説明

フタロシアニン色素およびそれらの製造および使用

【課題】細胞媒体中に極めて可溶であって腫瘍にのみ非常に選択的に蓄積し、無毒の化合物に急速に代謝され、化合物の吸収最大が630nmより高い光力学療法用または光診断用または感染症、ガンおよび皮膚疾患の治療用の光増感剤およびその製法の提供。
【解決手段】一般式(II)
(式中、R−Rは、直鎖または分枝鎖の8つ以内の炭素原子を有するアルキル基を表し、R−R12は、水素、直鎖または分枝鎖の8つ以内の炭素原子を有するアルキル基またはハロゲンを表し、Meは亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、水素、ガリウム、ゲルマニウムまたは錫を表し、Mは水素、金属カチオンまたはアンモニウムカチオンを表して、所望により1つ以上の未置換または置換されたアルキル基またはヒドロキシアルコキシアルキル基により置換されてもよく、m、n、o、pは1または2である)で示されるフタロシアニン色素。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な置換した水溶性のフタロシアニン色素、それらの塩、それらの製造方法、並びに光力学療法およびウイルス、かびまたは微生物により誘導される感染症、ガンおよび皮膚疾患の治療のための薬剤および製薬組成物におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
光力学療法は、感光性物質すなわち光増感剤および組織に含まれる酸素と組み合わせて光による腫瘍および他の組織の変性を治療する方法である。これらの光増感剤またはその代謝前駆物質の1つは、患者に投与される。この光増感剤または代謝前駆物質は、選択的に腫瘍に蓄積される。いくらかの待ち時間後、腫瘍およびそれを囲む健康な組織は、適切な波長の光により照射される。光物理プロセスは、組織中に含まれる酸素から毒性の物質、いわゆる反応性酸素種を発生する。これらの反応性酸素種は、光増感剤が腫瘍組織中に蓄積されるために、選択的に腫瘍を傷つける。
【0003】
外科的治療に比べて、光力学療法は、非侵襲性またはわずかに侵襲性の治療の利点を有する。特に、安全性の理由から、腫瘍に近い健康な組織を多量に除く必要がない。光による照射は、100mW/cmから1000mW/cmの典型的な光強度で10分から100分である。組織は、それゆえ、わずかに加熱されるに過ぎない。腫瘍の光力学療法は、通常、唯1つの治療を要するに過ぎないが、治療を反復することも可能である。通常の波長の光が使用されるので、患者に対する影響は、「伝統的な」治療に比べて比較的小さい。光力学療法の不利は、わずか数mmに過ぎない比較的浅い光の浸透深さである。そのため、ほとんどの場合に、初期の段階の腫瘍または平らな形状の腫瘍のみが、有効に治療できる。光力学療法に好適な腫瘍は、例えば、例えば紫外線角皮症または基底細胞ガンのような皮膚腫瘍ばかりでなく、いぼである。レーザーおよび光ファイバーの光のガイドは、また、もしそれらの表面に内視鏡を近づけることができるならば、身体内の腫瘍の治療を可能にする。
【0004】
現在、身体内の腫瘍の光力学療法は、非常に稀に使用され、ほとんどの場合、食道、胆管または胆嚢のガン、または脳腫瘍における緩和の目的でのみ使用される。
光力学療法は、20世紀の初頭においてミュンヘンで既に検討されていた。それは、光増感剤の改良およびレーザーの使用後、80年代において初めて広く使用されるようになった。典型的な適用範囲は、膀胱、頭部の表面、口腔、喉頭、肺、胆管および生殖器における腫瘍の治療である。
【0005】
光力学療法の基礎的な物理的プロセスは、いくつかの段階を含み、そしてほとんどの細胞に十分な量で存在する酸素の存在を必要とする。光増感剤の分子は、光フォトンを吸収し、そしてその最初の励起された一重項状態に励起される。もしこの一重項の状態の寿命が十分に長いものであるならば、相互結合による励起された三重項の状態への遷移の可能性は、増大する。この励起された三重項の状態から基底状態への光学的遷移は、非常に起こりそうではないので、その寿命は非常に長い。これは、周囲の多くの分子との接触を可能にする。それが三重項基底状態の分子と接触する場合、エネルギーの交換は可能であり、両者の分子は一重項の状態へ変化する。三重項基底状態の稀な分子の1つは、分子状酸素である。励起された光増感剤分子のエネルギーは、励起された一重項状態への酸素の遷移に必要なエネルギーよりも高いので、このような遷移は可能である。励起された一重項酸素は、その基底状態への光学的遷移に関して非常に長い寿命を有する。励起された一重項酸素は非常に反応性であるので、それは、酸素によって付近の細胞構成成分を損傷できる。壊死が誘導されるか、またはミトコンドリア膜への影響によりアポトースが誘導される。
【0006】
ほとんどの場合、ポルフィリンが光増感剤として使用される。それらは、630nmから635nmの波長の赤色光への暴露により活性化される。プロトポルフィリンの代謝前駆物質である5−アミノレビュリン酸またはそのメチルエステルも、ときには使用される。プロトポルフィリンは、腫瘍細胞中でポルフィリンの合成を選択的に開始する。最近の光増感剤は、より高い波長で活性化が可能であり、組織中への光のより大きな浸透深さを得る利点がある。光増感剤は、通常、蛍光を示し、そのため、腫瘍の蛍光診断に使用される。
【0007】
光力学療法に用いられる最適な波長は、600nmから1500nmに存在する。より短い波長では、組織は、照射にとり十分に透明ではなく、一方より長い波長では、照射のエネルギーは余りにも低い。組織における浸透深さは、630nmの波長で4mmであり、そして700nmの波長で8mmである。
【0008】
光力学療法において光増感剤としてフタロシアニン色素を使用することは、先ず非特許文献1に明らかにされ、次に非特許文献2−3に記述されている。膜に対するスルホン化フタロシアニンの光力学活性および吸着は、非特許文献4に記載されている。
式(I)
【0009】
【化12】

のしばしば使用される亜鉛フタロシアニン色素の合成および光増感剤としてのその光力学活性は、非特許文献6に記載されている。
【0010】
光力学療法のための光増感剤としての未置換フタロシアニン色素は、特許文献1に記載されている。フタロシアニン色素の中心原子は、シリシウムまたはアルミニウムである。
【0011】
光力学療法のための光増感剤としての未置換フタロシアニン色素は、また特許文献2に記載されている。フタロシアニン色素の中心原子は、シリシウムまたはアルミニウムである。
【0012】
光力学療法のための光増感剤としての未置換フタロシアニン色素は、また特許文献3に記載されている。フタロシアニン色素の中心原子は、シリシウムである。
光力学療法のための光増感剤としての未置換フタロシアニン色素は、また特許文献4に記載されている。フタロシアニン色素の中心原子は、反磁性金属原子またはシリシウムである。
【0013】
光力学療法のための光増感剤としての未置換フタロシアニン色素は、また特許文献2に記載されている。フタロシアニン色素の中心原子は、シリシウム、亜鉛またはアルミニウムである。
【0014】
【特許文献1】WO 92/01753
【特許文献2】WO 95/06688
【特許文献3】米国特許5484778
【特許文献4】WO 95/05818
【特許文献5】WO 02/090361
【非特許文献1】International Journal of Radiation Biology、47、145−147(1985)
【非特許文献2】Journal of Porphyrins and Phthalocyanines,5,161−169(2002)
【非特許文献3】K.M.Kadishら、「The Porphyrin Handbook」、19巻、1−35ページ、Academic Press、San Diego(2003)
【非特許文献4】Biochimica et Biophysica Acta、1768、2459−2465(2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
光力学療法用の理想的な光増感剤は、細胞媒体中に極めて可溶であり、無毒で非常に有効でなければならない。それは、それが有毒である場合腫瘍にのみ非常に選択的に蓄積し、身体から容易に排除できる害のない無毒の化合物に急速に代謝されねばならない。
【0016】
そのため、これらの性質を有する光力学療法用の改善された光増感剤が求められている。特に、化合物の吸収最大は、630nmより高く、好ましくは650nmより高くなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、新規な置換フタロシアニン色素がこれらの性質を有し、それゆえ光力学療法用の理想的な光増感剤であることを驚くべきことに見いだした。
本発明のさらなる目的は、本発明によるフタロシアニン色素を含む光力学療法用の製薬組成物および薬剤を提供することである。
本発明は、一般式(II)
【0018】
【化13】

(式中、R−Rは、独立して直鎖または分枝鎖の8つ以内の炭素原子を有するアルキル基を表し、R−R12は、独立して水素、直鎖または分枝鎖の8つ以内の炭素原子を有するアルキル基またはハロゲンを表し、Meは亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、水素、ガリウム、ゲルマニウムまたは錫を表し、Mは水素、金属カチオンまたはアンモニウムカチオンを表して、所望によりそれぞれ1−12の炭素原子を有する1つ以上の未置換または置換されたアルキル基またはヒドロキシアルコキシアルキル基により置換されてもよく、m、n、o、pは独立して1または2である)
の新規なフタロシアニン色素に関する。
【0019】
m、n、oおよびpが1に等しいフタロシアニン色素が好ましい。
Meが亜鉛、アルミニウム、マグネシウムまたは水素を表すフタロシアニン色素も好ましい。
【0020】
また好ましいのは、Mが金属ナトリウム、カリウムまたはリチウムのカチオンまたはアンモニウムカチオンであって、それぞれ1−6の炭素原子を有する1つ以上の未置換または置換されたアルキル基またはヒドロキシアルコキシアルキル基により置換されているフタロシアニン色素である。
特に好ましいのは、一般式(III)
【0021】
【化14】

(式中、4つの同じ置換基は中心のMe原子のまわりに配置されている)
の対称性フタロシアニン色素である。これらの色素では、m、n、oおよびpは同じ値を有する。置換基R、R、RおよびRは同じであり、置換基R、R、RおよびRは同じであり、同様にR、R10、R11およびR12は同じである。R、R、R10、Me
およびmは前記で規定された通りである。
mが1に等しい対称性フタロシアニン色素が好ましい。
【0022】
Meが亜鉛、アルミニウム、マグネシウムまたは水素を表す対称性フタロシアニン色素が好ましい。
また好ましいのは、Mが金属ナトリウム、カリウムまたはリチウムのカチオンまたはアンモニウムカチオンであって、それぞれ1−6炭素原子を有する1つ以上の未置換または置換されたアルキル基またはヒドロキシアルコキシアルキル基により置換されている。
【0023】
本発明は、また、本発明による一般式(II)のフタロシアニン色素の製造方法に関しており、その方法は、一般式(IVA)
【0024】
【化15】

(式中、R、R、R10およびmは前記同様である)の芳香族アミン、一般式(IVB)
【0025】
【化16】

(式中、R、R、R11およびnは前記同様である)の芳香族アミン、一般式(IVC)
【0026】
【化17】

(式中、R、R、R12およびoは前記同様である)の芳香族アミンおよび一般式(IVD)
【0027】
【化18】

(式中、R、R、Rおよびpは請求項1において規定した通りである)の芳香族アミンと式(V)
【0028】
【化19】

のアシルクロリドとを、一般式(VIA)
【0029】
【化20】

のアミド、一般式(VIB)
【0030】
【化21】

のアミド、一般式(VIC)
【0031】
【化22】

のアミドおよび一般式(VID)
【0032】
【化23】

のアミドが形成される条件下で反応させる。
【0033】
一般式(II)の対称性フタロシアニン色素の製造では、もしMeが水素を表すものでないならば、アミド(VIA)、(VIB)、(VIC)および(VID)の混合物と金属Meの塩とを、強塩基の存在下非プロトン性溶媒中で高温度で反応させる。
【0034】
特に好ましい非プロトン性溶媒は、N−メチルピロリドン、N−メチルアセトアミドおよびホルムアミドである。同様な性質を有する他の非プロトン性溶媒も使用できる。
【0035】
好適な金属塩は、酢酸塩、硝酸塩および塩化物である。
好適な強塩基は、1,8−ジアザアビシクロ(4.4.0)ウンデセ−7−エン、1,4−ジアザアビシクロ(2.2.2)オクタンおよび同様な塩基性を有する他の化合物である。
【0036】
この反応に関する好適な条件は、例えば、Houben−Weyl「Methods of Organic Chemistry」Georg Theime編、717−842ページ、Stuttgart−New York(1998)により記述されている。
【0037】
もしMeが水素を表さないならば、一般式(IVA)のアミドを、一般式(III)の対称性フタロシアニン色素の製造のために金属Meの塩と反応させる。
一般式(III)の以下の対称性フタロシアニン色素は、特定の例であり、置換基は表1に規定されている。
【0038】
【化24】

【0039】
【化25】

【0040】
【化26】

【0041】
【化27】

【0042】
【化28】

【0043】
【化29】

【0044】
【化30】

本発明は、一般式(II)および(III)の純粋なフタロシアニン色素に関するばかりでなく、これらのフタロシアニン色素の混合物に関する。
本発明による一般式(II)および(III)のフタロシアニン色素は、種々の腫瘍の光力学療法並びに微生物およびウイルスの感染の治療のための非常に好適な光増感剤である。それらは、また、光診断剤として非常に適している。
【0045】
本発明によるフタロシアニン色素は、ガン組織、前ガン性細胞組織、光老化またはそれ以外により損傷されたまたは病理学的細胞、活性化細胞例えば免疫系のリンパ球または他の細胞、並びに炎症細胞を破壊するのに使用されるばかりか、ウイルス、かびまたは細菌感染の疾患、ガンおよび皮膚疾患の治療に使用される。
【0046】
本発明によるフタロシアニン色素は、約670nmより長い波長を有する光によって活性化され、身体組織へ極めて容易に浸透する。
置換基の親水性および/または親水性の担体への吸収は、本発明によるフタロシアニン色素の身体中の劣化を改善できる。この理由のため、本発明によるフタロシアニン色素は、身体から生体内で急速に排除され、そして毒性および皮膚光毒性に関する問題を劇的に低下させる。
【0047】
本発明による一般式(II)および(III)のフタロシアニン色素は、好ましくは、製薬担体例えばポリエチレングリコール、エタノールおよび水の混合物、ポリエチレングリコールおよび水の混合物、リポソーム、ナノコンテナー、バイオポリマーまたは他の好適な許容できる製薬担体および好適な希釈剤を含む製薬組成物および薬剤で使用される。
【0048】
本発明による一般式(II)および(III)のフタロシアニン色素を含む製薬組成物および薬剤は、種々の腫瘍の光力学療法並びに微生物およびウイルス感染のための光増感性組成物および製薬生成物として非常に好適である。それらは、また、光診断剤として非常に適している。
【0049】
本発明による一般式(II)および(III)のフタロシアニン色素を含む製薬組成物および薬剤は、ガン組織、前ガン性細胞組織、光老化およびそれ以外で損傷されたまたは病理学的細胞、活性化細胞例えば免疫系のリンパ球または他の細胞、並びに炎症細胞を破壊するのに使用されるばかりか、ウイルス、かびまたは細菌の感染症、ガンおよび皮膚疾患の治療に使用される。
本発明は、本発明のフタロシアニン色素の範囲を決して制限することなく、以下の実施例により詳細に説明される。
【実施例1】
【0050】
対称性亜鉛フタロシアニン色素(100)は、以下の方法により製造された。
6.7g(30mモル)の式(VII)
【0051】
【化31】

のアニリン(「Journal of Organometallic Chemistry」679、110−115ページ(2003)に記載された方法により製造)を25mLのピリジンに懸濁した。
5.7g(30mモル)の式(VIII)
【0052】
【化32】

のアシルクロリド(「Journal of the American Chemical Society」124、4922−4932(2002)に記載された方法により製造)を8mLの酢酸エチルに溶解し、温度が30℃を越えないやり方で、氷冷しつつ上記の懸濁物へ滴下した。添加完了後、反応混合物を室温で18時間攪拌した。その後、混合物を40mLの酢酸エチルにより希釈し、沈殿物を吸引濾過し、140mLのメタノール中で再結晶することにより精製した。7.2gの式(IX)
【0053】
【化33】

のアミドを、乾燥後得た。
【0054】
10mLのホルムアミド中の7.0g(16mモル)の式(IX)のアミド、0.88g(4mモル)の酢酸亜鉛二水和物および4.0gの1,8−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセ−7−エンを、110℃の温度で18時間攪拌した。その後、濃緑色の溶液を室温に冷却し、30mLのエタノールにより希釈し、5.0gの酢酸カリウムの添加によりカリウム塩として色素を沈殿させ、そして沈殿物を濾去した。4.0gのフタロシアニン色素(100)のカリウム塩がこの方法で得られた。
【0055】
1,8−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセ−7−エンの代わりに、他の強有機塩基例えば1,4−ジアザビシクロ(2.2.2)オクタンが使用できる。酢酸カリウムの代わりに、他のアルカリ金属の酢酸塩または塩化物例えば酢酸ナトリウムまたは塩化リチウムが使用できる。この場合、フタロシアニン色素はナトリウムまたはリチウムの塩として得られる。
本発明による対称性フタロシアニン色素(101)−(106)は、適切な量の適切な原料を使用することにより同様な方法で製造できる。
【実施例2】
【0056】
対称性亜鉛フタロシアニン色素は、以下の方法で製造された。
7.7g(30mモル)の式(X)
【0057】
【化34】

のアニリン(「Journal of Organometallic Chemistry」679、110−115ページ(2003)により記載された方法に従って製造)を30mLのピリジン中に懸濁した。
【0058】
5.7g(30mモル)の式(VIII)のアシルクロリドを、温度が30℃を越えないやり方で、この懸濁物に氷冷しつつ滴下した。添加完了後、反応混合物を室温で18時間攪拌した。その後、混合物を20mLのN−メチルピロリドンおよび20mLの酢酸エチルにより希釈し、濾過しそして濃縮した。粗生成物を50mLの塩化ナトリウムの飽和溶液中で攪拌することにより精製した。6.7gの式(XI)
【0059】
【化35】

のアミドを乾燥後得た。
【0060】
10mLのホルムアミド中の3.5g(8mモル)の式(X)のアミドおよび3.9g(8mモル)の式(XI)のアミド、0.8g(4mモル)の酢酸亜鉛二水和物および2.4gの1,8−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセ−7−エンを、110℃の温度で18時間攪拌した。その後、濃緑色の溶液を室温に冷却し、30mLのエタノールにより希釈し、5.0gの酢酸カリウムの添加によりカリウム塩として色素を沈殿させ、そして沈殿物を濾去した。3.0gのフタロシアニン色素の混合物のカリウムをこの方法で得た。
亜鉛フタロシアニン色素の混合物は、他の色素のほかに、式
【0061】
【化36】

の亜鉛フタロシアニン色素、式
【0062】
【化37】

の亜鉛フタロシアニン色素、式
【0063】
【化38】

の亜鉛フタロシアニン色素、および式
【0064】
【化39】

の亜鉛フタロシアニン色素を含み、4つの前記の式中、Meは亜鉛を表す。
(1.テスト)
1.水溶液中の光吸収
水溶液中の吸収スペクトルは、7.0のpHの値で緩衝された水溶液中で、分光計Cary 100 Bio UV/VIS(Varian Inc.Palo Alto,米国)により厚さ1cmの光学セル中のフタロシアニン色素の20mg/Lから30mg/Lの濃度で測定した。
【0065】
フタロシアニン色素は水溶液中で凝集する。吸収最大は、そのため、形成された凝集物のそれである。
(2.ポリエチレングリコールの水溶液中の光吸収)
吸収スペクトルは、7.0のpHの値で、50重量%のポリエチレングリコール400を含む緩衝された水溶液中で、分光計Cary 100 Bio UV/VISにより厚さ1cmの光学セル中のフタロシアニン色素の20mg/Lから30mg/Lの濃度で測定した。
【0066】
フタロシアニン色素は、ポリエチレングリコールの水溶液中でわずかに凝集するに過ぎない。吸収最大は、そのため、モノマーフタロシアニン色素のそれである。この吸収最大は、フタロシアニン色素凝集物のそれよりも長い波長である。
(3.ウシ胎仔血清の存在下の光吸収)
吸収スペクトルは、300−800nmで分光計Cary 100 Bio UV/VISにより測定した。1mgのフタロシアニン色素をポリエチレングリコール400、エタノールおよび水(30:20:50)の溶液に溶解した。得られた溶液を、10%の濃度でウシ胎仔血清を含む生理学的塩溶液により10μg/mLの濃度へ希釈した。ウシ胎仔血清を含むこの溶液は、細胞内部の生物学的条件をシミュレートする。
【0067】
ウシ胎仔血清を含む溶液中で、光力学療法に特に好適なフタロシアニン色素は、フタロシアニン色素のモノマー形の吸収最大における吸収およびその凝集形の吸収最大における吸収の高い比を示す。
(4.光力学活性)
フタロシアニン色素は、「Journal of Photochemistry あんd Photobiology B;Biology」69、179−192(2003)に記載された方法を使用することによりそれらの光力学活性についてテストした。
【0068】
この方法では、光力学療法に対して非常に抵抗性のあるタイプHT29の細胞(ヒト腺ガン細胞、CERDIC、Sophia−Antipolis、フランスから入手)およびタイプF90の細胞を当業者に周知の方法(上記文献のパラグラフ2.2.3参照)により細胞培養培地RPMIで光力学療法に関するテストについて調製した。24時間後、細胞を4時間、10μg/mL以内の濃度でフタロシアニン色素とともにインキュベートした。その後、細胞を、整調できるレーザーCR599(Coherent Laser Group、Santa Clara,米国から入手)を使用して、光ファイバーを通して、20J/cmの照射エネルギーに曝した。光力学療法のにもかかわらず生存する細胞の数を、MMT([3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド]、Sigma−Aldrich Chemie GmbH、Buchs、スイスから入手)比色法により測定した。
【0069】
照射の量は、ヒトの組織の光力学療法において生体内で通常使用される照射の200J/cmの量に事実上相当する。
(5.反応性酸素種)
光に曝された間に発生する反応性酸素種の量は、以下の方法で測定された。
【0070】
フタロシアニン色素を、10μg/mLの濃度でウシ胎仔血清の水溶液(10%)に溶解した。ルミノール(3−フタールヒドラジド、Sigma−Aldrich Chemie GmbH、Buchs,スイスから入手)を、12.4のpHの値で、0.5mg/Lの濃度でホスフェート0.1モル緩衝溶液に溶解した。ルミノールの溶液1mLを、フタロシアニン色素の溶液を含む長さ1cmの正方形の分光蛍光計セル中に注いだ。その後、セルを、30℃の温度でフタロシアニン色素の吸収最大で10J/cmの光により照射した。反応性酸素種が発生し、ルミノールを酸化して485nmで吸収最大を有する蛍光を発するアミノフタール酸を得た。395nmの波長の光によるアミノフタール酸の励起後、この溶液の蛍光スペクトルは、照射の終わり15分後、蛍光分光計Cary PCB150(Varian Inc.Palo Alto,米国から入手)により測定された。発生した反応性酸素種の量は、照射されたテストセルの測定された蛍光およびフタロシアニン色素を含まない照射された比較セルの測定された蛍光の差に比例する。最も反応性のフタロシアニン色素は、最高の値を示す(任意の単位)。
(結果)
異なる金属Meおよび異なる金属カチオンMを有する本発明によるフタロシアニン色素の測定された吸収最大は、表1に示される。
【0071】
【表1】

色素(106)の吸収最大は、水およびエタノールの1:1混合物で測定された。
【0072】
式(I)のフタロシアニン色素は、Frontier Scientic、Logan、米国から入手できる。
両方の溶液中の表1の吸収最大の比較は、本発明によるフタロシアニン色素(100)−(106)および従来の技術を示す式(I)のフタロシアニン色素が、水溶液中で凝集物を示しそしてポリエチレングリコールの水溶液中でモノマー形を示すことを明らかに示す。
【0073】
ともに10μg/mLの濃度における本発明によるフタロシアニン色素(101)および従来技術の式(I)のフタロシアニン色素のウシ胎仔血清の存在下の光吸収の測定の結果を表2に示す。フタロシアニン色素のモノマー形の吸収最大における吸収およびフタロシアニン色素の凝集物形の吸収最大における吸収の比が示される。
【0074】
【表2】

表2における値の比較は、本発明によるフタロシアニン色素(101)が、従来技術の式(I)のフタロシアニン色素に比較して、フタロシアニン色素のモノマー形の吸収最大における吸収およびフタロシアニン色素の凝集物形の吸収最大における吸収のより好適な比を光力学療法について有することを明らかに示す。
【0075】
本発明によるモノマー形フタロシアニン色素(101)および従来技術の式(I)のフタロシアニン色素の吸収最大における照射後の光力学活性の測定の結果は、ともに10μg/mLの濃度で、表3にリストされる。
【0076】
【表3】

表3の結果は、両方の細胞系について、従来技術の式(I)のフタロシアニン色素が使用される場合に比べて、本発明によるフタロシアニン色素(101)が使用される場合には、かなり少ない細胞が生存することを示している。本発明による亜鉛フタロシアニン色素(101)は、それゆえ、従来技術の式(I)のフタロシアニン色素に比べて、かなり高い光力学活性を有する。
【0077】
本発明による亜鉛フタロシアニン色素(101)および従来技術の式(I)のフタロシアニン色素の形成された反応性酸素種の量の測定結果は、表4にリストされる。
【0078】
【表4】

表4の結果は、本発明によるフタロシアニン色素(101)が、照射がフタロシアニン色素(101)の凝集物形の吸収最大で行われる場合でも、従来技術の式(I)のフタロシアニン色素に比べて、かなり多い反応性酸素種を発生することを明らかに示す。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】水溶液(640nmでの吸収最大)中およびポリエチレングリコールの水溶液(677nmでの吸収最大)中の本発明によるフタロシアニン色素(101)の正常化された吸収スペクトルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(II)
【化1】

(式中、R−Rは、独立して直鎖または分枝鎖の8つ以内の炭素原子を有するアルキル基を表し、R−R12は、独立して水素、直鎖または分枝鎖の8つ以内の炭素原子を有するアルキル基またはハロゲンを表し、Meは亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、水素、ガリウム、ゲルマニウムまたは錫を表し、Mは水素、金属カチオンまたはアンモニウムカチオンを表して、所望によりそれぞれ1−12の炭素原子を有する1つ以上の未置換または置換されたアルキル基またはヒドロキシアルコキシアルキル基により置換されてもよく、m、n、o、pは独立して1または2である)
を有することを特徴とするフタロシアニン色素。
【請求項2】
−R、R−R12、MeおよびMが請求項1において規定した通りであり、m、n、o、pが1に等しい請求項1のフタロシアニン色素。
【請求項3】
一般式(III)
【化2】

(式中、R、R、R10、Me、Mおよびmは請求項1において規定した通りである)
を有する請求項1のフタロシアニン色素。
【請求項4】
、R、R10、MeおよびMが請求項1において規定した通りであり、mが1に等しい請求項3のフタロシアニン色素。
【請求項5】
一般式(IVA)
【化3】

(式中、R、R、R10およびmは請求項1において規定した通りである)の芳香族アミン、一般式(IVB)
【化4】

(式中、R、R、R11およびnは請求項1において規定した通りである)の芳香族アミン、一般式(IVC)
【化5】

(式中、R、R、R12およびoは請求項1において規定した通りである)の芳香族アミンおよび一般式(IVD)
【化6】

(式中、R、R、Rおよびpは請求項1において規定した通りである)の芳香族アミンと式(V)
【化7】

のアシルクロリドとを反応させて、一般式(VIA)
【化8】

のアミド、一般式(VIB)
【化9】

のアミド、一般式(VIC)
【化10】

のアミドおよび一般式(VID)
【化11】

のアミドを形成し、そしてもしMeが水素でないならば、一般式(VIA)、(VIB)、(VIC)および(VID)のアミドの混合物を金属Meの塩と反応させる工程をもつことを特徴とする請求項1のフタロシアニン色素の製造方法。
【請求項6】
製薬担体および請求項1−4の何れか1つの項の1つ以上のフタロシアニン色素を含むことを特徴とする製薬組成物。
【請求項7】
製薬担体が、ポリエチレングリコール、エタノールおよび水の混合物であるか、またはリポソーム、ナノコンテナー、バイオポリマーまたはこれらの混合物からなるか、またはこれらを含む請求項6の製薬組成物。
【請求項8】
光力学治療用の医薬としてまたは光診断剤としての請求項6または7の製薬組成物の使用。
【請求項9】
ウイルス、かびまたはウイルス感染の疾患、ガンまたは皮膚疾患の治療用の医薬としての請求項6または7の製薬組成物の使用。
【請求項10】
光力学療法用、光診断剤用またはウイルス、かびまたはウイルス感染の疾患、ガンまたは皮膚疾患の治療用の請求項1−4の何れか1つの項のフタロシアニン色素の使用。

【図1】
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【公開番号】特開2009−143909(P2009−143909A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−313871(P2008−313871)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(599085415)イルフォード イメージング スウィツアランド ゲーエムベーハー (13)
【Fターム(参考)】