説明

フライホイール装置および車両制御装置

【課題】内燃機関の出力を自動変速機に伝達する出力軸に設けられ、慣性モーメントを変化させることが可能に構成されたフライホイールと、フライホイールの慣性モーメントの大きさを制御する制御手段とを備えるフライホイール装置において、自動変速機の変速に要する時間を低減することが可能なフライホイール装置を提供すること。
【解決手段】内燃機関の出力を自動変速機に伝達する出力軸に設けられ、慣性モーメントを変化させることが可能に構成されたフライホイールと、フライホイールの慣性モーメントの大きさを制御する制御手段とを備えるフライホイール装置であって、制御手段は、自動変速機において低速側の変速比への変速が行われるシフトダウン時(S30−Y)に、シフトダウン時以外(制御B)に比べて慣性モーメントを小さな値とするように制御する第一の制御(制御A)を行う(S40)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フライホイール装置および車両制御装置に関し、特に、内燃機関の出力を自動変速機に伝達する出力軸に設けられ、慣性モーメントを変化させることが可能に構成されたフライホイールと、フライホイールの慣性モーメントの大きさを制御する制御手段とを備えるフライホイール装置、および、そのフライホイール装置を備えた車両を制御する車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の出力軸には、出力軸の回転変動を抑制する手段としてフライホイールが設けられる。フライホイールが設けられて出力軸の慣性モーメントが増すことにより、内燃機関から出力軸に加えられる出力(トルク)の周期的な変動の影響が低減されて、出力軸の回転を安定させることができる。
【0003】
従来、慣性モーメントを変化させることが可能に構成されたフライホイールに関する技術が提案されている。
【0004】
特開2004−263766号公報(特許文献1)には、エンジンの出力軸に連結する第1フライホイールと共にエンジンの出力軸に回転自在な第2フライホイールを設け、第2フライホイールの慣性モーメントがエンジンの出力軸に加わらない負荷の小さな第1状態と、第2フライホイールの慣性モーメントがエンジンの出力軸に加わる負荷の大きな第2状態と、に切り替わる慣性モーメントの可変手段を備えるフライホイール装置において、エンジン回転速度Nが所定値N1以上かつエンジン負荷Lが所定値L1以上の領域に入るとその間はフライホイールの慣性モーメントを第1状態に保持するべく切り替える一方、エンジン回転速度Nが所定値N0以下の領域またはエンジン負荷Lが所定値L0以下の領域に入るとその間はフライホイールの慣性モーメントを第2状態に保持するべく切り替える点が開示されている。
【0005】
実開平6−25638号公報(特許文献2)には、内燃機関の出力部に取り付けられて内燃機関の回転変動を安定させるための重量可変フライホイ−ルの重量を車両及び内燃機関の状態に応じて変化させる点が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2004−263766号公報
【特許文献2】実開平6−25638号公報
【特許文献3】特開2004−293726号公報
【特許文献4】特開2006−22890号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フライホイールの慣性モーメントが可変とされている場合、フライホイールの慣性モーメントが大きな値に設定されていると、自動変速機の変速に要する時間(以下、変速時間とする)が長くなってしまうという問題がある。
【0008】
例えば、自動変速機でシフトダウンが行われる場合に、シフトダウンの開始から終了までには、少なくとも内燃機関の回転数が変速前の変速段(変速比)に対応する回転数から、変速後の変速段に対応する回転数まで上昇するだけの時間が必要となる。ここで、フライホイールの慣性モーメントが大きな値であると、回転数が変化しにくくなるため、変速を開始してから変速を終了するまでの変速時間が大きな値となってしまう。
【0009】
内燃機関の出力を自動変速機に伝達する出力軸に設けられ、慣性モーメントを変化させることが可能に構成されたフライホイールと、フライホイールの慣性モーメントの大きさを制御する制御手段とを備える場合に、自動変速機の変速に要する時間を低減できることが望まれている。
【0010】
本発明の目的は、内燃機関の出力を自動変速機に伝達する出力軸に設けられ、慣性モーメントを変化させることが可能に構成されたフライホイールと、フライホイールの慣性モーメントの大きさを制御する制御手段とを備えるフライホイール装置において、自動変速機の変速に要する時間を低減することが可能なフライホイール装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のフライホイール装置は、内燃機関の出力を自動変速機に伝達する出力軸に設けられ、慣性モーメントを変化させることが可能に構成されたフライホイールと、前記フライホイールの前記慣性モーメントの大きさを制御する制御手段とを備えるフライホイール装置であって、前記制御手段は、前記自動変速機において低速側の変速比への変速が行われるシフトダウン時に、前記シフトダウン時以外に比べて前記慣性モーメントを小さな値とするように制御する第一の制御を行うことを特徴とする。
【0012】
本発明のフライホイール装置において、前記制御手段は、前記内燃機関の回転数が予め定められた所定回転数よりも小さな値である場合に、前記回転数が前記所定回転数よりも大きな値である場合に比べて前記慣性モーメントを大きな値とするように制御する第二の制御を行うものであって、前記第一の制御は、前記第二の制御が行われている場合にのみ行われることを特徴とする。
【0013】
本発明の車両制御装置は、前記フライホイール装置を備えた車両を制御する車両制御装置であって、前記第一の制御から復帰して前記慣性モーメントが増加される際に、前記自動変速機において前記内燃機関の出力を前記車両の車輪に摩擦係合により伝達し、かつ係合油圧の上昇に応じて前記摩擦係合による前記出力の伝達率が増加するように構成された摩擦係合装置の前記係合油圧を低下させる制御、および前記内燃機関の出力を増加させる制御の少なくともいずれか一方を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、内燃機関の出力を自動変速機に伝達する出力軸に設けられ、慣性モーメントを変化させることが可能に構成されたフライホイールと、フライホイールの慣性モーメントの大きさを制御する制御手段とを備えるフライホイール装置において、自動変速機の変速に要する時間を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明のフライホイール装置の一実施形態につき図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0016】
(第1実施形態)
図1から図5を参照して、第1実施形態について説明する。本実施形態は、内燃機関の出力を自動変速機に伝達する出力軸に設けられ、慣性モーメントを変化させることが可能に構成されたフライホイールと、フライホイールの慣性モーメントの大きさを制御する制御手段とを備えるフライホイール装置に関する。
【0017】
本実施形態では、慣性モーメントを可変にできるフライホイール(図2の符号4参照)を搭載したパワートレーンにおいて、シフトダウン中(図1のステップS30−Y)にフライホイール4の慣性モーメントIを減少させる(図1のステップS40)ことで変速時間を短縮させる。シフトダウン中におけるフライホイール4の慣性モーメントIをシフトダウン中以外に比べて低減させる制御(第一の制御)が行われることにより、エンジン回転数NEが、シフトダウン前の変速段に応じた回転数からシフトダウン後の変速段に応じた回転数まで上昇するために必要な時間が短縮される。これにより、シフトダウンを開始してから終了するまでに要する時間である変速時間が短縮されることができる。
【0018】
図2は、本実施形態に係わる装置の概略構成図である。
【0019】
図2において、符号1は、エンジン(内燃機関)を示す。エンジン1の出力軸3は、自動変速機2に接続されている。エンジン1の出力トルクは、出力軸3を介して自動変速機2に伝達される。
【0020】
出力軸3には、フライホイール4が設けられている。フライホイール4は、円板形状をなしており、出力軸3に固定されて出力軸3と共に回転する。フライホイール4が設けられることにより、出力軸3の慣性モーメントが増し、出力軸3の回転の安定性が高められる。自動変速機2は、駆動軸6を介して車輪5に連結されている。
【0021】
フライホイール4は、慣性モーメントIを変化させることが可能に構成されている。フライホイール4の慣性モーメントIを変化させる手段としては、従来公知の方法が用いられることができる。
【0022】
エンジン1が搭載された車両(図示せず)には、車両の各部を制御するECU(Electronic Control Unit)を有するコントロールユニット10が設けられている。コントロールユニット10は、本実施形態の制御手段としての機能を有する。エンジン1は、コントロールユニット10に接続されており、エンジン回転数NEを示す信号がコントロールユニット10に出力される。また、コントロールユニット10により、燃料噴射量や噴射時期、点火時期等のエンジン1の動作が制御される。車輪5に設けられた図示しない車速センサは、コントロールユニット10に接続されており、車速を示す信号がコントロールユニット10に出力される。
【0023】
自動変速機2およびフライホイール4は、コントロールユニット10に接続されており、それぞれコントロールユニット10により制御される。コントロールユニット10は、予め定められた変速マップに基づいて自動変速機2に対する変速指令を出力する。変速指令(変速先の変速段)は、例えば、車速とエンジン回転数NEに基づいて決定されることができる。また、自動変速機2からは、現在の変速段を示す信号や変速終了を示す信号がコントロールユニット10に出力される。
【0024】
コントロールユニット10は、以下に説明するように、エンジン回転数NEに基づいてフライホイール4の慣性モーメントIを調節する。エンジン回転数NEが低回転である場合には、フライホイール4の慣性モーメントIが大きな値とされる(第二の制御)。これにより、エンジン1が低回転で運転される場合の出力軸3の回転の安定性が向上する。一方、エンジン回転数NEが高回転である場合には、フライホイール4の慣性モーメントIが小さな値とされる。これにより、変速時間が短縮されて、変速操作に対する応答性や加速性能の向上等が可能となる。
【0025】
図3は、フライホイール4の慣性モーメントIにおいて可変とされた範囲について説明するための図である。図4は、フライホイール4の慣性モーメントIの設定内容について説明するための図である。
【0026】
図3において、符号I0は、フライホイール4の慣性モーメントIにおける可変とされた範囲の最大値(以下、最大設定値とする)を示す。符号I1は、フライホイール4の慣性モーメントIにおける可変とされた範囲の最小値(以下、最小設定値とする)を示す。フライホイール4の慣性モーメントIは、最小設定値I1から最大設定値I0までの間で可変に設定されることができる。
【0027】
図4は、フライホイール4の慣性モーメントIの設定内容について説明するための図である。図4において、符号100は、フライホイール4を含む出力軸3の運動エネルギーを示す。図4には、フライホイール4の慣性モーメントIがエンジン回転数NEにかかわらず一定の値(例えば、最大設定値I0よりも小さな一定値)とされた場合の出力軸3の運動エネルギー100が示されている。出力軸3の運動エネルギー100は、エンジン回転数NEに応じて変化する。出力軸3の運動エネルギー100は、図4に示すように、エンジン回転数NEが大きな値となるに連れて増加する。
【0028】
出力軸3の回転の安定性は、出力軸3の運動エネルギー100の大きさに依存し、出力軸3の運動エネルギー100が小さな値であるほど、エンジン1の出力における周期的な変動の影響を受けて回転の安定性が低下しやすくなる。出力軸3の回転の安定性が低下して回転がばらつくと、振動や騒音が発生してしまうことがある。図4において、符号N0は、出力軸3の回転の安定性が低下しやすくなる領域Rの上限のエンジン回転数NE(所定回転数、以下、閾値とする)を示す。本実施形態では、エンジン回転数NEが閾値N0よりも小さな値である場合には、フライホイール4の慣性モーメントIが最大設定値I0に設定される。これにより、領域Rにおける出力軸3の運動エネルギー100が増加し、出力軸3が安定して回転することが可能となる。
【0029】
一方で、エンジン回転数NEが大きな値である場合には、フライホイール4の慣性モーメントIが小さな値であるほうが有利となる。これは、フライホイール4の慣性モーメントIが大きな値であると、出力軸3の回転が変動しにくいために回転速度が上昇しにくく、加速性能の低下等につながることによる。本実施形態では、エンジン回転数NEが閾値N0よりも大きな値である場合には、フライホイール4の慣性モーメントIが最大設定値I0よりも小さな値に設定される。例えば、エンジン回転数NEの増加に応じて段階的にフライホイール4の慣性モーメントIが低減されることができる。この場合、エンジン回転数NEが最も高回転の領域にある場合に、フライホイール4の慣性モーメントIが最小設定値I1とされることができる。
【0030】
ここで、エンジン回転数NEに基づくフライホイール4の慣性モーメントIの制御において、フライホイール4の慣性モーメントIが可変とされた範囲における大きな値に設定されている場合には、自動変速機2において変速に要する時間(以下、変速時間とする)がその分長くなってしまうという問題がある。例えば、自動変速機2においてシフトダウンが行われる場合である。
【0031】
自動変速機2においてN速変速段から(N−X)速変速段へシフトダウンする場合、変速時間は、少なくともエンジン回転数NEがN速変速段に対応する値から(N−X)速変速段に対応する値まで上昇するだけの時間を要する。このときに、フライホイール4の慣性モーメントIが大きな値であると、エンジン回転数NEが上昇するために必要な時間が長くなってしまう。その結果、変速を開始してから変速を終了するまでの変速時間が大きな値となってしまう。
【0032】
本実施形態では、以下に詳しく説明するように、自動変速機2においてシフトダウンする場合には、シフトダウン時以外に比べてフライホイール4の慣性モーメントIを低下させる制御が行われる。即ち、シフトダウン時には、フライホイール4の慣性モーメントIが、エンジン回転数NEに基づいて設定される値よりも小さな値に変更される。これにより、シフトダウン時におけるエンジン回転数NEの上昇を促進させ、変速時間を短縮させることができる。
【0033】
図1は、本実施形態の動作を示すフローチャートである。図5は、本実施形態の制御が行われた場合のタイムチャートである。
【0034】
図5において、(a)は変速指令、(b)はフライホイール4の慣性モーメントI、(c)は変速進行度、(d)はエンジン回転数NE、(e)は自動変速機2の出力軸トルク(駆動軸トルク)を示す。
【0035】
図5において、破線(102,104,106,108)は、シフトダウン時にフライホイール4の慣性モーメントI(102)が低減されない従来の制御におけるそれぞれの値の推移を示し、実線(103,105,107,109)は、本実施形態においてシフトダウン時にフライホイール4の慣性モーメントI(103)が低減される場合のそれぞれの値の推移を示す。
【0036】
従来は、変速時にフライホイール4の慣性モーメントI(102)は変更されていなかった。このため、例えば、エンジン回転数NE(106)が閾値N0よりも小さい場合であれば、フライホイール4の慣性モーメントI(102)が最大設定値I0に設定されているままでシフトダウンが行われていた。このため、変速指令101がN速変速段から(N−X)速変速段に変更されて変速が開始される時刻t0から、エンジン回転数NE(106)が上昇して変速が終了する時刻t2までに多くの時間を必要としていた。
【0037】
これに対して、本実施形態では、変速指令101がN速変速段から(N−X)速変速段に変更されると、フライホイール4の慣性モーメントI(103)が最大設定値I0から低減される。例えば、フライホイール4の慣性モーメントI(103)が最小設定値I1まで低減されることができる。フライホイール4の慣性モーメントI(103)が低減されることにより、シフトダウン中において、エンジン回転数NE(107)は、従来のエンジン回転数NE(106)に比べて速やかに上昇することができる。その結果、変速が終了する時刻t1は、従来の制御において変速が終了する時刻t2よりも早められることができる。よって、本実施形態では駆動軸トルク109を従来の駆動軸トルク108に比べて早いタイミングで上昇させ、加速性能を向上させることができる。
【0038】
本実施形態の制御フロー(図1)では、まず、ステップS10において、コントロールユニット10により、エンジン回転数NEが閾値N0よりも小さな値であるか否かが判定される。その判定の結果、エンジン回転数NEが閾値N0よりも小さな値であると判定された場合(ステップS10−Y)には、ステップS20に進み、そうでない場合(ステップS10−N)にはステップS70に進む。
【0039】
ステップS20では、コントロールユニット10により、フライホイール4の慣性モーメントIを最大設定値I0とする制御(制御B)が行われる。これにより、出力軸3の回転の安定性が高められ、出力軸3の回転がばらつくことによる振動や騒音の発生が抑制される。
【0040】
次に、ステップS30において、コントロールユニット10により、自動変速機2に対して変速指令(シフトダウン指令)が出力されているか否かが判定される。図5の例では、時刻t0にシフトダウン指令が出力される。ステップS30の判定の結果、変速指令が出力されていると判定された場合(ステップS30−Y)にはステップS40に進み、そうでない場合(ステップS30−N)には、本制御フローが再度はじめからスタートされる。
【0041】
ステップS40では、コントロールユニット10により、フライホイール4の慣性モーメントIを減少させる制御(制御A)が行われる。ステップS40では、フライホイール4の慣性モーメントIが、エンジン回転数NEに基づいて設定された値(最大設定値I0)よりも小さな値に変更される。フライホイール4の慣性モーメントIは、例えば、最小設定値I1に変更されることができる。フライホイール4の慣性モーメントIが減少することにより、エンジン回転数NE(図5の符号107参照)は、慣性モーメントIが小さな値に変更されない場合のエンジン回転数NE(図5の符号106参照)に比べて、速やかに上昇することができる。よって、図5に符号104および符号105に示すように、本実施形態の制御が行われた場合(105)には、従来(104)に比べてシフトダウンが短時間で行われることができる。
【0042】
次に、ステップS50では、コントロールユニット10により、エンジン回転数NEが閾値N0よりも小さな値であるか否かが判定される。ステップS50では、シフトダウン後にフライホイール4の慣性モーメントIを再び大きな値(最大設定値I0)に戻す必要があるか否かが判定される。シフトダウン中にエンジン回転数NEが上昇して閾値N0を超えた場合(ステップS50−N)、フライホイール4の慣性モーメントIは、変速終了後に最大設定値I0に戻される必要がなくなり、ステップS40(制御A)で変更された後の小さな値のままでよい。つまり、フライホイール4の慣性モーメントIの制御は、シフトダウン中か否かに基づく制御から、エンジン回転数NEに基づく制御に復帰させてもよい。このため、本制御フローがリセットされる。
【0043】
一方、シフトダウン中にエンジン回転数NEが上昇するものの、閾値N0を超えない場合(ステップS50−Y)には、本制御フローをリセットさせずに変速が終了するまでフライホイール4の慣性モーメントIを小さな値(例えば、最小設定値I1)に保っておく必要がある。変速が終了したことを確認するまでエンジン回転数NEに基づくフライホイール4の慣性モーメントIの制御に復帰しないように、後述するステップS60で変速終了の信号が入力されるのを待つ。
【0044】
ステップS50の判定の結果、エンジン回転数NEが閾値N0よりも小さな値であると判定された場合(ステップS50−Y)にはステップS60に進み、そうでない場合(ステップS50−N)には本制御フローが再度はじめからスタートされる。
【0045】
ステップS60では、コントロールユニット10により、変速が終了したか否かが判定される。自動変速機2からシフトダウンが終了したことを示す変速終了の信号が入力されたか否かに基づいてステップS60の判定が行われる。その判定の結果、変速が終了したと判定された場合(ステップS60−Y)には本制御フローが再度はじめからスタートされ、そうでない場合(ステップS60−N)には、ステップS60の判定が繰り返される。
【0046】
ステップS10において否定判定がなされてステップS70に進むと、ステップS70では、コントロールユニット10により、フライホイール4の慣性モーメントIを最大設定値I0よりも小さな値に設定する制御(制御A)が行われる。ステップS70が実行されると、本制御フローが再度はじめからスタートされる。
【0047】
本実施形態によれば、エンジン回転数NEが閾値N0よりも小さな値で(ステップS10−Y)、フライホイール4の慣性モーメントIが最大設定値I0とされている場合(ステップS20)には、シフトダウン時にフライホイール4の慣性モーメントIを低減させる制御が行われる(ステップS40)。これにより、シフトダウン中にエンジン回転数NEが速やかに上昇して変速時間が短縮されることができる。
【0048】
エンジン回転数NEが低回転である場合に、シフトダウン時以外においてはフライホイール4の慣性モーメントIが大きな値とされていることで回転軸3が安定して回転することができる。一方、シフトダウン時には、フライホイール4の慣性モーメントIがシフトダウン時以外に比べて低減されることにより、変速時間が短縮される。変速時間が短縮されることで、運転者の変速操作(シフト操作やアクセル操作)に対する応答性や、加速性能が向上されることができる。エンジン回転数NEが低回転である場合のエンジン1の出力トルクは、他の回転域における出力トルクに比べて低いことがある。この場合に、更に、低回転域においてフライホイール4の慣性モーメントIを大きな値とする制御が行われていると、低回転域における応答性や加速性が十分でないと感じられる可能性がある。本実施形態によれば、特に低回転域における応答性や加速性能を向上させることができる。
【0049】
なお、図1のフローチャートでは、シフトダウン時にフライホイール4の慣性モーメントIを減少させる制御が、フライホイール4の慣性モーメントIが変速前に最大設定値I0に設定されている場合に限り行われたが、上記制御が行われる条件は、これには限定されない。変速指令が出力される時点におけるフライホイール4の慣性モーメントIが、最小設定値I1よりも大きな値であれば、最大設定値I0である場合に限らず、変速時にフライホイール4の慣性モーメントIを減少させる制御を行うようにしてもよい。
【0050】
また、本実施形態では、フライホイール4の慣性モーメントIがエンジン回転数NEに応じて設定されている場合を前提として、シフトダウン時にフライホイール4の慣性モーメントIを減少させる制御が適用されたが、前提とするフライホイール4の慣性モーメントIの設定方法はこれには限定されない。エンジン回転数NE以外の要素に基づいてフライホイール4の慣性モーメントIが設定されている場合であっても、シフトダウン時にフライホイール4の慣性モーメントIを減少させる制御が適用されることができる。
【0051】
あるいは、シフトダウン時における変速時間の短縮を主な目的として、フライホイール4の慣性モーメントIが可変とされるものであってもよい。即ち、シフトダウン時のみフライホイール4の慣性モーメントIが変更(減少)され、それ以外の場合にはフライホイール4の慣性モーメントIが一定とされてもよい。
【0052】
本実施形態では、自動変速機2が有段の自動変速機(AT)である場合を例に説明したが、本実施形態の制御の適用対象はこれには限定されない。自動変速機2が、CVT、ハイブリッド車に搭載されたAT、MMT(自動変速モード付きマニュアルトランスミッション)等である場合にも、本実施形態のシフトダウン時におけるフライホイール4の慣性モーメントIを低減させる制御が適用されることができる。
【0053】
(第2実施形態)
図6を参照して第2実施形態について説明する。第2実施形態については、上記第1実施形態と異なる点についてのみ説明する。
【0054】
上記第1実施形態(図1)では、変速中に小さな値に設定されていた(ステップS40)フライホイール4の慣性モーメントIが、変速の終了(ステップS60−Y)後に変速前の大きな値(最大設定値I0)に戻された(ステップS20)。この場合、フライホイール4の慣性モーメントIが急激に増加することでエンジン1のトルクが低下し、ショックが発生することが考えられる。そこで、本実施形態では、シフトダウンが終了してフライホイール4の慣性モーメントIを増加させるときに、エンジン1の出力トルクを増加させる制御が行われる。これにより、エンジン1の出力トルクの低下を抑制し、ドライバビリティを向上させることができる。本実施形態のコントロールユニット10は、車両制御装置としての機能を有する。
【0055】
図6を参照して、本実施形態の動作について説明する。
【0056】
エンジン回転数NEが閾値N0よりも小さな値で(ステップS110−Y)フライホイール4の慣性モーメントIが最大設定値I0とされている(ステップS120)場合に、シフトダウン指令が出力される(ステップS130−Y)と、フライホイール4の慣性モーメントIを減少させる制御が行われる(ステップS140)。シフトダウン中にエンジン回転数NEが閾値N0よりも小さな値である(ステップS150−Y)場合には、変速が終了したか否かが判定される(ステップS160)。その判定の結果、変速が終了したと判定された場合(ステップS160−Y)には、ステップS170に進み、そうでない場合(ステップS160−N)には、ステップS160の判定が繰り返される。
【0057】
ステップS170では、コントロールユニット10により、エンジン1の出力トルクを増加させる制御が実行される。コントロールユニット10は、例えば、エンジン1における燃料の噴射量を増加させ、あるいは点火時期を変更することにより、エンジン1の出力トルクを増加させる。
【0058】
これにより、シフトダウンが終了してフライホイール4の慣性モーメントIが最大設定値I0に増加されるときに、エンジン1のトルクが低下することが抑制される。ショックを発生させることなくフライホイール4の慣性モーメントIを最大設定値I0に戻すことが可能となる。その他の動作については、上記第1実施形態と同様であることができる。
【0059】
(第2実施形態の変形例)
第2実施形態の変形例について説明する。
【0060】
上記第2実施形態(図6)では、シフトダウンが終了してフライホイール4の慣性モーメントIを最大設定値I0に戻す場合のショックを抑制するために、エンジン1のトルクを増加させる制御(ステップS170)が行われたが、これに代えて、自動変速機2のクラッチ(摩擦係合装置)の係合油圧を抜くことにより、ショックを抑制することができる。
【0061】
ここで、自動変速機2のクラッチは、エンジン1の出力を車輪5に摩擦係合により伝達するものであって、油圧(係合油圧)により出力の伝達率が変化する。係合油圧が大きい場合には、係合油圧が小さい場合に比べて、出力の伝達率が大きくなるように構成されている。従って、係合油圧を抜く(係合油圧を低下させる)ことにより、エンジン1の負荷を低下させ、フライホイール4の慣性モーメントIが最大設定値I0に戻される際のエンジン1のトルクの低下を抑制することができる。
【0062】
この場合、例えば、フライホイール4の慣性モーメントIを最大設定値I0に戻すタイミングに合わせて、自動変速機2においてクラッチの係合油圧を抜くことにより、ショックを低減させることができる。あるいは、シフトダウンが終了するときのクラッチの係合に同期してフライホイール4の慣性モーメントIを最大設定値I0に戻すようにし、クラッチが係合する瞬間の係合油圧を抜くことにより、ショックを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明のフライホイール装置の第1実施形態の動作を示すフローチャートである。
【図2】本発明のフライホイール装置の第1実施形態の概略構成図である。
【図3】本発明のフライホイール装置の第1実施形態におけるフライホイールの慣性モーメントにおいて可変とされた範囲について説明するための図である。
【図4】本発明のフライホイール装置の第1実施形態におけるフライホイールの慣性モーメントの設定内容について説明するための図である。
【図5】本発明のフライホイール装置の第1実施形態の制御が行われた場合のタイムチャートである。
【図6】本発明のフライホイール装置の第2実施形態の動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0064】
1 エンジン
2 自動変速機
3 出力軸
4 フライホイール
5 車輪
6 駆動軸
10 コントロールユニット
100 運動エネルギー
101 変速指令
102,103 慣性モーメント
104,105 変速進行度
106,107 エンジン回転数
108,109 変速機の出力トルク
I 慣性モーメント
I0 最大設定値
I1 最小設定値
NE エンジン回転数
N0 閾値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の出力を自動変速機に伝達する出力軸に設けられ、慣性モーメントを変化させることが可能に構成されたフライホイールと、前記フライホイールの前記慣性モーメントの大きさを制御する制御手段とを備えるフライホイール装置であって、
前記制御手段は、前記自動変速機において低速側の変速比への変速が行われるシフトダウン時に、前記シフトダウン時以外に比べて前記慣性モーメントを小さな値とするように制御する第一の制御を行う
ことを特徴とするフライホイール装置。
【請求項2】
請求項1記載のフライホイール装置において、
前記制御手段は、前記内燃機関の回転数が予め定められた所定回転数よりも小さな値である場合に、前記回転数が前記所定回転数よりも大きな値である場合に比べて前記慣性モーメントを大きな値とするように制御する第二の制御を行うものであって、
前記第一の制御は、前記第二の制御が行われている場合にのみ行われる
ことを特徴とするフライホイール装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のフライホイール装置を備えた車両を制御する車両制御装置であって、
前記第一の制御から復帰して前記慣性モーメントが増加される際に、前記自動変速機において前記内燃機関の出力を前記車両の車輪に摩擦係合により伝達し、かつ係合油圧の上昇に応じて前記摩擦係合による前記出力の伝達率が増加するように構成された摩擦係合装置の前記係合油圧を低下させる制御、および前記内燃機関の出力を増加させる制御の少なくともいずれか一方を行う
ことを特徴とする車両制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−85400(P2009−85400A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−258868(P2007−258868)
【出願日】平成19年10月2日(2007.10.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】