説明

フェライト磁器組成物、セラミック電子部品、及びセラミック電子部品の製造方法

【課題】Cuを主成分とする導電性材料と同時焼成しても、絶縁性を確保でき、良好な電気特性を得ることができる交互巻コモンモードチョークコイル等のセラミック電子部品を実現する。
【解決手段】第1のコイルパターン4a、4bで形成された第1のコイル導体と、第2のコイルパターン5a、5bで形成された第2のコイル導体とが磁性体シート3a〜3i内で交互に積層されている。第1及び第2のコイル導体がCuで形成され、磁性体部はCuOの含有モル量が5mol%以下、Feの含有モル量x、Mnの含有モル量yを(x,y)で表したときに、(x,y)が、A(25,1)、B(47,1)、C(47,7.5)、D(45,7.5)、E(45,10)、F(35,10)、G(35,7.5)、及びH(25,7.5)の範囲内にあるNi−Mn−Zn系フェライトで形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフェライト磁器組成物、セラミック電子部品、及びセラミック電子部品の製造方法に関し、より詳しくは、Cuを主成分とした導電性材料との同時焼成が可能なフェライト磁器組成物、該フェライト磁器組成物を使用したコモンモードチョークコイル等のセラミック電子部品とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、各種電子機器の信号ラインや電源ラインとGND(グランド)間で発生するコモンモードのノイズ除去にはコモンモードチョークコイルが広く使用されている。
【0003】
このコモンモードチョークコイルでは、ノイズ成分はコモンモードで伝送され、信号成分はノーマルモードで伝送されることから、これらの伝送モードの相違を利用し、信号とノイズに分離してノイズ除去を行っている。
【0004】
そして、例えば、特許文献1には、図7に示すように、複数の絶縁性材料層101、102と複数のコイル導体103a〜103d、104a〜104dを積み重ねて構成した積層焼結体105と、前記コイル導体103a〜103d、104a〜104dを電気的に接続して構成し、磁気的に相互に結合された少なくとも二つ以上のコイル106、107とを備え、前記二つ以上のコイル106、107が積層焼結体105の積み重ね方向に配置され、かつ、前記各コイル106、107を構成する前記コイル導体相互間の距離dが、隣り合う前記コイル間の距離Dより小さくした積層型コモンモードチョークコイルが提案されている。
【0005】
この特許文献1では、隣り合うコイルの巻き方向が相互に逆方向になるようにしているので、近接するコイル導体103a〜103d、104a〜104d間に大きな電位差が発生せず、隣り合う二つのコイル106、107間の浮遊容量を抑制でき、これにより高周波帯域でのノイズ除去効果が良好な積層型コモンモードチョークコイルを得ようとしている。
【0006】
尚、この特許文献1のコモンモードチョークコイルは、巻き方向の異なるコイル106とコイル107とがコイル間の距離Dを有して並列的に存在することから、一般に並列巻コモンモードチョークコイルと呼称されている。
【0007】
また、特許文献2には、始端と終端とを有するほぼ1ターンの環状の導体パターンが形成されて第1のコイルを構成する概略四角形状の第1の磁性体シートと、始端と終端とを有する実質的に1ターンの環状の導体パターンが形成されて第2のコイルを構成する概略四角形状の第2の磁性体シートとが交互に積層されたコモンモードチョークコイルが提案されている。
【0008】
この特許文献2では、図8に示すように、第1コイルL1のAに入力した信号はBに出力され、磁束αを発生する。そして、この信号は、第2コイルL2のCから入力してDに出力されるとき、第2コイルL2は第1コイルL1と同相巻きとなっているので、前記磁束αとは逆向きの磁束βを発生する。また、第1コイルL1及び第2コイルL2は同じ巻数で、しかも同一コアに対して導体パターンが形成されているので、両コイルL1、L2によって発生する磁束αと磁束βは同密度となり、磁束αと磁束βとは磁性体内で相殺される。すなわち、ノーマルモードではチョークコイルとしては作用せず、コモンモードのノイズに対してのみチョークとして作用することとなる。
【0009】
そして、この特許文献2のコモンモードチョークコイルは、第1の磁性体シートと第2の磁性体シートとを交互に積層し、第1のコイルと第2のコイルとを磁性体部に埋設させていることから交互巻コモンモードチョークコイルと呼称されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第2958523号公報(請求項1、段落番号〔0026〕等)
【特許文献2】実公平7−45932号公報(請求項1、第6欄第30行目〜同欄第42行目等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、コモンモードチョークコイルの性能は、結合係数(磁気で結合したコイル間の磁気結合の度合いを示す指標)で評価することができる。すなわち、結合係数は最大値が「1」であり、この結合係数が大きいほど、ノーマルモードのインピーダンスが小さくなり、信号への影響が小さくなる。
【0012】
そして、特許文献1のような並列巻コモンモードチョークコイルは、コイル106、コイル107とが離間して存在するため、結合係数は高々0.2程度と低いのに対し、交互巻コモンモードチョークコイルは第1のコイルパターンが形成された第1の磁性体シートと第2のコイルパターンが形成された第2の磁性体シートとが交互に積層されているため、0.8以上の高い結合係数を得ることが可能である。すなわち、原理的には交互巻コモンモードチョークコイルは、並列巻コモンモードチョークコイルに比べ、高性能なノイズ除去が可能であると考えられる。
【0013】
しかしながら、通常、フェライト材料に広く使用されるNi−Zn系材料は、大気雰囲気で焼成されるのが一般的であり、コイル導体と磁性体材料とを同時焼成する観点から、コイル導体材料としてAg系材料が使用される。
【0014】
ところが、特許文献2のような交互巻コモンモードチョークコイルの場合、電位差を生じる第1のコイルと第2のコイルの対向面積が大きく、かつAg系材料はマイグレーションが生じ易いことから、高湿度環境下で長時間放置すると異常が生じるおそれがあり、高い信頼性を得るのは困難である。
【0015】
したがって、このようなマイグレーションの発生を防止する観点からは、コイル導体にCu系材料を使用するのが望ましいと考えられる。
【0016】
しかるに、Cu−CuOの平衡酸素分圧とFe−Feの平衡酸素分圧との関係から、800℃以上の高温ではCuとFeとが共存する領域が存在しないことが知られている。
【0017】
すなわち、800℃以上の温度では、Feの状態を維持するような酸化性雰囲気に酸素分圧を設定して焼成を行った場合、Cuも酸化されてCuOを生成する。一方、Cu金属の状態を維持するような還元性雰囲気に酸素分圧を設定して焼成を行った場合は、Feが還元されてFeを生成する。
【0018】
このようにCuとFeとが共存する領域が存在しないことから、Cuが酸化しないような還元性雰囲気で焼成すると、FeがFeに還元されるため比抵抗ρが低下し、このため電気特性の劣化を招くおそれがある。
【0019】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、Cuを主成分とする導電性材料と同時焼成しても、絶縁性を確保でき、良好な電気特性を得ることができるフェライト磁器組成物、該フェライト磁器組成物を使用した高信頼性を有するコモンモードチョークコイル等のセラミック電子部品、及びセラミック電子部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、一般式X・MeO(XはFe、Mn、MeはZn、Cu、Ni)で表わされるスピネル型結晶構造のフェライト材料について鋭意研究を行ったところ、CuOの含有モル量を5mol%以下とした上で、FeとMnとの配合量を特定範囲とすることにより、Cu系材料とフェライト材料とを同時焼成しても、所望の良好な絶縁性を得ることができ、これにより良好な電気特性を有するセラミック電子部品を得ることが可能であるという知見を得た。
【0021】
本発明はこのような知見に基づきなされたものであって、本発明に係るフェライト磁器組成物は、少なくともFe、Mn、Ni、及びZnを含有したフェライト磁器組成物であって、Cuの含有モル量がCuOに換算して0〜5mol%であり、かつ、FeをFeに換算したときの含有モル量xmol%、及びMnをMnに換算したときの含有モル量ymol%を(x,y)で表したときに、(x,y)が、A(25,1)、B(47,1)、C(47,7.5)、D(45,7.5)、E(45,10)、F(35,10)、G(35,7.5)、及びH(25,7.5)で囲まれる領域にあることを特徴としている。
【0022】
また、本発明者らの更なる鋭意研究の結果、より一層良好な特性を得る観点からは、フェライト磁器組成物磁中にZnOを含有させるのが好ましいが、ZnOの含有量が33mol%を超えるとキュリー点Tcが低下し、高温での動作保証が損なわれて信頼性の低下を招くおそれがあることが分かった。
【0023】
すなわち、本発明のフェライト磁器組成物は、前記Znの含有モル量が、ZnOに換算して33mol%以下であるのが好ましい。
【0024】
さらに、本発明者らの研究結果により、フェライトの透磁率μを考慮すると、ZnOの含有量は6mol%以上であるのが望ましいことが分かった。
【0025】
すなわち、本発明のフェライト磁器組成物は、前記Znの含有モル量が、ZnOに換算して6mol%以上であるのが好ましい。
【0026】
また、本発明に係るセラミック電子部品は、第1のコイル導体と、該第1のコイル導体と略同一形状であって始端及び終端が前記第1のコイル導体に対し一定の離間距離を有して配された第2のコイル導体とが磁性体部に埋設されたセラミック電子部品であって、前記第1のコイル導体及び前記第2のコイル導体がCuを主成分とする導電性材料で形成されると共に、前記磁性体部が、上述したフェライト磁器組成物で形成されていることを特徴としている。
【0027】
また、本発明のセラミック電子部品は、前記第1及び第2のコイル導体と前記磁性体部は同時焼成されてなるのが好ましい。
【0028】
また、本発明のセラミック電子部品は、Cu−CuOの平衡酸素分圧以下の雰囲気で焼成されてなるのが好ましい。
【0029】
また、本発明に係るセラミック電子部品の製造方法は、Cuの含有モル量がCuOに換算して0〜5mol%であり、かつ、FeをFeに換算したときの含有モル量xmol%、及びMnをMnに換算したときの含有モル量ymol%を(x,y)で表したときに、(x,y)が、A(25,1)、B(47,1)、C(47,7.5)、D(45,7.5)、E(45,10)、F(35,10)、G(35,7.5)、及びH(25,7.5)で囲まれる領域を満たすようにFe化合物、Mn化合物、Cu化合物、Zn化合物、及びNi化合物を秤量し、これら秤量物を混合した後、仮焼して仮焼粉末を作製する仮焼工程と、前記仮焼粉末からセラミック薄層体を作製するセラミック薄層体作製工程と、Cuを主成分とする第1のコイルパターンを前記セラミック薄層体上に形成する第1のコイルパターン形成工程と、Cuを主成分とする第2のコイルパターンを前記セラミック薄層体上に形成する第2のコイルパターン形成工程と、前記第1のコイルパターンが形成された前記セラミック薄層体と前記第2のコイルパターンが形成された前記セラミック薄層体とを交互に所定枚数積層し、第1のコイル導体及び第2のコイル導体を内蔵した積層体を形成する積層体形成工程と、Cu−CuOの平衡酸素分圧以下の焼成雰囲気で前記積層体を焼成する焼成工程とを含んでいることを特徴としている。
【0030】
また、本発明のセラミック電子部品の製造方法は、前記第1のコイルパターンが形成された前記セラミック薄層体の表面に前記第1のコイルパターンと電気的に絶縁された前記第2のコイル導体用ビア導体を形成し、前記第2のコイルパターンが形成された前記セラミック薄層体の表面に前記第2のコイルパターンと電気的に絶縁された前記第1のコイル導体用ビア導体を形成するのが好ましい。
【発明の効果】
【0031】
上記フェライト磁器組成物によれば、Cuの含有モル量がCuOに換算して0〜5mol%であり、かつ、FeをFeに換算したときの含有モル量xmol%、及びMnをMnに換算したときの含有モル量ymol%を(x,y)で表したときに、(x,y)が、上述した点A〜点Hで囲まれる特定領域にあるので、Cu系材料と同時焼成しても、Cuが酸化されたりFeが還元されるのを抑制することができ、これにより比抵抗ρの低下を招くこともなく、所望の絶縁性を確保することができる。
【0032】
具体的には、比抵抗ρは10Ω・cm以上の良好な絶縁性を得ることができる。そしてこれにより、インピーダンス特性等の電気特性の良好な所望のセラミック電子部品を得ることが可能となる。
【0033】
また、Znの含有モル量をZnOに換算して33mol%以下とすることにより、十分なキュリー点を確保することができ、使用時の温度が高い条件下での動作保証がなされたセラミック電子部品を得ることができる。
【0034】
さらに、Znの含有モル量をZnOに換算して6mol%以上とすることにより、良好な透磁率を確保することが可能となる。
【0035】
また、本発明のセラミック電子部品によれば、第1のコイル導体と、該第1のコイル導体と同一形状であって始端及び終端が前記第1のコイル導体に対し一定の離間距離を有して配された第2のコイル導体とが磁性体部に埋設されたセラミック電子部品であって、前記第1のコイル導体及び前記第2のコイル導体がCuを主成分とする導電性材料で形成されると共に、前記磁性体部が、上述したフェライト磁器組成物で形成されているので、Cu系材料と同時焼成しても所望の良好な電気特性や磁気特性を有すると共に、マイグレーションが生じるのを回避することが可能となり、高信頼性を有するセラミック電子部品を得ることが可能となる。
【0036】
すなわち、第1及び第2のコイル導体がCuを主成分とした導電性材料で形成されているので、第1のコイル導体と第2のコイル導体との対向面積が大きくなっても、Ag系材料のようにマイグレーションが生じるのを回避することができる。したがって、高湿度下で長時間放置しても良好な絶縁抵抗を得ることができ、高信頼性を有するセラミック電子部品としての交互巻コモンモードチョークを得ることができる。
【0037】
また、Cu−CuOの平衡酸素分圧以下の雰囲気で焼成されることにより、第1及び第2のコイル導体にCuを主成分とする導電性材料を使用して磁性体部と同時焼成しても、Cuが酸化されることなく、焼結させることができ、耐湿性の良好な高信頼性を有するコモンモードチョークコイルを得ることができる。
【0038】
また、本発明のセラミック電子部品の製造方法によれば、Cuの含有モル量がCuOに換算して0〜5mol%であり、かつ、FeをFeに換算したときの含有モル量xmol%、及びMnをMnに換算したときの含有モル量ymol%を(x,y)で表したときに、(x,y)が、所定の領域を満たすようにFe化合物、Mn化合物、Cu化合物、Zn化合物、及びNi化合物を秤量し、これら秤量物を混合した後、仮焼して仮焼粉末を作製する仮焼工程と、前記仮焼粉末からセラミック薄層体を作製するセラミック薄層体作製工程と、Cuを主成分とする第1のコイルパターンを前記セラミック薄層体上に形成する第1のコイルパターン形成工程と、Cuを主成分とする第2のコイルパターンを前記セラミック薄層体上に形成する第2のコイルパターン形成工程と、前記第1のコイルパターンが形成された前記セラミック薄層体と前記第2のコイルパターンが形成された前記セラミック薄層体とを交互に所定枚数積層し、第1のコイル導体及び第2のコイル導体を内蔵した積層体を形成する積層体形成工程と、Cu−CuOの平衡酸素分圧以下の焼成雰囲気で前記積層体を焼成する焼成工程とを含んでいるので、Cu−CuOの平衡酸素分圧以下の焼成雰囲気で前記セラミック薄層体とCuを主成分とした第1及び第2のコイル導体とを同時焼成しても、Feが還元されることもなく、絶縁性が良好で高信頼性を有するセラミック電子部品を得ることができる。
【0039】
また、前記第1のコイルパターンが形成された前記セラミック薄層体の表面に前記第1のコイルパターンと電気的に絶縁された前記第2のコイル導体用ビア導体を形成し、前記第2のコイルパターンが形成された前記セラミック薄層体の表面に前記第2のコイルパターンと電気的に絶縁された前記第1のコイル導体用ビア導体を形成することにより、第1のコイル導体と第2のコイル導体の対向面積が大きくてもマイグレーションの発生を回避できる交互巻コモンモードチョークコイルを容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係るフェライト磁器組成物のFeとMnの組成範囲を示す図である。
【図2】本発明に係るセラミック電子部品としてのコモンモードチョークコイルの一実施の形態を示す斜視図である。
【図3】上記図2のコモンモードチョークコイルの要部を示す分解平面図である。
【図4】実施例1で作製された比抵抗測定用試料の断面図である。
【図5】実施例2で作製された本発明試料の抵抗値の経時変化を本発明範囲外の比較例試料と共に示した図である。
【図6】実施例2で作製された本発明試料の抵抗低下率の経時変化を本発明範囲外の比較例試料と共に示した図である。
【図7】特許文献1に記載された並列巻コモンモードチョークコイルを示す断面図である。
【図8】特許文献2に記載された交互巻コモンモードチョークコイルの作動原理を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
次に、本発明の実施の形態を詳説する。
【0042】
本発明の一実施の形態としてのフェライト磁器組成物は、一般式X・MeOで表わされるスピネル型結晶構造を有し、少なくとも3価の元素化合物であるFe、Mn、及び2価の元素化合物であるZnO、NiOを含み、必要に応じて2価の元素化合物であるCuOを含有している。
【0043】
具体的には、本フェライト磁器組成物は、CuOの含有モル量が0〜5mol%とされ、Fe及びMnの各含有モル量は、図1に示すように、Feの含有モル量をxmol%、Mnの含有モル量をymol%としたときに、(x,y)が点A〜点Hで囲まれる斜線部Xの領域とされ、残部がZnO、NiOで形成されている。
【0044】
ここで、点A〜点Hの各点(x,y)は、以下の各含有モル量を示している。
【0045】
A(25,1)、B(47,1)、C(47,7.5)、D(45,7.5)、E(45,10)、F(35,10)、G(35,7.5)、及びH(25,7.5)
次に、CuO、Fe、Mnの各含有モル量を、上述の範囲にした理由について詳述する。
【0046】
(1)CuOの含有モル量
Ni−Zn系フェライトでは、融点が1026℃と低いCuOをフェライト磁器組成物中に含有させることにより、より低温での焼成が可能となり、焼結性を向上させることができる。
【0047】
一方、Cuを主成分としたCu系材料とフェライト材料とを同時焼成する場合、大気雰囲気で焼成するとCuは容易に酸化されてCuOを生成することから、Cuが酸化しないような還元性雰囲気で焼成する必要がある。
【0048】
しかしながら、このような還元性雰囲気で焼成した場合、CuOの含有モル量が5mol%を超えると、フェライト原料中のCuOが還元されてCuOの生成量が増加し、このため比抵抗ρの低下を招くおそれがある。
【0049】
そこで、本実施の形態では、CuOの含有モル量が5mol%以下、すなわち0〜5mol%となるように配合量を調整している。
【0050】
(2)Fe及びMnの各含有モル量
Feを化学量論組成から減量させ、Feの一部をMnで置換する形態でMnを含有させることにより、比抵抗ρが低下するのを回避でき、絶縁性の向上を図ることができる。
【0051】
すなわち、スピネル型結晶構造(一般式X・MeO)の場合、化学量論組成では、X(X:Fe、Mn)とMeO(Me:Ni、Zn、Cu)との比率は50:50であり、XとMeOとは、通常、概ね化学量論組成となるように配合される。
【0052】
そして、Cuを主成分としたCu系材料とフェライト材料とを同時焼成する場合、大気雰囲気で焼成するとCuは容易に酸化されてCuOを生成することから、Cuが酸化しないような還元性雰囲気で焼成する必要がある。一方、フェライト材料の主成分であるFeを還元性雰囲気で焼成するとFeを生成することから、Feに対しては酸化性雰囲気で焼成する必要がある。
【0053】
しかしながら、〔発明が解決しようとする課題〕の項でも述べたように、Cu−CuOの平衡酸素分圧とFe−Feの平衡酸素分圧との関係から、800℃以上の温度で焼成する場合、Cu金属とFeとが共存する領域が存在しないことが知られている。
【0054】
しかるに、Mnは、800℃以上の温度領域ではFeに比べ、より高い酸素分圧で還元性雰囲気となる。したがって、Cu−CuOの平衡酸素分圧以下の酸素分圧では、MnはFeに比べ強還元性雰囲気となり、このためMnが優先的に還元されて焼結を完了させることが可能となる。つまり、MnがFeに比べて優先的に還元されることから、FeがFeに還元される前に焼成処理を完了させることが可能となる。
【0055】
このようにFeの含有モル量を化学量論組成から減量させる一方で、同じ3価の元素化合物であるMnをフェライト磁器組成物中に含有させることにより、Cu−CuOの平衡酸素分圧以下でCu系材料とフェライト材料とを同時焼成しても、Mnが優先的に還元されることから、Feが還元される前に焼結を完了させることが可能となり、Cu金属とFeとをより効果的に共存させることができる。そしてこれにより比抵抗ρが低下するのを回避でき、絶縁性を向上させることができる。
【0056】
ただし、Feの含有モル量が25mol%未満になると、Feの含有モル量が過度に少なくなって却って比抵抗ρの低下を招き、所望の絶縁性を確保できなくなる。
【0057】
また、Mnの含有モル量が1mol%未満になると、Mnの含有モル量が過度に少なくなるため、FeがFeに還元されやすくなり、比抵抗ρが低下し、十分な絶縁性を確保できない。
【0058】
また、Feの含有モル量が47mol%を超える場合も、Feの含有モル量が過剰となってFeがFeに還元されやすくなり、比抵抗ρが低下し、十分な絶縁性を確保できない。
【0059】
また、Mnの含有モル量が10mol%を超えた場合も、十分に大きな比抵抗ρを得ることができず、絶縁性を確保できない。
【0060】
さらに、Feの含有モル量が25mol%以上であっても35mol%未満の場合、及びFeの含有モル量が45mol%以上であっても47mol%未満の場合は、Mnの含有モル量が7.5mol%を超えると、却って比抵抗ρの低下を招き、所望の絶縁性を確保できなくなる。
【0061】
そこで、本実施の形態では、Fe及びMnの含有モル量は、図1の点A〜点Hに囲まれた領域となるように各含有モル量を調整している。
【0062】
尚、フェライト磁器組成物中のZnO及びNiOの各含有モル量は、特に限定されるものではなく、Fe3、Mn、及びCuOの各含有モル量に応じて適宜設定することができるが、ZnO:6〜33mol%、NiO:残部となるように配合するのが好ましい。
【0063】
すなわち、ZnOの含有モル量が33mol%を超えると、キュリー点Tcが低下し、高温での動作保証がなされない可能性があることから、ZnOの含有量は33mol%以下が好ましい。
【0064】
一方、ZnOは透磁率μの向上に寄与する効果があるが、斯かる効果を発揮するためにはZnOの含有モル量は6mol%が必要である。
【0065】
したがって、ZnOの含有モル量は6〜33mol%が好ましい。
【0066】
このように本フェライト磁器組成物は、Cuの含有モル量がCuOに換算して0〜5mol%であり、かつ、FeをFeに換算したときの含有モル量xmol%、及びMnをMnに換算したときの含有モル量ymol%を(x,y)で表したときに、(x,y)が、上述した点A〜点Hに囲まれる特定の範囲にあるので、Cu系材料と同時焼成しても、比抵抗ρの低下を招くこともなく、所望の絶縁性を確保することが可能となる。
【0067】
具体的には、比抵抗ρは10Ω・cm以上の良好な絶縁性を得ることができる。そしてこれにより、インピーダンス特性等の電気特性の良好な所望のセラミック電子部品を得ることが可能となる。
【0068】
また、ZnOの含有モル量を6〜33mol%とすることにより、良好な透磁率を有すると共に、十分なキュリー点を確保することができ、使用時の温度が高い条件下での動作が保証されたセラミック電子部品を得ることができる。
【0069】
次に、上記フェライト磁器組成物を使用したセラミック電子部品について詳述する。
【0070】
図2は本発明に係るセラミック電子部品としての交互巻コモンモードチョークコイル(以下、単に「コモンモードチョークコイル」という。)の一実施の形態を示す斜視図である。
【0071】
このコモンモードチョークコイルは、部品素体1の両端面に第1〜第4の外部電極2a〜2dが形成されている。
【0072】
すなわち、部品素体1は第1のコイル導体と、該第1のコイル導体と略同一形状であって始端及び終端が前記第1のコイル導体に対し一定の離間距離を有して配された第2のコイル導体とが磁性体部に埋設されている。また、第1のコイル導体の始端が第1の外部電極2aに電気的に接続され、第1のコイル導体の終端は第2の外部電極2bに接続されている。また、第2のコイル導体の始端は第3の外部電極2cに電気的に接続され、第2のコイル導体の終端は第4の外部電極2dに接続されている。
【0073】
そして、本実施の形態では、第1及び第2のコイル導体がCuを主成分とした導電性材料で形成されると共に、磁性体部が上述した本発明のフェライト磁器組成物で形成されている。これによりCuが酸化されたりFeが還元されることもなく、所望の良好な電気特性や磁気特性を有し、比抵抗ρを10MΩ以上に改善することができる。そしてその結果、特定周波数域で高いインピーダンスを有するノイズ吸収に適したコモンモードチョークコイルを得ることができる。
【0074】
また、コイル導体にCu系材料を使用しているので、対向面積が大きくなってもAg系材料のようにマイグレーションが生じるのを極力回避することができ、絶縁抵抗の低下を招くこともなく高信頼性を有するコモンモードチョークコイルを得ることが可能となる。
【0075】
図3は部品素体1の分解平面図である。
【0076】
以下、この図3を参照しながら上記コモンモードチョークコイルの製造方法を詳述する。
【0077】
まず、セラミック素原料として、Fe、ZnO、NiO、及び必要に応じてCuOを用意する。そして、CuOが0〜5mol%であって、Fe及びMnが点A〜点Hで囲まれる特定領域を満たすように各セラミック素原料を秤量する。
【0078】
次いで、これらの秤量物を純水及びPSZ(部分安定化ジルコニア)ボール等の玉石と共にポットミルに入れ、湿式で十分に混合粉砕し、蒸発乾燥させた後、700〜800℃の温度で所定時間仮焼する。
【0079】
次いで、これらの仮焼粉末に、ポリビニルブチラール系等の有機バインダ、エタノール、トルエン等の有機溶剤、及びPSZボールと共に、再びポットミルに投入し、十分に混合粉砕し、セラミックスラリーを作製する。
【0080】
次に、ドクターブレード法等を使用して前記セラミックスラリーをシート状に成形加工し、所定膜厚の磁性体セラミックグリーンシート(セラミック薄層体;以下、単に「磁性体シート」という。)3a〜3iを作製する。
【0081】
次いで、これらの磁性体シート3a〜3iのうち磁性体シート3b〜3gについて、レーザ加工機を使用し、所定箇所にビアホールを形成する。
【0082】
次に、Cuを主成分とした導電性ペースト(以下、「Cuペースト」という。)を用意する。そして、該Cuペーストを使用してスクリーン印刷し、磁性体シート3c〜3f上に第1のコイルパターン4a、4b又は第2のコイルパターン5a、5bを形成し、磁性体シート3b、3g、3h上に電極パターン6a、6b、7a、7bを形成し、かつ、ビアホールを前記導電性ペーストで充填しビア導体8a〜8e、9a〜9fを作製する。
【0083】
尚、図2(c)〜(f)はコイル導体の本体部を示しており、したがって必要とされるターン数に応じ、図2(c)〜(f)の工程は繰り返される。
【0084】
そして、これら磁性体シート3b〜3hを積層し、上下両主面に外装用磁性体シート3a、3iを配し、これらを加圧・圧着させ、所定寸法に切断して積層成形体を作製する。
【0085】
そしてこれにより電極パターン6aはビア導体8aを介して第1のコイルパターン4aに電気的に接続され、該第1のコイルパターン4aはビア導体8b、8cを介して第1のコイルパターン4bに接続され、さらに該第1のコイルパターン4bはビア導体8d、8eを介して電極パターン6bに接続され、これにより第1のコイル導体が形成される。
【0086】
同様に、電極パターン7aはビア導体9a、9bを介して第2のコイルパターン5aに電気的に接続され、該第2のコイルパターン5aはビア導体9c、9dを介して第2のコイルパターン5bに接続され、さらに該第2のコイルパターン5bはビア導体9e、9fを介して電極パターン7bに接続され、これにより第2のコイル導体が形成される。そしてこれにより第1のコイル導体と第2のコイル導体とは交互に巻回され、第2のコイル導体は第1のコイル導体に対し始端及び終端が一定の離間距離を有して磁性体部に埋設されることになる。
【0087】
次に、この積層成形体をCuが酸化しないような雰囲気下、加熱して十分に脱脂した後、Cu−CuOの平衡酸素分圧以下となるようにN−H−HOの混合ガスで雰囲気調整された焼成炉に供給し、900〜1050℃で所定時間焼成し、これにより部品素体1を得る。
【0088】
次に、部品素体1の側面に、Cu等を主成分とした外部電極用導電ペーストを塗布し、乾燥させた後、900℃で焼き付けて第1〜第4の外部電極2a〜2dを形成し、これにより上述したコモンモードチョークコイルが作製される。
【0089】
このように本実施の形態では、Cuの含有モル量がCuOに換算して0〜5mol%であり、かつ、FeをFeに換算したときの含有モル量xmol%、及びMnをMnに換算したときの含有モル量ymol%を(x,y)で表したときに、(x,y)が、所定の領域となるようにFe化合物、Mn化合物、Cu化合物、Zn化合物、及びNi化合物をそれぞれ秤量し、これら秤量物を混合した後、仮焼して仮焼粉末を作製する仮焼工程と、前記仮焼粉末から磁性体シート3a〜3iを作製する磁性体シート作製工程と、Cuペーストを磁性体シート3c、3eに塗布して第1のコイルパターン4a、4bを形成する第1のコイルパターン形成工程と、前記Cuペーストを磁性体シート3d、3fに塗布して第2のコイルパターン5a、5bを形成する第2のコイルパターン形成工程と、前記第1のコイルパターン4a、4bが形成された磁性体シート3c、3eと前記第2のコイルパターン5a、5bが形成された磁性体シート3d、3fとを交互に所定枚数積層し、第1のコイル導体及び第2のコイル導体を内蔵した積層体を形成する積層体形成工程と、Cu−CuOの平衡酸素分圧以下の焼成雰囲気で前記積層体を焼成する焼成工程とを含んでいるので、Cu−CuOの平衡酸素分圧以下の焼成雰囲気で磁性体シート3a〜3iとCuを主成分とした第1及び第2のコイル導体とを同時焼成しても、Feが還元されることもなく、絶縁性が良好で高信頼性を有するコモンモードチョークコイルを得ることができる。
【0090】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、上記実施の形態では、仮焼粉末からセラミックグリーンシート3a〜3iを作製しているが、セラミック薄層体であればよく、例えば、PETフィルム上に印刷処理を行なって磁性塗膜を形成し、斯かる磁性塗膜上に導電膜であるコイルパターンや容量パターンを形成してもよい。
【0091】
また、上記実施の形態では、第1及び第2のコイルパターン4a、4b、5a、5bをスクリーン印刷で形成しているが、これらコイルパターンの作製方法も特に限定されるものではなく、他の方法、例えばめっき法、転写法、或いはスパッタ等の薄膜形成方法で形成してもよい。
【0092】
また、上記実施の形態では、交互巻コモンモードチョークコイルについて説明したが、Cuを主成分とする導電性材料と同時焼成する用途に広範に使用することができ、他のセラミック電子部品、例えばトリファイラ等の三端子以上のセラミック電子部品にも適用可能であるのはいうまでもない。
【0093】
次に、本発明の実施例を具体的に説明する。
【実施例1】
【0094】
セラミック素原料として、Fe、Mn、ZnO、CuO、及びNiOを用意し、含有モル量が表1〜3に示すような組成となるように、これらセラミック素原料を秤量した。すなわち、ZnOを30mol%、CuOを1mol%に固定し、FeとMnとの含有モル量を種々異ならせ、残部がNiOとなるように各セラミック素原料を秤量した。
【0095】
次いで、これら秤量物を純水及びPSZボールと共に塩化ビニル製のポットミルに入れ、湿式で十分に混合粉砕し、これを蒸発乾燥させた後、750℃の温度で仮焼し、仮焼粉末を得た。
【0096】
次いで、この仮焼粉末を、ポリビニルブチラール系バインダ(有機バインダ)、エタノール(有機溶剤)、及びPSZボールと共に、再び塩化ビニル製のポットミルに投入し、十分に混合粉砕し、セラミックスラリーを得た。
【0097】
次に、ドクターブレード法を使用し、厚さが25μmとなるようにセラミックスラリーをシート状に成形し、これを縦50mm、横50mmの大きさに打ち抜き、磁性体シートを作製した。
【0098】
次いで、このようにして作製された磁性体シートを、厚さが総計で1.0mmとなるように複数枚積層し、60℃に加熱し、100MPaの圧力で60秒間加圧して圧着し、その後、外径20がmm、内径が12mmとなるようにリング状に切り出し、セラミック成形体を得た。
【0099】
次いで、得られたセラミック成形体を加熱して十分に脱脂した。そして、N−H−HOの混合ガスを焼成炉に供給して酸素分圧を6.7×10-2Paに調整した後、前記セラミック成形体を焼成炉に投入し、1000℃の温度で2時間焼成し、これによりリング状試料を得た。
【0100】
尚、この酸素分圧6.7×10-2Paは、1000℃におけるCu−CuOの平衡酸素分圧である。したがって、セラミック成形体をCu−CuOの平衡酸素分圧で2時間焼成し、これにより試料番号1〜104のリング状試料を作製した。
【0101】
そして、試料番号1〜104の各リング状試料について、軟銅線を20ターン巻回し、インピーダンスアナライザ(アジレント・テクノロジー社製、E4991A)を使用し、測定周波数1MHzでインダクタンスを測定し、その測定値から透磁率μを求めた。
【0102】
次に、テルピネオール(有機溶剤)及びエチルセルロース樹脂(バインダ樹脂)を含有した有機ビヒクルにCu粉末を混合し、三本ロールミルで混錬し、これによりCuペーストを作製した。
【0103】
次に、磁性体シートの表面にCuペーストをスクリーン印刷し、所定パターンの導電膜を作製した。そして、導電膜の形成された磁性体シートを所定順序で所定枚数積層し、導電膜の形成されていない磁性体シートで挟持し、圧着し、所定の大きさに切断し、積層成形体を得た。
【0104】
次いで、積層成形体を十分に脱脂した後、N−H−HOの混合ガスを焼成炉に供給して酸素分圧を6.7×10-2Pa(1000℃におけるCu−CuOの平衡酸素分圧)に調整し、この積層成形体を焼成炉に供給して1000℃の温度で2時間焼成し、内部電極が埋設されたセラミック焼結体を得た。
【0105】
次いで、このセラミック焼結体を水と共にポットに投入し、遠心バレル機を用いてセラミック焼結体にバレル処理を施し、これによりセラミック素体を得た。
【0106】
そして、セラミック素体の両端に、Cu等を主成分とした外部電極用ペーストを塗布し、乾燥させた後、酸素分圧を4.3×10-3Paに調整した焼成炉内で900℃の温度で焼き付け処理を行い、試料番号1〜104の比抵抗測定用試料を作製した。尚、酸素分圧:4.3×10-3Paは温度900℃におけるCu−CuOの平衡酸素分圧である。
【0107】
比抵抗測定用試料の外形寸法は、縦3.0mm、横3.0mm、厚み1.0mmであった。
【0108】
図4は、比抵抗測定用試料の断面図であって、セラミック素体51には引出部が互い違いとなるように内部電極52a〜52dが磁性体層53に埋設され、かつ、セラミック素体51の両端面には外部電極54a、54bが形成されている。
【0109】
次に、試料番号1〜104の比抵抗測定用試料について、外部電極54a、54bに50Vの電圧を30秒間印加し、電圧印加時の電流を測定した。そしてこの測定値から抵抗を算出し、試料寸法から比抵抗の対数logρ(以下、「比抵抗logρ」という。)を算出した。
【0110】
表1〜3は試料番号1〜104のフェライト組成と測定結果を示している。
【0111】
【表1】

【0112】
【表2】

【0113】
【表3】

【0114】
試料番号1〜17、22〜25、30〜33、39〜41、47〜49、55〜57、63〜65、71〜73、78〜81、及び86〜104は、図1の斜線部Xの領域外であるので、比抵抗logρが7未満となって比抵抗logρが小さく、所望の絶縁性を得ることができなかった。
【0115】
これに対し試料番号18〜21、26〜29、34〜38、42〜46、50〜54、58〜62、66〜70、74〜77、及び82〜85は、図1の斜線部Xに囲まれる領域内にあるので、比抵抗logρが7以上となり、良好な絶縁性が得られ、透磁率μも50以上の実用的に十分な値が得られることが分かった。
【実施例2】
【0116】
セラミック素原料を、表4に示すように、Feの含有モル量を44mol%、Mnの含有モル量を5mol%と本発明範囲内とし、さらにZnOの含有モル量を30mol%とし、CuOを種々異ならせ、残部がNiOとなるように秤量した。そしてそれ以外は、実施例1と同様の方法・手順で試料番号201〜209のリング状試料及び比抵抗測定用試料を作製した。
【0117】
次いで、試料番号201〜209について、実施例1と同様の方法・手順で比抵抗logρ及び透磁率を測定した。
【0118】
表4は、試料番号201〜209のフェライト組成と測定結果を示している。
【0119】
【表4】

【0120】
試料番号207〜209は、CuOの含有モル量が5mol%を超えているため、比抵抗logρが7未満となって比抵抗logρが小さく、所望の絶縁性を得ることができなかった。
【0121】
これに対し201〜206は、CuOの含有モル量が0〜5mol%と本発明範囲内であるので、比抵抗logρが7以上となり、良好な絶縁性が得られ、透磁率μも210以上と良好な結果が得られた。
【実施例3】
【0122】
セラミック素原料を、表5に示すように、Feの含有モル量を44mol%、Mnの含有モル量を5mol%、CuOの含有モル量を1mol%と本発明範囲内とし、ZnOの含有モル量を種々異ならせ、残部がNiOとなるように秤量した。そしてそれ以外は、実施例1と同様の方法・手順で試料番号301〜309のリング状試料及び比抵抗測定用試料を作製した。
【0123】
次いで、試料番号301〜309について、実施例1と同様の方法・手順で比抵抗logρ及び透磁率を測定した。
【0124】
また、試料番号301〜309について、振動試料型磁力計(東英工業社製VSM−5−15型)を使用し、1T(テスラ)の磁界を印加し、飽和磁化の温度依存性を測定した。そして、この飽和磁化の温度依存性からキュリー点Tcを求めた。
【0125】
表5は、試料番号301〜309のフェライト組成と測定結果を示している。
【0126】
【表5】

【0127】
試料番号309は、ZnOの含有モル量が33mol%を超えているので、比抵抗logρや透磁率μは良好であったが、キュリー点Tcが110℃となり、他の試料に比べて低くなることが分った。
【0128】
また、試料番号301、302は、ZnOの含有モル量が6mol%未満であるので、比抵抗logρやキュリー点Tcは良好であったが、透磁率μが20以下に低下した。
【0129】
これに対し試料番号303〜308は、ZnOの含有モル量が6〜33mol%であるので、キュリー点Tcは165℃以上となって130℃程度の高温下での動作保証を得ることができ、また、透磁率μも35以上となって実用的な透磁率μが得られることが分かった。
【0130】
以上よりZnOの含有モル量を増加させると透磁率μが大きくなるが、過度に増量させるとキュリー点Tcが低下することが確認された。
【実施例4】
【0131】
実施例1で作製した試料番号1、実施例2で作製した試料番号203、試料番号209と同一組成の磁性体シートを使用し、コモンモードチョークコイルを作製した(図2、3参照)。
【0132】
すなわち、試料番号1及び試料番号203の磁性体シートについては、第1及び第2のコイル導体材料にCuを使用し、試料番号1′、203′の試料(コモンモードチョークコイル)を作製した。
【0133】
また、試料番号209の磁性体シートについては、第1及び第2のコイル導体材料にAgを使用し、試料番号209′の試料(コモンモードチョークコイル)を作製した。
【0134】
尚、試料番号209′の試料を作製するために、実施例1〜3で使用したCuペーストの他、Agを主成分とした導電性ペースト(以下、「Agペースト」という。)を用意した。
【0135】
そして、以下の手順で試料番号1′、203′、及び209′の試料を作製した。
【0136】
すなわち、まず、試料番号1、203及び209の磁性体シートの所定箇所にレーザ加工機を使用し、所定箇所にビアホールを形成した。
【0137】
次に、Cuペースト又はAgペーストを使用してスクリーン印刷し、磁性体シート上に第1及び第2のコイルパターンを形成し、かつ、ビアホールを前記Cペースト又はAgペーストで充填しビア導体を作製した。
【0138】
そして、これら磁性体シートを積層し、上下両主面に外装用磁性体シートを配し、これらを60℃に加熱し100MPaの圧力で60秒間加圧して圧着し、所定寸法に切断し、試料番号1′、203′及び209′の積層成形体を作製した。
【0139】
次に、試料番号1′及び203′については、Cuが酸化しないような雰囲気下、加熱して十分に脱脂した後、酸素分圧が6.7×10-2PaとなるようにN−H−HOの混合ガスで雰囲気調整された焼成炉に供給し、1000℃の温度で2時間焼成し、部品素体を得た。
【0140】
次いで、上記部品素体の側面に、Cuを主成分とした外部電極用導電ペーストを塗布し、乾燥させ、その後、酸素分圧を4.3×10-3Paに調整した焼成炉内で900℃の温度で焼き付け処理を行い、これにより第1〜第4の外部電極を形成した。次いで、電解めっきを施して、第1〜第4の外部電極の表面にNi皮膜及びSn皮膜を順次形成し、これにより試料番号1′、203′及び209′のコモンモードチョークコイルを作製した。
【0141】
一方、試料番号209′ついては、部品素体の側面に、Agを主成分とした外部電極用導電ペーストを塗布し、乾燥させ、その後、大気雰囲気下、750℃の温度で焼き付け処理を行い、これにより第1〜第4の外部電極を形成した。そしてその後は、試料番号1′、203′と同様、電解めっきを施して、第1〜第4の外部電極の表面にNi皮膜及びSn皮膜を順次形成し、これにより試料番号209′のコモンモードチョークコイルを作製した。
【0142】
尚、作製された各試料の外形寸法は、縦:2.0mm、横:1.2mm、厚み:1.0mmであった。また、各試料は、第1のコイル導体と第2コイル導体の層間距離は20μmとなるように調整した。
【0143】
次に、試料番号1′、203′及び209′の各試料について、インピーダンスアナライザ(アジレント・テクノロジー社製E4991A)を使用し、周波数100MHzでのインピーダンスを測定した。
【0144】
表6は、試料番号1′、203′及び209′の各試料のフェライト組成及び測定結果を示している。
【0145】
【表6】

【0146】
この表6から明らかなように、試料番号1′は、インピーダンスが300Ωと低くなった。これは試料番号1の比抵抗logρが2.8と低く、このためインピーダンスも低くなったものと思われる。
【0147】
一方、試料番号203′は、試料番号203の比抵抗logρが8.2と高く、インピーダンスは700〜800Ωと高い値が得られた。
【0148】
尚、試料番号209′は、導電性材料にAgを使用し、大気雰囲気で焼成しているため、Feが還元されることもないことから、インピーダンスに関しては、測定周波数100MHzで700〜800Ωと良好な結果が得られた。
【0149】
次に、試料番号203′及び209′の各試料30個について、温度70℃、湿度95%RHの環境下、第1のコイル導体と第2のコイル導体との間に5Vの直流電圧を負荷し、耐湿負荷試験を行った。そして、試験開始前、試験開始後10時間、100時間、500時間、及び1000時間経過時の絶縁抵抗をエレクトロメータ(アドバンテスト社製R8340A)を使用して測定し、絶縁抵抗の平均値を求めた。
【0150】
表7はその測定結果を示している。
【0151】
また、図5は絶縁抵抗logIRの経時変化を示し、図6は抵抗変化率の経時変化を示している。図5及び図6中、実線が本発明試料である試料番号203′、破線が本発明の範囲外試料である試料番号209′を示している。尚、横軸が時間(h)、縦軸が絶縁抵抗logIR(R:MΩ)、横軸が抵抗変化率(%)である。
【0152】
【表7】

【0153】
試料番号209′は、第1及び第2のコイル導体にAgを使用しているため、マイグレーションが生じ、絶縁抵抗logIRが時間の経過と共に顕著に低下し、抵抗低下率も1000時間経過時には54.9%と高くなった。
【0154】
これに対し試料番号203′は、第1及び第2のコイル導体にCuを使用しているため、マイグレーションが生じず、絶縁抵抗logIRは時間が経過しても殆ど変わらず、抵抗低下率も1000時間が経過しても3.2%と良好であり、結合係数が高く、信頼性の高い交互巻コモンモードチョークコイルが得られることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0155】
Cuを主成分とする導電性材料を使用することにより、磁性体材料と同時焼成しても、絶縁性が良好で、良好な電気特性を有し、かつマイグレーションの発生を極力回避できる交互巻コモンモードチョークコイル等のセラミック電子部品を実現できる。
【符号の説明】
【0156】
3c〜3f セラミックグリーンシート
4a、4b 第1のコイルパターン
5a、5b 第2のコイルパターン
8c、8e ビア導体(第1のコイル導体用ビア導体)
9b、9d ビア導体(第2のコイル導体用ビア導体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともFe、Mn、Ni、及びZnを含有したフェライト磁器組成物であって、
Cuの含有モル量がCuOに換算して0〜5mol%であり、かつ、FeをFeに換算したときの含有モル量xmol%、及びMnをMnに換算したときの含有モル量ymol%を(x,y)で表したときに、(x,y)が、A(25,1)、B(47,1)、C(47,7.5)、D(45,7.5)、E(45,10)、F(35,10)、G(35,7.5)、及びH(25,7.5)で囲まれる領域にあることを特徴とするフェライト磁器組成物。
【請求項2】
前記Znの含有モル量が、ZnOに換算して33mol%以下であることを特徴とする請求項1記載のフェライト磁器組成物。
【請求項3】
前記Znの含有モル量が、ZnOに換算して6mol%以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のフェライト磁器組成物。
【請求項4】
第1のコイル導体と、該第1のコイル導体と略同一形状であって始端及び終端が前記第1のコイル導体に対し一定の離間距離を有して配された第2のコイル導体とが磁性体部に埋設されたセラミック電子部品であって、
前記第1のコイル導体及び前記第2のコイル導体がCuを主成分とする導電性材料で形成されると共に、
前記磁性体部が、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のフェライト磁器組成物で形成されていることを特徴とするセラミック電子部品。
【請求項5】
前記第1及び第2のコイル導体と前記磁性体部は同時焼成されてなることを特徴とする請求項4記載のセラミック電子部品。
【請求項6】
Cu−CuOの平衡酸素分圧以下の雰囲気で焼成されてなることを特徴とする請求項4又は請求項6記載のセラミック電子部品。
【請求項7】
Cuの含有モル量がCuOに換算して0〜5mol%であり、かつ、FeをFeに換算したときの含有モル量xmol%、及びMnをMnに換算したときの含有モル量ymol%を(x,y)で表したときに、(x,y)が、A(25,1)、B(47,1)、C(47,7.5)、D(45,7.5)、E(45,10)、F(35,10)、G(35,7.5)、及びH(25,7.5)で囲まれる領域を満たすようにFe化合物、Mn化合物、Cu化合物、Zn化合物、及びNi化合物を秤量し、これら秤量物を混合した後、仮焼して仮焼粉末を作製する仮焼工程と、
前記仮焼粉末からセラミック薄層体を作製するセラミック薄層体作製工程と、
Cuを主成分とする第1のコイルパターンを前記セラミック薄層体上に形成する第1のコイルパターン形成工程と、
Cuを主成分とする第2のコイルパターンを前記セラミック薄層体上に形成する第2のコイルパターン形成工程と、
前記第1のコイルパターンが形成された前記セラミック薄層体と前記第2のコイルパターンが形成された前記セラミック薄層体とを交互に所定枚数積層し、第1のコイル導体及び第2のコイル導体を内蔵した積層体を形成する積層体形成工程と、
Cu−CuOの平衡酸素分圧以下の焼成雰囲気で前記積層体を焼成する焼成工程とを含んでいることを特徴とするセラミック電子部品の製造方法。
【請求項8】
前記第1のコイルパターンが形成された前記セラミック薄層体の表面に前記第1のコイルパターンと電気的に絶縁された前記第2のコイル導体用ビア導体を形成し、
前記第2のコイルパターンが形成された前記セラミック薄層体の表面に前記第2のコイルパターンと電気的に絶縁された前記第1のコイル導体用ビア導体を形成することを特徴とする請求項7記載のセラミック電子部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−53042(P2013−53042A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192022(P2011−192022)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】