、a、b及びy並びにモル比を表わすnが、
0.1≦x≦0.5、
0.04≦a≦0.5、
0≦b≦0.2、
0.2≦1-x-a-b、
0.05≦y≦0.3、及び
4≦n≦6
を満足する数値である。)により表わされるのが好ましい。
【0036】
前記Sr、La、Ca、Ba、Fe及びCoの原子比率を表わすx、a、b及びy並びにモル比を表わすnは、
0.2≦x≦0.4、
0.1≦a≦0.4、
0≦b≦0.1、
0.3≦1-x-a-b、
0.1≦y≦0.3、及び
4.2≦n≦5.7
を満足する数値であるのが好ましい。
【0037】
前記第一の粒子状のフェライト化合物相のSr、La、Fe及びCoの組成比が、一般式:
Sr1-x'Lax'Fe2n'-y'Coy'
(ただし、Sr、La、Fe及びCoの原子比率を表わすx'及びy'並びにモル比を表わすn'が、
0.05≦x'≦0.3、
0.05≦y'≦0.3、及び
5≦n'≦6
を満足する数値である。)により表わされるのが好ましい。
【0038】
前記第一の粒子状のフェライト化合物相のCoの原子比率を表わすy'は、
0.1≦y'≦0.2
を満足する数値であるのが好ましい。
【0039】
前記第二の粒子状のフェライト化合物相のCa、La、(Ba+Sr)、Fe及びCoの組成比が、(Ba+Sr)をA元素としたとき、一般式:
Ca1-x''-cLax''AcFe2n''-y''Coy''
(ただし、Ca、La、A元素、Fe及びCoの原子比率を表わすx''、c及びy''並びにモル比を表わすn''が、
0.4≦x''≦0.6、
0≦c≦0.2、
0<y''≦0.2、及び
4≦n''≦6
を満足する数値である。)により表わされるのが好ましい。
【0040】
前記第二の粒子状のフェライト化合物相のCoの原子比率を表わすy''は、
0.1≦y''≦0.2
を満足する数値であるのが好ましい。
【0041】
前記第二の粒子状のフェライト化合物相のCoの原子比率を表わすy''は、
0.1<y''≦0.2
を満足する数値であるのが好ましい。
【0042】
本発明のフェライト焼結磁石の製造方法は、
Sr、La、Fe及びCoの組成比が、一般式:Sr1-x'Lax'Fe2n'-y'Coy'(ただし、Sr、La、Fe及びCoの原子比率を表わすx'及びy'並びにモル比を表わすn'が、0.05≦x'≦0.3、0.05≦y'≦0.3、及び5≦n'≦6を満足する数値である。)で表される第一のフェライト仮焼体、及びCa、La、(Ba+Sr)、Fe及びCoの組成比が、(Ba+Sr)をA元素としたとき、一般式:Ca1-x''-cLax''AcFe2n''-y''Coy''(ただし、Ca、La、A元素、Fe及びCoの原子比率を表わすx''、c及びy''並びにモル比を表わすn''が、0.4≦x''≦0.6、0≦c≦0.2、0<y''≦0.2、及び4≦n''≦6を満足する数値である。)で表される第二のフェライト仮焼体を、第一のフェライト仮焼体及び第二のフェライト仮焼体の合計100質量%に対して、第二のフェライト仮焼体の混合比率が10質量%以上50質量%未満となるように混合し、フェライト仮焼体混合物を得る混合工程、
前記フェライト仮焼体混合物を粉砕し、粉末を得る粉砕工程、
前記粉末を成形し、成形体を得る成形工程、及び
成形体を焼成し、焼結体を得る焼成工程
を含むことを特徴とする。
【0043】
前記第一のフェライト仮焼体及び前記第二のフェライト仮焼体を、前記第二のフェライト仮焼体の混合比率が20〜40質量%となるように混合することを特徴とするフェライト焼結磁石の製造方法。
【0044】
前記第一のフェライト仮焼体におけるCoの原子比率を表わすy'は、
0.1≦y'≦0.2
を満足する数値であるのが好ましい。
【0045】
前記第二のフェライト仮焼体におけるCoの原子比率を表わすy''は、
0.1≦y''≦0.2
を満足する数値であるのが好ましい。
【0046】
前記第二のフェライト仮焼体におけるCoの原子比率を表わすy''は、
0.1<y''≦0.2
を満足する数値であるのが好ましい。
【0047】
前記フェライト焼結磁石のCa、La、Sr、Ba、Fe及びCoの組成比は、一般式:
Sr1-x-a-bLaxCaaBabFe2n-yCoy
(ただし、Sr、La、Ca、Ba、Fe及びCoの原子比率を表わすx、a、b及びy並びにモル比を表わすnが、
0.1≦x≦0.5、
0.04≦a≦0.5、
0≦b≦0.2、
0.2≦1-x-a-b、
0.05≦y≦0.3、及び
4≦n≦6
を満足する数値である。)により表わされるのが好ましい。
【発明の効果】
【0048】
本発明により、HcJ、Br及びHk/HcJを向上させることができるので、磁石を薄型化した際に、反磁界により減磁が生じることがない高性能なフェライト焼結磁石を安価にして提供することができる。このため、本発明のフェライト焼結磁石を使用することにより、小型・軽量化、高能率化された自動車用電装部品、電気機器用部品を安価にして提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明のフェライト焼結磁石のCaについてEPMAによって面分析した結果を示す写真である。
【図2】本発明のフェライト焼結磁石、SrLaCoフェライト焼結磁石及びCaLaCoフェライト焼結磁石の熱磁気天秤の測定結果を示すグラフである。
【図3】実施例1のフェライト焼結磁石の(a)Sr、(b)Ca、(c)Si元素についてEPMAによって面分析した結果、並びに(d)反射電子像を示す写真である。
【図4】熱磁気天秤の一例を示す模式図である。
【図5】実施例1のフェライト焼結磁石の熱磁気天秤の測定結果及びその微分データを示すグラフである。
【図6】実施例2のフェライト焼結磁石のCaLaCoフェライト仮焼体の混合比率とHcJとの関係を示すグラフである。
【図7】実施例2のフェライト焼結磁石のCaLaCoフェライト仮焼体の混合比率とBrとの関係を示すグラフである。
【図8】実施例2のフェライト焼結磁石のCaLaCoフェライト仮焼体の混合比率とHk/HcJとの関係を示すグラフである。
【図9】実施例2のフェライト焼結磁石のCaLaCoフェライト仮焼体の混合比率と第一のキュリー温度(Tc1)との関係を示すグラフである。
【図10】実施例2のフェライト焼結磁石のCaLaCoフェライト仮焼体の混合比率と第二のキュリー温度(Tc2)との関係を示すグラフである。
【図11】実施例2のフェライト焼結磁石(No.10)の(a)Sr、(b)Ca、(c)Si元素についてEPMAによって面分析した結果、並びに(d)反射電子像を示す写真である。
【図12】実施例2のフェライト焼結磁石(No.11)の(a)Sr、(b)Ca、(c)Si元素についてEPMAによって面分析した結果、並びに(d)反射電子像を示す写真である。
【図13】実施例2のフェライト焼結磁石(No.15)の(a)Sr、(b)Ca、(c)Si元素についてEPMAによって面分析した結果、並びに(d)反射電子像を示す写真である。
【図14】実施例2のフェライト焼結磁石(No.9)の(a)Sr、(b)Ca、(c)Si元素についてEPMAによって面分析した結果、並びに(d)反射電子像を示す写真である。
【図15】実施例2のフェライト焼結磁石のCaLaCoフェライト仮焼体の混合比率とBr及びその温度係数との関係を示すグラフである。
【図16】実施例2のフェライト焼結磁石のCaLaCoフェライト仮焼体の混合比率とHcJ及びその温度係数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0050】
[1]フェライト焼結磁石
本発明のフェライト焼結磁石は、Sr、La、Fe及びCoを含有し440〜455℃にキュリー温度Tc1が存在する第一の粒子状のフェライト化合物相と、Ca、La、Fe及びCoを含有し420℃以上440℃未満にキュリー温度Tc2が存在する第二の粒子状のフェライト化合物相とを有し、フェライト焼結磁石中における第一の粒子状のフェライト化合物相の体積比率が50%を超え90%以下、第二の粒子状のフェライト化合物相の体積比率が10%以上50%未満であり、両体積比率の和が95%以上である。
【0051】
本発明のフェライト焼結磁石は、SrLaCoフェライト仮焼体及びCaLaCoフェライト仮焼体を、SrLaCoフェライト仮焼体及びCaLaCoフェライト仮焼体の合計100質量%に対して、CaLaCoフェライト仮焼体の混合比率が10質量%以上50質量%未満となるように混合し、粉砕、成形及び焼成することにより得られる。なお「SrLaCoフェライト仮焼体及びCaLaCoフェライト仮焼体を混合する際の質量比率」を単に「混合比率」と言う。
【0052】
(1)組織
図1は、本発明のフェライト焼結磁石のCaについてEPMAによって面分析した結果を示す。図において、濃淡が大きく3つに分かれており、薄い部分(白色部分)はCa濃度が最も高い部分であり、濃い部分(黒色部分)はCa濃度が最も低い部分であり、両者の中間の部分(灰色部分)はCa濃度がそれらの間の濃度である。
【0053】
前記Ca濃度が最も高い部分は、別途測定したSi濃度が高い部分と対応していることと、結晶粒成長を抑制し磁石特性の向上を図るために粉砕工程において添加したCaCO3及びSiO2等の添加物は、焼成後に粒子間(粒界)、特に粒界三重点に多く集積するのが知られていることから、粒界三重点であると考えられる。
【0054】
前記Ca濃度が最も低い部分は、別途測定したSr濃度が高い部分と対応していることから、SrLaCoフェライト化合物相と考えられる。
【0055】
前記Ca濃度が中間の濃度である部分は、前記粒界相及びSrLaCoフェライト化合物相以外の部分であり、CaLaCoフェライト化合物相と考えられる。
【0056】
図2は、SrLaCoフェライト焼結磁石、CaLaCoフェライト焼結磁石、及びSrLaCoフェライト仮焼体とCaLaCoフェライト仮焼体とを70:30の質量比率で混合し、粉砕、成形及び焼成してなる本発明のフェライト焼結磁石の熱磁気天秤の測定結果である。本発明のフェライト焼結磁石は、第一のキュリー温度(Tc1:443℃)を有する化合物相と、第二のキュリー温度(Tc2:431℃)を有する化合物相との、少なくとも2つの異なる化合物相を有している。
【0057】
従来から知られるSrフェライト、SrLaCoフェライト、CaLaCoフェライト等の焼結磁石は、Sr、La、Fe等の原料粉末を混合及び仮焼して得られた仮焼体を、粉砕、成形及び焼成して作製される。これらのフェライト化合物は、仮焼の段階で固相反応(フェライト化反応)によって生成され、その物理的性質は仮焼の段階でほぼ決定される。従って、粉砕、成形及び焼成を経て得られた焼結体においても基本的にその物理的性質は維持されている。
【0058】
本発明のフェライト焼結磁石におけるTc1(443℃)は、前記SrLaCoフェライト焼結磁石のキュリー温度(約443℃)とほぼ同じであることから、第一のキュリー温度(Tc1)を有する化合物相は、SrLaCoフェライト仮焼体に由来する、Sr、La、Fe及びCoを含有する化合物相(第一のフェライト化合物相)であると推定できる。従って、第二のキュリー温度(Tc2)を示す化合物相は、CaLaCoフェライト仮焼体に由来する、Ca、La、Fe及びCoを含有する化合物相(第二のフェライト化合物相)であると推定できる。
【0059】
ここで、前記第二のフェライト化合物相のTc2(431℃)は、CaLaCoフェライト焼結磁石のキュリー温度(約418℃)よりも若干高い。後述する実施例に示すように、第一のフェライト化合物相のキュリー温度が、CaLaCoフェライト仮焼体の混合比率にかかわらずほぼ一定であるのに対し、第二のフェライト化合物相のキュリー温度は、CaLaCoフェライト仮焼体の混合比率が大きくなるに従って低下する傾向がある。
【0060】
CaLaCoフェライト仮焼体に由来する第二のフェライト化合物相は、仮焼体の混合により、キュリー温度以外に、X線回折やEPMAによって確認できるような物理的性質の変化を起こさない。一般に、キュリー温度の変化は、化合物相の組成の変化に伴って起こることが多い(特にLaはキュリー温度に与える影響が大きい)。しかしながら、第一のフェライト化合物相のキュリー温度が前記両仮焼体の混合比率によってほとんど変化しないことから、第一のフェライト化合物相と第二のフェライト化合物相との間には、構成する各元素の相互拡散は起こっていないと考えられる。
【0061】
第二のフェライト化合物相のキュリー温度の変化が起こる理由は明らかでないが、第二のフェライト化合物相は、物理的性質を維持しようとする第一のフェライト化合物相と焼結体内部で共存を図るために何らかの変化を起こし、それに伴い物理的性質(キュリー温度)が変化しているのではないかと考えられる。この物理的性質の変化が、HcJ、Br及びHk/HcJを向上させるという効果を発揮するものと考えられる。
【0062】
本発明のフェライト焼結磁石は、第一のフェライト化合物相の体積比率が50%を超え90%以下、第二のフェライト化合物相の体積比率が10%以上50%未満であり、両体積比率の和が95%以上であるとき、BrとHk/HcJはほとんど低下せず、HcJが向上するという効果が得られる。このような体積比率を有するとき、第一のフェライト化合物相のキュリー温度Tc1は440〜455℃、好ましくは440℃以上445℃以下の範囲であり、第二のフェライト化合物相のキュリー温度Tc2は420℃以上440℃未満の範囲である。
【0063】
前述したように、SrLaCoフェライト仮焼体及びCaLaCoフェライト仮焼体を前記質量比率で混合し、粉砕、成形及び焼成することにより得られる焼結磁石は、フェライト化合物の物理的性質が仮焼の段階でほぼ決定され、焼結体においても基本的にその物理的性質は維持されるため、基本的に、SrLaCoフェライト仮焼体は第一のフェライト化合物相として、CaLaCoフェライト仮焼体は第二のフェライト化合物相として、混合時の混合比率(質量比率)とほぼ同じ比率(体積比率)でフェライト焼結磁石中に存在している。すなわち、粉砕工程及び焼成工程により、フェライト化合物相の結晶粒径は変化するが比率は変化しない。
【0064】
従って、SrLaCoフェライト仮焼体(第一のフェライト仮焼体)、及びCaLaCoフェライト仮焼体(第二のフェライト仮焼体)を、SrLaCoフェライト仮焼体及びCaLaCoフェライト仮焼体の合計100質量%に対して、CaLaCoフェライト仮焼体の混合比率が10質量%以上50質量%未満となるように混合し、粉砕、成形及び焼成することにより得られるフェライト焼結磁石は、第一のフェライト化合物相の体積比率が50%を超え90%以下、第二のフェライト化合物相の体積比率が10%以上50%未満となる。
【0065】
フェライト焼結磁石中における第一のフェライト化合物相の体積比率と、第二のフェライト化合物相の体積比率は、以下の3種類の方法によって求めることができる。これらの方法は、併用することにより、より精度を高めることができる。
(i)焼結磁石の断面写真と、そのEPMAによる元素分析結果から、第一のフェライト化合物相と第二のフェライト化合物相とを特定し、各化合物相の面積割合を求める方法。
(ii)2種類のフェライト仮焼体の混合比率と混合後のフェライト仮焼体混合物の組成(計算値)との関係を求めておき、焼結体の組成の実測値から体積比率を求める。
(iii)振動試料型磁力計(VSM)によるσ- T曲線から求める方法。
【0066】
第一のフェライト化合物相と第二のフェライト化合物相の体積比率の和は95%以上である。残りの5%未満の部分は、主に仮焼後に添加する添加物等からなる粒界相である。粒界相は、透過電子顕微鏡(TEM)等で存在の有無を確認することができる。本発明のフェライト焼結磁石は、基本的に、第一のフェライト化合物相と第二のフェライト化合物相と粒界相とから構成されるが、X線回折等により極少量(5質量%程度)観察される異相(オルソフェライト相、スピネル相等)、不純物相等の存在は許容される。X線回折からの異相の定量にはリートベルト解析のような手法を用いることができる。
【0067】
フェライト焼結磁石は、第二のフェライト化合物相に、さらにBa及び/又はSrを含有するのが好ましい。すなわち、CaLaCoフェライト仮焼体として、特許文献6(Caの一部をLa及びBaで置換してなる仮焼体)、特許文献7(Caの一部をLa及びSrで置換してなる仮焼体)等に記載される公知のCaLaCoフェライト仮焼体を用いることにより、磁石特性をさらに向上させることができる。
【0068】
(2)組成
(i)フェライト焼結磁石全体の組成
本発明のフェライト焼結磁石は、焼結磁石全体として前記Sr、La、Ca、Ba、Fe及びCoの組成比が、
一般式:Sr1-x-a-bLaxCaaBabFe2n-yCoy
(ただし、Sr、La、Ca、Ba、Fe及びCoの原子比率を表わすx、a、b及びy並びにモル比を表わすnが、
0.1≦x≦0.5、
0.04≦a≦0.5、
0≦b≦0.2、
0.2≦1-x-a-b、
0.05≦y≦0.3、及び
4≦n≦6
を満足する数値である。)により表わされるのが好ましい。
【0069】
さらに、前記x、a、b、y及びnが、
0.2≦x≦0.4、
0.1≦a≦0.4、
0≦b≦0.1、
0.3≦1-x-a-b、
0.1≦y≦0.3、及び
4.2≦n≦5.7
を満足する数値であるのがより好ましい。
【0070】
Srは、基本的にSrLaCoフェライト仮焼体を由来とする元素であり、第一のフェライト化合物相に含有される。Srが含まれるCaLaCoフェライト仮焼体を用いたときは、そのSrは第二のフェライト化合物相に含有される。Srの原子比率(以下「含有量」という)を示す(1-x-a-b)は、0.2以上であるのが好ましい。Srの含有量が0.2未満ではLa、Ca、Baが相対的に増加するためHcJが低下する。より好ましい含有量は0.3以上である。
【0071】
Laは、SrLaCoフェライト仮焼体及びCaLaCoフェライト仮焼体の両方を由来とし、第一のフェライト化合物相及び第二のフェライト化合物相の両方に含有される。Laの含有量(x)は、0.1〜0.5の範囲であるのが好ましい。Laの含有量が0.1未満の場合又は0.5を超える場合にはHcJが低下する。より好ましい含有量は0.2〜0.4の範囲である。
【0072】
Caは、CaLaCoフェライト仮焼体、仮焼後に添加するCaCO3等の添加物等に含まれるが、CaLaCoフェライト仮焼体に由来するCaは第二のフェライト化合物相に含有され、仮焼後に添加するCaCO3等に由来するCaは粒界相等に含有される。Caの含有量(a)は、0.04〜0.5の範囲であるのが好ましい。Caの含有量が0.04未満ではHcJの向上効果が得られず、0.5を超えるとHcJが低下する。より好ましい含有量は0.1〜0.4の範囲である。
【0073】
Baは、基本的にCaLaCoフェライト仮焼体に含有されているBaを由来とし、第二のフェライト化合物相に含有される。Baの含有量(b)は0.2以下が好ましい。Baの含有量が0.2を超えるとHcJ及びBrが低下する。より好ましい範囲は0.1以下である。なお、BaはSrの原料粉末に不純物として混入されているため、SrLaCoフェライト仮焼体に微量に含有されている場合がある。
【0074】
Coは、SrLaCoフェライト仮焼体及びCaLaCoフェライト仮焼体の両方を由来とし、第一のフェライト化合物相及び第二のフェライト化合物相の両方に含有される。Coの含有量(y)は、0.05〜0.3の範囲であるのが好ましい。Coの含有量が0.05未満ではHcJ、Br及びHk/HcJが低下し、0.3を超えるとCoを多く含む異相(Coスピネル相)が生成しHcJ、Br及びHk/HcJが低下する。より好ましい含有量は0.1〜0.3の範囲である。
【0075】
nは、(Sr+La+Ca+Ba)と(Fe+Co)のモル比を反映する値で、2n=(Fe+Co)/(Sr+La+Ca+Ba)で表わされる。nは4〜6が好ましい。4未満及び6を超えるとHcJ、Br及びHk/HcJが低下するため好ましくない。より好ましい範囲は4.2〜5.7である。
【0076】
一般に、フェライト焼結磁石を製造する場合、焼成時に液相を生成させて焼結を促進させるために、SiO2、CaCO3等の焼結助剤を添加する。添加されたSiO2、CaCO3等は、そのほとんどがフェライト化合物相の粒界で粒界相を形成する。本発明のフェライト焼結磁石には、これらの焼結助剤が添加されたフェライト焼結磁石も含まれる。SiO2、CaCO3等の焼結助剤を添加すると、Ca含有量が相対的に増加するとともに、Siの含有により他の元素の含有量が相対的に減少する。上述した組成範囲は、このような焼結助剤の添加による組成変化を考慮した範囲に設定したものである。
【0077】
(ii)第一のフェライト化合物相の組成
前記第一のフェライト化合物相のSr、La、Fe及びCoの組成比は、
一般式:Sr1-x'Lax'Fe2n'-y'Coy'
(ただし、Sr、La、Fe及びCoの原子比率を表わすx'及びy'並びにモル比を表わすn'が、
0.05≦x'≦0.3、
0.05≦y'≦0.3、及び
5≦n'≦6
を満足する数値である。)により表わされるのが好ましい。
【0078】
Coの含有量(y')は、HcJ、Br及びHk/HcJをより向上させるために、0.1≦y'≦0.2の範囲であるのがより好ましい。
【0079】
前述の通り、第一のフェライト化合物相は、SrLaCoフェライト仮焼体が由来となっており、基本的にSrLaCoフェライト仮焼体の組成をそのまま維持しているので、上記の第一のフェライト化合物相の組成は、SrLaCoフェライト仮焼体の組成とほぼ同様である。従って、第一のフェライト化合物相の組成の限定理由については、後述するSrLaCoフェライト仮焼体の組成の限定理由と同様である。
【0080】
(iii)第二のフェライト化合物相の組成
本発明のフェライト焼結磁石において、前記第二のフェライト化合物相のCa、La、(Ba+Sr)、Fe及びCoの組成比は、(Ba+Sr)をA元素としたとき、
一般式:Ca1-x''-cLax''AcFe2n''-y''Coy''
(ただし、Ca、La、A元素、Fe及びCoの原子比率を表わすx''、c及びy''並びにモル比を表わすn''が、
0.4≦x''≦0.6、
0≦c≦0.2、
0<y''≦0.2、及び
4≦n''≦6
を満足する数値である。)により表わされるのが好ましい。
【0081】
Coの含有量(y'')は、HcJ、Br及びHk/HcJをより向上させるために、0.1≦y''≦0.2の範囲であるのがより好ましく、0.1<y''≦0.2の範囲であるのがさらに好ましい。
【0082】
第二のフェライト化合物相において、HcJ、Br及びHk/HcJをより向上させるために、La含有量及びCo含有量の比率x''/y''を1.3以上にするのが好ましい。
【0083】
上記の通り、第二のフェライト化合物相は、CaLaCoフェライト仮焼体が由来となっており、基本的にCaLaCoフェライト仮焼体の組成をそのまま維持しているので、上記の第二のフェライト化合物相の組成は、CaLaCoフェライト仮焼体の組成とほぼ同様である。従って、第二のフェライト化合物相の組成の限定理由については、後述するCaLaCoフェライト仮焼体の組成の限定理由と同様である。
【0084】
(3)その他
本発明において「フェライト」とは、二価の陽イオン金属の酸化物と三価の鉄の酸化物とが作る化合物の総称である。
【0085】
本発明のフェライト焼結磁石は、六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有している。第一のフェライト化合物相及び第二のフェライト化合物相も同様に六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有している。さらに、第一のフェライト化合物相の由来となるSrLaCoフェライト仮焼体及び第二のフェライト化合物相の由来となるCaLaCoフェライト仮焼体もまた六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有している。
【0086】
「六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有している」とは、一般的な条件でX線回折測定を行ったときに、六方晶のM型マグネトプランバイト構造のX線回折パターンのみが観察されることを意味する。すなわち、前記フェライト焼結磁石、化合物相及び仮焼体は、実質的に六方晶のM型マグネトプランバイト構造の単一構造である。ただし、X線回折パターンに現れない微細な結晶粒界相や不純物相の存在は許容される。
【0087】
[2]フェライト焼結磁石の製造方法
本発明のフェライト焼結磁石は、SrLaCoフェライト仮焼体及びCaLaCoフェライト仮焼体を、SrLaCoフェライト仮焼体及びCaLaCoフェライト仮焼体の合計100質量%に対して、CaLaCoフェライト仮焼体の混合比率が10質量%以上50質量%未満となるように混合し、粉砕、成形及び焼成することにより製造する。
【0088】
SrLaCoフェライト仮焼体としては、特許文献1、2、4等に記載のものを用いることができ、CaLaCoフェライト仮焼体としては、特許文献3、5、6、7等に記載のものを用いることができる。
【0089】
(1)フェライト仮焼体の組成
SrLaCoフェライト仮焼体は、Sr、La、Fe及びCoの組成比が、
一般式:Sr1-x'Lax'Fe2n'-y'Coy'
(ただし、Sr、La、Fe及びCoの原子比率を表わすx'及びy'並びにモル比を表わすn'が、
0.05≦x'≦0.3、
0.05≦y'≦0.3、及び
5≦n'≦6
を満足する数値である。)で表されるのが好ましい。
【0090】
Srの含有量(1-x')は、後述するLaの含有量(x')から、0.7〜0.95の範囲となる。Srの含有量が0.7未満ではLaの含有量が相対的に増加するためBr及びHk/HcJが低下する。Srの含有量が0.95を超えるとLaの含有量が相対的に減少するためBr及びHk/HcJが低下する。
【0091】
Laの含有量(x')は、0.05〜0.3の範囲であるのが好ましい。Laの含有量が0.05未満及び0.3を超えるとBr及びHk/HcJが低下する。なお、La以外の、不可避的不純物として混入する希土類元素は許容することができる。
【0092】
Coの含有量(y')は、0.05〜0.3の範囲であるのが好ましい。Coの含有量が0.05未満ではCo添加による磁気特性の向上効果が得られない。Coの含有量が0.3を超えるとCoを多く含む異相(Coスピネル相)が生成してHcJ、Br及びHk/HcJが低下する。
【0093】
n'は、(Sr+La)と(Fe+Co)のモル比を反映する値で、2n=(Fe+Co)/(Sr+La)で表わされる。n'は5〜6が好ましい。5未満では非磁性部分の比率が多くなりHcJが大きく低下してしまう。6を超えると仮焼体に未反応のα-Fe2O3が残存しHcJ、Br及びHk/HcJが低下する。
【0094】
CaLaCoフェライト仮焼体は、Ca、La、(Ba+Sr)、Fe及びCoの組成比が、(Ba+Sr)をA元素としたとき、
一般式:Ca1-x''-cLax''AcFe2n''-y''Coy''
(ただし、Ca、La、A元素、Fe及びCoの原子比率を表わすx''、c及びy''並びにモル比を表わすn''が、
0.4≦x''≦0.6、
0≦c≦0.2、
0<y''≦0.2、及び
4≦n''≦6
を満足する数値である。)で表されるのが好ましい。
【0095】
Caの含有量(1-x''-c)は、後述するLaの含有量(x'')及びA元素(Ba+Sr)の含有量(c)から、0.2〜0.6の範囲となる。Caの含有量が0.2未満では、La及びA元素の含有量が相対的に増加するため、Br及びHk/HcJが低下する。Caの含有量が0.6を超えると、La及びA元素の含有量が相対的に減少するため、Br及びHk/HcJが低下する。
【0096】
Laの含有量(x'')は、0.4〜0.6の範囲であるのが好ましい。Laの含有量が0.4未満及び0.6を超えるとBr及びHk/HcJが低下する。なお、La以外の、不可避的不純物として混入する希土類元素は許容することができる。
【0097】
A元素はBa及び/又はSrである。A元素の含有量(c)は、0.2以下であるのが好ましい。A元素を含有しなくても本発明の効果が損なわれることはないが、A元素を添加することにより、仮焼体における結晶の微細化及びアスペクト比を小さくすることができ、フェライト焼結磁石のHcJをさらに向上させることができる。
【0098】
Coの含有量(y'')は、0<y''≦0.2の範囲であるのが好ましい。Coの含有量が0ではCo添加による磁気特性の向上効果が得られない。Coの含有量が0.2を超えると原料コストが増大するため好ましくない。より好ましい含有量は0.1≦y''≦0.2の範囲であり、さらに好ましい含有量は0.1<y''≦0.2の範囲である。
【0099】
n''は、(Ca+La+A)と(Fe+Co)のモル比を反映する値で、2n=(Fe+Co)/(Ca+La+A)で表わされる。n''は4〜6が好ましい。4未満では非磁性部分の比率が多くなりBr及びHk/HcJが低下する。6を超えると仮焼体に未反応のα-Fe2O3が残存しBr及びHk/HcJが低下する。
【0100】
CaLaCoフェライト仮焼体において、HcJ、Br及びHk/HcJをより向上させるために、La含有量及びCo含有量の比率x''/y''を1.3以上にするのが好ましい。また、La含有量>Co含有量>A元素含有量であるとき、すなわち、x''>y''>cであるとき、磁石特性の向上効果が大きい。また、Ca含有量>A元素含有量であるとき、すなわち、1-x''-c>cであるとき、高い磁石特性を有する。
【0101】
本発明のフェライト焼結磁石の製造方法において、SrLaCoフェライト仮焼体及びCaLaCoフェライト仮焼体は、SrLaCoフェライト仮焼体及びCaLaCoフェライト仮焼体の合計100質量%に対して、CaLaCoフェライト仮焼体の混合比率が10質量%以上50質量%未満となるように混合する。CaLaCoフェライト仮焼体の混合比率が10質量%未満又は50質量%以上になるとHcJの向上効果が得られない。より好ましい混合比率は20〜40質量%である。
【0102】
(2)フェライト仮焼体の準備工程
SrLaCoフェライト仮焼体及びCaLaCoフェライト仮焼体は、上述した各特許文献に記載された手法により準備することができる。以下に好ましい準備工程の例を示す。
【0103】
Sr化合物、La化合物、Ca化合物、A元素の化合物、鉄化合物、Co化合物等の原料粉末を上述した組成式に基づき、それぞれ好ましい範囲になるように配合する。原料粉末は、価数にかかわらず酸化物や炭酸塩以外に、水酸化物、硝酸塩、塩化物等でもよく、溶液状態であってもよい。具体的には、Sr化合物としては、Srの炭酸塩、酸化物、塩化物等を使用する。Laの化合物としては、La2O3等の酸化物、La(OH)3等の水酸化物、La2(CO3)3・8H2O等の炭酸塩等を使用する。Ca化合物としては、Caの炭酸塩、酸化物、塩化物等を使用する。A元素の化合物としては、Ba及び/又はSrの炭酸塩、酸化物、塩化物等を使用する。鉄化合物としては、酸化鉄、水酸化鉄、塩化鉄、ミルスケール等を使用する。Co化合物としては、CoO、Co3O4等の酸化物、CoOOH、Co(OH)2、Co3O4・m1H2O(m1は正の数である)等の水酸化物、CoCO3等の炭酸塩、及びm2CoCO3・m3Co(OH)2・m4H2O等の塩基性炭酸塩(m2、m3、m4は正の数である)を使用する。
【0104】
SrLaCoフェライト仮焼体を準備する場合は、Sr化合物、鉄化合物、Co化合物及びLa化合物等の原料粉末は、原料混合時から全部添加して仮焼してもよいし、一部を仮焼後に添加してもよい。例えば、SrCO3、Fe2O3、La(OH)3の一部、Co3O4の一部を配合、混合及び仮焼して仮焼体を準備し、後述のCaLaCoフェライト仮焼体へ混合する工程で、La(OH)3の残部、Co3O4の残部を添加し、粉砕、成形及び焼結してもよい。
【0105】
CaLaCoフェライト仮焼体を準備する場合、Ca化合物、鉄化合物、Co化合物及びLa化合物等の原料粉末は、原料混合時から全部添加して仮焼してもよいし、一部を仮焼後に添加してもよい。例えば、CaCO3、Fe2O3、La(OH)3の一部、及びCo3O4の一部を配合、混合及び仮焼して仮焼体を準備し、後述のSrLaCoフェライト仮焼体を混合する工程で、La(OH)3の残部、Co3O4の残部を添加し、粉砕、成形及び焼結してもよい。また、仮焼時には、反応性促進のため、必要に応じて、B2O3、H3BO3等を含む化合物を添加しても良い。
【0106】
H3BO3の添加は、HcJ及びBrの向上に有効である。H3BO3の添加量は、配合粉末又は仮焼体100質量%に対して0.3質量%以下であるのが好ましい。添加量の最も好ましい値は0.2質量%近傍である。H3BO3の添加量を0.1質量%よりも少なくするとBrの向上効果が得られず、0.3質量%よりも多くするとBrが低下する。H3BO3は、焼結時の結晶粒の形状やサイズを制御する機能を有するので、その効果を発揮させるため、仮焼後(微粉砕前又は焼結前)に添加しても良く、さらに仮焼前及び仮焼後の両方で添加してもよい。
【0107】
原料粉末の配合は、湿式、乾式いずれでもよい。スチールボール等の媒体とともに原料粉末を撹拌するとより均一に混合することができる。湿式の場合は、溶媒に水を用いる。原料粉末の分散性を高める目的でポリカルボン酸アンモニウムやグルコン酸カルシウム等の公知の分散剤を用いてもよい。混合した原料スラリーは脱水して混合原料粉末とする。
【0108】
混合原料粉末を電気炉、ガス炉等を用いて加熱することで、固相反応が進行し六方晶のM型マグネトプランバイト構造のフェライト化合物が形成される。このプロセスを「仮焼」と呼び、得られた化合物を「仮焼体」と呼ぶ。
【0109】
仮焼工程は、酸素濃度が5%以上の雰囲気中で行うのが好ましい。酸素濃度が5%未満であると、固相反応が進行し難い。より好ましい酸素濃度は20%以上である。
【0110】
仮焼工程では、温度の上昇とともに固相反応によりフェライト相が形成され、約1100℃で完了する。この温度以下では、未反応のヘマタイト(酸化鉄)が残存しており磁石特性が低い。本発明の効果を十分に発揮させるためには1100℃以上の温度で仮焼するのが好ましい。一方、仮焼温度が1450℃を超えると結晶粒が成長し過ぎ、粉砕工程において粉砕に多大な時間を要する等の不都合を生じる恐れがある。従って、仮焼温度は、1100〜1450℃が好ましい。より好ましくは1200〜1350℃である。仮焼時間は、0.5〜5時間であるのが好ましい。仮焼前にH3BO3を添加した場合は、上記反応が促進されるため、1100〜1300℃で仮焼を行うのが好ましい。
【0111】
(2)フェライト仮焼体の混合工程
上記の準備工程によって得られたSrLaCoフェライト仮焼体及びCaLaCoフェライト仮焼体を、SrLaCoフェライト仮焼体及びCaLaCoフェライト仮焼体の合計100質量%に対して、CaLaCoフェライト仮焼体の混合比率が10質量%以上50質量%未満となるように混合し、フェライト仮焼体混合物を得る。混合工程は、公知の混合方法を採用することができる。また、例えば、CaLaCoフェライト焼結磁石を製造した後の設備(ライン)でSrLaCoフェライト焼結磁石を製造することによっても混合が可能である。いわゆる「コンタミ」を利用して混合する。この場合は、どの工程でどの程度の量が混入するかを予め確認しておくのが好ましい。SrLaCoフェライト焼結磁石とCaLaCoフェライト焼結磁石を異なる設備(ライン)で製造できない場合は有効な手段となる。
【0112】
混合工程において、前記混合フェライト仮焼体に、結晶粒成長を抑制し、磁石特性の向上を図るべく、CaCO3、SiO2等の添加物を添加するのが好ましい。添加物は、仮焼体100質量%に対して1.8質量%以下のSiO2と、仮焼体100質量%に対してCaO換算で2質量%以下のCaCO3を添加するのが好ましい。
【0113】
SiO2は粉砕工程の前に、仮焼体に対して添加することが最も好ましいが、添加量のうちの一部を仮焼工程前の原料粉末配合工程にて添加することもできる。仮焼前に添加することにより、仮焼時の結晶粒の制御を行うことができるという利点がある。
【0114】
(4)フェライト仮焼体混合物の粉砕工程
前記フェライト仮焼体混合物を、振動ミル、ボールミル、アトライター等によって粉砕し粉砕粉とする。粉砕粉は平均粒径0.4〜0.8μm程度(空気透過法)とするのが好ましい。粉砕工程は、乾式粉砕及び湿式粉砕のいずれでもよいが、両者を組み合わせて行うのが好ましい。
【0115】
湿式粉砕に際しては、水等の水系溶媒や種々の非水系溶媒(例えば、アセトン、エタノール、キシレン等の有機溶剤)を用いることができる。湿式粉砕により、溶媒と仮焼体とが混合されたスラリーが生成される。スラリーには公知の各種分散剤及び界面活性剤を固形分比率でスラリー100質量%に対して0.2〜2質量%を添加するのが好ましい。湿式粉砕後は、スラリーを濃縮及び混練するのが好ましい。
【0116】
粉砕工程において、上述したCaCO3及びSiO2のほか、磁石特性向上のために、仮焼体に対して、Cr2O3、Al2O3等の添加物を添加することもできる。これら添加物の添加量は仮焼体あるいはスラリー100質量%に対して、Cr2O3は5質量%以下、Al2O3は5質量%以下であるのが好ましい。
【0117】
(5)成形工程
前記スラリーは、含まれる溶媒を除去しながら、磁界中又は無磁界中でプレス成形する。磁界中でプレス成形することにより、粉末粒子の結晶方位を整列(配向)させる。磁界中プレス成形によって、磁石特性を飛躍的に向上させることができる。さらに、配向性を向上させるために、分散剤及び/又は潤滑剤をスラリー100質量%に対して0.01〜1質量%加えてもよい。また成形前にスラリーを必要に応じて濃縮してもよい。濃縮は遠心分離、フィルタープレス等により行うことができる。
【0118】
(6)焼成工程
プレス成形により得られた成形体は、必要に応じて脱脂を施した後、焼成する。焼成は、電気炉、ガス炉等を用いて行う。
【0119】
焼成工程は、酸素濃度が10%以上の雰囲気中で行うのが好ましい。酸素濃度が10%未満であると、異常粒成長や異相の生成を招き、磁石特性が劣化する。より好ましい酸素濃度は20%以上であり、最も好ましくは酸素濃度100%である。
【0120】
焼成温度は1150〜1250℃が好ましく、焼成時間は0.5〜2時間が好ましい。焼成工程によって得られる焼結磁石の平均結晶粒径は約0.5〜2μmである。
【0121】
焼成工程の後は、加工工程、洗浄工程、検査工程等の公知の製造プロセスを経て、最終的にフェライト焼結磁石の製品が完成される。
【実施例】
【0122】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0123】
実施例1
[SrLaCoフェライト仮焼体の準備]
組成式:Sr1-x'Lax'Fe2n'-y'Coy'において、x'=0.2、y'=0.15及びn'=5.8となるようにSrCO3粉末、La(OH)3粉末、Fe2O3粉末及びCo3O4粉末を配合し、この配合粉末100質量%に対して0.1質量%のH3BO3を添加し混合原料粉末を得た。この混合原料粉末に水を添加して湿式ボールミルで4時間混合し、乾燥して整粒した後、大気中において1250℃で3時間仮焼し、得られた仮焼体をハンマーミルで粗粉砕してSrLaCoフェライト仮焼体の粗粉砕粉を準備した。
【0124】
[CaLaCoフェライト仮焼体の準備]
組成式:Ca1-x''-cLax''AcFe2n''-y''Coy''において、x''=0.5、c=0、y''=0.2及びn''=5.2となるようにCaCO3粉末、La(OH)3粉末、Fe2O3粉末及びCo3O4粉末を配合し、この配合粉末100質量%に対して0.1質量%のH3BO3を添加し混合原料粉末を得た。この混合原料粉末に水を添加して湿式ボールミルで4時間混合し、乾燥して整粒した後、大気中において1250℃で3時間仮焼し、得られた仮焼体をハンマーミルで粗粉砕してCaLaCoフェライト仮焼体の粗粉砕粉を準備した。
【0125】
[フェライト焼結磁石の作製]
得られたSrLaCoフェライト仮焼体及びCaLaCoフェライト仮焼体を70:30の質量比で混合し、フェライト仮焼体混合物100質量%に対して0.6質量%のSiO2粉末及びCaO換算で0.7質量%のCaCO3粉末を混合し、水を添加して湿式ボールミルで空気透過法による平均粒度が0.6μmになるまで微粉砕しスラリーを得た。この微粉砕スラリーを、加圧方向と磁場方向とが平行になるように約1 Tの磁場をかけながら、約50 MPaの圧力をかけ水を除去しながら成形した。得られた成形体を大気中で1200℃で1時間焼成しフェライト焼結磁石を得た。
【0126】
[フェライト焼結磁石の各元素の面分析]
得られたフェライト焼結磁石の各元素の面分析を、EPMA装置(島津製作所製EPMA−1610)を用いて、加速電圧15 kV、ビーム電流30 nA、照射時間3 msec/pointの条件で行い、Sr、Ca、La、Fe、Si、Co及びO(酸素)の各元素の濃度分布を分析した。Sr、Ca、Si及び反射電子線像の結果を図3に示す。
【0127】
図3(a)〜(c)は、それぞれ同じ視野におけるSr、Ca及びSiの濃度分布を示し、(d)は反射電子線像を示す。図3(a)〜(c)において、白黒画像の濃淡が薄い部分(白色部分)は該当する元素の濃度が最も高く、黒色部分は該当する元素の濃度が最も低く、濃淡が両者の中間の部分(灰色部分)は該当する元素の濃度がそれらの間の濃度であることを示す。なお、La、Fe、Co及びOの濃度分布には濃淡がほとんどなく、各々一様に灰色一色であったため図示を省略した。
【0128】
Caの濃度分布を示す図3(b)から、白い粒子状の部分(Ca濃度が最も高い部分)、灰色の粒子状の部分(Ca濃度が高い部分)、及び黒い粒子状の部分(Ca濃度が最も低い部分)の大きく3つの領域が存在することが分かる。
【0129】
Caの濃度が最も高い部分は、その部分と対応する位置のSi濃度(図3(c)参照)もCaと同様に高いことから、焼成前に仮焼体混合物に添加したSiO2粉末及びCaCO3粉末に由来する粒界(特に粒界三重点)であると考えられる。
【0130】
Ca濃度が高い部分は粒子状に分布していることから、Caの濃度が高い部分はCaLaCoフェライト仮焼体を由来とする第二の粒子状のフェライト化合物相であると考えられる。
【0131】
Caの濃度が低い部分も粒子状に分布しており、その部分と対応する位置においてSrの濃度が高くなっている(図3(a)参照)ので、SrLaCoフェライト仮焼体を由来とする第一の粒子状のフェライト化合物相であると考えられる。
【0132】
このように、本発明のフェライト焼結磁石は、Sr、La、Fe及びCoを含有する粒子状のフェライト化合物相(第一のフェライト化合物相とする)と、Ca、La、Fe及びCoを含有する粒子状のフェライト化合物相(第二のフェライト化合物相とする)を有していることが分かる。
【0133】
[キュリー温度の測定]
得られたフェライト焼結磁石について、熱磁気天秤を用いて、室温から500℃まで20℃/minの速度で昇温しTG曲線を求めた。熱磁気天秤1(Thermomagnetic Analysis)は、図4に示すように、熱天秤2(Thermogravimetric Analysis:TG、Mettler Toledo社製TGA/SDTA 851e)に永久磁石3,3'を取付けたものであり、サンプル4に付与した磁界A(10〜15 mT)によってサンプル4中の強磁性相に作用する磁気的な吸引力FをTGの重量値として検出するものである。熱源5によってサンプル4を昇温させながらTGを測定し、強磁性から常磁性への変化に伴って磁気的な吸引力が作用しなくなる温度を検出することにより、サンプル4中の強磁性相のキュリー点を求めることができる。なお、本発明のフェライト焼結磁石においては、上述の昇温範囲では化学反応による相・組織変化は起こらないので、サンプル中の強磁性相、すなわち、第一のフェライト化合物相及び第二のフェライト化合物相のキュリー点のみを求めることができる。
【0134】
さらに、SrLaCoフェライト仮焼体のみを用いた以外、本発明のフェライト焼結磁石と同様にして作製したSrLaCoフェライト焼結磁石、及びCaLaCoフェライト焼結磁石のみを用いた以外、本発明のフェライト焼結磁石と同様にして作製したCaLaCoフェライト焼結体についても、同様にしてTG曲線を求めた。得られたTG曲線を、本発明のフェライト焼結磁石と合わせて図2に示す。
【0135】
図5は、本発明によるフェライト焼結磁石のTG曲線とその微分値(DTG)を示す。TG曲線の微分値の負のピーク値、すなわちTG曲線のTGの低下率が最大となる温度をキュリー温度と定義した。高温側のピークを第一のキュリー温度(Tc1)、低温側のピークを第二のキュリー温度(Tc2)とした。
【0136】
図2及び図5より、本発明のフェライト焼結磁石は少なくとも2つの異なるキュリー温度を有しており、第一のキュリー温度(Tc1)は約443℃、第二のキュリー温度(Tc2)は約431℃であることが分かる。従って、本発明のフェライト焼結磁石は、キュリー温度が異なる少なくとも2つの化合物相を有していると推定できる。また、SrLaCoフェライト焼結磁石のキュリー温度は約443℃、CaLaCoフェライト焼結磁石のキュリー温度は約418℃であった。
【0137】
本発明のフェライト焼結磁石の第一のキュリー温度(443℃)が、SrLaCoフェライト焼結磁石のキュリー温度(443℃)とほぼ同じであることから、第一のキュリー温度(Tc1)を有する化合物相は、EPMAにより明らかになったSrLaCoフェライト仮焼体を由来とするSr、La、Fe及びCoを含有する第一のフェライト化合物相であると推定される。
【0138】
従って、第二のキュリー温度(Tc2)を有する化合物相は、EPMAによる元素分析から明らかになった、CaLaCoフェライト仮焼体を由来とするCa、La、Fe及びCoを含有する第二の粒子状のフェライト化合物相と考えられる。
【0139】
CaLaCoフェライト仮焼体を由来とする第二のフェライト化合物相のキュリー温度(431℃)は、CaLaCoフェライト焼結磁石のキュリー温度(約418℃)よりもやや高いが、これは、後述する実施例にて示すように、第二のフェライト化合物相のキュリー温度は、SrLaCoフェライト仮焼体に混合するCaLaCoフェライト仮焼体の混合比率が大きくなるに従って低下する傾向があるためである。(これに対して、第一のフェライト化合物相のキュリー温度は、SrLaCoフェライト仮焼体に混合するCaLaCoフェライト仮焼体の混合比率にかかわらずほぼ一定である。)
【0140】
実施例2
[SrLaCoフェライト仮焼体の準備]
組成式:Sr1-x'Lax'Fe2n'-y'Coy'において、1-x'、x'、y'及びn'が表1のS-1、S-2及びS-3の各組成となるようにSrCO3粉末、La(OH)3粉末、Fe2O3粉末及びCo3O4粉末を配合し、この配合粉末100質量%に対して0.1質量%のH3BO3を添加し混合原料粉末を得た。この混合原料粉末に水を添加して湿式ボールミルで4時間混合し、乾燥して整粒した後、大気中において1250℃で3時間仮焼し、得られた仮焼体をハンマーミルで粗粉砕してS-1、S-2及びS-3の各組成を有するSrLaCoフェライト仮焼体の粗粉砕粉を準備した。
【0141】
【表1】
【0142】
[CaLaCoフェライト仮焼体の準備]
組成式:Ca1-x''-cLax''AcFe2n''-y''Coy''(c=0)において、1-x''-c、x''、y''及びn''が表2のC-1及びC-2の各組成となるようにCaCO3粉末、La(OH)3粉末、Fe2O3粉末及びCo3O4粉末を配合し、この配合粉末100質量%に対して0.1質量%のH3BO3を添加し混合原料粉末を得た。この混合原料粉末に水を添加して湿式ボールミルで4時間混合し、乾燥して整粒した後、大気中において1250℃で3時間仮焼し、得られた仮焼体をハンマーミルで粗粉砕してC-1及びC-2の各組成を有するCaLaCoフェライト仮焼体の粗粉砕粉を準備した。
【0143】
【表2】
【0144】
[フェライト焼結磁石の作製]
得られた各SrLaCoフェライト仮焼体及びCaLaCoフェライト仮焼体を、表3に示すようにCaLaCoフェライト仮焼体の混合比率が0質量%、10質量%、20質量%、30質量%、40質量%、50質量%、70質量%、90質量%及び100質量%(第一のフェライト化合物相及び第二のフェライト化合物相の体積比率が100:0、90:10、80:20、70:30、60:40、50:50、30:70、10:90及び0:100に相当)となるように混合し、表4に示す組成のフェライト仮焼体混合物を作製した。各フェライト仮焼体混合物100質量%に対して0.6質量%のSiO2粉末及びCaO換算で0.7質量%のCaCO3粉末を混合し、水を添加して湿式ボールミルで空気透過法による平均粒度が0.6μmになるまで微粉砕しスラリーを得た。この微粉砕スラリーを、加圧方向と磁場方向とが平行になるように約1 Tの磁場をかけながら、約50 MPaの圧力をかけ水を除去しながら成形した。得られた成形体を大気中で1200℃で1時間焼成し、フェライト焼結磁石を得た。
【0145】
【表3】
【0146】
【表4】
【0147】
ここでSrLaCoフェライト仮焼体及びCaLaCoフェライト仮焼体の密度は実質的に等しく、またフェライト仮焼体混合物に添加したSiO2粉末及びCaCO3粉末の量は無視できるので、これらのフェライト焼結磁石中のSrLaCoフェライト相及びCaLaCoフェライト相の体積比率はそれぞれの混合比率(質量比率)と同じであると考えた。なお「SrLaCoフェライト相及びCaLaCoフェライト相の体積比率」を単に「体積比率」と言う。
【0148】
[磁石特性の評価]
得られたフェライト焼結磁石の磁石特性を表5並びに図6、図7及び図8に示す。図6、図7及び図8は、いずれも混合したCaLaCoフェライト仮焼体の混合比率(質量%)に対して、それぞれHcJ(図6)、Br(図7)及びHk/HcJ(図8)をプロットしたグラフである。なお、磁石特性は、焼結体を加工後、B-Hトレーサーを用いて室温(約23℃)で測定した。Hk/HcJにおけるHkは、J(磁化の大きさ)−H(磁界の強さ)曲線の第2象限において、Jの値が0.95BrとなるときのHの値である。
【0149】
【表5】
【0150】
(i)保磁力HcJ
図6から明らかなように、Co含有量(y')が0.10〜0.20の範囲にあるSrLaCoフェライト仮焼体(No.S-1〜S-3の仮焼体)を用いた場合、CaLaCoフェライト仮焼体の混合比率が0質量%(すなわち、SrLaCoフェライト焼結磁石)におけるHcJと、混合比率が100質量%(すなわち、CaLaCoフェライト焼結磁石)におけるHcJとを結ぶ直線に対して、混合比率10質量%以上50質量%未満の範囲でHcJが高くなっており、特に20〜40質量%でより高いHcJが得られ、30質量%近傍で最も高いHcJが得られた。さらに、SrLaCoフェライト仮焼体のCo含有量(y')が0.15〜0.20の範囲にあり、CaLaCoフェライト仮焼体のCo含有量(y'')が0.20の場合(S-2/C-1、S-3/C-1の組み合わせ)、混合比率20〜40質量%の範囲のフェライト焼結磁石は、混合比率0質量%のフェライト焼結磁石(SrLaCoフェライト焼結磁石)よりも高いHcJを有していた。また、高いHcJを得るためには、Co含有量が0.10≦y''≦0.20、特に好ましくは0.10<y''≦0.20の範囲にあるCaLaCoフェライト仮焼体を使用するのが好ましいことが分かった。
【0151】
(ii)残留磁束密度Br
図7から明らかなように、Co含有量(y')が0.10〜0.20の範囲にあるSrLaCoフェライト仮焼体(No.S-1〜S-3の仮焼体)を用いた場合、混合比率が0質量%におけるBrと、混合比率が100質量%におけるBrとを結ぶ直線に対して、CaLaCoフェライト仮焼体の混合比率10質量%以上50質量%未満の範囲でBrが向上した。
【0152】
(iii)角形比Hk/HcJ
図8から明らかなように、全体的に混合比率0質量%及び100質量%のHk/HcJを結ぶ直線に対して、CaLaCoフェライト仮焼体の混合比率10質量%以上50質量%未満の範囲でHk/HcJが向上した。Co含有量(y')が0.10のSrLaCoフェライト仮焼体(No.S-1の仮焼体)を用いた場合は、混合比率10〜30質量%の範囲でHk/HcJが若干低下しているものの、93%以上の高いHk/HcJを有していた。
【0153】
このように、SrLaCoフェライト仮焼体及びCaLaCoフェライト仮焼体を混合して作製した本発明のフェライト焼結磁石は、SrLaCoフェライト焼結磁石に対して、高いBrとHk/HcJを維持したまま、より高いHcJを有することが分かった。
【0154】
[キュリー温度]
得られたフェライト焼結磁石のキュリー温度を表5並びに図9及び図10に示す。キュリー温度は実施例1と同様な方法で測定した。図9はCaLaCoフェライト仮焼体の混合比率(質量%)に対して第一のキュリー温度(Tc1)をプロットしたグラフであり、図10はCaLaCoフェライト仮焼体の混合比率(質量%)に対して第二のキュリー温度(Tc2)をプロットしたグラフである。
【0155】
表5及び図9から明らかなように、本発明のフェライト焼結磁石の第一のキュリー温度(Tc1)は、本実施例で検討した範囲においては約440℃から約445℃の間で若干変化する程度であり、S rLaCoフェライト仮焼体の組成及びCaLaCoフェライト仮焼体の混合比率によらず、ほぼ一定となることが分かる。従って、本発明のフェライト焼結磁石は、440℃以上445℃以下のキュリー温度を持つ、Sr、La、Fe及びCoを含有する第一の粒子状のフェライト化合物相を有する。なお、キュリー温度(Tc1)はLaの含有量によって変化するため、キュリー温度(Tc1)の範囲は、第一の粒子状のフェライト化合物相のLaの含有量(x)の範囲(0.1≦x≦0.5)を考慮して440〜455℃とした。好ましい範囲は440℃以上445℃以下である。
【0156】
一方、表5及び図10から明らかなように、本発明のフェライト焼結磁石の第二のキュリー温度(Tc2)は、全ての組み合わせにおいてCaLaCoフェライト仮焼体の混合比率が大きくなるに従って低下する傾向にあった。CaLaCoフェライト仮焼体の混合比率が10質量%以上50質量%未満の領域では、第二のキュリー温度(Tc2)は約420℃から約440℃の範囲で変化した。つまり本発明のフェライト焼結磁石は、420℃以上440℃未満のキュリー温度を持つ、Ca、La、Fe及びCoを含有する第二の粒子状のフェライト化合物相を有する。
【0157】
[成分分析]
得られたフェライト焼結磁石の成分分析結果を表6に示し、組成を原子比率及びモル比に換算して表した結果を表7に示す。成分分析は、ICP発光分光分析装置(島津製作所製ICPV-1017)にて行った。
【0158】
【表6】
【0159】
【表7】
【0160】
成分分析結果(質量%)を原子比率及びモル比に換算するに際しては、フェライト仮焼体混合物との対比ができるように、Ca、La、Sr、Fe及びCoの各元素を原子比率及びモル比で換算し、フェライト仮焼体混合物に対して添加したSiO2及びCaCO3は、CaCO3、La(OH)3、SrCO3、Fe2O3及びCo3O4の合計100質量%に対する含有比率(質量%)で表記した。
【0161】
なお、フェライト仮焼体混合物に対して添加したSiO2及びCaCO3は、全量が焼結磁石の粒子間(粒界又は粒界三重点)に集積すると仮定した。ただし、Ca量については、原料粉末として添加したCaCO3とフェライト仮焼体混合物に対して添加したCaCO3を成分分析結果から分けることができないので、その配合量(フェライト仮焼体混合物に対して添加した量)をCaO換算値で表し、それを成分分析結果から差し引いて化合物相の原子比率及びモル比を算出した。またSiO2の量にばらつきがあるのは、フェライト仮焼体混合物に対して添加したSiO2に加えて、原料粉末として用いたFe2O3粉末の不純物としてSiO2が混入したためである。
【0162】
表4に示すフェライト仮焼体混合物の組成(原子比率及びモル比)と表7に示すフェライト焼結磁石の組成(原子比率及びモル比)とを対比すると、フェライト仮焼体混合物とフェライト焼結磁石の組成とはほぼ同じであることが分かる。
【0163】
前述したように、第一のフェライト化合物相と第二のフェライト化合物相とは相互拡散してしないと考えられることから、フェライト焼結磁石における第一の粒子状のフェライト化合物相と第二の粒子状のフェライト化合物相との体積比率は、SrLaCoフェライト仮焼体とCaLaCoフェライト仮焼体の混合比率(質量比率)と同じであると考えられる。
【0164】
従って、予めSrLaCoフェライト仮焼体とCaLaCoフェライト仮焼体との混合比率、及び混合後のフェライト仮焼体混合物の組成(計算値)の関係を求めておくことにより、フェライト焼結磁石の成分分析結果から体積比率を求めることができる。
【0165】
[フェライト焼結磁石の各元素の面分析]
試料No.9、10、11、13及び15のフェライト焼結磁石のEPMAによる各元素の面分析を実施例1同じ装置を用いて同じ条件で行った。前記各試料は、組成式:Sr1-x'Lax'Fe2n'-y'Coy'において、x'=0.2、y'=0.15、n'=5.8の組成のSrLaCoフェライト仮焼体(仮焼体No.S-2)と、組成式:Ca1-x''-cLax''AcFe2n''-y''Coy''において、x''=0.5、c=0、y''=0.2、n''=4.8の組成のCaLaCoフェライト仮焼体(仮焼体No.C-1)とを、CaLaCoフェライト仮焼体の混合比率がそれぞれ100質量%、0質量%、10質量%、30質量%及び50質量%となるように混合して得られたフェライト焼結磁石である。試料No.10、11、15及び9の結果をそれぞれ図11〜図14に示す。なお、試料No.13(混合比率30質量%)は実施例1で作製したフェライト焼結磁石と同じものであり、そのEPMAによる各元素の面分析の結果は実施例1の結果(図3)を参照した。
【0166】
図3及び図11〜図14におけるCaの濃度分布(各図の(b))から、CaLaCoフェライト仮焼体の混合比率が大きくなるに従ってCaの濃度が高くなっている(灰色部分が多くなっている)ことが分かる。一方、Srの濃度分布図(各図の(a))から、CaLaCoフェライト仮焼体の混合比率が大きくなるに従ってSrの濃度が低くなっている(黒色部分が多くなっている)ことが分かる。また、Ca及びSiの濃度分布(各図の(b)及び(c))から、フェライト仮焼体混合物に添加したCaCO3及びSiO2が粒子間(粒界)に集積し、特に、粒界三重点に多く集積していることが分かる。
【0167】
これらの結果から、実施例1にて実証した、本発明のフェライト焼結磁石はSr、La、Fe及びCoを含有する第一の粒子状のフェライト化合物相と、Ca、La、Fe及びCoを含有する第二の粒子状のフェライト化合物相とを有しているという結果が裏付けられる。
【0168】
[残留磁束密度Br及び保磁力HcJの温度係数]
試料No.9〜17のBr及びHcJの温度係数(-40〜20℃及び20〜100℃)を図15及び図16に示す。図15は、CaLaCoフェライト仮焼体の混合比率に対してBrの温度係数(縦軸左)及びBr(縦軸右)をプロットしたものであり、図16は、CaLaCoフェライト仮焼体の混合比率に対して、縦軸左にHcJの温度係数(縦軸左)及びHcJ(縦軸右)をプロットしたものである。
【0169】
図15及び図16から明らかなように、Brの温度係数はCaLaCoフェライト仮焼体の混合比率にかかわらずほぼ一定であるが、HcJの温度係数は混合比率10質量%以上50質量%未満の範囲で小さくなっており、-40〜20℃の温度係数及び20〜100℃の温度係数のいずれも混合比率40質量%近傍で最も小さくなった。
【0170】
このように、本発明のフェライト焼結磁石は、低温においても反磁界による減磁が起こり難いことが分かる。従って、本発明のフェライト焼結磁石を使用することにより、小型・軽量化、高能率化された自動車用電装部品、電気機器用部品を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0171】
本発明は、各種モータ、発電機、スピーカ等、種々の用途に用いることができ、特に、自動車用電装部品、電気機器用部品に用いられるモータに好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0172】
1 熱磁気天秤
2 熱天秤
3、3’ 永久磁石
4 サンプル
5 熱源
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sr、La、Fe及びCoを含有し440〜455℃にキュリー温度が存在する第一の粒子状のフェライト化合物相と、
Ca、La、Fe及びCoを含有し420℃以上440℃未満にキュリー温度が存在する第二の粒子状のフェライト化合物相とを有するフェライト焼結磁石であって、
前記第一の粒子状のフェライト化合物相の体積比率が50%を超え90%以下、前記第二の粒子状のフェライト化合物相の体積比率が10%以上50%未満であり、両体積比率の和が95%以上であることを特徴とするフェライト焼結磁石。
【請求項2】
請求項1に記載のフェライト焼結磁石において、前記第一の粒子状のフェライト化合物相の体積比率が60〜80%、前記第二の粒子状のフェライト化合物相の体積比率が20〜40%であり、両体積比率の和が95%以上であることを特徴とするフェライト焼結磁石。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のフェライト焼結磁石において、前記第二の粒子状のフェライト化合物相に、さらにBa及び/又はSrを含有することを特徴とするフェライト焼結磁石。
【請求項4】
請求項3に記載のフェライト焼結磁石において、前記Sr、La、Ca、Ba、Fe及びCoの組成比が、一般式:
Sr1-x-a-bLaxCaaBabFe2n-yCoy
(ただし、Sr、La、Ca、Ba、Fe及びCoの原子比率を表わすx、a、b及びy並びにモル比を表わすnが、
0.1≦x≦0.5、
0.04≦a≦0.5、
0≦b≦0.2、
0.2≦1-x-a-b、
0.05≦y≦0.3、及び
4≦n≦6
を満足する数値である。)により表わされることを特徴とするフェライト焼結磁石。
【請求項5】
請求項4に記載のフェライト焼結磁石において、前記Sr、La、Ca、Ba、Fe及びCoの原子比率を表わすx、a、b及びy並びにモル比を表わすnが、
0.2≦x≦0.4、
0.1≦a≦0.4、
0≦b≦0.1、
0.3≦1-x-a-b、
0.1≦y≦0.3、及び
4.2≦n≦5.7
を満足する数値であることを特徴とするフェライト焼結磁石。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のフェライト焼結磁石において、前記第一の粒子状のフェライト化合物相のSr、La、Fe及びCoの組成比が、一般式:
Sr1-x'Lax'Fe2n'-y'Coy'
(ただし、Sr、La、Fe及びCoの原子比率を表わすx'及びy'並びにモル比を表わすn'が、
0.05≦x'≦0.3、
0.05≦y'≦0.3、及び
5≦n'≦6
を満足する数値である。)により表わされることを特徴とするフェライト焼結磁石。
【請求項7】
請求項6に記載のフェライト焼結磁石において、前記第一の粒子状のフェライト化合物相のCoの原子比率を表わすy'が、
0.1≦y'≦0.2
を満足する数値であることを特徴とするフェライト焼結磁石。
【請求項8】
請求項3〜7のいずれかに記載のフェライト焼結磁石において、前記第二の粒子状のフェライト化合物相のCa、La、(Ba+Sr)、Fe及びCoの組成比が、(Ba+Sr)をA元素としたとき、一般式:
Ca1-x''-cLax''AcFe2n''-y''Coy''
(ただし、Ca、La、A元素、Fe及びCoの原子比率を表わすx''、c及びy''並びにモル比を表わすn''が、
0.4≦x''≦0.6、
0≦c≦0.2、
0<y''≦0.2、及び
4≦n''≦6
を満足する数値である。)により表わされることを特徴とするフェライト焼結磁石。
【請求項9】
請求項8に記載のフェライト焼結磁石において、前記第二の粒子状のフェライト化合物相のCoの原子比率を表わすy''が、
0.1≦y''≦0.2
を満足する数値であることを特徴とするフェライト焼結磁石。
【請求項10】
請求項8に記載のフェライト焼結磁石において、前記第二の粒子状のフェライト化合物相のCoの原子比率を表わすy''が、
0.1<y''≦0.2
を満足する数値であることを特徴とするフェライト焼結磁石。
【請求項11】
Sr、La、Fe及びCoの組成比が、一般式:Sr1-x'Lax'Fe2n'-y'Coy'(ただし、Sr、La、Fe及びCoの原子比率を表わすx'及びy'並びにモル比を表わすn'が、0.05≦x'≦0.3、0.05≦y'≦0.3、及び5≦n'≦6を満足する数値である。)で表される第一のフェライト仮焼体、及びCa、La、(Ba+Sr)、Fe及びCoの組成比が、(Ba+Sr)をA元素としたとき、一般式:Ca1-x''-cLax''AcFe2n''-y''Coy''(ただし、Ca、La、A元素、Fe及びCoの原子比率を表わすx''、c及びy''並びにモル比を表わすn''が、0.4≦x''≦0.6、0≦c≦0.2、0<y''≦0.2、及び4≦n''≦6を満足する数値である。)で表される第二のフェライト仮焼体を、第一のフェライト仮焼体及び第二のフェライト仮焼体の合計100質量%に対して、第二のフェライト仮焼体の混合比率が10質量%以上50質量%未満となるように混合し、フェライト仮焼体混合物を得る混合工程、
前記フェライト仮焼体混合物を粉砕し、粉末を得る粉砕工程、
前記粉末を成形し、成形体を得る成形工程、及び
成形体を焼成し、焼結体を得る焼成工程
を含むことを特徴とするフェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載のフェライト焼結磁石の製造方法において、前記第一のフェライト仮焼体及び前記第二のフェライト仮焼体を、前記第二のフェライト仮焼体の混合比率が20〜40質量%となるように混合することを特徴とするフェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項13】
請求項11又は12に記載のフェライト焼結磁石の製造方法において、前記第一のフェライト仮焼体におけるCoの原子比率を表わすy'が、
0.1≦y'≦0.2
を満足する数値であることを特徴とするフェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項14】
請求項11〜13のいずれかに記載のフェライト焼結磁石の製造方法において、前記第二のフェライト仮焼体におけるCoの原子比率を表わすy''が、
0.1≦y''≦0.2
を満足する数値であることを特徴とするフェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載のフェライト焼結磁石の製造方法において、前記第二のフェライト仮焼体におけるCoの原子比率を表わすy''が、
0.1<y''≦0.2
を満足する数値であることを特徴とするフェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項16】
請求項11〜15のいずれかに記載のフェライト焼結磁石の製造方法において、前記フェライト焼結磁石のCa、La、Sr、Ba、Fe及びCoの組成比が、一般式:
Sr1-x-a-bLaxCaaBabFe2n-yCoy
(ただし、Sr、La、Ca、Ba、Fe及びCoの原子比率を表わすx、a、b及びy並びにモル比を表わすnが、
0.1≦x≦0.5、
0.04≦a≦0.5、
0≦b≦0.2、
0.2≦1-x-a-b、
0.05≦y≦0.3、及び
4≦n≦6
を満足する数値である。)により表わされることを特徴とするフェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項1】
Sr、La、Fe及びCoを含有し440〜455℃にキュリー温度が存在する第一の粒子状のフェライト化合物相と、
Ca、La、Fe及びCoを含有し420℃以上440℃未満にキュリー温度が存在する第二の粒子状のフェライト化合物相とを有するフェライト焼結磁石であって、
前記第一の粒子状のフェライト化合物相の体積比率が50%を超え90%以下、前記第二の粒子状のフェライト化合物相の体積比率が10%以上50%未満であり、両体積比率の和が95%以上であることを特徴とするフェライト焼結磁石。
【請求項2】
請求項1に記載のフェライト焼結磁石において、前記第一の粒子状のフェライト化合物相の体積比率が60〜80%、前記第二の粒子状のフェライト化合物相の体積比率が20〜40%であり、両体積比率の和が95%以上であることを特徴とするフェライト焼結磁石。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のフェライト焼結磁石において、前記第二の粒子状のフェライト化合物相に、さらにBa及び/又はSrを含有することを特徴とするフェライト焼結磁石。
【請求項4】
請求項3に記載のフェライト焼結磁石において、前記Sr、La、Ca、Ba、Fe及びCoの組成比が、一般式:
Sr1-x-a-bLaxCaaBabFe2n-yCoy
(ただし、Sr、La、Ca、Ba、Fe及びCoの原子比率を表わすx、a、b及びy並びにモル比を表わすnが、
0.1≦x≦0.5、
0.04≦a≦0.5、
0≦b≦0.2、
0.2≦1-x-a-b、
0.05≦y≦0.3、及び
4≦n≦6
を満足する数値である。)により表わされることを特徴とするフェライト焼結磁石。
【請求項5】
請求項4に記載のフェライト焼結磁石において、前記Sr、La、Ca、Ba、Fe及びCoの原子比率を表わすx、a、b及びy並びにモル比を表わすnが、
0.2≦x≦0.4、
0.1≦a≦0.4、
0≦b≦0.1、
0.3≦1-x-a-b、
0.1≦y≦0.3、及び
4.2≦n≦5.7
を満足する数値であることを特徴とするフェライト焼結磁石。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のフェライト焼結磁石において、前記第一の粒子状のフェライト化合物相のSr、La、Fe及びCoの組成比が、一般式:
Sr1-x'Lax'Fe2n'-y'Coy'
(ただし、Sr、La、Fe及びCoの原子比率を表わすx'及びy'並びにモル比を表わすn'が、
0.05≦x'≦0.3、
0.05≦y'≦0.3、及び
5≦n'≦6
を満足する数値である。)により表わされることを特徴とするフェライト焼結磁石。
【請求項7】
請求項6に記載のフェライト焼結磁石において、前記第一の粒子状のフェライト化合物相のCoの原子比率を表わすy'が、
0.1≦y'≦0.2
を満足する数値であることを特徴とするフェライト焼結磁石。
【請求項8】
請求項3〜7のいずれかに記載のフェライト焼結磁石において、前記第二の粒子状のフェライト化合物相のCa、La、(Ba+Sr)、Fe及びCoの組成比が、(Ba+Sr)をA元素としたとき、一般式:
Ca1-x''-cLax''AcFe2n''-y''Coy''
(ただし、Ca、La、A元素、Fe及びCoの原子比率を表わすx''、c及びy''並びにモル比を表わすn''が、
0.4≦x''≦0.6、
0≦c≦0.2、
0<y''≦0.2、及び
4≦n''≦6
を満足する数値である。)により表わされることを特徴とするフェライト焼結磁石。
【請求項9】
請求項8に記載のフェライト焼結磁石において、前記第二の粒子状のフェライト化合物相のCoの原子比率を表わすy''が、
0.1≦y''≦0.2
を満足する数値であることを特徴とするフェライト焼結磁石。
【請求項10】
請求項8に記載のフェライト焼結磁石において、前記第二の粒子状のフェライト化合物相のCoの原子比率を表わすy''が、
0.1<y''≦0.2
を満足する数値であることを特徴とするフェライト焼結磁石。
【請求項11】
Sr、La、Fe及びCoの組成比が、一般式:Sr1-x'Lax'Fe2n'-y'Coy'(ただし、Sr、La、Fe及びCoの原子比率を表わすx'及びy'並びにモル比を表わすn'が、0.05≦x'≦0.3、0.05≦y'≦0.3、及び5≦n'≦6を満足する数値である。)で表される第一のフェライト仮焼体、及びCa、La、(Ba+Sr)、Fe及びCoの組成比が、(Ba+Sr)をA元素としたとき、一般式:Ca1-x''-cLax''AcFe2n''-y''Coy''(ただし、Ca、La、A元素、Fe及びCoの原子比率を表わすx''、c及びy''並びにモル比を表わすn''が、0.4≦x''≦0.6、0≦c≦0.2、0<y''≦0.2、及び4≦n''≦6を満足する数値である。)で表される第二のフェライト仮焼体を、第一のフェライト仮焼体及び第二のフェライト仮焼体の合計100質量%に対して、第二のフェライト仮焼体の混合比率が10質量%以上50質量%未満となるように混合し、フェライト仮焼体混合物を得る混合工程、
前記フェライト仮焼体混合物を粉砕し、粉末を得る粉砕工程、
前記粉末を成形し、成形体を得る成形工程、及び
成形体を焼成し、焼結体を得る焼成工程
を含むことを特徴とするフェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載のフェライト焼結磁石の製造方法において、前記第一のフェライト仮焼体及び前記第二のフェライト仮焼体を、前記第二のフェライト仮焼体の混合比率が20〜40質量%となるように混合することを特徴とするフェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項13】
請求項11又は12に記載のフェライト焼結磁石の製造方法において、前記第一のフェライト仮焼体におけるCoの原子比率を表わすy'が、
0.1≦y'≦0.2
を満足する数値であることを特徴とするフェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項14】
請求項11〜13のいずれかに記載のフェライト焼結磁石の製造方法において、前記第二のフェライト仮焼体におけるCoの原子比率を表わすy''が、
0.1≦y''≦0.2
を満足する数値であることを特徴とするフェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載のフェライト焼結磁石の製造方法において、前記第二のフェライト仮焼体におけるCoの原子比率を表わすy''が、
0.1<y''≦0.2
を満足する数値であることを特徴とするフェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項16】
請求項11〜15のいずれかに記載のフェライト焼結磁石の製造方法において、前記フェライト焼結磁石のCa、La、Sr、Ba、Fe及びCoの組成比が、一般式:
Sr1-x-a-bLaxCaaBabFe2n-yCoy
(ただし、Sr、La、Ca、Ba、Fe及びCoの原子比率を表わすx、a、b及びy並びにモル比を表わすnが、
0.1≦x≦0.5、
0.04≦a≦0.5、
0≦b≦0.2、
0.2≦1-x-a-b、
0.05≦y≦0.3、及び
4≦n≦6
を満足する数値である。)により表わされることを特徴とするフェライト焼結磁石の製造方法。
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図15】
【図16】
【図1】
【図3】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図15】
【図16】
【図1】
【図3】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−4406(P2012−4406A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−139123(P2010−139123)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】
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