説明

フッ素系共重合体、フッ素系共重合体の製造方法およびコーティング剤

【課題】パーフルオロアルキル基含有モノマーの使用量が少ないにもかかわらず、高い撥水・撥油性を有するフッ素系共重合体およびコーティング剤を提供する。
【解決手段】本発明は、フッ素系共重合体、フッ素系共重合体の製造方法、およびコーティング剤に関するものである。本発明は、パーフルオロアルキル基を有するパーフルオロ基含有ポリマーの存在下、パーフルオロアルキル基を有するパーフルオロ基含有モノマーと、フッ素を含まない非フッ素系モノマーとを、超臨界二酸化炭素中で重合させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素系共重合体、フッ素系共重合体の製造方法およびコーティング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維製品、皮革製品、電子部品などの表面に塗布されて撥水・撥油性を付与するコーティング剤においては、撥水・撥油性に優れるという観点からパーフルオロアルキル基を有するフッ素系重合体が多く用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、パーフルオロアルキル基あるいはパーフルオロポリエーテル基を有し、かつ炭素−炭素二重結合を有するモノマーと、フッ素を含有しない炭素−炭素二重結合を有するモノマーとを共重合してなるフッ素系共重合体を主成分とするコーティング剤が提案されている。
【0004】
上記特許文献1には、フッ素系共重合体の質量に対して50〜95質量%のパーフルオロアルキル基を有するモノマーを用いることが記載されている。撥水・撥油性能の高いコーティング剤を得るには、上記特許文献1に記載の方法ではフッ素系共重合体の質量に対して50質量%以上のパーフルオロアルキル基を有するモノマーが必要であると考えられるが、このようにパーフルオロアルキル基を有するモノマーの使用量が多いと耐久性が悪くコスト高であるという問題がある。
このような問題に対して、特許文献2においては、フッ素含有量を少なくしても優れた撥水性能を発現する撥水撥油剤用水分散液の製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−299016号公報
【特許文献2】特開2003−27046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に提案されている製造方法では、モノマーと界面活性剤(乳化剤)および水を含む原料組成物を加圧下で乳化した後、パーフルオロアルキル基を有する過酸化アシルを添加して乳化重合を行うので、この方法により得られた撥水撥油剤水分散液を用いて撥水撥油処理を行うと、被処理物に乳化剤のブリードアウトが発生することが懸念される。
【0007】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、パーフルオロアルキル基含有モノマーの使用量が少なくても、高い撥水・撥油性を有するフッ素系共重合体およびコーティング剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、パーフルオロアルキル基を有するパーフルオロ基含有ポリマーの存在下、パーフルオロアルキル基を有するパーフルオロ基含有モノマーと、フッ素を含まない非フッ素系モノマーとを、超臨界二酸化炭素中で重合させることにより、パーフルオロ基含有モノマーの使用量が少なくても、高い撥水・撥油性を有するフッ素系共重合体がえられるという知見を得た。本発明係る新規な知見に基づくものである。
【0009】
すなわち、本発明は、パーフルオロアルキル基を有するパーフルオロ基含有ポリマーの存在下、パーフルオロアルキル基を有するパーフルオロ基含有モノマーと、フッ素を含まない非フッ素系モノマーとを、超臨界二酸化炭素中で重合させてなるフッ素系共重合体である。
【0010】
また、本発明は、パーフルオロアルキル基を有するパーフルオロ基含有ポリマーの存在下、パーフルオロアルキル基を有するパーフルオロ基含有モノマーと、フッ素を含まない非フッ素系モノマーとを、超臨界二酸化炭素中で重合させることを特徴とするフッ素系共重合体の製造方法である。
【0011】
また、本発明は、前記フッ素系共重合体を、水、有機溶剤およびフッ素系溶剤から選ばれる溶剤に溶解または分散させたことを特徴とするコーティング剤である。
【0012】
本発明において、パーフルオロ基含有モノマーの使用量が少なくても撥水撥油性能の高いフッ素系共重合体が得られるのは、以下の理由による。パーフルオロ基含有ポリマーは超臨界二酸化炭素に溶解しやすいため、パーフルオロ基含有ポリマーが分散剤として作用し、パーフルオロ基含有モノマーと非フッ素系モノマーとの重合反応が促進される。重合反応により、パーフルオロ基含有モノマーがシェル部に、非フッ素系モノマーがコア部に共重合された、コアシェル型のフッ素系共重合体が得られる。このフッ素系共重合体を溶剤などに溶解あるいは分散させたコーティング剤によりコーティングされた被処理物においては、フッ素が表面に配向されやすくなり、パーフルオロアルキル基含有モノマーの量が少量であっても高い撥水・撥油性を発現することができる。上述の理由は推論である。
【0013】
本発明は、以下の構成とするのが好ましい。
パーフルオロ基含有モノマーおよび非フッ素系モノマーを含むモノマー成分100質量部に対して、パーフルオロ基含有ポリマーの量が0.1質量部以上10質量部以下であると、特に優れた撥水・撥油性を発現することができるので好ましい。
【0014】
モノマー成分の総質量に対して、パーフルオロ基含有モノマーの量が1%以上20%以下であると、パーフルオロ基含有モノマーの使用量を少なくし、コストを低減することができるので好ましい。
【0015】
本発明の製造方法は、以下の構成であってもよい。
パーフルオロ基含有ポリマーの構成単位となるモノマーを超臨界二酸化炭素中で重合させることにより得られるパーフルオロ基含有ポリマーを用いてもよい。このような構成とすると、重合反応が促進されるので、分子量の大きいパーフルオロ基含有ポリマーを得たい場合には好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、パーフルオロアルキル基含有モノマーの使用量が少なくても高い撥水・撥油性を有するフッ素系共重合体およびコーティング剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】超臨界二酸化炭素中での重合反応を行う際に使用する重合反応装置の模式図
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のフッ素系重合体は、パーフルオロアルキル基を有するパーフルオロ基含有ポリマーの存在下、パーフルオロアルキル基を有するパーフルオロ基含有モノマーと、フッ素を含まない非フッ素系モノマーとを超臨界二酸化炭素中で重合させてなるものである。
【0019】
(パーフルオロ基含有ポリマー)
パーフルオロ基含有ポリマーは、パーフルオロアルキル基を有するモノマーを構成単位として含む重合体である。
パーフルオロ基含有ポリマーの構成単位として含まれるパーフルオロアルキル基を有するモノマー(パーフルオロアルキル基含有化合物)としては、パーフルオロアルキル基を有するメタクリレートまたはパーフルオロアルキル基を有するアクリレートなどがあげられる。以下の記載において、「(メタ)クリレート」とはメタクリル酸エステル(メタクリレート)とアクリル酸エステル(アクリレート)とを一括して表記したものを意味する。
【0020】
パーフルオロアルキル基を有する(メタ)クリレートとしては、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチル(メタ)アクリレート、パーフルオロヘプチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロヘプチル(メタ)アクリレート、パーフルオロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロヘキシル(メタ)アクリレート、パーフルオロペンチルプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロペンチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロブチルメチル(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらは一種または二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0021】
パーフルオロ基含有ポリマーとしては、超臨界二酸化炭素への分散性が高く重合反応を促進するという観点から、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチル(メタ)アクリレート、パーフルオロヘプチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロヘプチル(メタ)アクリレート、パーフルオロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロヘキシル(メタ)アクリレートを構成単位として含むものが好ましい。
【0022】
また、パーフルオロ基含有ポリマーとしては、重量平均分子量(Mw)が30,000以上100,000以下のものが、特に撥水・撥油性能に優れたフッ素系共重合体が得られるという点で好ましく、Mwが30,000以上50,000以下のものが特に好ましい。
【0023】
(パーフルオロ基含有モノマー)
次に、非フッ素系モノマーと重合させるパーフルオロアルキル基を有するパーフルオロ基含有モノマーについて説明する。パーフルオロ基含有モノマーとしては、上述のパーフルオロ基含有ポリマーの構成単位として含まれるパーフルオロアルキル基を有する(メタ)クリレートと同様のものを用いることができる。
【0024】
パーフルオロ基含有モノマーとしては、撥水・撥油性能に優れたフッ素系共重合体が得られるという観点から、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチル(メタ)アクリレート、パーフルオロヘプチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロヘプチル(メタ)アクリレート、パーフルオロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロヘキシル(メタ)アクリレートが好ましい。これらは一種または二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0025】
(非フッ素系モノマー)
次に、パーフルオロ基含有モノマーと重合させる非フッ素系モノマーについて説明する。
非フッ素系モノマーとしては、スチレンやビニルベンゼンなどのビニル基を含有する芳香族モノマー、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘプチル(メタ)アクリレート、およびイソボルニル(メタ)アクリレートなどの環状(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレートなどの炭素数1〜20のアルキル基含有(メタ)クリレートなどがあげられる。これらは一種または二種以上を組み合わせて使用することができる。
これらのうち、撥水・撥油性に優れたフッ素系共重合体が得られるという観点から、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0026】
(超臨界二酸化炭素)
本発明において超臨界二酸化炭素とは、臨界温度(31.1℃)以上で、臨界圧力(7.4MPa)以上の状態にある二酸化炭素を指す。超臨界二酸化炭素中で重合反応を行う場合、臨界付近の8MPa〜10MPaの圧力で反応が促進され高効率で高性能のフッ素系共重合体を得ることができるが、多少の圧力の変化で性能のばらつきが生じたり、操作性に難点がある。一方、25〜30MPaの圧力では多少反応速度が遅いものの性能が安定したフッ素系共重合体が得られるという利点がある。重合反応の際の圧力は、得られるフッ素系共重合体の性質や製造設備などを考慮し適宜設定することが可能である。
超臨界二酸化炭素中での重合反応の温度に関しては、通常の溶液重合などと同様に重合開始剤の半減期温度によって反応温度を定めることができる。
【0027】
(フッ素系共重合体の製造方法)
本発明のフッ素系共重合体の製造方法について説明する。
まず、パーフルオロアルキル基含有化合物を重合させてパーフルオロ基含有ポリマーを作製する。パーフルオロアルキル基含有化合物を重合させる際には、重合開始剤として、例えば、過酸化ベンゾイル等の過酸化物、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル(以下、AIBNという)、2,2'−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル等のアゾ系化合物の他、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸系重合開始剤を用いることができる。
【0028】
パーフルオロ基含有ポリマーを作製する際に使用する重合溶媒としてはパーフルオロアルキル基含有化合物を溶解又は懸濁し得るものであればよく、例えば、水、又はトルエン、キシレン、n−ヘプタン、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン、n−ヘキサン、およびイソヘキサン等を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0029】
また、パーフルオロ基含有ポリマーを作製する際には、重合溶媒に代えて超臨界二酸化炭素中で重合反応を行うこともできる。パーフルオロ基含有ポリマーを作製する際に超臨界二酸化炭素中で重合反応を行うと、重合反応が促進されるので、分子量の大きいパーフルオロ基含有ポリマーを得たい場合には好ましい。
【0030】
次に、パーフルオロ基含有ポリマーの存在下、パーフルオロ基含有モノマーと非フッ素系モノマーとを、超臨界二酸化炭素中で重合させる。
この重合反応の際には、パーフルオロ基含有ポリマーの作製に用いた重合開始剤と同様の重合開始剤を用いることができる。
パーフルオロ基含有ポリマーを、超臨界二酸化炭素中で重合させて作製する場合や、パーフルオロ基含有ポリマーの存在下、パーフルオロ基含有モノマーと非フッ素系モノマーとを超臨界二酸化炭素中で重合させる際には、例えば図1に示すような反応装置10を用いて、重合反応を行うことができる。
図1に示すように、反応装置10は、高圧反応器4内に超臨界二酸化炭素を導入するための二酸化炭素が入ったCOボンベ1と、圧力を臨界圧力以上とするための高圧ポンプ2を備える。高圧反応器4は臨界温度以上に保持するための恒温水槽6中に収容されており、撹拌機5により高圧反応器4の内容物が撹拌されるようになっている。図中、Tは高圧反応器4内の温度を測定する温度計であり、Pは高圧反応器4に導入される二酸化炭素の圧力を測定する圧力計である。
【0031】
パーフルオロ基含有ポリマーの量は、モノマー成分(パーフルオロ基含有モノマー、非フッ素系モノマー)100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下であると、特に撥水・撥油性に優れたフッ素系共重合体が得られるので好ましい。パーフルオロ基含有ポリマーの量がモノマー成分の総質量100質量部に対して0.1質量部未満であると、反応率が悪く、得られるフッ素系共重合体の撥水・撥油性が不十分となり、10質量部を超えるとコスト高になる。
【0032】
パーフルオロ基含有モノマーの量は、優れた撥水・撥油性を発現することが可能でかつ低コストであるという観点から、モノマー成分の総質量に対して1%以上20%以下であるのが好ましい。パーフルオロ基含有モノマーの量が1%未満であると十分な撥水・撥油性能が得られなくなり、20%を超えると耐久性が悪くなるとともにコスト高になる。
【0033】
(フッ素系共重合体の用途)
本発明のフッ素系共重合体は、繊維などの撥水・撥油剤のほか、幅広い用途、例えば、電子基板の防湿コーティング剤などの添加剤に用い表面にフッ素を配向させ撥水性を向上させる用途や、塩水・電解液・腐食性ガス等から基材を保護する耐薬品保護コーティング剤、マイクロモーターの軸受けに用いる潤滑オイルの拡散を防止するオイルバリア剤、HDDモーターの流体軸受けに用いる潤滑オイルの拡散を防止するオイルバリア剤、サインペン・ボールペン等のインクの漏れを防止する漏れ防止剤、コネクタ・電子部品等の汚れ防止剤、絶縁樹脂の這い上がり防止剤、MFコンデンサのリード封止樹脂の付着防止剤、防水スプレー原液に使用することができる。
【0034】
(コーティング剤)
本発明のフッ素系共重合体は、溶媒に溶解あるいは溶媒中に分散させることによりコーティング剤として使用することができる。本発明のフッ素系共重合体を溶解あるいは分散させる溶媒としては、水、有機溶剤、フッ素系溶剤などから選ばれる溶媒を用いることができる。
【0035】
有機溶剤としては、n−ヘキサン、イソヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族系溶剤(フッ素非含有炭化水素系溶剤に相当)、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶剤、アセトンなどのケトン系溶剤、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶剤などが挙げられる。フッ素系溶剤としては、特に限定されず、例えば、パーフルオロカーボン(PFC)、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)、ハイドロフルオロエーテル(HFE)、パーフルオロポリエーテル(PFPE)、ハイドロフルオロポリエーテル(HFPE)などを使用することができる。これらの溶剤は単独でまたは二種以上を混合して用いることができる。
これらのうち、芳香族系溶剤やフッ素系溶剤が好ましく、特にトルエンと、パーフルオロカーボンとを併用するのが好ましい。本発明のフッ素系共重合体の溶解性に優れるからである。
【0036】
本発明のフッ素系共重合体は、固形分濃度が0.1〜5質量%となるように溶媒に溶解される。このようにして得られる本発明のコーティング溶液には、実用性を向上させるために、酸化防止剤、紫外線安定剤、フィラー、シリコーンオイル、パラフィン系溶剤、可塑剤等各種添加剤を添加することができる。
【0037】
本発明のコーティング剤を用いたコーティング方法としては、浸漬法、ハケ塗り法、スプレー法、ロールコート法など公知の方法が採用可能であり、コーティング剤を使用する基材の性質や形態などを考慮して適宜選択することができる。
【0038】
<実施例>
以下、実施例により本発明をさらに説明する。
(重合例1:フッ素系ポリマー1の作製)
125mlの耐圧反応容器に、パーフルオロオクチルエチルアクリレートを38質量部、およびAIBNを0.038質量部を入れた(耐圧反応容器の30体積%)。
次に、二酸化炭素を供給ボンベより前記耐圧反応容器に供給し、加圧ポンプと温度調整機で30MPa、70℃に調整しながら24時間反応させた。
その後、20℃以下まで冷却し、背圧弁を使用して常圧まで圧力を下げ、フッ素系ポリマー1を得た。このフッ素系ポリマー1のGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)を測定したところPMMA換算でMw(重量平均分子量)は100,000であった。
【0039】
(重合例2:フッ素系ポリマー2の作製)
パーフルオロオクチルエチルアクリレートの代わりにパーフルオロオクチルエチルメタクリレートを使用したこと以外は、重合例1と同様にして、フッ素系ポリマー2を作製した。フッ素系ポリマー2のGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)を測定したところPMMA換算でMwは100,000であった。
【0040】
(重合例3:フッ素系ポリマー3の作製)
500mlの丸底フラスコに、パーフルオロオクチルエチルメタクリレート120質量部、重合溶媒としてn−ヘプタン120質量部、重合開始剤としてAIBNを1.2質量部加えた。次にこの丸底フラスコに温度計、攪拌翼、冷却管、N配管をセットして回転数100rpmで攪拌した。
常温で空間部をNで30分置換した後、熱湯を加え、重合を開始した。ヒーターで反応温度が80℃になるように調整し、Nは重合終了まで流し続けた。反応を8時間継続し、その後室温まで冷却して得られた析出物を真空乾燥し、フッ素系ポリマー3を得た。フッ素系ポリマー3のGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)を測定したところPMMA換算でMwは30,000であった。
【0041】
(重合例4:フッ素系ポリマー4の作製)
500mlの丸底フラスコに、パーフルオロヘキシルエチルメタクリレート120質量部、重合溶媒としてn−ヘプタン120質量部、重合開始剤としてAIBNを0.24質量部加えた。この丸底フラスコに、温度計、攪拌翼、冷却管、N配管をセットして回転数100rpmで攪拌した。
常温で空間部をNで30分置換した後、熱湯を加え、重合を開始した。ヒーターで反応温度が85℃になるように調整し、Nは重合終了まで流し続けた。
反応を8時間継続し、その後室温まで冷却して得られた析出物を真空乾燥し、フッ素系ポリマー4を得た。フッ素系ポリマー4のGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)を測定したところPMMA換算でMwは50,000であった。
【0042】
(実施例1のフッ素系共重合体の作製)
125mlの耐圧反応容器に、パーフルオロオクチルエチメタクリレートを2.5質量部、メチルメタクリレート(略称MMA)を22.5質量部、フッ素系ポリマー1を1.25質量部、AIBNを0.025質量部入れた(耐圧反応容器の30体積%)。二酸化炭素を供給ボンベより前記反応容器に供給し、加圧ポンプと温度調整機で30MPa、70℃に調整しながら24時間反応を続けることにより実施例1のフッ素系共重合体を得た。
【0043】
(実施例2のフッ素系共重合体の作製)
フッ素系ポリマー1に代えてフッ素系ポリマー2を1.25質量部用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2のフッ素系共重合体を得た。
【0044】
(実施例3のフッ素系共重合体の作製)
MMAに代えてn−ブチルメタクリレート(nBMA)を22.5質量部用い、フッ素系ポリマー1に代えてフッ素系ポリマー3を1.25質量部用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3のフッ素系共重合体を得た。
【0045】
(実施例4のフッ素系共重合体の作製)
パーフルオロオクチルエチルメタクリレートに代えてパーフルオロヘキシルエチルメタクリレートを2.5質量部用い、フッ素系ポリマー1に代えてフッ素系ポリマー4を1.25質量部用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例4のフッ素系共重合体を得た。
【0046】
(実施例5のフッ素系共重合体の作製)
125mlの耐圧反応容器に、パーフルオロヘキシルエチルメタクリレートを2.5質量部、n−ブチルメタクリレート(nBMA)を22.5質量部、フッ素系ポリマー4を1.25質量部、AIBNを0.025質量部入れた(耐圧反応容器の30体積%)。二酸化炭素を供給ボンベより前記反応容器に供給し、加圧ポンプと温度調整機で10MPa、80℃に調整しながら6時間反応を続けることにより実施例5のフッ素系共重合体を得た。
【0047】
(実施例6のフッ素系共重合体の作製)
パーフルオロヘキシルエチルメタクリレートの使用量を1.25質量部とし、nBMAの使用量を23.75質量部としたこと以外は実施例5と同様にして、実施例6のフッ素系共重合体を得た。
【0048】
(実施例7のフッ素系共重合体の作製)
MMAに代えてスチレン(St)を22.5質量部用い、AIBNの使用量を0.25質量部としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例7のフッ素系共重合体を得た。
【0049】
(実施例8のフッ素系共重合体の作製)
フッ素系ポリマー2の使用量を0.25質量部としたこと以外は実施例2と同様にして、実施例8のフッ素系共重合体を得た。
【0050】
(実施例9のフッ素系共重合体の作製)
フッ素系ポリマー2の使用量を0.5質量部としたこと以外は実施例2と同様にして、実施例9のフッ素系共重合体を得た。
【0051】
(実施例10のフッ素系共重合体の作製)
フッ素系ポリマー2の使用量を2.5質量部としたこと以外は実施例2と同様にして、実施例10のフッ素系共重合体を得た。
【0052】
(実施例11のフッ素系共重合体の作製)
125mlの耐圧反応容器に、パーフルオロオクチルエチルアクリレートを2.5質量部、メチルメタクリレート(略称MMA)を22.5質量部、フッ素系ポリマー2を1.25質量部、AIBNを0.025質量部入れた(耐圧反応容器の30体積%)。二酸化炭素を供給ボンベより前記反応容器に供給し、加圧ポンプと温度調整機で10MPa、70℃に調整しながら24時間反応を続けることにより実施例11のフッ素系共重合体を得た。
【0053】
(比較例1)
500mlの丸底フラスコにパーフルオロオクチルエチルメタクリレート6質量部、MMA54質量部、重合溶媒としてn−ヘプタン60質量部、重合開始剤としてAIBNを0.12質量部加えた。この丸底フラスコに、温度計、攪拌翼、冷却管、N配管をセットして回転数100rpmで攪拌した。
常温で空間部をNで30分置換した後、熱湯を加え、重合を開始した。ヒーターで反応温度が80℃になるように調整し、Nは重合終了まで流し続けた。
反応を8時間継続し、その後室温まで冷却し、メタノールを120質量部を加えて得られた生成物を真空乾燥し、比較例1のポリマーを得た。
【0054】
(比較例2)
フッ素系ポリマー1を使用しなかったこと以外は実施例2と同様にしたが、反応率10%未満と低く、後述の評価試験を実施可能な生成物が得られなかった。
【0055】
(比較例3)
パーフルオロオクチルエチルメタクリレートを使用せず、MMAの使用量を25質量部としたこと以外は実施例2と同様にして、比較例3のポリマーを得た。
【0056】
(コーティング剤の調製)
実施例1〜11のフッ素系共重合体、比較例1のポリマー、および比較例3のポリマーを用いて以下の方法によりそれぞれコーティング剤を調製した。
200mlのビーカーに、実施例1のフッ素系共重合体を2質量部、トルエンを49質量部、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタンを49質量部入れ、攪拌子を入れ、蒸発しないように蓋をして、40℃で攪拌しながら実施例1のフッ素系共重合体を完全に溶解してコーティング剤を作製した。
実施例2〜11のフッ素系共重合体、比較例1のポリマーおよび比較例3のポリマーについても同様にしてコーティング剤をそれぞれ作製した。
【0057】
(評価試験)
(1)試験片の作製
スライドガラスをエタノールで脱脂洗浄後、ディップコーターで溶液を塗布した。ディップ条件は1mm/secで進入させ、溶液中に5sec浸漬させ、2mm/secで引き上げた。30分間風乾後、100℃で30分乾燥させることにより試験片を得た。
【0058】
(2)試験例1(接触角)
協和界面化学(株)自動接触角形DM500を用い、液適法により、水とn−ヘキサデカンの接触角をそれぞれ測定し、結果を表1および表2に示した。測定の際に水、およびn−ヘキサデカンをそれぞれ2μl使用した。
水の接触角が大きければ撥水性に優れているといえる。水の接触角が100°以上であれば、撥水性が特に優れていると判断した。
n−ヘキサデカンの接触角が大きければ撥油性に優れているといえる。n−ヘキサデカンの接触角が40°以上であれば撥油性に優れていると判断した
【0059】
表1には評価試験の結果とともに、実施例1〜11および比較例1〜3で用いた材料とその割合(質量部)、反応条件(重合条件)を合わせて示した。超臨界二酸化炭素を用いたものについては超臨界二酸化炭素の欄に「○」と記載し、超臨界二酸化炭素を用いなかったもの(比較例1:溶液重合)については超臨界二酸化炭素の欄に「−」と記載した。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
(結果と考察)
本発明のフッ素系共重合体(実施例1〜11のフッ素系共重合体)を用いて作製したコーティング剤は、比較の方法で作製したポリマー(比較例1、比較例3)を用いて作製したコーティング剤と比べて撥水撥油性に優れていた。実施例のフッ素系共重合体のうち、パーフルオロ基含有ポリマーの量が総モノマー100質量部に対し5質量部以上で、パーフルオロ基含有モノマーの量がモノマー総量の10%のもの(実施例1〜7、実施例10、実施例11)では、特に撥水撥油性が優れていた。
【0063】
本発明のフッ素系共重合体が比較例1および3のポリマーよりも撥水撥油性に優れているのは、以下の理由による。パーフルオロ基含有ポリマーは超臨界二酸化炭素に溶解しやすいため、パーフルオロ基含有ポリマーが分散剤として作用し、パーフルオロ基含有モノマーと非フッ素系モノマーとの重合反応が促進される。重合反応により、パーフルオロ基含有モノマーがシェル部に、非フッ素系モノマーがコア部に共重合された、コアシェル型のフッ素系共重合体が得られる。このフッ素系共重合体を溶剤などに溶解あるいは分散させたコーティング剤によりコーティングされた被処理物においては、フッ素が表面に配向されやすくなり、パーフルオロアルキル基含有モノマーの量が少量であっても高い撥水・撥油性を発現することができる。上述の理由は推論である。
【0064】
パーフルオロ基含有モノマーと非フッ素系モノマーとの重合反応の際にパーフルオロ基含有ポリマーを用いたか否かの点で相違する実施例1と比較例2とを比較すると、前記重合反応の際にパーフルオロ基含有ポリマーを用いなかった比較例2では反応率が低く評価試験可能な生成物が得られなかったが、前記重合反応の際にパーフルオロ基含有ポリマーを用いた実施例1では撥水・撥油性に優れたフッ素系共重合体が得られた。この結果から、パーフルオロ基含有モノマーと非フッ素系モノマーとの重合反応の際にパーフルオロ基含有ポリマーが作用し、前記重合反応を促進していると考えられる。
【0065】
なお、パーフルオロ基含有モノマーと非フッ素系モノマーとの重合反応の際に、前記重合反応を超臨界二酸化炭素中で行わず溶液重合を行った比較例1や、パーフルオロ基含有ポリマーの存在下、非フッ素系モノマーのみを超臨界二酸化炭素中で重合させた比較例3では、撥水・撥油性が低かった。
【0066】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施例では、フッ素系モノマーとして、パーフルオロオクチルエチルメタクリレートとパーフルオロヘキシルエチルメタクリレートを用いた例を示したが、これに限定されない。パーフルオロブチルメタ(アクリレート)などを用いてもよい。
(2)上記実施例では、非フッ素系モノマーとしてMMA、nBMA、スチレンを用いた例を示したが、非フッ素系モノマーとしてメチルアクリレートやエチルメタ(アクリレート)などを用いてもよい。
【符号の説明】
【0067】
1…COボンベ
2…高圧ポンプ
3…フィルター
4…高圧反応器
5…攪拌機
6…恒温水槽
T…温度計
P…圧力計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーフルオロアルキル基を有するパーフルオロ基含有ポリマーの存在下、パーフルオロアルキル基を有するパーフルオロ基含有モノマーと、フッ素を含まない非フッ素系モノマーとを、超臨界二酸化炭素中で重合させてなるフッ素系共重合体。
【請求項2】
前記パーフルオロ基含有モノマーおよび前記非フッ素系モノマーを含むモノマー成分100質量部に対して、前記パーフルオロ基含有ポリマーの量が0.1質量部以上10質量部以下であることを特徴とする請求項1に記載のフッ素系共重合体。
【請求項3】
前記モノマー成分の総質量に対して、前記パーフルオロ基含有モノマーの量が1%以上20%以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のフッ素系共重合体。
【請求項4】
パーフルオロアルキル基を有するパーフルオロ基含有ポリマーの存在下、パーフルオロアルキル基を有するパーフルオロ基含有モノマーと、フッ素を含まない非フッ素系モノマーとを、超臨界二酸化炭素中で重合させることを特徴とするフッ素系共重合体の製造方法。
【請求項5】
前記パーフルオロ基含有ポリマーの構成単位となるモノマーを超臨界二酸化炭素中で重合させることにより得られる前記パーフルオロ基含有ポリマーを用いることを特徴とする請求項4に記載のフッ素系共重合体の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のフッ素系共重合体を、水、有機溶剤およびフッ素系溶剤から選ばれる溶剤に溶解または分散させたことを特徴とするコーティング剤。

【図1】
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【公開番号】特開2012−17438(P2012−17438A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156989(P2010−156989)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(591074091)株式会社野田スクリーン (17)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【Fターム(参考)】