説明

フッ素化された化合物の製造方法、およびフッ素化装置

好ましくない副反応を抑制しつつ、高効率で連続的にフッ素化された化合物を得る方法を提供する。フッ素の導入部、フッ素化されうる原料化合物の導入部、フッ素化領域、およびフッ素化された化合物の排出部を、不活性液体を一方向に流動する循環回路で連結し、該回路の不活性液体に原料化合物およびフッ素を導入してフッ素化を行う方法において、原料化合物が実質的に存在しない不活性液体の流れにフッ素を導入することを特徴とするフッ素化された化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、フッ素化された化合物の製造方法、およびフッ素化装置に関する。
【背景技術】
フッ素原子を有する有機化合物(以下、含フッ素有機化合物ともいう。)を液相反応で製造する方法として、液相にフッ素ガスを導入してフッ素化を行う「液相フッ素化法」が知られている。液相フッ素化法は、多様な構造の含フッ素有機化合物を提供しうる有用な方法である。しかし、フッ素の高い反応性による大量の発熱、炭素鎖の切断、化合物の分解、ポリマーの生成等の問題がある。また、発火、燃焼、爆発などの激しい現象が生じる場合もあり、反応の制御が難しいとされている方法でもある。
従来、フッ素を用いた液相反応の方法としては、以下の方法が知られている。
(1)フッ素化されうる液状有機化合物とフッ素とを連続的に向流で供給してフッ素化を行う方法(特開平1−249728号公報(第163頁。特許請求の範囲)参照)。
(2)塔状反応器の上部に槽状反応器が連結された反応装置において、槽状反応器の上部からは原料化合物が導入されて槽状反応器と塔状反応器に原料化合物が充填される。一方、原料化合物が充填された塔状反応器の底部からはフッ素が導入され、塔状反応器において原料化合物とフッ素とが向流接触してフッ素化反応が行われる方法(特開2000−103747号公報(第8頁、図1)参照)。
(3)ペルフルオロ化された不活性液体を噴射するエジェクタにフッ素ガスを吸引する吸引管を連結することによって、フッ素を導入するための可動部を存在させることなく反応系内にフッ素を導入し、フッ素と該不活性液体とを反応器に導き該反応器の下部から導入し、一方反応器の上部から不活性液体の部分フッ素化物(原料)を導入することによってフッ素化を行い、ペルフルオロ化された不活性液体を製造する方法(特開平1−249131号公報(第5頁、第2図)参照)。
(4)不活性液体が循環する閉回路に、フッ素化されうる原料化合物を導入してフッ素化されうる原料化合物と不活性液体を含む流れを形成し、該原料化合物を含む不活性液体の流れにフッ素を導入して、乱流状態でフッ素化を行う方法(特開平7−179365号公報(第11頁、図1)参照)。
(5)不活性液体が流れる流路とタンクとを連結させて閉回路を形成させ、流路にフッ素化されうる原料化合物を供給し、タンクにおいては反応生成物を含む液状成分とガス状成分との分離が行われる。そして該ガス状成分からなる気相部にはフッ素を導入する。さらに、該タンクにおける気相部のフッ素を含むガス成分を、不活性液体で希釈されたフッ素化されうる原料化合物の流路に導くラインを設けて、該ラインからフッ素を導入してフッ素化を行う方法(WO00/71492号公報(図1)参照)。
しかし(1)および(3)の方法は、フッ素ガスと原料化合物とが向流で接触しており該向流接触による方法では、接触が充分ではない問題があった。また、該方法で連続的な製造を行うのは困難であった。また(1)および(3)の方法は、実際には反応器内に充填物を充填して、充填物の表面を流下したときにフッ素ガスと接触してフッ素化反応が進行するが、該反応においては原料および生成物の移動速度が小さいため反応熱の除去が効果的に行えず、これらが分解する問題がある。
また、(2)の方法も反応域を流下する有機化合物と上昇するフッ素ガスとを向流接触させてフッ素化を行う方法であるが、有機化合物の流下速度はフッ素ガスの上昇速度を超えることができないため、該方法でも反応熱が効果的に除去できない問題がある。この問題を解決するためにフッ素の供給速度を大きくすると、フッ素の分散状態が低下して、反応成績が悪くなる傾向が認められた。さらに、有機化合物の供給速度を変化させた場合、あるいは有機化合物の種類を変化させた場合の反応成績の変動が大きいという問題がある。また(1)〜(3)の装置においては、原料化合物の供給速度や種類を変化させた場合、反応成績の変動が大きくなり、装置の条件設定の難易度が高い問題がある。
(4)の方法では、フッ素を導入する部位に原料化合物が存在する。よって、該部位においてフッ素化されうる原料化合物の量が、フッ素量に対して相対的に大になるため、フッ素化されにくい部位(たとえば、級数の高い炭素原子に結合した水素原子、ジェミナル位に嵩高い置換基が存在する水素原子等。)のフッ素化が進行しにくい欠点があった。また、フッ素量とフッ素化されうる原料化合物との量比を調節するのが困難である問題もあった。また、該方法では、乱流条件下でフッ素化を行うとあるが、フッ素を導入する位置において充分な乱流条件を形成させる困難性が認められた。
(5)の方法では、フッ素をタンクの気相部に導入しており、同時に該気相部のガスをフッ素を導入する位置に導くことから、フッ素ガスの一部が反応に寄与しないまま系外へ排出され、経済的でない問題がある。また、タンク上部に存在する低沸点の有機物質とフッ素ガスが激しく反応し、原料や反応生成物の分解、あるいは反応制御の困難などを招くおそれがある。また、該気相部の組成によっては、可燃性の気相部が形成され、安定な反応が困難になるおそれがある。さらに反応の継続に伴って、副生するフッ化水素が系内に気相部に蓄積して、これらとフッ素を一緒に流路に導くことになり、原料や反応生成物の分解を招くおそれがある。
【発明の開示】
本発明は、液相フッ素化によってフッ素化を行うにあたり、好ましくない副反応を抑制しつつ、高効率で連続的にフッ素化された化合物を得る方法および該方法に用いるフッ素化装置を提供する。
発明者らは種々の形態のフッ素化方法を検討した結果、未反応の原料が存在しない不活性液体の流れにフッ素化を導入して乱流条件下でフッ素化を行う本発明の方法により、非常に高効率でフッ素化反応が実施でき、フッ素の利用率が高まることを見いだした。また、該方法によれば、連続的な長時間の反応を行えることを見いだした。
すなわち本発明は以下の各発明を提供する。
1.不活性液体が一方向に流動している循環回路に、フッ素とフッ素化されうる原料化合物を導入して両者を不活性液体に随伴させて不活性液体と同じ方向に移動させながら反応させ、生成したフッ素化された化合物を該循環回路から取り出す、フッ素化された化合物の製造方法において、原料化合物が実質的に存在しない循環回路中の不活性液体にフッ素を導入し、その後該不活性液体中のフッ素と原料化合物とを接触させることを特徴とするフッ素化された化合物の製造方法。
2.フッ素を導入する位置における循環不活性液体中の原料化合物の量が、導入した原料化合物量の3モル%以下である、1に記載の製造方法。
3.フッ素を導入する位置における循環不活性液体中の、原料化合物の部分フッ素化物であってさらにフッ素化されうる、目的化合物以外の化合物の濃度が、不活性液体に対して8モル%以下である、1または2に記載の製造方法。
4.循環回路の上流から下流方向の順にフッ素の導入部とフッ素化されうる原料化合物の導入部を設けて、原料化合物の導入部より下流をフッ素化領域とするとともに該フッ素化領域から前記フッ素の導入部までの間にフッ素化された化合物の排出部を設け、該排出部においてフッ素化された化合物を含む不活性液体の一部を取り出すとともに残余の不活性液体を循環させる、1、2、または3に記載の製造方法。
5.フッ素化領域の途中からフッ素の導入部までの間に気液分離部を設け、該気液分離部で未反応フッ素を含むガスを不活性液体から分離して前記循環回路から排出する、4に記載の製造方法。
6.循環回路に不活性液体の流れの分岐部と合流部を設け、分岐した不活性液体の流れの一方にフッ素の導入部を設け、かつ分岐した不活性液体の流れの他方にフッ素化されうる原料化合物の導入部を設けて、該2つの流れの合流部より下流をフッ素化領域とし、該フッ素化領域から前記フッ素の導入部または前記原料化合物の導入部までの間にフッ素化された化合物の排出部を設け、該排出部においてフッ素化された化合物を含む不活性液体の一部を取り出すとともに残余の不活性液体を循環させる、1、2または3に記載の製造方法。
7.フッ素化領域の途中から分岐部までの間に気液分離部を設け、該気液分離部で未反応フッ素を含むガスを不活性液体から分離して前記循環回路から排出する、6に記載の製造方法。
8.前記循環回路から排出した未反応フッ素を含むガスからフッ素を回収して、原料化合物が実質的に存在しない不活性液体の流れに該回収したフッ素を導入する、5または7に記載の製造方法。
9.前記循環回路から排出した未反応フッ素を含むガスからフッ素とフッ化水素を分離してフッ素を回収する、8に記載の製造方法。
10.フッ素の導入部またはその下流にフッ素と不活性液体の混合手段を設ける、4〜9のいずれかに記載の製造方法。
11.原料化合物の導入部またはその下流に原料化合物と不活性液体の混合手段を設ける、4〜10のいずれかに記載の製造方法。
12.不活性液体が一方向に流動している循環回路に、フッ素とフッ素化されうる原料化合物を導入して反応させ、生成したフッ素化された化合物を該循環回路から取り出す、フッ素化された化合物の製造装置において、該循環回路の上流から下流方向に順にフッ素の導入部、フッ素化されうる原料化合物の導入部、フッ素化領域、およびフッ素化された化合物を含む不活性液体の一部が取り出される排出部が設けられ、該フッ素の導入部は循環する不活性液体の流れにおける原料化合物が実質的に存在しない位置に設けられてなることを特徴とするフッ素化装置。
13.不活性液体が一方向に流動している循環回路に、フッ素とフッ素化されうる原料化合物を導入して反応させ、生成したフッ素化された化合物を該循環回路から取り出す、フッ素化された化合物の製造装置において、該循環回路に不活性液体の流れの分岐部と合流部が設けられ、さらに、該分岐部と合流部の間の一方の分岐回路にフッ素の導入部、他方の分岐回路に原料化合物の導入部、該合流部より下流にフッ素化領域、および、該フッ素化領域から前記フッ素の導入部または前記原料化合物の導入部までの間にフッ素化された化合物を含む不活性液体の一部が取り出される排出部が設けられ、該フッ素の導入部は循環する不活性液体の流れにおける原料化合物が実質的に存在しない前記分岐回路の位置に設けられてなることを特徴とするフッ素化装置。
【図面の簡単な説明】
図1:本発明の一実施例を示すプロセスフロー図
図2:本発明の別の一実施例を示すプロセスフロー図
図3:本発明の別の一実施例を示すプロセスフロー図
【符号の説明】
1:不活性液体の貯液槽
2:不活性液体の輸送装置
3:フッ素の導入部
3’:未反応のフッ素導入部
5:フッ素化されうる原料化合物の導入部
8:フッ素化された化合物の排出部
11:ガス排出管
12:フッ素戻し管
13、13’:分岐部
14、14’:合流部
15:排ガス導出部
16:凝縮部
【発明を実施するための最良の形態】
本発明におけるフッ素化されうる原料化合物としては、フッ素と反応して変化しうる構造が分子中に存在する化合物が挙げられ、フッ素化されうる有機化合物であるのが好ましい。該有機化合物としては、炭素原子に直接結合した水素原子を有する有機化合物、炭素−炭素不飽和結合(二重結合であっても三重結合であってもよい)を有する有機化合物等が好ましい。また、該有機化合物は、本発明の反応条件下で液状である化合物から選択するのが取扱いのしやすさの点で好ましい。
フッ素化されうる原料化合物としては、炭化水素類、アミン類、エーテル類、アルコール類、フェノール類、カルボン酸類、カルボン酸ハライド類、カルボン酸無水物、カルボン酸エステル類、ケトン類、アルデヒド類、スルホン酸類、スルホン酸ハライド類、スルホン酸エステル類、チオエーテル類等が挙げられる。さらに、これらの化合物中に水素原子が存在する場合には、その一部が塩素原子またはフッ素原子等で置換されていてもよい。
フッ素化されうる原料化合物の炭素原子数は、4〜100が好ましく、4〜50が特に好ましく、とりわけ6〜35が好ましい。また、フッ素化されうる原料化合物は、不活性液体に対する溶解性が高い化合物が好ましい。液相フッ素化の不活性液体への溶解性が高い該有機化合物としては、一部がフッ素化された有機化合物が好ましく、特にカルボン酸とアルコールのエステルであって、カルボン酸とアルコールの両方または片方が含フッ素含有化合物である場合のエステルが、溶解性、反応性において特に好ましい。また、フッ素化されうる原料化合物の分子量は、本発明方法を用いた場合のフッ素化反応の収率、反応のしやすさ等の点から200〜10000が好ましく、200〜5000が特に好ましく、300〜5000がとりわけ好ましく、200〜1000がさらに好ましい。
フッ素化されうる原料化合物が一部がフッ素化された有機化合物(以下、部分フッ素化原料と記す。)である場合、該部分フッ素化原料のフッ素含量は、30質量%以上であるのが好ましく、30質量%〜80質量%であるのが特に好ましい。本発明におけるフッ素化は、いわゆる液相フッ素化と呼ばれる方法によって実施される。液相フッ素化は、フッ素(F)を不活性液体中に導入し、該不活性液体中でフッ素化されうる原料化合物をフッ素化する反応である。
フッ素は、そのまま(すなわち100%のフッ素ガス)を用いてもよいが、通常は不活性ガスで希釈したフッ素を用いるのが、反応のしやすさの点で好ましい。不活性ガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス、フッ化水素ガス、二酸化炭素ガス等から選ばれる1種以上の不活性ガスが挙げられる。このうち不活性ガスとしては、経済面、入手性の点から窒素ガスが好ましい。不活性ガスでフッ素を希釈する場合には、フッ素濃度を15〜80モル%にするのが好ましく、特に50〜70モル%にするのが好ましい。フッ素濃度が低すぎると、フッ素化が進行しにくく、また、大量の希釈ガスが必要になるため経済的ではない。またフッ素濃度が高すぎると、フッ素の反応性の制御が困難になる傾向がある。
本発明における不活性液体とは、フッ素化において不活性な液体であり、本発明の反応条件において、フッ素の存在により実質的に化学変化を生じない液体から選択される。不活性液体の例としては、パーフルオロ化された有機溶媒が挙げられ、液相フッ素化に使用される種々の不活性液体を採用できる。たとえば、従来より使用される該不活性液体の例としては、ペルフルオロアルカン、ペルフルオロエーテル(Fluorinert、FC−75およびFC−77(3M社製商品名)、KrytoxおよびFomblin(デュポン社製商品名)、ペルフルオロトリアルキルアミン、クロロフルオロカーボン、クロロペルフルオロエーテル、ペルフルオロアルカンスルホニルフロリド等が挙げられる。
本発明の方法において、目的物質がフッ素化されうる原料化合物のペルフルオロ化体である場合に、フッ素化されうる原料化合物をペルフルオロ化した有機化合物を不活性液体として使用したときには、反応生成物からの目的物質の精製を容易にすることができるため、特に好ましい。
本発明におけるフッ素化された化合物としては、フッ素化されうる原料化合物のフッ素化されうる構造の一部または全部がフッ素化された化合物であり、全部がフッ素化された有機化合物であるのが好ましい。フッ素化されうる原料化合物が炭素−炭素不飽和結合を有する化合物である場合には、該不飽和結合の一部または全部にフッ素が付加した化合物が挙げられる。またフッ素化されうる原料化合物が炭素原子に直接結合した水素原子を有する化合物である場合には、該水素原子の一部または全部がフッ素に置換された化合物が挙げられる。
フッ素化されうる原料化合物が炭素原子に結合した水素原子(C−H)を有する有機化合物である場合、フッ素化された有機化合物としては、該水素原子の80モル%以上がフッ素原子に置換された化合物であるのが好ましく、特に95モル%以上がフッ素化された化合物であるのが好ましく、さらに実質的に100%がフッ素化された化合物(すなわち、ペルフルオロ化された有機化合物)であるのが好ましい。
本発明の方法によって製造されるフッ素化された化合物としては、ペルフルオロ化された有機化合物であるのが好ましい。本発明の方法は、ペルフルオロ化された有機化合物を収率よく製造できる方法である。
本発明の方法においては、不活性液体が一方向に流動する循環回路を形成させる。不活性液体の循環回路は、一般に流体の流路を形成させる連結手段により形成されうる。該連結手段としては、チューブ、パイプ等が挙げられる。不活性液体を流動させるには、輸送装置を用いるのが好ましく、ポンプを用いるのが特に好ましい。該ポンプとしては、渦巻ポンプ、ノンシールポンプ、マグネットポンプ、ダイアフラムポンプ等が好ましい。そして本発明の方法を実施するために用いられるフッ素化装置は、工業用装置材料として使用される材質からなる装置であるのが好ましい。該材質としては、炭素鋼、ステンレス鋼等のほか、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル系共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などの含フッ素ポリマー等が挙げられる。
不活性液体の流動の速度としては、フッ素化領域における不活性液体の線速が0.1〜10m/秒であることが好ましく、特に0.2〜5m/秒であることが好ましい。該速度とすることによって、フッ素化反応時の発熱の除熱が容易に行われ、かつ、該不活性流体に随伴されて流動する原料化合物とフッ素との接触が容易になる利点がある。
本発明においては、循環回路上に、該不活性液体中にフッ素を導入するフッ素の導入部が配置される。フッ素は、フッ素ガスの導入管により循環回路に導入されるのが好ましい。フッ素の導入部の構造は特に限定されず、フッ素を導入するための可動部を存在させることなく、反応系内にフッ素を導入できる構造の導入部を採用するのが好ましい。該導入部の構造としては、不活性液体よりも高い圧力に圧縮したフッ素を導入管に接続する、または、不活性液体の流動を利用してフッ素の導入部を減圧にする、等の方法が挙げられる。フッ素を圧縮する際には、一般的な気体の圧縮装置が使用できる。また、不活性液体の流動により減圧にする際には、導入部分に、ベンチュリーポンプ、イジェクタ、ジェットポンプ等の装置が使用できる。
循環回路に導入したフッ素は、不活性液体に、溶解、または泡状に分散するのが好ましく、均一に溶解または分散するのが特に好ましい。さらに、よりフッ素の溶解または分散を均一にさせるために、フッ素の導入位置のすぐ下流に、液−液または気−液の混合を促進するための装置を設けるのが好ましい。該装置としては、導入管を屈曲させた構造、流路に沿ってその断面の形状が変化する構造、可動部を持たないスタティックミキサー、可動部を有するダイナミックミキサー等が採用できる。また、流路の断面積を部分的に小さくして該流動の線速度を高くすることによって、フッ素と不活性液体の溶解または混合を促進させてもよい。
本発明においては、循環回路中を流動するフッ素を含む不活性液体に、フッ素化されうる原料化合物を導入する。本発明におけるフッ素化されうる原料化合物は、該導入位置において液状になる必要があることから、該フッ素化されうる原料化合物は、導入時の条件下で液体である化合物、または、溶媒に溶解して溶液となりうる化合物であるのが好ましく、特に後者であるのが好ましい。フッ素化されうる原料化合物を溶液にする場合の溶媒としては、不活性液体において例示したものと同様のものが挙げられ、特に不活性液体と同一のものであるのが好ましい。
また、原料化合物は循環回路中に導入されると、不活性液体によって希釈されるが、導入された原料化合物の希釈率は5〜1万倍が好ましく、特に50〜千倍が好ましい。希釈率が低いと、反応熱の除去が困難になる傾向があり、希釈率が高いと、不活性液体の流動に多大な動力を必要とする等の理由から経済性において不利になる傾向がある。
フッ素化されうる原料化合物は、循環回路に合流する導入管を設け、該導入管を経由して循環回路へ導入されるのが好ましい。さらに、フッ素化されうる原料化合物は、不活性液体の混合を促進するため、不活性液体の流路断面の中央部に供給することがより望ましい。また、フッ素化されうる原料化合物と不活性液体が合流した下流側に液同士の混合を促進する目的で、混合手段を設けることも望ましい。
本発明においては、フッ素の導入部に流動する循環回路の不活性液体中には、原料化合物が実質的に存在しないことが特徴である。原料化合物が実質的に存在しないとは、該不活性液体中の原料化合物の量が、導入した原料化合物量の3モル%以下であることが好ましく、1モル%以下であるのが好ましく、とりわけ0.5モル%以下であるのが好ましく、測定可能な量の下限がさらに好ましい。該量は、通常の場合ガスクロマトグラフィー等の分析方法により測定できる。フッ素の導入部において不活性液体中に原料化合物を存在させないことより、フッ素と不活性液体の充分に混合できる。またその後での原料化合物とのフッ素化反応では、フッ素化が困難な部位においてもフッ素化が効率的に進む効果が得られる。さらにフッ素化反応の制御がしやすくなり局部的な反応を防ぎ、反応時に起こりうる反応熱の除熱も容易になる。
フッ素の導入部における不活性液体中には、原料化合物以外のフッ素化(以下、その他のフッ素化されうる化合物と記す。)が存在していてもよいが、その他のフッ素化されうる化合物の量が多すぎると、原料化合物中のフッ素化が進行しにくくなる問題や、フッ素化されにくい部位での反応が進み難くなる問題の原因となる。したがって、本発明においては、フッ素の導入部における不活性液体中にはフッ素化されうる化合物の量が少ないのが好ましい。
不活性液体中にその他のフッ素化されうる化合物が存在する場合は、原料化合物のフッ素化体(目的化合物であるフッ素化された化合物と原料化合物の部分フッ素化物との総量)に対して8モル%以下であるのが好ましく、3モル%以下とするのが特に好ましい。その他のフッ素化されうる化合物の例としては、C−H構造を有するアルコール化合物、原料化合物の部分フッ素化物等が挙げられる。原料化合物の部分フッ素化物が低濃度で存在する場合には、次にフッ素と接触して、より高度にフッ素化された化合物を生成させうる。
本発明においてフッ素化反応が行われる領域、すなわちフッ素化領域は、原料化合物の導入部よりも下流に位置する。このフッ素化領域は、不活性液体と原料化合物とフッ素とが一方向に流動し、かつ、原料化合物とフッ素とが接触して反応する領域である。フッ素化領域は、流路の断面が一定の直径を有する円である管式反応器、およびそれを屈曲させた構造の反応器、流路に沿ってその断面の形状が変化する構造の反応器、内部に充填物を有する管式反応器、可動部を持たないスタティックミキサー、可動部を有するダイナミックミキサーなどにより形成されるのが好ましい。
フッ素化されうる原料化合物は、フッ素を含む不活性液体に導入されると通常は直ちにフッ素化され、たとえばC−H部分の水素原子はフッ素原子に置換されC−Fになり、また、炭素−炭素不飽和結合にはフッ素原子が付加する。
フッ素の供給速度と、フッ素化領域における不活性液体の流速との比率(体積比)は、運転圧力下において、フッ素:不活性液体が1:(1〜10)であるのが好ましく、1:(2〜5)であるのが特に好ましい。不活性液体の流速が小さくなると、反応熱の除去効率が低下する傾向があり、また、副反応の原因となりうる。不活性液体の流速が大きすぎると、経済性が低下する傾向がある。
さらに、本発明のフッ素化においては、原料化合物中に存在しうる水素原子に対して、フッ素の量が常に過剰になるように反応させるのが好ましい。すなわちフッ素の量は、フッ素化されうる原料化合物中のフッ素化されうる水素原子に対して当量(1倍モル)より多くするのが好ましく、該水素原子に対して1.1〜10倍モルが好ましく、特に1.2〜2倍モルが好ましい。フッ素量が少なすぎると、フッ素化反応が進行しにくくなる傾向があり、フッ素量が多すぎると未反応のフッ素量が多くなって経済性が低下する傾向があり、また、未反応のフッ素を回収および再利用するためのより多くの手間を要する等の問題が生じる。
本発明においては、フッ素とフッ素化されうる化合物は、不活性流体に随伴されて循環回路を同じ方向に移動しながらフッ素化される。該フッ素化反応は、乱流条件下で行われるのが好ましい。乱流条件である場合には、レイノルズ数は3000以上であるのが好ましく、好ましくは6000〜150000であるのが好ましい。
フッ素化領域の温度は−20〜+50℃が好ましく、特に0〜+35℃が好ましい。該温度が低すぎると反応速度が低下する傾向があり、また、充分なフッ素化が進行しないおそれがある。また、反応温度が高すぎると副反応の比率が増大する傾向がある。またフッ素化領域の反応圧力は、−0.05〜+1MPa(ゲージ圧)が好ましく、特に0〜+0.5MPa(ゲージ圧)が好ましく、さらに0〜+0.1MPa(ゲージ圧)が好ましい。該圧力が低すぎると、不活性液体へのフッ素の溶解度が低く、充分な反応速度が得られない、部分フッ素化物が増加する、等のおそれがある。また、減圧にすること自体に多大な動力を必要とする問題がある。また該圧力が高くなりすぎるとフッ素の圧縮やフッ素を導入するための減圧に、余分な動力を必要とし、経済的ではない。
フッ素の量を過剰量にする場合には、未反応のフッ素は回収するのが好ましい。フッ素の回収は、フッ素の使用量を低減し、経済性の点で有利である。このフッ素の回収の方法は特に限定されないが、たとえば、循環回路に未反応ガスの排出部を配置することにより達成するのが好ましい。未反応ガスの排出部はフッ素化領域の途中からフッ素の導入部までの間であるのが好ましく、特に循環回路中のフッ素化領域の下流域に貯液槽を配置し、この貯液槽を気液分離部として利用するのが好ましい。すなわち該貯液槽の上部にガスを排出するための導入管を設け、該貯液槽において気体である未反応フッ素とその他の液状化合物を分離して導入管からフッ素を回収する方法が好ましい。該貯液槽の構造としては特に限定されない。また貯液槽は、反応熱を除去するためのジャケットやコイルなどを備えていてもよい。
未反応フッ素は、通常の場合、フッ素の希釈ガス、副生しうるフッ化水素、および目的物であるフッ素化された化合物等とともに回収されうる。これらから、より高純度のフッ素を回収するためには、未反応ガスの排出経路上に凝縮器を設けて、フッ素化された化合物等の沸点の高い化合物を凝縮させるのが好ましい。凝縮により形成した液状物は、貯液槽に還流させてもよい。
また、未反応フッ素からはフッ化水素を分離して回収してもよい。フッ化水素の回収は、凝縮器よりも下流において行うのが好ましい。フッ化水素を回収した場合には、これをフッ素ガスの製造プロセスやフッ化水素を用いるフッ素化プロセスにおいて、再利用できる。フッ化水素の回収方法としては、フッ化ナトリウム等の吸着剤による吸着、冷却、または圧縮と冷却の組み合わせによる液化、等が挙げられる。フッ化水素を回収して再利用する方法は、環境上有利な方法であるとともに、より経済的な方法となりうる。また、フッ化水素の回収は、不活性液体中から速やかにフッ化水素を除去し、フッ化水素によるフッ素化されうる原料化合物、反応中間体、目的物質の分解を抑制する利点もある。
未反応のフッ素を回収した場合には、該フッ素は再利用するのが好ましい。該フッ素は、他のフッ素化におけるフッ素源として使用してもよいが、本発明の方法においてフッ素を再利用する場合には、未反応フッ素を圧縮して圧力を上げた後に、前記フッ素の導入部に導いて循環回路に導入する方法、フッ素の導入部を減圧にしてここに未反応フッ素を引き込み循環回路に導入する方法、または循環回路に未反応フッ素の導入部(ただし、該導入部には実質的に原料化合物は存在しない)を設けて該部分に未反応フッ素を導入する方法、によるのが好ましい。
本発明の方法においては、フッ素化された化合物が生成物として生成する。該生成物は、排出部から排出する。排出部は、不活性液体の循環回路に接続した導入管から行われるのが好ましい。排出部位は、通常、フッ素化領域の下流でありかつフッ素の導入部の上流に配置されるのが好ましい。生成物の排出は輸送装置の動力を利用して行ってもよく、この輸送装置は不活性液体を流動する輸送装置と同じものであっても、別のものであってもよい。
未反応ガスの排出およびフッ素化された化合物の排出は、それぞれ、連続的に行っても間欠的に行ってもよく、反応系の安定という観点からは、連続的に行うことがより望ましい。また本発明においては液相フッ素化反応によって生じる反応熱を除去する目的で、循環回路上の1箇所以上に、熱交換器を配置してもよい。また、フッ素化をより進行されるために光照射を行う場合には、反応を行う領域の流路にUVランプを設置するのが好ましい。
本発明においては、本発明の方法を実施するためのフッ素化装置もまた提供されうる。本発明フッ素化方法およびフッ素化装置の態様を図1および図2のプロセスフロー図に示す。図1および図2に示すように、貯液槽(1)と不活性液体の輸送装置(2)とが管で連結されて不活性液体の循環回路が形成されている。すなわち、不活性液体が輸送装置(2)から送り出され、貯液槽(1)に一時的に貯留され、貯液槽(1)底部から抜き出されて輸送装置(2)に戻る循環回路が形成されている。
図1に示したプロセスにおいては、循環回路の上流から下流方向に順にフッ素の導入部(3)(破線の丸で囲んだ領域)、フッ素化されうる原料化合物の導入部(5)(破線の丸で囲んだ領域)、フッ素化領域(破線の四角で囲んだ領域)、およびフッ素化された化合物を含む不活性液体の一部が取り出される排出部(8)が設けられ、該フッ素の導入部は、循環する不活性液体の流れにおける原料化合物が実質的に存在しない位置に設けられている。
図1においては、循環している不活性液体の流れにフッ素の導入部(3)でフッ素がフッ素導入管(4)より導入され、次いで原料化合物の導入部(5)でフッ素化されうる原料化合物が原料導入管(6)より導入される。不活性液体中でフッ素と原料化合物が接触すると直ちにフッ素化反応が始まり、貯液槽(1)に至るまでの配管(7)内で大部分の原料化合物が目的のフッ素化された化合物まで変換され、次いでこの生成した目的化合物を含む不活性液体は貯液槽(1)に流入する。貯液槽(1)は気液分離の機能を有し、必要により不活性液体中のガス成分が不活性液体から分離される。貯液槽(1)底部から目的化合物を含む不活性液体が取り出され、輸送装置(2)に送られる。この目的化合物を含む不活性液体の一部はこの循環回路から取り出され、目的化合物は不活性液体から分離される。分離された不活性液体は、通常そのまま循環回路に戻されるか、原料化合物の溶解用の溶媒として使用されて原料化合物とともに循環回路に戻される。目的化合物と不活性液体が同一化合物である場合などでは、分離された不活性液体は循環回路に戻されないこともある。目的化合物を含む不活性液体の取り出し位置は特に限定されないが、貯留槽(1)からフッ素の導入部(3)の手前までの位置であることが好ましく、図1では輸送装置(2)とフッ素の導入部(3)の間にフッ素化された化合物の排出部(8)が設けられ、排出管(9)から目的化合物を含む不活性液体が取り出される。
上記のように原料化合物のフッ素化反応は原料化合物の導入部(5)から貯液槽(1)に至るまでの配管(7)内で起こり、この間で原料化合物は実質的にすべてフッ素化され、目的化合物と相対的に少量の原料化合物の部分フッ素化物が生成する。該部分フッ素化物は不活性液体中にフッ素が存在する限りその後も徐々にフッ素化されると考えられる。前記のようにこの部分フッ素化物はフッ素の導入部(3)までに導入した原料化合物の8モル%以下となるようにすることが好ましい。
導入された原料化合物はフッ素と接触することにより直ちにフッ素反応が起こり、この反応は激しい発熱反応であることより通常反応をコントロールするために除熱が必要である。そのため、原料化合物とフッ素が接触する部分(図1では原料化合物導入部(5))から除熱を必要としなくなるまでの間の配管(7)には熱交換器(10)が通常設けられ、反応熱を除去することによってフッ素化反応をコントロールする。前記のようにフッ素化反応は大部分初期の段階で終了することより、本発明における「フッ素化領域」とは、通常はこの除熱を必要とする領域、すなわち図1、図2、および図3においては熱交換器(10)が設けられた領域をいうものとする。熱交換器(10)等による除熱が必要とされない場合はフッ素化領域とは原料化合物とフッ素が接触する部分から貯液槽(1)までの配管(7)の内部領域をいうものとする。なお、必要により貯液槽(1)にジャケットやコイル等を設置して温度コントロールを行うこともできる。
貯液槽(1)は気液分離の機能を有し、不活性液体から分離した気体はガス排出管(11)から排出される。この気体の成分としては、不活性液体に溶解していない未反応フッ素ガス、フッ素の希釈に使用した不活性ガス、フッ化水素ガス、ガス状反応副生物(たとえば、原料化合物やそのフッ素化物などの分解物)などがある。フッ素ガスの利用効率を高めるために、この気体中の未反応フッ素ガスは再利用されることが好ましく、フッ素戻し管(12)により、この気体の一部または全部はフッ素導入部(3)に送られてフッ素源として利用される。さらに、フッ素戻し管(12)の途中に図示していないトラップを設けて吸着等によりこの気体からフッ化水素や高沸点化合物を除去することが好ましい。
図2に示すプロセスフローでは、循環回路に不活性液体の流れの分岐部(13)と合流部(14)が設けられ、さらに、該分岐部(13)と合流部(14)の間の一方の分岐回路にフッ素の導入部(3)、他方の分岐回路に原料化合物の導入部(5)、該合流部(14)より下流にフッ素化領域(破線の四角で囲んだ領域)、および、該フッ素化領域から前記フッ素の導入部または前記原料化合物の導入部までの間にフッ素化された化合物を含む不活性液体の一部が取り出される排出部(8)が設けられ、該フッ素の導入部は循環する不活性液体の流れにおける原料化合物が実質的に存在しない前記分岐回路の位置に設けられている。
図2に示すプロセスフローでは、図1と同様のプロセスにおいて、フッ素化された化合物の排出部(8)の下流に分岐部(13)を設けて不活性液体の流れを分岐させ、一方の分岐流には原料化合物の導入部(6)を設け、他方の分岐流にはフッ素の導入部(3)を設け、それらの分岐流を合流部(14)で合流させる。図2のプロセスはこの分岐、合流部分を除いて図1に示したプロセスと同一である。
図3に示すプロセスフローでは、図2と同様のプロセスにおいて、分岐部(13)の下流にさらに分岐部(13’)と合流部(14’)を設けて、分岐部(13’)において不活性液体の流れをさらに分岐させ合流部(14’)で合流させる。また、ガス排出部(11)の途中に設けられた凝縮部(16)から分岐部(13’)と合流部(14’)との間にフッ素ガスの配管を設け、凝縮部(16)において回収したフッ素ガスを合流部(3’)から導入する。また、図3では、回収フッ素ガスを再導入する配管として分岐部(13’)と合流部(14’)との間に未反応ガス導入部(3’)が設けられ、フッ素導入部(3)とは別の部分から回収した未反応フッ素ガスを導入する。フッ素導入部(3)における不活性液体と、回収したフッ素ガス導入部(3’)における不活性液体とは、実質的に同じものであり、いずれのフッ素導入部も原料化合物が実質的に存在しない前記分岐回路の位置に設けられている。図3のプロセスは分岐部(13’)と合流部(14’)を連結する配管、および回収したフッ素ガスを導入する配管(12)を除いて図2に示したプロセスと同一である。
図1に示したプロセスに比較して図2に示したプロセスでは、原料化合物をフッ素が存在しない、またはフッ素の濃度の低い不活性液体の流れに導入することができることより、原料化合物を予め不活性液体に溶解した溶液を用いなくても(または、原料化合物の濃度が高い不活性液体溶液を用いても)、原料化合物の導入部において急激なフッ素化反応が起こるおそれが少なくなる。また、合流部(14)に至る前に原料化合物を不活性液体に均一に溶解させておくことができ、またフッ素も同様に合流部(14)に至る前に不活性液体に均一に溶解させておくことができることより、合流部やその下流のフッ素化領域において局所的な反応を回避し、反応熱の除去を速やかに行うことができる。これによりフッ素化反応をより均一にかつより温和に行うことができ、炭素鎖の切断などの副反応を抑制できる。また、原料化合物を溶解する不活性液体として循環回路を循環する不活性液体を用いることもできることより、より経済的なプロセス方法でもある。
また図2に示すプロセスでは、未反応フッ素を含むガスをフッ素の導入部に吸引させるとともに余剰のガスを排出できるが、吸引力が不充分であるとフッ素の導入が安定しなくなる恐れがあるのに対して、図3に示したプロセスでは導入部3において反応に使用する前のフッ素のみを導入し、未反応フッ素ガスは導入部3’から導入できることから、フッ素ガスの導入を安定して行ないうる。
【実施例】
以下、本発明を具体例を挙げて説明するが、本発明は以下の例に限定されない。なお、以下の例において、生成物の分析は、ガスクロマトグラフィー(GC)、質量分析、および19FNMRにより行った。
【実施例1】
図1に示すプロセスフローを有する装置を用いて反応を行った。貯液槽(1)としてステンレス鋼製円筒形容器(内径100mm、高さ400mm)を用いた。該貯液槽(1)には撹拌や冷却のための装置は設けなかった。輸送装置(2)として、300L/hの能力を有するマグネットポンプを使用した。また、貯液槽(1)と輸送装置(2)を連結する不活性液体循環用配管として、内径8mmのステンレス鋼製の管を使用し、輸送装置(2)から貯液槽(1)入口までの管の長さは1000mm、貯液槽(1)出口から輸送装置(2)までの長さを250mmとした。
輸送装置(2)の下流50mmの位置を生成物の排出部(8)とし、そこには内径8mmのステンレス鋼製の排出管(9)を取り付け、流量調節弁を介して貯槽に連結した。輸送装置(2)の下流100mmの位置をフッ素の導入部(3)とし、そこには内径8mmのステンレス鋼製のフッ素導入管(4)を取り付け、不活性液体循環配管内に開口するステンレス鋼製イジェクタを設けた。輸送装置(2)の下流250mmの位置を原料化合物の導入管部(5)とし、そこには内径8mmのステンレス鋼製の原料導入管(6)を取り付けた。また、熱交換器(10)として、ステンレス鋼製二重管式熱交換器(内管の内径15mm、外管の内径25mm、長さ300mm)を用い、輸送装置(2)の下流270mmの位置から下流側に取り付けた。熱交換器(10)の内管と外管の間には−10℃のエチレングリコール水溶液を流して冷却した。
貯液槽(1)の上部に内径8mmのステンレス鋼製の2本の管を取り付け、そのうちの1本のフッ素戻し管(12)はフッ素の導入部のイジェクタに連結し、イジェクタの吸引により貯液槽上部空間のガスを吸引するようにした。他の1本はガス排出管(11)とし、圧力調節弁を介して除害装置に連結した。
この装置にCFCFCFOCF(CF)CFOCF(CF)COF[以下、不活性液体Aという]を4kgを投入し、250L/hの流速で循環させた。不活性液体Aの線速は1.38m/秒、このときのレイノルズ数は6263と算出された。熱交換器に流通させる冷媒の流量を調節することにより貯液槽中の不活性液体Aの温度を20℃に保ちながら、まずフッ素と窒素の混合気体をフッ素導入管から循環している不活性液体Aに連続的に供給した(フッ素導入量;78g/h、窒素導入量;57g/h)。供給したフッ素が貯液槽に達した後、CFCFCFOCF(CF)COOCHCH(CH)OCHCHCH[以下、原料Aという]の供給を開始し、原料Aを希釈することなくそのまま原料供給管から循環している不活性液体Aに供給量52g/hで連続供給した。
原料供給を開始した直後に貯液槽下部から不活性液体Aを取り出してGC分析をした結果、不活性液体A中には原料Aの存在は認められず、CFCFCFOCF(CF)COOCFCF(CF)OCFCFCFで表される原料Aの完全フッ素化物(以下、生成物Aという)と原料Aの部分フッ素化物が認められ、両者の合計に対する原料Aの部分フッ素化物の総量は5モル%未満であった。したがって、上記の反応条件下では貯液槽に至るまでに原料Aは全量フッ素化され、貯液槽から出た不活性液体中には原料Aは含まれていないと認められる。
上記の反応条件を維持して反応を継続した。貯液槽の圧力を0.01MPa(ゲージ圧)に保ちながら未反応フッ素を含むガスをフッ素の導入部に吸引させるとともに余剰のガスを排出した。また、貯液槽中の液体の体積が一定になるように、フッ素化された化合物を含む不活性液体を連続的に排出した。生成物Aは不活性液体であり、反応が進行するに従い循環する不活性液体Aは徐々に生成物Aに置換され、循環する不活性液体は不活性液体Aと生成物Aの混合物から生成物Aに変化していった。なお、不活性液体Aと生成物Aは沸点が異なる化合物であり、蒸留により容易に両者を分離できる。
300時間後までに不活性液体Aは全量生成物Aに置換された。300時間後に貯液槽中の液体を分析した結果、生成物Aが95.2モル%、原料Aの部分フッ素化物が3.0モル%、炭素鎖の切断に由来する低分子量のフッ素化副生物が1.8モル%で含まれていた。
【実施例2】
熱交換器(10)の冷媒循環量を調節して貯液槽(1)の液体の温度を35℃に保つこと以外は実施例1と同様の条件で反応を行った。反応初期において貯液槽の不活性液体A中には原料Aの存在は認められず、300時間後に貯液槽中の液体を同様に分析した結果、生成物Aが94.8モル%、原料Aの部分フッ素化物が1.7モル%、炭素鎖の切断に由来する低分子量のフッ素化副生物が3.5モル%含まれていた。
【実施例3】
ガス排出管(11)の圧力調節弁を調節して貯液槽(1)の圧力を0.05MPa(ゲージ圧)に保つこと以外は実施例1と同様の条件で反応を行った。反応初期において貯液槽の不活性液体A中には原料Aの存在は認められず、300時間後に貯液槽中の液体を同様に分析した結果、生成物が95.5モル%、原料Aの部分フッ素化物が2.8モル%、炭素鎖の切断に由来する低分子量のフッ素化副生物が1.7モル%含まれていた。
【実施例4】
貯液槽の上部のフッ素戻し管(12)を閉じてフッ素の導入部へ未反応のフッ素を戻さないこと以外は実施例1と同じ構造の装置を用いて反応を行った。この装置に不活性液体Aを4kgを投入し、250L/hの流速で循環させた。貯液槽中の液体の温度を20℃に保ちながら、まずフッ素と窒素の混合気体をフッ素導入管から循環している不活性液体Aに連続的に供給した(フッ素導入量;90g/h、窒素導入量;66g/h)。供給したフッ素が貯液槽に達した後、原料Aの供給を開始し、原料Aを希釈することなくそのまま原料供給管から循環している不活性液体Aに供給量52g/hで連続供給した。
原料供給を開始した直後に貯液槽下部から不活性液体Aを取り出してGC分析をした結果、不活性液体A中には原料Aの存在は認められず、生成物Aと原料Aの部分フッ素化物が認められ、両者の合計に対する部分フッ素化物の総量は5モル%未満であった。したがって、上記の反応条件下では貯液槽に至るまでに原料Aは全量フッ素化され、貯液槽から出た不活性液体中には原料Aは含まれていないと認められる。
上記の反応条件を維持して反応を継続した。貯液槽の圧力を0.01MPa(ゲージ圧)となるように貯液槽上部の気体を連続的に排出しながら、貯液槽中の液体の体積が一定になるように、フッ素化された化合物を含む不活性液体を連続的に排出した。300時間後に貯液槽中の液体を分析した結果、生成物Aが93.9モル%、原料Aの部分フッ素化物が4.4モル%、炭素鎖の切断に由来する低分子量のフッ素化副生物が1.7モル%で含まれていた。
【実施例5】
フッ素戻し管(12)の途中に内径150mm、長さ400mmの充填塔を設け、充填塔内に7000gのペレット状のNaFを充填した。この変更点以外は実施例1と同じ装置を使用して反応を行った。不活性液体Aの投入量、循環流速、貯液槽中の液体の温度、フッ素と窒素の供給量、原料Aの供給量等の反応条件や操作条件を実施例1と同じ条件として反応を行った。原料供給を開始した直後の貯液槽下部の不活性液体AをGC分析をした結果、不活性液体A中には原料Aの存在は認められず、生成物Aと原料Aの部分フッ素化物が認められ、両者の合計に対する部分フッ素化物の総量は4モル%未満であった。
300時間後に貯液槽中の液体を分析した結果、生成物Aが96.4モル%、原料Aの部分フッ素化物が2.9モル%、炭素鎖の切断に由来する低分子量のフッ素化副生物が0.7モル%で含まれていた。反応終了後に充填塔を取り外して計量した結果、開始前と比べて2452gの増加が認められた。
【実施例6】
原料化合物の導入部(5)の不活性液体循環配管内に外径25mm、長さ50mmのスーパースタティック・ミキサー(シンユー技研社製)を設ける以外は実施例1と同じ装置を用いて反応を行った。反応条件や操作条件を実施例1と同じ条件として連続的に反応を行った。原料供給を開始した直後の貯液槽下部の不活性液体AをGC分析した結果、不活性液体A中には原料Aの存在は認められず、生成物Aと原料Aの部分フッ素化物が認められ、両者の合計に対する部分フッ素化物の総量は4モル%未満であった。
300時間後に貯液槽中の液体を分析した結果、生成物Aが96.3モル%、原料Aの部分フッ素化物が3.1モル%、炭素鎖の切断に由来する低分子量のフッ素化副生物が0.6モル%で含まれていた。
【実施例7】
原料化合物を変える以外は実施例1と同じ原材料を使用し、かつ実施例と同じ装置を用い、同じ反応条件と操作条件で反応を行った。原料としてCFCFCFOCF(CF)COOCHCH(CH(以下、原料Bという)を52g/hで供給した。原料供給直後の貯蔵槽下部の不活性液体AのGC分析をした結果、原料Bの存在は認められず、原料Bの完全フッ素化物と原料Bの部分フッ素化物が認められ、両者の合計に対する部分フッ素化物の総量は4モル%未満であった。
300時間後貯液槽中の液体を分析した結果、原料Bの完全フッ素化物であるCFCFCFOCF(CF)COOCFCF(CFが97.4モル%、原料Bの部分フッ素化物が1.9モル%、低分子量フッ素化副生物が0.7モル%含まれていた。
【実施例8】
図2に示す構造の装置を用いて反応を行った。実施例1に記載の装置(図1参照)において輸送装置(2)の下流側100mmの位置を分岐部(13)とし、輸送装置(2)の下流側250mmの位置を合流部(14)とし、その間の不活性液体循環用配管を内径8mm、長さ200mmの第1の不活性液体循環用配管に置き換えた。さらにその分岐部(13)位置と合流部(14)位置の間に内径8mm、長さ200mmの第2の不活性液体循環用配管を取り付け、これら2つの配管を結合して分岐部(13)と合流部(14)を形成した。第1の不活性液体循環用配管の分岐部(13)から50mmの位置を原料の導入管部(5)とし、そこには内径8mmのステンレス鋼製の原料導入管(6)を取り付けた。第2の不活性液体循環用配管の分岐部(13)から50mmの位置をフッ素の導入部(3)とし、そこには内径8mmのステンレス鋼製のフッ素導入管(4)を取り付け、不活性液体循環配管内に開口するステンレス鋼製イジェクタを設けた。貯液槽(1)の上部からのフッ素戻し管(12)は実施例1の装置と同様にこのイジェクタに取り付けた。熱交換器(10)は、実施例1の装置と同じものを使用し、合流部(14)の下流20mmの位置から下流側に取り付けた。上記以外は実施例1と同じ構造の装置とした。
この装置に不活性液体Aを4kg投入して循環させ、合流部(14)から貯液槽(1)の間では260L/hの流速、第1の不活性液体循環用配管では10L/hの流速、第2の不活性液体循環用配管では250L/hの流速で循環させた。合流部(14)から貯液槽(1)の間の液体の線速は1.44m/秒、このときのレイノルズ数は6514と算出された。また、貯液槽(1)中の液体の温度を20℃に保った。
まずフッ素と窒素の混合気体をフッ素導入管から第2の不活性液体循環用配管内に循環している不活性液体Aに連続的に供給した(フッ素導入量;78g/h、窒素導入量;57g/h)。供給したフッ素が貯液槽に達した後、原料Aの供給を開始し、原料Aを希釈することなくそのまま原料供給管から第1の不活性液体循環用配管内循環している不活性液体Aに供給量52g/hで連続供給した。
原料供給を開始した直後に貯液槽下部から不活性液体Aを取り出してGC分析をした結果、不活性液体A中には原料Aの存在は認められず、生成物Aと原料Aの部分フッ素化物が認められ、両者の合計に対する部分フッ素化物の総量は5モル%未満であった。したがって、上記の反応条件下では貯液槽に至るまでに原料Aは全量フッ素化され、貯液槽から出た不活性液体中には原料Aは含まれていないと認められる。
上記の反応条件を維持して反応を継続した。貯液槽の圧力を0.01MPa(ゲージ圧)に保ちながら未反応フッ素を含むガスをフッ素の導入部に吸引させるとともに余剰のガスを排出した。また、貯液槽中の液体の体積が一定になるように、フッ素化された化合物を含む不活性液体を連続的に排出した。300時間後に貯液槽中の液体を分析した結果、生成物Aが96.8モル%、原料Aの部分フッ素化物が2.8モル%、炭素鎖の切断に由来する低分子量のフッ素化副生物が0.4モル%で含まれていた。
【実施例9】
原料化合物の導入部(5)から下流側の第1の不活性液体循環配管内に外径25mm、長さ50mmのスーパースタティック・ミキサー(シンユー技研社製)を設け、さらに合流部(14)から下流側の不活性液体循環配管内に外径25mm、長さ50mmのスーパースタティック・ミキサー(シンユー技研社製)を設ける以外は実施例8と同じ構造の装置を用いて反応を行った。この装置を用いて、実施例8と同じ原材料、反応条件、操作条件で原料Aのフッ素化を行った。
反応初期において貯液槽の不活性液体A中には原料Aの存在は認められず、300時間後に貯液槽中の液体を同様に分析した結果、生成物Aが97.5モル%、原料Aの部分フッ素化物が2.3モル%、炭素鎖の切断に由来する低分子量のフッ素化副生物が0.2モル%含まれていた。
【実施例10】
図3に示す構造の装置を用いて反応を行った。実施例1に記載の装置(図1参照)において輸送装置(2)の下流側100mmの位置を分岐部(13)とし、輸送装置(2)の下流側250mmの位置を合流部(14)とし、その間の不活性液体循環用配管を内径8mm、長さ200mmの第1の不活性液体循環用配管に置き換えた。さらにその分岐部(13)位置と合流部(14)位置の間に内径8mm、長さ200mmの第2の不活性液体循環用配管を取り付け、これら2つの配管を結合して分岐部(13)と合流部(14)を形成した。また第2の不活性液体循環用配管の分岐部(13)位置から20mmの位置にさらに分岐部(13’)を設け、また第2の不活性液体循環用配管のフッ素導入管(4)から100mmの位置に合流部(14’)を設け、分岐部(13’)と合流部(14’)との間を結ぶ内径8mm、長さ200mmの第3の不活性液体循環用配管を取り付けた。
さらに貯液槽(1)から導出されるガス排出管(11)の導出部(15)から100mmの位置にガス凝縮部(16)を設けた。該ガス凝縮部(16)において回収された未反応フッ素ガスは、ガス凝縮部(16)と、第3の不活性液体循環用配管における分岐部(13’)から下流側50mmの未反応フッ素導入部(3’)との間を連結するフッ素戻し管(12)によって不活性液体に導入されるようにした。
第1の不活性液体循環用配管の分岐部(13)から50mmの位置を原料の導入管部(5)とし、そこには内径8mmのステンレス鋼製の原料導入管(6)を取り付けた。第2の不活性液体循環用配管の分岐部(13)から50mmの位置をフッ素の導入部(3)とし、そこには内径8mmのステンレス鋼製のフッ素導入管(4)を取り付け、不活性液体循環配管内に開口するステンレス鋼製イジェクタを設けた。上記以外は実施例1と同じ構造の装置とした。
この装置に不活性液体Aを4kg投入して循環させ、合流部(14)から貯液槽(1)の間では260L/hの流速、第1の不活性液体循環用配管では10L/hの流速、第2の不活性液体循環用配管では150L/hの流速、第3の不活性液体循環用配管では100L/hの流速で循環させた。合流部(14)から貯液槽(1)の間の液体の線速は1.44m/秒、このときのレイノルズ数は6514と算出された。また、貯液槽(1)中の液体の温度を20℃に保った。
まずフッ素と窒素の混合気体をフッ素導入管から第2の不活性液体循環用配管内に循環している不活性液体Aに連続的に供給した(フッ素導入量;78g/h、窒素導入量;57g/h)。供給したフッ素が貯液槽に達した後、原料Aの供給を開始し、原料Aを希釈することなくそのまま原料供給管から第1の不活性液体循環用配管内循環している不活性液体Aに供給量52g/hで連続供給した。
原料供給を開始した直後に貯液槽下部から不活性液体Aを取り出してGC分析をした結果、不活性液体A中には原料Aの存在は認められず、生成物Aと原料Aの部分フッ素化物が認められ、両者の合計に対する部分フッ素化物の総量は5モル%未満であった。したがって、上記の反応条件下では貯液槽に至るまでに原料Aは全量フッ素化され、貯液槽から出た不活性液体中には原料Aは含まれていないと認められる。反応の進行に伴って排出される過剰のフッ素ガスをガス凝縮部より回収すると同時に第2の不活性液体循環用配管へ導入するフッ素および窒素の量を調整した。第2の不活性液体循環用配管には72g/hのフッ素および32g/hの窒素を供給した。第3の不活性液体循環用配管に供給される未反応フッ素ガスは6g/hのフッ素、11g/hの窒素、および10g/hのフッ化水素を含有していた。
上記の反応条件を維持して反応を継続した。貯液槽の圧力を0.01MPa(ゲージ圧)に保った。また、貯液槽中の液体の体積が一定になるように、フッ素化された化合物を含む不活性液体を連続的に排出した。300時間後に貯液槽中の液体を分析した結果、生成物Aが97.1モル%、原料Aの部分フッ素化物が2.7モル%、炭素鎖の切断に由来する低分子量のフッ素化副生物が0.2モル%で含まれていた。
[比較例1]
フッ素化されうる原料化合物の導入部(5)とフッ素の導入部(3)の位置を逆転させたこと以外は実施例1と同じ構造の装置を用いて反応を行った。この装置を用いて実施例1と同じ原材料、反応条件、操作条件を用いて原料Aのフッ素化反応を行った。フッ素の導入部(3)における原料の量は、供給量の94.4モル%に相当量であった。
300時間後、貯液槽中の液体を分析した結果、生成物Aが87.4モル%、原料Aの部分フッ素化物が10.9モル%、炭素鎖の切断に由来する低分子量のフッ素化副生物が1.7モル%含まれていた。
【産業上の利用可能性】
本発明の方法によれば、局所的なフッ素化反応を回避でき、反応熱の除去を速やかに行い、かつ炭素鎖の切断等による副反応を抑制して、収率よくフッ素化された化合物を製造できる。
さらに本発明の方法において、原料化合物が実質的に存在しない不活性液体の流れにフッ素を導入することによって、部分フッ素化物を優先的にフッ素と反応させ、より高度にフッ素化された生成物を得ることができる。さらに該フッ素化反応を乱流条件下で実施した場合には、高度にフッ素化された生成物をより容易に得ることができる。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性液体が一方向に流動している循環回路に、フッ素とフッ素化されうる原料化合物を導入して両者を不活性液体に随伴させて不活性液体と同じ方向に移動させながら反応させ、生成したフッ素化された化合物を該循環回路から取り出す、フッ素化された化合物の製造方法において、原料化合物が実質的に存在しない循環回路中の不活性液体にフッ素を導入し、その後該不活性液体中のフッ素と原料化合物とを接触させることを特徴とするフッ素化された化合物の製造方法。
【請求項2】
フッ素を導入する位置における循環不活性液体中の原料化合物の量が、導入した原料化合物量の3モル%以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
フッ素を導入する位置における循環不活性液体中に含まれる、原料化合物以外のフッ素化される化合物の量が、原料化合物とフッ素化された化合物の総量に対して8モル%以下である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
循環回路の上流から下流方向の順にフッ素の導入部とフッ素化されうる原料化合物の導入部を設けて、原料化合物の導入部より下流をフッ素化領域とするとともに該フッ素化領域から前記フッ素の導入部までの間にフッ素化された化合物の排出部を設け、該排出部においてフッ素化された化合物を含む不活性液体の一部を取り出すとともに残余の不活性液体を循環させる、請求項1、2または3に記載の製造方法。
【請求項5】
フッ素化領域の途中からフッ素の導入部までの間に気液分離部を設け、該気液分離部で未反応フッ素を含むガスを不活性液体から分離して前記循環回路から排出する、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
循環回路に不活性液体の流れの分岐部と合流部を設け、分岐した不活性液体の流れの一方にフッ素の導入部を設け、かつ分岐した不活性液体の流れの他方にフッ素化されうる原料化合物の導入部を設けて、該2つの流れの合流部より下流をフッ素化領域とし、該フッ素化領域から前記フッ素の導入部または前記原料化合物の導入部までの間にフッ素化された化合物の排出部を設け、該排出部においてフッ素化された化合物を含む不活性液体の一部を取り出すとともに残余の不活性液体を循環させる、請求項1、2または3に記載の製造方法。
【請求項7】
フッ素化領域の途中から分岐部までの間に気液分離部を設け、該気液分離部で未反応フッ素を含むガスを不活性液体から分離して前記循環回路から排出する、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記循環回路から排出した未反応フッ素を含むガスからフッ素を回収して、原料化合物が実質的に存在しない不活性液体の流れに該回収したフッ素を導入する、請求項5または7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記循環回路から排出した未反応フッ素を含むガスからフッ素とフッ化水素を分離してフッ素を回収する、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
フッ素の導入部またはその下流にフッ素と不活性液体の混合手段を設ける、請求項4〜9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
原料化合物の導入部またはその下流に原料化合物と不活性液体の混合手段を設ける、請求項4〜10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
不活性液体が一方向に流動している循環回路に、フッ素とフッ素化されうる原料化合物を導入して反応させ、生成したフッ素化された化合物を該循環回路から取り出す、フッ素化された化合物の製造装置において、該循環回路の上流から下流方向に順にフッ素の導入部、フッ素化されうる原料化合物の導入部、フッ素化領域、およびフッ素化された化合物を含む不活性液体の一部が取り出される排出部が設けられ、該フッ素の導入部は循環する不活性液体の流れにおける原料化合物が実質的に存在しない位置に設けられてなることを特徴とするフッ素化装置。
【請求項13】
不活性液体が一方向に流動している循環回路に、フッ素とフッ素化されうる原料化合物を導入して反応させ、生成したフッ素化された化合物を該循環回路から取り出す、フッ素化された化合物の製造装置において、該循環回路に不活性液体の流れの分岐部と合流部が設けられ、さらに、該分岐部と合流部の間の一方の分岐回路にフッ素の導入部、他方の分岐回路に原料化合物の導入部、該合流部より下流にフッ素化領域、および、該フッ素化領域から前記フッ素の導入部または前記原料化合物の導入部までの間にフッ素化された化合物を含む不活性液体の一部が取り出される排出部が設けられ、該フッ素の導入部は循環する不活性液体の流れにおける原料化合物が実質的に存在しない前記分岐回路の位置に設けられてなることを特徴とするフッ素化装置。

【国際公開番号】WO2004/035518
【国際公開日】平成16年4月29日(2004.4.29)
【発行日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−544981(P2004−544981)
【国際出願番号】PCT/JP2003/013312
【国際出願日】平成15年10月17日(2003.10.17)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】