説明

フッ化水素酸、塩酸およびケイフッ化水素酸を含有する廃液から酸成分を分離・回収する方法およびその装置

【解決手段】フッ化水素酸、塩酸、ケイフッ化水素酸およびホウフッ化水素酸を含む廃液を、常圧もしくは減圧下における蒸留操作により、酸をほとんど含まない水、ケイフッ化水素酸をほとんど含まないフッ化水素酸と塩酸の混合水溶液、および、塩酸を含まずフッ化水素酸とケイフッ化水素酸を含む水溶液の順に留出させる。ホウフッ化水素酸またはホウ素分は釜残に残す。
【効果】フッ化水素、塩酸、ケイフッ化水素酸を効率よく分離・回収できる。フッ化水素と塩酸を含む水溶液は、ガラスのケミカルエッチング処理液として再利用できる。ケイフッ化水素酸を含む水溶液は、市販用のケイフッ化水素酸、および、ケイフッ化物の合成原料として再利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
近年、電子産業の発展とともに、フラットパネルディスプレイやウェハーなどケイ酸を主成分とする材料のケミカルエッチングやケミカルクリーニング等の分野で、フッ化水素酸またはフッ化水素酸に他の酸類を配合した溶液の使用が増大している。
それとともに、使用後の廃酸量も増加しており、地球環境保全の観点からその適切な処理、とりわけ廃酸中に残留している未反応酸や反応生成物などの有価物を、効率的に回収・再利用できる技術の確立が望まれている。
【0002】
本発明は、これらの用途から排出される、フッ化水素酸、塩酸およびケイフッ化水素酸を含有する廃液の処理方法とその装置に関し、特に、蒸留法によりフッ化水素酸と塩酸を主成分とする留分と、塩酸をほとんど含まずフッ化水素酸とケイフッ化水素酸を主成分とする留分とに分離して回収し、工業的に再利用可能な有価成分を分離・回収する方法とその装置に関する。
【背景技術】
【0003】
一般にフッ化水素酸やフッ素化合物を含む廃液の処理には、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸カルシウムなどのカルシウム化合物と反応させ、難溶性のフッ化カルシウムとして固定化する方法が用いられる。廃液にホウ素を含有する場合には、カルシウム化合物による処理だけではホウフッ化物は固定化できないため、アルミニウム化合物を用いたホウフッ化物の分解処理(例えば、特許文献1参照)が必要となる。
【0004】
【特許文献1】特公昭54−5628号公報(森田化学工業株式会社、発明の名称:ホウフッ素物を含む廃液中のフッ素固定方法)
【0005】
しかし、このような処理で生成したフッ化カルシウムなどは、粒径が非常に細かく、そのままではほとんど濾過できないため凝集剤を用いてフロックにし、シックナーなどで沈降分離したのち、沈降したスラリーはフィルタープレスなどの濾過を行っている。濾過後の水分が50〜60%もあり、さらに、不純物を多量に含むため産業用として再利用できないだけでなく、そのボリュームも大きいためその処分が問題となっている。
【0006】
また、特許文献に2には、フッ化水素酸とケイフッ化水素酸を含む使用後のガラス洗浄液に、ナトリウム化合物やカリウム化合物を加え、難溶性のケイフッ化ナトリウムやケイフッ化カリウムを析出させて分離し、処理後の液をガラス洗浄液として再生させる方法が開示されている。しかし、この方法は、ガラス洗浄液として再生・再利用するには有効であるが、分離回収したケイフッ化ナトリウムやケイフッ化カリウムは不純物を含んでおり、工業的に再利用するのは困難なため、結局産業廃棄物として処分せざるをえないという問題がある。
【0007】
【特許文献2】特許第3623663号公報(松下電器産業株式会社・株式会社化研、発明の名称:ガラス洗浄用溶液の再生方法と再生装置、および珪酸塩ガラスの洗浄方法と洗浄装置)
【0008】
さらに、特許文献3には、フッ化水素酸とケイフッ化水素酸やホウフッ化水素酸等を含む廃液のフッ素処理方法として、該廃液に塩化ナトリウムや塩化カリウムを加え、ケイフッ化水素酸を難溶性のケイフッ化化合物として固定化した後、カルシウム塩を加えてフッ素を固定化するか、ホウフッ化水素酸を含む場合は、あらかじめアルミニウム化合物を加えてホウフッ化物をホウ酸とフッ化物に分解した後、カルシウム塩を加えてフッ素を除去する方法が開示されている。
【0009】
【特許文献3】特許第3635643号公報(西山ステンレスケミカル株式会社、発明の名称:廃液の処理方法)
【0010】
しかしながら、この方法は、フッ素含有廃液からフッ素を除去する方法としては有効であるが、特許文献2と同様の理由で、固定化分離したフッ素のカルシウム化合物の再利用が困難で、産業廃棄物として処分するしかないという問題がある。
【0011】
一方、最近、ガラスのケミカルエッチング廃液からフッ化水素酸を分離・回収する手段として、蒸留法を適用する試みが特許文献4や特許文献5に開示されている。
しかしながら、これらの文献では、塩酸が共存する場合やケイフッ化水素酸が共存する場合の蒸留特性などについては言及されていない。
【0012】
【特許文献4】特開2006−76811号公報(三菱化学エンジニアリング株式会社・菱化フォワード株式会社・日本リファイン株式会社、発明の名称:フッ酸の回収方法)
【0013】
【特許文献5】特開2006−111487号公報(三菱化学エンジニアリング株式会社・菱化フォワード株式会社・日本リファイン株式会社、発明の名称:フッ酸の回収方法)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、以上のような化学的処理を主体とする背景技術では成し得ず、かつ背景技術で述べた問題点を解消し、フッ化水素酸、塩酸およびケイフッ化水素酸を含有する廃液から、再利用可能なフッ化水素酸および塩酸ならびにケイフッ化水素酸を効率よく分離・回収する方法とその装置とを提供することを目的とする。
【0015】
一般に、ガラスのケミカルエッチングには、フッ化水素酸やフッ化アンモニウム等のフッ化物を主成分とし、これに塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸を配合したエッチング液が多く用いられる。これら各種成分の種類や配合比はエッチングメーカーのノウハウとしてブラックボックス化されているが、いずれの場合も、決められた成分の濃厚原液を決められた濃度となるように混合して、すなわち、エッチング液を調整して用いるのが一般的である。
【0016】
本発明では、これらのうちフッ化水素酸と塩酸を主要成分とするケミカルエッチング液の使用済み廃液を主たる対象とし、各成分の配合比には左右されずに未反応成分や有価物を分離・回収できる方法とその装置とを提供するものである。
【0017】
一方、本発明では、ケミカルエッチングの対象となるガラスの種類は特に限定されるものではなく、例えば、フラットパネルディスプレイ用に用いられるアルミノホウケイ酸ガラスのケミカルエッチング廃液に適用できる。
【0018】
アルミノホウケイ酸ガラスの構成成分は、SiO、Al、B、CaO、MgO、BaO、SrOなどから成り、それらをフッ化水素酸を含む液でエッチングすると、次式のような反応により各種のフッ素化合物を生成する。
(反応式)
SiO + 6HF → HSiF + 2HO (1)
+ 8HF → 2HBF + 3HO (2)
Al + 6HF → 2AlF + 3HO (3)
MgO + 2HF → MgF + HO (4)
CaO + 2HF → CaF + HO (5)
SrO + 2HF → SrF + HO (6)
【0019】
これらフッ素化合物のうち、Al、Ca、Mg、Sr、Baのフッ素化合物の一部もしくはほとんどは難溶性塩として析出するが、ケイフッ化水素酸(HSiF)および四フッ化ホウ素酸(HBF)は、析出することなくエッチング廃液中に溶解した状態で存在することになる。したがって、本発明においては、ケミカルエッチング廃液中の未反応のフッ化水素酸や塩酸を分離・回収するとともに、有価物であるケイフッ化水素酸を純度の高い状態で分離・回収することも重要な課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0020】
一般に、フッ化水素酸や塩酸のような揮発性の酸は、他の不揮発性の酸例えば硫酸やリン酸または塩類が共存することにより、揮発しやすさ(揮発度)が変化することが知られている。そこで、本発明者らはこの知見に着目し、蒸留法による揮発分離特性を鋭意検討した結果、上記ケミカルエッチング廃液中にケイフッ化水素酸が共存することによっても、フッ化水素酸や塩酸の揮発特性が変化することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0021】
すなわち、模擬廃液として、フッ化水素酸5%、塩酸2%およびケイフッ化水素酸10%を含有する溶液を、市販の各酸の濃厚原液を用いて調製し、フッ素樹脂製の単蒸留装置を用い大気圧下で蒸留試験を行った結果、表1に示すデータを得た。
【0022】
【表1】

【0023】
表1の留分1と留分2の酸濃度組成を比較すれば明らかなように、塩酸は、蒸留初期(留分1)はフッ化水素酸より揮発しにくいが、被蒸留液中のケイフッ化水素酸が濃縮された状態で蒸留された留分2では、塩酸とフッ化水素酸の濃度が逆転し、フッ化水素酸より塩酸の方が揮発しやすくなっていることが分かる。
【0024】
さらに蒸留を続けると、留分3ではフッ化水素酸や塩酸とともにケイフッ化水素酸の揮発が起こり、最後に残った釜残には塩酸はほとんどなく、フッ化水素酸と高濃度のケイフッ化水素酸が残ることが確認され、留分分画をさらに最適化することにより、所望の酸を選択的に含む留分を効率的に分離・回収できる可能性を見出した。また、表1と同一組成の調製液にホウフッ化水素酸を1%添加して単蒸留した結果、表1とほぼ同様の結果が得られ、ホウフッ化水素酸は揮発せずに釜残中に残ることも確認することができた。
【0025】
これらの結果を基に、本発明(第1の発明)では、フッ化水素酸、塩酸およびケイフッ化水素酸を含む廃液から酸成分を分離・回収するに当って、前記廃液を常圧もしくは減圧下における蒸留操作によって、酸をほとんど含まない水主体の留分、ケイフッ化水素酸をほとんど含まずフッ化水素酸と塩酸を主成分として含む留分、ならびに塩酸をほとんど含まずフッ加水素酸とケイフッ化フッ化水素酸を主成分として含む釜残とに、順次分離して回収する。
【0026】
蒸留は常圧もしくは減圧のいずれの条件で行なうことができるが、温度を80℃以下で操作できる減圧条件(100mmHg以下)で実施すれば、フッ素樹脂等の高価な装置材料を必要とせず、ポリエチレン、ポリプロピレンや耐熱ポリ塩化ビニール等の安価な材料を選択できるので有利である。
【0027】
前記の場合において、前記塩酸をほとんど含まずフッ化水素酸とケイフッ化水素酸を主成分として含む釜残に、硫酸またはリン酸の一種もしくは二種を添加して常圧または減圧下で蒸留し、初留分を分離・回収した後、塩酸含有量がさらに少なくフッ化水素酸とケイフッ化水素酸を主成分として含む留分を分離・回収するとよい。
【0028】
これらの場合において、釜残液に硫酸および/またはリン酸を加え、揮発成分の揮発度を高めて蒸留することにより、残留しているほとんどの塩酸およびフッ化水素酸の一部を初留分として分離除去し、フッ化水素酸とケイフッ化水素酸を主成分として含む留分を回収することができる。添加する硫酸または/およびリン酸の濃度は、合計で5〜50%、好ましくは5〜30%でよく、硫酸およびリン酸は不揮性であってそのまま釜残に残るので、繰り返し利用することも可能である。
【0029】
また、本発明(第2の発明)では、前記の場合において分離・回収した、塩酸をほとんど含まずフッ化水素酸とケイフッ化水素酸を主成分として含む釜残もしくは留分に、酸化ケイ素を加え、共存するフッ化水素酸をケイフッ化水素酸に変換して、ケイフッ化水素酸を主成分とする溶液を調製する。
【0030】
すなわち、第2の発明は、分離・回収するケイフッ化水素酸溶液の純度と濃度を高めることを目的としており、フッ化水素酸と酸化ケイ素との反応によりケイフッ化水素酸が生成することを利用している。添加する酸化ケイ素は、溶存するフッ化水素酸との反応等量分で十分である。
【0031】
前記いずれかの場合において、廃液中にアルミニウムを含有する系で蒸留により濃縮されて発生し釜残に析出するフッ化アルミニウム・3水和物を濾過手段により分離して有価物を回収することができる。回収したフッ化アルミニウム・3水和物は、純度が高いので工業的に再利用が可能である。
【0032】
本発明による蒸留法により分離された、フッ化水素酸と塩酸を含む回収酸は、工業用酸原液と同等の酸液として再利用が可能であり、実際にケミカルエッチング液に問題なく適用できることが確認されている。
【0033】
前記いずれかの場合において、フッ化水素酸、塩酸およびケイフッ化水素酸を含む廃液は、ガラスのケミカルエッチング廃液として利用することができる。これらの場合において回収されたフッ化水素酸および塩酸を主成分とする回収酸は、ガラスのケミカルエッチング液として再利用することができる。
【0034】
一方、本発明(第3の発明)は、フッ化水素酸、塩酸およびケイフッ化水素酸を含む廃液から酸成分を分離・回収するための常圧または減圧蒸留装置であって、蒸発缶、精留塔、初留受器、フッ化水素酸および塩酸の混合酸回収槽ならびに後留受器を備えたことを特徴とする。
【0035】
この場合において、釜残液に含まれる固形物を濾別する手段を備えていることが好ましい。この装置を用いて分離・回収される固形物は、高純度のフッ化アルミニウム・3水和物であり、工業的に再利用が可能である。
【0036】
そして、前記固形物を濾別する手段の後段に、濾液に硫酸またはリン酸の一種もしくは二種を添加して蒸留する蒸発缶、精留塔、初留受器ならびにケイフッ化水素酸回収槽を備えていることが望ましい。
【発明の効果】
【0037】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法および請求項6〜8のいずれかに記載の装置を用いて、フッ化水素酸、塩酸およびケイフッ化水素酸を含む廃液から酸成分を分離・回収することにより、少なくともフッ化水素酸と塩酸を含む酸を効率よく回収することができる。この回収酸はケミカルエッチング液はもとより工業用酸液として再利用でき、高濃度・高純度のケイフッ化水素酸含有酸および高純度のフッ化アルミニウム・3水和物は工業的に再利用が可能であるとともに、産業廃棄物の量を著しく低減することができ、環境対策に大きく貢献できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
供試液として、フッ化水素酸6.0%、塩酸2.3%およびケイフッ化水素酸11.5%、ホウフッ化水素酸1.1%などを含むアルミノホウケイ酸ガラスのケミカルエッチング廃液を使用した。
図1は、ケミカルエッチング廃液の蒸留処理のためのベンチプラント図を示す。
ケミカルエッチング廃液を蒸発缶1に約5kgを仕込み、凝縮器3および凝縮器4に冷却水を流す。真空ポンプ9を作動させて系内を80mmHgに保持したのち、蒸発缶1の熱交換器に0.1MPaに減圧したスチームを一定速度で流して加熱して減圧蒸留を開始した。留出物は精留塔2に入り、凝縮器3および4で凝縮される。凝縮液の一部は精留塔2に戻して還流させ、残りは初留受器5、HCl−HF回収槽6、後留受器7の順に抜き出した。蒸留後、真空ポンプ9を停止し、系内を常圧に戻す。初留受器5中の液は酸分が1%以下でありそのまま通常の排水処理を行った。HCl−HF回収槽6中の液はケイフッ化水素酸をほとんど含まずフッ化水素酸と塩酸を主成分として含んでおり、抜き出した後、塩酸とフッ化水素酸濃度を調整してケミカルエッチング液として再利用する。HCl−HF回収槽6中の液は相当量のケイフッ化フッ化水素酸を含んでいるため、好ましくは蒸発缶1に戻して再度蒸留する。蒸発缶1に残った釜残は、フッ化アルミニウム・3水和物を含むスラリーで、濾過器10でフッ化アルミニウム・3水和物を濾別・回収し、塩酸をほとんど含まずフッ化水素酸とケイフッ化水素酸を主成分として含む濾液を粗製HSiF貯槽11に回収する。
【0039】
図2は、エッチング廃液の蒸留処理で釜残として回収した粗製HSiFの蒸留処理のためのベンチプラント図を示す。
ケミカルエッチング廃液の蒸留処理で得られた、塩酸をほとんど含まずフッ化水素酸とケイフッ化水素酸を主成分として含む粗製HSiF4.0Kgと硫酸またはリン酸の一種もしくは二種を1.0kgテフロン(登録商標)製熱交換器を備えた蒸発缶13に仕込み、凝縮器15および凝縮器16に冷却水を流す。真空ポンプ20を作動させて系内を80mmHgに保持したのち、蒸発缶13の熱交換器に0.1MPaに減圧したスチームを一定速度で流して加熱して減圧蒸留を開始した。留出物は精留塔14に入り、凝縮器15および16で凝縮される。凝縮液の一部は蒸発缶13に戻して還流させ、残りは初留受器17、HSiF回収槽18の順に抜き出した。蒸留後、真空ポンプ20を停止し、系内を常圧に戻す。初留受器17中の液は0.5〜2.0%の塩酸を含んでおり、ケイフッ化水素酸の原料に使用できないため、蒸発缶13に戻しエッチング廃液と共に再蒸留する。HSiF回収槽18中の液は塩酸含量0.01%以下であり抜き出してから酸化ケイ素SiOを加え、共存するフッ化水素酸をケイフッ化水素酸に変換して、ケイフッ化水素酸溶液を調製する。
【実施例】
【0040】
(実施例1:請求項1および請求項4の実施例)
図1に示す装置を用い、フッ化水素酸6.0%、塩酸2.3%およびケイフッ化水素酸11.5%、ホウフッ化水素酸1.1%などを含むアルミノホウケイ酸ガラスのケミカルエッチング実廃液5.0kgの蒸留試験を、80mmHgの減圧下、50〜70℃の条件で行った。得られた留分および釜残の分析結果を、表2に示す。
表2から分かるように、フッ化水素酸と塩酸の合計濃度が約1%の初留分1,460gと、フッ化水素酸と塩酸の合計濃度が約12%の主留分1,990gおよびケイフッ化水素酸を主成分とする後留および釜残とに分離・回収することができている。このときの釜残液の組成は、塩酸0.2%で、フッ化水素酸10.2%、ケイフッ化水素酸は38.3%と高濃度を有していた。さらに釜残には、スラリー状で高純度のフッ化アルミニウム・3水和物が含まれ、これを通常の濾過操作で27gを容易に回収することができた。
【0041】
【表2】

【0042】
新たな供試液4.5kgに前回の後留分650gを加えて蒸留を行い、発生した後留分を次に回す操作を繰り返し計18回の減圧蒸留を行った。得られた留分および釜残の分析結果を、表3に示す。
【0043】
【表3】

【0044】
主留分を回収し、フッ酸および水を加えて、塩酸2.5%、フッ化水素酸20%、ケイフッ化水素酸0.6%を含む溶液を調製し、アルミノホウケイ酸ガラスのケミカルエッチング剤に供した結果、何ら問題は見られなかった。
【0045】
(実施例2:請求項3の実施例と釜残中の塩酸の低減)
実施例1で得た、釜残5.0kgを図2に示す蒸発缶13に仕込み、80mmHgの減圧下で蒸留した。得られた留分および釜残の分析結果を、表4に示す。
【0046】
【表4】

【0047】
主留分のフッ化水素分を当量のSiOを加えて反応させてケイフッ化水素酸に変換し、水を加えて40%ケイフッ化水素酸を調製した。塩素分が200ppmと少し高い以外は市販品として問題はなかった。
【0048】
(実施例3:請求項2および請求項3の実施例)
実施例2で得たケイフッ化水素酸よりも塩酸含量を減らす目的で、塩酸の揮発度を増加させるために不揮発酸として98%硫酸500gと実施例1で得た釜残5.0kgを蒸発缶13に仕込み、80mmHgの減圧下で蒸留した。得られた留分および釜残の分析結果を表5に示す。
【0049】
【表5】

【0050】
主留分のフッ化水素分を当量のSiOを加えて反応させてケイフッ化水素酸に変換し、水を加えて40%ケイフッ化水素酸を調製した。不純物の分析結果、すべて市販用の高純度ケイフッ化水素酸の規格内であった。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】ケミカルエッチング廃液の蒸留処理のためのベンチプラント図を示す。
【図2】エッチング廃液の蒸留処理で釜残として回収した粗製HSiFの蒸留処理のためのベンチプラント図を示す。
【図3】エッチング廃液の蒸留処理と釜残として回収した粗製HSiFの蒸留処理を連続的に実施する場合のモデル図を示す。
【符号の説明】
【0052】
1 蒸発缶
2 精留塔
3 凝縮器
4 凝縮器
5 初留受器
6 HCl−HF回収槽
7 後留受器
8 バッファータンク
9 真空ポンプ1
10 濾過器
11 粗製HSiF貯槽
12 送液ポンプ
13 蒸発缶
14 精留塔
15 凝縮器
16 凝縮器
17 初留受器
18 HSiF回収槽
19 バッファータンク
20 真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化水素酸、塩酸およびケイフッ化水素酸を含む廃液から酸成分を分離・回収するに当って、前記廃液を常圧もしくは減圧下における蒸留操作によって、酸をほとんど含まない水主体の留分、ケイフッ化水素酸をほとんど含まずフッ化水素酸と塩酸を主成分として含む留分、ならびに塩酸をほとんど含まずフッ化水素酸とケイフッ化フッ化水素酸を主成分として含む釜残とに、順次分離して回収することを特徴とする、フッ化水素酸、塩酸およびケイフッ化水素酸を含む廃液から酸成分を分離・回収する方法。
【請求項2】
前記塩酸をほとんど含まずフッ化水素酸とケイフッ化水素酸を主成分として含む釜残に、硫酸またはリン酸の一種もしくは二種を添加して常圧または減圧下で蒸留し、初留分を分離・回収した後、塩酸含有量がさらに少なくフッ化水素酸とケイフッ化水素酸を主成分として含む留分を分離・回収することを特徴とする、請求項1記載のフッ化水素酸、塩酸およびケイフッ化水素酸を含む廃液から酸成分を分離・回収する方法。
【請求項3】
請求項1または2において、分離・回収した、塩酸をほとんど含まずフッ化水素酸とケイフッ化水素酸を主成分として含む釜残もしくは留分に、酸化ケイ素SiOを加え、共存するフッ化水素酸をケイフッ化水素酸に変換して、ケイフッ化水素酸を主成分とする溶液を調製することを特徴とする、フッ化水素酸、塩酸およびケイフッ化水素酸を含む廃液から酸成分を分離・回収する方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、廃液中にアルミニウムを含有する系で蒸留により濃縮されて発生し釜残に含まれるフッ化アルミニウム・3水和物を濾過して分離・回収することを特徴とする、フッ加水素酸、塩酸およびケイフッ化水素酸を含む廃液から酸成分を分離・回収する方法。
【請求項5】
前記フッ化水素酸、塩酸およびケイフッ化水素酸を含む廃液が、ガラスのケミカルエッチング廃液である請求項1〜4のいずれかに記載のフッ加水素酸、塩酸およびケイフッ化水素酸を含む廃液から酸成分を分離・回収する方法。
【請求項6】
蒸発缶、精留塔、初留受器、フッ化水素酸および塩酸の混合酸回収槽ならびに後留受器を備えることを特徴とする、フッ化水素酸、塩酸およびケイフッ化水素酸を含む廃液から酸成分を分離・回収するための装置。
【請求項7】
釜残液に含まれる固形物を濾別する手段を備えた、請求項6記載のフッ化水素酸、塩酸およびケイフッ化水素酸を含む廃液から酸成分を分離・回収するための装置。
【請求項8】
釜残液に含まれる固形物を濾別する手段の後段に、濾液に硫酸またはリン酸の一種もしくは二種を添加して蒸留する蒸発缶、精留塔、初留受器ならびにケイフッ化水素酸回収槽を備えることを特徴とする、請求項6または7記載のフッ化水素酸、塩酸およびケイフッ化水素酸を含む廃液から酸成分を分離・回収するための装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−189483(P2008−189483A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−22827(P2007−22827)
【出願日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(390024419)森田化学工業株式会社 (18)
【出願人】(506148165)クリテックサ−ビス株式会社 (8)
【Fターム(参考)】