説明

フラクタル構造体、フラクタル構造集合体およびそれらの製造方法ならびに用途

従来技術や新規技術によっても実現していない3次元フタクタル構造体を提供するために、本発明のフラクタル構造体は、一部または全部に立体的なフラクタル構造を有する構造体であって、電磁波の透過率において該フラクタル構造の構造因子及び材質により定まる特有の波長において極小値を有し及び/又は電磁波の反射率において該フラクタル構造の構造因子及び材質により定まる特有の波長において極小値を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光領域からマイクロ波領域における電磁波の制御、とくに特定周波数の電磁波の局在化、閉じ込め、無反射、吸収、蓄積、増幅、濾波機能を備えるフラクタル構造およびその製造方法ならびに用途に関する。
【背景技術】
【0002】
構造のどの部分をとっても全体的な構造と相似形であるという、いわゆる自己相似性で特徴づけられるフラクタル構造体を対象とした電磁波の反射や透過に関する理論的な研究は、1990年代から盛んになりつつあり、反射係数が特定方向で大きくなったり、フラクタル構造の厚みや周波数に対し周期的に大きく変化するとする特徴的な知見が得られている[非特許文献1、2]。しかしながら、これらの理論計算はフラクタル構造の複雑性を特徴づけるフラクタル次元がカントール集合体のように0.6309と、単純な構造に限られているのが殆どである。一方、実験的な研究は複雑なフラクタル構造の作製が困難なため、2次元的なフラクタル構造体に関する研究がわずかにあるだけで[非特許文献3]、3次元的な研究は全くないのが現状である。
【0003】
光からマイクロ波に至る電磁波の制御に関しては、それぞれの波長領域に対して高度な技術が駆使されている。最近では、フォトニック結晶と称する誘電体の周期構造が電磁波を完全反射することから、研究開発が活発になり、光集積回路や高効率レーザー発振、周波数可変型フィルターなど、さまざまな応用が期待されている。
【非特許文献1】W.Wen,L.Zhou,J.Li,W.Ge,C.T.Chen,&P.Sheng,Phys.Rev.Lett.89,223901(2002)
【非特許文献2】V.N.Bolotov,TechnicalPhysics,45,1604(2000)
【非特許文献3】X.Sun and DL.Jaggard,J.Appl.Phys.70,2500(1991)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、前記の従来技術や新規技術によっても実現していない3次元フタクタル構造体を提供し、その特定周波数の電磁波に対する諸特性を利用することを目的とし、鋭意研究の結果、特定のフラクタル構造体は、特定の電磁波や光に対し選択的に、フラクタル構造体により定まる特定の波長において透過率や反射率が小さくなること、及び、特定の波長の電磁波を一定領域内にほぼ完全に閉じ込める特性(局在性)を有することを見出し完成したものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明に係る第1のフラクタル構造体は、一部または全部に立体的なフラクタル構造を有する構造体であって、電磁波の透過率において該フラクタル構造の構造因子及び材質により定まる特有の波長において極小値を有し及び/又は電磁波の反射率において該フラクタル構造の構造因子及び材質により定まる特有の波長において極小値を有することを特徴とする。尚、両極小値を示す波長は異なっていてもよい。
【0006】
本発明における電磁波は、電界と磁界が時間的に変動して媒質中を伝搬する波動であり、γ線、X線、紫外線、可視光、赤外線及び電波(テラヘルツ波、ミリ波、マイクロ波、超短波、短波、中波、長波)を含む。
【0007】
ここで、構造因子とは、全体と部分とが相似となるための因子であって、例えば、全体形状を画する要素(例えば、一辺の長さ)、その全体と部分の縮小比等のフラクタル構造を特定する因子をいう。
【0008】
また、材質とは、構造体を構成する材料の性質をいい、ここでは、主として誘電率、導電率等の電気的性質をいう。
【0009】
また、透過率の極小値及び反射率の極小値とは、それぞれある波長域における透過率又は反射率が小さくなっている値点をいい、常に、最小値と一致するわけではない。
ここで、フラクタル構造体が、同一の波長において、透過率の極小値と反射率の極小値の両方を持っている場合には、その波長の電磁波がフラクタル構造体内に閉じこめられて局在するようになる。
また、フラクタル構造体が透過率の極小値と反射率の極小値の両方を持っており、その波長が異なる場合には、フラクタル構造に非対称的な歪が生じている。
【0010】
前記第1のフラクタル構造体においては、前記透過率の極小値は、電磁波がほとんど透過しないということができる、−10dB以下であることが好ましく、前記反射率の極小値は、小さい反射率といえる、−5dB以下であることが好ましい。
また、本発明において、透過率の極小値は、−20dB以下であることがより好ましく、よりいっそう好ましくは、−30dB以下であることが好ましい。また、反射率の極小値は、より好ましくは−10dB以下、よりいっそう好ましくは、−15dB以下である。
【0011】
また、両極小値を示す波長が同じ場合には前記第1のフラクタル構造体は、該フラクタル構造及び材質により定まる特有の波長の電磁波を内部に局在させるようにすることもできる。
【0012】
さらに、本発明に係る第2のフラクタル構造体は、一部または全部に立体的なフラクタル構造を有する構造体であって、該フラクタル構造を定義する構造因子と、前記構造体を構成する材料の誘電率及び/又は導電率とに基づいて設定された特定波長の電磁波を内部に局在させることを特徴とするものである。
【0013】
本発明に係る第1及び第2のフラクタル構造体において、前記立体的なフラクタル構造は、各面の中央部をそれぞれ貫通する複数の貫通空洞と、その貫通空洞を含む前記フラクタル構造全体を1/Sに縮小してなる複数の1次構造体とを含んでなり、
前記貫通空洞の前記各面における断面形状は前記各面がn/S(ただし、nは1以上、S未満の整数)に縮小された形状となっていることが好ましい。
【0014】
本発明に係る第1及び第2のフラクタル構造体が誘電体で作製される場合には、前記透過率の極小値及び/又は前記反射率の極小値を示す波長は、
【数1】

で定まることを特徴とする。ここで、εは、体積平均誘電率であり、フラクタル構造の構造因子とフラクタル構造体を構成する材料の誘電率に基づいて算出される。
【0015】
また、本発明に係る第1及び第2のフラクタル構造体は、典型的には、式:N−S(式中、Nは前記構造体が分割された要素の数から抜き取られた要素の数を除いた個数を表す)で表されるフラクタル構造におけるフラクタル次元Dが2以上の非整数である。
尚、本発明に係る第1及び第2のフラクタル構造体は、基本構造パターンが相似的に入れ子構造をなしていることが好ましい。
【0016】
本発明に係る第1及び第2のフラクタル構造体の代表的な構造としては、フラクタル次元Dが2.7268で代表されるメンジャースポンジ型フラクタル構造を有するものである。
【0017】
また、本発明に係る第1及び第2のフラクタル構造体が絶縁体で構成される場合には、前記特定波長は、前記誘電率及び前記導電率のうち実質的に前記誘電率のみに依存して設定され、かつ前記特定波長は、前記構造因子と前記誘電率に基づいて算出された平均体積誘電率εを用いて算出することができる。
【0018】
本発明に係る第3のフラクタル構造体は、各面の中央部をそれぞれ貫通する複数の貫通空洞と、その貫通空洞を含む全体形状を1/Sに縮小してなる複数の1次構造体とを含んでなり、前記貫通空洞の前記各面における断面形状は前記各面がn/S(ただし、nは1以上、S未満の整数)に縮小された形状となっていて、一辺がaであるフラクタル構造を、一部または全部に有するフラクタル構造体である。
【0019】
本発明に係る第4のフラクタル構造体は、各面の中央部をそれぞれ貫通する複数の貫通空洞と、その貫通空洞を含む全体形状を1/Sに縮小してなる複数の1次構造体とを含んでなり、前記貫通空洞の前記各面における断面形状は前記各面がn/S(ただし、nは1以上、S未満の整数)に縮小された形状となっている立方体形状をしたメンジャースポンジ型フラクタル構造体の縦および/もしくは横各辺の両端から1辺aの1/3〜1/9の任意の領域を共有させて複数個連結させた壁状あるいは柱状をしたメンジャースポンジ型フラクタル構造の集合体をなしている。
【0020】
そして、本発明に係る第3及び第4のフラクタル構造体はそれぞれ、該フラクタル構造体の平均体積誘電率をεとしたときに、式
【数2】

(但し、pは電磁波モードの次数で1以上の整数、p=1,2,3・・・.)によって予測される特定波長の電磁波の透過率が−20dB以下、反射率が−5dB以下とほとんど透過しないことおよび反射率が小さい特性を有することを特徴とする。
【0021】
本発明に係る第5のフラクタル構造体は、各面の中央部をそれぞれ貫通する複数の貫通空洞と、その貫通空洞を含む全体形状を1/Sに縮小してなる複数の1次構造体とを含んでなり、前記貫通空洞の前記各面における断面形状は前記各面がn/S(ただし、nは1以上、S未満の整数)に縮小された形状となっている立方体形状をしたメンジャースポンジ型フラクタル構造体を1辺aの1/3〜1/9の任意の厚みで板状に切り取った該メンジャースポンジ型フラクタル構造体の部分構造体をなしている。
【0022】
本発明に係る第6のフラクタル構造体は、各面の中央部をそれぞれ貫通する複数の貫通空洞と、その貫通空洞を含む全体形状を1/Sに縮小してなる複数の1次構造体とを含んでなり、前記貫通空洞の前記各面における断面形状は前記各面がn/S(ただし、nは1以上、S未満の整数)に縮小された形状となっている立方体形状をしたメンジャースポンジ型フラクタル構造体を1辺aの1/3〜1/9の任意の厚みで板状に切り取った該メンジャースポンジ型フラクタル構造体の部分構造体を、更にその縦および/もしくは横各辺の両端から1辺aの1/3〜1/9の任意の領域を共有させて複数個連結させた壁あるいは柱形状をしたメンジャースポンジ型フラクタル構造の集合体をなしている。
【0023】
本発明に係る第7のフラクタル構造体は、フタクタル構造が、1辺aの正方形状の中央部から該正方形状をn/S(ただし、nは1以上、S未満の整数)に縮尺した正方形状を部分的に抜き取った形状を有する2次元カントールフラクタルパターンを面に垂直方向に一定の厚みで貫通した板状構造体である。
【0024】
本発明に係る第8のフラクタル構造体は、フタクタル構造が、1辺aの正方形状の中央部から該正方形状をn/S(ただし、nは1以上、S未満の整数)に縮尺した正方形状を部分的に抜き取った形状を有する2次元カントールフラクタルパターンを面に垂直方向に一定の厚みで貫通した板状構造体で、その縦および/もしくは横各辺の両端から1辺aの1/3〜1/9の任意の領域を共有させて複数個連結させた壁あるいは柱形状をした前記空洞貫通型板状フラクタル構造の集合体をなしている。
【0025】
そして、本発明に係る第5〜第8の第8のフラクタル構造体は、該フラクタル構造体の平均体積誘電率をεとしたときに、式
【数3】

(但し、pは電磁波モードの次数で1以上の整数、p=1,2,3・・・)に相当する特定波長の電磁波の反射率が−5dB以下と小さい特性を有することを特徴とする。
【0026】
本発明に係る第1〜第8のフラクタル構造体は、フラクタル構造を有する立体形状を有する物品であればよく材料は各種のものを用いることができる。樹脂、セラミックス、半導体、金属、またはそれらの複合物から選ばれる材料により構成することができ、そのフラクタル構造体の内部空間を前記フラクタル構造体と誘電率の異なる、気体、若しくは液体または固体で充填されていてもよいし、あるいは内部空間が真空であってもよい。
【0027】
また、本発明に係る第1〜第8の前記フラクタル構造体は、高誘電率セラミック粒子及び/又は低電磁波損失セラミック粒子を均一分散させた樹脂からなっていてもよい。さらに、前記フラクタル構造体の内部表面および/又は外部表面全体、または一部をセラミックス、半導体または金属でコーティングされていてもよい。
【0028】
本発明に係るフラクタル構造体の第1の製造方法は、立体的なフラクタル構造を有するフラクタル構造体を製造する方法であって、エネルギー線硬化性樹脂に部分的にエネルギー線を照射して固化することにより得られる、前記フラクタル構造体が分割されてなる二次元的基本構造体を、順次積み重ねることにより、前記立体的なフラクタル構造体を製造することを特徴とする。光硬化性樹脂を用いる場合にはいわゆるレーザー光を用いた光造形法で薄層を形成し薄層を積み上げて、内部に中空部のある立体を形成することができ、好適に用いることができる。
【0029】
本発明に係るフラクタル構造体の第1の製造方法では、前記エネルギー線硬化性樹脂としてセラミック粒子を含むものを用い、前記セラミック粒子を含む二次元基本構造体を順次積み重ねて積層体を形成した後に、その積層体を焼成して、前記エネルギー線硬化性樹脂を焼失させることにより、セラミックス焼結体からなるフラクタル構造体を製造するようにしてもよい。
【0030】
本発明に係るフラクタル構造体の第2の製造方法は、立体的なフラクタル構造を有するフラクタル構造体を製造する方法であって、前記フラクタル構造体の反転型を作製する工程と、その反転型に硬化性流動体を流し込んで、固化させた後、前記反転型を取り除く工程を含むことを特徴とする。
前記第2の製造方法において、前記フラクタル構造体が分割されてなる部分に対応する部分型を作り、その部分型を組み合わせて前記フラクタル構造体の反転型を作製するようにして前記反転型を作製するようにしてもよい。
また、本発明に係る他の製造方法は、立体的なフラクタル構造を有するフラクタル構造体を製造する方法であって、前記フラクタル構造体が分割されてなる基本構造体をそれぞれ作製し、作製された基本構造体を接合することにより前記立体的なフラクタル構造体を製造することを特徴とする。
尚、本方法において、フラクタル構造体の部分あるいは合体後において高エネルギー線等により微細孔を穿つようにしてもよい。
前記製造方法では、前記基本構造体を射出成形法を用いて成形するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係るフラクタル構造体によれば、特定の電磁波(光を含む)に対し選択的に、透過しないようにしたり、反射しないようにすることができ、また、一定空間領域内にほぼ完全に電磁波を閉じ込める特性(局在性)を持たせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、本発明のメンジャースポンジ型フラクタル構造体の立体図である。
【図2】図1のメンジャースポンジ型フラクタル構造体の平面図である。
【図3A】図1のメンジャースポンジ型フラクタル構造体を作製する元となる立方体の斜視図である。
【図3B】立方体の各辺を3等分してできる27個の小立方体の斜視図である。
【図3C】27個の小立方体から、面心と体心に位置する小立方体7個を引き抜いてできる該フラクタルの基本構造パターンの斜視図である。
【図4A】図1〜2のメンジャースポンジ型フラクタル構造体の製造方法の一例を示す模式図(その1)である。
【図4B】図1〜2のメンジャースポンジ型フラクタル構造体の製造方法の一例を示す模式図(その2)である。
【図5】図1のメンジャースポンジ型フラクタル構造体の電磁波特性の測定方法を示す概念図である。
【図6A】図1のメンジャースポンジ型フラクタル構造体の電磁波反射率を示す特性図である。
【図6B】図1のメンジャースポンジ型フラクタル構造体の電磁波透過率を示す特性図である。
【図7】図1のメンジャースポンジ型フラクタル構造体の中央部にある空洞部内で測定した電界強度分布の特性図である。
【図8】図1のメンジャースポンジ型フラクタル構造体の中央部にある空洞部から12.7GHzの電磁波を発振し、該フラクタル構造体周囲で受信したときの測定配置図である。
【図9】本発明に係るメンジャースポンジ型のフラクタル構造体を用いたフラクタルアンテナの斜視図である。
【図10】図9のフラクタルアンテナの受信特性を示すグラフである。
【図11】本発明に係るセラミック製フラクタル構造体の外観写真である。
【図12】図11に示すセラミック製フラクタル構造体の電磁波の反射特性と透過特性とを示すグラフである。
【図13A】立方体形状をしたステージ3のメンジャースポンジ型フラクタル構造体の斜視図である。
【図13B】1辺aの立方体形状をしたステージ3のメンジャースポンジ型フラクタル構造体を要素として、縦と横各辺の両端から1辺aの1/3の領域を共有させたステージ4のメンジャースポンジ型フラクタル構造3×3個から構成された集合体の斜視図である。
【図13C】立方体形状をしたステージ3のメンジャースポンジ型フラクタル構造体を1辺aの1/3の任意の厚みで板状に切り取った該フラクタルの部分構造体の斜視図である。
【図13D】前記部分構造体の縦と横各辺の両端から1辺aの1/3の領域を共有させたステージ4のメンジャースポンジ型フラクタル構造3×3個から構成された集合体の斜視図である。
【図13E】2次元カントールフラクタルパターンの窓穴を貫通させた板状構造体を示す斜視図である。
【図14A】図9Aのメンジャースポンジ型フラクタル構造体の測定結果(反射率と透過率)を示すグラフである。
【図14B】図9Bに示す壁状集合体の測定結果(反射率と透過率)を示すグラフである。
【図14C】図9Cに示す部分薄壁状構造体の測定結果(反射率)を示すグラフである。
【図14D】図9Dに示す薄壁状集合体の測定結果(反射率と透過率)を示すグラフである。
【図14E】図9Eに示す板状構造体の測定結果(反射率)を示すグラフである。
【図15】ホーンアンテナを使った電磁波反射および透過率測定方法を示す模式図である。
【符号の説明】
【0033】
1 フラクタル構造体
2 フラクタル構造体1を作製する際の元になる立方体
3 元になる立方体を27分割した小立方体
4 立体的フラクタル構造体1の基本構造パターン
10 第2段階目の基本構造パターン
11 第3段階目の基本構造パターン
12 フラクタル構造体1の面心を貫通する角柱空洞
13 第2段階目の基本構造パターン10の面心を貫通する角柱空洞
14 第3段階目の基本構造パターン11の面心を貫通する角柱空洞
20 光硬化性樹脂液
30 紫外線レーザー光
40 造形テーブル
50 フラクタル構造体サンプル
60 モノポールアンテナ
70 モノポールアンテナ
80 電磁波吸収材
90 立体的フラクタル構造体1の面心を貫通する角柱空洞
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。
実施の形態1.
本発明の一実施の形態に係るフラクタル構造体は、一部または全部に立体的フラクタル構造を有し、特定波長の電磁波がフラクタル構造内に局在されるようにしたものである。
詳細に説明すると、本実施の形態1の立体的フラクタル構造は、外形が一辺aの正六面体(0次六面体という)であって、以下のように作製される。
【0035】
(1)その0次六面体を、1/Sに縮小してなる1次六面体に分割して、0次六面体の対向する2つの面の間にそれぞれ一方から他方に貫通する1次空洞が形成されるように所定の数の1次六面体を抜き取ることにより、0次六面体の体心中央部で直交する1次空洞を3方向に形成する。
ここで、0次六面体を、1/Sに縮小した1次六面体とは、0次六面体と相似形で一辺がa/Sの六面体を意味する。また、0次六面体の各面における1次空洞の断面の一辺は1次六面体の一辺(a/S)の整数倍であり、この整数をnとし、抜き取り要素数と称する。尚、本明細書において、Sは縮小数と称する。
【0036】
(2)同様にして、1次六面体をそれぞれ、1/Sに縮小してなる2次六面体に分割して、1次六面体の対向する2つの面の間にそれぞれ一方から他方に貫通する2次空洞が形成されるように所定の数の2次六面体を抜き取ることによって、1次六面体の体心中央部で直交する2次空洞を3方向に形成する。ここで、1次六面体から抜き取る2次六面体の数は、上記(1)において0次六面体から抜き取る1次六面体の数と同数である。また、1次六面体を、1/Sに縮小した2次六面体とは、一辺がa/Sの六面体を意味する。
従って、2次空洞の一辺は2次六面体の一辺(a/S)のn倍となる。
以上のようにして、0次六面体と1次空洞で構成される全体形状が1/Sに縮小されてなる六面体が作製され、ステージ2の六面体フラクタル構造が作製される。すなわち、1次六面体と2次空洞から構成される構造体は、0次六面体と1次空洞で構成される全体形状と相似形となっている。
(3)以下、必要に応じて同様の操作を繰り返し、2次六面体と3次空洞、3次六面体と4次空洞、・・・を順次作製することにより、ステージ3、ステージ4、・・・の六面体フラクタル構造を作製することができる。
【0037】
以上のようにして構成されたフラクタル構造体は、1次空洞の1辺an/Sと、そのフラクタル構造体を構成する物質の誘電率に基づいて算出されるフラクタル構造体の平均体積誘電率εの平方根に比例する特定波長の電磁波(光を含む)をフラクタル構造内に局在させることが可能となる。
特に、誘電体からなる六面体フラクタル構造では、
【数4】

に相当する特定波長の電磁波をフラクタル構造内に局在させることが可能となる。
【0038】
ここで、上記式中において、フラクタル構造体の平均体積誘電率εは、次の式で表される。
【数5】

【数6】

ここで、εmatは、フラクタル構造体を構成する物質の比誘電率、Vは、フラクタル構造体においてフラクタル構造体を構成する物質の占める体積率、εは、空洞の比誘電率である。
Nは、自己相似体の数であり、低次のk次六面体を分割して作製した複数の(k+1)次六面体から、(k+1)次空洞を形成するために所定の数だけ抜き取った後に残った(k+1)次六面体の数である。
【0039】
dは実空間の次元であり、通常は3である。一方、Dはフラクタルの次元であり、自己相似体数Nと縮小数Sとに基づいて算出される。
フラクタル次元Dは、フラクタル構造の全体を1/Sに縮小した要素N個で構成されている場合、N=Sで定義され、構造の複雑さを数値的に示す指標となる。すなわちDが1、2、3のように整数であれば通常の単純な1次元、2次元、3次元を示すことになるが、フラクタル構造ではフラクタル次元Dが非整数となるのが特徴で、2以上の、例えば2.7のようになると2次元でも3次元でもない複雑な構造パターンとなる。本発明では2以上のフラクタル次元を有するフラクタル構造を立体的フラクタル構造と定義する。
【0040】
mは、ステージ数である。
すなわち、フラクタル構造は、全体を等分割した部分が全体と同じ構造パターンを有し、さらに各部分をより細かく等分割したより小さな部分も全体と同じ構造パターンを有するように階層的な入れ子構造を有する。この繰り返される階層数はフラクタル構造のステージ数mとして定義され、ステージ数mが大きくなると、基本的な構造パターンが幾重にも重畳され、より微細なパターンで構成された複雑なフラクタル構造となる。
【0041】
本発明における電磁波の閉じ込め(局在)は、半導体の不純物準位における電子の局在化や、フォトニック結晶中に形成した欠陥準位における電磁波の局在化、すなわち電子のバンドギャップやフォトニックバンドギャップ中での閉じ込めとは本質的に異なり、立体的フラクタル構造内に電磁波を閉じ込めるもので、バンドギャップは必要としない。
したがって、本発明により、特定周波数の電磁波に対する無反射完全吸収が可能となり、従来材料にはない理想的な電磁波遮蔽および吸収材料が実現できる。また一定波長で共振し閉じ込められている電磁波を特定方向に導くことで新たなレーザーやメーザー発振が可能になる。その他、電磁波を局所的に閉じ込め、増幅することによりエネルギー密度を高め、様々な材料の加熱処理への利用や、核融合など新たなエネルギー開発への発展が見込めるなどの作用効果を発揮する。
【0042】
以下、本実施の形態1のフラクタル構造体について、より具体的な一例を用いて説明する。
図1は本実施の形態1に係るフラクタル構造体のより具体的な一例の立体的フラクタル構造体1の立体図である。図2は立体的フラクタル構造体1の1つの面を示す平面図であり、どの面から見ても同じ形状をしている。このフラクタル構造体は立方形状をしており、図3Aに示す立方体2の各辺を3等分してできる同等の小立方体3(27個:図3B)から、各面および立方体の中央部に位置する小立方体3を7個引き抜いて中央部が角柱状に貫通した構造が基本的なパターン4になっている(図3C)。
【0043】
図3Cの中央部が角柱状に貫通した立方体4と相似形の小立方体10(20個)は同様の操作で、それぞれの中央部が角柱状に貫通した構造になっている。さらにこれら各小立方体10は、より小さな相似形の小立方体11(20個)で構成され、それぞれ中央部が四角く貫通した構造になっている(図1参照)。このようなフラクタル構造体は一般にメンジャースポンジ型と称され、3段階の階層構造になっているためステージ3と分類される。フラクタル構造体の繰り返される入れ子構造の各階数(ステージ数)を更に上げることも可能であり、ステージ数および/または各ステージでのパターン寸法により局在させる電磁波の波長を制御することができる。
【0044】
メンジャースポンジ型フラクタルのフラクタル次元Dは、フラクタル構造が一辺を3等分した立方体20個で構成されていることから、定義により3=20となり、約2.7268である。
【0045】
メンジャースポンジ型フラクタルは、フラクタル構造を有する立体形状を有する物品であればよく材料は各種のものを用いることができる。例えば、樹脂、又は樹脂中にセラミックス粒子を均一に分散させた混合物を用いて形成することもできる。このように混合物とすると、構造体の平均体積誘電率を調整することができる。樹脂としては、例えばエポキシ系樹脂、アクリレート系樹脂等の種々の合成樹脂を用いることができる。またセラミックス粒子としては、TiO(酸化チタン)、SrTiO(チタン酸ストロンチウム)、BaTiO(チタン酸バリウム)、SiO(酸化シリコン)等を用いることができる。特に、局在した電磁波や光の損失を防ぐには高誘電率セラミックス粒子や低電磁波損失セラミックス粒子を用いることが好ましい。
【0046】
また、樹脂中にセラミックス粒子を均一に分散させて形成した構造体を焼成処理することにより、あるいは樹脂で形成したメンジャースポンジの反転構造体にセラミックススラリーを注入し、乾燥後、焼成処理することにより、いずれも樹脂を酸化消失せしめ、セラミックス等からなるメンジャースポンジ構造を形成することができる。それにより、構造体の平均体積誘電率を上げることができる。樹脂としては、例えばエポキシ系樹脂、アクリルスチレン共重合体、アクリレート系樹脂、ポリビニルアセタール樹脂等の種々の合成樹脂を用いることができる。またセラミックス粒子としては、TiO(酸化チタン)、SrTiO(チタン酸ストロンチウム)、BaTiO(チタン酸バリウム)、SiO(酸化シリコン)等を用いることができる。特に、局在した電磁波や光の損失を防ぐには高誘電率や低電磁波損失セラミックス粒子を用いることが好ましい。
【0047】
以上のように構成された、1辺aの立方体形状をしたメンジャースポンジ型フラクタル構造体(図1)を、誘電体で構成し、該構造体の平均体積誘電率をεとすると、上記式中n/Sは1/3となり、
【数7】

に相当する波長の電磁波が該フラクタル構造中に局在可能である。
【0048】
本実施の形態1において、具体例の立体的フラクタル構造体は、その構成材料は誘電体に限られるものではなく、樹脂、セラミックス、半導体、ガラス、金属、あるいはこれら2種類以上の混合物により構成することができる。
【0049】
以上説明したように、立体的フラクタル構造を有する構造体に電磁波が入射した場合、特殊な干渉作用により、フラクタル構造を特定する因子(構造因子)により決定される特定波長の電磁波を、フラクタル構造内に局在させ、反射も透過も殆ど生ぜしめない効果を有するのが、本発明の基本となるところである。ここで、構造因子とは、上述のように、全体と部分とが相似となるための、全体形状を画する要素(例えば、一辺の長さ)、その全体と部分の縮小比等のフラクタル構造を特定する因子であり、自己相似体数N、フラクタル次元D、縮小数S、ステージ数m等が含まれる。
また、誘電体で構成されるフラクタル構造の局在波長は、構成誘電体の体積平均誘電率εにも関係した関数で与えられる。
【0050】
このことは、また、この特定波長の電磁波をフラクタル構造内部で発振させた場合、外部には殆ど漏れ出ないことも確認しており、このことは電磁波の局在化すなわち閉じ込めが実現できることを意味している。
【0051】
フラクタル構造内部に局在あるいは閉じ込められた電磁波は、フラクタル構造を構成する樹脂やセラミックス、半導体、ガラス、金属等の誘電損失又は電気抵抗により吸収されていくが、低損失の材料や、ステージ数を大きくして構成材料の占める体積分率を極力少なくすることにより、特定波長の電磁波の入射を遮断した後も一定時間蓄積することが可能となる。前記の条件において、特定波長の電磁波の入射を続けると、蓄積された電磁波のエネルギーは平衡状態に達するまで増えて行くことが容易に予想され、増幅することが可能となる。
【0052】
3次元的な形状を有する誘電体のフラクタル構造を製造するには、制御する電磁波の波長に応じ、単位形状と大きさ、フラクタル構造の階層を示すステージ数、全体形状と大きさ、細部構造パターンの寸法、誘電率等を理論式に従って設計する。フラクタル構造の内部空間は、真空、空気、気体、液体等で構成されてもよいが、異なる誘電率を有する誘電体であってもよい。また誘電体は目的に応じ、電磁波をよく吸収するものであってもよいし、吸収しにくいもの、すなわち、よく透過するものであってもよい。
【0053】
複雑な立体的フラクタル構造の製造には、CAD/CAMシステムを用いた3次元自由造形法によるのが適している。例えば、光造形法による場合は、CADで描いた立体的フラクタル構造を薄い層の積層体に分割し、各層の形状を構成する数値データに従って、光硬化性樹脂液表面に細く絞った紫外線レーザーを照射し重合固化させて1層々積層し、3次元構造が形成される。
また、A)最終的三次元フラクタル構造体を複数の二次元基本構造体に分割した形状を有する、各二次元基本構造体を光造形法により光硬化性樹脂を用いて形成し、B)この複数の二次元基本構造体を積み重ねて三次元フタクタル構造体を製造するができる。
【0054】
樹脂の比誘電率は通常2〜3程度であるが、より高い誘電率の材料を用いてフラクタル構造体を作製したい場合は、TiO(酸化チタン),BaTiO(チタン酸バリウム),CaTiO(チタン酸カルシウム),SrTiO(チタン酸ストロンチウム)等の高誘電率を有するセラミックス粉末や、それらの複合粉末、他のセラミックス、半導体あるいは金属等との混合粉末を適当量光硬化性樹脂液に混合し、造形すればよい。
【0055】
また、高誘電率のセラミックス粒子を体積分率で5%−80%混合した光硬化性樹脂を原料にして、セラミック粒子分散樹脂からなるフラクタル構造体およびその反転構造を光造形法で作製した後、空気中で焼成することにより、前記光硬化性樹脂を消失させ、その後セラミックス粒子を焼結させることで、セラミックス焼結体からなるフラクタル構造体を製造できる。
【0056】
または、必要とするフラクタル構造の反転構造を有する樹脂を光造形法で作製し、それを鋳型にして、前記のセラミックススラリーを充填し、焼結する方法も利用できる。このとき、樹脂は加熱条件を制御することにより焼失させることができる。すなわち、A)最終的三次元フタクタル構造体の反転構造を複数の二次元基本構造体に分割した形状を有する、各二次元基本構造体を光造形法により形成し、B)この複数の二次元基本構造体を積み重ねて三次元フラクタル構造体の反転構造を作製し、C)それを鋳型にしてセラミックス、半導体および金属等のスラリー等の(溶融)流動体を流し込み、D)必要ならば、乾燥後焼結し、固化させ,あるいは、前記光硬化性樹脂を焼失させることによりフラクタル構造体を製造することができる。
【0057】
以上のように、実施の形態1の立体的フラクタル構造体1において、構造体の誘電率の選択およびフラクタル次元とステージ数、寸法等の構造制御により、特定の波長を有する電磁波や光を反射することなく完全に閉じ込めることができる。それにより種々のデバイスに電磁波や光の完全吸収、漏波、メーザーやレーザー発振、増幅機能、電磁エネルギーの蓄積および電磁加熱機能を付与することが可能となる。
【0058】
以上説明した実施の形態1のメンジャースポンジ型フラクタル構造体は、断面が四角形の相似形状で構成されているが、三角形や円、その他の多角形や、異なる複数の多角形で構成されていても、自己相似性は部分的に満たされるので、前記各項目に記載された諸機能と同様の効果が得られ、また関連する電磁波や光特性の制御に有用であることは当然である。
【0059】
また、メンジャースポンジ型フラクタル構造体が完全な立方体でなくとも、多面体であったり、X、Y、Z軸の一方向あるいは複数の方向に伸びたり、収縮した異方性のある形状であっても、自己相似性は部分的に満たされるので、前記各項目に記載された諸機能と同様の効果が得られ、また関連する電磁波や光特性の制御に有用であることは当然である。
【0060】
以上の実施の形態1では、光造形法により、最終形状のフラクタル構造体が分割された2次元構造体を順次積層してフラクタル構造体を製造する方法を示したが、本発明はこれに限られるものではなく、立方体ブロックにレーザ等を用いて穿孔加工することによりフラクタル構造体を作製してもよい。
【0061】
上記の方法以外にも、機械的な方法でフラクタル構造を作製することが可能である。例えば、樹脂の立方体に、NC加工機(数値制御加工機)を用いて各方向から孔空けを行えばよい。ただし、立体的なフラクタル構造は貫通すべき孔が多いため加工が困難であるが、2次元カントールフラクタル形状のような平面的なフラクタル構造に対しては、加工が容易な方法である。
【0062】
また、種々のラピッドプロトタイピング法、すなわち粉末固着法なども、光造形法と同じ造形原理で立体的なフラクタル構造を形成することができる。ここで、ラピッドプロトタイピング法とは、CAD/CAMシステムによる自由造形方法であり、粉末固着法とは、セラミックスや金属粉末を1層々積層し造形した後に焼結固化するか、1層々レーザ焼結し造形する方法である。
【0063】
また、さらに別の製造方法として、最終的な立体的フラクタル構造を有するフラクタル構造体(図1の符号1を付して示す部分)が分割されてなる基本構造体(図1の符号10を付して示す部分)をそれぞれ作製し、作製された20個の基本構造体10を合体することにより立体的なフラクタル構造体1を製造するようにしてもよい。
この方法によれば、例えば、基本構造体10を射出成形法を用いて作製した後、互いに合体させることにより容易にフラクタル構造体1を作製することができる。
【0064】
また、本方法では、基本構造体10がさらに分割されてなる最小単位の基本構造体11を400個作製し、それらを20個づつ合体して、基本構造体10を20個作製し、さらにそれを合体して最終的なフラクタル構造体1を作製するようにしてもよい。
このようにすると、最小単位の基本構造体11は、フラクタル構造体1及び基本構造体10に比較して孔の数が少ないので、容易に成形することができ、より容易に製造できる。
尚、この最小単位の基本構造体11を射出成形で作製する際、例えば、六方に分割可能で主空洞内で上下左右前後の三方向ないしは六方向から付き合わされる棒状の突状体を有するインジェクション型内に熱可塑性樹脂等を射出して、基本構造体11の原型を作り、レーザ等で穿孔することにより微細加工して、基本構造体11とできる。基本構造体10を射出成形で作製する場合も同様である。
また、射出成形では、熱可塑性樹脂でも粘度が小さい液晶樹脂や、ポリカーボネート樹脂PCのようなものが適している。
尚、本方法では、基本構造体10及び最小単位の基本構造体11の作製の際、孔をレーザ加工機等で開けるようにしてもよい。
【0065】
またさらに、本発明では、例えば、図1に示すフラクタル構造体1を3層に分割したもののうち、同一形状の1層目と3層目とを2つ作製し、第2層目を構成する基本構造体10をそれぞれ作製して、それらを組み合わせて最終形状のフラクタル構造体1を作製するようにしてもよい。
このようにした場合、同一形状の1層目と3層目とを、例えば、同一の型で作製することができる。
以上のように、本発明に係るフラクタル構造体は、種々の方法により作成することができる。
【0066】
以上の実施の形態1では、構造の理解を容易にするために、六面体又は立方体を用いて説明した。しかしながら、本発明に係るフラクタル構造体は、かかる形状に限定されるものではない。すなわち、本発明に係るフラクタル構造体は、第n次構造体(n=1,2,3,4,・・・・・・)が、第(n−1)次構造体を分割して形成される構造体であって、第n次構造体が第0次から第(n−1)次構造体の全てと相似関係を有する構造体であって、その構造因子により決定される特定周波数の電磁波に対して小さい反射特性を有するか又は局在させることができる構造体である。ここで、第0次構造体とは、フラクタル構造体の外形をなす構造体である。また、第1次構造体とは、第0次構造体を分割して形成された構造体である。また、第2次構造体とは、第1次構造体を分割して形成された構造体であって、第1次構造体と相似関係を有する構造体である。
【0067】
実施の形態2.
本発明に係る実施の形態2は、フラクタル構造体とその集合体に関るものである。
すなわち、実施の形態1において、本発明の基本となるフラクタル構造体について説明したが、実用的には電磁波や光の反射率と透過率の減衰を、任意の領域にわたって発現させるようにできることが好ましい。しかしながら、実施の形態1のフラクタル構造体を単純に複数個つなぎあわせても、特定波長の電磁波や光の反射率と透過率を減衰させる機能が発現しないことが、発明者らが行った実験により確認された。そこで、本実施の形態2では、一定の領域に局在させる特定波長の電磁波や光の透過率と反射率の減衰機能をより広い領域に渡って発揮することが出来、また反射率だけ減衰させることが可能な、広い用途に適用することができるフタクタル構造体およびその集合体を提供する。
【0068】
本実施の形態2では、図1に示す1辺aの立方体形状をしたメンジャースポンジ型フラクタル構造体を基本とし、その構造の一部を共有する形で該フラクタル構造の集合体について説明する。この実施の形態2のフラクタル構造の集合体によれば、単体の立方体形状をしたメンジャースポンジ型フラクタル構造体が有する特定波長の電磁波や光の反射率と透過率を大きく減衰させる機能をより広い領域にわたって発現できるように構成することができる。また、実施の形態2では、該立方体形状をしたメンジャースポンジ型フラクタル構造体の一部を板状に切り取ったフラクタルの部分構造体は反射率のみ大きく減衰させることができることを説明する。さらに、それらのフラクタル部分構造体の一部を共有する形で構成したフラクタル部分構造集合体により、より広い領域で反射率のみ大きく減衰させる特性をもたせることができることを説明する。
すなわち、本実施の形態2は、発明者らが得た知見に基づき、フラクタル構造体およびその集合体を提供するものである。
【0069】
本実施の形態2の基本となるフラクタル構造体を、誘電体で構成すると、実施の形態1で説明したように、
【数8】

によって決定される特定波長の電磁波の透過率及び反射率が小さく、その特定波長の電磁波を閉じこめる。
本実施の形態2では、上記式を高次モードまで拡張した、
【数9】

を用いる。
ここで、pは電磁波モードの次数で1以上の整数、p=1,2,3,・・・である。
この式の妥当性については、各種のフラクタル構造体の実施例に基づいて後述する。
すなわち、本発明に係るフラクタル構造体は、上記式により決定される特定波長の電磁波をそれぞれ閉じこめることができ、各特定波長において、例えば、透過率が−20dB以下、あるいは反射率が−5dB以下に減衰する特性を有する。
【0070】
このような3次元フラクタル構造を有する構造体及びその集合体に電磁波が入射した場合、特殊な干渉作用により、フラクタル構造の大きさと平均誘電率に関係した特定波長の電磁波を、フラクタル構造内に局在させ、反射も透過も殆ど生ぜしめない効果を有することは、本件発明者らにより見出されたものである。
【0071】
この3次元フラクタル構造体は、上記各モードの特定波長の電磁波を、ほとんど反射も透過もさせずに内部に閉じ込め吸収させる電磁波の完全吸収体として利用することが可能であり、種々の用途に利用することができる。
【0072】
以下、かかる基本形態を用いて構成された各種のフラクタル構造集合体について説明する。
第1の形態は、1辺aの立方体形状をしたメンジャースポンジ型フラクタル構造体の縦および/もしくは横各辺の両端から1辺aの1/3〜1/9の任意の領域を共有させて複数個連結させた壁状あるいは柱状をしたメンジャースポンジ型フラクタル構造の集合体である。
このように構成されたフラクタル構造体の集合体は、式
【数10】

によって決定される特定波長の電磁波が透過率20dB以下、反射率が−5dB以下とほとんど透過しないフラクタル構造集合体である。
ここで、各メンジャースポンジ型フラクタル構造体の共有領域が1辺aの1/3とは、1辺aを3等分割した時に形成されるフラクタルパターン共有することであり、1辺aの1/9とは、さらに前記フラクタルパターンを3等分割した時に出来るフラクタルパターンを共有する場合を示している。
図13Bは、1辺aの立方体形状をしたステージ3のメンジャースポンジ型フラクタル構造体(図13A)を要素として、縦と横各辺の両端から1辺aの1/3の領域を共有させた3×3個のメンジャースポンジ型フラクタル構造から構成されたステージ4の壁状集合体であり、第1の形態の一例を示している。
【0073】
また、第2の形態は、1辺aの立方体形状をしたメンジャースポンジ型フラクタル構造体を1辺aの1/3〜1/9の任意の厚みで板状に切り取り、該メンジャースポンジ型フラクタル構造体の部分構造体とする板状フラクタル構造体である。
該板状フラクタル構造体は、式
【数11】

に相当する波長の電磁波または光の反射率が、例えば、−5dB以下に減衰する。
図13Cは立方体形状をしたステージ3のメンジャースポンジ型フラクタル構造体(図13A)を1辺aの1/3の任意の厚みで板状に切り取った該フラクタルの部分薄壁状構造体であり、第2の形態の一例を示している。
【0074】
さらに、第3の形態は、1辺aの立方体形状をしたメンジャースポンジ型フラクタル構造体を1辺aの1/3〜1/9の任意の厚みで板状に切り取った該メンジャースポンジ型フラクタル構造体の部分構造体を、更にその縦および/もしくは横各辺の両端から1辺aの1/3〜1/9の任意の領域を共有させて複数個連結させた壁あるいは柱形状をしたメンジャースポンジ型フラクタル構造の集合体である。
該フラクタル構造体の集合体は、式
【数12】

に相当する特定波長の電磁波の反射率は、例えば−5dB以下の小さい反射率を有している。
図13Dは、図13Cの薄壁状構造体の縦と横各辺の両端から1辺aの1/3の領域を共有させた3×3個のメンジャースポンジ型フラクタル部分構造から構成されたステージ4の薄壁状集合体であり、第3の形態の一例を示している。
【0075】
さらにまた、第4の形態は、1辺aの正方形状をした2次元カントールフラクタルパターンを面に垂直方向に一定の厚みで貫通した板状構造体とした、空洞貫通型板状フラクタル構造体である。該空洞貫通型板状フラクタル構造体は、式
【数13】

に相当する波長の電磁波の透過率を、例えば、−5dB以下に減衰させことができる。
図13Eは2次元カントールフラクタルパターンの窓穴を貫通させた板状構造体であり、第4の形態の一例を示している。
【0076】
また、第5の形態は、1辺aの正方形状をした2次元カントールフラクタルパターンを面に垂直方向に一定の厚みで貫通した板状構造体を更に、その縦および/もしくは横各辺の両端から1辺aの1/3〜1/9の任意の領域を共有させて複数個連結させた壁あるいは柱形状をした前記空洞貫通型板状フラクタル構造の集合体からなる空洞貫通型板状フラクタル構造集合体である。該フラクタル構造集合体は、式
【数14】

に相当する特定波長の電磁波の反射率は、例えば、−5dB以下と小さい値にできる。
【0077】
これらの実施の形態2のフラクタル構造体及びその集合体は、実施の形態1と同様にして製造することができる。
【0078】
例えば、樹脂中にセラミックス粒子を均一に分散させて形成した構造体を空気中で焼成処理することにより、あるいは樹脂で形成したメンジャースポンジの反転構造体にセラミックススラリーを注入し、乾燥後、焼成処理することにより、いずれも樹脂を酸化消失せしめ、セラミックスからなるメンジャースポンジ構造を形成することができる。それにより、構造体の平均体積誘電率を上げることができる。樹脂としては、例えばエポキシ系樹脂、アクリレート系樹脂等の種々の合成樹脂を用いることができる。
【0079】
以上の実施の形態2のように、複数のメンジャースポンジ型フラクタル構造体を互いに一部分を共有する形で複合化することにより、メンジャースポンジ型フラクタル集合体を構成でき、メンジャースポンジ型フラクタル構造が有する電磁波や光の局在化および反射率の減衰機能をその集合体によっても実現できる。また、メンジャースポンジ型フラクタル構造の2次元パターンを残したフラクタル構造の部分薄壁状構造や、貫通型板状構造およびそれらの部分を共有した集合体とすることにより反射率のみ大きく減衰することができる。これらメンジャースポンジ型フラクタル構造の部分構造および集合体とすることにより、後述する種々の用途をより広くかつ効率的に適用できる。
【0080】
また、図13A〜Eのフラクタル構造体は一体型として光造形法で作製してもよいし、例えば単体のメンジャースポンジ型フラクタル構造体を要素として光造形法で多数個作製し、フラクタル要素構造体を図13B,C,Dのように貼り合わせ組み立ててもよい。
【0081】
以上の実施の形態2では、主として誘電体を用いて構成したフラクタル構造体及びフラクタル構造集合体について説明したが、本発明は、誘電体に限られるものではない。
【0082】
実施の形態3.
以上のように構成された立体的フラクタル構造体は、特定波長の電磁波を、ほとんど反射も透過もさせずに内部に閉じ込め吸収させる電磁波の完全吸収体として利用することが可能であり、種々の用途に利用することができる。
以下、実施の形態3として、実施の形態1〜2のフラクタル構造体を用いた用途を説明する。
【0083】
本発明に係るフラクタル構造体を利用すると、特定波長の電磁波を完全遮断するフィルターとして利用することができる。
例えば、誘電体で構成された1辺aのフラクタル構造体を用いると、
【数15】

に相当する特定波長の電磁波を該フラクタル構造内に局在させ、前記特定波長の電磁波および光を実質的に反射しないようにして、特定波長の電磁波を完全遮断するフィルターとして利用することができる。
【0084】
また、本発明に係るフラクタル構造体を用いて、その立体的フラクタル構造体に外に通じる微小な孔を1個あるいは複数個開けるか、ガラスファイバーや金属線を中に挿入すれば、外部から入射あるいは内部から前記特定波長の電磁波や光を発振させると、局在した電磁波や光は、閉じ込められた空間での共振作用により、それぞれ位相が揃ったレーザーやメーザーとして増幅され、取り出すことが可能になる。この場合のレーザーは、レーザー発振の励起エネルギーを必要としないことから、無閾値レーザー発振が可能となる。フラクタル構造の構造寸法やパターン、誘電率を変えることにより、発振するレーザーの波長が任意に選択できる。
例えば、誘電体で構成された1辺aのフラクタル構造体を用いて、
【数16】

に相当する特定波長の電磁波を該フラクタル構造内に局在させ、前記構造体内でエネルギー増幅した電磁波および光を、それぞれメーザーおよびレーザー発振可能に構成することにより、メーザーおよびレーザー発振用フラクタル構造体を提供することができる。
【0085】
さらにまた、本発明に係るフラクタル構造体を用いて、光や電磁波の一時貯蔵器を構成でき、通信機器や電子機器に利用することができる。
例えば、誘電体で構成された1辺aのフラクタル構造体を用いて、
【数17】

に相当する特定波長の電磁波を該フラクタル構造内に局在させ、局在した電磁波および光を一定の緩和時間で構造内部に蓄積およびエネルギー増幅できるようにすると、立体的フラクタル構造体を光や電磁波の一時貯蔵器、すなわち光および電磁波コンデンサーとして、通信機器や電子機器に利用することができる。
【0086】
また、本発明に係るフラクタル構造体を用いて、電磁加熱炉、調理器、高周波加工等が構成できる。
例えば、誘電体で構成された1辺aのフラクタル構造体を用いて、
【数18】

に相当する特定波長の電磁波を該フラクタル構造内に局在させ、局在した電磁波および光をフラクタル構造内部で熱エネルギーに変換可能であるようにすると、立体的フラクタル構造体を、低損失で高融点の材質で構成し、また水冷等をすることにより、より高密度に電磁エネルギーが蓄積でき、新しい電磁加熱炉、調理器、高周波加工等に利用できる。
【0087】
また、本発明に係るフラクタル構造体を用いて、太陽電池の効率的な集光器を構成できる。
例えば、誘電体で構成された1辺aの微細なフラクタル構造体を用いて、
【数19】

に相当する波長の太陽光を該フラクタル構造内に集光可能であるように設計することにより、太陽光を局在化し蓄積できる3次元もしくは2次元の微細なフラクタル構造の集合体を作製し、太陽電池の効率的な集光器として利用することができる。
【0088】
また、本発明に係る3次元フラクタル構造体および集合体に、特定波長の電磁波を局在させて金属に吸収させることにより、該フラクタル構造を熱源として利用することができる。
例えば、微細な立体的フラクタル構造体を作製し体内に埋め込めば、外部から前記特定周波数の電磁波を該立体的フラクタル構造体に向けて照射して、該フラクタル構造体のみが加熱され、必要とする局部的な加熱治療に供することが可能になる。
【0089】
また、電磁エネルギーを局在させる立体的フラクタル構造体中に食品や医療機器を挿入することにより殺菌や滅菌に利用できる。
【0090】
また、本発明に係るフラクタル構造体を用いて、高効率受発信アンテナを構成できる。
例えば、誘電体で構成された1辺aの微細なフラクタル構造体を用いて、
【数20】

に相当する特定周波数の電磁波を該フラクタル構造内に局在させ、増幅させるように設計することにより、立体的フラクタル構造体を、該特定周波数の電磁波の高効率受発信アンテナとして利用できる。
【0091】
また、わずかずつ周波数の異なる電磁波を局在させる前記立体的フラクタル構造体を数多く作製し、1次元、2次元、あるいは3次元的に配列することにより、電磁波のスペクトル解析計や電波望遠鏡として利用できる。
例えば、本発明に係るフラクタル構造体であって、構造体の1辺がaからaで、構造体の平均体積誘電率をεからεとする立体的フラクタル構造をN個作製する。このフラクタル構造体はそれぞれ、
【数21】

に相当する各種特定波長の電磁波を該フラクタル構造内に局在させることができる。このように局在波長が互いに異なる多数のフラクタル構造体を一次元、二次元あるいは三次元に配列するとスペクトル解析計を設計することができる。
【0092】
また、構造体の1辺がaからaであって、構造体の平均体積誘電率をεからεとする立体的フラクタル構造体を多数作製し、一次元、二次元あるいは三次元に配列してそれぞれ、
【数22】

に相当する各種特定波長の電磁波を該フラクタル構造内に局在させるようにすると、電波望遠鏡とすることができる。
【0093】
微小な立体的フラクタル構造体を作製すると、特定波長の光を一定時間蓄積することができ、読み出し装置をつけることにより、蓄積した特定波長の光を微小な3次元フタクタル構造体より読み出し可能である。したがって、微小な立体的フラクタル構造体を超高速の記憶、演算媒体として利用できる。
例えば、微小な一辺aの立体的フラクタル構造体を用いて、
【数23】

に相当する特定波長の光を該フラクタル構造内に局在させ、該特定波長の光を一定時間蓄積させる一方、読み出し装置と組み合わせて蓄積した特定波長の光の読み出しが可能とした超高速記憶演算媒体を提供することができる。
【0094】
特定電磁波を完全反射するフォトニック結晶に、電磁波や光の導波路を設け、途中に立体的フラクタル構造を埋め込めば、該電磁波や光がフラクタル構造内部で蓄積し増幅され、電磁波や光の増幅器やコンデンサーとして利用できる。
例えば、特定電磁波を完全反射するフォトニック結晶に、電磁波や光の導波路を設け、該導波路の途中に、本発明に係る一辺aのフラクタル構造体を埋め込むことにより、
【数24】

で表される該特定電磁波をフラクタル構造内部で蓄積し、増幅可能な電磁波回路を提供することができる。
【0095】
また、フラクタル構造体における各ステージの構造パターンの1辺をaとし、構造体の平均体積誘電率をεとし、
【数25】

に相当する複数の特定波長の電磁波をフラクタル構造内に局在させて、上述のフィルター、メーザー、レーザー、電磁波コンデンサー、電熱加熱炉、調理器、高周波加熱器、太陽電池の集光器、加熱治療、殺菌や滅菌、高効率受発信アンテナ、電波望遠鏡、超高速記憶演算媒体、電磁波回路等を構成して利用することもできる。
【0096】
本発明に係るフラクタル構造体は特定波長の電磁波の無反射板として利用することができる。
例えば、図13Cもしくは図13D、E、あるいはそれらを組み合わせたフラクタル構造およびその集合体において、前記特定波長の電磁波および光を実質的に反射しないようにして、特定波長の電磁波の無反射板として利用する。
【0097】
本発明に係るフラクタル構造体は、特定波長の高調波を効率よく発生させる発振装置に利用できる。
例えば、図13Aや図13Bに示す3次元フラクタル構造体および集合体内にZnTeやLiNbO3などの非線形光学結晶、またはGaAsなどを使った光伝導アンテナである非線形光学素子を挿入するか、もしくは該フラクタル構造体自身を非線形光学物質で作製すると、非線形光学効果の増強により特定波長の高調波を効率よく発生させることができ、発振装置として利用できる。尚、図13Bの構造では、面的および立体的に発振可能となる。
【0098】
また、図13Aや図13Bに示す3次元フラクタル構造体および集合体内にZnTeやLiNbOなどの非線形光学結晶またはGaASなどを使った光伝導アンテナである非線形光学素子を挿入するか、もしくは該フラクタル構造体自身を非線形光学物質で作製すると、非線形光学効果である差周波混合もしくは光整流効果の増強によりミリ波からテラヘルツ波帯域の電磁波を効率よく発生させる発振装置に利用できる。図13Bの構造では、面的および立体的に発振可能となる。
【0099】
本発明に係るフラクタル構造体を用いて、電磁エネルギーを電流に変換する装置を構成できる。
例えば、図13Aや図13Bに示す3次元フラクタル構造体および集合体内に特定波長の電磁波を局在させ、該フラクタル構造体内に金属導線を挿入することにより、局在した電磁エネルギーを電流に変換する装置に利用できる。
【0100】
本発明に係るフラクタル構造体を用いて、特定波長の電磁波の変調および広域化を行う変調装置を構成できる。
例えば、図13AやBに示す3次元フラクタル構造体および集合体内に特定波長の電磁波を局在させ、該フラクタル構造体内あるいは外部にPbZrTiO系圧電材料もしくは素子を設置するか、該フラクタル構造体の一部もしくは全部を圧電材料で作製し、該圧電材料や素子に電圧を印加することで、該フラクタル構造にひずみを生じさせることにより、特定波長の電磁波の変調および広域化を行う変調装置に利用できる。
【実施例1】
【0101】
実施の形態1に関係した実施例1の立体的フラクタル構造について説明する。
まず、実施例1の立体的フラクタル構造の製造方法について具体的に説明する。ここでは、液状の光硬化性樹脂の感光反応を利用した光造形法を用いる。図4において、矢印XおよびYは平面内で互いに直交する2方向を示し、矢印Zは鉛直方向を示す。メンジャースポンジの寸法は任意に設定することができ、例えば立方体1の1辺が27mm、角柱空洞12、13、14の1辺が、それぞれ9mm、3mm、1mmとする。
【0102】
光硬化性樹脂としてはエポキシ系光硬化性樹脂、アクリレート系光硬化性樹脂等を用いる。
【0103】
図4Aおよび図4Bに示すように、テーブル40上に所定の厚み分の液状の光硬化性樹脂(エポキシ樹脂ディーメック社製の商品名SCR−730)が膜状に供給されるように、テーブル40を光硬化性樹脂20に浸漬させる。この状態で、紫外線レーザー光30を矢印Xの方向に走査させる。それにより、紫外線レーザー光30の被照射部分の光硬化性樹脂が硬化する。紫外線レーザー光30をSTLデータに従って矢印Xの方向に平行に、必要に応じて矢印Yの方向に平行に、あるいは曲線状に繰り返し走査させることにより、2次元構造体が基板上に形成される。
【0104】
同様にして、テーブル40を矢印Zの方向に下降させ、紫外線レーザー光30をSTLデータに従って走査させることにより、第2層目の2次元構造体を形成する。
以下同様にして、第1層目、第2層目および第3層目の2次元構造体を所定の回数繰り返し順次積層する。このような光造形法(例えば、ディーメック社製のSCS−300P)を用いると、樹脂で構成されたメンジャースポンジ型フラクタル構造体を容易に作製することができる。
【0105】
(STLデータの作成方法)
なお、前記STLデータは、CADプログラム(トヨタケーラム社製 Think Design Ver.8.0)を用いて設計したメンジャースポンジ構造を、スライスソフト(ディーメック社製;SCR Slice−Software Ver.2.0)により、層状の積層体に変換されたデータファイルとして得られる。
【0106】
以上のようにして作製した実施例1のメンジャースポンジ型フラクタル構造体の特性を評価した。
(電磁波特性の測定方法)
図5はメンジャースポンジ型フラクタル構造を有するエポキシの電磁波特性の測定方法を示している。
フラクタル構造を有するサンプル50の左右に、モノポールアンテナ60、70を配置し、ネットワークアナライザー(アジレントテクノロジー社:HP8720D)に繋ぐ。アンテナ60から発振したGHz帯の電磁波はサンプル50を透過したときの減衰率をアンテナ70で測定し、反射波はアンテナ60で受信し測定する。測定には、不要な電磁波に影響されないよう炭素繊維織物の電磁波吸収材80をサンプル周囲に配置している。
【0107】
図6Aおよび図6Bに該サンプルに向けて発振した電磁波の反射率と透過率の周波数依存性を示す。反射率は12.7GHzで約4dB下がり、透過率もほぼ同じ周波数域で約25dB下がっている。このことは12.7GHzの電磁波を該サンプルに入射した場合、殆ど反射もしなければ透過もしないことを意味している。この測定に用いたサンプルは、図1の構造を有し、立方体1の1辺を27mm、角柱空洞12、13、14の1辺を、それぞれ9mm、3mm、1mmとしたものである。
【0108】
図7はアンテナ70を該サンプルの中央空洞路内90にX方向に沿って挿入して、空洞部の各部100での電界強度分布を測定した結果である。
空洞部に2つのピークを持つ形で電界強度が集中し、中心空洞部から離れると、急激に強度が落ちることが示されている。このような電界強度の分布は、中心空洞の平面内対角線方向、および立体内対角線方向にも観測された。このような中心空洞部での電界集中は、電磁波の閉じ込めが生じていることを示している。
【0109】
12.7GHzで局在化した電磁波の波長は23.4mmであった。この波長は、計算式2a×√ε×n/S(但し、aは立方体メンジャースポンジ型フラクタル構造の1辺の長さ、εは平均体積誘電率、nは1、Sは3である。)によって予測される波長に等しく、このことは局在させる電磁波の波長、すなわち周波数が設計できることを意味している。なお、前記エポキシ樹脂(誘電率=2.8)で形成されたステージ3でのメンジャースポンジの平均体積誘電率は1.74であった。
【0110】
図8に、アンテナ60を中心空洞部110の中心に設置して、12.7GHzの電磁波を発振し、アンテナ70で、該サンプル周囲で減衰率を測定したときの配置を示している。図に示した何れの方向でも、−25dB程度の大きな減衰率を示した。この結果は、発振した電磁波が該サンプルの外に殆ど漏れていないことを意味し、閉じ込められていることを物語っている。
【実施例2】
【0111】
実施例2として、フラクタル構造体(メンジャースポンジ型フラクタル構造体)を用いれば、あらゆる方向から入射する電磁波のエネルギーを中央空洞に強く集中させられることを利用して、フラクタルアンテナを作製して評価した。
すなわち、本実施例2では、メンジャースポンジ型フラクタル構造体をアンテナヘッドとして利用した。
具体的には、チタニア・シリカ系粒子を分散したエポキシ樹脂により、寸法27mm×27mm×27mmの第3ステージのメンジャースポンジフラクタル構造体(図1に示す構造)を作製し、マイクロ波用のモノポールアンテナに装着した。このように構成したフラクタルアンテナの試作品の外観図を図9に示す。アンテナの先端は中央空洞において電場強度が最も高くなる点に配置されている。このように構成されたフラクタルアンテナに対して、マイクロ波用のホーンアンテナから、メンジャースポンジ型フラクタル構造体の局在周波数である8GHzの電磁波を発信し、フラクタルアンテナでこれを受信した。そして、受信アンテナを中心として発信アンテナを回転させることで、様々な方向から入射する電磁波に対してフラクタルアンテナの効率を評価した。アンテナヘッド(メンジャースポンジ型のフラクタル構造体)を装着しない状態における空間の電磁波透過率を0dBと定義し、相対的な受信効率の向上をアンテナ特性として評価した。このようにして評価したフラクタルアンテナの受信特性を図10に示す。図10から明らかなように、あらゆる方向から入射する電磁波に対して受信効率が向上し、最大で10dB近い値を示している。すなわち、1000%近い受信効率の向上が認められた。このフラクタルアンテナは、従来のパラボラアンテナやパッチアンテナ等と比較して、あらゆる方向からの信号を一度に取り込めるという利点を有している。
【実施例3】
【0112】
実施例3として、セラミック製フラクタル構造体を作製して評価した。
本例では、以下のようにして、図1に示す構造を有するセラミック製フラクタル構造体を作製した。
まず、チタニア・シリカ系の誘電体セラミックスを光硬化性樹脂に分散し、光造形法を用いて寸法27mm×27mm×27mmの第3ステージのメンジャースポンジ型フラクタル構造体の原型を作製した。
そして、この原型を大気中で加熱して樹脂成分をガス化させ、1450℃で2時間保持することでセラミック粒子の焼結を行った。この焼結体の外観写真を図11に示す。
この焼結体からなるフラクタル構造体は、外形寸法12mm×12mm×12mmの立方体に断面寸法4mm×4mm、1.3mm×1.3mm、0.4mm×0.4mmの角孔が貫通する構造である。このフラクタル構造体の焼結密度は低い値にとどまったが、光硬化性樹脂に対するセラミック粒子の分散量を増加させることにより、改善できる。また、シリカ・チタニア系セラミックス複合粒子の誘電率は15であるが、気孔率を考慮すると、セラミック製フラクタル構造体を構成する材料の誘電率は、7.3と算出された。金属導波管を用いて、このセラミック製フラクタル構造体の電磁波特性を評価したところ、図12に示すように、19.1GHzの周波数において局在モードの形成が確認された。この実験結果は、これまで説明してきた理論式で表される関係を満足している。
また、図12に示すように、反射率のピーク周波数と透過率のピーク周波数は、一致していないが、このことは焼結処理により構造体にひずみが生じ、フラクタル構造を形成する角孔の寸法にばらつきが生じたためであると考えられる。本発明では、必ずしもピークが一致している必要はない。
【実施例4】
【0113】
実施例4では、実施の形態2に関係する図13A,B,C,D,Eに示すフラクタル構造体を作製してそれぞれ評価した。
図14A,B,C,D,Eは、それぞれ図13A,B,C,D,Eの構造体に照射した電磁波の反射率と透過率を示したグラフである。これらフラクタル構造体の材質は、TiO−SiO複合粉末を10vol%分散させたエポキシ樹脂である。
【0114】
(電磁波特性の測定方法)
図13A,C,Eのフラクタル構造体に対しては、図5に示した測定方法により、電磁波特性を測定した。
一方、図13B,Dの壁状のフラクタル構造体に関しては、図15に示すようにホーンアンテナを使って自由空間で測定している。
【0115】
図13Aのメンジャースポンジ型フラクタル構造体の測定値を示す図14Aによれば、透過率と反射率は8GHzでいずれも−40dB以下に減衰しており、実施の形態1で説明したように、図13Aの中央空洞にこの振動数の電磁波が局在していることを示している。この8GHz付近で局在化した電磁波の波長は36.75mmであり、この波長は、計算式
【数26】

によって予測される1次のモードの波長に等しい。ここで、測定サンプルの、一辺aは27mmであり、体積平均誘電率は、4.17である。また、nは1、Sは3、pは1である。
尚、本サンプルにおいて、上記式によれば、2次のモードの波長に対応する周波数は、30GHz以上となる。
【0116】
図13Bに示すメンジャースポンジ型フラクタル構造から構成されたステージ4の壁状集合体の特性を示す図14Bによれば、透過率と反射率が13.8GHzでいずれも−40dB以下に減衰しており、電磁波が内部空洞に分散して局在していることを示している。13.8GHzで局在化した電磁波の波長は21.7mmで、この波長は、ステージ4のメンジャースポンジ型フラクタル構造体を対象にした計算式
【数27】

に基づいて計算される2次モード(p=2)の波長に等しい。
ここで、一辺aは81mm、体積平均誘電率εは3.34、nは1、Sは3である。したがって、図13Bのフラクタル集合体においても周波数が設計できることを意味している。
【0117】
図13Cに示す部分薄壁状構造体の測定結果を示す図14Cによれば、反射率のみが8GHzで−30dBに減衰しており、この時の波長は図13Aに示すステージ3のメンジャースポンジ型フラクタル構造体に局在した電磁波の波長に等しい。
図13Dに示す薄壁状集合体の測定結果を示す図14Dによれば、反射率のみが13.8GHzにおいて−40dB以下に減衰しており、この時の波長は図13Bに示すステージ4のメンジャースポンジ型フラクタル構造の集合体に局在した電磁波の波長に等しい。
【0118】
図13Eに示す板状構造体の測定値を示す図14Eによれば、反射率のみが8GHzで−30dBに減衰しており、この時の波長は図13Aに示すステージ3のメンジャースポンジ型フラクタル構造体に局在した電磁波の波長に等しい。
【0119】
図13Eの貫通型板状構造体の縦と横各辺の両端から1辺aの1/3の領域を共有させた図13Bと同様の貫通型板状集合体に関しても、図14Dの結果と同様に反射率のみが13.8GHzで大きく減衰することは容易に予想される。
【0120】
尚、図13A,図13C,図13Eの試料において、1次モードである8GHzにおける反射及び/又は透過の極小値が観測され、図13B,図13Dの試料において、2次モードである13.4GHzにおける反射及び/又は透過の極小値が観測される理由は、前者の試料における2次モードの周波数位置が高周波側に、また後者の試料における1次モードの周波数位置が低周波側に、それぞれ現有する観測装置の測定可能周波数域を越えてしまうことによるものであり、測定領域が広がればいずれの試料も、より高次のモードまで観測し得ると予測される。
【0121】
このように図13A〜Eに示す様々なメンジャースポンジ型フラクタル構造およびその集合体に対し、反射率および透過率が大きく減衰する特定の電磁波波長や周波数を、基本となるメンジャースポンジ型フラクタル構造体のステージ数と平均体積誘電率及び1辺aの長さ、各辺の分割数、局在モードの次数等の値を使って特定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明に係るフラクタル構造体は、特定波長の電磁波を完全遮断するフィルターや無反射板として利用することができる。また、フラクタル構造体および集合体空洞内にZnTeやLiNbOなどの非線形光学結晶またはGaAsなどを使った光伝導アンテナである非線形光学素子を挿入した場合、非線形光学効果の励起により特定波長の高調波を効率よく、かつ高エネルギービームとしても発生させる発振装置に利用できる。金属のみ、もしくは金属被覆した誘電体、あるいは金属/誘電体の複合体で構成し、表面もしくは全体にわたって電気伝導性を持たせたフラクタル構造体および集合体とすることによって、特定波長の電磁波を局在させ、局在した電磁エネルギーを電流に変換する装置に利用できる。フラクタル構造体および集合体に、特定波長の電磁波を局在させて金属に吸収させることにより、このフラクタル構造自体を熱源として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一部または全部に立体的なフラクタル構造を有する構造体であって、電磁波の透過率において該フラクタル構造体の構造因子及び材質により定まる特有の波長において極小値を有し及び/又は電磁波の反射率において該フラクタル構造体の構造因子及び材質により定まる特有の波長において極小値を有することを特徴とするフラクタル構造体。
【請求項2】
前記透過率の極小値が、−10dB以下であることを特徴とする請求項1に記載のフラクタル構造体。
【請求項3】
前記反射率の極小値が、−5dB以下である請求項1又は2に記載のフラクタル構造体。
【請求項4】
一部または全部に立体的なフラクタル構造を有する構造体であって、該フラクタル構造体の構造因子及び材質により定まる特有の波長の電磁波を内部に局在させることを特徴とする請求項1乃至3のうちのいずれか1つに記載のフラクタル構造体。
【請求項5】
一部または全部に立体的なフラクタル構造を有する構造体であって、該フラクタル構造を定義する構造因子と、前記構造体を構成する材料の誘電率及び/又は導電率とに基づいて設定された特定波長の電磁波を内部に局在させることを特徴とするフラクタル構造体。
【請求項6】
前記立体的なフラクタル構造は、各面の中央部をそれぞれ貫通する複数の貫通空洞と、その貫通空洞を含む前記フラクタル構造全体を1/Sに縮小してなる複数の1次構造体とを含んでなり、
前記貫通空洞の前記各面における断面形状は前記各面がn/S(ただし、nは1以上、S未満の整数)に縮小された形状となっている請求項1〜5のうちのいずれか1つに記載のフラクタル構造体。
【請求項7】
前記透過率の極小値及び/又は前記反射率の極小値は、前記フラクタル構造体の体積平均誘電率をεとし一辺の長さをaとすると、
【数1】

で定まることを特徴とする請求項6記載のフラクタル構造体。
【請求項8】
式:N=S(式中、Nは前記構造体が分割された要素の数から抜き取られた要素の数を除いた個数を表す)で表されるフラクタル構造におけるフラクタル次元Dが2以上の非整数であることを特徴とする請求項6又は7に記載のフラクタル構造体。
【請求項9】
基本構造パターンが相似的に入れ子構造をなすことを特徴とする請求項8に記載のフラクタル構造体。
【請求項10】
フラクタル次元Dが2.7268で代表されるメンジャースポンジ型フラクタル構造を有することを特徴とする請求項8に記載のフラクタル構造体。
【請求項11】
前記フラクタル構造体が、樹脂、セラミックス、半導体、金属、またはそれらの複合物から選ばれる材料により構成された請求項1〜10のうちのいずれか1つに記載のフラクタル構造体。
【請求項12】
前記フラクタル構造体が高誘電率セラミックス及び/又は低電磁波損失セラミックス粒子を均一分散させた樹脂からなる請求項11に記載のフラクタル構造体。
【請求項13】
前記フラクタル構造体の内部表面および/又は外部表面全体、または一部をセラミックス、半導体または金属でコーティングしたことを特徴とする請求項11に記載のフラクタル構造体。
【請求項14】
前記特定波長は、前記誘電率及び前記導電率のうち実質的に前記誘電率のみに依存して設定され、かつ前記特定波長は、前記構造因子と前記誘電率に基づいて算出された平均体積誘電率εを用いて算出された請求項6〜13のうちのいずれか1つに記載のフラクタル構造体。
【請求項15】
前記構造因子として、フラクタル構造体の繰り返される入れ子構造の階数(ステージ数)m、および/または各ステージでのパターン寸法を含む請求項6〜9のうちのいずれか1つに記載のフラクタル構造体。
【請求項16】
フラクタル構造体における各ステージの構造パターンの1辺をaとし、該構造体の平均体積誘電率をεとすると、
【数2】

で定まる特定波長の電磁波がフラクタル構造内に局在可能であることを特徴とする請求項7〜15に記載のフラクタル構造体。
【請求項17】
立体的なフラクタル構造を有するフラクタル構造体を製造する方法であって、
エネルギー線硬化性樹脂に部分的にエネルギー線を照射して固化することにより得られる、前記フラクタル構造体が分割されてなる二次元的基本構造体を、順次積み重ねることにより、立体的なフタクタル構造体を製造することを特徴とするフラクタル構造体の製造方法。
【請求項18】
前記エネルギー線硬化性樹脂は、セラミックス粒子を含んでおり、前記二次元基本構造体を順次積み重ねて積層体を形成した後に、その積層体を焼成して、前記エネルギー線硬化性樹脂を焼失させることにより、セラミックス焼結体からなるフラクタル構造体を製造することを特徴とする請求項17記載のフラクタル構造体の製造方法。
【請求項19】
立体的なフラクタル構造を有するフラクタル構造体を製造する方法であって、
前記フラクタル構造体の反転型を作製する工程と、その反転型に硬化性流動体を流し込んで、固化させた後、前記反転型を取り除く工程を含むことを特徴とするフラクタル構造体の製造方法。
【請求項20】
立体的なフラクタル構造を有するフラクタル構造体を製造する方法であって、
前記フラクタル構造体が分割されてなる基本構造体をそれぞれ作製し、作製された基本構造体を接合することにより前記立体的なフラクタル構造体を製造することを特徴とするフラクタル構造体の製造方法。
【請求項21】
請求項1〜16のうちのいずれか1つに記載のフラクタル構造体を含んでなり、前記特定波長の電磁波を除去又は通過させるフィルタ。
【請求項22】
電磁波の導波路が形成されてなり、前記特定波長の電磁波を反射するフォトニック結晶と、前記導波路の途中に埋め込まれた請求項1〜16のうちのいずれか1つに記載のフラクタル構造体とを含んでなり、前記特定波長の電磁波を前記フラクタル構造の内部に蓄積し、増幅することを特徴とする電磁波回路。
【請求項23】
各面の中央部をそれぞれ貫通する複数の貫通空洞と、その貫通空洞を含む全体形状を1/Sに縮小してなる複数の1次構造体とを含んでなり、前記貫通空洞の前記各面における断面形状は前記各面がn/S(ただし、nは1以上、S未満の整数)に縮小された形状となっていて、一辺がaであるフラクタル構造を、一部または全部に有するフラクタル構造体であって、
フラクタル構造体の平均体積誘電率をεとしたときに、式
【数3】

(但し、pは電磁波モードの次数で1以上の整数、p=1,2,3,・・・.)によって決定される特定波長の電磁波の透過率が−20dB以下、あるいは反射率が−5dB以下に減衰する特性を有することを特徴とするフラクタル構造体。
【請求項24】
各面の中央部をそれぞれ貫通する複数の貫通空洞と、その貫通空洞を含む全体形状を1/Sに縮小してなる複数の1次構造体とを含んでなり、前記貫通空洞の前記各面における断面形状は前記各面がn/S(ただし、nは1以上、S未満の整数)に縮小された形状となっている立方体形状をしたメンジャースポンジ型フラクタル構造体の縦および/もしくは横各辺の両端から1辺aの1/3〜1/9の任意の領域を共有させて複数個連結させた壁状あるいは柱状をしたメンジャースポンジ型フラクタル構造の集合体をなし、該フラクタル構造体の平均体積誘電率をεとしたときに、式
【数4】

(但し、pは電磁波モードの次数で1以上の整数、p=1,2,3,・・・.)によって特定される特定波長の電磁波が透過率−20dB以下、であり反射率が−5dB以下である、とほとんど透過しないことおよび反射率が小さいことを特徴とするフラクタル構造集合体。
【請求項25】
各面の中央部をそれぞれ貫通する複数の貫通空洞と、その貫通空洞を含む全体形状を1/Sに縮小してなる複数の1次構造体とを含んでなり、前記貫通空洞の前記各面における断面形状は前記各面がn/S(ただし、nは1以上、S未満の整数)に縮小された形状となっている立方体形状をしたメンジャースポンジ型フラクタル構造体を1辺aの1/3〜1/9の任意の厚みで板状に切り取った該メンジャースポンジ型フラクタル構造体の部分構造体をなし、該フラクタル構造体の平均体積誘電率をεとしたときに、式
【数5】

(但し、pは電磁波モードの次数で1以上の整数、p=1,2,3,・・・.)に相当する波長の電磁波または光の反射率が−5dB以下に減衰する特性を有することを特徴とする板状フラクタル構造体。
【請求項26】
各面の中央部をそれぞれ貫通する複数の貫通空洞と、その貫通空洞を含む全体形状を1/Sに縮小してなる複数の1次構造体とを含んでなり、前記貫通空洞の前記各面における断面形状は前記各面がn/S(ただし、nは1以上、S未満の整数)に縮小された形状となっている立方体形状をしたメンジャースポンジ型フラクタル構造体を1辺aの1/3〜1/9の任意の厚みで板状に切り取った該メンジャースポンジ型フラクタル構造体の部分構造体を、更にその縦および/もしくは横各辺の両端から1辺aの1/3〜1/9の任意の領域を共有させて複数個連結させた壁あるいは柱形状をしたメンジャースポンジ型フラクタル構造の集合体をなし、該フラクタル構造体の平均体積誘電率をεとしたときに、式
【数6】

(但し、pは電磁波モードの次数で1以上の整数、p=1,2,3,・・・.)に相当する特定波長の電磁波の反射率が−5dB以下と反射率が小さい特性を有することを特徴とする板状フラクタル構造集合体。
【請求項27】
フタクタル構造が、1辺aの正方形状の中央部から該正方形状をn/S(ただし、nは1以上、S未満の整数)に縮尺した正方形状を部分的に抜き取った形状を有する2次元カントールフラクタルパターンを面に垂直方向に一定の厚みで貫通した板状構造体で、該フラクタル構造体の平均体積誘電率をεとしたときに、式
【数7】

(但し、pは電磁波モードの次数で1以上の整数、p=1,2,3,・・・.)に相当する波長の電磁波の透過率が−5dB以下に減衰する特性を有することを特徴とする空洞貫通型板状フラクタル構造体。
【請求項28】
フタクタル構造が、1辺aの正方形状の中央部から該正方形状をn/S(ただし、nは1以上、S未満の整数)に縮尺した正方形状を部分的に抜き取った形状を有する2次元カントールフラクタルパターンを面に垂直方向に一定の厚みで貫通した板状構造体で、その縦および/もしくは横各辺の両端から1辺aの1/3〜1/9の任意の領域を共有させて複数個連結させた壁あるいは柱形状をした前記空洞貫通型板状フラクタル構造の集合体をなし、該フラクタル構造体の平均体積誘電率をεとしたときに、式
【数8】

(但し、pは電磁波モードの次数で1以上の整数、p=1,2,3,・・・.)に相当する特定波長の電磁波の反射率が−5dB以下と小さい特性を有することを特徴とする空洞貫通型板状フラクタル構造集合体。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13C】
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【図13D】
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【図13E】
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【図14A】
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【図14B】
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【図14C】
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【図14D】
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【図14E】
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【図15】
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【国際公開番号】WO2005/027611
【国際公開日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【発行日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513865(P2005−513865)
【国際出願番号】PCT/JP2004/012983
【国際出願日】平成16年9月7日(2004.9.7)
【出願人】(801000061)財団法人大阪産業振興機構 (168)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】