説明

フラットパネルディスプレイ用ガラス基板及びその製造方法

【課題】パターン電極に断線不良等の形成不良が発生するという事態を確実に防止することが可能なガラス基板を提供する。
【解決手段】フロート法により成形されたガラス基板1であって、少なくとも一方の面について、周縁から10mmの領域を除く中央領域を有効面2とした場合に、前記有効面内のいずれの位置であっても、算術平均粗さRaが0.3nm以下であって且つ十点平均粗さRzjisが40nm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロート法により成形されるフラットパネルディスプレイ用ガラス基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレイ(FPD)が、大型且つ薄型であるという利点から広く普及するに至っている。FPDの代表的なものとしては、例えば、プラズマディスプレイパネル(PDP)が挙げられる。
【0003】
PDPは、表面に微細なパターン電極や隔壁等の素子或いは構造体を形成した二枚のガラス基板(前面ガラス基板と背面ガラス基板)を対向させて製作される。
【0004】
PDP用のガラス基板は、フロート法と称される方法で成形される場合が多い。フロート法は、溶融錫の上に溶融ガラスを浮かべながら、その溶融ガラスを薄く引き伸ばして板状に成形する手法である。フロート法で成形されたガラス基板の両面は、フロートの溶融錫と非接触になるガラスの上面(溶融錫と接触する面の反対面:トップ面)側は空気等の気体に触れるのみなので火作り面となり、フロートの溶融錫と接触するガラスの下面(溶融錫と接触する面:ボトム面)側も溶融錫に触れるために火作り面に極めて近い平滑な面に仕上がる。
【0005】
しかしながら、フロート法の場合、成形課程でガラス基板の両面に錫に由来する異物が付着してしまう。このように異物が付着していると、ガラス基板の表面への電極等の形成を阻害する。そのため、ガラス基板表面の異物を取り除くために、成形後に、少なくとも電極等が形成される側のガラス基板表面に対して研磨が施される。そして、研磨された面として平滑な表面が必要な場合には、この研磨工程において、平均粒径の相対的に大きな砥粒を用いて下地研磨を行なった後、平均粒径の相対的に小さな砥粒を用いて仕上げ研磨を行なうのが通例とされている。
【0006】
一方、近年、PDPにおいては、フルハイビジョン等に対応すべく、更なる表示画像の高精細化が推進されている。これに伴い、PDP用のガラス基板に形成されるパターン電極の線幅は微細化され、図3(a),(b)に示すように、パターン電極の櫛状の配列パターンの更なる緻密化が図られている。その結果、パターン電極を形成する下地となるガラス基板の平滑性(表面粗度)がより重要性を増しており、種々の提案がなされている。
【0007】
例えば、特許文献1には、PDP前面板用ガラス基板において、少なくとも一方の面について表面粗さ分布を、±10%以内にすることが開示されている。ここで、表面粗さ分布は、ガラス基板の予め決められた9点における算術平均粗さRaのうち、最大値Ramax及び最小値Raminとし、(Ramax−Ramin)/(Ramax+Ramin)なる式から算出される。そして、Ramax及びRaminに関しては、共に0.3nm以下であることが特に好ましいと記載されている。
【0008】
また、例えば、特許文献2には、FPD用ガラス基板において、電極が形成される側の表面の平均表面粗さを0.8nm以下(好ましくは0.4nm以下)にすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−134317号公報
【特許文献2】特開2006−244747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、ガラス基板に形成されるパターン電極が微細化されるに連れて、電極の線幅が細い部分(櫛部)では、ガラス基板の表面に傷が存在すると、その傷上の電極の結晶構造の変化によりエッチングレートが不均一となるという事態が生じる。その結果、想定されているエッチングレートよりも早くエッチングが進行する箇所が生じ、電極の櫛部の一部が断線するという問題がある。また、大きな傷を有するガラス基板は外観検査で除外できるが、検査感度以下の微細な傷がガラス基板全体にテクスチャーのように存在する場合には、ガラス基板表面の微細な傷の程度を表面粗度で代用把握することが多い。そして、このような電極の断線を防止する観点からは、ガラス基板の表面粗度は小さい方がよいと考えられる。
【0011】
しかしながら、ガラス基板の表面には、上述のように、下地研磨と仕上げ研磨からなる2段階の研磨が施されるのが通例である。この場合、仕上げ研磨を如何に施したとしても、下地研磨で発生したガラス表面の傷を完全には除去することができず、その一部が潜傷として残存し、パターン電極の断線不良を引き起こす原因となる。なお、ここでいう潜傷とは、通常の外観検査の検査感度を高めても検知することが困難であったり、また、傷単独ではなく、無数の傷とその周辺も含むテクスチャーとして表面粗さの単純なパラメータを使用した判断も困難であるような潜在的に存在する傷を意味する。
【0012】
特許文献1及び2では、このような潜傷の存在については特段考慮されていない。すなわち、これら文献では、ガラス基板表面の凹凸を平均化したパラメータによって、ガラス基板の表面粗度を管理していることから、上記断線不良の原因となる潜傷の有無を確実に把握することが困難である。
【0013】
本発明は、上記実情に鑑み、パターン電極に断線不良等の形成不良が発生するという事態を確実に防止することが可能なフラットパネルディスプレイ用ガラス基板を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の発明者は、鋭意研究の結果、ガラス基板の研磨面の表面粗度を、算術平均粗さRaと、十点平均粗さRzjisとの2つのパラメータを用いて評価すれば、パターン電極の断線不良を引き起こす原因となる潜傷を可及的に低減することができることを知見するに至った。付言すれば、Raによって、ガラス基板の研磨面の全体的に平滑性を確認することができ、Rzjisによって、ガラス基板の研磨面に深い谷や高い山が局所的に存在しているか否かを確認することができる。そのため、RaとRzjisを同時に所定の数値範囲に抑えることで、潜傷を確実に低減することができる。
【0015】
すなわち、上記課題を解決するために創案された本発明は、フロート法により成形されたフラットパネルディスプレイ用ガラス基板であって、少なくとも一方の面について、周縁から10mmの領域を除く中央領域を有効面とした場合に、前記有効面内のいずれの位置であっても、算術平均粗さRaが0.3nm以下であって且つ十点平均粗さRzjisが40nm以下であることに特徴づけられる。
【0016】
このような構成によれば、ガラス基板の研磨面の平滑性が最適化され、パターン電極の断線不良の原因となる潜傷を可及的に低減することが可能となる。
【0017】
上記の構成において、前記有効面に、エッチング法によりパターン線幅が50μm以下であって且つ膜厚が2200Å以下の透明電極膜を形成してもよい。また、上記の構成において、前記有効面に、エッチング法によりパターン線幅が300μm以下であって且つ膜厚が10μm以下の不透明電極膜を形成してもよい。なお、ここでいうパターン線幅は、電極パターンの櫛歯部などの局所的な部位における線幅を含む。
【0018】
すなわち、上記のようにRaとRzjisを規定すれば、透明電極膜で形成される微細パターン電極や、不透明電極膜で形成される微細パターン電極に対しても、問題なく対処することができる。
【0019】
上記の構成を適宜備えたガラス基板は、PDPの前面板や、PDPの背面板として好適である。
【0020】
上記課題を解決するために創案された本発明は、フロート法によりガラス基板を成形する成形工程と、前記ガラス基板の少なくとも一方の面を研磨する研磨工程とを含むフラットパネルディスプレイ用ガラス基板の製造方法であって、前記研磨工程で、前記ガラス基板に対して、下地研磨を経ずに、平均粒子径が0.5〜3.5μmの砥粒が分散した研磨液と、合成樹脂製の研磨パッドとを用いた仕上げ研磨を直接施すことに特徴づけられる。
【0021】
このような方法によれば、フロート法により成形されたガラス基板に対して下地研磨を施すことなく、直接的に仕上げ研磨が施されることになる。そのため、下地研磨で形成される潜傷が、仕上げ研磨後に残存することがない。そして、この仕上げ研磨は、平均粒子径が0.5〜3.5μmの砥粒と、合成樹脂製の研磨パッドとを用いて行なわれることから、ガラス基板の研磨面の平滑性を好ましいものとすることができる。すなわち、既に述べたように、ガラス基板の研磨面において、Raを0.3nm以下とし且つRzjisを40nm以下とすることが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように本発明によれば、ガラス基板の研磨面の平滑性が良好に維持されることから、研磨面に微細なパターン電極を形成した場合であっても、パターン電極に断線不良が生じる割合を可及的に低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係るガラス基板を示す概略平面図である。
【図2】(a)及び(b)は、本発明の実施例における断線率の評価結果を示す図である。
【図3】(a)及び(b)は、櫛状の微細な配列パターンを有するパターン電極の一例をそれぞれ示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を添付図面を参照して説明する。
【0025】
図1は、本実施形態に係るフラットパネルディスプレイ用ガラス基板の概略平面図である。同図に示すように、このガラス基板1は、PDPの前面板用又は背面板用のガラス基板であって、フロート法によって成形されたものである。ガラス基板1は、矩形状を呈し、短辺の長さが30mm〜3000mmであり、板厚が0.5〜3.0mm以下である。ガラス基板1は、少なくとも一方の面について、その周縁から10mmの領域を除く中央領域(図中の破線で囲繞された領域)が有効面2とされる。この実施形態では、フロート法を実行する成形工程において、溶融錫と非接触となるガラスの上面(溶融錫と接触する面とは反対側の面:トップ面)が、有効面2とされる。なお、溶融錫と接触するガラスの下面(溶融錫と接触する面:ボトム面)を有効面2としてもよい。
【0026】
ガラス基板1の有効面2は、フロート法により形成された火作り面を研磨した研磨面で構成され、有効面2内のいずれの位置でも、算術平均粗さRaが0.3nm以下であって且つ十点平均粗さRzjisが40nm以下となる。このRa及びRzjisは、JIS B0601:1994に準拠したものであって、ガラス基板上の任意の各点において、10μm×10μmの領域を測定領域として原子間力顕微鏡を走査しときに得られる凹凸データから算出される値とする。
【0027】
そして、このガラス基板1の有効面2には、エッチング法(例えば、ウエットエッチング)により線幅が局所的な部位も含めて50μm以下であって且つ膜厚が2200Å以下の透明電極膜が形成される。なお、パターン電極を、エッチング法により線幅が局所的な部位も含めて300μm以下であって且つ膜厚が10μm以下の不透明電極膜で形成してもよい。
【0028】
次に以上のような構成を備えたガラス基板の製造方法を説明する。
【0029】
まず、溶融ガラスをフロート法によって板状に引き伸ばしてガラスリボンを成形し、そのガラスリボンを所定サイズに切断してガラス基板1を採取する(成形工程)。この際、成形されたガラス基板の両面は、火作り面または火作り面相当で構成される。次に、このように成形されたガラス基板1の少なくとも一方の面を研磨する(研磨工程)。なお、研磨工程は、ガラス基板1が採取される前のガラスリボンに対して、連続的に行なうようにしてもよい。
【0030】
研磨工程では、ガラス基板1の表面に対して、予め下地研磨(例えば、砥粒の平均粒子径が0.5〜5.0μmで、研磨パッドとしてはポリウレタン製のものを用いる)を施すことなく、直接仕上げ研磨を施す。なお、研磨対象とするガラス基板1としては、比較的表面状態が良好なものを選択する。
【0031】
上記の仕上げ研磨は、平均粒子径が0.5〜3.5μmの砥粒が分散した研磨液と、研磨パッドとを用いて行なう。砥粒としては、シリカ粒子、酸化セリウムなどを用いる。一方、研磨パッドとしては、合成樹脂製のものを用いる。
【0032】
そして、このように研磨された複数枚のガラス基板1の中から任意の1枚乃至複数枚を取り出し、その取り出したガラス基板1の研磨後の有効面2のRaとRzjisを検査する。その結果、Raが0.3nm以下であって且つRzjisが40nm以下の場合には、仕上げ研磨の条件をそのまま維持し、ガラス基板1の製造を継続する。一方、RaとRzjisが上記数値範囲を満たさない場合には、RaとRzjisが上記数値範囲を満足するように仕上げ研磨の条件を調整する。このRaとRzjisの検査と、仕上げ研磨の条件の調整は、RaとRzjisが上記の数値範囲に入るまで続ける。
【0033】
そして、仕上げ研磨によって、ガラス基板1の有効面2のRaとRzjisが上記の数値範囲に入った段階で、ガラス基板1の有効面2に対してエッチング法によりパターン電極を形成し、例えば後続のPDPの製造工程へと送られる。
【0034】
以上のようなガラス基板及びガラス基板の製造方法によれば、ガラス基板の研磨された有効面の平滑性が良好に維持されることから、有効面に微細なパターン電極を形成した場合であっても、パターン電極に断線不良が生じる割合を可及的に低減することが可能となる。
【0035】
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の形態で実施することができる。例えば、上記の実施形態では、PDP用のガラス基板を例示したが、PDP以外の他のFPD用のガラス基板に適用してもよい。
【実施例】
【0036】
本発明の有用性を実証するために、比較試験を行なった。この比較試験の試験条件の詳細は次のとおりである。すなわち、フロート法により成形された厚み1.8μmのフラットパネルディスプレイ用ガラス基板を複数枚製作する。各ガラス基板の一方の面の周縁から10mmの領域を除いた有効面の表面粗度(RaとRzjis)を変化させる。そして、有効面の表面粗度が異なる各ガラス基板の有効面に形成される電極パターンの断線率を評価した。ここで、電極パターンは、図3に示したように櫛状のものとし、最大線幅が20μmで、膜厚が1000Åとする。また、ガラス基板の有効面に形成される電極パターンの断線率が2%を超えると歩留まりが悪化することから、断線率が2%以下となる表面粗度を良品の判断基準とする。この結果を図2(a),(b)に示す。
【0037】
図2(a)に示すように、ガラス基板の有効面におけるRaが小さくなるに連れて、電極パターンの断線率が低下し、Raが0.3nmになると断線率が2%を下回っていることが確認できる。同様に、図2(b)に示すように、ガラス基板の有効面におけるRzjisの値が小さくなるに連れて、パターン電極の断線率が低下し、Rzjisが40nmになると断線率が2%を下回っていることが確認できる。したがって、ガラス基板の有効面内のいずれの位置であっても、Raが0.3nm以下であって且つRzjisが40nm以下となるようにすれば、パターン電極に断線不良が生じる割合を可及的に低減することが可能となることが分かる。
【符号の説明】
【0038】
1 ガラス基板
2 有効面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロート法により成形されたフラットパネルディスプレイ用ガラス基板であって、
少なくとも一方の面について、周縁から10mmの領域を除く中央領域を有効面とした場合に、前記有効面内のいずれの位置であっても、算術平均粗さRaが0.3nm以下であって且つ十点平均粗さRzjisが40nm以下であることを特徴とするフラットパネルディスプレイ用ガラス基板。
【請求項2】
前記有効面に、エッチング法によりパターン線幅が50μm以下であって且つ膜厚が2200Å以下の透明電極膜が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のフラットパネルディスプレイ用ガラス基板。
【請求項3】
前記有効面に、エッチング法によりパターン線幅が300μm以下であって且つ膜厚が10μm以下の不透明電極膜が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のフラットパネルディスプレイ用ガラス基板。
【請求項4】
プラズマディスプレイパネルの前面板であることを特徴とする請求項2に記載のフラットパネルディスプレイ用ガラス基板。
【請求項5】
プラズマディスプレイパネルの背面板であることを特徴とする請求項3に記載のフラットパネルディスプレイ用ガラス基板。
【請求項6】
フロート法によりガラス基板を成形する成形工程と、前記ガラス基板の少なくとも一方の面を研磨する研磨工程とを含むフラットパネルディスプレイ用ガラス基板の製造方法であって、
前記研磨工程で、前記ガラス基板に対して、下地研磨を経ずに、平均粒子径が0.5〜3.5μmの砥粒が分散した研磨液と、合成樹脂製の研磨パッドとを用いた仕上げ研磨を直接施すことを特徴とするフラットパネルディスプレイ用ガラス基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−25989(P2013−25989A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158931(P2011−158931)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】