説明

フラットパネルディスプレイ用ガラス基板

【課題】ガラス基板の肉厚が薄くても、反りの発生や板厚偏差を抑えることが可能なフラットパネルディスプレイ用ガラス基板を提供することである。
【解決手段】本発明のフラットパネルディスプレイ用ガラス基板は、ガラスの肉厚が0.5〜2.4mmであるフラットパネルディスプレイ用ガラス基板において、700〜1500nmにおける分光透過率が70〜87%未満であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板、特にプラズマディスプレイ用ガラス基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラズマディスプレイ装置は、次のようにして作製される。まず、前面ガラス基板表面にITO膜やネサ膜等からなる透明電極を成膜し、その上に誘電体材料を塗布して500〜600℃程度の温度で焼成し誘電体層を形成する。また、Al、Ag、Ni等からなる電極が形成された背面ガラス基板に、背面誘電体材料を塗布して500〜600℃程度の温度で焼成して誘電体層を形成し、その上に隔壁材料を塗布して500〜600℃程度の温度で焼成して隔壁を形成することにより回路を形成する。その後、前面ガラス基板と背面ガラス基板を対向させて電極等の位置合わせを行って、周囲を500〜600℃程度の温度でフリットシールすることにより作製される。
【0003】
尚、ガラス基板の材質としては、熱膨張係数が約84×10-7/℃のソーダ石灰ガラスが使用されてきたが、ソーダ石灰ガラスの場合、歪点が500℃程度と低いため、熱処理時に、熱変形や熱収縮が起こり易く、前面ガラス基板と背面ガラス基板を対向させる際、電極の位置合わせを精度よく実現することが難しいという問題がある。そのため、ソーダ石灰ガラスと同等の熱膨張係数を有し、ソーダ石灰ガラスよりも歪点を高めた高歪点ガラスがガラス基板として使用されている。(特許文献1〜3参照)
【0004】
また、ガラス基板は、ガラス溶融炉で溶融したガラス融液を、フロート法、スロットダウンドロー法、オーバーフローダウンドロー法、リドロー法等によって2.8mmの肉厚に引き延ばし、成形されたものが用いられている。
【特許文献1】特開平8−290938号公報
【特許文献2】特開平8−290939号公報
【特許文献3】特開平10−72235号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、ディスプレイの軽量化の目的で、ガラス基板の肉厚を薄くすることが検討されている。
【0006】
肉厚の薄いガラス基板を得るには、ガラス溶融炉で溶融したガラス融液を成形工程で薄く引き伸ばせばよいが、ガラス融液(ガラスリボン)の肉厚が薄くなると、熱線が吸収され難くなりヒーターで加熱してもガラス融液に適切な温度分布を付け難くなる。また、熱は発散しやすくなりガラス融液が急冷されやすくなる。その結果、得られるガラス基板は反ったり、板厚がばらつくという問題が生じる。
【0007】
本発明の目的は、ガラス基板の肉厚が薄くても、反りの発生や板厚偏差を抑えることが可能なフラットパネルディスプレイ用ガラス基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は種々検討した結果、波長700〜1500nmにおけるガラスの透過率を低くすることで、ガラス基板の肉厚が薄くても、ガラス基板の反りや板厚偏差を小さくできることを見いだし、本発明を提案するに至った。
【0009】
即ち、本発明のフラットパネルディスプレイ用ガラス基板は、ガラスの肉厚が0.5〜2.4mmであるフラットパネルディスプレイ用ガラス基板において、700〜1500nmにおける分光透過率が70〜87%未満であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のガラス基板は、赤外線の吸収率が高く、成型装置に設置しているヒーターの熱を吸収することができるため、ガラス基板の肉厚が薄くても、適切な温度分布を付けやすく、ガラス基板の反りや板厚偏差を抑えることができる。それ故、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のフラットパネルディスプレイ用ガラス基板は、ガラスの肉厚が0.5〜2.4mmであるガラス基板において、波長700〜1500nmにおける分光透過率を87%未満と低くしている。これにより、ガラスは熱線を吸収しやすくなり、成型装置に供給されたガラス融液を薄く引き延ばしても、ガラス融液(ガラスリボン)に適切な温度分布を付けることができ、反りや板厚偏差の小さいガラス基板を得ることができる。但し、波長700〜1500nmにおける分光透過率が70%より低くなると、可視域の分光透過率も低くなるため、高い輝度を有するディスプレイが得難くなる。分光透過率の好ましい範囲は73〜86.5%であり、より好ましい範囲は75〜86%である。
【0012】
尚、ガラスの肉厚が0.5〜2.4mmであるガラス基板において、ガラス基板の波長700〜1500nmにおける分光透過率を70〜87%未満にするには、ガラス中の全鉄酸化物の含有量をFe23に換算して、0.095〜0.6質量%にすればよい。Fe23の含有量が多くなりすぎると、700〜1500nmにおける分光透過率が低くなると共に、可視域の分光透過率も低下する傾向にあり、高い輝度を有するディスプレイが得難くなる。一方、Fe23の含有量が少なくなりすぎると、700〜1500nmにおける分光透過率を低下させる効果が得難くなり、結果としてガラス融液(ガラスリボン)に適切な温度分布を付け難くなり、反りや板厚偏差の小さいガラス基板が得難くなる。Fe23の好ましい範囲は0.105〜0.55%であり、より好ましい範囲は0.115〜0.5%である。
【0013】
また、ガラス基板の可視域の分光透過率をあまり低下させずに、波長700〜1500nmにおける分光透過率を低下させるには、ガラス原料中に、酸化鉄原料と共に、カーボン、金属アルミニウム、金属シリコン等の還元剤を添加したり、溶融時や成形時の雰囲気を還元雰囲気にして、ガラス中の二価の鉄の酸化物の含有量をFeOに換算して、0.025〜0.17質量%にすればよい。FeOの含有量が多くなりすぎると、700〜1500nmにおける分光透過率が低くなると共に、可視域の分光透過率も低下する傾向にあり、高い輝度を有するディスプレイが得難くなる。一方、FeOの含有量が少なくなりすぎると、700〜1500nmにおける分光透過率を低下させる効果が得難くなり、結果としてガラス融液(ガラスリボン)に適切な温度分布を付け難くなり、反りや板厚偏差の小さいガラス基板が得難くなる。FeOの好ましい範囲は0.03〜0.16%であり、より好ましい範囲は0.035〜0.15%である。
【0014】
本発明のガラス基板において、ガラスの肉厚が厚くなりすぎると、700〜1500nmにおける分光透過率が低くなると共に、可視域の分光透過率も低下する傾向にあり、高い輝度を有するディスプレイが得難くなる。また、ディスプレイの軽量化が難しくなる。一方、ガラスの肉厚が薄くなりすぎると、700〜1500nmにおける分光透過率が高くなりやすく、ガラス融液(ガラスリボン)に適切な温度分布を付け難くなり、反りや板厚偏差の小さいガラス基板が得難くなる。また、ガラス基板の機械的強度が低下する傾向にあり、ディスプレイの強度を維持し難くなる。そのため、ガラス基板の肉厚は0.5〜2.4mmにすることが重要である。ガラス基板の肉厚の好ましい範囲は0.7〜2.1mmであり、より好ましい範囲は1.1〜1.9mmである。
【0015】
尚、本発明のガラス基板は、ディスプレイの画像表示側の基板(前面基板)として用いられるが、画像表示の反対側の基板(背面基板)として用いることもできる。
【0016】
また、本発明のガラス基板において、ディスプレイ装置を製造する際の熱工程におけるガラス基板の熱変形や熱収縮の発生を抑えるには、ガラスの歪点を570℃以上にすればよく、好ましくは575℃以上、より好ましくは580℃以上である。
【0017】
また、絶縁材料、フリットシール材料といった周辺材料の熱膨張係数との整合性を取ることができ、しかも、急冷しても割れ難い耐熱衝撃性に優れたガラス基板を得るには、30〜380℃におけるガラスの熱膨張係数を60〜90×10-7/℃にすればよく、好ましくは60〜85×10-7/℃、より好ましくは65〜85×10-7/℃である。
【0018】
また、70〜87%未満の分光透過率、570℃以上の歪点及び60〜90×10-7/℃の熱膨張係数を有するガラス基板を得るには、質量百分率で、SiO2 50〜75%、Al23 0.1〜15%、MgO 0〜15%、CaO 0〜15%、SrO 0〜15%、BaO 0〜15%、RO(RはMg、Ca、Sr、Baを表わす) 1〜30%、ZnO 0〜5%、Li2O 0〜5%、Na2O 1〜10%、K2O 1〜15%、R’2O(R’はLi、Na、Kを表わす) 2.5〜24%、ZrO2 0〜10%、Fe23 0.095〜0.6%、FeO 0.025〜0.17%を含有するガラスを使用することが好ましい。尚、上記組成を有するガラスであれば、比較的安価に大型のガラス基板を得やすいフロート法による成形が可能となる。また、この組成系において、歪点を上げるには、特に、SiO2、Al23、ZnO、ZrO2の含有量を多くしたり、R’2Oの含有量を少なくすればよく、また、熱膨張係数を下げるには、特に、SiO2、Al23の含有量を多くしたり、R’2Oの含有量を少なくすればよい。上記のように組成範囲を決定した理由は以下の通りである。
【0019】
SiO2はガラスのネットワークフォーマーを形成する成分であり、その含有量は50〜75%である。SiO2の含有量が多くなると溶融性が悪化しやすくなる。一方、含有量が少なくなるとガラスの歪点が低下し、ディスプレイを製造する際の熱処理工程で、熱変形や熱収縮が起こりやすくなる。SiO2の好ましい範囲は50〜72%であり、より好ましい範囲は53〜70%である。尚、歪点をより高くしたり、熱膨張係数をより低くしたい場合、SiO2の含有量を60%以上にすることが好ましい。
【0020】
Al23はガラスの歪点を高める成分であり、その含有量は0.1〜15%である。Al23の含有量が多くなると高温粘度が高くなって、ガラスの成形が難しくなる。一方、含有量が少なくなるとガラスの歪点が低下し、ディスプレイを製造する際の熱処理工程で、熱変形や熱収縮が起こりやすくなる。Al23の好ましい範囲は0.1〜12%であり、より好ましい範囲は0.5〜11%である。尚、歪点をより高くしたり、熱膨張係数をより低くしたい場合、Al23の含有量を1.5%以上にすることが好ましい。
【0021】
MgOはガラスの高温粘度を低下させてガラスの成形性や溶融性を高める成分であり、その含有量は0〜15%である。MgOの含有量が多くなると失透しやすくなる。MgOの好ましい範囲は0〜13%であり、より好ましい範囲は0.1〜10%である。
【0022】
CaOは、MgOと同様にガラスの高温粘度を低下させてガラスの成形性や溶融性を高める成分であり、その含有量は0〜15%である。CaOの含有量が多くなると失透しやすくなる。CaOの好ましい範囲は0〜13%であり、より好ましい範囲は0.5〜12%である。
【0023】
SrOは、ガラスの高温粘度を低下させてガラスの成形性や溶融性を高める成分であり、その含有量は0〜20%である。SrOの含有量が多くなると失透しやすくなる。SrOの好ましい範囲は0〜15%であり、より好ましい範囲は0.5〜13%である。
【0024】
BaOは、SrOと同様、ガラスの高温粘度を低下させてガラスの成形性や溶融性を高めたり、ガラスの歪点を高めたりする成分であり、その含有量は0〜15%である。BaOが多くなると失透しやすくなる。BaOの好ましい範囲は0〜10%であり、より好ましい範囲は0〜9%である。尚、BaOは環境負荷物質であるため、特性を損なわない範囲で、できる限り少なくすることが望ましい。
【0025】
尚、ガラスを失透させることなく、ガラスの高温粘度を低くして、成形性や溶融性を向上させるためには、MgO、CaO、SrO及びBaOの合量であるROを、1〜30%にすることが好ましい。ROの含有量が多くなると、ガラスが失透しやすくなる。一方、ROの含有量が少なくなると、ガラスの高温粘度が上昇し、溶融、成形が難しくなる。ROのより好ましい範囲は5〜30%であり、さらに好ましい範囲は10〜28%である。
【0026】
ZnOは、ガラスの歪点を高める成分であり、その含有量は0〜5%である。ZnOの含有量が多くなると、高温粘度が高くなって、ガラスの成形が難しくなる。ZnOの好ましい範囲は0〜4%であり、より好ましい範囲は0〜3%である。尚、歪点をより高くしたい場合、ZnOの含有量を0.5%以上にすることが好ましい。
【0027】
Li2Oはガラスの熱膨張係数を制御したり、ガラスの溶融性を高める成分であり、その含有量は0〜10%である。Li2Oの含有量が多くなるとガラスの歪点が著しく低下し、また、熱膨張係数が大きくなり、周辺材料の熱膨張係数との整合性が取りにくくなったり、耐熱衝撃性が低下しやすくなる。Li2Oの好ましい範囲は0〜5%であり、より好ましい範囲は0〜3%である。尚、歪点をより高めたり、熱膨張係数を低くしたい場合、Li2Oを含有しないことが好ましい。
【0028】
Na2Oはガラスの熱膨張係数を制御したり、ガラスの溶融性を高める成分であり、その含有量は1〜10%である。Na2Oの含有量が多くなると、ガラスの歪点が低下し、ディスプレイを製造する際の熱処理工程で、熱変形や熱収縮が起こりやすくなる。また、熱膨張係数が大きくなり、周辺材料の熱膨張係数との整合性が取り難くなったり、耐熱衝撃性が低下する傾向にある。一方、含有量が少なくなると、ガラスの溶融性を高める効果が得難くなる。Na2Oの好ましい範囲は1〜8%であり、より好ましい範囲は1〜6%である。尚、歪点をより高めたり、熱膨張係数を低くしたい場合、Na2Oの含有量を5%以下にすることが好ましい。
【0029】
2Oは、Na2Oと同様、ガラスの熱膨張係数を制御したり、ガラスの溶融性を高める成分であり、その含有量は1〜15%である。K2Oの含有量が多くなるとガラスの歪点が低下し、ディスプレイを製造する際の熱処理工程で、熱変形や熱収縮が起こりやすくなる。また、熱膨張係数が大きくなり、周辺材料の熱膨張係数との整合性が取り難くなったり、耐熱衝撃性が低下する傾向にある。一方、K2Oの含有量が少なくなると、ガラスの溶融性を高める効果が得難くなる。K2Oの好ましい範囲は1〜12%であり、より好ましい範囲は1〜10%である。尚、熱膨張係数を低くしたい場合、K2Oの含有量を8%以下にすることが好ましい。
【0030】
尚、ガラスの歪点を著しく低下させることなく、溶融性を向上させるためには、Li2O、Na2O及びK2Oの合量であるR’2Oを、2.5〜24%にすることが好ましい。R’2Oの含有量が多くなると、ガラスの歪点が低下する傾向にある。一方、R’2Oの含有量が少なくなると、ガラスの溶融性を高める効果が得難くなる。R’2Oのより好ましい範囲は3〜22%であり、さらに好ましい範囲は5〜20%である。
【0031】
ZrO2は、ガラスの歪点を高める成分であり、その含有量は0〜10%である。ZrO2の含有量が多くなるとガラスの密度が著しく上昇したり、ZrO2に起因する失透物が析出する傾向がある。ZrO2の好ましい範囲は0〜7%であり、より好ましい範囲は0〜5%である。尚、歪点をより高くしたい場合、ZrO2の含有量を0.5%以上にすることが好ましい。
【0032】
Fe23(ガラス中の全鉄酸化物)は、波長700〜1500nmにおける分光透過率を低下させ、熱線を吸収させる成分であり、その含有量は0.095〜0.6%である。Fe23の含有量が多くなりすぎると、700〜1500nmにおける分光透過率が低くなると共に、可視域の分光透過率も低下する傾向にあり、高い輝度を有するディスプレイが得難くなる。一方、Fe23の含有量が少なくなりすぎると、700〜1500nmにおける分光透過率を低下させる効果が得難くなり、結果としてガラス融液(ガラスリボン)に適切な温度分布を付け難くなり、反りや板厚偏差の小さいガラス基板が得難くなる。Fe23の好ましい範囲は0.105〜0.55%であり、より好ましい範囲は0.115〜0.5%である。
【0033】
FeO(二価の鉄酸化物)は、ガラス基板の可視域の分光透過率をあまり低下させずに、波長700〜1500nmにおける分光透過率を低下させる成分であり、ガラス原料中に酸化鉄原料と共に還元剤を添加したり、溶融時や成形時の雰囲気を還元雰囲気することで、ガラス中のFeOの量を調整することができる。FeOの含有量は0.025〜0.17%である。FeOの含有量が多くなりすぎると、700〜1500nmにおける分光透過率が低くなると共に、可視域の分光透過率も低下する傾向にあり、高い輝度を有するディスプレイが得難くなる。一方、FeOの含有量が少なくなりすぎると、700〜1500nmにおける分光透過率を低下させる効果が得難くなり、結果としてガラス融液(ガラスリボン)に適切な温度分布を付け難くなり、反りや板厚偏差の小さいガラス基板が得難くなる。FeOの好ましい範囲は0.03〜0.16%であり、より好ましい範囲は0.035〜0.15%である。
【0034】
尚、本発明において、上記成分以外にも、例えば、還元剤としてカーボン、金属アルミニウム、金属シリコン等を合量で1%まで、紫外線着色を防止するためにTiO2を5%まで、耐クラック性を向上させるためにP25を4%まで、液相温度を低下させて成形性を向上させるためにY23、La23、Nb23を各3%まで、清澄剤としてAs23、Sb23、SnO2、SO3、F、Cl等を合量で1%まで添加することが可能である。但し、フロート法で成形する場合、As23、Sb23はフロートバス中で還元されて金属異物となるため、導入は避けるべきである。
【0035】
次に、本発明のフラットパネルディスプレイ装置用ガラス基板を製造する方法を説明する。
【0036】
まず、上記のガラス組成範囲となるようにガラス原料を調合する。続いて、調合したガラス原料を連続溶融炉に投入して加熱溶融し、脱泡した後、成形装置に供給して板状に成形し、成形装置に設置しているヒーターでガラスリボンに適切な温度分布を付けることで反りや肉厚偏差の小さいガラス基板を得ることができる。
【0037】
尚、ガラス基板の成形方法としては、フロート法、スロットダウンドロー法、オーバーフローダウンドロー法、リドロー法等の様々な成形方法があるが、フロート法で板状に成形することが好ましい。その理由は、フロート法の場合、比較的安価に大型のガラス基板を得やすいためである。
【実施例】
【0038】
以下、本発明のフラットパネルディスプレイ用ガラス基板を実施例に基づいて詳細に説明する。
【0039】
表1及び表2は本発明の実施例(試料No.1〜12)を、表3は比較例(試料No.13、14)をそれぞれ示している。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
【表3】

【0043】
表中の各試料は、次のようにして作製した。
【0044】
まず、表中のガラス組成となるようにガラス原料を調合し、連続溶融炉で溶融する。続いて、フロート法で、表中の肉厚になるように成形し、2100mm×1000mmのサイズに切断することで試料ガラスとした。
【0045】
このようして得られた各試料について、歪点、熱膨張係数、分光透過率、板厚偏差及び反り量を測定した。その結果を表に示す。
【0046】
表から明らかなように、実施例である試料No.1〜12の各試料は、波長700〜1500nmにおける分光透過率が70.0〜86.9%であり、板厚偏差が25μm以下と小さく、ガラス基板の反り量も62μm以下と小さかった。また、歪点は580℃以上と高く、熱膨張係数も69.0〜84.0×10-7/℃であり、周辺材料と良好に整合する熱膨張係数を有していた。
【0047】
これに対して、比較例である試料No.13は、波長700nmにおける分光透過率が88.6%と高いため、板厚偏差が50μmと大きく、ガラス基板の反り量も170μmと大きかった。また、試料No.14は、波長1000〜1200nmにおける分光透過率が68.8%以下と低いため、高い輝度を有するディスプレイが得難いことが予想される。
【0048】
尚、ガラス中の全鉄酸化物(Fe23)については、蛍光X線分析装置にてガラス中に含まれるFe量を測定し、Fe23に換算した値を示した。
【0049】
ガラス中の二価の鉄酸化物(FeO)については、化学分析にてガラス中に含まれるFe量を測定し、FeOに換算した値を示した。
【0050】
歪点については、ASTM C336−71に基づいて測定した。
【0051】
熱膨張係数については、直径5.0mm、長さ20mmの円柱状の試料を作製し、ディラトメーターで30〜380℃における平均熱膨張係数を測定した。
【0052】
分光透過率については、分光光度計にて波長700〜1500nmにおける透過率を測定し、100nm毎における透過率を示した。
【0053】
板厚偏差については、レーザー式厚み計を用いて、ガラス基板の幅方向(フロートの幅方向)の板厚を測定し、最大板厚と最小板厚との板厚差を求め板厚偏差とした。
【0054】
反り量については、ガラス基板を900mm×700mmの大きさに切断して、定盤上に載置し、定盤と板面との隙間を隙間ゲージで測定した。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のフラットパネルディスプレイ用ガラス基板は、プラズマディスプレイ用途に限られるものではなく、例えば、電界放射型ディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ用途のガラス基板として用いることも可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスの肉厚が0.5〜2.4mmであるフラットパネルディスプレイ用ガラス基板において、700〜1500nmにおける分光透過率が70〜87%未満であることを特徴とするフラットパネルディスプレイ用ガラス基板。
【請求項2】
二価の鉄の酸化物の含有量がFeOに換算して、0.025〜0.17質量%であるガラスからなることを特徴とする請求項1記載のフラットパネルディスプレイ用ガラス基板。
【請求項3】
全鉄酸化物の含有量がFe23に換算して、0.095〜0.6質量%であるガラスからなることを特徴とする請求項1または2に記載のフラットパネルディスプレイ用ガラス基板。
【請求項4】
質量百分率で、SiO2 50〜75%、Al23 0.1〜15%、MgO 0〜15%、CaO 0〜15%、SrO 0〜15%、BaO 0〜15%、RO(RはMg、Ca、Sr、Baを表わす) 1〜30%、ZnO 0〜5%、Li2O 0〜5%、Na2O 1〜10%、K2O 1〜15%、R’2O(R’はLi、Na、Kを表わす) 2.5〜24%、ZrO2 0〜10%を含有するガラスからなることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のフラットパネルディスプレイ用ガラス基板。
【請求項5】
歪点が570℃以上であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のフラットパネルディスプレイ用ガラス基板。
【請求項6】
30〜380℃における熱膨張係数が60〜90×10-7/℃であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のフラットパネルディスプレイ用ガラス基板。

【公開番号】特開2008−56508(P2008−56508A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−232909(P2006−232909)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】