説明

フッ化ビニリデン系化合物およびそれからなる層が基材の表面に形成されてなる積層体

【課題】基材との密着性を向上させた新規なフッ化ビニリデン系化合物およびそれからなる層が基材の表面に形成されてなる積層体を提供する。
【解決手段】式:CF3(VdF)n1(CH2m1−Y−(CH2m2(VdF)n2CF3[VdFはフッ化ビニリデン単位;n1およびn2は同じかまたは異なり、いずれも3〜29;m1およびm2は同じかまたは異なり、いずれも2〜8;Yは特定のオルガノシロキサン]で表されるフッ化ビニリデン系化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なフッ化ビニリデン系化合物およびそれからなる層が基材の表面に形成されてなる積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ化ビニリデン系化合物は特異な電気特性を示し、塗料等で用いると優れた耐候性、防汚性を発現する。中でも低分子量(低重合度)のフッ化ビニリデン(VdF)オリゴマーやVdF/トリフルオロエチレン(VdF/TrFE)系共重合体といったVdF系化合物は、たとえばその結晶型を選択することで強誘電性の発現等の電気特性を制御(たとえば特許文献1〜5)できることが知られている。
【0003】
特に特許文献3では、末端に機能性官能基を有するVdF単独重合体やそれを用いた塗料組成物が、基材への密着性や自己組織化性、得られる薄膜の強度や耐熱性を向上させることが記載されている。
【0004】
しかし、これらの基材表面に形成されるVdF系重合体塗膜の密着性の点で改善の余地があった。
【0005】
【特許文献1】国際公開第2004/085498号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2004/086419号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2005/089962号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2006/013701号パンフレット
【特許文献5】特開平9−239315号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、基材との密着性を向上させ得る新規なVdF系化合物およびそれからなる層が基材の表面に形成されてなる積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
式(1):
CF3(VdF)n1(CH2m1−Y−(CH2m2(VdF)n2CF3
[式中、VdFはフッ化ビニリデン単位;n1およびn2は同じかまたは異なり、いずれも3〜29;m1およびm2は同じかまたは異なり、いずれも2〜8;
Yは式(2):
【化1】

(式中、R1、R2、R3およびR4は同じかまたは異なり、いずれも−H、−CH3、−C25、−C37、−OR5、−COOH、−COOR5、−NH3-q5q、−NCOまたはハロゲン原子(ただし、R5は−CH3、−C25または−C37;qは0〜3);pは0〜4)]
で表されるフッ化ビニリデン系化合物に関する。
【0008】
また、本発明は、前記VdF系化合物からなる層が基材の表面に形成されてなる積層体に関する。
【0009】
前記VdF系化合物からなる層は、前記VdF系化合物を含む液状の塗料組成物を基材に塗布して形成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、VdF系化合物の末端ではなく、中心部に式(2)で示される機能性(オルガノシロキサン)部位を有することにより、基材との密着性を向上させた新規なVdF系化合物およびそれからなる層が基材の表面に形成されてなる積層体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のVdF系化合物は、
式(1):
CF3(VdF)n1(CH2m1−Y−(CH2m2(VdF)n2CF3
[式中、VdFはフッ化ビニリデン単位;n1およびn2は同じかまたは異なり、いずれも3〜29;m1およびm2は同じかまたは異なり、いずれも2〜8;
Yは式(2):
【化2】

(式中、R1、R2、R3およびR4は同じかまたは異なり、いずれも−H、−CH3、−C25、−C37、−OR5、−COOH、−COOR5、−NH3-q5q、−NCOまたはハロゲン原子(ただし、R5は−CH3、−C25または−C37;qは0〜3);pは0〜4)]
で表されるものである。
【0012】
式(1)中、VdF単位の繰返し数であるn1およびn2は同じかまたは異なり、いずれも3〜29、好ましくは3〜10である。n1およびn2の少なくとも片方が3未満では、製造が困難になる。また、n1およびn2の少なくとも片方が29をこえると、製造が困難になる。ただし、n1+n2は、製造上容易である点から、6〜58が好ましく、6〜20がより好ましい。
【0013】
VdF単位の繰返しの形により、VdFオリゴマー部分[(VdF)n1および(VdF)n2]の結晶構造がI型、II型およびIII型をとることが知られている。このうち、I型結晶構造をとるときには強誘電性を発現することも知られている。本発明では、このVdFオリゴマー部分の結晶構造は特に問わず、たとえば強誘電性を基材に付与する場合はI型結晶構造に主成分(50モル%以上)をとらせ、VdFオリゴマーのフッ素化合物としての特性(たとえば撥水性や耐候性、防汚性などの性質)を利用する場合は他の結晶構造をとらせればよい。
【0014】
また、式(1)中、m1およびm2は同じかまたは異なり、いずれも2〜8、好ましくは2〜6である。m1およびm2の少なくとも片方が2未満では、製造が困難になる。また、m1およびm2の少なくとも片方が8をこえると、製造が困難になる。ただし、m1+m2は、製造上容易である点から、4〜16が好ましく、4〜12がより好ましい。
【0015】
また、式(2)中、R1、R2、R3およびR4は同じかまたは異なり、いずれも−H、−CH3、−C25、−C37、−OR5、−COOH、−COOR5、−NH3-q5q、−NCOまたはハロゲン原子(ただし、R5は−CH3、−C25または−C37;qは0〜3の整数)である。なかでも、製造上容易である点から、−CH3、−OR5、−COOH、−COOR5、−NH3-q5q、−NCOまたは塩素原子が好ましく、−OR5、塩素原子がより好ましく、メトキシ基、エトキシ基が好ましい。
【0016】
さらに、式(2)中、pは0〜4、好ましくは0〜3である。pが4をこえると、製造上困難となる。
【0017】
本発明のVdF系化合物としては、特に式(3):
【化3】

(式中、R1、R2、R3およびR4は同じかまたは異なり、いずれも−H、−CH3、−C25、−C37、−OR5、−COOH、−COOR5、−NH3-q5q、−NCOまたはハロゲン原子(ただし、R5は−CH3、−C25または−C37;qは0〜3);n1およびn2は同じかまたは異なり、いずれも3〜15;pは0または1である)
で示されるものが好ましく、式(4):
【化4】

(式中、R1、R2、R3およびR4は同じかまたは異なり、いずれも−H、−CH3、−C25、−C37、−OR5、−COOH、−COOR5、−NH3-q5q、−NCOまたはハロゲン原子(ただし、R5は−CH3、−C25または−C37;qは0〜3);n1およびn2は同じかまたは異なり、いずれも3〜10;pは0または1である)
で示されるものがより好ましい。
【0018】
上記の条件を満たすVdF系化合物の好ましい具体例としては、たとえば、
【化5】

【0019】
【化6】

【0020】
【化7】

【0021】
【化8】

【0022】
【化9】

【0023】
【化10】

【0024】
【化11】

【0025】
【化12】

などがあげられ、単独で用いても、混合して用いてもよい。
【0026】
ここで、式(1)で示される本発明のVdF系化合物は、文献未記載の新規化合物である。
【0027】
本発明のVdF系化合物を合成する方法としては、とくに制限されるわけではないが、たとえばビニル基、ヒドロシリル基などの機能性官能基を複数有するシランカップリング剤と、式(5):
CF3−(VdF)n−X
(式中、VdFは前記と同じ;Xはビニル基、ヨウ素原子または臭素原子;nはn1またはn2と同じである)
で示される公知の末端がビニル基、ヨウ素原子または臭素原子のVdF系オリゴマーを反応させる方法などがあげられる。
【0028】
シランカップリング剤が有する機能性官能基としては、製造上の容易さの点から、Xがヨウ素原子または臭素原子の場合にはビニル基が好ましく、Xがビニル基の場合にはヒドロシリル基が好ましい。
【0029】
特にビニル基を有するシランカップリング剤の好ましい具体例としては、たとえば、式(6):
【化13】

(式中、R1、R2、R3、R4およびpは式(2)と同じである)
などがあげられ、とくに
【化14】

などが好ましい。
【0030】
他方の反応物質である式(5)で示される片末端がビニル基、ヨウ素原子または臭素原子のVdF系オリゴマーは公知の化合物であり、たとえば国際公開2004/085498号パンフレット、国際公開2004/086419号パンフレット、国際公開2005/089962号パンフレット、国際公開2006/013701号パンフレットに記載されているような公知の合成方法で製造できる。
【0031】
原料としてのヨウ素原子または臭素原子末端VdF系オリゴマーの結晶構造は、I型結晶構造を単独または主成分(50モル%以上)とするものでも、II型単独でも、I型とII型の混合物でII型を主成分とするものでも、さらにはIII型を含んでいるものでもよい。
【0032】
I型結晶構造を単独または主成分とするVdF系オリゴマーは、たとえば国際公開2004/085498号パンフレット、国際公開2004/086419号パンフレット、国際公開2005/089962号パンフレット、国際公開2006/013701号パンフレットに記載されているものを採用できる。
【0033】
またII型結晶構造を単独または主成分とするVdF系オリゴマーとしては、従来公知のII型結晶構造を単独または主成分として含むヨウ素原子または臭素原子末端のフッ化ビニリデン単独重合体(たとえば松重ら、Jpn. J. Appl. Phys., 39, 6358 (2000))などに記載)を採用することもできる。
【0034】
機能性官能基としてビニル基を有するシランカップリング剤とヨウ素原子または臭素原子末端VdF系オリゴマーとの反応は、溶媒中でラジカル開始剤の存在下に行うことが好ましい。
【0035】
反応溶媒としては、ビニル基含有シランカップリング剤およびヨウ素原子または臭素原子末端VdF系オリゴマーに不活性な溶媒であれば特に限定されず、たとえばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤;酢酸エチル、セロソルブアセテート、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、メチルセロソルブアセテート、酢酸カルビトールなどのエステル系溶剤;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−アミルアルコール、3−ペンタノール、オクチルアルコール、3−メチル−3−メトキシブタノールなどのアルコール系溶剤;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶剤などが利用可能であり、またさらに、CHF2CF2OCHF2、(CF32CFOCH3、CF3CF2CF2OCH3、CHF2CF2OCH3、CF3CF2CH2OCHF2、CF3CFHCF2OCH3、CHF2CF2OCH2CF3、CF3CF2CF2CF2OCH3、CF3CF2CH2OCF2CHF2、(CF32CHCF2OCH3、CF3CFHCF2OCH2CF3、CF3CF2CF2CF2OCH2CH3、CF3CHFCF2OCH2CF2CF3、CF3CHFCF2CH2OCHF2、CHF2CF2CH2OCF2CHF2、CF3CFHCF2OCH2CF2CF2H、CHF2CF2CF2CF2CH2OCH3、C612、C918、C614、CF3CH2CF2CH3、CHF2CF2CF2CHF2、(CF32CFCHFCHFCF3、CF3CHFCHFCF2CF3、(CF32CHCF2CF2CF3、C426、CF3CF2CHF2、CF2ClCF2CF2CHF2、CF3CFClCFClCF3、CF2ClCF2CF2CF2Cl、CF2ClCF2CF2CF2CF2CF2CHF2、CF2ClCFClCFClCF2Cl、HCFC−225,HCFC−141b、CF2ClCFClCFClCF2Cl、CF2ClCF2Cl、CF2ClCFCl2、H(CF2nH(n:1〜20の整数)、CF3O(C24O)nCF2CF3(n:0または1〜10の整数)、N(C493などのフッ素系溶剤も利用できる。
【0036】
ラジカル開始剤としては、パーオキサイド類、アゾ系開始剤などが利用できる。
【0037】
パーオキサイド類としては、例えばn−プロピルパーオキシジカーボネート、i−プロピルパーオキシジカーボネート、n−ブチルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネートなどのパーオキシジカーボネート類;α、α’−ビス(ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルパーオキシネオデカノネイト、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノネイト、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノネイト、t−ヘキシルパーオキシネオデカノネイト、t−ブチルパーオキシネオデカノネイト、t−ヘキシルパーオキシピバレイト、t−ブチルパーオキシピバレイト、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノネート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノネイト、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノネイト、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシマレイックアシッド、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノネイト、t−ブチルパーオキシラウレイト、2,5−ジメチル−2,5−ビス(m−トルオイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネイト、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネイト、t−ヘキシルパーオキシベンゾネート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイル)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシ−m−トルレートとパーオキシベンゾエート混合物、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジt−ブチルパーオキシイソフタレートなどのオキシパーエステル類;イソブチルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、サクシニックアシッドパーオキサイド、m−トルオイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドなどのジアシルパーオキサイド類;1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパンなどのパーオキシケタール類;α、α’−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3などのジアルキルパーオキサイド類;P−メンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイドなどのハイドロパーオキサイド類;過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムなどの過硫酸塩類;その他、過塩素酸類、過酸化水素などがあげられる。
【0038】
また、フッ素原子を有するパーオキサイド類も利用可能であり、含フッ素ジアシルパーオキサイド類、含フッ素パーオキシジカーボネート類、含フッ素パーオキシジエステル類、含フッ素ジアルキルパーオキサイド類から選ばれる1種または2種以上が好ましい。なかでも例えば、ペンタフルオロプロピオノイルパーオキサイド(CF3CF2COO)2、ヘプタフルオロブチリルパーオキサイド(CF3CF2CF2COO)2、7H−ドデカフルオロヘプタノイルパーオキサイド(CHF2CF2CF2CF2CF2CF2COO)2などのジフルオロアシルパーオキサイド類が好ましくあげられる。
【0039】
アゾ系ラジカル重合開始剤としては、例えば2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−シクロプロピルプロピオニトリル)、2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチル、2,2’−アゾビス[2−(ヒドロキシメチル)プロピオニトリル]、4,4’−アゾビス(4−シアノペンテン酸)などがあげられる。
【0040】
ラジカル開始剤の使用量は、使用するヨウ素原子または臭素原子末端VdF系オリゴマー1モルに対し、0.01〜5.0モル、好ましくは0.1〜3.0モルである。
【0041】
反応温度は使用するラジカル開始剤の種類や溶媒の種類によって適宜選択できるが、通常25〜160℃であり、好ましくは30〜80℃である。
【0042】
反応時間は使用するラジカル開始剤の種類や溶媒の種類、仕込んだ原料のモル数によって適宜選択できるが、通常1〜150時間で完了する。
【0043】
シランカップリング剤の機能性官能基がヒドロシリル基である場合は、たとえば、従来から公知の付加反応触媒(白金黒、塩化第二白金、塩化白金酸、塩化白金酸と一価アルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン類との錯体、白金ビスアセトアセテートなどの白金系触媒や、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒などの白金族金属系触媒)を用いた付加反応(ヒドロシリル化反応)などの方法で、ビニル基含有VdF系オリゴマーとカップリングを行うことができる。
【0044】
ビニル基含有シランカップリング剤とヨウ素原子または臭素原子末端VdF系オリゴマーとの反応は、ヨウ素原子または臭素原子末端VdF系オリゴマーをビニル基シランカップリング剤に対して過剰モル量使用するほうが、製造の簡便さの点から好ましい。
【0045】
かかる反応によりVdF系オリゴマーとシランカップリング剤によるカップリングが終了するが、ビニル基含有シランカップリング剤とヨウ素原子または臭素原子末端VdF系オリゴマーとの反応では得られたVdF系化合物中に残存するヨウ素原子(または臭素原子)を除去するために、たとえば亜鉛粉末などの還元剤の存在下で脱水アルコール中で加熱還流を行うことが望ましい。
【0046】
また、ビニル基含有シランカップリング剤とヨウ素原子または臭素原子末端VdF系オリゴマーとの反応では、得られたVdF系化合物中に残存するヨウ素原子または臭素原子は、水素添加反応によっても除去できる。水素添加反応は、例えば接触還元により行うことができ、使用される好適な触媒としては、例えば白金板、酸化白金などの白金触媒、パラジウム黒、パラジウム炭素などのパラジウム触媒、ロジウム黒、ロジウム炭素などのロジウム触媒、ルテニウム黒、ルテニウム炭素などのルテニウム触媒などのような常用のものがあげられる。
【0047】
この水素添加反応は、通常水、メタノール、エタノール、N,N−ジメチルホルムアミド、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、酢酸等の反応やシランカップリング剤が重合する等の悪影響を及ぼさない慣用の溶媒中で室温ないし加熱下に常圧あるいは加圧水素下で反応が行われる。
【0048】
かくして得られる本発明のVdF系化合物は式(2)のオルガノシロキサン構造を有することから、基材への親和性が向上し基材密着性が改善され、基材とVdF系化合物からなる層とが緊密に密着した積層体を提供することができる。
【0049】
したがって、本発明はまた、本発明のVdF系化合物からなる層が基材の表面に形成されてなる積層体にも関する。
【0050】
本発明のVdF系化合物からなる層は、本発明のVdF系化合物を基材に適用して、基材上に薄膜を形成することで形成することができる。
【0051】
本発明において、VdF系化合物からなる層の形成には種々の方法が利用できるが、たとえば、VdF系化合物を液状媒体に溶解または分散させ、塗料組成物(塗料)の形態で塗布する方法(コーティング法);VdF系化合物を粉体の形態で直接基材に塗布する方法(粉体塗布法);VdF系化合物の粉体を真空下および/または加熱下において昇華させ、蒸着により被覆する方法(真空蒸着法)などが好ましく利用できる。
【0052】
本発明のVdF系化合物を用いて塗料組成物(塗料)の形態で塗布する方法において使用する液状媒体としては、VdF系化合物を溶解または均一に分散させることができるものが利用できる。なかでも、薄層被膜の膜厚をコントロールするためにはVdF系化合物を溶解させる液状媒体が好ましい。
【0053】
そうした液状媒体としては、たとえば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセチルアセトンなどのケトン系溶剤;酢酸エチル、セロソルブアセテート、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、メチルセロソルブアセテート、酢酸カルビトール、ジブチルフタレートなどのエステル系溶剤;ベンズアルデヒドなどのアルデヒド系溶剤;ジメチルアミン、ジブチルアミン、ジメチルアニリン、メチルアミン、ベンジルアミンなどのアミン系溶剤;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどのアミド系溶剤;無水酢酸などのカルボン酸無水物系溶剤;酢酸などのカルボン酸系溶剤;クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタンなどのハロゲン系溶剤;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶剤;ジメチルスルホキシドなどのスルホンアミド系溶剤などが好ましい。
【0054】
なかでも、ケトン系溶媒、アミド系溶媒がフッ化ビニリデン単独重合体を良好に溶解させる点で好ましい。
【0055】
また、VdF系化合物が微粒子の形状で媒体中に安定に均一分散したものであれば液状溶媒に不溶であっても薄膜の形成が可能である。たとえば、VdF系化合物の水性分散体などが利用可能である。
【0056】
これらの塗料組成物におけるVdF系化合物の濃度は、目的とする膜厚や塗料組成物の粘度などによって異なるが、0.1質量%以上、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上であり、50質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。
【0057】
これらの塗料組成物を用いて基材に塗布する方法としては、浸漬法、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、グラビアコート法などの公知の塗装方法が採用可能であり、なかでも薄膜を効率よく形成する方法として、浸漬法、ディップコート法、スピンコート法、グラビアコート法などが好ましく、特にディップコート法、スピンコート法が好ましい。
【0058】
基材に塗布する際の温度は、広い範囲で選定できるが基板密着性が向上し、液状媒体の沸点が適切な点から、10〜150℃が好ましい。また、基材に塗布し溶液を基材と接触させる時間は、広い範囲で選定できるが、基板密着性向上の点から、1分〜30時間が好ましい。
【0059】
塗布法を用いる場合は、たとえば、ゾル−ゲル法などを用いて式(1)で示されるフッ化ビニリデン系化合物が互いに縮合反応することにより、または式(1)で示されるフッ化ビニリデン系化合物が他の化合物と縮合反応することにより、アルキレンシロキサン結合を介して結合していてもよい。
【0060】
たとえば、VdF系化合物として、式(7):
【化15】

(式中、n1、n2、m1およびm2は式(1)と同じである)
で示されるものをアルミニウム基板上に塗布した場合には、基板表面のアルミナ層の水酸基(OH基)とVdF系化合物が有するエトキシ基の一部が相互作用して基板に吸着し、残りのエトキシ基が他のVdF系化合物のエトキシ基と縮合反応し、たとえば式(8):
【化16】

(式中、n1、n2、m1およびm2は式(1)と同じである)
で示されるような構造をとっていてもよい。
【0061】
この場合、塗布前から本発明のVdF系化合物同士がシロキサン結合で結合しているものを塗布してもよいし、複数回塗布することにより、たとえば式(8)で示されるような構造をとっていてもよい。
【0062】
上記の方法で塗布した後、溶媒を除去するための乾燥工程を行ってもよい。乾燥方法としては、たとえば室温での風乾、加熱乾燥、真空乾燥などが採用できる。加熱乾燥する場合は、VdF系化合物の融点を下回る温度での加熱乾燥が好ましい。加熱による乾燥の温度は、使用する溶媒の沸点などによって異なるが、好ましくは30℃以上、より好ましくは40℃以上、さらに好ましくは50℃以上であり、好ましくは150℃以下、より好ましくは100℃以下、さらに好ましくは80℃以下である。
【0063】
乾燥工程の前後で、塗膜表面もしくは塗膜中に残存する溶剤や不純物を除去するために、溶剤中で膜形成後に超音波等を用いて洗浄を行ってもよい。
【0064】
また、真空蒸着装置を用い、真空蒸着法によって基材に薄膜を形成する方法も好ましい。
【0065】
真空蒸着時における温度や真空度はVdF系化合物の重合度や昇華性などによって適宜選択されるが、蒸着温度は室温(25℃)〜200℃が好ましく、100℃以下がより好ましい。基材温度は0〜100℃が好ましく、室温(25℃)以上、そして50℃以下がより好ましい。真空度は10-2Pa以下が好ましく、10-4Pa以下がより好ましい。
【0066】
基材は、表面に反応性基を有し、VdF系化合物が有するR1〜R4のいずれかとたとえば縮合反応のような相互作用を持つものであれば、とくに制限なく使用することができ、表面にヒドロキシル基を有するものが好ましく、とくに、ガラス系基材、金属系基材、樹脂系基材が好ましい。なかでも、VdF系化合物からなる層と接触される面がSiO2、A123、InO2、SnO2、ZrO2、TiO2またはHfO2で被覆されている基材、ITO(インジウムチンオキサイド)、酸化亜鉛薄膜、ガラスなどの酸化物系透明基板や、スズ、インジウム、アルミニウム、銅、クロム、チタニウム、鉄、ニッケル、シリコンなどの金属からなる基板であって、これら金属の自然酸化膜を表面に有するものや、ヒドロキシ基を有するカップリング剤が結合されたAu、Ag、CuまたはPtで被覆されている基材が、該表面にVdF系化合物からなる層が結合を含む相互作用しやすいことから好ましい。これらの基材およびその表面処理法については特開2004−89902号公報に記載されている技術を採用することができる。
【0067】
VdF系化合物からなる層の厚さは、目的とする積層体の狙いと用途、形成方法などによって適宜選択されるが、通常0.5nm以上、好ましくは5nm以上、特に好ましくは10nm以上であり、10μm以下、好ましくは1μm以下、特に好ましくは500nm以下程度である。
【0068】
このようにして得られた本発明の積層体は、機械的強度が向上し、耐熱性も高くなるので、環境耐性が高い塗料、離形剤、電極などの金属の表面処理剤、高性能なFE−RAM、赤外線センサー、マイクロホン、スピーカー、音声付ポスター、ヘッドホン、電子楽器、人工触覚、脈拍計、補聴器、血圧計、心音計、超音波診断装置、超音波顕微鏡、超音波ハイパーサーミア、サーモグラフィー、微小地震計、土砂崩予知計、近接警報(距離計)侵入者検出装置、キーボードスイッチ、水中通信バイモルフ型表示器、ソナー、光シャッター、光ファイバー電圧計、ハイドロホン、超音波光変調偏向装置、超音波遅延線、超音波カメラ、POSFET、加速度計、工具異常センサ、AE検出、ロボット用センサ、衝撃センサ、流量計、振動計、超音波探傷、超音波厚み計、火災報知器、侵入者検出、焦電ビジコン、複写機、タッチパネル、吸発熱反応検出装置、光強度変調素子、光位相変調素子、光回路切換素子などの圧電性、焦電性、電気光学効果または非線形光学効果を利用したデバイスに利用可能である。
【実施例】
【0069】
つぎに本発明を合成例、実施例などをあげて説明するが、本発明はかかる例のみに限定されるものではない。
【0070】
まず、本発明の説明で使用するパラメーターの測定法について説明する。
【0071】
(1)CF3(VdF)nIの重合度(n)
19F−NMRより求める。具体的には、−61ppm付近のピーク面積(CF3−由来)と、−90〜−96ppm付近のピーク面積(−CF2−CH2−由来)からつぎの計算式で算出する。
(重合度)=((−90〜−96ppm付近のピーク面積)/2)/((−61ppm付近のピーク面積)/3)
【0072】
(2)1H−NMRおよび19F−NMR分析
(2−1)測定条件
VdFオリゴマー粉末10〜20mgをd6−アセトン中に溶解し、得られたサンプルをプローブにセットして測定する。
(2−2)測定装置
Bruker社製のAC−300P
【0073】
(3)X線光電子分析(ESCA)分析
X線光電子分析装置(株)島津製作所製のESCA−3400(3−2)
【0074】
(4)接触角
接触角計:協和界面科学(株)製の接触角計 CA−DT・A型
【0075】
実施例1:VdF系化合物の合成
比較例1−1(重合度9.6の比較用のVdF系化合物(CF3(VdF)9.6I)の合成)
バルブ、圧力ゲージ、温度計を備えた300ml容のステンレススチール製オートクレーブに、HCFC−225を50g入れ、ドライアイス/メタノール溶液で冷却しながら、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネイト(50重量%メタノール溶液)0.92gを加え、系内をチッ素ガスで充分置換した。系内を減圧にした後、バルブからCF3Iを6.1g仕込み、系を45℃まで昇温の後、VdFを系内圧が0.8MPaGになるまで仕込み、系内圧0.8MPaG、系内温度を45℃に維持しながらVdFを連続供給し、9時間反応を行なった。
【0076】
反応終了後、系内温度を25℃まで冷却し、未反応物(VdFとCF3I)を放出した後、析出した反応固形物(以下、「VdFオリゴマー」という)を取り出し、デシケーター内で恒量になるまで真空乾燥し、VdFオリゴマー13.2gを得た。
【0077】
このVdFオリゴマーを19F−NMRにより分析し、VdFの重合度(n)を求めたところ、重合度(n)は9.6であった。
【0078】
実施例1−1(重合度9.6の本発明のVdF系化合物の合成)
比較例1−1で合成したCF3(VdF)nI(n=9.6)4.48g、ラジカル開始剤として2,2−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.16gを200mlの4ツ口フラスコに仕込んだ。反応系内をチッ素で充分に置換した後、脱水酢酸エチル60mlを、シリンジを用いて4ツ口フラスコ内に注入した。フラスコをオイルバスに浸し、65℃で加熱攪拌しながら、0.2mlの1,3−テトラエトキシジビニルジシロキサンを1時間おきに5回(合計1.0ml)仕込み、その後さらに5時間保持した。
【0079】
反応後、系内温度を25℃まで放冷し、シリンジで反応液の一部を取り出し、19F−NMRより分析したところ、CF3(CH2CF2nI(n=9.6)の末端CF2I由来の−42ppm付近のピークが大幅に減少していた。また、1H−NMRにおいては、ビニル基由来の6.2〜5.8ppm付近のピークが大幅に減少し、生成されたメチレンプロトンおよびメチンプロトンに由来する4.0〜3.0ppm付近のピークが生じていた。これらの結果から、反応液内の固形物は、VdFオリゴマーのジシロキサン架橋体であることが確認された。
【0080】
さらに、フラスコ内の反応混合液に亜鉛粉末10.0g、脱水エタノール20mlを仕込み、加熱還流を5時間行った。反応後、フラスコ内部の反応混合液を熱時ろ過し、亜鉛粉末を取り除いた後、溶媒を減圧留去した。得られた反応固形物を少量の脱水アセトンに溶解し、そこに脱水ヘキサンを加えて、反応固形物を再沈殿させた。再沈殿した反応固形物を吸引濾過して取り出し、固形物を真空乾燥し、1.26gを得た。反応固形物の1H−NMRより、メチンプロトンのピークが消滅していたことから、脱ヨウ素化された本発明のVdF系化合物:
【化17】

であることを確認した。
【0081】
比較例1−2(重合度6の比較用のVdF系化合物の合成)
バルブ、圧力ゲージ、温度計を備えた300ml容のステンレススチール製オートクレーブに、HCFC−225を50g入れ、ドライアイス/メタノール溶液で冷却しながら、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネイト(50重量%メタノール溶液)1.47gを加え、系内をチッ素ガスで充分置換した。系内を減圧にした後、バルブからCF3Iを10g仕込み、系を45℃まで昇温の後、VdFを系内圧が0.8MPaGになるまで仕込み、系内圧0.8MPaG、系内温度を45℃に維持しながらVdFを連続供給し、9時間反応を行なった。
【0082】
反応終了後、系内温度を25℃まで冷却し、未反応物(VdFとCF3I)を放出した後、析出した反応固形物(以下、「VdFオリゴマー」という)を取り出し、デシケーター内で恒量になるまで真空乾燥し、VdFオリゴマー21.1gを得た。
【0083】
このVdFオリゴマーを19F−NMRにより分析し、VdFの重合度(n)を求めたところ、重合度(n)は6であった。
【0084】
実施例1−2(重合度6の本発明のVdF系化合物の合成)
比較例1−2で合成したCF3(VdF)nI(n=6)4.0g、ラジカル開始剤として2,2−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.20gを100mlの4ツ口フラスコに仕込んだ。反応系内をチッ素で充分に置換した後、脱水酢酸エチル30mlを、シリンジを用いて4ツ口フラスコ内に注入した。フラスコをオイルバスに浸し、65℃で加熱攪拌しながら、0.25mlの1,3−テトラエトキシジビニルジシロキサンを1時間おきに5回(合計1.25ml)仕込み、その後さらに5時間保持した。
【0085】
反応後、系内温度を25℃まで放冷し、シリンジで反応液の一部を取り出し、19F−NMRより分析したところ、CF3(CH2CF2nI(n=6)の末端CF2I由来の−42ppm付近のピークが大幅に減少していた。また、1H−NMRにおいては、ビニル基由来の6.2〜5.8ppm付近のピークが大幅に減少し、生成されたメチレンプロトンおよびメチンプロトンに由来する4.0〜3.0ppm付近のピークが生じていた。これらの結果から、反応液内の固形物は、VdFオリゴマーのジシロキサン架橋体であることが確認された。
【0086】
さらに、フラスコ内の反応混合液に亜鉛粉末10.0g、脱水エタノール40mlを仕込み、加熱還流を5時間行った。反応後、フラスコ内部の反応混合液を熱時ろ過し、亜鉛粉末を取り除いた後、溶媒を減圧留去した。得られた反応固形物を少量の脱水アセトンに溶解し、そこに脱水ヘキサンを加えて、反応固形物を再沈殿させた。再沈殿した反応固形物を吸引濾過して取り出し、固形物を真空乾燥し、1.0gを得た。反応固形物の1H−NMRより、メチンプロトンのピークが消滅していたことから、脱ヨウ素化された本発明のVdF系化合物:
【化18】

であることを確認した。
【0087】
実施例2:積層体の製造
表面に酸化膜のあるシリコンウエハ基板の表面に真空蒸着法により、アルミニウム薄膜を作成した。その基板を3cm角の大きさに切断し、アセトン中で洗浄後、ただちにエアースプレーでアセトンを除去し、水の接触角を測定した。ホットプレート上で50℃または70℃に保持した前記基板上に、実施例1−1で合成したVdF系化合物のジメチルホルムアミド溶液(濃度10質量%)をキャスト法により塗布した後10分間放置してVdF系化合物の塗膜を基板上に形成した。
【0088】
また、比較実験データとして、比較例1−1で合成したVdF系化合物のジメチルホルムアミド溶液(濃度10質量%)を25℃でキャスト法により塗布した後10分間放置してVdF系化合物の塗膜を基板上に形成した。
【0089】
得られた積層体の塗膜表面の状態を、対水接触角を測定することにより確認した。
【0090】
すなわち、得られたVdF系化合物塗膜の表面をアセトンで洗浄し、エアースプレーでアセトンを除去した後、塗膜の対水接触角を測定した。さらに、アセトンに浸して超音波洗浄を1分間または5分間行いエアースプレー後、塗膜の対水接触角を測定した。
【0091】
結果を表1に示す。
【0092】
【表1】

【0093】
表1からわかるように、実施例1−1のVdF系化合物の塗膜を形成する前に比べて塗布後は対水接触角が大きくなり、超音波洗浄しても変わらなかった。このことから、VdF系化合物の塗膜が強固に基板表面に密着していることがわかる。
【0094】
次いで、実施例1−1のVdF系化合物を塗布し、超音波洗浄を行った後の基材表面をESCAにより構成元素の測定を行った。すると、VdF系化合物由来のF原子とCF結合、CH結合が確認された。アルミニウム薄膜表面についてはAl23層の存在が確認されたので、基材のAl23層表面のOH基とVdF系化合物中のエトキシ基由来の酸素原子とが相互作用して、基材表面に密着しているものと考えられる。これらの結果から本発明のVdF系オリゴマーの積層体が形成されていることがわかった。
【0095】
また、比較実験として、室温にて比較例1−1で合成したVdF系化合物の塗膜を形成した場合、末端ヨウ素のVdF系オリゴマー塗布では接触角は小さく、超音波洗浄後は何も塗布していない基板表面の接触角とほとんど変化がなかった。
【0096】
さらに、ESCAにて上記基板の超音波洗浄後に基板表面の構成元素について測定を行ったが、VdF系化合物由来のCF3、CF2結合は見られず、また、F原子もほとんど観測されなかった。これらの結果から末端ヨウ素のVdF系オリゴマーの積層体は形成されていないことがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
CF3(VdF)n1(CH2m1−Y−(CH2m2(VdF)n2CF3
[式中、VdFはフッ化ビニリデン単位;n1およびn2は同じかまたは異なり、いずれも3〜29;m1およびm2は同じかまたは異なり、いずれも2〜8;
Yは式(2):
【化1】

(式中、R1、R2、R3およびR4は同じかまたは異なり、いずれも−H、−CH3、−C25、−C37、−OR5、−COOH、−COOR5、−NH3-q5q、−NCOまたはハロゲン原子(ただし、R5は−CH3、−C25または−C37;qは0〜3);pは0〜4)]
で表されるフッ化ビニリデン系化合物。
【請求項2】
請求項1記載のフッ化ビニリデン系化合物からなる層が基材の表面に形成されてなる積層体。
【請求項3】
フッ化ビニリデン系化合物からなる層が、請求項1記載のフッ化ビニリデン系化合物を含む液状の塗料組成物を基材に塗布して形成されてなる請求項2記載の積層体。

【公開番号】特開2009−137842(P2009−137842A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−312580(P2007−312580)
【出願日】平成19年12月3日(2007.12.3)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】